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特許7418313調整可能な流体充填レンズ組立体及びその組立方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】調整可能な流体充填レンズ組立体及びその組立方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/14 20060101AFI20240112BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20240112BHJP
   G02C 7/08 20060101ALN20240112BHJP
   G02C 13/00 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
G02B3/14
G02B1/14
G02C7/08
G02C13/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020177702
(22)【出願日】2020-10-23
(62)【分割の表示】P 2018515894の分割
【原出願日】2016-09-28
(65)【公開番号】P2021009415
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2020-11-20
(31)【優先権主張番号】1517160.6
(32)【優先日】2015-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515210673
【氏名又は名称】アドレンズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ADLENS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【弁理士】
【氏名又は名称】有川 智章
(72)【発明者】
【氏名】スティーブンス,ロバート エドワード
(72)【発明者】
【氏名】ジャコビ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ビーン,デレク ポール フォーブス
(72)【発明者】
【氏名】ゲスト, ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ニスパー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ウォースリー, トム
(72)【発明者】
【氏名】クマー, アシュトシュ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ランズブルグ, リチャード ヴィルヘルム ヤンセ
(72)【発明者】
【氏名】クロスリー,ピーター リー
(72)【発明者】
【氏名】ステラ, リタ
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/044260(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0147371(US,A1)
【文献】特表2013-533519(JP,A)
【文献】特表2015-513121(JP,A)
【文献】特表2015-516592(JP,A)
【文献】特表2015-511732(JP,A)
【文献】特表2002-517013(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0043106(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10 - 1/18
G02B 3/00 - 3/14
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
辺支持構造に組み付けられた厚みが100~300μmの範囲で、且つ、弾性率が10~200MPaの範囲で、且つ、熱可塑性ポリウレタン材料で形成される、熱調整済の張力がかけられた膜によって1つの壁が形成され、且つ、流体が充填された包囲体を有する調整可能な流体充填レンズ組立体であって、
上記張力がかけられた膜は、上記熱可塑性ポリウレタン材料が劣化し始める温度よりも低い、少なくとも70℃の温度で、少なくとも30分間熱調整され、上記流体に浸され、その外面に最大で1.5μmの厚みを有する上記流体に対するバリア層が形成され、且つ、少なくとも180N/mの実質的に一定の表面張力を有することを特徴とする調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項2】
上記熱調整済の張力がかけられた膜が当該膜の約20重量%までの液体を吸収する、請求項1に記載の調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項3】
辺支持構造に組み付けられた厚みが100~300μmの範囲で、且つ、弾性率が10~200MPaの範囲で、且つ、熱可塑性ポリウレタン材料で形成される、熱調整済の張力がかけられた膜によって1つの壁が形成され、且つ、流体が充填された包囲体を有する調整可能な流体充填レンズ組立体であって、
上記張力がかけられた膜は、上記熱可塑性ポリウレタン材料が劣化し始める温度よりも低い、少なくとも70℃の温度で、少なくとも30分間熱調整され、その内面に最大で1.5μmの厚みを有する上記流体に対するバリア層が形成され、且つ、少なくとも180N/mの実質的に一定の表面張力を有することを特徴とする調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項4】
上記熱調整済の張力がかけられた膜が上記流体を含まない、請求項3に記載の調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項5】
上記熱調整済の張力がかけられた膜が、少なくとも12ヶ月の期間、少なくとも180N/mの実質的に一定の表面張力を有する、請求項1から4のいずれか1つに記載の調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項6】
上記熱調整済の張力がかけられた膜が非円形である、請求項1から5のいずれか1つに記載の調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項7】
上記包囲体が圧縮可能である、請求項1から6のいずれか1つに記載の調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項8】
上記熱調整済の張力がかけられた膜のための上記周辺支持構造が、上記熱調整済の張力がかけられた膜の周縁部分を保持するように配置された1つ以上の曲げ可能なリングを含む、請求項7に記載の調整可能な流体充填レンズ組立体。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1つに記載の少なくとも1つの調整可能な流体充填レンズ組立体を含む眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の面がレンズ面を形成するとともに反対の面が膜の形状を制御するための非圧縮性流体の本体と接触して連続的に配置される張力が加えられたエラストマー膜を含む調整可能な流体充填レンズ組立体に関し、特に、長期間の使用のために膜が張力を維持できるように調整可能な流体充填レンズ組立体の組立方法について述べる。別の態様では、本発明は、調整可能な流体充填レンズ組立体の膜の一方の面にハードコーティングを形成する方法を提供し、特に、膜の周縁部分を保持する曲げ可能な1つ以上のリングを含む周辺支持構造において張力が加えられた膜によって加えられる力を少なくとも部分的に弛緩するために少なくとも1つの面に圧縮されたコーティングを有する予め張力が加えられたエラストマー膜を含む調整可能な流体充填レンズ組立体について述べる。
【背景技術】
【0002】
調整可能な流体充填レンズ組立体は、特許文献1~15から公知である。これらの文献によると、透明な弾性膜は、膜の形状を制御するために流体の本体と接触して張力をかけて保持される。一般的に、流体は密閉された包囲体の中に収容され、膜は包囲体の1つの壁を形成する。膜は、流体と連続的に接触する内面と、レンズの光学面を形成する外面とを有し、レンズの光学的パワーは膜の湾曲に関係する。
【0003】
調整可能な流体充填レンズの1つの型(流体注入型)には、特許文献1、特許文献4、特許文献5、特許文献7~10、特許文献16、特許文献17に開示されているように、膜の湾曲を調整するために、調整用流体が包囲体に選択的に注入、或いは、取り除いて膜を外方に膨らませるか、或いは、包囲体の内方に収縮させる。調整可能な流体充填レンズの別の型(「流体圧縮型」)には、特許文献6、特許文献12~16に開示されているように、流体の体積は一定のままであるが、包囲体は圧縮可能であり、包囲体内の流体の分布は、包囲体を圧縮又は膨張させて弾性膜を外方に膨らませるか、或いは、内方に収縮させることによって調整される。
