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特許7418342固体添加剤および樹脂組成物ならびにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】固体添加剤および樹脂組成物ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08K 9/04 20060101AFI20240112BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240112BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240112BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240112BHJP
   C08K 5/04 20060101ALI20240112BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08K9/04
C08L101/00
C08K3/04
C08K3/013
C08K5/04
C08L69/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020552619
(86)(22)【出願日】2019-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2019041864
(87)【国際公開番号】W WO2020085476
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2018202314
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】立川 友晴
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 一史
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 裕明
(72)【発明者】
【氏名】大北 正信
(72)【発明者】
【氏名】田渕 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】緒方 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山形 憲一
(72)【発明者】
【氏名】山根 康之
(72)【発明者】
【氏名】秋山 穣慈
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108531(JP,A)
【文献】国際公開第2004/065496(WO,A1)
【文献】特開2012-111680(JP,A)
【文献】特開2017-119792(JP,A)
【文献】特開2010-111876(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025799(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に添加するための固体添加剤であって、
カーボンナノチューブ(A)およびフルオレン化合物(B)を含み、
前記フルオレン化合物(B)が、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも一種であり、
前記フルオレン化合物(B)の割合が、前記カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して1~200質量部であり、かつ
前記カーボンナノチューブ(A)の表面の少なくとも一部が前記フルオレン化合物(B)で被覆されている固体添加剤。
【化1】
(式中、
環Z およびZ は、互いに同一でまたは異なって、アレーン環を示し、
およびR は、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、p1およびp2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
およびX は、互いに同一でまたは異なって、ヘテロ原子含有官能基を示し、n1およびn2は、互いに同一でまたは異なって、1以上の整数を示し、
は置換基を示し、kは0~8の整数を示す)
【化2】
(式中、
およびA は、互いに同一でまたは異なって、アルキレン基を示し、
、X 、R およびkは前記式(1)に同じ)
【請求項2】
前記式(1)において、XおよびXが、互いに同一でまたは異なって、基-[(OAm1-OH](式中、Aはアルキレン基を示し、m1は0以上の整数を示す)であり、かつn1およびn2が1である請求項記載の固体添加剤。
【請求項3】
前記式(2)において、XおよびXが、互いに同一でまたは異なって、基-COOR(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)である請求項1または2記載の固体添加剤。
【請求項4】
前記フルオレン化合物(B)が非晶質構造を有する請求項1~のいずれかに記載の固体添加剤。
【請求項5】
前記フルオレン化合物(B)の割合が、前記カーボンナノチューブ(A)100質量部に対して5~200質量部である請求項1~のいずれかに記載の固体添加剤。
【請求項6】
圧縮強度が1N以上である請求項1~のいずれかに記載の固体添加剤。
【請求項7】
熱可塑性樹脂に添加して溶融混練するための添加剤である請求項1~のいずれかに記載の固体添加剤。
【請求項8】
導電剤である請求項1~のいずれかに記載の固体添加剤。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ(A)と前記フルオレン化合物(B)とを混合する請求項1~のいずれかに記載の固体添加剤の製造方法。
【請求項10】
溶媒の存在下で、前記カーボンナノチューブ(A)と前記フルオレン化合物(B)とを混合する請求項記載の製造方法。
【請求項11】
熱可塑性樹脂および請求項1~のいずれかに記載の固体添加剤を含む樹脂組成物であって、前記固体添加剤の割合が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して1~20質量部である樹脂組成物
【請求項12】
熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂である請求項11記載の樹脂組成物。
【請求項13】
体積抵抗率が1012Ω・cm以下であり、かつシャルピー衝撃強度が30kJ/m以上である請求項12記載の樹脂組成物。
【請求項14】
熱可塑性樹脂と固体添加剤とを溶融混錬する請求項1113のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブとフルオレン骨格を有する化合物とを含む樹脂用固体添加剤および樹脂組成物ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということがある)は、電気伝導性、熱伝導性、熱安定性、機械的特性に優れているため、熱可塑性樹脂に混練してその物性を向上させる試みが行われている。しかし、CNTは、樹脂中で均一に分散させるのが困難であり、樹脂中において凝集物として存在すると、衝撃強度などの機械的特性や導電性が低下する懸念がある。
【0003】
特許第6095761号公報(特許文献1)には、ポリカーボネート(PC)などの粉末状熱可塑性樹脂と、CNTなどの炭素系導電材料と、フルオレン系分散剤とを含む、押出混練によるコンパウンド製造のための顆粒状組成物が開示されている。この顆粒状組成物は、例えば少量のフルオレン系分散剤を添加した粉末状のPCに、CNTが添着されたものであって、CNTは、PCの内部方向に向かって傾斜的に減少するように存在している。
【0004】
特開2010-111876号公報(特許文献2)には、9,9-ビスアリールフルオレン骨格を有する化合物を構成モノマーとして含む熱可塑性樹脂と、他の熱可塑性樹脂と、CNTとを含有する組成物が開示されている。この組成物は、分散液としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にコーティングされて、CNTが高度に分散されたコーティング膜を形成する。
【0005】
特開2012-111680号公報(特許文献3)には、9,9-ビス(置換アリール)フルオレン骨格を有する水溶性化合物と、CNTなどのナノカーボンと、水性溶媒を含有するナノカーボン水分散体が開示されている。このナノカーボン水分散体は、ガラス板上に塗布されて、ナノカーボンが高濃度に孤立分散した乾燥膜を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6095761号公報
【文献】特開2010-111876号公報
【文献】特開2012-111680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の顆粒状組成物は、CNTを減容化し、取扱性を改善しており、これを添加した樹脂組成物の導電性や外観を向上させているものの、CNTの高度な分散性は達成されておらず、衝撃強度などの機械的特性は十分ではない。また、特許文献2に記載の組成物や特許文献3に記載の水分散体は、あくまでコーティング材料であって、コーティングの対象となる樹脂の成形体自身の機械的特性や導電性を向上することはできず、用途が限定される。
【0008】
