IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カストロール リミテッドの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20240112BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20240112BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 129/74 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 129/76 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 107/28 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 105/06 20060101ALN20240112BHJP
   C10M 105/32 20060101ALN20240112BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240112BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240112BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240112BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240112BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
C10M141/10
C10M169/04
C10M135/18
C10M129/74
C10M129/76
C10M137/10 A
C10M133/16
C10M107/02
C10M107/28
C10M105/06
C10M105/32
C10N10:12
C10N40:02
C10N40:04
C10N30:00 Z
C10N30:06
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020540332
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 EP2019051956
(87)【国際公開番号】W WO2019149645
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-27
(31)【優先権主張番号】1801489.4
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501354624
【氏名又は名称】カストロール リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【弁理士】
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】シムズ,ジョナサン
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-529697(JP,A)
【文献】国際公開第2016/124293(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0277133(US,A1)
【文献】特開平05-239487(JP,A)
【文献】特開2014-101525(JP,A)
【文献】特開2007-084826(JP,A)
【文献】特表2007-515506(JP,A)
【文献】特開2018-002794(JP,A)
【文献】特開2008-106199(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/04
C10M 135/18
C10M 129/74
C10M 129/76
C10M 137/10
C10M 133/16
C10M 107/02
C10M 107/28
C10M 105/06
C10M 105/32
C10N 10/12
C10N 40/04
C10N 30/00
C10N 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受である転動体からなるギアボックスを潤滑するための方法であって、前記ギアボックスはロボットギア、産業用ギアまたは風力タービンギアを備え、前記方法はギアボックスに潤滑剤組成物を供給し、
この潤滑剤組成物は潤滑粘度の基油組成物と
モリブデン換算で100~1500ppmの範囲の量で存在するジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと
0.1~1重量%の範囲の量で存在する少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-またはトリ-グリセリドとからなり
0.1%以下のジチオリン酸モリブデンを含む方法
【請求項2】
アルキルジチオカルバミン酸モリブデンモリブデンに換算して潤滑剤組成物の500~1500ppmの量で供給される請求項1に記載の方法
【請求項3】
アルキルジチオカルバミン酸モリブデンモリブデンに換算して潤滑剤組成物の750~1500ppmの量で供給される請求項2に記載の方法
【請求項4】
なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-またはトリ-グリセリドは潤滑剤組成物の0.25~1重量%の量で供給される請求項1~3のいずれか項に記載の方法
【請求項5】
なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-またはトリ-グリセリドはジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンに対する重量パーセント比で1:3~1:1の範囲、または1:2~2:3の範囲供給される請求項1~4のいずれか項に記載の方法
【請求項6】
潤滑剤組成物は0.05%以下のジチオリン酸モリブデンを含む請求項1~5のいずれか項に記載の方法
【請求項7】
潤滑剤組成物はジチオリン酸モリブデンを含まない請求項1~6のいずれか項に記載の方法
【請求項8】
潤滑剤組成物は潤滑剤組成物の1重量%までの量でオレイルアミドなどのC12~C24脂肪アミドをさらに含む請求項1~7のいずれか項に記載の方法。
【請求項9】
滑剤組成物の全ての添加剤の総量は潤滑剤組成物の10重量%以下である請求項1~8のいずれか項に記載の方法
【請求項10】
滑剤組成物の添加剤は2.5~7.5重量%の潤滑剤組成物の割合を構成する請求項8に記載の方法
【請求項11】
基油組成物はポリ-α-オレフィン系基油原料である請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
リ-α-オレフィン系基油原料は官能基変性ポリ-α-オレフィンおよびポリ-α-オレフィン含む請求項11に記載の方法
【請求項13】
変性ポリ-α-オレフィンはエステル基で官能化されたポリ-α-オレフィンである請求項12に記載の方法
【請求項14】
変性ポリ-α-オレフィンα-オレフィンモノマーとオレフィン系アルキルエステルとのコポリマーであって、C10オレフィン鎖長を有し、α-オレフィンモノマーと官能化モノマーとのが3:2~5:1の範囲である請求項13に記載の方法
【請求項15】
性ポリ-α-オレフィンα-オレフィンモノマーとオレフィン系無水物とのコポリマーである請求項13に記載の方法
【請求項16】
オレフィン系無水物オレフィン系コハク酸または無水マレイン酸である請求項15に記載の方法
【請求項17】
リ-α-オレフィンおよび変性ポリ-α-オレフィン基油組成物の主要部分である請求項1216のいずれか項に記載の方法
【請求項18】
リ-α-オレフィンおよび変性ポリ-α-オレフィンは基油組成物の少なくとも75重量%である請求項17に記載の法。
【請求項19】
潤滑剤組成物はアルキル化ナフタレン、アルキルベンゼンおよび低粘度エステルから選択される1つまたはそれ以上の添加剤キャリアを含む請求項1218のいずれか項に記載の方法
【請求項20】
添加剤キャリアは潤滑剤組成物の最大25重量%、または最大12重量%の量でアルキル化ナフタレンを含む請求項19に記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物およびその製造方法、ならびに潤滑油組成物のための添加剤濃縮物または中間体などの部品またはキットに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用製造設備およびプロセスは、潤滑が必要なギアボックスを有する製造工程用の装置およびロボットを使用する。製造業者の設計要件に依存して、ギアボックスは、グリースまたは潤滑油で潤滑され得る。オイル潤滑式ギアボックスに関して、特にロボットギアボックスおよび特に自動車分野においては、潤滑剤に対する要求は特別であり、20,000時間の目標で長期間にわたってスラッジフリーでリークフリーな性能を含む。
【0003】
ロボットギアボックスのための油の商業的提供は、多数の欠点を被る傾向があり、これは、それらが、20,000時間の中断のない操作の産業要件を満たすことができない傾向があることを意味する。