【0004】
抗傷、抗UV、反射防止及び着色コーティングを含む様々な異なるタイプの機能性コーティングでレンズを覆うことは、当技術分野では知られている。例えば、OF210(キャノンオプトロン社製)のようなフッ素化ポリマー材料は、疎水性及び/又は疎油性のコーティングを形成するために蒸着により適用される。
【0005】
調整可能な流体充填レンズ組立体は、一方又は両方のレンズの光学的パワーを調整するために眼鏡で使用され得る。調整可能なレンズを備えた眼鏡では、一方又は両方のレンズに関する選択的に操作可能な制御機構を設けて、着用者が光学的パワーを連続的に調整することを可能にする。眼鏡におけるこのようなレンズの使用は、膜に使用され得る材料にいくらかの特別な要件を課す。特に、薄く、柔軟で、透明であること(少なくとも可視スペクトル全体に亘って)に加えて、膜材料も無色で毒性が低く、揮発性が低くなければならない。それは、不活性で、高温で安定しており、通常の動作温度範囲内で相変化を当然起こしてはならない。また、微生物の増殖も低くなければならない。理想的には、本質的ではないが、膜材料は流体の屈折率と同じか、又は、類似の屈折率を有することもできる。流体は、レンズが過度に厚くならないように、高い屈折率(理想的には少なくとも約1.45か1.5以上、例えば、約1.58±0.02)を有するのが好ましい。
【0006】
弾性膜は、眼鏡に使用されるとき、一般的に、流体の本体内で静水圧勾配を生じさせる直立する向きで使用される。それは、着用者が動くときに約50℃までの温度変化と動きとを受ける可能性がある。望ましくは、その膜は、流体内の静水圧勾配と着用者の動きに伴う慣性による包囲体内の流体の変位とによって引き起こされるレンズの頂部から底部への光学的パワーの変動を光学的に目に見えないレベルにまで低下させるのに十分なほど大きい表面張力となるように予め張力が加えられるべきである。膜は、周囲の温度の変動を受け、流体と常に接触して保持されているにもかかわらず、張力を安定して維持し、通常は数年の期間であるが眼鏡の予想される寿命に少なくとも等しい期間の間、実質的に一定の荷重を提供することができなければならない。
【0007】
特許文献12及び特許文献13では、調整可能な流体充填レンズ組立体に使われる膜材料に適した材料として、ポリエチレンテレフタラート(例えば、Mylar(登録商標))、ポリエステル、シリコーンエラストマー(例えば、ポリジメチルシロキサン)、熱可塑性ポリウレタン、架橋ポリウレタン(例えば、Tuftane(登録商標))が明らかにされており、適切な流体として、例えば、トリメチルペンタフェニルトリシロキサンやテトラメチルテトラフェニルトリシロキサンのようなシリコーンオイルが明らかにされている。特に熱可塑性ポリウレタンは上述の多くの特別な要求を満たし、調整可能なレンズの膜としての使用に著しく適している。しかしながら、熱可塑性ポリウレタンの問題は、シリコーンオイルが膜材料に浸透し、膜が膨潤して張力を失うことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第96/38744号
【文献】国際公開第99/47948号
【文献】国際公開第99/47948号
【文献】国際公開第01/75510号
【文献】国際公開第02/063353号
【文献】国際公開第2006/055366号
【文献】国際公開第2007/0490582号
【文献】国際公開第2008/007077号
【文献】国際公開第2008/050114号
【文献】国際公開第2009/125184号
【文献】国際公開第2013/144533号
【文献】国際公開第2013/144592号
【文献】国際公開第2015/044260号
【文献】米国特許第5371629号明細書
【文献】米国特許第6040947号明細書
【文献】国際公開第91/17463号
【文献】国際公開第98/11458号
【文献】国際公開第2013/143630号
【文献】米国特許出願公開第2008/0207846号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、少なくとも12カ月間において、膜が流体内部の静水圧勾配と慣性の影響下における包囲体内の流体の変位とに起因するレンズの光学的パワーの変化を、光学的に知覚できないレベルまで低下させるのに十分な一定の表面張力を維持することができる上述に記載の如き種類の調整可能な流体充填レンズ組立体を提供することである。好ましくは、レンズ組立体が50℃の温度変化に晒されても、膜がこの表面張力を維持することができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、エラストマー膜に2軸方向の180N/mより大きい表面張力を加えることを含む調整可能な流体充填レンズ組立体の組立方法が提供され、膜の弛緩を促進させるために張力が加えられた膜を熱調整し、膜の張力を維持しながら膜を周辺支持構造に取り付け、1つの壁が調整膜からなる包囲体を形成するために、膜を1つ以上の他の構成要素に組み付け、その後、包囲体に流体を充填する。
【0011】
膜は、少なくとも450N/mか、或いは、少なくとも500N/mの初期表面張力を有するように2軸方向に張力をかけられてもよい。いくらかの実施形態において、膜は、少なくとも1000N/mの初期表面張力になるまで2軸方向に張力をかけられてもよい。例えば、膜は、約1200N/mの初期表面張力になるまで2軸方向に張力をかけられてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態において、膜は、少なくとも70℃又は少なくとも80℃の温度で調整されてもよい。膜は、少なくとも30分間、或いは、少なくとも60分間調整されてもよい。熱調整工程は、膜を支持構造に取り付ける前に適切に行われる。
【0013】
膜の熱調整は、膜の弛緩を促進させるのに役立つ。熱調整の後、膜は、膜の初期表面張力、膜材料の特性及び熱調整工程の特定の条件に依存して、約180~550N/mの範囲の残留表面張力を有し得る。
【0014】
膜は、流体の通過を防止又は遅延させるのに役立ち得るバリア層を形成するために、バリア材料で少なくとも1つの面にコーティングされてもよい。いくつかの実施形態では、バリア材料は、完成した組立体内の流体と接触する膜の内面にコーティングされてもよい。この構成においては、バリア層は、膜の中への流体の通過を防止又は遅延させる働きをすることができる。
【0015】
或いは、バリア材料は、包囲体内の流体に直接接触するのではなく、完成した組立体内の包囲体の外側に配置される膜の外面上に保護層としてコーティングされてもよい。いくつかの実施形態では、膜の外面は空気に曝されてもよい。膜は、流体が膜材料内に浸透するように、その内面にバリア材料をコーティングしないままにしてもよい。膜の外面に保護層を設けることにより、例えば、外面に液滴が形成されることによってレンズの光学的品質を損なう可能性がある望ましくない状態である、包囲体から膜に浸透する流体が膜の外面を介して膜から漏出することが防止される。
【0016】
バリア材料は、熱調整工程後において、上述したように、膜の内面又は外面に塗布することができる。好都合には、その材料は、膜が包囲体を形成するために他の構成要素に組み付けられる前に膜上にコーティングされてもよい。所望であれば、この段階において、例えば反射防止コーティングなどの他のコーティングを膜の外面に適用することができる。このような他のコーティングは、当技術分野で知られているように、単層または多層コーティングであってもよい。
【0017】
バリア材料は、流体の通過を防止又は遅延させるための任意の適切な材料を含むことができる。バリア材料の選択は、使用される特定の流体に依存し得る。バリア材料の屈折率は、例えば、その膜に屈折率が整合された自己平滑化コーティングとして使用されるように、膜の表面品質を改善するのに十分な反射防止及び/又は厚さでなければ重要ではない。それは膜によく接着できなければならず、無黄変でなければならない。バリア層は、可能な限り薄くすることが望ましい。いくつかの実施形態では、バリア層は、20nm未満の厚さ、例えば、約10nmである。いくつかの実施形態では、バリア材料は、フッ素化ポリマー又は疎水性(疎油性)ポリマーを含むことができる。好ましくは、バリア材料は、エチレンビニルアルコール(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、酸化ケイ素(SiOx)、ポリアクリレート、無機系コーティング(例えば、MgF2)及びドープポリマー(例えばC-doped PTFE)から選択し得る。例えば、OF210のようなPTFEのフッ素系ポリマーホモログは、キャノンオプトロン社から市販されているものが好ましい。
【0018】
