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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】エマルジョン型粘着剤及び粘着テープ
(51)【国際特許分類】
   C09J 107/02 20060101AFI20240112BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240112BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20240112BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20240112BHJP
【FI】
C09J107/02
C09J11/06
C09J129/04
C09J7/38
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021546630
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2020034051
(87)【国際公開番号】W WO2021054215
(87)【国際公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2019170343
(32)【優先日】2019-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】横塚 学
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大輔
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178008(JP,A)
【文献】特開2007-84638(JP,A)
【文献】特開2007-211231(JP,A)
【文献】特開2006-283034(JP,A)
【文献】特開2011-84615(JP,A)
【文献】特開2007-63473(JP,A)
【文献】特開2004-99821(JP,A)
【文献】特開2004-91989(JP,A)
【文献】特開2005-126859(JP,A)
【文献】特開2005-120121(JP,A)
【文献】特開2016-160364(JP,A)
【文献】特開2004-216832(JP,A)
【文献】特開2018-53220(JP,A)
【文献】特開2004-51663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、粘着付与樹脂及びポリビニルアルコールを含有し、
ゴム成分を固形分換算で100質量部に対して、粘着付与樹脂を固形分換算で50~220質量部、及びポリビニルアルコールを固形分換算で5~30質量部含有する、エマルジョン型粘着剤。
【請求項2】
ゴム成分が、天然ゴム及び合成ゴムを固形分換算で80:20~20:80の質量割合で含有するゴム混合物である、請求項1に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項3】
合成ゴムが、メタクリル酸メチルグラフトゴムを含有する、請求項2に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項4】
ポリビニルアルコールの重合度が550~5000である、請求項1から3のいずれか一項に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項5】
ポリビニルアルコールの鹸化度が80~95モル%である、請求項1から4のいずれか一項に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項6】
粘着付与樹脂がC9石油樹脂及びC5石油樹脂から選択される1以上を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項7】
粘着付与樹脂がC5石油樹脂を含有する、請求項1から6のいずれか一項に記載のエマルジョン型粘着剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のエマルジョン型粘着剤を用いた粘着層と、基材とを有する、粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルジョン型粘着剤及びそれを用いた粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニル等の樹脂を基材とした粘着テープは、自動車に配索される多数の電線群からなるワイヤーハーネスを結束及び保護するための電気絶縁テープとして広く用いられている。近年、電線は軽量化やコストダウンを目的に小径化の需要が拡大している。小径化された電線からなるワイヤーハーネスは、表面に凹凸を多く有するので、粘着テープとの接触面積が減少し、粘着力、及び粘着力を長期間保持するいわゆる粘着保持力が低下してしまう場合がある。そのため、粘着テープには、ワイヤーハーネスの表面の凹凸に追従して密着可能な、いわゆる「凹凸追従性」を有することが求められている。これに関して、粘着剤層を厚肉化することで凹凸追従性を向上させようとしても、粘着保持力が十分ではなかったり、テープ基材面(背面)への糊残りが発生したりするという問題があった。
