(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】イミドオリゴマー、ワニス、それらの硬化物、並びにそれらを用いたプリプレグ及び繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240115BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20240115BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20240115BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C08G73/10
C08L79/08 Z
C08J5/24 CFG
C08J5/04
(21)【出願番号】P 2019233346
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019007215
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「ポリイミド樹脂の長期耐熱性の改良に関する研究」および「耐熱CFRPの成形プロセス開発と材料特性評価」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】古田 武史
(72)【発明者】
【氏名】古川 誉士夫
(72)【発明者】
【氏名】横田 力男
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勇希
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄一
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-344888(JP,A)
【文献】特開2017-201027(JP,A)
【文献】国際公開第2010/027020(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/141132(WO,A1)
【文献】特開2000-248252(JP,A)
【文献】特開2012-072831(JP,A)
【文献】特開2015-232117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/04-5/10、5/24
B29B 11/16、15/08-15/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族テトラカルボン酸成分と、(B)芳香族ジアミン成分と、(C)末端封止剤とを反応させて得られるイミドオリゴマーであって、
前記(A)成分および/または前記(B)成分が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含み、
前記(A)成分は1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物を含み、
前記(B)成分は2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含み、
前記(C)は(c1)フェニルエチニル基を含む化合物と、(c2)付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物とを含有し、(C)の全体量に対して(c1)が50モル%を超え100モル%未満そして(c2)が0モル%を超え50モル%未満であるイミドオリゴマー。
【請求項2】
前記(A)成分が1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物およ
び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を含む請求項
1に記載のイミドオリゴマー。
【請求項3】
前記(B)成分は前記(A)成分に対して化学量論的に過剰モル量使用され、前記(C)に含まれる(c1)が4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物であり、かつ、(c2)が1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物であり、(C)のモル量が、前記(B)成分のモル量と前記(A)成分のモル量との差に相当するモル量の1.7~5.0倍である請求項1
または2に記載のイミドオリゴマー。
【請求項4】
下記式(2)で表されるイミドオリゴマー。
【化1】
(式(2)中、
nは整数であって、
Qは、下記式(3)で表される構造単
位を含み、
【化2】
式(2)中、Yの少なくとも一部が、下記式(5)で表される構造単位であり、
【化3】
(式中、X
2は直接結合、またはエーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、および六フッ素化イソプロピリデン基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R
1~R
5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R
6~R
10はいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(ii)R
1~R
5のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R
6~R
10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
前記Yは、式(5)で表される構造単位として2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルに由来する構造単位を含み、
式(2)中、分子末端Zの85モル%以上100モル%以下が、下記式(6)および式(7)で表される構造であり、
【化4】
【化5】
その残分がある場合の分子末端Zは、イミドオリゴマーの原料である芳香族テトラカルボン酸成分に由来するカルボン酸類末端および/またはイミドオリゴマーの原料である芳香族ジアミン成分に由来するアミン末端であり、かつ、前記式(6)および式(7)で表される構造のうち、50モル%を超え100モル%未満が前記式(6)で表される構造であり、かつ、0モル%を超え50モル%未満が前記式(7)で表される構造である。)
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のイミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニス。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のイミドオリゴマーを加熱硬化してなる硬化物。
【請求項7】
請求項
5に記載のワニスを加熱硬化してなる硬化物。
【請求項8】
請求項
5に記載のワニスを強化繊維に含浸させてなるプリプレグ。
【請求項9】
請求項
8に記載のプリプレグを加熱硬化してなる繊維強化複合材料。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のイミドオリゴマーの粉末を強化繊維と混合させてなるセミプレグ。
【請求項11】
請求項
10に記載のセミプレグから得られるプリプレグ。
【請求項12】
請求項
10に記載のセミプレグまたは
請求項11に記載のプリプレグを加熱硬化してなる繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミドオリゴマー、ワニス、それらの硬化物、並びにそれらを用いたプリプレグ及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは高分子の中で最高レベルの耐熱性を有し、機械的特性および電気的特性などにも優れていることから、航空宇宙および電気電子などの広い分野で素材として使用されている。
【0003】
ポリイミドの末端を付加反応性官能基を含む末端封止剤で封止したイミドオリゴマーは、一般にポリイミドと呼ばれているものに比べて低分子量で溶融流動性に優れ、その硬化物が高い耐熱性を示す。そのため、このようなイミドオリゴマーは、成形品または繊維強化複合材料のマトリクス樹脂として従来から用いられている。
【0004】
なかでも、末端を4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物で封止したイミドオリゴマーは、成形性、耐熱性、機械的特性のバランスに優れているとされる。例えば、特許文献1には、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含む芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸類とを含む原料化合物から合成され、末端を4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物で変性した末端変性イミドオリゴマー、および、その硬化物が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、(A)2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を20モル%以上含む芳香族テトラカルボン酸成分、(B)アミノ基に由来する二つの炭素-窒素結合軸が同一直線上に位置し、分子内に酸素原子を有しない芳香族ジアミンと、アミノ基に由来する二つの炭素-窒素結合軸が同一直線上に位置せず、分子内に酸素原子を有しない芳香族ジアミンとを含む、分子内に酸素原子を有しない芳香族ジアミン成分、及び(C)フェニルエチニル基を有する末端封止剤を混合して得られた加熱硬化性溶液組成物が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、分子末端が、架橋基含有ジカルボン酸無水物1~80モル%と、架橋基を有さないジカルボン酸無水物99~20モル%とで封止された架橋基含有ポリイミドが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2010/027020号公報
【文献】国際公開第2013/141132号公報
【文献】特開2000-344888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2に記載の硬化物は、優れた熱的特性および機械的特性を有しているが、熱酸化安定性(TOS)の観点から、更なる改善の余地があると考えられる。
【0009】
特許文献3に記載の架橋基含有ポリイミドの硬化物は、熱可塑性を示し、熱酸化安定性(TOS)の観点から、更なる改善の余地があると考えられる。
【0010】
本発明の一態様は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、優れた熱酸化安定性(TOS)を示すイミドオリゴマーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、イミドオリゴマーの末端封止剤として、付加反応性官能基であるフェニルエチニル基を含む化合物と、付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物とを特定の割合で用いることで、優れた熱酸化安定性(TOS)を示す硬化物を与えることが可能なイミドオリゴマー、当該イミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニス、並びに前記イミドオリゴマーまたは前記ワニスを用いて作製された硬化物、プリプレグおよび繊維強化複合材料を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明の一実施形態は、以下の態様を含む。
【0012】
(A)芳香族テトラカルボン酸成分と、(B)芳香族ジアミン成分と、(C)末端封止剤とを反応させて得られるイミドオリゴマーであって、
前記(A)成分および/または前記(B)成分が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含み、
前記(C)は(c1)フェニルエチニル基を含む化合物と、(c2)付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物とを含有し、(C)の全体量に対して(c1)が50モル%を超え100モル%未満そして(c2)が0モル%を超え50モル%未満であるイミドオリゴマー。
【0013】
下記式(2)で表されるイミドオリゴマー。
【0014】
【0015】
(式(2)中、
nは整数であって、
Qは、下記式(3)で表される構造単位および下記式(4)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含み、
【0016】
【0017】
式(2)中、Yの少なくとも一部が、下記式(5)で表される構造単位であり、
【0018】
【0019】
(式中、X2は直接結合、またはエーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、および六フッ素化イソプロピリデン基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R1~R5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10はいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(ii)R1~R5のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
