(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240112BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20240112BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20240112BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20240112BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240112BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240112BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20240112BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240112BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20240112BHJP
【FI】
H01F41/02 D
H01F1/147 191
H01F1/26
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F1/102 100
B22F3/00 B
B22F3/02 M
C22C38/00 303T
(21)【出願番号】P 2022026029
(22)【出願日】2022-02-22
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-219161(JP,A)
【文献】特開2002-15912(JP,A)
【文献】特開2011-38133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/147
H01F 1/26
H01F 27/255
B22F 1/00
B22F 1/102
B22F 3/00
B22F 3/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeSiAl合金粉末に潤滑剤を添加する第1の潤滑剤添加工程と、
前記第1の潤滑剤添加工程の後に、前記FeSiAl合金粉末を絶縁樹脂で被覆する絶縁処理工程と、
前記絶縁処理工程の後、潤滑剤を添加する第2の潤滑剤添加工程と、
前記第2の潤滑剤添加工程の後、前記FeSiAl合金粉末を所定形状の成型体に加圧成型する成型工程と、
前記成型体を焼鈍する熱処理工程と、
を含み、
前記第1の潤滑剤添加工程及び前記第2の潤滑剤添加工程のうちの一方では、ステアリン酸アルミニウムを含む潤滑剤を添加し、
前記第1の潤滑剤添加工程及び前記第2の潤滑剤添加工程のうちの他方では、ステアリン酸又はステアリン酸亜鉛を含む潤滑剤を添加し、
前記ステアリン酸アルミニウムの添加量は、前記FeSiAl合金粉末に対して0.1wt%以上0.3wt%以下であること、
を特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記第1の潤滑剤添加工程と前記第2の潤滑剤添加工程で添加される潤滑剤の総量は、前記FeSiAl合金粉末に対して1.2wt%以下であること、
を特徴とする請求項1記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項3】
前記第1の潤滑剤添加工程及び前記第2の潤滑剤添加工程のうちの他方では、ステアリン酸を含む潤滑剤を添加すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ又はリアクトルとも呼ばれるコイルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。コイルは、電力用途では特にリアクトルとも呼ばれ、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源といった各種の分野で使用されている。
【0003】
コイルには圧粉磁心のコアが多用されている。圧粉磁心は、圧粉磁心用粉末を押し固めた成型体を焼鈍したものである。圧粉磁心用粉末は、軟磁性金属の粉末である。軟磁性粉末としては、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、アモルファス合金、純鉄粉等が挙げられる。
【0004】
圧粉磁心の製造過程では、軟磁性粉末同士の滑りを向上させて軟磁性粉末の密度を向上させたり、成型時の上パンチを離型させる際の抜き圧を低減させるため、潤滑剤を添加する場合がある。そして、特許文献1では、この潤滑剤としてステアリン酸アルミニウムを用いると、圧粉磁心の成型体強度を大きくすることができるとの報告がなされている。
【0005】
特許文献1には、軟磁性粉末に対して1.5wt%の添加量までは、ステアリン酸アルミニウムによる圧粉磁心の成型強度の恩恵が得られると報告されている。そして、この成型強度の増大は、ステアリン酸アルミニウムは摩擦係数及びへき開性が小さいためであるとされ、ステアリン酸アルミニウムがもたらす効果であると推定されている。そのため、特許文献1では、パーマロイを用いた軟磁性粉末において成型強度増大の効果が確認されているが、Si含有鉄合金、センダスト合金(以下、FeSiAl合金粉末という)その他の軟磁性粉末についても、ステアリン酸アルミニウムによる成型強度増大の効果が得られるものと一般化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
