(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】微生物の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6888 20180101AFI20240115BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240115BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240115BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12M1/34 B
G01N21/64 F
(21)【出願番号】P 2019107483
(22)【出願日】2019-06-07
【審査請求日】2021-11-10
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年6月10日第59回日本臨床ウイルス学会 ランチョンセミナーにて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年10月13日第72回日本臨床眼科学会 インストラクションセミナーにて発表
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】515281156
【氏名又は名称】日本テクノサービス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304028726
【氏名又は名称】国立大学法人 大分大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 則夫
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 博
(72)【発明者】
【氏名】望月 學
(72)【発明者】
【氏名】外丸 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】中野 聡子
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0275684(US,A1)
【文献】特表2014-522646(JP,A)
【文献】国際公開第2016/059798(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0209973(US,A1)
【文献】特表2009-538146(JP,A)
【文献】Z. Zhang, et al.,Journal of Molecular Diagnostics,2010年,Vol.12, No.2,p.152-161
【文献】S. Nakano, et al.,Immunology and Microbiology,2017年,Vol.58, No.3,p.1553-1559
【文献】中野聡子,眼科,2017年,Vol.59, No.12,p.1479-1484
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前房水または硝子体である検体中の微生物を検出する方法であって、
(1)前記検体を、界面活性剤を含むPCR緩衝液と混合する工程;
(2)複数のチューブを連結したチューブストリップであって、各チューブにDNAポリメラーゼおよび2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を含むチューブストリップの各チューブに、工程(1)で得られた混合液の一部をそれぞれ添加する工程;および、
(3)前記チューブ内に生成したPCR産物を検出する工程
を含み、
前記工程(2)において、前記チューブストリップが、2種のPCRプライマー対を含む5個のチューブを有しており、前記5個のチューブの各々に含まれる2種のPCRプライマー対が、以下の組み合わせである、方法。
(i)glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子検出用プライマー対およびTATA-binding protein(TBP)遺伝子検出用プライマー対
(ii)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対
(iii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対
(iv)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対
(v)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対
【請求項2】
前記検体の量が、12~20μLである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(1)において、前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)において、前記PCR緩衝液が、KCl、MgCl
2およびdNTPミックス(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)を含むトリス緩衝液である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(1)において、前記PCR緩衝液が、DNAポリメラーゼに吸着する生体由来の負電荷物質およびDNAに吸着する生体由来の正電荷物質であってPCRを阻害する物質に結合し、前記負電荷物質および前記正電荷物質のPCR阻害作用を中和する物質を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(2)において、前記チューブストリップが、2~12チューブストリップである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(2)において、前記PCR反応用固体組成物が、PCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記蛍光色素が、FAM(6-carboxyfluorescein)、ROX(6-carboxy-X-rhodamine)、Cy5(Cyanine系色素)およびHEX(4,7,2',4',5',7'-hexachloro-6-carboxyfluorescein)からなる群より選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(2)において、前記PCR反応用固体組成物が、凍結乾燥により調製された、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(3)において、PCR産物の検出が、リアルタイム測定によって行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前房水または硝子体である検体中の微生物を検出するキットであって、
