(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】胎児心拍監視システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/344 20210101AFI20240115BHJP
A61B 5/288 20210101ALI20240115BHJP
【FI】
A61B5/344
A61B5/288
(21)【出願番号】P 2020025132
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019029923
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】519062030
【氏名又は名称】株式会社クラウドセンス
(74)【代理人】
【識別番号】100118728
【氏名又は名称】中野 圭二
(74)【代理人】
【識別番号】100114638
【氏名又は名称】中野 寛也
(74)【代理人】
【識別番号】100145126
【氏名又は名称】金丸 清隆
(72)【発明者】
【氏名】木村 芳孝
(72)【発明者】
【氏名】武田 立
(72)【発明者】
【氏名】脇 秀則
(72)【発明者】
【氏名】冨田 尚
(72)【発明者】
【氏名】小出 邦博
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110051(WO,A1)
【文献】特開2006-204759(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0255184(US,A1)
【文献】特表2014-500742(JP,A)
【文献】特開2009-160410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03
A61B 5/25-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体腹壁に装着する一又は二以上の皮膚用電極と、
前記皮膚用電極から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号
を分離抽出する演算装置と、
前記皮膚用電極から出力される生体電位信号を前記演算装置に送信する通信手段と、
心電図または心拍数を表示する表示装置と、を有
し、
前記演算装置が、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出する演算を行い、心電図または心拍数として利用可能な情報を含む波形の信号を出力する手段と、前記波形の信号を複数の回数分または複数の人数分を蓄積できる記憶手段と、前記記憶手段に蓄積された前記波形の信号群から、一または二以上の前記波形の信号を読み出す読出手段と、計測された心電図波形または心電図から得られる情報と類似している前記波形の信号を検索する検索手段と、を備えた胎児心拍監視システム。
【請求項2】
絶縁性樹脂フィルムの片面に複数の前記皮膚用電極が配置された電極シートと、
前記皮膚用電極から出力されるアナログの生体電位信号を増幅する複数の増幅器と、
前記増幅器の出力信号をデジタル信号に変換する複数のA/D変換器と、
複数の前記デジタル信号を直列または並列に構成して送信する送信手段と、を有する請求項1に記載の胎児心拍監視システム。
【請求項3】
前記送信手段が前記デジタル信号を無線送信する機能を備え、該デジタル信号を受信する受信手段と、
複数の前記デジタル信号を直列または並列に構成した信号をパケット化してネットワーク経由で所定の演算装置に送出する送出手段と、を有し、
該演算装置は、複数の前記デジタル信号の一部または全部に対して生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出する演算を行い、心電図または心拍数として利用可能な情報を含む波形の信号を出力する請求項2に記載の胎児心拍監視システム。
【請求項4】
前記演算装置が、前記検索手段の検索結果に付随する関連情報を前記表示手段に表示させて通知する手段を備えた請求項1乃至3の何れか一項に記載の胎児心拍監視システム。
【請求項5】
前記演算装置が、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を参照系独立成分分析法により分離抽出する請求項1乃至4の何れか一項に記載の胎児心拍監視システム。
【請求項6】
前記演算装置がクラウド上に設置されると共に、患者側端末と医師側端末がインターネットを介して該演算装置に接続され、
