(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/53 20230101AFI20240115BHJP
H10K 30/30 20230101ALI20240115BHJP
【FI】
H10K30/53
H10K30/30
(21)【出願番号】P 2019233174
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128141
【氏名又は名称】飯田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】福本 正
(72)【発明者】
【氏名】吉川 聡雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳仁
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-093347(JP,A)
【文献】特開平06-283742(JP,A)
【文献】特開2017-103450(JP,A)
【文献】国際公開第2013/039019(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078
H10K 30/00-39/38
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ変形が可能であると共に、自身を構成する組織間に形成される微細空間が周囲の他の前記微細空間と連通しつつ自身の内部に分布する材料により構成された基材と、
自身を構成する材料(以下、第一電極側材料と呼ぶ。)が前記基材に付着して前記基材に形成される第一電極と、
自身を構成する材料(以下、第二電極側材料と呼ぶ。)が前記基材に付着して前記基材に形成される第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間において、自身を構成する材料(以下、光電変換側材料と呼ぶ。)が前記基材に付着して前記基材の内部に形成される光電変換層と、
を備え、
前記微細空間は、前記光電変換側材料が配置可能な大きさを有
し、
前記第一電極は、前記基材において前記光電変換層と重複する領域(以下、第一重複領域と呼ぶ。)を有し、
前記第一重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第一電極側材料とが混在することを特徴とする、
光電変換素子。
【請求項2】
前記基材は、繊維が絡み合って構成される布体、又は多孔質材料によりに構成されることを特徴とする、
請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記基材は、シート状に構成されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記第一電極は、
前記光電変換層に隣接すると共に、前記第一重複領域で前記光電変換層に重複する領域(以下、第一電極片側重複領域と呼ぶ。)を有し、前記第一電極側材料に含まれる所定の材料(以下、第一電極片側材料と呼ぶ。)により構成される第一電極片と、
前記光電変換層とは反対側において前記第一電極片に隣接し、前記第一電極側材料に含まれる、前記第一電極片側材料とは別の所定の材料(以下、第二電極片側材料と呼ぶ。)により構成される第二電極片と、
を有し、
前記第一電極片側重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第一電極片側材料とが混在することを特徴とする、
請求項
1に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記第二電極片は、前記第一重複領域で前記光電変換層と重複する領域(以下、第二電極片側重複領域と呼ぶ。)を有し、
前記第二電極片側重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第二電極片側材料とが混在することを特徴とする、
請求項
4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記第一重複領域では、前記第一電極片側材料の方が前記第二電極片側材料よりも多く含まれることを特徴とする、
請求項
4又は
5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第一電極片側材料と前記第二電極側材料とは、同一の材料であることを特徴とする、
請求項
4~
6のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記第二電極は、前記基材において前記光電変換層と重複する領域(以下、第二重複領域と呼ぶ。)を有し、
前記第二重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第二電極側材料とが混在することを特徴とする、
請求項1~
7のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記光電変換側材料が分布する領域である光電変換側領域は、前記基材の厚み方向において前記光電変換層が前記第一電極又は前記第二電極を挟み込む挟み込み領域を有することを特徴とする、
請求項
1~
8のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記第一電極は、前記基材の一方の平面側に形成され、
前記第二電極は、前記基材の他方の平面側に形成されることを特徴とする、
請求項3~9のいずれかに記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機薄膜太陽電池は、有機半導体材料等の材料を溶解又は分散された塗布液を基板に塗布することにより形成可能である。このため、有機薄膜太陽電池は、軽量で柔軟である。したがって、有機薄膜太陽電池は、様々な場所に容易に設置することができる。そして、有機薄膜太陽電池で用いられる基板の材料として、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機薄膜太陽電池で用いられる基板の材料がポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)のいずれかである場合、有機薄膜太陽電池を構成する陽極、陰極及び光電変換層は、基板の表面に積層される。このような有機薄膜太陽電池を何回も曲げ変形させると、基板の表面に積層された陽極、陰極及び光電変換層が剥離してしまい、発電特性が著しく低下する。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、繰り返し曲げても発電特性を低下させない光電変換素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の光電変換素子は、曲げ変形が可能であると共に、自身を構成する組織間に形成される微細空間が周囲の他の前記微細空間と連通しつつ自身の内部に分布する材料により構成された基材と、自身を構成する材料(以下、第一電極側材料と呼ぶ。)が前記基材に付着して前記基材に形成される第一電極と、自身を構成する材料(以下、第二電極側材料と呼ぶ。)が前記基材に付着して前記基材に形成される第二電極と、前記第一電極と前記第二電極との間において、自身を構成する材料(以下、光電変換側材料と呼ぶ。)が前記基材に付着して前記基材の内部に形成される光電変換層と、を備え、前記微細空間は、前記光電変換側材料が配置可能な大きさを有し、前記第一電極は、前記基材において前記光電変換層と重複する領域(以下、第一重複領域と呼ぶ。)を有し、前記第一重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第一電極側材料とが混在することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の光電変換素子において、前記基材は、繊維が絡み合って構成される布体、又は多孔質材料によりに構成されることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の光電変換素子において、前記基材は、シート状に構成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の光電変換素子において、前記第一電極は、前記基材において前記光電変換層と重複する領域(以下、第一重複領域と呼ぶ。)