【0003】
粘着剤の一つとして、天然ゴムや合成ゴムが水中にコロイド状に分散されたエマルジョン型粘着剤が知られている。エマルジョン型粘着剤は、揮発性有機化合物を含まない上、塗布に特別な装置を必要とせずかつ保存も容易であることから、溶剤型粘着剤の代替品として用いられている。特許文献1には、天然ゴム及び合成ゴムを混合したゴム混合物と、粘着付与樹脂と、水溶性高分子増粘剤とを所定の割合で含有するエマルジョン型粘着剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-84615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、粘着力及び粘着保持力に優れ、かつ糊残りが少ない粘着テープを形成可能なエマルジョン型粘着剤及びそれを用いた粘着テープを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に関するものである。
[1]ゴム成分、粘着付与樹脂及びポリビニルアルコールを含有し、ゴム成分を固形分換算で100質量部に対して、粘着付与樹脂を固形分換算で50~220質量部、及びポリビニルアルコールを固形分換算で5~30質量部含有する、エマルジョン型粘着剤。
[2]ゴム成分が、天然ゴム及び合成ゴムを固形分換算で80:20~20:80の質量割合で含有するゴム混合物である、[1]に記載のエマルジョン型粘着剤。
[3]合成ゴムが、メタクリル酸メチルグラフトゴムを含有する、[2]に記載のエマルジョン型粘着剤。
[4]ポリビニルアルコールの重合度が550~5000である、[1]から[3]のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤。
[5]ポリビニルアルコールの鹸化度が80~95モル%である、[1]から[4]のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤。
[6]粘着付与樹脂がC9石油樹脂及びC5石油樹脂から選択される1以上を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載のエマルジョン型粘着剤。
[7]粘着付与樹脂がC5石油樹脂を含有する、[1]から[6]のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤。
[8][1]から[7]のいずれかに記載のエマルジョン型粘着剤を用いた粘着層と、基材とを有する、粘着テープ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粘着力及び粘着保持力に優れ、かつ糊残りが少ない粘着テープを形成可能なエマルジョン型粘着剤及びそれを用いた粘着テープを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0009】
[エマルジョン型粘着剤]
本実施形態に係るエマルジョン型粘着剤は、ゴム成分、粘着付与樹脂及びポリビニルアルコールを含有する。本明細書において、「エマルジョン型粘着剤」とは、水中に各成分が分散されている粘着剤のことを意味する。
【0010】
(ゴム成分)
ゴム成分は、天然ゴム及び合成ゴムを含有する混合ゴムであることが好ましい。天然ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、濃縮原料天然ゴム、有機過酸化物前加硫天然ゴム等を挙げることができ、これらから選択される1以上を用いることができる。工業的には、濃縮原料天然ゴムが好ましく用いられる。
【0011】
合成ゴムとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン・ブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、スチレングラフト天然ゴム、天然ゴムにメタクリル酸メチルをグラフト重合させたメタクリル酸メチルグラフト化天然ゴム等を挙げることができ、これらから選択される1以上を用いることができる。中でも、粘着力を高める点から、メタクリル酸メチルグラフトゴム(メタクリル酸メチルグラフト化天然ゴム)を含むことが好ましい。
【0012】
ゴム混合物は、天然ゴム及び合成ゴムを固形分換算で80:20~20:80を含有することが好ましい。天然ゴム及び合成ゴムを固形分換算で80:20~20:80を含有することで、糊残りを抑制しつつ、粘着保持力を高めることができる。天然ゴム及び合成ゴムの含有割合は、好ましくは70:30~30:70、より好ましくは60:40~40:60の質量割合である。
【0013】
ゴム混合物は、天然ゴム及び合成ゴムを溶解して混合させたものや、塊状のものを熱しながら混合させたものを用いることもでき、天然ゴム及び合成ゴムの微粒子が水中に分散したエマルジョン(ラテックス)を用いることもできる。分散性の点でラテックスであることが好ましい。ラテックスの場合、例えば、ゴム成分が30~80質量%のものを用いることができる。
エマルジョン型粘着剤中のゴム成分の総含有量は、固形分換算で10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。エマルジョン型粘着剤中のゴム成分の総含有量を固形分換算で10~50質量%にすることで、粘着性により優れたエマルジョン型粘着剤にすることができる。