従って、本発明の目的は、熱可塑性樹脂中にCNTを均一に分散でき、樹脂組成物における衝撃強度などの機械的特性を向上できる固体添加剤と、この添加剤を含む樹脂組成物と、これらの製造方法とを提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、樹脂組成物の導電性と機械特性とを高度に両立できる固体添加剤と、この添加剤を含む樹脂組成物と、これらの製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、取り扱い性に優れ、かつ樹脂組成物の導電性と機械的特性とを両立できる固体添加剤と、この添加剤を含む樹脂組成物と、これらの製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、熱可塑性樹脂に添加するための固体添加剤として、CNT(A)とフルオレン化合物(B)とを組み合わせ、前記CNT(A)の表面の少なくとも一部を、前記フルオレン化合物(B)で被覆または処理することにより、熱可塑性樹脂中にCNTを均一に分散でき、樹脂組成物における衝撃強度などの機械的特性を向上できる固体添加剤を見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の固体添加剤は、熱可塑性樹脂に添加するための固体添加剤(添加剤組成物)であって、CNT(A)およびフルオレン化合物(B)を含み、かつCNT(A)の表面の少なくとも一部が、前記フルオレン化合物(B)で被覆または処理されている、いわば添加剤としての予備分散体または混合物、またはCNTとフルオレン化合物との複合体である。前記フルオレン化合物(B)は、フルオレンの9位に結合する炭化水素基を介してヘテロ原子含有官能基を有していてもよい。
【0013】
前記フルオレン化合物(B)は、下記式(1)で表される化合物であってもよい。
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、
環ZおよびZは、互いに同一でまたは異なって、アレーン環を示し、
およびRは、互いに同一でまたは異なって、置換基を示し、p1およびp2は、互いに同一でまたは異なって、0以上の整数を示し、
およびXは、互いに同一でまたは異なって、ヘテロ原子含有官能基を示し、n1およびn2は、互いに同一でまたは異なって、1以上の整数を示し、
は置換基を示し、kは0~8の整数を示す)
【0016】
前記式(1)において、XおよびXは、互いに同一でまたは異なって、基-[(OAm1-OH](式中、Aはアルキレン基を示し、m1は0以上の整数を示す)であり、かつn1およびn2は1であってもよい。
【0017】
前記フルオレン化合物(B)は、下記式(2)で表される化合物であってもよい。
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、
およびAは、互いに同一でまたは異なって、アルキレン基を示し、
、X、Rおよびkは前記に同じ)
前記式(2)において、XおよびXは、互いに同一でまたは異なって、基-COOR(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)であってもよい。
【0020】
前記フルオレン化合物(B)は非晶質構造を有していてもよい。前記フルオレン化合物(B)の割合は、CNT(A)100質量部に対して5~200質量部程度である。前記固体添加剤の圧縮強度は1N以上であってもよい。前記固体添加剤は、熱可塑性樹脂に添加して溶融混練するための添加剤であってもよい。前記固体添加剤は、導電剤であってもよい。
【0021】
本発明には、前記CNT(A)と前記フルオレン化合物(B)とを混合する前記固体添加剤の製造方法も含まれる。この製造方法において、溶媒の存在下で、前記CNT(A)と前記フルオレン化合物(B)とを混合してもよい。
【0022】
本発明には、熱可塑性樹脂および前記固体添加剤を含む樹脂組成物も含まれる。前記固体添加剤の割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.1~20質量部程度である。前記熱可塑性樹脂はポリカーボネート系樹脂であってもよく、ポリカーボネート系樹脂組成物は、1012Ω・cm以下の体積抵抗率および30kJ/m以上のシャルピー衝撃強度を有していてもよい。
【0023】
本発明には、熱可塑性樹脂と前記固体添加剤とを溶融混錬する前記樹脂組成物の製造方法も含まれる。
【0024】
本発明には、熱可塑性樹脂に前記固体添加剤を添加し、CNTを熱可塑性樹脂中に分散させる方法も含まれる。また、本発明には、CNTを熱可塑性樹脂中に分散させるための前記固体添加剤の使用も含まれる。
【0025】
なお、本明細書および請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、「Cアルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。また、本明細書および請求の範囲において「フルオレン化合物」とは、フルオレン環を主要な骨格として有する化合物を意味する。
【発明の効果】
【0026】
本発明では、固体添加剤として、CNTとフルオレン化合物とを組み合わせることにより、CNTの表面の少なくとも一部が前記フルオレン化合物で被覆されることから、熱可塑性樹脂中にCNTを均一に分散でき、樹脂組成物における衝撃強度などの機械的特性が向上する。また、固体添加剤中でのフルオレン化合物の割合を調整することにより、樹脂組成物の導電性と機械特性とが向上する。さらに、CNTは、その表面の少なくとも一部がフルオレン化合物で被覆されているため、取り扱い性に優れ、かつ樹脂組成物の導電性と機械的特性とを両立できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施例3で得られた固体添加剤の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(5000倍)である。
図2図2は、実施例3で使用したクムホCNTのSEM写真(5000倍)である。
図3図3は、実施例3で使用したBPEFのSEM写真(5000倍)である。
図4図4は、実施例4で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)である。
図5図5は、実施例3で得られた固体添加剤のDSCチャートである。
図6図6は、実施例4で使用したクムホCNTのDSCチャートである。
図7図7は、実施例4で使用したBPEFのDSCチャートである。
図8図8は、実施例8で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)である。
図9図9は、実施例8で使用したFDP-mのSEM写真(5000倍)である。
図10図10は、実施例8で得られた固体添加剤のDSCチャートである。
図11図11は、実施例8で使用したFDP-mのDSCチャートである。
図12図12は、実施例12で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)である。
図13図13は、実施例12で使用したBCFのSEM写真(5000倍)である。
図14図14は、実施例12で得られた固体添加剤のDSCチャートである。
図15図15は、実施例12で使用したBCFのDSCチャートである。
図16図16は、実施例16で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)である。
図17図17は、実施例16で使用したBNFのSEM写真(5000倍)である。
図18図18は、実施例16で得られた固体添加剤のDSCチャートである。
図19図19は、実施例16で使用したBNFのDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の固体添加剤は、カーボンナノチューブ(A)およびフルオレン化合物(B)を含む。
【0029】
[カーボンナノチューブ(A)]
CNT(A)は、ナノサイズの直径を有するもの(ナノスケールカーボンチューブ)であればよく、慣用の各種のCNTを利用できる。CNT(A)のチューブ内空間部には金属(鉄など)などが内包されていてもよい。
【0030】
代表的なCNTとしては、(A1)単層または多層カーボンナノチューブ、(A2)アモルファスナノスケールカーボンチューブ、(A3)ナノフレークカーボンチューブ、(A4)ナノフレークカーボンチューブおよび入れ子構造の多層カーボンナノチューブから選択された少なくとも1種のカーボンナノチューブ(a)と、炭化鉄または鉄とからなり、このカーボンナノチューブ(a)のチューブ内空間部に充填されている炭化鉄または鉄(b)とで構成された鉄-炭素複合体などが例示できる。これらのカーボンナノチューブは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
単層または多層カーボンナノチューブ(A1)は、黒鉛シート(すなわち、黒鉛構造の炭素原子面またはグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。このような構造を有するカーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じた構造を有するカーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブと称され、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になった構造を有するカーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブ(入れ子構造の多層カーボンナノチューブ)と称されている。単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとは、それぞれ単独で使用してもよく、組み合わせて使用してもよい。