を有し、前記第一重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第一電極側材料とが混在することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の光電変換素子において、前記第一電極は、前記光電変換層に隣接すると共に、前記第一重複領域で前記光電変換層に重複する領域(以下、第一電極片側重複領域と呼ぶ。)を有し、前記第一電極側材料に含まれる所定の材料(以下、第一電極片側材料と呼ぶ。)により構成される第一電極片と、前記光電変換層とは反対側において前記第一電極片に隣接し、前記第一電極側材料に含まれる、前記第一電極片側材料とは別の所定の材料(以下、第二電極片側材料と呼ぶ。)により構成される第二電極片と、を有し、前記第一電極片側重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第一電極片側材料とが混在することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の光電変換素子において、前記第二電極片は、前記第一重複領域で前記光電変換層と重複する領域(以下、第二電極片側重複領域と呼ぶ。)を有し、前記第二電極片側重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第二電極片側材料とが混在することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光電変換素子において、前記第一重複領域では、前記第一電極片側材料の方が前記第二電極片側材料よりも多く含まれることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光電変換素子において、前記第一電極片側材料と前記第二電極側材料とは、同一の材料であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の光電変換素子において、前記第二電極は、前記基材において前記光電変換層と重複する領域(以下、第二重複領域と呼ぶ。)を有し、前記第二重複領域では、前記光電変換側材料と、前記第二電極側材料とが混在することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の光電変換素子において、前記光電変換側材料が分布する領域である光電変換側領域は、前記基材の厚み方向において前記光電変換層が前記第一電極又は前記第二電極を挟み込む挟み込み領域を有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の光電変換素子において、前記第一電極は、前記基材の一方の平面側に形成され、前記第二電極は、前記基材の他方の平面側に形成されることを特徴とする。
【0017】
なお、上記第一電極に関連するもの(第一電極、第一電極側材料、第一電極片、第二電極片、第一電極片側材料、第二電極片側材料、第一電極片側重複領域、第二電極片側重複領域)は、例えば、後述する陰極に関連するもの(陰極、陰極側材料、第一陰極片、第二陰極片、第一陰極片側材料、第二陰極片側材料、第一領域片、第二領域片)に相当し、上記第二電極に関連するもの(第二電極、第二電極側材料)は、例えば、後述する陽極に関連するものに相当する。ただし、逆に、上記第一電極に関連するものが陽極に関連するものに相当し、上記第二電極に関連するものが陰極に関連するものに相当してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光電変換素子によれば、繰り返し曲げても発電特性を低下させないという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(A)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の平面図である。(B)は、(A)のF-F矢視断面図である。(C)は、(B)の一部の拡大図である。
【
図2】(A)は、所定の繊維で編組された編組体の一部を示す概略図である。(B)は、所定の繊維で形成された不織布体の一部を示す概略図である。(C)は、所定の多孔質材料で形成されたスポンジの一部を示す概略図である。
【
図3】本発明の第一実施形態における光電変換素子において陽極側材料、光電変換側材料、第一陰極片側材料、及び第二陰極片側材料が布体の繊維に付着して所定の領域に分布している様子を示す図である。
【
図4】(A)~(D)は、本発明の第一実施形態における光電変換素子の製造工程を時系列に並べた概略図である。
【
図5】(A)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子の断面図である。(B)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子において陽極側材料、光電変換側材料、第一陰極片側材料、及び第二陰極片側材料が布体の繊維に付着して所定の領域に分布している様子を示す図である。
【
図6】(A)~(D)は、本発明の第二実施形態における光電変換素子の製造工程を時系列に並べた概略図である。
【
図7】(A)は、本発明の第三実施形態における光電変換素子の断面図である。(B)は、(A)の一部の拡大図である。
【
図8】(A)は、本発明の第四実施形態における光電変換素子の断面図である。(B)は、(A)の一部の拡大図である。
【
図9】(A)は、本発明の第五実施形態における光電変換素子の平面図である。(B)は、(A)のG-G矢視断面図である。(C)は、本発明の第六実施形態における光電変換素子の断面図である。
【
図10】(A)~(D)は、本発明の第五実施形態における光電変換素子の製造工程を時系列に並べた概略図である。
【
図11】(A)は、本発明の第七実施形態における光電変換素子の平面図である。(B)は、(A)のH-H矢視断面図である。(C)は、本発明の第八実施形態における光電変換素子の断面図である。
【
図12】(A)~(D)は、本発明の第七実施形態における光電変換素子の製造工程を時系列に並べた概略図である。
【
図13】(A)は、本発明の実施例1の光電変換素子の平面図である。(B)は、本発明の実施例1の光電変換素子の平面側から撮影した写真である。
【
図14】本発明の実施例1の光電変換素子の点線楕円領域R1をデジタルマイクロスコープにより撮影した写真(倍率160倍)である。
【
図15】(A)は、本発明の実施例1の光電変換素子の点線楕円領域R2をデジタルマイクロスコープにより撮影した写真(倍率140倍)である。(B)は、本発明の実施例1の光電変換素子の点線楕円領域R3をデジタルマイクロスコープにより撮影した写真(倍率140倍)である。
【
図16】(A)は、本発明の実施例1の光電変換素子の点線楕円領域R4をデジタルマイクロスコープにより平面側から撮影した写真(倍率280倍)である。(B)は、本発明の実施例1の光電変換素子の点線楕円領域R4をデジタルマイクロスコープにより断面側から撮影した写真(倍率420倍)である。
【
図17】本願出願人が行った実験概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。なお、添付図面では、陰極4及び光電変換層5が、布体20の表面22から大きく突出する厚みを有するように描かれているが、これは、説明の便宜上、強調して描かれているに過ぎない。実際には、陽極3、陰極4及び光電変換層5は、例えば、1~100(μm)程度のオーダーの厚みであり、布体20に対して、目視で添付図面に示すような厚みを有するわけではない。
【0021】
<第一実施形態>
図1を参照して、本発明の第一実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図1(A),(B)に示すように、基材2と、陽極3(第二電極)と、陰極4(第一電極)と、光電変換層5と、を備える。
【0022】
<基材>
基材2には、陽極3、陰極4、及び光電変換層5が形成される。そして、基材2は、陽極3を構成する材料(以下において、陽極側材料と呼ぶ。)、陰極4を構成する材料(以下において、陰極側材料と呼ぶ。)、及び光電変換層5を構成する材料(以下において、光電変換側材料と呼ぶ。)が、自身の内部に分布可能な材料により構成される。そして、陽極3、陰極4、及び光電変換層5それぞれが形成される領域において、対応する各材料は、均一に分布することが好ましい。
【0023】
以上のような基材2には、