で表される構造単位であり、
式(2)中、分子末端Zの85モル%以上100モル%以下が、下記式(6)および式(7)で表される構造であり、
【0020】
【0021】
【0022】
その残分がある場合の分子末端Zは、イミドオリゴマーの原料である芳香族テトラカルボン酸成分に由来するカルボン酸類末端および/またはイミドオリゴマーの原料である芳香族ジアミン成分に由来するアミン末端であり、かつ、前記式(6)および式(7)で表される構造のうち、50モル%を超え100モル%未満が前記式(6)で表される構造であり、かつ、0モル%を超え50モル%未満が前記式(7)で表される構造である。)
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施形態によれば、優れた熱酸化安定性(TOS)を示すイミドオリゴマーを提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0025】
〔1.イミドオリゴマー〕
本明細書において、イミドオリゴマーは、特に断りがない限り、末端変性イミドオリゴマーと同義として使用する。
【0026】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、(A)芳香族テトラカルボン酸成分と、(B)芳香族ジアミン成分と、(C)末端封止剤とを反応させて得られ、前記(C)は(c1)フェニルエチニル基を含む化合物と、(c2)付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物とを含有し、(C)の全体量に対して(c1)が50モル%を超え100モル%未満そして(c2)が0モル%を超え50モル%未満であることを特徴とする。なお、本明細書において、(A)芳香族テトラカルボン酸成分と、(B)芳香族ジアミン成分と、(C)末端封止剤とを反応させて得られるイミドオリゴマーとは、(A)芳香族テトラカルボン酸成分由来の単量体単位と、(B)芳香族ジアミン成分由来の単量体単位と、(C)末端封止剤由来の単量体単位とを含むイミドオリゴマーを意味する。
【0027】
<(A)芳香族テトラカルボン酸成分>
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを得るための(A)成分である芳香族テトラカルボン酸成分には、芳香族テトラカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸のエステルおよび塩などの酸誘導体が含まれる。
【0028】
前記芳香族テトラカルボン酸成分は、対称かつ平面構造を有する成分であってもよく、対称かつ非平面構造を有する成分であってもよく、非対称かつ平面構造を有する成分であってもよく、非対称かつ非平面構造を有する成分であってもよい。本発明の一実施形態においては、イミドオリゴマーの溶媒への溶解性、イミドオリゴマーの成形性、硬化物の可撓性の観点から、(A)芳香族テトラカルボン酸成分、および/または、後述する(B)芳香族ジアミン成分が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含むことが好ましい。その中でも、後述する(B)芳香族ジアミン成分が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含むことがさらに好ましい。
【0029】
前記(A)芳香族テトラカルボン酸成分は、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および/または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を含むことが好ましい。また、前記(A)芳香族テトラカルボン酸成分は、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物を含むことが好ましい。1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および/または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を含まない場合、得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)および熱酸化安定性(TOS)が十分でないことがある。
【0030】
以下、ガラス転移温度を単に「Tg」と称することもある。なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)、および、熱酸化安定性(TOS)とは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。本明細書において、熱酸化安定性に優れるとは、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーから得られる硬化物が、末端封止剤の構造以外の構造が本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーと共通しているイミドオリゴマーから得られる硬化物と比較した場合に、熱酸化安定性に優れていることを意図している。
【0031】
前記1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物には、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)、あるいは1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が含まれる。
【0032】
同様に前記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物には、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、あるいは3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が含まれる。
【0033】
前記芳香族テトラカルボン酸成分中、特に1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物の含有率が30モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることが好ましい。1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物の含有率が30モル%より低いと、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーから得られる硬化物のガラス転移温度(Tg)が低くなることがある。
【0034】
また、前記芳香族テトラカルボン酸成分として、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を併用する場合は、芳香族テトラカルボン酸成分中、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の合計含有率が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物の合計含有率を前記範囲内とすることで、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーから得られる硬化物は高いガラス転移温度(Tg)および優れた熱酸化安定性(TOS)を示す。
【0035】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを得るための(A)成分である芳香族テトラカルボン酸成分として、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および/または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を含むことが好ましいが、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物、あるいは3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物以外の他の芳香族テトラカルボン酸成分を含有してもよい。他の芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えば、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、4,4’-スルホニルジフタル酸化合物、4,4’-チオジフタル酸化合物、4,4’-オキシジフタル酸化合物、3,4’-オキシジフタル酸化合物、4,4’-イソプロピリデンジフタル酸化合物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸化合物、4,4’-[1,4-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、4,4’-[1,3-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸化合物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸化合物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸化合物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン化合物、などが挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
ここで、対称かつ平面構造を有する成分としては、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸化合物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸化合物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸化合物、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸化合物、1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物が挙げられる。対称かつ非平面構造を有する成分としては、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、4,4’-スルホニルジフタル酸化合物、4,4’-チオジフタル酸化合物、4,4’-オキシジフタル酸化合物、4,4’-イソプロピリデンジフタル酸化合物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸化合物、4,4’-[1,4-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、4,4’-[1,3-フェニレンビス(オキシ)]ジフタル酸化合物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン化合物が挙げられる。非対称かつ非平面構造を有する成分としては、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸化合物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物、3,4’-オキシジフタル酸化合物が挙げられる。
【0037】
<(B)芳香族ジアミン成分>
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを得るための(B)成分である芳香族ジアミン成分は、対称かつ平面構造であってもよく、対称かつ非平面構造であってもよく、非対称かつ平面構造であってもよく、非対称かつ非平面構造であってもよい。本発明の一実施形態においては、イミドオリゴマーの溶媒への溶解性、イミドオリゴマーの成形性、硬化物の可撓性の観点から、(B)芳香族ジアミン成分が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含むことが好ましい。その中でも、取扱性の観点から、前記非対称かつ非平面構造を有する成分が、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)以外の芳香族ジアミン成分であることがさらに好ましい。3,4’-ジアミノジフェニルエーテルは、非対称かつ非平面構造を有する芳香族ジアミン成分であるが、融点が80℃以下の固体であり、原料の保管および輸送時、並びに反応器へのスムーズな供給といった取扱性に懸念があるためである。
【0038】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを得るための(B)成分である芳香族ジアミン成分の少なくとも一部は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。これは、前記化合物が非対称かつ非平面構造を有するためである。
