(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】積層型ガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/08 20060101AFI20240112BHJP
F02F 11/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
F16J15/08 H
F02F11/00 D
(21)【出願番号】P 2020047594
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100189289
【氏名又は名称】北尾 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】久保田 美保
(72)【発明者】
【氏名】今井 勝磨
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-200504(JP,A)
【文献】特開2003-287135(JP,A)
【文献】実開平06-087780(JP,U)
【文献】特開2008-031978(JP,A)
【文献】特開平09-177978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/08
F02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流路となる貫通孔である流路孔がそれぞれ形成された複数の金属板が、前記流路孔が互いに連通する状態で積層されてなる積層型ガスケットにおいて、
前記複数の金属板のそれぞれは、一方向に広がる長孔状の貫通孔、および、積層方向に突出し前記一方向に沿って並んだ2つ以上の凸部、のうちのいずれかが、前記流路孔から離れた一端部に形成されたものであり、
前記複数の金属板のうちの互いに隣接するいずれの2枚の金属板も、該2枚の金属板のうちの一方の金属板が有する前記長孔状の貫通孔に、他方の金属板が有する2つ以上の凸部が嵌合する態様で互いに積層している
ものであり、
前記複数の金属板のうちの前記長孔状の貫通孔を有する1枚の金属板の両側に積層される2枚の金属板が有する2つ以上の凸部は、前記1枚の金属板が有する同一の前記長孔状の貫通孔に対し、互いに反対側から挿入されて嵌合するものであり、
前記1枚の金属板の両側に積層される前記2枚の金属板のうちの一方の金属板が有する2つ以上の凸部の1つが、前記一方向についての前記長孔状の貫通孔の一方の端部で該長孔状の貫通孔に嵌合し、他方の金属板が有する2つ以上の凸部の1つが、前記一方向についての前記長孔状の貫通孔の他方の端部で該長孔状の貫通孔に嵌合するものである積層型ガスケット。
【請求項2】
前記一方向に垂直な方向についての前記長孔状の貫通孔の幅は、該長孔状の貫通孔に嵌合する前記2つ以上の凸部の、前記一方向に垂直な方向についての最大径と同程度である請求項
1に記載の積層型ガスケット。
【請求項3】
前記他方の金属板が有する前記2つ以上の凸部は、前記他方の金属板から離れるに従って太くなる先太り形状を有するものである請求項1
又は2に記載の積層型ガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属板が積層されてなる積層型ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の金属板が積層されてなる積層型ガスケットが従来から知られている。このような積層型ガスケットは、たとえば、自動車等のエンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの接合部に介設されて、シリンダ内の内圧を確保しつつ、冷却水やエンジンオイル等の流体がシリンダ内に流入するのを防ぐガスケットとして用いられる(たとえば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-178073号公報
【文献】特開2007-147031号公報
【文献】特開2008-144794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複数の金属板を締結する手段としては、ハトメやリベット等の締結用部品を用いる方法や、プレス加工機によるプレス加工を用いる方法や、溶接機によるスポット溶接を用いる方法がよく知られている。しかしながら、締結用部品を用いる方法では、締結用部品を別途用意することが必要な上に、締結用部品で締結する専用の設備や道具等が必要となることが多くコストがかかる。また、プレス加工を用いる方法では、ガスケットのシール性を担うビードの形状がプレス加工時に歪んでしまいシール性に影響が出るおそれがある。また、スポット溶接を用いる方法では、溶接箇所のまわりにスパッタが生じやすく製品不良の原因となり得る。スパッタを除去することも考えられるが、除去作業が別途必要となり生産性が低下しかねない。特に、溶接箇所が増えると生産性の低下が無視できなくなる。
