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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】真空ポンプのロータの回転数制御
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020069008
(22)【出願日】2020-04-07
(65)【公開番号】P2021017887
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2020-09-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】19186688
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391043675
【氏名又は名称】プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ミルコ・メコタ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル・シュヴァイクヘーファー
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】関口 哲生
【審判官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-37087(JP,A)
【文献】特開平11-148487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空ポンプ(111)のロータ(149)の回転数を制御する方法において、
ロータ(149)の温度を求め、
ロータ(149)の温度に依存するロータ(149)の最大許容回転数(302)を求め、
ここで、最大許容回転数(302)は、ロータ(149)の実際の温度に対するロータ(149)の回転数の上限であって、ロータ(149)の周囲温度から約90℃から120℃付近の臨界温度までの全ての温度にわたって、最大許容回転数(302)は、ロータ(149)の前記臨界温度に対するロータ(149)の回転数の上限かつ温度にかかわらず一定の公称回転数(304)以上であって、
ロータ(149)の周囲温度から臨界温度までの全ての温度にわたって最大許容回転数(302)を目標値としてロータ(149)の実際の回転数を制御する
ことを有する、真空ポンプのロータの回転数を制御する方法。
【請求項2】
ロータ(149)の最大許容回転数(302)を、ロータ(149)の温度に依存するロータ(149)の最大許容材料応力(301)を考慮して求める、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ロータ(149)の温度を、直接に、ロータ(149)で検出する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ロータ(149)の温度を、間接に推測する、又は真空ポンプ(111)の下部(121)及び軸受(181)の少なくとも一方における温度を測定することによって推測する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
ロータ(149)の実際の回転数(302)がロータ(149)の最大許容回転数(302)を上回ることを許容可能である期間を規定し、
規定された前記期間が経過するまで、ロータ(149)を、最大許容回転数(302)を上回る回転数で累積して運転する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転が行われるそれぞれの期間が累積されることによって、最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転の全期間を求め、
前記全期間が所定の最大期間を越えると、警告通知又はエラー通知を出力する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
真空ポンプ(111)において、
ステータと相俟って真空ポンプ(111)のポンピング作用を奏するユニットを形成するロータ(149)と、
ロータ(149)の温度を求める装置(227)と、
ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)であって、ロータ(149)の温度を求める装置(227)によって求められたロータ(149)の温度を受信し、ロータ(149)の温度に依存するロータ(149)の最大許容回転数(302)を求め、
ここで、最大許容回転数(302)は、ロータ(149)の実際の温度に対するロータ(149)の回転数の上限であって、ロータ(149)の周囲温度から約90℃から120℃付近の臨界温度までの全ての温度にわたって、最大許容回転数(302)は、ロータ(149)の前記臨界温度に対するロータ(149)の回転数の上限かつ温度にかかわらず一定の公称回転数(304)以上であって、ロータ(149)の周囲温度から臨界温度までの全ての温度にわたって最大許容回転数(302)を目標値としてロータ(149)の実際の回転数を制御するように構成された、ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)と、
を備える、真空ポンプ(111)。
【請求項8】
ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が、ロータ(149)の温度をロータ(149)の最大許容材料応力と関連付ける特性曲線(301)を有し、
ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が、ロータ(149)の最大許容回転数(302)を、ロータ(149)の最大許容材料応力を考慮して求めるように構成されている、請求項7に記載の真空ポンプ(111)。
【請求項9】
ロータ(149)における温度を直接に測定する温度センサ(231)をさらに備える、請求項7又は8に記載の真空ポンプ(111)。
【請求項10】
真空ポンプ(111)の下部(121)と軸受(181)との少なくとも一方における温度を測定する温度センサ(235)の信号からロータ(149)の温度を推測するモジュール(233)をさらに備える、請求項7又は8に記載の真空ポンプ(111)。