前記検体を混合するための、界面活性剤を含むPCR緩衝液を含むチューブ1;および、
チューブ1に含まれる混合液の一部を添加するための、複数のチューブを連結したチューブストリップであって、各チューブにDNAポリメラーゼおよび2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を含むチューブ2;
を備え、
前記チューブ2が、2種のPCRプライマー対を含む5個のチューブを有しており、前記5個のチューブの各々に含まれる2種のPCRプライマー対が、以下の組み合わせである、キット。
(i)glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子検出用プライマー対およびTATA-binding protein(TBP)遺伝子検出用プライマー対
(ii)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対
(iii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対
(iv)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対
(v)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対
【請求項12】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記PCR緩衝液が、KCl、MgCl
2およびdNTPミックス(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)を含むトリス緩衝液である、請求項11または12に記載のキット。
【請求項14】
前記PCR緩衝液が、DNAポリメラーゼに吸着する生体由来の負電荷物質およびDNAに吸着する生体由来の正電荷物質であってPCRを阻害する物質に結合し、前記負電荷物質および前記正電荷物質のPCR阻害作用を中和する物質を含む、請求項11~13のいずれか1項に記載のキット。
【請求項15】
前記チューブ2が、2~12チューブストリップである、請求項11~14のいずれか1項に記載のキット。
【請求項16】
前記PCR反応用固体組成物が、PCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む、請求項11~15のいずれか1項に記載のキット。
【請求項17】
前記蛍光色素が、FAM(6-carboxyfluorescein)、ROX(6-carboxy-X-rhodamine)、Cy5(Cyanine系色素)およびHEX(4,7,2',4',5',7'-hexachloro-6-carboxyfluorescein)からなる群より選ばれる、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記PCR反応用固体組成物が、凍結乾燥により調製された、請求項12~17のいずれか1項に記載のキット。
【請求項19】
遺伝子の検査方法であって、
(1)前房水または硝子体である検体と界面活性剤を含むPCR緩衝液と混合する工程;
(2)上記工程(1)で得られた混合液の一部をDNAポリメラーゼおよびglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)検出用プライマー対および/又はTATA-binding protein(TBP)検出用プライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加する工程;
(3)上記工程(1)で得られた混合液の一部をDNAポリメラーゼおよび2種のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加する工程;および、
(4)前記工程(2)および(3)の結果生成したPCR産物を検出する工程
を含み、
前記工程(3)において、前記2種のPCRプライマー対が、以下の組み合わせの
全てである、遺伝子の検査方法。
(i)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対
(ii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対
(iii)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対
(iv)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来の検体から、複数の感染微生物を同時に検出する方法、および該方法を実行するためのキットに関する。具体的には、前房水あるいは硝子体などの検体から、眼感染症のひとつである感染性ぶどう膜炎の原因となる複数の病原体を、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction、PCR)により同時に検出する方法、および該方法を実行するための試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
ぶどう膜炎は眼内に炎症を起こす疾患の総称であり、重症例では、高率に失明などの視覚障害を引き起こす。ぶどう膜炎は、サルコイドーシス、原田病、ベーチェット病などの非感染性ぶどう膜炎と、病原体による感染性ぶどう膜炎とに分類される。非感染性ぶどう膜炎は、ステロイド剤などの免疫抑制剤による薬物治療が行われるが、感染性ぶどう膜炎では、原因となる病原体に対応する薬剤により治療する必要がある。しかし、感染性ぶどう膜炎と非感染性ぶどう膜炎との鑑別は、臨床所見のみでは困難である場合があり、診断の遅れまたは不適切な治療により症状が重篤化する症例が存在する。このため、ぶどう膜炎における病原体の存在および病原体の同定を早期に行うことは、適切な治療方法の選択および症状の重篤化の防止のために重要である。
【0003】
感染性ぶどう膜炎の原因となる病原体としては、ウイルス、細菌、真菌、原虫などが挙げられるが、ウイルスを原因とする感染性ぶどう膜炎の発症頻度が最も高い。原因となるウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス(HSV)1型および2型、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)などのヘルペスウイルス属、ならびにヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)などが挙げられる。感染性ぶどう膜炎の診断や治療を行う上で感染体の同定は重要な情報となる。このため、眼内局所における感染ウイルスを同定するためには、前房から採取された前房水や眼内から採取された硝子体などを検体として使用する必要がある。
