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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】建造物の移設工法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/06 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
E04G23/06 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020110449
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007455
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】村上 真勇
(72)【発明者】
【氏名】吉口 勝史
(72)【発明者】
【氏名】稲本 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】海野 良太
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 崇博
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-268971(JP,A)
【文献】特開平09-004239(JP,A)
【文献】特開2014-111880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/14
E04G 21/16
E04G 23/06
E04G 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物を少なくとも横切断線に沿って切断して複数の構造物に分割し、当該分割された構造物をクレーンで揚重して移設する建造物の移設工法であって、
前記建造物を切断する前に、前記建造物の前記横切断線上に貫通孔を穿設する孔穿設工程と、
前記貫通孔に挿入フレームを挿入して設置する挿入フレーム設置工程と、
前記挿入フレームに吊りフレームを連結する吊りフレーム連結工程と、
前記吊りフレームの上部を前記クレーンで吊り支持した状態で前記建造物を前記横切断線に沿って切断する切断工程と、
切断により分割された前記構造物を前記吊りフレームに保持させた状態で、当該吊りフレームを前記クレーンで揚重する揚重工程と、を実行する建造物の移設工法。
【請求項2】
前記挿入フレーム設置工程において、前記貫通孔における前記挿入フレームの上方側に形成される隙間に充填剤を充填する請求項1に記載の建造物の移設工法。
【請求項3】
前記挿入フレーム設置工程において、前記挿入フレームを前記貫通孔に挿入する前に、前記貫通孔における前記挿入フレームの下方側に形成される隙間に充填剤を充填する請求項2に記載の建造物の移設工法。
【請求項4】
前記吊りフレームは、前記構造物に対する前方側において前記挿入フレームに連結され、
前記吊りフレームに、保持した前記構造物の前面を前方側から支持する支持具が設けられ、
前記揚重工程において、前記構造物を保持した前記吊りフレームを前方側に倒して水平姿勢で仮置きする請求項1から3の何れか一項に記載の建造物の移設工法。
【請求項5】
前記吊りフレームは、前記構造物に対する前方側において前記挿入フレームに連結され、
前記切断工程より前に、前記建造物に対して後方側からの補強を行う補強工程を実行する請求項1から4の何れか一項に記載の建造物の移設工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物を複数の構造物に分割して移設する建造物の移設工法で、特に、建造物を少なくとも横切断線に沿って切断して複数の構造物に分割し、当該分割された構造物をクレーンで揚重して移設する建造物の移設工法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、建造物を少なくとも横切断線に沿って切断して複数の構造物に分割し、当該分割された構造物をクレーンで揚重して移設する建造物の移設工法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-268971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の移設工法では、構造物の前方側に補強層3を形成すると共に更にその前方側に鉄骨製補強フレーム5を取り付ける取付工程と、鉄骨製補強フレーム5を取り付けた建造物を横切断線に沿って複数の構造物(パネルA)に分割する切断工程と、分割された構造物に鉄骨製補強フレーム5に取り付けた状態で、当該鉄骨製補強フレーム5をクレーンで揚重する揚重工程と、を実行している。この移設工法では、鉄骨製補強フレームを自立可能な形状に構成して、切断工程において建造物を複数の構造物に分割しても構造物が転倒しないようになっている。また、鉄骨製補強フレームは、適宜の箇所においてボルト・ナット等によって補強層3に連結されている。このような建造物を複数の構造物に分割して移設する移設工法において、効率よく建造物を移設することが望まれている。
