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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ウェザーストリップ
(51)【国際特許分類】
   B60J 10/50 20160101AFI20240112BHJP
   B60J 10/84 20160101ALI20240112BHJP
   B60J 10/86 20160101ALI20240112BHJP
   B60J 10/15 20160101ALI20240112BHJP
【FI】
B60J10/50
B60J10/84
B60J10/86
B60J10/15
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023103801
(22)【出願日】2023-06-24
【審査請求日】2023-06-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105175
【弁理士】
【氏名又は名称】山広 宗則
(74)【代理人】
【識別番号】100105197
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 牧子
(72)【発明者】
【氏名】松本 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】中島 克則
(72)【発明者】
【氏名】縫部 優一
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0046811(US,A1)
【文献】特開平10-250372(JP,A)
【文献】特開2014-104866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/50
B60J 10/84
B60J 10/86
B60J 10/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の開閉体周縁又はボディ開口周縁に取付けられる取付基部と、前記取付基部に一体成形され前記開閉体の閉時にボディ開口周縁又は開閉体周縁に弾接するスポンジゴム製で表面に塗料が施されたシール部を備えたウェザーストリップであって、
前記スポンジゴムは、比重0.30~0.55の範囲にあり、
前記シール部の塗膜をナノインデンテーションテスタで圧子の最大押込み荷重を20μNに設定して計測した場合の硬度が、40.0MPa以上であることを特徴とするウェザーストリップ。
【請求項2】
前記シール部の硬度が、前記ナノインデンテーション法によって計測された前記シール部の硬度と透過音の関係式から得られるもので、透過音を1dB値以上低減させる硬度であることを特徴とする請求項1に記載のウェザーストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサイドドア,バックドア,トランクリッド,フード等の開閉体の周縁又はボディの開口周縁に取付けられ、開閉体の閉時にボディ側又は開閉体に弾接して開閉体とボディとの間をシールするウェザーストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図7に示すように、車両のドアなどの開閉体1の周縁に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形され開閉体1の閉時にボディ2側の開口周縁に弾接するスポンジゴム製の中空シール部20を備えたウェザーストリップ(ドアウェザーストリップ)100が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなウェザーストリップ100においては、スポンジゴム材料を低密度化、すなわち低比重化することができれば、製品原料の削減となり、資源の節約が図れ、環境にも優しい。
ただし、スポンジゴム材料を低比重化すると、質量則に従って、車外側から車内側に中空シール部20を透過する音(以後、透過音という。)が増大してしまう傾向があることも知られている。
【0004】
例えば、ドアウェザーストリップに使用される押出成形用のスポンジゴム材の比重としては、一般的に0.45~0.70の範囲にあることが知られているが、さらなる軽量化を目指して比重0.40のスポンジゴム材にした場合、図8に示すように、比重0.53,比重0.45のものと比較して、特に人間の耳に対して大きく影響する周波数となる、2000~4000Hzの間において透過音低減性能は大きく低下する。
【0005】
このような場合、例えば中空シール部20の厚みを増大させることによって透過音低減効果は得られるが、ウェザーストリップの圧縮荷重が増大しドア閉じ性が悪くなるので好ましくない。
また、他の透過音低減手段として、中空シール部を高比重のスポンジゴム材、あるいはソリッドゴム材で形成する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。こちらも全てスポンジゴム材で形成された中空シール部と比べると、圧縮荷重の増大によりドア閉じ性の悪化が懸念されるとともに、材料が複数になることや押出成形に使用する口金構造が複雑になることによりコスト高になるため更なる改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6470827号公報
【文献】特開平10-236163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、透過音低減効果に優れたウェザーストリップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のウェザーストリップは、車両の開閉体(1)周縁又はボディ(2)開口周縁に取付けられる取付基部(10)と、前記取付基部(10)に一体成形され前記開閉体(1)の閉時にボディ(2)開口周縁又は開閉体(1)周縁に弾接するスポンジゴム製で表面に塗料(50)が施されたシール部(20)を備えたウェザーストリップ(200)であって、
