(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】バイオ人工血管膵臓
(51)【国際特許分類】
A61L 27/36 20060101AFI20240112BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240112BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240112BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240112BHJP
A61K 35/39 20150101ALI20240112BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A61L27/36 400
A61L27/50 300
A61L27/34
A61L27/52
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/20
A61L27/26
A61L27/18
A61L27/44
C12M3/00 A
A61K35/39
A61P3/10
(21)【出願番号】P 2020570914
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 US2019038277
(87)【国際公開番号】W WO2019246416
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-24
(32)【優先日】2018-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503469393
【氏名又は名称】イエール ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ニクラソン ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ハン エドワード
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-292169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0085492(US,A1)
【文献】特表2014-509617(JP,A)
【文献】特表2016-530899(JP,A)
【文献】特開2017-018330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルーメンを通過する灌流液と直接接触するように適用および構成されたルーメンを有する脱細胞化血管グラフト;
前記脱細胞化血管グラフトの外表面を取り囲む、生体適合性ハイドロゲル外装;および 複数の細胞であって、
(a)血管グラフトの壁内に注入されている、および/または
(b)前記生体適合性ハイドロゲル外装の表面に播種されている、および/または
(c)前記生体適合性ハイドロゲル外装内に播種されている、
細胞
を含む、組成物。
【請求項2】
前記脱細胞化血管グラフトが、脱細胞化動脈グラフトを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記脱細胞化血管グラフトが、脱細胞化静脈グラフトを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記ハイドロゲル外装が、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、キトサン、Matrigel(登録商標)、アルギン酸、ラミニン、ヒアルロナン、シルク、ポリエチレングリコール、単離細胞外マトリックスハイドロゲル、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記複数の細胞が、膵島細胞である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記複数の細胞が、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、イプシロン細胞、インスリノーマ細胞、トランスジェニック細胞、ノックアウト細胞、ノックイン細胞、またはそれ以外の遺伝子改変細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(IPSC)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記膵島細胞が、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウマ、およびヒト膵島細胞からなる群より選択される哺乳類膵島細胞である、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
ルーメンを通過する灌流液と直接接触するように適用および構成されたルーメンを有する脱細胞化血管グラフトを含む、生体適合性基体;および
前記脱細胞化血管グラフトの外表面を取り囲むハイドロゲル外装
を含む、培養システム。
【請求項9】
前記ハイドロゲル外装が、複数の細胞を含む、請求項8記載の培養システム。
【請求項10】
前記複数の細胞が、膵島細胞を含む、請求項9記載の培養システム。
【請求項11】
前記複数の膵島細胞が、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウマ、およびヒト膵島細胞からなる群より選択される哺乳類細胞である、請求項10記載の培養システム。
【請求項12】
前記ハイドロゲル外装が、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項8記載の培養システム。
【請求項13】
非細胞血管グラフトを含む、患者の糖尿病を治療する方法における使用のための組成物であって、前記方法が、
前記非細胞血管グラフトの外表面を生体適合性ハイドロゲルで外装する工程であって、前記生体適合性ハイドロゲルに細胞が播種されて
おり、
前記非細胞血管グラフトがルーメンを通過する灌流液と直接接触するように適用および構成されたルーメンを含む、工程;および
前記血管グラフトを対象に植え込む工程
を含む、前記組成物。
【請求項14】
前記血管グラフトが、動脈血管グラフトを含む、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
前記血管グラフトが、静脈血管グラフトを含む、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
前記生体適合性ハイドロゲルが、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、またはそれらの組み合わせを含む、請求項13記載の組成物。
【請求項17】
前記細胞が、膵島細胞を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項18】
前記細胞が、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、イプシロン細胞、インスリノーマ細胞、トランスジェニック細胞、ノックアウト細胞、ノックイン細胞、それ以外の遺伝子改変細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(IPSC)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1つまたは複数の細胞種を含む、請求項13記載の組成物。
【請求項19】
前記対象が、ヒト対象である、請求項13記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)の定めにより、2018年6月21日に出願された米国特許仮出願第62/688,141号の優先権を主張するものであり、その全文が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の支援を受けた研究または開発に関する記述
本発明は、米国国立衛生研究所(NIH)よりHL127386号として授与された政府支援を受けてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
膵島細胞の移植は、血糖レベルの内分泌制御を復元させることができ、患者に改善された血糖制御を提供して、患者を衰弱させるI型糖尿病の副作用を回避させる。現在、臨床使用されている唯一の膵島療法がEdmonton Protocolであり、ドナーの膵臓から膵島を単離すること、そしてそれをレシピエントの門脈に注入することを含む(Shapiro et al. NEJM 2006, 355: 1318-1330(非特許文献1); Jin and Kim, Korean J of Int Med 2017, 32:62-66(非特許文献2))。すると膵島は肝臓の血管構造に滞在し、そこでグルコースレベルを検知することができ、それに応じてインスリンを分泌することができる(Korsgren et al., Diabetologia 2008, 51: 227-32(非特許文献3); Shapiro et al., Nat Rev Endocrinol 2017,13:268-277(非特許文献4))。ところが、十分な酸素供給および栄養分を受けられないせいで、移植された膵島の多くが生着できないことから、膵島移植が成功する保証はない(Bruni et al., Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy 2014, 7:211-223.(非特許文献5); Narang et al., Pharm Res 2004, 21: 15-25(非特許文献6); Pepper et al., World Journal of Transplantation 2013, 3: 48-53(非特許文献7))。したがって、一人のレシピエントのために複数のドナーの膵臓を要することが多く、移植用器官の入手可能性に重い負担をかけている。
【0004】
レシピエントの免疫応答から保護するための膵島のマイクロカプセル封入など、開発中の他の膵島送達療法も、皮下または腹腔内移植後の膵島ハイポキシアおよび不十分な栄養分移送に関する問題に苦戦している(Pepper et al., Clinical and Developmental Immunology 2013, 2013:13(非特許文献8); Barkai et al., World Journal of Transplantation 2016, 6: 69-90(非特許文献9); Qi et al., Biomaterials 2010, 31: 4026-4031(非特許文献10); Coronel and Stabler, Curr Opin Biotechnol 2013, 24: 900-8(非特許文献11))。こうした理由から、この分野の30~40年に及ぶ研究にもかかわらず、移植膵島の免疫単離は臨床実施に至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Shapiro et al. NEJM 2006, 355: 1318-1330
【文献】Jin and Kim, Korean J of Int Med 2017, 32:62-66
【文献】Korsgren et al., Diabetologia 2008, 51: 227-32
【文献】Shapiro et al., Nat Rev Endocrinol 2017,13:268-277
【文献】Bruni et al., Diabetes, Metabolic Syndrome and Obesity: Targets and Therapy 2014, 7:211-223
【文献】Narang et al., Pharm Res 2004, 21: 15-25
【文献】Pepper et al., World Journal of Transplantation 2013, 3: 48-53
【文献】Pepper et al., Clinical and Developmental Immunology 2013, 2013:13
【文献】Barkai et al., World Journal of Transplantation 2016, 6: 69-90
【文献】Qi et al., Biomaterials 2010, 31: 4026-4031
【文献】Coronel and Stabler, Curr Opin Biotechnol 2013, 24: 900-8
【発明の概要】
【0006】