【0004】
前房は、角膜と水晶体との間にある空間であり、その空間を満たす前房水を検体として、病原体の同定のためにPCRによる遺伝子検査が行われている。しかしながら前房水の採取量は、通常100μL以下であり、複数の病原体を検出するには検体量が不足する場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の検体が不足する原因としては、PCRに供する核酸を検体から抽出する場合、一般に、抽出操作工程において一定量の試料の損失が生じるためである。特に微量の検体から核酸を抽出する場合、抽出操作工程における試料の損失によってPCRに供する試料量を十分に確保することができない場合がある。さらに、感染性ぶどう膜炎においては、原因となる病原体は、主要なもので、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)および2型(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、細菌である梅毒トレポネーマならびに原虫であるトキソプラズマの9種類が挙げられる。これらの項目をすべて検出するには、一定量の検体が必要となるが、そもそも前房水は少量しか採取できない。また、それぞれの病原体を個別に検出するためには、それぞれの病原体ごとにPCR試薬およびPCRプライマー等を調製する必要があるが、検出対象の数が多くなると、試薬の入れ間違いなどのヒューマンエラーが生じる可能性が高くなり、誤った検出結果を与える危険性もある。
【0006】
本発明の目的は、微量の検体であっても、複数の病原体を、同時に、かつ迅速に検出することができる検出方法、および該方法を実行するためのキットを提供することにある。さらに本発明の目的は、簡便な検出工程を採用することにより、病原体の検出操作におけるヒューマンエラーを回避することのできる検出方法、および該方法を実行するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の目的は、以下の発明により達成される。
〔1〕
検体中の微生物を検出する方法であって、
(1)前記検体を、界面活性剤を含むPCR緩衝液と混合する工程;
(2)複数のチューブを連結したチューブストリップであって、各チューブにDNAポリメラーゼおよび2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を含むチューブストリップの各チューブに、工程(1)で得られた混合液の一部をそれぞれ添加する工程;および、
(3)前記チューブ内に生成したPCR産物を検出する工程;
を含む方法。
〔2〕
前記検体が、前房水または硝子体である、〔1〕に記載の方法。
〔3〕
検体の量が、12~20μLである、〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕
前記微生物が、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)および2型(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、梅毒トレポネーマおよびトキソプラズマからなる群より選ばれる、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕
前記工程(1)において、前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕
前記工程(1)において、前記PCR緩衝液が、KCl、MgCl2およびdNTPミックス(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)を含むトリス緩衝液である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕
前記工程(1)において、前記PCR緩衝液が、DNAポリメラーゼに吸着する生体由来の負電荷物質およびDNAに吸着する生体由来の正電荷物質であってPCRを阻害する物質に結合し、前記負電荷物質および前記正電荷物質のPCR阻害作用を中和する物質を含む、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕
前記工程(2)において、前記チューブストリップが、2~12チューブストリップである、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕
前記工程(2)において、前記PCRプライマー対が、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)もしくは2型(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、梅毒トレポネーマまたはトキソプラズマを検出するためのPCRプライマー対である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕
前記工程(2)において、前記チューブストリップが、2種のPCRプライマー対を含む1または複数のチューブを有しており、前記2種のPCRプライマー対が、以下の組み合わせである、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
(i)glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子検出用プライマ
ー対およびTATA-binding protein(TBP)遺伝子検出用プライマー対
(ii)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対
(iii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対
(iv)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対
(v)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対
〔11〕
前記工程(2)において、前記PCR反応用固体組成物が、PCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕
前記蛍光色素が、FAM(6-carboxyfluorescein)、ROX(6-carboxy-X-rhodamine)、Cy5(Cyanine系色素)およびHEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxyfluorescein)からなる群より選ばれる、〔11〕に記載の方法。
〔13〕
前記工程(2)において、前記PCR反応用固体組成物が、凍結乾燥により調製された、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕
前記工程(3)において、PCR産物の検出が、リアルタイム測定によって行われる、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の方法。
〔15〕
検体中の微生物を検出するキットであって、
前記検体を混合するための、界面活性剤を含むPCR緩衝液を含むチューブ1;および、
チューブ1に含まれる混合液の一部を添加するための、複数のチューブを連結したチューブストリップであって、各チューブにDNAポリメラーゼおよび2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を含むチューブ2;
を備えるキット。
〔16〕
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、〔15〕に記載のキット。
〔17〕
前記PCR緩衝液が、KCl、MgCl2およびdNTPミックス(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)を含むトリス緩衝液である、〔15〕または〔16〕に記載のキット。
〔18〕
前記PCR緩衝液が、DNAポリメラーゼに吸着する生体由来の負電荷物質およびDNAに吸着する生体由来の正電荷物質であってPCRを阻害する物質に結合し、前記負電荷物質および前記正電荷物質のPCR阻害作用を中和する物質を含む、〔15〕~〔17〕のいずれかに記載のキット。
〔19〕
前記チューブ2が、2~12チューブストリップである、〔15〕~〔18〕のいずれかに記載のキット。
〔20〕
前記PCRプライマー対が、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)もしくは2型(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、梅毒トレポネーマまたはトキソプラズマを検出するためのPCRプライマー対である、〔15〕~〔19〕のいずれかに記載のキット。
〔21〕
前記チューブ2が、2種のPCRプライマー対を含む1または複数のチューブを有しており、前記2種のPCRプライマー対が、以下の組み合わせのいずれかである、〔15〕~〔20〕のいずれかに記載のキット。
(i)glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子検出用プライマ
ー対およびTATA-binding protein(TBP)遺伝子検出用プライマー対
(ii)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対
(iii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対
(iv)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対
(v)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対
〔22〕
前記PCR反応用固体組成物が、PCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む、〔15〕~〔21〕のいずれかに記載のキット。
〔23〕
前記蛍光色素が、FAM(6-carboxyfluorescein)、ROX(6-carboxy-X-rhodamine)、Cy5(Cyanine系色素)およびHEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxyfluorescein)からなる群より選ばれる、〔22〕に記載のキット。
〔24〕
前記PCR反応用固体組成物が、凍結乾燥により調製された、〔15〕~〔23〕のいずれかに記載のキット。
〔25〕
遺伝子の検査方法であって、
(1)検体と界面活性剤を含むPCR緩衝液と混合する工程;
(2)上記工程(1)で得られた混合液の一部をDNAポリメラーゼおよびglyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)検出用プライマー対および/又はTATA-binding protein(TBP)検出用プライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加する工程;
(3)上記工程(1)で得られた混合液の一部をDNAポリメラーゼおよび2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に添加する工程;および、
(4)前記工程(2)および(3)の結果生成したPCR産物を検出する工程
を含む遺伝子の検査方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検体(例えば前房水)から核酸を抽出する工程が不要であるため、微生物の検出工程における検体の損失がほとんど生じない。このため、微量の検体であっても、複数の病原微体を同時に、かつ迅速に検出することができる。さらに、本発明における微生物検出工程は簡便であるため、検出操作におけるヒューマンエラーを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1C】本発明の方法およびキットならびに定量PCR(qPCR)法を用いて、病原体の存在が疑われる53例のヒト前房水または硝子体を分析した結果を示す図である。
【
図2】
図1A、
図1Bと
図1Cにおいて、本発明の方法およびキットを用いて得たCq値ならびに定量PCR(qPCR)法で得た定量値(コピー/mL)の相関性を示す図である。
【
図3B】本発明の方法およびキットならびに定量PCR(qPCR)法を用いて、非感染性ぶどう膜炎と診断された51例のヒト前房水または硝子体を分析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、検体中の微生物を検出する方法である。該方法は、(1)前記検体を、界面活性剤を含むPCR緩衝液と混合する工程;(2)複数のチューブを連結したチューブストリップであって、各チューブにDNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を含むチューブに、工程(1)で得られた混合液の一部をそれぞれ添加する工程:および、(3)前記チューブ内に生成したPCR産物を検出する工程;を含む。
【0011】
本発明の方法において使用される検体としては、眼組織から得られる固形物、粘性物または液性物を用いることができるが、ぶどう膜炎における病原体の感染を診断するためには、前房水または硝子体の使用が好ましい。前房水の採取量は、一般に50~100μL程度である。本発明においては、12~20の前房水または硝子体を使用して微生物の感染を検出することができるが、測定対象とする微生物の数に応じて、12μL未満であっても検出が可能である。
