(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】拡開式アンカー
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
E04B1/41 503G
(21)【出願番号】P 2020539442
(86)(22)【出願日】2019-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2019033322
(87)【国際公開番号】W WO2020045348
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018158696
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517258774
【氏名又は名称】土肥 雄治
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】土肥 雄治
(72)【発明者】
【氏名】浜田 敏次
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-230279(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121993(WO,A1)
【文献】実公平07-028259(JP,Y2)
【文献】特開2015-102166(JP,A)
【文献】特開2012-082892(JP,A)
【文献】特開2017-187069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/41
F16B 13/00 - 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工部に空けられた下穴に入り込む部位
が拡開部と非拡開部とに分かれている中空状のアンカー本体と、
前記アンカー本体の拡開部を広がり変形させる拡開操作部材と、
前記アンカー本体のうち少なくとも前記拡開部の一部を外周側から覆うスリーブとを有して
おり、
前記アンカー本体の拡開部は、軸方向に長いインナースリットを複数本並設することによって軸心と交叉した方向に広がり変形することが許容されている構成であって、
前記アンカー本体における前記拡開部の外周面は、前記拡開部を拡開する前の状態で前記非拡開部と同一径で連続したストレート形状になっている一方、
前記スリーブは板材製又はパイプ製であって全体が等厚になっており、
前記スリーブは、前記拡開部と非拡開部との両方に跨がって配置されていると共に、先端は前記拡開部の先端よりも手前に位置しており、従って、前記拡開部は、前記スリーブの先端からはみ出た露出部を有しており、
前記スリーブとアンカー本体とは、前記拡開部が拡開した状態で前記アンカー本体に引き抜き力が作用したときに前記スリーブは前記下穴に停止して前記アンカー本体が後退することを許容するように、
前記拡開部と非拡開部との両方に対して相対動可能に設定されている、
拡開式アンカー。
【請求項2】
前記拡開操作部材は、前記アンカー本体のうち少なくとも前記拡開部内に配置したボールの群と、前記ボールの群を先端側に押しやるボルトとによって構成されており、前記アンカー本体の内周には雌ねじが形成されている、
請求項1に記載した拡開式アンカー。
【請求項3】
前記拡開操作部材は、前記アンカー本体の拡開部に内部から進入する芯棒であり、前記芯棒と前記拡開部とのうち少なくとも一方に、前記芯棒の打ち込みによって前記拡開部を広がり変形させるテーパ部が形成されている、
請求項1又は2に記載した拡開式アンカー。
【請求項4】
前記スリーブは、その全長に亙って延びる1本のメインアウタースリットによって非ループ形状に分断されており、
かつ、前記アンカー本体の拡開部に嵌まる部位は、前記アンカー本体の先端側にのみ開口した補助アウタースリットによって複数の片に分離している、
請求項
1~3のうちのいずれかに記載した拡開式アンカー。
【請求項5】
前記アンカー本体の非拡開部に、前記スリーブの後退動を阻止する突起が形成されている、
請求項1~4のうちのいずれかに記載した拡開式アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンクリートやレンガなどの石質系部材に各種部材を取り付けるのに好適な拡開式アンカーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物やトンネルなどのコンクリート構造物に各種の部材を取り付けるための手段として、後施工方式の拡開式アンカーが使用されている。この拡開式アンカーは、筒状のアンカー本体を有しており、アンカー本体に、軸方向に長いスリットが周方向に並べて形成された拡開部を形成することにより、拡開部が軸心と交叉した方向に広がり変形(膨れ変形)するようになっている。そして、拡開部を広げ変形させる拡開操作部材としては、叩き込み式の芯棒(拡開ピン)や、1個又は複数個のボールとこれを押すボルトとのセットが使用されている。ボールをボルトで押して拡開部を広げる方式の先行例として、例えば特許文献1~3がある。
【0003】
特許文献1,2では、拡開式アンカーはスリットが先端まで開口している先割れ方式になっているが、特許文献3には、スリットがアンカー本体の先端に至っておらずに先端部が閉じたクローズ方式のアンカーが開示されている。
【0004】
特許文献1~3のように、ボールをボルトで押して拡開部を広げる方式では、拡開部の広がりの程度を調節できるため、引き抜き抵抗の調節が容易である。特に、特許文献3のように多数のボールを使用すると、拡開部の長さを長くして下穴に対する突っ張り力を分散できるため、施工部のコーン破壊を抑制できる利点がある。
【0005】
