(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】生理学的感知を組み込んだ転倒検出器
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240112BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20240112BHJP
A61B 5/0533 20210101ALI20240112BHJP
A61B 5/332 20210101ALI20240112BHJP
A61B 5/02 20060101ALI20240112BHJP
A61B 5/0245 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/16 110
A61B5/0533
A61B5/332
A61B5/02 310A
A61B5/0245 Z
(21)【出願番号】P 2022570599
(86)(22)【出願日】2021-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2021062392
(87)【国際公開番号】W WO2021233725
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-06-22
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】テン カテ ワーナー ルドルフ テオフィル
(72)【発明者】
【氏名】ヒェーヴン インゲ テオドラ マルグレータ
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512777(JP,A)
【文献】特表2019-537491(JP,A)
【文献】特許第5998202(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/05-5/0538
A61B 5/06-5/22
A61B 5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転倒検出器を装着したユーザによる転倒を検出する方法であって、
ユーザデータにおける可能性のある転倒イベントの時間位置を識別するトリガイベントを検出するステップと、
前記識別された時間位置の前後の時間窓内で、動きデータから動き特徴を抽出すると共に、生理学的データから生理学的特徴を抽出するステップと、
前記動き特徴の少なくとも1つ及び前記生理学的特徴の少なくとも1つを分類器に入力することにより、前記検出されたトリガイベントが前記ユーザによる転倒であるかを決定するステップと、
前記トリガイベントの前の第1の時点において第1の生理学的データ値を決定するステップと、
前記トリガイベントの時点において第2の生理学的データ値を決定するステップと、
前記トリガイベントの後の第3の時点において第3の生理学的データ値を決定するステップと
を有し、
少なくとも1つの生理学的特徴が
、前記第1
の生理学的データ値と第2
の生理学的データ値との間の差に基づくもの、及び
/又は、第2の生理学的データ値と第3の生理学的データ値
との間の差に基づくもの
を含む、方法。
【請求項2】
前記動きデータが、加速度データ、高さデータ、角速度データ、並びに加速度データ及び高さデータ、のうちの1つを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記動きデータが加速度計からのデータを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生理学的データが、心拍数データ、皮膚コンダクタンスデータ、並びに心拍数及び皮膚コンダクタンスデータのうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生理学的特徴が、前記第1の生理学的データ値と前記第2の生理学的データ値との間の差、前記第2の生理学的データ値と前記第3の生理学的データ値との間の差、前記第1の生理学的データ値と前記第3の生理学的データ値との間の差、並びに前記第2の生理学的データ値と前記第1及び第3の生理学的データ値の和の半分との間の差に基づくものである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記動きデータに基づいて衝撃を検出するステップが、特定の時間にわたる加速度の変化が閾値を超えることを決定するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
転倒検出器を装着したユーザによる転倒を検出する方法であって、
ユーザデータにおける可能性のある転倒イベントの時間位置を識別するトリガイベントを検出するステップと、
前記識別された時間位置の前後の時間窓内で、動きデータから動き特徴を抽出すると共に、生理学的データから生理学的特徴を抽出するステップと、
前記動き特徴の少なくとも1つ及び前記生理学的特徴の少なくとも1つを分類器に入力することにより、前記検出されたトリガイベントが前記ユーザによる転倒であるかを決定するステップと、
前記トリガイベントの前の第1の時点において第1の生理学的データ値を決定するステップと、
前記トリガイベントの時点において第2の生理学的データ値を決定するステップと、
前記トリガイベントの後の第3の時点において第3の生理学的データ値を決定するステップと、
前記抽出された動き特徴が指定された正常な値の範囲外であることを決定し、次いで衝撃が前記ユーザによる転倒ではないと決定するステップ
と
を有し、
少なくとも1つの生理学的特徴が前記第1、第2及び第3の生理学的データ値のうちの2つの間の差に基づくものである
、方法。
【請求項8】
転倒が示された場合に
、転倒
による衝撃ではないことを示す例外機械学習分類器からの出力を受信するステップを更に有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
転倒検出器を装着したユーザによる転倒を検出する方法であって、
ユーザデータにおける可能性のある転倒イベントの時間位置を識別するトリガイベントを検出するステップと、
前記識別された時間位置の前後の時間窓内で、動きデータから動き特徴を抽出すると共に、生理学的データから生理学的特徴を抽出するステップと、
