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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】三次元造形食品用インク
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240112BHJP
   A23L 29/206 20160101ALI20240112BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240112BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A23L29/206
B33Y70/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023115033
(22)【出願日】2023-07-13
【審査請求日】2023-07-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501360821
【氏名又は名称】MP五協フード&ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山野上 実希
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-181158(JP,A)
【文献】ハッピーキヌア編集部 [オンライン], 2021.04.18 [検索日 2023.08.15], インターネット:<URL:https://happy-quinoa.com/3d-printer/page/2/>
【文献】ムーンショット型農林水産研究開発事業成果報告会 [オンライン], 2022.08.31 [検索日 2023.08.15], インターネット:<URL:https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/moon_shot/ms508_nakajima.pdf>
【文献】Mastermind [オンライン], 2022.12.01 [検索日 2023.08.15], インターネット:<URL:https://www.mastermind.co.jp/news/development-food-printer/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
A23L 29/206
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材と、添加剤としての食物繊維とを含み、
前記食物繊維の保水力が自重の15倍以上であり、
前記食物繊維は、シトラス由来又はリンゴ由来であり該食物繊維を構成する不溶性食物繊維の含有量が該食物繊維の総質量に対して80質量%以上90質量%以下であり且つ水溶性食物繊維の含有量が該食物繊維の総質量に対して10質量%以上である、三次元造形食品用インク。
【請求項2】
前記食物繊維の含有量が5質量%以下である、請求項1に記載の三次元造形食品用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形食品用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
食品分野では、3Dプリンタ等で製造される三次元造形食品が利用されている。例えば、食品の嗜好性を高めるために、三次元造形食品の立体形状を利用することが提案されている。また、三次元造形食品は、形状などのデータが入力された3Dプリンタで自動的に製造され得るため、介護施設や病院などの施設における人手不足の解消に寄与すると考えられている。
【0003】
従来、三次元造形食品の製造に用いられるインクについての検討がなされている。例えば、特許文献1には、アルファ化澱粉等の基材と、該基材を分解し得るアミラーゼ等の分解剤と、アルギン酸ナトリウム等のゲル化剤とを含むインクが記載されている。かかるインクによれば、分解剤により基材が分解されるとともに、ゲル化剤によりインクがゲル化することによって、保形性等が付与された三次元造形食品が得られるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、豆類から抽出されたゲル化剤を含むインクが記載されている。かかるインクによれば、ゲル化剤のゲル化温度が10℃以下であるため、吐出前のインクを加温せずとも三次元造形食品を製造できるとされている。一方、特許文献3には、ゲル化温度が40℃程度の脱アシル型ジェランガムを含むインクが記載されている。かかるインクによれば、吐出先の雰囲気が室温であっても造形が可能とされている。