また、芯棒方式の拡開式アンカーでは、芯棒はハンマで叩き込まねばならないため作業者の負担が大きいが、特許文献1~3のボール方式では、ボルトは動力ドライバで回転操作できるため、作業者の負担を軽減できる利点がある。
【0006】
他方、芯棒によって拡開部を広げるタイプの一例として特許文献4がある。この特許文献4では、アンカー本体にアウタースリーブがずれ不能に固定されており、アウタースリーブのうち拡開部を抱持する箇所は、先端のみに開口したアウタースリットの群によって複数の片に分割されており、複数の片によってアウター拡開部が構成されている。
【0007】
そして、この特許文献4には、アンカー本体の拡開部が広がり変形するとこれに追随してアウタースリーブが広がり変形し、アウター拡開部が下穴に食い込むことにより、下穴に対するアンカー本体の押し付け力が増大され、その結果、振動環境下での使用であっても芯棒の抜けを防止できると共に、引き抜き抵抗を増大できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実開平4-27209号のマイクロフィルム
【文献】特開2004-218421号公報
【文献】国際公開WO2016/121993号公報
【文献】特開2017-187069号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
さて、拡開式アンカーの拡開部は多少は下穴に食い込むが、下穴は、基本的にはストレートであるため、下穴と拡開部との間の摩擦抵抗よりも大きい引き抜き力がアンカー本体に作用すると、アンカー本体は抜けていく。従って、拡開式アンカーの引き抜き抵抗を高めるには、下穴と拡開部との間の摩擦抵抗を増大させることが必要である。
【0010】
そこで、摩擦抵抗増大手段として、例えば、拡開部の広がり角度を大きくしたり、拡開部にローレット加工を施したりしている。しかし、拡開部の広がり角度を大きくすると、コンクリートの狭い部位に応力が集中してコーン破壊が生じやすい問題が生じやすい。他方、ローレット加工について述べると、コンクリートは硬くてローレット加工を施しても拡開部がコンクリートに食い込むとは言い難いため、摩擦増大効果を得るには至っていないのが実情である。
【0011】
他方、特許文献4には、アウタースリーブのアウター拡開部が施工部の下穴に食い込むことにより、下穴に対する押し付け力(突っ張り力)を増大できる旨が開示されており、アウタースリーブに対するアンカー本体の後退を阻止するため、アウタースリーブがアンカー本体に固定されていると思料される。しかし、コンクリートは硬いため、アウター拡開部が下穴に食い込むか否かは必ずしも明確ではなくて、引き抜き抵抗を大きく増大できるか否は不明であると推測される。
【0012】
さて、施工部の下穴はドリル加工によって空けられるが、コンクリートのような硬い施工部に真円で真っ直ぐな下穴を空けるには相当の熟練が必要であり、現実には、下穴は真円でなくいびつな断面形状になったり、曲がったりすることが多い。このため、特許文献4のようにアウタースリーブをアンカー本体に固定していると、下穴への挿入に際して、アウタースリーブが下穴の中途部につかえる現象が発生することが懸念される。そして、ハンマで叩き込むと、アウタースリーブが座屈変形してしまって使用不能になってしまうことが懸念される。
【0013】
これに対しては、下穴とアウタースリーブとの間に十分なクリアランスを確保しておけばよいと解されるが、この場合は、下穴に対する拡開部の突っ張り力が低下するため、十分な引き抜き強度を確保できなくなってしまう。
【0014】
本願発明はこのような現状を契機として成されたものであり、拡開式アンカーに関して、引き抜き抵抗の大幅増大や安定化、施工の容易性・確実性等を実現できる技術を提供することを目的としている。また、本願は、拡開式アンカーに関し、独立した発明たり得る改良技術を多く開示しており、これら改良技術の提供も課題となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は様々な構成を含んでおり、その典型を各請求項で特定している。
【0016】
請求項1の発明は上位概念を成すものであり、
「施工部に空けられた下穴に入り込む部位が拡開部と非拡開部とに分かれている中空状のアンカー本体と、
前記アンカー本体の拡開部を広がり変形させる拡開操作部材と、
前記アンカー本体のうち少なくとも前記拡開部の一部を外周側から覆うスリーブとを有しており、
前記アンカー本体の拡開部は、軸方向に長いインナースリットを複数本並設することによって軸心と交叉した方向に広がり変形することが許容されている」
という基本構成であり、更に、
「前記アンカー本体における前記拡開部の外周面は、前記拡開部を拡開する前の状態で前記非拡開部と同一径で連続したストレート形状になっている一方、
前記スリーブは板材製又はパイプ製であって全体が等厚になっており、
前記スリーブは、前記拡開部と非拡開部との両方に跨がって配置されていると共に、先端は前記拡開部の先端よりも手前に位置しており、従って、前記拡開部は、前記スリーブの先端からはみ出た露出部を有しており、
前記スリーブとアンカー本体とは、前記拡開部が拡開した状態で前記アンカー本体に引き抜き力が作用したときに前記スリーブは前記下穴に停止して前記アンカー本体が後退することを許容するように、前記拡開部と非拡開部との両方に対して相対動可能に設定されている」
という構成を含んでいる。
【0017】
請求項1の発明において、スリーブの基端を下穴の開口縁まで位置させてもよいし、スリーブの基端を下穴の開口縁よりも内側に位置させてもよい。
【0018】
アンカー本体は部材を施工部に固定する機能を有しているが、一態様として、アンカー本体に雌ねじを形成して、この雌ねじにねじ込んだ締結用ボルトで部材を施工部に固定することができる。他の態様として、アンカー本体に、施工部の外側に露出する雄ねじ部を形成して、この雄ねじ部にねじ込んだナットで部材を施工部に固定することができる。更に、アンカー本体に、施工部の外側に露出するブラケットを設けて、このブラケットに部材を取り付けることもできる。