前記動き特徴の少なくとも1つ及び前記生理学的特徴の少なくとも1つを分類器に入力することにより、前記検出されたトリガイベントが前記ユーザによる転倒であるかを決定するステップと、
前記トリガイベントの前の第1の時点において第1の生理学的データ値を決定するステップと、
前記トリガイベントの時点において第2の生理学的データ値を決定するステップと、
前記トリガイベントの後の第3の時点において第3の生理学的データ値を決定するステップと
を有し、
少なくとも1つの生理学的特徴が前記第1、第2及び第3の生理学的データ値のうちの2つの間の差に基づくものであり、
前記分類器が、
前記抽出された動き特徴並びに第1の閾値及び第2の閾値に基づいて、衝撃が転倒であるか、非転倒であるか、又は未決定であるかを決定する動き分類器と、
前記動き分類器の出力が未決定である場合に、前記抽出された動き特徴及び前記抽出された生理学的特徴の両方に基づいて前記衝撃が転倒であるか又は非転倒であるかを決定する生理学的分類器と
を含む
、方法。
【請求項10】
前記生理学的データをリモートセンサから受信するステップを更に有する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本明細書に開示される種々の例示的実施形態は、広くは、例えば心拍数及び皮膚コンダクタンス感知等の生理学的測定値を使用して転倒を検出するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] 自動転倒検出をホストするウェアラブル装置は、通常、高さの変化、衝撃、及び恐らくは向きの変化の推定値を利用する。転倒推定を実行するための信号を提供するセンサは、気圧センサ、加速度計、ジャイロスコープ及び磁力計を含む。通常、推定される特徴値は、特徴イベントが転倒であるか又は転倒でないかを判断する分類器において組み合わされる。分類器の精度は、これらの特徴値の識別力に依存する。該識別力は、転倒の間及び非転倒の間に生じ得る可能性のある値の分布に関係する。転倒及び非転倒の分布の重なりが少ないほど、精度が向上する。一般的に、胴体の位置において、これらの分布は、しばしば、転倒イベントと非転倒イベントとの間で十分に異なり、高精度の検出結果を実現する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
[0003] 種々の例示的な実施形態の概要が以下に提示される。以下の概要では幾つかの簡略化及び省略が行われているが、これは、種々の例示的実施形態の幾つかの態様を強調及び紹介することを意図するもので、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者が本発明の概念を構成及び使用することを可能にするのに十分な例示的実施形態の詳細な説明は、後の段落でなされるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0004] 種々の実施形態は、転倒検出器を装着したユーザによる転倒を検出する方法に関するもので、該方法は、ユーザデータにおける可能性のある転倒イベントの時間位置を識別するトリガイベントを検出するステップと、前記識別された時間位置の前後の時間窓内で、動きデータから動き特徴を抽出すると共に、生理学的データから生理学的特徴を抽出するステップと、前記動き特徴の少なくとも1つ及び前記生理学的特徴の少なくとも1つを分類器に入力することにより、前記検出されたトリガイベントが前記ユーザによる転倒であるかを決定するステップとを含む。
【0005】
[0005] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記動きデータは、加速度データ、高さデータ、角速度データ、並びに加速度データ及び高さデータ、のうちの1つを含む。
【0006】
[0006] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記動きデータは加速度計からのデータを含む。
【0007】
[0007] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記生理学的データは、心拍数データ、皮膚コンダクタンスデータ、並びに心拍数及び皮膚コンダクタンスデータのうちの1つを含む。
【0008】
[0008] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記動き特徴及び生理学的特徴を抽出するステップは、前記トリガイベントの前の第1の時点において第1の生理学的データ値を決定するステップと、前記トリガイベントの時点において第2の生理学的データ値を決定するステップと、前記トリガイベントの後の第3の時点において第3の生理学的データ値を決定するステップとを更に含み、少なくとも1つの生理学的特徴は、前記第1、第2及び第3の生理学的データ値のうちの2つの間の差に基づくものである。
【0009】
[0009] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記生理学的特徴は、前記第1の生理学的データ値と前記第2の生理学的データ値との間の差、前記第2の生理学的データ値と前記第3の生理学的データ値との間の差、前記第1の生理学的データ値と前記第3の生理学的データ値との間の差、並びに前記第2の生理学的データ値と前記第1及び第3の生理学的データ値の和の半分との間の差に基づくものである。
【0010】
[0010] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記動きデータに基づいて衝撃を検出するステップは、特定の時間にわたる加速度の変化が閾値を超えることを決定するステップを更に含む。
【0011】
[0011] 種々の実施形態が記載され、該実施形態は、前記抽出された動き特徴が指定された正常な値の範囲外であることを決定し、次いで前記衝撃が前記ユーザによる転倒ではないと決定するステップを更に含む。
【0012】
[0012] 種々の実施形態が記載され、該実施形態は、転倒が示された場合に、前記衝撃が転倒ではないことを示す例外機械学習分類器からの出力を受信するステップを更に含む。
【0013】
