(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-11
(45)【発行日】2024-01-19
(54)【発明の名称】電極触媒及びその製造方法並びに燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20240112BHJP
B01J 23/42 20060101ALI20240112BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240112BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20240112BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240112BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240112BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240112BHJP
【FI】
H01M4/96 M
B01J23/42 M
B01J35/10 301G
B01J37/16
H01M4/88 C
H01M4/92
H01M4/96 B
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2023502231
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 JP2022003895
(87)【国際公開番号】W WO2022181261
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2021030711
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 紘成
(72)【発明者】
【氏名】藤野 高彰
(72)【発明者】
【氏名】大迫 隆男
(72)【発明者】
【氏名】北畠 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 彦睦
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第08/093731(WO,A1)
【文献】国際公開第14/185498(WO,A1)
【文献】特表2015-513570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
B01J 23/42
B01J 35/10
B01J 37/16
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、前記細孔の少なくとも一部に担持された触媒金属粒子とを含む電極触媒であって、
前記細孔の最頻細孔径Rに対する前記触媒金属粒子の平均粒子径rの比r/Rが0.01以上0.6以下であり、
前記平均粒子径rが6nm以下であり、
前記最頻細孔径Rが2nm以上50nm以下であ
り、
前記担体における酸性基の存在量が0.1mmol/g以上であり、
前記メソポーラスカーボン担体の単位質量当たりの全表面積に対する、前記メソポーラスカーボン担体の単位質量当たりの全細孔表面積が90%以上99%以下である電極触媒。
【請求項2】
前記メソポーラスカーボン担体が粒子状であり、平均粒子径が0.1μm以上50μm以下である、請求項
1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記触媒金属粒子が少なくとも白金族元素を含む、請求項1又は2に記載の電極触媒。
【請求項4】
細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、触媒金属源化合物と、触媒金属源化合物の還元作用を有する液媒体とを含む分散液を凍結させて凍結体を得て、
前記凍結体を含む系を脱気して減圧状態とし、
前記減圧状態を維持したまま前記凍結体を解凍して分散液となし、
前記分散液を加熱して前記触媒金属源化合物から触媒金属の粒子を生成させる、電極触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の電極触媒を備える燃料電池用電極触媒。
【請求項6】
請求項
5に記載の燃料電池用電極触媒を備える燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒及びその製造方法に関する。また本発明は燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池や水の電気分解装置などの電気化学セルにおいては、白金等の貴金属触媒を担体に担持した触媒担持担体が電極触媒として用いられている。触媒の有効利用の観点から、触媒の担体としては比表面積の大きな材料である炭素質材料が用いられることが多い。