以下により詳細に記載されるような本発明の特定の態様において、バリア材料は、例えばアクリレート末端ポリウレタンのような官能化ポリマーを含むことができる。いくつかの実施形態では、バリア材料は、ナノ粒子シリカなどの充填剤を含むことができる。いくつかの実施形態では、バリア材料は、アクリル変性ポリウレタンシリカハイブリッドコーティングを含むことができる。
【0019】
バリア材料は、当技術分野で知られている様々な異なる技術によって膜の内面又は外面に塗布することができるが、いくつかの実施形態では、真空下において物理蒸着(PVD)が使用され得る。アクリル変性ポリウレタンバリア材料のコーティングは、0.5μm~1.5μmの範囲の厚さを達成するために、超音波噴霧によって膜の面に適用され得る。
【0020】
流体が膜材料に浸透することができる実施形態、例えば膜の内面にバリア層がない実施形態では、流体の膜材料への通過によって、膜が徐々に膨張して約5%以下の歪み除去と同程度に弛ませることができる。膜は、それ自体の体重の約20%まで吸収することができる。そのような実施形態では、膜の初期表面張力は、熱調整後に残留表面張力が約350~550N/mに低下するように選択され得る。流体が膜材料に浸透すると、膜の表面張力がさらに低下することがある。これは、表面張力が約180N/mを超えなければ許容される。いくつかの実施形態では、膜の表面張力は、膜材料への流体の進入後において約180~300N/m、好ましくは200~300N/mの範囲の最終表面張力で安定化させることができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、膜による流体の吸収を促進させるために、完成した組立体を少なくとも約40℃の温度でインキュベートすることができる。いくつかの実施形態では、完成した組立体を約50~51℃温度でインキュベートすることができる。適切には、完成した組立体は、少なくとも約12時間、好ましくは24時間インキュベートすることができる。
【0022】
有利なことに、本発明の方法に従って2軸方向に張力をかけて熱条件を調整したときの膜は、流体と連続的に接触して配置され、且つ、約50℃の動作温度の変動を受けた場合であっても、少なくとも約12ヶ月間、一般的には少なくとも2年間、少なくとも約180N/mの十分な一定の張力を維持することができる。本明細書において「十分に一定」とは、膜の張力が、その期間にわたって約25%以上変化しない、好ましくは20%以上変化しないことを意味する。
【0023】
本発明の第2の態様によれば、調整可能な流体充填レンズ組立体は、張力が加えられるとともに周辺支持構造に組み付けられたエラストマー膜によって1つの壁が形成され、且つ、流体が充填された包囲体を備え、流体が浸透する膜は、その外面に流体に対するバリア層がコーティングされており、膜は少なくとも180N/mの実質的に一定の表面張力を有する。
【0024】
上述したように、上記膜は、膜の約20重量%までの液体を吸収することができる。
【0025】
本発明の第3の態様によれば、調整可能な流体充填レンズ組立体は、張力が加えられるとともに周辺支持構造に組み付けられたエラストマー膜によって1つの壁が形成され、且つ、流体が充填された包囲体を備え、膜は、その内面に流体に対するバリア層が形成され、180N/mの実質的に一定な表面張力を有する。
【0026】
一般的には、第3の態様の調整可能な流体充填レンズ組立体の膜は、流体を含まない。
【0027】
いくつかの実施形態において、膜は、少なくとも12ヶ月の期間において、少なくとも180N/mの実質的に一定な表面張力で維持され得る。上述したように、これは、膜の表面張力がこの期間に亘って約20%以上変化しないことを意味する。
【0028】
好ましくは、膜材料は、レンズの通常の動作範囲よりも低いガラス転移温度、好ましくは約-5℃より低いガラス転移温度と10~200MPaの範囲の弾性率とを有するべきである。膜は光学的に透明で非毒性でなければならない。いくつかの実施形態では、膜は約1.5の屈折率を有し得る。架橋ウレタンおよびシリコーンエラストマー、例えばポリ(ジメチルシロキサン)を含む、種々の適切なポリマー材料が当業者に利用可能である。熱可塑性芳香族ポリウレタン(TPU)が特に好ましい。
【0029】
熱可塑性ポリウレタンは、結晶質及び非晶質領域にそれぞれ対応する、硬質及び軟質領域を二等分したブロックコポリマー分子からなる。それは、一方では高い伸張性と低いガラス転移温度を有する非晶質セグメントで、他方では高い融点を有する高剛性の結晶性セグメントである柔軟な組み合わせであり、その材料にエラストマー性を付与する。結晶相の比率を変更することにより、硬度、強度、剛性、伸張性及び低温の柔軟性などの特性を広い範囲にわたって変化させることが可能である。好ましくは、膜は、良好な微生物抵抗性を有する芳香族ポリウレタンのシートから形成されてもよい。いくつかの実施形態では、ポリウレタンシートは、好ましくはポリエーテル又はポリエステル芳香族ポリウレタンから成り立つようにすればよい。
【0030】
熱可塑性ポリウレタンは、特許文献19に開示されているように、(a)イソシアネート、(b)イソシアネートに対する反応性を有し、500~10000の分子量を有する適切な化合物、(c)50~499の分子量を有する適切な連鎖延長剤の存在下において(d)触媒及び/又は(e)通例の助剤を反応させることにより作成され、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0031】
有機イソシアネート(a)としては、一般的に知られている芳香族、脂肪族、脂環式及び/又は芳香族脂肪族イソシアネート、好ましくはジイソシアネートを使用することが可能である。例えば、2,2'-,2,4'-及び/又は4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネートである。
【0032】
イソシアネートに対する反応性を有する化合物(b)としては、イソシアネートに対する反応性を有するジオール及びジアミンのような一般に知られている化合物を使用することが可能である。例えば分子量が500~12000g/mol、好ましくは600~6000g/mol、特に800~4000g/molであり、好ましくは「ポリオール」と呼ばれるポリエーテルオール、好ましくはポリオール1.8~2.3、好ましくは1.9~2.2、特に2の平均官能価を有する。好ましいポリオールは、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)である。
【0033】
連鎖延長剤(c)としては、50~499の分子量を有する一般に知られている脂肪族、芳香脂肪族、芳香族及び/又は脂環式化合物、好ましくは2官能性化合物を使用することが可能である。例えば、アルキレン基に2~10個の炭素原子を有するアルカンジオール、特に1,4'-ブタンジオールである。
【0034】
TPUsの硬度を設定するために、形成成分(b)及び(c)のモル比は比較的広い範囲内で変えることができる。使用されるべき連鎖延長剤(c)に対する成分(b)のモル比は、10:1~1:10、特に1:1~1:4で有用であることが判明しており、(c)の含有量が増加するにつれてTPUsの硬度が上昇する。
【0035】
好ましいTPUsは、(a)イソシアネート、(b)約150℃未満の融点及び501~8000g/molの分子量を有する適切なポリエーテルジオール(c)60g/mol~500g/molの分子量を有する。特に好ましいのは、成分(b)に対する62g/mol~500g/molの分子量を有するジオール(c)のモル比が0.2未満である熱可塑性ポリウレタンであり、特に好ましくは0.1~0.01のモル比である。
【0036】
本発明のレンズ組立体の膜に使用するのに特に好ましいポリエーテルポリウレタンは、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリテトラメチレングリコール、及び、約86のショアA硬度、約1.12g/cmの密度、約33MPaの引張強さ、及び、約105N/mmの引裂強さを有する1,4'-ブタンジオールから形成される。この材料はBASFからElastollan(登録商標)1185として市販されている。
【0037】
一般的に、流体は実質的に非圧縮性でなければならない。それは、透明無色で、少なくとも約1.5の屈折率を有するべきである。好ましくは、膜と流体との間の界面が使用者に実質的に感知できないように、膜と流体との屈折率を一致させる必要がある。液体は、毒性が低く、揮発性が低いものでなければならない。それは、不活性で、且つ、約-10℃以上又は約100℃未満の相変化を示さなければならない。流体は、高温で安定し、且つ、微生物の増殖が低いものでなければならない。いくつかの実施形態では、流体は、約1g/cmの密度を有し得る。
【0038】
例えばフェニル化シロキサンのようなシリコーン油及びシロキサンを含む、種々の適切な流体が、当業者に利用可能である。好ましい流体はペンタフェニルトリメチルトリシロキサンである。
【0039】
