(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】マイクロシリンジユニット
(51)【国際特許分類】
A61M 5/178 20060101AFI20240115BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20240115BHJP
A61M 25/06 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61M5/178
A61M5/31
A61M25/06
(21)【出願番号】P 2020533504
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029532
(87)【国際公開番号】W WO2020026999
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018142134
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 疾患・組織別実用化研究拠点(拠点A)」、「パーキンソン病、脳血管障害に対するiPS細胞由来神経細胞移植による機能再生治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390029676
【氏名又は名称】株式会社トップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 淳
(72)【発明者】
【氏名】土井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】菊地 哲広
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-154654(JP,U)
【文献】特開平05-096005(JP,A)
【文献】特開平05-187903(JP,A)
【文献】実開昭61-021505(JP,U)
【文献】特表2011-510715(JP,A)
【文献】特開平10-057481(JP,A)
【文献】国際公開第99/016486(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105052839(CN,A)
【文献】特開2004-041492(JP,A)
【文献】実開昭51-044389(JP,U)
【文献】特開2010-167287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/178
A61M 5/31
A61M 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のニードルと前記ニードルに挿通されるプランジャとを備えているマイクロシリンジ、および、前記ニードルが挿通される筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットであって、
前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出し
、
前記ニードルガイドの肉厚をdとしたとき、0.1mm≦d≦1.0mmの範囲にあり、前記ニードルの前記ニードルガイドからの突出長qが5~10dであることを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項2】
筒状のニードルと前記ニードルに挿通されるプランジャとを備えているマイクロシリンジ、および、前記ニードルが挿通される筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットであって、
前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出し、
前記ニードルの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有することを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項3】
請求項2記載のマイクロシリンジユニットにおいて、
前記ニードルの先端部の凸曲面の表面粗さが、前記ニードルの外側面の表面粗さよりも大きいことを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項4】
請求項2または3記載のマイクロシリンジユニットにおいて、
前記ニードルガイドの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有し、
前記ニードルの先端部の凸曲面の曲率半径が、前記ニードルガイドの先端部の凸曲面の曲率半径よりも大きいことを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項5】
筒状のニードルと前記ニードルに挿通されるプランジャとを備えているマイクロシリンジ、および、前記ニードルが挿通される筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットであって、
前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出し、