[0013] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、機械学習分類器は:前記抽出された動き特徴並びに第1の閾値及び第2の閾値に基づいて、前記衝撃が転倒であるか、非転倒であるか、又は未決定であるかを決定する動き分類器と、該動き分類器の出力が未決定である場合に、前記抽出された動き特徴及び前記抽出された生理学的特徴の両方に基づいて前記衝撃が転倒であるか又は非転倒であるかを決定する生理学的分類器とを含む。
【0014】
[0014] 種々の実施形態が記載され、該実施形態は、前記生理学的データをリモート(遠隔の)センサから受信するステップを更に含む。
【0015】
[0015] 他の種々の実施形態は転倒検出器を装着したユーザによる転倒を検出するための該転倒検出器に関するものであり、該転倒検出器は、ユーザデータにおける可能性のある転倒イベントの時間位置を識別するトリガイベントを検出するように構成されたトリガ装置と、前記識別された時間位置の前後の時間窓内で、動きデータから動き特徴を抽出すると共に生理学的データから生理学的特徴を抽出するように構成された特徴抽出器と、前記動き特徴の少なくとも1つ及び前記生理学的特徴の少なくとも1つに基づいて、前記検出されたトリガイベントが前記ユーザによる転倒であるかを決定するように構成された機械学習分類器とを含む。
【0016】
[0016] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記動きデータは、加速度データ、高さデータ、角速度データ、並びに加速度データ及び高さデータ、のうちの1つを含む。
【0017】
[0017] 種々の実施形態が記載され、該実施形態は、前記動きデータの一部を生成するように構成された加速度計を更に含む。
【0018】
[0018] 種々の実施形態が記載され、該実施形態は、心拍数データ、皮膚コンダクタンスデータ、並びに心拍数及び皮膚コンダクタンスデータのうちの1つを含んだ前記生理学的データを生成するよう構成された1以上の生理学的センサを更に含む。
【0019】
[0019] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記動き特徴及び生理学的特徴を抽出する動作は、前記トリガイベントの前の第1の時点において第1の生理学的データ値を決定する動作と、前記トリガイベントの時点において第2の生理学的データ値を決定する動作と、前記トリガイベントの後の第3の時点において第3の生理学的データ値を決定する動作とを更に含み、少なくとも1つの生理学的特徴は、前記第1、第2及び第3の生理学的データ値のうちの2つの間の差に基づくものである。
【0020】
[0020] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記生理学的特徴は、前記第1の生理学的データ値と前記第2の生理学的データ値との間の差、前記第2の生理学的データ値と前記第3の生理学的データ値との間の差、前記第1の生理学的データ値と前記第3の生理学的データ値との間の差、並びに前記第2の生理学的データ値と前記第1及び第3の生理学的データ値の和の半分との間の差に基づくものである。
【0021】
[0021] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記動きデータに基づいて衝撃を検出する動作は、特定の時間にわたる加速度の変化が閾値を超えることを決定する動作を更に含む。
【0022】
[0022] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記特徴抽出器は、更に、前記抽出された動き特徴が指定された正常な値の範囲外であることを決定し、次いで前記衝撃が前記ユーザによる転倒ではないと決定するように構成される。
【0023】
[0023] 種々の実施形態が記載され、該実施形態は、前記機械学習分類器により転倒が示された場合に、前記衝撃が転倒ではないことを示す例外機械学習分類器からの出力を受信するように構成された例外ハンドラを更に含む。
【0024】
[0024] 種々の実施形態が記載され、該実施形態において、前記機械学習分類器は、前記抽出された動き特徴並びに第1の閾値及び第2の閾値に基づいて、前記衝撃が転倒であるか、非転倒であるか、又は未決定であるかを決定する動き分類器と、該動き分類器の出力が未決定である場合に、前記抽出された動き特徴及び前記抽出された生理学的特徴の両方に基づいて前記衝撃が転倒であるか又は非転倒であるかを決定する生理学的分類器とを含む。
【0025】
[0025] 種々の実施形態が記載され、該実施形態は、リモートセンサから前記生理学的データを受信するように構成された通信インターフェースを更に含む。
【0026】
[0026] 種々の例示的実施形態をよりよく理解するために、添付図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】[0027]
図1は、特徴として手首の上昇及び高さの低下を用いた転倒/非転倒イベントを示すデータ点の散布図を示す。
【
図2】[0028]
図2は、密度分布、すなわち、どれだけ多くのイベントが特定の特徴値を示すかを用いた、上記データの他の図を示す。
【
図3】[0029]
図3は、動きデータのみを使用する分類器、及び動き及び生理学的データを使用する分類器に関するROC曲線のプロットを示す。
【
図4】[0030]
図4は、転倒検出器により実行される転倒検出処理の流れを示す。
【
図5】[0031]
図5は、転倒検出器の例示的なハードウェア図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[0032] 理解を容易にするために、実質的に同一若しくは類似の構成及び/又は実質的に同一若しくは類似の機能を有する要素を示すために、同一の参照番号が使用されている。
【0029】
[0033] 当該説明及び図面は、本発明の原理を示している。したがって、当業者によれば、本明細書には明示的に説明又は図示されていないが、本発明の原理を具現化すると共に、本発明の範囲内に含まれる種々の構成を考案できることが理解されよう。更に、本明細書に記載された全ての例は、原則として、本発明の原理及び発明者が当技術を促進するために貢献した概念を読者が理解するのを助けるための教示的目的であることを明示的に意図しており、これらの特別に記載された例及び条件に限定されるものではないと解釈されるべきである。更に、「又は」という用語は、本明細書で使用される場合、特にそうでないと明記しない限り(例えば、「又はそうでなければ」又は「又は代わりに」)、非排他的な又は(すなわち、及び/又は)を指す。また、本明細書に記載の幾つかの実施形態は必ずしも相互に排他的ではない。幾つかの実施形態は、1以上の他の実施形態と組み合わせて、新たな実施形態を形成できるからである。