【0014】
(粘着付与樹脂)
粘着付与樹脂としては、得られるエマルジョン型粘着剤に粘着力を付与する樹脂を用いることができる。エマルジョン型粘着剤に粘着力を付与する樹脂としては、例えば、C9石油樹脂、水添C9石油樹脂、C5石油樹脂、脂環族系石油樹脂、脂環族/芳香族系石油樹脂等の石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、テルペン-フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等を挙げることができ、これらから選択される1以上の樹脂を用いることが好ましい。中でも粘着保持力をより高めかつ糊残りをより抑制することができ、後述するポリビニルアルコールの分散が良好になるという点で、石油樹脂を含むことがより好ましく、C9石油樹脂及びC5石油樹脂から選択される1以上を含むことがさらに好ましく、C5石油樹脂を含むことが特に好ましい。
【0015】
粘着付与樹脂の含有割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して50~220質量部である。粘着付与樹脂の含有割合を50質量部~220質量部にすることで粘着力を高めることができる。粘着付与樹脂の含有割合は、糊残りを防ぎつつ粘着保持力を高めることができる点で、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは50~200質量部であり、より好ましくは100~180質量部であり、更に好ましくは130~170質量部である。
エマルジョン型粘着剤中の粘着付与樹脂の含有量は、固形分換算で10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。エマルジョン型粘着剤中の粘着付与樹脂の含有量を固形分換算で10~50質量%にすることで、粘着力を向上することができる。
【0016】
粘着付与樹脂は、上記した樹脂の微粒子を用いることもでき、そのラテックス(水性エマルジョン)として用いることもできる。分散性の点でラテックスであることが好ましい。ラテックスの場合、例えば、粘着付与樹脂が30~80質量%のものを用いることができる。
【0017】
(ポリビニルアルコール)
エマルジョン型粘着剤は、ポリビニルアルコールを含有する。ポリビニルアルコールを含有することで、粘着力及び粘着保持力に優れ、かつ糊残りが少ない粘着テープを形成可能なエマルジョン型粘着剤を得ることができる。加えて、このエマルジョン型粘着剤を用いた粘着テープは吸水後の粘着保持力にも優れているので、高湿度環境下(例えば温度が38℃以上で湿度が90%以上の環境下)で用いられる場合でも、粘着力が低下したり糊残りが増えたりすることを抑制することができる。
【0018】
ポリビニルアルコールとしては、特に限定されず、公知のポリビニルアルコールを用いることができる。ポリビニルアルコールとしては、例えば、酢酸ビニルを重合して得られる単独重合体または共重合体を鹸化して得られるポリビニルアルコール、或いはこれらのポリビニルアルコールを変性して得られる変性ポリビニルアルコールから選択される1以上を用いることができる。
これらのポリビニルアルコールにおいて、共重合可能な他のモノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン等のオレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の重合性モノカルボン酸類、マレイン酸、イタコン酸等の重合性ジカルボン酸類、無水マレイン酸等の重合性ジカルボン酸無水物、重合性モノカルボン酸類や重合性ジカルボン酸類のエステル類、およびその塩類、アクリルアミド、メタクリルアミド等の重合性酸アミド類、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、グリシジル基を有するモノマー、アルキルビニルエーテル類、スルホン基を有するモノマーや、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルモノマー、ジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーを挙げることができる。
変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、アセトアセチル変性ポリビニルアルコールやメルカプト変性ポリビニルアルコール、アルデヒド変性ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
これらの中でゲルの発生を抑制する点から通常の未変性ポリビニルアルコールが好ましい。中でも、ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルの鹸化物を含むことがより好ましい。
【0019】
ポリビニルアルコールの鹸化度は、70~99.9モル%とすることができ、ゴム混合物とポリビニルアルコールの分散不良による糊残り発生を抑える点で95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、88モル%以下であることがさらに好ましい。鹸化度の下限値は、粘着保持力を高めかつポリビニルアルコールの分散が良好になる点で、80モル%以上であることが好ましく、85モル%以上であることがより好ましい。なお、鹸化度は、JIS K 6726に従って測定した値である。一実施形態において、ポリビニルアルコールの鹸化度は、好ましくは78~99であり、より好ましくは80~95モル%である。