いくつかの実施形態では、膜は、好ましくは、例えば上述の如きElastollan(登録商標)1185として入手可能な材料であるポリエーテルポリウレタンを含み、流体は、シリコーン油又はフェニル化シロキサン、例えばペンタフェニルトリメチルトリシロキサンを含んでいてもよい。膜材料及び流体の屈折率は、同一又は実質的に同じであることが好ましく、少なくとも1.5である。
【0040】
膜に加えて、包囲体は、流体を受け入れるための受け部を備えることができる。受け部は、筐体の1つの壁を形成する膜によって閉じられてもよい。受け部は、光学的に透明無色であり、少なくとも約1.5の屈折率を有する材料から作られるのが好ましい。受け部の屈折率は、膜流体の屈折率に適切に整合されているので、受け部と流体との間の境界は、使用者にとって実質的に知覚できない。いくつかの実施形態では、例えば、本発明の流体充填レンズ組立体が「流体注入」型である場合、受け部は剛性を有してもよい。一方、特に、本発明のレンズ組立体が「圧縮」型である場合、受け部は圧縮可能であってもよい。後者の場合、受け部は、受け部が圧縮されるように蛇腹の態様で座屈可能な可撓性の周壁を含み得る。適切な可撓性材料は、例えばTuftane(登録商標)のような透明な熱可塑性ポリウレタンである。
【0041】
いくつかの実施形態では、膜の周辺支持構造は、膜の周縁部分を保持するように配置された1つ以上のリングを含むことができる。1つ又は複数のリングは、実質的に剛性があってもよく、又は曲げ可能であってもよい。いくつかの実施形態では、膜は非円形であってもよく、膜が球状に膨張、又は、収縮、又は、光学的或いは眼科的適用において典型的に使用される他のゼルニケ多項式に従うように或いは許容するために、膜を支持するための1つ又は複数のリングは、組立体が動くときに膜の縁部を平面からずらすことができるよう曲げ可能であってもよい。
【0042】
膜の周辺支持構造の一部として1つ以上の曲げ可能なリングを含むいくつかの実施形態において生じ得る問題は、前項で述べたような必要とされる面外の曲げとは対照的に、膜の表面張力が1つ以上のリングにおける面内において望まない曲がりを引き起こす傾向があることであり、組立体が動くときに膜が球状に膨張又は収縮したり或いは許容する、或いは、1つ又は複数の他のゼルニケ多項式にしたがって膜の縁部を平面からずらしたり或いは許容することである。特許文献18は、膜の張力による負荷に応答して支持部材の面内の湾曲を制御するために湾曲可能な膜支持部材に作用する1つ以上の曲げコントローラを備える変形可能な膜組立体を開示している。特許文献18の曲げコントローラは満足できるものではあるが、それらは組立体に追加の部品を必要とし、複雑になるとともに製造コストが増す。それらはまた、組立体内でかなりの体積と重量とを占める。
【0043】
したがって、本発明の別の目的は、製造がより簡単であり、最終組立体がより少ない体積及び/又は重量を占めるようになり、周辺支持構造の曲げ可能な1つ又は複数のリングの平面内の曲げを制御できる改良された方法を提供することである。
【0044】
したがって、本発明の第4の態様によれば、調整可能な流体充填レンズ組立体は、張力が加えられたエラストマー膜の周縁部分を保持するように配置された1つ以上の曲げ可能なリングを含む周辺支持構造に組み付けられた膜によって1つの壁が形成され、且つ、流体が充填された包囲体を備え、膜の内面及び外面の少なくとも一方に、膜よりも高い弾性率を有し、且つ、膜の張力に対抗するために圧縮状態で配置され、それにより膜によって1つ以上のリングに加えられる面内の力を少なくとも部分的に緩和する材料がコーティングされている。いくつかの実施形態では、1つ以上のリングは非円形であってもよい。
【0045】
上述したように、膜は、10~100MPaの範囲の弾性率を有することが好ましい。
【0046】
膜は、完成された流体充填レンズ組立体において100~300μmの範囲の厚さであってもよい。いくつかの実施形態では、膜は、150~250μm、好ましくは約200~220μmの範囲の厚さを有し得る。上述したように、膜は、最終組立体において180~300N/m、好ましくは200~300N/mの範囲で張力を加えられてもよい。
【0047】
コーティング層は、膜の弾性率より1~2桁大きい弾性率を有し得る。例えば、コーティング層は、少なくとも0.1GPa、好ましくは少なくとも0.5GPa、より好ましくは少なくとも0.75GPa又は1GPaの弾性率を有し得る。いくつかの実施形態では、コーティング層は、約1GPaの弾性率を有し得る。
【0048】
コーティング層の厚さは、曲げ可能なリングに適用される張力の実質的な弛緩(減少)をもたらすよう計算し得る。ほとんどの実施形態において、膜の表面張力を完全に打ち消すように計算された厚さを有するコーティング層は、望ましくないほど厚くなるが、厚さ0.5~1.5μm、例えば1μmのコーティング層は、膜の力学に大きな影響を及ぼす。いくつかの実施形態では、コーティング層は、1~1.5μm、好ましくは1.2~1.5μmの範囲の厚さを有し得る。
【0049】
好ましくは、コーティング層は、膜の表面とコーティングとの間に強い界面力を提供するために、膜材料に適合する材料から形成されてもよい。上述のように、熱可塑性芳香族ポリウレタン(TPUs)はエラストマー膜に好ましい材料である。TPUsは疎水性であり、例えば、PVDによって適用されたフッ素化ポリマーのような別の疎水性コーティング材料を使用する際の問題は、界面結合がなく、結果としてPVDコーティングが脆弱であることである。
【0050】
本発明によれば、コーティング層は、膜と強い界面結合を形成することができるポリウレタン材料を含むこともできる。有利には、ポリウレタンコーティング材料は、架橋性アクリレート基を含み、膜に塗布した後にコーティング層を硬化させることができる。コーティング材料は、例えばポリエーテル又はポリエステルポリウレタンアクリレートのようなアクリル変性ポリウレタンを含み得る。いくつかの実施形態では、コーティング材料は、アクリル変性脂肪族又は芳香族ポリウレタンを含み得る。ポリウレタンコーティングは、例えばシロキサン膜を含む上記の種類の他の膜材料と共に使用することもできる。
【0051】
好適なポリエステルウレタンアクリレートの例には、ヒドロキシル官能性ポリエステルアクリレートとイソシアネート官能性材料との反応によって形成される生成物が含まれる。ポリエステルアクリレートは、ポリエステルポリオールとアクリル酸との反応生成物を含み得る。
【0052】
好適なイソシアネート官能性成分には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、イソシアネート官能性アクリルポリマー及びポリウレタン、ヒドロキシル官能性成分(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びジ-、トリ-及びより高級のヒドロキシ官能性脂肪族アルコール(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びトルエンジイソシアネート(TDI))との反応生成物(例えば、グリセロール及びトリメチロールプロパン)及びそれらのエトキシル化、プロポキシル化及びポリカプロラクトン類似体)を含み得る。
【0053】
好適なポリウレタンアクリレートコーティング材料の具体例は、RAYCRON(登録商標)CeranoShield UV Clearcoat及びG-NT200であり、オハイオ州バーベルトンのバーベルトン特殊化学工場であるPPGインダストリース社とカルフォルニア州ラミラダのレンズテクノロジーズインターナショナルとからそれぞれ市販されている。
【0054】
有利には、コーティング材料は、追加の剛性を付与するためにナノ粒子シリカを含むことができる。シリカ充填剤は、耐引掻性も提供し得る。有利には、コーティング材料は、50~60重量%のシリカ、例えば、約52重量%を含むことができ、いくつかの実施形態では、約25重量%のシリカ濃度で十分である。いくつかの実施形態では、膜上のコーティング層が例えば0.4~0.5μmの範囲になるようにコーティング材料を適切な溶媒で希釈し得る。溶媒の選択は、選択されたコーティング材料によって異なるが、典型的には酢酸塩又はアルコールを使用し得る。そのような場合、シリカの濃度は、7~10重量%に希釈することによって減少させ得る。
【0055】
ポリウレタンアクリレートコーティング材料は、例えばフリーラジカル光開始剤のような適切な光開始剤をさらに含んでもよい。
【0056】
ポリウレタンコーティング材料は、超音波噴霧により膜の表面に適用することができ、所望であれば1μm以下の厚みが達成されることが分かっている。超音波噴霧では、小さな液滴を形成するために液体の塊が噴霧され、次いでこれが薄膜の形態で基材上に噴霧される。
【0057】