前記ニードルガイドに挿通される、少なくとも先端部が柱状であるスタイレットをさらに備え、
前記スタイレットの基部と前記ニードルガイドを支持する前記ガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記スタイレットの前進が停止されている第2指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記スタイレットの先端部が突出することを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項6】
請求項5記載のマイクロシリンジユニットにおいて、
前記スタイレットの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有し、
前記スタイレットの先端部の凸曲面の曲率半径が、
前記ニードルガイドの先端部の凸曲面の曲率半径よりも大きいことを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項7】
請求項5または6記載のマイクロシリンジユニットにおいて、
前記第2指定状態における前記ニードルガイドの先端部からの前記スタイレットの突出長が、前記第1指定状態における前記ニードルガイドの先端部からの
前記ニードルの突出長以上であることを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項8】
筒状のニードルと前記ニードルに挿通されるプランジャとを備えているマイクロシリンジ、および、前記ニードルが挿通される筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットであって、
前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出し、
前記プランジャの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有し、
前記プランジャの先端部の凸曲面の曲率半径が、前記ニードルの先端部の凸曲面の曲率半径よりも小さいことを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項9】
筒状のニードルと前記ニードルに挿通されるプランジャとを備えているマイクロシリンジ、および、前記ニードルが挿通される筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットであって、
前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出し、
前記ニードルの少なくとも一部が、透明な部材により構成されていることを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項10】
筒状のニードルと前記ニードルに挿通されるプランジャとを備えているマイクロシリンジ、および、前記ニードルが挿通される筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットであって、
前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出し、
前記ニードルの基部を貫通し、先端に向かって狭くなる狭小部を有する貫通孔の内部において前記貫通孔の側壁に当接し、先端部において前記狭小部に当接して配置され、かつ、前記プランジャが挿通される筒状のパッキンをさらに備えていることを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【請求項11】
筒状のニードルと前記ニードルに挿通されるプランジャとを備えているマイクロシリンジ、および、前記ニードルが挿通される筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットであって、
前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出し、
前記ニードルガイドが、その外径が後端側から先端側にかけて不連続的に小さくなる少なくとも1つの段差部を有していることを特徴とするマイクロシリンジユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロシリンジおよびニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の脳の目標領域に薬剤または組織片・治療用細胞製剤組成物等の液体を注入するためのマイクロシリンジが提案されている(特許文献1参照)。筒状のニードルの先端部が薬剤等の液体の中にある状態で、ニードルの内部に挿通されたプランジャがニードルの先端部よりも後退することにより、ニードルの内部に液体が吸入される。先端部が患者の脳に挿入されているニードルガイドを構成するニードルガイドにニードルが挿通された状態で、ニードルに挿通されたプランジャが前進することによりニードルの先端部から液体が吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ニードルの先端部から吐出された液体がニードルガイドの先端部に接触してしまうと、その分だけ当該液体がニードルの径方向外側に広がりやすくなり、液体をニードルの前方に正確に吐出させること、ひいては液体を脳内の目標領域に正確に注入することが困難になる場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、脳内における液体の注入位置精度の向上を図りうるマイクロシリンジユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、筒状のニードルと、前記ニードルに挿通されるプランジャと、を備えているマイクロシリンジ、および、筒状のニードルガイドにより構成されているマイクロシリンジユニットに関する。