【請求項11】
ロータ(149)の実際の回転数がロータ(149)の最大許容回転数(302)を上回ることを許容可能である期間を規定するタイマ(239)をさらに備え、
ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が、タイマ(239)が切れるまでロータ(149)を、最大許容回転数(302)を上回る回転数で運転するように構成されている、請求項7から10までのいずれか1項に記載の真空ポンプ(111)。
【請求項12】
記憶装置(241)をさらに備え、記憶装置(241)は、最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転が行われるそれぞれの期間を累積し、これにより、最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転の全期間が求められ、
前記全期間が所定の最大期間を越えると、警告通知又はエラー通知が出力されるように、ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が構成されている、請求項11に記載の真空ポンプ(111)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプのロータの回転数を制御する方法及び真空ポンプのロータの回転数の制御部を備える真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプ、特にターボ分子ポンプの最大の排気速度を達成するために、真空ポンプは、通常、できるだけ高い回転数で運転される。しかし、真空ポンプのインレットに作用するガス負荷に基づいて、真空ポンプのロータに、温度の上昇を招いてしまうガス摩擦が生じる。ガス負荷が高いと、ロータ温度が、例えば約20℃~25℃付近の周囲温度から出発して90℃~120℃の範囲まで大きく上昇する。
【0003】
そのような高められた温度において、通常、このような高められた温度でロータに生じ得る最大許容材料応力に依存する、真空ポンプの公称回転数が確定される。
【0004】
公称回転数は、真空ポンプの運転中のロータの回転数の上限をなす。つまり、真空ポンプは、ロータの温度にかかわらず、最大でロータの公称回転数で運転される。しかし、ロータの温度が前述された90℃~120℃の温度範囲をはるかに下回るとき、例えば40℃付近にあるとき、真空ポンプは、完全に、公称回転数を上回るロータの回転数で運転することができ、これにより、真空ポンプの排気速度を危なげなく高めることができる。
【0005】
その上、公知の真空ポンプでは、例えば前述された90℃~120℃の範囲にある、ロータの臨界温度が確定される。この臨界温度に達すると、公知の真空ポンプでは、ロータを駆動する出力が低下され、これにより、真空ポンプが、過剰に高いロータ回転数の結果に対して、例えばロータの材料におけるクリープに基づくロータの寸法のわずかな変化に対して保護される。しかし、真空ポンプの駆動出力が低下されると、ガス負荷が高いとき、ロータの回転数の落ち込みが発生し得る。
【0006】
ロータの温度は、公知の真空ポンプでは、直接に測定されず、例えば適切なハウジング部分における温度測定に基づいて推測される。推測されたロータの温度は、臨界温度と比較され、これにより、推測されたロータの温度が臨界温度の範囲にあるとき、真空ポンプの駆動出力が低下される。ロータの温度が所定の値だけ臨界温度を上回ると、真空ポンプの駆動出力は、完全に遮断され、したがって真空ポンプは停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国特許出願公開第102013223020号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、真空ポンプの排気速度が高められると同時に真空ポンプの運転安全性が保証されている、真空ポンプのロータの回転数を制御する方法及び相応する真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法によって解決される。当該方法は、真空ポンプのロータの回転数を制御するために用いられ、そしてまずは真空ポンプのロータの温度が求められることを有する。ロータの温度に応じて、ロータの最大許容回転数が求められ、ロータの実際の回転数が、最大許容回転数に依存して制御される。
【0010】
したがって、ロータの実際の回転数を制御するために、先行技術とは異なり、ロータの実際の温度にかかわらず有効であって、そして予期される最高のロータ温度に基づいて確定される固定の公称回転数が目標値として設定されることがない。その代わりに、ロータの実際の回転数の制御は、本発明によれば、温度に依存する最大許容回転数に基づいて求められる可変の目標値を用いて行われる。
【0011】
したがって、真空ポンプは、本発明によれば、その運転期間の大部分の間、公知の真空ポンプでは制御のために用いられる公称回転数を上回る実際の回転数で運転することができる。というのも、運転期間の大部分の間、求められるロータの実際の温度が、例えば90℃~120℃の臨界温度範囲を下回るからである。公称回転数を上回るそのような運転によって、真空ポンプの排気速度が高められる。というのも、排気速度が、ロータの回転数とともに増加するからである。
【0012】
ロータの最大許容回転数は、求められる目下のロータの温度に応じて確定されるので、その温度に対して、温度に依存する、ロータの回転数の上限が存在する。これにより、真空ポンプが、それぞれ求められる温度において、過剰に高い回転数で運転されないことが保証される。その結果、温度に依存するロータの最大許容回転数によって、真空ポンプの運転安全性が確保される。
【0013】
本発明の有利な発展形態は、従属請求項、後述される説明及び図面に記載されている。
【0014】
一実施形態によれば、ロータの実際の回転数が、ロータの最大許容回転数に制御される。したがって、最大許容回転数が、目標値として、実際の回転数の制御に際して用いられる。求められるロータの目下の温度に対して、最大許容回転数への制御によって、真空ポンプの、最大実現排気速度が達成される。
【0015】