【0032】
単層カーボンナノチューブのサイズは、直径(平均直径)が0.4~10nmおよび長さ(平均長さ)が1~500μm、好ましくは直径が0.7~5nmおよび長さが1~100μm、さらに好ましくは直径が0.7~2nmおよび長さが1~20μmであってもよい。
【0033】
多層カーボンナノチューブのサイズは、直径(平均直径)が1~100nmおよび長さ(平均長さ)が1~500μm、好ましくは直径が1~50nmおよび長さが5~100μm、さらに好ましくは直径が1~40nmおよび長さが10~50μm(特に、直径が5~20nmおよび長さが20~30μm)であってもよい。
【0034】
多層カーボンナノチューブの嵩密度(タッピング法)は、例えば0.03~0.2g/cc、好ましくは0.05~0.15g/cc、さらに好ましくは0.06~0.14g/ccである。
【0035】
アモルファスナノスケールカーボンチューブ(A2)としては、例えば、WO00/40509(特許第3355442号公報)に記載のナノチューブ、すなわち、カーボンからなる主骨格を有し、直径が0.1~1000nmであり、アモルファス構造を有するナノスケールカーボンチューブであって、直線状の形態を有し、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔(d002)が3.54Å以上(特に3.7Å以上)であり、回折角度(2θ)が25.1度以下(特に24.1度以下)であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上(特に7.0度以上)であるカーボンチューブなどが例示できる。
【0036】
ナノフレークカーボンチューブ(A3)としては、例えば、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状または張り子状(paper mache状)に集合して構成されたカーボンナノチューブなどが例示できる。
【0037】
鉄-炭素複合体(A4)としては、例えば、特開2002-338220号公報に記載の鉄-炭素複合体、すなわち(a)ナノフレークカーボンチューブおよび入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと、(b)炭化鉄または鉄とからなり、前記カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10~90%の範囲に炭化鉄または鉄(b)が充填されている鉄-炭素複合体などが例示できる。
【0038】
これらのうち、導電性や経済性などのバランスに優れる点から、多層カーボンナノチューブ、入れ子構造の多層カーボンナノチューブから選択された少なくとも1種のカーボンナノチューブと炭化鉄または鉄とからなる鉄-炭素複合体が好ましく、多層カーボンナノチューブが特に好ましい。
【0039】
[フルオレン化合物(B)]
フルオレン化合物(B)は、フルオレン環を主要な骨格として有しており、CNT(A)の表面の少なくとも一部を被覆することにより、固体添加剤の取り扱い性や熱可塑性樹脂中でのCNT(A)の分散性を向上できる。
【0040】
フルオレン化合物(B)は、フルオレン環を主要な骨格として有していればよく、フルオレン(無置換の9H-フルオレン)などであってもよいが、フルオレンの9位に炭化水素基を有する化合物であってもよく、熱可塑性樹脂中でのCNTの分散性を向上できる点から、フルオレンの9位に結合する炭化水素基を介してヘテロ原子含有官能基を有するフルオレン化合物がさらに好ましく、フルオレンの9,9位に結合する2つの炭化水素基を介してヘテロ原子含有官能基を有するフルオレン化合物がより好ましい。ヘテロ原子含有官能基は、後述するXおよびXとして例示されるヘテロ原子含有官能基と、好ましい態様も含め、同一であり、ヒドロキシ基含有基、カルボキシル基含有基(カルボキシル基のエステルや塩などの誘導体も含む)であってもよい。炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などが挙げられ、ヘテロ原子含有官能基をフルオレンの9位に連結させるための炭化水素基としては、メチレン基やエチレン基などのアルキレン基、シクロへキシレン基などのシクロアルキレン基、フェニレン基やナフチレン基などのアリーレン基(アレーンジイル基)などを例示でき、C1-4アルキレン基、C6-10アリーレン基が好ましい。
【0041】
このようなフルオレン化合物(B)は、具体的には、前記式(1)で表される化合物や、前記式(2)で表される化合物であってもよい。
【0042】
前記式(1)において、環ZおよびZで表されるアレーン環には、ベンゼン環などの単環式アレーン環、多環式アレーン環が含まれる。単環式アレーン環および多環式アレーン環は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
多環式アレーン環としては、縮合多環式アレーン環(縮合多環式炭化水素環)、環集合アレーン環(環集合芳香族炭化水素環)などが例示できる。
【0044】
縮合多環式アレーン環には、縮合二環式アレーン環、縮合二乃至四環式アレーン環が含まれる。前記縮合二環式アレーン環としては、ナフタレン環などの縮合二環式C10-16アレーン環などが例示できる。前記縮合三環式アレーンとしては、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合二乃至四環式アレーン環などが例示できる。これらの縮合多環式アレーン環は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ナフタレン環、アントラセン環が好ましく、ナフタレン環が特に好ましい。
【0045】
環集合アレーン環には、ビアレーン環、テルアレーン環などが含まれる。前記ビアレーン環としては、ビフェニル環、ビナフチル環、1-フェニルナフタレン環や2-フェニルナフタレン環などのフェニルナフタレン環などのビC6-12アレーン環などが例示できる。テルアレーン環としては、テルフェニレン環などのテルC6-12アレーン環などが例示できる。これらの環集合アレーン環は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ビC6-10アレーン環が好ましく、ビフェニル環が特に好ましい。
【0046】
環Zと環Zとは、異なっていてもよく、同一であってもよいが、通常、同一の環である場合が多い。例示した環ZおよびZのうち、ベンゼン環、ナフタレン環、ビフェニル環が好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0047】
なお、フルオレンの9位に置換する環ZおよびZの置換位置は、特に限定されない。例えば、環ZおよびZがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環ZおよびZに対応する基は、1-ナフチル基、2-ナフチル基などであってもよい。
【0048】
およびXで表されるヘテロ原子含有官能基としては、ヘテロ原子として、酸素、イオウおよび窒素原子から選択された少なくとも一種を有する官能基などが例示できる。このような官能基に含まれるヘテロ原子の数は、特に制限されないが、通常1~3個、好ましくは1または2個であってもよい。
【0049】
前記官能基としては、基-[(OA)m1-Y](式中、Yはヒドロキシル基、グリシジルオキシ基、アミノ基、N置換アミノ基またはメルカプト基であり、Aはアルキレン基、m1は0以上の整数である)、基-(CH)m2-COOR(式中、Rは水素原子またはアルキル基であり、m2は0以上の整数である)などが例示できる。
【0050】
基-[(OA)m1-Y]において、YのN置換アミノ基としては、メチルアミノ、エチルアミノ基などのN-モノアルキルアミノ基(N-モノC1-4アルキルアミノ基など)、ヒドロキシエチルアミノ基などのN-モノヒドロキシアルキルアミノ基(N-モノヒドロキシC1-4アルキルアミノ基など)などが例示できる。
【0051】
アルキレン基Aには、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基が含まれる。前記直鎖状アルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などのC2-6アルキレン基などが例示できる。これらのうち、直鎖状C2-4アルキレン基が好ましく、直鎖状C2-3アルキレン基がさらに好ましく、エチレン基が最も好ましい。前記分岐鎖状アルキレン基としては、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基などの分岐鎖状C3-6アルキレン基などが例示できる。これらのうち、分岐鎖状C3-4アルキレン基が好ましく、プロピレン基が特に好ましい。
【0052】
オキシアルキレン基(OA)の繰り返し数(平均付加モル数)を示すm1は、0以上、例えば0~15、好ましくは0~10の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、0~8、0~5、0~4、0~3、0~2、0または1であり、1が最も好ましい。なお、m1が2以上である場合、アルキレン基Aの種類は、同一または異なっていてもよい。また、アルキレン基Aの種類は、環ZおよびZにおいて、同一または異なっていてもよい。
【0053】