確かに、パーマロイ以外にも、Si含有鉄合金や純鉄を圧粉磁心用粉末として用い、ステアリン酸アルミニウムを潤滑剤として添加した場合、圧粉磁心の成型強度は増大する。しかしながら、FeSiAl合金粉末を圧粉磁心用粉末として用い、ステアリン酸アルミニウムを潤滑剤として添加した場合、成型強度は寧ろ悪化する傾向が確認された。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するために提案されたものであり、本発明の目的は、FeSiAl合金粉末を用いつつ、圧粉磁心の成型強度が高くなる圧粉磁心の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の実施形態に係る圧粉磁心の製造方法は、FeSiAl合金粉末に潤滑剤を添加する第1の潤滑剤添加工程と、前記第1の潤滑剤添加工程の後、前記FeSiAl合金粉末を絶縁樹脂で被覆する絶縁処理工程と、前記絶縁処理工程の後に、潤滑剤を添加する第2の潤滑剤添加工程と、前記第2の潤滑剤添加工程の後、前記FeSiAl合金粉末を所定形状の成型体に加圧成型する成型工程と、前記成型体を焼鈍する熱処理工程と、を含み、前記第1の潤滑剤添加工程及び前記第2の潤滑剤添加工程のうちの一方では、ステアリン酸アルミニウムを含む潤滑剤を添加し、前記第1の潤滑剤添加工程及び前記第2の潤滑剤添加工程のうちの他方では、ステアリン酸又はステアリン酸亜鉛を含む潤滑剤を添加し、前記ステアリン酸アルミニウムの添加量は、前記FeSiAl合金粉末に対して0.1wt%以上0.3wt%以下である。
【0010】
前記第1の潤滑剤添加工程と前記第2の潤滑剤添加工程で添加される潤滑剤の総量は、前記FeSiAl合金粉末に対して1.2wt%以下であるようにしてもよい。
【0011】
前記第1の潤滑剤添加工程及び前記第2の潤滑剤添加工程のうちの他方では、ステアリン酸を含む潤滑剤を添加するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、FeSiAl合金粉末を用いつつ、圧粉磁心の成型強度を高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る圧粉磁心の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0014】
(概略製法)
圧粉磁心は、インダクタ及びリアクトルとも呼ばれるコイルのコアに用いられる磁性体である。圧粉磁心は、絶縁被覆されたFeSiAl合金粉末により成る。この圧粉磁心は、FeSiAl合金粉末を作製する粉末作製工程、FeSiAl合金粉末と潤滑剤を混合する第1の潤滑剤添加工程、絶縁樹脂でFeSiAl合金粉末を被覆する絶縁処理工程、更に潤滑剤を混合する第2の潤滑剤添加工程、絶縁樹脂で被覆されたFeSiAl合金粉末をコアの形状に加圧成型する成型工程、及び成型体を焼鈍する熱処理工程をこの順番で経て作製される。
【0015】
(粉末作製工程)
FeSiAl合金粉末は、鉄と珪素とアルミニウムからなる三元合金であり、センダスト(登録商標)とも呼ばれる。FeSiAl合金粉末は、例えば、Feに対して、6wt%から10wt%程度のSiと、4wt%から5wt%程度のAlとを含有させている。FeSiAl系合金粉末には、例えば、Feに対して1wt%から3wt%程度のNiが含まれていてもよい。更に、FeSiAl系合金粉末にはCo、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0016】
このFeSiAl合金粉末は、粉砕法により作製されたものでも、アトマイズ法により作製されたものでもよい。粉砕法では、FeSiAl合金の金属塊をゾークラッシャー、ハンマーミル、アトリションミル、スタンプミル又はボールミル加工等によって機械的に粉砕する。アトマイズ法は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水ガスアトマイズ法のいずれでも良い。粉砕粉は、現状、もっとも入手性が良く低コストである。粉砕法を使用した場合は、その粒子形状がいびつであるので、それを加圧成型した粉末成型体の機械的強度を向上させやすいため、好ましい。ガスアトマイズ法は、ヒステリシス損失を効果的に低減でき、好ましい。
【0017】
FeSiAl合金粉末は、比表面積が小さいものが好ましい。つまり、球形度が高いことが好ましい。比表面積が小さいと、FeSiAl合金粉末同士の隙間が少なくなり、密度及び透磁率の向上を図ることができるからである。球形度が高いことを示す指標として、FeSiAl合金粉末の円形度を用いる場合には、円形度が0.95以上であることが好ましい。ボールミル、メカニカルアロイング、ジェットミル、アトライター又は表面改質装置を用いて表面の凹凸を均すことで、粒子の平均円形度を上昇させることができる。
【0018】