【0019】
本願第1の発明では、アンカー本体に引き抜き力が作用したときにスリーブとアンカー本体とが相対動し得ることは必要であるが、スリーブを予めアンカー本体にセットしている場合、流通段階でスリーブがアンカー本体から離脱しないように、例えば接着剤で位置決めして簡単には相対動しないように保持しておくことは可能である。
【0020】
【0021】
請求項2の発明は、請求項1において、
「前記拡開操作部材は、前記アンカー本体のうち少なくとも前記拡開部内に配置したボールの群と、前記ボールの群を先端側に押しやるボルトとによって構成されており、前記アンカー本体の内周に雌ねじが形成されている」
という構成になっている。
【0022】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、
「前記アンカー本体の拡開部は、軸方向に長いインナースリットを形成することによって軸心と交叉した方向に広がり変形することが許容されている一方、
前記拡開操作部材は、前記アンカー本体の拡開部に内部から進入する芯棒であり、前記芯棒と前記拡開部とのうち少なくとも一方に、前記芯棒の打ち込みによって前記拡開部を広がり変形させるテーパ部が形成されている」
という構成になっている。
【0023】
スリーブの材料としては、金属板や金属パイプを使用できる。金属パイプを使用する場合は、アンカー本体の拡開部を覆う部分は、1本又は複数本のスリット(或いは切り込み)によって広がり変形可能に構成するのが好ましい。
【0024】
請求項4の発明は、請求項1~3のうちのいずれかにおいて、
「前記スリーブは、その全長に亙って延びる1本のメインアウタースリットによって非ループ形状に分断されており、
かつ、前記アンカー本体の拡開部に嵌まる部位は、前記アンカー本体の先端側にのみ開口した補助アウタースリットによって複数の片に分離している」
という構成になっている。請求項4の発明のスリーブは、金属板を材料にして、曲げ加工等によって製造することもできるし、金属パイプを材料にして、打ち抜き加工等によって製造することもできる。
【0025】
請求項5の発明は、請求項1~4のうちのいずれかにおいて、
「前記アンカー本体の非拡開部に、前記スリーブの後退動を阻止する突起が形成されている」
という構成になっている。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
【発明の効果】
【0033】
◎請求項1の発明の効果
請求項1の発明では、アンカー本体に対して引き抜き力が作用すると、テーパ状に広がっている拡開部が下穴から抜け移動(後退)しようとするが、スリーブとアンカー本体とは相対動可能になっているため、拡開部が後退しようとすると、スリーブが拡開部と下穴との間に強く挟み込まれる。
【0034】
つまり、スリーブは下穴に密着した状態で停止しつつ、拡開部がスリーブに対して強く突っ張るのであり、端的に述べると、スリーブが、アンカー本体の抜けを阻止するくさび部材として作用することになる。そして、アンカー本体が下穴から後退しようとすればするほど、スリーブは下穴と拡開部との間に強く挟み込まれて、くさび作用は強くなる。これにより、拡開式アンカーは高い引き抜き抵抗を得ることができる。
【0035】
そして、施工手順は従来と同じであり、従来以上の労力は必要ないため作業者の負担増大をもたらすことはない。また、従来の拡開式アンカーにスリーブを付加するだけであるため、コストアップも抑制できる。
【0036】
このように、スリーブによって引き抜き抵抗を増大できるため、拡開部を広げる程度を従来よりも低くしつつ、従来と同等の引き抜き抵抗を確保することもできる。従って、必要な引き抜き抵抗は確保しつつ、下穴に作用する突っ張り力を抑制することが可能になるのであり、その結果、作業者の負担軽減に更に貢献できると共に、施工部のコーン破壊防止効果も向上できる。
【0037】
さて、下穴はドリル加工で空けられるが、既述のとおり、正確な真円に形成することは困難であり、楕円等のいびつな形状になったり曲がったりすることが多い。また、内径のバラツキも不可避である。このため、従来の心棒打ち込み式アンカーでは、引き抜き抵抗が一定化(安定化)しないことが多かった(ボール式の場合は、拡開部の広がり程度を調節できるので、引き抜き強度の安定化に貢献できる)。
【0038】
そして、請求項1の発明では、スリーブがくさび作用を果たすことにより、下穴の内径や形状にバラツキがあっても、そのバラツキをスリーブによって吸収することができる。従って、心棒打ち込み式のアンカーのように拡開部の広がりの程度が一定になっていても、安定した引き抜き強度を確保できる。この点が、本願発明の大きな利点の一つである。
【0039】
更に、請求項1の発明では、拡開部が露出部を有しているため、アンカー本体の拡開部の広がり変形が良好になる。この面で、まず引き抜き抵抗の増大に貢献している。次に、拡開部の先端側部位がスリーブの外側に露出しているため、スリーブが拡開部と一緒に後退することがなく、スリーブは下穴の内面に密着して停止した状態に確実に保持できる。これにより、くさび効果を十分に発揮して、引き抜き抵抗増大を確実化できる。
【0040】
◎請求項2の発明の効果
請求項2の発明のように拡開操作部材としてボール群とボルトとを採用すると、既述のとおり、拡開部の拡開は動力ドライバを使用して行えるため、作業者の負担を著しく軽減できる。特に、作業者の負担軽減効果は、天井部への施工や高所での作業において顕著に現れる。また、締め付けトルクを調節できるため、トルク管理を容易に行える利点や、長期の使用によって締結力が低下しても増し締めによって所定の締結力に復元できる利点などがある。
【0041】
