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特許7418399高温における強酸性条件でのセラミック膜によるDIOPAT懸濁液からのAl塩、HCl、NaCl及び有機副生成物の除去
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】高温における強酸性条件でのセラミック膜によるDIOPAT懸濁液からのAl塩、HCl、NaCl及び有機副生成物の除去
(51)【国際特許分類】
   C07D 251/24 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
C07D251/24
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021503025
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-11
(86)【国際出願番号】 EP2019069390
(87)【国際公開番号】W WO2020016366
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】18184692.4
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】マリスツ,ジャセク
(72)【発明者】
【氏名】ミューラー,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ナーゲル,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ランツィンガー,ドミニク
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/184764(WO,A1)
【文献】特開2013-176376(JP,A)
【文献】特表2011-505151(JP,A)
【文献】特表2007-524687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;
(ii)2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン; 及び
(iii)アルミニウム塩
を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法であって、該方法は、
a)混合物MをpH<1に酸性化することによって2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ;
b)酸性化した混合物Mを80℃~95℃の範囲の温度に加熱するステップ;
c)水を用いたダイアフィルトレーションによって、セラミック膜を用いて、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩から沈殿した2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップであって、pHは<1から最大3に増加し、温度は80℃~95℃の範囲に留まる、ステップ
を含み、分離ステップc)は、沈殿した2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを、保持液における水性懸濁液の形態で提供し、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩を、透過液における水溶液の形態で提供
セラミック膜が、TiO 2 、ZrO 2 、又はAl 2 O 3 膜である、方法。
【請求項2】
ステップa)における酸性化が、塩化水素を用いて実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
セラミック膜が、Al2O3 膜である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
セラミック膜が、20~500nmの範囲の孔径を有する、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項5】
セラミック膜が、α-Al2O3膜である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
セラミック膜が、0.5~1.5mの長さ、及び3~8mmのチャネル径を有するマルチチャネル要素の形態で提供される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
供給圧力が1.0~4barであり、クロスフローが2~5m/sである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
分離ステップc)が、保持液における懸濁液を水で連続的に洗浄し、透過液を除去することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
洗浄水の量が、保持液における懸濁液の量の少なくとも3倍多い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
洗浄水が、使用前に加熱される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
保持液の濃縮係数が、2.5未満である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
d)6~8のpHを得るようにステップc)で得られた保持液の水性懸濁液を中和し、場合により水性懸濁液を同時に濃縮するステップ
をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップd)における中和が、水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムを用いて実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
e)中和された水性懸濁液を水で場合により洗浄した後、ステップd)で得られた中和された水性懸濁液を濾過によって濃縮するステップ
をさらに含む、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
f)ステップe)で得られた濃縮物を乾燥させるステップ
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、及びアルミニウム塩を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離するための改善された方法であって、混合物MをpH<1に酸性化することによってDIOPATを沈殿させるステップ; 酸性化した混合物Mを80℃~95℃の範囲の温度に加熱するステップ; 及びダイアフィルトレーションによってセラミック膜を用いて、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩から沈殿したDIOPATを分離するステップを含む、方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)は、以下の化学式を有するUV吸収剤Tinosorb(登録商標)S(2,2'-[6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル]ビス{5-[(2-エチルヘキシル)オキシ]フェノール}、アニソトリアジン、ビス-エチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、又はベモトリジノールとしても知られている; CAS番号187393-00-6)の調製のための出発材料である。
