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特許7418755音響光学変調器によるマルチキュービット制御
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】音響光学変調器によるマルチキュービット制御
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/00 20220101AFI20240115BHJP
   G02F 1/11 20060101ALI20240115BHJP
   G02F 1/29 20060101ALI20240115BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
G06N10/00
G02F1/11 505
G02F1/29
H01J49/42 400
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2021502748
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 US2019042414
(87)【国際公開番号】W WO2020018797
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】62/701,128
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/514,099
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(73)【特許権者】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】デブナス シャンタヌ
(72)【発明者】
【氏名】リンケ ノーバート エム.
(72)【発明者】
【氏名】モンロー クリストファー アール.
(72)【発明者】
【氏名】フィガット キャロライン
【審査官】青木 重徳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0120599(US,A1)
【文献】特開2005-331592(JP,A)
【文献】S. Debnath et al.,Demonstration of a small programmable quantum computer with atomic qubits,Nature,[オンライン],2016年08月04日,VOL 536,p. 63 - 66,<URL: https://www.nature.com/articles/nature18648>,(検索日 令和5年5月16日)、インターネット
【文献】Caroline Margaret Figgatt,BUILDING AND PROGRAMMING A UNIVERSAL ION TRAP QUANTUM COMPUTER,[オンライン],2018年,p. 22-78,<URL: https://iontrap.umd.edu/wp-content/uploads/2013/10/FiggattThesis.pdf>,(検索日 令和5年5月16日)、インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00
G02F 1/11
G02F 1/29
H01J 49/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子操作のためにイオン鎖内のイオンの量子状態を制御する方法であって、
第1の方向から、イオン鎖内のイオンに、グローバル光ビームを提供することと、
第1の方向と直交する第2の方向から、イオン鎖内のイオンのサブセット内の各イオンに、アドレス指定光ビームを提供することと、
イオン鎖内のイオンのサブセットとともに、量子操作の量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の量子ゲートを実施するために、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)のチャネルを使用することにより提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御することと、
イオン鎖内のイオンのそれぞれにおける蓄積された位相シフトを監視することと、
量子操作のゲートのステージのシーケンスにおけるゲートの各ステージのための各出力に位相進みを同時に適用することにより、イオンのそれぞれおける対応する前記蓄積された位相シフトを修正することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2の方向は、前記第1の方向と反対である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の方向は、前記第1の方向から90度オフセットされている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御することは、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを独立して変調して、イオンに蓄積された位相シフトを補正することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数の量子ゲートを実施するために提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御することは、2キュービット回転および2キュービットゲートの組み合わせが、グローバル光ビームの相対的な光学位相および、ラマン遷移を駆動するアドレス指定光ビームの影響を受けないように、2キュービットゲートの前に単一キュービット回転を実施し、2キュービットゲートの後に別の単一キュービット回転を実施することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御することは、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを独立して変調して、アドレス指定光ビームの1つまたは複数の光ビーム特性を制御することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数の光ビーム特性は、周波数、位相、または振幅のうちの1つまたは複数を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを独立して変調することは、AOM内のチャネルに適用される無線周波数(RF)信号を独立して変調して、アドレス指定光ビームの光ビーム特性を変更することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