【0039】
【0040】
(式(1)中、X1は直接結合、またはエーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、および六フッ素化イソプロピリデン基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R1~R5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがアミノ基を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10はいずれか1つがアミノ基を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(ii)R1~R5のいずれか1つがアミノ基を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがアミノ基を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
前記芳香族ジアミン成分中、式(1)で表される化合物の含有率が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
前記式(1)で表される芳香族ジアミン成分中、非対称かつ非平面構造を有する成分として、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含むことが好ましい。2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを含むことで、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは優れた成形性および溶媒への溶解性を示す。なお、本明細書において、成形性とは、高温での溶融流動性および低溶融粘度であることを包含する概念である。
【0042】
前記芳香族ジアミン成分中、特に2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの含有率が50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの含有率が低いと、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの成形性および溶媒への溶解性が十分ではないことがある。
【0043】
また、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを得るための(B)成分である芳香族ジアミン成分として、本発明の一実施形態の効果を奏する限り、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル以外の他の芳香族ジアミン成分を含有してもよい。他の芳香族ジアミン成分としては、前記式(1)で表される芳香族ジアミン成分に加えて、例えば、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、2,6-ジエチル-1,3-ジアミノベンゼン、4,6-ジエチル-2-メチル-1,3-ジアミノベンゼン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジエチルアニリン)、ビス(2-エチル-6-メチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、4,4-ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ODA)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル(3,3’-ODA)、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、などが挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
この中で、対称かつ平面構造を有する成分としては、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、4,6-ジエチル-2-メチル-1,3-ジアミノベンゼン、2,6-ジアミノトルエンが挙げられる。対称かつ非平面構造を有する成分としては、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(2,6-ジエチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジエチルアニリン)、ビス(2-エチル-6-メチル-4-アミノフェニル)メタン、4,4’-メチレン-ビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、4,4’-ジアミノオクタフルオロビフェニル、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-ODA)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル(3,3’-ODA)、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)フルオレン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ジメチルベンジジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンが挙げられる。非対称かつ平面構造を有する成分としては、2,6-ジエチル-1,3-ジアミノベンゼン、2,5-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノトルエンが挙げられる。非対称かつ非平面構造を有する成分としては、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(3,4’-ODA)が挙げられる。
【0045】
<(C)末端封止剤>
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを得るための(C)成分である末端封止剤は、(c1)フェニルエチニル基を含む化合物と、(c2)付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物とを含有し、(C)の全体量に対して(c1)が50モル%を超え100モル%未満、そして(c2)が0モル%を超え50モル%未満であることが好ましい。また、封止する末端は、(B)芳香族ジアミン成分に由来するアミン末端、もしくは(A)芳香族テトラカルボン酸成分に由来するカルボン酸類末端のいずれでも構わない。好ましくは末端封止剤がカルボン酸化合物であり、アミン末端と反応してイミド基を形成する。アミン末端のイミドオリゴマーを得るために、芳香族ジアミン成分を芳香族テトラカルボン酸成分に対して化学量論的に過剰モル量使用することが好ましい。芳香族ジアミン成分のモル量は芳香族テトラカルボン酸成分のモル量に対して、1.01~2.00倍の範囲内の量で用いることが好ましく、1.02~2.00倍の範囲内の量で用いることがより好ましい。
【0046】
また、前記(C)のモル量は、芳香族ジアミン成分のモル量と芳香族テトラカルボン酸成分のモル量との差に相当するモル量の1.7~5.0倍であることが好ましく、1.9~4.0倍であることがより好ましく、1.95~2.0倍であることがさらに好ましい。(C)のモル量が前記範囲より少ないと、未封止のアミン末端がイミドオリゴマー中に多量に残存し、熱酸化安定性(TOS)が十分でないことがある。(C)のモル量が前記範囲より多いと、未反応の(C)がイミドオリゴマー中に多量に残存し、イミドオリゴマーの硬化物の加熱成形中、あるいは繊維強化複合材料の加熱成形中に、残存した(C)が多量に揮発して欠陥(ボイド)の原因になることがある。
【0047】
前記(c1)として、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物を使用することが好ましい。4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物には、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物(PEPA)、あるいは4-(2-フェニルエチニル)フタル酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が含まれる。4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物を使用することで、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーから得られる硬化物は優れた耐熱性および機械的特性を示す。
【0048】
前記(C)中、(c1)として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物の含有率が50モル%を超え100モル%未満であることが好ましく、55モル%以上85モル%以下であることがより好ましい。4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物の含有率が低いと、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーから得られる硬化物の靭性が十分でないことがあり、含有率が高いと、得られる硬化物の熱酸化安定性(TOS)が十分でないことがある。
【0049】
前記(c2)として、1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物を使用することが好ましい。1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物には、1,2-ベンゼンジカルボン酸、1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)、あるいは1,2-ベンゼンジカルボン酸のエステルまたは塩などの酸誘導体が含まれる。1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物を使用することで、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーから得られる硬化物は優れた熱酸化安定性(TOS)を示す。
【0050】
前記(C)中、(c2)として1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物の含有率が0モル%を超え50モル%未満であることが好ましく、15モル%以上45モル%以下であることがより好ましい。1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物の含有率が低いと、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーから得られる硬化物の熱酸化安定性(TOS)が十分でないことがあり、含有率が高いと、得られる硬化物の靭性が十分でないことがある。
【0051】
前記(C)に含まれる(c1)が4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物であり、かつ、(c2)が1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物であることが特に好ましい。
【0052】
<イミドオリゴマーの組成および物性>
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの重合度n(芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とが反応して生成する繰り返し構造単位の数)は、100以下が好ましく、50以下がより好ましい。重合度が前記範囲内であれば、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは成形性および溶媒への溶解性に優れる。
【0053】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの分子量は、芳香族テトラカルボン酸成分のモル量と芳香族ジアミン成分のモル量の比率を適宜調整することで調節できる。芳香族テトラカルボン酸成分に対して芳香族ジアミン成分のモル量は化学量論的に過剰量、等量、もしくは不足量のいずれでも構わないが、化学量論的に過剰モル量用いることが好ましい。芳香族ジアミン成分のモル量は芳香族テトラカルボン酸成分のモル量に対して、1.01~2.00倍の範囲内の量(得られるイミドオリゴマーの重合度nが平均として1~100に相当)で用いることが好ましく、1.02~2.00倍の範囲内の量(得られるイミドオリゴマーの重合度nが平均として1~50に相当)で用いることがより好ましい。前記範囲内であれば、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは成形性および溶媒への溶解性に優れる。なお、イミドオリゴマーの重合度nとは、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とが反応して生成する繰り返し構造単位の数を表す。