【0020】
ポリビニルアルコールの重合度(平均重合度)は、500~7000とすることができ、ポリビニルアルコールの分散が良好になる点で、550~5000であることが好ましく、1000~4000がより好ましく、1500~3500がさらに好ましい。重合度(平均重合度)は、JIS K 6726に従って測定した値である。一実施形態において、ポリビニルアルコールの重合度(平均重合度)は、540~6700である。
【0021】
変性ポリビニルアルコールの場合、重合度を測定することが難しい場合がある。その場合、JIS K 6726に従って測定した水溶液粘度(濃度4質量%の水溶液の20℃における粘度)が、3~150mPa・sのポリビニルアルコールを用いることができる。
【0022】
ポリビニルアルコールの含有割合は、固形分換算で、ゴム成分100質量部に対して5~30質量部である。ポリビニルアルコールの含有割合を5質量部以上にすることで粘着テープの粘着力を高めることができ、30質量部以下にすることで糊残りを防ぎつつ粘着力及び粘着保持力を高めることができる。ポリビニルアルコールの含有割合は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは8~25質量部であり、より好ましくは10~20質量部であることがより好ましい。
【0023】
ポリビニルアルコールは、水溶液として用いることもできる。水溶液中のポリビニルアルコールは、例えば、1~30質量%とすることができる。
エマルジョン型粘着剤中のポリビニルアルコールの含有量は、固形分換算で0.5~15質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。エマルジョン型粘着剤中のポリビニルアルコールの含有量を固形分換算で0.5~15質量%にすることで、耐湿度試験前後の粘着保持力を向上することができる。
【0024】
(添加剤)
エマルジョン型粘着剤は、必要に応じて、さらに各種添加剤を追加することができる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、湿潤剤、増粘剤、老化防止剤などを挙げることができる。湿潤剤を配合すると、エマルジョン型粘着剤の表面張力を下げることができ、粘着テープを製造する際に、フィルム基材への濡れ性を改善できるようになる。湿潤剤としては、例えば、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤などを使用できる。好ましくは、ゴムラテックスの安定性の面から、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が用いられる。
【0025】
湿潤剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましい。湿潤剤の配合量が0.1質量部未満では、エマルジョン型粘着剤のフィルム基材への濡れ性改善効果が得られない場合がある。15質量部を超えて配合してしまうと、エマルジョン型粘着剤のゴム成分と石油樹脂成分との相溶性が阻害され、さらにはエマルジョン型粘着剤の粘着力が低下する場合がある。
【0026】
老化防止剤は、例えば、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、ベンズイミダゾール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤及びリン系老化防止剤等の単独物または混合物を挙げることができる。好ましくは、フェノール系老化防止剤が用いられる。
【0027】
老化防止剤の配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.1~5質量部が好ましい。老化防止剤の配合量が0.1質量部未満では、酸素や光の存在下で得られたエマルジョン型粘着剤が劣化する場合がある。5質量部を超えて配合してしまうとエマルジョン型粘着剤の粘着力が低下することがある。
【0028】
(エマルジョン型粘着剤の調整方法)
エマルジョン型粘着剤は、ゴム成分、粘着付与樹脂及びポリビニルアルコールの各成分を、合計含有量が、好ましくは固形分換算で30~65質量%、より好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは40~60質量%となるようにエマルジョン化させて得ることができる。各成分の総量を固形分換算で30~65質量%にすることで、良好な塗工性を得ることができる。
エマルジョン型粘着剤は、微粒子状の各成分を水中に入れて混合することにより分散させて調整してもよいし、予め水中に分散又は溶解させた分散液又は溶液を混合して調整してもよい。混合方法は、公知のスリーワンモータ等の装置を用いて行うことができる。
【0029】
[粘着テープ]
本実施形態に係る粘着テープは、エマルジョン型粘着剤を用いた粘着層と、基材とを有する。
(基材)