本発明は、脱細胞化血管グラフト、調節可能な剛性を有する生体適合性ハイドロゲル外装、および複数の細胞を含む、組成物を提供する。いくつかの態様では、脱細胞化血管グラフトは、脱細胞化動脈グラフトを含む。いくつかの態様では、脱細胞化血管グラフトは、脱細胞化静脈グラフトを含む。いくつかの態様では、脱細胞化血管グラフトは、工学血管グラフトを含む。いくつかの態様では、ハイドロゲル外装は、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、キトサン、Matrigel(登録商標)、アルギン酸、ラミニン、ヒアルロナン、シルク、ポリエチレングリコール、単離細胞外マトリックスハイドロゲル、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様では、複数の細胞は、膵島細胞である。いくつかの態様では、複数の細胞を、ハイドロゲル外装内に播種する。いくつかの態様では、複数の細胞を、ハイドロゲル外装の表面に播種する。いくつかの態様では、膵島細胞は、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウマ、およびヒト膵島細胞からなる群より選択される哺乳類膵島細胞である。
【0007】
本発明は、調節可能な剛性を有する生体適合性基体であって、脱細胞化血管グラフトを含む、生体適合性基体;およびハイドロゲル外装を含む、培養システムも提供する。いくつかの態様では、ハイドロゲル外装は、複数の細胞を含む。いくつかの態様では、複数の細胞は、膵島細胞を含む。いくつかの態様では、複数の膵島細胞は、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウマ、およびヒト膵島細胞からなる群より選択される哺乳類細胞である。いくつかの態様では、ハイドロゲル外装は、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、またはそれらの組み合わせを含む。
【0008】
本発明は、患者の糖尿病を治療する方法も提供し、該方法は、非細胞血管グラフトを生体適合性ハイドロゲルで外装する工程であって、該生体適合性ハイドロゲルに細胞が播種されている、工程、および該血管グラフトを対象に植え込む工程、を含む。いくつかの態様では、血管グラフトは、動脈血管グラフトを含む。いくつかの態様では、血管グラフトは、静脈血管グラフトを含む。いくつかの態様では、生体適合性ハイドロゲルは、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、またはそれらの組み合わせを含む。いくつかの態様では、細胞は、膵島細胞を含む。いくつかの態様では、対象は、ヒト対象である。
[本発明1001]
脱細胞化血管グラフト;
調節可能な剛性を有する生体適合性ハイドロゲル外装;および
複数の細胞
を含む、組成物。
[本発明1002]
前記脱細胞化血管グラフトが、脱細胞化動脈グラフトを含む、本発明1001の組成物。
[本発明1003]
前記脱細胞化血管グラフトが、脱細胞化静脈グラフトを含む、本発明1001の組成物。
[本発明1004]
前記脱細胞化血管グラフトが、工学血管グラフトを含む、本発明1001の組成物。
[本発明1005]
前記ハイドロゲル外装が、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、キトサン、Matrigel(登録商標)、アルギン酸、ラミニン、ヒアルロナン、シルク、ポリエチレングリコール、単離細胞外マトリックスハイドロゲル、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1001の組成物。
[本発明1006]
前記複数の細胞が、膵島細胞である、本発明1001の組成物。
[本発明1007]
前記複数の細胞が、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、イプシロン細胞、インスリノーマ細胞、トランスジェニック細胞、ノックアウト細胞、ノックイン細胞、またはそれ以外の遺伝子改変細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(IPSC)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、本発明1001の組成物。
[本発明1008]
前記複数の細胞が、前記ハイドロゲル外装内に播種されている、本発明1001の組成物。
[本発明1009]
前記複数の細胞が、前記ハイドロゲル外装の表面に播種されている、本発明1001の組成物。
[本発明1010]
前記膵島細胞が、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウマ、およびヒト膵島細胞からなる群より選択される哺乳類膵島細胞である、本発明1006の組成物。
[本発明1011]
調節可能な剛性を有する生体適合性基体であって、脱細胞化血管グラフトを含む、生体適合性基体;および
ハイドロゲル外装
を含む、培養システム。
[本発明1012]
前記ハイドロゲル外装が、複数の細胞を含む、本発明1011の培養システム。
[本発明1013]
前記複数の細胞が、膵島細胞を含む、本発明1012の培養システム。
[本発明1014]
前記複数の膵島細胞が、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ウマ、およびヒト膵島細胞からなる群より選択される哺乳類細胞である、本発明1013の培養システム。
[本発明1015]
前記ハイドロゲル外装が、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1011の培養システム。
[本発明1016]
非細胞血管グラフトを生体適合性ハイドロゲルで外装する工程であって、前記生体適合性ハイドロゲルに細胞が播種されている、工程;および
前記血管グラフトを対象に植え込む工程
を含む、患者の糖尿病を治療する方法。
[本発明1017]
前記血管グラフトが、動脈血管グラフトを含む、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記血管グラフトが、静脈血管グラフトを含む、本発明1016の方法。
[本発明1019]
前記生体適合性ハイドロゲルが、フィブリン、フィブリノゲン、トロンビン、またはそれらの組み合わせを含む、本発明1016の方法。
[本発明1020]
前記細胞が、膵島細胞を含む、本発明1016の方法。
[本発明1021]
前記細胞が、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、イプシロン細胞、インスリノーマ細胞、トランスジェニック細胞、ノックアウト細胞、ノックイン細胞、それ以外の遺伝子改変細胞、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(IPSC)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1つまたは複数の細胞種を含む、本発明1016の方法。
[本発明1022]
前記対象が、ヒト対象である、本発明1016の方法。
【0009】
以下の本発明の好ましい態様の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでよりよく理解されよう。該図面では、いくつかの図を通して対応する部品を類似の符号によって示している。本発明を説明する目的で、例示される態様を図面に示している。しかし、本発明は、図面に示す態様と全く同じ配置および器具に限定されないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1-1】
図1A~1Eは、本発明の例示的なバイオ人工血管膵臓(BVP)の概略図を示す。BVPの概念は、患者の血流と直接一体化させることができる膵島移植プラットフォームを構築することを含む。BVPでは、脱細胞化血管グラフト(
図1A)を開始足場として用いる。次いでグラフトに、ハイドロゲルを用いて膵島をコーティングする(
図1B、1D)。BVPを患者に植え込んだ後、たっぷり酸素を含む動脈血が該構築体を流れることができる(
図1C)。こうして、酸素およびグルコースが血流から膵島まで拡散すること、および膵島から分泌されるインスリンが血流中へ拡散することが可能になる。
図1Eは、BVPの二次元断面を示す。
図1Fは、例示的なBVPの光学顕微鏡画像を示す。
図1Gは、例示的なBVPの断面のヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を示す。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、ラット膵島の画像を示す。
図2Aは、新たに単離されたラット膵島を図示し、
図2Bは、FDA/PI用いて染色された膵島を図示し、緑色は生細胞を示し、赤色は死細胞を示す。膵島の大半が緑色であり、単離プロセスを生き延びている。
【
図3】
図3は、ブタ膵島の画像を示す。単離されたブタ膵島がFDA/PIを用いて染色されており、緑色は生細胞を示し、赤色は死細胞を示す。膵島の大半が緑色であり、単離プロセスを生き延びている。
【
図4-1】
図4A~4Gは、例示的なフィブリンコーティングプロセスを図示する。BVPは、脱細胞化血管にフィブリン/膵島をコーティングする成形プロセスを用いて作製される。
図4Aは、脱細胞化血管のルーメンに挿入される金属シリンジを図示する。
図4Bは、フィブリンおよび膵島を含有している1 mLシリンジ内に移された血管を示す。
図4Cは、脱細胞化血管の周りで凝固させたハイドロゲル、およびその後完全にコーティングされたBVPがプラスチックシリンジから引き抜かれることを示す。
図4Dは、シリンジを用いてBVPを作製する成形プロセスを実証する一連のパネルを示し、シリンジから抜去されたBVPを図示するパネルも含まれている。
図4Eは、例示的なBVPの断面のH&E染色を示す。
図4Fは、膵島を変色させる(濃い円)BVPのジチゾン染色を示す。
図4Gは、BVP作製プロセス後の膵島生存可能性を示す、フルオレセインジアセタート(Sigma)およびヨウ化プロピジウム(Invitrogen)を用いた生/死染色を示す。
【
図5】
図5は、MIN6グルコース刺激インスリン分泌試験の結果を示す。MIN6細胞を様々な濃度のグルコースとともにインキュベートしてから20分後のインスリンレベルを検出した。細胞は、より高いレベルのグルコースに曝露されると、ネイティブ膵島のふるまいと似た、より高いインスリン分泌を見せた。
【
図6】
図6は、フィブリンゲル中MIN6の生存研究の例示的な結果を図示する。MIN6細胞が様々なフィブリン組成物内で長期間生存できるかどうかを決定するために2つのアッセイを実施した。
図6の行Aは、生細胞を緑色に、死細胞を赤色に染色するフルオレセインジアセタート/ヨウ化プロピジウム(FDA/PI)を図示する。結果は、細胞の大半が緑色であり生存していることを示した。
図6の行Bは、死核を緑色に染色するTUNEL染色を図示し、DAPIは核を青色に染色する。核の大半が緑色ではないので、細胞の大半がフィブリンゲル中で生存した。
【
図7】
図7Aおよび7Bは、フィブリン中で培養された膵島のインスリン放出実験の実験データを示す。
図7Aは、例示的なトランスウェルのセットアップのフィブリン中膵島を図示する。
図7Bは、インスリン放出データを提供する。膵島をフィブリン内でトランスウェルのセットアップで培養した。フィブリン中膵島の画像(左)。トランスウェルの膵島/フィブリンを取り囲む培地を採取して、インスリンの存在を試験した。経時的に追跡したインスリンレベルは23.8 pg/膵島/分のスロープを作り、これは膵島が、膵島当たり毎分23 pgのインスリンを放出していることを示し、それは一般に認められている文献の値20 pg/膵島/分に近い。
【
図8】
図8は、例示的なBVPバイオリアクター設計を図示する。BVP概念の性能をインビトロで評価するのに最初に用いた、バイオリアクターのセットアップを示す。バイオリアクターは、BVPが植え込まれるインビボの環境をシミュレートするように設計される。ルーメンリザーバーは、高い酸素およびグルコースレベルを含有し、BVPが植え込まれるとルーメン内血流となる。ポンプは、ルーメンリザーバーからBVPを通って再びルーメンリザーバーへと培地を流すように動作する。間質空間リザーバーは、BVPが植え込まれると周りにあるような組織条件をシミュレートするために、低い酸素およびグルコースレベルを含有する。
【
図9】
図9A~9Cは、MIN6 BVPバイオリアクター研究の実験結果を提供する。フィブリンおよびMIN6細胞をコーティングした脱細胞化血管を、本明細書に記載されるように、