【0003】
例えば特許文献1ないし3には、触媒の担体として多孔質炭素材料を用い、該多孔質炭素材料の細孔内に触媒の粒子を担持させることが提案されている。細孔内に触媒の粒子を担持させることで、触媒がアイオノマーと接触しづらくなり、アイオノマーによる触媒の被毒が抑制されると、これらの文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/175099号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2020/075964号明細書
【文献】米国特許出願公開第2020/127299号明細書
【発明の概要】
【0005】
しかし特許文献1ないし3の技術では、使用時間の経過に伴い触媒を構成する金属が溶出したり、触媒の粒子どうしが凝集したりすることを確実に抑制できず、触媒作用の低下が生じやすい。
したがって本発明の課題は、触媒作用の経時劣化が抑制された電極触媒並びにその製造方法及びそれを用いた燃料電池を提供することにある。
【0006】
本発明は、細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、前記細孔の少なくとも一部に担持された触媒金属粒子とを含む電極触媒であって、
前記細孔の最頻細孔径Rに対する前記触媒金属粒子の平均粒子径rとの比r/Rが0.01以上0.6以下であり、前記平均粒子径rが6nm以下である電極触媒を提供するものである。
【0007】
また本発明は、細孔を有するメソポーラスカーボン担体と、触媒金属源化合物と、触媒金属源化合物の還元作用を有する液媒体とを含む分散液を凍結させて凍結体を得て、
前記凍結体を含む系を脱気して減圧状態とし、
前記減圧状態を維持したまま前記凍結体を解凍して分散液となし、
前記分散液を加熱して前記触媒金属源化合物から触媒金属の粒子を生成させる、電極触媒の製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は、電極触媒に関するものである。本発明の電極触媒は、担体と、該担体に担持された触媒金属粒子とを含むものである。本発明の電極触媒は、例えば各種の燃料電池の電極に好適に用いられる。具体的には、本発明の電極触媒は、固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池のアノード電極触媒層及び/又はカソード電極触媒層に用いられる。あるいは本発明の電極触媒は、水の電気分解装置のアノード電極触媒層及び/又はカソード電極触媒層に用いられる。
【0009】
電極触媒の担体は、細孔を有するメソポーラス構造体の粒子からなる。メソポーラス構造体は、メソスケール、すなわち最頻細孔径が直径2nm以上50nm以下の細孔を有する多孔質構造からなることが好ましい。担体がメソスケールの細孔を有することで表面積が大きくなり、該細孔内に細孔径より小さな触媒金属粒子を首尾よく担持させることが可能となる。細孔径の好ましい測定方法は後述する実施例において説明する。
担体に形成されている細孔は、担体の表面において開口し、担体の内部に向けて延びている。細孔は、担体中に複数形成されている。細孔は、担体の表面において開口し且つ担体の内部において終端していてもよい。つまり細孔は、非貫通孔であってもよい。あるいは細孔は、該細孔の一端が担体の表面において開口し、担体の内部に延在し、且つ他端が担体の表面において開口していてもよい。つまり細孔は、貫通孔であってもよい。
【0010】
担体が多孔質である程度の大小は、担体の単位質量当たりの全表面積SAに対する、担体の単位質量当たりの全細孔表面積SPの比率を尺度として評価できる。本発明においては、この比率(以下「細孔内表面積比率」ともいう。)が80%以上であることが、十分な量の触媒金属粒子を担持し得る観点から好ましい。この観点から細孔内表面積比率は、85%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが一層好ましい。
また、担体の細孔内表面積比率は、カーボン材料を使用する場合は、該カーボン材料は耐久性が十分高いことから、99%以下であることが好ましい。
担体の細孔内表面積比率は、〔担体の単位質量当たりの全細孔表面積SP(m2/g)/担体の単位質量当たりの全表面積SA(m2/g)〕×100で定義される。担体の細孔内表面積比率の好ましい測定方法は、後述する実施例において説明する。
【0011】
担体は、その表面に酸性基を有することが好ましい。本明細書において酸性基とは、プロトンの放出が可能な官能基のことである。酸性基の例としては、水酸基、ラクトン基及びカルボキシル基が挙げられる。また「担体の表面」とは、担体の粒子の外表面及び細孔の内表面の両者を意味する。