図2(A)~(C)に示すように、基材2を構成する組織2Aと、その周囲の組織2Aとの間に、微細空間2Bが形成される。そして、基材2は、自身の内部の至るところに微細空間2Bを有する。そして、微細空間2Bは、基材2の内部に均一に分布することが好ましい。また、微細空間2Bは、陽極側材料、陰極側材料及び光電変換側材料が入り込める大きさを有する。つまり、微細空間2Bは、基材2を構成する組織2Aに付着した陽極側材料、陰極側材料及び光電変換側材料が配置可能な大きさを有する。そして、各微細空間2Bは、同様に形成される自身の周囲の他の微細空間2Bと連通している。このため、陽極側材料、陰極側材料及び光電変換側材料それぞれは、基材2を構成する組織2Aに付着して微細空間2Bに配置されると共に、周囲の他の微細空間2Bに配置された材料と接触して繋がった状態になる。一方で、基材2を構成する組織2Aとは、隣接する組織2Aとの間において、陽極側材料、陰極側材料及び光電変換側材料の少なくとも1つが入り込める微細な空間が形成される単位のものを指す。また、基材2中の所定の領域に形成される部分が組織2Aの一単位とされてもよい。(
図2(C)の領域K参照)。そして、各領域は、それぞれ一定の大きさを有するものであってもよいし、異なる大きさを有するものであってもよいし、一定の大きさを有するものと、異なる大きさを有するものとが混在してもよい。この状態になった陽極側材料、陰極側材料及び光電変換側材料それぞれは、陽極3、陰極4、及び光電変換層5を形成する。
【0024】
陽極側材料、陰極側材料、及び光電変換側材料それぞれを、基材2の内部の対応する領域に略均一に分布させるために、基材2は、例えば、所定の材料が含まれる液が含浸可能な材料又は、吸水性を有する材料により構成される。この場合、陽極側材料が含まれる液、陰極側材料が含まれる液、光電変換側材料が含まれる液をそれぞれ基材2の所定の領域に含浸させた後に乾燥させると、陽極側材料、陰極側材料、及び光電変換側材料が基材2を構成する組織2Aに付着して微細空間2Bに配置された状態になる。
【0025】
さらに、基材2は、変形可能な材料により構成される。基材2の変形態様として、例えば、曲げ、及び/又は、伸ばし変形、伸縮変形、ねじり変形等が一例として挙げられる。また、基材2の変形は、例えば、塑性変形、弾性変形、その他の変形でのいずれであってもよい。そして、基材2は、変形させやすくするため、シート状に形成されることが好ましい。シート状の基材2の曲げ及び伸ばし変形として、例えば、
図17に示すように、シート状の基材2の一方側の平面(表面)1A同士が接近して接触するように折り曲げる第一曲げ変形や、第一曲げ変形を完了した後に、シート状の基材2を伸ばす過程を経て、シート状の基材2の他方側の平面(裏面)1Bが接近して接触するように逆側に折り曲げる第二曲げ変形が挙げられる。
【0026】
以上のような基材2として、例えば、繊維が絡み合って構成される布体(
図2(A),(B)参照)、又は多孔質材料により構成されるシート状の部材(
図2(C)参照)が挙げられる。なお、
図2(A)には、所定の繊維2C(組織2A)で編組された編組体20Aの一部が示されている。また、
図2(B)には、所定の繊維2D(組織2A)で形成された不織布体20Bの一部が示されている。また、
図2(C)には、所定の多孔質材料で形成されたスポンジ20Cの一部が示されている。本実施形態において基材2の内部の微細空間2Bは、布体ならば、繊維と繊維との間に形成され、周囲を繊維に取り囲まれた微細な空間(
図2(A),(B)参照)、換言すると、繊維の周囲に形成される微細な空間に相当する。また、微細な空間は、多孔質材料で構成される部材なら細孔(微細空孔:
図2(C)参照)に相当する。なお、基材2を構成する組織2Aは、基材2を構成する所定の単位であり、本実施形態において布体ならば、繊維2C,2Dが組織2Aに相当する。また、基材2を構成する組織2Aは、基材2を構成する多孔質材料ならば、細孔(微細空孔)に隣接する材料片が組織2Aに相当する。その材料片は、多孔質材料の一部を成すものであり、例えば、
図2(C)に示すような多孔質材料中において微細空孔2BAに隣接する領域Kに形成される。なお、各領域Kは、それぞれ一定の大きさを有するものであってもよいし、異なる大きさを有するものであってもよいし、一定の大きさを有するものと、異なる大きさを有するものとが混在してもよい。
【0027】
また、繊維には、天然繊維(例えば、植物繊維、動物繊維等)、化学繊維(例えば、合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、再生繊維等)が含まれる。布体には、繊維により編組された編組体(織物、編み物等)、及び、繊維を熱的又は機械的又は化学的な作用によって接着又は絡み合わせたフェルト等の不織布が含まれる。なお、編組体は、例えば、平織り、綾織り、平畳織り、綾畳織り、又は、メリアス編み等の手法により形成される。また、多孔質材料として、例えば、スポンジ等が挙げられる。本実施形態において基材2は、布体20(
図2(A),(B)参照)により構成されるものとして以下説明する。
【0028】
陽極側材料と、陰極側材料と、光電変換側材料とが布体20の繊維に付着して、布体20が内部に有する微細空間2Bに配置され、陽極3と、陰極4と、光電変換層5とが、布体20の表面から内部にかけて形成される。
【0029】
<陽極>
陽極3は、陽極側材料により構成される。陽極側材料は、少なくとも導電性を有する材料により構成されていればよく、導電性及び光透過性を有する材料により構成されることがより好ましい。具体的に陽極側材料として、例えば、導電性高分子化合物、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素系化合物、及び、以上の混合体のいずれかが一例として挙げられる。陽極3に含まれる導電性高分子化合物として、例えば、PEDOT-PSSが挙げられるが、これに限定されるものではなく、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール及びそれらの誘導体等であってもよい。なお、PEDOT-PSSとは、ポリアニオンを添加したイオンを含む置換ポリチオフェンでポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)から成る複合物の略称である。また、本実施形態において陽極3は、
図1(B)に示すように、単層であるが、これに限定されるものではなく、複数の材料が積層された態様であってもよい。
【0030】
<陰極>
陰極4は、陰極側材料により構成される。陰極側材料は、少なくとも導電性を有する材料により構成されていればよく、導電性及び光透過性を有する材料により構成されることがより好ましい。具体的に陰極側材料としては、例えば、導電性高分子化合物、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性金属酸化物、白金、金、銀、銅、アルミニウム等の金属、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素系化合物、及び、以上の混合体のいずれかが一例として挙げられる。陰極4に含まれる導電性高分子化合物として、例えば、陽極3の場合と同様に、PEDOT-PSSが挙げられるが、これに限定されるものではなく、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール及びそれらの誘導体等であってもよい。また、陰極4は、
図1(B)に示すように、複数の材料が積層された態様であるが、これに限定されるものではなく、単層であってもよい。
【0031】
本実施形態において陰極4は、
図1(B)に示すように、2つの材料が積層された態様であり、第一陰極片41と、第二陰極片42と、を有する。第一陰極片41は、光電変換層5に積層される。第二陰極片42は、第一陰極片41に積層される。積層方向は、布体20の厚み方向(以下、布体厚み方向と呼ぶ。)Aである。結果、光電変換層5、第二陰極片42、第一陰極片41の順に、布体厚み方向Aに積層される。
【0032】
本実施形態において第二陰極片42と陽極3とが同一の材料で構成される。その同一の材料として、布体20に塗布可能なPEDOT-PSSが好ましい。この場合、陽極3と陰極4とは同じエネルギーレベルになってしまうが、第一陰極片41を入れることにより陽極3と陰極4との間にエネルギーレベルの差をつけることができる。例えば、第二陰極片42と陽極3とがPEDOT-PSSで構成されている場合、第一陰極片41は、アルミニウムにより構成されることが好ましい。これにより、陽極3と陰極4との間に適切なエネルギーレベルの差を設けることができる。なお、陽極3を複層とし、陰極4を単層としてもよいし、陽極3及び陰極4の双方を単層としてもよい。この場合、陽極3と陰極4との間に適切なエネルギーレベルの差をつけるという観点から、陽極側材料と陰極側材料とは、選択される。
