(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】進行方向判定装置、携帯端末装置、および進行方向判定方法
(51)【国際特許分類】
G01P 13/04 20060101AFI20240112BHJP
G01P 15/18 20130101ALI20240112BHJP
【FI】
G01P13/04 B
G01P15/18
(21)【出願番号】P 2020041404
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2022-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和則
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-136193(JP,A)
【文献】特開2003-194576(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0161271(US,A1)
【文献】特表2017-533430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P15/00-21/02
G01P13/00-13/04
G01C21/00-21/36
G01C23/00-25/00
G06M 1/00- 3/14
H04M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定装置であって、
前記3軸方向の前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを実際の前記移動体の重力方向に最も近い重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1の判定、および前記3軸のうち前記重力軸と選択された軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて実際の該移動体の進行方向に最も近い進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2の判定を実行する判定部を含
み、
前記判定部は、前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて前記第1の判定、および前記第2の判定を実行し、かつ前記移動体が前記所定の挙動を行った際に、平均値と前記第1の判定で選択された重力軸の加速度信号の値の現在値の0方向の差の絶対値である乖離量が、予め定められた値未満である場合に、前記第1の判定から実行し直す
進行方向判定装置。
【請求項2】
3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定装置であって、
前記3軸方向の前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを実際の前記移動体の重力方向に最も近い重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1の判定、および前記3軸のうち前記重力軸と選択された軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて実際の該移動体の進行方向に最も近い進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2の判定を実行する判定部を含み、
前記判定部は、前記3軸方向の前記加速度信号をベクトル的に合成した合成ベクトルの平均値からの変化量を算出し、該変化量が前記平均値を中心とする予め定められた範囲を外れた場合に、前記第1の判定から実行し直す
進行方向判定装置。
【請求項3】
3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定装置であって、
前記3軸方向の前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを実際の前記移動体の重力方向に最も近い重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1の判定、および前記3軸のうち前記重力軸と選択された軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて実際の該移動体の進行方向に最も近い進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2の判定を実行する判定部を含み、
前記判定部は、前記第2の判定において連続して前記進行方向と判定された回数が予め定めた回数未満である場合に前記第1の判定から実行し直す
進行方向判定装置。
【請求項4】
前記判定部は、
前記3軸方向の加速度信号のうち絶対値の最も大きい加速度信号に対応する軸を前記重力軸として選択し、選択された前記重力軸に対応する前記加速度信号の符号により前記重力方向を判定して前記第1の判定を実行する
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の進行方向判定装置。
【請求項5】
前記判定部は、
前記第1の判定で選択された前記重力軸を除く2軸の各々について、所定のタイミングにおける前記加速度信号の現在値と予め定められた回数の移動平均値との差の絶対値の大きい方の軸を前記進行軸として選択し、選択された前記進行軸に対応する前記加速度信号の符号により前記進行方向を判定して前記第2の判定を実行する
請求項
2から請求項4のいずれか1項に記載の進行方向判定装置。
【請求項6】
前記判定部は、
前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて前記第1の判定、および前記第2の判定を実行する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の進行方向判定装置。
