(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】エネルギ移動回路、及び蓄電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/02 20160101AFI20240112BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240112BHJP
H02H 7/00 20060101ALI20240112BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240112BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
H02J7/02 H
H02J7/00 S
H02H7/00 D
H01M10/48 P
H01M10/44 P
(21)【出願番号】P 2021548758
(86)(22)【出願日】2020-09-08
(86)【国際出願番号】 JP2020033861
(87)【国際公開番号】W WO2021059949
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019174616
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】倉貫 正明
【審査官】山本 香奈絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-294322(JP,A)
【文献】特開2014-147148(JP,A)
【文献】特開2001-275247(JP,A)
【文献】特表2014-528692(JP,A)
【文献】特開2013-55837(JP,A)
【文献】特開2015-15777(JP,A)
【文献】国際公開第2013/154156(WO,A1)
【文献】特開2007-282459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/02
H02J 7/00
H02H 7/00
H01M 10/48
H01M 10/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インダクタと、
直列接続されたn(nは2以上の整数)個のセルと前記インダクタ間に設けられ、前記n個のセルのいずれか1個あるいは直列接続される複数個のセルからなる選択セルの両端と、前記インダクタの両端を導通させることが可能なセル選択回路と、
前記セル選択回路がいずれのセルも選択していない状態で、前記インダクタを含む閉ループを形成するための少なくとも1つのクランプスイッチを有するクランプ回路と、
前記インダクタに流れる電流の値を検出する電流検出回路と、
前記電流検出回路により検出された検出値を帯域制限するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタにより帯域制限された検出値が閾値を超えると前記インダクタの保護を発動する過電流検出回路と、
を備えることを特徴とするエネルギ移動回路。
【請求項2】
前記セル選択回路と前記クランプ回路を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、
前記n個のセルの内の放電対象の前記選択セルである放電セルから前記インダクタに電流が流れるように、前記放電セルの両側のノードに前記インダクタの両端が接続される放電経路を形成し、前記インダクタに流れる電流を増加させるインダクタ電流増加状態、
前記インダクタの両端間にクランプ電流が流れるように、前記インダクタの両端間が前記少なくとも1つのクランプスイッチを介して接続されるクランプ経路を生成し、前記インダクタに流れる電流を前記クランプ経路で循環させるクランプ状態、
前記n個のセルの内の充電対象の前記選択セルである充電セルに前記インダクタから電流が流れるように、前記充電セルの両側のノードに前記インダクタの両端が接続される充電経路を生成し、前記インダクタに流れる電流を減少させるインダクタ電流減少状態の順に制御することを特徴とする請求項1に記載のエネルギ移動回路。
【請求項3】
前記過電流検出回路は、前記検出値が前記閾値を超えると、前記制御部に前記クランプ状態に遷移するよう指示することを特徴とする請求項2に記載のエネルギ移動回路。
【請求項4】
前記過電流検出回路は、前記検出値が前記閾値を超えると、前記少なくとも1つのクランプスイッチをオフ状態に制御することを特徴とする請求項1または2に記載のエネルギ移動回路。
【請求項5】
前記セル選択回路は、
前記インダクタの一端に接続される第1配線と、
前記インダクタの他端に接続される第2配線と、
前記選択セルの両端の一方を前記第1配線に選択的に接続する(n+1)個の第1配線側スイッチと、
前記選択セルの両端の他方を前記第2配線に選択的に接続する(n+1)個の第2配線側スイッチと、を含み、
前記クランプ回路は、1つのクランプスイッチを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路。
【請求項6】
前記セル選択回路は、
前記インダクタの一端に接続される第1配線と、
前記インダクタの他端に接続される第2配線と、
前記直列接続されたn個のセルの各ノード(n+1)の内、奇数ノードと前記第1配線との間にそれぞれ接続される複数の第1配線側スイッチと、
前記直列接続されたn個のセルの各ノード(n+1)の内、偶数ノードと前記第2配線との間にそれぞれ接続される少なくとも1個の第2配線側スイッチと、を含み、
前記クランプ回路は、互いに直列に接続された第1クランプスイッチ及び第2クランプスイッチと、互いに直列に接続された第3クランプスイッチ及び第4クランプスイッチとを備え、
前記インダクタは、前記第1クランプスイッチ及び前記第2クランプスイッチ間のノードと前記第3クランプスイッチ及び前記第4クランプスイッチ間のノードとの間に接続され、
前記第1クランプスイッチ及び前記第3クランプスイッチの前記インダクタに接続されていない一端は、前記第1配線に接続され、
前記第2クランプスイッチ及び前記第4クランプスイッチの前記インダクタに接続されていない一端は、前記第2配線に接続され、
前記クランプ回路は、前記インダクタと前記第1クランプスイッチ、前記第2クランプスイッチ、前記第3クランプスイッチ及び前記第4クランプスイッチとによりフルブリッジ接続されたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路。
【請求項7】
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、前記少なくとも1つのクランプスイッチの駆動周波数の1より大の所定倍以上に設定されることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路。
【請求項8】
前記ローパスフィルタのカットオフ周波数は、前記インダクタに流れる電流に重畳されるリンギングノイズの周波数の1より小の所定倍以下に設定されることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路。
【請求項9】
前記n個のセルのそれぞれの電圧を検出する電圧検出部をさらに備え、
前記制御部は、前記電圧検出部により検出された前記n個のセルの電圧をもとに、前記n個のセル間の均等化処理を実行する請求項2に記載のエネルギ移動回路。
【請求項10】
前記制御部は、前記電圧検出部により検出された前記n個のセルの電圧をもとに、前記n個のセルの目標電圧または目標容量を決定し、前記目標電圧または目標容量より高いセルを放電対象のセルに決定し、前記目標電圧または目標容量より低いセルを充電対象のセルに決定することを特徴とする請求項9に記載のエネルギ移動回路。
【請求項11】
直列接続されたn(nは2以上の整数)個のセルと、
請求項1から10のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路と、
を備えることを特徴とする蓄電システム。
【請求項12】
インダクタと、
直列接続されたm(mは2以上の整数)個のモジュールと前記インダクタ間に設けられ、前記m個のモジュールのいずれか1個あるいは直列接続される複数個のモジュールからなる選択モジュールの両端と、前記インダクタの両端を導通させることが可能なモジュール選択回路と、
前記モジュール選択回路がいずれのモジュールも選択していない状態で、前記インダクタを含む閉ループを形成するためのクランプスイッチを有するクランプ回路と、
前記インダクタに流れる電流の値を検出する電流検出回路と、
前記電流検出回路により検出された検出値を帯域制限するローパスフィルタと、