【0007】
本発明のマイクロシリンジユニットは、前記ニードルの基部と前記ニードルガイドを支持するガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記ニードルの前進が停止されている第1指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記ニードルの先端部が突出することを特徴とする。
【0008】
当該構成のマイクロシリンジによれば、第1指定状態においてニードルの先端部がニードルガイドの先端部から離間しているため、ニードルの先端部から吐出された薬剤等の液体がニードルガイドの先端部に接触してニードルの径方向に広がる事態が確実に防止される。これにより、ニードルの先端部から吐出された液体をニードルの前方に正確に吐出させ、ひいては液体を脳内の目標領域に正確に注入することができる。
【0009】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記ニードルの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有することが好ましい。
【0010】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、ニードルの先端部の凸曲面と脳の組織との間隙が確保されるため、ニードルの先端部から吐出された液体を当該間隙に留まらせて径方向への広がりを抑制することができる。このため、当該液体がニードルガイドの先端部に接触してニードルの径方向に広がる事態がさらに確実に防止される。
【0011】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記ニードルの先端部の凸曲面の表面粗さが、前記ニードルの外側面の表面粗さよりも大きいことが好ましい。
【0012】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、ニードルの先端部に親水性を持たせることにより、当該先端部の外側面の濡れ性を凸曲面の濡れ性よりも低下させ、ニードルの先端部の凸曲面と脳の組織との間隙に、当該ニードルの先端部から吐出された液体を留まらせ、当該液体がニードルの外側面を伝って径方向に広がることを抑制することができる。このため、当該液体がニードルガイドの先端部に接触してニードルの径方向に広がる事態がより確実に防止される。
【0013】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記ニードルガイドの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有し、前記ニードルの先端部の凸曲面の曲率半径が、前記ニードルガイドの先端部の凸曲面の曲率半径よりも大きいことが好ましい。
【0014】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、ニードルの先端部の凸曲面の曲率半径が、ニードルガイドの先端部の凸曲面の曲率半径よりも大きい分だけ、ニードルの先端部の凸曲面と脳の組織との間隙が大きく確保され、より多くの液体を留まらせて径方向への広がりを抑制することができる。また、ニードルガイドの先端部の凸曲面の曲率半径が、ニードルの先端部の凸曲面の曲率半径よりも小さい分だけ、ニードルガイドの先端部により脳組織が損傷される事態が確実に回避されうる。
【0015】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記ニードルガイドに挿通される、少なくとも先端部が柱状であるスタイレットをさらに備え、前記スタイレットの基部と前記ニードルガイドを支持する前記ガイド基部とが当接することにより、前記ニードルガイドに挿通されている前記スタイレットの前進が停止されている第2指定状態において、前記ニードルガイドの先端部から前記スタイレットの先端部が突出することが好ましい。
【0016】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、第2指定状態において、患者の脳に進入した状態で固定されているニードルガイドから突出したスタイレットの先端部が脳の組織を偏位させ 、その後に実現される第1指定状態において当該ニードルガイドから突出するニードルの先端部が入り込むスペースが形成されうる。
【0017】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記スタイレットの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有し、前記スタイレットの先端部の凸曲面の曲率半径が、前記ニードルガイドの先端部の凸曲面の曲率半径よりも大きいことが好ましい。