【0054】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、分子量の異なるイミドオリゴマーを混合したものでもよい。また、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、他のポリイミド、可溶性ポリイミドあるいは熱可塑性ポリイミドと混合してもよい。前記ポリイミド、可溶性ポリイミドあるいは熱可塑性ポリイミドは、具体的には市販品であってもよく、種類などについて特に限定はない。
【0055】
また、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、室温で溶媒に30重量%以上溶解可能であることが好ましい。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、γ-ブチロラクトン(GBL)およびシクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の選択に関しては可溶性ポリイミドの公知技術を適用することができる。
【0056】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、好ましくは、NMPに室温で30重量%以上溶解可能である。
【0057】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの最低溶融粘度は、300~400℃の間において、10000Pa・s以下が好ましく、5000Pa・s以下がより好ましく、1000Pa・s以下がさらに好ましく、300Pa・s以下が一層好ましい。最低溶融粘度が前記範囲であれば、本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは成形性に優れるため、好ましい。また、最低溶融粘度が前記範囲であれば、繊維強化複合材料の成形過程において、高温条件下でプリプレグ中に含まれる溶媒が系外に除去された際に、残存したイミドオリゴマーが溶融して繊維間に含浸されるため好ましい。なお、本明細書において、最低溶融粘度とは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0058】
<イミドオリゴマーの構造>
本発明の一実施形態におけるイミドオリゴマーは、下記式(2)で表すこともできる。
【0059】
【0060】
(式(2)中、
nは整数であって、
Qは、下記式(3)で表される構造単位および下記式(4)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含み、
【0061】
【0062】
式(2)中、Yの少なくとも一部が、下記式(5)で表される構造単位であり、
【0063】
【0064】
(式中、X2は直接結合、またはエーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、および六フッ素化イソプロピリデン基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R1~R5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10はいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(ii)R1~R5のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
式(2)中、分子末端Zの85モル%以上100モル%以下が、下記式(6)および式(7)で表される構造であり、
【0065】
【0066】
【0067】
その残分がある場合の分子末端Zは、イミドオリゴマーの原料である芳香族テトラカルボン酸成分に由来するカルボン酸類末端および/またはイミドオリゴマーの原料である芳香族ジアミン成分に由来するアミン末端であり、かつ、前記式(6)および式(7)で表される構造のうち、50モル%を超え100モル%未満が前記式(6)で表される構造であり、かつ、0モル%を超え50モル%未満が前記式(7)で表される構造である。)
前記イミドオリゴマーは、Qにおいて、式(3)で表される構造単位および式(4)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を主として含むことが好ましく、具体的には50モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。式(2)において、Qは、式(3)で表される構造単位および式(4)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位であることが特に好ましい。
【0068】
また、前記イミドオリゴマーは、Yにおいて、式(5)で表される構造単位を50モル%以上含むことが好ましく、70モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。式(2)において、Yは、式(5)で表される構造単位であることが特に好ましい。
【0069】
〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの製造方法は、特に限定されず、任意の方法を用いて得ることができるが、その一例について以下に説明する。
【0070】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、芳香族テトラカルボン酸成分、芳香族ジアミン成分および末端封止剤を混合、加熱することにより得られる。例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジアミン、並びに末端封止剤として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物および1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)を、全成分の酸無水基の全量とアミノ基の全量とがほぼ等量になるように使用する。これらの各成分を溶媒中で約100℃以下、特に80℃以下の温度で反応させて、アミド-酸結合を有するオリゴマーであるアミド酸オリゴマー(アミック酸オリゴマーともいう)を生成させる。次いで、前記アミド酸オリゴマーを、約0~140℃で化学イミド化剤を添加する方法、あるいは140~275℃の高温に加熱する方法によって、脱水・環化させて、イミドオリゴマーを得ることができる。
【0071】
本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの特に好ましい製法は、例えば、以下の方法が挙げられる。まず芳香族ジアミンを溶媒中に均一に溶解後、芳香族テトラカルボン酸二無水物をその溶液中に加えて約5~60℃で反応させるとともに均一に溶解させる。その後、さらにその溶液に、末端封止剤として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物ならびに1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)を加えて、約5~60℃で反応させることにより、前記のアミド酸オリゴマーを生成させる。その後、その反応液を140~275℃で5分~24時間攪拌して前記のアミド酸オリゴマーをイミド化反応させてイミドオリゴマーを生成させる。ここで、必要であれば、反応液を室温付近まで冷却してもよい。これにより本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを得ることができる。前記の反応において、全反応工程あるいは一部の反応工程を窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性のガスの雰囲気あるいは真空中で行うことが好適である。
【0072】
前記溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチルカプロラクタム、γ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの溶媒の選択に関しては、可溶性ポリイミドについての公知技術を適用することができる。
【0073】
前記のようにして得られた本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーの溶液は、そのまま、あるいは適宜濃縮または希釈するかして使用することができる。また、必要であれば、この溶液を水またはアルコールなどの貧溶媒、あるいは非溶媒などの中に注ぎ込んで本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを粉末状の生成物として単離できる。本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーは、粉末状として使用してもよく、あるいは、必要であれば、その粉末状の生成物を溶媒に溶解して使用することもできる。
【0074】
〔3.ワニス〕
本発明の一実施形態に係るワニスは、前記イミドオリゴマーを溶媒に溶解してなる。本発明の一実施形態に係るワニスは、上述のように粉末状のイミドオリゴマーを溶媒に溶解して得ることができる。また、〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕に記載の本発明の一実施形態に係るイミドオリゴマーを粉末状とする前の溶液を、そのままか、または適宜濃縮もしくは希釈するかして、イミドオリゴマーの溶液組成物としてワニスを得てもよい。溶媒としては、〔2.イミドオリゴマーの製造方法〕に記載の溶媒が使用できる。
【0075】
前記ワニスは、本発明の一実施形態に係るプリプレグおよび繊維強化複合材料を作製するために、保存安定性に優れることが好ましい。保存安定性に優れるとは、ワニスが長期間流動性を保ち、安定に保存できることを表す。本発明の一実施形態に係るワニスは、室温環境において保存しても流動性が喪失(ゲル化)しない時間が1時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましく、6時間以上であることがさらに好ましく、12時間以上であることが特に好ましく、24時間以上であることが最も好ましい。室温環境での保存時間が1時間未満においてワニスの流動性が喪失してしまうと、ワニスを繊維へ含浸させることが難しくなり、本発明の一実施形態に係るプリプレグおよび繊維強化複合材料を得ることが困難となる。ワニスを長時間保存する場合には、0℃以下で保存することが好ましく、-10℃以下で保存することがより好ましい。
【0076】
本発明の一実施形態に係るワニスを長期間保存する場合に流動性喪失(ゲル化)を防ぐには、より良溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系溶媒を用いることが望ましい。
【0077】
〔4.硬化物〕
本発明の一実施形態に係る硬化物は、前記イミドオリゴマーを加熱硬化して得られるものであってもよく、前記ワニスを加熱硬化して得られるものであってもよい。なお、前記イミドオリゴマーまたは前記ワニスを加熱すると、イミドオリゴマーが末端に有する4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物の残基が他の分子と反応することによって高分子量となるとともに、イミドオリゴマーが硬化する。なお、その反応においては、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物の残基が有する三重結合、並びにその三重結合に由来する二重結合および単結合が関連すると考えられており、反応後のイミドオリゴマーの構造は非常に複雑となる。
【0078】
本発明の一実施形態に係る硬化物の形状は、特に限定されず、任意の方法で所望の形状に成形すればよい。本発明の一実施形態に係る硬化物の形状としては、例えば、フィルム、シート、直方体状または棒状などの2次元的または3次元的に成形加工された状態などが挙げられる。例えば、フィルム形状に成形する場合、前記イミドオリゴマーのワニスを支持体に塗布し、260~500℃で5~200分間加熱硬化してフィルムとすることができる。すなわち、本発明の一実施形態には、本発明の一実施形態に係る硬化物から得られるフィルム(フィルム形状の硬化物)も包含される。
【0079】
また、粉末状の前記イミドオリゴマーを金型などの型内に充填し、10~330℃で0.1~100MPaで1秒~100分程度の圧縮成形によって予備成形体を形成してもよい。この予備成形体を280~500℃で10分~40時間程度加熱することによっても本発明の一実施形態に係る硬化物を得ることができる。なお、本明細書における圧力の値は全てサンプルにかかる実圧の値である。
【0080】
また、本発明の一実施形態に係る硬化物のガラス転移温度(Tg)は、250℃以上であることが好ましく、290℃以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)とは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0081】
本発明の一実施形態に係る硬化物の引張弾性率は、2.60GPa以上であることが好ましく、2.90GPa以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、引張弾性率とは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0082】
