(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】酸化物系電極触媒及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20240115BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20240115BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240115BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/96 M
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2020140268
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2022-05-06
(31)【優先権主張番号】P 2020037487
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真人
(72)【発明者】
【氏名】平田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】石原 顕光
(72)【発明者】
【氏名】永井 崇昭
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-206700(JP,A)
【文献】特開2015-092437(JP,A)
【文献】特開2000-038390(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167407(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/023964(WO,A1)
【文献】特開昭58-186169(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128287(WO,A1)
【文献】特開2017-202463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ及び下記一般式(1)で表されるテトラピラジノポルフィラジン誘導体を含有する混合物
を焼成して得られるものであり、
前記混合物中の前記テトラピラジノポルフィラジン誘導体の含有量が、前記カーボンナノチューブ100質量部に対して、5~200質量部であり、
前記カーボンナノチューブのBET比表面積が、50~500m
2/gであり、
以下に示す条件で測定される、可逆水素電極を参照極とした反応開始電位が、0.9V以上である酸化物系電極触媒。
[条件]:グラッシーカーボンロッドの電極面に前記酸化物系電極触媒を担持した作用極を使用し、30℃の温度条件下、0.1mol/L硫酸水溶液中、電位走査法により測定される、酸素還元電流が-10mA/gとなるときの反応開始電位。
(前記一般式(1)中、Mは、酸素原子が結合したチタンを示す)
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物系電極触媒を酸素還元極とした固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラピラジノポルフィラジン誘導体を触媒前駆体とする酸化物系電極触媒、及びそれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、高い理論エネルギー変換効率を示すとともに、高出力が得られるため、家庭用定置電源として実用化されており、燃料電池自動車の動力源としての開発も進んでいる。但し、PEFCには空気極での酸素還元反応が遅いといった欠点があるため、多量の白金を電極触媒として用いる必要がある。しかし、白金は資源量が少なく、かつ高価であることから、PEFCの本格普及に際して大きな障害となっている。このような観点から、水素エネルギー社会に向け、白金代替触媒の開発が切望されている。
【0003】
PEFCに用いられる触媒は、酸性雰囲気下等の腐食性の環境下であっても機能する必要があり、使用可能な材料に制限がある。例えば、バルブ金属酸化物及びその関連化合物は、安定であるとともに資源としても豊富である等の理由から、白金代替触媒として有望視されている。なかでも、前駆体である金属炭窒化物を低酸素分圧下で高温酸化処理することで、炭素が析出して局所的還元雰囲気が形成されるとともに、窒素が脱離する際に活性点である酸素空孔の生成に影響することが知られている。特に、オキシ金属フタロシアニン骨格から析出するカーボンが局所的な電子導電性を担うことで、高活性な電極触媒を製造しうることが判明している。
【0004】
白金代替触媒としては、例えば、炭素触媒と、結着材である親水性官能基を有する樹脂とを併用した炭素触媒造粒体が提案されている(特許文献1)。また、電極触媒を構成する各微粒子の原子レベルのネットワーク構造に着目した酸化チタン電極触媒が提案されている(特許文献2)。さらに、酸化物系非白金触媒としてオキシジルコニウムフタロシアニンを用いることが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6225545号公報
【文献】特開2018-206700号公報