【請求項7】
前記判定部は、
前記移動体が前記所定の挙動を行った際に、平均値と前記第1の判定で選択された重力軸の加速度信号の値の現在値の0方向の差の絶対値である乖離量が、予め定められた値未満である場合に、前記第1の判定から実行し直す
請求項
6に記載の進行方向判定装置。
【請求項8】
前記判定部は、前記3軸方向の前記加速度信号をベクトル的に合成した合成ベクトルの平均値からの変化量を算出し、該変化量が前記平均値を中心とする予め定められた範囲を外れた場合に、前記第1の判定から実行し直す
請求項1、または請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の進行方向判定装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記第2の判定において連続して前記進行方向と判定された回数が予め定めた回数未満である場合に前記第1の判定から実行し直す
請求項1、請求項2、または請求項4から請求項8のいずれか1項に記載の進行方向判定装置。
【請求項10】
3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサと、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の進行方向判定装置と、を含む
携帯端末装置。
【請求項11】
3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定方法であって、
前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1のステップと、
前記3軸のうち選択された前記重力軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2のステップと、
を備え、
前記移動体が前記所定の挙動を行った際に、平均値と前記第1のステップで選択された重力軸の加速度信号の値の現在値の0方向の差の絶対値である乖離量が、予め定められた値未満である場合に、前記第1のステップから実行し直す
進行方向判定方法。
【請求項12】
3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定方法であって、
前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1のステップと、
前記3軸のうち選択された前記重力軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2のステップと、
備え、
前記3軸方向の前記加速度信号をベクトル的に合成した合成ベクトルの平均値からの変化量を算出し、該変化量が前記平均値を中心とする予め定められた範囲を外れた場合に、前記第1のステップから実行し直す
進行方向判定方法。
【請求項13】
3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定方法であって、
前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1のステップと、
前記3軸のうち選択された前記重力軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2のステップと、
を備え、
前記第2のステップにおいて連続して前記進行方向と判定された回数が予め定めた回数未満である場合に前記第1のステップから実行し直す
進行方向判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、進行方向判定装置、携帯端末装置、および進行方向判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯端末装置を応用した技術として、歩行者測位技術(PDR:Pedestrian Dead Reckoning)が知られている。歩行者測位技術においては、人の移動距離を正確に測位する技術が必要となる。例えば、ナビゲーション技術の分野では、携帯端末装置の一例であるスマートフォン(以下、「携帯電話端末」という。)が備えている加速度、地磁気、角速度などのセンサ機能を活用し、歩行者の移動方向と移動量を算出し、該歩行者の位置を地図上に表示する。携帯端末装置を用いたこのような技術分野においては、携帯端末装置の向き、あるいは当該携帯端末装置を装着した人の移動方向等の方向を判定する技術が必須の技術となっている。
【0003】
携帯端末装置の応用における方向を判定する技術に関連し、特許文献1には、3次元空間を構成する3軸のうちの1つを重力軸と判定検出する重力軸判定装置であって、3軸のうちの少なくとも2軸方向における加速度を各々が表す少なくとも2つの軸加速度信号を生成する信号生成部と、軸加速度信号の各々を少なくとも2つの軸加速度データ列として取り込む取り込み部と、同一時間帯における軸加速度データ列ごとのデータ値同士を比較して、3軸のうちのいずれか1を重力軸と判定してこれを表す検出信号を生成する判定検出部と、を含み、判定検出部は、同一時間帯において軸加速度データ列のうちの1のデータ値が当該1の軸加速度データ列以外の軸加速度データ列のデータ値よりも大きいと経時的に複数回に亘って判別した場合に1の軸加速度データ列に対応する軸を重力軸と判定することを特徴とする重力軸判定装置が開示されている。
【0004】
また、移動体の方向を判断する技術に関連して、特許文献2には、互いに90°の方向である2方向に感知方向を持ち、移動体の加速度を検出する加速度検出手段と、移動体が前進しているか否かを判断する判断手段と、判断手段によって移動体が前進していると判断された場合の加速度検出手段の出力によって加速度検出手段の前後方向および左右方向の極性を設定する設定手段と、を有することを特徴とするナビゲーションシステムが開示されている。
【0005】
