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特許7418732気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法
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  • 特許-気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法 図1
  • 特許-気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法 図2
  • 特許-気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20210101AFI20240115BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240115BHJP
【FI】
C25B9/00 Z
C25B11/032
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019205726
(22)【出願日】2019-11-13
(65)【公開番号】P2021075773
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布施 幸則
(72)【発明者】
【氏名】川口 正人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 克司
(72)【発明者】
【氏名】小池 佳代
(72)【発明者】
【氏名】和田 智之
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532008(JP,A)
【文献】特表2016-531201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 9/60
C25B 11/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための装置であって、
前記電極の内部から前記電極の表面の前記電解質溶液に向けて前記気体を供給する手段を有し、
前記気体は、気泡径が10 -6 m~10 -4 mのマイクロバブルまたは気泡径が10 -6 m以下のウルトラファインバブルとして供給されることを特徴とする気体供給装置。
【請求項2】
前記電極が、前記電極の内部から前記電極の表面の前記電解質溶液に向けて前記気体を供給可能な通気性電極であることを特徴とする請求項1に記載の気体供給装置。
【請求項3】
前記気体は二酸化炭素であることを特徴とする請求項1または2に記載の気体供給装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一つに記載の気体供給装置を備えることを特徴とする電気化学反応装置。
【請求項5】
電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための方法であって、
前記電極の内部から前記電極の表面の前記電解質溶液に向けて前記気体を供給するステップを有し、
前記気体は、気泡径が10 -6 m~10 -4 mのマイクロバブルまたは気泡径が10 -6 m以下のウルトラファインバブルとして供給されることを特徴とする気体供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素などの気体を電解質溶液に供給するための気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆる人工光合成に代表される二酸化炭素(以下、単にCOということがある。)還元、炭素固定の技術において、COの触媒(触媒電極)への効率的な還元反応を促す供給方法が課題となっている(例えば、特許文献1~3を参照)。
【0003】
これについて、図3を参照しながら説明する。図3(1)は従来の電気化学的CO還元反応装置の一例であり、(2)は溶液中の電位分布(左軸)と、CO濃度分布(右軸)のグラフである。この反応装置1は、電解質溶液が入れられた液槽2と、液槽2を仕切る電解質膜などの仕切り膜3と、液槽2の一方に設けられた作用極4(陰極:Cu電極)と、液槽2の他方に設けられた対極5(陽極:Pt電極)とを備える。作用極4と対極5は、定電流供給装置6を通じて互いに電気的に接続しており、正負の電圧がそれぞれ印加される。この反応装置1において、外部のCOタンク7から供給管8を通じてCOを電解質溶液層に供給し、溶存させた場合、作用極4と電解液の界面近傍の電気二重層9で電解質溶液に含まれるCOが還元されて、有用性の高い物質が生成される。
【0004】
しかし、溶存したCOの99%以上はバルク層2Aに存在し、還元反応には一切寄与しない。このような反応装置1では還元効率が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-056136号公報
【文献】特開2019-011491号公報
【文献】特開2017-213519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、COなどの気体の触媒(触媒電極)への効率的な電気化学反応(酸化・還元反応)を促すことのできる技術が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、効率的な電気化学反応(酸化・還元反応)を促すことのできる気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る気体供給装置は、電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための装置であって、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の気体供給装置は、上述した発明において、電極が、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給可能な通気性電極であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の気体供給装置は、上