【0005】
このように複数の金属板を締結して積層型ガスケットを作製するにあたっては、さらなる工夫が求められる。
【0006】
上記の事情を鑑み、本発明では、シール性への影響を抑えつつ簡素な構成で締結が可能な積層型ガスケットを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、以下の積層型ガスケットを提供する。
【0008】
[1]流体の流路となる貫通孔である流路孔がそれぞれ形成された複数の金属板が、前記流路孔が互いに連通する状態で積層されてなる積層型ガスケットにおいて、
前記複数の金属板のそれぞれは、一方向に広がる長孔状の貫通孔、および、積層方向に突出し前記一方向に沿って並んだ2つ以上の凸部、のうちのいずれかが、前記流路孔から離れた一端部に形成されたものであり、
前記複数の金属板のうちの互いに隣接するいずれの2枚の金属板も、該2枚の金属板のうちの一方の金属板が有する前記長孔状の貫通孔に、他方の金属板が有する2つ以上の凸部が嵌合する態様で互いに積層している積層型ガスケット。
【0009】
[2]前記複数の金属板のうちの前記長孔状の貫通孔を有する1枚の金属板の両側に積層される2枚の金属板が有する2つ以上の凸部は、前記1枚の金属板が有する同一の前記長孔状の貫通孔に対し、互いに反対側から挿入されて嵌合するものであり、
前記1枚の金属板の両側に積層される前記2枚の金属板のうちの一方の金属板が有する2つ以上の凸部の1つが、前記一方向についての前記長孔状の貫通孔の一方の端部で該長孔状の貫通孔に嵌合し、他方の金属板が有する2つ以上の凸部の1つが、前記一方向についての前記長孔状の貫通孔の他方の端部で該長孔状の貫通孔に嵌合するものである[1]に記載の積層型ガスケット。
【0010】
[3]前記一方向に垂直な方向についての前記長孔状の貫通孔の幅は、該長孔状の貫通孔に嵌合する2つ以上の凸部の、前記一方向に垂直な方向についての前記凸部の最大径と同程度である[1]又は[2]に記載の積層型ガスケット。
【0011】
[4]前記他方の金属板が有する前記2つ以上の凸部は、前記他方の金属板から離れるに従って太くなる先太り形状を有するものである[1]~[3]のいずれかに記載の積層型ガスケット。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層型ガスケットでは、互いに隣接する2枚の金属板は、いずれも、一方の金属板が有する長孔状の貫通孔に、他方の金属板が有する2つ以上の凸部が嵌合する態様で互いに積層している。このように長孔状の貫通孔に2つ以上の凸部が嵌合するだけで2枚の金属板が締結されるため、締結に要する構成がきわめて簡素であって作業性がよく、付加的な部品や設備が不要でコストもかからない。また、締結に要する長孔状の貫通孔や2つ以上の凸部は、流路孔から離れた端部に形成されており、ビードが通常形成される流路孔近傍の箇所には形成されていない。このため、2つ以上の凸部や長孔状の貫通孔を形成するにあたって、ビード部の形状を歪めるようなことはなくシール性への影響が抑えられている。特に、2つ以上の凸部の嵌合相手の貫通孔が長孔状であることで、締結部に発生しがちな歪みが逃げやすい構造となっており、この点でもシール性への影響が抑えられている。この結果、本発明では、シール性への影響を抑えつつ簡素な構成で締結が可能な積層型ガスケットが実現している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の金属板、第2の金属板、および第3の金属板を積層してなる本実施形態の積層型ガスケットを表した模式図である。
【
図5】
図2の第1の金属板に形成された凸部を表した側面図である。
【
図6】
図1の凸部を通るX方向の直線AA’を含み
図1のY方向に垂直な平面での積層型ガスケットの断面図である。
【
図7】
図1の凸部を通るY方向の直線BB’を含み
図1のX方向に垂直な平面での積層型ガスケットの断面図である。
【
図8】第1の金属板から離れるに従って太くなる先太り形状を有する凸部を表した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0015】
本実施形態の積層型ガスケットは、複数の金属板が積層されてなる積層型ガスケットである。こうした積層型ガスケットとしては、たとえば、自動車等のエンジンのシリンダブロックとシリンダヘッドとの接合部に介設されて、シリンダ内の内圧を確保しつつ、冷却水やエンジンオイル等の流体がシリンダ内に流入するのを防ぐガスケット積層型ガスケットが挙げられる。
【0016】