図8に示すバイオリアクター内で3日間培養した。この期間後、血管を取り出し、固定剤を用いて保存し、スライドに載せて分析した。
図9Aは、細胞を識別するため核を紺色で示し、タンパク質を識別するためタンパク質をピンク色で示すH&E染色を示す。最も内側の円は、脱細胞化血管の円形断面であり、外側の黒い点を有する層は、MIN6細胞を含有するフィブリンコーティングである。
図9Bは、MIN6+フィブリン外層の接写画像を示す。
図9Cは、断面のDAPI/TUNEL染色を示す。TUNELは死核を緑色に染色し、DAPIはすべての核を青色に染色する。画像から、脱細胞化血管を取り囲むMIN6細胞の外輪がわかり、細胞の大半が生存している。このバイオリアクターのセットアップは、BVPのセットアップが細胞生存をサポートできることを実証している。
【
図10】
図10Aおよび10Bは、インビボの例示的なBVPを図示する。脱細胞化ヒト臍動脈の周りにフィブリンを用いてブタ膵島をコーティングすることにより、BVP構築体を生成した。次いでこれらの構築体を動脈間置グラフトとしてヌードラットに植え込んだ。
図10Aは、破線円内に、植込み直後のBVPを示す。
図10Bは、破線円内で強調されている、ラット体内2週間後のBVPを示す。矢印で示すように、BVP上に微小血管の内成長が観測された。グラフトは実験の間中開通していた。
【
図11】
図11Aおよび11Bは、インビボで2週間の後の外植されたBVPの例示的なH&E染色を図示する。外植されたBVP構築体を、H&Eを用いて染色した。
図11Aは、血管がずっと開通していたものの、ルーメンにいくつか血栓を有したことを図示している。
図11Bは、インビボで2週間の後に、フィブリンコーティング内で生存している膵島を示す拡大写真を示す。
【
図12】
図12は、ラットの大動脈移植位置から外植した後のBVPの細胞生存を評価するための例示的な免疫蛍光撮像を示す。免疫蛍光画像は、核を青色として示す(濃い部分)DAPI染色、死細胞を緑色として示す(図示なし)TUNEL染色、および膵島を赤色として示す(矢印で強調)インスリン染色により示されている。赤色クラスターはインスリン分泌膵島であり、矢印で示されている。膵島に緑色は存在せず、膵島がホストに植え込まれて全2週間の実験の間生存したことを示す。
【
図13】
図13は、微小血管構造の成長の免疫蛍光撮像を図示する。免疫蛍光画像は、核を青色として示すDAPI染色、内皮細胞を緑色として示すCD31染色、および膵島を赤色として示すインスリン染色により示されている。矢印で強調されているように、膵島がフィブリンに埋め込まれているのがわかり、近くの内皮細胞が成長して微小血管を形成している。
【
図15A】
図15Aは、COMSOL Multiphysics(登録商標)ソフトウェアで実施した有限要素分析の結果を示す。図示のモデリングは、BVP構築体中の酸素拡散をシミュレートしている。模擬膵島、無細胞グラフト、およびハイドロゲルコーティングに拡散係数値を与えている。酸素はルーメンおよび間質空間から出て、無細胞グラフトおよびハイドロゲルコーティングを通って拡散して、酸素を消費する膵島に達しなくてはならない。
【
図15B】
図15Bは、膵島生存を可能にする0.071 mmHgの酸素を上回る、および何ら抑制のないインスリン分泌を可能にする2.13 mmHgの酸素を上回る膵島面積%を示す、有限要素分析の結果を示す。
【
図16】
図16Aは、静的インスリン産生実験の例示的なセットアップを示す。BVPを、グルコース(+)培地またはグルコース(-)培地のいずれかの皿に配置する。膵島は、グルコース(+)培地の高グルコースレベルに曝露されるとインスリンを分泌し、グルコース(-)培地で低グルコースレベルに曝露されるとインスリン産生を停止する。
図16Bは、BVPがインスリンを分泌することによりグルコースに応答できることを実証する、インスリンELISAの結果を示す。
【
図17】
図17Aは、ストレプトゾトシンで処置して糖尿病を誘導したラットにおける血中グルコースレベルを示す。結果は、ラットで糖尿病を誘導し、かつ長期の高血糖状態をもたらす、薬物ストレプトゾトシンの濃度65 mg/kgでの使用の効果を実証している。
図17Bは、ストレプトゾトシン注射後の膵島の破壊を示す免疫蛍光染色を図示する。上パネルはインスリンを矢印で強調して示しているが、例示的な処置ラット膵島の染色を示す下パネルには、インスリン染色がない。
【
図18A】
図18Aは、糖尿病ラットに3種類の移植を実施し、経時的に血中グルコースレベルを観察したことを示す。BVP移植ラットでは、1200個のラット膵島、無細胞ヒト臍動脈、およびフィブリンコーティングを用いてBVPを作製する。次いでBVPを、レシピエントラットの腹大動脈にエンド・ツー・エンドグラフトとして縫い込む。フローなし対照では、BVPはエンド・ツー・エンドグラフトとしては縫合せず、腹大動脈付近に配置し、2針縫ってBVPを周囲組織に接続し固定する。シャム対照では、フィブリンおよび無細胞ヒト臍動脈だけでBVPを作製してから、レシピエントラットの腹大動脈にエンド・ツー・エンドグラフトとして縫い込む。この対照には膵島を用いない。
【
図18B】
図18Bは、血中グルコース測定の結果を示す。すべての移植を7日目に実施した。結果は、移植されたBVPは、BVPフローなし対照およびシャム対照と比べて、全90日を通してラットの血中グルコースを下げるのに役立つことができることを示す。
【
図19A】
図19Aは、一晩絶食させたラットに実施したグルコース負荷試験を示す。ラットは、正常ヌードラット、糖尿病ヌードラット、またはBVP植込みを受けた糖尿病ヌードラットのいずれかであった。ゼロ時に、ラットにグルコース2 g/kgのグルコースボーラスを腹腔内注射した。そして決められた時間間隔で尾の切れ目から血液を採取して、グルコース負荷試験グラフを生成した。
【
図19B】
図19Bは、異なる群間の比較を提供するために曲線下面積分析を用いた結果を示す。小さい曲線下面積は、ラットが血中グルコースレベルをすぐに回復できたことを示し、より大きい曲線下面積は、ラットの血中グルコースがより長い間高止まりすることを示す。BVP植込片群は、糖尿病群よりも小さい曲線下面積を有するが、糖尿病を持たない対照ラットよりはやはり大きい。
【
図20A】
図20Aは、1200個のヒト膵島を用いて構築され、糖尿病ラットに移植されたBVPを図示する。
【
図20B】
図20Bは、ヒト膵島を移植した後、ラットの血漿中にヒトインスリンが検出されたことを示す。
【
図20C】
図20Cは、ゼロ時にラットにグルコース注射した後ヒトインスリンレベルが増加することを実証する、BVPグルコース負荷試験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
定義
別途定義されない限り、本明細書で用いられる科学技術用語はすべて、本発明が関する当業者が通常理解する意味と同じ意味をもつ。本発明の試験を実施するのに、本明細書に記載されるものと同様または等価の任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい材料および方法を本明細書に記載する。本発明の記載および特許請求には、以下の術語を用いる。
【0012】
本明細書で用いられる術語は、特定の態様を記載する目的でしかなく、限定するものではないことも理解されたい。
【0013】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、その冠詞の文法的目的語の1つから、複数(すなわち、少なくとも1つ)を指すのに用いられる。例として、「an element」は、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0014】
量や持続時間等の測定可能な値に言及する場合に本明細書で使用される「約」は、特定の値からの±20%または±10%の、より好ましくは±5%の、さらに好ましくは±1%の、さらに好ましくは±0.1%の変動を包括することを意味し、そのような変動は開示の方法の実施に適切である。
【0015】
本明細書および請求項で使用される場合、「含む(comprises、comprising)」、「含有する(containing)」、「有する(having)」等の用語は、米国特許法が定める意味をもつことができ、「含む(includes、including等)」を意味することができる。
【0016】
本明細書で使用される場合、疾患、不全、障害、または状態を「軽減する」ことは、疾患、不全、障害、または状態の1つまたは複数の症状の重度を減じることを意味する。
【0017】
本明細書で使用される場合「自家」は、生物学的材料が、それが由来する個体に後で再び導入されることを指す。
【0018】
本明細書で使用される場合、「同種」は、生物学的材料が、それが導入される個体とは遺伝的に異なる同種の個体に由来することを指す。
【0019】
本明細書で使用される場合、「生体適合性」は、哺乳類に植え込んでも該哺乳類の体内で重大な有害応答を誘起しない、任意の材料を指す。生体適合性材料は、個体内に導入しても、その個体にとって毒性でも傷害性でもなく、該哺乳類の体内で該材料の免疫拒絶を誘導することもない。
【0020】
本明細書で使用される場合、「生体適合性ポリマー」、およびポリマーとの関連で用いられる「生体適合性」という用語は、当技術分野で認知されている。たとえば、生体適合性ポリマーには、一般に、ホストにとって毒性ではない、また(ポリマーが分解する場合は)ホスト体内で毒性濃度のモノマーもしくはオリゴマーサブユニットまたは他の副産物を生産する速度で分解することもないポリマーが含まれる。一態様では、生分解は一般に、ホスト体内でポリマーが分解して、たとえば事実上非毒性であることが既知であり得るモノマーサブユニットになることを含む。ところが、そのような分解で生じる中間体のオリゴマー産物は異なる毒性特性を有する場合があり、あるいは、生分解は、酸化、またはポリマーのモノマーサブユニット以外の分子を生成する他の生化学的反応を含む場合もある。したがって、一態様では、患者への植込みまたは注射などのインビボの使用が意図される生分解性ポリマーの毒性を、1つまたは複数の毒性分析後に決定する場合がある。対象となる組成物はいずれも、生体適合性とみなされるために純度100%である必要はなく、実際、対象となる組成物は上記のように生体適合性であればよい。したがって、対象となる組成物は、生体適合性ポリマーを99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、75%、またはそれ以下含むポリマーを含むことができ、たとえばポリマーと本明細書に記載される他の材料および賦形剤とを含んでいても生体適合性であり得る。
【0021】
本明細書で使用される場合、「脱細胞化(された)(decellularized)」または「脱細胞化(decellularization)」という用語は、細胞成分が除去されて、インタクトな無細胞基本構造だけが残っているバイオ構造(たとえば、器官、または器官の一部、または組織)を指す。いくつかの器官は、様々な専門組織で構成されている。器官の専門組織構造または実質組織は、その器官と関連する特定の機能を提供する。器官をサポートする線維網は支質である。ほとんどの器官が非専門結合組織で構成された支質フレームワークを有し、それが専門組織をサポートしている。脱細胞化のプロセスでは専門組織細胞を除去して、複雑な三次元ネットワークの細胞外マトリックスを残す。結合組織の基本構造は主にコラーゲンで構成されている。脱細胞化構造は、異なる細胞集団をそれに融合させることができる生体適合性基体を提供する。脱細胞化バイオ構造は、剛性または半剛性であり得、その形状を変える能力を有する。
【0022】
本明細書で用いられる「に由来する」という用語は、特定の供給源を源とすることを意味する。
【0023】
本明細書で使用される場合、「細胞外マトリックス組成物」は、可溶性フラクションと不溶性フラクションの両方、またはそれらの任意の部分を含む。不溶性フラクションは、サポートまたは足場に付着する、分泌細胞外マトリックス(ECM)タンパク質および生物学的コンポーネントを含む。可溶性フラクションは、細胞が培養されていた培養培地、および細胞が分泌した活性物質を指し、足場に付着しないタンパク質および生物学的コンポーネントを含む。両方のフラクションを回収することができ、任意でさらに処理して、単独または併用で、本明細書に記載される様々な用途に用いることができる。
【0024】
本明細書で使用される場合、「ゲル」という用語は、特定の液体中で自体は不溶性であるが、その液体を大量に吸収し保持して、安定した、往々にして柔らかくてしなやかな、しかし常にいくらかの程度の形状保持構造を形成することができる、三次元高分子構造を指す。液体が水であれば、ゲルはハイドロゲルと呼ばれる。特に明言しない限り、「ゲル」という用語は、本明細書全体で、水以外の液体を吸収した高分子構造および水を吸収した高分子構造の両方を指すのに用いられるが、高分子構造が単なる「ゲル」なのか、それとも「ハイドロゲル」なのかは、当業者であれば文脈から容易にわかる。
