(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、硬化膜、硬化膜付きプリント配線板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/06 20060101AFI20240112BHJP
C08L 101/08 20060101ALI20240112BHJP
C08K 5/5373 20060101ALI20240112BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240112BHJP
C08G 18/75 20060101ALI20240112BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20240112BHJP
C08G 59/42 20060101ALI20240112BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240112BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20240112BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C08L101/06
C08L101/08
C08K5/5373
C08L63/00
C08G18/75 080
C08G18/44
C08G59/42
B32B27/18 B
B32B15/08 J
H05K1/03 610H
(21)【出願番号】P 2020553189
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2019040438
(87)【国際公開番号】W WO2020080352
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2018197826
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】木戸 雅善
(72)【発明者】
【氏名】小木曽 哲哉
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188155(WO,A1)
【文献】特開2004-035481(JP,A)
【文献】特開2004-035480(JP,A)
【文献】特許第6263307(JP,B1)
【文献】特開2003-267984(JP,A)
【文献】特開2002-003727(JP,A)
【文献】特開2017-137405(JP,A)
【文献】特開2008-299293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
分子内にウレタン結合を有するポリマーであるバインダー樹脂、(b)熱硬化性樹脂
、(c)難燃剤、
および(e)光重合開始剤を含む硬化性樹脂組成物であって、
前記(a)バインダー樹脂が、分子内にエチレン性不飽和基を有すること;および
硬化性樹脂組成物が、さらに、(d)エチレン性不飽和基を有する光硬化性化合物を含むこと
のうち、少なくともいずれか一方を満たし、
前記光重合開始
剤の含有量が、前記(a)バインダー樹脂および前記(d)光硬化性化合物の合計100重量部に対して、0.1~10重量部であり、
前記(c)難燃剤が、下記一般式で表される有機リン系化合物である、樹脂組成物:
【化1】
式中、R
2およびR
5は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、または置換基を有してもよいアントリル基であり;R
1、R
3、R
4およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、または置換基を有してもよいアントリル基である
。
【請求項2】
前記(a)バインダー樹脂が、分子内にカルボキシ基を有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(a)バインダー樹脂の酸価が5~200mgKOH/gである、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、(f)着色剤を含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(b)熱硬化性樹脂が多官能エポキシ樹脂である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
全固形分100重量部に対する前記(c)難燃剤の含有量が、10~30重量部である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の硬化物からなる硬化膜。
【請求項8】
プリント配線板上に、請求項
7に記載の硬化膜を備える硬化膜付きプリント配線板。
【請求項9】
前記プリント配線板が可撓性を有する、請求項
8に記載の硬化膜付きプリント配線板。
【請求項10】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物をプリント配線板の金属配線形成面に塗布して塗布膜を形成し、
前記塗布膜を加熱および/または露光することにより硬化する、硬化膜付きプリント配線板の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の樹脂組成物をプリント配線板の金属配線形成面に塗布して塗布膜を形成し、
前記塗布膜の面内の少なくとも一部に活性光線を照射して光硬化を行い、
アルカリにより現像を行い、未硬化の前記塗布膜を溶解除去することにより、パターニングされた硬化膜を形成する、
硬化膜付きプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂組成物の硬化により得られる硬化膜、および硬化膜が設けられたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の回路上には、絶縁信頼性を維持するため、絶縁性の熱硬化性樹脂や紫外線硬化性樹脂を用いて絶縁硬化膜が形成されている。絶縁硬化膜には難燃性が要求される場合があり、環境負荷の観点から、非ハロゲン系の難燃剤が用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プリント配線板上の絶縁硬化膜に十分な難燃性を持たせるためには、大量の難燃剤を添加する必要があり、硬化膜の強度や耐熱性が低下する原因となる場合がある。また、液体の難燃剤を用いるとブリードアウトが生じる懸念があり、ホスフィン酸金属塩や水酸化アルミニウム等の難燃剤を用いると、アルカリ現像や硬化後の薬液処理により、難燃剤が溶出または脱離する場合がある。さらには、難燃性を高めるために難燃剤を大量に添加すると、硬化膜の柔軟性が低下する場合がある。