量子操作の量子ゲートのシーケンスは、1つまたは複数の単一キュービットゲート、1つまたは複数の2キュービットゲート、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記1つまたは複数の単一キュービットゲートのいずれか1つについて、アドレス指定光ビームは、スピンフリップを生成するために単一の周波数またはトーンを有するように動的に制御される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記1つまたは複数の2キュービットゲートのいずれか1つについて、アドレス指定光ビームは、運動側波帯を駆動するために2つの周波数またはトーンを有するように動的に制御される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
記第2の方向から、イオン鎖内のイオンの異なるサブセット内の各イオンに、アドレス指定光ビームを提供すること、
およびイオン鎖内のイオンの異なるサブセットとともに、量子操作の量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の異なる量子ゲートを実施するために、マルチチャネルAOMのチャネルを使用することにより、イオン鎖内のイオンの異なるサブセットに提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御すること、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の方向は前記第1の方向と反対であり、または前記第2の方向は前記第1の方向から90度オフセットされている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の方向から提供されるグローバル光ビームおよび前記第2の方向から提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれは、逆伝搬ラマン光ビームとして動作する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
量子操作のためのイオン鎖内のイオンの量子状態を制御する量子情報処理(QIP)システムであって、
イオン鎖を実施するように構成されたイオントラップと、
第1の方向から、イオン鎖内のイオンにグローバル光ビームを提供するように構成された第1の光源と、
第1の方向と直交する第2の方向から、イオン鎖内のイオンのサブセット内の各イオンに、アドレス指定光ビームを提供するように構成された第2の光源のセットと、
マルチチャネル音響光学変調器(AOM)と、
イオン鎖内のイオンのサブセットとともに、量子操作の量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の量子ゲートを実施するために、マルチチャネルAOM内のチャネルを使用することにより、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを制御するために、第2の光源のセットを動的に制御するように構成された光学コントローラと、を備え、
光学コントローラは、イオン鎖内のイオンのそれぞれにおける蓄積された位相シフトを監視するように、且つ、量子操作のゲートのステージのシーケンスにおけるゲートの各ステージのための各出力に位相進みを同時に適用することにより、イオンのそれぞれおける対応する前記蓄積された位相シフトを修正するようにさらに構成される、
QIPシステム。
【請求項16】
前記第2の方向は前記第1の方向と反対である、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項17】
前記第2の方向は、前記第1の方向から90度オフセットされている、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項18】
第2の光源のセットを動的に制御して量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の量子ゲートを実施するために、量子操作の量子ゲートのシーケンスに関連する命令を光学コントローラに提供するように構成されたアルゴリズムコンポーネントをさらに備える、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項19】
光学コントローラは、1つまたは複数の波形発生器を含み、そして、イオンに蓄積された位相シフトを補正するために、1つまたは複数の波形発生器を用いて、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを独立して変調することによって、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御するように構成される、
請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項20】