【0003】
【化1】
【0004】
Tinosorb(登録商標)Sは、広帯域UV吸収剤であり、UVA線に加えてUVB線を吸収する。したがって、Tinosorb(登録商標)Sは、日焼け止め組成物及び化粧品適用に重要な成分である。
【0005】
DIOPATへの1つの可能な合成経路は、2つのステップにより実施され、グリニャール(Grignard)条件下で4-ブロモアニソール及び塩化シアヌルから出発して中間体DICATを形成させる。2番目の合成ステップでは、DICATを、フリーデル・クラフツ(Friedel-Crafts)反応でレゾルシノールと反応させて、DIOPATを形成させる。以下では、4-ブロモアニソール及び塩化シアヌルから出発するDIOPATへの合成経路が示され、パラメーターa)Mg、THF、65℃; b)塩化シアヌル、THF、0~5℃; 及びc)レゾルシノール、トルエン/ベンゾニトリル、45℃、AlCl3が典型的には適用される。
【0006】
【化2】
【0007】
Tinosorb(登録商標)Sへの合成を完了するために、3番目のステップである塩化イソオクチルを用いたDIOPATのアルキル化が実施される。以下では、Tinosorb(登録商標)Sへの反応が示され、パラメーターa)塩化イソオクチル、塩基、DMF、143℃が典型的には適用される。
【0008】
【化3】
【0009】
DIOPATの調製に関連して、後処理手順及びDIOPATの単離は困難を引き起こす。
【0010】
典型的には、DIOPATを含む反応混合物を、事前に充填された水酸化ナトリウム溶液でクエンチする。次いで、フリーデル・クラフツ反応からの生成物DIOPAT及びアルミニウム塩(Al塩)を、アルカリ性水酸化ナトリウム水溶液に溶解する。有機反応溶媒(例えば、トルエンとベンゾニトリルの混合物)を、相分離によって分離する。有機溶媒を含まない水相を保証するために、残留有機溶媒を取り除いてもよい。次いで、混合物を酸性化することによって、アルカリ性DIOPAT/Al塩溶液からDIOPATを沈殿させる。低pHが確立された場合(pH<1)、DIOPATは固体として沈殿するが、Al塩は依然として水相に溶解している。
【0011】
しかし、Al塩溶液から沈殿したDIOPATを分離するための、フィルタープレスの使用などの標準的な濾過プロセスは欠点を有する。特に、濾過プロセスは、手動で時間のかかるオープンプロセスであり、これは経済的に魅力がなく、工業規模で安全性の問題を引き起こす。さらに、DIOPATは、DIOPAT調製の副生成物である、望ましくない有機不純物2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(2,4-DHBP)と一緒に得られる。Tinosorb(登録商標)Sへの最終反応ステップに使用される、DIOPAT中の2,4-DHBPの望ましくない副生成物の不純物は、高価な反応物である塩化イソオクチルの消費を増加させ、望ましくない副生成物をもたらし、したがって、製造コストを増加させる。
【0012】
DIOPATからのAl塩の分離の改善は困難である。水相と有機相との間に完全な混和性ギャップを有する有機溶媒へのDIOPATの溶解度が低いため、相分離によるDIOPATからのAl塩の分離は適切ではない。一方、酸性AlCl3/DIOPAT懸濁液の腐食作用のため、金属材料がこれらの懸濁液と接触するほとんどの濾過装置は適切ではない。しかし、AlCl3を用いたフリーデル・クラフツ反応で得られるAl塩及び有機副生成物は、最終的なTinosorb(登録商標)Sへの次に続く反応には不利であり、DIOPATから分離する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、DIOPATを調製するためのフリーデル・クラフツ反応の反応混合物をクエンチし、有機溶媒を除去した後に得られるDIOPAT/Al塩溶液からDIOPATを単離するための改善された方法を提供することであった。
【0014】
本発明のさらなる目的は、手動で時間のかかるオープン濾過プロセスを回避する、DIOPATを単離する方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、アルミニウム塩だけでなく有機副生成物も同時にDIOPATから分離される、DIOPATを単離するための改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くべきことに、これらの目的の少なくとも1つは、
(i)2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;
(ii)2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン; 及び
(iii)アルミニウム塩
を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法であって、該方法は、
a)混合物MをpH<1に酸性化することによって2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ;
b)酸性化した混合物Mを80℃~95℃の範囲の温度に加熱するステップ;
c)水を用いたダイアフィルトレーションによって、セラミック膜を用いて、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩から沈殿した2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップであって、pHは<1から最大3に増加し、温度は80℃~95℃の範囲に留まる、ステップ
を含み、分離ステップc)は、沈殿した2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを、保持液における水性懸濁液の形態で提供し、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩を、透過液における水溶液の形態で提供する、方法によって達成できることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上に示されるように、本発明の方法の主な目的は、DIOPATを含む混合物M(フリーデル・クラフツ反応、クエンチング、及び有機相の除去後に得られる)からのAl塩の除去である。この目的は、手動のステップを必要としない閉鎖系を使用することができるため、本発明のダイアフィルトレーションプロセスによって有利な方法で達成することができる。さらに、副生成物2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンもまた、本発明のダイアフィルトレーションプロセスによってDIOPATから分離できることが見出された。この点について、2,4-ジヒドロベンゾフェノンを溶解状態で保つために、80℃~95℃の範囲の高温が有利である。さらに、ダイアフィルトレーションプロセスで分離されるべき懸濁液の酸性pH値(これはDIOPATを沈殿形態で保つために必要であるが)による腐食の問題を回避するために、セラミック膜は特に有利であることが見出された。
