(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】金属オキソ錯体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 31/28 20060101AFI20240112BHJP
C07C 35/46 20060101ALI20240112BHJP
C07F 7/08 20060101ALI20240112BHJP
C07F 19/00 20060101ALI20240112BHJP
C07F 7/12 20060101ALI20240112BHJP
C08G 61/06 20060101ALI20240112BHJP
C08F 4/78 20060101ALI20240112BHJP
C07F 11/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
C07C31/28 CSP
C07C35/46
C07F7/08 C
C07F19/00
C07F7/12 V
C08G61/06
C08F4/78
C07F11/00 C
(21)【出願番号】P 2020553394
(86)(22)【出願日】2019-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2019041320
(87)【国際公開番号】W WO2020085306
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018202036
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503423096
【氏名又は名称】RIMTEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】押木 俊之
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 満
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03424772(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0111446(US,A1)
【文献】粂裕 ほか,1,3-ジケトンの配位したオキソタングステン錯体とフェノール類の反応により生成する錯体の分子構造とメタセ,石油学会 年会・秋季大会講演要旨集,2017年,p.197,第47回石油・石油化学討論会
【文献】松竹真吾 ほか,ヒドロキシアセトフェノンが配位したタングステン錯体による環状オレフィンのメタセシス反応,石油学会 年会・秋季大会講演要旨集,2017年,p.198,第47回石油・石油化学討論会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08G
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される金属オキソ錯体。
【化11】
〔上記一般式(1)中、Mはモリブデン原子またはタングステン原子を表し、Aは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子または鉛原子を表し、X
1およびX
2は、それぞれ独立してハロゲン原子を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して
、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表し、R
1~R
3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。〕
【請求項2】
前記一般式(1)において、Aが炭素原子またはケイ素原子である請求項1に記載の金属オキソ錯体。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R
4およびR
5の少なくとも一方が、置換基を有していてもよい分岐鎖の炭素数3~20のアルキル基である請求項1または2に記載の金属オキソ錯体。
【請求項4】
下記式(2)~(10)で表される化合物のうちいずれか1つである請求項1または2に記載の金属オキソ錯体。
【化12】
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の金属オキソ錯体を製造する方法であって、
一般式(11):MOX
1
2X
2
2で表される化合物を、下記一般式(12)で表される化合物と反応させ、次いで下記一般式(13)で表される化合物と反応させる金属オキソ錯体の製造方法。
【化13】
〔上記一般式(11)~(13)中、Mはモリブデン原子またはタングステン原子を表し、Aは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子または鉛原子を表し、X
1およびX
2は、それぞれ独立してハロゲン原子を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して
、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表し、R
1~R
3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。〕
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の金属オキソ錯体を有機金属化合物と接触させて活性化させ、活性化された前記金属オキソ錯体の存在下、ノルボルネン系モノマーをメタセシス重合させる、重合体の製造方法。
【請求項7】
前記有機金属化合物が、周期表第11~14族の金属の有機金属化合物である請求項6に記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の金属オキソ錯体と有機金属化合物とを反応させてなるメタセシス重合触媒。
【請求項9】
前記有機金属化合物が、周期表第11~14族の金属の有機金属化合物である請求項8に記載のメタセシス重合触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属オキソ錯体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、メタセシス触媒前駆体として好適に用いられ、空気中で安定な金属オキソ錯体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラブス触媒と称されるルテニウムカルベン錯体や、シュロック触媒と称されるモリブデンカルベン錯体およびタングステンカルベン錯体などの遷移金属カルベン錯体は、メタセシス反応のための高活性の触媒(以下、「メタセシス触媒」と称することがある。)として知られており、広く用いられている。
【0003】