【0033】
<光電変換層>
光電変換層5は、外部から入射する光に起因して電子と正孔とを発生させるものである。そして、光電変換層5は、陽極3と陰極4の間に形成される。光電変換層5に光が入射すると、光電変換層5において励起子が生成され、電子と正孔とが発生する。そして、電子は陰極4側へ、正孔は陽極3側へ移動する。その結果、陽極3及び陰極4に接続された(図示しない)外部回路に、電流(光励起電流)が流れる。
【0034】
光電変換層5は、光電変換側材料により構成される。光電変換側材料は、n型半導体材料及びp型半導体材料を含有している。光電変換層5においてn型半導体材料とp型半導体材料との接合は、平面的な接合界面を有する平面へテロ接合であってもよいし、三次元的に混合させたバルクへテロ接合であってもよい。
【0035】
本実施形態における光電変換側材料には、金属アルコキシドが含有される。金属アルコキシドは、n型半導体として作用する。光電変換素子1の出力電圧は、n型半導体のLUMOとp型半導体のHOMOの値の差で決定される。LUMOとHOMOの値がバンドギャップエネルギーとなるため、n型半導体としての金属アルコキシドのバンドギャップエネルギーが大きい場合、n型半導体のLUMOが大きくなり、高い出力電圧を得ることが可能となる。高い出力電圧を得るため、光電変換側材料として用いられる金属アルコキシドは、バンドギャップエネルギーが3.5eV以上あることが好ましい。
【0036】
また、光電変換側材料として用いられる金属アルコキシドとして、例えば、チタンアルコキシド(TiOx)が好ましい。また、チタンアルコキシドとして、例えば、チタンイソプロポキシドが好ましい。
【0037】
また、光電変換側材料におけるn型半導体には、金属アルコキシドの他に、例えば、フラーレン、フラーレン誘導体、酸化物半導体、及び、その他の電子受容性化合物のうち少なくとも1つが含有されていてもよい。すなわち、光電変換側材料におけるn型半導体は、金属アルコキシドのみで構成されてもよいし、金属アルコキシド及び上記上げた電子受容性化合物の混合体により構成されてもよい。なお、n型半導体が金属アルコキシドのみで構成される場合には、製造の過程で意図せずに含まれてしまう他のn型半導体が含有される場合も含む。また、上記酸化物半導体として、例えば、酸化亜鉛や酸化チタンの無機化合物粒子が一例として挙げられる。
【0038】
p型有機半導体として、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体等が一例として挙げられる。
【0039】
<光電変換素子の構造について>
図1を参照して、本実施形態における光電変換素子1の構造について以下説明する。なお、以下において、上方側とは布体厚み方向Aの布体20の表面22側を指し、下方側とは、布体厚み方向Aの布体20の表面22とは反対側の裏面23側を指すものとする。陽極側材料が分布する領域を陽極側領域30と定義した場合、本実施形態における光電変換素子1の陽極3は、陽極側領域30に形成される。
【0040】
そして、陽極側領域30は、
図1(A)に示すように、布体20の表面22を平面視したとき、略長方形状に形成される。また、
図1(B)に示すように、本実施形態における光電変換素子1を陽極側領域30(陽極3)の長さ方向Bに沿って布体厚み方向Aに切った時の光電変換素子1の断面を断面視したとき、陽極側領域30は、布体20の表面22を起点として、布体厚み方向Aの内部側に深さD1だけ延在する。したがって、陽極側材料は、布体20の内部に入り込んでいる。この場合、
図3に示すように、陽極側材料3Aは、繊維2Cに付着して、繊維2C間の微細空間2Bに配置される。そして、隣接する微細空間2Bは連通しているため、それぞれの微細空間2Bに配置される陽極側材料3A同士は、接触して繋がった状態になる。なお、陽極側領域30は、布体20の表面22を起点として、布体厚み方向Aの外部側にわずかに突出していてもよい。また、
図3に示す陽極側材料3A、繊維2C、及び微細空間2Bは、説明の便宜上、それぞれモデル化して、強調して描かれているに過ぎず、実際の大きさ、形状等がそのまま反映されて描かれているわけではない。
【0041】
光電変換側材料が分布する領域を光電変換側領域50と定義した場合、本実施形態における光電変換層5は、光電変換側領域50に形成される。そして、光電変換側領域50は、
図1(A)に示すように、布体20の表面22を平面視したとき、例えば、陽極側領域30よりも幅が大きい略長方形状に形成される。また、光電変換側領域50は、
図1(B),(C)に示すように、光電変換素子1の上記断面を断面視したとき、メイン分布領域51と、挟み込み領域52と、を有する。メイン分布領域51は、布体厚み方向Aの布体20の内部側おいて光電変換側材料が主として分布する領域である。本実施形態においてメイン分布領域51は、布体20の表面22を起点として、布体厚み方向Aの内部側に深さD2(D2>D1)だけ延在する。この場合、
図3に示すように、光電変換側材料5Aは、繊維2Cに付着して、繊維2C間の微細空間2Bに配置される。そして、隣接する微細空間2Bは連通しているため、それぞれの微細空間2Bに配置される光電変換側材料5A同士は、接触して繋がった状態になる。なお、本実施形態では、布体20の厚みはD2である。メイン分布領域51が布体厚み方向Aの内部側に広がる深さはD2に限定されるものではなく、それ以外であってもよい。
【0042】
また、挟み込み領域52は、
図1(B),(C)に示すように、布体厚み方向Aにおいて、陽極3の長さ方向Bにおける陽極3の一部を布体厚み方向Aで、光電変換層5が挟み込む領域である。陽極3の一部とは、例えば、陽極3の長さ方向Bの端部3Dを起点とした陽極3の長さ方向Bに延在する一部区間を指す。
【0043】
そして、挟み込み領域52は、上方側光電変換層片52Aと、下方側光電変換層片52Bと、を有する。上方側光電変換層片52Aは、陽極3における布体厚み方向Aの上方側において陽極3の上方側面3Bの一部を構成する上方側面片3BAに接触しつつ、光電変換側材料が積層する光電変換層5の一部である。下方側光電変換層片52Bは、陽極3における布体厚み方向Aの下方側において陽極3の下方側面3Cの一部を構成する下方側面片3CAに接触しつつ、光電変換側材料が積層する光電変換層5の一部である。
【0044】
陰極側材料が分布する領域を陰極側領域40と定義した場合、本実施形態における光電変換素子1の陰極4は、陰極側領域40に形成される。そして、陰極側領域40は、
図1(A)に示すように、布体20の表面22を平面視したとき、例えば、陽極側領域30と略同幅の略長方形状に形成されると共に、陰極側領域40の長さ方向Bにおいて陽極側領域30と一部と重なり合う重なり合い領域80を有する。
【0045】
陰極側領域40は、
図1(B),(C)に示すように、布体厚み方向Aにおいて、光電変換層5の上方側において光電変換層5の上方側面5Bに接触しつつ、光電変換側材料が積層する領域である。そして、陰極側領域40のうち、布体厚み方向Aにおいて光電変換層5に隣接する領域には、陰極側材料のうち、第一陰極片41に対応する材料(以下、第一陰極片側材料と呼ぶ。)が積層される。そして、さらに、布体厚み方向Aにおいて第一陰極片41に隣接する領域には、陰極側材料のうち、第二陰極片42に対応する材料(以下、第二陰極片側材料と呼ぶ。)が積層される。したがって、重なり合い領域80では、布体厚み方向Aにおいて、上から順に、第二陰極片42、第一陰極片41、光電変換層5、陽極3、光電変換層5が積層された状態になる。なお、第二陰極片42、第一陰極片41が積層する部分は、陰極4に相当し、光電変換層5、陽極3及び光電変換層5が順に積層する部分は、挟み込み領域52に相当する。
【0046】
また、光電変換素子1の上記断面を断面視したとき、陰極側領域40は、布体20の表面22を起点として、布体厚み方向Aの内部側に深さD3だけ延在する。したがって、陰極側材料は、布体20の内部に入り込んでいる。この場合、