それ故に、本発明の第5の態様によれば、エラストマー膜に2軸方向に張力を加えることを含む調整可能な流体充填レンズアセンブリの組立方法が提供され、膜の弛緩を促進させるために引っ張った膜を熱的に調整する工程と、該膜を当該膜の張力を維持しながら周辺支持構造に取り付ける工程と、膜の面を架橋可能なポリウレタンアクリレートコーティング材料でコーティングする工程と、コーティング材料を硬化させる工程と、膜を1つ以上の他の構成要素に組み付けて、1つの壁が膜からなる包囲体を形成する工程と、その後、包囲体に流体を充填する工程とを順に行う。
【0058】
膜は、架橋されたウレタン及び例えばポリ(ジメチルシロキサン)のようなシロキサンエラストマーを含む、上述の如き任意の適切なエラストマー材料から形成してもよい。熱可塑性芳香族ポリウレタン(TPU)が特に好ましい。
【0059】
上記のように、膜は、約1200N/mの初期表面張力になるよう引っ張られてもよい。熱調整後、膜は約180~550N/mの範囲の残留表面張力を有し得る。
【0060】
有利には、コーティング材料は、上記のナノ粒子状シリカ充填剤を含むことができ、硬化する際、少なくとも0.5GPaの弾性率を有し得る。コーティングは、膜の表面に0.5~1.5μmの厚さに塗布され得る。適切には、コーティングは、膜の外面に塗布されて、組立体に耐引掻性及び清浄性を与えることができる。
【0061】
有利には、膜の表面は、コーティング材料のより良好な接着を可能にするためのその表面との接触角が減るようコーティング材料の塗布前に活性化され得る。適切には、膜面は、プラズマ処理、例えば空気プラズマによって活性化され得る。熱可塑性ポリウレタンは性質上疎水性であり、典型的な接触角は95~105°の範囲にある。プラズマ処理によって熱可塑性ポリウレタン膜面を活性化すると、接触角が約78~83°に低下する。
【0062】
コーティング材料を膜の表面に塗布した後、コーティング材料は硬化させ得る。適切には、UV露光をこの目的のために使用することができる。例えば、365nmの長波域のスパイクを伴う220~320nmの範囲のUV光を出力する水銀蒸気H-バルブを用いて硬化させることができる。硬化は、コーティング内の光開始剤の活性化によって進行し、これは、ポリウレタンアクリレート材料内のアクリレート部分の架橋を引き起こし、その結果、膜の表面に硬質コーティング層が生じる。
【0063】
コーティングを施した後、膜を1つ以上の他の構成要素に組み付けて包囲体を形成し、包囲体に流体を充填した後、上述のように完成した組立体を少なくとも約40℃の温度でインキュベートして、膜を僅かに弛緩させ、それによってコーティングが上記のように圧縮され得る。コーティングの圧縮は、膜のさらなる弛緩に抵抗するように作用し、それにより、膜によって周辺膜支持構造に加えられる面内の力を低減する。
【0064】
好適には、本発明の調整可能な流体充填レンズ組立体は、一対の眼鏡に使用することができる。したがって、本発明は、第6の態様において、本発明による少なくとも1つの調整可能な流体充填レンズ組立体を含む一対の眼鏡を提供する。
【0065】
以下は、本発明の実施形態のみの例としての説明である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体の概略斜視図である。
図2】断面図で示された図1の調整可能な流体充填レンズ組立体の概略斜視図である。
図3図1のレンズ組立体の構成要素の断面を示す概略分解図である。
図4】円形クランプに取り付けられた粘弾性材料の薄いシートと、断面で示されたシートを伸張するためのプレスとの概略斜視図である。
図5A】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5B】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5C】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5D】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5E】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5F】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5G】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5H】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5I】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5J】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5K】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図5L】本発明による調整可能な流体充填レンズ組立体を2軸方向に張力がかけられた膜で組み立てるための一連の工程を示す。
図6A】主要製造工程中の膜の厚さ(μm)の変化を示す経験的データに基づく例示的なグラフである。
図6B】主要製造工程中の応力(MPa)の変化を示す経験的データに基づく例示的なグラフである。
図6C】主要製造工程中の張力(N/m)の変化を示す経験的データに基づく例示的なグラフである。
図7】本発明に従って引っ張られ且つ熱せられ、シリコーン油の本体と連続的に接触して保持された66個の個々のポリウレタン膜について測定された線張力の経時変化のスキャッタグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
図1図2及び図3は、当技術分野で知られている種類の調整可能な流体充填レンズ組立体10を概略的に示す。図1及び図2のレンズ組立体10は、一定量の非圧縮性流体60の本体を備えている点で、上述の「圧縮型」であり、レンズの焦点力は、以下に説明する方法で組立体10を圧縮することによって制御され、薄い弾性膜12の膜の後ろの流体は、膜を膨らませたり収縮させたりして湾曲を変化させる。本発明は、同様の膜をも含む「流体注入型」の調整可能な流体充填レンズ組立体にも同様に適用可能である。
【0068】
簡潔にするために、本発明に直接関係する組立体の部分のみが示されている。例えば、組立体10の屈折力を選択的に制御するための制御機構のような追加の特徴は、以下で簡単に述べるが、図面から省略される。
【0069】
図2及び図3に示すように、膜12は、外側前面14及び内側後面16を有し、以下でより詳細に説明するように、膜12に張力を加えた状態で膜12の周縁部分を保持する、膜12の周辺支持構造として働くフロントリング18とリアリング20との間に張力が加えられた状態で取り付けられる。
【0070】
膜12は、熱可塑性ポリウレタンのシートを含む。この実施形態では、膜は、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリテトラメチレングリコール、及び、約86のショアA硬度、約1.12g/cmの密度、約33MPaの引張強さ、及び、約105N/mmの引裂強さを有する1,4'-ブタンジオールから形成されるポリエーテルポリウレタンを備える。この材料は、BASFからElastollan(登録商標)1185で市販されている。そのシートは、約380μmの初期厚さを有するが、完成した組立体では、以下でより詳細に説明するように、約220μmの厚さを有する。他のグレードの熱可塑性ポリウレタンを使用してもよい。例えば、異なるショア硬度を与えるためにイソシアネート、ポリオール及び連鎖延長剤成分の相対比率(化学量論比)を変化させたポリエーテルポリウレタンである。或いは、膜は、異なるイソシアネート、ポリオール及び/又は連鎖延長剤成分から製造されたポリエーテルポリウレタンを含んでもよい。より一般的には、膜は、任意の適切な熱可塑性ポリウレタン材料か、或いは、異なる粘弾性ポリマー材料から形成されることができ、光学的に透明であり、レンズの通常の動作範囲よりも低く、典型的には約-5℃未満のガラス転移温度であり、10~200MPaの範囲の弾性率を有し、不活性で非毒性であり、微生物の増殖が低く、リング18、20に係合され得る。
【0071】
本実施形態では、膜12の外面14は、後述する目的のためにバリア材料(図示せず)の保護層でコーティングされている。例えば、フッ素化ポリマーのように、任意の適切な疎水性コーティング材料を使用することができる。コーティング材料は膜12に十分に接着可能でなければならない。非黄色でなければならず、バリア層は可能な限り薄くなければならない。いくつかの実施形態では、バリア層は約10nmの厚さを有することができるが、当業者は、使用されるコーティング材料の性質及びレンズ組立体10の所望する特性に応じて厚さを変えることが可能なことを理解できるであろう。一実施形態では、登録商標OF210としてキャノンオプトロン社から市販されているPTFEのフッ素系ポリマー同族体が使用される。
【0072】