担体が酸性基を有することで、担体表面に親水性が付与されて、プロトン輸送性が向上するという利点がある。プロトン輸送性の向上は、触媒金属粒子の利用性を高めることに寄与する。
以上の利点を一層顕著なものとする観点から、担体における酸性基の存在量は、0.05mmol/g以上とすることが好ましく、0.07mmol/g以上とすることが更に好ましく、0.1mmol/g以上とすることが一層好ましい。この酸性基の存在量の上限については特に制限はないが、典型的には5mmol/g以下である。
【0012】
担体の表面に酸性基を存在させるためには、例えば酸化剤を含む酸化性溶液中に担体又は電極触媒を浸漬させる方法を採用できる。尤もこの方法に限定されるものではない。
【0013】
担体における酸性基の存在量は、アルカリ化合物を用いた滴定法によって測定できる。好ましい測定法は、後述する実施例において説明する。
【0014】
担体としては、カーボンを含む担体を用いることが好ましく、特にカーボンが主成分である担体を用いることが好ましい。「カーボンが主成分である」とは、担体に占めるカーボンの割合が50質量%以上であることをいう。カーボンを含む担体を用いることで、該担体の電子伝導性が向上し、電気抵抗が低下するので好ましい。
【0015】
前記カーボンとしては、例えばカーボンブラックと呼ばれる一群の炭素質材料が挙げられる。具体的にはケッチェンブラック(登録商標)、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック及びアセチレンブラック等を用いることができる。また、前記カーボンとして活性炭及びグラファイトを用いることもできる。本発明においては、カーボン材料の種類は特に限定されるものでなく、いずれのカーボン材料を用いた場合であっても所期の効果が奏される。
また、導電性を向上させる観点や、担体と触媒金属との相互作用を向上させる観点から、窒素やホウ素等の元素でドープされた前記カーボン材料を用いることもできる。
【0016】
担体に形成されている細孔の一部に又は全部に触媒金属粒子が存在している。触媒金属粒子は、担体における細孔の内部に少なくとも存在していることが好ましい。細孔の内部に加えて担体の表面に触媒金属粒子が存在していることは妨げられない。
【0017】
触媒としては、貴金属そのもの、及び貴金属を含む合金を用いることができるがこれらに限定されない。貴金属を含む合金は、以下に述べる貴金属1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。触媒として、前記の貴金属とそれ以外の金属からなる合金を用いることもできる。
本発明において好適に使用可能な貴金属としては、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性を有するものであれば特に制限されず、公知の材料が使用できる。例えば、貴金属は、Pt、Ru、Ir、Pd、Rh、Os、Au、Ag等から選択される。「それ以外の金属」は特に限定されないが、遷移金属元素が好ましく、例えばSn、Ti、Ni、Co、Fe、W、Ta、Nb、Sbを好適な例として挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、前記触媒金属粒子が少なくとも白金族元素を含むか、前記触媒金属粒子が白金族元素からなるか、又は前記触媒金属粒子が白金族元素と遷移金属元素との合金からなることが、高い酸素還元活性を得る観点から好ましい。本明細書において白金族元素とはPt、Ir、Os、Pd、Rh、Ruをいう。本発明の電極触媒を燃料電池に用いる場合、燃料ガスとして純水素のみを用いるのであれば、触媒は前記白金族元素単体のみでよい。しかし、燃料ガスに改質ガスを使用する場合には、COによる被毒を防ぐために、遷移金属元素等の他の金属元素の添加が有効である。
上述の白金族元素を含む触媒の中でも、Pt及びPtを含む合金は、固体高分子形燃料電池の作動温度である80℃付近の温度域において、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性が高いので、特に好適に使用することができる。
【0018】
本発明は、担体に形成されている細孔の最頻細孔径Rと、該細孔内に担持されている触媒金属粒子の平均粒子径rとの関係に特徴の一つを有する。詳細には、細孔の最頻細孔径Rと、触媒金属粒子の平均粒子径rとは、両者の比であるr/Rの値が0.01以上であることが、細孔内に担持された触媒金属粒子の溶出を効果的に抑制し得る観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、r/Rの値は0.03以上であることが更に好ましく、0.05以上であることが一層好ましい。
またr/Rの値は0.6以下であることが、触媒金属粒子表面の有効活用の観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、r/Rの値は0.5以下であることが更に好ましく、0.4以下であることが一層好ましい。