【0012】
本発明の方法において、検出対象となる病原体は、ウイルス、細菌、真菌、原虫などが挙げられる。ウイルスには、DNAウイルスおよびRNAウイルスが含まれる。DNAウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)および2型(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、サイトメガロウイルス(CMV)などが、またRNAウイルスとしては、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)などが挙げられるが、これらに限定されることはない。細菌としては、梅毒トレポネーマなどが、また原虫としては、トキソプラズマなどが検出対象となるが、やはりこれらに限定されることはない。PCRにおいて、標的遺伝子領域の増幅に使用するプライマー対(フォワードおよびリバース)の選択により、種々の病原体を検出対象とすることができる。
【0013】
前房水および硝子体などの検体は、界面活性剤を含むPCR緩衝液と混合することにより、前房水および硝子体などに含まれる病原体の溶解が、PCR中に促進されると考えられる。PCR緩衝液に含まれる界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤または非イオン界面活性剤を選択することができる。好ましくは、非イオン性界面活性剤であり、検体との混合時に0.05~5%(w/v)であることが好ましい。本発明の一実施態様において、前記PCR緩衝液は、KCl、MgCl2およびdNTPミックス(deoxyribonucleotide 5’-triphosphate;dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)を含む。前記PCR緩衝液はトリス塩酸が好ましいが、これに限定されない。dNTP、MgCl2、KClおよび緩衝液について、当業者であれば適切な濃度を設定することができる。例えば、MgCl2が1.5mM、KClが35mM、dNTPがそれぞれ200μMおよびトリス塩酸が10mMである。本発明の一実施態様において、前記PCR緩衝液は、DNAポリメラーゼに吸着する生体由来の負電荷物質(例えば、ある種の糖および色素等)およびDNAに吸着する生体由来の正電荷物質(例えば、ある種のタンパク質等)であってPCRを阻害する物質に結合し、前記負電荷物質および正電荷物質のPCR阻害作用を中和する物質を含む。前記PCR緩衝液として、遺伝子増幅用試薬Ampdirect(登録商標、島津製作所)またはAmpdirect Plus(登録商標、島津製作所)を使用することができる。
【0014】
検体と前記PCR緩衝液との混合液は、DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物に直接添加することによりPCRを開始することができる。前記DNAポリメラーゼは、好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであり、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体を使用することができるが、これらに限定されない。DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼとしては、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼまたは酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼが挙げられるが、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼが好ましい。
【0015】
本発明の方法において、複数の病原微生物を同時に検出するため、1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を含む複数のチューブに、前記工程(1)で得られた混合液の一部を同時に添加する。前記工程(1)において、一人の患者から得られた検体を1本のチューブ内で混合液とし、この混合液を、プライマー対を含む複数のチューブに添加し、PCRを行うことにより、複数の病原微生物を同時に検出することができる。前記工程(2)において、前記PCR反応用固体組成物を含むチューブに、前記工程(1)で得られた混合液を添加することにより、前記PCR反応用固体組成物が溶解し、サーマルサイクリングを行うことでPCRが進行する。本発明の一実施態様において、前記工程(2)における複数のチューブを連結したチューブストリップは、2~12PCR用チューブストリップである。このチューブストリップは、そのままリアルタイムPCRに供することができる。
【0016】
前記工程(2)において、病原体を検出するPCRプライマー対として、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)もしくは2型(HSV-2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒト成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)、梅毒トレポネーマまたはトキソプラズマの標的遺伝子領域の増幅を行うためのPCRプライマー対が使用されるが、これらに限定されない。これらのPCRプライマー対は、2種を組み合わせて、1ウェルに含まれる前記PCR反応用固体組成物に加えることができる。これにより、1ウェルで2種類の病原微生物を検出することができるので、検出を迅速に行うことができる。
【0017】
検体量を節約し、複数の標的遺伝子を同時に増幅する方法としてマルチプレックスPCRが提案されている(Sugita S, et al. Br J Ophthalmol. 2008;92:928-932.およびSugita S, et al. Ophthalmology. 2013;120:1761-1768.)。マルチプレックスPCRは、ひとつのPCR反応系において複数のPCRプライマー対を使用することにより、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。この方法では、検体量の節約ができることに加えて、複数の病原微生物を同時に検出することができるという利点がある。しかしながら、PCRを実施する前に、検体から核酸を抽出する必要があった。また、マルチプレックスPCRにおいては、それぞれのPCRプライマー対による標的遺伝子領域の増幅が、ひとつのPCR反応系において良好に進行するように、使用するプライマーの設定および反応条件の検討が必要である。
【0018】