【0004】
このような欠点には、金属ギア部品の摩耗をもたらす特性と同様にギアボックス内にシールを形成するエラストマーの劣化をもたらすエラストマー相溶性の悪さが含まれる。これは、多くのロボット用途で問題となるギアボックスからのオイルの漏れをもたらすことがあり、特に清浄度が不可欠な自動車製造においては、壊滅的な故障と見なされることがある。
【0005】
鉱油ベースの潤滑剤配合物が使用される一方で、寿命要件を満たすための合成油ベースの配合物の需要が増加している。ポリ-アルファ-オレフィン基油を有する合成油は、より長い寿命の可能性を有するが、添加剤成分の溶解性が劣る傾向がある。
【0006】
ロボットのような製造装置用の、また風力タービン用のギアボックスも、それらの内部に他のギアボックスとは異なる一組の摩耗および性能要件を有する転動体を有する。
【0007】
したがって、安定性および寿命を提供し、シールエラストマーと適合性であり、有効な耐摩耗特性を有し、特に転動体を有するシステムにおいては、スラッジ形成の傾向がなく、優れた性能特性を有する合成ギア油配合物が必要とされている。
【0008】
本発明者は、上記課題の1つまたはそれ以上に対処する組成物を開発した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第6,723,685号明細書
【文献】米国特許第6,300,291号明細書
【文献】国際公開第99/21902号明細書
【文献】米国特許第5,770,185号明細書
【文献】米国特許出願公開第2010/0087319号明細書
【文献】国際公開第第2003/099890号明細書
【文献】国際公開第第2006/099250号明細書
【文献】米国特許第第7,622,431号明細書
【文献】米国特許出願公開2006/0090393号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、潤滑粘度の基油組成物と、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体などの有機摩擦調整剤とを含む添加剤組成物とを含む潤滑剤組成物が提供される。
【0011】
本発明の第2の態様では、上記で定義された潤滑剤組成物に使用するための添加剤組成物であって、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリドまたはそれらの誘導体などの有機摩擦調整剤とを含む添加剤組成物を提供する。
【0012】
本発明の第3の態様では、上記で定義された潤滑剤組成物に使用するための基油組成物であって、機能的に変性されたポリ-α-オレフィン、ポリ-α-オレフィンおよび任意に添加剤担体を含む基油組成物が提供される。
【0013】
本発明の第4の態様では、変性ポリアルファオレフィンを含む基油組成物と、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、少なくとも1種のヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリドまたはそれらの誘導体などの有機摩擦調整剤とを含む添加剤組成物とを含む合成ギア油組成物が提供される。
【0014】
本発明の第5の態様では、転動体を含むギアボックス用の潤滑剤として、上記で定義された潤滑剤またはギアオイル組成物を使用することが提供される。
【0015】
本発明の第6の態様では、潤滑剤の製造のためのキットが提供され、このキットは、上記で定義されるような基油組成物と 上記で定義されるような添加剤組成物を必要に応じて有する添加剤パック又は添加剤濃縮物とを必要に応じて含む。
【0016】
本発明の第7の態様では、転動体を含むギアボックスの潤滑方法であって、上述のように潤滑組成物を有する潤滑粘度の油を転動体を含むギアボックスに供給することを含むギアボックスの潤滑方法が提供される。
【0017】
本発明の第8の態様では、転動体を含むギアボックスを有する装置を操作する方法であって、上記で定義されるような組成物を有する潤滑粘度の潤滑油をギアボックスに供給することを含む方法が提供される。
【0018】
本発明は、第1の態様によれば、潤滑剤組成物を対象とする。潤滑剤組成物は、基油組成物および添加剤組成物を含む。基油組成物は、潤滑粘度または一旦添加剤組成物が添加されると潤滑粘度を提供するようなものであるべきである。基油組成物は、潤滑剤組成物の大部分を構成し、これは、50重量%を超えることを意味する。添加剤組成物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、好ましくは少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体である有機摩擦調整剤とを含む。
【0019】
本発明の潤滑剤組成物は、ロボット工学およびロボット工学ギアボックス、工業用ギアおよび風力タービンギアのための、ならびに特に転動体(球面ベアリングまたは円筒ベアリングなど)を有するギアボックスのための潤滑剤組成物として、特定の用途を見出す。本発明は、そのような用途における潤滑剤に関する特定の問題、特に、寿命、良好なエラストマー相溶性および良好な耐摩耗特性の必要性に対処する。本発明の実施形態はまた、漏洩およびスラッジに対する優れた保護を実証する。
【0020】
任意の好適なジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(二核および三核モリブデン種を含む)を使用することができる。
【0021】
ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、モリブデン換算で、100~5000ppm、好ましくは500~3000ppmおよびより好ましくは750~1500ppmの量で提供することができる。一実施形態では、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、モリブデン換算で800~1300ppmの量で潤滑剤組成物中に提供される。特定の実施形態では、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、潤滑剤組成物の0.1~5重量%の量で、好ましくは潤滑剤組成物の0.5~3重量%の量で、より好ましくは潤滑剤組成物の0.75~1.5重量%の特定の組成で提供されてもよい。
【0022】
ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、潤滑剤組成物中に、モリブデン換算で、100~5000ppm、好ましくは500~3000ppm、およびより好ましくは750~1500ppmの量で提供され得る。一実施形態では、モリブデン換算で800~1300ppmの量でジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンが潤滑剤組成物中に提供される。有機摩擦調整剤は、金属を含まない有機摩擦調整剤である任意の好適な有機摩擦調整剤であってもよい。好ましくは、有機摩擦調整剤は、硫黄および/またはリンを含まない。好適な有機摩擦調整剤としては、イミダゾリン、アミド、アミン、スクシンイミド、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、アミンオキシド、アミドアミン、ニトリル、イミン、アミノグアニジン、アルカノールアミド、グリセロールエステル、およびオレフィン、ヒマワリ油および他の天然に存在する植物または動物油、ジカルボン酸エステル、ポリオールおよび1つまたはそれ以上の脂肪族または芳香族カルボン酸のエステルまたは部分エステルなどが挙げられ得るが、これらに限定されない。本発明の組成物に使用される有機摩擦調整剤は、本明細書に定義される有機摩擦調整剤の1つとまたは組み合わせて含むことができる。
【0023】
好適な有機摩擦調整剤は、ヒドロカルビル基を有する直鎖、分岐鎖、若しくは芳香族又はそれらの混合物から選択されるヒドロカルビル基を含有してもよく、飽和または不飽和であってもよい。ヒドロカルビル基は、炭素および水素またはヘテロ原子(例えば、窒素または酸素)から構成され得る。ヒドロカルビル基は、約12~約25個の炭素原子の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、有機摩擦調整剤は、長鎖脂肪酸エステルであってもよい。一実施形態では、長鎖脂肪酸エステルは、モノエステル、またはジエステル、または(トリ)グリセリドであり得る。有機摩擦調整剤は、長鎖脂肪族アミド、長鎖脂肪族エステル、長鎖脂肪族エポキシド誘導体、または長鎖イミダゾリンであってもよい。
【0024】
他の好適な有機摩擦調整剤は、有機、無灰分(金属を含まない)、無窒素有機摩擦調整剤を含み得る。このような有機摩擦調整剤は、カルボン酸および無水物をアルカノールと反応させることによって形成されるエステルを含むことができ、一般に、親油性炭化水素鎖に共有結合した極性末端基(例えば、カルボキシルまたはヒドロキシル)を含む。有機無灰窒素無摩擦調整剤の例は、一般に、オレイン酸のモノ-、ジ-、およびトリ-エステルを含有し得るグリセロールモノオレエート(GMO)として知られている。他の好適な摩擦調整剤は、特許文献1に記載されている。
【0025】