【0005】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、効率よく建造物を移設することができる建造物の移設工法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1特徴構成は、建造物を少なくとも横切断線に沿って切断して複数の構造物に分割し、当該分割された構造物をクレーンで揚重して移設する建造物の移設工法において、前記建造物を切断する前に、前記建造物の前記横切断線上に貫通孔を穿設する孔穿設工程と、前記貫通孔に挿入フレームを挿入して設置する挿入フレーム設置工程と、前記挿入フレームに吊りフレームを連結する吊りフレーム連結工程と、前記吊りフレームの上部を前記クレーンで吊り支持した状態で前記建造物を前記横切断線に沿って切断する切断工程と、切断により分割された前記構造物を前記吊りフレームに保持させた状態で、当該吊りフレームを前記クレーンで揚重する揚重工程と、を実行する点にある。
【0007】
本構成によれば、吊りフレームの上部をクレーンで吊り支持した状態で建造物を切断するため、この切断により分割された構造物をクレーンによって吊った状態で支持することができ、当該構造物が転倒することを防止できる。そのため、切断された構造物が転倒することを防止するために吊りフレームを自立可能な構成とする必要がなく、吊りフレームの構成の簡素化を図ることができる。
また、挿入フレームを挿入して設置する貫通孔を横切断線上に穿設するため、切断工程において建造物を切断する距離が短くでき、更に、切断後に挿入フレームを構造物から取り外し易くなる。
このように、吊りフレームの構成の簡素化を図ることや挿入フレームを構造物から取り外し易くなることにより、効率よく構造物を移設することができる。
【0008】
本発明の第2特徴構成は、前記挿入フレーム設置工程において、前記貫通孔における前記挿入フレームの上方側に形成される隙間に充填剤を充填する点にある。
【0009】
本構成によれば、揚重工程において吊りフレームをクレーンで揚重する場合に、貫通孔における挿入フレームより上方側の部分において構造物の荷重を広い範囲で受けることができるため、貫通孔の上方側の全域又は略全域の部分に挿入フレームが局所的に接触して構造物が破損することを防止できる。
【0010】
本発明の第3特徴構成は、前記挿入フレーム設置工程において、前記挿入フレームを前記貫通孔に挿入する前に、前記貫通孔における前記挿入フレームの下方側に形成される隙間に充填剤を充填する点にある。
【0011】
本構成によれば、挿入フレームの下方側に、挿入フレームが所定の高さに位置するように充填剤を充填することで、挿入フレームの高さを所定の高さにすることが可能となる。
また、貫通孔における挿入フレームより下方側の部分において挿入フレームの荷重を広い範囲で受けることができるため、貫通孔の下方側の部分に挿入フレームが局所的に接触して構造物が破損することを防止できる。
【0012】
本発明の第4特徴構成は、前記吊りフレームは、前記構造物に対する前方側において前記挿入フレームに連結され、前記吊りフレームに、保持した前記構造物の前面を前方側から支持する支持具が設けられ、前記揚重工程において、前記構造物を保持した前記吊りフレームを前方側に倒して水平姿勢で仮置きする点にある。
【0013】
本構成によれば、揚重工程において構造物を仮置きする場合に、自重による崩壊を防止しながら、前方側に倒して水平姿勢にして構造物を仮置きすることで、仮置きした構造物が転倒して破損することを回避できる。
【0014】
本発明の第5特徴構成は、前記吊りフレームは、前記構造物に対する前方側において前記挿入フレームに連結され、前記切断工程より前に、前記建造物に対して後方側からの補強を行う補強工程を実行する点にある。
【0015】
本構成によれば、建造物に破損し易い部分が存在していた場合でも建造物に対して予め補強を行うことで切断工程において建造物が破損することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】建造物の正面図
図2】挿入フレーム設置工程を実行した後の貫通孔を示す正面図
図3】切断工程を実行した後の構造物の下部を示す側面図
図4】切断工程を実行した後の構造物と吊りフレームとを示す正面図
図5】切断工程を実行した後の構造物と吊りフレームとを示す側面図
図6】揚重工程を示す図
図7】揚重工程を示す図
図8】揚重工程を示す図
図9】構造物を移設した状態を示す側面図