さて、芯棒を使用して拡開部を広げる拡開式アンカーでは、一般に、アンカー本体に尾根が形成されており、この雄ねじにねじ込んだナットによって部材を施工部に固定しているが、雄ねじは施工部の外側に露出しているため、部材を撤去して後は、アンカー本体の露出部をサンダーで切り取っているが、サンダーの使用によって火花が発生するため、近くの可燃物にサンダーの火花が引火して火災の原因になることがあった。
【0042】
これに対して本願請求項2の発明では、ボールを押圧するボルトを緩めると拡開部による突っ張り力が低下するため、部材を撤去して拡開式アンカーが不要になった場合、アンカーを容易に抜き外すことができる。従って、部材撤去後の処理作業の手間を軽減できる。
【0043】
◎請求項3の発明の効果
芯棒をハンマで打ち込んでアンカー本体の拡開部を広げる方式のアンカーは、拡開部の拡開作業を迅速に行える利点があるが、既述のとおり、ハンマの振り降ろしに大きな力を要するため作業者の負担が大きい問題や、施工部にコーン破壊が発生しやすい問題がある。
【0044】
これに対して、本願請求項3の発明では、スリーブによって引き抜き抵抗を増大できることにより、拡開部の広がりの程度を弱めつつ必要な引き抜き強度を確保できるため、従来と同等の引き抜き抵抗を保持しつつ、作業者の負担を軽減したりコーン破壊を防止したりすることが可能になる。
【0045】
◎請求項4の発明の効果
スリーブは様々な素材で様々な態様を採用できるが、請求項4の発明のように金属板で製造すると、耐久性に優れると共に高いくさび効果を発揮できる。また、市販の板材やパイプを使用できるため、コスト面でも有利である。更に、スリーブは弾性力によってアンカー本体に取付けられているため、取付けも簡単であって実用性に優れている。
【0046】
スリーブの材料としてパイプをそのまま使用することも可能であるが、請求項4の発明のようにメインアウタースリットを有する非ループ状に形成すると、スリーブは弾性に抗して広げ変形又は窄まり変形させることができるため、スリーブ及びアンカー本体に加工誤差があっても、加工誤差を吸収してアンカー本体や下穴に確実に取付けできる。従って、実用性に優れている。また、パイプを材料にした場合に比べて、長さや外径を任意に設定できるため、製造面でのメリットは大きい。
【0047】
更に、スリーブのうちアンカー本体の拡開部を覆う部分(追従拡開部)は補助アウタースリットによっても複数の片に分割されているため、アンカー本体の押圧作用による下穴への密着性を向上できる。従って、くさび効果を的確に発揮させて、引き抜き強度向上の確実化に貢献できる。
【0048】
◎請求項5の発明の効果
請求項5の発明のように、スリーブの後退動阻止手段としての突起をアンカー本体の非拡開部に設けておくと、スリーブを正確に位置決めできるため、くさび効果は確実に発揮される。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【図面の簡単な説明】
【0056】
【
図1】第1実施形態を示す図で、(A)は分離斜視図、(B)は側面図、(C)は(B)のC-C視図、(D)は(B)のD-D視図、(E)は断面図、(F)は施工状態の断面図、(G)は作用を示す図である。
【
図2】作用・効果の説明図であり、(A)は試験結果のグラフ、(B)は実施例(試料)の断面図、(C)はくさび作用の説明図である。
【
図3】第2~第
10実施形態
及び第1~2参考例を示す図である((C)は(B)のC-C視断面図である。)。
【
図4】第
11~第
14実施形態
及び第3~6参考例をを示す図であ
る。
【発明を実施するための形態】
【0057】
(1).第1実施形態の構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、
図1に示す第1実施形態を説明する。拡開式アンカー(以下、単に「アンカー」という)は、例えばコンクリート構造物に使用されるものであり、鋼製(鉄製)のアンカー本体1を備えている。
【0058】
アンカー本体1は、中空部を有する円筒状であり、先端側に、4本のインナースリット2を備えた拡開部3を形成している。すなわち、4本のインナースリット2を形成することにより、先端側に拡開部3を形成している。インナースリット2は、周方向に等間隔で4本形成されており、それぞれ拡開部3の(或いはアンカー本体1の)先端面3aに開口している。従って、本実施形態のアンカーは先割れ方式である。従って、アンカー本体1は、先端側の拡開部3と基端側の非拡開部とに二分されている。
【0059】
アンカー本体1の内部には、拡開部3を押し広げるための手段として、多数のボール4を充填している(なお、断面図では、便宜的に、ボール4とインナースリット2とを重ねて表示している。)。また、アンカー本体1の内周には雌ねじ5が形成されており、この雌ねじ5に、ボール4の群を押すための拡開用ボルト6をねじ込んでいる。
【0060】
ボール4は同じ大きさに表示しているが、実際には、径が異なる複数種類を充填し、内部をなるべく密に構成するのが好ましい。拡開用ボルト6は頭を備えておらず、基端面(後端面)に、六角式等の棒状レンチ7が係合する係合穴6aが形成されている。なお、雌ねじ5は、アンカー本体1の全長に亙って形成することも可能である。
【0061】
アンカー本体1の先端部には、ボール4の抜けを阻止する内膨れ部(ストッパ部)8を形成している。内膨れ部8もインナースリット2で分断されている。拡開部3の内周面は、内膨れ部8を除いてストレートに形成されている。
【0062】
そして、アンカー本体1に、拡開部3と非拡開部とに跨がった状態で筒状のスリーブ9を装着している。スリーブ9は、ステンレス板やばね鋼、或いはアルミ板などの等厚の金属帯板を曲げて形成されており、全長に亙って延びるメインアウタースリット10によって、非ループ状に分断されている。そして、スリーブ9は、アンカー本体1に装着していない状態でアンカー本体1の外径よりも小径になっており、従って、アンカー本体1は、スリーブ9によって弾性的に抱持されている。