【0030】
[0034] 転倒検出センサがユーザの胴体に配置される場合、転倒検出の精度は良好になり得る。しかしながら、転倒検出器のセンサが他の場所、例えば手首に配置される場合、腕による多くの通常の動きが転倒に見え得るため、転倒を検出することはより困難になる。これは、転倒の状況及び非転倒の状況に対する種々のパラメータ値の間に、より多くの重なりが存在するためである。例えば、高さの変化は、体が転倒しなくても、手首の動きにより生じ得る。他の例として、このことは向きの変化に対しても当てはまり得る。更に、手首は家具にぶつかり得、又は手を振る及び手拍子を打つこともあり得る。これらは、転倒に似た衝撃であるように見え得る。したがって、種々の動き測定値を使用して転倒イベントと非転倒イベントとを区別することが困難になる場合に、検出精度を改善する必要性が残存している。現在の検出精度は、ユーザが、発生した誤警報を定期的にキャンセルすることを必要とし得る。このことは、ユーザにとって煩わしく、当該装置の着用の順守を低下させ得る。また、誤警報は、医療スタッフの作業負荷及び医療提供のコストを増加させることにより、医療システムにも負担をかける。
【0031】
[0035] 本明細書では、転倒の検出精度を向上させる転倒検出システムの実施形態が説明される。当該転倒検出システムは、該システムの全体的な弁別力を向上させるために、感知された特徴空間に追加の次元(又は複数の追加次元)を追加することに基づいている。前述した転倒の物理的特徴に加えて、心拍数及び皮膚伝導率等の生理学的測定値が使用され得る。自律神経系がストレスを感じる状況に反応することが知られている。例えば、人が予期しない状況に遭遇し、迅速に行動する必要がある場合、心拍数及び皮膚伝導率が増加する。このことは、食べ物が煮こぼれる又は電車に乗り遅れそうである等の単純な状況で発生し得る。当然のことながら、このことは人が意図せずに転倒した場合にも確かに発生することがわかっている。心拍数は、フォトプレチスモグラム (PPG)センサ又は心電図(ECG)センサ等の種々のセンサを使用して測定できる。PPGセンサは、ユーザの脈拍数、したがって(一般的には)心拍数を示すセンサの近傍の血液量の変化を検出する光学センサである。したがって、PPGセンサを、ユーザの心拍数を決定するために身体の種々の位置に配置することができる。ECGセンサは、ユーザの心臓の鼓動を示す小さな電気的変化を測定する。ECGセンサは、有効であるためには心臓の近くに配置する必要がある。更に、皮膚導電率は電気的皮膚反応を介して測定できる。非転倒イベントの間において、これらの生理学的値は、ユーザが転倒する場合と同じようには急速に増加することはない。
【0032】
[0036] 頻繁な転倒の問題を有することが分かっている多くの個人に対して 転倒データが収集された。典型的な動き関連のパラメータに加えて、これら個人の心拍数も測定された。転倒する間及び転倒直後に、これら個人の脈拍数が増加することが観察された。例えば、脈拍数は、転倒前の心拍数よりも10%程度増加し得る。その後、かなり急速に、例えば約10秒以内に、これら個人の脈拍数は転倒前の値に近い値に戻る傾向がある。個人が転倒した場合の心拍数の変化の該パターンは、転倒が本当に発生したかを更に判断するために使用でき、転倒及び非転倒イベントを区別する能力を高めることができる。他の観察は、転倒には通常よりも低い心拍数が先行する場合があったことを示した。このような低い/低下された心拍数は、これら個人の転倒の原因又は誘因であり得、転倒の検出を支援するために使用できる他のパラメータである。
【0033】
[0037] 同様に、個人が転倒する場合、該個人の皮膚伝導率にスパイク(棘状波形)が存在することが観察されており、これは、典型的には、該個人の発汗の増加によるものである。転倒後、該皮膚導電率は転倒前の値の近くまで減少して戻るが、これは例えば心拍数のものより緩やかである。
【0034】
[0038] 生理学的特徴自体は、転倒の検出に関して弁別能力を提供することはない。心拍数又は皮膚伝導率の変化は、転倒によるだけでなく、多くの理由で発生する。転倒は、それでも検出され得るが、精度は低い。しかしながら、生理学的特徴を物理的特徴と組み合わせることにより、データの組み合わされた組は転倒と非転倒との改善された区別をもたらす。これは、付加的なデータがパラメータ空間における転倒及び非転倒の分布を分離するのに役立つからである。このようにして、実際の転倒に対する良好な検出感度を維持しながら、誤警報率を低減できる。
【0035】
[0039] 後に更に説明されるトリガイベントが発生すると、高さの変化、衝撃及び向きの変化のような従来の動きに関連する特徴等の特徴値が計算され得るのみならず、更に心拍数及び/又は皮膚伝導率等の生理学的パラメータが計算され得る。より正確には、心拍数は、当該イベントの衝撃の直前に(value_1)、転倒の直後に(value_2)、及び短時間後に(value_3)決定され得る。一例において、value_1の時間は衝撃の2~5秒前であり、value_2は衝撃の約5秒後であり、value_3は衝撃の約10秒後である。他の時間も同様に使用できる。例えば、衝撃時の値を使用できる。皮膚コンダクタンス値に対しても同様の時間を使用できるが、value_3は10秒よりも長くなり得る。皮膚コンダクタンス値は転倒後に徐々に正常に戻るからである。これらは、以下のようにして心拍数変化を特徴付けるために使用され得る:
HR_change_1 = value_2-value_1
HR_change_2A = value_3-value_1
HR_change_2B = value_2-value_3
HR_change_3 = value_2-(value_1+value_3)/2