述した発明において、気体は二酸化炭素であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る電気化学反応装置は、上述した気体供給装置を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る気体供給方法は、電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための方法であって、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る気体供給装置によれば、電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための装置であって、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給するので、電極の内部および表面の気体濃度が電解質溶液内で最も高くなり、気体の効率的な電気化学反応(酸化・還元反応)を促すことができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の気体供給装置によれば、電極が、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給可能な通気性電極であるので、電極の内部を気体が通過することで、反応効率を増大することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の気体供給装置によれば、気体は二酸化炭素であるので、二酸化炭素の効率的な還元反応を促すことができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る電気化学反応装置によれば、上述した気体供給装置を備えるので、反応効率に優れた電気化学反応装置を提供することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る気体供給方法によれば、電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための方法であって、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給するので、電極の内部および表面の気体濃度が電解質溶液内で最も高くなり、気体の効率的な電気化学反応(酸化・還元反応)を促すことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(1)は、本発明に係る気体供給装置および電気化学反応装置の実施の形態を示す図であり、(2)は液槽内のCO濃度分布、電位分布を示す図である。
図2図2は、作用極の部分拡大イメージ図である。
図3図3(1)は、従来の電気化学的CO還元反応装置の一例を示す図であり、(2)は液槽内のCO濃度分布、電位分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1(1)に示すように、本発明の実施の形態に係る電気化学反応装置10は、電解質溶液Sが入れられた液槽12と、液槽12を左右に仕切る電解質膜などからなる仕切り膜14と、仕切り膜14を挟んで液槽12の右側に設けられた作用極16(陰極)と、液槽12の左側に設けられた対極18(陽極)とを備えており、例えば人工光合成などに用いられる。
【0021】
作用極16と対極18は、定電流供給装置20を通じて互いに電気的に接続しており、正負の電圧がそれぞれ印加される。本実施の形態では、作用極16は銅(Cu)で、対極18は白金(Pt)で構成される場合を例にとり説明するが、本発明はこれに限るものではない。
【0022】
作用極16は、作用極16の内部から表面16A側の電解質溶液Sに向けてCO(気体)を供給可能な通気性電極(カソード)であり、本実施の形態の気体供給装置を兼ねている。具体的には、この作用極16は、気泡が連続する連続気泡型の発泡金属で構成される。電極をこのような通気性電極で構成しても、電気化学反応のファラデー効率は下がらない。この発泡金属の内部は外部のCOタンク22の仕切り弁24から延びる供給管26と連通しており、供給管26から供給されるCOを、作用極16内部に形成された連続気泡の複数の微小通路28を通じて電解質溶液Sに供給可能である。作用極16は、例えば図2に示すような周知の金魚水槽のバブリング装置Aなどに用いられる多孔質の金属焼結体で構成することができる。
【0023】
酸化還元反応の一例を以下に示す。なお、本発明の酸化還元反応はこれに限るものではない。
(アノード電極) 2HO→4H+O+4e
(カソード電極) CO+2H+2e→CO+H
2H+2e →H
【0024】
上記の構成の動作および作用について図1を参照しながら説明する。なお、図1(2)は、溶液中の電位分布(左軸)と、CO濃度分布(右軸)のグラフを示している。図1(2)中の破線は従来の図3(2)のものに対応する。
【0025】
外部のCOタンク22から供給管26を通じてCOを作用極16の内部に供給すると、COは作用極16の内部の連続気泡の通路28を通って作用極16の表面16A側に流れ、電解質溶液Sに供給される。作用極16の内部からCOが供給されるので、作用極16の内部および表面16AのCO濃度が液槽12の電解質溶液S内で最も高くなる。これにより、供給されたCOに対して還元されるCOの割合が大幅に向上し、COの効率的な還元反応を促すことができる。
【0026】
上記の実施の形態において、作用極16の内部に供給するCO(気体)は、例えば国際標準規格のISO/TC281に規定されるファインバブル(マイクロバブルまたはウルトラファインバブル)のような微小気泡で供給してもよい。
【0027】
ファインバブルは、気泡径(直径)が10-4m以下のものである。ファインバブルのうち、気泡径(直径)が10-6m~10-4mのものをマイクロバブル(MB)、気泡径(直径)が10-6m以下のものをウルトラファインバブル(UFB)という。
【0028】
ファインバブルより大きいバブルは、気泡の直径がミリオーダー以上となり、浮力の影響を強く受け、容易に水面へ上昇し、消滅する。
【0029】
気泡の直径が10-6m~10-4mのマイクロバブルは、ゆっくりと遅い速度で上昇するが、自己加圧効果が顕著となるため、徐々にサイズが収縮し、ウルトラファインバブルとなるか、消滅、溶解する。