【0063】
また、スリーブ9は、アンカー本体1よりも短くて、アンカー本体1の拡開部3よりは長い長さになっており、更に、スリーブ9の先端はアンカー本体1の先端よりもある程度の寸法だけ後ろに位置している。従って、拡開部3のうち先端側の長さEの範囲は、スリーブ9で覆われていない露出部になっている。
【0064】
更に、スリーブ9のうちメインアウタースリット10を除いた部位には、先端に向けて開口した3本の補助アウタースリット11が、周方向に離れて3本形成されている。従って、本実施形態では、スリーブ9には、アンカー本体1のインナースリット2と同じ本数のアウタースリットが形成されており、複数本のアウタースリットで分断された部位が、アンカー本体1の拡開部3と一緒に拡開する追従拡開部になっている。
【0065】
なお、メインアウタースリット10及び補助アウタースリット11は、切り線の態様であってもよい。また、図では、スリーブ9のメインアウタースリット10及び補助アウタースリット11とアンカー本体1のインナースリット2とを重ねて表示しているが、これは作図上の便宜的なものであり、現実には、アンカー本体1とスリーブ9との相対姿勢は一定していない。
【0066】
アンカーをコンクリートの施工部12に空けられた下穴13に挿入してから、棒状のレンチ7で拡開用ボルト6をねじ込むと、ボール4の群で拡開部3は軸心と交叉した方向に押されて拡開する。これにより、拡開部3が下穴13に強く突っ張って、アンカーは下穴13に固定される。そして、ボール4による押圧力が拡開部3の全長にわたって略均等に作用する。
【0067】
なお、本実施形態では、拡開部3はアンカー本体1の外径の1倍強しかないため、拡開部3はテーパ状に広がり変形するが、拡開部3の長さがアンカー本体1の外径の2~3倍以上になると、拡開部3のうち付け根側はテーパ状に変形して、それよりも先の部分はストレート状のままに膨れ変形することになる。
【0068】
取り付けられる部材Wの固定方法(支持方法)は、用途によって選択したらよい。図示の実施形態では、部材Wは、アンカー本体1の雌ねじ5にねじ込まれる締結用ボルト15によって施工部12の表面に押さえ固定されている。天井に取り付けられるアンカーの場合は、締結用ボルト15を吊りボルトに変更して、これにブラケットを介して天井材を吊支することもできる。また、締結用ボルト15に代えてアイボルトをアンカー本体1にねじ込んで、アイボルトに部材を吊支することも可能である。
【0069】
図1(B)に一点鎖線で示すように、アンカー本体1
の非拡開部に、ストッパの一例として、スリーブ9の後退動を阻止する環状突起16を形成することも可能である。ストッパの他の形態として、点状又は若干の長さの突条も採用できる。
【0070】
(2).作用・効果
アンカー本体1は、施工部12の表面とアンカー本体1の後端面とに重なった状態に固定されている。そして、
図1(G)では、アンカー本体1に大きな引き抜き荷重が作用してアンカー本体1がずれ移動し、部材Wと施工部12との間に大きな間隔が空いた状態を表示している。
【0071】
アンカー本体1が
図1(G)の状態にずれ動くためには、テーパ状に変形した拡開部3がずれ動くことが必要であるが、本実施形態では、アンカー本体1の拡開部3がスリーブ9で抱持されているため、アンカー本体1が(G)の状態にずれ動こうとすると、スリーブ9がくさびになって、アンカー本体1のずれ動きに対して大きな抵抗が発生する。
【0072】
すなわち、
図2(C)に示すように、スリーブ9のうち拡開部3と重なっている部分もテーパ状に変形しているため、拡開部3が抜け方向に移動しようとすればするほど、スリーブ9が拡開部3と下穴13との間に強く挟み込まれて、拡開部3のずれ移動が阻止される。このため、高い引き抜き抵抗を発揮する。
【0073】
つまり、アンカー本体1が抜け方向に移動しようとすると、スリーブ9は、テーパ状であることによって軸心と直交した方向に押されるが、スリーブ9が軸心と直交した方向に移動することは下穴13に規制されてできないため、アンカー本体1は、ごく僅かの寸法
のみスリーブ9と相対動して後退できても、それ以上の後退はスリーブ9によって阻止されてしまう。従って、現実には、通常の使用状態で
図1(G)のような状態までアンカー本体1が抜けることはない。
【0074】
ここで、アンカー本体1とスリーブ9とが一緒にずれ動くことはないのかという疑問が生じるが、アンカー本体1とスリーブ9とは相対動しても、スリーブ9が下穴13に対して後退動することは全く又は殆どない。従って、スリーブ9は、アンカー本体1の後退動(抜け移動)を阻止するストッパ機能を確実に発揮する。
【0075】
アンカー本体1とスリーブ9との間に滑りが生じても、スリーブ9と下穴13との間に滑りが生じない理由は、スリーブ9と下穴13との間の摩擦抵抗が、スリーブ9と拡開部3との間の摩擦抵抗よりも大きいためと推測される。このような摩擦抵抗の違いを前提にして、スリーブ9が、アンカー本体1の後退動によって下穴13に押圧されることにより、スリーブ9はずれ不能に保持されると解される。実施形態のように、スリーブ9がメインアウタースリット10と補助アウタースリット11によって分断されていると、下穴13に対するスリーブ9の突っ張り作用が強くなるため、拡開部のずれ移動を阻止するストッパ機能を発揮させる上で好適であると解される。
【0076】
また、上記のとおり、スリーブ9は、アンカー本体1のずれ移動によって広がり変形するが、これは、アンカー本体1の抜け移動に追従してスリーブ9が拡開していることを意味している。
【0077】