【0018】
本発明の好ましい実施形態は、特許請求の範囲、説明及び実施例に見出すことができる。本発明の主題の上記の特徴及び以下にさらに説明される特徴は、それぞれの所与の組み合わせだけでなく、本発明の範囲を離れることなく他の組み合わせにおいても好ましいことが理解されるべきである。
【0019】
本発明の例示的な実施形態を詳細に説明する前に、本発明を理解するために重要な定義を示す。
【0020】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、「1つの(a)」及び「1つの(an)」の単数形はまた、文脈が明らかに他に指示しない限り、それぞれの複数形を含む。本発明の文脈において、用語「約」又は「およそ」(おおよそ)は、当業者が問題になっている特徴の技術的効果を依然として確実にするために理解する正確さの区間を示す。この用語は、典型的には、示された数値からの±20%、好ましくは±15%、より好ましくは±10%、さらにより好ましくは±5%の偏差を示す。用語「含む」は、限定的ではないことが理解されるべきである。本発明の目的のために、用語「~からなる」は、用語「含む」の好ましい実施形態であると見なされる。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「水性アルカリ性混合物M」は、本明細書で定義される成分(i)、(ii)、及び(iii)を含む混合物を指し、これは典型的には、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、DIOPAT、すなわち成分(i)を調製するためのフリーデル・クラフツ反応混合物をクエンチし、有機相を除去した後に得られる。水性アルカリ性混合物MのpHは、好ましくは10~15、より好ましくは12~14の範囲である。
【0022】
本明細書で使用される場合、「2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」(DIOPAT)は、上に説明されるように、Tinosorb(登録商標)Sの調製のための前駆体であるため、本発明の方法における目的の化合物である。2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンは、その調製の副生成物である。本明細書で使用される場合、用語「アルミニウム塩」(Al塩)は、三塩化アルミニウム及び/又は水酸化アルミニウムを含むアルミニウム塩を指す。フリーデル・クラフツ反応に三塩化アルミニウムが必要であるため、これらのアルミニウム塩は、DIOPATの調製において得られる。
【0023】
水性アルカリ性混合物Mはまた、さらなる成分、例えば、塩化ナトリウム(三塩化アルミニウムと水酸化ナトリウムとの反応の結果として)、及び水酸化ナトリウムを含み得ることが理解されるべきである。さらに、酸化ナトリウムアルミニウム(NaAlO2)が形成され、したがって、水性アルカリ性混合物M中に存在し得る。さらに、DIOPATへの変換が不完全であるか、又は過剰のDICAT若しくはレゾルシノールが使用された場合、出発材料DICAT及びレゾルシノールの残留量が存在し得る。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「酸性化した混合物M」は、酸性化後に水性アルカリ性混合物Mから得られる、本明細書で定義される成分(i)、(ii)、及び(iii)を含む混合物を指す。酸性化した混合物Mは、中和反応からの一定量の塩、好ましくは塩化ナトリウムをさらに含む。中和反応により得られる塩の好ましい量は、酸性化した混合物Mの総重量に基づいて、5重量%~15重量%の範囲である。さらに、水酸化ナトリウムなどの塩基の代わりに、酸、好ましくは塩化水素が存在する。酸性化した混合物MのpHは、好ましくは<1である。
【0025】
本明細書で使用される場合、用語「酸性化する」は、酸の添加を指す。好ましい酸としては、強無機酸、例えば硫酸又は塩酸が挙げられる。好ましくは、本発明の方法のステップa)における「酸性化する」は、塩酸、特に塩化水素水溶液を用いて実施される。塩化水素溶液の好ましい濃度は、20~37%の範囲、好ましくは36~37%の範囲である。酸性化ステップa)の結果として、塩化ナトリウムは、水酸化ナトリウムと塩化水素との反応によって形成されてもよい。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「pH<1」は、1未満のpHを指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「沈殿させる」は、化合物の固体形成を指す。本発明によれば、混合物MをpH<1に酸性化し、それによりDIOPATの溶解度が著しく低下することによって、DIOPATを混合物Mから沈殿させ、その結果、懸濁液が形成される。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「ダイアフィルトレーション」(DF)は、沈殿した化合物を含む懸濁液が、溶解した成分(それらのサイズの点で膜透過性である)から分離されるプロセスを指す。膜を通過しない懸濁液は「保持液」と呼ばれ、膜を通過する、溶解した成分を含む溶液は「透過液」と呼ばれる。ダイアフィルトレーションの間、懸濁液は、好ましくは、供給容器から膜に連続的にポンプで送られ、そこから供給容器に連続的にポンプで戻される。典型的には、ダイアフィルトレーションは連続プロセスとして実施され、追加の溶媒が保持液に連続的に添加され、透過液が連続的に除去される。これにより、保持液中の沈殿した化合物が洗浄される。好ましくは、ダイアフィルトレーションステップc)は、3~6、好ましくは4~5、より好ましくは4.5の洗浄係数で水で洗浄することを含み、用語「洗浄係数」(「ダイアフィルトレーション係数」としても知られる)は、ステップc)で使用される懸濁液に対する水(ダイアフィルトレーション溶媒とも呼ばれる)の量を指す。
【0029】
本明細書で使用される場合、本発明の方法のステップc)の文脈における「pHは<1から最大3に増加する」という表現は、追加の溶媒、この場合では好ましくは水を用いてHCl又は他の酸を除去することに起因して、ダイアフィルトレーションステップ中にpHが増加し得ることを意味する。追加の溶媒の量は、適宜選択される。例えば、4.5の洗浄係数は、2~3、好ましくは2.3~2.8の範囲のpHをもたらす。酸性pH値のために、沈殿したDIOPATの溶解、及びそれによる単離されたDIOPATの量の減少を回避することができる。当然のことながら、pHは必ずしも上に示された値まで増加するわけではないことが理解されるべきである。より少ないダイアフィルトレーション溶媒が使用される場合、pHもあまり増加しない可能性がある。さらに、追加の溶媒が時間とともに連続プロセスで添加されると、pH値は、ダイアフィルトレーション溶媒の量の増加とともにゆっくりと増加するにすぎない。