【0025】
本明細書で使用される場合、「グラフト」は、典型的には細胞、組織、または器官の不全を置換する、直す、または他の方法で克服するために、個体に植え込まれる組成物を指す。グラフトは、足場を含む場合がある。特定の態様では、グラフトは、脱細胞化組織を含む。いくつかの態様では、グラフトは、細胞、組織、または器官を含む場合がある。グラフトは、同一個体を源とする細胞または組織からなる場合があり、このグラフトは本明細書では、「自己グラフト(autograft)」、「自家移植片」、「自家植込片」、および「自家グラフト(autologous graft)」という互いに交換可能な用語で呼ばれる。同種の遺伝的に異なる個体由来の細胞または組織を含むグラフトは、本明細書では、「同種グラフト(allograft)」、「同種移植片」、「同種植込片」、および「同種異系グラフト(allogeneic graft)」という互いに交換可能な用語で呼ばれる。一卵性双生児に由来するグラフトは、本明細書では「アイソグラフト」、「同一遺伝子移植片」、「同一遺伝子植込片」、または「同一遺伝子グラフト」と呼ばれる。「異種グラフト」、「異種移植片」、または「異種植込片」は、ある個体から異種の別の個体へのグラフトを指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、「膵島」という用語は、膵臓の島を指し、これは対象の膵臓の島またはランゲルハンス島に見られる複数の内分泌細胞種のクラスターである。膵島は、1つまたは複数のアルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、イプシロン細胞、ならびに場合によっては、結合組織および細胞外マトリックス成分などの周囲組織の一部分を含む、1つまたは複数の細胞のクラスターからなり得る。
【0027】
本明細書で使用される場合、「膵島細胞」は、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、イプシロン細胞などの、膵島内に含有される細胞を指す。単離された膵島および精製された膵島は、本明細書で使用される場合、本明細書に記載される方法によって単離され、そして調製された膵島を指す。
【0028】
本明細書で使用される場合、「重合」または「架橋」という用語は、モノマー分子(またはモノマー)、オリゴマー分子(またはオリゴマー)、または高分子(またはポリマー)の少なくとも1つの官能基を消費して、少なくとも2つの別個の分子間の少なくとも1つの化学結合(たとえば分子間結合)、同一分子内の少なくとも1つの化学結合(たとえば分子内結合)、またはそれらの任意の組み合わせを作る、少なくとも1つの反応を指す。重合または架橋反応は、その系のなかで利用可能な少なくとも1つの官能基を約0%~約100%消費し得る。一態様では、少なくとも1つの官能基の重合または架橋の結果、該少なくとも1つの官能基の約100%が消費される。別の態様では、少なくとも1つの官能基の重合または架橋の結果、該少なくとも1つの官能基の約100%未満が消費される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「足場」は、物質の接着および細胞の増殖に好適な表面を提供する生体適合性材料を含む構造を指す。足場は、機械的安定性およびサポートをさらに提供し得る。足場は、増殖中の細胞集団がとるような三次元の形状または形態に影響するかそれを区切るような、特定の形状または形態であってもよい。そのような形状または形態としては、限定ではないが、フィルム(たとえば三次元よりも実質的に大きい二次元の形態)、リボン、コード、平板ディスク、シリンダー、球体、三次元アモルファス形状他が挙げられる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「治療する」ことは、患者が経験する疾患、不全、障害、または有害状態等の症状の頻度を減じることを意味する。
【0031】
「組織」という用語は、本明細書で使用される場合、限定ではないが、骨、神経組織、腱および靭帯を含む線維結合組織、軟骨、硬膜、心膜、筋肉、肺、心臓弁、静脈および動脈および他の脈管構造、真皮、脂肪組織、または腺組織を含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、「対象」および「患者」という用語は、互いに交換可能に用いられる。本明細書で使用される場合、対象は、好ましくは非霊長類(たとえば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット他)および霊長類(たとえば、サルおよびヒト)などの哺乳類であり、最も好ましくはヒトである。
【0033】
本明細書で使用される場合、「疾患または障害を治療すること」という用語は、患者が経験する疾患または障害の症状の頻度を減じることを意味する。本明細書では、疾患と障害とは互いに交換可能に用いられる。
【0034】
本明細書で使用される場合、「有効量」または「治療有効量」という用語は、本明細書に記載されるか想定される疾患または状態の症状の軽減も含め、そうした疾患または状態の予防または治療(その発症の遅延もしくは予防、その進行の予防、阻害、減少もしくは逆行)に十分または有効な量を指す。
【0035】
本明細書で提供される範囲は、その範囲内のすべての値の略記であると理解される。たとえば、1~50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50(文脈が明白に否定しない限りそれらの分数も)からなる群の任意の数、数の組み合わせ、または小範囲を含むことが理解される。
【0036】
説明
本発明は、膵島細胞を送達するための組成物、そのような組成物を作るシステムおよび方法、ならびにそのような組成物を用いるための方法に関する。具体的には、本発明は、バイオ人工血管膵臓(BVP)組成物の開発に用いられるシステム、バイオ材料、組織工学構築体等に関する。本発明は、脱細胞化血管グラフトに細胞を播種することで、膵島細胞の機能および生存が大幅に改善されるという発見に基づく。特定の態様では、BVP組成物は、脱細胞化血管グラフトまたは他の無細胞もしくは非細胞型動脈/血管グラフト、および生体適合性ハイドロゲル組成物を提供する。特定の態様では、生体適合性ハイドロゲル組成物に細胞が播種される。特定の態様では、細胞または膵島を無細胞または非細胞血管グラフトの外側に張り付かせ、ハイドロゲル担体は使用しない。特定の態様では、膵島または細胞を、細胞動脈、静脈、または細胞血管移植コンジットの外側に張り付かせる。特定の態様では、本発明は、膵島細胞を培養するシステムを提供する。特定の態様では、本発明は、対象の膵疾患(たとえば、I型またはII型糖尿病)を治療する方法を提供する。
【0037】
BVP組成物
次に
図1A~1Gを参照すると、本発明のBVP 100は、1つまたは複数の脱細胞化血管グラフト120を含む(
図1A)。いくつかの態様では、脱細胞化血管グラフト120は、脱細胞化動脈血管グラフトであり、該動脈グラフトは、たとえば臍動脈、大動脈、腹大動脈、胸大動脈、乳動脈、上腕動脈、橈骨動脈、胃大網動脈、下腹壁動脈、脾動脈、肩甲下動脈、下腸間膜動脈、大腿外側回旋動脈の下降肢、尺骨動脈、肋間動脈、および当業者により理解される任意の他の好適な動脈組織などの動脈血管から単離される。いくつかの態様では、脱細胞化血管グラフト120は、脱細胞化静脈血管グラフトであり、該静脈グラフトは、たとえば伏在静脈、臍静脈、または当業者により理解される任意の他の好適な静脈組織などの静脈血管から単離される。いくつかの態様では、血管グラフトは、自己グラフトである。いくつかの態様では、血管グラフトは、異種グラフトである。いくつかの態様では、血管グラフトは、同種グラフトである。いくつかの態様では、脱細胞化血管グラフトは、脱細胞化工学血管グラフトである。いくつかの態様では、工学血管グラフトは、工学動静脈グラフトである。工学グラフトは、限定ではないが、脱細胞化、細胞自己集合、電子スピン、相分離等などの、当技術分野において理解される任意の技法を用いて構築され得る。いくつかの態様では、血管グラフトは、生きている細胞を含有する。
【0038】
本明細書に記載される1つまたは複数の血管グラフトは、当技術分野において理解される標準的な技法を用いて脱細胞化される。一態様では、本発明の脱細胞化組織は、組織のすべてのまたはほとんどの領域の細胞外マトリックス(ECM)コンポーネントから本質的になる。ECMコンポーネントは、フィブロネクチン、フィブリリン、ラミニン、エラスチン、コラーゲンファミリーのメンバー(たとえば、コラーゲンI、III、およびIV)、グリコサミノグリカン、基底質、細網線維、およびトロンボスポンジンのいずれかまたはすべてを含み得、これらは基底膜などの画定された構造の組織構成を保ち得る。成功裏の脱細胞化は、標準的な組織学的染色手順を用いて検出可能な内皮細胞、平滑筋細胞、上皮細胞、および核が組織切片中に存在しないこと、と定義される。好ましくは、ただし必須ではないが、脱細胞化組織からは残存細胞のデブリも除去されている。
【0039】
いくつかの態様では、天然組織の脱細胞化プロセスは、該組織のネイティブの三次元構造を保存する。つまり、脱細胞化プロセス中もその後も、ECMコンポーネントを含め、組織の形態構造および造りが維持される。ECMの形態構造および造りは、視覚的および/または組織学的に調べることができる。たとえば、中実器官の外表面または器官もしくは組織の脈管構造の内側の基底膜は、脱細胞化によって除去されない場合があり、または大きく損傷しない場合がある。また、ECMの小線維は、脱細胞化されていない器官または組織と同じ場合があり、または大きく変わらない場合がある。いくつかの態様では、天然組織の機械的特性は、脱細胞化プロセスによって実質的に影響されない。
【0040】
いくつかの態様では、脱細胞化グラフトは、合成グラフトである。たとえば、合成グラフトは、Dacron(登録商標)グラフト、ポリテトラフルオロエチレングラフト、ポリウレタングラフト等の1つまたは複数を含む場合がある。
【0041】
いくつかの態様では、1つまたは複数の脱細胞化血管グラフト120は、ハイドロゲルコーティング130で外装されている(
図1Bおよび1D)。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130は、1つまたは複数の生体適合性バイオ分子で構築されている。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130は、調節可能な剛性を備えている。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130は、血管新生促進性である。
【0042】
いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130は、1つまたは複数の生体適合性バイオ分子、たとえば、フィブリン、フィブリノゲン、およびトロンビンで構築されている。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングは、任意の好適なバイオ分子、または当技術分野において理解されるハイドロゲルを形成するのに好適なバイオ分子の組み合わせ、たとえば、コラーゲン、フィブリン、エラスチン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ラミニン、ヒアルロナン、キトサン、アルギン酸、デキストラン、ペクチン、カラギーナン、シルク、Matrigel(登録商標)、ポリリジン、ゼラチン、アガロース、架橋ポリエチレングリコール、架橋合成高分子ハイドロゲル、ハイドロゲルを形成するのに用いられる細胞外マトリックス、たとえば単離された細胞外マトリックス、精製された細胞外マトリックス、および/もしくは脱細胞化された細胞外マトリックス等、ならびに/またはそれらの組み合わせで構築される(Hennink and C. F. van Nostrum, 2002, Adv. Drug Del. Rev. 54, 13-36およびHoffman, 2002, Adv. Drug Del. Rev. 43, 3-12を参照)。これらの材料は、線状または分枝状の多糖またはポリペプチドでできた、高分子量の主鎖からなる。合成ポリマーベースのハイドロゲルの例としては、限定ではないが、(メタ)アクリル酸-オリゴラクチド-PEO-オリゴラクチド-(メタ)アクリル酸、ポリ(エチレングリコール)(PEO)、ポリ(プロピレングリコール)(PPO)、PEO-PPO-PEOコポリマー(プルロニック)、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(メタアクリル酸)、ポリ(N-ビニルピロリドン)、PL(G)A-PEO-PL(G)Aコポリマー、ポリ(エチレンイミン)他が挙げられる。(A. S Hoffman, 2002, Adv. Drug Del. Rev, 43, 3-12を参照。)いくつかの態様では、ハイドロゲルは、消化され脱細胞化された膵臓組織を用いて生成される。いくつかの態様では、ハイドロゲルは、消化され脱細胞化された膵臓組織を、1つまたは複数の他のハイドロゲル、たとえばフィブリンハイドロゲルと組み合わせて用いて作製される。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130は、ハイドロゲルの代わりに線維足場で構築される。たとえば、線維足場は、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸、ポリジオキサノン、カプロラクトン等、および/またはそれらの組み合わせの1つまたは複数を含み得る。いくつかの態様では、本明細書に記載されるように、ハイドロゲルコーティング130は、ハイドロゲル足場材料と非ハイドロゲル足場材料との組み合わせで構築される。