基材としては、塩化ビニル樹脂及びその組成物が好適に用いられる。塩化ビニル樹脂組成物の樹脂成分全量に対するポリ塩化ビニルの割合は、例えば、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90~100質量%であることがさらに好ましい。塩化ビニル樹脂組成物は、樹脂成分以外に、必要に応じて、公知の添加物(例えば、安定剤、可塑剤など)を含有していてもよい。
【0030】
基材の厚みは、特に制限されず、例えば、10~500μmとすることができ、好ましくは70~200μm、さらに好ましくは80~160μmである。なお、フィルム基材は単層の形態を有していてもよく、また、複層の形態を有していてもよい。基材には、必要に応じて、背面処理、帯電防止処理、プライマー処理などの各種処理が施すこともできる。なお、基材の厚みは、マイクロスコープで5か所を測定し、その平均の値のことを意味する。
【0031】
(粘着層)
粘着層は、上記したエマルジョン型粘着剤を用いて形成された層であり、基材の少なくとも一方の面上に、必要に応じてプライマー層を介して、形成されている。エマルジョン型粘着剤については上記のとおりであるのでここでは記載を省略する。
【0032】
粘着層の厚みは、粘着力を高める点及び糊残りをより抑制する点及び粘着保持力をより高める点で、乾燥後の厚みとして10~60μmであることが好ましく、20~50μmであることがより好ましく、30~40μmであることがさらに好ましい。なお、粘着層の厚みは、マイクロスコープで5か所を測定し、その平均の値のことを意味する。
【0033】
粘着層の形成方法は、基材の少なくとも一方の面に上記エマルジョン型粘着剤を塗布及び乾燥させて行うことができる。エマルジョン型粘着剤を基材に塗布する方法としては、公知の方法を用いることができる。特に限定するものではないが、例えば、ナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、リップコーター、ダイコーターなどを用いて塗布すればよい。
必要に応じて設けられるプライマー層の材質は特に限定されない。プライマー層は、例えばグラビアコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等を用いて形成することができる。プライマー層の厚みは、乾燥後の厚みとして1~50μmであることが好ましく、5~30μmであることがより好ましい。プライマー層の厚みの測定方法は、上記した粘着層の厚みの測定方法と同じである。
【0034】
本実施形態に係る粘着テープは、上記エマルジョン型粘着剤を用いて形成された層を有しているので、粘着力に優れ、かつ糊残りが少ない粘着テープにすることができる。例えば、粘着テープは、JIS C 2107,10.項「粘着力」の11.4.1項に規定されている「試験板粘着力試験の準備」に従って測定した試験板粘着力が、1.0N/10mm以上であることが好ましく、1.2N/10mm以上であることがより好ましい。試験板粘着力の上限値は、剥がしやすさ、糊残りしにくさの点で、2.5N/10mm以下であることが好ましく、2.0以下N/10mmであることがより好ましい。
【0035】
粘着テープは、JIS Z 0237,13項「保持力」に従って測定した値が高い方が好ましい。本実施形態に係る粘着テープは、上記に従って測定した保持力を1000分以上、1200分以上、又は2000分以上にすることができる。
粘着テープの総厚みは、粘着テープの強度の点で、20~1000μmであることが好ましく、50~500μmであることがより好ましく、100~300μmであることが更に好ましい。なお、粘着テープの総厚みは、マイクロスコープで5か所を測定し、その平均の値のことを意味する。
【0036】
本実施形態に係る粘着テープは、吸水後の粘着保持力にも優れているので、高湿度環境下で用いられる場合でも、粘着力が低下したり糊残りが増えたりすることを抑制することができる。一実施形態において、粘着テープは、湿度96%、温度40℃の環境下に72時間晒された後の粘着力及び保持力が上記範囲内である。
【実施例
【0037】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0038】
実施例及び比較例で用いた材料を以下に示す。
(ゴム混合物:ゴム系ラテックス)
天然ゴム(NR):株式会社レジテックス社製、ハイアンモニアタイプ天然ゴム、商品名「HA-LATEX」
メタクリル酸メチルグラフトゴム(MG):株式会社レジテックス社製、メタクリル酸メチルグラフト天然ゴム、商品名「MG-40S」
【0039】
(粘着付与樹脂)
C5石油樹脂エマルジョン:脂肪族系石油樹脂(東燃ゼネラル石油株式会社製T-REZRA100)75部をメチルシクロヘキサン25部に溶解し、これに界面活性剤(花王株式会社製エマルゲン920)3.5部及び水46.5部を加えてホモミキサーにて撹拌乳化し、減圧蒸留にてメチルシクロヘキサンを除去したものである。
【0040】
C9石油樹脂エマルジョン:脂肪族系石油樹脂(東ソー株式会社製ペトコールLX)75部をメチルシクロヘキサン25部に溶解し、これに界面活性剤(花王株式会社製エマルゲン920)3.5部及び水46.5部を加えてホモミキサーにて撹拌乳化し、減圧蒸留にてメチルシクロヘキサンを除去したものである。
【0041】
(水溶性高分子)
ポリビニルアルコール(PVA):ポリ酢酸ビニルの鹸化物
以下のPVAから表1に記載の重合度及び鹸化度のものを選択して用いた。