本発明の一実施形態に係る硬化物の引張破断強度は、110MPa以上であることが好ましく、120MPa以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、引張破断強度とは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0083】
本発明の一実施形態に係る硬化物の引張破断伸びは5.0%以上であることが好ましく、6.5%以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、引張破断伸びとは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0084】
〔5.プリプレグ〕
本発明の一実施形態に係るプリプレグは、前記ワニスを繊維に含浸させ、必要により、溶媒の一部を加熱などで蒸発除去させることで得られる。または、後述するセミプレグから得ることもできる。本発明の一実施形態に係るプリプレグは、例えば、以下のようにして得ることができる。
【0085】
まず、前記粉末状のイミドオリゴマーを溶媒に溶解するか、反応溶液をそのまま用いるか、あるいは適宜濃縮もしくは希釈するかして、イミドオリゴマーの溶液組成物(ワニス)とする。適度に濃度調整したイミドオリゴマーのワニスを、例えば平面状に一方向に引き揃えた繊維あるいは繊維織物などに含浸させ、20~180℃の乾燥機中で1分~20時間乾燥させてプリプレグを得ることができる。
【0086】
この際に繊維あるいは繊維織物などに付着する樹脂含有量は10~60重量%が好ましく、20~50重量%がより好ましい。なお、本明細書において、樹脂含有量とは、イミドオリゴマー(樹脂)の重量と繊維あるいは繊維織物などの重量を合わせた重量に対する、繊維あるいは繊維織物などに付着するイミドオリゴマー(樹脂)の重量を意図する。
【0087】
また、繊維あるいは繊維織物などに付着する溶媒の量は、プリプレグ全体の重量に対して1~30重量%であることが好ましく、5~25重量%であることがより好ましく、5~20重量%であることがさらに好ましい。繊維あるいは繊維織物などに付着する溶媒の量が前記範囲であれば、プリプレグの積層時の取り扱いを簡便とし、また、高温での繊維強化複合材料の成形過程において樹脂の流出を阻止して優れた機械強度を発現する繊維強化複合材料を作製することができる。
【0088】
前記繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維およびセラミック繊維などの無機繊維、並びにポリアミド繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維およびノボロイド繊維などの有機合成繊維などが挙げられる。これらの繊維は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0089】
特に、プリプレグから作製される繊維強化複合材料に優れた機械的特性および高い耐熱性を発現させるためには、前記繊維は炭素繊維であることが好ましい。炭素繊維としては、炭素の含有率が85~100重量%の範囲にあり、少なくとも部分的にグラファイト構造を有する連続した繊維形状を有する材料であれば特に限定されない。このような繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系およびピッチ系などの炭素繊維が挙げられる。これらの中でも、汎用的かつ安価であり、高い強度を備えていることから、PAN系またはピッチ系などの炭素繊維が好ましい。
【0090】
一般的に、前記炭素繊維には、サイジング処理が施されているが、そのまま用いても良く、必要に応じて、サイジング剤使用量の少ない繊維を用いること、または有機溶剤処理もしくは加熱処理などの既存の方法にてサイジング剤を除去することも出来る。
【0091】
サイジング剤の使用量は、炭素繊維に対して0.5重量%以下とすることが好ましく、0.2重量%以下とすることがより好ましい。通常、炭素繊維に使用されているサイジング剤はエポキシ樹脂用のものであるため、本発明の一実施形態におけるイミドオリゴマーを硬化させる280℃以上の温度では分解することがある。サイジング剤使用量を前記範囲とすることで、サイジング剤の分解物の揮発が原因となる欠陥(ボイド)などが低減された、良品質の繊維強化複合材料を得ることができる。
【0092】
また、あらかじめ炭素繊維の繊維束をエアーまたはローラーなどを用いて開繊し、炭素繊維の単糸間に樹脂または樹脂溶液を含浸させるように施してもよい。開繊することで樹脂の含浸距離が短くなり、よりボイドなどの欠陥が低減され、あるいは無くなった繊維強化複合材料を得易くなる。
【0093】
本発明の一実施形態に係るプリプレグを構成する繊維材料の形態としては、UD(一方向材)、織物(平織、綾織、朱子織など)、編物、組物、不織布などの構造体が挙げられ、特に限定されるものでない。前記繊維材料の形態は、その目的に応じ適宜選択すれば良く、これらを単独あるいは組み合わせて用いることができる。
【0094】
得られたプリプレグは、その両面のどちらか一方、あるいはそれぞれを、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂シート、あるいは紙などの被覆シートにより被覆した状態で保存または輸送することが好ましい。このような被覆状態にあるプリプレグは、ロール状態、あるいはロールから切り出されたシート状態などで保存と輸送がなされる。
【0095】
〔6.セミプレグおよび繊維強化複合材料〕
本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材料は、前記プリプレグを積層し、加熱硬化して得られるものであってもよく、前記イミドオリゴマーの粉末を繊維に付着させた後、イミドオリゴマーの融着工程を経て作製されるセミプレグおよび/またはプリプレグを積層し、加熱硬化して得られるものであってもよい。
【0096】
なお、本明細書においてセミプレグとは、樹脂(例えば、イミドオリゴマー)が強化繊維に部分的に含浸して(半含浸状態)、一体化した樹脂-強化繊維複合体を意味する。本発明の一実施形態に係るセミプレグは、前記イミドオリゴマーの粉末を強化繊維と混合させて得ることができる。また、前記セミプレグから、プリプレグを得ることができる。例えば、セミプレグをさらに加熱溶融することによって、樹脂を強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることができる。
【0097】
なお、上述のように、前記イミドオリゴマーが加熱硬化によって高分子量化すると非常に複雑な構造となる。本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材料は、例えば以下のようにして得ることができる。
【0098】
前記プリプレグを所望のサイズに切断し、所定枚数重ねて、オートクレーブまたはホットプレスなどを用いて、280~500℃の温度かつ0.1~100MPaの圧力で10分から40時間程度加熱硬化して、繊維強化複合材料を得ることができる。なお、当該加熱硬化の前に必要であれば、所定枚数重ねたプリプレグを200~310℃で常圧または減圧下で5分~40時間程度加熱して乾燥させてもよい。また、前記プリプレグを用いるほか、前記イミドオリゴマーの粉末を繊維に付着させた後、イミドオリゴマーの融着工程を経て作製されるセミプレグおよび/またはプリプレグを積層し、前記と同様にして加熱硬化した積層板として繊維強化複合材料を得ることもできる。また、本発明の一実施形態に係る繊維強化複合材料は、ガラス転移温度(Tg)が300℃以上であることが好ましく、325℃以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、ガラス転移温度(Tg)とは、後述の実施例に記載の方法によって測定されたものを意図する。
【0099】
また、フィルム形状のイミドオリゴマーの成形体、イミドオリゴマーの粉末、セミプレグまたはプリプレグを繊維強化複合材料と異種材料または同種材料との間に挿入し、加熱溶融して一体化することにより、繊維強化複合材料構造体を得てもよい。ここで、異種材料としては特に限定されず、この分野で常用されるものをいずれも使用できるが、例えば、ハニカム形状などの金属材料およびスポンジ形状などのコア材料などが挙げられる。
【0100】
〔7.用途〕
前記イミドオリゴマー、その硬化物、および繊維強化複合材料などは、航空機、宇宙産業用機器および車輌用エンジン(周辺)部材、搬送用アーム、ロボットアーム、ロール材、摩擦材、軸受けなどの摺動性部材などの一般産業用途をはじめとした易成形性、高耐熱性および高い熱酸化安定性が求められる広い分野で利用可能である。航空機部材であれば、エンジンのファンケース、インナーフレーム、動翼(ファンブレードなど)、静翼(構造案内翼(SGV)など)、バイパスダクト、各種配管などが挙げられる。車輌部材であれば、ブレーキ部材、エンジン部材(シリンダー、モーターケース、エアボックスなど)、エネルギー回生システム部材などが好ましく挙げられる。
【0101】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0102】
なお、本発明は、以下のような構成とすることも可能である。
【0103】
〔1〕(A)芳香族テトラカルボン酸成分と、(B)芳香族ジアミン成分と、(C)末端封止剤とを反応させて得られるイミドオリゴマーであって、
前記(A)成分および/または前記(B)成分が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含み、
前記(C)は(c1)フェニルエチニル基を含む化合物と、(c2)付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物とを含有し、(C)の全体量に対して(c1)が50モル%を超え100モル%未満そして(c2)が0モル%を超え50モル%未満であるイミドオリゴマー。
【0104】
〔2〕前記(B)成分の少なくとも一部が下記式(1)で表される化合物である〔1〕に記載のイミドオリゴマー。
【0105】
【0106】
(式(1)中、X1は直接結合、またはエーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、および六フッ素化イソプロピリデン基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R1~R5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがアミノ基を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10はいずれか1つがアミノ基を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(ii)R1~R5のいずれか1つがアミノ基を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがアミノ基を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)。
【0107】
〔3〕前記(A)成分が1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物および/または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸化合物を含む〔1〕または〔2〕に記載のイミドオリゴマー。
【0108】
〔4〕前記(A)成分が1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸化合物を含む〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のイミドオリゴマー。
【0109】
〔5〕前記(C)に含まれる(c1)が4-(2-フェニルエチニル)フタル酸化合物であり、かつ、(c2)が1,2-ベンゼンジカルボン酸化合物であり、(C)のモル量が、前記(B)成分のモル量と前記(A)成分のモル量との差に相当するモル量の1.7~5.0倍である〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のイミドオリゴマー。
【0110】
〔6〕下記式(2)で表されるイミドオリゴマー。
【0111】
【0112】
(式(2)中、
nは整数であって、
Qは、下記式(3)で表される構造単位および下記式(4)で表される構造単位からなる群より選択される少なくとも1つの構造単位を含み、
【0113】
【0114】
式(2)中、Yの少なくとも一部が、下記式(5)で表される構造単位であり、
【0115】
【0116】
(式中、X2は直接結合、またはエーテル基、カルボニル基、スルホニル基、スルフィド基、アミド基、エステル基、イソプロピリデン基、および六フッ素化イソプロピリデン基からなる群から選択される2価の結合基を示し、
(i)R1~R5のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10はいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表すか、または、