さらに、歩行者の進行方向を算出する技術として、特許文献3には、3軸の加速度データを出力する加速度センサと、3軸の地磁気データを出力する地磁気センサと、加速度データおよび地磁気データから歩行者の進行方向を決定する進行方向決定手段とを有し、歩行者によって所持される携帯端末であって、進行方向決定手段は、各軸加速度データと、全ての軸の加速度データの二乗和平方根となる合成加速度とを用いて、遊脚期の加速度データを抽出する遊脚期抽出手段と、遊脚期の加速度データの中から、指定数分の加速度データを取得する指定数分加速度取得手段と、指定数分の遊脚期の加速度データに基づいて、右/左向きベクトルUを算出する右/左向きベクトル算出手段と、右/左向きベクトルUと、重力ベクトルGと、地磁気ベクトルMとを用いて、進行方向を算出する進行方向算出手段とを有することを特徴とする携帯端末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5155117号公報
【文献】特開2005-017308号公報
【文献】特開2012-168004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、歩行者測位技術においては、歩行者が携帯端末装置をどのように装着するか(例えば、地面に対する携帯端末装置の向きで表現される)により、携帯端末装置から見た進行方向が変わってくる。携帯端末装置に備えられたセンサ等を用い、何らかの方法を用いて携帯端末装置の進行方向を判定したとしても、歩行者の携帯端末装置の装着方向を考慮しなければ、例えば実際の歩行者の進行方向とは反対の方向に判定するなど、歩行者の進行方向を誤って判定している可能性を排除できない。このような場合は、正確な歩行者測位はできないという問題がある。従って、携帯端末装置を携行する歩行者(一般に移動体)の進行方向をより正確に判定可能な進行方向判定装置が求められていた。また、該進行方向の判定は、携帯端末装置が搭載する加速度センサ等を用いて簡易に行うことができれば至便である。
【0008】
特許文献2と3ではそれぞれ次のような問題がある。特許文献2は、一方が進行方向であり他方がその90°回転した方向である2方向に感知方向をもつ加速度センサを搭載した移動体において、発進した直後に加速度を検出した方向を進行方向と判断することを開示している。しかし、加速度センサの出力が1方向のみ検出されたときは進行方向が判断できるが、加速度センサの出力が2方向双方に検出されたときは進行方向が判断できないため、進行方向を判断できる加速度センサの搭載方向が限定されてしまう。特許文献3は、加速度センサの出力信号に基づいて算出した合成加速度を用いて進行方向を演算して出力するため、演算量が多くなる。
【0009】
本発明は、上記の事情を踏まえ、加速度センサの出力を用いて、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を加速度センサの搭載方向に関わらず簡易に判定することができる進行方向判定装置、携帯端末装置、および進行方向判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る進行方向判定装置は、3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定装置であって、前記3軸方向の前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを実際の前記移動体の重力方向に最も近い重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1の判定、および前記3軸のうち前記重力軸と選択された軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて実際の該移動体の進行方向に最も近い進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2の判定を実行する判定部を含み、前記判定部は、前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて前記第1の判定、および前記第2の判定を実行し、かつ前記移動体が前記所定の挙動を行った際に、平均値と前記第1の判定で選択された重力軸の加速度信号の値の現在値の0方向の差の絶対値である乖離量が、予め定められた値未満である場合に、前記第1の判定から実行し直す。また、本発明に係る新興方向判定装置は、3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定装置であって、前記3軸方向の前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを実際の前記移動体の重力方向に最も近い重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1の判定、および前記3軸のうち前記重力軸と選択された軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて実際の該移動体の進行方向に最も近い進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2の判定を実行する判定部を含み、前記判定部は、前記3軸方向の前記加速度信号をベクトル的に合成した合成ベクトルの平均値からの変化量を算出し、該変化量が前記平均値を中心とする予め定められた範囲を外れた場合に、前記第1の判定から実行し直す。また、本発明に係る進行方向判定装置は、3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定装置であって、前記3軸方向の前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを実際の前記移動体の重力方向に最も近い重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1の判定、および前記3軸のうち前記重力軸と選択された軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて実際の該移動体の進行方向に最も近い進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2の判定を実行する判定部を含み、前記判定部は、前記第2の判定において連続して前記進行方向と判定された回数が予め定めた回数未満である場合に前記第1の判定から実行し直す。