前記ローパスフィルタにより帯域制限された検出値が閾値を超えると前記インダクタの保護を発動する過電流検出回路と、
を備えることを特徴とするエネルギ移動回路。
【請求項13】
前記モジュール選択回路と前記クランプ回路を制御する制御部をさらに備え、
前記m個のモジュールは、それぞれ、
直列接続された複数のセルと、
前記複数のセルのそれぞれのセル電圧を検出するセル電圧検出部と、
前記セル電圧検出部により検出されるセル電圧に基づいて同一モジュール内の複数のセル電圧を均等化するセル用均等化回路と、を含み、
前記セル用均等化回路は、前記制御部と通信により互いに連携して動作し、前記m個のモジュール間の均等化処理が実行された後、前記複数のセル間の均等化処理を実行することを特徴とする請求項12に記載のエネルギ移動回路。
【請求項14】
直列接続されたm(mは2以上の整数)個のモジュールと、
請求項12または13に記載のエネルギ移動回路と、
を備えることを特徴とする蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列接続された複数のセルやモジュール間のエネルギを移動するエネルギ移動回路、及び蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池やニッケル水素電池などの二次電池が様々な用途で使用されている。例えば、EV(Electric Vehicle)、HEV (Hybrid ElectricVehicle)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)の走行用モータに電力を供給することを目的とする車載(電動自転車を含む)用途、ピークシフト、バックアップを目的とした蓄電用途、系統の周波数安定化を目的としたFR(Frequency Regulation)用途などに使用されている。
【0003】
一般的に、リチウムイオン電池などの二次電池では電力効率の維持および安全性担保の観点から、直列接続された複数のセル間において容量を均等化する均等化処理が実行される。均等化処理にはパッシブ方式とアクティブ方式がある。パッシブ方式は、直列接続された複数のセルにそれぞれ放電抵抗を接続し、最も電圧が低いセルの電圧に、他のセルの電圧を合わせるように他のセルを放電して、複数のセル間の容量を揃える方式である。アクティブ方式は、直列接続された複数のセル間でエネルギ移動を行うことにより、複数のセル間の容量を揃える方式である。アクティブ方式のほうが電力損失が少なく、発熱量を抑えることができるが、現在、回路構成がシンプルで低コストなパッシブ方式が主流となっている。
【0004】
近年、特に車載用途において、電池パックのエネルギ容量と出力が増加してきている。即ち、電池パック内の各セルの容量と、セルの直列数が増加してきている。それに伴い、複数のセル間において不均衡となっているエネルギ量が増大してきている。従って、均等化処理により、複数のセル間の不均衡を解消するために必要な時間も増大してきている。
【0005】
これに対して、特に車載用途において、均等化処理に必要な時間の短縮が求められている。大きなエネルギ不均衡を短時間で解消するには、大電流を流して均等化する必要がある。パッシブ方式では、電圧が高いセルの容量を抵抗で消費させることによりエネルギ不均衡を解消させるため、抵抗に流す電流が大きくなると発熱量も大きくなる。上述のように、セルの直列数が増加してくると、基板上に、抵抗発熱に対する放熱面積を確保することが難しくなってくる。
【0006】
そこで、エネルギを熱に変換して消費させるのではなく、エネルギを容量が少ないセルに移動させるアクティブ方式の必要性が高まっている。アクティブ方式の均等化回路の構成として、2つのセルの中点と、2つのセルに並列接続された2つのスイッチの中点との間にインダクタを接続する構成がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インダクタを用いたアクティブ方式の均等化回路では、インダクタの飽和を防止するために過電流保護回路を設ける必要がある。インダクタに流れる電流の検出波形には、スイッチングに伴う高周波ノイズが重畳される。この高周波ノイズを抑制するために過電流検出回路の前段にローパスフィルタを設置することが考えられる。
【0009】
上述したアクティブ方式の均等化回路の過電流保護回路では、インダクタ電流が上昇から下降へ切り替わる瞬間のピーク電流値を捉える必要があるが、ローパスフィルタの影響により、真のピーク電流値を捉えることが困難であった。
【0010】
また、高周波ノイズによる過電流保護回路の誤検知を防止するためには、ローパスフィルタの時定数を大きく設計し、過電流検出用の閾値を低く設計する必要がある。この場合、インダクタの性能を十分に活かすことができなくなる。通常動作の範囲に対して、マージンが過剰な設計になり、回路規模およびコストに大きな無駄が発生する。
【0011】
本開示はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、インダクタを用いたエネルギ移動回路において、適正な回路規模およびコストで、高精度な過電流保護を実現する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本開示のある態様のエネルギ移動回路は、インダクタと、直列接続されたn(nは2以上の整数)個のセルと前記インダクタ間に設けられ、前記n個のセルのいずれか1個あるいは直列接続される複数個のセルからなる選択セルの両端と、前記インダクタの両端を導通させることが可能なセル選択回路と、前記セル選択回路がいずれのセルも選択していない状態で、前記インダクタを含む閉ループを形成するための少なくとも1つのクランプスイッチを有するクランプ回路と、前記インダクタに流れる電流の値を検出する電流検出回路と、前記電流検出回路により検出された検出値を帯域制限するローパスフィルタと、前記ローパスフィルタにより帯域制限された検出値が閾値を超えると前記インダクタの保護を発動する過電流検出回路と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、インダクタを用いたエネルギ移動回路において、適正な回路規模およびコストで、高精度な過電流保護を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1に係る蓄電システムの構成例1を示す図である。
【
図2】実施例1に係る蓄電システムの構成例2を示す図である。
【
図3】
図3(a)-(h)は、実施例1に係る蓄電システムの均等化処理の基本動作シーケンス例を説明するための回路図である。
【
図4】
図4(a)-(c)は、実施例1に係る蓄電システムの均等化処理の具体例を説明するための図である。
【
図5】実施例2に係る蓄電システムの構成例1を示す図である。
【
図6】実施例2に係る蓄電システムの構成例2を示す図である。
【
図7】比較例に係る蓄電システムの構成例を示す図である。
【
図8】
図8(a)-(h)は、比較例に係る過電流検出回路に入力されるインダクタ電流の模式的な波形と、実施例1、2に係る過電流検出回路に入力されるインダクタ電流の模式的な波形を比較した図である。
【
図9】
図9(a)-(c)は、比較例に係るインダクタ電流の検出波形例を示す図である。
【
図10】
図10(a)-(c)は、実施例1、2に係るインダクタ電流の検出波形例を示す図である。
【
図11】
図11(a)-(b)は、ローパスフィルタを通過していないインダクタ電流の検出波形と、カットオフ周波数が20MHzに設定されたローパスフィルタを通過したインダクタ電流の検出波形をそれぞれ示した図である。
【
図12】
図12(a)-(b)は、カットオフ周波数が8MHzに設定されたローパスフィルタを通過したインダクタ電流の検出波形と、カットオフ周波数が4MHzに設定されたローパスフィルタを通過したインダクタ電流の検出波形をそれぞれ示した図である。
【
図13】
図13(a)-(b)は、カットオフ周波数が2MHzに設定されたローパスフィルタを通過したインダクタ電流の検出波形と、カットオフ周波数が1MHzに設定されたローパスフィルタを通過したインダクタ電流の検出波形をそれぞれ示した図である。
【
図14】カットオフ周波数が0.5MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したインダクタ電流の検出波形を示した図である。
【
図15】
図15(a)-(b)は、ローパスフィルタを通過していないリンギングノイズの検出波形と、カットオフ周波数が20MHzに設定されたローパスフィルタを通過したリンギングノイズの検出波形をそれぞれ示した図である。
【
図16】