(ii)R1~R5のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの4つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表し、かつ、R6~R10のいずれか1つがアリール基、およびハロゲン化アリール基からなる群から選択される1種を表し、他のいずれか1つがイミド基の窒素原子との直接結合を表し、残りの3つはそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基からなる群から選択される1種を表す。)
式(2)中、分子末端Zの85モル%以上100モル%以下が、下記式(6)および式(7)で表される構造であり、
【0117】
【0118】
【0119】
その残分がある場合の分子末端Zは、イミドオリゴマーの原料である芳香族テトラカルボン酸成分に由来するカルボン酸類末端および/またはイミドオリゴマーの原料である芳香族ジアミン成分に由来するアミン末端であり、かつ、前記式(6)および式(7)で表される構造のうち、50モル%を超え100モル%未満が前記式(6)で表される構造であり、かつ、0モル%を超え50モル%未満が前記式(7)で表される構造である。)。
【0120】
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のイミドオリゴマーを溶媒に溶解してなるワニス。
【0121】
〔8〕〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のイミドオリゴマーを加熱硬化してなる硬化物。
【0122】
〔9〕〔7〕に記載のワニスを加熱硬化してなる硬化物。
【0123】
〔10〕〔7〕に記載のワニスを強化繊維に含浸させてなるプリプレグ。
【0124】
〔11〕〔10〕に記載のプリプレグを加熱硬化してなる繊維強化複合材料。
【0125】
〔12〕〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のイミドオリゴマーの粉末を強化繊維と混合させてなるセミプレグ。
【0126】
〔13〕〔12〕に記載のセミプレグから得られるプリプレグ。
【0127】
〔14〕〔12〕または〔13〕に記載のセミプレグまたはプリプレグを加熱硬化してなる繊維強化複合材料。
【実施例】
【0128】
以下に本発明を説明するための実施例および比較例を示すが、これによって本発明を限定するものではない。まず、各物性の測定条件は次のとおりとした。
【0129】
〔試験方法〕
(1)熱酸化安定性(TOS)
<フィルム形状の硬化物>
60℃以上で20時間以上真空状態で乾燥させた後の重量を基準重量とし、恒温器PHH-201M(エスペック社製)を用いて300℃1000時間、空気循環雰囲気にて熱暴露した後の重量減少を、基準重量に対する重量%で表した。フィルムのサイズは長さ約100mm、幅約50mm、厚み約0.08~0.1mm(実施例1~6、および、比較例1、比較例3、ならびに比較例5)または約0.15mm(実施例7および比較例9)とした。各実施例および比較例につき2つのサンプルの測定値の平均を求めてTOS値とした。
【0130】
<繊維強化複合材料>
前記と同じ装置を用いて300℃で75時間経過した後の重量を基準重量とし、その時点から1000時間熱暴露した後の重量減少を、基準重量に対する重量%で表した。試験片のサイズは長さ82mm、幅15mmとし、各実施例および比較例につき3つのサンプルの測定値の平均をTOS値とした。
【0131】
(2)ガラス転移温度(Tg)
<フィルム形状の硬化物>
Q100型示差走査熱量測定装置(DSC、TAインスツルメンツ社製)を用い、窒素気流下(50mL/min)、昇温速度20℃/minの条件でDSC曲線を測定した。DSC曲線の変曲点における、接線の交点の温度をガラス転移温度とした。
【0132】
<繊維強化複合材料>
DMA-Q-800型動的粘弾性測定装置(DMA、TAインスツルメンツ社製)を用いて、片持ち梁方式、0.1%のひずみ、1Hzの周波数、5℃/minの昇温速度により測定した。貯蔵弾性率曲線が低下する前後における2つの接線の交点をガラス転移温度とした。
【0133】
(3)最低溶融粘度
粉末状のイミドオリゴマーについて、DISCOVERY HR-2型レオメーター(TAインスツルメンツ社製)を用いて、25mmパラレルプレートで昇温速度5℃/min、角周波数6.283rad/s(1.0Hz)、ひずみ0.1%により測定した。なお、最低溶融粘度とは、当該条件にて測定された溶融粘度の最低値を意味する。
【0134】
(4)ワニスの保存安定性
粉末状のイミドオリゴマーを溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に30重量%の濃度となるように溶解させ、室温で静置保存した際に、ワニスの流動性が保持される期間を目視で評価した。
【0135】
(5)引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸び
フィルム形状の硬化物について、引張試験機TENSILON/UTM-II-20(オリエンテック社製)を用いて引張試験を実施した。試験温度は室温とし、引張速度5mm/min、試験片形状は長さ30mm、幅3mmとした。
【0136】
(6)超音波探傷試験
繊維強化複合材料について、超音波探傷装置HIS3(日本クラウトクレーマー社製)を使用し、周波数3.5MHzの探傷プローブを用いて、水中にて測定を行った。
【0137】
(7)断面観察
繊維強化複合材料について、切削した小試験片をエポキシ樹脂(三啓社製、エポホールドR、2332-32R/エポホールドH、2332-8H)に包埋、次いでエポキシ樹脂を硬化した。このエポキシ樹脂表面を研磨機Mecatech 334(PRESI社製)にて研磨することにより、顕微鏡観察用の試料を作製した。この試料を、工業用正立顕微鏡Axio Imager.M2m型(カールツァイスマイクロスコピー社製)を用いて観察した。
【0138】
〔原料化合物〕
また、以下に記載する実施例および比較例において、各原料化合物および溶媒は下記の表示により示した。
PMDA:1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(融点の文献値:286℃)
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(融点の文献値:303℃)
ODA:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(融点の文献値:190~194℃)
Ph-ODA:2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(融点の文献値:115℃)
BAFL:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(融点の文献値:236℃)PEPA:4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物(融点の文献値:149~154℃)
PA:1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)(融点の文献値:130~134℃)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン。
【0139】
〔実施例1〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA7.1263g(0.02579モル)とBAFL0.9984g(0.00287モル)、および溶媒であるNMP23.7916gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA5.0003g(0.02292モル)とNMP9.4931gを投入し、窒素封入後に室温で94時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA2.4185g(0.00974モル)とPA0.2547g(0.00172モル)、およびNMP1.1790gを投入し、窒素封入後に室温で1.5時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下195℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を230℃で30分間、200℃で12時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0140】
〔実施例2〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA7.1263g(0.02579モル)とBAFL0.9988g(0.00287モル)、および溶媒であるNMP23.2927gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA5.0004g(0.02292モル)とNMP10.3655gを投入し、窒素封入後に室温で101時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA2.1339g(0.00860モル)とPA0.42438g(0.00287モル)、およびNMP0.5230gを投入し、窒素封入後に室温で4時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下196℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を200℃で12時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0141】
〔実施例3〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA7.1264g(0.02579モル)とBAFL0.9986g(0.00287モル)、および溶媒であるNMP35.5274gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA5.0000g(0.02292モル)とNMP16.9973gを投入し、窒素封入後に室温で22.5時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.8495g(0.00745モル)とPA0.5943g(0.00401モル)、およびNMP6.3828gを投入し、窒素封入後に室温で1.5時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下195℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を150℃で12時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0142】
〔実施例4〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA7.1264g(0.02579モル)とBAFL0.9986g(0.00287モル)、および溶媒であるNMP36.2155gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA5.0000g(0.02292モル)とNMP15.1156gを投入し、窒素封入後に室温で183時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.5648g(0.00630モル)とPA0.7639g(0.00516モル)、およびNMP7.6417gを投入し、窒素封入後に室温で1時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下192℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を170℃で12時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0143】
〔比較例1〕
攪拌子を備えた三口ナスフラスコに、ジアミン成分であるPh-ODA4.2758g(0.01547モル)とBAFL0.5992g(0.00172モル)、および溶媒であるNMP13.8187gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0001g(0.01375モル)とNMP4.9647gを投入し、窒素封入後に室温で40時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.7071g(0.00688モル)とNMP2.1296gを投入し、窒素封入後に室温で2.5時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて窒素導入管と温度計を取り付け、窒素気流下197℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで775mLのメタノールに投入し、析出した粉末を濾別した。さらに400mLのメタノールで45分洗浄し、濾別して得られた粉末を120~150℃で10時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0144】