【0018】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、スタイレットの先端部の凸曲面の曲率半径が、ニードルガイドの先端部の凸曲面の曲率半径よりも大きい分だけ、第2指定状態において、患者の脳に進入した状態で固定されているニードルガイドから突出しているスタイレットの先端部により偏位された 脳の組織が損傷することを防ぐことができる。
【0019】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記第2指定状態における前記ニードルガイドの先端部からの前記スタイレットの突出長が、前記第1指定状態における前記ニードルガイドの先端部からの前記ニードルの突出長以上であることが好ましい。これにより、スタイレットとニードルの突出長の差異に起因する体積分、脳に空間が形成されるため細胞注入空間が確保できる。
【0020】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、前記のようにスタイレットの先端部が脳の組織を偏位させること により、ニードルの先端部のための不足 のないスペースが形成されうる。
【0021】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記プランジャの先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面を有し、前記プランジャの先端部の凸曲面の曲率半径が、前記ニードルの先端部の凸曲面の曲率半径よりも小さいことが好ましい。
【0022】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、プランジャの先端部の凸曲面の曲率半径が、ニードルの先端部の凸曲面の曲率半径よりも小さい分だけ、プランジャの先端位置とニードルの先端位置とが一致している状態で、プランジャの先端部とニードルの内側面との間隙を小さくすることができる。このため、プランジャの先端位置がニードルの先端位置と一致した状態になるまでプランジャが押し込まれた際、当該間隙に留まる液体の量が低減され、ニードルの先端部から吐出される液体の量が正確に調節されうる。
【0023】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記ニードルの少なくとも一部が、透明な部材により構成されていることが好ましい。
【0024】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、先端部が液体に触れているニードルに挿通されたプランジャが後退した際に、ニードルの内部空間に液体が適切に収容されたか否かがニードルの透明な部材により構成された部分から視認されうる。
【0025】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記ニードルの基部を貫通し、先端に向かって狭くなる狭小部を有する貫通孔の内部において前記貫通孔の側壁に当接し、先端部において前記狭小部に当接して配置され、かつ、前記プランジャが挿通される筒状のパッキンをさらに備えていることが好ましい。
【0026】
当該構成のマイクロシリンジユニットによれば、ニードルの内部空間において、パッキンよりも後側に液体が浸入する事態が防止されうる。
【0027】
本発明のマイクロシリンジユニットにおいて、前記ニードルガイドが、その外径が後端側から先端側にかけて不連続的に小さくなる少なくとも1つの段差部を有していることが好ましい。
【0028】
これにより、ニードルガイドにおいて、段差部を挟んでその後端側部分よりも細く、先端部に連続する先端側部分の外径が、脳内に挿入される観点から適当な数値範囲に設計されうる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態としてのマイクロシリンジユニットの構成に関する説明図。
【
図5】シリンジ外筒およびプランジャガイドの構成に関する説明図。
【
図6】プランジャおよびシリンジ内筒の構成に関する説明図。
【
図8】スタイレットおよびニードルガイドの組み合わせ使用態様に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(構成)
図1に全体が示され、かつ、
図2~
図4のそれぞれに要部が示されている本発明の一実施形態としてのマイクロシリンジユニットは、マイクロシリンジ100およびニードルガイド200により構成されている。説明のため、
図1~
図4の右側がマイクロシリンジ100およびニードルガイド200の先端側または前側として定義され、左側がマイクロシリンジ100およびニードルガイド200の後端側または後側として定義される。
【0031】
図1に示されているように、マイクロシリンジ100は、ニードル110と、プランジャ120と、ニードル基部130と、シリンジ外筒140と、外筒151と、シリンジ内筒152と、を備えている。ニードル110、プランジャ120、ニードル基部130、外筒151およびシリンジ内筒152のそれぞれはステンレス等の金属などから作製されている。シリンジ外筒140は透明なガラスまたは合成樹脂などから作製されている。
【0032】