このFeSiAl合金粉末は、非酸化雰囲気で熱処理しておくことが好ましい。非酸化雰囲気としては、雰囲気中の酸素濃度が0.01%等の低酸素雰囲気、不活性ガス雰囲気又は還元ガス雰囲気が望ましい。不活性ガスとしてはArなどの貴ガスやN2が挙げられる。また、還元ガスとしてはH2等が挙げられる。加熱時間は、例えば1~6時間程度である。この熱処理工程では、500℃以上700℃以下の温度環境下にFeSiAl合金粉末を晒すことが好ましい。500℃以上700℃以下の温度環境下にFeSiAl合金粉末を晒すと、ヒステリシス損失の低減効果を得ることができる。
【0019】
(潤滑剤添加工程)
第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の各々ではFeSiAl合金粉末に潤滑剤を混合する。第1の潤滑剤添加工程は、粉末作製工程の後及び絶縁処理工程前に位置し、第1の潤滑剤添加工程では、絶縁樹脂で未被覆のFeSiAl合金粉末に潤滑剤を添加して混合する。第2の潤滑剤添加工程は、絶縁処理工程の後及び成型工程前に位置し、第2の潤滑剤添加工程では、絶縁樹脂で被覆されたFeSiAl合金粉末に潤滑剤を添加して混合する。
【0020】
尚、後述のように絶縁処理工程では、絶縁樹脂の混合工程と、加熱による乾燥工程を経るが、第1の潤滑剤添加工程による潤滑剤は、絶縁処理工程の乾燥工程前までに添加及び混合されればよい。即ち、先に潤滑剤を添加及び混合し、後に絶縁樹脂を添加及び混合してもよいし、潤滑剤と絶縁樹脂を同時に添加及び混合してもよい。
【0021】
第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の一方では、潤滑剤にステアリン酸アルミニウムが用いられる。そして、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の他方では、潤滑剤にステアリン酸又はステアリン酸亜鉛が用いられる。潤滑剤としてステアリン酸アルミニウムを、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の両方で用いてもよい。第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の両方でステアリン酸アルミニウムを用いた場合、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の両方でステアリン酸又はステアリン酸亜鉛も用いる。
【0022】
具体的には、第1の添加パターンとして、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムを添加し、第2の潤滑剤添加工程でステアリン酸を添加する。第2の添加パターンとして、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムを添加し、第2の潤滑剤添加工程でステアリン酸亜鉛を添加する。
【0023】
第3の添加パターンとして、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸を添加し、第2の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムを添加する。第4の添加パターンとして、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸亜鉛を添加し、第2の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムを添加する。
【0024】
第5の添加パターンとして、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の各々で、ステアリン酸アルミニウムとステアリン酸の両方を添加する。第6の添加パターンとして、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の各々で、ステアリン酸アルミニウムとステアリン酸亜鉛の両方を添加する。
【0025】
即ち、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の少なくとも一方には、潤滑剤にステアリン酸アルミニウムが含まれる。第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の他方には、潤滑剤にステアリン酸又はステアリン酸亜鉛が含まれる。換言すると、潤滑剤としてステアリン酸アルミニウムを用いる場合、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の両方で潤滑剤としてステアリン酸アルミニウムのみを用いてはならない。これにより、FeSiAl合金粉末であっても、圧粉磁心の成型強度は向上する。
【0026】
ステアリン酸とステアリン酸亜鉛のうちでは、ステアリン酸の添加が特に好ましい。第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の少なくとも一方でステアリン酸アルミニウムを含む潤滑剤を添加し、他方でステアリン酸を含む潤滑剤を添加すると、FeSiAl合金粉末により成る圧粉磁心の成型強度の向上効果は特に大きい。
【0027】