・株式会社クラレ製、商品名「PVA105」、重合度540、鹸化度99モル%
・デンカ株式会社製、商品名「K-05」、重合度600、鹸化度99モル%
・デンカ株式会社製、商品名「K-24E」、重合度2500、鹸化度99モル%
・デンカ株式会社製、開発品、重合度6700、鹸化度99モル%
・デンカ株式会社製、商品名「B-33」、重合度3500、鹸化度88モル%
・デンカ株式会社製、商品名「W-24」、重合度2500、鹸化度78モル%
【0042】
ポリビニルピロリドン(PVP):第一工業製薬株式会社製、商品名「ピッツコールK-90」
ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールブロック共重合体(PEG-PPG):第一工業製薬株式会社製、商品名「エパン#680」
【0043】
(平均重合度及び鹸化度)
ポリビニルアルコール(PVA)の平均重合度及び鹸化度をJIS K 6726に従って測定した。すなわち、次のようにして行った。
平均重合度:鹸化されていない部分(残存酢酸基)をあらかじめ水酸化ナトリウムを用いて完全に鹸化した後、粘度計を用いて水との相対粘度を求め、相対粘度から計算によって平均重合度を算出した。
鹸化度:水酸化ナトリウムで試料中の残存酢酸基(モル%)を定量し、100から差し引いて、鹸化度(モル%)を求めた。
結果を表1に示した。
【0044】
[実施例1]
以下のようにしてエマルジョン型粘着剤を作製した。天然ゴム及びメタクリル酸メチルグラフトゴムを固形分換算で70:30の割合で含有するゴム成分55質量%のゴム系ラテックス、ゴム成分100質量部(固形分換算)に対して、150質量部(固形分換算)のC5石油樹脂エマルジョン、及び15質量部(固形分換算)のポリビニルアルコールを、スリーワンモータ装置を用いて、水中に固形分換算で50質量%となるように攪拌混合し、エマルジョン化した。
【0045】
[実施例2~16、比較例1~5]
表1に示す材料及び配合量にした以外は実施例1と同じ方法でエマルジョン型粘着剤を作製した。
【0046】
[粘着テープの作製]
以下のようにして基材を作製した。ポリ塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ株式会社製)100質量部、可塑剤としてのDOP(株式会社ジェイ・プラス製)50質量部、安定剤としてのCa-Zn系安定剤(水澤化学工業株式会社製)2質量部を混合して塩化ビニル樹脂組成物を調整し、得られた塩化ビニル樹脂組成物を、カレンダー成形機を用いて厚さ160μmのフィルム状に成形した。
得られた基材の一方の面にプライマーを60μmの厚さで積層し、さらにエマルジョン型粘着剤を、コンマロールコーター(三正精機株式会社製)を用いて塗布及び乾燥して、粘着層の厚みが30±1μmの粘着テープを作製した。
【0047】
[測定及び評価]
得られた粘着テープの粘着力、粘着保持力、及び糊残りについて測定及び評価した。また、粘着テープを、湿度96%、温度40℃の環境下に72時間晒した後(耐湿後)の、初期粘着力、粘着保持力、及び糊残りについても、同じ方法で測定及び評価した。結果を表1に示した。
【0048】
(粘着力:対SUS板粘着力)
JIS C 2107,10.項「粘着力」の11.4.1項に規定されている「試験板粘着力試験の準備」に従って測定した。すなわち、次のようにして行った。
幅19mmのテープサンプルを300mm採取し、試験板(SUS304鋼板、表面仕上げBA)に質量2kgの圧着ローラで5±0.5mm/sの速度で合計1往復圧着し、1分以内に引き剥がし試験を行ったときの荷重を測定した。
【0049】
(粘着保持力)
JIS Z 0237,13項「保持力」に従って測定した。すなわち、次のようにして行った。
幅19mmのテープサンプルをガラス板に長さ20mm貼り付け、温度40℃の環境下で鉛直に質量500gのおもりを取り付けたときに、試験板から完全に剥がれ落ちた時間を測定した。
【0050】
(糊残り)
糊残りの面積率を以下の方法で求めた。粘着保持力測定後のテープサンプルにおいて、試験板に粘着剤が残っている面積率は、試験板に残った粘着剤質量を測定し、その値を貼り付け面の全粘着剤質量で割った数値の百分率を記録した。なお、貼り付け面の全粘着剤質量は粘着層の厚み×貼り付け面積×比重(1.00)より算出した。
糊残りの有無を以下の基準で評価した。
3:糊残りなし
2:糊残りの面積率が20%以下である(実用可能)
1:糊残りの面積率が20%を超える(実用不可)
【0051】

【表1】

【0052】
表1に示すように、実施例1~16のエマルジョン型粘着剤を用いて粘着層を形成した粘着テープは、粘着力及び粘着保持力が優れているとともに、糊残りが少ない。さらに、耐湿度実験後も粘着力及び粘着保持力が低下することが少なく、糊残りの発生も抑制できた。
【0053】
これに対して、比較例1のエマルジョン型粘着剤は、粘着付与樹脂の含有量が所定の範囲未満であり、粘着力が低い結果となった。比較例2,3のエマルジョン型粘着剤は、ポリビニルアルコールの含有量が所定の範囲外であり、いずれも、耐湿度試験前の粘着保持力が低く、かつ粘着力が低い結果となった。比較例4,5は、ポリビニルアルコールに替えて他の水溶性高分子を用いており、粘着保持力が著しく低く、かつ糊残りも発生してしまった。特に比較例5では、粘着力についても低い結果となった。