遷移金属カルベン錯体のなかでも、モリブデンカルベン錯体やタングステンカルベン錯体は、メタセシス触媒としての活性が極めて高く、また、たとえば、特許文献1に開示されているように、金属上の置換基や配位子を適切に選択することにより立体特異的にメタセシス反応を進行させることができる。そのため、モリブデンカルベン錯体やタングステンカルベン錯体について、種々の検討が行われている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術等の従来のモリブデンカルベン錯体やタングステンカルベン錯体は、ルテニウムカルベン錯体などに比して、空気中での安定性に劣り、その取扱いが容易でない(ハンドリング性が悪い)という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、メタセシス触媒前駆体として好適に用いられ、空気中で安定な金属オキソ錯体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、モリブデン原子またはタングステン原子に、-OA(R1R2R3)で表される基(Aは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子または鉛原子を表し、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表し、R1~R3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。)と、β-ジケトンとを配位させてなる金属オキソ錯体によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、 下記一般式(1)で表される金属オキソ錯体が提供される。
【化1】
〔上記一般式(1)中、Mはモリブデン原子またはタングステン原子を表し、Aは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子または鉛原子を表し、X
1およびX
2は、それぞれ独立してハロゲン原子を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表し、R
1~R
3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。〕
【0009】
前記一般式(1)において、Aが炭素原子またはケイ素原子であることが好ましい。
前記一般式(1)において、R
4およびR
5の少なくとも一方が、置換基を有していてもよい分岐鎖の炭素数3~20のアルキル基であることが好ましい。
本発明の金属オキソ錯体は、下記式(2)~(10)で表される化合物のうちいずれか1つであることが好ましい。
【化2】
【0010】
また、本発明によれば、上記の金属オキソ錯体を製造する方法であって、一般式(11):MOX
1
2X
2
2で表される化合物を、下記一般式(12)で表される化合物と反応させ、次いで下記一般式(13)で表される化合物と反応させる金属オキソ錯体の製造方法が提供される。
【化3】
〔上記一般式(11)~(13)中、Mはモリブデン原子またはタングステン原子を表し、Aは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子または鉛原子を表し、X
1およびX
2は、それぞれ独立してハロゲン原子を表し、R
1~R
5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表し、R
1~R
3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。〕
【0011】
さらに、本発明によれば、上記の金属オキソ錯体を有機金属化合物と接触させて活性化させ、活性化された前記金属オキソ錯体の存在下、ノルボルネン系モノマーをメタセシス重合させる、重合体の製造方法が提供される。
本発明の重合体の製造方法において、前記有機金属化合物が、周期表第11~14族の金属の有機金属化合物であることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、上記の金属オキソ錯体と有機金属化合物とを反応させてなるメタセシス重合触媒が提供される。
本発明のメタセシス重合触媒において、前記有機金属化合物が、周期表第11~14族の金属の有機金属化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、メタセシス触媒前駆体として好適に用いられ、空気中で安定な金属オキソ錯体、ならびに、このような金属オキソ錯体を製造するための方法、および、このような金属オキソ錯体を用いた重合体の製造方法が提供される。また、本発明によれば、このような金属オキソ錯体を用いてなるメタセシス重合触媒も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の金属オキソ錯体は、下記一般式(1)で表される金属オキソ錯体である。
【化4】
【0015】
上記一般式(1)中、Mはモリブデン原子またはタングステン原子を表し、Aは炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子または鉛原子を表し、X1およびX2は、それぞれ独立してハロゲン原子を表し、R1~R5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。また、R1~R3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。
【0016】
上記一般式(1)において、Mは、錯体の中心金属であるモリブデン原子またはタングステン原子を表す。本発明の金属オキソ錯体の中心金属は、モリブデン原子およびタングステン原子のいずれでもよいが、触媒活性により優れるという観点より、タングステン原子が好ましい。
【0017】
また、上記一般式(1)で表される化合物は、-OA(R1R2R3)で表される基を配位子として有する。本発明の金属オキソ錯体は、-OA(R1R2R3)で表される基と、β-ジケトンとが配位された構造を有するものであり、これにより空気中において優れた安定性を示すものと推察される。従って、本発明の金属オキソ錯体は、ハンドリング性に優れたものである。また、本発明の金属オキソ錯体は、空気中において、安定であることに加えて、単一成分として高純度に単離精製可能なものである。
【0018】
上記一般式(1)中、Aは、炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、スズ原子または鉛原子を表し、金属オキソ錯体の空気中における安定性をより高めることができるという点より、炭素原子、またはケイ素原子が好ましい。
【0019】
また、-OA(R1R2R3)で表される基を構成する、R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。また、R1~R3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基の具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、2,2-ジメチルプロピル基などや、2-メチル-2-フェニルエチル基などが挙げられる。置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基の具体例としては、特に限定されないが、フェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、メシチル基などが挙げられる。R1~R3で表される基は、同一の基であっても、互いに異なる基であってもよい。
【0020】