【0005】
本発明は、優れた難燃性を有し、ブリードアウト等の不具合が生じ難く、かつ柔軟性に優れる硬化膜、および硬化膜の形成に用いる樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の樹脂組成物は、(a)バインダー樹脂、(b)熱硬化性樹脂、および(c)難燃剤を含む。(a)バインダー樹脂は、分子内にウレタン結合を有するポリマーであり、さらに、カルボキシ基および/または光重合性官能基を有していてもよい。バインダー樹脂の酸価は5~200mgKOH/gであってもよい。(b)熱硬化性樹脂は、例えば、多官能エポキシ樹脂である。
【0007】
(c)難燃剤は、下記一般式で表される有機リン系化合物(スピロ環ジホスホネート化合物)である。
【化1】
【0008】
式中、R2およびR5は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、または置換基を有してもよいアントリル基である。R1、R3、R4およびR6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、または置換基を有してもよいアントリル基である。
【0009】
樹脂組成物は、上記(a)成分、(b)成分および(c)成分に加えて、(d)エチレン性不飽和基を有する化合物(光硬化性化合物)、(e)光重合開始剤、(f)着色剤等を含んでいてもよい。樹脂組成物における(c)成分の含有量は、全固形分100重量部に対して、10~30重量部程度であってもよい。
【0010】
上記の樹脂組成物を基板上に塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥することにより、塗膜(絶縁膜)が形成される。この絶縁膜を、光硬化および/または熱硬化することにより、硬化膜が得られる。例えば、上記の樹脂組成物を、プリント配線板の表面に塗布して塗布膜を形成し、塗布膜の面内の少なくとも一部に活性光線を照射して光硬化を行い、必要に応じてアルカリ等による現像を行った後、光硬化後の塗布膜を加熱して熱硬化を行うことにより、硬化膜付きプリント配線板を形成できる。プリント配線板は、ポリイミドフィルム等の可撓性を有するフィルム基材を用いたフレキシブルプリント配線板でもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記の樹脂組成物から形成される硬化膜は、優れた難燃性を有するとともに、難燃剤のブリードアウト等の不具合が生じ難く、かつ柔軟性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の樹脂組成物は、(a)バインダー樹脂、(b)熱硬化性樹脂、および(c)有機リン系化合物を含む。熱硬化性樹脂を有するため、樹脂組成物は熱硬化性を有する。(a)バインダー樹脂は、熱硬化性樹脂と反応性を有するものでもよい。
【0013】
(a)バインダー樹脂は、エチレン性不飽和基等の光硬化性官能基を有していてもよい。樹脂組成物が光硬化を有するバインダー樹脂を含有することにより、樹脂組成物は、熱硬化性に加えて光硬化性(感光性)を有する。樹脂組成物は、さらに(d)エチレン性不飽和基を有する化合物(光硬化性化合物)を含有してもよい。樹脂組成物は、さらに(e)光重合開始剤を含有していてもよい。
【0014】
樹脂組成物は、さらに(f)着色剤を含有していてもよい。着色剤を含有することにより、樹脂組成物から得られる絶縁膜を任意に着色することができる。
【0015】
<(a)バインダー樹脂>
バインダー樹脂は、有機溶媒に対して可溶性であり、ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量が1,000以上、1,000,000以下のポリマーである。バインダー樹脂の重量平均分子量は、2,000~200,000がより好ましく、3,000~100,000がさらに好ましく、4,000~50,000が特に好ましい。バインダー樹脂の重量平均分子量が上記範囲内であれば、耐熱性と柔軟性に優れる硬化膜が得られやすい。
【0016】
バインダー樹脂は、分子内に少なくとも1つのウレタン結合を有するウレタン系ポリマーである。バインダー樹脂としてウレタン系ポリマーを用い、(c)難燃剤として後述の有機リン系化合物を用いることにより、絶縁硬化膜の柔軟性を低下させることなく、優れた難燃性を付与できる。ウレタン系ポリマーは、例えば、ジオールとジイソシアネートとの反応により得られる。
【0017】
ジイソシアネート化合物は、脂環族ジイソシアネート化合物および脂肪族ジイソシアネート化合物のいずれでもよい。ジイソシアネート化合物は、イソシアネート基と反応可能な官能基を二つ以上有する化合物との反応物であってもよく、例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタン化合物でもよい。
【0018】
ジイソシアネート化合物は、芳香族イソシアネート、脂環式イソシアネートおよび脂肪族イソシアネートおよび脂環族ジイソシアネートのいずれでもよい。ジイソシアネート化合物は、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基と反応可能な官能基を二つ以上有する化合物との反応物であってもよく、例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタン化合物でもよい。中でも、脂環式ジイソシアネートまたは脂肪族ジイソシアネートを用いた場合に、樹脂組成物が感光性に優れる傾向がある。脂環式ジイソシアネートとしては、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0019】
ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2-メチル1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等のアルキレンジオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、テトラメチレングリコールとネオペンチルグリコールとのランダム共重合体等のポリオキシアルキレンジオール;多価アルコールと多塩基酸とを反応させて得られるポリエステルジオール;カーボネート骨格を有するポリカーボネートジオール;γ-ブチルラクトン、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン等のラクトン類を開環付加反応させて得られるポリカプロラクトンジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。ジオールは2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の中でも、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシアルキレンジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトンジオール等の長鎖ジオールを用いた場合、硬化膜の弾性率が低下し、柔軟性が向上する傾向がある。
【0020】
バインダー樹脂は、分子内にカルボキシ基を有していてもよい。カルボキシ基を有することにより、バインダー樹脂が後述の(b)成分と反応するため、硬化膜の耐熱性や耐薬品性が向上する傾向がある。また、感光性樹脂組成物として用いる場合は、バインダー樹脂がカルボキシ基を有することにより、アルカリ現像液への溶解性が向上するため、短時間の現像で微細パターンの形成が可能となる。バインダー樹脂の酸価は、5~200mgKOH/gが好ましく、15~100mgKOH/gがより好ましい。バインダー樹脂が適切な酸価を有することにより、(b)成分との架橋構造が密に形成されるため、硬化膜の耐熱性、絶縁信頼性および耐薬性を向上できる。
【0021】
分子内にカルボキシ基を有するポリマーは、例えば、ウレタン系ポリマーを形成するためのジオール成分として、分子内に2つの水酸基および1つのカルボキシ基を有する化合物を用いることにより得られる。2つの水酸基および1つのカルボキシ基を含有するジオール化合物としては、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2-ビス(2-ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2-ビス(3-ヒドロキシメプロピル)プロピオン酸、2,3-ジヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2-ビス(2-ヒドロキシエチル)ブタン酸、2,2-ビス(3-ヒドロキシプロピル)ブタン酸、2,3-ジヒドロキシブタン酸、2,4-ジヒドロキシ-3,3-ジメチルブタン酸、および2,3-ジヒドロキシヘキサデカン酸等の脂肪族系ジオール;2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、3,4-ジヒドロキシ安息香酸、3,5-ジヒドロキシ安息香酸等の芳香族系ジオールが挙げられる。
【0022】
バインダー樹脂は、分子内にエチレン性不飽和基を有していてもよい。エチレン性不飽和基としては、ビニル基および(メタ)アクリロイル基が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルまたはメタクリロイルを意味する。
【0023】
バインダー樹脂が(メタ)アクリロイル基等の光硬化性官能基を有していれば、樹脂組成物から光硬化膜を形成できる。また、樹脂組成物が後述の(d)成分を含有する場合、光硬化性官能基を有するバインダー樹脂は、(d)成分とも反応するため、光硬化膜の架橋密度が高められ、耐熱性や耐薬品性が向上する傾向がある。光架橋密度が高められることにより、現像液等への難燃剤の溶出が抑制される傾向がある。
【0024】
分子内に(メタ)アクリロイル基を有するポリマーは、例えば、ウレタン系ポリマーを形成するためのジオール成分およびジイソシアネート成分に加えて、分子内に水酸基および少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を含有する化合物および/または分子内にイソシアネート基および少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を用いることにより得られる。
【0025】
分子内に水酸基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-アクリロキシ-3-メタクリロキシプロパン、o-フェニルフェノールグリシジルエーテル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、2-(4-ヒドロキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、N-メチロールアクリルアミド、3,5-ジメチル-4-ヒドロキシベンジルアクリルアミド等が挙げられる。分子内にイソシアネート基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2-(2-メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート等が挙げられる。
【0026】
バインダー樹脂は、1分子中に2以上の光硬化性官能基を有していてもよい。例えば、ウレタンポリマーの重合において、ジオールおよびジイソシアネートに加えて、1分子中に1つの水酸基と1つの(メタ)アクリロイル基を有する化合物を用い、その比率を大きくすれば、ポリマー鎖の両末端に(メタ)アクリロイル基を有するウレタンジ(メタ)アクリレートが得られる。
【0027】
樹脂組成物から形成される硬化膜とポリイミドフィルム等の基板材料との密着性を向上させる観点から、樹脂組成物における(a)成分の含有量は、全固形分100重量部に対して、10~80重量部が好ましく、20~70重量部がより好ましく、30~60重量部がさらに好ましい。
【0028】
<(b)熱硬化性樹脂>