他の所見において、転倒した人は、転倒しなかった場合よりも低い心拍数を有した。したがって、この所見によれば、転倒直前の絶対心拍数も同様に使用できる。転倒の極周辺の心拍数の値が低い場合、このことは転倒を示し得るからである。皮膚コンダクタンスについても同様の値を計算できる。これらの値は、他の動き特徴値と一緒に分類器に入力される。これらの生理学的値の幾つか若しくは全て又は任意の組み合わせでの他の修正バージョンを該分類器で使用することができる。生理学的に関連する特徴値を含める場合、動きに関連する特徴の幾つかは破棄することができ、又は他のものを追加できる。選択された組は、最良の分類精度のために最適化されるできである。特徴値の間の相関は、どの組み合わせが最適であるかに影響する。他の特徴値との相関性が高い特徴値は、それほど追加の弁別価値を増すことがなく、全ノイズを増加させ得るので、2つのうちの一方を選択することが好ましい。
【0036】
[0040] 当該分類器は、機械学習の分野で知られているシステムである。二進分類器は検出器と等価である。分類器は、一連の特徴値を入力として取り込み、この一連の特徴が所属するクラス又は複数のクラスを出力として提供する。この出力は、完全なメンバーシップ(すなわち、当該クラス内又はクラス外)に関するものであるか、又は確率値等の部分的なメンバーシップ(所属)値としてのものであり得る。二進分類の場合、2つのクラスが存在し(したがって、一方は他方の補数である)、このタイプの分類器は検出器と同等である。検出理論は、信号処理の分野に由来する。
【0037】
[0041] 該分類器は、配備される前にトレーニングされる。すなわち、該分類器には、属するクラスでラベル付けされた特徴値の例示的な組が提供される。トレーニング手順において、現在の分類器は例示的な組を反復処理する。後続の特徴値の組ごとに、分類器はクラス分けを計算し、その出力は所与のラベル付けと比較される。この比較から決定された誤差は分類器の内部パラメータ(又は重み)を調整するために使用され、調整されたパラメータに基づいて誤差が最小化されることが期待されるようにする。例えば、ニューラルネットワークの場合、典型的な最適化アルゴリズムは勾配降下法である。
【0038】
[0042] 多数の形式の分類器が存在する。一般的な例は、サポートベクターマシン(SVM)、決定木、ランダムフォレスト、単純ベイズ分類器(NBC)、深層学習技術を含むニューラルネットワーク、ロジスティック回帰、k近傍法(k-NN)等を含む。
【0039】
[0043] 分類器の1つの見方は、分類器が、特徴組がまたがる空間内で決定境界を見つけようとすることである。特徴組における各特徴は、当該空間内の1つの次元に関連付けられる。したがって、所与の例示的特徴値組(ベクトル)は、その空間内の点を構成する。分類器は、該スペースを、各々が出力からのクラスに関連する部分空間に分割する。したがって、特徴値の組、すなわち特徴空間内の点が与えられた場合、そのクラスは、該特徴点(ベクトル)が位置する部分空間から決定される。トレーニングの間においては、部分空間の間の境界が、最適な分類のために最適化される。
【0040】
[0044] 検出理論において、典型的なケースは、信号が継続的に存在するノイズ背景内にあるか判断することである。Neyman及びPearsonによる有名な定理は、所与の(選択された)誤警報率に対して、信号が存在するかを判断する最も強力なテストは、尤度比検定(LRT)であると述べている。転倒検出の場合、尤度比は、
【数1】
に等しく、ここで、P(x│Fall)は当該所与の特徴値xが転倒によるものである尤度であり、P(x│nonFall)は該所与の特徴値xが非転倒によるものである尤度である。
【0041】
[0045] LRTは、所与の組x(すなわち、特徴値の観測された/測定された組)に対してLR>θであるか否かをテストし、ここで、θは転倒検出器の設計者により構成された検出閾値である。NP定理は、所与の誤警報率(=誤って検出された転倒の数、すなわち実際には非転倒イベントの数)に対して、検出感度(=検出される実際の転倒の割合)が最大になると述べている。これを改善できる他のテストはない。
【0042】
[0046] NBC分類器は、特徴値は互いに独立しているという(単純な)想定ではあるが、LRTを実施する。したがって、NBC分類器は一般的に使用される分類器である。
【0043】
[0047]
図1は、手首の上昇及び高さの低下を特徴とする転倒/非転倒イベントを示したデータ点の散布図を示す。この例では、分類プロセスの説明及び視覚化を簡略化するために、2つの特徴のみが使用されている。縦軸は(肩に対する)手首の上昇の値をプロットし、横軸は患者の高さの低下の値をプロットしている。より暗い円は転倒の例を示し、より明るい円は非転倒の例を示す。ラインは、可能性のある異なる検出境界を示している。ライン105は、手首の上昇が-0.75を超え、高さの低下が0未満の全てを転倒として分類する。見られるように、転倒は見逃されていないが、多くの誤警報も生じるであろう。ライン110は、幾つかの転倒を見逃すという代償を払って、誤警報の数を減らしながら、より良い分類器をもたらす。曲線115は、誤警報の数を更に低減させることにより、これらの例の中で最良の性能をもたらす。当該分類器のトレーニングは、トレーニングデータに基づいて最適化された方法で検出境界を設定しようとするものである。
【0044】
[0048]
図2は、密度分布、すなわち、どれだけ多くのイベントが特定の特徴値を示すかの分布を使用したデータの他のビューを示す。視覚化を容易にするために、1次元の特徴組が選択されている。抽象的には、縦軸はベクトルを表す。
【0045】
[0049] 密度曲線P(x│Fall)210及びP(x│nonFall)205が各々示されている。これは、特徴ベクトルxの各々に関する転倒/非転倒の尤度である。決定閾値220も垂直線として示されている。この閾値220は、
図1の特徴空間における境界面に対応する。
図2は、どの様に検出性能を評価できるかも示している。すなわち、これら曲線を左から閾値まで積分すると、偽陰性(FN)230のパーセンテージ及び真陰性(TN)225のパーセンテージが各々得られる一方、これら曲線を閾値から右まで積分すると、真陽性(TP)235のパーセンテージ及び偽陽性(FP)240のパーセンテージが各々得られる。見られるように、当該特徴空間における2つの分布が重なるために混乱が生じる領域215が存在する。通常、閾値220は該混乱領域215に入り、幾つかの偽陰性(すなわち、実際の転倒が非転倒と分類される)及び幾つかの偽陽性(すなわち、実際の非転倒が転倒として分類される)を生じるであろう。この閾値が変化するにつれ、転倒の見逃し確率と誤警報率との間にトレードオフが生じる。これらの分布を、重なりを低減するために分離できる場合、当該分類器の性能は向上する。2つの異なるクラスが、より明確に区別可能となるからである。