好適な有機摩擦調整剤は、アミンまたはポリアミンを含むアミン性有機摩擦調整剤であってもよい。このような化合物は、飽和若しくは不飽和のいずれか又はそれらの混合物の直鎖状のヒドロカルビル基を有してもよく、約12~約25個の炭素原子を含有することができる。好適な有機摩擦調整剤のさらなる例としては、アルコキシル化アミンおよびアルコキシル化エーテルアミンが挙げられる。このような化合物は、飽和、不飽和またはそれらの混合物のいずれかの直鎖状のヒドロカルビル基を有し得る。それらは約12~約25個の炭素原子を含有することができる。例としては、エトキシル化アミンおよびエトキシル化エーテルアミンが挙げられる。アミンおよびアミドは、そのまま、または酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、メタホウ酸塩、ホウ酸またはモノ-、ジ-もしくはトリ-アルキルホウ酸塩などのホウ素化合物との付加物または反応生成物の形成で使用され得る。他の好適な有機摩擦調整剤は、特許文献2に記載されている。
【0026】
好ましくは、有機摩擦調整剤は、潤滑剤組成物の約10重量%まで、好ましくは約5重量%までの量で存在することができる。好ましくは、有機摩擦調整剤は、潤滑剤組成物の約0.1重量%~約4重量%、およびより好ましくは約1重量%までの量で存在する。
【0027】
特定の一実施形態では、有機摩擦調整剤は、有機無灰窒素無摩擦調整剤であり、好ましくは、グリセロールモノオレエート(GMO)である。本実施形態によれば、潤滑剤組成物および添加剤組成物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンおよびGMOを、好ましくは前述の量で含む。
【0028】
別の特定の実施形態では、有機摩擦調整剤は、約12~約25個の炭素原子を有する脂肪酸アミドであり、好ましくはオレイルアミドである。本実施形態によれば、潤滑剤組成物および添加剤組成物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンおよびオレイルアミドを、好ましくは前述の量で含む。
【0029】
特に好ましい実施形態では、有機摩擦調整剤は、および/または潤滑剤組成物であり、添加剤組成物は、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体を含む。
【0030】
本発明の一態様である潤滑剤組成物は、潤滑粘度の基油組成物並びに、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン及び少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体とを含む添加剤組成物を含むことが特に好ましい。
【0031】
上記で定義された潤滑剤組成物に使用するための本発明の一態様の添加剤組成物は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体とを含むことが特に好ましい実施形態である。
【0032】
少なくとも1種のヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体は、潤滑剤組成物の5重量%まで、好ましくは潤滑剤組成物の0.1~2.5重量%、より好ましくは潤滑剤組成物の0.25~1重量%の量で提供される。
【0033】
1つの実施形態において、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体は、1:3~3:1、より好ましくは1:3~1:1、さらにより好ましくは1:2~2:3の範囲で、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンに対して重量パーセント比で提供される。
【0034】
添加剤組成物は、優れた寿命を有し、高性能油を提供する潤滑剤組成物を製造することを可能にする。本発明の組成物は、この寿命および性能を、ジアルキルジチオリン酸モリブデン含有量がごく少量もしくは少量か、またはジアルキルジチオリン酸モリブデンを含まないことで達成することを可能にする。好ましくは、組成物は潤滑剤組成物中に0.25重量%未満のジアルキルジチオリン酸モリブデン、より好ましくは0.1%未満のジアルキルジチオリン酸モリブデン、さらにより好ましくは0.05%未満のジアルキルジチオリン酸モリブデンを含み、最も好ましくは、添加剤組成物はジアルキルジチオリン酸モリブデンを含まない。
【0035】
好ましい実施形態では、潤滑剤組成物および添加剤組成物は、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、または上記のそれらの誘導体に加えて、長鎖脂肪アミドをさらに含み、より好ましくはオレイルアミドを含み、これは、潤滑剤組成物の1重量%までの量、好ましくは潤滑剤組成物の0.5重量%までの量、およびより好ましくは潤滑剤組成物の0.05~0.25重量%の量で任意に含み得る。任意に、オレイルアミドは、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体に対して、1:10~1:1、より好ましくは1:6~1:4、および最も好ましくは約1:5の範囲の重量パーセント比で提供され得る。
【0036】
潤滑剤組成物および添加剤組成物は、他の耐摩耗添加剤(しかし好ましくは有機金属ジチオリン酸耐摩耗添加剤ではなく、特に亜鉛またはモリブデン系有機金属ジチオリン酸耐摩耗添加剤ではない)、分散剤、分散剤粘度調整剤、洗剤、腐食抑制剤、酸化防止剤、消泡剤、または他の添加剤を含むさらなる添加剤成分をさらに含むことができる。このようなさらなる添加剤成分は、潤滑剤組成物の5重量%未満およびより好ましくは3重量%未満で構成する。
【0037】
1つの特定の実施形態において、本発明の組成物において使用されるさらなる分散剤添加物はない。
【0038】
添加剤組成物は、最大20重量%、より好ましくは最大10重量%、およびより好ましくは2.5~7.5重量%、例えば3~6重量%の潤滑剤組成物の割合を構成することができる。
【0039】
本明細書中で使用される場合、添加剤濃縮物は、典型的には極性基油であり得る添加剤組成物および添加剤担体を含み、好ましくは基油組成物の一部を含む。典型的には、添加剤濃縮物は、好適な基油の添加によって潤滑剤組成物に作製され得る安定な濃縮物を提供する。
【0040】
本明細書で使用される添加剤組成物は、基油組成物以外の成分を含む。
【0041】
上記で定義されたような添加剤組成物を有する潤滑剤組成物は、ギアオイル、特に転動要素を有するロボットギアおよびギア、例えば低摩耗、還元スラッジ形成に有用な改善された特性を有する。これらの特性は、破局的な破損のリスクを低減し、潤滑剤組成物がこれらの用途の寿命要件を満たすことを可能にする。したがって、本発明の態様は、ギア用の潤滑剤組成物における添加剤組成物の使用を対象とし、このようなギアボックスは、転動要素、特にロボットギアボックスまたは風力タービンギアを有する。
【0042】
任意に、添加剤組成物は、潤滑剤組成物を局所的に製造するために、後に基油組成物または素材と混合するための添加剤パックとして提供される。任意に、添加剤パックは、上記で定義されたように使用される基油組成物の一部、または例えばアルキル化ナフタレンなどの基油の1成分素材を含み得る濃縮物として提供されてもよい。添加剤濃縮物は、例えば、使用のための潤滑剤組成物中の所望の量への後の希釈のために、1:5~5:1、好ましくは1:2~3:1、より好ましくは1:1~1:2の範囲の重量パーセント比で添加剤組成物を含むことができる。
【0043】
ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)は、任意の好適なMoDTCとすることができる。例えば、下記式1の化合物とすることができる:
【0044】
【化1】
【0045】
ここで、R~Rはアルキル基を表し、X~Xはそれぞれ硫黄原子または酸素原子を表す。
【0046】
MoDTCは、下記式2の化合物であることが好ましい:
【0047】
【化2】
【0048】
ここで、R~Rは、アルキル基を示す。
【0049】
式1および式2のジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン中のR~Rのアルキル基は、それぞれ独立して炭素数1~30の親油性基であることが好ましく、これら4つの親油性基のうち少なくとも1つまたは2つが第二親油性基であることが好ましい。好ましくは、R~R4のアルキル基は、C8~C13分岐第二親油性基である。ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、潤滑剤組成物中に、モリブデン換算で、100~5000ppm、好ましくは500~3000ppm、およびより好ましくは750~1500ppmの量で提供され得る。一実施形態では、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンはモリブデン換算で800~1300ppmの量で潤滑剤組成物中に提供される。
【0050】
本発明に従って使用されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、好ましくは、モリブデンについての元素分析値が9.5~10.5質量%であり得る。
【0051】
ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンが10質量%のモリブデンに対する元素分析値を有する一実施形態では、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンは、潤滑剤組成物の0.1~5重量%の量で、好ましくは潤滑剤組成物の0.5~3重量%の量で、より好ましくは潤滑剤組成物の0.75~1.5重量%の特定の構成で提供されてもよい。
【0052】
潤滑油組成物中のジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの含有量は、ICP (Inductively Coupled Plasma atomic emission spectroscopy、以下、ICPと称する)分析装置を用いて元素分析を行うことにより求めることができる。モリブデンの量は、ICP分析法によっても測定することができる。
【0053】
ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンの重量%量、および本明細書で使用されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンに対する他の成分の重量比は、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン化合物(すなわち、モリブデンジアルキルジチオカルバミン酸化合物の組成物)に基づいており、モリブデン含有量は10重量%である。したがって、モリブデンの異なる重量%含有量を有するジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン組成物を使用する場合、そのような値は、それに応じて適合される。
【0054】
上述のように、任意の好適な有機摩擦調整剤または有機摩擦調整剤の組み合わせが使用されてもよい。
【0055】
好ましくは、有機摩擦調整剤は、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体であるか、またはそれらを含む。
【0056】
少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の任意の好適な油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体が使用されてもよい。
【0057】
好ましくは、ヒドロキシポリカルボン酸は、少なくとも1つのヒドロキシ基またはその誘導体(例えば、エーテルまたはエステル)を有し、それらはカルボン部分に対してアルファ位にある。各ヒドロキシポリカルボン酸は、独立して、4~22個の炭素原子、例えば、4~15個の炭素原子を有し得る。少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-、またはトリ-グリセリド、またはその誘導体は16~80個の炭素原子を好適に有し得る。グリセリド中の炭素原子の数は、潤滑粘度の油中および/または液体燃料中のその溶解度に影響し得る。
【0058】
油溶性とは、グリセリドが、潤滑粘度の油に、摩擦変性および/または耐摩耗性の量、例えば、潤滑粘度の油において少なくとも200ppmの重量による量で、可溶であることを意味する。溶解度は、周囲温度、例えば20℃で決定されてもよい。好ましくは、油溶性グリセリドは0℃で可溶性である。溶解度は、大気圧で決定されてもよい。
【0059】
好適なヒドロキシポリカルボン酸には、クエン酸(3-カルボキシ-3-ヒドロキシペンタンディオイク酸、2-ヒドロキシプロパン-1,2,3-トリカルボン酸または3-ヒドロキシペンタンディオイク酸-3-カルボン酸ディオイクとも呼ばれる)、酒石酸(2,3-ジヒドロキシブタンディオイク酸または2,3-ジヒドロキシコハク酸とも呼ばれる)、リンゴ酸(ヒドロキシブタンディオイク酸とも呼ばれる)、モノヒドロキシトリメシン酸および水素化モノヒドロキシトリメシン酸(1,3,5-トリカルボキシ、2-ヒドロキシシクロヘキサンとも呼ばれる)が含まれる。
【0060】
少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-、もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体は、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸のグリセリドであるジ-、もしくはトリ-グリセリドおよび、4~22個の炭素原子を有する、飽和、モノ-不飽和もしくはポリ-不飽和、分岐もしくは直鎖、モノカルボン酸もしくはポリカルボン酸またはそれらの誘導体である少なくとも1つの第2のカルボン酸であってもよい。
【0061】
第2のカルボン酸は、飽和、モノ-不飽和またはポリ-不飽和であり得る。好適には、第二のカルボン酸は不飽和である。第2のカルボン酸は、分岐または直鎖であり得る。第2のカルボン酸は、モノカルボン酸であってもポリカルボン酸であってもよい。第2のカルボン酸がポリカルボン酸である場合、グリセリドの誘導体は、第2のカルボン酸基のエステルであってもよい。
【0062】
好適な飽和第二カルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびアラキジン酸が挙げられる。好適な不飽和第二カルボン酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、エルカ酸(cis-13-ドコセン酸としても知られる)およびブラシジン酸が挙げられる。
【0063】
好ましくは、グリセリドは、クエン酸およびオレイン酸のグリセリド、クエン酸およびリノール酸のグリセリド、またはそれらの混合物である。
【0064】
少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸のモノ-、ジ-、もしくはトリ-グリセリド、またはその誘導体は、式3によって表され得る。
【0065】
【化3】
【0066】
ここで、RO、OR’およびOR’’は独立して、水酸基(-OH)、4~22個の炭素原子を有する、飽和、モノ-不飽和もしくはポリ-不飽和、分枝もしくは直鎖、モノカルボン酸もしくはポリカルボン酸基またはそれらのエーテルもしくはエステルを、もし、RO、OR’およびOR’’の少なくとも1つがヒドロキシポリカルボン酸部分またはそのエーテルおよび/またはエステルであるならば、ヒドロキシポリカルボン酸部分またはそのエーテルおよび/またはエステルを表す。
【0067】
好ましくは、式3において、RO、OR’およびOR’’の少なくとも1つは、ヒドロキシポリカルボン酸部分もしくはそのエーテルおよび/またはエステルであり、RO、OR’およびOR’’の少なくとも1つが、4~22個の炭素原子を有する飽和、モノ不飽和もしくはポリ不飽和、分岐もしくは直鎖、モノカルボン酸基もしくはポリカルボン酸基またはそれらのエステルである。
【0068】
好ましくは、式3において、ヒドロキシポリカルボン部分酸は、カルボン部分に対してアルファ位にある少なくとも1つのヒドロキシ基またはその誘導体(例えば、エーテルまたはエステル)を有する。
【0069】
式3において、各ヒドロキシポリカルボン部分は、独立して、4~22個の炭素原子を有し得る。式3において、ヒドロキシポリカルボン部分は、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、モノヒドロキシトリメシン酸および水素化モノヒドロキシトリメシン酸を含む酸から誘導されてもよい。
【0070】
式3において、存在する場合、4~22個の炭素原子を有する飽和、分岐もしくは直鎖、モノカルボンもしくはポリカルボン酸基またはそれらのエステルは、飽和カルボン酸またはそれらのハロゲン化物当量から誘導されてもよい。好適な飽和カルボン酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびアラキジン酸が挙げられる。式3において、存在する場合、4~22個の炭素原子を有するモノ-不飽和もしくはポリ-不飽和、分岐もしくは直鎖、モノカルボンもしくはポリカルボン酸基またはそれらのエステルは、不飽和カルボン酸またはそれらのハロゲン化物当量から誘導されてもよい。好適なモノ不飽和酸としては、例えば、オレイン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、エルカ酸およびブラシジン酸が挙げられる。好適なポリ不飽和酸としては、例えば、リノール酸およびリノレン酸が挙げられる。
【0071】