前記患者側端末は、前記生体電位信号を前記演算装置に送信する機能と、表示装置に心電図、心拍数または前記関連情報を表示させる機能とを備えたプログラムを有し、
前記医師側端末は表示装置に心電図、心拍数または前記関連情報を表示させる機能を備えたプログラムを有する
請求項4に記載の胎児心拍監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、妊婦の胎内にある胎児について、母体から、非侵襲的手段により胎児の心電図および母体の生理的信号を得ることができる胎児心拍監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本件発明の背景として、現在国内では総出産数90万件のうち、異常分娩が約30%あり、中でも帝王切開の偽陽性(本来不要な手術)がその60~80%に達しているとの情報がある。この偽陽性は、従来型胎児心拍計の測定精度の低さから、心拍の細変動が正確に観測できないことに起因している。
【0003】
東北大学の木村芳孝教授らが開発した胎児心電計は、従来型胎児心拍計より格段に高い精度で胎児の心拍動を観測でき、低酸素状態胎児のより高精度の観測を可能にしている。また、この胎児心電計は母体の子宮筋電の同時並行測定もでき、陣痛予兆の観測も可能となっている。
【0004】
この技術は、先に登録された特許5769309号に開示された「参照系独立成分分析法」により、母体の腹壁に装着する複数の皮膚電極から得たアナログ信号を基に、デジタル演算により抽出される胎児心電図であって、胎児の心電図を出産前に推計して出力するものである。この心電図は、成人の心電図と同様に全身の生理的健康状態を端的に表現でき、出産前でありながら胎児の健康状態の監視・推定に極めて有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4590554号公報
【文献】特許4792584号公報
【文献】特許5769309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、広く使用されている従来型胎児心拍計は、心拍動の物理的変位を観測して胎児心拍を計測する原理なので、測定精度の低さから、胎児心拍の細変動が正確に観測できないという課題がある。そのため、現在国内では異常分娩が総出産数の約30%あり、この中でも帝王切開の偽陽性(本来不要な手術)がそのうち60~80%に達しているとの情報がある。
【0007】
これを解決する手段として、特許文献1に記載の「参照系独立成分分析法」により、母体の腹壁に装着する複数の皮膚電極から得たアナログ信号を基に、デジタル演算により抽出される胎児の心電図を、出産前に推計して出力する技術が開発され、既に商品化されている。アトムメディカル株式会社から産科医向けの心拍数モニタに組み込まれた装置が、2018年から市販されている。
【0008】
しかし、異常分娩につながる違和感などが妊婦に感知されるのは、これまでの経験から大半が在宅中であり、夜間が多いことが知られている。「異常か正常か、医者に診てもらうべきか否か」などの妊婦の不安解消と異常分娩の対処には、「在宅型の計測による遠隔診断」を実現することが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、母体腹壁に装着する一又は二以上の皮膚用電極と、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を参照系独立成分分析法により分離抽出する演算装置と、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号を前記演算装置に送信する通信手段と、心電図または心拍数を表示する表示装置と、を有する胎児心拍監視システムを提供するものである。
【0010】
また、本発明は、絶縁性樹脂フィルムの片面に複数の前記皮膚用電極が配置された電極シートと、前記皮膚用電極から出力されるアナログの生体電位信号を増幅する複数の増幅器と、前記増幅器の出力信号をデジタル信号に変換する複数のA/D変換器と、複数の前記デジタル信号を直列または並列に構成して送信する送信手段と、を有する。
【0011】
また、本発明は、前記送信手段が前記デジタル信号を無線送信する機能を備え、該デジタル信号を受信する受信手段と、複数の前記デジタル信号を直列または並列に構成した信号をパケット化してネットワーク経由で所定の演算装置に送出する送出手段と、を有し、該演算装置は、複数の前記デジタル信号の一部または全部に対して生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出する演算を行い、心電図または心拍数として利用可能な情報を含む波形の信号を出力するものである。