熱硬化性樹脂は、分子内に少なくとも1つの熱硬化性官能基を有する化合物である。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、イソシアネート樹脂、ブロックイソシアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビスアリルナジイミド樹脂、ポリエステル樹脂(例えば不飽和ポリエステル樹脂等)、ジアリルフタレート樹脂、珪素樹脂、ビニルエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、シアネート樹脂(例えばシアネートエステル樹脂等)、ユリア樹脂、グアナミン樹脂、スルホアミド樹脂、アニリン樹脂、ポリウレア樹脂、チオウレタン樹脂、ポリアゾメチン樹脂、エピスルフィド樹脂、エン-チオール樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等が挙げられる。硬化膜に耐熱性を付与できると共に、金属箔等の導体や回路基板に対する接着性を付与できることから、1分子中に2以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂が好ましい。
【0029】
多官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂は、ウレタン、ゴム、キレート、ダイマー酸等による変性エポキシ樹脂でもよい。(b)成分として、市販のエポキシ樹脂をそのまま用いてもよい。
【0030】
硬化膜の耐熱性および耐薬品等の観点から、エポキシ樹脂のエポキシ当量(1当量のエポキシ基を含む化合物の質量(g))は2000以下が好ましく、1500以下がより好ましい。エポキシ樹脂の重量平均分子量は、150~2000程度が好ましく、200~1500程度がより好ましい。
【0031】
樹脂組成物から形成される硬化膜の耐熱性や耐薬品性を向上する観点から、樹脂組成物における(b)成分の含有量は、全固形分100重量部に対して、1~70重量部が好ましく、5~50重量部がより好ましく、10~20重量部がさらに好ましい。
【0032】
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂の硬化剤および/または硬化促進剤を含んでいてもよい。硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、アミノ樹脂、ユリア樹脂、メラミン、ジシアンジアミド等が挙げられる。硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン等のホスフィン系化合物;3級アミン系、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラエタノールアミン等のアミン系化合物;1,8-ジアザ-ビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセニウムテトラフェニルボレート等のボレート系化合物;イミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;2-メチルイミダゾリン、2-エチルイミダゾリン、2-イソプロピルイミダゾリン、2-フェニルイミダゾリン、2-ウンデシルイミダゾリン、2,4-ジメチルイミダゾリン、2-フェニル-4-メチルイミダゾリン等のイミダゾリン類;2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6[2’-エチル-4’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン等のアジン系イミダゾール類等が挙げられる。
【0033】
<(c)難燃剤>
樹脂組成物は、難燃剤として下記の一般式で表される有機リン系化合物(スピロ環ジホスホネート化合物)を含む。
【0034】
【0035】
式中、R2およびR5は、それぞれ独立に、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、または置換基を有してもよいアントリル基である。R1、R3、R4およびR6は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、または置換基を有してもよいアントリル基である。
【0036】
上記の有機リン系化合物は、例えば特開2004-35480号公報に記載の方法により製造できる。
【0037】
バインダー樹脂としてウレタン系ポリマーを用い、難燃剤としてスピロ環ジホスホネート系化合物を用いることにより、少量の難燃剤の添加で優れた難燃性を示す絶縁膜が得られる。難燃剤の添加量が少ないため、難燃剤の添加に伴う耐熱性や膜強度の低下を抑制できる。上記のバインダー樹脂と難燃剤の組合せによる難燃性の向上要因として、ポリマーと難燃剤の熱分解挙動がマッチングしていることが考えられる。例えば、ポリマーの熱分解により発生したフリーラジカルが難燃剤によりトラップされるため、燃焼の初期段階で連鎖反応を停止できることが難燃性の向上に寄与する1つの要因と考えられる。
【0038】
樹脂組成物を感光性樹脂組成物として用いる場合、難燃剤としてスピロ環ジホスホネート系化合物を用いることにより、アルカリ現像の前後で光硬化膜の難燃性や密着性の変化が生じ難く、難燃剤のブリードアウトも生じ難い。アルカリ現像の前後での特性変化が小さい理由として、難燃剤が有機リン系化合物であるため、バインダー樹脂との相溶性が高いことや、難燃剤が常温で固体であり、アルカリ現像液へ溶出し難いこと等が挙げられる。
【0039】
一般に、難燃剤を含む硬化膜は、難燃剤の含有量が多いほど、柔軟性が低下し、耐屈曲性が劣る傾向があるが、(a)成分としてのウレタン系ポリマーと(c)成分としてのスピロ環ジホスホネート系難燃剤の組合せでは、難燃剤を添加しても、柔軟性が低下し難い。そのため、本発明の樹脂組成物は、フォルダブルデバイス用のフレキシブルプリント配線板の絶縁保護膜の形成にも好適に用いることができる。
【0040】
樹脂組成物における(c)成分の含有量は、全固形分100重量部に対して、1~50重量部が好ましく、5~40重量部がより好ましく、10~30重量部がさらに好ましい。上記のスピロ環ジホスホネート系化合物は、無機リン系化合物に比べて、少量でも難燃効果を示しやすい。そのため、樹脂組成物における(c)成分の含有量は、20重量部以下または15重量部以下であってもよい。樹脂組成物の固形分全量に含まれるリン原子の量は、0.5~10重量%が好ましく、1~7重量%がより好ましく、1.5~5重量%がさらに好ましい。リン原子の含有量は、4重量%以下または3重量%以下であってもよい。