好適には、ロータの最大許容回転数が、ロータの温度に依存する、ロータの最大許容材料応力を考慮して求められる。この温度に依存する最大許容材料応力は、ロータ材料の降伏限界をはるかに下回り、例えば数年にわたる真空ポンプの比較的長期の運転でもロータにおける材料のクリープが発生し得ないように確定される。例えば、ロータの最大許容材料応力は、これがロータの所定の温度において、例えばロータの材料のクリープ強度の約半分になるように確定される。
【0016】
ロータ材料のクリープ強度は、温度の上昇とともに低下するので、ロータの最大許容材料応力の確定は、最も簡単な場合、これが温度の上昇とともに線形に低下するように行われる。材料応力は、ロータ回転数とともに二次関数的に増加するので、ロータの実際の回転数を制御するために用いられるロータの最大許容回転数が、材料応力と温度との間の線形な関係が前提とされるとき、好適には同様に、温度の低下とともに二次関数的に増加する。しかし、代替的な実施形態によれば、ロータの最大許容材料応力における温度との関係は、例えば温度とともにクリープ強度が指数関数的に低下することに基づいて、非線形の関数によって確定することもできる。
【0017】
最大許容回転数を求めるときにロータの最大許容材料応力を考慮することによって、最大許容材料応力が、その都度の温度におけるクリープ強度をはるかに下回るとき、特に比較的長い運転期間にわたる真空ポンプの運転安全性が保証される。しかもその上、ロータの最大許容回転数が、求められたロータの温度に依存するので、この実施形態でも、先行技術による真空ポンプにおいてロータ回転数の上限をなす公称回転数を上回る回転数範囲が、真空ポンプの排気速度を向上させるために利用される。このことは、特に90℃~120℃の前述された臨界温度をはるかに下回る温度で、つまり真空ポンプのロータが通常では長い期間にわたって運転される約40℃~50℃の運転温度で有効である。
【0018】
好適には、ロータの温度は、直接にロータで検出される。このことは、例えば赤外センサによって行うことができる。赤外センサは、真空ポンプのステータに取り付けられていて、そして赤外センサがロータから発せられる赤外放射を測定するように、ロータに対して配向されている。ロータ温度の直接の検出によって、ロータの温度を求めるときの精度が向上させられる。というのも、他の測定値または温度を検出するための推測が不要であるからである。
【0019】
代替的に、ロータの温度を、間接に、特に真空ポンプの下部及び/又は軸受における温度を測定することによって推測することができる。この実施形態では、ロータの温度を推測するために、真空ポンプの既存の構成要素、例えばハウジング要素又は軸受に位置する温度センサを用いることができる。したがって、ロータの温度を直接に検出するために付加的な装置が不要である。したがって、この実施形態では、真空ポンプ内の温度の既存の測定信号がロータ温度を推測するために用いられ、ロータの実際の回転数の制御が、この測定信号を考慮して拡張されることによって、存在する真空ポンプに、本発明による、ロータの回転数の、温度に依存する制御を後付けすることができる。
【0020】
方法の別の実施形態によれば、ロータの実際の回転数がロータの最大許容回転数を上回ることを許容可能である期間が規定される。ロータは、この実施形態では、規定された期間が経過するまで、最大許容回転数を上回る回転数を累積して運転される。この場合、ロータは、特に規定された期間にわたって累積して、最大許容回転数を上回る回転数で運転され、その際、規定された期間は、クリープによるロータの臨界的な質量変化が生じ得る臨界的な期間よりも短い。
【0021】
最大許容回転数を上回る回転数でロータを運転することによって、真空ポンプの排気速度が、規定された期間内でさらに増加される。その結果、真空ポンプが接続された真空容器内の圧力は、この実施形態では、最大許容回転数での又は最大許容回転数を下回る運転と比較して、付加的に低下される。したがって、真空ポンプは、規定された期間の間、真空容器内に最大実現負圧を形成する。
【0022】
この実施形態による運転方式は、例えば、真空容器内の特定のプロセスに基づいて、高められたガス摩擦に基づいて真空ポンプのロータの温度の上昇をもたらすガス負荷の増加が真空ポンプに予期されるとき、所望され得る。この温度上昇にもかかわらず、真空ポンプのロータの回転数が維持され、したがって、温度の上昇とともに低下する最大許容回転数への又はこれを下回る回転数の起こり得る低下が妨げられることによって、高められたガス負荷が発生するときに真空容器内における真空条件を保持することが所望され得る。ロータの回転数を維持することによって、回転数の低下に基づく真空容器内の圧力の過剰の上昇が阻止される。
【0023】
この場合、ロータの最大許容回転数を上回ることが許容される、規定された期間は、通常、日単位又は最長で一週間もしくは数週間の範囲にある。規定された期間は、この場合、通常、数年どころか数十年である真空ポンプの全運転期間又は耐用年数と比較すると極めて短い。日単位または週単位の範囲への規定された期間のそのような制限によって、長期にわたって、例えばロータのアンバランスを招いてしまうおそれがある、ロータの材料のクリープによる、真空ポンプのロータの損傷の発生が阻止される。
【0024】
一発展形態によれば、真空ポンプにおいて、最大許容回転数を上回るロータの運転が行われるそれぞれの期間が累積されることによって、最大許容回転数を上回るロータの運転の全期間が求められる。この全期間が所定の最大期間を越えると、警告通知又はエラー通知が出力される。警告又はエラー通知は、真空ポンプのロータが交換されるべきという推奨を伴ってよい。
【0025】
最大許容回転数を上回るロータの運転の期間と所定の最大期間との比較と、相応するエラー通知とによって、真空ポンプが、過度に長期に、過剰に高い回転数で運転されることが防止される。特に過剰に高い回転数でロータを継続して運転すると、要求される真空ポンプの運転安全性を、場合によってはもはや保証することができない。したがって、本発明のこの発展形態は、真空ポンプの運転を確保するために役立つ。
【0026】
本発明の他の対象は、真空ポンプであり、真空ポンプは、特にターボ分子ポンプであって、ステータと相俟って真空ポンプのポンピング作用を奏するユニットを形成するロータを備える。真空ポンプは、ロータの温度を求める装置と、ロータの回転数を制御する装置とをさらに備え、ロータの回転数を制御する装置は、ロータの温度を求める装置によって求められたロータの温度を受信し、ロータの温度に依存するロータの最大許容回転数を求め、ロータの実際の回転数を、最大許容回転数に依存して制御するよう構成されている。