図3に示すように、陰極側材料4Aのうち、第一陰極片側材料41Bは、陽極側材料3Aと同様に、繊維2Cに付着して、繊維2C間の微細空間2Bに配置される。そして、隣接する微細空間2Bは連通しているため、それぞれの微細空間2Bに配置される陰極側材料4A同士は、接触して繋がった状態になる。また、陰極側材料4Aのうち、第二陰極片側材料42Bは、繊維2Cに付着して、繊維2C間の微細空間2Bに配置される。そして、隣接する微細空間2Bは連通しているため、それぞれの微細空間2Bに配置される陰極側材料4A同士は、接触して繋がった状態になる。なお、陰極側領域40は、
図1(B)に示すように、布体20の表面22を起点として、布体厚み方向Aの外部側に突出している突出領域Jを有する。ただし、陰極4は、例えば、1~100(μm)程度のオーダーの厚みである。このため、突出領域Jは、布体20に対して、目視で
図1(B)に示すような厚みを有するわけではなく、便宜上、強調して描かれているに過ぎない。
【0047】
以上のように、本実施形態の光電変換素子1では、陽極側材料、第一陰極片側材料、第二陰極片側材料および光電変換側材料は、布体20の表面22から内部にかけて、布体20の繊維2Cに付着して微細空間2Bに配置されつつ、対応する領域に分布するため、光電変換素子1を曲げたり伸ばしたりしても陽極3、陰極4、及び光電変換層5が布体20から剥離するおそれが低い。このため、本実施形態における光電変換素子1は、曲げ及び伸ばしの変形に対して耐久性が強い。したがって、本実施形態における光電変換素子1は、曲面に設置することが容易であると共に、一度、曲面に設置したものであっても剥離による発電効率の低下又は故障を気にすることなく、安心して再利用することができる。
【0048】
また、本実施形態の光電変換素子1では、陽極3と陰極4が布体20の同一平面側に形成されるため、例えば、本実施形態の光電変換素子1を配管等の曲面に設置する場合、陽極3と陰極4を外部回路に接続することが容易となる。
【0049】
<光電変換素子の製造方法について>
図4を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法について以下説明する。陽極側材料が含まれる液(以下、陽極側含有液と呼ぶ。)を布体20の表面22に塗布すると、陽極側含有液は、
図4(A)に示すように、布体20の内部に含浸して、布体20の表面22から布体20の内部に広がっていく。そして、陽極側含有液が乾燥すると、布体20の表面22から布体20の内部にかけて布体20を構成する繊維に付着した陽極側材料が残る。その陽極側材料が分布する領域が陽極3となる。
【0050】
次に、光電変換側材料が含まれる液(以下、光電変換側含有液と呼ぶ。)を陽極3の上方側面片3BAと、陽極3の長さ方向において上方側面片3BAに連続して隣接する布体20の表面22の一部を構成する表面片22Aの双方を含む領域に塗布すると、光電変換側含有液は、
図4(B)に示すように、陽極3の上方側面片3BAに残ると共に、布体20の表面片22Aを通じて布体20の内部に含浸して、陽極3の下方側にまで回り込んで広がっていく。そして、回り込んだ光電変換側含有液は、陽極3の下方側面片3CAに接触する。結果、陽極3の一部が光電変換側含有液に挟み込まれる。さらに、光電変換側含有液は、布体20の表面22の反対側の面に向かって含浸していく。そして、光電変換側含有液が乾燥すると、陽極3の上方側面片3BA及び布体20の表面片22Aから布体20の内部にかけて、布体20を構成する繊維に付着した光電変換側材料が残る。その光電変換側材料が分布する領域が光電変換層5となる。
【0051】
次に、(図示しない)蒸着装置を用いて、陰極側材料のうち、第一陰極片41に対応する第一陰極片側材料を光電変換層5の上方側面5Bに蒸着させる。これにより、
図4(C)に示すように、光電変換層5の上方側面5Bに第一陰極片41が形成される。なお、第一陰極片41は、第一陰極片側材料が含まれる第一陰極片側材料側含有液を光電変換層5の上方側面5Bに塗布して形成させてもよい。
【0052】
さらに、陰極側材料のうち、第二陰極片42に対応する第二陰極片側材料が含まれる液(以下、第二陰極片側含有液と呼ぶ。)を、第一陰極片41の上方側面41Aと、第一陰極片41の長さ方向において第一陰極片41の上方側面41Aに連続して隣接する布体20の表面片22Bの双方を含む領域に塗布すると、第二陰極片側含有液は、
図4(D)に示すように、第一陰極片41の上方側面41Aに残ると共に、布体20の表面片22Bを通じて布体20の内部に含浸して、布体20の表面22から布体20の内部に広がっていく。そして、第二陰極片側含有液が乾燥すると、第一陰極片41の上方側面41A及び布体20の表面片22Bから布体20の内部にかけて布体20を構成する繊維に付着した第二陰極片側材料が残る。その第二陰極片側材料が分布する領域が第二陰極片42となる。以上の工程を経て、本実施形態における光電変換素子1が完成する。なお、陽極側含有液、第二陰極片側含有液、光電変換側含有液とは、対応する材料が液体に溶解、または分散しているものを指す。
【0053】
<第二実施形態>
図5を参照して、本発明の第二実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図5(A)に示すように、基材2(布体20)と、陽極3と、陰極4と、光電変換層5と、を備える。本実施形態における光電変換素子1は、第一実施形態における光電変換素子1と材料や構造、製造方法は略同一である。本実施形態における光電変換素子1では、
図5に示すように、陰極4と光電変換層5との間に第一重複領域100、及び、陽極3と光電変換層5との間に第二重複領域110が形成される点が、第一実施形態における光電変換素子1と異なる。以下、本実施形態における第一重複領域100及び第二重複領域110について説明する。
【0054】
<光電変換素子の構造について>
第一重複領域100は、
図5(A)に示すように、布体20の表面22又はその近傍を起点として布体厚み方向Aの内部側にかけて広がる。そして、第一重複領域100では、
図5(B)に示すように、陰極側材料4A及び光電変換側材料5Aがランダムに混在する。つまり、第一重複領域100では、陰極側材料4Aの粒子と光電変換側材料5Aの粒子とが至るところで隣接した状態になる。そして、第一重複領域100は、
図5(A)に示すように、光電変換層5と第一陰極片41とが重複する第一領域片101と、光電変換層5、第一陰極片41及び第二陰極片42が重複する第二領域片102と、を有する。
【0055】
第一領域片101は、布体20の表面22又はその近傍を起点として布体厚み方向Aの内部側にかけて広がる。第一領域片101では、
図5(B)に示すように、第一陰極片側材料41B及び光電変換側材料5Aが混在する。つまり、第一領域片101では、第一陰極片側材料41Bの粒子と光電変換側材料5Aの粒子とが至るところで隣接した状態になる。
【0056】
第二領域片102は、布体20の表面22又はその近傍を起点として布体厚み方向Aの内部側にかけて広がる。そして、第二領域片102は、陰極4の長さ方向Bにおいて第一領域片101よりも陽極3から離れた側で第一領域片101に隣接する。第二領域片102では、
図5(B)に示すように、第一陰極片側材料41B、第二陰極片側材料42B及び光電変換側材料5Aが混在する。つまり、第二領域片102では、第一陰極片側材料41Bの粒子と、第二陰極片側材料42Bの粒子と、光電変換側材料5Aの粒子とが至るところで隣接した状態になる。なお、第二領域片102はなくてもよい。
【0057】
なお、第一領域片101は、第二領域片102よりも体積が大きくなる。そして、第一重複領域100では、第一電極片側材料の方が第二電極片側材料よりも多く含まれる。このため、光電変換層5と第一陰極片41との接触面積の方が光電変換層5と第二陰極片42との接触面積よりも大きくなる。
【0058】
従来は、PETフィルム上において陰極4と光電変換層5とは、単に積層された構造であったため、陰極4と光電変換層5との境界面でのみ相互に接触していたに過ぎなかった。そして、PETフィルムを曲げると、陰極4と光電変換層5とは相対的に剥離するため、両者間の接触面積が小さくなっていた。結果、発電量が低下していた。しかしながら、第一領域片101では、第一陰極片側材料41Bの粒子と光電変換側材料5Aの粒子とが至るところで隣接した状態になっているため、第一陰極片41と光電変換層5とは、境界面という狭い範囲を超えて至るところで接触した状態となる。このため、布体20を曲げても第一陰極片側材料41B(第一陰極片41)と光電変換側材料5A(光電変換層5)の接触面積が実質的に小さくならないため、発電量の低下を低減することができる。また、第二領域片102では、さらに、第二陰極片側材料42Bも加わるため、より発電量の低下の低減に寄与する。