【0030】
本明細書で使用される場合、本発明の方法のステップc)の文脈における「温度は80℃~95℃の範囲に留まる」という表現は、ダイアフィルトレーションステップに供される混合物の温度、特に保持液の温度が、例えば、加熱装置を使用することによって、又は予熱された洗浄水を添加することによって、80℃~95℃の温度に保たれることを意味する。2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンを溶解状態で保ち、その結果、この副生成物を、ダイアフィルトレーションステップによってさらに除去することができるように、温度はこの高い範囲に留まることが重要である。方法のステップc)が実施されるとき、温度は80℃~95℃の範囲内で変化し得ることが理解されるべきである。好ましくは、温度は、ステップc)のダイアフィルトレーションの開始時に85℃~95℃の範囲であり、次いで、温度は、例えば、80℃~90℃の範囲の温度で提供される追加の溶媒による希釈に起因して、時間とともに80℃~90℃の範囲まで低下する。したがって、追加の溶媒の連続的な添加下でダイアフィルトレーションステップが実施された場合、温度は、80℃~90℃の範囲であってもよい。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「濃縮係数」は、沈殿した化合物及び溶解した成分を含む懸濁液の出発体積と、溶解した成分及び溶媒の一部(透過液)がダイアフィルトレーションプロセス中に除去された後の、沈殿した化合物を含む懸濁液(保持液)の最終体積との比を指す。保持液に連続的に添加される同量の追加の溶媒は、透過液を除去することによって系から連続的に除去されるため、保持液に連続的に添加し得る追加の溶媒の濃縮係数は、濃縮係数に影響を及ぼさないことが理解されるべきである。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「懸濁液」は、溶媒及び沈殿物を含む不均質な混合物を示す。ダイアフィルトレーションプロセスについて、沈殿物の粒子は、膜の孔径よりも大きくなければならない。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「溶解」は、溶媒及び溶解した成分、例えば塩のイオンを含む均質な混合物を示す。ダイアフィルトレーションプロセスでは、溶解した成分は、膜を通過できるほど十分に小さくなければならない。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「供給DIOPAT懸濁液」は、本発明による方法のステップa)及びb)の後に得られるDIOPATを含む懸濁液を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「サイクル時間」は、ステップa)、ステップb)、ステップc)、場合によりステップd)、場合によりステップe)、及び場合によりステップf)を含む、本発明によるDIOPATを単離する方法の1サイクルを完了するのに必要な期間を指す。
【0036】
本発明の方法に関する好ましい実施形態を、本明細書中、以下に説明する。
【0037】
上に既に示したように、本発明は、2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、及びアルミニウム塩を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法であって、該方法は、混合物MをpH<1に酸性化することによってDIOPATを沈殿させるステップ; 酸性化した混合物Mを80℃~95℃の範囲の温度に加熱するステップ; 及びダイアフィルトレーションによってセラミック膜を用いて、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩から沈殿したDIOPATを分離するステップであって、pHは<1から最大3に増加し、温度は80℃~95℃の範囲に留まる、ステップを含む、方法に関する。
【0038】
本発明による方法のステップa)において、1未満のpHへの酸性化は、任意の適切な有機酸又は無機酸によって実施してもよい。好ましいのは、無機酸、例えば、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、又は硝酸である。特に、塩化水素が使用される。好ましくは、酸は水溶液の形態である。
【0039】
ステップa)は、混合物Mを酸、好ましくは酸性溶液に添加することによって、又は酸、好ましくは酸性溶液を混合物Mに添加することによって実施してもよい。好ましくは、ステップa)は、混合物Mを酸性水溶液に添加することによって、又は酸性水溶液を混合物Mに添加することによって実施される。
【0040】
一実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、ステップa)における酸性化が、塩化水素を用いて、好ましくは混合物Mを塩化水素水溶液に添加することによって実施される、方法に関する。
【0041】
DIOPATを沈殿形態で、及びAlを溶解形態で保つために、低pH値が必要である。したがって、DIOPAT懸濁液は、ステップa)の後に酸性化した混合物Mとして得られ、これは、沈殿形態のDIOPATを含み、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン(2,4-DHBP)及びアルミニウム塩をさらに含む。さらに、アルカリ性水性混合物Mが水酸化ナトリウムを含有し、塩化水素が混合物Mの酸性化に使用された場合、懸濁液は、中和生成物として塩化ナトリウムを含む。典型的な水酸化ナトリウム濃度は、酸性化した混合物Mの総重量に基づいて5~15重量%の範囲である。
【0042】
本発明による方法のステップb)において、ステップa)で得られた酸性化した混合物Mは、80℃~95℃の範囲の温度に加熱される。これは、適切な加熱装置によって行ってもよい。好ましくは、酸性化した混合物Mは、85℃~95℃、より好ましくは88℃~93℃の範囲の温度、特に約90℃に加熱される。
【0043】
高温は、2,4-DHBPを溶解形態で提供するのに有利である。
【0044】
したがって、分離ステップc)は、高温及び低pH値で実施される。これにより、ダイアフィルトレーションに使用されるべき可能な材料が制限される。特に、80℃~95℃の高温、5重量%~15重量%の高いNaCl負荷、及びDIOPAT懸濁液の酸性条件(pH<1)により、DIOPAT懸濁液は、鋼に対して非常に腐食性がある。
【0045】
本発明によれば、任意の適切なセラミック膜を適用してもよい。それに関して、適切なセラミック膜は、少なくとも、i)腐食が起こらない、ii)膜が、溶解した成分、特に塩化ナトリウム、三塩化アルミニウムに対して、及びまた有機副生成物、例えば2,4-DHBPに対して透過性である、iii)膜が1未満のpHに耐性を有する、及びiv)膜が80~95℃の温度での適用に適しているという基準を満たす必要がある。