【0043】
いくつかの態様では、本発明のハイドロゲルコーティング130は、機械的に安定している。いくつかの態様では、本発明のハイドロゲルコーティングは、調節可能な機械的特性、たとえば調節可能な剛性を備える。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングの機械的特性は、該ハイドロゲルコーティングを形成するのに用いられる1つまたは複数のバイオ分子の濃度を改変することにより調節可能である。たとえば、いくつかの態様では、ハイドロゲルは、様々な濃度のフィブリノゲンおよび/またはトロンビンを用いて形成されるフィブリンハイドロゲルコーティングである。いくつかの態様では、フィブリンハイドロゲルコーティングは、フィブリノゲンとトロンビンの様々な比を用いて形成される。いくつかの態様では、フィブリノゲン対トロンビン比は10:1である。いくつかの態様では、フィブリノゲン対トロンビン比は、約2:1、約3:1、約4:1約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1約10:1、約11:1、約12:1、約13:1、約14:1、約15:1、約16:1、約17:1約18:1、約19:1、または約20:1である。いくつかの態様では、フィブリンハイドロゲルコーティングは、約1 mg/mL、約2 mg/mL、約3 mg/mL、約4 mg/mL、約5 mg/mL、約6 mg/mL、約7 mg/mL、約8 mg/mL、約9 mg/mL、約10 mg/mL、約15 mg/mL、または約20 mg/mLのフィブリノゲン濃度を用いて形成される。いくつかの態様では、フィブリンハイドロゲルコーティングは、約5 mg/mLのフィブリノゲン濃度をフィブリノゲン対トロンビン比5:1で用いて形成される。いくつかの態様では、フィブリンハイドロゲルコーティングは、約10 mg/mLのフィブリノゲン濃度をフィブリノゲン対トロンビン比5:1で用いて形成される。いくつかの態様では、フィブリンハイドロゲルコーティングは、約10 mg/mLのフィブリノゲン濃度を、フィブリノゲン対トロンビン比約10:1で用いて形成される。
【0044】
いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130は、血管新生促進性である。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングは、血管新生をサポートする生体適合性バイオ分子で構築される。「血管新生」という用語は、本明細書で使用される場合、既存血管からの新血管の形成と定義される。いくつかの態様では、本発明のハイドロゲルコーティングは、新血管の内成長をサポートする1つまたは複数のバイオ分子、たとえばフィブリンで構築される。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングは、血管の成熟および/または安定性をサポートする1つまたは複数のバイオ分子で構築される。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングは、1つまたは複数の血管新生因子、たとえば血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、アンジオポエチン(Ang-1、Ang-2)、形質転換増殖因子(TGF-β)等を含む。いくつかの態様では、1つまたは複数の因子が組み合わされるかハイドロゲルに直接組み入れられる。いくつかの態様では、1つまたは複数の因子は、直接注入または直接接触などの直接的手段により、ハイドロゲルへと送達される。いくつかの態様では、1つまたは複数の因子は、当技術分野において理解される送達方法、たとえばマイクロ粒子およびナノ粒子等へのコンジュゲーションまたは封入を用いて、ハイドロゲルへと送達される。
【0045】
いくつかの態様では、
図1Bおよび1Dに示すように、本発明のハイドロゲルコーティング130に複数細胞140を播種する。いくつかの態様では、細胞140は、膵島細胞を含む。いくつかの態様では、細胞140は、アルファ細胞、ベータ細胞、デルタ細胞、PP細胞、および/またはイプシロン細胞を含む。いくつかの態様では、細胞140は、インタクトな膵島、たとえば単離されたインタクトな膵島である。いくつかの態様では、単離されたインタクトな膵島は、たとえばウシ、ブタ、マウス、および/またはヒト膵島などの哺乳類供給源から単離されている。いくつかの態様では、細胞は、トランスフォーム細胞、たとえばインスリノーマ細胞などの不死化細胞、トランスジェニック細胞、ノックアウト細胞、ノックイン細胞、またはそれ以外の遺伝子改変細胞である。いくつかの態様では、細胞は、もっと高レベルのインスリン、プロインスリン、C-ペプチド等を産生および/または分泌するように改変される。いくつかの態様では、細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(IPSC)等などの幹細胞である。いくつかの態様では、細胞は、ESCまたはIPSCから分化した前駆細胞である。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130に、有用な化合物を分泌することができる他の細胞種を播種する。いくつかの態様では、これらの細胞は、外分泌細胞である。いくつかの態様では、これらの細胞は、内分泌細胞である。いくつかの態様では、これらの内分泌細胞は、濾胞細胞、神経内分泌細胞、または副甲状腺細胞である。いくつかの態様では、播種される細胞は、同種グラフト細胞である。いくつかの態様では、播種される細胞は、自己グラフト細胞である。いくつかの態様では、播種される細胞は、異種グラフト細胞である。
【0046】
いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティング130に、複数の単離細胞を播種する。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングに、複数のインタクトな膵島を播種する。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングに、約2万5000の細胞、約5万の細胞、約7万5000の細胞、約10万の細胞、約50万の細胞、約100万の細胞、約1千万の細胞、約1億の細胞、約5億の細胞、約10億の、または約100億の細胞を播種する。いくつかの態様では、ハイドロゲルコーティングに、約50の膵島~約100の膵島、約100の膵島~約500の膵島、約500の膵島~約1000の膵島、約1000の膵島~約5000の膵島、約5000の膵島~約1万の膵島、約1万の膵島~約5万の膵島、約5万の膵島~約10万の膵島、約10万の膵島~約50万の膵島、約50万の膵島~約100万の膵島、または約100万の膵島~約500万の膵島を播種する。
【0047】
培養システム
特定の局面では、本発明は、単離膵島細胞を培養するシステムを提供する。膵島は、単離後、懸濁培養、ポリスチレンの皿内または皿上での培養、トランスウェルインサートでの培養、中空ファイバーフローデバイスでの培養等などの当技術分野において公知の様々な方法を用いて培養され得る。いくつかの場合、膵島は、ハイドロゲル内に滞在しながら培養され得る。いくつかの態様では、培養システムは、本明細書に記載されるように、1つまたは複数の灌流システム、たとえば
図8に示すバイオリアクターシステム800に接続された、1つまたは複数のBVP組成物100を含む。いくつかの態様では、バイオリアクターシステム800は、1つまたは複数の間質空間リザーバー810、1つまたは複数のポンプ820、および1つまたは複数のルーメンリザーバー830などの1つまたは複数の要素を含み、該1つまたは複数の要素は、1つまたは複数の長さのチューブ840と流体接続されている。
【0048】
1つまたは複数の間質空間リザーバー810は、本発明の1つまたは複数のBVPを好適な条件で含有するための、当技術分野において理解される任意の好適なリザーバー容器であり得る。いくつかの態様では、リザーバー容器は、1つまたは複数のBVPのルーメンを灌流液に流体接続するための1つまたは複数のポートを含む。いくつかの態様では、1つまたは複数のポートの内部コンポーネントが、リザーバー810内部の1つまたは複数のBVPの各端部と流体接続している。いくつかの態様では、および1つまたは複数のポートの外部コンポーネントが、リザーバー810外部の1つまたは複数の長さのチューブ840と流体接続している。1つまたは複数のポートは、当技術分野において理解される任意の好適なコネクターまたは留め具、たとえばスリップ留め具、とげ付き留め具、ねじ付き留め具、他の摩擦式留め具等を含み得る。いくつかの態様では、1つまたは複数のBVPが、縫合等などの技法を用いて、1つまたは複数のポートに固定されるかまたは留められる。いくつかの態様では、ポートは、ガラスおよび/またはプラスチックなどの任意の好適な滅菌可能な生体適合性材料で構築され得る。いくつかの態様では、ポートは、リザーバー810と同じ材料で形成される。たとえば、いくつかの態様では、ポートは、リザーバーとしてサンプルユニットの材料から押し出される。いくつかの態様では、ポートは、リザーバー810に取り付けられる別ユニットの材料である。間質空間リザーバー810は、ガラスおよび/またはプラスチックなどの、当技術分野において理解される任意の好適な滅菌可能な生体適合性材料で構築され得る。いくつかの態様では、間質空間リザーバー810は、1つまたは複数の検知プローブ、たとえば酸素検知プローブ、アンモニア検知プローブ等を含む。いくつかの態様では、間質空間リザーバー810は、リザーバー内の流体を回収するための、またはタンパク質もしくはグルコースなどの1つもしくは複数の追加の要素をリザーバーに注入するための、1つまたは複数のサンプリングポートを含む。いくつかの態様では、間質空間リザーバー810は、リザーバー810内の酸素レベルを制御するための1つまたは複数のコンポーネントを含む。たとえば、いくつかの態様では、間質空間リザーバーは、リザーバー810をスパージするための1つまたは複数のコンジットを含む。いくつかの態様では、間質空間リザーバーは、リザーバー810を脱気するための1つまたは複数のコンジットを含む。間質空間は、流れるまたは灌流する流体または培養培地を含有し得る。間質空間は、圧力、酸素、グルコースレベル、アンモニアレベル等を測定する1つまたは複数のセンサーを含有し得る。
【0049】
1つまたは複数のポンプ820は、当技術分野において理解される、流体の流れを生成するための任意の好適なポンプであり得る。たとえば、1つまたは複数のポンプ820は、当技術分野において理解される、1つまたは複数の蠕動ポンプであり得る。いくつかの態様では、ポンプ820は、当業者により理解される、1つまたは複数の好適な容積式ポンプ、脈動ポンプ、速度ポンプ、重力ポンプ、上記ポンプ、またはバルブレスポンプであり得る。
【0050】
1つまたは複数のルーメンリザーバー830は、好ましい酸素およびグルコース濃度の灌流液を好適に含有するための、当技術分野において理解される任意の好適なリザーバー容器であり得る。ルーメンリザーバー830は、たとえば空気、酸素、グルコース、タンパク質等を灌流液におよび/もしくは灌流液から供給するための、リザーバー830を脱気および/もしくは換気するための、ならびに/または1つもしくは複数の長さのチューブ840を受けるためのポート、穴、または接続部などの、ポート、穴、または接続部を、もう1つ有し得る。ルーメンリザーバー830は、当技術分野において理解される任意の好適な滅菌可能な生体適合性材料で構築され得る。