【0027】
本発明に係る方法について前述された利点は、同様に本発明に係る真空ポンプにも当てはまる。特に、本発明に係る真空ポンプの排気速度は、公知の真空ポンプと比較して高い。というのも、本発明に係る真空ポンプは、温度に依存する最大許容回転数による制御に基づいて、公知の真空ポンプが運転される公称回転数を上回る、ロータの回転数で運転することができるからである。
【0028】
ロータの回転数を制御する装置は、好適には、ロータの温度をロータの最大許容材料応力と関連付ける特性曲線を有し、そしてさらに好適には、ロータの最大許容回転数を、ロータの最大許容材料応力を考慮して求めるように構成されている。回転数を制御するための特性曲線に関してロータの最大許容材料応力を考慮することに基づいて、本発明に係る真空ポンプの運転安全性が改善される。
【0029】
好適には、真空ポンプは、温度センサ、例えばステータに取り付けられ、そしてロータへ配向さられた、ロータにおける温度を直接に測定する赤外センサをさらに備える。代替的に、真空ポンプは、真空ポンプの下部及び/又は軸受における温度を測定する温度センサの信号からロータの温度を推測するモジュールを備えることができる。ロータにおける温度の直接の測定は、ロータ温度を求めるときの精度を向上させる一方、間接の推測は、真空ポンプの既存の測定信号の使用を可能にし、そして付加的な温度センサを要しない。
【0030】
一実施形態によれば、真空ポンプは、ロータの実際の回転数がロータの最大許容回転数を上回ることを許容可能である期間を規定するタイマをさらに備える。ロータの回転数を制御する装置は、この実施形態では、タイマが切れるまでロータを、最大許容回転数を上回る回転数で運転するように構成されている。規定された期間の間、真空ポンプの排気速度をさらに高めることができる。というのも、真空ポンプのロータが、最大許容回転数を上回る回転数で運転されるからである。しかも、タイマによって、この運転方式の期間が制限されるので、真空ポンプの運転安全性がさらに保証されている。
【0031】
この場合、その期間は、特に、クリープによるロータの臨界的な質量変化が発生し得る臨界的な期間よりも短く規定されている。
【0032】
一発展形態によれば、真空ポンプは、記憶装置をさらに備え、記憶装置は、最大許容回転数を上回るロータの運転が行われるそれぞれの期間を蓄積し、これにより、最大許容回転数を上回るロータの運転の全期間が求められる。したがって、全期間は、最大許容回転数を上回るロータの回転数における期間の合計である。この発展形態では、さらに、ロータの回転数を制御する装置は、全期間が所定の最大期間を越えると、警告通知又はエラー通知が出力されるように構成されている。警告通知又はエラー通知は、真空ポンプのロータが交換されるべきという示唆を伴うことができる。したがって、この発展形態は、真空ポンプの運転を確保するために用いられる。というのも、最大許容回転数を上回る回転数での過剰に長い運転が防止されるからである。
【0033】
以下、本発明を、有利な実施形態に基づき添付の図面を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】ターボ分子ポンプの斜視図を示す。
図2図1のターボ分子ポンプの下面図を示す。
図3図2に示した切断線A-Aに沿ったターボ分子ポンプの断面図を示す。
図4図2に示した切断線B-Bに沿ったターボ分子ポンプの断面図を示す。
図5図2に示した切断線C-Cに沿ったターボ分子ポンプの断面図を示す。
図6A】本発明に係るターボ分子ポンプの一実施形態の簡略図を示す。
図6B】本発明に係るターボ分子ポンプの代替的な一実施形態の簡略図を示す。
図7】ロータ温度に関する、本発明に係るターボ分子ポンプのロータの最大許容材料応力の概略的な線図を示す。
図8】ロータ温度に関する、最大許容ロータ回転数の特性曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に示されたターボ分子ポンプ111は、インレットフランジ113により包囲されたポンプインレット115を有する。ポンプインレット115には、それ自体公知の手段で、図示されていない真空容器を接続することができる。真空容器から到来するガスは、ポンプインレット115を介して真空容器から吸引され、そしてポンプを通ってポンプアウトレット117へと圧送することができる。ポンプアウトレット117には、例えばロータリベーンポンプなどの予真空ポンプを接続することができる。
【0036】
インレットフランジ113は、図1の真空ポンプの方向では、真空ポンプ111のハウジング119の上端を形成する。ハウジング119は、下部121を有する。下部121には、側方にエレクトロニクスハウジング123が配置されている。エレクトロニクスハウジング123内には、真空ポンプ111の電気的なかつ/又は電子的なコンポーネントが収容されている。これらのコンポーネントは、例えば、真空ポンプ内に配置された電動モータ125を作動させるためのものである。エレクトロニクスハウジング123には、アクセサリに対する複数の接続部127が設けられている。さらに、データインタフェース129(例えばRS485規格に準拠するもの)及び電流供給接続部131が、エレクトロニクスハウジング123に配置されている。
【0037】
ターボ分子ポンプ111のハウジング119には、通気インレット133が、特に通気バルブの形態で設けられている。通気インレット133を介して、真空ポンプ111に通気を行うことができる。下部121の領域には、その上さらに、パージガス接続部とも称されるシールガス接続部135が配置されている。シールガス接続部135を介して、パージガスを、ポンプによって圧送されるガスに対して電動モータ125(例えば図3参照)を防護するために、モータ室137内に送り込むことができる。モータ室137内で、真空ポンプ111に、電動モータ125が収容されている。ポンプ下部121には、その上さらに2つの冷却媒体接続部139が配置されている。この場合、一方の冷却媒体接続部は、冷却媒体用のインレットとして、他方の冷却媒体接続部は、アウトレットとして設けられている。冷却媒体は、冷却目的で真空ポンプ内に導入可能である。
【0038】