但し、ステアリン酸アルミニウムの添加量は、FeSiAl合金粉末に対して0.1wt%以上0.3wt%以下とする。ステアリン酸アルミニウムの添加量を0.3wt%超とすると、たとえ第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の少なくとも一方でステアリン酸アルミニウムを含む潤滑剤を添加し、他方でステアリン酸又はステアリン酸亜鉛を含む潤滑剤を添加しても、FeSiAl合金粉末により成る圧粉磁心の成型強度の向上効果は得られない。または、ステアリン酸アルミニウムの添加量を0.3wt%超とすると、成型強度に比して圧粉磁心のヒステリシス損失が大きくなる。
【0028】
第1の潤滑剤添加工程と第2の潤滑剤添加工程で添加される潤滑剤の総量は、FeSiAl合金粉末に対して1.2wt%以下であることが好ましい。総量が1.2wt%以下であれば、成型強度の向上効果と共に、圧粉磁心の高い透磁率、圧粉磁心の低い鉄損又はこれらの両方の効果が得られる。
【0029】
(絶縁処理工程)
絶縁樹脂は、絶縁性を有する。FeSiAl合金粉末を絶縁樹脂で被覆することで、FeSiAl合金粉末の粒子間の電気的絶縁性を確保し、圧粉磁心の渦電流損失を低下させる。絶縁樹脂は、バインダー作用も兼ね備え、成型時の保形性を高め、更には焼鈍後の成型体の強度をより強固なものとし、またFeSiAl合金粉末の密度を向上させ、圧粉磁心の透磁率を上げる。
【0030】
絶縁樹脂は、FeSiAl合金粉末の全表面を覆うように付着していてもよく、粉末の一部の表面を覆うように付着していてもよいし、これらの両方の態様が混在していてもよい。また、この絶縁粉末は、FeSiAl合金粉末の各粒子に付着していてもよいし、粒子の凝集体の表面に付着していてもよいし、これらの両方の態様が混在していてもよい。粒子や凝集体の一部表面を覆うとき、絶縁樹脂は、点状に分散して付着していてもよいし、塊状に分散して付着していてもよいし、これらの態様が混在していてもよい。
【0031】
絶縁樹脂としては、シラン化合物、シリコーンレジン又はこれらの両方を使用することができる。例えば、FeSiAl合金粉末が、シラン化合物とシリコーンレジンの両方で被覆される場合、シラン化合物とシリコーンレジンが各層に分かれていてもよいし、各種類が混合された単層であってもよい。
【0032】
シラン化合物には、官能基の無いシラン化合物及びシランカップリング剤が含まれる。官能基の無いシラン化合物としては、例えばエトキシ系及びメトキシ系等のアルコキシシランを使用することができ、更に具体的にはテトラエトキシシランが挙げられる。シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系等を使用することができ、更に具体的には3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが挙げられる。官能基の無いシラン化合物やシランカップリング剤の添加量としては、FeSiAl合金粉末に対して、0.05wt%以上1.0wt%以下が好ましい。シラン化合物の添加量をこの範囲にすることで、FeSiAl合金粉末の流動性を向上させるとともに、成型された圧粉磁心の密度、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0033】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O―Si)を主骨格に持つ樹脂であり、可撓性に優れた絶縁層を形成することができる。シリコーンレジンとしては、典型的には、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁層を形成することができる。シリコーンレジンの添加量は、FeSiAl合金粉末に対して、0.8wt%以上2.0wt%以下であることが好ましい。添加量が0.8wt%より少ないと絶縁被膜として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下し、またシリコーンレジンがバインダーとしての機能が不足し、強度の低下を招く。添加量が2.0wt%より多いと圧粉磁心の密度低下を招く。
【0034】
絶縁処理工程では、まず、絶縁樹脂とFeSiAl合金粉末との混合工程を経る。絶縁処理工程では、混合工程の後、加熱による乾燥工程を有する。乾燥工程では、特に限定はされないが70℃以上300℃以下の温度環境下に2時間程度晒しておくとよい。尚、第1の潤滑剤混合工程での潤滑剤の混合は、遅くとも、この乾燥工程の前までに実行しておく。尚、乾燥温度が70℃未満であると膜の形成が不完全となり、渦電流損失が高くなり、損失が増大する。一方、乾燥温度300℃より大きいと粉末が酸化することによりヒステリシス損失が高くなり、損失が増大する。乾燥時間は、例えば2時間程度である。
【0035】
その他、FeSiAl合金粉末には各種の添加物を付加するようにしてもよい。例えば、アルミナ粉末、マグネシア粉末、シリカ粉末、チタニア粉末及びジルコニア粉末等の無機絶縁粉末、縮合リン酸アルミニウム、縮合リン酸カルシウム及び縮合リン酸マグネシウム等の縮合リン酸金属塩を添加するようにしてもよい。
【0036】
(成型工程)
成型工程では、絶縁被覆された軟磁性粉末を加圧成型することにより、成型体を形成する。成型時の圧力は10~20ton/cm2であり、平均で12~15ton/cm2程度が好ましい。第2の潤滑剤添加工程を経ていると、成型時の上パンチを離型させる際の抜き圧も低減し、FeSiAl合金粉末が金型への焼き付きくことも防止され、成型体の品質が向上する。尚、成型工程に先立って、FeSiAl合金粉末の凝集を解消する目的で所定の目開きの篩に通しておくとよい。