【0005】
これらの他、特許文献4では、澱粉粉末と水とを含むインクにレーザー光を照射することによって該インクをゲル化させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-102261号公報
【文献】特開2021-112183号公報
【文献】特開2023-35748号公報
【文献】特開2022-26221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年の外食産業等の食品に対する嗜好性の高まりから、より複雑な立体形状を有する三次元造形食品の提供が望まれ得る。そして、かかる要望を満たすために、三次元造形食品用インクには、複雑な立体形状を成形するための成形性が求められる。成形性としては、例えば、尖った角部のような形状を成形可能な性能が挙げられる。また、三次元造形食品用インクには、製造後から喫食までの間において当該立体形状を維持するための保形性が求められる。保形性としては、所定の高さを維持可能な性能、言い換えれば、崩れ落ちを抑制し得る性能が特に重要である。しかしながら、従来技術のインクでは、所望の成形性及び保形性を三次元造形食品に十分に付与できない場合がある。
【0008】
また、特許文献1及び特許文献2の技術のように、従来多用されているゲル化剤を含むインクでは、一般的に、3Dプリンタ等からの吐出前にゲル化が生じないようにするために、加温等の温度制御が必要となる場合がある。また、吐出後にゲル化を促進するために、冷却等の温度制御が必要となる場合がある。よって、従来技術のインクは、三次元造形食品のより簡便な製造という点において改善の余地がある。そして、かかる改善は、外食産業等における三次元造形食品の普及において特に重要と考えられる。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を簡便に製造可能な三次元造形食品用インクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る三次元造形食品用インクは、
食材と、食物繊維とを含み、
前記食物繊維の保水力が自重の15倍以上である。
【0011】
かかる構成によれば、食物繊維の保水力が自重の15倍以上であることによって、3Dプリンタ等の吐出前後において温度制御されなくとも、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を製造することができる。より具体的には、3Dプリンタからの吐出前後の温度が室温であっても、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を製造することができ、言い換えれば、これらの性能に優れる三次元造形食品を簡便に製造することができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る三次元造形食品用インクは、
前記食物繊維が果実由来又は穀物由来であることが好ましく、シトラス由来、リンゴ由来、又はコーン由来であることがより好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、上記由来の食物繊維を含むことによって、成形性及び保形性にさらに優れる三次元造形食品を製造することができる。
【0014】
また、本発明の一態様に係る三次元造形食品用インクは、
水の含有量が50質量%以上である。
【0015】
かかる構成によれば、水の含有量が50質量%以上であっても、上記食物繊維を含むことによって、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を製造することができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る三次元造形食品用インクは、
前記食物繊維の含有量が5質量%以下である。
【0017】
かかる構成によれば、食物繊維の含有量が5質量%以下であることによって、良好な食感の三次元造形食品を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のとおり、本発明によれば、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を簡便に製造可能な三次元造形食品用インクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態に係る三次元造形食品用インクの適用が可能な3Dプリンタの概略図である。