別の実施形態では、バリア材料は、架橋ポリウレタンアクリレートの層を含み、これは、以下により詳細に記載されるようなナノ粒子シリカ充填剤を任意に含み得る。この別の実施形態では、層は約1μmの厚さを有するが、これはコーティング材料の性質及びレンズ組立体10の所望の特性に従って変えることができる。したがって、代替の実施形態では、シリカ充填アクリル変性ポリウレタンを含むバリア層は、0.5~1.5μmの範囲の厚さを有し得る。
【0073】
膜12はレンズとして形状及び寸法が決められ、膜12の外面14はレンズの光学面として機能する。膜12は、所望の任意の形状とすることができる。いくつかの実施形態では、レンズ10は一対の眼鏡で使用されてもよく、この場合、膜12は、その用途のために適切に形状及び寸法が決められる。例えば、膜12は円形であってもよく、又は、概して楕円形又は長方形であってもよい。当該技術分野では、眼鏡のための多数の異なるレンズ形状が知られている。この実施形態では、膜12は、概ね矩形であり、丸い角を有する。組立体10の約半分だけが図2及び図3に示されている。
【0074】
膜が非円形である図1図3に示す実施形態では、その内容が参照により本明細書に援用される特許文献12に記載されているように、使用中に膜が膨張又は収縮することを引き起こす又は許容するために、或いは、眼科用途のために典型的に処方される別のゼルニケ多項式に従ってリング18、20は膜12の平面から湾曲可能でなければならない。この実施形態では、リング18、20は、ステンレス鋼のシートから製造される。フロントリング18の厚さは約0.25mmであり、リアリング20の厚さは約0.15mmである。膜12が円形である実施形態では、リング18、20は曲げ可能である必要はない。膜は、張力が加えられた膜12を保持するためのより便利である剛性を有する周辺支持部材によって支持され得る。
【0075】
膜12は、フロントリング18及びリアリング20の間に接着される。適切な接着剤は、例えば光硬化性接着剤のように当業者に知られている。本実施形態では、Delo(登録商標)MF643UV硬化エポキシ接着剤が使用される。
【0076】
リアリング20は、皿状の受け部24の周辺リップ22に接着される。リング18、20を膜12に取り付けるのと同じ接着剤を使用することができる。皿状の受け部24は、膜12の形状に対応する形状を有する後壁26と、後壁の前方に延び、前記周辺リップ22で終端する周辺側壁28とを有する。皿状の受け部は、例えばTuftane(登録商標)(イギリスのグロスターにあるパーマースグロスター社から入手可能である。)のような可撓性を有する透明な熱可塑性ポリウレタンでできており、約50μmの厚さである。DuPont(登録商標)boPET(二軸延伸ポリエチレンテレフタレート)のような他の類似の透明材料を使用することができ、それに応じて厚さが調整される。
【0077】
いくつかの実施形態では、組立体10は、特許文献18に記載されている種類の環状支持ディスク(図示せず)を含むことができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれ、リアリング20とリップ22との間に介在し、リング18、20を膜12の張力下における望ましくない「面内」座屈に対して補強する。上述した他の実施形態では、膜12がシリカで充填された架橋ポリウレタンアクリレートの層で被覆されている場合、環状支持ディスクを省略し得る。
【0078】
皿状の受け部24の後壁26は、一定の屈折力を有する後部レンズ34の平坦な前面32に接着された後面30(図3参照)を有する。後部レンズ34は、凹状の対向する後面36を有するメニスカスレンズである。皿状の受け部24の後面は、例えば3M(登録商標)8211接着剤のような透明な感圧接着剤(PSA)によって後部レンズ34の前面32に連続的に接着される。この実施形態では、厚さ約25μmのPSAの層が使用されるが、これは必要に応じて変更することができる。
【0079】
したがって、皿状の受け部24、リアリング20及び膜12は、密閉された包囲体54を形成する。包囲体54には、皿状の受け部24の側壁28に通される充填ポート(図示せず)を介して、非圧縮性流体60で満たされる。この実施形態では、流体はフェニル化シロキサンであるペンタフェニルトリメチルトリシロキサンであるが、他の適切なシリコーン油及び他の流体を当業者は利用可能である。流体は無色で、少なくとも1.45又は1.5の高屈折率でなければならない。本実施形態では、流体は約1.58±0.02の屈折率を有する。低毒性で且つ低揮発性でなければならない。不活性で、且つ、約-10℃以上又は約100℃未満の相変化を示さないようすべきである。流体は、高温で安定し、微生物の増殖が低いものでなければならない。一般的に、流体は約1g/cmの密度を有する。以下で詳細に説明するように、包囲体54は、空気が存在しないことを保証するために、真空下において流体60で満たされる。さらに、包囲体54は、膜12をわずかに膨張させるように過剰充填されてもよく、これにより、膜12と流体60との間の隙間が無くなって流体が膜12の内面16の全体に連続的に接触し、包囲体54が流体60で完全に満たされることが保証される。
【0080】
充填された包囲体54は、皿状の受け部24の側壁28の可撓性及び膜12の弾性によって圧縮可能である。包囲体を後部レンズ34に対して圧縮すると、皿状の受け部の側壁28が、バッフル状の受け部24をバックルに押し付けて、非圧縮性流体60を受け入れるために膜を外側に膨らませて、これにより例えば特許文献11に開示されているように膜の湾曲を変化させる。
【0081】
後部レンズ34、皿状の受け部24、リング18、20及び膜12は、フロントリテーナ48及びリアリテーナ46からなるハウジング40に収容され、フロントリテーナ48及びリアリテーナ46は、金属製で、且つ、後部レンズ34、皿状の受け部24、リング18、20及び膜12が収容される内部凹部を形成するために47で一緒に接着される。リアリテーナ46は、中間段部42が形成された内面44を有する周方向側壁43を備える。後部レンズ34は、リアリテーナ46の後端に向かって内面44に接着され、後部レンズ34の前面32は、段部42と同じ高さであり、側壁43の内面44は、皿状の受け部24の側壁28と段部42の前方の内面44との間に隙間を設けて側壁28を使用時に座屈するように収容し、上述の如き後部レンズ34に対して充填された包囲体54を選択的に圧縮するための制御機構の部品(簡略化のために省略されている)と同じである。
【0082】
フロントリテーナは、リング18、20及び膜12の前方に間隔を置いて配置されたターンインフロントリム50を有し、使用時に膜が前方に膨らむことを可能にする。
【0083】
膜12の形状に応じて、リング18、20は、特許文献11又は特許文献12に開示されているように、1つ又は複数のヒンジ点でハウジング40にヒンジ止めすることができ、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。制御機構は、特許文献12又は特許文献13に開示されているように、リング18、20の周りの所定の制御点においてリング18、20(又はリングに取り付けられた部品)と係合してハウジング40に取り付けられ、リングを接近離間させる1つ又は複数のアクチュエータを含み得る。このようにして、組立体は、膜12の外面14の湾曲を制御するために、膜を包囲体に対して外側に膨らませるか、或いは、内側に収縮させるかを選択的に作動させ得る。
【0084】
組立体10は、それ故に、多数の内部及び外部の光学面を有する複合レンズを形成する。組立体10の全体的な屈折力は、固定された後部レンズ34の後面36の曲率と膜12の外面14の曲率とによって決定される。好ましくは、膜12、皿状の受け部24及び流体60の材料は、可能な限り同じ屈折率を有するように選択され、膜12と流体60との間、及び、流体60と皿状の受け部の後壁26との間の界面は、組立体10を通して見たときに目にはほとんど見えない。
【0085】
膜12は、変形に対して安定するように張力をかけて保持される。張力が加えられていない、或いは、加えられた張力が十分でない膜は、外部振動、使用中に加速又は減速したときの慣性効果、及び、重力などの外力に影響されやすい。例えば、眼鏡で使用される場合、膜12は連続的な動きを受け、流体60に静水圧勾配を生じさせるほぼ直立した向きで着用される。膜12によって提供される光学面の歪み及び結果的に生じる光学収差を最小にするために、膜12をフロントリング18及びリアリング20の間において引っ張って保持することが必要である。本発明によれば、膜12は、少なくとも約180N/m、好ましくは少なくとも200N/mの表面張力で保持される。
【0086】
さらに、上述したように、膜12の表面張力は、組立体10の製品寿命の間において、且つ、リング18、20のビーム曲げ反力、流体60の圧力、上述した制御点及び/又はヒンジ点における力、及び任意の寄生力(例えば、受け部24からの力、又は摩擦)を含む、膜12の張力間の力の均衡において実質的に一定の負荷を提供する環境条件下において、十分に安定していなければならない。
【0087】