〔比較例2〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA4.2758g(0.01547モル)とBAFL0.5992g(0.00172モル)、および溶媒であるNMP16.0287gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA2.9999g(0.01375モル)とNMP13.4252gを投入し、窒素封入後に室温で48時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA0.8537g(0.00344モル)とPA0.5093g(0.00344モル)、およびNMP5.0290gを投入し、窒素封入後に室温で1時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下194℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を236℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。なお、フィルム形状の硬化物は非常に脆く、所定サイズへの切り出し時にフィルムが割れてしまい、熱酸化安定性(TOS)評価に必要なサイズの試験片は得られなかった。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0145】
〔比較例3〕
攪拌子を備えた100mLサンプル瓶にジアミン成分であるPh-ODA6.2174g(0.02250モル)とBAFL0.8711g(0.00250モル)、および溶媒であるNMP24.7200gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA4.3624g(0.02000モル)とNMP3.0900gを投入し、窒素封入後に室温で2時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.8617g(0.00750モル)とNMP3.2960gを投入し、窒素封入後に室温で1時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下180℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を200℃で12時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表1に示す。
【0146】
〔比較例4〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるODA3.0983g(0.01547モル)とBAFL0.5990g(0.00172モル)、および溶媒であるNMP20.2237gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0000g(0.01375モル)とNMP6.0194gを投入し、窒素封入後に室温で24.5時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.2805g(0.00516モル)とPA0.2548g(0.00172モル)、およびNMP4.1972gを投入し、窒素封入後に室温で1.5時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下194℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。イミド化反応中にイミドオリゴマーの析出が見られた。室温まで冷却後、反応液を1000mLのイオン交換水に投入し、沈殿した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を260℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末は室温でNMPに不溶であった。また、このイミドオリゴマーの粉末は300℃以上においても溶融流動性を示さなかったため、ホットプレスによる加熱成形後もフィルムにならず、粉体のままであった。
【0147】
【0148】
〔実施例5〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA4.7509g(0.01719モル)と溶媒であるNMP21.3952gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0000g(0.01375モル)とNMP9.3021gを投入し、窒素封入後に室温で14.5時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.2805g(0.00516モル)とPA0.2546g(0.00172モル)、およびNMP3.9705gを投入し、窒素封入後に室温で30分間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下192℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を250℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表2に示す。
【0149】
〔実施例6〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA4.1176g(0.01490モル)と溶媒であるNMP15.9955gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA1.3001g(0.00596モル)とs-BPDA1.7537g(0.00596モル)、およびNMP9.3748gを投入し、窒素封入後に室温で16.5時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.1096g(0.00447モル)とPA0.2208g(0.00149モル)、およびNMP6.4850gを投入し、窒素封入後に室温で30分間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下191℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を230℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表2に示す。
【0150】
〔比較例5〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA4.7509g(0.01719モル)と溶媒であるNMP19.9848gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0000g(0.01375モル)とNMP11.2325gを投入し、窒素封入後に室温で47.5時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.7071g(0.00688モル)とNMP4.4020gを投入し、窒素封入後に室温で1時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下196℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を230℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表2に示す。
【0151】
〔比較例6〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるODA3.4427g(0.01719モル)と溶媒であるNMP18.4380gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0000g(0.01375モル)とNMP7.4093gを投入し、窒素封入後に室温で26時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA0.8536g(0.00344モル)とPA0.5092g(0.00344モル)、およびNMP3.9770gを投入し、窒素封入後に室温で1.5時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下196℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。イミド化反応中にイミドオリゴマーの析出が見られた。室温まで冷却後、反応液を1000mLのイオン交換水に投入し、沈殿した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を260℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末は室温でNMPに不溶であった。また、このイミドオリゴマーの粉末は300℃以上においても溶融流動性を示さなかったため、ホットプレスによる加熱成形後もフィルムにならず、粉体のままであった。
【0152】
〔比較例7〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるODA3.4426g(0.01719モル)と溶媒であるNMP19.5381gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0000g(0.01375モル)とNMP5.7811gを投入し、窒素封入後に室温で42時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.2805g(0.00516モル)とPA0.2547g(0.00172モル)、およびNMP4.1590gを投入し、窒素封入後に室温で1.5時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下182℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。イミド化反応中にイミドオリゴマーの析出が見られた。室温まで冷却後、反応液を1000mLのイオン交換水に投入し、沈殿した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を260℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末は室温でNMPに不溶であった。また、このイミドオリゴマーの粉末は300℃以上においても溶融流動性を示さなかったため、ホットプレスによる加熱成形後もフィルムにならず、粉体のままであった。
【0153】
〔比較例8〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるODA3.4425g(0.01719モル)と溶媒であるNMP19.3429gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA1.5000g(0.00688モル)とs-BPDA2.0232g(0.00688モル)、およびNMP7.5255gを投入し、窒素封入後に室温で48時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA1.2804g(0.00516モル)とPA0.2545g(0.00172モル)、およびNMP4.6639gを投入し、窒素封入後に室温で1.5時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下189℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。イミド化反応中にイミドオリゴマーの析出が見られた。室温まで冷却後、反応液を1000mLのイオン交換水に投入し、沈殿した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を250℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末は室温でNMPに不溶であった。また、このイミドオリゴマーの粉末は300℃以上においても溶融流動性を示さなかったため、ホットプレスによる加熱成形後もフィルムにならず、粉体のままであった。
【0154】
〔実施例7〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA4.3437g(0.01572モル)と溶媒であるNMP15.9401gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0001g(0.01375モル)とNMP9.4141gを投入し、窒素封入後に室温で14時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA0.7315g(0.00295モル)とPA0.1456g(0.00098モル)、およびNMP5.2537gを投入し、窒素封入後に室温で2時間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下190℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を260℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表2に示す。