図10】移設工法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る建造物の移設工法の実施形態を図面に基づいて説明する。建造物1の移設工法は、図1に示すように、建造物1を少なくとも横切断線L1に沿って切断して複数の構造物2に分割し、図6~8に示すように、当該分割された構造物2をクレーン4で揚重して移設する移設工法である。図1は、建造物1の正面図であり、建造物1の周壁の一部である前壁部3を示している。前壁部3を含む建造物1の周壁は煉瓦壁によって構成されている。尚、建造物1の移設工法の実施形態を説明するに当たり、前壁部3を移設する場合を例として説明する場合がある。
【0018】
図10の移設工法のフローチャートに示すように、本例の建造物1の移設工法では、孔穿設工程S3と挿入フレーム設置工程S4と吊りフレーム連結工程S5と切断工程S6と揚重工程S7とを実行する。また、本例の建造物1の移設工法では、これらの工程に加えて、墨出し工程S1と補強工程S2と設置工程S8とを実行する。これらの工程は、墨出し工程S1と補強工程S2とを実行した後、孔穿設工程S3、挿入フレーム設置工程S4、吊りフレーム連結工程S5、切断工程S6、揚重工程S7、設置工程S8の順に実行する。
【0019】
〔墨出し工程S1〕
墨出し工程S1は、図1に示すように、横切断線L1及び縦切断線L2を記すように墨出しを行う工程である。横切断線L1は、水平方向に沿って建造物1に記し、縦切断線L2は、鉛直方向に沿って建造物1に記す。図1に示すように、前壁部3に対して墨出しを行う場合では、横切断線L1は、水平方向の一方向である前壁部3の横方向Xに沿って記し、縦切断線L2は、鉛直方向である前壁部3の縦方向Yに沿って記す。墨出し工程S1を実行することで、前壁部3には、複数の横切断線L1に加えて複数の縦切断線L2が記される。
【0020】
そして、横切断線L1の位置は、切断された構造物2の夫々の縦方向Yの幅が予め設定された設定縦幅内に収まるように設定されている。また、縦切断線L2の位置は、切断された構造物2の夫々の横方向Xの幅が予め設定された設定横幅内に収まるように設定されている。また、横切断線L1及び縦切断線L2の位置は、切断された構造物2の夫々の重量が予め設定された設定重量内に収まるように設定されている。本実施形態では、前壁部3が縦方向Yに2個の構造物2に分割され且つ横方向Xに5個の構造物2に分割されるように、複数の横切断線L1及び複数の縦切断線L2の位置が設定されている。
【0021】
〔補強工程S2〕
補強工程S2は、図3及び図5に示すように、切断工程S6より前に、建造物1に対して後方側Z2からの補強を行う工程である。補強工程S2では、建造物1の後方側Z2の略全面に重ねるように第1補強材7を設置し、その第1補強材7の後方側Z2に重ねるように金属製の棒状の第2補強材8を設置する。本実施形態では、第1補強材7は、モルタルによって構成され、第2補強材8は、山形鋼(L字アングル)によって構成されている。そして、第2補強材8は、アンカーボルト9を用いて建造物1に連結されている。尚、図2及び図5は、切断工程S6によって横切断線L1に沿って切断した後の状態を示している。
【0022】
図5に示すように、第2補強材8は、構造物2から縦方向Yや横方向Xにはみ出さず、且つ、構造物2の厚み方向Zに沿う厚み方向視で貫通孔11の形成予定箇所と重ならないように設置する。そのため、後述する孔穿設工程S3において貫通孔11を穿設する場合に第2補強材8が邪魔になり難く、また、切断工程S6において建造物1を複数の構造物2に分割する場合に第2補強材8が邪魔になり難くなっている。
【0023】
また、墨出し工程S1における墨出しは建造物1に対して前方側Z1から行うのに対して、補強工程S2にける補強は建造物1に対して後方側Z2から行っている。そのため、墨出し工程S1と補強工程S2とを同時に実行可能としている。
【0024】
〔孔穿設工程S3〕
孔穿設工程S3は、建造物1を切断する前(切断工程S6の前)に、建造物1の横切断線L1上に貫通孔11を穿設する工程である。図1に示すように、複数の構造物2の夫々の下方側の端部には横切断線L1が記されており、穿設工程では、複数の構造物2の夫々に対して、下方側の端部に位置する横切断線L1上に2つ以上の貫通孔11を穿設する。貫通孔11は、厚み方向視で円形に形成し、H型鋼によって構成された挿入フレーム12を挿入可能な大きさに形成する。
【0025】
尚、建造物1に移設しない構造物2が存在する場合は、その移設しない構造物2の下方側の端部には貫通孔11を穿設しなくてもよい。図1に示すように、本実施形態では、前壁部3の下段中央に位置する構造物2については移設しないため、当該構造物2の下方側の端部に貫通孔11は穿設していない。
【0026】
〔挿入フレーム設置工程S4〕