また、R1~R3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよく、この場合において、-OA(R1R2R3)で表される基を構成する、-A(R1R2R3)で表される基の具体例(ここにおいて、Aは、炭素原子である)としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、ノルボルニル基、ボルニル基、イソボルニル基、デカヒドロナフチル基、トリシクロデカニル基、アダマンチル基などが挙げられ、これらの基は、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、2,2-ジメチルプロピル基、フェニル基などが挙げられる。
【0021】
上記一般式(1)で表される化合物中、R4、R5は、配位子としてのβ-ジケトン構造に結合する基であり、R4、R5は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基を表す。置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~20のアルキル基の具体例としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、2,2-ジメチルプロピル基などや、2-メチル-2-フェニルエチル基などが挙げられる。置換基を有していてもよい炭素数6~20のアリール基の具体例としては、特に限定されないが、フェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、メシチル基などが挙げられる。R4、R5で表される基は、同一の基であっても、互いに異なる基であってもよい。
【0022】
本発明の金属オキソ錯体においては、メタセシス触媒前駆体として用いる場合において、重合体を得るために用いるモノマーに対する溶解性をより高めることができるという観点より、R4、R5のうち少なくとも一方については、置換基を有していてもよい分岐鎖の炭素数3~20のアルキル基であることが好ましく、t-ブチル基であることがより好ましい。特に、重合体を得るために用いるモノマーに対する溶解性をさらに高めることができるという観点から、R4、R5の両方が、置換基を有していてもよい分岐鎖の炭素数3~20のアルキル基であることがさらに好ましく、R4、R5の両方が、t-ブチル基であることが特に好ましい。
【0023】
上記一般式(1)中、X1およびX2は、それぞれ独立してハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられ、これらの中でも、塩素原子が好ましい。
【0024】
本発明の金属オキソ錯体においては、上記一般式(1)で表される化合物の中でも、下記式(2)~(10)で表される化合物が好ましく、下記式(2)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)で表される化合物がより好ましく、下記式(2)、(5)、(6)、(8)で表される化合物がより好ましく、下記式(2)、(5)、(8)で表される化合物がさらに好ましく、下記式(2)、(5)で表される化合物がさらよりに好ましく、下記式(2)で表される化合物が特に好ましい。
【化5】
【0025】
上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を製造する方法としては、特に限定されないが、たとえば、次に述べる本発明の金属オキソ錯体の製造方法によれば、好適に本発明の金属オキソ錯体を得ることができる。すなわち、本発明の金属オキソ錯体の製造方法は、一般式(11):MOX
1
2X
2
2で表される化合物を、下記一般式(12)で表される化合物と反応させ、次いで下記一般式(13)で表される化合物と反応させることにより、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を製造するものである。
【化6】
【0026】
上記一般式(11)~(13)中、M、A、X1、X2、R1~R5が表すものは、それぞれ、上記一般式(1)中のM、A、X1、X2、R1~R5が表すものと同じであり、好適な態様も同じである。また、上記一般式(1)と同様に、R1~R3は、それぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。
【0027】
本発明の金属オキソ錯体の製造方法では、上記一般式(11)で表される化合物と、上記一般式(12)で表される化合物とを反応させる方法としては、特に限定されないが、これらを溶媒中で混合する方法などが挙げられる。反応温度は、特に限定されないが、好ましくは0~100℃、より好ましくは25~60℃であり、反応時間は、特に限定されないが、好ましくは1~48時間、より好ましくは2~24時間である。また、反応雰囲気としては、不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
【0028】
反応において用いる溶媒としては、特に限定されず、上記一般式(11)で表される化合物と、上記一般式(12)で表される化合物とに対して不活性であり、かつこれらの反応を阻害しない溶媒であればよく、特に限定されないが、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンテン、2-ペンテン、1-へキセン、2-へキセン、n-ヘプタンなどの鎖状または分岐状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル化合物;などが挙げられる。
【0029】
次いで、上記反応により得られた反応物に、上記一般式(13)で表される化合物を添加し、上記一般式(13)で表される化合物を反応させる。これらを反応させる方法としては、特に限定されないが、これらを溶媒中で混合する方法などが挙げられる。反応温度は、特に限定されないが、好ましくは0~150℃、より好ましくは25~80℃であり、反応時間は、特に限定されないが、好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間である。また、反応雰囲気としては、不活性ガス雰囲気とすることが好ましく、溶媒としては、上記したものと同様のものを用いることができる。
【0030】
本発明の金属オキソ錯体の製造方法により、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を、反応液の状態で得た場合には、溶媒などの揮発成分を留去することで、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を得ることができる。また、溶媒などの揮発成分を除去した後、必要に応じて、溶媒を用いた洗浄や再結晶化を行ってもよい。
【0031】
このような本発明の金属オキソ錯体の製造方法によれば、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を、高純度で、明確な単一成分として好適に得ることができる。そして、このようにして得られる上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体は、空気中において、安定であることに加えて、高純度に単離精製可能なものである。また、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体は、潜在的に高いメタセシス触媒活性を有するメタセシス触媒前駆体として好適に用いることができるものであり、とりわけ、ノルボルネン系モノマーのメタセシス重合のための、メタセシス触媒前駆体として特に好適に用いることができるものである。