図16(a)-(b)は、カットオフ周波数が2MHzに設定されたローパスフィルタを通過したリンギングノイズの検出波形と、カットオフ周波数が1MHzに設定されたローパスフィルタを通過したリンギングノイズの検出波形をそれぞれ示した図である。
【
図17】
図17(a)-(b)は、カットオフ周波数が0.5MHzに設定されたローパスフィルタを通過したリンギングノイズの検出波形と、カットオフ周波数が0.25MHzに設定されたローパスフィルタを通過したリンギングノイズの検出波形をそれぞれ示した図である。
【
図18】カットオフ周波数が0.125MHzに設定されたローパスフィルタを通過したリンギングノイズの検出波形を示した図である。
【
図19】実施例3に係る蓄電システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、実施例1に係る蓄電システム1の構成例1を示す図である。蓄電システム1は、均等化回路10及び蓄電部20を備える。蓄電部20は、直列接続されたn(nは2以上の整数)個のセルを含む。
図1では、4個のセルC1-C4が直列接続された例を描いている。なお、直列接続されるセル数は、蓄電システム1に要求される電圧仕様に応じて変わる。
【0016】
各セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル、電気二重層キャパシタセル、リチウムイオンキャパシタセル等の充放電可能な蓄電素子を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。
【0017】
均等化回路10は、電圧検出部14、セル選択回路11、エネルギ保持回路12、制御部13及び過電流保護部を含む。電圧検出部14は、直列接続されたn(
図1では4)個のセルの各電圧を検出する。具体的には電圧検出部14は、直列接続されたn個のセルの各ノードと、(n+1)本の電圧線で接続され、隣接する2本の電圧線間の電圧をそれぞれ検出することにより、各セルの電圧を検出する。電圧検出部14は例えば、汎用のアナログフロントエンドICまたはASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成することができる。電圧検出部14は、検出した各セルの電圧をデジタル値に変換し、制御部13に出力する。
【0018】
セル選択回路11は、直列接続されたn個のセルと、エネルギ保持回路12に含まれるインダクタL1との間に設けられ、n個のセルの内から選択されたセルの両端と、インダクタL1の両端を導通させることができる回路である。セル選択回路11は、インダクタL1の第1端に接続される第1配線W1、インダクタL1の第2端に接続される第2配線W2、複数の第1配線側スイッチ、及び少なくとも1個の第2配線側スイッチを有する。
【0019】
複数の第1配線側スイッチは、直列接続されたn個のセルの各ノード(n+1)の内、奇数ノードと第1配線W1との間にそれぞれ接続される。少なくとも1個の第2配線側スイッチは、直列接続されたn個のセルの各ノード(n+1)の内、偶数ノードと第2配線W2との間にそれぞれ接続される。
【0020】
図1に示す例ではn=4、ノード数=5であり、セル選択回路11は、3個の第1配線側スイッチ、及び2個の第2配線側スイッチを有する。
図1では、第1スイッチS1、第5スイッチS5及び第9スイッチS9が第1配線側スイッチであり、第4スイッチS4及び第8スイッチS8が第2配線側スイッチである。
【0021】
エネルギ保持回路12(クランプ回路ともいう)は、インダクタL1、第1クランプスイッチSc1、第2クランプスイッチSc2、第3クランプスイッチSc3及び第4クランプスイッチSc4を含む。第1クランプスイッチSc1、第2クランプスイッチSc2、第3クランプスイッチSc3及び第4クランプスイッチSc4はフルブリッジ回路を構成している。具体的には、第1クランプスイッチSc1及び第2クランプスイッチSc2が直列に接続された第1アームと、第3クランプスイッチSc3及び第4クランプスイッチSc4が直列に接続された第2アームが、第1配線W1と第2配線W2間に並列に接続される。インダクタL1は、第1クランプスイッチSc1と第2クランプスイッチSc2間のノードと、第3クランプスイッチSc3と第4クランプスイッチSc4間のノードとの間に接続される。
【0022】
第1クランプスイッチSc1-第4クランプスイッチSc4は、インダクタL1の両端をエネルギ保持回路12内で導通させることができる。具体的には、セル選択回路11がいずれのセルも選択していない状態で、第1クランプスイッチSc1及び第3クランプスイッチSc3を導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第4クランプスイッチSc4を非導通状態、または第1クランプスイッチSc1及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第4クランプスイッチSc4を導通状態に制御することにより、エネルギ保持回路12内において、インダクタL1を含む閉ループを形成することができる。
【0023】
また、第1クランプスイッチSc1-第4クランプスイッチSc4は、インダクタL1に流れる電流の向きを切り替えることができる。具体的には、セル選択回路11がいずれかのセルを選択している状態で、第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態に制御するか、第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を非導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を導通状態に制御するかにより、インダクタL1に流れる電流の向きを切り替えることができる。
【0024】
制御部13は、電圧検出部14により検出されたn個のセルの電圧をもとに、直列接続されたn個のセル間の均等化処理を実行する。制御部13は例えば、マイクロコンピュータで構成することができる。なお制御部13と電圧検出部14は、ワンチップに統合されて構成されてもよい。
【0025】
本実施例では制御部13は、アクティブセルバランス方式により直列接続されたn個のセル間の均等化処理を実行する。本実施例に係るアクティブセルバランス方式では、直列接続されたn個のセル間において、あるセル(放電対象のセル)から、別のセル(充電対象のセル)にエネルギ移動を行うことにより、あるセルと別のセルの容量を均等化する。このエネルギ移動を繰り返すことにより、直列接続されたn個のセル間の容量を均等化する。
【0026】
まず制御部13は、第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態に制御する、又は第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を非導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を導通状態に制御するとともに、セル選択回路11を制御してn個のセルの内の放電対象とするセルの両端とインダクタL1の両端を所定時間、導通させて放電経路を生成する。この放電経路が生成された状態において、放電対象のセルとインダクタL1との間で電流が流れ、放電対象のセルからインダクタL1に電流が流れる状態(インダクタ増加状態ともいう)が発生し、インダクタL1にエネルギが蓄積される。
【0027】
次に制御部13は、セル選択回路11を制御してn個のセルとインダクタL1を電気的に遮断するとともに、第1クランプスイッチSc1及び第3クランプスイッチSc3を導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第4クランプスイッチSc4を非導通状態、または第1クランプスイッチSc1及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第4クランプスイッチSc4を導通状態に制御してクランプ経路を生成する。このクランプ状態では、上記閉ループに循環電流が流れ、エネルギ保持回路12内で、インダクタ電流がアクティブクランプされる。
【0028】
次に制御部13は、第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態に制御する、又は第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を非導通状態かつ第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を導通状態に制御するとともに、セル選択回路11を制御してn個のセルの内の充電対象とするセルの両端とインダクタL1の両端を所定時間、導通させて充電経路を生成する。この充電経路が生成された状態において、充電対象のセルとインダクタL1との間で電流が流れ、エネルギ保持回路12内にアクティブクランプされているインダクタ電流が、充電対象のセルに流れる状態(インダクタ電流減少状態ともいう)が発生する。以上により、あるセルから別のセルへのエネルギ移動が完了する。