【0037】
(熱処理工程)
熱処理工程では、成型工程を経た成型体を加熱して歪を除去する。加熱環境としては、不活性雰囲気中若しくは還元雰囲気中又は大気中にて、650℃以上850℃以下が好ましい。不活性雰囲気及び還元雰囲気中は、反応性ガスが低量であり、不活性ガス又は中性ガスで満たされた雰囲気である。反応性ガスは、酸素、水蒸気又は炭素ガス等である。不活性ガスは、アルゴンやヘリウム等である。中性ガスは、窒素やアンモニア等である。650℃未満であると、歪除去の効果が限定的となる。850℃超であると、絶縁樹脂の被覆層が破壊され、渦電流損失の低減効果が減殺される。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1乃至4、比較例1乃至3並びに参考例1乃至3の圧粉磁心を作製した。これら圧粉磁心は次のようにして作製された。即ち、まず粉末作製工程で、軟磁性粉末のガスアトマイズ粉末を650℃の窒素環境下で2時間加熱した。次に、第1の潤滑剤添加工程で1回目の潤滑剤を軟磁性粉末に添加及び混合した。第1の潤滑剤添加工程の後、絶縁処理工程に移り、軟磁性粉末全量に対して0.5wt%のシランカップリング剤を添加及び混合し、更に軟磁性粉末全量に対して1.2wt%のシリコーンレジンを添加及び混合し、150℃の温度雰囲気下で2時間乾燥させた。
【0040】
絶縁処理工程の後、目開き850μmの篩を通った軟磁性粉末を第2の潤滑剤添加工程に移し、2回目の潤滑剤を軟磁性粉末に添加及び混合した。次に、成型工程に移り、金型を用いて、室温状況下において12ton/cm2で外径16.5mm、内径11.0mm及び高さ5mmのトロイダル状の成型体を加圧成型した。そして、熱処理工程に移り、成型体を700℃の窒素雰囲気下で2時間加熱した。
【0041】
そして、実施例1乃至4、比較例1乃至3並びに参考例1乃至3の圧粉磁心の強度(MPa)、密度(g/cm3)、透磁率μ、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevを測定した。
【0042】
強度(MPa)は、自動荷重試験機(MAX INTELLIGENT LOAD TESTER,日本計測システム株式会社製)を用いて、試験速度0.5mm/minで測定した。
【0043】
密度(g/cm3)は、見かけ密度である。圧粉磁心の外径、内径、及び高さを測り、これらの値から各圧粉成型体の体積(cm3)を、π×(外径2-内径2)×高さに基づき算出した。そして、圧粉磁心の重量を測定し、測定した重量を算出した体積で除して密度を算出した。
【0044】
透磁率μは、0A/mにおいて測定した。透磁率μの測定に際し、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を17ターン巻回した。損失の測定に際しては、圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を1次巻線として17ターン巻回し、また2次巻線として17ターン巻回した。そして、LCRメータ(アジレントテクノロジー:4284A)を使用することで、100kHz、1.0Vにおける磁界の強さのインダクタンスから透磁率μ算出した。また、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて、周波数が100kHz及び最大磁束密度Bmが100mTの測定条件にて鉄損Pcv(kW/m3)の測定を行った。
【0045】
更に、鉄損Pcvの測定結果からヒステリシス損失Phv(kW/m3)と渦電流損失Pe(kW/m3)とを算出した。ヒステリシス損失Phv(kW/m3)と渦電流損失Pe(kW/m3)は、鉄損Pcvの周波数曲線を次の(1)~(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損失係数(Kh)、渦電流損失係数(Ke)を算出することで行った。
Pcv =Kh×f+Ke×f2・・(1)
Phv =Kh×f・・(2)
Pev =Ke×f2・・(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損失係数
Ke :渦電流損失係数
f :周波数
Phv :ヒステリシス損失
Pev :渦電流損失
【0046】
実施例1乃至4、比較例1乃至3並びに参考例1乃至3の圧粉磁心で用いられた軟磁性粉末の種類、第1の潤滑剤添加工程で添加された潤滑剤の種類及び添加量、第2の潤滑剤添加工程で添加された潤滑剤の種類及び添加量、並びに強度(MPa)を下表1に示す。また、実施例1乃至4、比較例1乃至3並びに参考例1乃至3の圧粉磁心の密度(g/cm3)、透磁率μ、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevを下表2に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表1に示すように、実施例1乃至4並びに比較例1乃至3では、軟磁性粉末としてFeSiAl合金粉末が用いられている。実施例1乃至4では、潤滑剤として、第1の潤滑剤添加工程又は第2の潤滑剤添加工程のうちの一方にステアリン酸アルミニウムのみが用いられ、第1の潤滑剤添加工程又は第2の潤滑剤添加工程のうちの他方にステアリン酸又はステアリン酸亜鉛のみが用いられている。比較例1乃至3では、潤滑剤として、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の両方でステアリン酸アルミニウムのみを用いている。