図2に示されているように、ニードル基部130は、第1基部要素131と、第2基部要素132と、第3基部要素133と、により構成されている。第1基部要素131は、中心軸線に沿って延在し、ニードル110の外径と略同径またはわずかに小径の貫通孔を有する略円錘台状の部位である。第2基部要素132は、第1基部要素131の貫通孔より大径の内径を有する略円筒状の部位であり、後端部において外径が局所的に拡径している。第3基部要素133は、第2基部要素132の外径と略同径または大径の内径を有し、かつ、第2基部要素132の後端部と略同径の外径を有する略円筒状の部位である。第1基部要素131の後端部(または下底部)に第2基部要素132の先端部が連続し、かつ、第2基部要素132の後端部における拡径部に第3基部要素133の先端部がするように、第1基部要素131、第2基部要素132および第3基部要素133が同軸に配置されて一体的に形成されている。
【0033】
図1に示されているように、ニードル110は、略円筒状または横断面が略円環状の線状に形成されており、その後端部が第1基部要素131の貫通孔に挿入された状態でニードル基部130に対して固定されている。
図4に示されているように、ニードル110の先端部は、先端に向かってニードル110の先端部の外径が徐々に小さくなるまたは肉薄になるようにR加工されて凸曲面(R面)が形成されていてもよい。ニードル110の先端部の凸曲面の曲率半径R
110は、例えば、R0.05~0.15mmの範囲内に含まれるように設計される。
【0034】
ニードル110の先端部の凸曲面の表面粗さは、ニードル110の外側面の表面粗さよりも大きくなるように設計されていてもよい。例えば、ニードル110の先端部の凸曲面の表面粗さRaが1.0~6.0μm、好ましくは1.0~4.0μm、さらに好ましくは1.0~2.0μmの範囲内に含まれるように設計される一方、ニードル110の先端部の外側面の表面粗さRaが0.04~1.0μm、好ましくは0.04~0.50μm、さらに好ましくは0.04~0.10μmの範囲内に含まれるように設計される。この場合、ニードル110の先端部に親水性を持たせることが好ましい。例えば、SUS製または合成樹脂製のニードル110がプラズマ処理等により親水性官能基が付与されることにより、ニードル110の先端部の親水化が図られる。
【0035】
図3に示されているように、プランジャ120は、ニードル110の内径よりわずかに小径であり、かつ、ニードル110よりも長い略円柱状または横断面が略円形状の線状に形成されており、ニードル110の内部空間に挿通される。
図4に示されているように、プランジャ120の先端部は、先端部に近づくほどプランジャ120の径が徐々に小さくなるように加工(R加工)されて凸曲面(R面)が形成されていてもよい。プランジャ120の先端部の凸曲面の曲率半径R
120は、例えば、R0~0.15mmの範囲内に含まれるように設計される。プランジャ120の後端部には、略円柱状のプランジャホルダ122が取り付けられている。
【0036】
図2に示されているように、シリンジ外筒140は、ニードル基部130の第3基部要素133の内径と略同径の外径を有する略円筒状の透明性のあるガラスまたは合成樹脂などにより構成されている。同じく
図2に示されているように、シリンジ外筒140の内径は第2シリンジ基部の内径と略同径であり、その先端部がニードル基部130の第3基部要素133に挿入された状態で、ニードル基部130に対して固定されている。
図1に示されているように、シリンジ外筒140の後端部には、貫通孔を有する略平板状のプランジャガイド142が固定されている。
【0037】
図5に示されているように、プランジャガイド142は、マイクロシリンジ100を前後方向に臨んだ際に、円からその弦の外側部分(アルファベット文字「D」のような形状)が切り欠かれたような形状に形成されている。シリンジ外筒140の外周面のうち、プランジャガイド142の横断面における当該円の中心を基準として当該弦とは反対側に相当する外周面領域またはそこより周方向にずれた外周面領域に、ニードル110による液体の吸入量(またはニードル110に対するプランジャ120の進退量)を示す目盛り1402が設けられていてもよい。
【0038】
図2に示されているように、外筒151は、プランジャ120より大径の内径を有し、かつ、ニードル基部130の第2基部要素132の内径と略同径の外径を有する略円筒状に形成されている。同じく
図2に示されているように、外筒151は、プランジャ120がその内部空間を貫通し、かつ、先端側が部分的にニードル基部130の第2基部要素132の内部空間に挿通された状態で、ニードル基部130に対して固定されている。
【0039】
図2に示されているように、ニードル基部130の第2基部要素132の内部空間において、外筒151の先端部および第1基部要素131の貫通孔との段差に当接するシリンジパッキン134が設けられている。
図2に示されているように、シリンジパッキン134は、先端部から中央部にかけて徐々に縮径した後、中央部から後端部にかけて徐々に拡径するような形状または鼓形状の外周面を有し、かつ、内径がプランジャ120と略同径の筒状の柔軟性がある合成樹脂等の材料により構成されている。
【0040】
シリンジ内筒152は、プランジャ120と略同径またはわずかに大径の内径を有し、かつ、プランジャガイド142の貫通孔と略同径(かつ外筒151の外径より小径)の外径を有する略円筒状に形成されている。