【0046】
[0050] 横軸上の偽陽性率(FPR = FP/(TN + FP))に対して、縦軸上に真陽性率(TPR = TP/(TP + FN))をプロットすると、いわゆる受信者動作特性(ROC)曲線が得られる。理想的なROC曲線は、縦軸を辿り、次いで、当該プロットにわたりTPRの値1.0を辿る。
図2の2つの分布曲線の重なりが一層少ない場合、ROC曲線は左上隅に移動する(常に(0,0)で始まり(1,1)で終わる)。2つの分布(それらの平均)が互いに離れるか、分布曲線の広がりが減少する(分散が減少する)か、又はこれらの両方が起こると、分布間の重なりは減少し得る。前述したように、分布曲線は、選択された組内の全ての特徴の組合せ効果であると理解されるべきである。
図3は、動きデータのみを使用する分類器、及び動きデータと生理学的データとの両方を使用する分類器のROCのプロットを示す。すなわち、
図3において、下側の曲線310は動きデータのみを使用する例示的な分類器の性能である。上側の曲線305は心拍数情報の使用を含み、この曲線305はより高いので、生理学的情報の追加が分類器の性能を改善することを示している。
【0047】
[0051] 生理学的特徴(心拍数及び/又は皮膚伝導率)の追加は、転倒及び非転倒の分布を分離及び/又は鋭くさせ、その結果、一層良好な分類器の性能が得られる。これが、
図3のROC曲線に示されている。
【0048】
[0052]
図4は、転倒検出器により実行される転倒検出処理の流れを示す。該転倒検出器は、可能性のある転倒を検出するために動き信号を観察するトリガ405と呼ばれる連続実行処理を有する。他の実施形態において、トリガ405は、皮膚導電率のスパイクを探索し得る。他のイベントも、トリガイベントとして使用できる。該トリガは、例えば、現状技術の加速度計が提供する閾値通知機能を使用する専用の特定回路として、又はプロセッサ上で実行されるソフトウェア命令として実施化できる。例えば、加速度計の信号を処理して可能性のある衝撃を検出する。加速度計により測定された加速度が閾値を超えるスパイクを示す場合に衝撃を決定できるが、例えば加速度信号のエネルギが閾値を超えるかをテストする等の、他の方法も考えられる。加速度計信号は、例えば、50Hzのレートでサンプリングできる(他のレートも使用できる)。この処理はバッテリを消耗し得る電力を必要とするため、当該レートは転倒検出性能及び装置バッテリ寿命に基づいて選択され得る。トリガ処理405は、該トリガ405により検出された転倒及び非転倒の間で分類器が更に弁別できるという考えにより、全ての可能性のある転倒を検出し(通過させ)ながら、非転倒イベントの数を最少化するように設計されている。該トリガの役割は、分類器の呼び出しの数を最少にし、これにより消費電力を節約することである。
【0049】
[0053] トリガ405が衝撃及び可能性のある転倒を示すと、当該転倒検出器は特徴抽出410を実行する。トリガ処理405により検出された衝撃の時間の前後に収集されたデータから、種々の特徴を抽出できる。幾つかの動きの特徴値は3次元の加速度を含み得、これらを処理して、加速度の大きさ及び方向を生成できる。加速度の変化も、当該データから抽出される他の特徴であり得る。衝撃の値、向きの変化、又は高さを計算するための他の案は、当該動きデータから抽出できる他の動きの特徴である。更に、前述した心拍数又は皮膚コンダクタンスの変化等の生理学的特徴も計算することができる。心拍数の例においては、衝撃の3秒前の心拍数を決定され得ると共に、該衝撃の時点における、及び該衝撃の4.5秒後及び10秒後の心拍数も決定され得る。次いで、例えば、衝撃後の上記2つの値の間、及び衝撃時の値と衝撃の10秒後の値との間で、上記4つの心拍数の変化値の1以上、又は他の特徴を計算することができる。
【0050】
[0054] 特徴抽出器410のオプション的フィーチャは、特徴又は該特徴の基となるデータが転倒の正常範囲外であることを検出することを含み得る。これは、例えば、これらの値が特定の範囲内にあることを検証することにより行うことができる。当該データがこれらの範囲内にない場合、このことは、非転倒又は恐らくはデータエラーを示し得る。これが起きた場合、検出された衝撃は無視され、それ以上処理されない。これは、トリガ405の更なる調整と考えることができる。該トリガ405は、より高速で実行される低複雑性のものを意図しているからである。このオプション的なフィーチャは、当該分類器を不必要に実行する必要性を低減することを可能にし、当該転倒検出器のバッテリ寿命を延ばす助けとなるであろう。
【0051】
[0055] 次に、分類器415は、抽出された特徴を受信し、転倒が発生したかに関する決定を行う。分類器415は最適化されるが、該分類器415は実際の転倒のわずかなパーセンテージを依然として間違って分類する。当該最適化処理は、
図1及び
図2で説明したように、決定境界を分布内に設定し得るからである。前述したように、種々の異なるタイプの機械学習分類器を使用することができる。典型的にはNBC分類器が使用され得るが、前述したように、SVM、決定木、ランダムフォレスト、深層学習を含むニューラルネットワーク、ロジスティック回帰、k-NN等のタイプの分類器も使用できる。深層学習(ディープラーニング)の場合、特徴抽出ステップ410は分類器 415との一体部分とすることができ、当技術分野で知られているように、一緒に(深層)ネットワークを構成する。当該分類器は、一連のラベル付きデータ及び損失モデルを使用してトレーニングされ得る。トレーニング処理は、誤差又は誤差の変化が特定の閾値に達するまで分類器のパラメータを調整することにより、該分類器のパラメータを最適化するように進行する。このようなモデル及びトレーニング技術は、当技術分野で知られている。
【0052】