【0041】
<(d)光硬化性化合物>
樹脂組成物は、光硬化性化合物を含んでいてもよい。光硬化性化合物を含むことにより、樹脂組成物は感光性を有する。(a)バインダー樹脂が光硬化性官能基を有する場合、光硬化性化合物は(a)成分とも反応するため、光硬化膜の架橋密度が高められ、耐熱性や耐薬品性が向上する傾向がある。
【0042】
光硬化性化合物は、少なくとも1つの光硬化性官能基を有する。光硬化性官能基としては、エチレン性不飽和基が好ましい。エチレン性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基およびビニル基が挙げられる。(d)成分は、1分子中に2個以上の光硬化性官能基を有するものが好ましい。
【0043】
光硬化膜の架橋密度を高める観点から、(d)成分としては、(a)成分よりも低分子量であるものが用いられる。(d)成分の重量平均分子量は、2000以下が好ましく、1500以下がより好ましく、1000未満がさらに好ましい。(d)成分の官能基当量(1当量のエチレン性不飽和基を含む化合物の質量(g))は、1000以下が好ましく、750以下がより好ましく、500以下がさらに好ましい。
【0044】
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1-(メタ)アクリロキシ-3-(メタ)アクリロキシプロパン、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロキシプロパン、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、4,4’-イソプロピリデンジフェノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-水添ビス[4-((メタ)アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-((メタ)アクリロキシ・ポリプロポキシ)フェニル]プロパン、ビスフェノールF EO変性(n=2~50)ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA EO変性(n=2~50)ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールS EO変性(n=2~50)ジ(メタ)アクリレート、等の2官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トチメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トチメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリ(エタン(メタ)アクリレート)、1,3,5-トリ(メタ)アクリロイルヘキサヒドロ-s-トリアジン等の3官能(メタ)アクリレート;テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等の4官能以上の(メタ)アクリレートが挙げられる。上記の中でも、アルカリ水溶液等の水系現像液への感光性樹脂組成物の溶解性が向上し、現像時間を短縮できることから、ビスフェノールA EO変性(n=2~50)ジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0045】
樹脂組成物が(d)成分を含む場合、その含有量は、樹脂組成物の全固形分100重量部に対して、1~50重量部が好ましく、5~40重量部がより好ましく、10~30重量部がさらに好ましい。
【0046】
<(f)光重合開始剤>
(a)成分が光重合性官能基を有する場合、および/または樹脂組成物が(d)成分を含む場合、樹脂組成物は、(e)光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤は、UV(紫外光)等の光エネルギーを吸収して活性化し、ラジカル重合性基の反応を開始・促進させる化合物である。樹脂組成物が光重合開始剤を含有することにより、樹脂組成物を感光性樹脂組成物として利用することができる。
【0047】
光ラジカル重合開始剤の例としては、ベンゾイン系化合物、アセトフェノン類、アミノケトン類、オキシムエステル類、アシルホスフィンオキサイド系化合物、アゾ系化合物等の自己開裂型の光ラジカル重合開始剤;およびベンゾフェノン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルケタール類、ジベンゾスベロン類、アントラキノン類、キサントン類、チオキサントン類、ハロゲノアセトフェノン類、ジアルコキシアセトフェノン類、ヒドロキシアセトフェノン類、ハロゲノビスイミダゾール類、ハロゲノトリアジン類等の水素引抜型の光ラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0048】
樹脂組成物における(e)成分の含有量は、適宜設定すればよい。感光性を高めるとともに過露光を防止する観点から、(e)成分の含有量は、(a)成分と(d)成分の合計100重量部対して、0.1~10重量部が好ましく、0.3~5重量部がより好ましく、0.5~3重量部がさらに好ましい。
【0049】
<(f)着色剤>
樹脂組成物が(f)着色剤を含有することにより、樹脂組成物により形成される絶縁膜を任意に着色することができる。着色剤は、染料または顔料のいずれかである。着色剤としては、青色着色剤、赤色着色剤、黄色着色剤、橙色着色剤、紫色着色剤等が挙げられる。複数の着色剤を組み合わせることにより様々な色の絶縁膜を形成できる。例えば、青色顔料と橙色顔料と紫色顔料とを組み合わせることにより、黒色着色剤黒色着色剤とすることもできる。
【0050】
青色着色剤としては、例えば、フタロシアニン系、アントラキノン系またはジオキサジン系等の顔料であるC.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、60;染料系であるSolvent Blue 35、63、68、70、83、87、94、97、122、136、67、70が挙げられる。上記以外にも金属置換もしくは無置換のフタロシアニン化合物も青色着色剤として使用できる。