図6に示されているように、シリンジ内筒152は、外筒151よりも後側においてプランジャ120がその内部空間を貫通し、後端部においてプランジャホルダ122に対して固定されている。
図1に示すようにシリンジ内筒152はプランジャガイド142の貫通孔を貫通しているので、プランジャホルダ122がシリンジ外筒140に対して相対的に進退することにより、プランジャ120およびシリンジ内筒152が、プランジャガイド142の貫通孔を通じた状態で一体的に進退する(
図1および
図6参照)。
【0041】
図2に示されているように、シリンジ内筒152の先端部と外筒151の後端部とが当接した状態で、ニードル110の先端部とプランジャ120の先端部とがそれらの軸線方向について同一の位置に合わせられる。
【0042】
図8に示されているように、ニードルガイド200は、内側ニードルガイド210および外側ニードルガイド220により構成され、ガイド基部230により支持されている。内側ニードルガイド210、外側ニードルガイド220およびガイド基部230のそれぞれは、ステンレス等の金属などから作製されている。内側ニードルガイド210、外側ニードルガイド220およびガイド基部230のうち少なくとも1つが熱硬化性樹脂により構成されていてもよい。
【0043】
図9に示されているように、ガイド基部230は、前側の内部空間が略円柱状に形成され、これに連続する後側の内部空間が略円錘台形状に形成された略円筒状に形成されている。同じく
図9に示されているように、ガイド基部230の後側の内部空間の形状は、前側の内部空間およびニードル基部130の第1基部要素131の上底部よりも小径の上底部を有し、第1基部要素131の下底部より大径の下底部を有し、かつ、第1基部要素131の外側面形状に沿った内側面形状を有している。
【0044】
図9に示されているように、内側ニードルガイド210は、ガイド基部230の前側の内部空間よりも小径の外径を有し、かつ、ニードル110の外径と略同径の内径を有する略円筒状に形成されている。
図10に示されているように、内側ニードルガイド210の先端部は、先端部に近づくほど内側ニードルガイド210の外径が徐々に小さくなるように加工(R加工)されて凸曲面(R面)が形成されていてもよい(
図4参照)。内側ニードルガイド210の先端部の凸曲面の曲率半径R
210は、例えば、R0.05~0.15mmの範囲内に含まれるように設計される。
【0045】
ニードル110の先端部の凸曲面の曲率半径R110、プランジャ120の先端部の凸曲面の曲率半径R120、および、内側ニードルガイド210の先端部の凸曲面の曲率半径R210の間には、関係式(1)で表わされるような大小関係が存在していてもよい。
【0046】
R120<R210<R110 ‥(1)。
【0047】
図9に示されているように、外側ニードルガイド220は、ガイド基部230の前側の内部空間と略同径の外径を有し、かつ、内側ニードルガイド210の外径と略同径の内径を有する、内側ニードルガイド210よりも軸線方向について短い略円筒状に形成されている。そのため、ニードルガイド200は
図1のB部、および
図3で示すように外径において段差を有している。外側ニードルガイド220は、その先端部において、先端部に近づくほど外径が徐々に小さくなるようにまたは肉薄になるような形状に加工(R加工)されていてもよい。
【0048】
内側ニードルガイド210および外側ニードルガイド220のそれぞれは、軸線方向に長い分だけ、たわまない程度の強度が確保されるような肉厚を有している。内側ニードルガイド210および外側ニードルガイド220のそれぞれが、例えば、ステンレスにより構成されている場合、その肉厚は例えば0.1~1.0mm、好ましくは0.1~0.5mm、さらに好ましくは0.2~0.5mmの範囲内に含まれるように設計される。
図9に示されているように、内側ニードルガイド210が、その後端部が外側ニードルガイド220の後端部と軸線方向について同じ位置になるようにその後側部分が外側ニードルガイド220の内部空間に挿通された状態で、外側ニードルガイド220に対して固定されている。同じく
図9に示されているように、外側ニードルガイド220が、その後端部がガイド基部230の前側の内部空間に挿通された状態で、ガイド基部230に対して固定されている。
【0049】
本発明の一実施形態としてのマイクロシリンジユニットが、
図7に示されているスタイレット400をさらに備えていてもよい。
図7に示されているように、スタイレット400は、内側ニードルガイド210に挿通される略円柱状のシャフト410と、シャフト410を支持する、シャフト410よりも大径の略円柱状の基部420と、を備えている。
図8に示されているように、スタイレット400は、ニードルガイド200に挿通される。
【0050】
図9に示されているように、スタイレット400の基部420とニードルガイド200を支持するガイド基部230とが当接することにより、内側ニードルガイド210に挿通されているスタイレット400および そのシャフト410の前進が停止される。この状態(第2指定状態)において、
図10に示されているように、ニードルガイド200の先端部からスタイレット400のシャフト410の先端部が突出する。
図10に示されているように、スタイレット400のシャフト410の先端部が、先端に向かって外径が徐々に小さくなるような凸曲面(R面)を有していてもよい(