1つまたは複数の量子ゲートを実施するために、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを制御するために第2の光源のセットを動的に制御するように構成された光学コントローラは、2キュービット回転および2キュービットゲートの組み合わせが、グローバル光ビームの相対的な光学位相および、ラマン遷移を駆動するアドレス指定光ビームの影響を受けないように、2キュービットゲートの前に単一キュービット回転を実施し、2キュービットゲートの後に別の単一キュービット回転を実施するようにさらに構成される、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項21】
光学コントローラは、1つまたは複数の波形発生器を含み、そして、アドレス指定光ビームの1つまたは複数の光ビーム特性を制御するために、1つまたは複数の波形発生器を用いて、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを独立して変調することによって、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御するように構成される、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項22】
前記1つまたは複数の光ビーム特性は、周波数、位相、または振幅のうちの1つまたは複数を含む、請求項21に記載のQIPシステム。
【請求項23】
1つまたは複数の波形発生器を用いて、提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを独立して変調することは、AOM内のチャネルに適用される無線周波数(RF)信号を独立して変調して、アドレス指定光ビームの光ビーム特性を変更することを含む、請求項21に記載のQIPシステム。
【請求項24】
量子操作の量子ゲートのシーケンスは、1つまたは複数の単一キュービットゲート、1つまたは複数の2キュービットゲート、またはそれらの組み合わせを含む、請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項25】
前記1つまたは複数の単一キュービットゲートのいずれか1つについて、光学コントローラは、スピンフリップを生成するために単一の周波数またはトーンを有するように、アドレス指定光ビームを動的に制御するように構成される、請求項24に記載のQIPシステム。
【請求項26】
前記1つまたは複数の2キュービットゲートのいずれか1つについて、光学コントローラは、運動側波帯を駆動するために2つの周波数またはトーンを有するように、アドレス指定光ビームを動的に制御するように構成される、請求項24に記載のQIPシステム。
【請求項27】
第2の光源のセットは前記第2の方向から、イオン鎖内のイオンの異なるサブセット内の各イオンに、アドレス指定光ビームを提供するように構成され、
光コントローラは、イオン鎖内のイオンの異なるサブセットとともに、量子操作の量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の異なる量子ゲートを実施するために、マルチチャネルAOMのチャネルを使用することにより、イオン鎖内のイオンの異なるサブセットに提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御するように構成される、
請求項15に記載のQIPシステム。
【請求項28】
前記第2の方向は第1の方向と反対であり、または前記第2の方向は第1の方向から90度オフセットされている、請求項27に記載のQIPシステム。
【請求項29】
前記第1の方向から提供されるグローバル光ビームおよび前記第2の方向から提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれは、逆伝搬ラマン光ビームとして動作する、請求項15に記載のQIPシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本特許出願は、2019年7月17日出願の「音響光学変調器によるマルチキュービット制御」と題する米国非仮特許出願第16/514,099号および2018年7月20日出願の「音響光学変調器によるマルチキュービット制御」と題する米国仮特許出願第62/701,128号の優先権を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[政府のライセンス権]
本発明は、IARPAによる賞第W911NF1610082号の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明に一定の権利を有している。
【背景技術】
【0003】
本開示の態様は、一般に、逆伝搬光ビームを使用して量子ビット(キュービット)の状態を制御することに関する。
【0004】
トラップされた原子は、量子情報処理の主要な実施(implementation)の1つである。原子ベースのキュービットは、量子コンピュータやシミュレータの量子メモリとして、量子ゲートとして使用でき、量子通信ネットワークのノードとして機能できる。トラップされた原子イオンに基づくキュービットは、属性のまれな組み合わせを楽しむ。例えば、トラップされた原子イオンに基づくキュービットは、非常に優れたコヒーレンス特性を有し、ほぼ100%の効率で準備および測定でき、光またはマイクロ波フィールドなどの適切な外部制御フィールドとのクーロン相互作用を変調することにより、互いに容易に絡み合う(entangle)。これらの属性により、原子ベースのキュービットは、量子回路または量子ゲートの長いシーケンスを有する可能性のある量子計算や量子シミュレーションなどの拡張量子操作にとって魅力的なものになる。
【0005】
原子ベースのキュービットの状態または情報の精度は、量子操作(quantum operation)中に蓄積する可能性のある体系的なエラーを回避するために重要であり、したがって、これらのタイプのエラーを修正または調整して、それらの影響を削減または排除する技術を開発することが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下は、そのような態様の基本的な理解を提供するために、1つまたは複数の態様の簡略化された要約を提示する。この要約は、考えられるすべての態様の広範な概要ではなく、すべての態様の鍵となる要素または重要な要素を特定したり、一部またはすべての態様の範囲を説明したりすることを目的としていない。その唯一の目的は、後で提示されるより詳細な説明の前置きとして、1つまたは複数の態様のいくつかの概念を簡略化された形式で提示することである。