【0029】
均等化回路10は、過電流保護部の構成要素として、シャント抵抗Rs、差動アンプAP1、ローパスフィルタ15及び過電流検出回路16を含む。シャント抵抗RsはインダクタL1と直列に接続される。差動アンプAP1は、シャント抵抗Rsの両端電圧を増幅してローパスフィルタ15に出力する。シャント抵抗Rs及び差動アンプAP1は、インダクタL1に流れる電流の値を検出する電流検出回路として機能する。
【0030】
当該電流検出回路により検出された電流の値は、ローパスフィルタ15を通過する。ローパスフィルタ15は、一般的なRCフィルタ回路で構成することができる。RCフィルタ回路のカットオフ周波数fcの設定方法については後述する。
【0031】
過電流検出回路16は、ローパスフィルタ15を通過した検出値と、過電流保護閾値THocpを比較し、ローパスフィルタ15を通過した検出値が過電流保護閾値THocpを超えるとインダクタL1の保護を発動する。
【0032】
過電流検出回路16は、絶対値回路とコンパレータで構成することができる。絶対値回路は、ローパスフィルタ15を通過した検出値を絶対値に変換して、コンパレータに出力する。インダクタL1には双方向に電流が流れるため、コンパレータの前段に絶対値回路を設けることにより、電流検出値の極性を統一させる。
【0033】
また過電流検出回路16は、正の過電流を検出するための正側コンパレータと、負の過電流を検出するための負側コンパレータで構成してもよい。正側コンパレータと負側コンパレータの出力はダイオードOR回路で接続され、正側コンパレータと負側コンパレータのどちらかで過電流が検出された場合、インダクタL1の保護が発動する。
【0034】
また過電流検出回路16は、正の過電流保護閾値THocp+と、負の過電流保護閾値THocp-を切り替え可能なコンパレータで構成してもよい。制御部13は第1クランプスイッチSc1-第4クランプスイッチSc4のオン/オフを制御することにより、インダクタL1に流れる電流の向きを制御している。制御部13は、インダクタL1に流れる電流の向きを過電流検出回路16に通知し、過電流検出回路16は、インダクタL1に流れる電流の向きに応じて、正の過電流保護閾値THocp+と負の過電流保護閾値THocp-を切り替える。この場合、絶対値回路を省略できる。
【0035】
過電流検出時のインダクタL1の保護として2つの方法がある。第1の方法は均等化回路10の動作を停止させる方法である。過電流検出回路16は過電流が検出されると異常停止信号を出力する。異常停止信号は、第1クランプスイッチSc1-第4クランプスイッチSc4の制御端子にそれぞれ出力され、第1クランプスイッチSc1-第4クランプスイッチSc4は異常停止信号を受けるとオフ状態になる。異常停止信号は、制御部13にも出力され、制御部13は異常停止信号を受けると均等化回路10の動作を停止させる。
【0036】
第2の方法は、インダクタL1に流入する電流を阻止しつつ、均等化回路10の動作を継続させる方法である。過電流検出回路16は過電流が検出されると異常信号を制御部13に出力する。制御部13は異常信号を受けると即座に、均等化回路10をクランプ状態に遷移させる。上述のようにクランプ状態では、n個のセルとインダクタL1が電気的に遮断されるため、セルから放電された電流がインダクタL1に流入することが阻止される。その後、制御部13は通常制御に戻る。所定時間内に複数回、過電流が検出された場合、制御部13はクランプ状態への移行ではなく、均等化回路10の動作を停止させてもよい。
【0037】
第1の方法を採用するか第2の方法を採用するかは、均等化回路10のアプリケーションに依存する。安全性が重視されるアプリケーションであれば第1の方法を採用し、動作継続性が重視されるアプリケーションであれば第2の方法を採用する。
【0038】
図2は、実施例1に係る蓄電システム1の構成例2を示す図である。
図2に示す構成例2は、
図1に示した構成例1と比較して過電流検出部の構成が異なる。構成例2ではシャント抵抗Rsの代わりに、ホール素子Hsが使用される。ホール素子Hsは、インダクタL1に流れる電流に対して、垂直方向に地場をかけることにより、インダクタL1に流れる電流に応じた電圧を発生させる。それ以降の構成は、構成例1と同様である。
【0039】
図3(a)-(h)は、実施例1に係る蓄電システム1の均等化処理の基本動作シーケンス例を説明するための回路図である。本基本動作シーケンス例では説明を簡略化するために、セルの直列数を2としている。
図3(a)に示す第1状態では、制御部13は、第1スイッチS1、第1クランプスイッチSc1、第4クランプスイッチSc4及び第4スイッチS4を導通状態に制御し、第5スイッチS5、第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態に制御して放電経路を生成する。この放電状態では、第1セルC1からインダクタL1に電流が流れ、第1セルC1から放電されたエネルギがインダクタL1に蓄積される。
【0040】
図3(b)に示す第2状態では、制御部13は、第2クランプスイッチSc2及び第4クランプスイッチSc4を導通状態に制御し、第1スイッチS1、第4スイッチS4、第5スイッチS5、第1クランプスイッチSc1及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態に制御してクランプ経路を生成する。このクランプ状態では、インダクタL1に蓄積されたエネルギが、インダクタ電流として閉ループ内を流れ、アクティブクランプされる。
【0041】
図3(c)に示す第3状態では、制御部13は、第4クランプスイッチSc4、第4スイッチS4、第5スイッチS5及び第1クランプスイッチSc1を導通状態に制御し、第1スイッチS1、第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態に制御して充電経路を生成する。この充電状態では、閉ループ内にアクティブクランプされているインダクタ電流が第2セルC2に流れ、第2セルC2が充電される。
【0042】
図3(d)に示す第4状態では、制御部13は、第1スイッチS1、第4スイッチS4、第5スイッチS5、及び第1クランプスイッチSc1-第4クランプスイッチSc4を非導通状態に制御する。この状態は、第1セルC1から第2セルC2へのエネルギ移動が完了した状態である。ここまでで完結すれば、インダクタL1の電流が反転しないモード(転流しないモード)の説明となる。なお、第2セルC2の充電完了と同時に第2セルC2からの放電が開始する場合(転流モード)では、
図3(d)に示す第4状態は省略され、
図3(c)から、転流の瞬間にインダクタL1の電流が0となり、インダクタL1の電流が反転する
図3(e)に至る。
【0043】
図3(e)に示す第5状態では、制御部13は、第4スイッチS4、第2クランプスイッチSc2、第3クランプスイッチSc3及び第5スイッチS5を導通状態に制御し、第1スイッチS1、第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を非導通状態に制御して放電経路を生成する。この放電状態では、第2セルC2からインダクタL1に電流が流れ、第2セルC2から放電されたエネルギがインダクタL1に蓄積される。
【0044】
図3(f)に示す第6状態では、制御部13は、第1クランプスイッチSc1及び第3クランプスイッチSc3を導通状態に制御し、第1スイッチS1、第4スイッチS4、第5スイッチS5、第2クランプスイッチSc2及び第3クランプスイッチSc3を非導通状態に制御してクランプ経路を生成する。このクランプ状態では、インダクタL1に蓄積されたエネルギが、インダクタ電流として閉ループ内を流れ、アクティブクランプされる。
【0045】
図3(g)に示す第7状態では、制御部13は、第3クランプスイッチSc3、第1スイッチS1、第4スイッチS4及び第2クランプスイッチSc2を導通状態に制御し、第5スイッチS5、第1クランプスイッチSc1及び第4クランプスイッチSc4を非導通状態に制御して充電経路を生成する。この充電状態では、閉ループ内にアクティブクランプされているインダクタ電流が第1セルC1に流れ、第1セルC1が充電される。
【0046】
図3(h)に示す第8状態では、制御部13は、第1スイッチS1、第4スイッチS4、第5スイッチS5、及び第1クランプスイッチSc1-第4クランプスイッチSc4を非導通状態に制御する。この状態は、第2セルC2から第1セルC1へのエネルギ移動が完了した状態である。