【0019】
当該技術分野においては、これまで、多孔質の担体における細孔内に触媒粒子を担持させる技術は知られていた。しかし、細孔の最頻細孔径Rと、該細孔内に担持されている触媒金属粒子の平均粒子径rとの関係についての検討はこれまで行われてこなかった。特に、最頻細孔径Rと平均粒子径rとの比を特定の範囲に設定することによって、触媒金属粒子が細孔の外へ溶出する現象が効果的に抑制され、これに起因して触媒の経時劣化を抑制に寄与することは本発明者が初めて見出した事項である。
また、本発明の好ましい態様の電極触媒を用いた長期性能評価において評価時間の経過とともに触媒活性が上昇するという、従来の常識からは考えられない驚くべき効果が奏されることが判明した。この理由は以下のとおりであると本発明者は考えている。
最頻細孔径Rと平均粒子径rとの比が特定の範囲に設定されている本発明の電極触媒は、細孔内に存在している触媒金属粒子が燃料電池の運転中に溶解したとしても、溶解した金属が細孔外へ流出しづらい。そのことに起因して、細孔内に留まっている溶解した金属が、時間の経過とともに再析出して、溶解前よりも小径の、すなわち比表面積が非常に増大した触媒金属粒子が多数発生する。その結果、触媒活性が経時的に上昇すると考えられる。
【0020】
細孔の最頻細孔径Rと、触媒金属粒子の平均粒子径rとの比は上述のとおりであるところ、細孔の最頻細孔径Rの値そのものについては、2nm以上であることが、触媒粒子を細孔内に効率的に担持する観点と、細孔内に担持した触媒粒子の表面全体を有効活用する観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、最頻細孔径Rの値は4nm以上であることがより好ましく、7nm以上であることが更に好ましく、10nm以上であることが一層好ましい。
また、細孔の最頻細孔径Rの値は、50nm以下であることが、触媒金属粒子とアイオノマーとの接触を抑制する観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、最頻細孔径Rの値は40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることが更に一層好ましい。
細孔の最頻細孔径Rの好ましい測定方法については、後述する実施例において説明する。
【0021】
一方、触媒金属粒子の平均粒子径rの値は、6nm以下であることが、電極触媒の初期活性を高くする観点から好ましい。この利点を一層顕著なものとする観点から、平均粒子径rの値は5nm以下であることがより好ましく、4nm以下であることが更に好ましく、3nm以下であることが一層好ましい。
触媒金属粒子の平均粒子径rの好ましい測定方法については、後述する実施例において説明する。
【0022】
電極触媒において、触媒金属粒子の担持量は、担体の質量に対して10質量%以上60質量%以下、特に30質量%以上50質量%以下とすることが、十分な触媒能の発現の点から好ましい。
【0023】
電極触媒において、粒子状である担体は、その平均粒子径Dが50μm以下であることが、担体の有効な表面積を大きくし得る点から好ましい。この観点から、担体の平均粒子径Dは20μm以下であることが更に好ましく、10μm以下であることが一層好ましい。
また、担体の平均粒子径Dは、該担体内に細孔を十分に形成させる観点から、0.1μm以上であることが好ましい。この観点から、担体の平均粒子径Dは0.5μm以上であることが更に好ましく、1μm以上であることが一層好ましい。
担体の平均粒子径Dは、該担体を電子顕微鏡観察することや粒度分布計を用いることで測定する。好ましい測定方法は、後述する実施例において説明する。
なお、触媒金属粒子の平均粒子径rは、担体の平均粒子径Dよりも十分に小さいことから、担体に触媒金属粒子が担持されてなる電極触媒の平均粒子径は、担体の平均粒子径Dとほぼ同様と見なすことができる。
【0024】
次に、本発明の電極触媒の好適な製造方法について説明する。
まず、電極触媒の原料の一つである担体、すなわち細孔を有するメソポーラスカーボン担体を用意する。
担体とともに、電極触媒の原料の一つである触媒金属源化合物を用意する。触媒金属源化合物としては、触媒金属の種類に応じて適切なものが選択される。触媒金属として例えば白金を用いる場合には、触媒金属源化合物として塩化白金酸六水和物(H2PtC16・6H2O)やジニトロジアンミン白金(Pt(NH3)2(NO2)2)等を用いることができる。
上述した担体及び触媒金属源化合物に加えて、該触媒金属源化合物の還元作用を有する液媒体も用意する。液媒体としては、例えば各種アルコール類、クエン酸水溶液、アスコルビン酸水溶液、水素化ホウ素ナトリウム水溶液などが挙げられる。