図2】実施例と比較例とにおける三次元造形食品の外観(写真)を対比する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係る三次元造形食品用インクについて説明する。
【0021】
本実施形態の三次元造形食品用インクは、食材と、食物繊維とを含む。
【0022】
本実施形態の食物繊維は、三次元造形食品用インク及び三次元造形食品に所望の性能を発揮させるために加えられたものであり、前記食材に含まれ得る食物繊維とは区別されるものである。
【0023】
本実施形態の食物繊維は、その保水力が自重の15倍以上である。すなわち、本実施形態の食物繊維は、その乾燥繊維1gあたり15g以上の水を保持する性質を有するものである。
【0024】
本実施形態の食物繊維における保水力は、以下の方法によって測定することができる。まず、ハロゲン水分計を用いて食物繊維(試料)の乾燥減量を測定する。次に、質量既知の遠心管に食物繊維(試料)と水とを添加し、1質量%(食物繊維と水との質量比:1/99)の試料溶液を調製し、温度20~30℃、大気圧下にて24時間静置する。静置後、4,000gで10分間遠心分離し、遠心管を静かに傾けて逆さにして上澄み液及び沈殿していない食物繊維を除去し、含水繊維を得る。上澄み液等を除去した遠心管の質量を測定し、空の遠心管の質量を引いた値を「含水繊維の質量」とする。ハロゲン水分計での測定により得られた乾燥減量の値から、以下の式(1)により「乾燥繊維の質量」を算出し、これらの値を用いて以下の式(2)により保水力を算出する。
(1)乾燥繊維の質量=測定に用いた食物繊維の質量×(100-乾燥減量(%))/100
(2)保水力=(含水繊維の質量-乾燥繊維の質量)/乾燥繊維の質量
【0025】
前記食物繊維の保水力は、自重の15倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、17倍以上がさらに好ましく、20倍以上がより一層好ましい。一方、記食物繊維の保水力は、通常、自重の30倍以下である。
【0026】
前記三次元造形食品用インクの総質量に対する前記食物繊維の質量割合は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、3質量%以上がより一層好ましい。また、前記食物繊維の質量割合は、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。
【0027】
本実施形態の食物繊維は、果皮や果肉等の果実由来、又は穀物由来の食物繊維から取得することができ、その中でも、シトラス由来、リンゴ由来、又はコーン由来の食物繊維が好ましく、シトラス由来の食物繊維がさらに好ましい。
【0028】
本実施形態の食物繊維は、不溶性食物繊維及び水溶性食物繊維からなる。食物繊維を構成する不溶性食物繊維の質量割合は、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維との合計質量に対して40質量%以上90質量%以下であることが好ましい。不溶性食物繊維及び水溶性食物繊維の質量は、「日本食品成分表分析マニュアル」に記載のプロスキー変法によって測定することができる。具体的には、プロスキー変法では、まず、マニュアル規定の酵素反応条件下で、不溶性の画分と、可溶性ではあるが追加のエタノール添加等の処理によって不溶化する画分とに分画する。次いで、それぞれの画分の質量から、これらに含まれる灰分及びたんぱく質の質量を差し引き、不溶性食物繊維の質量及び水溶性食物繊維の質量を求める。
【0029】
前記食物繊維を構成する不溶性食物繊維の質量割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がより一層好ましい。また、前記食物繊維を構成する不溶性食物繊維の質量割合は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0030】
前記食物繊維を構成する水性食物繊維の質量割合は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。また、前記食物繊維を構成する水溶性食物繊維の質量割合は、前記の不溶性食物繊維の質量割合よりも低いことが好ましく、具体的には、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0031】
本実施形態の三次元造形食品用インクは、該インクの総質量に対して50質量%以上の水を含む。水の含有量は、60質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。なお、水は、前記食材に含まれる水分であってもよく、別途、添加されたものであってもよい。
【0032】