図4及び図5は、膜12を少なくとも180N/mの張力となるように予め張力を付与するための本発明による方法を概略的に示しており、長期間に亘ってこの力を安定して維持するように膜12を調整するとともに、予張力付与膜12を組み込んだ組立体10を組み立てる。本発明の方法を使用するいくつかの実施形態では、膜12は、少なくとも12ヶ月間、少なくとも180N/mの実質的に一定の表面張力を維持することができる。
【0088】
図5Aを参照すると、約380μmのシート厚さを有する上述のポリエーテルポリウレタンElastollan(登録商標)118510Aのシート112が円形クランプ114内に保持されて、クランプ内におけるシートの円形領域が画定される。クランプは、水平に配置されたシート112を有する選択的に操作可能なプレス101の真下の治具(図示せず)によってしっかりと固定される。プレス101は、中間に周方向リブ111(図5A図5Cに最もよく示されている、明確にするために図4では省略されている)が形成された円筒状の外面103を有する環状の内側キャリアリング102に取外可能に取り付けられ、その下端にPTFEからなる第1Oリング104を有する。第1Oリング104の外径はクランプ114の内径の約半分であるが、この比は重要ではない。第1Oリングは、クランプ101の中央部分を通すように嵌め込まれ、後続の工程が起こるのに十分に突出していればよい。また、内側キャリアリング102は、円筒形の内側表面110を有する。
【0089】
クランプ114及びシート112が定位置にある状態で、プレス101を作動させて、プレスを図5Bの矢印Zの方向に下方に移動させ(図4も参照)、最初にシート112と係合させ、次にシート112を引き伸ばす。シート112の伸張は、シートがプレス101の上を容易に滑り、均一に引っ張られることを確実にするために、例えばPTFEのような低摩擦材料から適切に作製される第1Oリング104によって促進される。プレス101は、プレスのストロークエンドにおいて約1200N/mの2軸方向の張力になるまでシートが約40%歪むまでシート112に対して下向きに動かされる。シート112は、図5Cに示すように、伸びるにつれて薄くなり、約6MPaの応力に対応する約220μmの厚さに達する。図6Aは、シート112の厚さ(μm単位)が約40%になるまで歪んで変化する様子を示している。図6B及び図6Cは、対応する応力(MPa)及び負荷(N/m)の変化をそれぞれ示す。図6B及び図6Cのプロット線は、複数の別個の脚部を有する。脚部Iは、上記のようにシートの引っ張り中の応力/負荷の変化を表す。
【0090】
シート112がその目標張力まで伸張すると、図5Dに示すように、内側キャリアリング102が外側キャリアリング105に係合される。外側キャリアリング105は、内側キャリアリング102の外径よりわずかに大きい内側表面106を有する環状をなし、内側キャリアリング102が外側キャリアリング105内にぴったりと嵌合する。外側キャリアリング105は、プレス101が下方に移動するときに内側キャリアリング102が外側キャリアリング105に入るように治具によってしっかりと固定されている。内側表面106は、内側キャリアリング102の外面103に形成された周方向リブ111の外径よりも僅かに小さい内径を有する、摩擦フルオロエラストマー(例えば、Viton(登録商標))又はニトリルゴムからなる第2Oリング108を収容する周方向溝107を備え、第2Oリング108は、第2Oリング108と内側キャリアリング102との間に膜12を捕捉するためにリッジ111上にぶつかり、ストロークエンドにおいて外側リング105を内側リング102に係合させる。外側リング105上のエンドストップ109は、内側及び外側キャリアリング102、105が互いに分離することを防止する。
【0091】
次に、内側及び外側キャリアリング102、105によって保持されているシート112の部分は、図5Eに示すように、シートの残りの部分から切断される。次いで、引っ張られた状態でそれらの間にしっかりと保持されたトリムされたシート112を有する内側及び外側キャリアリング102、105は、約80℃の温度を有するオーブンに移される。シート112は、オーブン内で約1時間調整され、その間にシート112を含むポリウレタン材料の巨大分子構造が弛緩する。図6B及び図6Cの脚部IIに示すように、この工程中、シートの応力は約2MPaに弛緩し、張力は約440N/mに低下する。シート112に応力弛緩が生じるか、又は許容されるならば、熱調整工程の温度及び持続時間を変更してもよい。この工程の後、シートは、驚いたことには、約200N/mの実質的に一定の線張力を数年間保持することができることが判明した。ポリウレタン材料が劣化し始める可能性があるため、約90℃以上の温度は避けるべきである。
【0092】
次に、内側及び外側キャリアリング102、105がオーブンから取り除かれ、フロントリング及びリアリング18、20が、上述の光硬化性エポキシ接着剤を使用して、それぞれ、シートの前面及び後面14、16に接着される。リング18、20の各々は、図5Gに示すように、それぞれ円形のリードフレーム118、120と一体的に製造され、分離可能なタブ122によってリードフレームの残りの部分に取り付けられる。リードフレーム118、120の各々は、図5Fに示すように、内側キャリアリング102内にぴったりとはまるように、内側キャリアリングの内側表面110の直径よりわずかに小さい外径を有し、リング18、20は、シート112に対して互いに正確に接触する。リードフレーム118、120には、内側キャリアリング102内に正確に位置決めすることをさらに支援するために、位置決めフィーチャ124が設けられている。便宜上、エポキシ接着剤は、リードフレーム118、120の全体に塗布され、その後、シート112と接触して配置された後に硬化する。使用されるエポキシ接着剤は、2段階硬化プロセスが必要であり、UV光で開始した後、約40℃のオーブンの中における約12時間の二次熱硬化工程に供されて接着剤の完全な強度が発現する。その他の接着剤を使用する場合には、製造業者の指示に従って接着剤を硬化させるべきである。
【0093】
いくつかの実施形態では、リアリング20は、シート112における面内の張力に抗してリング18、20を補強するために、特許文献18に記載された種類の環状支持ディスク(図示せず)に取り付けることができる。明確にするために、支持ディスクはここには示していない。リング18、20は、特許文献11、特許文献12及び特許文献13に記載されているように、リング18、20の周りの所定の位置に突出し、リングをヒンジ点か、或いは、制御機構の作動点でハウジング40に繋ぐための典型的なタブ(図示せず)を有している。また、タブは、図面を簡略化するために省略されている。
【0094】
次いで、一実施形態では、外面14をフッ素化ポリマーバリア材料(キャノンオプトロン社製OF210(登録商標))の薄層(図示せず)でコーティングして、上述の保護層を形成する。バリア材料は、約10nmの厚さになるまで物理蒸着(PVD)によって真空下において外面14上にコーティングされる。
【0095】
PVD堆積によって外面14上にコーティングされるフッ素化ポリマーバリア層は、多くの状況下における使用には満足のいくものであるが、膜の外面14とポリマーコーティングとの間に界面結合がないという欠点がある。その結果、PVDコーティングは、磨耗する危険性があり、例えば、触れることによって脆くなることがある。上述した他の実施形態では、予張力付与膜12の外面14は、フッ素化ポリマー材料の代わりにシリカ充填クロスリンク性ポリウレタンアクリレート材料の層でコーティングされる。膜材料に適合するバリア材料の使用は、分子レベルでの相互作用の結果として、バリア層と膜12との間の強い界面結合の形成を可能にする。例えば、芳香族ポリウレタンアクリレート材料は、熱可塑性芳香族ポリウレタン膜12をコーティングするのに適している。バリア材料内にアクリレート部分を含有させると、膜12上にコーティングを施した後にバリア材料が架橋されて剛性及び硬度が高まる。材料中に少量の光開始剤を含めるとともにUV光に曝すことによって硬化を進行させることができる。
【0096】
好適なアクリル編成ポリウレタン材料には、オハイオ州バーベルトンのバーベルトン特殊化学工場であるPPGインダストリース社から市販されているUV1 and CeranoShieldと、カルフォルニア州ラミラダのレンズテクノロジーズインターナショナルから市販されているG-NT200とがある。
【0097】
シリカナノ粒子を含有することにより、剛性及び耐引掻性が向上する。バリア材料に含まれるナノ粒子シリカの濃度は、コーティングにおける所望の特性に応じて変えることができるが、典型的にはバリア材料は50~60重量%のシリカを含む。一実施形態では、アクリル変性ポリウレタン材料は、約52重量%のシリカを含み得る。より薄いバリア層を所望する場合、シリカ充填ポリウレタンバリア材料は、後述するように膜12の面に塗布する前に、例えばアセテート又はアルコールなどの適切な溶剤で希釈してもよく、シリカ粒子の濃度は、7~10重量%の範囲にあり、これは依然としてコーティングにある程度の硬度を付与するのに十分である。一般的に、本発明によれば、ナノ粒子は、50~200nm、典型的には約50~100nmの範囲の平均直径を有し得る。