【0051】
橙色着色剤としては、例えば、C.I.Pigment Orange 5、13、14、16、17、24、34、36、38、40、43、46、49、51、55、59、61、63、64、71、73が挙げられる。
【0052】
紫色着色剤としては、例えば、C.I.Pigment Violet 19、23、29、30、32、36、37、38、39、40、50;Solvent Violet 13、36が挙げられる。
【0053】
(f)成分の含有量は、着色剤の種類や、絶縁膜の色に応じて適宜設定すればよく、例えば、樹脂組成物の全固形分100重量部に対して、1~10重量部程度であり、2~7重量部、または3~5重量部程度であってもよい。
【0054】
<その他成分>
樹脂組成物は、上記(a)~(f)成分の他に溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、バインダーポリマー等の樹脂成分を溶解できるものであれば特に限定されず、スルホキシド類、ホルムアミド類、アセトアミド類、ピロリドン類、アセテート類、エーテル類、ヘキサメチルホスホルアミド、γ-ブチロラクトン等の極性有機溶媒が好適に用いられる。これらの極性有機溶媒と、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素とを組み合わせて用いることもできる。
【0055】
樹脂組成物は、必要に応じて、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤、安定剤、フィラー等の各種添加剤を含んでいてもよい。消泡剤およびレベリング剤としては、アクリル系化合物、ビニル系化合物、シリコーン系化合物等が挙げられる。
【0056】
<樹脂組成物の調製>
上記の各成分を混合することにより、樹脂組成物を調製する。上記の各成分は、混合前および/または混合後に、必要に応じて、粉砕・分散や、脱泡等の操作を行ってもよい。粉砕・分散は、例えば、ビーズミル、ボールミル、3本ロール等の混練装置を用いて実施すればよい。
【0057】
<絶縁膜の形成>
樹脂組成物(溶液)を基板上に塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥することにより絶縁膜を形成できる。基板としては、例えばプリント配線板が用いられる。プリント配線板の金属配線上に絶縁膜を形成することにより、絶縁信頼性が高められる。プリント配線板は、ポリイミドフィルム等の可撓性基板を用いたフレキシブルプリント配線板であってもよい。
【0058】
基板上への樹脂組成物の塗布は、スクリ-ン印刷、カーテンロール、リバースロール、スプレーコーティング、スピンナーを利用した回転塗布等により行えばよい。塗膜の厚みは、乾燥後の厚みが5~100μm程度、好ましくは10~100μmとなるように調整すればよい。加熱により乾燥を行う場合、熱硬化反応を抑制する観点から、乾燥温度は120℃以下が好ましく、40~100℃がより好ましい。
【0059】
乾燥後の塗膜はそのまま絶縁膜として使用してもよい。絶縁膜の耐熱性や耐薬品性を高める観点からは、熱硬化および/または光硬化により硬化することが好ましい。熱硬化膜を形成する場合は、塗膜の加熱処理により、(b)成分を硬化させればよい。(a)成分がカルボキシ基を有している場合は、(a)成分と(b)成分が反応することにより架橋密度が高められる。熱硬化を十分に進行させるとともに、熱による金属配線の酸化を抑制する観点から、硬化温度(熱硬化時の最高温度)は、100~250℃以下が好ましく、120~200℃がより好ましく、130~180℃がさらに好ましい。
【0060】
光硬化膜を形成する場合は、塗膜を露光すればよい。露光の際に、塗膜上にネガ型のフォトマスクを配置して、紫外線、可視光線、電子線等の活性光線を照射することにより、露光部分が選択的に硬化される。次いで、シャワー、パドル、浸漬等により現像を実施することにより、非露光部分が溶解するため、パターン硬化膜が形成される。
【0061】
現像液としては、一般にアルカリ水溶液が用いられる。(a)成分がカルボキシ基および光硬化性官能基を有する場合、未露光の塗膜では、(a)成分はアルカリ可溶性を有し、露光後の塗膜では(a)成分が光硬化されているためアルカリ可溶性を有さない。そのため、フォトマスクを配置して露光を行い、アルカリ現像液を用いて現像を行えば、未露光部分が現像液に溶解するため、パターン硬化膜が形成される。前述のように、(c)成分のスピロ環ジホスホネート系難燃剤は、アルカリ現像液に溶出し難いため、アルカリ現像を行っても、硬化膜の難燃性や密着性等の特性を維持できる。
【0062】
現像液のアルカリ性化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムイオン、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、アミン化合物等が挙げられる。アルカリ化合物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトライソプロピルアンモニウムヒドロキシド、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0063】
現像液は、メタノ-ル、エタノ-ル、n-プロパノ-ル、イソプロパノ-ル、N-メチル-2-ピロリドン等の水と混和性を有する有機溶媒を含んでいてもよい。現像液のアルカリ濃度は、一般に0.01~20重量%、好ましくは、0.02~10重量%であり、現像液の温度は一般に0~80℃、好ましくは10~60℃である。現像後のパターン硬化膜(レリーフパターン)は、水、酸性水溶液等のリンス液によりリンスすることが好ましい。
【0064】
絶縁膜は、光硬化後にさらに加熱による熱硬化を行ってもよい。光硬化後の塗膜は、(b)成分のエポキシ基等の熱硬化性官能基が未反応で残存しているため、熱硬化性を有する。加熱により(a)成分のカルボキシ基が(b)成分のエポキシ基等と反応するため、バインダー樹脂と熱硬化性樹脂の架橋ネットワークが形成され、硬化膜の耐熱性が向上する。前述のように、熱硬化を十分に進行させるとともに、熱による金属配線の酸化を抑制する観点から、硬化温度は、100~250℃が好ましく、120~200℃がより好ましく、130~180℃がさらに好ましい。