【0059】
なお、布体20の内部において第一陰極片側材料41Bと第二陰極片側材料42Bとが混在する陰極片側領域120が別途設けられてもよい。その陰極片側領域120は、陰極4の長さ方向において第二領域片102よりも陽極3から離れた側で第二領域片102に隣接する。
【0060】
第二重複領域110は、
図5(A)に示すように、布体20の表面22又はその近傍を起点として布体厚み方向Aの内部側にかけて広がる。そして、第二重複領域110では、
図5(B)に示すように、陽極側材料3A及び光電変換側材料5Aがランダムに混在する。つまり、第二重複領域110では、陽極側材料3Aの粒子と光電変換側材料5Aの粒子とが至るところで隣接した状態になる。
【0061】
従来は、PETフィルム上において陽極3と光電変換層5とは、単に積層された構造であったため、陽極3と光電変換層5との境界面でのみ相互に接触していたに過ぎなかった。そして、PETフィルムを曲げると、陽極3と光電変換層5とは相対的に剥離するため、両者間の接触面積が小さくなっていた。結果、発電量が低下していた。しかしながら、本実施形態のように、布体20の内部の第二重複領域110で陽極側材料3Aの粒子と光電変換側材料5Aの粒子とが至るところで隣接していれば、陽極3と光電変換層5とは、境界面という狭い範囲を超えて至るところで接触した状態となる。このため、布体20を曲げても陽極側材料3A(陽極3)と光電変換側材料5A(光電変換層5)の接触面積が実質的に小さくならないため、発電量の低下を低減することができる。
【0062】
<光電変換素子の製造方法について>
図6を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法について以下説明する。陽極3を作成する方法は、第一実施形態で説明したものと同様である(
図6(A)参照。)。次に、第一実施形態で説明したものと同様に、光電変換側含有液を陽極3の上方側面片3BAと、陽極3の長さ方向において上方側面片3BAに連続して隣接する布体20の表面片22Aの双方に塗布する。この際、
図6(B)に示すように、光電変換側含有液が陽極3の内部に含浸する。光電変換側含有液が乾燥すると、第二重複領域110が形成される。
【0063】
次に、(図示しない)蒸着装置を用いて、陰極側材料のうち、第一陰極片側材料を光電変換層5の上方側面5Bに蒸着させる。このとき、第一陰極片側材料が光電変換層5の内部にまで到達するように、蒸着装置を調整する。これにより、
図6(C)に示すように、第一陰極片41および第一領域片101が形成される。なお、第一陰極片41および第一領域片101は、第一陰極片側材料が含まれる第一陰極片側材料側含有液を光電変換層5の上方側面5Bに塗布して形成させてもよい。
【0064】
さらに、第二陰極片側含有液を第一陰極片41の上方側面41A及び、第一陰極片41の長さ方向において第一陰極片41の上方側面41Aに連続して隣接する布体20の表面片22Bに塗布する。この際、第二陰極片側含有液が第一陰極片41の外側から回り込んで、光電変換層5に含浸する。第二陰極片側含有液が乾燥すると、
図6(D)に示すように、第二領域片102、及び陰極片側領域120が形成される。以上の工程を経て、本実施形態における光電変換素子1が完成する。
【0065】
<第三実施形態>
図7を参照して、本発明の第三実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図7(A)に示すように、基材2と、陽極3と、陰極4と、光電変換層5と、電子輸送層6と、正孔輸送層7と、を備える。本実施形態における光電変換素子1は、第一実施形態における光電変換素子1に、電子輸送層6及び正孔輸送層7を設けたものである。
【0066】
<電子輸送層>
電子輸送層6は、光電変換層5で発生する電子を効率良く陰極4へと輸送する電子輸送機能を担う。そして、電子輸送層6は、
図7(B)に示すように、陰極4(第一陰極片41)と光電変換層5の間で、陰極4(第一陰極片41)及び光電変換層5の双方に隣接するように形成される。具体的に、電子輸送層6は、光電変換層5の上方側において光電変換層5の上方側面5Bに接触すると共に、陰極4(第一陰極片41)の下方側面4Bに接触する。そして、電子輸送層6は、陰極4(第一陰極片41)の下方側面4Bの全体わたって延在する。
【0067】
また、電子輸送層6は、電子の移動度が高い材料で形成されることが好ましい。電子の移動度が高い材料として、例えば、金属アルコキシドが挙げられる。また、電子輸送層6は、光電変換層5で発生する正孔を陰極4に流さない整流作用を奏する。
【0068】
電子輸送機能を担う電子輸送層6には、金属アルコキシドが含有される。電子輸送層6中の金属アルコキシドは、n型半導体としての役割を果たし、電子を速やかに陰極4へ移動させる。
【0069】
また、電子輸送層6と光電変換層5とは、共通成分として金属アルコキシドを有する。結果、電子輸送層6及び光電変換層5の層間において金属アルコキシド同士が接触する割合が高くなるため、上記層間における接触抵抗が低減される。電子輸送層6及び光電変換層5における金属アルコキシドの含有比率が高ければ高いほど接触抵抗が低減される。また、上記層間で、金属アルコキシドの相互浸透が起こるため、光電変換層5及び電子輸送層6の機械的強度が向上する。結果、光電変換層5と電子輸送層6との間で剥離が起こりにくくなる。この観点からすると、電子輸送層6は、主成分が金属アルコキシドで構成されたり、又は金属アルコキシドのみ(製造の過程で意図せずに含まれてしまう不可避成分も含む)で構成されたりするようにすることが好ましい。
【0070】
また、電子輸送層6では、金属アルコキシドの結晶体ではなく、非結晶の金属アルコキシドを用いることが好ましい。結晶体が有する靱性の低さの問題点を解消するためである。
【0071】
また、電子輸送層6の膜厚は、略100nm以下であることが好ましい。電子輸送層6の膜厚が過度に厚い膜厚にされると、電子が陰極4に到達することができず、失活してしまう。また、電子輸送層6の膜厚が過度に薄い膜厚にされると、陰極4の面を覆う事ができない。このため、陰極4への速やかな電子の到達を可能にさせて、高い出力電流を得るために、電子輸送層6の膜厚は略100nm以下が適当である。
【0072】
また、電子輸送層6を設けると、陰極4の周囲で陰極4を保護する保護膜として機能し、陰極側材料が陽極側領域30に移動することにより陽極3と陰極4とがショートする状態を防止することができる。
【0073】
<正孔輸送層>
正孔輸送層7は、光電変換層5で発生する正孔を効率良く陽極3へと輸送する機能を担う。また、正孔輸送層7は、
図7(B)に示すように、陽極3と光電変換層5の間で、陽極3及び光電変換層5の双方に隣接するように形成される。具体的に正孔輸送層7は、挟み込み領域52における陽極3の周囲全体又は一部を覆うように形成される。
【0074】
正孔輸送層7は、正孔の移動度が高い材料で形成されることが好ましい。また、正孔輸送層7は、光電変換層5で発生する電子を陽極3に流さない整流作用を奏する。
【0075】
なお、正孔輸送層7を構成する材料としては、例えば、低分子化合物であればNTCDAに代表される芳香族環状酸無水物等が一例として挙げられ、高分子化合物であれば、PEDOT-PSS、ポリ(3,4-エチレンジオキシ)チオフェン等に代表される公知の導電性高分子等が一例として挙げられる。陽極3がPEDOT-PSSで構成される場合、正孔輸送層7もPEDOT-PSSで構成されてもよい。ただし、仕事関数や導電率、正孔輸送能力の観点から、正孔輸送層7で用いられるPEDOT-PSSと、陽極3で用いられるPEDOT-PSSとは、PEDOTとPSSとの配合割合が異なることが好ましい。
【0076】
正孔輸送層7を設けると、効率良く正孔を陽極3に輸送できるため、より一層、光電変換素子1の発電性能を高めることができる。また、正孔輸送層7は、陽極3の周囲で陽極3を保護する保護膜として機能し、陰極側材料が陽極側領域30に移動することにより陽極3と陰極4とがショートする状態を防止することができる。
【0077】
なお、本実施形態における光電変換素子1には、さらに、図示していない少なくとも1つの中間層が陰極4と陽極3の間のいずれかの位置に追加されてもよい。中間層の機能は、限定されるものではなく、さまざまな機能を有するものが本発明に含まれる。また、電子輸送層6及び正孔輸送層7のいずれか一方が形成された光電変換素子1も本発明の範囲に含まれる。
【0078】
<第四実施形態>