このように、1ウェルに2種類のPCRプライマー対を添加する場合、プライマーの交差反応が生じると、正確な測定が困難となる。また、プライマー対の間において、増幅効率が大きく異なる場合にも、正確な測定ができない場合がある。検出精度に優れたプライマー対の組み合わせとして、内部標準の組み合わせとしては、(i)glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子検出用プライマー対およびTATA-binding protein(TBP)遺伝子検出用プライマー対が好ましいが、これらに限定されない。GAPDH遺伝子は、ハウスキーピング遺伝子として、多くの組織や細胞中に共通して一定量発現する遺伝子であり、PCRの進行を確認する陽性コントロールとして使用する。TBPは、TATAボックスと呼ばれるDNA配列に結合する基本転写因子であり、細胞数を反映するので、細胞が採取され、検体に含まれることを確認するコントロールとして使用する。病原微生物検出用プライマー対としては、(ii)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対、(iii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対、(iv)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対、ならびに(v)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対の組み合わせが好ましいが、これらに限定されない。また、3種類の病原微生物を同時に検出するために、3種以上のPCRプライマー対を加えてもよい。各プライマーの塩基配列は、当業者であれば、標的遺伝子の塩基配列情報に基づいて適切に設計することができる。
【0019】
前記工程(2)におけるPCR反応用固体組成物は、PCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む。PCRを実行するウェルに、1種類のPCRプライマー対が加えられている場合には、リアルタイム測定するための蛍光色素は1種類でよいが、2種類のPCRプライマー対が加えられている場合には、2種類の異なる蛍光色素が必要となる。この蛍光色素としては、FAM(6-carboxyfluorescein)、ROX(6-carboxy-X-rhodamine)、Cy5(Cyanine系色素)およびHEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxyfluorescein)からなる群より選ぶことができるが、他の蛍光色素を使用することもできる。オリゴヌクレオチドプローブの塩基配列は、当業者であれば、PCR増幅産物の塩基配列情報に基づいて適切に設計することができる。
【0020】
PCR条件(温度、時間およびサイクル数)の設定は、当業者であれば容易に行うことができる。本発明の一実施態様において、PCR産物はリアルタイム測定によりモニターされる。PCR産物のリアルタイム測定は、リアルタイムPCRとも呼ばれる。リアルタイムPCR では、通常PCR増幅産物を蛍光により検出する。蛍光検出方法には、インターカレーター性蛍光色素を用いる方法および蛍光標識プローブを用いる方法がある。インターカレーター性蛍光色素としては、SYBR(登録商標)Green Iが使用されるが、これに限定されるわけではない。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、PCR増幅産物の生成量を測定することができる。
【0021】
蛍光標識プローブとしては、加水分解プローブ、Molecular Beacon、サイクリングプローブなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。加水分解プローブは、5'末端が蛍光色素で、また3'末端がクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチドである。加水分解プローブは、PCRのアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。その後の伸長反応ステップで、Taq DNAポリメラーゼのもつ5'→3'エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型DNAにハイブリダイズした加水分解プローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる蛍光の発生の抑制が解除されて蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。前記蛍光色素としては、FAM(6-carboxyfluorescein)、ROX(6-carboxy-X-rhodamine)、Cy5(Cyanine系色素)およびHEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxyfluorescein)など挙げられるが、これらに限定されない。前記クエンチャーとしては、TAMRA(登録商標)、BHQ(Black Hole Quencher、登録商標)、MGB-Eclipse(登録商標)およびDABCYLなどが挙げられるが、これらに限定されない。2種類以上のDNA標的配列を区別して検出するためには、それぞれ異なる蛍光色素で標識した2種類以上のオリゴヌクレオチドプローブ(例えば加水分解プローブ)を用いてPCRを行う。
【0022】
PCR産物のリアルタイム測定において、使用する蛍光色素に対応した蛍光フィルターを用いてPCR産物の増幅曲線をモニターする。PCRサイクル数に応じて蛍光強度が増加する場合には、検体における分析対象の病原体の存在が陽性であると判定され、一方、PCRにおいて蛍光強度が増加しない場合は陰性であると判定される。
【0023】
一実施態様において、前記工程(2)におけるPCR反応用固体組成物は、凍結乾燥により調製される。ただし、該PCR反応用固体組成物に含まれる酵素などの活性が維持される限りにおいて、凍結乾燥に限定されない。固体組成物とすることにより、前記工程(1)で得られた混合液を添加するだけで、PCRを開始することができるので、測定操作が簡便なものとなる。また、使用する前の保管も簡易なものとなる。
【0024】
本発明では、検体中の微生物を検出するキットが提供される。該キットは、前記検体を混合するための、界面活性剤を含むPCR緩衝液を含むチューブ1、および、
チューブ1に含まれる混合液の一部を添加するための複数のチューブを連結したチューブストリップであって、各チューブにDNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含むPCR反応用固体組成物を含むチューブ2;を備える。
【0025】