これらの液媒体のうち、取り扱いの容易さや還元性の高さの観点からアルコール類を用いることが好ましい。アルコール類としては、例えばエタノールをはじめとする一価低級アルコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。これらのアルコール類のうち、エタノールを用いることが、取り扱いの容易さと還元性の高さのバランスがとれている点から好ましい。
【0025】
以上の原料が用意できたら、これら三者を混合して分散液を得る。分散液における担体の割合は、液媒体に対して1質量%以上20質量%以下に設定することが、触媒金属粒子を担体に首尾よく担持させ得る点から好ましい。
また分散液における触媒金属源化合物の割合は、分散液中の触媒金属源の割合が、担体に対して10質量%以上60質量%以下になるように設定することが、触媒金属粒子を担体に首尾よく担持させ得る点から好ましい。
【0026】
分散液の調製が完了したら、この分散液を凍結させて凍結体を得る。分散液を凍結させる目的は、後述する凍結体の解凍工程において担体の細孔内に触媒金属源化合物を十分に浸透させることにある。したがって、分散液が固体状態になればよく、該分散液の凍結の程度に特に制限はない。
分散液を凍結させる温度は液媒体の融点に依存する。液媒体として例えばエタノールを用いる場合には、-115℃以下に分散液を冷却することが好ましい。
分散液を凍結させる手段に特に制限はなく、従来公知の冷却手段を採用できる。簡便な方法として、分散液の入った容器を液体窒素に浸漬する方法が挙げられる。
【0027】
凍結体が得られたら、該凍結体を含む系を脱気して該系内を減圧状態にする。詳細には、凍結体を例えば密閉空間内に載置し、該密閉空間内を脱気して減圧状態にする。減圧の程度は、後述する凍結体の解凍工程において担体の細孔内に触媒金属源化合物を十分に浸透させ得る程度であればよい。具体的には、絶対圧で表して、1000Pa以下に設定することが好ましく、500Pa以下に設定することが更に好ましく、100Pa以下に設定することが一層好ましい。下限値に特に制限はないが、排気減圧装置の性能を考慮すると、1Pa以上とすることが典型的である。
【0028】
凍結体を含む系内を減圧状態にしたら、その減圧状態を維持したままで該凍結体を解凍する。減圧状態下に凍結体が解凍することで、担体の細孔内に存在している気体と、触媒金属源化合物を含む液媒体との置換が生じ、細孔内は触媒金属源化合物を含む液媒体で十分に満たされる。
凍結体を解凍した後の系内の減圧状態は、解凍前の系内の減圧状態と完全に一致することを要せず、解凍前よりも解凍後の方がより圧力が高くなっていてもよい。尤も、担体の細孔内に存在している気体と、触媒金属源化合物を含む液媒体との置換が円滑に生じる程度に系内が減圧状態になっていることが有利である。この観点から、凍結体を解凍した後の系内の圧力は、絶対圧で表して、1000Pa以下に設定することが好ましく、500Pa以下に設定することが更に好ましく、100Pa以下に設定することが一層好ましい。この系内の圧力の下限値に特に制限はないが、典型的には1Pa以上である。
凍結体を解凍して生じた分散液の温度は分散液が還元されない程度の温度にする必要がある。凍結体の解凍によって生じた分散液の温度は、40℃以下とすることが好ましい。この解凍は、分散液が発泡しなくなるまで行うことが好ましく、それにより分散液が浸透したことを確認できる。一度の操作でまだ発泡が観察される場合は、上述の凍結・脱気・解凍の工程を発泡が観察されなくなるまで複数回行うことが、分散液の浸透を適切に行える点から好ましい。
【0029】
担体の細孔内に存在している気体と、触媒金属源化合物を含む液媒体との置換は比較的短時間で完了する。その後、分散液の加熱を行う。この加熱によって、触媒金属源化合物が液媒体によって還元され、該触媒金属源化合物から触媒金属の粒子が生成する。上述のとおり、触媒金属源化合物を含む液媒体は、担体の細孔内に浸透していることから、触媒金属源化合物の還元による触媒金属の粒子の生成は細孔内で生じる。また、触媒金属の粒子の生成は、細孔内だけでなく、担体の外表面でも生じる。
【0030】
細孔内で生成した触媒金属の粒子は、その成長が細孔によって規制され、細孔のサイズに応じた直径にまでしか粒子は成長することができない。つまり細孔が、言わば触媒金属の粒子が成長するための「枠」として機能する。その結果、後述する電極触媒の加熱工程によって触媒金属粒子が大きくなりすぎず、生成した触媒金属粒子の平均粒子径rと、細孔の最頻細孔径Rとの間に特定の関係が成立する。
【0031】
分散液の加熱温度は、触媒金属源化合物の還元が生じる程度であれば特に制限はない。必要に応じて、分散液を還流させながら加熱してもよい。
【0032】
このようにして触媒金属粒子が生成したら、分散液を固液分離し、固形分を回収して洗浄し乾燥させる。このようにして目的とする電極触媒が得られる。
【0033】