前記食材としては、デキストリン、ショ糖、フラクトオリゴ糖等の各種オリゴ糖;でんぷんや、難消化性デキストリン、ポリデキストロース等の食物繊維等の炭水化物;カゼイン、ホエイタンパク等の動物性タンパク質;大豆タンパク等の植物性タンパク質;植物性油脂や動物性油脂等の油脂を含むものが挙げられる。かかる食材としては、例えば、米粉、小麦粉、片栗粉、穀類粉末、豆類粉末、いも類粉末、コーンスターチ、山芋、葛粉、マッシュポテト、フラワーペースト、コーンシラップ、液糖、蜂蜜、野菜ペースト、乾燥野菜、乾燥果実、果汁、バッター、畜肉、魚肉、卵黄、卵白、大豆蛋白、チーズ、ヨーグルト、バター、マーガリン等が挙げられる。
【0033】
前記食材は、予め加熱処理されたものであってもよく、加熱処理されていない生の状態のものであってもよい。
【0034】
次に、本実施形態の三次元造形食品用インクを用いる三次元造形食品の製造方法について、3Dプリンタを用いる方法を例示して説明する。
【0035】
図1に示すように、本実施形態で用いる3Dプリンタ1は、三次元造形食品用インクを充填する円筒状のシリンダ部10と、シリンダ部10内を摺動する円柱状のプランジャ部20と、シリンダ部10内のインクの温度を所定の温度に維持する熱交換部30と、三次元造形食品の加工台40と、加工台40周りの雰囲気を所定の温度に維持する温度制御部50とを備えている。すなわち、3Dプリンタ1は、材料押出方式を採用した3Dプリンタである。シリンダ部10及び加工台40は、水平方向及び垂直方向に相対移動するように構成されている。また、3Dプリンタ1は、シリンダ部10の先端と加工台40乃至は加工台40上の造形物との距離を測定するセンサ部と、前記造形物の表面形状に関するデータをリアルタイムに取得するスキャン部とを備えている。3Dプリンタ1は、制御部に入力された3Dデータ及び前記スキャン部が取得したデータに基づいて、シリンダ部10からのインクの吐出量及び前記相対移動を制御するように構成されている。なお、本実施形態の三次元造形食品用インクは、ゲルのように固化することが抑制されており、且つ、吐出先の雰囲気が室温であっても所望の成形性及び保形性を発揮し得るものである。よって、3Dプリンタは、上記のような熱交換部及び温度制御部を備えていなくてもよい。
【0036】
シリンダ部10は、三次元造形食品用インクを吐出するノズル部11を有する。ノズル部11の内径は、0.4mm以上が好ましい。また、ノズル部11の内径は、5mm以下が好ましい。シリンダ部10の内部のインクは、プランジャ部20で押圧され、ノズル部11を介して加工台40に吐出される。
【0037】
本実施形態の製造方法は、三次元造形食品用インクを調製する調製工程と、三次元造形食品用インク及び3Dプリンタ1を用いて三次元造形食品を作製する造形工程とを備える。
【0038】
本実施形態の調製工程では、必要に応じて加熱処理された前記食材と、前記食物繊維と、任意的な水分量調整用の水とを1~30℃で混合し、ペースト状の三次元造形食品用インクを調製する。調製工程では、ペースト状とされた前記食材と前記食物繊維とを混合してもよく、前記食材と前記食物繊維とを混合した混合物をペースト状としてもよい。
【0039】
本実施形態の調製工程では、1~30℃の三次元造形食品用インクを調製する。混合温度は、15~30℃であってもよく、20~30℃であってもよい。このような室温を含む温度範囲で調製された三次元造形食品用インクであっても、三次元造形食品に所望の成形性及び保形性を発揮させることができる。
【0040】
混合には、前記食材を剪断可能なミキサー等を用いることが好ましい。また、前記食物繊維を水に分散させ、ミキサー等で事前に膨潤させてから前記食材と混合してもよい。より好ましくは、前記食物繊維の膨潤には、圧力ホモジナイザーを用いる。前記圧力ホモジナイザーは、前記食物繊維の水溶液を15MPa以上の圧力で処理可能なものが好ましい。圧力ホモジナイザーを用いることによって、前記食物繊維がより多くの水分を保持しつつ膨潤し得る繊維構造を有するものとなる。そして、このような食物繊維を含む三次元造形食品用インクは、離水を抑制することができ、それによって、より優れた保形性を三次元造形食品に発揮させることができる。また、ノズル部11からの吐出性が良好なものとなる。さらに、このようなインクで製造された三次元造形食品は、滑らかな食感を有するものとなる。
【0041】