真空ポンプの下面141は、ベースとして使用することができるので、真空ポンプ111は、下面141にて縦置きで運転することができる。しかも、真空ポンプ111は、インレットフランジ113を介して真空容器に固定することもでき、ひいてはいわば懸架した状態で運転することができる。さらに、真空ポンプ111は、図1に示された向きとは別の形で配向されているときにも運転することができるように構成され得る。下面141を下向きではなく、横向きに、又は上向きに配置することができる真空ポンプの実施形態も実現可能である。
【0039】
図2に示された下面141には、さらに種々のねじ143が配置されている。これらのねじ143によって、ここでは詳細には特定されない真空ポンプの構成部材が互いに固定されている。例えば、軸受カバー145が下面141に固定されている。
【0040】
下面141には、さらに固定孔147が配置されている。固定孔147を介して、ポンプ111を、例えば設置面に固定することができる。
【0041】
図2図5には、冷却媒体配管148が示されている。冷却媒体配管148において、冷却媒体接続部139を介して導入される又は導出される冷却媒体が循環可能である。
【0042】
図3図5の断面図に示されているように、真空ポンプは、複数のプロセスガスポンプ段を有する。これらのプロセスガスポンプ段は、ポンプインレット115に作用するプロセスガスをポンプアウトレット117へと圧送するためのものである。
【0043】
ポンプハウジング119内には、ロータ149が配置されている。ロータ149は、回転軸線151を中心として回転可能なロータシャフト153を有する。
【0044】
ターボ分子ポンプ111は、ポンピング作用を及ぼすように互いに直列に接続された複数のターボ分子ポンプ段を有する。これらのターボ分子ポンプ段は、ロータシャフト153に固定された半径方向の複数のロータディスク155と、ロータディスク155の間に配置され、そしてハウジング119内に固定されたステータディスク157とを有する。この場合、1つのロータディスク155とこれに隣り合う1つのステータディスク157とが、それぞれ1つのターボ分子ポンプ段を形成する。ステータディスク157は、スペーサリング159によって、互いに所望の軸方向間隔を置いて保持されている。
【0045】
真空ポンプは、さらに、半径方向で互いに内外に配置され、そしてポンピング作用を及ぼすように互いに直列に接続されたホルベックポンプ段を有する。ホルベックポンプ段のロータは、ロータシャフト153に配置されたロータハブ161と、ロータハブ161に固定され、そしてこのロータハブ161によって支持された円筒側面状の2つのホルベックロータスリーブ163,165とを有する。これらのホルベックロータスリーブ163,165は、回転軸線151に対して同軸に配向されていて、そして半径方向で互いに内外に組み付けられている。さらに、円筒側面状の2つのホルベックステータスリーブ167,169が設けられている。これらのホルベックステータスリーブ167,169は、同様に回転軸線151に対して同軸に配向されていて、そして半径方向で見て互いに内外に組み付けられている。
【0046】
ホルベックポンプ段の、ポンピング作用を奏する表面は、側面によって、つまりホルベックロータスリーブ163,165及びホルベックステータスリーブ167,169の半径方向内側面及び/又は外側面によって形成されている。外側のホルベックステータスリーブ167の半径方向内側面は、半径方向のホルベック間隙171を形成しつつ、外側のホルベックロータスリーブ163の半径方向外側面と対向していて、外側のホルベックロータスリーブ163の半径方向外側面とともに、ターボ分子ポンプに後続する第1のホルベックポンプ段を形成する。外側のホルベックロータスリーブ163の半径方向内側面は、半径方向のホルベック間隙173を形成しつつ、内側のホルベックステータスリーブ169の半径方向外側面と対向していて、内側のホルベックステータスリーブ169の半径方向外側面とともに、第2のホルベックポンプ段を形成する。内側のホルベックステータスリーブ169の半径方向内側面は、半径方向のホルベック間隙175を形成しつつ、内側のホルベックロータスリーブ165の半径方向外側面と対向していて、内側のホルベックロータスリーブ165の半径方向外側面とともに、第3のホルベックポンプ段を形成する。
【0047】
ホルベックロータスリーブ163の下端には、半径方向に延在するチャネルを設けることができる。このチャネルを介して、半径方向外側に位置するホルベック間隙171が、中央のホルベック間隙173に接続されている。さらに、内側のホルベックステータスリーブ169の上端には、半径方向に延在するチャネルを設けることができる。このチャネルを介して、中央のホルベック間隙173が、半径方向内側に位置するホルベック間隙175に接続されている。これにより、互いに内外に組み込まれた複数のホルベックポンプ段が、互いに直列で接続される。半径方向内側に位置するホルベックロータスリーブ165の下端には、さらに、アウトレット117に通じる接続チャネル179を設けることができる。
【0048】
ホルベックステータスリーブ163,165の、前述されンピング作用を奏する表面は、それぞれ、螺旋状に回転軸線151の周りを周回しつつ軸方向に延在する複数のホルベック溝を有する。他方、ホルベックロータスリーブ163,165の、これに対向する側面は、滑らかに形成されていて、真空ポンプ111を運転するためのガスをホルベック溝内にて前方へ送り出す。
【0049】
ロータシャフト153を回転可能に軸支するために、ポンプアウトレット117の領域に転がり軸受181が設けられていて、ポンプインレット115の領域に永久磁石式の磁気軸受183が設けられている。
【0050】
転がり軸受181の領域には、ロータシャフト153に円錐形のスプラッシュナット185が設けられている。これは、転がり軸受181へ向けて増大していく外径を有する。スプラッシュナット185は、作動媒体貯蔵部の少なくとも1つの掻落とし部材と滑り接触している。作動媒体貯蔵部は、上下にスタックされた吸収性の複数のディスク187を有する。これらディスク187は、転がり軸受181のための作動媒体、例えば潤滑剤に浸漬されている。
【0051】