【0032】
上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を、メタセシス触媒前駆体として用いる場合には、通常、メタセシス重合触媒において通常用いられる有機金属化合物と接触させることにより活性化させ、活性化させた状態にて、メタセシス重合反応に用いられる。すなわち、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体は、有機金属化合物と接触させることで、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体と有機金属化合物とを反応させ、メタセシス重合触媒とすることができる。特に、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体は、メタセシス重合触媒において通常用いられる有機金属化合物により、容易かつ効率的に活性化できるものであり、さらには、単一成分からなるものであることから、不純物等の影響も小さく、化学量論的に反応を進行させることができるものである。
【0033】
活性化剤としての有機金属化合物としては、たとえば、周期表第11~14族の金属の有機金属化合物等を用いることができ、その具体例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリメチルアルミニウム、トリブチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム化合物;エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソブチルアルミニウムジクロリド、ジオクチルアルミニウムアイオダイドなどのアルキルアルミニウムハライド化合物;ジエチルアルミニウムエトキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド化合物;テトラブチル錫などの有機スズ化合物;ジエチル亜鉛などの有機亜鉛化合物;イソプロピルマグネシウムクロリドなどの有機マグネシウム化合物などが挙げられる。これらの中でも、アルキルアルミニウム化合物、アルキルアルミニウムハライド化合物が好ましく、トリエチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、ジオクチルアルミニウムアイオダイドがより好ましく、トリエチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリドがさらに好ましい。活性化剤としての有機金属化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
ノルボルネン系モノマーのメタセシス重合において用いられるノルボルネン系モノマーとしては、ノルボルネン構造を有する化合物であればよく、特に限定されないが、その具体例としては、
ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン等のジシクロペンタジエン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4-カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4,5-ジカルボン酸無水物等のテトラシクロドデセン類;
2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネン、アクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、メタクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のノルボルネン類;
7-オキサ-2-ノルボルネン、5-エチリデン-7-オキサ-2-ノルボルネン等のオキサノルボルネン類;
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロ-9H-フルオレンともいう)、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ-4,10-ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.02,10.03,8]ペンタデカ-5,12-ジエン、トリシクロペンタジエン等の四環以上の環状オレフィン類等が挙げられる。
【0035】
メタセシス触媒前駆体として、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を用いたメタセシス重合反応は、溶媒中で行ってもよいし、あるいは無溶媒にて行ってもよい。特に、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体として、R4およびR5の少なくとも一方が、置換基を有していてもよい分岐鎖の炭素数3~20のアルキル基であるものを用いる場合には、ノルボルネン系モノマーなどのモノマーに対して良好な溶解性を示すため、上記一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体を、ノルボルネン系モノマーなどのモノマーに溶解させて用いることにより、塊状重合などの無溶媒での重合反応を可能とすることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り、重量基準である。
【0037】
<実施例1>
(式(2)で表される化合物の合成、ジピバロイルメタンおよびトリフェニルシラノールのタングステン錯体の合成)
オキシ四塩化タングステン285.3mg(0.835mmol)を、アルゴン雰囲気下でガラス製の25mLシュレンク管に入れ、続いて、これを攪拌しながらトルエン7.5mLをガラス製シリンジで加えた。次いで、ジピバロイルメタン184μL(0.835mmol)を、マイクロシリンジを使って室温で加え、一晩、室温で攪拌を続けることで、反応させた。次いで、得られた反応液に、トリフェニルシラノール230.8mg(0.835mmol)を、室温下にて加え、その後、50℃のオイルバスにて加温した状態にて、2日間攪拌を続けることで、反応させた。反応により得られた反応液は、オレンジ色を呈するものであった。そして、得られた反応液中に含まれる揮発成分を、減圧下で留去した後、ヘキサン8mLを加えることで、ヘキサン懸濁液とした。次いで、ヘキサン懸濁液を遠心分離機にかけることにより、不溶物を沈殿させ、上澄みのオレンジ色溶液を取り出し、取り出した上澄みのオレンジ色溶液を室温で一晩放置することで、オレンジ色の針状結晶として、式(2)で表される化合物386.5mg(0.530mmol)を得た。式(2)で表される化合物の収率は63%であった。得られた化合物の測定値は以下の通りであった。
1H NMR(400 MHz,C
6D
6) δ7.96-8.02(s,6H),7.20-7.22(s,9H),5.96(s,1H),0.97(s,9H),0.84(s, 9H). IR(nujol/NaCl):983.7cm
-1.