【0051】
本明細書に記載される1つまたは複数の長さのチューブ840は、当技術分野において理解される任意の好適な生体適合性の滅菌可能チューブであり得る。たとえば、チューブ840は、シリコーンチューブ、TYGON(登録商標)チューブ、MASTERFLEX(登録商標)チューブ、ポリエーテルエーテルケトン、または当技術分野において理解される任意の他の好適な生体適合性の滅菌可能な熱プラスチックエラストマーチューブであり得る。いくつかの態様では、チューブは、約0.03 mm、0.06 mm、0.12 mm、0.19 mm、0.25 mm、または0.31 mmの内径を有する。本明細書に記載されるバイオリアクターシステム800は、植え込まれたBVP組成物の環境条件をシミュレートするのに用いられ得る。たとえば、いくつかの態様では、1つまたは複数のルーメンリザーバー830は、灌流液832を含有し、灌流液832は、高い酸素およびグルコースレベルで作られた培地を含む。いくつかの態様では、培地は、当技術分野において理解される任意の好適な細胞培養基本培地、たとえばRoswell Park Memorial Institute培地(RPMI)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、培地199(M199)等である。いくつかの態様では、灌流液832は、植え込まれたBVP組成物100を灌流する血液の条件と似たグルコースおよび酸素条件を含む。たとえば、いくつかの態様では、灌流液832は、約450 mg/dLのグルコースを含有する。いくつかの態様では、灌流液832は、約100 mg/dL、約200 mg/dL、約300 mg/dL、約350 mg/dL、約400 mg/dL、約450 mg/dL、約500 mg/dL、約550 mg/dL、または約600 mg/dLのグルコースを含有する。いくつかの態様では、灌流液832は、約100 mmHgの酸素を含有する。いくつかの態様では、灌流液832は、約40 mmHg、約60 mmHg、約80 mmHg、約90 mmHg約100 mmHg、約110 mmHg、約130 mmHg、約150 mmHg、約170 mmHg、または約190 mmHgを含有する。
【0052】
いくつかの態様では、間質空間リザーバー810は、低い酸素およびグルコースレベルの培地812を含有する。いくつかの態様では、培地812は、BVP組成物100が植え込まれる組織の微小環境の条件と似た条件を含む。たとえば、いくつかの態様では、培地812は、約20 mg/dLのグルコースを含有する。いくつかの態様では、培地812は、少なくとも10 mg/dLのグルコースを含有し、たとえば、いくつかの態様では、培地812は、約12 mg/dL、約15 mg/dL、約20 mg/dL、約22 mg/dL、約25 mg/dL、約30 mg/dL、約35 mg/dL、約40 mg/dL、約45 mg/dL、約50 mg/dL、約55 mg/dL、約60 mg/dL、約65 mg/dL、約70 mg/dL、約75 mg/dL、約80 mg/dL、約85 mg/dL、約90 mg/dL、約95 mg/dL、または約100 mg/dLのグルコースを含有する。いくつかの態様では、灌流液812は、約40 mmHgの酸素を含有する。いくつかの態様では、灌流液832は、約10 mmHg、約20 mmHg、約30 mmHg、約40 mmHg約50 mmHg、約60 mmHg、約80 mmHg、約100 mmHg、約120 mmHg、または約140 mmHgを含有する。
【0053】
いくつかの態様では、1つまたは複数のBVP 100は、間質空間リザーバー810の内部空間内に配置される。BVP 100の外表面は、培地812と直接流体接触している。BVP 100はチューブ840に流体接続されており、したがってBVP 100のルーメンは灌流液832で流体密封されている。いくつかの態様では、灌流液832はルーメンを通過し、BVP 100の内ルーメンに直接接触する。
【0054】
いくつかの態様では、ポンプ840は、バイオリアクター800全体に灌流液832を送達する。いくつかの態様では、灌流液832はルーメンリザーバー830から送出され、BVP 100のルーメンを通り、そして灌流液832をルーメンリザーバー830に戻す。いくつかの態様では、リザーバー810の1つまたは複数のポートが、チューブ840をBVP 100のルーメンに流体密封している。入ってきた灌流液832は、BVP 100のルーメンを通過し、培地812から単離され、そしてチューブ840を通って出ていく。いくつかの態様では、灌流液832は、BVP 100の脱細胞化グラフトからハイドロゲルコーティング130内の複数の細胞140へと拡散する。いくつかの態様では、灌流液832は、チューブ840を通って、膵内循環の流量と似た流量で送出される。いくつかの態様では、灌流液832は、肝内循環の流量と似た流量で送出される。いくつかの態様では、灌流液832は、動静脈瘻中の流量と似た流量で送出される。いくつかの態様では、灌流液832は、約1 mL/分、約2 mL/分、約3 mL/分、約10 mL/分、約50 mL/分、約100 mL/分、または約200 mL/分の速度で灌流される。いくつかの態様では、本発明のBVPが灌流された直後に、ハイドロゲル外装に埋め込まれた複数の細胞が、灌流液832に含有される酸素およびグルコースに直ちに曝露される。いくつかの態様では、複数の細胞は、システム内の流れが開始してから約5分以内に、灌流液に含有される酸素およびグルコースに曝露される。いくつかの態様では、複数の細胞は、システム内の流れが開始してから約10分または約30分以内に、灌流液に含有される酸素およびグルコースに曝露される。灌流液は、緩衝液、食塩水、グルコース溶液、培養培地、血液、血漿、血清等などの、当技術分野で公知かつ理解されている任意の好適な流体であり得る。
【0055】
方法
本発明の様々な態様は、対象の膵疾患、たとえば、非限定例としてI型糖尿病を含む、糖尿病を治療する方法を提供する。次に
図14を参照すると、膵疾患の治療を必要とする対象の膵疾患を治療する例示的な方法900が示されている。いくつかの態様では、疾患は、本明細書に記載されるように、I型糖尿病、II型糖尿病等を含む糖尿病である。本発明の様々な態様は、インスリンの送達を必要とする対象にインスリンを送達する方法を提供する。本発明の様々な態様は、大量の細胞(たとえば膵島細胞)の送達を必要とする対象に大量の細胞を送達する方法を提供する。
【0056】
いくつかの態様では、方法900は、工程S901から始まる。様々な態様では、工程S901は、脱細胞化、非細胞、および/または無細胞血管グラフトを得ることを含む。様々な態様では、工程S901は、血管グラフトを脱細胞化することを含む。いくつかの態様では、血管グラフトは、動脈グラフトである。いくつかの態様では、動脈グラフトは、本明細書に記載されるように、たとえば、臍動脈、大動脈、腹大動脈、胸大動脈、乳動脈、上腕動脈、橈骨動脈、胃大網動脈、下腹壁動脈、脾動脈、肩甲下動脈、下腸間膜動脈、大腿外側回旋動脈の下降肢、尺骨動脈、肋間動脈、および当業者により理解される任意の他の好適な動脈組織などの1つまたは複数の動脈血管から単離される。いくつかの態様では、血管グラフトは、静脈グラフトである。いくつかの態様では、静脈グラフトは、本明細書に記載されるように、たとえば、伏在静脈、臍静脈、または当業者により理解される任意の他の好適な静脈組織などの1つまたは複数の静脈血管から単離される。いくつかの態様では、血管グラフトは、本明細書に記載されるように、工学非細胞または無細胞血管グラフトなどの工学血管グラフトである。
【0057】
工程S902の様々な態様では、脱細胞化血管グラフト120が生体適合性ハイドロゲルで外装される。あるいは、いくつかの態様では、血管グラフトをハイドロゲルで外装するのではなく、共有結合、マイクロ粒子内封入、または血管グラフトに繋がれているか血管グラフトの成分である細胞外マトリックス粒子、ストランド、もしくはシート内封入もしくは捕捉などの手段によって、細胞をグラフトの外表面に張り付かせる。いくつかの態様では、脱細胞化血管グラフト120は、ハイドロゲルで外装しやすくするために、サポート構造上で安定化させる場合がある。サポート構造は、グラフトのルーメン内に嵌る適切なサイズのシリンダー状構造を含み得る。たとえば、サポート構造は、最大約0.01 mm、約0.01 mm~約0.05 mm、約0.05 mm~約0.1 mm、約0.1 mm~約0.15 mm、約0.15 mm~約0.2 mm、約0.2 mm~約0.5 mm、約0.5 mm~約1 mm、約1 mm~約5 mm、約5 mm~約10 mm等の直径を有し得る。サポート構造の非限定例には、たとえば、シリンジ、針、剛性および/もしくは半剛性チューブ、または他の好適な構造が含まれ得る。サポート構造は、たとえば、ステンレス鋼、TYGON(登録商標)、塩化ポリビニル、ポリカーボネート等などの、任意の好適な生体適合性材料で構築され得る。
【0058】
いくつかの態様では、生体適合性ハイドロゲルは、1つまたは複数の生体適合性バイオ分子、たとえば、フィブリン、フィブリノゲン、およびトロンビンで構築される。ハイドロゲルは、任意の好適なバイオ分子、または当技術分野において理解されるハイドロゲルを形成するのに好適なバイオ分子の組み合わせ、たとえば、コラーゲン、フィブリン、エラスチン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ラミニン、アルギン酸、および他の細胞外マトリックスタンパク質または成分等で、本明細書に記載されるように、構築され得る。いくつかの態様では、生体適合性ハイドロゲルは、機械的に安定している。いくつかの態様では、ハイドロゲルは、調節可能な剛性を有する。
【0059】
ハイドロゲルの剛性は、ハイドロゲルコーティングを形成するのに用いられる1つまたは複数のバイオ分子の濃度を改変することにより、調節可能とされ得る。たとえば、いくつかの態様では、ハイドロゲルは、様々な濃度のフィブリノゲンおよび/またはトロンビンを用いて形成されるフィブリンハイドロゲルコーティングである。フィブリンハイドロゲルコーティングは、本明細書に記載されるように、フィブリノゲンとトロンビンの様々な比を用いて形成される。いくつかの態様では、ハイドロゲルは、1つまたは複数のバイオ分子、たとえば、新血管の内成長をサポートしかつ/または促進するフィブリンで構築される。ハイドロゲルコーティングは、血管の成熟および/または安定性をサポートする1つまたは複数のバイオ分子で構築され得る。
【0060】
ハイドロゲルは、本明細書に記載されるように、1つまたは複数の血管新生因子、たとえば、血管内皮増殖因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、アンジオポエチン(Ang-1、Ang-2)、形質転換増殖因子(TGF-β)等を含み得る。いくつかの態様では、本明細書の別の個所に記載するように、生体適合性ハイドロゲルに複数の細胞を播種する。たとえば、いくつかの態様では、ハイドロゲルに膵島細胞を播種する。
【0061】
本発明のいくつかの態様では、血管グラフト内に細胞または膵島を捕捉する手段として、血管グラフトの壁内に細胞が注入され得る。特定の用途では、細胞または膵島は、血管グラフトの外側に結合させた細胞外マトリックス材料の粒子、マイクロ粒子、またはシート内に捕捉され得る。あるいは、細胞または膵島は、植込みに好適な、かつ血管グラフトの外側に張り付かせた、マイクロ粒子または合成材料のシートに封入され得る。
【0062】
脱細胞化血管グラフト120は、たとえば1つもしくは複数のバイオ分子(たとえばフィブリン他)ならびに/または1つもしくは複数の細胞および/もしくは膵島の溶液を含有しているシリンジなどの、好適な容器内に配置され得る。脱細胞化血管グラフト120は、バイオ分子ならびに/または細胞および/もしくは膵島の溶液中、ハイドロゲルが形成するのに十分な時間インキュベートされ得る。たとえば、脱細胞化グラフト120は、最大5分、5分~30分、30分~60分、1時間~3時間、3時間~6時間、6時間~12時間、12時間~24時間等インキュベートされ得る。
【0063】