【0012】
また、本発明は、前記演算装置が、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出する演算を行い、心電図または心拍数として利用可能な情報を含む波形の信号を出力する手段と、前記波形の信号を複数の回数分または複数の人数分を蓄積できる記憶手段と、を有する。
【0013】
また、本発明は、前記演算装置が、前記記憶手段に蓄積された前記波形の信号群から、一または二以上の前記波形の信号を読み出す読出手段と、計測された心電図波形または心電図から得られる情報と類似している前記波形の信号を検索する検索手段と、検索結果に付随する関連情報を前記表示手段に表示させて通知する手段と、を有する。
【0014】
また、本発明は、前記演算装置がクラウド上に設置されると共に、患者側端末と医師側端末がインターネットを介して該演算装置に接続され、前記患者側端末は、前記生体電位信号を前記演算装置に送信する機能と、表示装置に心電図、心拍数または前記関連情報を表示させる機能とを備えたプログラムを有し、前記医師側端末は表示装置に心電図、心拍数または前記関連情報を表示させる機能を備えたプログラムを有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の胎児心拍監視システムは、母体腹壁に装着する一又は二以上の皮膚用電極と、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を参照系独立成分分析法により分離抽出する演算装置と、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号を前記演算装置に送信する通信手段と、心電図または心拍数を表示する表示装置と、を有することにより、母体腹壁皮膚で得られる極めて微弱な(数μボルト)胎児心電信号を、母体心電信号、母体筋電信号、多様な母体雑音などの中から分離抽出することができ、従来は困難だった妊娠初期(第24週頃)の胎児の心拍数を高精度かつ安定的にリアルタイムで測定できる効果がある。
【0016】
また、本発明の胎児心拍監視システムは、絶縁性樹脂フィルムの片面に複数の前記皮膚用電極が配置された電極シートと、前記皮膚用電極から出力されるアナログの生体電位信号を増幅する複数の増幅器と、前記増幅器の出力信号をデジタル信号に変換する複数のA/D変換器と、複数の前記デジタル信号を直列または並列に構成して送信する送信手段と、を有することにより、妊婦自身による皮膚用電極の装着が容易になるのみならず、妊婦宅に演算装置が不要であることから、在宅での測定を安価で容易とするので、異変の発生しやすい夜間・早朝などを含む24時間体制の胎児状態の観測と、これに基づく現認診断または遠隔診断が可能になる効果がある。
【0017】
本発明は、異常の早期発見につながるのみならず、在宅での継続測定を可能にすることで、初産妊婦が常に持ち続ける「不安の解消」にも大きな効果をもたらしている。
【0018】
また、本発明の胎児心拍監視システムは、前記送信手段が前記デジタル信号を無線送信する機能を備え、該デジタル信号を受信する受信手段と、複数の前記デジタル信号を直列または並列に構成した信号をパケット化してネットワーク経由で所定の演算装置に送出する送出手段と、を有し、該演算装置は、複数の前記デジタル信号の一部または全部に対して生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出する演算を行い、心電図または心拍数として利用可能な情報を含む波形の信号を出力することにより、母体腹壁皮膚で得られる極めて微弱な(数μボルト)胎児心電信号を、母体心電信号、母体筋電信号、多様な母体雑音などの中から、数学的解析を用いるデジタル処理で分離抽出することができる。
【0019】
また、本発明の胎児心拍監視システムは、前記演算装置が、前記皮膚用電極から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出する演算を行い、心電図または心拍数として利用可能な情報を含む波形の信号を出力する手段と、前記波形の信号を複数の回数分または複数の人数分を蓄積できる記憶手段と、を有することにより、定期検診時または出産時に履歴データを参照することで次の診断に役立てることができる効果がある。
【0020】
また、本発明の胎児心拍監視システムは、前記演算装置が、前記記憶手段に蓄積された前記波形の信号群から、一または二以上の前記波形の信号を読み出す読出手段と、計測された心電図波形または心電図から得られる情報と類似している前記波形の信号を検索する検索手段と、検索結果に付随する関連情報を前記表示手段に表示させて通知する手段と、を有することにより、計測された心電図波形または心電図に基づいて、安定の程度に応じたアラート(緑、黄色、赤など)を明示することができる。