【化7】
【0038】
<実施例2>
(式(5)で表される化合物の合成、ジピバロイルメタンおよび1-アダマンタノールのタングステン錯体の合成)
オキシ四塩化タングステン161.9mg(0.474mmol)を、アルゴン雰囲気下でガラス製の80mLシュレンク管に入れ、続いて、これを攪拌しながらトルエン10mLをガラス製シリンジで加えた。次いで、ジピバロイルメタン99μL(0.474mmol)を、マイクロシリンジを使って室温で加え、一晩、室温で攪拌を続けることで、反応させた。次いで、得られた反応液に、トルエン5mLに溶解させた1-アダマンタノール72.2mg(0.474mmol)を、室温下にて加え、その後、一晩、室温で攪拌を続けることで、反応させた。反応により得られた反応液は、黄色を呈するものであった。そして、得られた反応液中に含まれる揮発成分を、減圧下で留去した後、ヘキサン5mLを加えることで、ヘキサン懸濁液とした。次いで、ヘキサン懸濁液を遠心分離機にかけることにより、不溶物を沈殿させ、上澄みの黄色溶液を取り出し、取り出した上澄みの黄色溶液を-20℃で一晩放置することで、黄色の結晶として、式(5)で表される化合物128.6mg(0.212mmol)を得た。式(5)で表される化合物の収率は45%であった。得られた化合物の測定値は以下の通りであった。
mp 135-140℃(dec).IR(nujol/NaCl):959cm
-1.
1H NMR(600 MHz,C
6D
6) δ6.05(s,1H),2.24(m,6H),1.95(s,3H),1.27-1.34(m,6H),1.11(s,9H),1.06(s,9H).
13C{
1H}NMR(151 MHz,C
6D
6) δ206.41,193.27,100.54,95.94,42.91,42.08,40.20,35.54,31,38,27.35,27.20.Anal. Calcd for C
21H
34Cl
2O
4W:C,41.67;H,5.66.N,0.00.Found:C,41.88;H,5.52.N,0.00.
【化8】
【0039】
<実施例3>
(式(6)で表される化合物の合成、アセチルアセトンおよび1-アダマンタノールのタングステン錯体の合成)
オキシ四塩化タングステン193.7mg(0.567mmol)を、アルゴン雰囲気下でガラス製の80mLシュレンク管に入れ、続いて、これを攪拌しながらトルエン10mLをガラス製シリンジで加えた。アセチルアセトン58μL(0.567mmol)を、マイクロシリンジを使って室温で加え、一晩、室温で攪拌を続けることで、反応させた。次いで、得られた反応液に、トルエン5mLに溶解させた1-アダマンタノール86.3mg(0.567mmol)を、室温下にて加え、その後、一晩、室温で攪拌を続けることで、反応させた。反応により得られた反応液は、黄色を呈するものであった。そして、得られた反応液中に含まれる揮発成分を、減圧下で留去した後、トルエン5mLを加えることで、トルエン懸濁液とした。次いで、トルエン懸濁液を遠心分離機にかけることにより、不溶物を沈殿させ、上澄みの黄色溶液を取り出し、上澄みの黄色溶液に、ヘキサン10mLを加えた後、-20℃で一晩放置することで、黄色の結晶として、式(6)で表される化合物143.8mg(0.276mmol)を得た。式(6)で表される化合物の収率は49%であった。得られた化合物の測定値は以下の通りであった。
mp 100-105℃(dec).IR(nujol/NaCl):962cm
-1.