【0046】
適切なセラミック膜材料は、TiO2、ZrO2、又はAl2O3からなる群から選択される。最も好ましいセラミック膜材料は、Al2O3である。
【0047】
したがって、一実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、セラミック膜が、TiO2、ZrO2、又はAl2O3膜、好ましくはα-Al2O3膜である、方法に関する。
【0048】
本発明によるセラミック膜は、10~800nm、好ましくは20~500nm、より好ましくは30~400nm、さらにより好ましくは40~200nm、特に好ましくは50~100nmの範囲の孔径を有してもよい。好ましくは、セラミック膜の孔径は、米国材料試験協会(American Society for Testing and Materials Standard、ASMT)方法F316に記載されるバブル試験によって決定される平均孔径として提供される。あるいは、セラミック膜の孔径は、分子量カットオフによって定義されてもよく、これは、好ましくは、1kD~150kDの範囲である。
【0049】
本発明の方法の好ましい実施形態では、セラミック膜は、20~500nm、好ましくは50~100nmの範囲の孔径を有する。
【0050】
セラミック膜は、管状、マルチチャネル又はモノリシック要素の形態で提供してもよく、マルチチャネル要素が好ましい。典型的には、セラミック材料は、例えば、マクロ多孔性支持体及びミクロ多孔性上層(保持液に向けられた)を提供するために、より大きな孔径からより小さな孔径までの範囲の孔径を有する多層構造を有する。
【0051】
例えば、ダイアフィルトレーションステップに関連する値として50nmの孔径を有するセラミック膜は、400nm、200nm、及び50nmの孔径を有する膜層を含んでもよく、より小さな孔径は、保持液側にある。濾過特性に関するセラミック膜の特徴付けについて、透過液に向けられた最小の孔径が適切である。
【0052】
好ましい実施形態では、セラミック膜は、400/200/50nmの膜層を有する、50nmの孔径を有するα-Al2O3膜である。
【0053】
本発明の一実施形態では、セラミック膜は管状セラミック膜であり、それを通って保持液が流れ、一方、透過液流は、セラミック膜を通って横方向に管状セラミック膜を出る。
【0054】
本発明の別の実施形態では、セラミック膜は、セラミック膜材料内のいくつかのチャネル、例えば7~211個のチャネル、好ましくは7~37個のチャネルを含むマルチチャネル要素であり、保持液はチャネルを通って流れ、一方、透過液流は、セラミック膜を通って横方向にマルチチャネル要素を出る。本発明の特定の実施形態では、適切なマルチチャネル要素は、7、19、37、61、85、又は211個のチャネル、好ましくは7又は19個のチャネルを含む。
【0055】
マルチチャネル要素の長さは、好ましくは、0.5~2m、好ましくは0.5~1.5m、より好ましくは1.0~1.5mの範囲である。
【0056】
マルチチャネル要素のチャネルの内径は、好ましくは2~8mmの範囲である。マルチチャネル要素の全体の径は、好ましくは、25~80mm、好ましくは25~41mmの範囲、より好ましくは25.4又は41mmである。
【0057】
したがって、本発明の好ましい実施形態では、セラミック膜は、0.5~1.5mの長さ、及び3~8mm、好ましくは6mmのチャネル内径を有するマルチチャネル要素の形態で提供され、マルチチャネル要素は、好ましくは7~19個のチャネルを含む。特に好ましいのは、1.0~1.5mの長さ、6mmのチャネル内径を有するマルチチャネル要素であり、マルチチャネル要素は、好ましくは7又は19個のチャネルを含む。その場合、全体の径は、好ましくは25又は41mmである。
【0058】
要素あたりのフィルター表面は、要素の長さ、チャネル内径、及びチャネル数から計算することができる。特定の実施形態では、要素あたりのフィルター表面は、0.02~3m2、好ましくは0.02~2m2、より好ましくは0.05~1.5m2、特に0.1~0.6m2である。
【0059】
本発明によれば、単一チャネル要素は、例えば、1/6又は1/16の形状を有してもよい。それに関して、1/6の形状は、要素が1つのチャネル及び6mmのチャネル内径を有することを示す。したがって、1/16の形状は、要素が1つのチャネル及び16mmの内径を有することを示す。
【0060】
本発明によれば、マルチチャネル要素は、例えば、7/6(すなわち、要素は、7個のチャネル及び6mmのチャネル内径を有する)、19/3.3、37/2、19/4、19/6、37/3.8、61/2.5、19/8、85/3.3、又は211/2の形状を有してもよい。1つの好ましい実施形態では、マルチチャネル要素は、7/6又は19/6の形状、及び1.2~1.5mの長さを有する。特に好ましいのは、19/6の形状及び1.5mの長さを有するマルチチャネル要素である。
【0061】
一実施形態では、本発明による方法のダイアフィルトレーションステップは、0.5~5bar、好ましくは1.0~3.5bar、より好ましくは1.5~3.0barの供給圧力で実施される。これに関連して、用語「供給圧力」は、供給DIOPAT懸濁液、すなわちステップb)で得られる加熱された酸性化した混合物Mが、ダイアフィルトレーションステップを実施するために提供される圧力、すなわち、ダイアフィルトレーションによって、溶解した2,4-DHBP及び溶解したアルミニウム塩から沈殿したDIOPATを分離するために、供給DIOPAT懸濁液が、セラミック膜要素を通過する圧力を指す。
【0062】
一実施形態では、本発明による方法のダイアフィルトレーションステップは、1.5~5m/s、好ましくは2~5m/s、より好ましくは2.5~4m/s、特に3~4m/sのクロスフローで実施される。
【0063】
一実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、ダイアフィルトレーションステップにおいて、供給圧力が1.0~3.5barであり、クロスフローが2~5m/sである、方法に関する。
【0064】
本発明の方法のステップc)で得られるDIOPATの純度は、ダイアフィルトレーションステップの保持液における懸濁液を水で洗浄することによって増加させてもよい。好ましくは、洗浄水は、保持液側のダイアフィルトレーションシステムに連続的に導入され、一方、透過液は連続的に除去される。水による希釈のため、保持液におけるpH値は、時間とともに増加し得る。しかし、水の量は、pH値が最大3、好ましくは最大2.5の値に増加するように適合される。さらに、温度が80℃~95℃の範囲に留まることを保証するために、洗浄水を予熱することが必要であるが、時間とともにこの範囲内でわずかに低下することは許容され、例えば1時間後に、ステップc)における温度は80℃~90℃に低下し得る。
【0065】
したがって、好ましい実施形態では、分離ステップc)は、保持液における懸濁液を水で連続的に洗浄し、透過液を除去することを含み、それにより、pHは<1から最大3にゆっくりと増加し、温度は80~95℃の範囲に留まる。好ましくは、保持液及び透過液の全体積は、保持液に導入される洗浄水の体積と同じ体積の透過液を除去することによって、一定に保たれる。