本発明のキットは、本発明の微生物を検出する方法を実施するために使用される。前記キットに含まれるチューブ1は界面活性剤を含む。界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤または非イオン界面活性剤を選択することができる。好ましくは、非イオン性界面活性剤であり、検体との混合時に0.05~5%(w/v)となるように前記チューブ1に加えることが好ましい。本発明の一実施態様において、チューブ1には、dNTPミックス(deoxyribonucleotide 5’-triphosphate;dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)、MgCl2、KClおよび緩衝液が含まれる。前記緩衝液はトリス塩酸が好ましいが、これに限定されない。当業者であれば、PCR時に、dNTP、MgCl2、KClおよび緩衝液が適切な濃度となるように、これらを前記チューブ1に添加することができる。例えば、PCR時に、MgCl2が1.5mM、KClが35mM、dNTPがそれぞれ200μMおよびトリス塩酸が10mMになるようにチューブ1に添加する。本発明の一実施態様において、チューブ1には、DNAポリメラーゼに吸着する生体由来の負電荷物質(例えば、ある種の糖および色素等)およびDNAに吸着する生体由来の正電荷物質(例えば、ある種のタンパク質等)であってPCRを阻害する物質に結合し、前記負電荷物質および正電荷物質のPCR阻害作用を中和する物質が含まれる。本発明の一実施態様において、遺伝子増幅用試薬Ampdirect(登録商標、島津製作所)またはAmpdirect Plus(登録商標、島津製作所)を、前記チューブ1に加えることができる。
【0026】
本発明のキットは、PCR反応用固体組成物を含むチューブ2を複数含む。一実施態様において、該チューブ2は、ウェルが連結された2~12チューブストリップである。該チューブストリップは、市販のものを使用することができる。チューブ材質としてはポリプロピレンなどが使用できる。チューブ色としては、無着色または白色が好ましい。前記PCR反応用固体組成物は、DNAポリメラーゼおよび1種または2種以上のPCRプライマー対を含む。前記DNAポリメラーゼは、好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであり、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体を使用することができるが、これらに限定されない。DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼとしては、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼまたは酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼが挙げられるが、抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼが好ましい。
【0027】
前記チューブ2は、病原体に対する1種類または2種類のPCRプライマー対を含む。2種類のPCRプライマー対を加える場合、プライマーの交差反応および増幅効率の大きな相違をさけ、正確な測定ができるよう、内部標準の組み合わせとしては、(i)glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子検出用プライマー対およびTATA-binding protein(TBP)遺伝子検出用プライマー対が好ましく、病原微生物検出用プライマー対としては、(ii)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対、(iii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対、(iv)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対、ならびに(v)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対の組み合わせが好ましい。PCRプライマー対の組み合わせはこれらに限定されるものではなく、正確な測定ができる限りにおいて、任意の組み合わせとすることができる。前記チューブ2には、3種以上のPCRプライマー対を加えてもよい。
【0028】
前記チューブ2は、PCR増幅産物を蛍光検出するための1種または2種以上の蛍光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む。通常、加えられる蛍光色素の数は、同一チューブに加えられるPCRプライマー対の数と同じである。蛍光色素としては、FAM(6-carboxyfluorescein)、ROX(6-carboxy-X-rhodamine)、Cy5(Cyanine系色素)およびHEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxyfluorescein)からなる群より選ぶことができるが、他の蛍光色素を使用してもよい。
【0029】
一実施態様において、前記チューブ2に含まれるPCR反応用固体組成物は、凍結乾燥により調製することができる。すべての要素を含む溶液状のPCR反応用組成物を、チューブ2に加え、一般的な方法により凍結乾燥し、固体組成物が得られる。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらよって限定されない。
【実施例1】
【0031】
〔53例の感染性ぶどう膜炎陽性検体の分析〕
感染性ぶどう膜炎が疑われる53例の患者から得られた検体の前房水または硝子体20μLを、180μLのPCR緩衝液と混合した。混合後のPCR緩衝液の組成は、0.05%(w/v)非イオン性界面活性剤、1.5mM MgCl2、35mM KClおよびそれぞれ200μM dNTP(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTP)とした。得られた混合液20μLを、PCR反応用固体組成物を含む8連チューブストリップの各チューブに分注した。ストリップチューブ内のPCR反応用固体組成物は、DNAポリメラーゼ、およびチューブごとに異なるPCR増幅産物を蛍光検出するための蛍光色素標識したオリゴヌクレオチドプローブ、さらに、1種または2種の異なるPCRプライマー対を含む。PCRプライマー対の組み合わせは以下の通りとした。
(i)glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase(GAPDH)遺伝子検出用プライマー対およびTATA-binding protein(TBP)遺伝子検出用プライマー対
(ii)HSV-1検出用プライマー対およびVZV検出用プライマー対
(iii)HSV-2検出用プライマー対およびHHV-6検出用プライマー対