図10参照)。スタイレット400のシャフト410の先端部の凸曲面の曲率半径R
410および内側ニードルガイド210の先端部の凸曲面の曲率半径R
210の間に関係式(2)で表わされる大小関係が存在していてもよい。
【0051】
R210<R410 ‥(2)。
【0052】
(機能)
脳外科手術に際して、まず、第2指定状態にあるニードルガイド200が脳内に挿入される。この際、支持機構(図示略)によりニードルガイド200が支持されることにより、ニードルガイド200の先端位置および姿勢が確定される。「第2指定状態」において、ニードルガイド200(すなわち内側ニードルガイド210)の内部空間に略円柱状のスタイレット400が挿通され、その基部420がガイド基部230に当接して前進が停止されている(
図8~
図9参照)。第2指定状態では、スタイレット400のシャフト410の先端部がニードルガイド200の先端部から突出長pだけ突出しており(
図10参照)、スタイレット400のシャフト410 の当該先端部により患者の脳の組織が偏位され 、その分だけ脳内に 微小空間が確保される。その後、スタイレット400が当該支持機構により支持されているニードルガイド200から引き抜かれる。
【0053】
続いて、あらかじめ治療用組成物を含む液体が先端に吸入された状態のマイクロシリンジ100のニードル110が、支持機構により支持されているニードルガイド200に挿通される。ガイド基部230の後側の内部空間を画定する略円錘台の側面状の内側面は、縦断面において前側にいくにつれてガイド基部230の中心軸線に近づくようなテーパ面を構成する(
図2参照)。このテーパ面により、ニードル110が内側ニードルガイド200の内部空間に円滑に案内され、かつ、ニードル基部130の第1基部要素131がガイド基部230の後側の内部空間に円滑に案内される。
【0054】
ニードル110がニードルガイド200に挿通されている状態で、ニードル基部130およびガイド基部230が相互に接近するように相対的に動かされることにより、ニードル基部130の第2基部要素132の先端部と、ガイド基部230の後端部と、が当接する(
図2参照)。これに加えて、ニードル基部130の第1基部要素131の外側面と、ガイド基部230の後側の内部空間の内側面とが当接してもよい。これにより、ニードルガイド200に挿通されているニードル110の前進が停止される「第1指定状態」が実現される(
図1参照)。
【0055】
第1指定状態において、ニードルガイド200(すなわち内側ニードルガイド210)の先端部からニードル110の一部が突出し(
図4参照)、前記のようにするスタイレット400のシャフト410の先端部により確保された脳内の微小空間に進入する。この際、プランジャ120は
図4に示されている位置よりも後方にあって、プランジャ120の先端側においてニードル110の内部空間に細胞製剤組成物等の液体が充填されている。
【0056】
ニードル110の当該突出長qは、スタイレット400のシャフト410の前記突出長pと同じまたは同程度である。 ニードル110の当該突出長qは、例えば、内側ニードルガイド210の最大肉厚dを基準として、1d~30dの範囲に含まれており、d=0.15mmの場合、q=0.15~4.5mmである。ニードル110の当該突出長q は、好ましくは2d~15d、さらに好ましくは5~10dの範囲に含まれている。スタイレット400のシャフト410の当該突出長pは、例えば、内側ニードルガイド210の最大肉厚dを基準として、1d~30dの範囲に含まれており、d=0.15mmの場合、q=0.15~4.5mmである。スタイレット400の当該突出長pは、好ましくは3d~16d、さらに好ましくは6~11dの範囲に含まれている。
【0057】
この状態で、プランジャホルダ122がシリンジ外筒140に対して相対的に前進することにより、プランジャ120が前進してニードル110の先端部の開口部から細胞製剤組成物等の液体が脳内の微小空間に注入される(
図4参照)。第1指定状態においてニードル110の先端部がニードルガイド200の先端部から離間しているため(
図4参照)、ニードル110の先端部から吐出された細胞製剤組成物等の液体がニードルガイド200(すなわち内側ニードルガイド210)の先端部に接触してニードル110の径方向に広がる事態が確実に防止される。これにより、ニードル110の先端部から吐出された液体をニードル110の前方に正確に吐出させ、ひいては液体を脳内の目標領域に正確に注入することができる。
【0058】
(本発明の他の実施形態)
ニードル110の少なくとも一部、特に先端部が、アクリル等の透明な部材により構成されていてもよい。これにより、先端部が液体に触れているニードル110に挿通されたプランジャ120が後退した際に、ニードル110の内部空間に液体が適切に収容されたか否かがニードル110の透明な部材により構成された部分から視認されうる。
【符号の説明】
【0059】
100‥マイクロシリンジ、110‥ニードル、120‥プランジャ、122‥プランジャホルダ、130‥ニードル基部、134‥シリンジパッキン、140‥シリンジ外筒、142‥プランジャガイド、151‥外筒、152‥シリンジ内筒、200‥ニードルガイド、210‥内側ニードルガイド、220‥外側ニードルガイド、230‥ガイド基部、400‥スタイレット、410‥シャフト、420‥スタイレット基部。