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る携帯端末装置は、3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサと、上記進行方向判定装置と、を含むものである。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係る進行方向判定方法は、3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定方法であって、前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1のステップと、前記3軸のうち選択された前記重力軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2のステップと、を備え、前記移動体が前記所定の挙動を行った際に、平均値と前記第1のステップで選択された重力軸の加速度信号の値の現在値の0方向の差の絶対値である乖離量が、予め定められた値未満である場合に、前記第1のステップから実行し直す。また、本発明に係る進行方向判定方法は、3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定方法であって、前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1のステップと、前記3軸のうち選択された前記重力軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2のステップと、備え、前記3軸方向の前記加速度信号をベクトル的に合成した合成ベクトルの平均値からの変化量を算出し、該変化量が前記平均値を中心とする予め定められた範囲を外れた場合に、前記第1のステップから実行し直す。また、本発明に係る進行方向判定方法は、3軸方向の加速度を該加速度の向きとともに示す加速度信号を生成する加速度センサを用い、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を判定する進行方向判定方法であって、前記移動体が所定の挙動を行った際の前記加速度センサからの前記加速度信号を用いて3軸のいずれかを重力軸として選択し、該移動体の重力方向と判定する第1のステップと、前記3軸のうち選択された前記重力軸を除く2軸のいずれかを加速度信号の移動平均値に基づいて進行軸として選択し、該移動体の進行方向と判定する第2のステップと、を備え、前記第2のステップにおいて連続して前記進行方向と判定された回数が予め定めた回数未満である場合に前記第1のステップから実行し直す。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、加速度センサの出力を用いて、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を加速度センサの搭載方向に関わらず簡易に判定することができる進行方向判定装置、携帯端末装置、および進行方向判定方法を提供することが可能となる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係る、(a)は進行方向判定装置の構成の一例を示すブロック図、(b)は携帯端末装置における加速度センサの検知方向を示す図、(c)は人の動作における特徴を説明する図である。
【
図2】(a)から(c)は、加速度センサを搭載した携帯端末装置を装着した人の、挙動の違いによる加速度信号を示したグラフである。
【
図3】実施の形態に係る進行方向判定装置が実行する、進行方向判定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】(a)は、加速度センサの出力と移動平均値の関係を説明するグラフ、(b)は、合成ベクトルの変動を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下に説明では、本発明に係る進行方向判定装置を、人が携行する携帯端末装置に搭載した形態を例示して説明する。本実施の形態に係る進行方向判定装置、携帯端末装置、および進行方向判定方法では、携帯端末装置内に搭載されている加速度センサを利用して、人が携帯端末装置をどのように装着しているかを判定し、携帯端末装置と人の進行方向を合わせることにより、歩行者測位技術の精度を向上させている。
【0016】
図1(a)は、本実施の形態に係る進行方向判定装置10の構成の一例を、加速度センサ20とともに示したブロック図である。
図1(a)に示すように、進行方向判定装置10は、フィルタ11、加速度データ取り込み部12、第1判定部13、および第2判定部14を含んで構成されている。進行方向判定装置10は、例えば携帯端末装置等に内蔵され、当該携帯端末装置自体の向きや傾きに応じて移動体の進行方向を判定する。本実施の形態に係る進行方向判定装置10は、例えばマイクロプロセッサを用いて構成することができるが、これに限られず、ASIC(application specific integrated circuit)、あるいは個別部品等を用いて構成してもよい。なお、本実施の形態において、「携帯端末装置」は、携帯電話端末、モバイルPC(Personal Computer)、PDA(Personal Data Assistant)等の携帯型情報端末一般を意味する。また、「第1判定部13」および「第2判定部14」は、本発明に係る「判定部」の一例である。