基-(CH)m2-COORにおいて、Rで表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキル基などが例示できる。これらのうち、C1-4アルキル基が好ましく、C1-2アルキル基が特に好ましい。メチレン基の繰り返し数を示すm2は、0または1以上の整数であってもよく、例えば0~6、好ましくは0~4、さらに好ましくは0~2、より好ましくは0である。m2は、通常0または1~2であってもよい。前記繰り返し数が平均付加モル数の場合も前記範囲から選択できる。
【0054】
これらのうち、CNT(A)の分散性を向上させる効果が大きく、取り扱い性に優れる点から、基XおよびXは、基-[(OA)m1-OH](式中、Aはアルキレン基、m1は0以上の整数である)が好ましく、基-[(OA)m1-OH](式中、Aはエチレン基などのC2-4アルキレン基、m1は0~5の整数である)がさらに好ましく、基-[(OA)m1-OH](式中、Aはエチレン基などのC2-3アルキレン基、m1は0または1である)がより好ましく、基-[(OA)m1-OH](式中、Aはエチレン基、m1は1である)が最も好ましい。
【0055】
前記式(1)において、環ZおよびZに置換した基XおよびXの個数を示すn1およびn2は、それぞれ1以上であり、好ましくは1~3、さらに好ましくは1または2、最も好ましくは1である。なお、置換数n1と置換数n2とは、同一または異なっていてもよい。基Xと基Xとは、同一または異なっていてもよい。
【0056】
基XおよびXは、環ZおよびZの適当な位置に置換でき、例えば、環ZおよびZがベンゼン環である場合には、フェニル基の2,3,4位、好ましくは3位および/または4位に置換している場合が多く、環ZおよびZがナフタレン環である場合には、ナフチル基の5~8位のいずれかに置換している場合が多く、例えば、フルオレンの9位に対してナフタレン環の1位または2位が置換し(1-ナフチルまたは2-ナフチルの関係で置換し)、この置換位置に対して、1,5位、2,6位などの関係、特にn1およびn2が1である場合、2,6位の関係で基XおよびXが置換している場合が多い。また、n1およびn2が2以上である場合、置換位置は、特に限定されない。また、環集合アレーン環ZおよびZにおいて、基XおよびXの置換位置は、特に限定されず、例えば、フルオレンの9位に結合したアレーン環および/またはこのアレーン環に隣接するアレーン環に置換していてもよい。例えば、ビフェニル環ZおよびZの3位または4位がフルオレンの9位に結合していてもよく、ビフェニル環ZおよびZの3位がフルオレンの9位に結合しているとき、基XおよびXの置換位置は、2,4,5,6,2’,3’,4’位のいずれであってもよく、好ましくは6位に置換していてもよい。
【0057】
前記式(1)において、置換基RおよびRは非反応性基であってもよい。置換基RおよびRとしては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロへキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基(キシリル基)、ビフェニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、t-ブトキシ基などのアルコキシ基;フェノキシ基などのアリールオキシ基;シクロへキシルオキシ基などのシクロアルキルオキシ基;フェノキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基などのアラルキルオキシ基;メチルチオ基などのアルキルチオ基;シクロへキシルチオ基などのシクロアルキルチオ基;チオフェノキシ基などのアリールチオ基;ベンジルチオ基などのアラルキルチオ基;アセチル基などのアシル基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基などの置換アミノ基などが例示できる。これらの置換基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0058】
これらの置換基RおよびRのうち、代表的には、ハロゲン原子;アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基;アルコキシ基;アシル基;ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基などが例示できる。これらの置換基RおよびRのうち、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルコキシ基が好ましく、メチル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-3アルキル基が特に好ましい。なお、置換基RおよびRがアリール基であるとき、置換基RおよびRは、環ZおよびZとともに、前記環集合アレーン環を形成してもよい。置換基Rと置換基Rとは、同一または異なっていてもよい。
【0059】
置換基RおよびRの係数p1およびp2は、環ZおよびZの種類などに応じて適宜選択でき、それぞれ、例えば0~8程度の整数から選択でき、例えば0~4、好ましくは0~3、さらに好ましくは0~2、最も好ましくは0または1である。特に、p1およびp2が1である場合、環ZおよびZがベンゼン環、ナフタレン環またはビフェニル環、置換基RおよびRがメチル基であってもよい。
【0060】
置換基Rとしては、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;カルボキシル基;メトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基などのアルキル基;フェニル基などのアリール基などが例示できる。置換基Rは非反応性基であってもよい。これらの置換基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0061】
これらの置換基Rのうち、カルボキシル基、直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキル基、C1-4アルコキシ-カルボニル基、シアノ基、ハロゲン原子が好ましく、メチル基などのC1-3アルキル基が特に好ましい。置換数kは0~8の整数から選択でき、例えば0~6、好ましくは0~4、さらに好ましくは0~2、より好ましくは0または1、最も好ましくは0である。なお、置換数kが2以上である場合、置換基Rの種類は互いに同一または異なっていてもよい。また、置換基Rの置換位置は、特に限定されず、フルオレン環の2位ないし7位、例えば2位、3位および/または7位などであってもよい。
【0062】
前記式(2)において、AおよびAで表されるアルキレン基としては、直鎖状または分岐鎖状アルキレン基、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-エチルエチレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-8アルキレン基が例示できる。好ましいアルキレン基は直鎖状または分岐鎖状C1-6アルキレン基であり、さらに好ましいアルキレン基は、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、2-メチルプロパン-1,3-ジイル基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキレン基である。
【0063】
アルキレン基AおよびAの置換基としては、フェニル基などのアリール基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基などが例示できる。
【0064】
アルキレン基AおよびAは、エチレン基、プロピレン基などの直鎖状または分岐鎖状C1-4アルキレン基である場合が多い。置換基を有するアルキレン基AおよびAは、1-フェニルエチレン基、1-フェニルプロパン-1,2-ジイル基などであってもよい。これらのうち、エチレン基などのC1-3アルキレン基が好ましい。アルキレン基Aとアルキレン基Aとは、同一または異なっていてもよい。
【0065】
前記式(2)の基XおよびXとしては、前記式(1)のXおよびXとして例示された基を例示できる。前記基XおよびXのうち、基-COOR(式中、Rは水素原子またはアルキル基を示す)が好ましい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのC1-3アルキル基が好ましく、メチル基などのC1-2アルキルがさらに好ましい。
【0066】
前記式(2)において、置換基Rおよびその係数kは、好ましい態様を含め、前記式(1)記載のRおよびkとそれぞれ同一である。
【0067】
これらのうち、導電性と機械特性とを高度に両立できる点から、好ましいフルオレン化合物としては、前記式(1)において、基XおよびXが、基-[(OA)m1-OH]である化合物、前記式(2)において、基XおよびXが、基-COORである化合物が好ましい。特に、前記式(1)で表される前記化合物は、高い導電性を実現し易く、前記式(2)で表される前記化合物は、幅広い配合割合において、機械的特性を向上できる。
【0068】