得られた電極触媒に対して後処理を施すことができる。例えば電極触媒を加熱して、触媒金属粒子の粒子サイズを調整することができる。加熱によって触媒金属粒子を成長させ、粒子径を大きくすることができる。
加熱は、還元性ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気で行うことが、担体が加熱によるダメージを受けにくいことから好ましい。なお、電極触媒の熱処理によって担体のメソポーラス構造に実質的な変化が生じないことを本発明者は確認している。
【0034】
熱処理に用いる還元性ガス雰囲気としては、例えば水素ガス雰囲気や、水素ガス含有不活性ガス雰囲気(例えば爆発限界濃度未満の水素ガスを含む窒素ガス雰囲気)が挙げられる。
不活性ガス雰囲気としては、例えば窒素ガス雰囲気や、アルゴン等の希ガス雰囲気が挙げられる。
【0035】
熱処理の時間と温度は、雰囲気に応じて適切に設定される。
還元性ガス雰囲気の場合、熱処理の温度は好ましくは1000℃以下、更に好ましくは950℃以下、一層好ましくは850℃以下に設定することが、触媒金属粒子の粒子径を所望の値に首尾よく調整し得る観点から好ましい。下限値としては作業性の観点から、25℃以上とすることが好ましく、300℃以上が更に好ましい。
【0036】
このようにして得られた電極触媒を用いて燃料電池における電極触媒層を形成できる。電極触媒層には、電極触媒に加え、必要に応じて電極触媒どうしを結合する結着剤や、アイオノマーなど、当該技術分野においてこれまで知られている材料と同様の材料を含有させてもよい。
【0037】
アイオノマーはプロトン伝導性を有することが好ましい。電極触媒層にアイオノマーが含まれることで、該触媒層の性能が一層向上する。アイオノマーとしては、例えば、末端にスルホン酸基を有するパーフルオロエーテルペンダント側鎖が、ポリテトラフルオロエチレン主鎖と結合した構造を有する高分子材料を用いることができる。そのようなアイオノマーとしては、例えばナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)、フミオンF(登録商標)などが挙げられる。
【0038】
電極触媒層は、例えば次の方法で好適に形成される。まず電極触媒を含む分散液を調製する。分散液の調製のためには、電極触媒と溶媒とを混合する。混合に際しては必要に応じてアイオノマーも添加する。
【0039】
分散に用いられる溶媒としては、例えばアルコール類、トルエンやベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、その他ケトン類やエステル類、エーテル類などの有機溶媒や、水を用いることができる。
【0040】
分散液が得られたら、この分散液から電極触媒層を形成する。電極触媒層の形成は、例えば各種の塗布装置を用いて分散液を塗布対象物に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで行われる。塗布対象物としては、例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂のフィルム等を用いることができる。塗布対象物上に形成された電極触媒層を、例えば固体電解質膜と重ね合わせて熱プレスすることで、電極触媒層を固体電解質膜の表面に転写する。この転写によって、固体電解質膜の一面に電極触媒層が配置されてなるCCMが得られる。
【0041】
このようにして形成された電極触媒層は、固体高分子形燃料電池のアノード及び/又はカソードの電極触媒層として好適に用いられる。アノード及びカソードは、電極触媒層と、ガス拡散層とを含んでいることが好ましい。ガス拡散層は、集電機能を有する支持集電体として機能するものである。更にガス拡散層は、電極触媒層にガスを十分に供給する機能を有するものである。
ガス拡散層としては、例えば多孔質材料であるカーボンペーパー、カーボンクロスを用いることができる。具体的には、例えば表面をポリテトラフルオロエチレンでコーティングした炭素繊維と、当該コーティングがなされていない炭素繊維とを所定の割合とした糸で織成したカーボンクロスにより形成することができる。
【0042】
固体電解質膜としては、例えばパーフルオロスルホン酸ポリマー系のプロトン伝導体膜、リン酸などの無機酸を炭化水素系高分子化合物にドープさせたもの、一部がプロトン伝導体の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。
【0043】