【0017】
加速度センサ20は、3次元空間を構成するX軸、Y軸およびZ軸の軸ごとにその加速度の大きさおよび方向を表す3つの軸加速度信号を生成する3軸加速度センサである。加速度センサ20は、例えば加速度検知機構を半導体プロセスで作製したMEMS(micro electromechanical systems)加速度センサである。MEMS加速度センサの検知機構はピエゾ抵抗型、静電容量型または熱検知型のいずれでもよい。その性能は、例えば±数gの範囲を測定でき、0Hzから数百Hz程度までの加速度変動に追従できるものである。
【0018】
加速度センサ20は、X軸、Y軸およびZ軸の各々について例えば信号レベルを±1の範囲で示す軸加速度信号を生成する。つまり、±で加速度の方向を表し、その絶対値で加速度の大きさを表す。進行方向判定装置10は、例えば
図1(b)に示すような携帯電話端末100に内蔵されている。
図1(b)においてX軸とY軸とは互いに直交し、Y軸が携帯電話端末100の縦方向(長手方向)、X軸が横方向(短手方向)に各々対応している。Z軸は、携帯電話端末100の厚み方向(X-Y平面と直交する方向)に対応している。
図1(b)に示すように、携帯電話端末100は情報等の表示用のモニタ画面Sを有し、モニタ画面Sに対する法線の方向がZ軸となっている。
【0019】
加速度センサ20は、携行者Pが携行する携帯電話端末100の向き(傾き)に応じた信号レベルの軸加速度信号を出力する。X軸においては、携帯電話端末100の右側が
図1(b)<1>に示す地面GDに向いたときに-の信号レベル、左側が地面GDに向いたときに+の信号レベルを示す。Y軸においては、携帯電話端末100の上側が地面GDに向いたときに-の信号レベル、下側が地面GDに向いたときに+の信号レベルを示す。Z軸においては、携帯電話端末100の表側(モニタ画面Sのある側)に地面GDに向いたときが-の信号レベル、裏側が地面GDに向いたときに+の信号レベルを示す。
【0020】
例えば、
図1(b)<1>に示されたように携帯電話端末100の下側が地面GDに向けられて固定されている場合、X軸およびZ軸の各々の信号レベルは0、Y軸の信号レベルは+1となる。また、携帯電話端末100が
図1(b)<1>に示される向きから時計回りに90度だけ回転させて固定した場合には、Y軸およびZ軸の各々の信号レベルは0、X軸の信号レベルは-1となる。その他、携帯電話端末100の向き(傾き)に応じて加速度センサ20は、X軸、Y軸およびZ軸の各々について信号レベルを±1の範囲で示す軸加速度信号を生成および出力する。
【0021】
フィルタ11は、加速度センサ20からのX軸、Y軸およびZ軸の各軸の軸加速度信号に含まれる例えば200Hz以上の周波数成分を除去するローパスフィルタである。携帯電話端末100の携行者Pが例えば歩行やランニングをしながらモニタ画面Sに表示される画像を見る場合がある。歩行等の運動中においては、携帯電話端末100が上下左右に小刻みに振動したり回転したりするので、軸加速度信号に高周波成分が含まれてくる。高周波成分を含む軸加速度信号に基づいて画面の表示方向を切り替えた場合、その画面の表示方向が頻繁に切り替わって見づらくなるので、それを回避するために高周波成分を除去するものである。なお、本実施の形態ではフィルタ11が進行方向判定装置10に内蔵する形態を例示して説明するが、これに限られず、フィルタ11はマイクロプロセッサによってソフトウェア的に実現してもよいし、進行方向判定装置10の外部に設けてもよい。
【0022】
加速度データ取り込み部12は、フィルタ11により高周波成分が除去された、X軸、Y軸およびZ軸の各軸についての軸加速度信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングして得られた軸加速度データからなる軸加速度データ列として取り込む。換言すれば、加速度データ取り込み部12は、各軸の加速度の瞬時値を所定のサンプリング間隔でサンプリングして各軸についての軸加速度データ列を得る。ここで、軸加速度データは、データ値として、その取り込み時点における加速度の大きさおよび方向を例えば±1の範囲で表す。つまり、±で加速度の方向を表し、その絶対値で加速度の大きさを表す。軸加速度データ列は、複数の軸加速度データからなるデータ列である。
【0023】
加速度データ取り込み部12が軸加速度データ列を取得するサンプリング間隔は、進行方向判定装置10を搭載する端末の用途や機能に応じて適宜設定可能である。例えば、進行方向判定装置10を携帯電話端末100に搭載し、歩数計と共用した場合、携行者Pは携帯電話端末100を持ち歩くことから、歩く速さに基づいてサンプリング間隔を設定する。仮に徒歩の最大周波数を4Hzとした場合、一歩の間隔は250ミリ秒となるので、加速度データ取り込み部12はこれよりも短い間隔で軸加速度データ列を取得する。さらに正確に歩数を計測する場合には、一歩歩く動作中のいくつかの時点での加速度の変化を検出して計測を行うことが好ましい。そのため、例えば一歩の動作中の加速度の変化を4点において検出して歩数を計測する場合には62.5ミリ秒の間隔で軸加速度データ列を取得する必要があり、さらに短い間隔で計測することで一歩あたりの加速度の変化をより多く取得できるため、より正確な歩数を計測することができ、30ミリ秒間隔で計測することが好適である。
【0024】
第1判定部13は、加速度データ取り込み部12によって取得された、X軸、Y軸およびZ軸の軸ごとの軸加速度データ列に基づいて移動体の重力方向に最も近い重力軸を選択し、移動体の重力方向と判定する。第1判定部13は、加速度データ取り込み部12からのX軸、Y軸およびZ軸の各軸の軸加速度データが表す加速度の大きさを相互に比較(以下、「加速度比較」という場合がある)して、これらの軸のうちのいずれか1つを重力軸として選択する。第1判定部13は、少なくとも1回の加速度比較の結果に基づいて重力軸を選択する。しかしながら、これに限られず重力軸を選択するための加速度比較の回数は設定自在である。
【0025】