本実施形態の造形工程では、調製工程で調製した三次元造形食品用インクをシリンダ部10に充填し、該インクを1~30℃の雰囲気下に置かれた加工台40に吐出し、三次元造形食品を製造する。このように、本実施形態の三次元造形食品用インクは、前記食物繊維を含むことによって、吐出前のシリンダ部10での温度制御及び吐出後の温度制御を行うことなく、優れた成形性及び保形性を発揮し得る三次元造形食品を製造することができる。すなわち、本実施形態の三次元造形食品用インクによれば、三次元造形食品の製造工程を簡便なものとすることができる。また、従来技術で多用されているゲル化剤や増粘剤のみで十分な成形性及び保形性を付与しようした場合、添加量が多くなり、口当たりや食感に影響が出る場合がある。本実施形態の三次元造形食品用インクは、前記食物繊維を含むことによって、ゲル化剤や増粘剤の添加量を大幅に減らすことができ、またこれらを実質的に含まずとも、優れた成形性及び保形性を有する三次元造形食品を製造することができる。これにより、本実施形態の三次元造形食品用インクで製造された三次元造形食品は、ぬめりやべたつきが少なく、口当たりや食感が良好なものとなる。
【0042】
本実施形態では、前記三次元造形食品をそのまま提供してもよく、前記三次元造形食品を加熱した後に提供してもよい。例えば、前記食材として生肉を用いた場合、生の状態の前記三次元造形食品を製造し、該三次元造形食品をオーブン等で加熱処理してもよい。前記食物繊維を含むことによって、加熱時においても離水が抑えられ、ジューシーな三次元造形食品とすることができる。
【0043】
以上のように、例示としての実施形態を示したが、本発明に係る三次元造形食品用インクは、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る三次元造形食品用インクは、上記した作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る三次元造形食品用インクは、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0044】
例えば、本発明の三次元造形食品用インクは、ゲル化剤、増粘剤、賦形剤、希釈剤、緩衝剤、香料、着色剤、消泡剤、コーティング剤、甘味料、矯味剤、結合剤、界面活性剤、保湿剤、粘稠剤、乳化剤、滑択剤、懸濁剤、防腐剤、キレート剤、酸化防止剤、研磨剤、粘結剤、pH調整剤、光沢剤等のその他の添加剤を含んでいてもよい。これらは1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0045】
特に、三次元造形食品の成形性及び保形性をさらに向上させるために、ゲル化剤及び増粘剤を添加してもよい。ゲル化剤としては、例えば、ネイティブ型ジェランガム、前記ネイティブ型ジェランガムのアシル基が部分的に除去された部分脱アシル化ジェランガム、前記ネイティブ型ジェランガムのアシル基が除去された脱アシル型ジェランガム等が挙げられる。増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、タマリンドシードガム、グァーガム、ローカストビーンガム等が挙げられる。
【0046】
ただし、ゲル化剤及び増粘剤の添加は、三次元造形食品の口当たりや食感を悪化させるおそれがある。よって、三次元造形食品用インクの総質量に対するゲル化剤及び増粘剤の合計の質量割合は、添加剤としての前記食物繊維よりも少ないことが好ましく、例えば、1質量%以下が好ましく、0.6質量%以下がより好ましい。
【0047】
上記実施形態では、自動制御された調理機としての3Dプリンタを例示したが、本発明に係る三次元造形食品用インクは、立体形状を形成可能な手作業用の調理具に適用されてもよい。かかる調理具としては、例えば、三次元造形食品用インクを収容する樹脂製の収容部を備え、該収容部が内部のインクを排出するための吐出口を有し、前記収容部への手指等の押圧によって内部のインクが前記吐出口から吐出するように構成されたものが挙げられる。この調理具に相当するものとしては、例えば、生クリーム等の吐出に用いられる絞り袋、デコペンと呼ばれるプラスチック製の吐出容器が挙げられる。これらのなかでも、本発明に係る三次元造形食品用インクは、口径が5mm以下の吐出口を有する調理機又は調理具に適用されることが好ましい。これによって、複雑な形状の三次元造形食品を製造することができる。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0049】
[使用原料]
(添加剤)
・シトラス由来の食物繊維(AQプラスCF-D/100)
・リンゴ由来の食物繊維(AQプラスApple-AF700)
・コーン由来の食物繊維(MFCN)
・パルプ由来の食物繊維(セオラスCL611)
・キサンタンガム(エコーガム、下記表では「XG」と表記)
・ローカストビーンガム(GRINDSTED LBG047、下記表では「LBG」と表記)
・脱アシル型ジェランガム(ケルコゲル、下記表では「LAG」と表記)
・α化デンプン(マツノリンCM)
(食材)
・人参パウダー(こだま食品)
・かぼちゃパウダー(こだま食品)