前記式(1)において、基XおよびXが、基-[(OA)m1-OH]である化合物としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(5-ヒドロキシ-1-ナフチル)フルオレン、9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(ジまたはトリヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(モノまたはジC1-4アルキル-ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス(3-フェニル-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-フェニル-3-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9-ビス(C6-12アリール-ヒドロキシC6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[6-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス[3-メチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(C1-4アルキル-ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール)フルオレン;9,9-ビス[3-フェニル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-フェニル-3-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(C6-12アリール-ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-C6-12アリール)フルオレンなどが挙げられる。これらのフルオレン化合物は、いずれも導電性と機械的特性とを高度に両立できるが、なかでも、高い導電性が要求される用途では、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9-ビス(ヒドロキシ(ポリ)C2-4アルコキシ-フェニル)フルオレンが好ましい。
【0069】
前記式(2)において、基XおよびXが、基-COORである化合物としては、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(カルボキシC2-6アルキル)フルオレン;9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-メトキシカルボキシプロピル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-3アルコキシカルボニルC2-6アルキル)フルオレンなどが挙げられる。これらの化合物は、少量であっても機械的特性を向上できる。なかでも、高い導電性とともに、高い機械的特性が要求される用途では、9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレンなどの9,9-ビス(C1-2アルコキシカルボニルC2-4アルキル)フルオレンが好ましい。
【0070】
これらのフルオレン化合物(B)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。なお、「(ポリ)アルコキシ」は、アルコキシ基およびポリアルコキシ基の双方を含む意味に用いる。
【0071】
フルオレン化合物(B)の割合は、CNT(A)100質量部に対して1~200質量部、好ましくは3~150質量部、特に5~100質量部程度の範囲から選択できる。
【0072】
フルオレン化合物(B)の割合は、CNT(A)100質量部に対して50質量部以下であってもよく、好ましくは1~40質量部、さらに好ましくは3~30質量部である。このような割合でフルオレン化合物(B)をCNT(A)に配合すると、CNT(A)の均一な分散性によって、CNT(A)の繊維補強効果により、衝撃強度を飛躍的に向上できる。そのため、この割合は、高度な衝撃強度が要求される用途において特に有用である。
【0073】
フルオレン化合物(B)の割合は、CNT(A)100質量部に対して30質量部以上であってもよく、例えば35~100質量部、好ましくは40~80質量部、さらに好ましくは40~60質量部である。このような割合でフルオレン化合物(B)をCNT(A)に配合すると、CNT(A)の均一な分散性に加えて、CNT同士がネットワークを形成し、機械的特性を維持したまま、導電性を飛躍的に向上できる。そのため、この割合は、高度な導電性が要求される用途において特に有用である。特に、フルオレン化合物(B)が、前記式(1)において、基XおよびXが、基-[(OA)m1-OH]である化合物、前記式(2)において、基XおよびXが、基-COORである化合物である場合、このような割合でフルオレン化合物を用いると、導電性と機械特性とを高度に両立できる。
【0074】
(固体添加剤または添加剤組成物の特性)
本発明では、CNT(A)の表面の少なくとも一部がフルオレン化合物(B)で被覆または処理されているため(または、CNT(A)の表面の少なくとも一部に、フルオレン化合物(B)が接触しているため)、熱可塑性樹脂中でのCNT(A)の分散性を向上できる。本明細書および請求の範囲において、表面の少なくとも一部がフルオレン化合物(B)で被覆または処理されたCNT(A)を、CNT(A)とフルオレン化合物(B)との複合体と称することもある。
【0075】
CNT(A)の表面の少なくとも一部をフルオレン化合物(B)で被覆した複合体において、CNT(A)の表面(チューブ内の内壁を除く外表面)に対する被覆率は5面積%以上であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、10面積%以上、20面積%以上、30面積%以上、50面積%以上、80面積%以上、90面積%以上であり、全面被覆されているのが最も好ましい。被覆率が小さすぎると、熱可塑性樹脂中での固体添加剤の分散性が低下する虞がある。なお、本明細書および請求の範囲において、CNT(A)の表面におけるフルオレン化合物(B)による被覆率は、SEMもしくは透過型電子顕微鏡(TEM)写真に基づいて、所定領域におけるCNT(A)の表面を観察して算出することにより求めることができる。
【0076】
複合体において、フルオレン化合物(B)で形成された被膜の平均厚みは1nm以上であってもよく、例えば1~1000nm、好ましくは3~800nm、さらに好ましくは5~500nm程度である。被膜の厚みが薄すぎると、組成物中でのCNT(A)の分散性が低下する虞がある。
【0077】
なお、本明細書および請求の範囲において、複合体における被膜の厚みは、SEMもしくはTEM写真に基づいて、所定領域における被膜の厚みを観察して算出する方法で測定できる。
【0078】
複合体において、前記フルオレン化合物(B)とCNT(A)とは、共有結合などの強固な化学結合で複合化せずに、π-π相互作用(スタッキング)、ファンデルワールス力、水素結合などによって比較的緩やかに結合して複合化しているのが好ましい。π-π相互作用などの比較的緩やかな結合で複合化された固体添加剤を熱可塑性樹脂に溶融混練すると、フルオレン化合物(B)によってCNT(A)が熱可塑性樹脂中に均一に分散されるとともに、フルオレン化合物(B)はCNT(A)に対して適度な自由度を有しているために、CNT(A)による導電性の発現を阻害することなく、熱可塑性樹脂の導電性を向上できると推定できる。
【0079】
なお、本明細書および請求の範囲において、複合体における共有結合の有無は、トルエンなどの溶媒によってフルオレン化合物(B)を抽出できるか否か判定する方法で容易に判別できる。
【0080】
本発明の固体添加剤において、前記フルオレン化合物(B)は非晶質構造を有するのが好ましい。前記フルオレン化合物(B)は、CNT(A)と混合する前段階の原料の状態では、通常、結晶質構造を有していてもよいが、固体添加剤においては、非晶質構造を有するのが好ましく、CNT(A)と複合化して非晶質構造に変化することによって熱可塑性樹脂中で均一に分散可能な固体添加剤を生成できる。
【0081】
なお、本明細書および請求の範囲において、固体添加剤の結晶構造は、示差走査熱量測定(DSC)法によって評価でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で評価できる。
【0082】
本発明の固体添加剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、CNT(A)およびフルオレン化合物(B)に加えて、フルオレン非含有熱可塑性樹脂以外の成分(他の成分)を含んでいてもよいが、熱可塑性樹脂中における固体分散剤の分散性を向上できる点から、固体添加剤中のCNT(A)およびフルオレン化合物(B)の合計割合は30質量%以上であってもよく、例えば50質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%(CNT(A)およびフルオレン化合物(B)のみ)が最も好ましい。
【0083】
他の成分としては、熱可塑性樹脂、CNT以外の慣用の導電剤、充填剤、安定剤、着色剤、難燃剤などが挙げられる。前記熱可塑性樹脂は、後述する樹脂組成物の熱可塑性樹脂などが例示でき、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂と同一のフルオレン非含有熱可塑性樹脂であってもよい。これら他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の成分の合計割合は、固体添加剤中50質量%以下であってもよく、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、最も好ましくは5質量%以下である。他の成分を含む場合、他の成分の割合は、固体添加剤中0.1~50質量%、例えば1~10質量%であってもよい。
【0084】
本発明の固体添加剤は、CNT(A)とフルオレン化合物(B)とが複合化しているため、機械的強度が高く、圧縮強度が1N以上であってもよく、好ましい範囲としては、以下段階的に、1.2~10N、1.5~9N、2~8N、3~7N、5~6.5Nである。圧縮強度が低すぎると、取り扱い性が低下する虞がある。