【0021】
また、本発明の胎児心拍監視システムは、前記演算装置がクラウド上に設置されると共に、患者側端末と医師側端末がインターネットを介して該演算装置に接続され、前記患者側端末は、前記生体電位信号を前記演算装置に送信する機能と、表示装置に心電図、心拍数または前記関連情報を表示させる機能とを備えたプログラムを有し、前記医師側端末は表示装置に心電図、心拍数または前記関連情報を表示させる機能を備えたプログラムを有することにより、演算装置をネット側に実装し信号解析をネット上で実行することができ、解析結果を在宅の妊婦が保有するスマートフォンや、担当医師の手元などへ提示することを可能とするから、的確な診断や安心のための説明・助言が可能となる効果がある。
【0022】
本発明は、今後割合が増加する傾向の初産婦に、医師からの的確な案内・説明を可能にすることができ、女性の社会進出という近未来社会のニーズに応え、これを後押しすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の胎児心拍監視システムの一実施例を示すブロック図。
【
図2】本発明の胎児心拍監視システムの他の実施例を示すブロック図。
【
図3】本発明の胎児心拍監視システムの一実施例を示す構成図。
【
図4】本発明の胎児心拍監視システムのサービス概要図。
【
図5】表示装置であるスマートフォン上画面のイメージ図。
【
図6】本発明の電極シートの一実施例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、在宅で測定観測できるクラウド型胎児モニタリングシステムである。
本発明の胎児心拍監視システムは、母体腹壁に装着する一又は二以上の皮膚用電極1と、皮膚用電極1から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を参照系独立成分分析法により分離抽出する演算装置2と、皮膚用電極1から出力される生体電位信号を演算装置2に送信する通信手段5と、心電図または心拍数を表示する表示装置7と、を有する。
【0025】
日本では年間90万件の出産のうち30万件が何らかの異常分娩となっている。その中で特に重篤なものは周産期死亡を引き起こし、また、そこまで至らなかった症例でも新生児脳性麻痺を発症している。現行の胎児モニタリングの方法では心拍数での異常検出に限界があり、偽陽性率は60%以上と非常に高く帝王切開(約20万例/年)の内の12万例は不要だったと考えられている。また、逆の見落としもあり、500人に1人が脳性麻痺に繋がりかねない新生児脳症を起こしている。
【0026】
発明者らが発明開発した胎児心電計は、胎児の心電を母体の皮膚用電極から、非侵襲・実時間で高精度モニタリングできる世界初の実用化技術である。本装置により心奇形、低酸素症、感染症などの胎児における重篤な障害を早期に正確に観測できる可能性から世界的に注目を集めており、分娩監視装置に搭載し、医院用として実用化されている。
【0027】
この分娩監視装置では、母体腹壁皮膚信号から子宮筋電図を計測するシステムも同時に構築でき、この子宮筋電図から0.5Hz成分の有効陣痛を検出でき、早産・通常分娩に対応可能となっている。この胎児心電計と子宮筋電計を用いることで、前記の異常分娩の早期発見を導き出すことが可能となった。
【0028】
上記技術は、アトムメディカル株式会社製の胎児心電計に分娩監視装置の一部として搭載され、病院内で利用されている。しかしながら、分娩は早朝が多く、妊娠中は夜間から早朝にかけて子宮収縮の頻度が増すことが多い。妊婦に異変が発生したり、妊婦が違和感に気づいたりするは、特に夜間などその大半が在宅中であり、病院外であることが多い。また、医療過疎地や遠隔地などにおいては病院に行くまで長時間を要し、都市部においても、女性の社会進出が進む現状では、病院外でも妊娠の状態を測定・監視できる仕組みは社会的ニーズが高い。
【0029】
本発明の胎児心拍監視システムは、産科医向けの分娩監視装置に用いられている13個のセンサー電極1を、一枚の電極シート10の片面に配置して電極相互の位置関係をあらかじめ固定することにより取扱を容易にしている。さらに、本発明は、解析演算部である演算装置2をクラウド側に分離して妊婦側のハードウエア負担を軽減することにより、在宅での胎児心電図取得を簡便・安価に可能とすること、並びに該心電図を担当産科医と共有して現認診断または遠隔診断を可能とすることを目的としている。本発明は、妊産婦の不安解消と不要手術発生数の抑制を目指すものであり、更には前述の異常分娩を早期に検知して、必要な対処を促すことを可能にしている。