【0066】
洗浄プロセス中、DIOPAT濃度は一定のままである。Al塩及び有機副生成物を分離するために、DIOPAT懸濁液は、供給容器からセラミック膜要素にポンプで送られ、そこから供給容器にポンプで戻される。セラミック膜では、溶解した成分(Al塩及び一部の有機成分、例えば2,4-DHBP)が膜を通過する。DIOPAT粒子は懸濁液中に留まり、供給容器に戻る。膜を通過する溶解した成分(例えば、Al塩及び有機成分、例えば2,4-DHBP)を有する水相は透過液と呼ばれ、供給容器に戻る、DIOPATを含む懸濁液は保持液と呼ばれる。透過液は、好ましくは廃水処理プラントに送られる。したがって、プロセスは、好ましくはバッチプロセスとして実施してもよい。あるいは、プロセスは、連続プロセスとして実施してもよい。これは、限外濾過ユニットが、直列に接続された3又は4個の濾過ループを含むことを必要とするであろう。次いで、ダイアフィルトレーション水を、各濾過ループに添加する必要がある。
【0067】
供給DIOPAT懸濁液は、例えば2の洗浄係数で洗浄してもよく、これは、DIOPAT懸濁液を洗浄するために使用される水の量が、DIOPAT懸濁液量の2倍に等しいことを意味する。洗浄係数が高いほど、保持液中のAl塩濃度は低くなり、2,4-DHBP濃度は低くなる。
【0068】
3の洗浄係数、より好ましくは4又は5の洗浄係数で洗浄することが好ましい。
【0069】
1つの好ましい実施形態では、洗浄水の量は、保持液における懸濁液の量の少なくとも3倍多い。別の好ましい実施形態では、洗浄水の量は、保持液における懸濁液の量の最大6倍多い。
【0070】
洗浄プロセス全体の間、保持液の温度を80℃~95℃に保つために、外部熱交換器によって洗浄水を予熱することが好ましい可能性がある。あるいは、直接蒸気注入によって使用前に洗浄水を加熱してもよい。
【0071】
したがって、一実施形態では、洗浄水は、使用前に、好ましくは外部熱交換器又は直接蒸気注入によって加熱される。
【0072】
透過液が分離されるため、ダイアフィルトレーションステップc)は、供給DIOPAT懸濁液をある程度濃縮することにもなる。その場合、保持液の体積は、上に示されるように水で洗浄する間、一定に保たれる。濃縮係数は、供給DIOPAT懸濁液の体積と、沈殿したDIOPATを含む保持液の体積との比を定義する。
【0073】
一実施形態では、保持液の濃縮係数は、2.5未満、好ましくは1.9未満、より好ましくは1.8未満である。別の実施形態では、保持液の濃縮係数は、1.4~2、好ましくは1.5~1.9、より好ましくは1.6~1.8の範囲である。
【0074】
一実施形態では、保持液の濃縮係数は、2.5未満、好ましくは1.6~1.8である。
【0075】
一実施形態では、上に定義されるように、洗浄係数とも呼ばれる総ダイアフィルトレーション係数は、6未満、好ましくは5未満である。別の実施形態では、総ダイアフィルトレーション係数は、2~7、好ましくは3~6、特に3.5~5.5の範囲、例えば4.5である。
【0076】
要約すると、ステップa)、b)、及びc)を含む本発明の方法は、ダイアフィルトレーションの保持液における水性懸濁液の形態で、沈殿形態のDIOPATを提供する。得られたDIOPATの水性懸濁液は、アルカリ性混合物Mと比較して濃縮される。さらに、2,4-DIOPAT及びアルミニウム塩、並びに、例えば混合物Mの酸性化中に形成される、追加の塩は、水性DIOPAT懸濁液から透過液として分離されている。
【0077】
一実施形態では、ステップc)の後のDIOPAT懸濁液中のAl塩の量は、ステップc)の後のDIOPAT懸濁液の総重量に基づいて、約0.02重量%未満、好ましくは約0.015重量%未満、より好ましくは約0.01重量%未満、特に約0.008重量%未満である。
【0078】
一実施形態では、ステップc)の後のDIOPAT懸濁液中の2,4-DHBPの量は、ステップc)の後のDIOPAT懸濁液の総重量に基づいて、約0.3重量%未満、好ましくは約0.2重量%未満、より好ましくは約0.15重量%未満、特に約0.1重量%未満である。
【0079】
一実施形態では、ステップc)の後のDIOPAT懸濁液中のDIOPATの量は、ステップc)の後のDIOPAT懸濁液の総重量に基づいて、少なくとも約1.5重量%、好ましくは少なくとも約2重量%、より好ましくは少なくとも約3重量%、特に少なくとも約4重量%である。
【0080】
別の実施形態では、DIOPAT懸濁液中のレゾルシノールの量は、ステップc)の後、供給DIOPAT懸濁液中のレゾルシノールの量と比較して、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%低減する。
【0081】
一実施形態では、DIOPAT懸濁液中の安息香酸の量は、ステップc)の後、供給DIOPAT懸濁液中の安息香酸の量と比較して、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%低減する。
【0082】
一実施形態では、DIOPAT懸濁液中の2,4-DHBPの量は、ステップc)の後、供給DIOPAT懸濁液中の2,4-DHBPの量と比較して、少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%低減する。
【0083】
一実施形態では、DIOPAT懸濁液中のAl塩の量は、ステップc)の後、供給DIOPAT懸濁液中のAl塩の量と比較して、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%低減する。
【0084】
一実施形態では、DIOPAT懸濁液中のNaClの量は、ステップc)の後、供給DIOPAT懸濁液中のNaClの量と比較して、少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%低減する。
【0085】
本発明の方法は、保持液のDIOPATを含む得られた水性懸濁液を中和及び濃縮することをさらに含んでもよい。このステップはまた、ステップc)の一部であってもよいことが理解されるべきである。
【0086】
一実施形態では、本発明による方法は、保持液の水性懸濁液を中和するステップをさらに含む。それに関して、懸濁液は、好ましくは5~9、より好ましくは6~8、特に約7のpHを得るように中和される。
【0087】
ステップd)の中和の直後に、DIOPAT懸濁液は、それぞれの場合にDIOPAT懸濁液の総重量に基づいて、約1%~約10%、好ましくは約2%~約8%、より好ましくは約3%~約6%、特に約5%~約6%の範囲の固形分を有する。
【0088】
場合により、保持液の水性懸濁液は、中和する間、好ましくは5~9、より好ましくは6~8、特に約7のpHを得るように保持液の水性懸濁液を中和する間、同時に濃縮してもよい。あるいは、保持液の水性懸濁液は、中和した後、好ましくは5~9、より好ましくは6~8、特に約7のpHを得るように保持液の水性懸濁液を中和した後に濃縮してもよい。
【0089】
ステップd)における中和は、当技術分野で公知の任意の適切な塩基によって実施してもよい。塩基は、無機塩基又は有機塩基、好ましくは無機塩基、より好ましくは水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウム、特に水酸化ナトリウムであってもよい。