工程S903の様々な態様では、BVP 100が、それを必要とする対象に植え込まれる。いくつかの態様では、BVP 100は、当業者により理解される対象の血流と、直接相互接続され得る。いくつかの態様では、BVP 100は、膵内循環の1つまたは複数の血管に接続される。いくつかの態様では、BVPは、肝内循環の1つまたは複数の血管に接続される。いくつかの態様では、BVPは、動脈と静脈との間の動静脈瘻として接続される。いくつかの態様では、動静脈瘻は、体肢に、たとえば腕もしくは上肢、または前足にある。いくつかの態様では、瘻は、脚もしくは下肢、または後ろ足にある。いくつかの態様では、BVPは、当業者により理解される対象内の任意の好適な場所に、動脈バイパスグラフト、静脈バイパスグラフト、動脈間置グラフト、静脈間置グラフト、皮下植込片、腸間膜植込片、門脈植込片として、または他の植込場所に、植え込まれる。いくつかの態様では、対象は、哺乳類、たとえばヒトである。
【0064】
いくつかの態様では、本発明の組成物、システム、および/または方法を用いて対象を治療すると、疾患または障害、たとえばI型糖尿病が改善する。いくつかの態様では、本発明の組成物、システム、および/または方法を用いて該対象を治療すると、該疾患または障害の症状が軽減する。いくつかの態様では、本発明の組成物、システム、および/または方法を用いて該対象を治療すると、該対象に1つまたは複数のバイオ分子、たとえばインスリンが与えられる。
【実施例】
【0065】
実験実施例
以下の実験実施例を参照して、本発明をより詳細に記載する。これらの例は、説明目的のみで提供され、特に断らない限り限定的なものではない。したがって、本発明は、何ら以下の例に限定されると解釈すべきでなく、本明細書で提供される教示の結果として明らかになる一切の変更形態を包含すると解釈すべきである。
【0066】
当業者であれば、さらなる記載がなくても、前述の記載および以下の説明的な例を用いて、本発明を実行し利用すること、および特許請求の方法を実施することができる。したがって、以下の作業例は、本発明の好ましい態様を具体的に指し示すものであって、本開示の他の部分を何ら限定すると解釈してはならない。
【0067】
実施例1:I型糖尿病を治療するためのバイオ人工血管膵臓の設計
膵島移植に関するいくつかの問題を解決する革新的かつ潜在的にインパクトのあるアプローチとして、脱細胞化血管の外側への膵島の送達について調査した。脱細胞化血管の外表面への膵島播種後、この組織を血管グラフトとして植え込むと、動脈血流が該脱細胞化血管のルーメンを通って流れ、膵島は該血管の外表面に埋め込まれている。動脈グラフトの植込みの場合、十分に酸素を含む血液が脱細胞化血管を直接流れることになり、そして血管の外表面に播種された膵島に酸素および栄養分を拡散させることになる。すると膵島が血糖レベルに応答してホストの血行中にインスリンを分泌することが可能になる。
図1A~1Gに、バイオ人工血管膵臓(BVP)技術の図を示す。本発明および本技術の何より大切なゴールは、患者が1型糖尿病と戦うのに役立つことである。
【0068】
膵島の単離
BVPを試験するために、まず、頑健かつ反復可能なやり方で膵島を収集した。膵島の収集はラットとブタの両方で実施して、BVPテスト試行に使用した。
【0069】
ラット膵島の単離:
ラット膵島単離のプロトコルは、Carterらのプロトコルを基にし、収率が改善されることがわかっているいくつかの改変を加えた(Carter, et al., Biological Procedures Online 2009; 11:3-31)。ラット膵臓の膵島の収集は、2~4月齢、体重200~300 gの雌のSprague Dawleyラットに実施した。動物を屠殺するのに、Euthasolを175 mg/mLおよび0.1 mg/ラット100 gで、腹腔内注射した。HEPES緩衝液およびペニシリン/ストレプトマイシン抗生物質(P/S)を補充したハンクス平衡塩溶液(HBSS)を平衡化/洗浄溶液として用いた。腹腔を切開した後、総胆管を突き止めて、25ゲージ針を用いて1.5 mg/mLのHBSS中10 mLのコラゲナーゼPを注入した。次に膵臓を切除した。摘出した膵臓を、さらなる10 mLのコラゲナーゼPを含有するガラスバイアル内に配置した。次いでガラスバイアルを水浴させ、10~14分連続的に撹拌して、コラゲナーゼに膵臓を消化させた。大きな組織塊が残らなくなると、該溶液をハンクス平衡塩溶液(HBSS)バッファーで3回洗浄した。各洗浄で、4分かけて細胞を沈殿させ、上清を吸引して除いた。3回の洗浄後、1000 μmメッシュをフィルターとして用いて追加で2回洗浄を実施して、大きめな組織粒子を除去した。最後に、最終洗浄のため、細胞を70 μm細胞ストレーナーに入れ、HBSSで洗浄した。これによって、外分泌クラスターおよび細胞は濾過されたが、膵島はメッシュ上に残すことができた。次いで無処置ペトリ皿上でメッシュをRoswell Park Memorial Institute(RPMI)培地ですすいだ。該ペトリ皿に10滴のジチゾン(0.025 gジチゾン;5 mL DMSO;20 mL PBS)を加えて膵島をピンク色に染色した。次いで膵島を手選し、RPMI(RPMI、10%ウシ胎仔血清、1% P/S)中で培養し、使用した。ラット膵島、および生細胞を緑色、死細胞を赤色に染色するフルオレセインジアセタート/ヨウ化プロピジウム(FDA/PI)を用いて染色したラット膵島を、
図2Bに示す。
【0070】
ブタでの単離:
ブタ膵島も単離した。ブタ膵臓を摘出後、該器官の総胆管から100 mLの1.5 mg/mLコラゲナーゼPを注入した。次いで膵臓をガラス瓶に入れ、20分かけて消化した。最後の1分で、瓶を丸1分間撹拌した。次いで膵島を洗浄し、ラット膵臓について記載したのと同じプロセスを用いて単離した。FDA/PIを用いて染色したブタ膵島を
図3に示す。これらのデータは、数種からの生存可能膵島の収集が実行可能であり、そうした技法をヒト膵臓からの膵島単離へと拡張可能であることを示す。BVPの臨床実施については、動物由来膵島ではなく、ヒト膵島がレシピエントに移植されることが予期される。ヒト膵島は、当技術分野において公知のいくつかの方法のいずれかを用いて、ヒト膵臓から単離され得る。本明細書において記載される動物由来膵島は、以下に記載される前臨床の原理証明研究の目的に用いられる。
【0071】
血管の脱細胞化
ラットおよびヒト組織からネイティブ動脈を単離し、次いで脱細胞化に供した。本BVPの発明に使用され得る他の潜在的な脱細胞化動脈グラフトとしては、脱細胞化した成人ヒト静脈または動脈のほか、脱細胞化した工学動脈/血管が挙げられる。本明細書における原理証明研究の目的では、ヒト臍動脈およびネイティブのラット大動脈を使用したが、それは、これらの直径(約1 mm)がラット腹大動脈への植込みに好適だからである。
【0072】
ヒト臍動脈およびラット胸大動脈の脱細胞化には、Guiらのプロトコルを用いた(Gui, et al., Tissue Eng Part A 2009; 15: 2665-76)。ヒト臍動脈を単離するために、ヒト臍帯を入手した。臍帯をピンセットで切り開くことにより、動脈を単離した。屠殺したラットの胸壁を開き、そして大動脈を切り出すことにより、ラット胸部動脈を単離した。単離した血管をCHAPS界面活性溶液(8 mM CHAPS; 1 M NaCl; 25 mM EDTA)中で一晩インキュベートすることにより、脱細胞化プロセスを開始した。次いで血管を洗浄し、SDS界面活性溶液(1.8 mM SDS; 1 M NaCl; 25 mM EDTA)中一晩37℃でインキュベートした。次いでPBSでの洗浄を15回実施して、血管からCHAPSまたはSDSを一掃した。そしてこの脱細胞化血管を、1%ペニシリン/ストレプトマイシン抗生物質を含む滅菌リン酸緩衝食塩水溶液中、4℃で最大1年間保存した。
【0073】
フィブリンコーティング
脱細胞化動脈の調製後、膵島を脱細胞化グラフトの外表面に付着させるのに好適なハイドロゲルコーティングを開発した。好適なハイドロゲルの選択では、生体適合性であること、機械的に安定していること、および好ましくは血管新生性であることが重要である。このBVPを生産する目的では、いくつものハイドロゲルのどれでも好適であり得るが、これらの概念研究の立証にはフィブリンを使用した。このハイドロゲルを選択したのは、その高い生体適合性および優れた血管新生サポートのため、また、ゲル作製に用いられるフィブリノゲンとトロンビンとの相対比によって、ハイドロゲルの硬さが調節できるためでもある。フィブリンゲルの硬さを調節することにより、無細胞動脈の外側を取り囲む膵島含有コーティングの機械的特性を変えることができ、したがって外科的植込みの物理的な過酷さに耐えられるゲル安定性の最適化を可能にすることができる。
【0074】
フィブリンハイドロゲルは、フィブリノゲンとトロンビンとの混合物を用いて作製する。トロンビンは、フィブリノゲン分子を切って、フィブリンの架橋ネットワークを形成する作用がある。フィブリンコーティングを最適化するために、様々な濃度のフィブリノゲンを、トロンビンに対し複数の比で用いて、フィブリン組成物を試験した。5 mg/mLのフィブリノゲンをトロンビンに対し5:1の比で、10 mg/mLのフィブリノゲンをトロンビンに対し5:1の比で、および10 mg/mLのフィブリノゲンをトロンビンに対し10:1の比で、成形技法を用いて脱細胞化ヒト臍動脈にコーティングした。簡単に説明すると、脱細胞化動脈を10 cmの14ゲージ金属シリンジに通した。次いで1 mLのプラスチックシリンジに疎水性の5% プルロニックをコーティングして、シリンジの内ルーメンにフィブリンがくっつくのを防止した。該1 mLのシリンジ内にフィブリンをロードし、このシリンジの中に、臍動脈が入った金属シリンジを配置した。該血管の周りでフィブリンを重合化させた。1.5 mM Ca
2+も添加して、フィブリンの重合を高めた。37℃で30分インキュベーションした後、金属シリンジをプラスチックシリンジから引き抜き、この操作によって、フィブリンでコーティングされた脱細胞化血管が得られた。このプロセスを
図4A~4Dに示す。フィブリンでコーティングされ、金属シリンジサポート構造から出された、例示的な脱細胞化血管を、
図4Dの4つ目のパネルに示す。質的に最良のコーティングとなったのは、10 mg/mLのフィブリノゲンをトロンビンに対し10:1の比としたものであった。
【0075】
MIN6細胞培養
本明細書に記載されるように、ラットおよびブタの組織から、精製された膵島を単離する技法を開発した。こうした膵島を、無細胞動脈を取り囲むフィブリンコーティングに埋め込んで、BVPを作製することになる。しかし膵島の扱いは煩雑であり、単離および維持は高価になり得る。したがって、初期の概念証明研究のペースを上げるために、高効率でインスリンを産生する不死化細胞系統を使用した。
【0076】
マウスインスリノーマ(MIN6)細胞を、BVPシステムの初期試験のモデル細胞種として使用した。グルコース刺激インスリン分泌(GSIS)実験を実施して、MIN6細胞が、グルコースに応答して、ネイティブ膵島と似たレベルでインスリンを産生できることを実証した。この実験を実施するために、5万個のMIN6細胞を24ウェルプレートで培養し、該細胞を一晩かけて沈着させた。培養培地を除去し、ウェルをPBSで洗浄した。低グルコース(20 mg/dLグルコース)基本培地を該細胞とともに2時間インキュベートした。次いで、該細胞に様々な濃度のグルコースおよび最適化DMEMをかけ、20分インキュベートした。インスリンのELISA(酵素結合免疫吸着測定法)アッセイ(Mercodia, Inc)を用いてインスリンを検出した。20分後のインスリンレベルが
図5に示され、成功裏のGSIS応答を実証しており、高グルコース最適化DMEM(450 mg/dLグルコース)を用いて特に高いインスリン分泌が観測されている。
【0077】
MIN6細胞のフィブリンゲル中の生存についても試験した。様々なフィブリノゲン濃度およびフィブリノゲン対トロンビン比の300 μLのフィブリンゲルに、5万個のMIN6細胞を播種した。この細胞搭載フィブリン構築体を、500 μlの最適化DMEM培地中3日間保存した。生細胞を緑色に、死細胞を赤色に染色するフルオレセインジアセタート/ヨウ化プロピジウム(FDA/PI)を用いて、生存を実証した。
図6の行Aは、フィブリン組成物に関係なく、細胞の大半が緑色であり生存していることを示す。ターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼdUTPニック・エンド・ラベリング(TUNEL)染色を、生存に関する第2の検証に用いた。TUNELが死核を緑色に染色し、DAPIを用いて細胞核を青色に染色した。
図6の行Bは、核の大半が緑色ではなく、したがって細胞がゲル内で生存したことを示す。
【0078】
フィブリンにおける膵島の機能性
MIN6細胞がフィブリン中で生存できたことを確認後、次いで膵島がフィブリン中で生存しかつ機能することも示された。フィブリン中での膵島の培養について、トランスウェルのセットアップを用いて評価した。トランスウェルのセットアップは、膵島を播種したフィブリンゲルを培地で取り囲む理想的な条件を提供する。30個のラット膵島を10 mg/mLのフィブリン内に封入し、トランスウェルインサート内で2日間培養した。これらの膵島の光学顕微鏡写真を