前記スポンジゴムは、比重0.30~0.55の範囲にあり、
前記シール部(20)の塗膜をナノインデンテーションテスタで圧子の最大押込み荷重を20μNに設定して計測した場合の硬度が、40.0MPa以上であることを特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記シール部の硬度が、前記ナノインデンテーション法によって計測された前記シール部の硬度と透過音の関係式から得られるもので、透過音を1dB値以上低減させる硬度であることを特徴とする。
【0014】
なお、括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に記載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、車両の開閉体周縁又はボディ開口周縁に取付けられる取付基部と、前記取付基部に一体成形され前記開閉体の閉時にボディ開口周縁又は開閉体周縁に弾接するスポンジゴム製で表面に塗料が施されたシール部を備えたウェザーストリップにおいて、前記シール部の塗膜をナノインデンテーションテスタで圧子の最大押込み荷重を20μNに設定して計測した場合の硬度が、40.0MPa以上にしたので、シール部の透過音を確実に1dB値以上低減させることができる。
【0016】
すなわち、ウェザーストリップのシール部の表面に単に塗料を施して表面処理したものは、従来から存在するものであるが、自動車用ウェザーストリップのシール部の硬度と、シール部の透過音との関係に注目した技術は一切なく、そのシール部の硬度と透過音との関係を、図3に示したような関係式から導き出し、シール部の透過音を確実に1dB値以上低減させることを明確に意識して、シール部の硬度、すなわち塗膜の硬度を40.0MPa以上にするといった発想は一切在存するものではなく、極めて特徴的な事項である。
【0017】
このとき、シール部を構成するスポンジゴムの比重としては、0.30~0.55の範囲にあるスポンジゴム材、より好ましくは、比重0.40~0.55の範囲にあるスポンジゴム材であり、比重を0.40以下にすることでウェザーストリップの軽量化が図れるとともに、製品原料の削減となり、資源の節約が図れ、環境にも優しいものとなる。
【0018】
また本発明によれば、シール部の硬度が、前記ナノインデンテーション法によって計測されたシール部の硬度と透過音の関係式から得られるもので、透過音を1dB値以上低減させる硬度としたので、効果的に透過音低減を図れる。
また、シール部の硬度は、ナノインデンテーション法によって正確に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係るウェザーストリップ200を示す断面図である。
図2図1に示すウェザーストリップ200が撓んだ状態を示す断面図である。
図3】シール部の硬度(MPa)と透過音O.A.値2000~4000(dB)の関係を示すグラフである。
図4】ナノインデンテーション法において最大押し込み荷重を100μNにして計測したシール部の硬度を、シール部を構成するスポンジゴムの比重を変えて比較したグラフである。
図5】ナノインデンテーション法において最大押し込み荷重を20μNにして計測したシール部の硬度を、シール部を構成するスポンジゴムの比重を変えて比較したグラフである。
図6】シール部を構成する比重0.40のスポンジゴムに塗料を施さないときと、本実施形態に係る塗料を施したときの周波数と透過音の関係を示すグラフである。
図7】従来例に係るウェザーストリップ100が撓んだ状態を示す断面図である。
図8】シール部を構成するスポンジゴムの比重を変えたときの波数と透過音の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るウェザーストリップ200について、図1及び図2を参照して説明する。
このウェザーストリップ200は、従来例で示したウェザーストリップ100(図7)と同様に、車両の開閉体1、ここではサイドドア1に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形されサイドドア1の閉時に、ボディ2開口周縁に弾接するスポンジゴム製で、しかも表面に塗料50が施された中空シール部20を備えたものである。
なお、従来例(図7)と同様のものについては同一の符号を付した。
また、図面上の塗料50の厚みは分かりやすくするためのイメージであり、実際の塗料の厚みはμm(ミクロン)単位で、中空シール部20の厚みはmm(ミリ)単位のため、塗料の厚みは中空シール部20の厚みの約1000分の1になる。
【0021】
本発明の実施形態に係るウェザーストリップ200の中空シール部20を構成するスポンジゴムとしては、比重0.40のものを使用した。
中空シール部20は、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)を主体とするゴム材料を使用したものであるが、EPDMに限らず、他の合成ゴムを主体とするゴム材料や、各種熱可塑性エラストマーでもよい。
【0022】
そして、中空シール部20の硬度が、40.0MPa以上となる塗料50を使用した。
ここで中空シール部20の硬度が、40.0MPa以上となる塗料50を使用するのは、これにより中空シール部20の透過音を1dB値以上低減させるためである。
【0023】
これは、図3に示すような、比重0.40のスポンジゴムからなる中空シール部20の硬度と、透過音のO.A.(オーエー)値(2000~4000Hz)における関係式から得られるものである。