【0030】
気泡の直径が10-6m以下のウルトラファインバブルでは、浮力よりも粘性力の効果が大きくなるため、殆ど上昇せず、ブラウン運動により作用電極のまわりに長期に残存する。ウルトラファインバブルは、マイクロバブルと異なり、互いに融合せず、長期に渡って、電解質溶液中に浮遊し滞在する。
【0031】
これらのことは、以下の数式からも説明される。
液体中での気泡上昇速度Vは次式で与えられる。
V=(ρf-ρb)/6πμr×(4πr/3)×g
(r:気泡半径、g:重力加速度、μ:液体粘度、ρf:液体密度、ρb:気泡内気体密度)
この式から、気泡の半径rが大きい気泡ほど上昇速度Vが大きくなり、水面に素早く上昇することがわかる。
【0032】
また、気泡内の圧力pbは、以下の式にて表される。
pb=pf+2σ/r
(r:気泡半径、pf:液体圧力、σ:界面張力係数)
この式から、気泡内の圧力の上昇は、気泡の半径に反比例することがわかる。
【0033】
マイクロバブル、ウルトラファインバブルは、加圧溶解式(GaLF式)、旋回流式・せん段式、散気式などによって製造し、供給されてよい。
【0034】
本発明において、供給される気体が、マイクロバブルである場合、COを作用極16の内部から供給すると、比表面積が大きい連続気泡の通路28内をCOガスが通過することで、COのマイクロバブルは、上昇または消滅する前に、作用極内部において、効率的に還元反応に供される。
【0035】
また、供給される気体がウルトラファインバブルである場合、作用極16の内部から供給されたCOのウルトラファインバブルは、連続気泡の通路28を抜けた後、作用極16の周囲を離れることなく、ブラウン運動により作用極16付近にとどまり、作用極16付近において、効率的に還元される。
【0036】
また、還元反応が起こる電気二重層が作用極16の内部に形成され、比表面積が大きい連続気泡の通路28内をCOガスが通過することで、CO還元反応の効率が増大する。
【0037】
また、バルク層12Aの溶存CO(ガス)濃度が下がり、電気抵抗が低下することにより、期待する還元反応を起こすための電気エネルギーの削減を図ることができる。
【0038】
また、マイクロバブルまたはウルトラファインバブルは、マイナスに帯電しており、バブリング等により電解質溶液中に供給しても、マイナスに帯電した作用極の近傍に配置することは大変難しく、多くがバルク層となってしまう。そこで、マイナス帯電のマイクロバブルを、本発明の装置/方法によって、電気化学反応の作用極の近傍に強制配置することで、供給された気体の多くが酸化還元反応に供することとなり、気体の効率的な電気化学反応を促すことができる。また、マイナス帯電のウルトラファインバブルを、本発明の装置/方法によって、電気化学反応の作用極の近傍に強制配置することで、供給された気体の多くが酸化還元反応に供することとなり、気体の効率的な電気化学反応を促すことができる。
【0039】
本発明は、DAC(Direct Air Capture:CO直接空気回収装置)などで分離回収される気中のCOを還元し、有用化成品原材料物質を作り出す人工光合成技術の促進に寄与することができる。また、排出抑制だけでは解決しないとされる温室効果ガスCO濃度の削減のみならず、OECDの予測で2050年には5倍程度の価格となる石油に依存する化学工業の代替技術となり得る。例えば、COを炭素源とした樹脂製造技術に有用である。このため、本発明は、将来的には石油に代わるエネルギー源として期待できる人工光合成の基本技術として有望である。
【0040】
上記の実施の形態では、作用極16が銅(Cu)で、対極18が白金(Pt)で構成される場合を例にとり説明したが、本発明はこれに限るものではない。作用極16、対極18の材料としては、導体や半導体であればいかなるものでもよく、例えば、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zu)、鉄(Fe)、カドミウム(Cd)、パラジウム(Pd)、ガリウム(Ga)、カーボン(C)などの単体、これらを含む合金、または複合体(バイメタルなど)を用いてもよい。
【0041】
以上説明したように、本発明に係る気体供給装置によれば、電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための装置であって、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給するので、電極の内部および表面の気体濃度が電解質溶液内で最も高くなり、気体の効率的な電気化学反応(酸化・還元反応)を促すことができる。
【0042】
また、本発明に係る他の気体供給装置によれば、電極が、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給可能な通気性電極であるので、電極の内部を気体が通過することで、反応効率を増大することができる。
【0043】
また、本発明に係る他の気体供給装置によれば、気体は二酸化炭素であるので、二酸化炭素の効率的な還元反応を促すことができる。
【0044】
また、本発明に係る電気化学反応装置によれば、上述した気体供給装置を備えるので、反応効率に優れた電気化学反応装置を提供することができる。
【0045】
また、本発明に係る気体供給方法によれば、電気化学反応の作用極である電極に接する電解質溶液に気体を供給するための方法であって、電極の内部から電極の表面の電解質溶液に向けて気体を供給するので、電極の内部および表面の気体濃度が電解質溶液内で最も高くなり、気体の効率的な電気化学反応(酸化・還元反応)を促すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上のように、本発明に係る気体供給装置、電気化学反応装置および気体供給方法は、DACなどから有用化成品原材料物質を作り出す人工光合成技術に有用であり、特に、二酸化炭素などの気体の効率的な還元反応を促すのに適している。
【符号の説明】
【0047】
10 電気化学反応装置
12 液槽
12A バルク層
14 仕切り膜
16 作用極
16A 表面
18 対極
20 定電流供給装置
22 COタンク
24 仕切り弁
26 供給管
28 通路
A バブリング装置
S 電解質溶液
図1
図2
図3