グリセリドは、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸および飽和C4~C22ポリカルボン酸のグリセリド、またはその誘導体であってもよい。ポリカルボン酸は、分岐または直鎖であり得る。グリセリドは、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸およびモノ不飽和またはポリ不飽和のC4~C22ポリカルボン酸のグリセリド、またはその誘導体であってもよい。ポリカルボン酸は、分岐または直鎖であり得る。グリセリドは、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸および飽和C4~C22モノカルボン酸のグリセリド、またはその誘導体であってもよい。モノカルボン酸は、分岐または直鎖であり得る。好適な飽和C16モノカルボン酸としては、パルミチン酸が挙げられる。好適な飽和C18モノカルボン酸にはステアリン酸が含まれる。グリセリドは、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸およびモノ不飽和またはポリ不飽和C4~C22モノカルボン酸のグリセリド、またはそれらの誘導体であってもよい。不飽和モノカルボン酸は、分岐または直鎖であり得る。グリセリドは、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸および不飽和C18モノカルボン酸のグリセリド、またはそれらの誘導体であってもよい。モノカルボン酸は、分岐または直鎖であり得る。好適水酸化ポリカルボキシル酸には、クエン酸が含まれる。グリセリド添加剤は、クエン酸および不飽和C18モノカルボン酸のグリセリド、またはそれらの誘導体であってもよい。好適な不飽和C18モノカルボン酸としては、オレイン酸およびリノール酸が挙げられる。
【0072】
グリセリドは、飽和、モノ-不飽和またはポリ不飽和、分岐または直鎖、モノカルボンまたはポリカルボンC4~C22カルボン酸のモノ-グリセリドのクエン酸エステルであってもよく、好適には、C16またはC18カルボン酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸またはリノール酸であってよい。グリセリドは、植物油、例えば、ヒマワリおよび/またはパーム油から作製されるモノグリセリドのクエン酸エステルであってもよい。グリセリドは、食用、精製されたヒマワリおよびパームを基とした油から作られるモノグリセリドのクエン酸エステルであってもよい。好ましくは、グリセリドは、クエン酸およびオレイン酸のグリセリド、クエン酸およびリノール酸のグリセリド、またはそれらの混合物である。オレイン酸および/またはリノール酸とのクエン酸のグリセリドの好適な供給源は、Danisco DuPontから入手可能なGRINSTED CITREM SP70(商標)である。GRINSTED CITREM SP70(商標)は、食用の精製ヒマワリおよびパームを基とした油から製造されたモノグリセリドのクエン酸エステルであると考えられる。GRINSTED CITREM SP70(商標)はまた、式4を有する少なくとも1つのジグリセリドを含むと考えられる。
【0073】
【化4】
【0074】
ここで、-Y-は、モノ-またはジ-不飽和であるC16ヒドロカルビル部分を表す。
【0075】
したがって、式4を有するジグリセリドは、クエン酸およびオレイン酸のグリセリド、ならびにクエン酸およびリノール酸のグリセリドを含む。これは、(i)ROが、オレイン酸および/またはリノール酸から誘導可能である18個の炭素原子を有するカルボキシル基を表し、(ii)OR’がヒドロキシル部分を表し、(iii)OR’’が、クエン酸から誘導可能であるヒドロキシポリカルボン酸部分を表す、式3の構造に対応する。
【0076】
グリセリドは、遊離ヒドロキシル基を有する部分グリセリド、例えばモノ-もしくはジ-グリセリドまたはそれらの混合物を有するクエン酸のエステルであり得る。好適な部分グリセリドは、12~18個の炭素原子を有する脂肪酸から誘導されるものを包含し、例えばヤシ油脂肪酸およびパーム油脂肪酸から誘導されるものを包含する。例としては、Lamegin(登録商標)ZE 306、Lamegin(登録商標)ZE 609およびLamegin(登録商標)ZE 618(Cognis Deutschland GmbH & Co. KG)が挙げられる。したがって、グリセリドは、硬化獣脂脂肪酸のモノグリセリドのクエン酸エステル、例えばLamegin(登録商標)ZE 309、または硬化獣脂脂肪酸のモノグリセリドと酒石酸ジアセチルのエステル、例えばLamegin(登録商標)DW 8000、またはヒマワリ油脂肪酸モノグリセリドに基づくクエン酸エステル、例えばLamegin(登録商標)ZE 609 FLであり得る。このようなエステルは、例えば、特許文献4および特許文献5に記載されている。
【0077】
グリセリドの誘導体は、少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸部分のエステルであってもよい。エステルは、ヒドロキシポリカルボン酸のカルボン酸部分のエステルであってもよい。ヒドロキシルポリカルボン酸の各カルボン酸部分は、独立してエステルとして誘導体化可能であり得る。エステル誘導体は、ヒドロカルビルエステルであってもよく、この場合、ヒドロカルビル部分は4~22個の炭素原子を有していてもよい。ヒドロカルビル部分は、4~22個の炭素原子を有し得るアルキル部分であり得る。ヒドロカルビル部分は、1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えば、窒素および/または酸素を含み得る。
【0078】
グリセリドの誘導体は、ヒドロキシポリカルボン酸のヒドロキシル部分のエーテルまたはエステルであってもよい。少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸のモノ-、ジ-、またはトリ-グリセリド中に1つ以上のヒドロキシ部分が存在する場合、各ヒドロキシル部分は、独立して、エーテルまたはエステルとして誘導体化可能であってもよい。各エーテルはヒドロカルビルエーテルであり得る。各エーテルのヒドロカルビル部分は、独立して、1~22個の炭素原子、より好適には1~18個の炭素原子を有し得る。各エーテルのヒドロカルビル部分は、独立してアルキル部分であり得る。各エーテルのアルキル部分は、独立して、1~22個の炭素原子、より好適には1~18個の炭素原子を有し得る。各エーテルのヒドロカルビル部分は、独立して、1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えば、窒素および/または酸素を含み得る。各エステルは、独立してヒドロカルビルエステルであり得る。各エステルのヒドロカルビル部分は、4~22個の炭素原子を有し得る。各エステルのヒドロカルビル部分は、独立してアルキル部分であり得る。各エステルのアルキル部分は、独立して4~22個の炭素原子を有し得る。各エステルのヒドロカルビル部分は、独立して1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えば、窒素および/または酸素を含み得る。
【0079】
4~22の炭素原子を有する飽和、モノ-不飽和またはポリ不飽和、分枝または直鎖カルボン酸がポリカルボン酸である場合、グリセリドの誘導体は、存在する場合、少なくとも1つの飽和、モノ-不飽和またはポリ-不飽和、分枝または直鎖の、4~22の炭素原子を有するポリカルボン酸のうちの1つまたはそれ以上のカルボン酸部分のエステルであってもよい。各エステルは、独立してヒドロカルビルエステルであり得る。各エステルのヒドロカルビル部分は、独立して4~22個の炭素原子を有し得る。ヒドロカルビル部分はアルキル部分であってもよい。各エステルのアルキル部分は、独立して4~22個の炭素原子を有し得る。各エステルのヒドロカルビル部分は、独立して1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えば、窒素および/または酸素を含み得る。
【0080】
少なくとも1つのヒドロキシポリカルボン酸およびそれらの誘導体の油溶性モノ-、ジ-、またはトリ-グリセリドは、当技術分野で公知の方法によって作製され得る。ジ-およびトリ-グリセリドは、脂肪を部分的に加水分解してモノ-グリセリドを生成し、続いてヒドロキシポリカルボン酸でエステル化することによって作製され得る。モノ-グリセリドは、ヒドロキシポリカルボン酸でグリセロールをエステル化することによって製造することができる。炭化水素エーテル誘導体は、対応するハロゲン化ヒドロカルビルから作製され得る。
【0081】
上述のように、潤滑剤組成物および添加剤組成物は、さらなる添加剤成分をさらに含んでもよい。
【0082】
さらなる添加剤成分の例としては、分散剤(金属および非金属)、分散剤粘度調整剤、洗剤(金属および非金属)、粘度指数向上剤、粘度調整剤、流動点降下剤、防錆剤、腐食抑制剤、酸化防止剤、発泡防止剤、シール膨潤剤、極圧および/または耐摩耗添加剤(非金属、リン含有、非リン含有、硫黄含有、非硫黄含有の極圧添加剤ならびにリンおよび硫黄含有の炭化水素を含む)、界面活性剤、解乳化剤、焼き付き防止剤、ワックス調整剤、潤滑剤、着色防止剤、発色防止剤および金属不活性化剤が挙げられる。
【0083】
分散剤(分散剤添加剤とも呼ばれる)は、例えば、使用中の潤滑剤組成物の酸化から生じる固体および液体汚染物質を懸濁液中に保持するのを助け、したがって、例えば、潤滑表面上のスラッジ凝集、沈殿および/または堆積を低減する。それらは、一般に、油溶性を促進するための長鎖炭化水素、および分散される材料と連携することができる極性ヘッドを含む。好適な分散剤の例には、分散される粒子と連携することができる1つまたはそれ以上の官能基を各々有する油溶性ポリマーヒドロカルビル主鎖が含まれる。官能基は、アミン、アルコール、アミン-アルコール、アミドまたはエステル基であり得る。官能基は、架橋基を介してヒドロカルビル主鎖に結合され得る。添加剤濃縮物および/または潤滑剤組成物中には、1種以上の分散剤が存在していてもよい。任意に、組成物はそのような分散剤を含まない。