・ほうれん草ペースト(ダンフーズ)
・α化米粉(たかい食品)
・鶏胸肉(市販品)
・塩鮭(市販品)
【0050】
添加剤としての食物繊維の保水力の値は、表1に示したとおりである。なお、添加剤としての食物繊維の保水力の値については、以下の方法によって測定した。また、表1には、上記方法によって測定した不溶性食物繊維及び水溶性食物繊維の含有量を併記した。
【0051】
(保水力の測定)
まず、ハロゲン水分計(メトラー・トレド社、HG53 Halogen Moisture Analyzer)を用い、試料の乾燥減量を測定した。
次に、質量既知の50mL遠心管に試料0.3gと水29.7gとを添加し、1質量%の試料溶液を調製した。このとき、試料全体に水が行きわたるようにする。温度20~30℃、大気圧下にて24時間静置した。静置後、遠心機(日立製作所、日立高速冷却遠心機CR20GIII)を用いて25℃、4,000gで10分間遠心分離した。遠心管を静かに傾けて逆さにしてから3秒間静置し、上澄み液及び沈殿していない食物繊維を除去し含水繊維を得た。上澄み液等を除去した遠心管の質量を測定し、そこから空の遠心管の質量を引いた値を「含水繊維の質量」とした。また、ハロゲン水分計での測定により得られた乾燥減量の値を用いて、以下の式により乾燥繊維の質量を算出した。
乾燥繊維の質量(g)=0.3×(100-乾燥減量(%))/100
これらの値を用いて、以下の式により保水力を算出した。
保水力(g/g)=(含水繊維の質量-乾燥繊維の質量)/乾燥繊維の質量
【0052】
【表1】
【0053】
[シトラス由来食物繊維の前処理]
シトラス由来の食物繊維(AQプラスCF-D/100)については、上記原料をそのまま(粉体のまま)食材と混合して用いる場合と、脱イオン水に分散させて圧力ホモジナイザーで処理したものを用いる場合とを評価することとした。圧力ホモジナイザーによる処理手順は、下記のとおりである。
(圧力ホモジナイザーによる処理手順)
1.脱イオン水に4.0質量%のAQプラスCF-D/100を添加し、撹拌装置(新東科学社、スリーワンモータBLh1200)で10分間撹拌する。
2.圧力ホモジナイザー(三和エンジニアリング社、L100-DA1)を用い、15MPaで処理する。
3.撹拌装置で1分間撹拌し、全体を均一にする。
なお、表3では、圧力ホモジナイザーで処理したものを「圧ホモ」と併記した。
【0054】
[ペースト状の食材の調製]
(人参パウダー、かぼちゃパウダー、又はα化米粉を用いた場合)
人参パウダー、かぼちゃパウダー、又はα化米粉と、水とを混合し、ペースト状とした。
(鶏胸肉を用いた場合)
生の鶏胸肉に加水し、ペースト状になるまでミキサーで破砕した。又は、スチームコンベクションオーブンにて85℃20分加熱後、加水してペースト状になるまでミキサーで破砕した。
(塩鮭を用いた場合)
オーブンにて260℃で10分焼いた後、加水してペースト状になるまでミキサーで破砕した。
【0055】
[水分量の測定]
調製した各インクについて、ハロゲン水分計(メトラー・トレド社、HG53 Halogen Moisture Analyzer)を用いた乾燥減量としての水分量を測定した。
【0056】
[三次元造形食品用インクの作製例]
下記表に示す配合で、調製したペースト状の食材と、添加剤とを混合し、撹拌装置を用いて撹拌し、三次元造形食品用インクを作製した。なお、シトラス由来の食物繊維、リンゴ由来の食物繊維、コーン由来の食物繊維、及びパルプ由来の食物繊維を用いた場合には、ここでの工程の全てを室温にて実施した。一方、ゲル化剤又は増粘剤を用いた場合には、必要に応じて、加温を実施した。
【0057】
[三次元造形食品の製造例]
3Dプリンタ(武蔵エンジニアリング社、SM200SX)を用い、円柱状の三次元造形食品(以下、造形食品C)、上面視において星形であり且つ筒状の三次元造形食品(以下、造形食品S)、及び、かぼちゃの形を模した三次元形状であり且つ内部が空洞の中空構造を有する三次元造形食品(以下、造形食品P)を製造した。ノズル部においては、各食材で食材由来の固形成分が詰まることなく滑らかに吐出できる内径のノズルを選択した。ノズル部の内径の大きさに合わせて、造形食品Sおよび造形食品Cの造形プログラムを下記の通り調節している。造形食品Pについては造形プログラムの変更は行っておらず、ノズル径の大きさによってサイズは変動しやすいため、目安値である。なお、ノズルの移動速度はいずれも40mm/sとした。
(人参パウダーを用いた場合)
3Dプリンタのノズル部の内径:0.7mm
造形食品S:一辺約30mm、高さ約14mm(20層)
造形食品C:直径約11mm、高さ約14mm(20層)
造形食品P:直径約20mm
(かぼちゃパウダーを用いた場合)
3Dプリンタのノズル部の内径:1.0mm