【文献】特許第6241214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~3で提案された触媒等であっても、白金触媒の触媒活性には及んでいないのが現状であり、燃料電池用の触媒としての活性については未だ改善の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、優れた触媒活性を有するとともに、比較的安価に製造することが可能な、固体高分子形燃料電池等の電極触媒として有用な酸化物系電極触媒を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、この酸化物系電極触媒を用いた固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の金属元素を中心金属として含むテトラピラジノポルフィラジン誘導体が触媒前駆体として有用であること、及びこのテトラピラジノポルフィラジン誘導体を用いることで、白金触媒に代替しうる有望な電極触媒が得られることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明によれば、以下に示す酸化物系電極触媒が提供される。
【0009】
[1]カーボンナノチューブ及び下記一般式(1)で表されるテトラピラジノポルフィラジン誘導体を含有する混合物を焼成して得られる酸化物系電極触媒。
【0010】
(前記一般式(1)中、Mは、酸素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基が結合していてもよい、チタン、ジルコニウム、鉄、マンガン、タングステン、タンタル、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、ニオブ、バナジウム、及びモリブデンのいずれかの金属を示す)
【0011】
[2]前記一般式(1)中、Mが、酸素原子が結合したチタンである前記[1]に記載の酸化物系電極触媒。
[3]前記カーボンナノチューブのBET比表面積が、50~500m2/gである前記[1]又は[2]に記載の酸化物系電極触媒。
[4]以下に示す条件で測定される反応開始電位が、0.9V以上である前記[1]~[3]のいずれかに記載の酸化物系電極触媒。
[条件]:グラッシーカーボンロッドの電極面に前記酸化物系電極触媒を担持した作用極を使用し、30℃の温度条件下、0.1mol/L硫酸水溶液中、電位走査法により測定される、酸素還元電流が-10mA/gとなるときの反応開始電位。
【0012】
また、本発明によれば、以下に示す固体高分子系燃料電池が提供される。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の酸化物系電極触媒を酸素還元極とした固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた触媒活性を有するとともに、比較的安価に製造することが可能な、固体高分子形燃料電池等の電極触媒として有用な酸化物系電極触媒を提供することができる。また、本発明によれば、この酸化物系電極触媒を用いた固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の固体高分子燃料電池の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】サイクリックボルタンメトリーの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<酸化物系電極触媒>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の酸化物系電極触媒は、カーボンナノチューブ及び下記一般式(1)で表されるテトラピラジノポルフィラジン誘導体を含有する混合物を焼成して得られる。
【0016】
(前記一般式(1)中、Mは、酸素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基が結合していてもよい、チタン、ジルコニウム、鉄、マンガン、タングステン、タンタル、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、ニオブ、バナジウム、及びモリブデンのいずれかの金属を示す)
【0017】
(カーボンナノチューブ)
カーボンナノチューブは、燃料電池用の触媒の担体(触媒担体)として機能する。カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等を挙げることができる。これらのカーボンナノチューブは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのカーボンナノチューブは、機械的強度に優れているとともに、高い導電性を有するため、燃料電池用の触媒担体として好適である。なかでも、多層カーボンナノチューブが好ましい。
【0018】
カーボンナノチューブのBET比表面積は、50~500m2/gであることが好ましく、100~400m2/gであることがさらに好ましい。一般的に、BET比表面積が大きいほどカーボンブラックの粒子どうしの接触点が増えるため、電極の内部抵抗を下げるのに有利である。カーボンナノチューブのBET比表面積が50m2/g未満であると、担体としての表面積が不足しやすくなり、触媒成分として機能する、テトラピラジノポルフィラジン誘導体に由来する後述の無機物を高分散担持することが困難になる場合がある。一方、カーボンナノチューブのBET比表面積が500m2/g超であると、上記の無機物を担持することが困難になることがあり、触媒活性が低下する場合がある。
【0019】
(テトラピラジノポルフィラジン誘導体)
本発明の酸化物系電極触媒は、カーボンナノチューブ及び下記一般式(1)で表されるテトラピラジノポルフィラジン誘導体を含有する混合物を焼成することで形成される。より具体的には、触媒前駆体であるテトラピラジノポルフィラジン誘導体をその表面上に担持させたカーボンナノチューブを焼成する。これにより、カーボンナノチューブの表面近傍に、テトラピラジノポルフィラジン誘導体に由来する金属、窒素、及び炭素等を含む無機物が形成されると考えられる。カーボンナノチューブの表面近傍に形成された上記の無機物が燃料電池用の触媒として高い触媒性能を発揮し、燃料電池の性能を向上させることが期待される。