【0030】
本発明は、母体腹壁に装着する複数個の皮膚用電極と、クラウド上に設置した「参照系独立成分分析法」を実行する演算装置と、該両者をパケット接続する通信手段と、時間図形表示手段と、からなる胎児心電図作成・表示方法および装置である。
【0031】
また、本発明は、母体腹壁に装着する複数個の皮膚用電極1が絶縁性樹脂フィルム11の片面に形成され、この電極1から得たアナログ信号を導線12により複数の増幅器13に入力する手段を有し、該増幅器13の出力信号をデジタル信号に変換する複数のA/D変換器14を有し、A/D変換後の複数のデジタル信号を直列または並列に構成したのち無線送信する送信手段15を有する、胎児心電図作成・表示方法および装置である。
【0032】
また、本発明は、前記無線送信した複数のデジタル信号を受信する受信手段を有し、該複数のデジタル信号を直列または並列に構成したのちパケット化してからインターネット経由で所定の演算装置2に送出する送出手段を有し、該演算装置2は13個以下の入力信号に対して演算を行い、心電図として利用可能な情報を含む波形の信号を出力する胎児心電図作成・表示方法および装置である。
【0033】
また、本発明は、心電図として利用可能な情報を含む波形の信号を出力する演算装置2であって、該演算装置2は、信号波形を複数回数分または複数人数分を蓄積できる記憶手段6を有することを特徴とする胎児心電図作成・表示方法および装置である。
【0034】
また、本発明は、前記演算装置2が、記憶手段6から蓄積された該信号波形データ群から、任意の波形データ群を読み出す手段を有し、あらたに観測された心電図波形および心電図から得られる情報と類似している1群を検索する手段を有し、検索結果に付随する関連情報を表示または通知する手段を有することを特徴とする胎児心電図作成・表示方法および装置である。
【0035】
本発明の胎児心拍監視システムは、東北大学が独自に開発した「参照系独立成分分析法」により、母体腹壁皮膚で得られる極めて微弱な(数μボルト)胎児心電信号を、母体心電信号、母体筋電信号、多様な母体雑音などの中から、数学的解析を用いるデジタル処理で抽出する技術で構成され、必要な認可手続きを経て、産科医院向けに商用化できるレベルに到達した。その結果、従来は困難だった妊娠初期(第24週頃)の胎児の心拍数を高精度かつ安定的にリアルタイムで測定できることが実証されている。
【0036】
参照系独立成分分析法としては、例えば特許5769309号に開示された手法を用いることができる。演算装置2は、時間順に要素が並んだ時系列信号から要素を選択して複数個の短時系列信号を生成する生成部であって、前記時系列信号からは、選択される要素の時間範囲が互いに異なり、かつ、一部重複する2個以上の短時系列信号を生成する生成部と、抽出する独立信号の時間的特徴を示す参照信号を作成する参照信号作成部と、前記生成部で生成された複数個の前記短時系列信号を分析対象として、前記参照信号に基づいて参照系独立成分分析を行い、独立信号を抽出する参照系独立成分分析部と、を備える。
【0037】
参照系独立成分分析部では、前記生成部で生成された複数個の前記短時系列信号を分析対象として、参照信号に基づいて参照系独立成分分析を行い、独立信号を抽出する。本発明の胎児心拍監視システムでは、
図7に示すように、皮膚用電極1から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出している。また、演算装置2は、生体電位信号の中から子宮筋電信号を分離抽出してもよい。
【0038】
東北大学の木村教授らが開発した胎児心電計は格段に高い精度で胎児の心拍動を観測でき、低酸素状態胎児のより精度の高い観測を可能にしている。
図8に示すように、当技術は母体の子宮筋電の同時並行測定もでき、陣痛予兆の観測も可能となっている。
【0039】
本発明は、当システムの電極1を一枚のシート状にして取り扱いを容易にし、解析部である演算装置2をクラウド側に分離することで、在宅での当該機利用を可能にし、前述の異常分娩と不要手術発生数の抑制を目的としている。
【0040】
異常分娩につながるような違和感などが検知されるのは、その大半が在宅中、夜間となっており、妊婦の課題解決には在宅計測および遠隔診断を実現する必要がった。本発明は、在宅で測定観測できるクラウド型胎児モニタリングシステムを実現するためにハードウエアの改良とソフトウェアの開発を行ったものである。
【0041】
ハードウエアの改良は、妊婦自身による測定を容易かつ確実にするために、13個の皮膚用電極1を1枚の絶縁性樹脂フィルム11に配置した電極シート10を用い、簡便で確実な装着を可能にした。電極シート10は、アンプや通信部を極力小さく構成して、装着時の違和感および負担を最小化している。