【0090】
一実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、d)6~8のpHを得るようにステップc)で得られた保持液の水性懸濁液を中和し、場合により水性懸濁液を同時に濃縮するステップをさらに含む、方法に関する。
【0091】
一実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、ステップd)における中和が、水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウム、好ましくは水酸化ナトリウムを用いて実施される、方法に関する。
【0092】
一実施形態では、本発明による方法は、ステップd)で得られた水性懸濁液の濃縮ステップe)をさらに含み、これは、脱水プロセスとも呼ばれる。濃縮は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、蒸発又は濾過、好ましくは濾過によって実施してもよい。濾過による濃縮に関しては、ダイノフィルター(Dyno Filter)(Bokela)などの任意の公知のフィルターを使用してもよい。
【0093】
濃縮ステップe)は、中和された水性懸濁液を水で洗浄した後に実施してもよい。あるいは、濃縮ステップe)は、中和された水性懸濁液を水で事前に洗浄することなく実施してもよい。1つの好ましい実施形態では、濃縮ステップe)は、中和された水性懸濁液を水で洗浄した後に実施される。
【0094】
一般に、濃縮により、水性懸濁液中の固形分は、それぞれの場合にDIOPAT懸濁液の総重量に基づいて、約2%~約8%から約10%~約25%まで、好ましくは約3%~約6%から約12%~約20%まで、より好ましくは約4%~約5%から約15%~約16%まで増加する。
【0095】
一実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、e)中和された水性懸濁液を水で場合により洗浄した後、中和された水性懸濁液を濾過によって濃縮するステップをさらに含む、方法に関する。
【0096】
一実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、f)ステップe)で得られた濃縮物を乾燥させるステップをさらに含む、方法に関する。
【0097】
乾燥は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、噴霧乾燥、蒸発、空気乾燥、真空下、濾過、遠心分離、凍結乾燥、又はそれらの混合、好ましくは噴霧乾燥によって実施してもよい。適切な噴霧乾燥機は、ジェット又はディスク噴霧乾燥機である。
【0098】
一実施形態では、乾燥DIOPAT塊中のAl塩の量は、乾燥DIOPAT塊の総重量に基づいて、約0.5重量%未満、好ましくは約0.4重量%未満、より好ましくは約0.3重量%未満、特に約0.2重量%未満である。
【0099】
一実施形態では、乾燥DIOPAT塊中の2,4-DHBPの量は、乾燥DIOPAT塊の総重量に基づいて、約5重量%未満、好ましくは約3重量%未満、より好ましくは約2重量%未満、特に約1.8重量%未満である。
【0100】
一実施形態では、乾燥DIOPAT塊中のDIOPATの量は、乾燥DIOPAT塊の総重量に基づいて、少なくとも約80重量%、好ましくは少なくとも約83重量%、より好ましくは少なくとも約85重量%、特に少なくとも約87重量%である。
【0101】
特定の実施形態では、本発明は、本発明によるDIOPATを単離する方法であって、
分離ステップc)は、保持液における懸濁液を水で連続的に洗浄し、透過液を除去することを含み、
該方法は、
d)6~8のpHを得るようにステップc)で得られた保持液の水性懸濁液を中和し、場合により水性懸濁液を同時に濃縮するステップ;
e)中和された水性懸濁液を水で場合により洗浄した後、ステップd)で得られた中和された水性懸濁液を濾過によって濃縮するステップ; 及び
f)ステップe)で得られた濃縮物を乾燥させるステップ
をさらに含む、方法に関する。
【0102】
本発明によるDIOPATを単離する方法は、製造コストの点で特に有利である。なぜならば、DIOPAT懸濁液からの2,4-DHBPの予期せぬ除去に起因して、Tinosorb(登録商標)Sへの最後の反応ステップでの高価な反応物である塩化イソオクチルの消費が大幅に低減するためである。これにより、Tinosorb(登録商標)Sへの最終合成ステップのコスト、及び最終仕様に到達するためのTinosorb(登録商標)Sの生成物後処理のコストが低減する。
【0103】
本発明によるダイアフィルトレーションプロセスは、ダイアフィルトレーションのはるかにより安定したより高い性能をさらに提供し、それにより、FPを使用して以前に実施されたプロセスと同様の品質の結果を生じる。
【0104】
さらに、本発明によるダイアフィルトレーションプロセスは、より少ない手動のプロセスステップを含み、したがってより衛生的でもある、DIOPATを単離する方法を提供する。
【0105】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【実施例
【0106】
ダイアフィルトレーション(DF)実験を、90℃までのHCl溶液を用いた操作用に設計された低圧ラボユニットで実施した。
【0107】
供給反応器を、撹拌機のない加熱ジャケットを有する長い管に置き換えた。これにより、供給ポンプへのダイアフィルトレーション(DF)水を用いた懸濁液の均質な移動が可能となり、これにより最終的な均質化を行った。さらに、懸濁液中の凝集塊による悪影響を回避するために、超高速撹拌機(Ultra Turrax(登録商標))によって懸濁液を均質化した。
【0108】
使用した膜:
チャネル要素 6mmチャネル、長さ1m
膜材料 α-Al2O3
公称孔径 400/200/50の膜層を有する50nm
【0109】
動作パラメーター:
温度 85~90℃
クロスフロー 3.5及び4m/s
供給圧力 1.5~2.5bar
【0110】
プロセスパラメーター:
出発懸濁液の希釈係数 ポンプのデッドボリュームのみ
総濃縮係数(CF) 最大2
総ダイアフィルトレーション係数 4.5
【0111】
サンプリング: サンプリング及び分析は、プロセスステップから独立して同じであった。各総ダイアフィルトレーション係数又はCFステップの後、透過液及び保持液のサンプルを以下のために採取した:
乾燥含量(DC)及びNaCl含量
Al含量
総有機炭素(TOC、透過液のみ)
DIOPAT含量及び副生成物(AHRT、2,4-DHBP、DMPRT)の含量
【0112】
DCはDCスケールで測定し、NaClは滴定で測定し、TOCはTOCアナライザーで測定した。DIOPAT及び副生成物は、以下を使用してHPLCにより決定した
Agilent 1100
カラム材料: EUROSPHER 100-C18/5 Knauer
カラム長: 25cm、カラム径: 4mm
カラム温度: 20℃
注入体積: 5μl