電極触媒層と、固体電解質膜と、ガス拡散層とからなる膜電極接合体は、その各面にセパレータが配されて固体高分子形燃料電池となされる。セパレータとしては、例えばガス拡散層との対向面に、一方向に延びる複数個の凸部(リブ)が所定間隔をおいて形成されているものを用いることができる。隣り合う凸部間は、断面が矩形の溝部となっている。この溝部は、燃料ガス及び空気等の酸化剤ガスの供給排出用流路として用いられる。燃料ガス及び酸化剤ガスは、燃料ガス供給手段及び酸化剤ガス供給手段からそれぞれ供給される。膜電極接合体の各面に配されるそれぞれのセパレータは、それに形成されている溝部が互いに直交するように配置されることが好ましい。以上の構成が燃料電池の最小単位を構成しており、この構成を数十個~数百個並設してなるセルスタックから燃料電池を構成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0045】
〔実施例1〕
(1)分散液の調製
以下の表1に示すメソポーラスカーボン担体を準備した。2.6質量部のメソポーラスカーボン担体と、触媒金属源化合物として16.7質量部のジニトロジアンミン白金硝酸溶液と、液媒体として80.7質量部のエタノールとを混合して分散液を調製した。メソポーラスカーボン担体の細孔容積は2.0cm3/gであった。
(2)分散液の凍結
分散液の入った容器を液体窒素に浸漬させ該分散液を凍結させて凍結体を得た。
(3)脱気
凍結体を密閉容器内に載置し、該密閉容器内を脱気して圧力を100Pa(絶対圧)の減圧状態にした。
(4)凍結体の解凍
流水と恒温槽を用いて凍結体を解凍し分散液の状態に戻した。分散液の温度は30℃であった。解凍時に分散液が発泡しなくなることで、担体内部まで分散液が浸透したことを確認した。
(5)還元処理
分散液を還流させながら85℃に加熱してジニトロジアンミン白金を還元し、メソポーラスカーボン担体の細孔内に白金粒子を生成させた。その後、分散液を固液分離し、固形分を洗浄及び乾燥して電極触媒を得た。このとき、細孔容積は1.2cm3/gであった。触媒担持前よりも細孔容積が減少していることから、細孔内に触媒金属粒子が担持されていることが確認された。
(6)加熱処理
水素を4vol%含む窒素雰囲気下に、電極触媒を300℃で4時間加熱して、白金粒子の粒子径を調整した。
【0046】
〔実施例2〕
実施例1において、(6)加熱処理の温度を825℃に変更した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0047】
〔実施例3〕
実施例1において、(6)加熱処理を行わなかった。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0048】
〔実施例4〕
実施例1において、使用するカーボン担体を以下の表1に示すメソポーラスカーボン担体に変更した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0049】
〔実施例5〕
実施例1において、使用するカーボン担体を以下の表1に示すメソポーラスカーボン担体に変更した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0050】
〔比較例1〕
実施例1において、(6)加熱処理の温度を1000℃に変更した。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0051】
〔比較例2〕
実施例4において、(6)加熱処理の温度を825℃に変更した。これ以外は実施例4と同様にして電極触媒を得た。
【0052】
〔比較例3〕
実施例5において、(6)加熱処理の温度1000℃に変更した。これ以外は実施例5と同様にして電極触媒を得た。
【0053】
〔比較例4〕
メソポーラスカーボン担体に代えて、ライオン株式会社の中空ケッチェンブラックであるECP(商品名)を用いた。これ以外は実施例1と同様にして電極触媒を得た。
【0054】
〔評価〕
実施例及び比較例で用いたカーボン担体の最頻細孔径R、平均粒子径D、単位質量当たりの全表面積、単位質量当たりの全細孔表面積、及び単位質量当たりの酸性基の量の測定方法は以下のとおりである。
また、実施例及び比較例で得られた電極触媒について、触媒金属粒子の平均粒子径r、電気化学的活性表面積維持率を以下の方法で測定した。
結果を以下の表1に示す。なお、表中の値が―になっているものは、明確な値が定まらなかったことを意味する。
【0055】
〔カーボン担体の平均粒子径D〕
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(BECKMAN COULTER社製 LS 13 320)を用いて測定した。カーボン担体に水を加えて分散液を調製し、この分散液に超音波を照射した後、0.04μm以上2000μm以下の範囲で粒子径の測定を行った。超音波の照射は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置の循環系に付帯された超音波装置を用いて3分間行った。個数基準平均粒子径を算出しカーボン担体の平均粒子径Dとした。
【0056】
〔カーボン担体の最頻細孔径R、全表面積及び全細孔表面積〕