以下では、説明の明確化の観点から、本実施形態の積層型ガスケットが3枚の金属板を積層してなる場合を例にとって具体的に説明を行う。ただし、これはあくまでも一例であって、本発明は、金属板の枚数が上述のような3枚の場合に限定されるわけではなく、たとえば本発明の積層型ガスケットは、5枚の金属板を積層してなるものであってもよい。
【0017】
図1は、第1の金属板10、第2の金属板20、および第3の金属板30を積層してなる本実施形態の積層型ガスケット1を表した模式図である。また、
図2は、
図1の第1の金属板10の平面図であり、
図3は、
図1の第2の金属板20の平面図であり、
図4は、
図1の第3の金属板30の平面図である。
【0018】
図1では、3枚の金属板10,20,30からなる積層構成をわかりやすく示すために、積層方向(
図1のX方向およびY方向の双方に垂直な方向)について3枚の金属板10,20,30の位置を少しずつずらした状態で3枚の金属板10,20,30が図示されている。
図1に示すように、積層型ガスケット1は、第3の金属板30、第2の金属板20、第1の金属板10の順に各金属板が積層されていく積層構成を備えている。3枚の金属板10,20,30には、第1の流体(たとえば排気ガス)の流路となる貫通孔である第1流路孔15,25,35がそれぞれ1つ形成されている。また、3枚の金属板10,20,30には、第2の流体(たとえば冷却水等)の流路となる第2流路孔16,26,36がそれぞれ4つずつ形成されている。3枚の金属板10,20,30の積層の際の際には、第1流路孔15,25,35の組が互いに連通するとともに、第2流路孔16,26,36からなる第2流路孔の組が4組とも互いに連通するように3枚の金属板10,20,30が積層する。ここで、3枚の金属板10,20,30には、第1流路孔15,25,35や第2流路孔16,26,36の近傍において、第1流路孔15,25,35や第2流路孔16,26,36の周囲を取り巻く不図示のビードがそれぞれ形成されており、積層の際には、各金属板のビード同士が圧接して第1の流体や第2の流体の漏れを防いでシール性を維持している。
【0019】
ここで、3枚の金属板10,20,30のそれぞれには、一方向に広がる長孔状の貫通孔、および、積層方向に突出しその一方向に沿って並んだ2つ以上の凸部、のうちのいずれかが、第1流路孔15,25,35や第2流路孔16,26,36から離れた一端部に形成されている。
【0020】
具体的には、
図2に示すように、第1の金属板10は、図のX方向を右方向としたときの右側の端部に、X方向に垂直なY方向に沿って並ぶ2つの凸部11,12を有するとともに、左側の端部に、Y方向に沿って並ぶ2つの凸部13,14を有している(なお、4つの凸部11,12,13,14については
図1も併せて参照)。これら4つの凸部11,12,13,14は、
図1および
図2では点線で示されていることからもわかるように、図の奥側、すなわち、
図1では第2の金属板20や第3の金属板30の側に向かって突出している。
【0021】
図5は、
図2の第1の金属板10に形成された凸部11を表した側面図である。
【0022】
凸部11は、高さが低く平べったい円柱形状のボタン形の凸部であり、
図5には、その側面の様子が示されている。ここで、
図2の残りの3つの凸部12,13,14、および、後述の
図4の第3の金属板30の凸部31,32,33,34も、形成された箇所が異なることを除き、凸部11と同一形状を有している。
【0023】
一方、
図3の第2の金属板20は、右側の端部にY方向に広がる長孔状の貫通孔21を有するとともに、左側の端部にY方向に広がる長孔状の貫通孔22を有している。さらに、第2の金属板20は、図のY方向を上方向としたときの上側の端部にX方向に広がる長孔状の貫通孔23を有するとともに、下側の端部にX方向に広がる長孔状の貫通孔24を有している(なお、右側の長孔状の貫通孔21および下側の長孔状の貫通孔24については
図1も併せて参照)。
【0024】
また、
図4の第3の金属板30は、右側の端部に、Y方向に沿って並ぶ2つの凸部31,32を有するとともに、左側の端部に、Y方向に沿って並ぶ2つの凸部33,34を有している(なお、右側の凸部31,32については
図1も併せて参照)。これら4つの凸部31,32,33,34は、
図1および
図2では実線で示されていることからもわかるように、図の手前側、すなわち、
図1では第1の金属板10や第2の金属板20の側に向かって突出している。
【0025】
ここで、右側の端部に位置する
図2の凸部11,12および
図4の31,32は、X方向について、右側の端部に位置する
図3の長孔状の貫通孔21と同じ位置にあり、Y方向について、長孔状の貫通孔21が延びている範囲と同じ範囲内にある。同様に、左側の端部に位置する
図2の凸部13,14および
図4の33,34は、X方向について、左側の端部に位置する
図3の長孔状の貫通孔22と同じ位置にあり、Y方向について、長孔状の貫通孔22が延びている範囲と同じ範囲内にある。
【0026】