図8を参照して、本発明の第四実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図8(A),(B)に示すように、基材2と、陽極3と、陰極4と、光電変換層5と、電子輸送層6と、正孔輸送層7と、を備える。本実施形態における光電変換素子1は、第二実施形態における光電変換素子1に、電子輸送層6及び正孔輸送層7を設けたものである。電子輸送層6及び正孔輸送層7の材料及びそれらが設けられる態様は、第三実施形態における光電変換素子1で説明したものと同様であるため、その説明を省略する。
【0079】
<第五実施形態>
図9(A),(B)を参照して、本発明の第五実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図9(A)に示すように、基材2と、陽極3と、陰極4と、光電変換層5と、を備える。本実施形態における光電変換素子1は、第一実施形態における光電変換素子1と材料は略同一である。しかしながら、本実施形態における光電変換素子1は、第一実施形態における光電変換素子1とは、陽極3と、陰極4と、光電変換層5の配置構造が異なる。
【0080】
本実施形態における光電変換素子1では、
図9(A),(B)に示すように、陽極3と、陰極4とが、布体20の平面方向Cにおいて離れた状態にある。また、陽極3及び陰極4は、
図9(B)に示すように、それぞれ布体20の表面22を起点として布体厚み方向Aの内部側に深さD4,D5だけ延在する。そして、以上の第一~四実施形態と異なり、陽極3と、陰極4とは、布体厚み方向Aにおいて重なり合い領域を有しない。
【0081】
つまり、本実施形態における陽極側領域30は、第一実施形態における陽極側領域30と同様に、形成される。また、本実施形態における陰極側領域40は、
図9(A),(B)に示すように、布体20の平面方向Cにおいて陽極側領域30から距離L1離れた位置に位置する。そして、本実施形態における陰極側領域40は、
図9(B)に示すように、布体20を断面視したとき、布体20の表面22を起点として、布体厚み方向Aの内部側に長さD5だけ延在する。
【0082】
また、本実施形態における光電変換側領域50は、布体20の平面方向Cに延在すると共に、陽極側領域30と陰極側領域40との間において陽極側領域30及び陰極側領域40と連続するように形成される。また、光電変換側領域50は、
図9(A)に示すように、布体20の表面22を平面視したとき、陽極側領域30及び陰極側領域40の一部と重複する。陽極側領域30及び陰極側領域40のうち、光電変換側領域50と重複しない部分が、外部回路に接続される。
【0083】
なお、光電変換側領域50は、陽極側領域30及び陰極側領域40の全部と重複するように構成されてもよい。この場合、陽極3及び陰極4と外部回路とが接続可能に構成する必要がある。
【0084】
<光電変換素子の製造方法について>
図10を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法について以下説明する。陽極3を作成する方法は、第一実施形態で説明したものと同様である(
図10(A)参照。)。次に、(図示しない)蒸着装置を用いて、陰極側材料のうち、第一陰極片側材料を布体20の所定の位置に蒸着させる。このとき、第一陰極片側材料が布体20の内部にまで到達するように、蒸着装置を調整する。これにより、
図10(B)に示すように、第一陰極片41が形成される。なお、第一陰極片41は、第一陰極片側材料が含まれる第一陰極片側材料側含有液を布体20の表面22に塗布して形成させてもよい。
【0085】
さらに、第二陰極片側含有液を第一陰極片41の上方側面41Aに塗布する。この際、第二陰極片側含有液が第一陰極片41に含浸する。第二陰極片側含有液が乾燥すると、
図10(C)に示すように、第二陰極片42が形成される。
【0086】
次に、
図10(D)に示すように、陽極3の上方側面片3BAと、陽極3の長さ方向Bにおいて上方側面片3BAに連続して隣接する布体20の表面片22Aと、陰極4の上方側面4Cの一部を構成する上方側面片4CAを含む領域に光電変換側含有液を塗布する。この際、光電変換側含有液が布体20に含浸する。光電変換側含有液が乾燥すると、光電変換層5が形成される。以上により、本実施形態における光電変換素子1が完成する。
【0087】
なお、本実施形態における光電変換素子1の製造方法では、陽極3の形成工程、陰極4の形成工程、光電変換層5の形成工程のいずれをどの順番で行ってもよい。
【0088】
<第六実施形態>
図9(C)を参照して、本発明の第六実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図9(C)に示すように、基材2と、陽極3と、陰極4と、光電変換層5と、を備える。本実施形態における光電変換素子1は、第五実施形態における光電変換素子1において、陰極4と光電変換層5との間に第一重複領域100、及び、陽極3と光電変換層5との間に第二重複領域110が形成された点が、第五実施形態における光電変換素子1と異なる。それ以外は、材料及び製造方法も含めて第五実施形態における光電変換素子1と同様である。なお、第一重複領域100、第二重複領域110、第一領域片101、及び第二領域片102は、第二実施形態における光電変換素子1のものと同様であり、既に説明済みなので、ここでの説明は省略する。
【0089】
<第七実施形態>
図11(A),(B)を参照して、本発明の第七実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図11(A)に示すように、基材2と、陽極3と、陰極4と、光電変換層5と、を備える。本実施形態における光電変換素子1は、第一実施形態における光電変換素子1と材料は略同一である。しかしながら、本実施形態における光電変換素子1は、第一実施形態における光電変換素子1とは、陽極3と、陰極4と、光電変換層5の配置構造が異なる。
【0090】
本実施形態における光電変換素子1では、
図11(B)に示すように、陽極3と、陰極4とが、布体厚み方向Aにおいて離れた状態にある。つまり、陽極3は、布体20の表面22側に設けられ、陰極4は、布体20の表面22とは反対側の裏面23側に設けられる。そして、光電変換層5が布体厚み方向Aにおいて陽極3及び陰極4と連続するように布体20の内部に形成される。結果、本実施形態における光電変換素子1は、布体厚み方向Aにおいて、陽極3、光電変換層5、陰極4が順に積層された態様になる。
【0091】
また、本実施形態における光電変換素子1では、布体厚み方向Aにおいて、陽極側領域30及び陰極側領域40は、重なり合う領域を有する。また、本実施形態における重なり合う領域では、布体厚み方向Aにおいて、陽極側領域30及び陰極側領域40は、光電変換側領域50と全部が重なり合うように構成されているが、少なくとも一部が重なり合えば足りる。
【0092】
なお、光電変換素子1は、陽極側領域30及び陰極側領域40の少なくとも一方を、布体20の平面方向Cにずらして、重なり合う領域がないように構成されてもよい。
【0093】
そして、本実施形態の光電変換素子1では、陽極3と陰極4とがそれぞれ布体20の反対平面側に形成されるため、本実施形態の光電変換素子1の平面方向Cにおけるサイズを小さくすることができる。
【0094】
<光電変換素子の製造方法について>
図12を参照して、本実施形態における光電変換素子1の製造方法について以下説明する。陽極3は、布体20の裏面23側に形成される。陽極3を作成する方法は、第一実施形態で説明したものと同様である(
図12(A)参照。)。次に、(図示しない)蒸着装置を用いて、陰極側材料のうち、第一陰極片側材料を布体20の表面22側の所定の位置に蒸着させる。このとき、第一陰極片側材料が布体20の内部にまで到達するように、蒸着装置を調整する。これにより、
図12(B)に示すように、第一陰極片41が形成される。なお、第一陰極片41は、第一陰極片側材料が含まれる第一陰極片側材料側含有液を布体20の表面22側に塗布して形成させてもよい。
【0095】
さらに、第二陰極片側含有液を第一陰極片41の上方側面41Aに塗布する。この際、第二陰極片側含有液が第一陰極片41に含浸する。第二陰極片側含有液が乾燥すると、
図12(C)に示すように、第二陰極片42が形成される。
【0096】
次に、陰極4の上方側面4Cと、陰極4の長さ方向Bにおいて陰極4の上方側面4Cに連続して左右に隣接する布体20の表面片22A,22Bとを含む領域に光電変換側含有液を塗布する。この際、光電変換側含有液が布体20に含浸する。光電変換側含有液が乾燥すると、