本実施形態では、拡開部3の先端部はスリーブ9で覆われていない露出部になっているため、拡開部3の先端部は下穴13に食い込んでいる。従って、拡開部3の広がり変形が良好になっている。この面でも、引き抜きに対して抵抗が増大している。次に、アンカー本体1を後退させるためには、拡開部3の先端部で下穴を破壊せねばならないが、このことも、引き抜き抵抗の増大に貢献している。
【0078】
更に、拡開部3の先端部がスリーブ9の外側に露出しているため、スリーブ9が拡開部3と一緒に後退することがなく、スリーブ9は、拡開部3による拡開作用によって下穴13に対して強く突っ張る。その結果、スリーブ9による拡開部3のずり下がり防止を確実化している。
【0079】
(3).試験結果
図2の(A)では、実施例の引き抜き試験結果を表示している。この試験に使用した実施例(試料)は、外径D1が14.6mmの素材で製造されており、全長L1は45mmであった。スリーブ9は、厚さが0.5mmのものと、厚さが0.6mmのものとを作成しており、それぞれ5本ずつ製造し、平均値をとってグラフとした。
【0080】
この実施例では、アンカー本体1の基端に、素材径と同じ外径の環状突起16が形成されており、環状突起16よりも前方側で拡開部3の略中間部までの部位は、外径D2を13.6mmとした小径ストレート部18になっており、拡開部3の前端部は、素材径D1の大径ストレート部19になっている。そして、小径ストレート部18と大径ストレート部19との間の部分はテーパ部20になっている。テーパ部の角度θは約5°になっている。環状突起16は、スリーブ9の後退を阻止するストッパとして機能している。
【0081】
拡開部3の全長L2は18mm、スリーブ9の全長L3は約33.5mm、スリーブ9における補助アウタースリット11の長さL4は約24mm、大径ストレート部19の長さL5は3.2mm、雌ねじ5の長さL6は25mmであった。また、ボルトはM10を使用した。ボール4は4~5mmのものを使用した。下穴13は、外径が15mmのドリルで空けている。
【0082】
外径が14~15mm程度の拡開式アンカーでは、通常は、降伏点の荷重は高くても15KN程度であるが、本実施品は、20KN程度の引き抜き強度があり、従来品に比べて格段に高い締結力を有することが判る。なお、厚さが0.6mmのアンカーのグラフでは、引き抜き量が8mmを越えると荷重が急低下しているが、これは、コンクリートの破壊を意味している。
【0083】
スリーブ9の厚さについて見ると、厚さが厚い方が、弾性変形領域において、荷重の増加率に対する変位量の増加率が少ないことが判る。すなわち、スリーブ9の厚さが厚いと、薄い場合に比べて、同じ荷重が掛かっても変位量が少ないことが判る。これは、スリーブ9の厚さが厚いと、スリーブ9と下穴13との間のクリアランスが小さいため、スリーブ9の拡開部3と下穴13との密着面積が大きくなっているためと推測される。
【0084】
従って、下穴13とスリーブ9との間のクリアランスを極力小さくしておくと、スリーブ9の厚さに関係なく、荷重の増加率に対する変位量の増加率を極力小さくできると推測される。そして、拡開式アンカーを使用するに当たっては、実際には、数倍の安全率をとって最大想定荷重の数分の1の荷重で使用しており、グラフの立ち上がり線は縦軸に寄るほど好適であるが、本願発明の実施品は、いわぱ、荷重が掛かってもずれ動かない状態に保持できるため、現実の使用においても優れている。
【0085】
降伏点の高さは、スリーブ9の厚さとはあまり関係ないが、降伏点を過ぎてからの荷重(応力)の動きを見ると、スリーブ9の厚さが0.5mmである方が、荷重が高くなっている(つまり、引き抜き抵抗が大きくなっている)ことが判る。その理由は必ずしも明確でないが、スリーブ9が薄いとコンクリートとの密着性(なじみ)が高くなるため、抵抗も大きくなるのではないかと推測される。
【0086】
また、材質としては、アンカー本体1には一般構造用圧延鋼材を使用して、スリーブ9には冷間圧延鋼板を使用したが、スリーブ9の材質は、引き抜き抵抗と大きく関連しているかもしれない。アルミ板のような軟質の金属板が好ましいと考えられるが、拡開部3との密着性が高くなり過ぎて、スリーブ9とアンカー本体1とが一緒に後退する現象が生じるかもしれない。
【0087】
既述のとおり、拡開部3の先端部を露出させておくのは好適であるが、下穴13に対する拡開部3の食い込み量を増大させるためには、スリーブ9の厚さはできるだけ薄いのが好ましい。本願発明者たちが実験したところ、0.2mm又は0.25mmの厚さのものを使用すると、降伏点において22KN以上の引き抜き強度を得ることができた。また、コンクリートのコーン破壊も起こりにくく、降伏点を経過した後も引き抜き抵抗が増大する傾向が見られた。
【0088】
従って、スリーブ9の厚さは薄いのが好ましいと云えるが、薄過ぎると強度が低下して、使用時に破れやすくなる。現実的には、0.2~0.6mm程度が好適と推測される。
【0089】
(4).第2~
6実施形態
及び第1参考例
次に、
図3以下に示す他の実施形態
及び参考例を説明する。
図3(A)に示す第2実施形態では、スリーブ9をアンカー本体1とほぼ同じ長さに設定している。このように構成すると、下穴13での拡開式アンカーの安定性を向上できる。アンカー本体1の基端に、スリーブ9の後退を阻止するフランジ状の環状突起16を設けると好適である。
【0090】
スリーブ9を予めアンカー本体1に取り付けておく場合、スリーブ9をアンカー本体1に対して位置決めしておくのが好ましい。スリーブ9の位置決め手段としては、例えば、スリーブ9を接着剤でアンカー本体1に仮り止めしておくことも可能であるが、接着剤による仮止めでは、アンカー本体を下穴に挿入するに際して、スリーブが下穴に引っ掛かって、スリーブがアンカー本体に対して相対的に後退動してしまうおそれがある。
【0091】