1回の加速度比較の結果に基づいて重力軸を選択する設定をした場合、第1判定部13は、同一時間帯における加速度データ取り込み部12からのX軸加速度データが表すX軸の加速度の絶対値、Y軸加速度データが表すY軸の加速度の絶対値およびZ軸加速度データが表すZ軸の加速度の絶対値を相互に比較し、最も大きい絶対値の加速度に対応する軸を重力軸であると選択する。例えば、加速度データ取り込み部12からの軸加速度データが示す加速度の大きさについてそれぞれX軸が-0.99、Y軸が0.05、Z軸が0.07であった場合、その絶対値の最も大きいX軸を重力軸であると選択し、移動体の重力方向と判定する。
【0026】
複数回の加速度比較の結果に基づいて重力軸を選択する設定をした場合、第1判定部13は、所定判定期間内における加速度データ取り込み部12からのX軸加速度データ列、Y軸加速度データ列およびZ軸加速度データ列同士を比較してX軸、Y軸およびZ軸のいずれか1つを重力軸として選択する。より詳細には、所定判定期間内においてX軸、Y軸およびZ軸のうちのいずれか1の軸についての加速度の絶対値が、他の軸の加速度の絶対値よりも大きいと経時的に所定判定回数だけ判定した場合に、その1の軸を重力軸として選択し、移動体の重力方向と判定する。
【0027】
第2判定部14は、第1判定部13で選択された重力軸を使用して、携行者Pの進行方向を判定する。携行者Pの進行方向は、携行者Pが携帯電話端末100をどのような態様(向き、傾き等)で保持しているかにも依存するので、一般に判定することが難しい。本実施の形態に係る第2判定部14では、第1判定部13において選択した重力軸を勘案して進行方向を判定しているが、さらに人の挙動に関する以下のような知見を考慮している。
ここで、携帯電話端末100は、
図1(b)<3>に示すように、衣服のポケットなどを利用し携行者Pが身に着けている状態にあるものとする。
【0028】
すなわち、携帯電話端末100を携行する携行者Pの動作に関し、以下のような傾向があるという知見である。
人は、身体の構造上前に曲がりやすくなっているので、身体を前に傾けることが多い。
つまり、日常生活においては、左、右、後ろに曲げる(傾ける)動きよりも前に体を曲げる動きのほうが大きく、かつ頻度が多いという傾向である。本実施の形態は、人の挙動におけるこのような性質を利用している。身体を前に傾ける動作の具体的な例としては、以下のような動作を挙げることができる。
[動作1]
図1(c)<1>に示すような、椅子から立ち上がるとき、椅子に座るときの動作。
[動作2]
図1(c)<2>に示すような、床の物を持ち上げるときの動作。
[動作3]
図1(c)<3>に示すような、立った状態で靴を履くときの動作。
【0029】
例えば、携行者Pが携帯電話端末100を胸ポケットに入れていた場合、上記の動作を行うと、第1判定部13で選択された重力軸を除く2軸のうち、携行者Pの前向きの方向に最も近い軸が大きく変化する。第2判定部14は、この変化から、携行者Pの前向きの方向に最も近い携帯電話端末100の方向を選択し、携行者Pの進行方向と判定する。
【0030】
次に、本実施の形態に係る進行方向判定装置10において実行される進行方向判定の手順(以下、「進行方向判定処理」という場合がある)について説明する。本実施の形態に係る進行方向判定処理の基本的な手順は以下のとおりである。
[手順1]重力方向の判定を行う。本判定は第1判定部13によって行う。
加速度センサ20の各軸の値を、フィルタ11によってローパスフィルタ処理する。上述したように、フィルタ処理後のX軸、Y軸、Z軸の加速度信号のうち絶対値の最も大きい値に対応する軸を重力軸として選択し、さらにその軸の「+」「-」により極性を判定し重力方向と判定する。
[手順2]進行方向の判定を行う。本判定は第2判定部14によって行う。
手順1で選択された重力軸を除く2軸のうち、各軸の加速度信号の現在の値(以下、「現在値」という場合がある)と移動平均値の差の絶対値が大きい軸を選択する。選択された軸を携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の軸(以下、「進行軸」という場合がある)として扱う。さらに、進行軸(現在値-移動平均値)の符号が「+」か「-」かによって当該軸の方向がプラス方向なのかマイナス方向なのかを判断し、携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向を選択する。携帯電話端末100の方向は、X+、X-、Y+、Y-、Z+、Z-の6方向のいずれかで選択され、選択された携帯電話端末100の方向を携行者Pの進行方向と判定される。判定された進行方向は進行方向判定装置10から検出信号として出力される。
【0031】
なお、上記[手順2]において現在値と移動平均値の差の絶対値が大きい方の値に対応する軸を進行軸とするに際し、さらに絶対値が大きい方となる頻度を加味し、該頻度の多い軸を進行軸とするようにしてもよい。また、進行方向の判定に際し、傾きをできるだけ正確に判断するために、X軸、Y軸、Z軸の加速度信号の合成ベクトル(以下、「合成ベクトル」という場合がある)の値(合成値、各軸の値の2乗和の平方根)が、平均値に対して許容範囲内であることを確認してもよい。さらに、第1判定部13で選択した重力軸が変化した場合には、携行者Pが携帯電話端末100の装着場所もしくは装着方向が変化した可能性があるので、手順1から再度判定をやり直してもよい。
【0032】
次に、
図2および
図4を参照して、実際に行った進行方向の判定の実施例について説明する。
【0033】
図2は、上記の[動作1]から[動作3]の各々の動作を行った場合の進行方向の判定結果を示すグラフであり、
図2(a)が[動作1]の判定結果を、
図2(b)が[動作2]の判定結果を、
図2(c)が[動作3]の判定結果を、各々示している。
図2に示すグラフの取得時における、携帯電話端末100と加速度センサ20の配置関係、および携帯電話端末100の装着状態は
図1(b)に示したとおりである。