【0047】
第2状態または第6状態において、閉ループ内にインダクタ電流がアクティブクランプされることにより、インダクタ電流の連続性が確保されるため、セル選択回路11の安全かつ確実なスイッチ切替が可能となる。
【0048】
図4(a)-(c)は、実施例1に係る蓄電システム1の均等化処理の具体例を説明するための図である。本具体例では、4つのセルC1-C4が直列接続されている例を想定する。
図4(a)は、均等化処理の開始前の第1セルC1-第4セルC4の電圧の状態を模式的に示す図である。制御部13は、電圧検出部14により検出された第1セルC1-第4セルC4の電圧の平均値を算出し、算出した平均値を均等化目標電圧(以下、単に目標電圧という)に設定する。
【0049】
制御部13は、目標電圧より電圧が高いセルから、目標電圧より電圧が低いセルへエネルギを移動させる。例えば、目標電圧より電圧が高いセルの内、最も電圧が高いセル(
図4(a)では第1セルC1)から、目標電圧より電圧が低いセルの内、最も電圧が低いセル(
図4(a)では第4セルC4)にエネルギを移動させる。
【0050】
制御部13は、移動元のセル(放電対象のセル)の電圧が目標電圧以上となる範囲で、かつ移動先のセル(充電対象のセル)の電圧が目標電圧以下となる範囲で、エネルギ移動量を決定する。制御部13は、決定したエネルギ移動量と、設計にもとづく放電電流及び充電電流に基づき、移動元のセルの放電時間と移動先のセルの充電時間を決定する。エネルギ保持回路12にアクティブクランプされている間に消費されるエネルギ量は無視できると仮定すると、基本的に移動元のセルの放電時間と移動先のセルの充電時間は同じになる。
【0051】
図4(b)は、移動元のセルである第1セルC1から、移動先のセルである第4セルC4へのエネルギ移動が完了した状態を示している。制御部13は上述した処理を再び、実行する。具体的には、目標電圧より電圧が高いセルの内、最も電圧が高いセル(
図4(b)では第3セルC3)から、目標電圧より電圧が低いセルの内、最も電圧が低いセル(
図4(b)では第2セルC2)にエネルギを移動させる。
【0052】
図4(c)は、移動元のセルである第3セルC3から、移動先のセルである第2セルC2へのエネルギ移動が完了した状態を示している。以上により、直列接続された第1セルC1-第4セルC4の均等化処理が完了する。
【0053】
図4(a)-(c)に示した具体例では、はじめに、直列接続された複数のセルの電圧の平均値を算出し、目標値を設定した。この点、目標値を設定しないアルゴリズムも可能である。制御部13は各時点において、直列接続された複数のセルの電圧の内、最も電圧が高いセルから最も電圧が低いセルへエネルギを移動させることにより、当該2つのセルの電圧を均等化する。制御部13は、この処理を、直列接続された複数のセルの電圧が全て均等化されるまで繰り返し実行する。
【0054】
また上記具体例では、均等化目標値として電圧を使用する例を説明したが、電圧の代わりに、実容量、放電可能容量または充電可能容量を使用してもよい。
【0055】
図5は、実施例2に係る蓄電システムの構成例1を示す図である。実施例2では、セル選択回路11は、インダクタL1の第1端に接続される第1配線W1、インダクタL1の第2端に接続される第2配線W2、(n+1)個の第1配線側スイッチ、及び(n+1)個の第2配線側スイッチを有する。(n+1)個の第1配線側スイッチは、直列接続されたn個のセルの各ノードと、第1配線W1との間にそれぞれ接続される。(n+1)個の第2配線側スイッチは、直列接続されたn個のセルの各ノードと、第2配線W2との間にそれぞれ接続される。
【0056】
エネルギ保持回路12(クランプ回路ともいう)は、インダクタL1及びクランプスイッチScを含む。クランプスイッチScは、インダクタL1の両端をエネルギ保持回路12内で導通させるためのスイッチである。エネルギ保持回路12は、セル選択回路11がいずれのセルも選択していない状態で、インダクタL1を含む閉ループを形成することができる。即ち、クランプスイッチScがオン状態に制御されると、インダクタL1とクランプスイッチScを含む閉ループ、すなわちクランプ経路が形成される。実施例2では、選択セルとインダクタL1との間でエネルギ移動を行う経路(放電経路及び充電経路)は、所定の1個の第1配線側スイッチ及び所定の1個の第2配線側スイッチにより形成される。ただし、エネルギ保持回路12はインダクタL1に流す電流の向きを切り替える機能を有していないので、放電経路及び充電経路はインダクタL1に流す電流の向きに応じて導通状態に切り替える第1配線側スイッチ及び第2配線側スイッチを選択して形成される。
【0057】
セル間でエネルギを移動する際、制御部13は、クランプスイッチSc1を導通状態に制御するとともに、セル選択回路11を制御してn個のセルの内の放電対象とするセルの両端とインダクタL1の両端を所定時間、導通させて放電経路を生成する。この放電経路が生成された状態において、放電対象のセルとインダクタL1との間で電流が流れ、放電対象のセルからインダクタL1に電流が流れる状態(インダクタ増加状態ともいう)が発生し、インダクタL1にエネルギが蓄積される。
【0058】
次に制御部13は、セル選択回路11を制御してn個のセルとインダクタL1を電気的に遮断するとともに、クランプスイッチScを導通状態に制御してクランプ経路を生成する。このクランプ状態では、上記閉ループに循環電流が流れ、エネルギ保持回路12内にインダクタ電流がアクティブクランプされる。
【0059】
次に制御部13は、クランプスイッチScを導通状態に制御するとともに、セル選択回路11を制御してn個のセルの内の充電対象とするセルの両端とインダクタL1の両端を所定時間、導通させて充電経路を生成する。この充電経路が生成された状態において、充電対象のセルとインダクタL1との間で電流が流れ、エネルギ保持回路12内にアクティブクランプされているインダクタ電流が、充電対象のセルに流れる状態(インダクタ電流減少状態ともいう)が発生する。以上により、あるセルから別のセルへのエネルギ移動が完了する。
【0060】
過電流保護部の構成は、
図1に示した実施例1の構成例1と同じである。
【0061】
図6は、実施例2に係る蓄電システム1の構成例2を示す図である。
図6に示す構成例2は、
図5に示した構成例1と比較して過電流検出部の構成が異なる。構成例2ではシャント抵抗Rsの代わりに、ホール素子Hsが使用される。ホール素子Hsは、インダクタL1に流れる電流に対して、垂直方向に地場をかけることにより、インダクタL1に流れる電流に応じた電圧を発生させる。それ以降の構成は、構成例1と同様である。
【0062】
図7は、比較例に係る蓄電システム1の構成例を示す図である。比較例では、蓄電部20は、直列接続された2個のセルC1、C2を含む。比較例では、2個のスイッチS1、S5を設けるだけで、2個のセルC1、2のエネルギ移動を実現できる。比較例では、電流をクランプする状態は発生しない。
【0063】
以下、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcについて説明する。ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fc(=1/2πτ)は、ローパスフィルタ15の時定数τ(=RC)と一意の関係にある。
【0064】
図8(a)-(h)は、比較例に係る過電流検出回路16に入力されるインダクタ電流の模式的な波形と、実施例1、2に係る過電流検出回路16に入力されるインダクタ電流の模式的な波形を比較した図である。
図8(a)-(d)は、比較例に係る過電流検出回路16に入力されるインダクタ電流の模式的な波形を示している。放電セルとインダクタL1を繋ぐ経路上に設けられたスイッチのターンオフにより、インダクタ電流が増加から減少に切り替わる際、基板の寄生容量や寄生インダクタンスに起因して、高周波のリンギングノイズが発生する。
【0065】
図8(a)に示す電流波形は、ローパスフィルタ15を通過しない場合の電流波形を示している。電流波形のピークでリンギングノイズが重畳されている。
図8(b)に示す電流波形は、カットオフ周波数fcが高い値に設定されたローパスフィルタ15を通過した電流波形を示している。
図8(c)に示す電流波形は、カットオフ周波数fcが中程度の値に設定されたローパスフィルタ15を通過した電流波形を示している。
図8(d)に示す電流波形は、カットオフ周波数fcが低い値に設定されたローパスフィルタ15を通過した電流波形を示している。
【0066】
図8(d)に示す電流波形では、カットオフ周波数fcが低い値に設定されているため、電流波形のピークで発生するリンギングノイズが除去されている。しかしながら、検出対象の電流波形自体も鈍るため、真のピーク値を正確に把握することができなくなる。ローパスフィルタ15により鈍った電流波形のピーク近傍に過電流保護閾値THocpを設定すると、真のピーク値と過電流保護閾値THocpとの乖離が大きくなる。