【0050】
また、表1に示すように、参考例1では、軟磁性粉末としてパーマロイが用いられている。参考例2では、軟磁性粉末として純鉄が用いられている。参考例3では、軟磁性粉末としてFeSi合金粉末が用いられている。参考例1乃至3では、潤滑剤として、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程の両方でステアリン酸アルミニウムのみを用いている。
【0051】
これに対し、表1に示すように、パーマロイ、純鉄又はFeSi合金粉末を用いた参考例1乃至3の圧粉磁心は、潤滑剤としてステアリン酸アルミニウムを用いると、確かに、圧粉磁心の成型強度(MPa)は20MPaを超えている。しかしながら、FeSiAl合金粉末を用いた比較例1乃至3の圧粉磁心は、潤滑剤としてステアリン酸アルミニウムを用いると、圧粉磁心の成型強度(Mpa)は20MPaを超えることができずに10~15MPaの範囲にとどまってしまうことが確認された。
【0052】
これら比較例1乃至3の圧粉磁心は、成型強度(MPa)が不足することによって、コアにクラック・欠けが発生し、コアとしての機能が発揮できなくなってしまう。
【0053】
一方、軟磁性粉末としてFeSiAl合金粉末を用い、潤滑剤としてステアリン酸アルミニウムを用いたとしても、実施例1乃至4のように、ステアリン酸アルミニウムを添加した工程とは別の潤滑剤添加工程で、ステアリン酸アルミニウム以外の潤滑剤を含めた場合、圧粉磁心の成型強度(MPa)は20MPaを超えることが確認された。これら実施例1乃至4は、良好な成型強度(MPa)が得られ、コアに対するクラック・欠けが減少し発生し、コアとしての機能を十分に発揮できる。
【0054】
更に、表2に示すように、FeSiAl合金粉末の実施例1乃至4は、参考例1乃至3と比較するとわかるように、密度(g/cm3)、透磁率μ、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevも良好になる。特に、実施例1乃至4の圧粉磁心は、参考例1乃至3と比べて、極めて低い鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevを達成できる。
【0055】
尚、下表3は、参考例4乃至9の圧粉磁心の密度(g/cm
3)、透磁率μ、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevを示す。
(表3)
【0056】
参考例4乃至9は、パーマロイ、純鉄又はFeSi合金粉末を用い、潤滑剤は実施例1乃至4と同じように、第1の潤滑剤添加工程と第2の潤滑剤添加工程のうちの一方にステアリン酸アルミニウムを用い、他方にステアリン酸を用いた圧粉磁心である。表3に示すように、これら参考例4乃至9は、参考例1乃至3と同じように、密度(g/cm3)、透磁率μ、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevは大きく悪化することが確認された。強度(MPa)については、参考例4乃至9と参考例1乃至3とは異なるところがなかった。
【0057】
次に、FeSiAl合金粉末を用いた実施例5乃至7の圧粉磁心を作製し、強度(MPa)、密度(g/cm3)、透磁率μ(0A/m)、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevを測定した。実施例5乃至7で添加した潤滑剤、及び測定結果を下表4及び表5に示す。
【0058】
【0059】
【0060】
表4及び表5に示すように、実施例5の圧粉磁心には、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸が潤滑剤として用いられ、第2の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムに加えてステアリン酸が潤滑剤として用いられた。実施例6の圧粉磁心には、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムに加えてステアリン酸が潤滑剤として用いられ、第2の潤滑剤添加工程でステアリン酸が潤滑剤として用いられた。実施例7の圧粉磁心には、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムに加えてステアリン酸が潤滑剤として用いられ、第2の潤滑剤添加工程でステアリン酸に加えてステアリン酸アルミニウムが潤滑剤として用いられた。実施例5の第2の潤滑剤添加工程、実施例6の第1の潤滑剤添加工程、及び実施例7の第1の潤滑剤添加工程と第2の潤滑剤添加工程では、ステアリン酸アルミニウムとステアリン酸が重量比で1:1の割合で混合された。
【0061】
表4の実施例5乃至7のように、ステアリン酸アルミニウムを添加した工程でステアリン酸も加えたり、ステアリン酸を添加した工程でステアリン酸アルミニウムを加えたりしても、成型体の強度(MPa)は良好となることが確認された。実施例1乃至7を総じて、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程のうちの一方では、ステアリン酸アルミニウムを含む潤滑剤を添加し、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程のうちの他方では、ステアリン酸又はステアリン酸亜鉛を含む潤滑剤を添加するという条件を満たせば、FeSiAl合金粉末であっても圧粉磁心の強度(MPa)が向上することが確認された。