これに対して、環状突起16のような後退動阻止手段(ストッパー)をアンカー本体1の非拡開部に設けておくと、スリーブ9を正確に位置決めできるため、くさび効果は確実に発揮される。位置決め手段として、環状突起16に代えて、周方向に点在した複数の突起や、環状溝、或いは、周方向に断続した溝なども採用できる。位置決め手段として溝を採用する場合は、スリーブには、溝に嵌まる係合片を内向き突設したらよい。この場合、係合片と溝とは、スリーブとアンカー本体とが軸心方向に相対動することを許容できる関係に設定しておく必要がある。
【0092】
なお、下穴13の開口縁はドリルの振れ動きによって若干広がっているのが普通であるので、アンカー本体1の基端にフランジ状の環状突起16を設けても、環状突起16を下穴13の開口部に入り込ませることができる。従って、アンカー本体1の基端が施工面から突出することはない。
【0093】
図3(B)(C)に示す第3実施形態では、スリーブ9は
メインアウタースリット10のみを有しており、
補助アウタースリット11は備えていない。この実施形態でも、スリーブ9はアンカー本体1のずれ移動によって追従拡開するため、くさび作用を備えている。一点鎖線で示すように、スリーブ9を拡開部3の箇所のみに配置することも可能である。この場合も、拡開部3の先端部は、スリーブ9の前方に露出させておくのが好ましい。
【0094】
図3(E)の例のように、スリーブ9は、1本又は複数本の補助アウタースリット11のみを有して、基端側に完全なループ形状の部分(非拡開部)が存在する形態も採用可能である。
【0095】
図3(D)に示す
第1参考例では、アンカー本体1のうち拡開部3を含む部分を、スリーブ9の板厚の寸法程度段落ちした小径部21に形成し、この小径部21にスリーブ9を嵌着している。従って、小径部21の基端は、スリーブ9の後退を阻止するストッパになっている。この
参考例では、アンカー本体1の全体を下穴13にできるだけ密接させることができるため、アンカーの安定性を向上でき
る。
【0096】
図3(E)に示す
第4実施形態では、スリーブ9は材料としてパイプを使用しており、少なくともアンカー本体1の拡開部3を抱持する部分に、先端に向けて開口した複数本の
補助アウタースリット11を形成している。従って、スリーブ9は、全周に亙って連続した非拡開部を有している。
【0097】
図3(F)に示す
第5実施形態では、スリーブ9の
メインアウタースリット10及び
補助アウタースリット11を、軸線に対して傾斜した姿勢に形成してい
る。
【0098】
図3(G)に示す
第6実施形態では、アンカー本体1に、拡開部3を抱持するスリーブ9と、スリーブ9よりも基端側に位置したスペーサリング22とを嵌着している。スペーサリング22は、下穴13の内部でアンカーが振れ動くことを防止して安定性を確保すると共にスリーブ9の後退を阻止するためのストッパー部材
(突起)であり、スポット溶接や強制嵌合等により、アンカー本体1にずれ不能に固定している。
【0099】
図3(G)の第6実施形態では、
アンカー本体1のインナースリット2はアンカー本体1の先端面3aには開口していない。従って、拡開部3は先割れしないクローズド方式になって
おり、拡開部3を挟んだ前後両側に非拡開部が存在している。この実施形態では、拡開部3は、軸心と直交した方向から見て台形状又は弓形に膨れ変形する。そして、スリーブ9の先端は、拡開部3の前後中間点よりも基端側に位置させている。
【0100】
(5).第
7~15実施形態
図3(H)に示す
第7実施形態では、スリーブ9の拡開部3に、多数の角穴23を形成している。他方、
図3(I)に示す
第8実施形態では、スリーブ9を、多数の丸穴が空いたパンチングメタルで形成している。また、
図3(J)に示す
第2参考例では、スリーブ9をステンレス製等の金網で形成している。
図3(J)の金網は、目ずれを防止するため、縦横の線材を交差部において圧接又は電気溶接したタイプであるのが好ましい。
【0101】
スリーブ9の素材としては、細いステンレス線等の金属線で構成した金属製不織布や、薄い金属焼結板、或いはラス板なども使用できる。また、スリーブ9は単層構造である必然性はないのであり、同種材料又は異種材料の積層体も採用可能である。スリーブ9のうち少なくとも外周面を、例えばサンドブラスト処理するなどして粗雑面と成すことも可能である。この場合は、下穴13との間の摩擦を増大させて、引き抜き抵抗アップに貢献できると期待される。
【0102】
図3(K)に示す
第9実施形態では、アンカー本体1のうち少なくとも拡開部3の箇所にローレット加工を施している。他方、
図4(L)に示す
第10実施形態では、アンカー本体1のうち少なくとも拡開部3の外周面に、断面V形の環状溝を多数形成することにより、拡開部3を含む部分を断面鋸歯形に形成している。
【0103】
図4(A)に示す
第3参考例では、アンカー本体1のうち拡開部3の全体を含む部位に、スリーブ9が嵌め込まれる小径部21を形成し、かつ、拡開部3の先端にフランジ25を形成している。フランジ25の後面は、スリーブ9の逃げ移動を許容するため傾斜面25aに形成されている。また、この
参考例では、スリーブ9は、アンカー本体1と相対動し得るように小径部21の長さよりも短い長さに設定している。
【0104】
図4(B)に示す
第4参考例でも小径部21を形成しているが、この
参考例では、小径部21は先端に向けて拡径したテーパ状になっている。従って、スリーブ9のくさび作用は強くなると予想される。この
参考例とは逆に、拡開部3の外径を先窄まりのテーパに形成することも可能である(この場合も、拡開部3は、広がり変形して先広がりのテーパ状に拡開するため、抜け防止機能に問題はない。)。
【0105】
図4(C)に示す
第5参考例では、複数個のスリーブ9を、軸方向に並べて配置している。この例から理解できるように、複数個のスリーブ9を配置することも可能である。
図4(D)に示す
第11実施形態では、スリーブ9は、帯板を螺旋状に巻いて構成されている。従って、
メインアウタースリット10は螺旋状の姿勢になっている。