造形食品S:一辺約30mm、高さ約15mm(15層)
造形食品C:直径約12mm、高さ約15mm(15層)
造形食品P:直径約20mm
(ほうれん草ペーストを用いた場合)
3Dプリンタのノズル部の内径:1.25mm
造形食品S:一辺約30mm、高さ約14mm(11層)
造形食品C:直径約20mm、高さ約14mm(11層)
造形食品P:直径約20mm
(α化米粉を用いた場合)
3Dプリンタのノズル部の内径:0.7mm
造形食品S:一辺約30mm、高さ約14mm(20層)
造形食品C:直径約11mm、高さ約14mm(20層)
造形食品P:直径約20mm
(生の鶏胸肉を用いた場合)
3Dプリンタのノズル部の内径:1.25mm
造形食品S:一辺約30mm、高さ約14mm(11層)
造形食品C:直径約20mm、高さ約14mm(11層)
造形食品P:直径約20mm
(蒸した鶏胸肉を用いた場合)
3Dプリンタのノズル部の内径:1.25mm
造形食品S:一辺約30mm、高さ約14mm(11層)
造形食品C:直径約20mm、高さ約14mm(11層)
造形食品P:直径約20mm
(塩鮭を用いた場合)
3Dプリンタのノズル部の内径:1.25mm
造形食品S:一辺約30mm、高さ約14mm(11層)
造形食品C:直径約20mm、高さ約14mm(11層)
造形食品P:直径約20mm
【0058】
作製したインク及び三次元造形食品について、下記の項目について評価し、総合評価において「◎」又は「○」と評価されたインクを総合的な実用可能性があるとして評価した。
[評価1:吐出性]
3Dプリンタのノズル部からの吐出性について、次の評価基準にしたがい評価した。
◎:ノズル部から途切れず滑らかに吐出し、吐出量(吐出線の太さ)が均一である
○:ノズル部から途切れず滑らかに吐出するが、吐出量(吐出線の太さ)が均一でない
△:ノズル部から滑らかに吐出せず(途切れ)、吐出量(吐出線の太さ)が均一でない
×:吐出できない又はノズルから漏れる
【0059】
[評価2:成形性]
製造した造形食品Sの外観を観察し、次の評価基準にしたがい評価した。
◎:星形の角部の外側及び内側の両方がきれいに成形されている
○:星形の角部の外側がきれいに成形されているが内側は若干成形性に劣る
△:星形の形状と判別できるが角部の外側及び内側がともにきれいに成形できていない
×:星形の形状と判別できない
【0060】
[評価3:保形性]
一般に、保形性の低いインクを用いて三次元造形食品を製造した場合、高さを保てず横に広がったような形状となる。したがって、造形食品Cおよび造形食品Pの縦横比を用いて下記の評価基準にしたがい評価した。
(1)造形食品Cを真横から撮影した写真より、造形食品Cの高さHc及び横幅Wcを測定し、理論値から算出されるHc/Wcと測定値から算出されるHc/Wcとの差に基づいて評価した。理論値から算出されるHc/Wcとは、プログラムされた造形食品Cの高さ(ノズル部の内径×層数)をHc、直径をWcとして算出される値である。なお、高さ及び横幅の測定には、画像処理ソフトImageJを用いた。
◎:理論値に対する差が±10.0%以内
○:理論値に対する差が±20.0%以内
△:理論値に対する差が±30.0%以内
×:理論値に対する差が±30.0%を超える(形状を判別できない場合を含む)
(2)造形食品Pを真横から撮影した写真より、造形食品Pの高さHp及び横幅Wpを測定し、測定値から算出されるHp/Wpの値に基づいて評価した。
◎:Hp/Wpの値が0.70以上
○:Hp/Wpの値が0.60以上
△:Hp/Wpの値が0.50以上
×:Hp/Wpの値が0.49以下(形状を判別できない場合を含む)
【0061】
[総合評価]
各評価項目の◎を3点、〇を2点、△を1点、×を0点としたときの合計点数(最大12点)に基づき、総合的に評価した。
◎:12~10点
○:9~8点
△:7~6点
×:5点以下
【0062】
下記の表2~9に各評価結果についてまとめた。各表の簡単な説明は、次のようなものである。
表2:人参パウダーを用いた場合の比較例(添加剤として食物繊維を用いない場合)の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
表3:人参パウダーを用いた場合であって添加剤として食物繊維を用いた場合の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
表4:かぼちゃパウダーを用いた場合の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
表5:ほうれん草ペーストを用いた場合の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