図2の各図は、各動作にともなって加速度センサ20から出力されるX軸、Y軸、Z軸方向の加速度信号を、予め定められたサンプリング間隔(本実施例では30ms)でサンプリングした結果を示しており、横軸はサンプリング回数、縦軸は加速度の大きさを示している。加速度の値が正の場合は加速度は「+」方向を、負の場合は「-」方向を各々示している。なお、
図2では、予め「Y+」方向が重力方向と判定されている。従って、携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向は、X軸方向(X+またはX-)か、Z軸方向(Z+またはZ-)となる。
【0034】
図2(a)は、[動作1]として、携行者Pが椅子から立ち上がった後、椅子に座るという動作を行った場合の各軸の加速度信号を示しており、各々の動作に伴って各軸の加速度信号の値には2つの山が発生していることがわかる。
図2(a)に示すように、本動作に付随する姿勢の変化に起因して、X軸の加速度信号も0を境に正負に触れているが、絶対値の変化はZ軸の方が大きい。従って、Z軸が進行軸と選択される。さらに、Z軸の加速度信号の符号は正(値が0以上)であるので、携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向はZ+方向と選択され、進行方向はZ+方向と判定される。
【0035】
図2(b)は、[動作2]として、携行者Pが床の物を持ち上げるという動作を行った場合の各軸の加速度信号を示しており、各々の動作に伴って各軸の加速度信号の値が変化していることがわかる。
図2(b)に示すように、本動作に付随する姿勢の変化に起因して、X軸の加速度信号も0を境に正負に触れているが、絶対値の変化はZ軸の方が大きい。従って、Z軸が進行軸と選択される。さらに、Z軸の加速度信号の符号は正(値が0以上)であるので、携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向はZ+方向と選択され、進行方向はZ+方向と判定される。
【0036】
図2(c)は、[動作3]として、携行者Pが立った状態で靴を履くという動作を行った場合の各軸の加速度信号を示しており、各々の動作に伴って各軸の加速度信号の値が変化していることがわかる。
図2(c)に示すように、本動作に付随する姿勢の変化に起因して、X軸の加速度信号も0を境に正負に触れているが、絶対値の変化はZ軸の方が大きい。従って、Z軸が進行軸と選択される。さらに、Z軸の加速度信号の符号は正(値が0以上)であるので、携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向はZ+方向と選択され、進行方向はZ+方向と判定される。
【0037】
図2に示す結果から、上記手順による本実施の形態に係る進行方向判定処理の前提が妥当なものであることがわかる。本実施の形態でいう「携行者Pの進行方向」は、実際の携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向を指し、実際の携行者Pの進行方向は携帯電話端末100の方向と一致している場合もある。また、本実施の形態に係る「進行方向」には、未だ進行はしていないが、ある動作を行った後、次の動作として進行した場合に進行方向となる蓋然性が高い方向も含む。
【0038】
次に、
図3を参照して、本実施の形態に係る進行方向判定装置10において実行される進行方向判定処理について説明する。
図3は当該進行方向判定処理において実行される進行方向判定処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。本進行方向判定処理プログラムは、進行方向判定装置10を実現しているマイクロプロセッサが実行するようにしてもよいし、あるいは、進行方向判定装置10を搭載する携帯電話端末100の制御部が実行するようにしてもよい。いずれにしろ、本進行方向判定処理プログラムは図示しないROM等の記憶手段に記憶されており、ユーザインタフェース(例えば、携帯電話端末100のモニタ画面S)等を介して実行開始の指示を受け付けると、図示しないCPUがROM等の記憶手段から本進行方向判定処理プログラムを読み込み、RAM等に展開して実行する。
【0039】
ステップS100で、加速度センサ20からの加速度信号を受信して、加速度の測定を開始する。本実施の形態では、本測定を30msの間隔でサンプリングして行う。
【0040】
ステップS101で、X軸、Y軸、Z軸の各々の加速度の移動平均値、および合成ベクトルの合成値の平均値を算出する平均処理を実行する。
【0041】
ステップS102で、予定したサンプリング数終了したか否か判定する。当該判定が肯定判定となった場合は次のステップS103に移行する一方、否定判定となった場合はステップS100に戻ってサンプリングを継続する。
【0042】
ステップS103で、上述した手順によって重力方向の判定を行う。
【0043】
次のステップS104で、ステップS103で選択した重力軸が変化したか否か判定する。当該判定は、X軸、Y軸、Z軸の加速度信号のうち絶対値の最も大きい値に対応する軸が変化したか否かによって判定する。当該判定が肯定判定となった場合はステップS100に戻り、サンプリングを継続する。なお、上述したように、本ステップは必須の処理ではなく、省略してもよい。
【0044】
ステップS105で、以下のパラメータの平均値からの変化量を算出する。
[1]合成変化量=合成ベクトルの現在値-合成ベクトルの平均値
[2]X軸変化量=X軸の現在値-X軸の移動平均値
[3]Y軸変化量=Y軸の現在値-Y軸の移動平均値
[4]Z軸変化量=Z軸の現在値-Z軸の移動平均値
各移動平均値の算出は、移動平均をとるサンプリング数(回数)を予め定めて行う。なお、本ステップで算出する変化量は絶対値である。また、本ステップにおいては、各軸の加速度信号の変化量の基準値として移動平均値を用いているが、これに限られず他の形式の平均値、あるいは基準となる値を用いてもよい。
【0045】
ここで、