[0056] オプションとして、当該転倒検出器は分類器の出力に対する例外420のテストを実行することもできる。例えば、分類器415は転倒が発生したことを示すことができるが、該転倒検出器は、転倒と分類されたイベントの時点においてユーザが例えば歩いていた又は手を振っていたとの指示情報を受信することもできる。このような場合、転倒の検出は拒否され、転倒は示されない。このようなアプローチは、当該転倒検出器に存在し得る他のモデルを利用できる。例えば、当該転倒検出器がスマートウォッチである場合、該スマートウォッチはユーザが歩いている又は手を振っていることを検出する機械学習モデルを有することができる。これらのモデルは、疑いのある転倒の時点で収集されたデータに対して実行され、転倒として誤って分類された他のユーザの行動が実際に発生していたかを判定できる。他の実施形態において、これらの種類の機械学習モデルは、実際には転倒ではないイベントを除外することにより当該転倒検出器の精度を更に改善するために転倒検出分類器415と共に使用されるように開発することもできる。
【0053】
[0057] 最後に、当該転倒検出器は転倒をレポートできる(425)。このレポートは、ユーザが転倒して支援を必要とし得ることを他者に警告するために、外部のシステム又は人に提供され得る。該転倒検出器は、ユーザが必要に応じて助けられ得るように該ユーザが転倒したことを該ユーザの近くにいる人に示すために、視覚的又は可聴式警告を提供することもできる。該転倒検出器は、医療提供者による後の使用のために、当該転倒検出器又はリモート装置上に転倒の記録を設けることもできる。転倒レポート425は、ユーザが転倒警告をキャンセル又は取り消すためのオプションを含むこともできる。
【0054】
[0058] 他の実施形態において、分類器415は2段階分類器であり得る。このアプローチにおいては、動きのデータ及び特徴のみを使用する第1分類器が実装される。混乱領域215(
図2参照)の外側において、このタイプの第1分類器は非常に正確であり得る。したがって、転倒又は非転倒の分類が非常に確実である場合、第1分類器の出力が分類器415の出力となる。このことは、2つの閾値を使用することにより決定できる。例えば、イベントが第1の閾値を下回った場合、これは明らかに非転倒である。イベントが第2の閾値を超えた場合、これは明らかに転倒である。第1分類器の出力が確実でない場合、すなわち、該出力が上記2つの閾値の間にある場合、当該分類器は未決定となる。第1分類器の出力は、転倒、非転倒又は未決定となるであろう。第1分類器が未決定である場合、生理学的特徴を使用して当該分類を更に明確にするために、生理学的データを使用する第2分類器を使用できる。これにより、混乱領域215にあるイベントの分類を改善できる。第1分類器は動きデータのみを使用してトレーニングされる一方、第2分類器は動きデータ及び生理学的データの両方、恐らくは上記混乱領域に結果を有するものの部分組を使用してトレーニングされる。このアプローチは、生理学的データがノイズ性であるか又は他の信頼性若しくは脱落の問題を有する場合に使用できる。これは、生理学的データには問題があるが、動きデータが、単独で、動きデータのみに基づく明確で信頼性の高い分類を提供する場合に、単一の分類器による誤分類を回避する。
【0055】
[0059] 前述したように、心拍数は、当該転倒検出装置内の心拍数センサのユーザの身体上の位置及びの能力に応じて、PPG又はECGセンサを使用して測定することができる。小型で十分に正確な如何なる現在の又は将来の心拍数センサも、当該転倒検出器のための心拍数データを供給するために使用できる。同様に、小型で十分に正確な如何なる現在の又は招来の皮膚導電率センサも、転倒検出のための皮膚導電率データを供給するために使用できる。
【0056】
[0060] 動きのみの転倒検出の精度は、動きセンサがユーザの身体上の何処にあるかに依存して変化するが、転倒の分類への生理学的データ及び特徴の組み込みは、ユーザの身体上の位置に関係なく、転倒検出の精度を向上させることができる。当該転倒検出器が、例えばユーザの胴体よりも遙かに大きく多く動く人の手首、腕、足首、足又は脚上にある場合、生理学的データ及び特徴の使用は、そのような位置における転倒検出の精度を大幅に向上させることができる。
【0057】
[0061] 当該転倒検出器は、独立型の装置として実装することができ、又はスマートウォッチ、フィットネストラッカ、ペンダントのような緊急警報装置等の他のユーザウェアラブル装置に統合することもできる。これらの実施形態のいずれにおいても、当該転倒検出器装置は、前記分類器に対して動きデータを供給するための加速度計又は大気圧センサ等の動きセンサを備えるか、又はユーザの身体の何処かに配置されるセンサからタイムリに斯様なデータを受信することができる。更に、当該転倒検出器のこれらの実施形態は、前記分類器に対して理学的データを供給するために心拍数センサ及び/又は皮膚導電率センサ等の生理学的センサを含むか、又はユーザの身体上の何処かに配置されるセンサから適時に斯様なデータを受信することもできる。例えば、ユーザは、動きに関連するデータを供給する加速度計、磁力計、気圧センサを内蔵したスマートウォッチを使用できる。更に、ユーザは、心拍数を測定するために胸部に心拍数モニタストラップを装着できる。スマートウォッチは無線で心拍数モニターにつながり、分類器で使用する心拍数データを収集する。センサ及びセンサデータを処理するためのプロセッサの種々の他の構成も用いることができる。
【0058】
[0062]
図5は、当該転倒検出器の例示的なハードウェア
図500を示している。該ハードウェア
図500は、
図4で説明した転倒検出処理を実装することができ、転倒が生じたことを他のシステム又はユーザに関係する人に示すことができる。図示されたように、装置500は、1以上のシステムバス510を介して相互接続された、プロセッサ520、メモリ530、ユーザインターフェース540、ネットワークインターフェース550、記憶部560、動きセンサ570及び生理学的センサ572を含む。
図5は幾つかの点で抽象化を構成し、装置500の構成要素の実際の編成は図示されているものより一層複雑であり得ることが理解されるであろう。
【0059】
[0063] プロセッサ520は、メモリ530又は記憶部560に格納された命令を実行し、又はそれ以外でデータを処理することができる任意のハードウェア装置であり得る。したがって、該プロセッサは、マイクロプロセッサ、グラフィック処理ユニット(GPU)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、並列計算が可能な任意のプロセッサ、又は他の同様の装置を含み得る。該プロセッサは、機械学習モデル、特に深層学習アーキテクチャを実装する特別なプロセッサとすることもできる。