【0042】
ソフトウェアの開発は、胎児状態の観測に対して、24時間対応を実現するための波形解読の自動化と、異常検出時の患者へのアラート通知と、医師への異常通知の自動化を行った。
【0043】
母体腹壁皮膚での胎児心電電圧は数μボルトと極めて微小であり、その他の生体信号(脳波、神経波、各筋電信号)はそれ以上の電圧を持つ信号であるにもかかわらず、胎児心電波形が簡便に測定できる上記技術は、目的に応じた様々な生体信号の観測収集を可能とする。
【0044】
これをクラウド型で実現する本発明は、分娩直前の妊婦支援のみならず、不整脈の検出から心不全の予防を試みるなど、個々の生体信号の利用の仕方や目的を大幅に拡大することができる。他の目的については個々に検証開発が必要になるが、遠隔の常時・随時測定による障害・疾病の予防・予知を可能にし、多くの遠隔診断事業を拡大するものとなる。
【0045】
また、演算装置2は、AI(人口知能)による胎児心電図波形の自動読取を行っている。AIによる自動読図は、胎児心電波形に限らず、人の心電波形など種々の波形の読図のみならず、レントゲン写真、顕微鏡写真などの画像の読図にも適用でき、あらゆる生体情報の自動診断支援に適用可能である。
【0046】
本発明は、母体の腹壁皮膚に胎児を囲むように13極の電極1を装着すると、胎児心電を含む、おなかの中の生体信号が複合化された形で13種類採取される。本発明は、この雑多に入り混じった複合信号を数学的に空間変換しながら、心電波形の特徴量を抽出するというアルゴリズム(参照系独立成分分析法)を用いて、胎児心電、母体心電など個々の生体信号をリアルタイムに引き出すことができる。
【実施例1】
【0047】
図1は、本発明の胎児心拍監視システムの一実施例を示すブロック図である。本発明の胎児心拍監視システムは、母体腹壁に装着する一又は二以上の皮膚用電極1と、皮膚用電極1から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を参照系独立成分分析法により分離抽出する演算装置2と、皮膚用電極1から出力される生体電位信号を演算装置2に送信する通信手段5と、心電図または心拍数を表示する表示装置7と、を有する。
【0048】
本発明の胎児心拍監視システムは、絶縁性樹脂フィルム11の片面に13個の皮膚用電極1が配置された電極シート10と、皮膚用電極1から出力されるアナログの生体電位信号を導線12により複数の増幅器13に入力する入力手段と、増幅器13の出力信号をデジタル信号に変換する複数のA/D変換器14と、複数のデジタル信号を直列または並列に構成して無線送信する送信手段15と、を有する。
【0049】
電極シート10は、13個の皮膚用電極1を一枚の絶縁性樹脂フィルム11に一体化して実装され、一枚のシート状フィルムに形成されている。電極シート10は、一体成型によりノイズが低減され、電極位置誤差の予防や装着感の負担が低減される。
【0050】
電極シート10には、増幅器13であるアンプと、A/D変換器14と、省電力・小型化の通信手段5が一体的に設けられている。
【0051】
本実施例において、演算装置2は、クラウド上に設置されると共に、患者側端末3と医師側端末4が通信手段5であるインターネットを介して演算装置2に接続されている。患者側端末3および医師側端末4には、スマートフォン、タブレットなどの携帯端末やパーソナルコンピューターを用いることができる。
【0052】
患者側端末3は、電極シート10の送信手段15から無線送信されたデジタル信号を受信する受信手段を有し、複数のデジタル信号を直列または並列に構成した信号をパケット化してインターネット経由で所定の演算装置2送信する機能と、該演算装置2で分離抽出された胎児心電図信号を受信して、表示装置7に心電図、心拍数、関連情報などを表示させる機能と、を備えたプログラムを実装している。
【0053】
医師側端末4は、演算装置2で分離抽出された胎児心電図信号を受信して、表示装置7に心電図、心拍数、関連情報などを表示させる機能を備えたプログラムを実装している。患者側端末3は、電極シート10からデジタル信号を無線送信で受信できることが好ましいが、
図2に示すようにUSBケーブルなどを介して受信する構成としてもよい。
【0054】
患者側端末3および医師側端末4は、テレビ通話機能を備えていることが好ましく、
図5に示すように、関連情報と共に表示される「医師と相談」ボタンをタッチすることにより、所定の医師側端末4とテレビ通話できるように構成してもよい。
【0055】