図4(a)を参照し、各軸の変化量についてより具体的に説明する。
図4(a)は、上記[動作2]の場合を例示して、X軸の現在値Xと移動平均値Axとの関係、およびZ軸の現在値Zと移動平均値Azとの関係を示している。この場合、X軸の変化量は
図4(a)に示すΔXとなり、Z軸の変化量はΔZとなる。
図4(a)に示す例では、所定の時刻(タイミング)におけるΔZ、ΔXについて、|ΔZ|>|ΔX|が成立しているので、進行軸はZ軸と選択される。このように、本実施の形態において、移動平均値は、各軸の変化量を算出する上での基準値となっている。なお、
図4(a)では、移動平均のサンプリング回数を、一例として32回としている。
【0046】
ステップS106で、ステップS105で算出した合成変化量が予め定めた許容値の範囲内に収まっているか否か判定する。当該判定が肯定判定となった場合は次のステップS107に移行し、否定判定となった場合はステップS100に戻る。上記許容値の値に特に制限はなく、進行方向判定装置の精度等を勘案して適切に設定すればよい。本実施の形態では、一例として0.2gとしている。
【0047】
ここで、
図4(b)を参照し、合成変化量についてより詳細に説明する。
図4(b)は、上記[動作3]の場合を例示して、合成値の変動を示している。
図4(b)に示すように、合成値は、例えば平均値=1を中心として正負の方向に変化する。この場合許容値ΔTは、「1」を中心とし正負方向に設定される。つまり、合成変化量の絶対値≦ΔTであればステップS106で肯定判定となり、合成変化量の絶対値>ΔTであれば否定判定となる。ステップS106は、携行者Pが突然走り始める等の想定外の挙動をとることを除外する主旨であり、上述したように必須の処理ではない。
【0048】
ステップS107で、ステップS103で選択した重力軸が平均値より0g方向に近づいているか否かを判定する。当該判定は、例えば平均値とステップS103で選択した重力軸の現在値の差の絶対値である乖離量に対する閾値を設定し、乖離量が該閾値以上であるか否かによって判定する。すなわち、乖離量が当該閾値未満の場合に否定判定となる。
図2の例で説明すれば、重力軸であるY軸が平均値=1gより0gに近づいているか否か判定する。当該判定が肯定となった場合は次のステップS108に移行し、否定判定となった場合はS100に戻る。本ステップは、
図2の各図に示すように、進行軸(
図2の例ではZ軸)の値が増加すると、重力軸(
図2の例ではY軸)の値が減少する(0に近づく)傾向にあることを確認する処理である。例えば加速度センサを手に持った状態で振るなど、加速度センサに追加の力が加わった状態では進行軸の値が増加したとしても、重力軸の値が減少しない場合がある。したがって、ステップS107は、異常な外力が加わった状態で測定されたか否か確認するための処理であり、省略しても差し支えない。
【0049】
ステップS108で、上述した手順に基づき、重力軸を除く2軸について、変化量の絶対値の大きい方を進行軸として選択し、進行軸の変化の符号で携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向を仮選択する。
【0050】
ステップS109で、携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向が予め定められた回数連続したか否か判定する。すなわち、1つの方向について連続して携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向と選択された回数が予め定められた回数未満である場合に否定判定となる。当該判定が肯定判定となった場合はステップS110に移行する一方、否定判定となった場合はステップS100に戻る。
【0051】
ステップS110で、携行者Pの進行方向に最も近い携帯電話端末100の方向の選択を確定し、進行方向と確定する。
【0052】
ステップS111で、終了指示があったか否か判定し、当該判定が否定判定となった場合はステップS100に戻り、肯定判定となった場合は、本進行方向判定処理プログラムを終了する。終了指示があったか否かの判定は、例えばモニタ画面Sを介して携行者Pが終了の指示をしたか否かを判定して行う。
【0053】
ここで、本実施の形態では、ステップS100からステップS104までの処理が第1判定部13の処理であり、ステップS108からステップS111までの処理が第2判定部14による処理となっている。ステップS105からステップS107までの処理は、第1判定部13、第2判定部14のいずれが実行してもよいが、本実施の形態では一例として第2判定部14が行うものとしている。
【0054】
以上詳述したように、本実施の形態に係る進行方向判定装置、携帯端末装置、および進行方向判定方法によれば、加速度センサの出力を用いて、当該加速度センサを搭載した移動体の進行方向を簡易に判定することが可能となる。すなわち、本実施の形態に係る進行方向判定装置、携帯端末装置、および進行方向判定方法は、加速度センサのみを用いて進行方向を判定しており、GPS(Global Positioning System)等の専用システムを用いた構成に比べて簡便な構成で実現でき、さらにはコストの低減にも寄与する。
【0055】
なお、上記実施の形態では、加速度センサのみを用いて進行方向を判定する形態を例示して説明したが、例えば携帯電話端末が、地磁気センサ、角速度センサ等を搭載している場合には、これらのセンサを用いて進行方向の判定の補助としてもよい。つまり、加速度センサの各軸と、地磁気センサ、あるいは角速度センサの各軸の対応関係は携帯電話端末の製造時点で分かっているので、本実施の形態に係る進行方向判定装置で判定した進行方向(装着状態)と対応させることにより進行方向を判定の補助とすることができる。
【符号の説明】
【0056】
10 進行方向判定装置
11 フィルタ
12 加速度データ取り込み部
13 第1判定部
14 第2判定部
100 携帯電話端末
Ax、Az 移動平均値
GD 地面
P 携行者
S モニタ画面
ΔT 許容値