(iv)EBV検出用プライマー対およびCMV検出用プライマー対
(v)HTLV-1検出用プライマー対および梅毒トレポネーマ検出用プライマー対
(vi)トキソプラズマ検出用プライマー対
【0032】
病原体の検出用PCRプライマー対として、以下の塩基配列のものを使用した。
また、本明細書に記載されている配列表記のRとMは、それぞれRがa,gに、Mがa,cに対応する。
GAPDH遺伝子検出用プライマー対
(フォワード)5'-tgtgctcccactcctgatttc-3'(配列番号1)
(リバース)5'-cctagtcccagggctttgatt-3'(配列番号2)
TBP遺伝子検出用プライマー対
(フォワード)5'-gcaccactccactgtatccc-3'(配列番号3)
(リバース)5'-cccagaactctccgaagctg-3'(配列番号4)
HSV-1検出用プライマー対
(フォワード)5'-cgcatcaagaccacctcctc-3'(配列番号5)
(リバース)5'-gtcagctcgtgRttctg-3'(配列番号6)
増幅する標的遺伝子:UL27
VZV検出用プライマー対
(フォワード)5'-tcactaccagtcatttctatccatctg-3'(配列番号7)
(リバース)5'-gaaaacccaaaccgttctcgag-3'(配列番号8)
増幅する標的遺伝子:ORF29
HSV-2検出用プライマー対
(フォワード)5'-cgcatcaagaccacctcctc-3'(配列番号9)
(リバース)5'-gtcagctcgtgRttctg-3'(配列番号10)
増幅する標的遺伝子:UL27
HHV-6検出用プライマー対
(フォワード)5'-gaagcagcaatcgcaacaca-3'(配列番号11)
(リバース)5'-acaacatgtaactcggtgtacggt-3'(配列番号12)
増幅する標的遺伝子:U38
EBV検出用プライマー対
(フォワード)5'-ctgggcaaggagctgtttg-3'(配列番号13)
(リバース)5'-ggccgcttgtaaaattgca-3'(配列番号14)
増幅する標的遺伝子:BMRF1
CMV検出用プライマー対
(フォワード)5'-tcgcgcccgaagagg-3'(配列番号15)
(リバース)5'-cggccggattgtggatt-3'(配列番号16)
増幅する標的遺伝子:UL83
HTLV-1検出用プライマー対
(フォワード)5'-ggccacctgtccagagca-3'(配列番号17)
(リバース)5'-actgtagagctgagccgataacg-3'(配列番号18)
増幅する標的遺伝子:Tax
梅毒トレポネーマ検出用プライマー対
(フォワード)5'-aggcatgttcgatgcagttt-3'(配列番号19)
(リバース)5'-ttttcgcccaatacctcaac-3'(配列番号20)
増幅する標的遺伝子:47kDa抗原遺伝子
トキソプラズマ検出用プライマー対
(フォワード)5'-tcccctctgctggcgaaaagt-3'(配列番号21)
(リバース)5'-agcgttcgtggtcaactatcgattg-3'(配列番号22)
増幅する標的遺伝子:B1遺伝子
【0033】
PCRによる増幅産物を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブは、5'末端が蛍光色素FAMまたはROXで標識されたものを使用した。使用したすべてのオリゴヌクレオチドプローブは、3'末端がクエンチャー物質BHQで修飾されたものを使用した。プローブの塩基配列は以下のものを使用した。GAPDH遺伝子検出用プローブ
5'-aaaagagctaggaaggacaggcaacttggc-3'(配列番号23)(FAM標識)
TBP遺伝子検出用プローブ
5'-acccccatcactcctgccacgc-3'(配列番号24)(ROX標識)
HSV-1検出用プローブ
5'-tggcaacgcggcccaac-3'(配列番号25)(FAM標識)
VZV検出用プローブ
5'-tgtctttcacggaggcaaacacgt-3'(配列番号26)(ROX標識)
HSV-2検出用プローブ
5'-cggcgatgcgccccag-3'(配列番号27)(FAM標識)
HHV-6検出用プローブ
5'-aacccgtgcgccgctccc-3'(配列番号28)(ROX標識)
EBV検出用プローブ
5'-ctcggctgtggagcaggcttcc-3'(配列番号29)(FAM標識)
CMV検出用プローブ
5'-caccgacgaggattccgacaacg-3'(配列番号30)(ROX標識)
HTLV-1検出用プローブ
5'-Mtcacctgggaccccatcgatgga-3'(配列番号31)(FAM標識)
梅毒トレポネーマ検出用プローブ
5'-ggcgcgttccgtcagcaatt-3'(配列番号32)(ROX標識)
トキソプラズマ検出用プローブ
5'-tctgtgcaactttggtgtattcgcag-3'(配列番号33)(ROX標識)
【0034】
前房水、或いは硝子体を混合したPCR緩衝液により溶解したPCR反応用固体組成物を含む8連チューブストリップは、リアルタイムPCR装置(ロシュ・ダイアグノスティック社コバス z480装置など)を用いて、加水分解プローブ法によりPCR反応をモニターした。PCR条件として、95℃/10秒間の初期変性を行い、次いで95℃/5秒間-60℃/20秒間のPCRを45サイクル行った。対象とする病原微生物の存在(陽性)または非存在(陰性)は、Cq値(増幅曲線が閾値線(Threshold Line)と交差するサイクル数)を基に判断した。また、対照として、各検体よりDNAを精製した後、リアルタイムPCR(qPCR)法によってコピー数を定量した。
【0035】
本発明の方法により測定した病原体について、リアルタイムPCR(qPCR)法と比較した結果を
図1に示す。また、リアルタイムPCR(qPCR)法による定量値と本発明の方法により測定したCq値との相関を
図2に示す。
【0036】
図1の結果より、リアルタイムPCR(qPCR)法で定量することのできた53例の陽性検体は、本発明の方法を用いて測定した場合でもすべて陽性であった。
図1の結果より、HSV-1、HSV-2、VZV、EBV、CMV、HHV-6、HTLV-1、梅毒トレポネーマ、およびトキソプラズマが同定されていることが示された。また、
図2の結果より、定量値とCq値の間に相関性があることが示された。
【実施例2】
【0037】
〔非感染性ぶどう膜炎と診断された検体の分析〕
非感染性ぶどう膜炎と診断された患者から得られた51例の検体について、リアルタイムPCR(qPCR)法および本発明の方法により測定した結果を
図3に示す。リアルタイムPCR(qPCR)法ではすべての検体において陰性であったが、本発明の方法においてもすべて陰性であった。すなわち、両法から得られる測定結果は一致することが示された。
【配列表】