カーボン担体の最頻細孔径R、全表面積及び全細孔表面積は窒素吸脱着等温線を解析することにより測定した。窒素吸脱着測定はガス吸着測定装置(MicrotracBEL社製 BELSORP-miniX)を用いた。前処理として、10Paに減圧された条件下でカーボン担体を400℃にて3時間加熱した。得られた吸着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法を用いて解析し、2nm以上50nm以下におけるカーボン担体の最頻細孔径Rを算出した。また、得られた吸着等温線を、t法を用いて解析し、カーボン担体の全表面積及び全細孔表面積を算出した。解析ソフトウェアにはガス吸着測定装置に付属のBELMaster7を用いた。
なお、電極触媒における最頻細孔径Rは、触媒を担持させる前のカーボン担体における最頻細孔径Rと実質的に同一であることを本発明者は確認している。
【0057】
〔カーボン担体の酸性基の量〕
Boehm,H.P.,Advances in Catalysis,16 179(1966).に記載された手法に従って評価を行った。自動滴定装置(京都電子工業社製 AT-710WIN)を用いて逆滴定により算出した。試料0.5gに0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液80mLを加え、窒素雰囲気中で撹拌後、室温で静置し、ろ液を0.025mol/Lの塩酸により逆滴定を行った。
【0058】
〔白金粒子の平均粒子径r〕
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて白金粒子の観察を行った。TEMはJEOL社製JEM-2100Fを使用した。観察時の倍率は20万倍とした。得られたTEM画像について画像ソフトウェア(ImageJ)により粒子の面積を求め、当該粒子を球状と見なした際の粒子径を算出した。200個以上300個以下の粒子について粒子径を求め、これら粒子径の算術平均値を白金粒子の平均粒子径rとした。
【0059】
〔電気化学的活性表面積(ECSA)維持率〕
(1)電極作製
直径5mmのグラッシーカーボン(GC)ディスク電極を0.05μmのアルミナペーストを用いて研磨し、その後純水を用いて超音波洗浄を行った。この走査とは別に、電極触媒を90vol%エタノール水溶液に加え、超音波ホモジナイザーにて分散させた。
分散液を前記GCディスク電極上へ、該ディスクの面積当たりのPt金属量が12μg-Pt/cm2-GCとなる密度で塗布し、常温で乾燥させた。乾燥後、GCディスク上に5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(274704-100ML、シグマアルドリッチ社製)を膜厚が50nmになるように滴下し、常温で乾燥させた。
【0060】
(2)CV測定
測定は北斗電工株式会社製の電気化学測定システムHZ-7000を用いて実施した。0.1mol/LのHClO4水溶液に窒素ガスを1時間以上バブリングした後、参照極に水素電極(RHE)を用い、電位範囲0.0~1.0V(vs.RHE)、掃引速度0.5V/sで300回クリーニングを実施した。
【0061】
(3)電位サイクル試験
ECSA評価で用いた前記電解液(HClO4水溶液)に窒素ガスを1時間以上バブリングした後、0.6V~1.0V(vs.RHE)の矩形波サイクル試験を14万回行った。
【0062】
(4)ECSA評価
電位サイクル試験で用いた前記電解液(HClO4水溶液)に酸素ガスを1時間以上バブリングした後、CV測定を電位範囲0.0~1.0V(vs.RHE)で実施した。ECSAの解析は0.4Vよりも卑な電位領域に見られる水素の吸着波を用いて実施した。解析は、電位サイクル500回目と14万回目の2点で行った。
【0063】
(5)ECSA維持率の算出
電位サイクル14万回目のECSAを電位サイクル1000回目のECSAで除し、100を乗じた値をECSA維持率(%)とした。クリーニング不足による測定条件のばらつき防止の観点から、ECSA維持率算出の基準を電位サイクル1000回目とした。
【0064】
【0065】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた電極触媒は、触媒作用の経時劣化が抑制されるだけでなく、時間の経過とともに触媒作用が向上することが分かる。
なお、表には示していないが、各実施例で得られた電極触媒について単位質量当たりの全表面積、単位質量当たりの全細孔表面積及び全細孔容積を測定したところ、すべての実施例においてこれらの値のいずれもが、白金粒子を担持させる前の担体における値よりも減少していた。このことから、触媒金属粒子が担体細孔内部に担持されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、触媒作用の経時劣化が抑制された電極触媒及び燃料電池が提供される。また本発明によれば、そのような電極触媒を容易に製造し得る方法が提供される。