【0067】
一方、
図8(b)に示す電流波形のようにカットオフ周波数fcを高い値に設定している場合、リンギングノイズが完全には除去されず、瞬間的なリンギングノイズにより、正常な範囲の電流を過電流と誤検知する可能性がある。この誤検知を防止するためには、
図8(d)に示す電流波形のようにカットオフ周波数fcを低い値に設定する必要があるが、カットオフ周波数fcを低い値に設定するほど、無駄な設計マージンが大きくなる。インダクタL1が電流を流す能力を十分に余した状態で過電流保護が発動されることになり、インダクタL1の能力を十分に発揮できないことになる。逆に言えば、本来必要な能力に対して過剰なインダクタL1やその他の素子を使用することになり、均等化回路10が大型化および高コスト化する。特に、インダクタL1の大型化は均等化回路10全体の大型化につながる。
【0068】
図8(e)-(h)は、実施例1、2に係る過電流検出回路16に入力されるインダクタ電流を示す模式的な波形を示している。実施例1、2では、インダクタ電流がピーク値に到達してから直ぐに減少せずに、エネルギ保持回路12によりインダクタ電流がピーク値付近でクランプされる。誤検知を防止するために、
図8(h)に示す電流波形のように、リンギングノイズが十分に抑制されたカットオフ周波数fcのローパスフィルタ15を使用しても、適正な過電流保護をかけることができる。即ち、エネルギ保持回路12によりピーク値がクランプされているため、リンギングノイズが抑制されたインダクタ電流のピーク値と過電流保護閾値THocpを比較することができ、適正な過電流保護をかけることができる。
【0069】
実施例1、2では、インダクタ電流のピーク値を一定の期間保持できるため、ローパスフィルタ15の時定数を過剰に設定する必要がなく、時定数を最適な値に設定することができる。また、真のピーク値と過電流保護閾値THocpとの乖離が小さいため、設計マージンを小さくすることができ、均等化回路10が不必要に大型化および高コスト化することを抑制することができる。
【0070】
図9(a)-(c)は、比較例に係るインダクタ電流の検出波形例を示す図である。
図9(a)はリンギングノイズが重畳されていない電流波形を示し、
図9(b)はリンギングノイズが重畳されている電流波形を示し、
図9(c)はローパスフィルタ15を通過後の電流波形をそれぞれ示している。
図9(b)に示すようにリンギングノイズが重畳されると、インダクタ電流自体が正常な範囲内であっても、過電流と誤検知されてしまう。
図9(c)に示すように、カットオフ周波数fcが低い値に設定されたローパスフィルタ15を設けた場合、インダクタ電流の真のピーク値と過電流保護閾値THocpとの乖離が大きくなり、無駄な設計マージンが発生する。特に、インダクタL1が不必要に大型化する。
【0071】
図10(a)-(c)は、実施例1、2に係るインダクタ電流の検出波形例を示す図である。
図10(a)はリンギングノイズが重畳されていない電流波形を示し、
図10(b)はリンギングノイズが重畳されている電流波形を示し、
図10(c)はローパスフィルタ15を通過後の電流波形をそれぞれ示している。実施例1、2では
図10(c)に示すように、カットオフ周波数fcが低い値に設定されたローパスフィルタ15を設けた場合でも、インダクタ電流の真のピーク値と過電流保護閾値THocpとの乖離が小さくなり、設計マージンが最適化される。特に、インダクタL1が不必要に大型化することを防止することができる。
【0072】
以下、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcの設定例を説明する。ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcは、リンギングノイズを抑制しつつ、インダクタ電流自体の抑制が少ない値に設定される必要がある。
【0073】
以下、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcを可変させながら、シャント抵抗Rsの両端を電流プローブで計測し、オシロスコープで観測した実験結果を示す。シャント抵抗Rsの抵抗値は1Ω、クランプスイッチScの駆動周波数fswは300kHzで計測を行っている。
【0074】
図11(a)-(b)は、ローパスフィルタ15を通過していないインダクタ電流の検出波形と、カットオフ周波数fcが20MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したインダクタ電流の検出波形をそれぞれ示した図である。
図12(a)-(b)は、カットオフ周波数fcが8MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したインダクタ電流の検出波形と、カットオフ周波数fcが4MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したインダクタ電流の検出波形をそれぞれ示した図である。
図13(a)-(b)は、カットオフ周波数fcが2MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したインダクタ電流の検出波形と、カットオフ周波数fcが1MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したインダクタ電流の検出波形をそれぞれ示した図である。
図14は、カットオフ周波数fcが0.5MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したインダクタ電流の検出波形を示した図である。
【0075】
これらの電流波形の内、
図12(b)に示した電流検出波形と
図13(a)に示した電流検出波形が、リンギングノイズを抑制しつつ、インダクタ電流自体の抑制が少ない電流波形といえる。
図12(b)のカットオフ周波数fc=4MHzと、
図13(a)のカットオフ周波数fc=2MHzの間をとって、カットオフ周波数fc=3MHzのローパスフィルタ15を使用する場合、クランプスイッチScの駆動周波数fswとローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcの関係は下記(式1)のようになる。
【0076】
fsw:fc=300kHz:3MHz=1:10 ・・・(式1)
【0077】
以上の実験結果を踏まえ、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcを、クランプスイッチScの駆動周波数fswの10倍以上に設定すれば、リンギングノイズを抑制しつつ、インダクタ電流自体の抑制が少ない望ましい電流波形が得られる。クランプスイッチScの駆動周波数fswに対するローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcの倍率は、10倍以上に設定されると好適であるがこれには限定されず、場合によって少なくとも1より大の所定倍以上に設定してリンギングノイズの抑制効果とインダクタ電流の抑制度合に応じて設定すれば良い。
【0078】
次に、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcを可変させながら、任意波形発生器で発生させたリンギングノイズの模擬波形をオシロスコープで観測した実験結果を示す。本実験では、リンギング周波数fr=1.25MHzのリンギングノイズの模擬波形を使用している。
【0079】
図15(a)-(b)は、ローパスフィルタ15を通過していないリンギングノイズの検出波形と、カットオフ周波数fcが20MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したリンギングノイズの検出波形をそれぞれ示した図である。
図16(a)-(b)は、カットオフ周波数fcが2MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したリンギングノイズの検出波形と、カットオフ周波数fcが1MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したリンギングノイズの検出波形をそれぞれ示した図である。
図17(a)-(b)は、カットオフ周波数fcが0.5MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したリンギングノイズの検出波形と、カットオフ周波数fcが0.25MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したリンギングノイズの検出波形をそれぞれ示した図である。