挿入フレーム設置工程S4は、図2に示すように、貫通孔11に挿入フレーム12を挿入して設置する工程である。この挿入フレーム設置工程S4において、貫通孔11における挿入フレーム12の上方側に形成される隙間(以下、第1隙間14と称する)に充填剤(以下、第1充填剤15と称する)を充填する。また、挿入フレーム設置工程S4において、挿入フレーム12を貫通孔11に挿入する前に、貫通孔11における挿入フレーム12の下方側に形成される隙間(以下、第2隙間16と称する)に充填剤(以下、第2充填剤17と称する)を充填する。
【0027】
つまり、挿入フレーム設置工程S4では、まず、貫通孔11の第2隙間16となる空間に第2充填剤17を充填して水平な下地を形成する。次に、貫通孔11に挿入フレーム12を挿入してその挿入フレーム12を固化した第2充填剤17の上に載せる。これによって挿入フレーム12が貫通孔11の周縁部に接触することを回避しながら、挿入フレーム12を貫通孔11内の適正位置且つ適正な姿勢に設置することができる。そして、このように挿入フレーム12を貫通孔11内に設置した後、貫通孔11の第1隙間14に第1充填剤15を充填する。尚、第1充填剤15と第2充填剤17とを、同じ充填剤としてもよく、異なる充填剤としてもよい。本実施形態では、第2充填剤17として、平滑で且つ高い強度を有し水平な下地を形成し易いレベリングモルタルを用い、第1充填剤15として、無収縮モルタル等のグラウトを用いており、第1充填剤15と第2充填剤17とで異なる充填剤を用いている。
【0028】
〔吊りフレーム連結工程S5〕
吊りフレーム連結工程S5は、図4及び図5に示すように、挿入フレーム12に吊りフレーム19を連結して、吊りフレーム19によって構造物2を保持する工程である。吊りフレーム19を、構造物2に対する前方側Z1において挿入フレーム12に連結する。吊りフレーム19は、横方向Xに沿って設置される上下一対の第1フレーム材20と、上下一対の第1フレーム材20の間に縦方向Yに沿って設置される複数本の第2フレーム材21と、上下一対の第1フレーム材20の間において複数本の第2フレーム材21に亘って設置される複数本の第3フレーム材22と、厚み方向Zに沿って設置される第4フレーム材23と、を備えている。尚、第1フレーム材20、第2フレーム材21、及び第4フレーム材23は、H型鋼によって構成されており、第3フレーム材22は、山形鋼(L字アングル)によって構成されている。
【0029】
図4に示すように、上下一対の第1フレーム材20と複数本の第2フレーム材21とによって格子状の枠体24を構成されている。図5に示すように、挿入フレーム12の前方側Z1の端部に、枠体24の下方側の端部を連結しており、枠体24は構造物2に対して前方側Z1に位置している。また、枠体24の上方側の端部に第4フレーム材23の前方側Z1の端部が連結しており、第4フレーム材23は、構造物2より上方側に設置されると共に、構造物2の前方側Z1から後方側Z2に亘って設置している。
【0030】
また、図5に示すように、吊りフレーム19に、当該吊りフレーム19が保持した構造物2を前方側Z1から支持する支持具26が設けられている。支持具26として、枠体24と構造物2との間に介在する第1支持具27や、厚み方向Zに移動可能に枠体24に取り付けられた第2支持具28が備えられている。構造物2には前方側Z1への突出量が異なる部分があり、構造物2における前方側Z1への突出量が比較的大きい部分(枠体24との距離が短い部分)については、後方側Z2の端部が構造物2に接するように枠体24に対して厚み方向Zに移動させた第1支持具27を用いて前方側Z1から支持し、構造物2における突出量が比較的小さい部分(枠体24との距離が長い部分)については、枠体24と構造物2との間隔に応じた大きさの第2支持具28を用いて前方側Z1から支持している。このように、支持具26によって広範囲に亘って構造物2を前方側Z1から支持している。
【0031】
また、吊りフレーム19は、構造物2に対する後方側Z2において棒状の連結ロッド29を用いて挿入フレーム12に連結する。第4フレーム材23の下面に、横方向Xに沿う姿勢で第5フレーム材30を連結し、図3に示すように、挿入フレーム12の後方側Z2の端部のエンドプレート31に、横方向Xに沿う姿勢で第6フレーム材32を連結する。そして、図5に示すように、連結ロッド29の上方側の端部を第5フレーム材30に連結し、図3に示すように、連結ロッド29の下方側の端部を第6フレーム材32に連結する。尚、第5フレーム材30は、H型鋼によって構成されており、第6フレーム材32は、山形鋼(L字アングル)によって構成されている。このように、本実施形態では、吊りフレーム19は、構造物2に対する前方側Z1において挿入フレーム12に連結すると共に、構造物2に対する後方側Z2においても挿入フレーム12に連結する。
【0032】
〔切断工程S6〕
切断工程S6は、吊りフレーム19の上部をクレーン4で吊り支持した状態で建造物1を横切断線L1及び縦切断線L2に沿って切断する工程である。図6に示すように、第4フレーム材23には、ワイヤー34を接続するための第1被接続部23Aが接続されている。クレーン4に支持されているワイヤー34を第1被接続部23Aに接続することで、吊りフレーム19の上部をクレーン4で吊り支持することができる。