積層型ガスケット1では、このように
図3の右側の長孔状の貫通孔21と重なった位置にある
図2の右側の凸部11,12および
図4の右側の凸部31,32がこの右側の長孔状の貫通孔21に嵌合する。また、
図3の左側の長孔状の貫通孔22と重なった位置にある
図2の左側の凸部13,14および
図4の左側の凸部33,34がこの左側の長孔状の貫通孔22に嵌合する。このような嵌合により、3枚の金属板10,20,30が互いに締結されることとなる。以下では、この締結機構についてもっと詳しく説明する。
【0027】
図6は、
図1の凸部31を通るX方向の直線AA’を含み
図1のY方向に垂直な平面での積層型ガスケット1の断面図であり、
【0028】
図6では、3枚の金属板10,20,30からなる積層構成をわかりやすく示すために、積層方向(
図6においてX方向に垂直な方向)について3枚の金属板10,20,30の位置を少しずつずらした状態で3枚の金属板10,20,30が図示されている。
図6に示すように、第3の金属板30の凸部31は、X方向について第2の金属板20の長孔状の貫通孔21と同じ位置にあり、3枚の金属板10,20,30の積層時には凸部31が長孔状の貫通孔21に入り込んで嵌合する。
図6では示されてないが、
図4の第3の金属板30の右側のもう1つの凸部32も
図6の凸部31と同様な態様で長孔状の貫通孔21に入り込んで嵌合する。さらに、
図2の第1の金属板10の右側の2つの凸部11,12も
図6の凸部31と同様な態様で長孔状の貫通孔21に入り込んで嵌合する。
【0029】
同様の嵌合状態は、
図3の左側の長孔状の貫通孔22と、
図2の左側の凸部13,14および
図4の左側の凸部33,34との間でも成立する。
【0030】
図7は、
図1の凸部13,14を通るY方向の直線BB’を含み
図1のX方向に垂直な平面での積層型ガスケット1の断面図である。
【0031】
図7でも、積層構成をわかりやすく示すために、積層方向(
図7においてY方向に垂直な方向)について3枚の金属板10,20,30の位置を少しずつずらした状態で3枚の金属板10,20,30が図示されている。
図7に示すように、第1の金属板10の2つの凸部13,14は、Y方向について長孔状の貫通孔22が延びている範囲と同じ範囲内にある。また、上述の
図1の直線BB’を含み
図1のX方向に垂直な平面には、第3の金属板30の2つの凸部33,34も含まれており、これら2つの凸部33,34もY方向について長孔状の貫通孔22が延びている範囲と同じ範囲内にある。3枚の金属板10,20,30の積層時には、第1の金属板10の2つの凸部13,14および第3の金属板30の2つの凸部33,34が長孔状の貫通孔22に入り込んで嵌合する。
【0032】
図7と同様の嵌合状態は、
図3の右側の長孔状の貫通孔21と、
図2の右側の凸部11,12および
図4の右側の凸部31,32との間でも成立する。
【0033】
以上の
図6および
図7で説明したように、本実施形態の積層型ガスケット1では、互いに隣接する第1の金属板10と第2の金属板20は、第2の金属板20の長孔状の貫通孔21,22に対し第1の金属板10の凸部11,12および凸部13,14がそれぞれ嵌合する態様で互いに積層している。同様に、互いに隣接する第3の金属板30と第2の金属板20は、第2の金属板20の長孔状の貫通孔21,22に対し第3の金属板30の凸部31,32および凸部33,34がそれぞれ嵌合する態様で互いに積層している。
【0034】
このように本実施形態の積層型ガスケット1では、長孔状の貫通孔21,22にそれぞれ凸部11,12,13,14,31,32,33,34が嵌合するだけで、隣接する2枚の金属板が互いに締結されるため、締結に要する構成がきわめて簡素である。このため、作業性がよく、付加的な部品や設備が不要でコストもかからない。また、締結に要する長孔状の貫通孔21,22や凸部11,12,13,14,31,32,33,34は、第1流路孔15,25,35および第2流路孔16,26,36から離れた端部に形成されているため、ビードが通常形成される流路孔近傍の箇所には形成されていない。このため、凸部11,12,13,14,31,32,33,34や長孔状の貫通孔21,22を形成するにあたって、ビード部の形状を歪めるようなことはなくシール性への影響が抑えられている。特に、各凸部の嵌合相手の各貫通孔が長孔状であることで、締結部に発生しがちな歪みが逃げやすい構造となっており、この点でもシール性への影響が抑えられている。この結果、本実施形態では、シール性への影響を抑えつつ簡素な構成で締結が可能な積層型ガスケットが実現している。
【0035】
ここで、
図7に示すように、長孔状の貫通孔22を有する第2の金属板20の両側に積層される第1の金属板10および第3の金属板30がそれぞれ有する凸部13,14および凸部33,34が、長孔状の貫通孔22に対し、互いに反対側から挿入されて嵌合するものであり、