図18は、カットオフ周波数fcが0.125MHzに設定されたローパスフィルタ15を通過したリンギングノイズの検出波形を示した図である。
【0080】
リンギング周波数frとカットオフ周波数fcの関係が1:1のとき、ローパスフィルタ15の減衰量は-3dB(1/√2)になる。リンギング周波数frとカットオフ周波数fcの関係が10:1のとき、ローパスフィルタ15の減衰量は-20dB(1/10)になる。リンギング周波数frとカットオフ周波数fcの関係が100:1のとき、ローパスフィルタ15の減衰量は-40dB(1/100)になる。
【0081】
リンギングノイズは必ずしも完全に除去される必要はなく、インダクタ電流の検出において無視できる程度まで抑制されていればよい。
図18に示した検出波形では、リンギングノイズが無視できる程度まで抑制されているといえる。以上の実験結果から下記(式2)に示すように、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcを、リンギング周波数frの1/10以下に設定すれば、リンギングノイズを無視できる程度まで抑制できることになる。リンギング周波数frに対するローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcの倍率は、1/10以下に設定されると好適であるがこれには限定されず、場合によって少なくとも1より小の所定倍以下に設定してリンギングノイズの抑制効果とインダクタ電流の抑制度合に応じて設定すれば良い。
【0082】
fr:fc=1.25MHz:0.125MHz=10:1 ・・・(式2)
【0083】
以上に説明した実施例1、2では、直列接続された複数のセル間をアクティブ方式により均等化する例を説明した。この点、実施例1、2に係る均等化回路を用いて、直列接続された複数のモジュール間を均等化することもできる。その場合、実施例1、2の説明内の「セル」を「モジュール」に適宜、読み替えればよい。
【0084】
図19は、実施例3に係る蓄電システム1Mの構成を示す図である。
図19は、直列接続された複数のモジュール間を均等化処理する均等化回路を備える蓄電システム1Mを示している。
図19において、複数のモジュールは
図1に示した蓄電システム1と同様にそれぞれセル用均等化回路及び複数のセルが直列接続される蓄電部を備えている。第1モジュールM1はセル用均等化回路10A及び蓄電部20Aを備え、第2モジュールM2はセル用均等化回路10B及び蓄電部20Bを備え、第3モジュールM3はセル用均等化回路10C及び蓄電部20Cを備え、第4モジュールM4はセル用均等化回路10D及び蓄電部20Dを備えている。
【0085】
モジュール用均等化回路10Mは、電圧検出部14M、モジュール選択回路11M、エネルギ保持回路12M及び制御部13Mを含む。
【0086】
本実施例では制御部13Mは、アクティブモジュールバランス方式により直列接続されたm個のモジュール間の均等化処理を実行する。本実施例に係るアクティブモジュールバランス方式では、直列接続されたm個のモジュール間において、あるモジュール(放電対象のモジュール)から、別のモジュール(充電対象のモジュール)にエネルギ移動を行うことにより、あるモジュールと別のモジュールの容量を均等化する。このエネルギ移動を繰り返すことにより、直列接続されたm個のモジュール間の容量を均等化する。
【0087】
以上の複数のモジュール間の均等化処理とは別に各モジュール内の直列接続された複数のセル間の均等化処理が行われる。各モジュール内の直列接続された複数のセル間の均等化処理は、複数のモジュール間の均等化処理と多重的に実行する構成であってもよい。この場合、モジュール用均等化回路10Mとセル用均等化回路10A-10Dとは通信により互いに連携して動作される。モジュール間の均等化処理は、セル間の均等化処理よりも優先して実行されることが好ましく、モジュール間の均等化処理が完了した後に、セル間の均等化処理を完了させることによりモジュール間の均等化処理を実行したことにより発生する各セルの電圧差を解消できる。
【0088】
過電流保護部の構成は、
図1に示した実施例1の構成例1と同じである。
【0089】
以上説明したように実施例1-3によれば、適正な回路規模およびコストで、インダクタ電流の検出波形に含まれる高周波ノイズを抑制し、高精度な過電流保護を実現することができる。インダクタ電流をクランプしているときの電流波形の平坦部分で過電流の有無を検出するため、ローパスフィルタ15のカットオフ周波数fcを適正な値に設定することができる。これにより、過剰なマージンを持った設計が不要になり、均等化回路10の回路規模およびコストを適正化することができる。インダクタ、スイッチ、セルなどの構成部分の過剰スペックを防止することができる。また、一般的な過電流保護回路のローパスフィルタの時定数を最適化するだけでよいため、特別な追加部分も不要である。
【0090】
以上、本開示を実施例をもとに説明した。実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に容易に理解されるところである。
【0091】
上述した実施例1-3では、アクティブセルバランス方式の均等化回路を説明したが、複数のセルまたはモジュール間の均等化を目的としないエネルギ移動にも適用可能である。例えば、2つのモジュール間の温度が大きく異なる場合、保存劣化を抑制するために、温度が高いモジュールのエネルギの少なくとも一部を、温度が低いモジュールに移動させてもよい。
【0092】
また上述した実施例1-3では、1つのセルから別の1つのセルへのエネルギ移動を説明したが、直列接続された複数のセルから、別の直列接続された複数のセルへのエネルギ移動も可能である。また、1つのセルから、別の直列接続された複数のセルへのエネルギ移動、及び直列接続された複数のセルから、別の1つのセルへのエネルギも可能である。モジュールについても同様である。
【0093】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0094】
[項目1]
インダクタ(L1)と、
直列接続されたn(nは2以上の整数)個のセル(C1-C4)と前記インダクタ(L1)間に設けられ、前記n個のセル(C1-C4)のいずれか1個あるいは直列接続される複数個のセルからなる選択セルの両端と、前記インダクタ(L1)の両端を導通させることが可能なセル選択回路(11)と、
前記セル選択回路(11)がいずれのセル(C1-C4)も選択していない状態で、前記インダクタ(L1)を含む閉ループを形成するためのクランプスイッチ(Sc1-Sc4、またはSc)を有するクランプ回路(12)と、
前記インダクタ(L1)に流れる電流の値を検出する電流検出回路(RsとAP1、またはHsとAP1)と、
前記電流検出回路(RsとAP1、またはHsとAP1)により検出された検出値を帯域制限するローパスフィルタ(15)と、
前記ローパスフィルタ(15)により帯域制限された検出値が閾値を超えると前記インダクタ(L1)の保護を発動する過電流検出回路(16)と、
を備えることを特徴とするエネルギ移動回路(10)。
これによれば、適正な回路規模およびコストで、高精度な過電流保護を実現することができる。
[項目2]
前記セル選択回路(11)と前記クランプ回路(12)を制御する制御部(13)をさらに備え、
前記制御部(13)は、
前記n個のセル(C1-C4)の内の放電対象の前記選択セルである放電セル(C1)から前記インダクタ(L1)に電流が流れるように、前記放電セル(C1)の両側のノードに前記インダクタ(L1)の両端が接続される放電経路を形成し、前記インダクタ(L1)に流れる電流を増加させるインダクタ電流増加状態、
前記インダクタ(L1)の両端間にクランプ電流が流れるように、前記インダクタ(L1)の両端間が前記クランプスイッチ(Sc1、Sc4)を介して接続されるクランプ経路を生成し、前記インダクタ(L1)に流れる電流を前記クランプ経路で循環させるクランプ状態、
前記n個のセルの内(C1-C4)の充電対象の前記選択セルである充電セル(C2)に前記インダクタ(L1)から電流が流れるように、前記充電セル(C2)の両側のノードに前記インダクタ(L1)の両端が接続される充電経路を生成し、前記インダクタ(L1)に流れる電流を減少させるインダクタ電流減少状態の順に制御することを特徴とする項目1に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、クランプ状態を利用して、高感度な過電流検出を実現することができる。
[項目3]