移動相: 溶離液A: 900脱イオン水(2)+100酢酸緩衝液pH4.65(3)+0.2%TBAHS、溶離液B: アセトニトリル(1)+0.2%TBAHS
方法: フロー: 1.0mL/分、圧力: 最大400bar、停止時間: 30分
【0113】
タイムテーブル:
【0114】
【表1】
【0115】
本発明によれば、Al塩及び望ましくない有機副生成物は、水を用いたダイアフィルトレーションによってセラミック膜で分離される。サイクル時間は約1時間であった。したがって、93.2gのDIOPAT、1.8gのレゾルシノール、6.0gの安息香酸、2.4gのアニシル-ヒドロキシ-レゾルシニル-トリアジン(AHRT)、9.6gの2,4-DHBP、1.8gのDMPRT(ジメトキシフェニルレゾルシニルトリアジン)、2.544kgの水、330.0gのNaCl、及び11.1gのAlCl3を含む3kgのDIOPAT懸濁液を、適切なサイズの容器に移した。
【0116】
温度を90℃に調整した。ダイアフィルトレーションの供給DIOPAT懸濁液中の2,4-DHBP濃度は約0.32%であった。90℃の酸性水への2,4-DHBPの溶解度は約0.18%であった。したがって、一部の2,4-DHBPは、おそらく既に沈殿しており、DFプロセス中に溶解状態に戻す必要があった。DFプロセスでは、DIOPAT懸濁液を90℃に保持し、12kgの新しい水で絶えず洗浄した。洗浄プロセス中、DIOPAT濃度は一定のままであった。Al塩及び有機副生成物を分離するために、DIOPAT懸濁液を、供給容器からセラミック膜モジュールにポンプで送り、そこから供給容器にポンプで戻した。セラミック膜では、溶解した成分(Al塩及び一部の有機成分、例えば2,4-DHBP)が膜を通過した。DIOPAT粒子は懸濁液中に留まり、供給容器に戻った。透過液は、廃水処理プラントに送られた。全体で、膜プロセスの開始時の懸濁液(沈殿後の懸濁液)は、4.5の洗浄係数で洗浄された。次いで、保持液中のAl塩濃度は、およそ65ppm未満であった。
【0117】
水性懸濁液を、1.3gのNaOH(50%w/v)によって中和した。中和された保持液を、Bokela のダイノフィルター(Dyno Filter)によって濃縮し、96.0g(14%)のDIOPATを含む685.8gのDIOPAT懸濁液を得た。
【0118】
噴霧乾燥後、96.0g(87.2%)のDIOPAT、0.07g(0.05%)のレゾルシノール、0.10g(0.1%)の安息香酸、2.2g(2.1%)のAHRT、1.7g(1.6%)の2,4-DHBP、1.8g(1.7%)のDMPRT(ジメトキシフェニルレゾルシニルトリアジン)、3.2g(3%)の水、4.5g(4.2%)のNaCl、及び0.14g(0.13%)のAlCl3を含む、106.9gの噴霧乾燥DIOPAT塊が得られた。
【0119】
2,4-DHBPの除去に対する温度の影響の比較:
限外濾過後に得られたDIOPAT濃縮物中の2,4-DHBPの残留量に対する温度の影響を評価するために、上記の手順を以下の温度条件下で繰り返した:
【0120】
【表2】
【0121】
見られるように、限外濾過が88~91℃の温度で実施される場合、71~76℃の温度と比較して、濃縮物中の2,4-DHBPの量は大幅に低減する。
(付記)
(付記1)
(i)2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン;
(ii)2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン; 及び
(iii)アルミニウム塩
を含む水性アルカリ性混合物Mから2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(DIOPAT)を単離する方法であって、該方法は、
a)混合物MをpH<1に酸性化することによって2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを沈殿させるステップ;
b)酸性化した混合物Mを80℃~95℃の範囲の温度に加熱するステップ;
c)水を用いたダイアフィルトレーションによって、セラミック膜を用いて、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩から沈殿した2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを分離するステップであって、pHは<1から最大3に増加し、温度は80℃~95℃の範囲に留まる、ステップ
を含み、分離ステップc)は、沈殿した2,4-ビス-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを、保持液における水性懸濁液の形態で提供し、溶解した2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン及び溶解したアルミニウム塩を、透過液における水溶液の形態で提供する、方法。
(付記2)
ステップa)における酸性化が、塩化水素を用いて、好ましくは混合物Mを塩化水素水溶液に添加することによって実施される、付記1に記載の方法。
(付記3)
セラミック膜が、TiO2、ZrO2、又はAl2O3膜、好ましくはα-Al2O3膜である、付記1又は2に記載の方法。
(付記4)
セラミック膜が、20~500nm、好ましくは50~100nmの範囲の孔径を有する、付記1又は3に記載の方法。
(付記5)
セラミック膜が、好ましくは400/200/50nmの膜層を有する、50nmの孔径を有するα-Al2O3膜である、付記1~4のいずれか一項に記載の方法。
(付記6)
セラミック膜が、0.5~1.5mの長さ、及び3~8mm、好ましくは6mmのチャネル径を有するマルチチャネル要素の形態で提供され、マルチチャネル要素は、好ましくは7~19個のチャネルを含む、付記1~5のいずれか一項に記載の方法。
(付記7)
供給圧力が1.0~4barであり、クロスフローが2~5m/sである、付記1~6のいずれか一項に記載の方法。
(付記8)
分離ステップc)が、保持液における懸濁液を水で連続的に洗浄し、透過液を除去することを含む、付記1~7のいずれか一項に記載の方法。
(付記9)
洗浄水の量が、保持液における懸濁液の量の少なくとも3倍多い、付記8に記載の方法。
(付記10)
洗浄水が、使用前に、好ましくは外部熱交換器又は直接蒸気注入によって加熱される、付記8又は9に記載の方法。
(付記11)
保持液の濃縮係数が、2.5未満、好ましくは1.6~1.8である、付記1~10のいずれか一項に記載の方法。
(付記12)
d)6~8のpHを得るようにステップc)で得られた保持液の水性懸濁液を中和し、場合により水性懸濁液を同時に濃縮するステップ
をさらに含む、付記1~11のいずれか一項に記載の方法。
(付記13)
ステップd)における中和が、水酸化ナトリウム又は炭酸ナトリウムを用いて、好ましくは水酸化ナトリウムを用いて実施される、付記12に記載の方法。
(付記14)
e)中和された水性懸濁液を水で場合により洗浄した後、ステップd)で得られた中和された水性懸濁液を濾過によって濃縮するステップ
をさらに含む、付記12又は13に記載の方法。
(付記15)
f)ステップe)で得られた濃縮物を乾燥させるステップ
をさらに含む、付記14に記載の方法。