【0065】
樹脂組成物から得られる硬化膜は、優れた耐熱性および難燃性を有することから、プリント基板の表面保護材として好適に用いられる。また、硬化膜が柔軟性に優れるため、ポリイミドフィルム等の可撓性フィルム上に金属配線を備えるフレキシブルプリント基板の硬化膜としても好適に用いられる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0067】
[合成例]
以下の合成例では、分子内にカルボキシ基を有するポリマーを重合した。合成例1,2で得られたポリマーの特性は、以下の方法により評価した。
【0068】
<固形分濃度>
JIS K 5601-1-2に従って測定を行った。乾燥条件は170℃×1時間とした。
【0069】
<重量平均分子量>
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件で測定を行った。
使用装置:東ソー HLC-8220GPC相当品
カラム:東ソー TSK gel Super AWM-H(6.0mm I.D.×15cm)×2本
ガードカラム:東ソー TSK guard column Super AW-H
溶離液:30mM LiBr + 20mM H3PO4 in DMF
流速:0.6mL/min
カラム温度:40℃
検出条件:RI:ポラリティ(+)、レスポンス(0.5sec)
試料濃度:約5mg/mL
分子量標準品:PEG(ポリエチレングリコール)
【0070】
<酸価>
JIS K 5601-2-1に従って測定を行った。
【0071】
(合成例1)
攪拌機、温度計、滴下漏斗、および窒素導入管を備えた反応容器に、重合用溶媒として1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン(メチルトリグライム)40.00gおよびノルボルネンジイソシアネート20.62g(0.100モル)を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃に加温して溶解させた。この溶液に、ポリカーボネートジオール(旭化成株式会社製、商品名:PCDL T5652、重量平均分子量2000):50.00g(0.025モル)、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸:3.70g(0.025モル)、および2-ヒドロキシエチルメタクリレート:13.02g(0.100モル)をメチルトリグライム:40.00gに溶解した溶液を1時間かけて添加した。この溶液を80℃で5時間加熱攪拌して、分子内にカルボキシ基を含有し、末端にメタクリロイル基を有するウレタンポリマー(a1)の溶液を得た。溶液の固形分濃度は52%、ポリマーの重量平均分子量は8,600、酸価は18mgKOH/gであった。
【0072】
(合成例2)
攪拌機、温度計、滴下漏斗、および窒素導入管を備えた反応容器に、重合用溶媒としてメチルトリグライム100.0gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら80℃に昇温した。これに、室温で予め混合しておいた、メタクリル酸12.0g(0.14モル)、メタクリル酸ベンジル28.0g(0.16モル)、メタクリル酸ブチル60.0g(0.42モル)、およびラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.5gを、80℃に保温した状態で3時間かけて滴下漏斗から滴下した。滴下終了後、反応溶液を攪拌しながら90℃に昇温し、反応溶液の温度を90℃に保ちながらさらに2時間攪拌を行い、分子内にカルボキシ基を含有するアクリル系ポリマー(a2)の溶液を得た。溶液の固形分濃度は50%、ポリマーの重量平均分子量は48,000、酸価は78mgKOH/gであった。
【0073】
[樹脂組成物の調製]
表1に示す配合の組成物(単位は重量部)をメチルトリグライムに溶解させ、攪拌装置により撹拌した後、3本ロールミルで分散した。その後、脱泡装置で脱泡を行い、均一な溶液を調製した。溶媒としてのメチルトリグライムの量(上記合成例のポリマー溶液に含まれる溶媒も含めた全溶媒量)は、30重量部とした。各樹脂組成物には、表1に示す成分の他に、1.0重量部の光重合開始剤(エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(o-アセチルオキシム;BASF製「イルガキュア OXE02」)および0.1重量部のブタジエン系消泡剤(共栄社化学製「フローレン AC-2000」)を添加した。
【0074】
[硬化膜の形成および評価]
<ポリイミドフィルム上への硬化膜の形成>
厚み25μmのポリイミドフィルム(カネカ製「アピカル25NPI」)上に、樹脂組成物を、スクリーン印刷により最終乾燥厚みが20μmになるように塗布し、80℃で20分乾燥した後、100mJ/cm2の積算露光量の紫外線を照射して露光した。次いで、30℃の1.0重量%炭酸ナトリウム水溶液を、1.0kgf/mm2の吐出圧で60秒スプレーして現像を行った。現像後、純水で十分洗浄した後、140℃のオーブン中で60分加熱して、ポリイミドフィルム上に硬化膜(現像後)を形成した。
【0075】
上記と同様にして、ポリイミドフィルム上に樹脂組成物を塗布し、乾燥および露光を行った後、現像を行わずに、140℃のオーブンで60分加熱して、ポリイミドフィルム上に硬化膜(現像前)を形成した。
【0076】
<難燃性>
硬化膜(現像前および現像後)を形成したポリイミドフィルムを試料として、難燃性UL94規格に従い、以下のように難燃性試験を行った。
硬化膜付きポリイミドフィルムを、幅50mm×長さ200mmに切り出し、長さ方向の中央部分(125mmの箇所)に標線を入れ、硬化膜側が外側となるように筒状に丸め、標線よりも上の重ね合わせ部分(長さ方向75mmの箇所)および上部に、隙間がないようにテープを貼り、難燃性試験用の筒を作製した。
【0077】
サンプルの上部をクランプで留めて垂直に固定し、サンプル下部にバーナーの炎を3秒間近づけて着火し、3秒経過後にバーナーの炎を遠ざけ、サンプルの炎や燃焼が何秒後に消えるかを測定した。1つの試料につきこの試験を2回繰り返し、2回ともサンプルからバーナーの炎を遠ざけてから10秒以内に炎や燃焼が停止し、炎が標線まで達することなく自己消火したものをOK,2回のうちいずれか1回で10秒以内に消火しなかったもの、または炎が標線まで上昇して燃焼したものをNGとした。5本の試料について試験を行い、下記の基準で評価を行った。