1H NMR(600 MHz,C
6D
6) δ5.07(s,1H),2.25(m,6H),1.93(s,3H),1.53(s,3H),1.48(s,3H),1.31-1.24(m,6H).
13C{
1H}NMR(151 MHz,C
6D
6) δ196.38,183.99,109.68,96.87,42.86,35.51,31.50,27.33,24.93.Anal. Calcd for C
15H
22Cl
2O
4W: C,34.58;H,4.26.N,0.00.Found: C,34.72;H,4.19.N,0.00.
【化9】
【0040】
<実施例4>
(式(8)で表される化合物の合成、ジピバロイルメタンおよび2,4,4-トリメチル-2-ペンタノールのタングステン錯体の合成)
オキシ四塩化タングステン37.2mg(0.109mmol)を、アルゴン雰囲気下でガラス製の25mLシュレンク管に入れ、続いて、これを攪拌しながら重ベンゼン2mLをガラス製シリンジで加えた。ジピバロイルメタン22.7μL(0.109mmol)を、マイクロシリンジを使って室温で加え、一晩、室温で攪拌を続けることで、反応させた。次いで、得られた反応液に、2,4,4-トリメチル-2-ペンタノール17.2μL(0.109mmol)をマイクロシリンジを使って、室温下にて加え、その後、室温で1日攪拌を続けることで、反応させた。反応により得られた反応液は、赤色を呈するものであった。そして、得られた反応液中に含まれる揮発成分を、減圧下で留去することで、赤色の液体として、式(8)で表される化合物を得た。得られた化合物の測定値は以下の通りであった。
1H NMR(400 MHz,C
6D
6) δ5.72(s,1H),1.70 (s,2H),1.47(s,6H),1.07(s,9H),0.95(s,9H,s,9H).
13C{
1H}NMR(151 MHz,C
6D
6) δ201.61,90.69,57.77,34.73,32.24,31.38,30.09,27.37,26.96,26.74,26.71,26.30.
【化10】
【0041】
<実施例5>
(式(2)で表される化合物を用いた、ジシクロペンタジエンの溶液重合反応)
実施例1で得られた式(2)で表される化合物をトルエンに溶かし、0.020mmol/mLの溶液を調製し、これを触媒液(α)とした。また、これとは別に、0.040mmol/mLのジエチルアルミニウムクロリド(Et2AlCl)のトルエン溶液を調製し、これを活性化剤液(β)とした。
【0042】
ガラス製のネジ式ビンに撹拌子を入れ、アルゴン雰囲気下で置換した。アルゴン雰囲気下で、0.929 mmol/mLのジシクロペンタジエンのトルエン溶液10.6 mL(10mmol)を、ガラス製シリンジで、ネジ式ビンに加えた。その後、室温で、上記にて調製した触媒液(α)0.5mL(0.01mmol)、および活性化剤液(β)0.5mL(0.02mmol)をこの順で加え、ネジ式ビンをアルゴン雰囲気下で密栓した。そして、ネジ式ビンの内容物の攪拌を行いながら、ネジ式ビンを、80℃のアルミブロック恒温槽に30分間入れることで、重合反応を進行させた。重合反応終了後、メタノール50mLを加え、得られた重合体を析出させ、析出した重合体をろ過により取り出し、ヘキサンで洗浄後、室温、減圧下で乾燥することで、固体状のジシクロペンタジエンの重合体を得た。得られた重合体の重量は1.6438gであった。
【0043】
<実施例6>
(式(2)で表される化合物を用いた、ノルボルネンの溶液重合反応)
ジシクロペンタジエンのトルエン溶液の替わりに、0.2mmol/mLのノルボルネンのトルエン溶液10.0 mL(2mmol)を加えた以外は、実施例5と同様にして、重合操作を行い、固体状のノルボルネンの重合体を得た。得られた重合体の重量は0.1587gであった。
【0044】
<実施例7>
(式(2)で表される化合物を用いた、ジシクロペンタジエンおよびトリシクロペンタジエンの塊状重合反応)
窒素雰囲気下にて、ジプロピレングリコールジメチルエーテルにトリエチルアルミニウムを添加して混合し、トリエチルアルミニウム濃度が0.13%となるようにして活性化剤液Aを得た。
【0045】