【0085】
なお、本明細書および請求の範囲において、固体添加剤の圧縮強度は、株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージにて測定でき、圧縮により固体添加剤が崩壊した点を圧縮強度(N)をとして算出の方法で測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0086】
本発明の固体添加剤の嵩密度は、例えば0.1~0.3g/m、好ましくは0.15~0.25g/mである。嵩密度が大きすぎると、固体添加剤を熱可塑性樹脂中に均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0087】
なお、本明細書および請求の範囲において、固体添加剤の嵩密度は、下記の方法で詰めた固体添加剤の質量を固体添加剤の容積で割った値で測定した。
【0088】
メスシリンダーを測定容器として用い、予め定めた質量の固体添加剤を投入した後、メスシリンダーの底を底面1cmの高さから落とすことを20回繰り返した。目視にて固体添加剤の占める容積量の変化が認められる場合は再度1cmの高さから落とすことを20回繰り返し、容積量の変化がないこと確認して操作を終了した。
【0089】
固体添加剤の形態は、特に限定されず、取り扱い性などの点から、通常、ペレット状や不定形状などの粒状である。平均粒径は、例えば0.5~20mm、好ましくは1~15mm、さらに好ましくは1.5~10mmである。
【0090】
本発明の固体添加剤(予備分散体または混合物)は、熱可塑性樹脂に高い導電性を付与できるため、導電剤として好ましく利用できる。
【0091】
[固体添加剤の製造方法]
本発明の固体添加剤は、CNT(A)とフルオレン化合物(B)とを混合して得られる。また、本発明の固体添加剤がさらに他の成分を含む場合は、CNT(A)とフルオレン化合物(B)と他の成分とを混合して得られる。
【0092】
混合方法は、特に限定されず、溶媒の存在下または非存在下で慣用の混合方法により混合できる。溶媒の非存在下で混合する場合は、フルオレン化合物(B)の融点以上の温度に加熱して溶融混練するのが好ましい。これらの方法のうち、簡便性などの点から、溶媒の存在下で混合する方法が好ましい。
【0093】
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ-n-プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ類;ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;スルホランなどのスルホラン類;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類などが例示できる。これらの溶媒は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0094】
これらの溶媒のうち、水、アルコール類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素などが汎用され、CNT(A)の表面がフルオレン化合物(B)で被覆された複合体を製造し易い点から、フルオレン化合物(B)を溶解可能な溶媒が好ましく、取り扱い性などの点から、水性溶媒が好ましい。
【0095】
フルオレン化合物(B)を溶解可能な溶媒としては、フルオレン化合物(B)の種類に応じて適宜選択できるが、メタノールなどのアルコール類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類などが例示できる。水性溶媒としては、水、メタノールなどのC1-3アルカノールなどが例示できる。これらのうち、トルエンなどの芳香族炭化水素類、水、メタノールなどのC1-2アルカノールが好ましく、水が特に好ましい。
【0096】
溶媒の割合は、CNT(A)100質量部に対して10~10000質量部程度の範囲から選択でき、例えば100~1000質量部、好ましくは200~800質量部、さらに好ましくは300~500質量部である。溶媒の割合が少なすぎると、複合体を製造するのが困難となる虞があり、逆に多すぎると、生産性が低下する虞がある。
【0097】
混合方法としては、慣用の方法を利用でき、造粒押出機などの押出機や、ミキシングローラ、ニーダー、バンバリーミキサーなどの混合機を用いてCNT(A)とフルオレン化合物(B)と溶媒とを混合または混練する方法、フルオレン化合物(B)を含む溶媒にCNT(A)を浸漬する方法などを利用できる。押出機を用いる場合、CNT(A)とフルオレン化合物(B)と溶媒とは一括して投入して混合してもよく、CNT(A)とフルオレン化合物(B)とを予め混合した後、溶媒を投入して混合してもよい。押出機におけるスクリューの周速は、例えば1~300m/分、好ましくは50~150m/分である。混合温度は、特に限定されず、常温であってもよい。
【0098】
これらの方法で得られた混合物は、乾燥処理によって溶媒を留去することにより固体添加剤を調製できる。乾燥処理は、自然乾燥であってもよいが、生産性などの点から、加熱および/または減圧する方法が好ましい。
【0099】
加熱する方法としては、慣用の方法、例えば、静置型の熱風乾燥機、真空乾燥機、回転式のエバポレーター、コニカルドライヤーやナウタードライヤーなどの混合式の乾燥機などを用いた方法を利用できる。加熱温度は、溶媒の種類に応じて適宜選択でき、例えば40~300℃、好ましくは60~180℃、さらに好ましくは80~160℃である。
【0100】
減圧する方法としても、慣用の方法、例えば、オイルポンプ、オイルレスポンプ、アスピレータなどを用いた方法を利用できる。減圧方法における圧力としては、例えば0.00001~0.05MPa、好ましくは0.00001~0.03MPaである。
【0101】
混合機を用いて塊状の固体添加剤が得られた場合、取り扱い性を向上させるために、塊状の固体添加剤を粉砕などによって粒子化してもよい。
【0102】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および前記固体添加剤を含む。熱可塑性樹脂は、フルオレン非含有熱可塑性樹脂であってもよい。
【0103】
このような熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリα-C2-10オレフィンや、シクロペンタジエン系樹脂やノルボルネン系樹脂などの環状ポリオレフィンなどのオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、酢酸ビニル系樹脂などのビニル系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン樹脂、スチレン-メタクリル酸メチル樹脂、ABS樹脂などの芳香族ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系単量体の単独または共重合体、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体などのアクリル系樹脂;ビスフェノールA型ポリカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリC2-10アルキレン-C6-10アリレートまたはコポリエステルや、フルオレン含有ポリエステル、ポリアリレート、液晶ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンなどのポリアセタール系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロンMXDなどのポリアミド系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなどのスルホン系樹脂;ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテルなどのフェニレンエーテル系樹脂;スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマー;ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂などが挙げられる。
【0104】
これらの熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの熱可塑性樹脂のうち、ポリプロピレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が好ましく、ポリカーボネート系樹脂が特に好ましい。
【0105】
ポリカーボネート系樹脂としては、慣用のポリカーボネート、例えば、ビまたはビスフェノール類をベースとする芳香族ポリカーボネートなどが利用できる。
【0106】
ビスフェノール類には、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類、ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類、ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類などが例示できる。
【0107】
ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシトリル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシキシリル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカンなどが例示できる。