真空ポンプ111の運転時、作動媒体は、毛細管現象によって、作動媒体貯蔵部から掻落とし部材を介して、回転するスプラッシュナット185へと伝達され、そして、遠心力に基づいてスプラッシュナット185に沿って、スプラッシュナット185の、増大していく外径の方へと、転がり軸受181に向かって送られる。そこでは例えば潤滑機能が発揮される。転がり軸受181及び作動媒体貯蔵部は、真空ポンプ内において槽状のインサート189と軸受カバー145とによって囲繞されている。
【0052】
永久磁石式の磁気軸受183は、ロータ側の軸受半部191とステータ側の軸受半部193とを有する。これらは、それぞれ1つのリングスタックを有する。リングスタックは、軸方向に上下にスタックされた永久磁石の複数のリング195,197からなる。リング磁石195,197は、互いに半径方向の軸受間隙199を形成しつつ対向していて、この場合、ロータ側のリング磁石195は、半径方向外側に、そしてステータ側のリング磁石197は、半径方向内側に配置されている。軸受間隙199内に存在する磁界は、リング磁石195,197の間に磁気的反発力を引き起こす。その反発力は、ロータシャフト153の半径方向の支持を実現する。ロータ側のリング磁石195は、ロータシャフト153の支持部分201によって支持されている。この支持部分201は、リング磁石195を半径方向外側で取り囲む。ステータ側のリング磁石197は、ステータ側の支持部分203によって支持されている。支持部分203は、リング磁石197を通って延在し、そしてハウジング119の半径方向の支材205に懸架されている。回転軸線151に対して平行に、ロータ側のリング磁石195が、支持部分203に連結されたカバー要素207によって固定されている。ステータ側のリング磁石197は、回転軸線151に対して平行に1つの方向で、支持部分203に結合された固定リング209と支持部分203に結合された固定リング211とによって固定されている。さらに、固定リング211とリング磁石197との間には、皿ばね213を設けることができる。
【0053】
磁気軸受内に、非常軸受又は安全軸受215が設けられている。非常軸受又は安全軸受215は、真空ポンプの通常の運転時には、非接触で空転し、そしてロータ149がステータに対して相対的に半径方向に過剰に変位するとようやく作用し、これにより、ロータ側の構造とステータ側の構造との衝突が阻止されるので、ロータ149に対する半径方向のストッパが形成される。安全軸受215は、非潤滑式の転がり軸受として構成されていて、そしてロータ149及び/又はステータとともに半径方向の間隙を形成する。この間隙によって、安全軸受215は、通常のポンプ運転時には作用しないようになっている。安全軸受215が作用することになる半径方向の変位は、十分に大きく寸法付けられているので、安全軸受215は、真空ポンプの通常の運転中は作用せず、そして同時に十分に小さく寸法付けられているので、ロータ側の構造とステータ側の構造との衝突があらゆる状況で阻止される。
【0054】
真空ポンプ111は、ロータ149を回転駆動する電動モータ125を有する。電動モータ125の電機子は、ロータ149によって形成されている。ロータ149のロータシャフト153は、モータステータ217を通って延在する。ロータシャフト153の、モータステータ217を通って延在する部分には、半径方向外側に又は埋入して、永久磁石アセンブリを配置することができる。モータステータ217と、ロータ149の、モータステータ217を通って延在する部分との間には、中間室219が配置されている。この中空室219は、半径方向のモータ間隙を有する。このモータ間隙を介して、モータステータ217と永久磁石アセンブリとは、駆動トルクを伝達するため、磁気的に影響し合うことができる。
【0055】
モータステータ217は、ハウジング内で、電動モータ125に対して設けられたモータ室137内に固定されている。シールガス接続部135を介して、パージガスとも称され、例えば空気又は窒素であってよいシールガスが、モータ室137内へと到達可能である。シールガスを介して、電動モータ125を、プロセスガスに対して、例えばプロセスガスの、腐食作用を奏する部分に対して防護することができる。モータ室137は、ポンプアウトレット117を介して排気することもできる。つまりモータ室137内に、少なくとも近似的に、ポンプアウトレット117に接続された予真空ポンプによって実現される真空圧が作用する。
【0056】
ロータハブ161と、モータ室137を画成する壁部221との間には、さらに、それ自体公知のいわゆるラビリンスシール223を設けることができる。これにより、特に、半径方向外側に位置するホルベックポンプ段に対するモータ室217のより良好なシールが達成される。
【0057】
図6Aは、本発明に係るターボ分子ポンプ111の簡略図を示す。ターボ分子ポンプ111は、図1図5に示されるとともに前述された全ての構成要素及び特徴を、たとえこれらの構造要素及び特徴の大部分が図面をより分かりやすくするために図6には示されていないとしても、有する。
【0058】
ターボ分子ポンプ111は、付加的に制御装置225を有する。制御装置225は、エレクトロニクスハウジング123内に収容されている。制御装置225は、ロータ149の温度を求める装置227と、ロータ149の回転数を制御する装置229とを有する。ロータ149の回転数を制御する装置は、電動モータ125に接続されていて、これにより、ロータ149の回転数が、電動モータ125に供給される又はこれに印加される電流及び電圧によって制御される。
【0059】
図6Aに示された実施形態では、ロータ149の温度を求める装置227が、赤外センサ231に接続されていて、赤外センサ231は、ロータ149における温度を直接に測定するために設けられている。図6Bに示された代替的な実施形態は、ロータ149の温度を直接に測定する赤外センサ231を有しない。その代わり、ロータ149の温度を求める装置227は、ターボ分子ポンプ111の下部121における温度を測定する温度センサ235及び/又は転がり軸受181における温度を測定する温度センサ237の信号からロータ149の温度を推測するモジュール233を有する。その他の点は、図6Bのターボ分子ポンプ111の実施形態は、図6Aの実施形態と同一である。
【0060】