【0060】
[0064] メモリ530は、例えば、L1、L2若しくはL3キャッシュ又はシステムメモリ等の種々のメモリを含み得る。したがって、メモリ530は、スタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、フラッシュメモリ、リードオンリメモリ(ROM)又は他の同様のメモリ装置を含み得る。
【0061】
[0065] ユーザインターフェース540は、ユーザとの通信を可能にするための1以上の装置を含むことができ、ユーザに情報を提供できる。例えば、ユーザインターフェース540は、ディスプレイ、タッチインターフェース、マウス、及び/又はユーザコマンドを受けるためのキーボードを含み得る。幾つかの実施形態において、ユーザインターフェース540は、ネットワークインターフェース550を介してリモート端末に提供され得るコマンドラインインターフェース又はグラフィカルユーザインターフェースを含み得る。
【0062】
[0066] ネットワークインターフェース550は、他のハードウェア装置との通信を可能にするための1以上の装置を含み得る。例えば、ネットワークインターフェース550は、イーサネット(登録商標)プロトコル又は無線プロトコルを含む他の通信プロトコルに従って通信するように構成されたネットワークインターフェースカード(NIC)を含み得る。更に、ネットワークインターフェース550は、TCP/IPプロトコルに従って通信するためのTCP/IPスタックを実装することができる。ネットワークインターフェース550のための種々の代替の又は追加のハードウェア又は構成は明らかであろう。ネットワークインターフェース550を使用して、転倒検出警告を遠隔のユーザ又はシステムに送信することができる。また、動きセンサ570及び/又は生理学的センサ572が当該転倒検出装置から分離されている場合、ネットワークインターフェース550は、これら遠隔センサからデータを受信することを容易にすることができる。
【0063】
[0067] 記憶部560は、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気ディスク記憶媒体、光記憶媒体、フラッシュメモリ装置、又は同様の記憶媒体等の1以上のマシン可読記憶媒体を含み得る。種々の実施形態において、記憶部560は、プロセッサ520により実行するための命令、又はプロセッサ520が演算し得るデータを格納できる。例えば、記憶部560は、ハードウェア500の種々の基本動作を制御するための基本オペレーティングシステム561を記憶できる。記憶部560は、転倒を検出してレポートするための命令562を記憶できる。
【0064】
[0068] 記憶部560に記憶されるものとして説明された種々の情報は、追加的に又は代替的にメモリ530に記憶できることは明らかであろう。この点に関し、メモリ530は「記憶装置」を構成するものと考えることもでき、記憶部560は「メモリ」と考えることができる。種々の他の構成も明らかであろう。更に、メモリ530及び記憶部560は、両方とも、「非一時的マシン可読媒体」であると見なすことができる。本明細書で使用される場合、「非一時的」という用語は、一時的な信号を除外するが、揮発性及び不揮発性メモリの両方を含む全ての形式の記憶部を含むものと理解される。
【0065】
[0069] システム500は、記載された各構成要素の1つを含むものとして示されているが、種々の構成要素は種々の実施形態では複製されてもよい。例えば、プロセッサ520は、本明細書に記載の各方法を独立して実行するように構成された、又は本明細書に記載の各方法のステップ又はサブルーチンを実行するように構成された複数のマイクロプロセッサを含むことができ、これら複数のプロセッサが協働して本明細書に記載の機能を達成するようにする。このような複数のプロセッサは、同じタイプ又は異なるタイプのものであり得る。更に、当該装置500がクラウドコンピューティングシステムで実装される場合、種々のハードウェア構成要素は別個の物理的システムに属し得る。例えば、プロセッサ520は、第1のサーバに第1のプロセッサを含み、第2のサーバに第2のプロセッサを含み得る。
【0066】
[0070]
図5は当該転倒検出器の全ての機能を実行するプロセッサを備えたシステムを示しているが、該転倒検出器の機能の幾つかはハードウェア上に直接実装することができる。例えば、トリガ405は、低電力で衝撃イベントを検出するように構成された専用のハードウェア上で実施化できる。該トリガは、この機能を実行するように特別に設計された回路で実施化でき、又はこの機能を実行するようにプログラムされた低電力プロセッサを含み得る。また、前記分類器は機械学習技術を使用して実施化できるので、該分類器は機械学習機能を実行するように最適化された回路又はプロセッサを使用して実施化できる。
【0067】
[0071] 本明細書に記載の転倒検出装置は、生理学的データを使用して転倒の検出を改善することにより、現在の転倒検出システムの技術的改善を提供する。転倒は、転倒する人の生理学的反応を即座に生じさせるため、このことを、転倒の検出を改善するために使用できる。このことは、転倒検出装置が、他の通常の動きが誤った転倒検出警報につながり得るような身体領域上に装着される場合に特に有益である。
【0068】
[0072] 本発明の実施形態を実施化するためにプロセッサ上で実行される特定のソフトウェアの如何なる組み合わせも、特定の専用のマシンを構成する。
【0069】
[0073] 本明細書で使用される場合、「非一時的マシン可読記憶媒体」という用語は、一時的な伝播する信号は除外するが、揮発性及び不揮発性メモリの全ての形態を含むものと理解される。
【0070】
[0074] 種々の例示的な実施形態が、それらの特定の例示的な態様を特に参照して詳細に説明されたが、本発明は他の実施形態も可能であり、その細部は種々の自明な点で変更可能であると理解されたい。当業者には容易に明らかとなるように、本発明の趣旨及び範囲内に留まりながら、変更及び修正を行うことができる。したがって、上述した開示、記載及び各図は、例示のみを目的としており、請求項によってのみ定義される本発明を決して限定するものではない。