【0108】
ビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類としては、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカンなどが例示できる。
【0109】
ビス(ヒドロキシアリール)エーテル類としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテルなどが例示できる。
【0110】
ビス(ヒドロキシアリール)ケトン類としては、4,4′-ジ(ヒドロキシフェニル)ケトンなどが例示できる。
【0111】
ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン類としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)などが例示できる。
【0112】
ビス(ヒドロキシフェニル)スルホキシド類としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシドなどが例示できる。
【0113】
ビス(ヒドロキシフェニル)スルフィド類としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィドなどが例示できる。
【0114】
これらのビスフェノール類は、C2-4アルキレンオキサイド付加体であってもよい。これらのビスフェノール類は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのビスフェノール類のうち、ビスフェノールAなどのビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカンが好ましい。
【0115】
ポリカーボネート系樹脂は、ジカルボン酸成分(脂肪族、脂環族または芳香族ジカルボン酸またはその酸ハライドなど)を共重合したポリエステルカーボネート系樹脂であってもよい。これらのポリカーボネート系樹脂は単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。好ましいポリカーボネート系樹脂は、ビス(ヒドロキシフェニル)C1-6アルカン類をベースとする樹脂、例えば、ビスフェノールA型ポリカーボネート系樹脂である。
【0116】
固体添加剤の割合は、目的の熱可塑性樹脂に応じて選択でき、例えばポリカーボネート樹脂100質量部に対して、例えば1~20質量部、好ましくは1.5~15質量部である。固体添加剤の割合が少なすぎると、導電性や機械的特性の向上効果が低下する虞があり、逆に多すぎると機械的特性が低下する虞がある。
【0117】
CNT(A)の割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば0.1~15質量部、好ましくは0.3~10質量部である。CNTの割合が少なすぎると、導電性や機械的特性の向上効果が低下する虞があり、逆に多すぎると機械的特性が低下する虞がある。
【0118】
本発明の樹脂組成物は、CNTを導電剤として含む従来の樹脂組成物とは異なり、フルオレン化合物(B)を含む複合体の形態でCNT(A)が熱可塑性樹脂中に均一に微分散している。そのため、本発明の樹脂組成物は、衝撃強度などの機械的特性を向上でき、前記固体添加剤中での前記フルオレン化合物(B)の割合を調整することにより、従来の樹脂組成物では実現できなかった導電性と機械的特性との両立も可能である。
【0119】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、導電性も向上でき、熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂の場合、体積抵抗率は1012Ω・cm以下であってもよく、例えば1011Ω・cm以下、好ましくは1010Ω・cm以下、さらに好ましくは10Ω・cm以下、最も好ましくは10Ω・cm以下である。また、体積抵抗率は、生産性などの点から、例えば10~1012Ω・cm、好ましくは10~1010Ω・cm、さらに好ましくは10~10Ω・cm、最も好ましくは10~10Ω・cmである。
【0120】
なお、本明細書および請求の範囲において、体積抵抗率は、(株)三菱ケミカルアナリテック製の抵抗率計(「ハイレスタ」または「ロレスタ」)によって測定できる。
【0121】
本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性に優れており、熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂の場合、シャルピー衝撃強度が30kJ/m以上であってもよく、例えば40kJ/m以上、好ましくは50kJ/m以上、さらに好ましくは60kJ/m以上、最も好ましくは70kJ/m以上である。また、シャルピー衝撃強度は、生産性などの点から、例えば30~120kJ/m、好ましくは50~100kJ/m、さらに好ましくは60~90kJ/m、最も好ましくは70~85kJ/mである。さらに、高度な耐衝撃性が要求される用途では、シャルピー衝撃強度80kJ/m以上であってもよく、例えば80~90kJ/mである。
【0122】
なお、本明細書および請求の範囲において、シャルピー衝撃強度は、JIS K 7111に準拠して測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0123】
本発明の樹脂組成物は、流動性が高く、取り扱い性にも優れており、樹脂組成物の流動性(MVR)は、ISO1133[300℃、1.2kg荷重(11.8N)]に準拠して、例えば3~20cm/10分、好ましくは5~15cm/10分、さらに好ましくは8~12cm/10分である。
【0124】
樹脂組成物中において、固体添加剤に含まれるCNT(A)およびフルオレン化合物(B)の存在形態は、特に限定されず、少なくとも一部が複合化された溶融混練前の形態を維持していてもよく、溶融混練によって溶融混練前の形態が変化してもよい。変化した場合、複合体の少なくとも一部においてCNT(A)とフルオレン化合物(B)とが遊離してもよく、遊離状態のCNT(A)とフルオレン化合物(B)とが複合化してもよい。なかでも、樹脂組成物の導電性を向上できる点から、複合体の一部が遊離することにより、CNTが均一に分散した状態が好ましい。いずれの形態であって、本発明では、フルオレン化合物(B)の存在によって、熱可塑性樹脂中でCNT(A)が均一に微分散され、衝撃強度などの機械的特性を向上できる。さらに、前記固体添加剤中での前記フルオレン化合物(B)の割合を調整すると、高度な導電性と機械的特性との両立も可能となり、フルオレン化合物(B)の割合を調整することにより、CNTの高度なネットワーク化により導電性をさらに向上できる。
【0125】
本発明の樹脂組成物は、固体添加剤に加えて、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、CNT以外の導電剤、安定剤、充填剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤、表面改質剤、撥水性改良剤などが例示できる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の合計割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば0.01~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部である。
【0126】
本発明の樹脂組成物は、慣用の方法によって、熱可塑性樹脂と固体添加剤とを溶融混錬することにより製造できる。すなわち、本発明の樹脂組成物は、CNT(A)とフルオレン化合物(B)とを混合して複合化することにより固体添加剤を調製する複合化工程、熱可塑性樹脂と得られた固体添加剤とを溶融混錬して樹脂組成物を調製する溶融混練工程を経て得られる。
【0127】
溶融混練工程において、混練方法としては、ミキシングローラ、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸または二軸押出機などの押出機などを用いた方法などを利用できる。溶融混練の条件は、熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜選択でき、慣用の方法で容易にCNT(A)を含む固体添加剤が均一に微分散した樹脂組成物が得られる。溶融混練された樹脂組成物は、射出成形などの慣用の成形方法によって成形してもよい。溶融混練および成形条件は、特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類に応じて、慣用の条件を採用できる。
【実施例
【0128】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に、用いた原料および評価方法は以下の通りである。
【0129】
(使用原料)
クムホCNT:多層カーボンナノチューブ、クムホ社製「K-Nanos 100T」
ナノシルCNT:多層カーボンナノチューブ、ナノシル社製「NC7000」
BPEF:9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
FDP-m:9,9-ビス(2-メトキシカルボニルエチル)フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