図3は、表1に示すような、5つの塗料(サンプルA,B,C,D,E)を中空シール部20の表面に塗装した後、塗料が乾いた状態における中空シール部20の硬度を、ナノインデンテーション法によって計測し、それらの硬度に対応した中空シール部20の透過音のO.A.(オーエー)値をそれぞれプロットし、プロットした位置に近似する直線を、Microsoft Excel(以後、Excelという。)で求めたものである。
透過音の測定は、ウェザーストリップ200を図示しない2つの治具で挟み込んだ後(例えば、ウェザーストリップ200を下側の治具に固定し、上側の治具をウェザーストリップ200の中空シール部20に押し当てる)、中空シール部20の一方側(ウェザーストリップ200を挟んだ上下治具間の隙間の一方側)から音を入れ、他方側(ウェザーストリップ200を挟んだ上下治具間の隙間の他方側)でその音をマイクで集音するようにして行った。
【0024】
近似直線の関係式は、Excelの近似式:y=-0.025x+68.603 決定係数:R2=09169、であり、透過音と中空シール部20の硬度間に高い相関がみられた。
【0025】
【表1】
【0026】
なお、ナノインデンテーション法とは、装置によって計測される物理量(荷重と押込み深さ)から、計算のみで硬度を評価する方法で、接触剛性(スチフネス)と接触深さを求め、硬度とヤング率を計算するものである。
電磁コイルに流す電流量を制御することで押し込み荷重(磁気力)を発生させ、圧子を塗料のサンプルの上方から押し込み、サンプルがどれだけ変位するか(圧子をどれだけ押し込みやすいか)を計測する。
【0027】
本実施形態では、試験機(ナノインデンテーションテスタ)としてアントンパール社製の「UNHT3」、圧子としてバーコビッチ圧子を使用して、圧子の最大押込み荷重を20μNに設定し、負荷/除荷速度を600μN/minに設定し、ISO14577に準拠して行った。中空シール部20を縦10mm、横10mmの正方形に切り出し、それを測定検体とした。測定検体の厚みは約1.8mmである。
仮に圧子の最大押込み荷重を100μNにした場合は、図4に示すように、同じ塗料を使用したときに、中空シール部20を構成するスポンジゴムの比重の影響を受けて、比重が0.40,0.44,0.55の場合ではそれぞれ値が大きく変化するものであったが、図5に示すように、圧子の最大押込み荷重を20μNにした場合は、比重の影響は極めて小さく、高精度で硬度を計測することができた。
【0028】
図3に示した関係式(y=-0.025x+68.603)より、透過音を1dB値以上低減させる硬度は、1(=68.603-67.603)=0.025xから、x=40.0MPa、すなわち、40.0MPa以上となる塗料50を使用すると中空シール部20の透過音を1dB値以上低減させることができる。
【0029】
例えば、図6に示すように、サンプルB,D,E(表1)を、比重0.40のスポンジゴムで構成された中空シール部20に施した場合、比重0.40で塗料を施していない場合と比較して、2000~4000Hzの間において透過音低減性能は大きく向上する。
【0030】
このように構成されたウェザーストリップ200によれば、比重0.40のスポンジゴムを使用して軽量化を図った中空シール部20の硬度を40.0MPa以上にしたので、中空シール部20の透過音を確実に1dB値以上低減させることができる。
【0031】
すなわち、ウェザーストリップ200の中空シール部20の表面に単に塗料を施して表面処理したものは、従来から存在するものであるが、自動車用ウェザーストリップ200の中空シール部20の硬度と、中空シール部20の透過音との関係に注目した技術は一切なく、その硬度と透過音との関係を、図3に示したような関係式から導き出し、中空シール部20の透過音を確実に1dB値以上低減させることを明確に意識して、中空シール部20の硬度を40.0MPa以上にするといった発想は一切在存するものではなく、極めて特徴的な事項である。
【0032】
本実施形態では、軽量化を目指して比重0.40のスポンジゴム材で中空シール部20を構成したウェザーストリップ200の表面に塗料50を施した例を示したが、比重0.30~0.55の範囲にあるスポンジゴム材、より好ましくは、比重0.40~0.55の範囲にあるウェザーストリップ200の表面に塗料50を施すことでも中空シール部20の透過音を確実に1dB値以上低減させることができる。
【0033】
また、中空シール部20の硬度と透過音の関係式を得る際にナノインデンテーション法によって計測された中空シール部20の硬度を利用したが、その他の硬度計測方法を採用してもよい。また、中空シール部20の硬度と透過音の関係式を、Excel(エクセル)の近似式から算出したが、その他の方法を用いてもよい。
【0034】
なお、本実施形態では、サイドドア1の周縁に沿って取付けられ、ボディ2開口周縁に弾接するドアウェザーストリップ200を例に説明したが、それとは逆に、ボディ2開口周縁に沿って取付けられ、ドア閉時にサイドドア1の周縁に弾接するドアウェザーストリップでもよい。また、中空シール部20はリップのような中実でもよい。また、自動車のバックドア,トランクリッド,フード等の開閉体に取付けられるウェザーストリップなど、どのようなウェザーストリップにも適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 開閉体(サイドドア)
2 ボディ
10 取付基部
20 中空シール部
50 塗料
100 ウェザーストリップ
200 ウェザーストリップ
【要約】
【課題】透過音低減効果に優れたウェザーストリップを提供する。
【解決手段】車両の開閉体1周縁又はボディ2開口周縁に取付けられる取付基部10と、その取付基部10に一体成形され前記開閉体1の閉時にボディ2側の開口周縁又は開閉体1側の開口周縁に弾接するスポンジゴム製で表面に塗料50が施された中空シール部20を備えたウェザーストリップ200であって、前記中空シール部20の前記塗料50の硬度が、40.0MPa以上である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8