【0155】
〔比較例9〕
攪拌子を備えた140mLマヨネーズ瓶にジアミン成分であるPh-ODA4.3437g(0.01572モル)と溶媒であるNMP15.2610gを投入し、室温で攪拌して均一溶液を得た。次いで酸成分であるPMDA3.0001g(0.01375モル)とNMP9.1092gを投入し、窒素封入後に室温で17時間攪拌して均一溶液を得た。さらに末端封止剤成分であるPEPA0.9756g(0.00393モル)とNMP6.6474gを投入し、窒素封入後に室温で30分間攪拌して均一溶液を得た(アミド酸オリゴマー溶液)。続けて溶液を窒素導入管、温度計、攪拌子を備えた三口ナスフラスコに移し、窒素気流下197℃で5時間攪拌しながらイミド化反応させた。室温まで冷却後、反応液を10重量%まで希釈し、次いで1000mLのイオン交換水に投入し、析出した粉末を濾別した。濾別して得られた粉末を260℃で1時間減圧乾燥し、生成物(イミドオリゴマー)を得た。このイミドオリゴマーの粉末を、ホットプレスを用いて370℃で1時間加熱硬化させ、フィルム形状の硬化物を得た。粉末状のイミドオリゴマー、そのワニス、および、そのフィルム形状の硬化物の特性を表2に示す。
【0156】
【0157】
〔比較例10〕
プリプレグの製造装置を用いて、比較例1と同様の手法により作製したイミドオリゴマーのNMP溶液(ワニス)を炭素繊維(三菱ケミカル社製、PYROFIL MR50R12M)に含浸、乾燥させ、一方向プリプレグ(繊維目付140g/m2)を作製した。得られたプリプレグ中に占めるイミドオリゴマーの含有率は34.5重量%、揮発分含有率は14.7重量%であった。なお、揮発分は、250℃、30分間加熱後の重量減少から算出した。得られたプリプレグを切断し、30cm×30cmで[90/0]4s(16ply)の構成で積層した。次いで、離型用ポリイミドフィルムで、積層したプリプレグを包み、45cm×45cmのステンレス板上に設置した。その後、プリプレグを真空ホットプレス機VH1.5-1967(北川精機社製)にて50cm×50cmの熱板上、真空条件下、昇温速度5℃/minで260℃まで加熱した。260℃で2時間保持した後、昇温速度4℃/minで288℃まで加熱し、288℃で40分間保持した。288℃で40分間保持する間に1.4MPaまで加圧した。その後、加圧したまま370℃まで4℃/minで昇温し、370℃で1時間保持した。これを冷却して、平均厚み2.17mmの炭素繊維強化複合材料を得た。成形後の炭素繊維強化複合材料の平均厚みから試算した繊維体積含有率(Vf)は57.3%であった。また、炭素繊維強化複合材料の超音波探傷試験および断面観察の結果から、大きな欠陥(ボイド)のない良品であることが分かった。得られた炭素繊維強化複合材料の特性を表3に示す。
【0158】
〔実施例8〕
プリプレグの製造装置を用いて、実施例2と同様の手法により作製したイミドオリゴマーのNMP溶液(ワニス)を炭素繊維(三菱ケミカル社製、PYROFIL MR50R12M)に含浸、乾燥させ、一方向プリプレグ(繊維目付142g/m2)を作製した。得られたプリプレグ中に占めるイミドオリゴマーの含有率は34.5重量%、揮発分含有率は15.7重量%であった。なお、揮発分は、250℃、30分間加熱後の重量減少から算出した。得られたプリプレグを切断し、20cm×20cmで[90/0]4s(16ply)の構成で積層した。次いで、離型用ポリイミドフィルムで、積層したプリプレグを包み、45cm×45cmのステンレス板上に設置した。その後、プリプレグを真空ホットプレス機VH1.5-1967(北川精機社製)にて50cm×50cmの熱板上、真空条件下、昇温速度5℃/minで260℃まで加熱した。260℃で2時間保持した後、昇温速度4℃/minで288℃まで加熱し、288℃で40分間保持した。288℃で40分間保持する間に1.4MPaまで加圧した。その後、加圧したまま370℃まで4℃/minで昇温し、370℃で1時間保持した。これを冷却して、平均厚み2.15mmの炭素繊維強化複合材料を得た。成形後の炭素繊維強化複合材料の平均厚みから試算した繊維体積含有率(Vf)は58.7%であった。また、炭素繊維強化複合材料の超音波探傷試験および断面観察の結果から、大きな欠陥(ボイド)のない良品であることが分かった。得られた炭素繊維強化複合材料の特性を表3に示す。
【0159】
【0160】
〔結果の説明〕
(A)芳香族テトラカルボン酸成分として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物を、(B)芳香族ジアミン成分として2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを、(C)末端封止剤として、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物および1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)を用いた実施例1~4は、(C)として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物のみを用いた比較例1よりも熱酸化安定性(TOS)が改良されている。このことから、(C)としてフェニルエチニル基を含む化合物および付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物を併用することが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。
【0161】
(C)として、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物および1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)を等モル量使用した比較例2では、実施例1~4と比べて、硬化物の靭性が非常に低く(脆く)なった。それゆえ比較例2では熱酸化安定性(TOS)評価に必要なサイズの試験片を採取できなかった。このことから、(C)として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物および1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)を併用する場合には、その比率に適切な範囲があることが分かる。なお、硬化物の靭性が非常に低く(脆く)なったのは、イミドオリゴマー中の付加反応性官能基の量が減りすぎたためと考えられる。
【0162】
また、比較例3では、(C)である4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物のモル量が、化学量論量よりも少なく、イミドオリゴマーの分子末端として、原料である(B)に由来するアミン末端が多く残存していると思われる。この比較例3も熱酸化安定性(TOS)が十分ではなかった。比較例3における、(C)のモル量は、(B)のモル量と(A)のモル量との差に相当するモル量の、1.5倍であった。他方、実施例1~4における、対応するモル量の比率は、2.0倍であった。このことから、(C)は、イミドオリゴマーの分子末端に対応する化学量論量に対して、好ましい範囲が存在することが分かる。比較例3において熱酸化安定性(TOS)が十分ではなかった理由は、原料である(B)に由来するアミン末端が多く残存していると、分解などの副反応が引き起こされやすいためであると推測している。
【0163】
比較例4は、(B)として2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの代わりに4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを用いた以外は実施例2と同様の原料組成である。しかしながら、比較例4で得られたイミドオリゴマーは高温で溶融流動性を示さず、ホットプレスで加熱成形後もフィルム形状の硬化物は得られず評価不可能であった。ここで、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルは、非対称かつ非平面構造を有する成分である。一方、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルは、対称かつ非平面構造を有する成分であり非対称かつ非平面構造を有する成分ではない。また、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンは、対称だが非平面構造を有する成分なので、全体としては非対称かつ非平面構造を有する成分ではない。このことから、(A)および/または(B)が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含むことが必要であることが分かる。本発明の実施例においては、(B)に非対称かつ非平面構造を導入しているが、本発明の本質においてはそれに限られるものではなく、(A)に非対称かつ非平面構造を導入してもよく、(A)および(B)の両方に非対称かつ非平面構造を導入してもよい。
【0164】
実施例5では、(A)として1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物を、(B)として2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルのみを使用し、(C)として、4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物および1,2-ベンゼンジカルボン酸無水物(無水フタル酸)を用いた。この実施例5は、末端封止剤として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物のみを用いた比較例5よりも熱酸化安定性(TOS)が改良されている。このことから、(C)としてフェニルエチニル基を含む化合物および付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物を併用することが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。実施例5における(C)のモル量は、(B)のモル量と(A)のモル量との差に相当するモル量の、2.0倍であった。
【0165】
比較例6および比較例7では、(B)として、2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの代わりに4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを用いた。この比較例6および比較例7では、実施例5と比較すると、得られたイミドオリゴマーは高温で溶融流動性を示さず、ホットプレスで加熱成形後もフィルム形状の硬化物は得られず評価不可能であった。このことから、(A)および/または(B)が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含むことが必要であることが分かる。
【0166】
比較例8は、(B)として2-フェニル-4,4’-ジアミノジフェニルエーテルの代わりに4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを用いた以外は実施例6と同様の原料組成である。しかしながら比較例8で得られたイミドオリゴマーは高温で溶融流動性を示さず、ホットプレスで加熱成形後もフィルム形状の硬化物は得られず評価不可能であった。このことから、(A)および/または(B)が、非対称かつ非平面構造を有する成分を含むことが必要であることが分かる。
【0167】
さらに、実施例5のイミドオリゴマーの設定重合度nを高くした実施例7は、設定重合度nが同様で、(C)として4-(2-フェニルエチニル)フタル酸無水物のみを用いた比較例9よりも熱酸化安定性(TOS)が改良されている。このことから、設定重合度nが高い場合であっても、(C)としてフェニルエチニル基を含む化合物および付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物を併用することが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。実施例7における、(C)のモル量は、(B)のモル量と(A)のモル量との差に相当するモル量の、2.0倍であった。
【0168】
実施例2で得られたイミドオリゴマーを使用し作製された炭素繊維強化複合材料(実施例8)は、比較例1で得られたイミドオリゴマーを使用し作製された炭素繊維強化複合材料(比較例10)よりも熱酸化安定性(TOS)が改良されている。このことから、イミドオリゴマーを使用し作製された炭素繊維強化複合材料においても、(C)としてフェニルエチニル基を含む化合物および付加反応性の炭素-炭素不飽和結合を含まない化合物を併用することが本発明の一実施形態には必須であることが分かる。
【0169】
なお、保存安定性および引張試験結果については、末端封止剤の組成が異なる実施例および比較例の間で同程度の結果を示していれば、実施例では、流動性および強度が損なわれることなく、熱酸化安定性が改善されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明の一実施形態は、航空機、宇宙産業用機器、一般産業用途および車輌用エンジン(周辺)部材をはじめとした易成形性、高耐熱性および高い熱酸化安定性が求められる広い分野で利用可能である。