演算装置2は、皮膚用電極1から出力される生体電位信号の中から胎児心電図信号を分離抽出する演算を行い、心電図または心拍数として利用可能な情報を含む波形の信号を出力する手段と、波形の信号を複数の回数分または複数の人数分を蓄積できる記憶手段6と、を有している。演算装置2は、表示装置7に胎児心電図を表示させることが好ましいが、胎児心拍数を表示させてもよい。
【0056】
演算装置2は、記憶手段6に蓄積された波形の信号群から、一または二以上の波形の信号を読み出す読出手段と、計測された心電図波形または心電図から得られる情報と類似している波形の信号を検索する検索手段と、検索結果に付随する関連情報を表示手段7に表示させて通知する手段と、を有している。演算装置2は、
図5に示すように関連情報として、安定の程度に応じたアラート(緑、黄色、赤など)を表示させる。
【0057】
以下、本発明によるサービスのフローについて説明する。
【0058】
(1)妊娠24週以降の妊婦に、在宅測定用電極シート10、信号送受用のスマートフォン(患者側端末3)をレンタルさせる。
【0059】
(2)週に1回から数回定期的に、あるいは何らかの違和感のあるときに、電極シート10を腹壁皮膚に装着し、スマートフォンアプリを起動することで測定が開始される。
【0060】
(3)電極シート10で取得した信号がスマートフォンを経由し、クラウド上に設置した演算装置2へ送信される。
【0061】
(4)この信号がリアルタイムにクラウド上の演算装置2で解析され、胎児・母体心電信号等として、スマートフォンに返信されて表示される。
【0062】
(5)同時にAIで信号解析され、その安定の程度に応じたアラート(緑、黄色、赤など)を明示する。必要に応じて、担当医とテレビ電話会議モードでの相談が可能となる。「緑:これまでと大きな変化はない。黄色:12時間以内に病院へ。赤:今すぐ病院へ。」などをメッセージする。
【0063】
患者側端末3としてのスマートフォンは、例えば出産までの5か月間レンタルされ、その間の測定データはクラウドに蓄積され、担当医は定期検診時あるいは出産時に履歴データを参照することで次の診断に役立てることができる。妊婦は、夜間に苦痛や違和感を覚えることが多いことから、本発明の胎児心拍監視システムは24時間体制で運用されていることが好ましい。
【0064】
現状では、在宅時に苦痛や違和感を覚えた場合に、電話での相談しかできないため、医師は適切な判断ができず深夜であっても妊婦に来院してもらうしかない。本機器を利用すれば、在宅測定で遠隔観察が可能となり、より適切な判断ができ、異常のない場合には不要な来院がなくなり、妊婦・医師の負担が軽減される。逆に異常があった場合には、手遅れを誘引しないことが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本胎児心電計は、参照系独立成分分析法により、母体腹壁皮膚で得られる極めて微弱な(数μボルト)胎児心電信号を、母体心電信号、筋電信号、ならびに多様な母体雑音などの中から、数学的解析と似たデジタル処理で抽出する技術で構成され、実用化できるレベルになっている。その結果、従来は困難だった妊娠初期の胎児心電を安定的にリアルタイムで測定できる。
【0066】
また、本発明により、演算のクラウド化と電極の簡便装着が可能で異変の発生しやすい在宅・夜間等の測定を可能とする。これにより異常の早期発見につながるのみならず、在宅での測定を可能にするので、初産妊婦が常に持ち続ける「不安の解消」にも大きな効果をもたらす。
図3に示すように、演算装置をネット側に実装し信号解析をネット上で実行することにより、解析結果を在宅のスマートフォンや、担当医師のPCなどへ提示することを可能とし、クラウド型測定を実証している。
【0067】
さらに、妊娠の高齢化などから異常分娩割合(早産、帝王切開、脳性麻痺など)が現在でも約30%と高くなっており、在宅での胎児心電測定によりそれらの異常の早期発見と異常分娩への対策の有効性を高めることが可能となり、医療費の削減が期待できる。
【0068】
人体皮膚から得られる各種の体内生理信号を、クラウド形で演算して解析することは、分娩直前の妊婦支援のみならず、一般成人の不整脈の検出や心電図・筋電図波形の観測にも応用が可能で、心不全の早期発見・予防に役立てるなど、一般成人の生体生理信号の利用の仕方や目的を大幅に拡大する。これらについては個々に検証のための開発と当局による認証が必要であるが、遠隔診断用途の在宅随時測定は、機能障害や疾病の予防・予知を可能にし、多くの遠隔診断事業を拡大する。
【符号の説明】
【0069】
1 皮膚用電極
2 演算装置
3 患者側端末
4 医師側端末
5 通信手段
6 記憶手段
7 表示装置
10 電極シート
11 絶縁性樹脂フィルム
12 導線
13 増幅器
14 A/D変換器
15 送信手段