【0033】
切断工程S6では、切断する対象となる構造物2を保持する吊りフレーム19の第1被接続部23Aにワイヤー34を接続し、当該構造物2を保持する吊りフレーム19の上部をクレーン4で吊り支持した状態で、当該構造物2の周囲にある横切断線L1及び縦切断線L2に沿って前壁部3を切断する。このように、吊りフレーム19の上部をクレーン4で吊り支持した状態で前壁部3を切断するため、この切断により分割された構造物2をクレーン4によって吊った状態で支持することができ、当該構造物2が転倒することを防止できる。また、横切断線L1については、横切断線L1上に貫通孔11が形成されており、この貫通孔11が形成されている部分は切断する必要がないため、横切断線L1に沿って切断する距離を短くできる。
【0034】
〔揚重工程S7〕
揚重工程S7は、切断により分割された構造物2を吊りフレーム19に保持させた状態で、当該吊りフレーム19をクレーン4で揚重する工程である。図3及び図6から図8に示すように、挿入フレーム12の後端のエンドプレート31(図3参照)には、ワイヤー34を接続するための第2被接続部31Aが接続されている。クレーン4に接続されているワイヤー34を第2被接続部31Aに接続することで、吊りフレーム19の下部をクレーン4で吊り支持することができる。つまり、第1被接続部23Aと第2被接続部31Aとの夫々にワイヤー34を接続することで、構造物2を保持した吊りフレーム19の上部と下部との双方をクレーン4にて吊り支持できる。尚、第2被接続部31Aとして、エンドプレート31に形成されている孔を利用して接続されたシャックルを用いている。
【0035】
揚重工程S7において、構造物2を保持した吊りフレーム19を前方側Z1に倒して水平姿勢で仮置きする。つまり、揚重工程S7では、図6から図8に示すように、クレーン4を操作して吊りフレーム19の上部と下部との相対的な高さを変えることで吊りフレーム19を前方側Z1に倒し、構造物2の姿勢を図6に示す鉛直姿勢から図7に示す傾斜姿勢を経て図8に示す水平姿勢に変更する。そして、図8に示すように、構造物2を水平姿勢とした状態で、地面上やトラックの荷台等に設置された仮置き台35に仮置きする。この仮置きした状態では、構造物2は支持具26によって下方側から支持されるため、仮置きした状態で構造物2が崩れることを防止できる。
【0036】
〔設置工程S8〕
設置工程S8は、複数の構造物2を移設先に設置する工程である。図9に示すように、構造物2の移設先には、新設用の躯体37が構築されている。設置工程S8では、仮置きされていた構造物2を、躯体37の前方側Z1に鉛直姿勢で躯体37に支持させるように移設先に設置する。また、この設置工程S8では、構造物2の補強が必要な場合は、構造物2の後方側Z2の面にL型アンカー等の固定具を用いて補強用のコンクリート38を固定する。
【0037】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0038】
(1)上記実施形態では、挿入フレーム設置工程S4において、第1隙間14に第1充填剤15を充填し、第2隙間16に第2充填剤17を充填する構成を例として説明した。しかし、このような構成に限定されない。例えば、挿入フレーム設置工程S4において、第1隙間14への第1充填剤15の充填と第2隙間16への第2充填剤17の充填とのうちの一方又は双方を行わなくてもよい。
【0039】
(2)上記実施形態では、吊りフレーム19に、保持した構造物2の前面を前方側Z1から支持する支持具26を設ける構成を例として説明した。しかし、このような構成に限定されない。例えば、構造物2が十分な強度を有する場合等では、吊りフレーム19に支持具26を設けなくてもよい。
【0040】
(3)上記実施形態では、建造物1に対して補強を行う補強工程S2を実行する構成を例として説明した。しかし、このような構成に限定されない。例えば、建造物1に対して補強を行う必要がない場合は、補強工程S2を実行しなくてもよい。
【0041】
(4)上記実施形態では、貫通孔11を円形状とする構成を例として説明した。しかし、このような構成に限定されない。例えば、貫通孔11を矩形状とする等、貫通孔11の形状は円形状以外としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 建造物
2 構造物
4 クレーン
11 貫通孔
12 挿入フレーム
14 第1隙間(隙間)
15 第1充填剤(充填剤)
16 第2隙間(隙間)
17 第2充填剤(充填剤)
19 吊りフレーム
26 支持具
L1 横切断線
Z1 前方側
Z2 後方側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10