【0020】
(前記一般式(1)中、Mは、酸素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、又はアリールオキシ基が結合していてもよい、チタン、ジルコニウム、鉄、マンガン、タングステン、タンタル、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、ニオブ、バナジウム、及びモリブデンのいずれかの金属を示す)
【0021】
テトラピラジノポルフィラジン誘導体の中心金属(一般式(1)中のM)は、合成上の観点から、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、酸素原子が結合したチタン(TiO)、又は酸素原子が結合したジルコニウム(ZrO)が好ましい。さらに、触媒活性の観点から、一般式(1)中のMはチタン(Ti)又は酸素原子が結合したチタン(TiO)であることが好ましく、酸素原子が結合したチタン(TiO)であることがさらに好ましい。すなわち、一般式(1)で表されるテトラピラジノポルフィラジン誘導体は、下記式(1-1)で表されるオクタフェニルオキシチタニウムテトラピラジノポルフィラジン(TiOTPPz-OctaPh)であることが好ましい。
【0022】
【0023】
(酸化物系電極触媒の製造方法)
本発明の酸化物系電極触媒は、カーボンナノチューブ及びテトラピラジノポルフィラジン誘導体を含有する混合物を焼成することで製造することができる。なお、上記の混合物は、カーボンナノチューブ及びテトラピラジノポルフィラジン誘導体のみで実質的に構成されることが好ましい。上記の混合物を焼成することで、前述の通り、テトラピラジノポルフィラジン誘導体に由来する金属、窒素、及び炭素等を含む無機物が形成される。そして、担体であるカーボンナノチューブの表面状又は表面近傍に形成された無機物が担持され、目的とする酸化物系電極触媒を得ることができる。なお、焼成によって形成される無機物の組成、分子構造、量、及び分布状態等を測定等して特定することは実質的に困難である。
【0024】
混合物中のテトラピラジノポルフィラジン誘導体の含有量は、カーボンナノチューブ100質量部に対して、5~200質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブ100質量部に対するテトラピラジノポルフィラジン誘導体の量が5質量部未満であると、焼成後に形成される触媒成分として機能する無機物(酸化物)の量が不足する場合がある。一方、カーボンナノチューブ100質量部に対するテトラピラジノポルフィラジン誘導体の量が200質量部超であると、担体として機能するカーボンナノチューブの表面積が不足することがあり、焼成後に形成される無機物(酸化物)が凝集する場合がある。
【0025】
焼成時の酸素分圧は、10-20~101atmとすることが好ましい。酸素分圧が10-20atm未満であると、目的とする無機物が形成されにくくなる可能性がある。一方、酸素分圧が101atm超であると、酸化が進みすぎる可能性がある。
【0026】
焼成温度は、500~1,000℃とすることが好ましく、600~950℃とすることがさらに好ましい。焼成温度が1,000℃超であると、形成される無機物の結晶構造が不活性な構造に変化しやすくなることがある。一方、焼成温度が500℃未満であると、十分な触媒活性を示す結晶構造を有する無機物が形成されにくくなることがある。
【0027】
カーボンナノチューブとテトラピラジノポルフィラジン誘導体を混合する際には、公知の混合装置を用いることができる。混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、コーンミキサー、Vミキサー、加圧ニーダー、パドルミキサー、二軸押出機、リボンミキサー、プラネタリーミキサー、モルタルミキサー、単軸押出機、二本ロールミル、三本ロールミル等を挙げることができる。
【0028】
(触媒性能)
本発明の酸化物系電極触媒は、優れた電極触媒活性を有する。具体的には、以下に示す条件で測定される反応開始電位が、好ましくは0.9V以上であり、さらに好ましくは0.91V以上である。このため、本発明の酸化物系電極触媒は、例えば、酸素還元極(カソード)用の電極触媒として有用である。さらに、本発明の酸化物系電極触媒を酸素還元極(カソード)とすることで、ポータブル燃料電池や携帯形燃料電池等の固体高分子形燃料電池とすることができる。
[条件]:グラッシーカーボンロッドの電極面に酸化物系電極触媒を担持した作用極を使用し、30℃の温度条件下、0.1mol/L硫酸水溶液中、電位走査法により測定される、酸素還元電流が-10mA/gとなるときの反応開始電位。
【0029】
<固体高分子形燃料電池>
次に、前述の酸化物系電極触媒を酸素還元極とした固体高分子形燃料電池について説明する。
図1は、本発明の固体高分子形燃料電池の一実施形態を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の固体高分子形燃料電池100は、セパレータ2、アノード電極として機能する燃料極20、電解質膜8、カソード電極として機能する空気極30、及びセパレータ14がこの順に積層された積層構造を有する。電解質膜8としては、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂等のフッ素系陽イオン交換樹脂(例;Nafion(登録商標))製の膜が用いられる。燃料極20は、ガス拡散層4と、電解質膜8に接して配置される触媒層6とが積層された構成を有する。また、空気極30は、ガス拡散層12と、電解質膜8に接して配置される触媒層10とが積層された構成を有する。触媒層6,10、特に、触媒層10を前述の酸化物系電極触媒によって形成することで、優れた電池特性を有する固体高分子形燃料電池100とすることができる。