【0062】
尚、表5に示すように、実施例5乃至7の圧粉磁心も密度(g/cm3)、透磁率μ(0A/m)、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevについて良好な結果が得られた。
【0063】
次に、FeSiAl合金粉末を用いた実施例8乃至13並びに比較例4乃至9の圧粉磁心を作製し、強度(MPa)、密度(g/cm3)、透磁率μ(0A/m)、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevを測定した。実施例8乃至13並びに比較例4乃至9で添加した潤滑剤、及び測定結果を下表6及び表7に示す。
【0064】
【0065】
【0066】
実施例8乃至10並びに比較例4乃至6は、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸を添加し、第2の潤滑剤添加工程ではステアリン酸アルミニウムを添加している点で共通している。実施例8乃至10並びに比較例4乃至6は、表6及び表7に示すように、ステアリン酸アルミニウムの添加量が異なる。また、実施例11乃至13並びに比較例7乃至9は、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムを添加し、第2の潤滑剤添加工程ではステアリン酸を添加している点で共通している。実施例11乃至13並びに比較例7乃至9は、表6及び表7に示すように、ステアリン酸アルミニウムの添加量が異なる。
【0067】
表6及び表7に示すように、ステアリン酸アルミニウムの添加量がFeSiAl合金粉末に対して0.1wt%以上0.3wt%以下であれば、圧粉磁心の成型体の強度(MPa)を高くすることが確認できる。ここで、比較例7に示すように、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムを添加している場合、20MPaを上回る強度を得られるが、得られる強度の恩恵に比して、表7に示すように、ヒステリシス損失Phが200kW/m3を超えて大きくなってしまう。
【0068】
これにより、実施例1乃至10により、FeSiAl合金粉末を用いる場合、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程のうちの一方では、ステアリン酸アルミニウムを含む潤滑剤を添加し、第1の潤滑剤添加工程及び第2の潤滑剤添加工程のうちの他方では、ステアリン酸又はステアリン酸亜鉛を含む潤滑剤を添加したとしても、更に、ステアリン酸アルミニウムの添加量は、FeSiAl合金粉末に対して0.1wt%以上0.3wt%以下とする必要があることが確認された。
【0069】
次に、FeSiAl合金粉末を用いた実施例14乃至22の圧粉磁心を作製し、強度(MPa)、密度(g/cm3)、透磁率μ(0A/m)、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevを測定した。実施例14乃至22で添加した潤滑剤、及び測定結果を下表8及び表9に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
実施例14乃至18は、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸を添加し、第2の潤滑剤添加工程ではステアリン酸アルミニウムを添加している点で共通している。実施例14乃至18は、表8及び表9に示すように、ステアリン酸の添加量が異なる。また、実施例19乃至22は、第1の潤滑剤添加工程でステアリン酸アルミニウムを添加し、第2の潤滑剤添加工程ではステアリン酸を添加している点で共通している。実施例19乃至22は、表8及び表9に示すように、ステアリン酸アルミニウムの添加量が異なる。
【0073】
表8及び表9の実施例14乃至17並びに19乃至21に示すように、ステアリン酸アルミニウムとステアリン酸の添加量の合計が1.2wt%以下であれば、圧粉磁心の成型体の高い強度(MPa)を維持しつつ、密度(g/cm3)、透磁率μ(0A/m)、鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv及び渦電流損失Pevが向上することが確認できる。一方、実施例18及び実施例22に示すように、ステアリン酸アルミニウムとステアリン酸の添加量の合計が1.2wt%を超えてしまうと、強度(Mpa)は高く維持できるものの、透磁率μ(0A/m)が少し低くなり、ヒステリシス損失Phvが少し高くなることが確認された。
【0074】
以上、本発明の実施形態及び実施例は例として提示したものであって、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。上記実施形態及び実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。そして、実施形態、実施例及びその変形は本発明の範囲に含まれるものである。