A:5本全てがOKであったもの
B:5本中1~4本がOKであったもの
C:5本全てがNGであったもの
【0078】
<密着性>
硬化膜(現像前および現像後)を形成したポリイミドフィルムを試料として、JIS K5400の碁盤目テープ法に準じて、硬化膜の密着性を評価した。1つの試料に対してテープ剥離試験を5回繰り返して行い、試験後の試料における硬化膜の残存面積率(残膜率)から、下記の基準で評価を行った。
A:剥がれがみられなかったもの(残存面積率100%)
B:剥離がみられたが、残存面積率が95%以上であったもの
C:残存面積率が80%以上95未満であったもの
D:残存面積率が80%未満であったもの
【0079】
硬化膜(現像後)を形成したポリイミドフィルムを、5mm×100mmのサイズにカットし、硬化膜が外側になるように180°折り曲げ、折り曲げ箇所に100gの荷重を3秒間載せた。荷重を除去後、折り曲げ箇所を光学顕微鏡にて観察し、クラックの有無を評価した。この作業を硬化膜にクラックが入るまで実施し、下記の基準により評価した。
A:折り曲げ10回でもクラックが発生しなかったもの
B:折り曲げ2回以上9回以下でクラックが発生したもの
C:折り曲げ1回でクラックが発生したもの
【0080】
<タック性>
上記と同様にして、ポリイミドフィルム上に樹脂組成物を塗布し、80℃で20分乾燥し、塗膜(Bステージ膜)が形成されたポリイミドフィルムを作製した。塗膜同士が接するように2枚のフィルムを重ね合わせ、引き剥がしたときの状態を観察し、下記の基準により評価した。
A:塗膜同士の貼り付きがなく、塗膜に貼り付き跡も残っていなかったもの
B:塗膜同士が貼り付き剥がした後に跡が残っていたもの、または塗膜同士が完全に貼り付いて引き剥がせなかったもの
【0081】
<ブリードアウト>
厚み25μmのポリイミドフィルム(カネカ製「アピカル25NPI」)と厚み12μmの電解銅箔とをポリイミド系接着剤により張り合わせたフレキシブル銅張積層板の銅箔を、ライン幅/スペース幅=100μm/100μmの櫛形パターンにエッチングし、10容量%の硫酸水溶液中に1分間浸漬して銅箔の表面処理を行った後、純水で洗浄してフレキシブルプリント配線板を作製した。このフレキシブルプリント配線板の配線形成面に、脂組成物を、スクリーン印刷により最終乾燥厚みが20μmになるように塗布し、上記と同様に、乾燥、露光、現像、洗浄および加熱を行い、硬化膜付きフレキシブルプリント配線板を得た。この試料の配線の端子を電源に接続し、85℃、85%RHの環境試験機中で100Vの直流電流を1000時間印加した後、試料を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
A:試験片表面および銅配線上に、膨れ、染み出し等の異常がみられなかったもの
B:試験片表面および/または銅配線上に、膨れ、染み出し等の異常が見られたもの
【0082】
[評価結果]
実施例および比較例の樹脂組成物の組成(配合、および固形分全量に対するP原子含有量)、ならびに評価結果を、表1に一覧で示す。なお、表1の斜線の項目は未評価である。各成分の詳細は以下に示す通りである。
【0083】
<1>三菱化学製「jER828US」;ビスフェノールA型エポキシ樹脂(平均分子量370、エポキシ当量190)
<2>日立化成製「ファンクリル FA-321M」;EO変性ビスフェノールAジメタクリレート(平均分子量804)
<3>帝人製「ファイヤガード FCX-210」;スピロ環ジホスホネート系難燃剤
<4>クラリアント製「Exolit OP-935」;ホスフィン酸金属塩系難燃剤
<5>大塚化学製「SPB-100L」;ホスファゼン系難燃剤
<6>ナバルテック製「APYRAL AOH60」;水酸化アルミニウム系難燃剤
<7>大八木化学工業製「CR-733S」;リン酸エステル系難燃剤
<8>下記の青色顔料、橙色顔料および紫色顔料を、重量比1:1:1で混合した黒色顔料
青色顔料:BASF製 Pigment Blue 15:4
橙色顔料:クラリアント製 Pigment Orange 43
紫色顔料:クラリアント製 Pigment Violet 19
【0084】
【0085】
難燃剤を添加しなかった参考例1および参考例2では、耐折れ性は良好であったが、難燃性が不充分であった。ホスファゼン系難燃剤を用いた比較例4、水酸化アルミニウム系難燃剤を用いた比較例5、およびリン酸エステル系難燃剤を用いた比較例6では、難燃性の向上は見られなかった。また、液体の難燃剤を用いた比較例4および比較例6では、タック性が悪化していた。
【0086】
ホスフィン酸金属塩系難燃剤を用いた比較例1~3では、難燃剤の使用量が少ない場合は難燃性が劣っており、難燃剤の添加量を増加させると耐折れ性が低下する傾向がみられた。また、これらの比較例では、アルカリ現像後に、難燃性および密着性が低下する傾向がみられた。これは、アルカリ現像による難燃剤の溶出や脱離に起因すると考えられる。
【0087】
スピロ環ジホスホネート系難燃剤を用いた実施例1および実施例2は、難燃性に優れていた。また、実施例1と比較例1~6との対比から、スピロ環ジホスホネート系難燃剤は少量の添加で難燃性が向上することが分かる。これは、燃焼開始時に発生するフリーラジカルに対して難燃剤のラジカルトラップ機構が有効に作用したためであると考えられる。
【0088】
実施例1,2では、硬化膜が高い密着性を示し、アルカリ現像後にも密着性および耐熱性の低下は生じなかった。また、実施例1,2では、難燃剤を含まない参考例1と同様の良好な耐折れ性を示し、難燃剤の添加による耐折れ性の低下は生じていなかった。
【0089】
バインダー樹脂としてアクリル系ポリマーを用い、スピロ環ジホスホネート系難燃剤を添加した比較例7,8では、実施例1,2と同様、難燃性、密着性、およびタック性が良好であった。しかし、比較例7,8では、難燃剤の添加量の増加に伴って、耐折れ性が低下していた。
【0090】
上記の結果から、ウレタン系バインダーを含む樹脂組成物にスピロ環ジホスホネート系難燃剤を添加した場合に、特異的に、優れた難燃性および密着性を有し、かつ柔軟性にも優れる硬化膜を形成できることが分かる。