前記過電流検出回路(16)は、前記検出値が前記閾値を超えると、前記制御部(13)に前記クランプ状態に遷移するよう指示することを特徴とする項目2に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、エネルギ移動回路(10)の動作を継続しつつ、インダクタ(L1)の飽和を防止することができる。
[項目4]
前記過電流検出回路(16)は、前記検出値が前記閾値を超えると、前記少なくとも1つのクランプスイッチ(Sc1-Sc4、またはSc)をオフ状態に制御することを特徴とする項目1または2に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、エネルギ移動回路(10)の動作を停止させることにより、インダクタ(L1)の飽和を防止することができる。
[項目5]
前記セル選択回路(11)は、
前記インダクタ(L1)の一端に接続される第1配線(W1)と、
前記インダクタ(L1)の他端に接続される第2配線(W2)と、
前記選択セルの両端の一方を前記第1配線(W1)に選択的に接続する(n+1)個の第1配線側スイッチ(S1、S3、S5、S7、S9)と、
前記選択セルの両端の他方を前記第2配線(W2)に選択的に接続する(n+1)個の第2配線側スイッチ(S2、S4、S6、S8、S10)と、を含み、
前記クランプ回路(12)は、1つのクランプスイッチ(Sc)を含むことを特徴とする項目1から4のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、クランプ回路(12)に使用されるクランプスイッチ(Sc)を1個で構成することができる。
[項目6]
前記セル選択回路(11)は、
前記インダクタ(L1)の一端に接続される第1配線(W1)と、
前記インダクタ(L1)の他端に接続される第2配線(W2)と、
前記直列接続されたn個のセル(C1-C4)の各ノード(n+1)の内、奇数ノードと前記第1配線(W1)との間にそれぞれ接続される複数の第1配線側スイッチ(S1、S5、S9)と、
前記直列接続されたn個のセル(C1-C4)の各ノード(n+1)の内、偶数ノードと前記第2配線(W2)との間にそれぞれ接続される少なくとも1個の第2配線側スイッチ(S4、S8)と、を含み、
前記クランプ回路(12)は、互いに直列に接続された第1クランプスイッチ(Sc1)及び第2クランプスイッチ(Sc2)と、互いに直列に接続された第3クランプスイッチ(Sc3)及び第4クランプスイッチ(Sc4)とを備え、
前記インダクタ(L1)は、前記第1クランプスイッチ(Sc1)及び前記第2クランプスイッチ(Sc2)間のノードと前記第3クランプスイッチ(Sc3)及び前記第4クランプスイッチ(Sc4)間のノードとの間に接続され、
前記第1クランプスイッチ(Sc1)及び前記第3クランプスイッチ(Sc3)の前記インダクタ(L1)に接続されていない一端は、前記第1配線(W1)に接続され、
前記第2クランプスイッチ(Sc2)及び前記第4クランプスイッチ(Sc4)の前記インダクタ(L1)に接続されていない一端は、前記第2配線(W2)に接続され、
前記クランプ回路(12)は、前記インダクタ(L1)と前記第1クランプスイッチ(Sc1)、前記第2クランプスイッチ(Sc2)、前記第3クランプスイッチ(Sc3)及び前記第4クランプスイッチ(Sc4)とによりフルブリッジ接続されたことを特徴とする項目1から4のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、第1配線側スイッチ(S1、S5、S9)と第2配線側スイッチ(S4、S8)の数を減らすことができる。
[項目7]
前記ローパスフィルタ(15)のカットオフ周波数は、前記少なくとも1つのクランプスイッチ(Sc1-Sc4、またはSc)の駆動周波数の1より大の所定倍(例えば、約10倍)以上に設定されることを特徴とする項目1から6のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、インダクタ電流自体を抑制せずに、リンギングノイズを抑制することができる。
[項目8]
前記ローパスフィルタ(15)のカットオフ周波数は、前記インダクタ(L1)に流れる電流に重畳されるリンギングノイズの周波数の1より小の所定倍(例えば、1/10)以下に設定されることを特徴とする項目1から7のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、インダクタ電流自体を抑制せずに、リンギングノイズを抑制することができる。
[項目9]
前記n個のセル(C1-C4)のそれぞれの電圧を検出する電圧検出部(14)をさらに備え、
前記制御部(13)は、前記電圧検出部(14)により検出された前記n個のセル(C1-C4)の電圧をもとに、前記n個のセル(C1-C4)間の均等化処理を実行する項目2に記載のエネルギ移動回路(10)。
これによれば、エネルギ移動を利用した均等化回路を実現することができる。
[項目10]
前記制御部(13)は、前記電圧検出部(14)により検出された前記n個のセル(C1-C4)の電圧をもとに、前記n個のセル(C1-C4)の目標電圧または目標容量を決定し、前記目標電圧または目標容量より高いセルを放電対象のセルに決定し、前記目標電圧または目標容量より低いセルを充電対象のセルに決定することを特徴とする項目9に記載のネルギー移動回路(10)。
これによれば、セル(C1-C4)間のエネルギ移動によるアクティブセルバランスを実現することができる。
[項目11]
直列接続されたn(nは2以上の整数)個のセル(C1-C4)と、
項目1から10のいずれか1項に記載のエネルギ移動回路(10)と、
を備えることを特徴とする蓄電システム(1)。
これによれば、適正な回路規模およびコストで、高精度な過電流保護を実現した蓄電システム(1)を構築することができる。
[項目12]
インダクタ(L1M)と、
直列接続されたm(mは2以上の整数)個のモジュール(M1-M4)と前記インダクタ(L1M)間に設けられ、前記m個のモジュール(M1-M4)のいずれか1個あるいは直列接続される複数個のモジュールからなる選択モジュールの両端と、前記インダクタ(L1M)の両端を導通させることが可能なモジュール選択回路(11M)と、
前記モジュール選択回路(11M)がいずれのモジュール(M1-M4)も選択していない状態で、前記インダクタ(L1M)を含む閉ループを形成するためのクランプスイッチ(Sc1M-Sc4M)を有するクランプ回路(12M)と、
前記インダクタ(L1M)に流れる電流の値を検出する電流検出回路(RsとAP1)と、
前記電流検出回路(RsとAP1)により検出された検出値を帯域制限するローパスフィルタ(15)と、
前記ローパスフィルタ(15)により帯域制限された検出値が閾値を超えると前記インダクタ(L1M)の保護を発動する過電流検出回路(16)と、
を備えることを特徴とするエネルギ移動回路(10M)。
これによれば、適正な回路規模およびコストで、高精度な過電流保護を実現することができる。
[項目13]
前記モジュール選択回路(11M)と前記クランプ回路(12M)を制御する制御部(13M)をさらに備え、
前記m個のモジュール(M1-M4)は、それぞれ、
直列接続された複数のセル(C1-C4)と、
前記複数のセル(C1-C4)のそれぞれのセル電圧を検出するセル電圧検出部(14)と、
前記セル電圧検出部(14)により検出されるセル電圧に基づいて同一モジュール(M1-M4)内の複数のセル電圧を均等化するセル用均等化回路(10A-10D)と、を含み、
前記セル用均等化回路(10A-10D)は、前記制御部(13M)と通信により互いに連携して動作し、前記m個のモジュール(M1-M4)間の均等化処理が実行された後、前記複数のセル(C1-C4)間の均等化処理を実行することを特徴とする項目12に記載のエネルギ移動回路(10M)。
これによれば、モジュール(M1-M4)間のエネルギ移動によるアクティブモジュールバランスと、セル(C1-C4)間のエネルギ移動によるアクティブセルバランスを併用して、効率的に全てのセルの均等化を実現することができる。
[項目14]
直列接続されたm(mは2以上の整数)個のモジュール(M1-M4)と、
項目12または13に記載のエネルギ移動回路(10M)と、
を備えることを特徴とする蓄電システム(1M)。
これによれば、適正な回路規模およびコストで、高精度な過電流保護を実現した蓄電システム(1M)を構築することができる。
【符号の説明】
【0095】
1 蓄電システム、 10 均等化回路、 11 セル選択回路、 12 エネルギ保持回路、 13 制御部、 14 電圧検出部、 15 ローパスフィルタ、 16 過電流検出回路、 20 蓄電部、 C1-C4 セル、 L1 インダクタ、 W1 第1配線、 W2 第2配線、 S1-S10 スイッチ、 Sc1-Sc4 クランプスイッチ、 Rs シャント抵抗、 Hs ホール素子、 AP1 差動アンプ。