BCF:9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
BNF:9,9-ビス(6-ヒドロキシ-2-ナフチル)フルオレン、大阪ガスケミカル(株)製
PC:ビスフェノールA型ポリカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロンPC S-3000」。
【0130】
[結晶構造]
結晶構造は、示差走査熱量計(DSC)により評価した。DSCには、装置としてセイコーインスツル(株)製「EXTAR DSC6220」を使用し、アルミパンに試料を入れ、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で、測定温度範囲を30~280℃として熱的挙動を測定して評価した。
【0131】
[圧縮強度]
実施例および比較例で得られた固体添加剤について、株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージを用いて圧縮強度(N)を測定した。固体添加剤の鉛直方向および水平方向より各10回測定し、最大値より2値および、最小値より2値を除外した6値の平均値より算出した。
【0132】
[体積抵抗率(導電性)]
実施例および比較例で得られた樹脂組成物について、(株)三菱ケミカルアナリテック製の抵抗率計(「ハイレスタ」または「ロレスタ」)で体積抵抗率(Ω/□)を測定した。
【0133】
[シャルピー衝撃強度]
実施例および比較例で得られた樹脂組成物について、デジタルインパクトテスター((株)東洋精機製作所製)を用いて、JIS K 7111に準拠して10回測定し、10回測定した平均値をシャルピー衝撃強度(kJ/m)とした。なお、ノッチ形状:A、ハンマ秤量:0.5Jとした。
【0134】
比較例1
ヘンシェル型混合機(ユニバース(株)製)に、クムホCNT400g、トルエン1600gを投入し、室温の条件で5分間混合した後、押出造粒機(ダルトン社製「ディスクカッター」)を用いて、室温の条件で、得られた混合物を造粒した。造粒物を180℃で24時間減圧乾燥することにより固体添加剤を得た。
【0135】
実施例1
BPEF20gをメタノール1600gに溶解させ、クムホCNT400gをさらに投入し、溶液をクムホCNTに吸着させたのち、エバポレーターを用いてメタノールを留去し、180℃で24時間加熱することにより固体添加剤を得た。
【0136】
実施例2
BPEFの配合量を20gから50gに変更する以外は実施例1と同様にして固体添加剤を得た。
【0137】
実施例3
BPEFの配合量を20gから100gに変更する以外は実施例1と同様にして固体添加剤を得た。
【0138】
実施例3で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)を図1に示す。図2に示す原料であるCNTのSEM写真(5000倍)および図3に示す原料であるBPEFのSEM写真(5000倍)と比較すると、図1では、CNTの表面をBPEFが被覆していることが観察できる。
【0139】
実施例4
ヘンシェル型混合機(ユニバース(株)製)に、クムホCNT400g、BPEF200gを投入し、室温の条件で3分間混合した後、さらに水1600gを加え、室温の条件で2分間混合した。押出造粒機(ダルトン社製「ディスクカッター」)を用いて、室温の条件で、得られた混合物を造粒した。造粒物を180℃で24時間減圧乾燥することにより固体添加剤を得た。
【0140】
実施例4で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)を図4に示す。実施例3の固体添加剤よりもBPEFによるCNTの被覆率が高まっており、CNTの略全面がBPEFで被覆されていることが観察できる。
【0141】
また、得られた固体添加剤のDSCチャートを図5に示す。併せて、図6に、原料であるCNTのDSCチャートを示し、図7に、原料であるBPEFのDSCチャートを示すが、実施例4で得られた固体添加剤では、BPEFで見られるピークが消失しており、非晶質構造に変化していることが確認できる。
【0142】
比較例1および実施例1~4で得られた固体添加剤の圧縮強度を測定した結果を表1に示す。
【0143】
【表1】
【0144】
表1の結果から明らかなように、CNTの表面がBPEFで被覆された複合体である実施例の固体添加剤は、BPEFを含まない比較例1の固体添加剤よりも圧縮強度が高い。
【0145】
実施例5
ヘンシェル型混合機(ユニバース(株)製)に、クムホCNT400g、FDP-m 20gをメタノール1600gに溶解させた溶液を投入し、室温の条件で5分間混合した。押出造粒機(ダルトン社製「ディスクカッター」)を用いて、室温の条件で、得られた混合物を造粒した。造粒物を90℃で24時間減圧乾燥することにより固体添加剤を得た。
【0146】
実施例6
FDP-mの配合量を20gから50gに変更する以外は実施例5と同様にして固体添加剤を得た。
【0147】
実施例7
FDP-mの配合量を20gから100gに変更する以外は実施例5と同様にして固体添加剤を得た。
【0148】
実施例8
FDP-mの配合量を20gから200gに変更する以外は実施例5と同様にして固体添加剤を得た。
【0149】
実施例8で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)を図8に示す。図9に示す原料であるFDP-mのSEM写真(5000倍)と比較すると、図8では、CNTの略全面がFDP-mで被覆されていることが観察できる。
【0150】
また、得られた固体添加剤のDSCチャートを図10に示す。併せて、図11に、原料であるFDP-mのDSCチャートを示すが、実施例8で得られた固体添加剤では、FDP-mで見られるピークが消失しており、非晶質構造に変化していることが確認できる。
【0151】
実施例9
FDP-mをBCFへ変更する以外は実施例5と同様にして固体添加剤を得た。
【0152】
実施例10
FDP-mをBCFへ変更する以外は実施例6と同様にして固体添加剤を得た。
【0153】
実施例11
FDP-mをBCFへ変更する以外は実施例7と同様にして固体添加剤を得た。
【0154】
実施例12
FDP-mをBCFへ変更する以外は実施例8と同様にして固体添加剤を得た。
【0155】
実施例12で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)を図12に示す。図13に示す原料であるBCFのSEM写真(5000倍)と比較すると、図12では、CNTの略全面がBCFで被覆されていることが観察できる。
【0156】
また、得られた固体添加剤のDSCチャートを図14に示す。併せて、図15に、原料であるBCFのDSCチャートを示すが、実施例12で得られた固体添加剤では、BCFで見られるピークが消失しており、非晶質構造に変化していることが確認できる。
【0157】
実施例13
FDP-mをBNFへ変更する以外は実施例5と同様にして固体添加剤を得た。
【0158】
実施例14
FDP-mをBNFへ変更する以外は実施例6と同様にして固体添加剤を得た。
【0159】
実施例15
FDP-mをBNFへ変更する以外は実施例7と同様にして固体添加剤を得た。
【0160】
実施例16
FDP-mをBNFへ変更する以外は実施例8と同様にして固体添加剤を得た。
【0161】
実施例16で得られた固体添加剤のSEM写真(5000倍)を図16に示す。図17に示す原料であるBNFのSEM写真(5000倍)と比較すると、図12では、CNTの略全面がBNFで被覆されていることが観察できる。
【0162】
また、得られた固体添加剤のDSCチャートを図18に示す。併せて、図19に、原料であるBNFのDSCチャートを示すが、実施例16で得られた固体添加剤では、BNFで見られるピークが消失しており、非晶質構造に変化していることが確認できる。
【0163】
比較例2
PC100質量部に対して、ナノシルCNT2質量部を添加し、射出成形機(日精樹脂工業(株)製の電気式高性能射出成型機「NEX50III」)を用いて、シリンダー290℃、金型温度90℃、充填速度20mm/sの条件で、射出成形し、樹脂組成物(混練品または試験片)を得た。
【0164】
比較例3
PC100質量部に対して、ナノシルCNT2質量部、BPEF1質量部を、固体添加剤を調製することなく添加し、比較例2と同様の方法で射出成形し、樹脂組成物を得た。
【0165】
実施例17~32
PC100質量部に対して、クムホCNTの割合が2質量部となるように、実施例1~16で得られた固体添加剤を添加し、比較例2と同様の方法で射出成形し、樹脂組成物を得た。
【0166】
比較例2~3および実施例17~32で得られた樹脂組成物の体積抵抗率およびシャルピー衝撃強度を測定した結果を表2に示す。
【0167】
【表2】
【0168】
表2の結果から明らかなように、比較例3の射出成形品に比べて、実施例の射出成形品は、耐衝撃性が向上しており、特に、実施例17、18および21~25の射出成形品は、80kJ/m以上の高度な耐衝撃性を示し、比較例2の射出成形品よりも優れていた。一方、実施例20、24の射出成形品は、導電性と耐衝撃性とを高度に両立していた。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明の固体添加剤を含む樹脂組成物は、導電性および/または衝撃強度などの機械的特性が要求される各種の用途に利用でき、例えば、半導体や電気・電子部品の搬送および包装材料または搬送用成形体、オフィスオートメーション(OA)機器などの電気・電子機器の部材、静電塗装用の自動車部品などに有効に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19