【0098】
アクリレート変性ポリウレタンバリア材料は、膜12の外面14にスピンコーティングで塗布することができるが、約1μmより十分に薄い厚さを達成することが分かっている超音波スプレーコーティングが使用されることが好ましい。超音波の使用は、ポリウレタンバリア材料を微細な液滴に霧化させ、薄膜の形態で膜12の面14上に噴霧できる。
【0099】
膜12に使用される種類の熱可塑性ポリウレタンは、本質的に疎水性であり、95~105°の範囲の接触角を有する。膜12の面14とバリア層との間の良好な接着を促進するために、表面を均一に濡らすためにより小さい接触角が一般に必要である。より小さい接触角及びより良好な接着を達成するために、膜12の外面14は、バリア材料でコーティングする前にプラズマ処理(空気プラズマ)が施される。これは表面を活性化させる働きをし、結果として接触角は78~83°の領域に減少する。これは、ダインインクを用いてテストすることができ、これにより、プラズマ露光後の表面エネルギーは、38~40dynes/cmから約48~52dynes/cmに増加する。
【0100】
上述のように膜12の外面14を活性化させた後、内側キャリアリング102と外側キャリアリング105との間に依然として取り付けられている予張力付与膜12は、上述したように超音波スプレーコーティングによって外面14にシリカ充填アクリレート変性ポリウレタンのコーティングが施されるコーティングチャンバに移される。コーティング後、膜12上のコーティング液は、水銀蒸気Hバルブを用いたUV露光下で硬化される。水銀灯は、220~320nmの短波紫外線範囲の出力と、365nmの長波帯のエネルギーのスパイクとを有する。
【0101】
上述の種類の硬化したシリカ充填ポリウレタンコーティングは、約1GPaの弾性率を有する予張力付与膜12の外面14上に剛性の硬いバリア層を提供する。これは、膜12の張力が次の組み立て段階の間に僅かに減少するにつれて、バリア層が圧縮されるという点で、以下により詳細に記載されるようなさらなる利点を提供する。
【0102】
他の実施形態では、取り付けられた膜は、その外面上に、例えば単層又は多層の反射防止膜のような当該技術分野で公知の他のコーティング材料を追加又は代替えとしてコーティングすることができる。
【0103】
皿状の受け部24は、上述のように25μmのPSA層を使用してレンズ34の前面32を受け部24の後面30に接着することによって後部レンズ34と予め組み立てられる。次いで、受け部24の周辺リップ22をリアリング20に接着させてエポキシ接着剤で硬化させることによって、図5Hに示すように、予備組立レンズ34及び受け部24をリアリング20に取り付ける。次いで、図5Iに示すように、リング18、20とリードフレーム118、120との間でシート112をトリミングして、膜12の本体をリング18、20の間に保持させる。この段階で、リング18、20は、依然としてタブ122によってリードフレーム118、120に取り付けられている。
【0104】
次に、図5Jを参照すると、後部レンズ34、皿状の受け部24、リング18、20及び膜12の周りに、フロント及びリアリテーナ48、46が組み付けられ、上述したようにハウジング40を形成して、後部レンズ34、皿状の受け部24、リング18、20及び膜12を囲う。次に、図5Kに示すように、リードフレーム118、120とリング18、20との間のタブ122を切断して、組立体10を治具から取り外す。
【0105】
その後、皿状の受け部24の後壁26、膜12及びリアリング20によって形成された包囲体54は、ハウジング40内及び皿状の受け部24の側壁28に形成された充填ポート(図示せず)を介して流体60としてのペンタフェニルトリメチルトリシロキサンが真空下において充填される。上記のように、必要に応じてシリコーンオイルを代わりに使用し得る。充填は、図5Lに示すように、流体60が膜12の内面16の全体に連続的に接触するまで継続される。包囲体はある程度まで過剰充填され、膜12を外側に膨張させるのが望ましい。適切には、包囲体は、約+1.0ジオプタの膜湾曲となるように過剰充填されてもよい。これは、リング18、20を含む装填された膜支持構造を安定させるのに役立ち、膜12による流体60の一部の吸収を可能にする。
【0106】
時間の経過と共に、膜12は、流体60と接触しているその内面16を介して、包囲体からある量の流体60を吸収する傾向がある。この実施形態では、膜12は、流体の重量の約15%まで吸収し得る。これは、膜12が弛緩し、さらに張力が失われる。望ましくは、このプロセスは、流体充填組立体10を約50~51℃で約24時間インキュベートすることによって、本発明に従って任意に促進され得る。これは、図6B及び6Cの脚部IIIに示されており、膜の最終張力は約220N/mであり、最終応力は約1MPaであり、これは約5%の歪み低減と同等である。このプロセスの間、膜の湾曲もまた、上記のように約+1.0ジオプタから、約+0.5ジオプタまで減少する。このようにして、完成した組立体10の膜張力は既に実質的に安定化している。
【0107】
膜12が、他の実施形態に関連して上述したようにその外面14に約1GPaの弾性率を有するシリカで充填された架橋ポリウレタンコーティングを有する場合、膜及びリングのサブアセンブリ12、18、20は、タブ122を切断することによってリードフレーム118、120から解放され、したがって、コーティング内の弾性力は、張力をかけられた膜12内の弾性力とは反対の方向に作用する。
【0108】
小さな歪みεを受ける弾性率Eの2軸応力を受けた膜の応力σの変化は、式(I)によって与えられる。
【0109】
【0110】
膜12が保温及び膨張中に弛緩するにつれて、膜12は、そのコーティングを圧縮しながらその張力を減少させる負の「沈下」歪みを受ける。膜12の線張力は、膜の応力σにその厚さTを乗じたものに等しい。負の歪みは、膜12とコーティングとを等しく且つ反対の線張力に置く働きをする。
【0111】
【0112】
ここで、TおよびEはそれぞれコーティング層の厚さ及び弾性率である。
【0113】
約1MPaの初期2軸応力及び約1GPaの弾性率Eを有するコーティング層で、約200μmの厚さT及び約20MPaの弾性率Eを有する膜12に式(II)を適用すると、沈下歪みは約6μmの厚さTを有するコーティング層において約1%に制限される。このようにして、例えば特許文献18に記載されている種類の環状支持台を必要とすることなく、リング18、20に加えられる力が最小化されてリング18、20の望ましくない面内の曲がりを緩和する。
【0114】
膜12の外面14上の保護層は、吸収された流体60の膜の前面からの流出を防止する。流体60が膜12の表面上に液滴を形成すると、その光学特性を損なう可能性があるので、そのような流出は望ましくないであろう。
【0115】
図7は、本発明に従って張力が加えられ且つ熱せられ、シリコーン油の本体と連続的に接触して保持されている66個の個々のポリウレタン膜について経時的に測定された線張力のスキャッタグラムを示す。図から分かるように、膜は、2年以上の長期間にわたり実質的に一定の張力を維持する(図7は、796日までを示す)。膜は、より長い時間にわたって実質的に一定の張力を維持することができる可能性があるが、それはまだ測定されていない。
【0116】
さらに別の実施形態では、膜12の内面16は、上述した外面14で使用される種類の適切な疎水性コーティング材料のバリア層(図示せず)でコーティングを施すことができる。このようにすることで、膜12への流体60の進入を防止するか、或いは、少なくとも遅らせることができる。そのような場合、製造プロセスは、膜12の膨潤弛緩に適用する必要は無く、膜の膨潤弛緩を加速するために充填された組立体を高温でインキュベートする必要性を回避でき、膜12に2軸方向に僅かに低い初期張力を付与することができる。
【0117】
弾性係数Eを有するコーティングが施された弾性率Eを有する膜の実効弾性率Eeffは、
【0118】
【0119】
コーティング層の厚さTは光学的に測定することができるが、膜とコーティング層とを合わせた厚さT+Tは、厚さゲージを使用して測定することができる。
【0120】
コーティングされた及びコーティングされていない場合の膜のモジュラスは、圧力Pに加圧された密閉受け部にクランプされたスチールリング内の膜の端部の周りに膜を保持することによって測定することができる。受け部内の圧力の結果として、膜は外側に膨らみ、膜の最大外向き変位hは、レーザ高さ測定システムを用いて測定することができる。このことから、膜を平坦からほぼ球状に変形させる張力、2軸応力及び歪み、ひいてはコーティング層及び膜又は膜のみの有効弾性率を計算することができる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図5J
図5K
図5L
図6A
図6B
図6C
図7