図7Aに示す。この2日間の培養中、膵島からのインスリン放出を検出するために、インスリンELISAを用いてインスリンレベルを決定した。このインスリン放出は
図7Bからわかり、スロープが23 pg/膵島/分の膵島放出インスリンを実証しており、これは文献記載の20 pg/膵島/分に近い(Buchwald, Theoretical Biology and Medical Modelling 2011; 8: 20)。このことは、膵島がフィブリンゲル内で成功裏に機能できることを示し、フィブリンコーティングを使用してBVP構築体を作製することの裏付けとなる。
【0079】
有限要素分析
最大限の膵島生存を可能にするための最適なBVP調製条件を決定するために、COMSOL Multiphysics(登録商標)クロスプラットフォーム有限要素分析シミュレーション・ソフトウェアを用いて有限要素分析を実施した。
図15Aに示すモデリングは、BVP構築体中の酸素拡散をシミュレートしている。模擬膵島、無細胞グラフト、およびハイドロゲルコーティングに拡散係数値を与えている。酸素はルーメンおよび間質空間から出て、無細胞グラフトおよびハイドロゲルコーティングを通って拡散して、酸素を消費する膵島に達しなくてはならない。このシミュレーションは、断面当たりさまざまな数の膵島、さまざまな膵島直径、およびさまざまなハイドロゲルコーティングの厚みを用いて、最高インスリン分泌時の膵島生存%および膵島面積%を評価するのに用いられた。
図15Bに示すシミュレーション結果は、膵島生存を可能にする0.071 mmHg酸素を上回る酸素レベルの膵島生存%、および何ら抑制のないインスリン分泌を可能にする2.13 mmHgの酸素を上回る酸素の最高インスリン分泌時の膵島面積を表している。断面当たりの膵島の数、膵島直径、およびハイドロゲルコーティングの厚みなどのパラメーターを変えて、それらの膵島の生存および機能性への影響を判定した。
【0080】
バイオリアクターのセットアップ
本BVPの発明が、外表面のハイドロゲル内に封入した細胞の生存を維持するのに好適な環境であることを証明するために、BVPのセットアップを用いた初期試験をバイオリアクター内で実施した。バイオリアクターは、植え込まれたBVPが経験するであろうインビボの環境を再現するように設計しかつ構築した。植え込まれたBVPは、ルーメンから高いグルコースおよび酸素を、そして周囲の間質空間からより低い酸素およびグルコースレベルを経験することになる。これをインビトロで再現するために、バイオリアクターを2つのリザーバーに分けた。450 mg/dLグルコースを含む最適化DMEMを含有し、空気フィルターが取り付けられたルーメンリザーバー。BVPの外側には、<20 mg/dLのグルコースを含むグルコースフリーのDMEMを含有している、空気フィルターのない、間質リザーバーがあった。BVP構築体をバイオリアクター内に縫い込むことができ、培地をルーメンリザーバーからBVPのルーメンを通って送出することができる。バイオリアクターの設計を
図8に示す。
【0081】
予備研究は、先述したように脱細胞化臍動脈の周りに10 mg/mLのフィブリンを用いてコーティングしたMIN6細胞を使用した。このMIN6 BVPを、バイオリアクター内で3日間37℃で培養した。バイオリアクターでの培養3日後の結果を
図9A~9Cに示す。ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色を用いて細胞を識別した。ヘマトキシリンは、細胞を識別するためにDNAおよび核を紺色に染色し、エオシンは、タンパク質をピンク色に染色する。細胞は脱細胞化血管の表面の周りをコーティングしたままであり、TUNEL染色は細胞の生存を実証した。これらのデータは、BVPが、脱細胞化血管の外表面に播種した細胞に、十分な酸素および栄養分を提供することを示唆している。
【0082】
静的インスリン産生
BVP内での膵島のインスリン産生を評価するために、
図16Aに示す実験パラメーターにしたがい、BVPをグルコース含有(グルコース(+))培地またはグルコースフリー(グルコース(-))培地のどちらかの皿に配置する。簡単に説明すると、BVPを、グルコース(+)培地を含有する皿に配置し、そして60分間15分おきに新鮮培地の入った新しい皿に移す。次いでBVPをグルコース(-)培地を含有する皿に移す。再びBVPを60分間15分おきに新鮮グルコース(-)培地を含有する新しい皿に移す。次いでBVPをグルコース(+)培地を含有する皿に戻す。再びBVPを60分間15分おきに新鮮グルコース(+)培地を含有する新しい皿に移す。実験中に各皿から回収した培地に対し、インスリンのELISA分析を実施した。膵島は、グルコース(+)培地の高グルコースレベルに曝露されると、インスリンを分泌する。膵島は、グルコース(-)培地で低グルコースレベルに曝露されると、インスリン産生を停止する。
図16Bに示す結果は、BVPがインスリン分泌によりグルコースに応答できることを示す、インスリンELISAの結果を明示している。
【0083】
インビボの植込み
まずはインビトロでのBVPの成功後、この構築体をインビボで試験した。インビボの研究では免疫不全Rowettヌード(RNU)ラットを使用した。5月齢のラットをCharles Riverから購入した。BVP構築体を生成するために、先述のように、脱細胞化ヒト臍動脈の外表面に、10 mg/mLフィブリン内約200個のブタ膵島を播種した。このBVP構築体を、動脈間置グラフトプロトコルを用いてヌードラットに植え込んだ。新たに植え込まれたBVPが、
図10Aからわかる。
【0084】
ラットはすぐに手術から回復し、24時間以内にすっかり活発になった。植込みから2週間後、BVP構築体を外植した。インビボで2週間の後のBVP構築体を
図10Bに示す。小さな微小血管がBVP構築体上に成長しており、このことは、植込片がフィブリンコーティング内への血管新生を促進したことを示す。この血管新生は、BVP表面にコーティングした膵島にさらなる栄養分を提供することができる。これが、本BVP技術と、半透膜を使用して周辺から膵島を隔てることに着目する他の膵島技術との根本的な違いである。本BVPはむしろ、血管グラフトのルーメンから拡散によって栄養分を提供し、続いて血管グラフトの外表面の膵島に接近してくる毛細血管の形成によってさらなる栄養分を膵島に与える。BVPグラフトは実験の間中、開通していた。
【0085】
2週間後、外植片を、組織切片化および免疫蛍光染色により分析した。外植片のH&E染色を
図11に示す。外植BVPのH&E切片中の膵島がわかる。
図12では、DAPI/インスリンの免疫蛍光染色を用いて膵島を識別し、TUNELを用いて膵島が生存したかどうかを決定した。
図13では、再びDAPI/インスリンの染色を用いて膵島を識別し、CD31の染色を用いて微小血管成長の存在を示す内皮細胞を識別した。染色の結果は、膵島がインビボの植込みを2週間生存できたことを実証しており、このことは膵島がこの期間インビボで生存を維持するのに十分な栄養分を受けていたことを直接証明している。CD31を用いた内皮細胞の染色は、脱細胞化血管を取り囲んでいるフィブリン構築体内への有望な微小血管の成長を実証し、植え込まれた膵島に近接する微小血管の形成により、植え込まれた膵島への栄養分の送達が改善されたことを示す。
【0086】
ヌードラットを用いたインビボの実験に加えて、ヌードラットをストレプトゾトシンで処置して糖尿病を誘導することにより、糖尿病ラットモデルを生成した。このモデルの妥当性を実証する
図17A~17Bに示す結果は、長期の低血糖状態が誘導されたこと、そして膵島が有効に破壊されたことを示す。
【0087】
次にこの糖尿病ラットを用いて、無細胞ヒト臍動脈グラフトにコーティングするフィブリンハイドロゲルに播種した1200個のラット膵島を用いて生成したBVP植込片のインビボの有効性を評価した。
図18Aに示すように、3つの手術モデルを用いた。第1のモデルでは、BVPルーメンがラット腹大動脈に接続されるようにBVPを植え込んだ。BVPは、1200個のラット膵島、無細胞ヒト臍動脈、およびフィブリンコーティングを用いて作製した。次いでレシピエントラットの腹大動脈にBVPをエンド・ツー・エンドグラフトとして縫い込んだ。第2のモデル、フローなし対照では、BVPを腹大動脈付近に植え込んだが、該BVPはエンド・ツー・エンドグラフトとしては縫合しなかった。代わりに腹大動脈付近に配置し、2針縫ってBVPを周囲組織に接続し固定した。このモデルは、BVPが機能するためにはBVPのルーメン内の流れが必要かどうかの実証に用いた。第3のモデル、偽手術シャムでは、フィブリンおよび無細胞ヒト臍動脈だけでBVPを生成してから、レシピエントラットの腹大動脈にエンド・ツー・エンドグラフトとして縫い込んだ。この対照には膵島を用いなかった。すべての移植を7日目に実施した。
図18Bに示す結果は、移植されたBVPは、BVPフローなし対照およびシャム対照と比べて、全90日を通してラットの血中グルコースを下げるのに役立つことができることを示す。
【0088】
BVPレシピエントのグルコース負荷試験
一晩絶食させたラットにグルコース負荷試験を実施した。ラットは、正常ヌードラット、糖尿病ヌードラット、またはBVP植込みを受けた糖尿病ヌードラットのいずれかであった。ゼロ時に、ラットにグルコース2 g/ラットkgのグルコースボーラスを腹腔内注射した。そして決められた時間間隔で尾の切れ目から血液を採取して、
図19Aに示すグルコース負荷試験グラフを生成した。異なる群間の比較を提供するために、曲線下面積分析を実施した(
図19Bに示す)。小さい曲線下面積は、ラットが血中グルコースレベルをすぐに回復できることを示し、より大きい曲線下面積は、ラットの血中グルコースがより長い間高止まりすることを示す。BVP植込片群は、糖尿病群よりも小さい曲線下面積を有するが、糖尿病を持たない対照ラットよりはやはり大きい。
【0089】
BVP異種グラフトにおけるインスリン産生
上記で生成し検証したラット同種グラフトBVPに加えて、無細胞ヒト臍動脈血管グラフトにコーティングするフィブリンハイドロゲル内に播種したヒト膵島を用いて、異種グラフトBVPを生成した。異種グラフトBVPは、1200個のヒト膵島を用いて構築し、
図20Aに示す糖尿病ラットに移植した。そして一定時間ごとの時点でラットの血漿を回収し、ヒトインスリンについて評価した。
図20Bに示す結果は、ヒト膵島BVPを移植した後、ラットの血漿中にヒトインスリンが検出されたことを示す。植え込まれたBVP異種グラフトの有効性を評価するために、異種グラフトレシピエントにグルコース負荷試験を実施した。
図20Cに示すグルコース負荷試験の結果は、ゼロ時に移植片レシピエントラットにグルコース注射した後のヒトインスリンレベルの増加を実証している。
【0090】
インビトロのバイオリアクターおよび予備的インビボ植込みの結果は、異所的膵臓を生成するBVPアプローチが、膵島移植の実行可能な設計となり得ることを実証している。この結果を土台として、移植する膵島の数を増やすための膵島収集率の改善が期待される。この新技術は、肝臓微小循環または皮下空間などの血管新生しにくい床からの拡散に頼ることなく豊富な栄養分および酸素を移植膵島に提供する、革新的な移植機構を活かすことができる。BVPの有効性を動物モデルで実証した後、BVP構築体は、直径6 mm、長さ42 cmの工学脱細胞化動静脈グラフトを用いて作製されるであろう。こうした工学血管は、膵島コーティングに利用可能な82 cm2の大きな表面積を有し、およそ1~2リットル/分の血液がルーメンを流れるのを可能にする(Lawson, J.H, et al. Lancet 2016; 387(10032):2026-34)。このBVP技術は、I型糖尿病患者に独自の血管工学ソリューションを提供するものである。
【0091】
本発明の好ましい態様を具体的な用語を用いて記載してきたが、そのような記載は説明目的のみであり、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく変化形態または変更形態の実施が可能であることを理解されたい。
【0092】
本明細書で引用したあらゆるすべての特許、特許出願、および特許公開の開示は、その全文が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、具体的な態様を参照して開示してきたが、本発明の他の態様および変更形態は、本発明の真の趣旨および範囲から逸脱することなく当業者によって考案されることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、そのような態様および等価の変更形態のすべてを含むと解釈するものとする。