【0106】
図4(E)に示す
第12実施形態では、スリーブ9に、円形に膨出形成された突起26を、点在する状態で複数個(好適には多数個)形成している。図示の突起26はアンカー本体1と反対側に突出しているが、アンカー本体1に当接させてもよい。この実施形態では、突起26の弾性を利用してアンカーを下穴13に挿入できるため、アンカーを下穴13に仮保持できると云える。突起26は、切り起こしによって形成してもよい。エンボス加工された板材を使用することも可能である。
【0107】
図4(F)に示す第6参考例では、長さが相違する2本のスリーブ9を重ねて使用している。すなわち、短い長さのスリーブ9を外側にして、2枚重ね状に配置している。図では、外側のスリーブ9を基端側に寄せて配置しているが、外側のスリーブ9を先端側に寄せてもよい。或いは、外側のスリーブ9を内側のスリーブ9の中間部に配置してもよい。2枚のスリーブ9は、単に重ねただけでもよいし、スポット溶接などで固定してもよい。また、1枚の材料を折り返して製造することも可能である。
【0108】
図4(F)の参考例では、スリーブ9は拡開部3の先端と基端との間に配置されている。従って、拡開部3は、先端側と基端側とに、スリーブ9で覆われていない露出部を有する。一点鎖線に示すように、スリーブ9を拡開部3の箇所のみに配置しつつ、スリーブ9の基端を拡開部3の基端に揃えて、拡開部3の先端側のみをスリーブ9の前方に露出させることも可能である。
【0109】
【0110】
(6).第13~20実施形態
図4(G)に示す第
13実施形態は、芯棒打ち込み式の拡開式アンカーに適用している。すなわち、この実施形態では、アンカー本体1は、後ろ向きに開口した中心穴27を有する筒状に形成されており、このアンカー本体1に、先端に開口した複数のインナースリット2を有する拡開部3と、施工部の外側に露出する雄ねじ部28とを有しており、内部に芯棒29が基端から挿入されている。従って、雄ねじ部28が露出部になっている。
【0111】
芯棒29の先端は先窄まりのテーパ部29aになっている。一方、アンカー本体1の拡開部3には、芯棒29の押圧作用を受ける内膨れ部30が形成されており、内膨れ部30の後面は、芯棒29の打ち込みの誘いのためテーパ面30aになっている。芯棒29の基端(後端)には、打ち込み深さを規定するため、アンカー本体1の内径よりも大径の頭部29bを形成している。この実施形態では、部材(図示せず)はナット31によって施工面に固定される。
【0112】
そして、アンカー本体1のうち施工部12の下穴13に入り込んだ部位に、スリーブ9を装着している。スリーブ9は、例えば
図3(E)の形態とすることができるが、他の任意の形態も採用できる。この実施形態では、芯棒29がハンマで打ち込まれて拡開部3が拡開する。
【0113】
図4(H)に示す第
14実施形態も、芯棒29の打ち込みによって拡開部3を拡開するが、この実施形態では、芯棒29はアンカー本体1の内部に入り込んでおり、ロッド32を介して打ち込まれる。また、アンカー本体1の内部に雌ねじ5が形成されており、部材(図示せず)は、図示しない締結用ボルトによって施工部に固定される。
【0114】
この実施形態では、アンカー本体1はその全体が下穴に入り込んでいるため、芯棒29の打ち込みに際しては、頭部33aを備えた中空ボルト33が使用されている。つまり、中空ボルト33はその内部にロッド32が挿通されるようになっており、中空ボルト33を雌ねじ5にねじ込むことにより、アンカー本体1を移動不能に保持し、その状態で、ロッド32を介して芯棒29を打ち込むものである。敢えて述べるまでもないが、アンカー本体1を施工部に取り付けた後は、中空ボルト33は取り外される。そして、アンカー本体1に、
図4(G)と同様にスリーブ9が装着されている。ロッド32を中空ボルト33に組み込んでおくと、作業性が良くて好適である。
【0115】
芯棒を外側から打ち込んで拡開部を拡開するタイプのアンカーは、従来は特許文献4のように雄ねじタイプになっているが、本実施形態では、頭付きの中空ボルト33を使用することにより、芯棒打ち込み式でありながら雌ねじタイプのアンカーを実現できる。そして、雌ねじタイプのアンカーは施工面の外側に露出しないため、部材を取り外した後の処理は不要である。この構造のアンカーは、スリーブの有無とは関係なく独立した発明たり得る。なお、芯棒打ち込み式であるため、短い長さとしつつ雌ねじタイプを実現できる利点もある。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
(9).その他
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、スリーブ9の外面に、下穴との摩擦抵抗を増大させるために、合成樹脂層やメッキ層などの補助層を形成することも可能である。
【0147】
【0148】
アンカー本体及びスリーブとも、スリットの数は任意に設定できる。アンカー本体のスリットは、等間隔で3本形成するのが合理的であるが、フライス加工を考慮すると、実施形態のように4本形成するのは現実的である(5本以上形成することも可能である。)。アンカー本体におけるスリットの数と、スリーブにおけるスリットの数とは相違していても差し支えない。
【0149】
【産業上の利用可能性】
【0150】
本願発明は、拡開式アンカーに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0151】
W 部材
1 アンカー本体
2 インナースリット
3 拡開部
4 拡開操作部材の一環を成すボール
5 雌ねじ
6 拡開操作部材の一環を成す拡開用ボルト
8 内膨れ部
9 スリーブ
10 メインアウタースリット
11 補助アウタースリット
12 施工部
13 下穴
15 締結用ボルト
26 ストッパーの一例としての環状突起
29 芯棒