【0084】
好適な無灰分散剤の例としては、長鎖炭化水素置換モノ-およびポリカルボン酸またはその無水物の油溶性塩、エステル、アミノ-エステル、アミド、イミドおよびオキサゾリン;長鎖炭化水素のチオカルボキシレート誘導体;ポリアミン部分が直接結合した長鎖脂肪族炭化水素;長鎖置換フェノールをホルムアルデヒドおよびポリアルキレンポリアミンと縮合することによって形成されるマンニッヒ縮合生成物;コッホ反応生成物などが挙げられる。好適な分散剤の例としては、長鎖ヒドロカルビル置換カルボン酸の誘導体が挙げられ、例えば、ヒドロカルビル基が20000までの数平均分子量、例えば、300~20000、500~10000、700~5000または15000未満の数平均分子量を有する。好適な分散剤の例としては、ヒドロカルビル置換コハク酸化合物、例えば、コハク酸イミド、コハク酸エステルまたはコハク酸エステルアミド、および特にポリイソブテニルコハク酸イミド分散剤が挙げられる。分散剤は、ホウ酸塩化されていても、ホウ酸塩化されていなくてもよい。
【0085】
更に又はその代わりに、分散性は、粘度指数改善特性および分散性を提供することができるポリマー化合物によって提供されてもよい。このような化合物は、一般に、分散性のある粘性向上添加剤または多機能粘度向上剤として知られている。好適な分散剤粘度調整剤の例は、官能性部分(例えば、アミン、アルコールおよびアミド)を、少なくとも15000の数平均分子量を、例えば、20000~600000(例えば、ゲル浸透クロマトグラフィーまたは光散乱法によって決定される)の範囲内で有する傾向があるポリマーに化学的に付着させることによって調製され得る。好適な分散剤粘度調整剤およびそれらの製造方法の例は、特許文献3、特許文献6および特許文献7に記載されている。添加剤濃縮物および/または潤滑剤組成物中には、1種以上の分散剤粘度調整剤が存在してもよい。
【0086】
洗剤(洗剤添加剤とも呼ばれる)は、例えば、高温ワニスおよびラッカー堆積物を含む機械内の金属表面上の高温堆積物形成を、潤滑剤組成物中の懸濁物中に微細に分割された固体を維持するのを助けることによって、低減するのに役立ち得る。洗剤はまた、酸中和特性を有し得る。無灰(非金属含有)洗剤が存在してもよい。金属含有洗剤は、せっけんまたは界面活性剤と呼ばれる少なくとも1つの有機酸の少なくとも1つの金属塩を含む。洗剤は、有機酸を中和するために必要とされる化学量論的な量に対して、洗剤が過剰な金属を含む過塩基性であり得る。過剰の金属は、通常、金属炭酸塩および/または水酸化物のコロイド分散体の形成である。好適な金属の例としては、I族および2族金属、より好適にはカルシウム、マグネシウムおよびそれらの組み合わせ、特にカルシウムが挙げられる。1つ以上の金属が存在してもよい。
【0087】
好適な有機酸の例としては、スルホン酸、フェノール(硫酸化または好ましくは、例えば、1つ以上のヒドロキシル基を有するフェノール、縮合芳香環を有するフェノール、例えば、アルキレン架橋フェノールで修飾されたフェノール、ならびに例えば、塩基性条件下でフェノールとアルデヒドとの反応によって生成されるマンニッヒ塩基縮合フェノールおよびサリゲニン型フェノール)およびその硫酸化誘導体、ならびに例えば、芳香族カルボン酸(例えば、ヒドロカルビル置換サリチル酸およびその硫酸化誘導体、例えば、ヒドロカルビル置換サリチル酸およびその誘導体)を含むカルボン酸が挙げられる。1種類以上の有機酸が存在していてもよい。
【0088】
更に又はその代わりに、非金属洗剤が存在してもよい。好適な非金属洗剤は、例えば、特許文献8に記載されている。
【0089】
潤滑剤組成物および/または添加剤濃縮物中には、1種以上の洗剤が存在してもよい。
【0090】
粘度指数向上剤/粘度調整剤粘度指数向上剤(粘度調整剤、粘度向上剤またはVI向上剤とも呼ばれる)は、潤滑剤組成物に高温および低温の操作性を付与し、高温で剪断安定性を維持しながら、低温でも許容できる粘度と流動性を示す。
【0091】
好適な粘度調整剤の例としては、高分子量炭化水素ポリマー(例えば、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンとのコポリマーおよび高級アルファ-オレフィン);ポリエステル(例えば、ポリメタクリル酸);水素化ポリ(スチレン-コ-ブタジエンまたはイソプレン)ポリマーおよび変性物(例えば、星形ポリマー);およびエステル化ポリ(スチレン-コ-無水マレイン酸)ポリマーが挙げられる。油溶性粘度変性ポリマーは、一般に、ゲル浸透クロマトグラフィーまたは光散乱法によって測定して、少なくとも15000~1000000、好ましくは20000~600000の数平均分子量を有する。
【0092】
粘度調整剤は、多機能性粘度調整剤として追加の機能を有してもよい。また、粘度指数向上剤が1種以上存在していてもよい。
【0093】
流動点降下剤(潤滑油向上剤または潤滑油流動性向上剤とも呼ばれる)は、潤滑剤が流動する最低温度を下げて、注がれてもよい。好適な流動点降下剤の例には、C8~C18ジアルキルフマレート/酢酸ビニルコポリマー、メチルメタクリル酸、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリメタクリル酸、ポリアルキルメチルメタクリル酸、ビニルフマレート、スチレンエステル、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物との縮合生成物、ビニルカルボキシレートポリマー、ジアルキフマレートのターポリマー、脂肪酸とアリルビニルエーテルのビニルエステル、ワックスナフタレンなどが含まれる。
粘度工剤は、多機能粘度調整剤として追加の機能を有してもよい。また、粘度指数向上剤が1種以上存在していてもよい。
【0094】
1つ以上の流動点降下剤が存在してもよい。
【0095】
さび止め剤は、一般に、潤滑された金属表面を、水または他の汚染物質による化学的攻撃から保護する。好適な防錆剤の例としては、非イオン性ポリオキシアルキレンポリオールおよびそれらのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、ポリオキシアルキレンポリオール、アニオン性アルキスルホン酸、金属フェノレート、塩基性金属スルホネート、脂肪酸およびアミンが挙げられる。防錆剤は、ジチオリン酸亜鉛でないことが好ましい。
【0096】
1つ以上の防錆剤が存在してもよい。
【0097】
腐食抑制剤(腐食防止剤とも呼ばれる)は、潤滑剤組成物と接触する金属部品の劣化を低減する。腐食抑制剤の例としては、ホスホスルフィド化炭化水素およびホスホスルフィド化炭化水素とアルカリ土類金属酸化物または水酸化物、非イオン性ポリオキシアルキレンポリオールおよびそのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、チアジアゾール、トリアゾールおよびアニオン性アルキルスルホン酸との反応によって得られる生成物が挙げられる。好適なエポキシ化エステル腐食抑制剤の例は、特許文献9に記載されている。
【0098】
1つ以上の腐食抑制剤が存在してもよい。
【0099】
酸化防止剤(酸化抑制剤とも呼ばれる)は、使用時に油が劣化する傾向を減少させる。このような劣化の証拠は、例えば、金属表面上のワニス様堆積物の生成、スラッジの形成および粘度増加を含み得る。好適な酸化防止剤の例には、アルキル化ジフェニルアミン、N-アルキル化フェニレンジアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、ジメチルキノリン、トリメチルジヒドロキノリンおよびそれから誘導されるオリゴマー組成物、ヒンダードフェノール(無灰(金属を含まない)フェノール化合物および特定のフェノール化合物の中性および塩基性金属塩を含む)、芳香族アミン(アルキル化および非アルキル化芳香族アミンを含む)、硫化アルキルフェノールおよびアルカリおよびそれらのアルカリ土類金属塩、アルカリ化ヒドロキノン、ヒドロキシル化チオジフェニルエーテル、アルキリデンビスフェノール、チオプロピオネート、金属ジチオカルバミン酸、1,3,4-ジメルカプトチアジアゾールおよび誘導体、油溶性銅化合物(例えば、合成または天然のカルボン酸の銅ジヒドロカルビル、チオ-またはチホ-ホスフェート、銅塩、例えば、C8~C18脂肪酸、不飽和酸または分岐カルボン酸、例えばアルケニルコハク酸または無水物から誘導される塩基、中性または酸性のCu(I)および/またはCu(II)塩)、好適にはC5~C12アルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、ノニルフェノールカルシウム硫化物、バリウムt-オクチルフェニル硫化物、ジオクチルフェニルアミン、リン化または硫化炭化水素、油溶性フェネート、油溶性硫化フェネート、ドデシルフェノール硫化カルシウム、硫化炭化水素、リン化炭化水素、リンエステル、低硫黄過酸化物分解剤等が挙げられる。
【0100】
1つ以上の抗酸化剤が存在してもよい。1つ以上の種類の抗酸化剤が存在してもよい。
【0101】
消泡剤(減泡剤とも呼ばれる)は、安定した泡の形成を遅らせる。好適な消泡剤の例としては、シリコーン、有機ポリマー、シロキサン(ポリシロキサンおよび(ポリ)ジメチルシロキサン、フェニルメチルシロキサンを含む)、アクリレート等が挙げられる。
【0102】
1つ以上の消泡剤が存在してもよい。
【0103】