ジシクロペンタジエン90部とトリシクロペンタジエン10部とからなるノルボルネン系モノマーの混合物に、実施例1で得られた式(2)で表される化合物を、タングステンの量が3.8ミリモル/kgとなるように添加し、混合することで、反応原液Bを得た。
【0046】
窒素置換した50mLの容器を、30℃の条件下に置き、これに、予め窒素置換した30℃の反応原液B 20gを上記容器にガラス製シリンジで注入し、撹拌装置で撹拌しておく。これに活性化剤液A 0.2gをガラス製シリンジで注入し、10秒間混合した。このとき、重合反応の進行に伴い、白煙が発生した。本実施例では、活性化剤液Aと反応原液Bの混合開始から白煙発生までの時間を「硬化時間」とした。実施例7における、硬化時間は38秒であり、反応により、ジシクロペンタジエンおよびトリシクロペンタジエンの重合体が得られた。
【0047】
<実施例8>
(式(5)で表される化合物を用いた、ジシクロペンタジエンおよびトリシクロペンタジエンの塊状重合反応)
実施例1で得られた式(2)で表される化合物に代えて、実施例2で得られた式(5)で表される化合物を使用した以外は、実施例7と同様にして、反応原液Bを得た。
【0048】
そして、実施例7と同様にして得られた活性化剤液Aと、上記にて得られた反応原液Bとを使用して、実施例7と同様にして、重合反応を行った。実施例8における、硬化時間は90秒であり、反応により、ジシクロペンタジエンおよびトリシクロペンタジエンの重合体が得られた。
【0049】
<実施例9>
(式(2)で表される化合物の空気中における安定性評価)
実施例1で得られた式(2)で表される化合物を空気下、室温で保管し、保管後の式(2)で表される化合物の色の変化を目視確認した。また、これに加えて、保管後の式(2)で表される化合物を使用して、実施例7と同様にして、ジシクロペンタジエンおよびトリシクロペンタジエンの塊状重合を行い、この際の硬化時間を測定することで、空気中における安定性の評価を行った。
【0050】
その結果、1週間した後も、式(2)で表される化合物における色の変化は認められなかった。また、1週間保管した後の式(2)で表される化合物を用いて塊状重合を行ったところ、硬化時間は38秒であり、上記実施例7と同様の結果であった。この結果より、式(2)で表される化合物は、空気中において高い安定性を有しているものと判断できる。
【0051】
<実施例10>
(式(5)で表される化合物の空気中における安定性評価)
式(2)で表される化合物に代えて、実施例2で得られた式(5)で表される化合物を使用して、実施例9と同様にして、空気中における安定性の評価を行った。
【0052】
その結果、1週間した後も、式(5)で表される化合物における色の変化は認められなかった。また、1週間保管した後の式(5)で表される化合物を用いて塊状重合を行ったところ、硬化時間は90秒であり、上記実施例8と同様の結果であった。この結果より、式(5)で表される化合物は、空気中において高い安定性を有しているものと判断できる。
【0053】
<比較例1>
((2,6-ジイソプロピルフェニルイミド){3,3’-ジ(t-ブチル)-5,5’,6,6’-テトラメチル-2,2’-ビフェノキシ}ネオフィリデンモリブデナム(VI)の空気中における安定性評価)
式(2)で表される化合物に代えて、モリブデン錯体((2,6-ジイソプロピルフェニルイミド){3,3’-ジ(t-ブチル)-5,5’,6,6’-テトラメチル-2,2’-ビフェノキシ}ネオフィリデンモリブデナム(VI)、Stream社製)を使用して、実施例9と同様に、空気中における安定性の評価を行ったところ、空気に暴露した直後に、黒色に変化した。また、上記実施例9と同様にして、空気に暴露した直後のモリブデン錯体を用いて、ジシクロペンタジエンおよびトリシクロペンタジエンの塊状重合操作を行ったものの、塊状重合は進行しなかった。このことより、モリブデン錯体((2,6-ジイソプロピルフェニルイミド){3,3’-ジ(t-ブチル)-5,5’,6,6’-テトラメチル-2,2’-ビフェノキシ}ネオフィリデンモリブデナム(VI))は、空気中における安定性に劣るものであるといえる。
【0054】
<評価>
以上の実施例、比較例の結果より、一般式(1)で表される本発明の金属オキソ錯体は、メタセシス触媒前駆体として好適に用いることができるものであり、さらには、空気中において高い安定性を示すものであるといえる。