【0030】
セパレータ2,14は、水素や酸素等の反応ガスを供給及び排出する。ガス拡散層4,12を通じて触媒層6,10に反応ガスが供給されると、触媒層6,10と電解質膜8との境界において、気相(反応ガス)、液相(電解質膜)、及び固相(酸化物系電極触媒)の三相界面が形成される。これにより、電気化学反応が生じ、直流電流が発生する。
【0031】
アノード側で生成した水素イオン(H+)は、電解質膜8を通じてカソード側へと移動する。また、アノード側で生成した電子(e-)は、外部回路を通じてカソード側へと移動する。カソード側では、酸素、アノード側から移動してきた水素イオン(H+)、及び電子(e-)が反応して水が生成することになる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
<触媒前駆体の合成>
(合成例1:オクタフェニルオキシチタニウムテトラピラジノポルフィラジンの合成)
ジフェニルジシアノピラジン19.87g及び四塩化チタン3.39gをキノリン80mLに加え、210℃で6時間反応させた後、ろ過して生成物を得た。得られた生成物をメタノール及び水で洗浄した後、乾燥して、オクタフェニルオキシチタニウムテトラピラジノポルフィラジン(TiOTPPz-OctaPh)19.00gを得た(収率:87%)。
【0034】
<酸化物系電極触媒の製造>
(実施例1)
合成例1で得たTiOTPPz-OctaPh 0.39g及び多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:284.453m2/g)0.26gを混合して混合物を得た。得られた混合物をアルゴン雰囲気下で900℃まで加熱した後、水素2体積%及び酸素0.05体積%を含有するアルゴン雰囲気下(平衡酸素分圧:1.3×10-19atm)、900℃で1時間保持して焼成した。次いで、室温まで冷却して、酸化物系電極触媒(実施例1)を得た。
【0035】
(比較例1)
TiOTPPz-OctaPhに代えて、オキシチタニウムテトラピラジノポルフィラジン(TiOTPPz)を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして酸化物系電極触媒(比較例1)を得た。
【0036】
(比較例2)
TiOTPPz-OctaPhに代えて、オキシチタニウムフタロシアニン(TiOPc)を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして酸化物系電極触媒(比較例2)を得た。
【0037】
<電極の製造>
酸化物系電極触媒3mgに対し、1-ヘキサノール124μL及び5質量%Nafion(登録商標)溶液6μLの混合溶液を加えて、触媒インキを調製した。調製した触媒インキを直径5.2mmのグラッシーカーボンロッドの電極面に滴下した後、乾燥させて、触媒0.1mgを担持した電極(作用極)を得た。
【0038】
<酸化物系電極触媒の酸素還元活性評価>
製造した電極(作用極)、グラッシーカーボンプレートを対極、及び可逆水素電極を参照極とした三電極式セルを用意した。この三電極式セルを使用し、0.1mol/L硫酸水溶液中、30℃で電気化学測定を行った。電気二重層容量は、サイクリックボルタンメトリー(CV)によって測定及び算出した。具体的には、走査速度50mVs
-1、0.05~1.2Vの範囲で電位走査し、CVを測定した。電気二重層容量は0.8~1.0Vの範囲から算出し、算出した電気二重層容量を触媒の総質量で規格化した。サイクリックボルタンメトリーの測定結果を
図2に示す。なお、
図2には、実施例1の酸化物系電極触媒(触媒前駆体:TiOTPPz-OctaPh)で製造した電極、及び比較例1の酸化物系電極触媒(触媒前駆体:TiOTPPz)を用いて製造した電極の測定結果のみを示した。また、測定及び算出した電気二重層容量を表1に示す。
【0039】
酸素還元電流の測定結果を
図3A及び
図3Bに示す。
図3Bは、
図3Aの部分拡大図である。なお、
図3A及び
図3Bには、実施例1の酸化物系電極触媒(触媒前駆体:TiOTPPz-OctaPh)で製造した電極、及び比較例1の酸化物系電極触媒(触媒前駆体:TiOTPPz)を用いて製造した電極の測定結果のみを示した。具体的には、窒素ガス又は酸素ガスを硫酸水溶液にバブリングして飽和溶解させ、走査速度5mVs
-1、0.2~1.2Vの範囲で電位走査し、定常状態に達した後、酸素飽和中での電流値から窒素飽和中での電流値を差し引いた値を「酸素還元電流値」として算出した。得られた酸素還元電流値を、炭素を含む触媒の総質量で規格化し、質量活性とした。そして、算出した酸素還元電流が-10mA/gとなるときの電位を「反応開始電位」とした。測定及び算出した反応開始電位を表1に示す。
【0040】
【0041】
表1、
図2、
図3A、及び
図3Bに示す結果から、実施例1の酸化物系電極触媒は、TiOTPPzやTiOPcを触媒前駆体として用いて得た酸化物系電極触媒と比べて、優れた電極触媒活性を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の酸化物系電極触媒は、固体高分子形燃料電池の酸素還元極(カソード)を構成する電極触媒として有用である。
【符号の説明】
【0043】
2,14:セパレータ
4,12:ガス拡散層
6,10:触媒層
8:固体高分子電解質膜
20:燃料極
30:空気極
100:固体高分子形燃料電池