シール膨潤剤(シール相溶剤またはエラストマー相溶助剤とも呼ばれる)は、例えば、流体中の反応またはエラストマー中の物理的変化を引き起こすことによって、エラストマーシールを膨潤させるのを助ける。好適なシール膨潤剤の例には、長鎖有機酸、有機リン酸塩、芳香族エステル、芳香族炭化水素、エステル(例えば、フタル酸ブチルベンジル)およびポリブテニル無水コハク酸が含まれる。
【0104】
1つ以上のシール膨潤剤が存在してもよい。
【0105】
潤滑剤組成物および/または添加剤濃縮物中に存在し得る他の添加剤の例としては、極圧および/または耐摩耗添加剤(非金属、リン含有、非リン含有、硫黄含有、非硫黄含有極圧添加剤およびリンおよび硫黄含有炭化水素を含む)、界面活性剤、解乳化剤、焼き付き防止剤、ワックス調整剤、潤滑剤、防染剤、発色剤および金属不活性化剤が挙げられる。
【0106】
本態様に用いる基油組成物は、潤滑剤組成物の75重量%以上を占めることが好ましく、少なくとも80重量%以上がより好ましく、少なくとも85重量%以上がさらに好ましく、少なくとも90重量%以上がさらに好ましい。さらに好ましくは、基油組成物は、少なくとも94%などの92~97重量%を占める。
【0107】
基油組成物は、任意の好適な基油とすることができ、適宜、従来の潤滑油に使用される鉱油、合成油、植物油および動物油ならびにそれらの混合物から選択することができる。具体的には、API規格1509「ENGINE OIL AND CERTIFICATION SYSTEM」、2007年4月、16th版付録Eに準拠した、API(米国石油研究所)規格における基本グループI、II、III、IVまたはVに挙げられる(表1に記載)。
【0108】
【表1】
【0109】
グループI、グループIIおよびグループIIIベースストックは、鉱油に由来し得る。グループIベーストックは、典型的には、溶媒抽出および溶媒脱蝋、または溶媒抽出および触媒脱蝋を含む公知のプロセスによって製造される。グループIIおよびグループIIIベーストックは、典型的には、接触水素化および/または接触水素化分解、および接触水素化異性化を含む公知のプロセスによって製造される。好適なグループIベースストックは、ExxonMobilから入手可能なAP/Eコア150である。好適なグループIIベーストックは、EHC 50およびEHC 110であり、ExxonMobilから入手可能である。好適なIII群ベーストックには、例えばSK潤滑剤Lubricnatsから入手可能なYubase 4およびYubase 6が含まれる。好適なグループVベースストックは、エステルベースストック、例えば、Croda International plcから入手可能なPriolube 3970である。好適なグループIVベーストックには、アルファオレフィンの水素化オリゴマーが含まれる。好適には、オリゴマーは、フリーラジカルプロセス、Zeigler触媒作用、またはカチオン性Friedel-Crafts触媒作用によって作製され得る。ポリ-アルファ-オレフィンベーストックは、C8、C10、C12、C14オレフィンおよびそれらの1つまたはそれ以上の混合物から誘導され得る。一実施形態では、ポリ-アルファ-オレフィンベースストックは、C10およびC12オレフィンから誘導されてもよい。
【0110】
潤滑剤組成物および潤滑粘度の油は、天然油、鉱油(石油由来油または石油由来鉱油と呼ばれることがある)、非鉱油およびそれらの混合物である1つまたはそれ以上の基油および/または基油を含むことができる。天然油には、動物油、魚油、および植物油が含まれる。鉱油には、パラフィン油、ナフテン油およびパラフィン-ナフテン油が含まれる。鉱油はまた、石炭またはシェールに由来する油を含み得る。
【0111】
好適な基油およびベースストックは、より単純なまたはより小さな分子のより大きなまたはより複雑な分子への化学的組み合わせ(例えば、重合、オリゴマー化、縮合、アルキル化、アシル化)などのプロセスから誘導され得る。
【0112】
好適なベースストックおよび基油は、気体-液体材料、石炭-液体材料、バイオマス-液体材料およびそれらの組み合わせから誘導され得る。
【0113】
好ましくは、基油は、ポリ-アルファ-オレフィン成分を含む合成基油である。
【0114】
本発明の第1の態様の潤滑剤組成物に使用するための好ましい実施形態において、変性ポリ-アルファ-オレフィンを含む基油が提供される。変性ポリ-アルファ-オレフィンの任意の好適な量を使用することができ、それは、全組成物の5~95重量%、より好ましくは10~90重量%、および任意に30~88重量%を含み得る。本実施形態における基油は、合成基油であることが好ましく、従来のポリ-アルファ-オレフィンを含むことがより好ましい。任意に、基油は、1つまたはそれ以上の添加剤担体をさらに含み、これは、典型的には、グループVベースストック、任意にポリマーまたは非ポリマーベースストックなどの他のベースストックから選択することができ、任意に極性成分を有する。好ましくは、添加剤担体はエラストマー収縮性ではなく、より好ましくはエラストマー膨潤性である。
【0115】
変性ポリ-アルファ-オレフィンは、好ましくは、エステル基などの比較的極性の官能基で官能化された官能化ポリ-アルファ-オレフィンであってもよい。好ましくは、変性ポリ-アルファ-オレフィン中のオレフィン対エステル比は、20:1~1:1の範囲である。変性ポリ-アルファ-オレフィンは、本明細書中で使用される場合、好ましくは、比較的極性の官能基を有するモノマー、例えば、比較的極性の官能基を有するかまたは有するように適合されたオレフィンモノマーとの1つまたはそれ以上のアルファ-オレフィンモノマーの共重合によって得ることができ、好ましくは得られる。変性ポリ-アルファ-オレフィンは、好ましくは、1つまたはそれ以上のアルファ-オレフィンモノマーとエステル(例えば、酸のアルキルエステル、例えば、ジカルボン酸のアルキルエステル)との共重合体、および好ましくはオレフィン性アルキルエステルを含む。他のエステル官能基は、ブタン二酸および無水コハク酸を含み得る。変性ポリ-アルファ-オレフィンの一例は、アルファ-オレフィンモノマー(例えば、ドデセン鎖長を有する)とオレフィンアルキルエステルとのコポリマーであり、例えば、デセンオレフィン鎖長を有し、アルファオレフィンモノマーと官能化モノマーとの比が3:2~5:1、好ましくは2:1~3:1の範囲であり、好ましくはランダム化コポリマーである。市販の変性ポリ-アルファ-オレフィンの事例としては、Aria(登録商標)WTP40、またはKetjenlube(登録商標)240のようなKetjenlube等級が挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
好ましくは、変性ポリ-アルファ-オレフィンは、100℃での動粘度が40cStまたは100cStまたはその約から選択される。ロボットギアに使用するためには、変性ポリ-アルファ-オレフィンは、100℃での動粘度が40cStまたはその約であることが好ましい。風力タービンまたは工業用ギアでの使用のために、変性ポリ-アルファ-オレフィンは、100℃での動粘度が100cStまたはそのあたりであることが好ましい。
【0117】
任意の好適なポリ-アルファ-オレフィンを使用することができるが、PAO8のような比較的低粘度のポリ-アルファ-オレフィン(これは、変性ポリ-アルファ-オレフィンに対して低い粘度を意味する)が好ましい。任意に、ポリ-アルファ-オレフィンは、高粘度の従来のポリ-アルファ-オレフィン(例えば、従来のPAO40および/または100)および/またはメタロセンポリ-アルファ-オレフィン(例えば、メタロセンPAO50および/または135)のような高粘度のポリ-アルファ-オレフィンであるか、または含むか、または構成される。
【0118】
特定のベーストックを選択することができ、特定の基油は、必要に応じて、任意の好適な粘度グレードの基油を提供するように配合することができる。潤滑剤組成物は、60~700cSt、より好ましくは68~680cStなどの任意の好適な粘度グレード(40℃での動粘度によって定義される)を有し得る。
【0119】
1つの好ましい実施形態において、基油は、25:75~85:15、より好ましくは40:60~80:20、所望により50:50、または60:40~75:25の範囲などの変性ポリ-アルファ-オレフィンのより高い割合で、変性ポリ-アルファ-オレフィンおよびポリ-アルファ-オレフィンを含むことができる。一実施形態では、約70:30の比率を提供することができる。好ましくは、本実施形態によれば、変性ポリ-アルファ-オレフィンは、100℃での動粘度が40cSt程度であり、40℃で150cStの動粘度によって規定される粘度グレードを有する潤滑組成物を配合する際に使用するのに適しており、好ましくはロボットギアに使用するのに適している。変性ポリ-アルファ-オレフィンおよびポリ-アルファ-オレフィンは、基油組成物の主たる部分を構成することができ、好ましくは、基油組成物の少なくとも60重量%、より好ましくは、基油組成物の少なくとも75重量%を構成することができる。より好ましくは、それは、基油組成物の少なくとも85%、および任意に少なくとも90%を構成する。
【0120】