図12(D)に示すように、光電変換層5が形成される。以上により、本実施形態における光電変換素子1が完成する。
【0097】
なお、本実施形態における光電変換素子1の製造方法では、陽極3の形成工程、陰極4の形成工程、光電変換層5の形成工程のいずれをどの順番で行ってもよい。
【0098】
<第八実施形態>
図11(C)を参照して、本発明の第八実施形態における光電変換素子1について説明する。本実施形態における光電変換素子1は、
図11(A)に示すように、基材2と、陽極3と、陰極4と、光電変換層5と、を備える。そして、本実施形態における光電変換素子1は、
図11(C)に示すように、陰極4と光電変換層5との間に第一重複領域100、及び、陽極3と光電変換層5との間に第二重複領域110が形成された点が、第七実施形態における光電変換素子1と異なる。それ以外は、材料及び製造方法も含めて第七実施形態における光電変換素子1と同様である。なお、第一重複領域100、第二重複領域110、第一領域片101、及び第二領域片102は、第二実施形態における光電変換素子1のものと同様であり、既に説明済みなので、ここでの説明は省略する。
【0099】
なお、以上の本発明の第五~八実施形態における光電変換素子1においても、本発明の第三、四実施形態における光電変換素子1と同様に、電子輸送層6及び正孔輸送層7の少なくとも一方が設けられてもよい。また、以上は基材2として布体20を用いたものとして説明したが、多孔質材料で構成された基材2についても同様に適用することができる。
【0100】
<本発明の光電変換素子の発電特性に関する実験>
図13~
図16を参照して、本願出願人が行った本発明の光電変換素子の発電特性に関する実験について説明する。本願出願人は、本発明の光電変換素子の発電特性に関する実験を行うに当たって以下の実施例1に示す光電変換素子1と、比較用の比較例1に示す光電変換素子とを作成した。
【0101】
<実施例1の光電変換素子>
実施例1の光電変換素子1は、本発明の第二実施形態における光電変換素子1と同様の構造となっている。そして、実施例1の光電変換素子1では、
図13(A)に示すようなサイズで、布体20、陽極3、陰極4、光電変換層5が作成されている。また、実施例1の光電変換素子1では、布体20として、ポリエステル合成の大判インクジェット専用不織布ロール紙(TCS-320 SiHL タフバナー;以下、単に、不織布体と呼ぶ。)を用い、陽極3を作成する陽極側材料として、PEDOT-PSSを用い、陰極4の第一陰極片41を作成する第一陰極片側材料として、アルミニウム(Al)を用い、陰極4の第二陰極片42を作成する第二陰極片側材料として、PEDOT-PSSを用い、光電変換層5を作成する光電変換側材料として、チタンアルコキシド(TiOx)及びポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)をクロロベンゼンに溶かした光電変換側含有液を用いた。
【0102】
実施例1の光電変換素子1の作成にあたって、まず、上記不織布体にPEDOT-PSSを塗布して乾燥させる。これにより、陽極3が形成される。次に、上記光電変換側含有液を陽極3の上面側に塗布して、不織布に含浸させ、乾燥させる。これにより、光電変換層5が形成される。次に、アルミニウム(Al)が光電変換層5の上面側から不織布体の内部まで入り込むようにアルミニウム(Al)を不織布に蒸着させる。これにより、第一陰極片41が形成される。さらに、蒸着させたアルミニウム(Al)の上面側にPEDOT-PSSを塗布して乾燥させる。これにより、第二陰極片42が形成される。結果、
図13(B)に示すような実施例1の光電変換素子1が完成する。
【0103】
図13(B)に示す実施例1の光電変換素子1の各部(点線楕円領域R1~R4)をデジタルマイクロスコープ(KH-8700:ハイロックス社製)により撮影した写真を
図14~
図16に示す。
図14は、点線楕円領域R1において実施例1の光電変換素子1を不織布の幅方向に切った断面と陰極4の表面が写る写真(倍率160倍)である。
図15(A)は、点線楕円領域R2において実施例1の光電変換素子1を不織布の幅方向に切った断面と陰極4の表面が写る写真(倍率140倍)である。
図15(B)は、点線楕円領域R3において実施例1の光電変換素子1の第一陰極片41(蒸着されたアルミニウム(Al))のみが写る写真(倍率140倍)である。
図16(A)は、点線楕円領域R4において実施例1の光電変換素子1の陽極3の表面のみが写る写真(倍率280倍)である。
図16(B)は、点線楕円領域R4において実施例1の光電変換素子1の陽極3の断面が写る写真(倍率420倍)である。陽極3の厚みは、略20(μm)となっている。また、蒸着されたアルミニウム(Al)の厚みは、80~120(nm)となるように調整してある。
【0104】
<比較例1の光電変換素子>
比較例1の光電変換素子では、実施例1の光電変換素子1と異なり、基板にポリエチレンテレフタラート(PET)製のフィルム(以下、PETフィルムと呼ぶ。)を用いた。比較例1の光電変換素子は、実施例1の光電変換素子1と同じ種類の材料を用いて、PETフィルムの表面に、実施例1の光電変換素子1と同じサイズの第二陰極片、第一陰極片、光電変換層、陽極を順に積層させた。
【0105】
<実験概要>
図17に示すように、実施例1の光電変換素子1、及び比較例1の光電変換素子に対して、一方側の平面(表面)1A同士が接近して接触するように折り曲げる第一曲げ変形と、第一曲げ変形を完了した後に、他方側の平面(裏面)1Bが接近して接触するように折り曲げる第二曲げ変形とを1セットとして、150セット行う。そして、実施例1の光電変換素子1、及び比較例1の光電変換素子に対して、第一曲げ変形及び第二曲げ変形を行う前の「初期発電電圧」と、150セット行った後の「150セット後発電電圧」とを測定する。その結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
実施例1の光電変換素子1は、「初期発電電圧」が512(mV)で、「150セット後発電電圧」が507(mV)となっており、第一曲げ変形及び第二曲げ変形を150セット行ってもほとんど発電電圧が低下していない。「発電電圧保持率」を「150セット後発電電圧」/「初期発電電圧」(%)と定義した場合、実施例1の光電変換素子1の「発電電圧保持率」は、99(%)となる。一方、比較例1の光電変換素子は、「初期発電電圧」が587(mV)で、「150セット後発電電圧」が73(mV)となっており、第一曲げ変形及び第二曲げ変形を150セット行うと、発電電圧が大きく低下している。比較例1の光電変換素子の発電電圧保持率が低い理由は、第一曲げ変形及び第二曲げ変形を150セット行う過程で、比較例1の光電変換素子における陽極3、陰極4、光電変換層5が相互に剥離して、相互の接触面積が大きく少なくなったからである。一方、実施例1の光電変換素子1の発電電圧保持率が極めて高い理由は、第一曲げ変形及び第二曲げ変形を150セット行う過程で、実施例1の光電変換素子1は、陽極3、陰極4、光電変換層5が不織布体の表面から内部にかけて形成されているため、相互に剥離することがなく、相互の接触面積がほとんど変化していないからである。
【0108】
なお、本発明の光電変換素子1は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得ることは勿論である。したがって、例えば、第一~八実施形態における光電変換素子1において陽極3を陰極4に置き換え、陰極4を陽極3に置き換えたものも本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1 光電変換素子
2 基材
2A 組織
2B 微細空間
2C,2D 繊維
3 陽極
3A 陽極側材料
4 陰極
4A 陰極側材料
5 光電変換層
5A 光電変換側材料
6 電子輸送層
7 正孔輸送層
20 布体
20A 編組体
20B 不織布体
20C スポンジ
22 布体の表面
23 布体の裏面
30 陽極側領域
40 陰極側領域
41 第一陰極片
41B 第一陰極片側材料
42 第二陰極片
42B 第二陰極片側材料
50 光電変換側領域
51 メイン分布領域
52 挟み込み領域
52A 上方側光電変換層片
52B 下方側光電変換層片
80 重なり合い領域
100 第一重複領域
101 第一領域片
102 第二領域片
110 第二重複領域
120 陰極片側領域
A 布体厚み方向
B 陽極(陰極)の長さ方向
C 平面方向
J 突出領域