図7のY方向を右方向としたときに、第1の金属板10の凸部14が長孔状の貫通孔22の左側の端部で長孔状の貫通孔22に嵌合し、第3の金属板30の凸部33が長孔状の貫通孔22の右側の端部で長孔状の貫通孔22に嵌合することが好ましい。
【0036】
このような形態によれば、第2の金属板20が、第1の金属板10および第3の金属板30に対して相対的にY方向あるいはY方向の反対方向に位置ずれを起こしにくくなり、締結状態が安定化する。
【0037】
なお、
図1の長孔状の貫通孔21と凸部11,12,31,32との間にも同様の位置関係が成立している。すなわち、
図1のY方向を上方向としたときに、第1の金属板10の凸部11が長孔状の貫通孔21の上側の端部でこの長孔状の貫通孔21に嵌合し、第3の金属板30の凸部32が長孔状の貫通孔22の下側の端部で長孔状の貫通孔22に嵌合する。これによっても第2の金属板20が、第1の金属板10および第3の金属板30に対して相対的にY方向あるいはY方向の反対方向に位置ずれを起こしにくくなり、締結状態が安定化する。
【0038】
また、
図6に示すように、長孔状の貫通孔21が広がる方向に垂直な
図6のX方向(
図1も併せて参照)についての長孔状の貫通孔21の幅は、該長孔状の貫通孔21に嵌合する
図6の凸部31の、X方向についての最大径と同程度であることが好ましい。
【0039】
このような形態によれば、長孔状の貫通孔21に凸部31がぴったり嵌って嵌合状態が強化されるため、長孔状の貫通孔21を有する第2の金属板20と、凸部31を有する第3の金属板30との間の締結状態が安定化する。
【0040】
以上の説明では、各凸部は、
図5に示すように、高さが低く平べったい円柱形状のボタン形であるとして説明したが、本発明では、各凸部は、各凸部が形成されている各金属板から離れるに従って太くなる先太り形状を有するものであってもよい。
【0041】
以下では、そのような変形例の実施形態について簡単に説明する。この変形例の実施形態は、
図1~
図7の実施形態において
図5の形状の各凸部を有する第1の金属板10および第3の金属板30を、先太り形状を持つ各凸部を有する2枚の金属板に置き代えられている点を除き、上述の
図1~
図7の実施形態と同じである。そこで、以下では、この変更点に焦点を絞ってこの変形例の実施形態について簡単に説明する。
【0042】
図8は、第1の金属板10’から離れるに従って太くなる先太り形状を有する凸部11’を表した側面図である。
【0043】
図8に示すように、凸部11’は、第1の金属板10’から離れるに従って太くなる先太り形状を有しており、この結果、凸部11’の側面は、第1の金属板10’から離れるにつれて第1の金属板10’に向かって傾くテーパー状となっている。このような形態では、嵌合先となる第2の金属板20の長孔状の貫通孔21に凸部11’に嵌合する際に、この側面のテーパー状が一種の「かえし」となって働き、長孔状の貫通孔21から凸部11’が抜けにくくなる。この結果、この変形例の実施形態では、各長孔状の貫通孔と各凸部の嵌合状態が安定化し、これにより、隣接する2枚の金属板(たとえば第1の金属板10’と第2の金属板20)の間の締結状態も安定化している。
【0044】
以上が本実施形態の説明である。
【0045】
以上では、説明の明確化の観点から、3枚の金属板10,20,30を積層してなる積層型ガスケット1を例にとって説明した。しかしながら、上述したように、本発明では、金属板の枚数は3枚に限られず、たとえば5枚の金属板を積層してなる積層型ガスケットであってもよい。たとえば、第1の金属板10と第2の金属板20の間、および、第3の金属板30と第2の金属板20の間に、それぞれ、1枚ずつ新たな第4の金属板および第5の金属板を配置することが考えられる。これら第4の金属板および第5の金属板としては、たとえば、
図3の第2の金属板20の長孔状の貫通孔23,24と嵌合する2つ以上の凸部を有するとともに、
図2の第1の金属板10の凸部11,12,13,14や
図4の第3の金属板30の凸部31,32,33,34と嵌合する長孔状の貫通孔を有するものを採用できる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、シール性への影響を抑えつつ簡素な構成で締結が可能な積層型ガスケットの実現に有用である。
【符号の説明】
【0047】
1:積層型ガスケット、
10:第1の金属板、
10’:第1の金属板、
11:凸部、
11’:凸部、
12:凸部、
13:凸部、
14:凸部、
15:第1流路孔、
16:第2流路孔、
20:第2の金属板、
21:長孔状の貫通孔、
22:長孔状の貫通孔、
23:長孔状の貫通孔、
24:長孔状の貫通孔、
25:第1流路孔、
26:第2流路孔、
30:第3の金属板、
31:凸部、
32:凸部、
33:凸部、
34:凸部、
35:第1流路孔、
36:第2流路孔。