好ましい基油組成物は、1つまたはそれ以上の添加剤担体を含む。添加剤担体は、好ましくは、基油の極性を増加させる働きをし、好ましくは、添加剤濃縮物のベーストック成分として使用され得る。このような添加剤担体は、グループVベースストックであってもよい。好ましくは、添加剤担体は比較的極性のベースストックである。任意に、添加剤担体は、40℃での動粘度が20~40cSt、好ましくは25~35cStであってもよい。添加剤担体は、例えば、アルキル化ナフタレン、アルキルベンゼンまたは低粘度エステルから選択することができ、好ましくは、アルキル化ナフタレンまたは低粘度アルキルベンゼンが使用される。低粘度エステルは、例えば、ジイソデシルアジペート(DIDA)またはジイソトリデシルアジペート(DITA)であり得、これは、20重量%までの量で基油中に存在し得るが、より好ましくは15重量%まで、さらに好ましくは10重量%まで、およびいずれかの場合には少なくとも5重量%までの量で存在し得る。好ましくは、添加剤担体は(さらに好ましくは)アルキル化ナフタレンを含み、基油組成物の25重量%まで、好ましくは15%までの量で提供される。アルキル化ナフタレンは、好ましくは基油組成物の少なくとも5%、好ましくは少なくとも7.5%、好ましくは最大12%、より好ましくは10%の量で提供される。
【0121】
本実施形態の基油組成物は、本発明の潤滑剤組成物において、長寿命をもたらすことができ、スラッジの影響を受けにくく、上で定義したものなどの添加剤組成物を効果的に可溶化することができる安定な潤滑剤組成物を提供する点で、特に有利である。また、本実施形態の基油組成物は、優れたエラストマー相溶性を与える。
【0122】
好ましい実施形態による基油は、潤滑剤組成物について、40℃で130~170cSt、より好ましくは40℃で135~165cStの粘度を可能にし得る。
【0123】
本発明の好ましい実施形態では、潤滑剤組成物は、上記で定義されたものなどの変性ポリ-アルファ-オレフィンを含む基油組成物と、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンと、少なくとも1つのヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性モノ-、ジ-もしくはトリ-グリセリド、またはそれらの誘導体とを含む添加剤組成物とを含む合成ギア油組成物として提供される。
【0124】
潤滑剤組成物は、市販の潤滑油と比較するために調製され、ギア油、特にロボットギア油としての性能を比較するために、多数の性能試験を受けた。特に、摩耗については、ギア摩耗試験、ベアリングギア性能試験およびエラストマー適合性試験を含む試験を提供した。
【0125】
実施した性能または摩耗試験を以下に要約する。
【0126】
FZG試験:この試験は、一組のギアの界面における潤滑油の摩耗性能を試験するために設計された良く知られた試験である。この試験では、既知の負荷条件またはステージに設定されているねじりカップリングを介してギアに負荷をかける。ギアは可変速電動機で回転する。流体温度は、加熱および/または冷却要素によって制御される。試験は、Aプロファイルギアを用いて、流体のギア歯面スカッフィング抵抗を評価する。リグは、15分間隔で最大12回の累進荷重段階を通じて1450rpmで運転される。標準的な試験は、90℃の流体温度で実行される。ギア歯は、荷重段階ごとにスカッフィングの有無を検査する。試験は、ISO14635-1に規定された試験方法に従って実施した。破損前の負荷担持容量は、破損段階によって同定され、合格/不合格と判定された。不合格は、試験条件下で不合格段階12以上に達しなかったとみなされた。不合格状況の評価は、ギア上の累積引っかき幅が20mmを超える場合である。これは、スカッフィング摩耗の指標である。
【0127】
FE8試験:FE8試験は業界内で認められており、ベアリングギアの性能を評価する良好な手段である。転がり潤滑条件と滑り潤滑条件の両方が同じ試験で存在するので、この試験は転動体を有するギアに使用される潤滑剤の試験性能に特に適している。FE8試験の2つのステップを実施した。ステップ1では、摩耗およびトルク性能が測定され、潤滑剤組成物の性能を評価するために使用することができる。ステップ2では、生成物の長期的な完全性が調べられる。ローラーおよびワッシャーを含む試験片を目視で検査し、表面仕上げを評価した。
【0128】
FE8試験はDIN-51819-3と一致して実施した。潤滑剤の適性を分類するために、ベアリング構成要素の試験期間および重量損失を使用する。使用した試験ベアリングは真ちゅう保持器付き円筒転動スラストベアリング81212である。1個のベアリングは15個の円筒形転動体、黄銅保持器、ハウジング軌道盤および軸軌道盤から構成される。軌道盤と転動体の材質は通常のベアリング鋼100Cr6、および保持器の材質はCuZn40である。ベアリングは、FAG, Schweinfurt 社製である。耐摩耗試験で円筒ベアリングを使用する利点は、滑り量が多く(最大14.8%)、したがって潤滑剤に対する耐摩耗要求が高いことである。
【0129】
FE8試験では、テストベンチに円筒転動スラストベアリングを2個搭載している。試験ベアリングには、軸方向試験力を与えるために、円板ばねパッケージを用いてひずみを加える。熱シールドは、対流加熱によってテストヘッドを加熱し、必要に応じてラジアルファンを使用して温度を下げる。
【0130】
FE8ステップ1では、80kNの負荷を80℃で7.5rpmの速度で80時間以上かけて加える。4リットルの油リザーバを使用し、ベアリング当たり0.1リットル/分の流量である。ベアリングの摩耗量は、転動セット、リング、保持器の重量損失で測定する。転動セットの摩耗が30mg未満であることは、DIN-51819-3方法論の下で許容されると考えられる。
【0131】
FE8ステップ2では、80kNの負荷を70℃で75rpmの速度で800時間以上かけて加える。再び、4リットルの油リザーバが、ベアリング当たり0.1リットル/分の流量で使用される。
【0132】
エラストマー適合性試験として、エラストマー適合性試験後のエラストマーおよび油の両方の状態を評価し、エラストマー適合性部品としてのスラッジ形成の評価を提供することができる。2つの静的エラストマー適合性試験を実施した:エラストマー材料72NBR902を95℃で1008時間以上にわたって試験し(NBR試験と呼ばれる)、およびエラストマー材料75FKM585を120℃で1008時間以上にわたって試験した(FKM試験と呼ばれる)。質量、体積、ショアA硬度、引張強度、破断伸度のそれぞれの場合の変化を、基準に対するパーセンテージで測定した。NBRおよびFKM試験は、ISO 1817に準拠して実施した。NBRおよびFKM試験からの使用油を、エラストマー適合性をさらに特徴付けるために、新鮮な油およびスラッジ形成に対する色変化について視覚的に評価した。
【実施例
【0133】
実施例1
サンプル潤滑油配合物は、ベースストックの混合物を含む基油を提供し、それに少なくとも耐摩耗剤および希釈剤中の他の添加剤を含む添加剤組成物(希釈剤はベースストックの1つである)を配合することによって調製した。製剤を以下の表2に要約する。
【0134】
【表2】
【0135】
実施例2
次いで、試料S1~S6を耐摩耗性能およびエラストマー適合性試験に供した。特に、耐摩耗性のためのFZGおよびFE8ステップ1およびステップ2試験、ならびに上記のようなNBRおよびFKMエラストマー試験を行う。試験後の油を目視でスラッジをチェックし、レーザ顕微鏡で表面仕上げ試験を行った。試料S1~S6についての試験結果を以下の表3に示す。
【0136】
【表3】
【0137】
実施された後の試験(S5およびS6)では、FZGおよび他の試験は完了されず、FE8ステップ1摩耗試験は、長寿命ロボットギア油で使用するための劣った耐摩耗性能を実証した。
【0138】
耐摩耗性の有意な改善は、S1、S5およびS6(これは含まない)と比較して、試料S2、S3およびS4(ヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性グリセリドを含有する)についてのFE8ステップ1摩耗試験結果の有意な改善によって例示されるように、ヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性グリセリドの含有によって実証され得る。
【0139】
表3のデータからわかるように、アルキル化ナフタレンと共に変性PAOとPAOのブレンドを使用すると、全試料において一般に好適なエラストマー適合性が得られる。試料はすべてスラッジフリーであった。さらに、(データが得られた)試料の各々について、質量変化、体積変化および硬度変化の測定値は、許容範囲内であった。一般的に非常に良好なエラストマー相溶性は試料S3で達成され、引張強度変化と同様にNBRエラストマー相溶性試験のための破断伸度変化に関して、S2(MoDTCおよびアルキル化ナフタレンの割合が異なる)のような他の試料よりも有意に良好であった。ヒドロキシルポリカルボン酸の油溶性グリセリドと組み合わせたMoDTCを有するS2、S3およびS4のような配合物は、非常に良好なエラストマー適合性および優れた耐摩耗特性を有する、転動体を有するギアを含む、長寿命ロボットギア油を提供することができ、ことが明らかである。
【0140】
本発明を、好ましい実施形態を参照して説明した。しかしながら、当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、変形および修正を行うことができることが理解されるであろう。