図6A及び図6Bに示された両方の実施形態では、目下ロータ149内に存在する温度が、装置227によって求められる。つまり、直接に赤外センサ231による測定に基づいて、又は間接に温度センサ235及び/又は237の測定信号からの推測に基づいて求められる。求められたロータ149の温度は、ロータ149の回転数を制御する装置229によって受信される。この装置229は、求められた温度に対して、ロータ149の最大許容回転数を求める。この装置229は、続いて、ロータ149の実際の回転数を、最大許容回転数に制御する、つまり最大許容回転数は、制御の目標値として用いられる。
【0061】
ロータ149の回転数を制御する装置229は、さらに、タイマ239と記憶装置241とを有する。タイマ239は、ロータの最大限許容回転数を実際の回転数が上回ることを許容可能である期間を規定する。ロータ149の回転を制御する装置229は、タイマ239が切れるまで、ロータ149を、最大許容回転数を上回る回転数で運転することができる。これに続いて、ロータ149の実際の回転数が、最大許容回転数へと低下される。
【0062】
タイマ239によって規定される期間は、ターボ分子ポンプ111の製造者によって様々に変更可能に調節可能であって、日単位から一週間又は数週間に至る範囲にあってよい。期間は、例えば、インレットフランジ113を介してターボ分子ポンプ111が接続された真空容器内のプロセスに適合させることができる。真空容器内のそのようなプロセスにとって、たとえロータ149の温度が上昇することが予期されるとしても、全てのプロセスの間、ロータ149の最大実現回転数によってターボ分子ポンプ11の排気速度を維持することが所望され得る。しかしこの場合、ロータ149の実際の回転数は、ターボ分子ポンプ111の所望される耐用期間と、予期される運転温度と、これに関連する、ロータ149内の材料応力とに基づいて、経験値に基づき確定される最大運転回転数303(図8参照)に制限されている。
【0063】
最大許容回転数を上回るターボ分子ポンプ111の過剰に長い運転を防止するために、記憶装置241に、所定の最大期間が格納されている。さらに、記憶装置241は、ロータ149の運転が最大許容回転数を上回って行われるそれぞれの期間を累積する。記憶装置241によって累積された期間、つまり最大許容回転数を上回ってロータが運転される全期間の合計は、最大許容回転数を上回るロータの運転の全期間を表し、これは、記憶装置241に格納された所定の最大期間を越えてはならない。全期間、つまり記憶装置241によって累積された期間が、所定の最大期間を越えると、直ちに、制御装置225が、警告通知又はエラー通知を出力する。ターボ分子ポンプ111の安全な運転がもはや保証されていないので、警告通知又はエラー通知は、ターボ分子ポンプ111の運転が停止されるとともにロータ149が交換されるべきという示唆を伴う。よって、過剰に高い回転数での運転が所定の最大期間を越えることに基づいて、例えば、ロータ149の寸法の変化に基づいてロータ149またはターボ真空ポンプ111の他の部分のアンバランスどころか損傷さえも生じ得るようなクリープがロータ149の材料に発生するおそれがある。
【0064】
図7は、ロータ149の温度に依存する、ロータ149における最大許容材料応力の特性曲線301を示す。ここでは、分かりやすくするために、ロータ149の温度に依存する最大許容材料応力の関係には一次関数が用いられる。代替的に、ロータ149の温度と最大許容材料応力との非線形の経過を用いることもできる。非線形の経過は、例えば、ロータ149における材料のクリープ強度に対する温度の関係を表す。
【0065】
図7に示された、ロータ149における最大許容材料応力の特性曲線301は、同様にロータ149の温度に依存する、ロータ149の最大許容回転数の別の特性曲線302に対する基準を形成する。図8に示された特性曲線302は、ロータ149の回転数を制御する装置229(図6参照)によって用いるために、特性曲線301と一緒に記憶装置241に格納されている。
【0066】
最大許容材料応力の特性曲線301は、ロータ149の温度とともに線形に低下し、そして最大許容材料応力が、ロータ回転数の二乗に依存するので、最大許容回転数は、温度の低下とともに二次関数的に増加する又は温度の上昇とともに二次関数的に低下する。それにもかかわらず、簡単化のために、最大許容回転数の特性曲線302(図8参照)として、公称回転数304から出発して一次関数が用いられる。公称回転数304は、ロータ149における最大許容材料応力に基づいて、約90℃~120℃の臨界温度の範囲で求められ、これにより、ターボ分子ポンプの運転がそのような温度に至るときでも確保される。特性曲線302の一定の傾きは、相応して、特性曲線が、ターボ分子ポンプの運転を引き続き確保するために、常に、相応する二次関数より下に位置するように確定される。この関数は、最大許容材料応力と回転数との間の二乗の関係に基づいて導くことができる。
【0067】
したがって、ロータ149の最大許容回転数の特性曲線302は、ロータ149の温度とともに線形に低下する。例えば40℃~50℃付近の比較的低い温度では、最大許容回転数の特性曲線302は、最大運転回転数303に達する。これに対してロータ149の高い温度では、つまり例えば約90℃~120℃付近では、特性曲線302は、公称回転数304に近づく。公称回転数304は、公知のターボ分子ポンプではロータの回転数を制御するためにロータの温度にかかわらず用いられ、したがって全てのロータ温度に対して一定である。
【0068】
図8において、特性曲線302と一定の公称回転数304との比較に基づいて看取されるように、求められたロータ149の温度が、約90℃~120℃の臨界範囲より下にある場合には、本発明に係るターボ分子ポンプ111は、公称回転数304で運転される公知のターボ分子ポンプよりも高い、ロータ149の回転数で運転を行う。したがって、ロータ149の高められた回転数に基づいて、本発明に係るターボ分子ポンプ111は、公知のターボ分子ポンプと比較して、高められた排気数を有する。
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の観点として以下を含む。
1.真空ポンプ(111)のロータ(149)の回転数を制御する方法において、
ロータ(149)の温度を求め、
ロータ(149)の温度に依存してロータ(149)の最大許容回転数(302)を求め、
最大許容回転数(302)に依存してロータの実際の回転数を制御する
ことを有する、真空ポンプのロータの回転数を制御する方法。
2.ロータ(149)の実際の回転数を、ロータ(149)の最大許容回転数(302)に制御する、上記1に記載の方法。