表6:α化米粉を用いた場合の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
表7:生の鶏胸肉を用いた場合の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
表8:蒸した鶏胸肉を用いた場合の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
表9:塩鮭を用いた場合の吐出性、成形性、保形性の評価結果及び総合評価を示す。保形性の評価として、Hc/Wcの理論値との差及びHp/Wpの測定値を括弧内に記載し、形状が判断できない場合には(不可)と記載した。
【0063】
[評価結果の概要]
・表2~9及び図2に示すように、比較例1、6、9、12、15、18、21の造形不可であったインク(食材)に保水力が自重の15倍以上の食物繊維を添加するだけで、所望の成形性及び保形性を有する三次元造形食品を製造できることがわかる。特に、保形性の付与がより困難な中空構造であっても、当該食物繊維を添加するだけで(すなわち簡便な方法で)所望の成形性及び保形性を付与できたことは、非常に有利なことと考えられる。
・比較例9(ほうれん草ペースト)を用いた製造では、初めに水分のみがノズル部から絞りだされた後、残った食材由来の繊維等の微細な固形物がノズル部を閉塞させ、ほとんど吐出することができなかった。また、α化デンプンを添加した場合には、食材によってはダマが生じて吐出性を悪化させた。一方、保水力が自重の15倍以上の食物繊維を添加した場合には、インク中での固形物の分散性が向上し、また、ダマの形成も認められず、ノズル部を閉塞させることはなかった。
・上記以外の評価として、食感に関し、シトラス由来の食物繊維を添加した場合(圧力ホモジナイザーによる処理無し)、添加量が多いと若干ざらつきを感じさせたが、同程度の添加量のものを圧力ホモジナイザーで処理した場合には、滑らかな食感への改善が認められた。よって、所望の成形性及び保形性を付与しつつ、良好な食感を得るためには、インク中の添加剤としての食物繊維の含有割合は、当該食物繊維を4質量%以下とするか、又は圧力ホモジナイザーで処理された食物繊維を用いることが好ましいと考えられる。一方、α化デンプンを添加した場合には、粘り気の強い食感となった。
・増粘剤(例えばXG)やゲル化剤(例えばLAG)は、単独で添加した場合には比較例2、3より所望の成形性および造形性を付与できない場合があるが、これらを保水力が自重の15倍以上の食物繊維と併用で添加することで吐出性、成形性及び保形性に優れた三次元造形食品を製造することができた。また、当該食物繊維に増粘剤やゲル化剤を併用することで物性が向上する場合もある。具体的には、増粘剤を併用した場合には、吐出性の改善が認められるとともに、三次元造形食品に艶を付与できることがわかった。また、ゲル化剤を併用した場合には、当該食物繊維の添加量を減らしても所望の保形性を付与でき、且つべたつきのある食材においては、そのべたつきやねばつき等を抑えて食感を改善できることがわかった。
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
【表7】
【0070】
なお、生の鶏胸肉を用いた場合には、喫食時を想定して造形食品Cをスチームコンベクションオーブンで85℃10分加熱したところ、保水力が自重の15倍以上の食物繊維を添加した場合、加熱後においても三次元造形食品の形状が維持されていた。また、加水を行ったにもかかわらず肉様の繊維感と弾力が付与されており、好ましい食感であった。さらに離水が抑制されており、それによって、歩留まりの向上が期待できる。
【0071】
【表8】
【0072】
【表9】
【0073】
表2~表9の結果によれば、試験に用いた全ての食材において、保水力が自重の15倍以上の食物繊維を添加することによって、所望の成形性及び保形性を三次元造形食品に付与できることを把握することができる。一方、他の添加剤では、食材によっては、所望の成形性及び保形性を付与できない場合があることを把握することができる。この結果から、保水力が自重の15倍以上の食物繊維は、食材の構成要素による影響を受けにくく、より多くの食材を三次元造形食品に適用させ得るものと考えられる。
【符号の説明】
【0074】
1:3Dプリンタ、10:シリンダ部、11:ノズル部、20:プランジャ部、30:熱交換部、40:加工台、50:温度制御部
【要約】
【課題】本発明は、成形性及び保形性に優れる三次元造形食品を簡便に製造可能な三次元造形食品用インクを提供することを課題とする。
【解決手段】食材と、食物繊維とを含み、前記食物繊維の保水力が自重の15倍以上である、三次元造形食品用インク。
【選択図】なし
図1
図2