3.ロータ(149)の最大許容回転数(302)を、ロータ(149)の温度に依存するロータ(149)の最大許容材料応力(301)を考慮して求める、上記1又は2に記載の方法。
4.ロータ(149)の温度を、直接に、ロータ(149)で検出する、上記1から3までのいずれか1つに記載の方法。
5.ロータ(149)の温度を、間接に、特に真空ポンプ(111)の下部(121)及び/又は軸受(181)における温度を測定することによって推測する、上記1から3までのいずれか1つに記載の方法。
6.ロータ(149)の実際の回転数(302)がロータ(149)の最大許容回転数(302)を上回ることを許容可能である期間を規定し、
規定された前記期間が経過するまで、ロータ(149)を、最大許容回転数(302)を上回る回転数で累積して運転する、上記1から5までのいずれか1つに記載の方法。
7.最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転が行われるそれぞれの期間が累積されることによって、最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転の全期間を求め、
前記全期間が所定の最大期間を越えると、警告通知又はエラー通知を出力する、上記6に記載の方法。
8.真空ポンプ(111)、特にターボ分子ポンプにおいて、
ステータと相俟って真空ポンプ(111)のポンピング作用を奏するユニットを形成するロータ(149)と、
ロータ(149)の温度を求める装置(227)と、
ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)であって、ロータの温度を求める装置(227)によって求められたロータ(149)の温度を受信し、ロータ(149)の温度に依存するロータ(149)の最大許容回転数(302)を求め、ロータ(149)の実際の回転数を最大許容回転数(302)に依存して制御するように構成された、ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)と、
を備える、真空ポンプ(111)。
9.ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が、ロータ(149)の温度をロータ(149)の最大許容材料応力と関連付ける特性曲線(301)を有し、
ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が、ロータ(149)の最大許容回転数(302)を、ロータ(149)の最大許容材料応力を考慮して求めるように構成されている、上記8に記載の真空ポンプ(111)。
10.ロータ(149)における温度を直接に測定する温度センサ(231)をさらに備える、上記8又は9に記載の真空ポンプ(111)。
11.真空ポンプ(111)の下部(121)及び/又は軸受(181)における温度を測定する温度センサ(235)の信号からロータ(149)の温度を推測するモジュール(233)をさらに備える、上記8又は9に記載の真空ポンプ(111)。
12.ロータ(149)の実際の回転数がロータ(149)の最大許容回転数(302)を上回ることを許容可能である期間を規定するタイマ(239)をさらに備え、
ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が、タイマ(239)が切れるまでロータ(149)を、最大許容回転数(302)を上回る回転数で運転するように構成されている、上記8から11までのいずれか1つに記載の真空ポンプ(111)。
13.前記期間が、クリープによってロータ(149)の臨界的な質量変化が発生する臨界的な期間より短く規定されている、上記12に記載の真空ポンプ(111)。
14.記憶装置(241)をさらに備え、記憶装置(241)は、最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転が行われるそれぞれの期間を累積し、これにより、最大許容回転数(302)を上回るロータ(149)の運転の全期間が求められ、
前記全期間が所定の最大期間を越えると、警告通知又はエラー通知が出力されるように、ロータ(149)の回転数を制御する装置(229)が構成されている、上記12又は13に記載の真空ポンプ(111)。
【符号の説明】
【0069】
111 ターボ分子ポンプ
113 インレットフランジ
115 ポンプインレット
117 ポンプアウトレット
119 ハウジング
121 下部
123 エレクトロニクスハウジング
125 電動モータ
127 アクセサリ接続部
129 データインタフェース
131 電流供給接続部
133 通気インレット
135 シールガス接続部
137 モータ室
139 冷却媒体接続部
141 下面
143 ねじ
145 軸受カバー
147 固定孔
148 冷却媒体配管
149 ロータ
151 回転軸線
153 ロータシャフト
155 ロータディスク
157 ステータディスク
159 スペーサリング
161 ロータハブ
163 ホルベックロータスリーブ
165 ホルベックロータスリーブ
167 ホルベックステータスリーブ
169 ホルベックステータスリーブ
171 ホルベック間隙
173 ホルベック間隙
175 ホルベック間隙
179 接続チャネル
181 転がり軸受
183 永久磁石式の磁気軸受
185 スプラッシュナット
187 ディスク
189 インサート
191 ロータ側の軸受半部
193 ステータ側の軸受半部
195 リング磁石
197 リング磁石
199 軸受間隙
201 支持部分
203 支持部分
205 半径方向の支柱
207 カバー要素
209 支持リング
211 固定リング
213 皿ばね
215 非常軸受又は安全軸受
217 モータステータ
219 中間室
221 壁部
223 ラビリンスシール
225 制御装置
227 ロータの温度を求める装置
229 ロータの温度を制御する装置
231 赤外センサ
233 ロータの温度を推測する装置
235 下部の温度センサ
237 転がり軸受の温度センサ
239 タイマ
241 記憶装置
301 最大許容材料応力の特性曲線
302 ロータの最大許容回転数の特性曲線
303 最大運転回転数
304 公称回転数
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8