【0007】
複数のトラップされたイオン(例えば、原子量子ビットまたはキュービット)に基づく量子情報処理装置または量子情報処理(QIP)システムは、オーバーヘッドが大幅に低くなるユニバーサル量子ゲートの完全なセットを実行する柔軟性を実現するために、各イオンの独立した制御を必要とする場合がある。トラップされた原子/イオンは、2つのラマンビーム(レーザーまたは光ビームなど)間のビートノートが内部キュービット状態をコヒーレントに駆動できるラマン遷移を使用して操作できる。プロセッサ内(例えば、量子操作の処理に使用されるイオントラップ内)でトラップされた各イオンを制御するために、このようなラマンビームのアレイが使用され、各ビームは単一のイオンをアドレス指定する。マルチチャネル音響光学変調器(AOM)を使用すると、これらのラマンビームの位相、周波数、および/または振幅を制御して、各原子キュービットの独立したユニバーサル制御を実施できる。
【0008】
本開示の一態様は、量子操作のためのイオン鎖内のイオンの量子状態を制御する方法である。この方法は、第1の方向から、イオン鎖内のイオンに、グローバル光ビームを提供することと、第1の方向とは異なる第2の方向から、イオン鎖内のイオンのサブセット内の各イオンに、それぞれのアドレス指定光ビームを提供することと、イオン鎖内のイオンのサブセットとともに、量子操作の量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の量子ゲートを実施する(implement)ために、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)のそれぞれのチャネルを使用することにより提供されるアドレス指定光ビームの各々を動的に制御することと、を含む。
【0009】
本開示の別の態様は、量子操作のためのイオン鎖内のイオンの量子状態を制御する量子情報処理(QIP)システムである。QIPは、イオン鎖を実施する(implement)ように構成されたトラップと、第1の方向から、イオン鎖内のイオンにグローバル光ビームを提供するように構成された第1の光源と、第1の方向と反対の第2の方向から、イオン鎖内のイオンのサブセット内の各イオンに、それぞれのアドレス指定光ビームを提供するように構成された第2の光源のセットと、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)と、イオン鎖とともに、量子操作の量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の量子ゲートを実施する(implement)ために、マルチチャネルAOM内のそれぞれのチャネルを使用することにより、提供されるアドレス指定光ビームの各々を制御するために、第2の光源のセットを動的に制御するように構成された光学コントローラと、を備える。
【0010】
本開示のさらに別の態様では、プロセッサによって実行可能な命令を有するコードを格納するコンピュータ可読記憶媒体が、量子操作のためのイオン鎖内のイオンの量子状態を制御するために説明される。
【0011】
前述の目的および関連する目的を達成するために、特に特許請求の範囲で指摘される特徴を含む1つまたは複数の態様が以下で完全に説明される。以下の説明および添付図面は、1つまたは複数の態様の特定の例示的な特徴を詳細に示している。しかしながら、これらの特徴は、さまざまな態様の原理が採用され得るさまざまな方法のほんの一部を示しており、この説明は、そのようなすべての態様およびそれらの同等物を含むことを意図している。
【0012】
以下、開示された態様は、開示された態様を説明するために提供され、限定するものではない、添付の図面と併せて説明され、同様の名称は同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、本開示の態様による、線形結晶である原子イオンを捕捉するための電極を収容する真空チャンバの図を示す。
図1B図1Bは、本開示の態様による、状態初期化のためのレーザー放射の適用を示す低減エネルギー準位図の例を示す図である。
図1C図1Cは、本開示の態様による、蛍光によるキュービット状態検出のためのレーザー放射の適用を示す、低減されたエネルギー準位図の例を示す図である。
図2A図2Aは、本開示の態様による、ラマンビーム形状(geometry)の例を示す図である。
図2B図2Bは、本開示の態様による、キュービット状態を結合するコヒーレントに刺激されたラマン遷移を示すエネルギー準位図を示す図である。
図3図3は、本開示の態様による、マルチキュービット制御のためのマルチチャネル音響光学変調器(AOM)の例を示す図である。
図4図4は、本開示の態様による、マルチトーンラマンビーム位置合わせシステムの例を示す図である。
図5図5は、本開示の態様による、3キュービットを有するゲートシーケンスの例を示す図である。
図6図6は、本開示の態様による、コンピュータデバイスの例を示す図である。
図7A図7Aは、本開示の態様による、量子情報処理(QIP)システムの例を示すブロック図である。
図7B図7Bは、本開示の態様による、光学コントローラの例を示すブロック図である。
図8図8は、本開示の態様による、方法の例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、さまざまな構成の説明として意図されており、本明細書に記載の概念が実施され得る唯一の構成を表すことを意図するものではない。詳細な説明には、さまざまな概念を完全に理解するための具体的な詳細が含まれている。しかしながら、これらの概念がこれらの特定の詳細なしで実践され得ることは当業者には明らかであろう。場合によっては、そのような概念を曖昧にしないために、よく知られているコンポーネントがブロック図の形式で示される。
【0015】
上記のように、トラップされた原子は、量子情報処理の方法およびシステムを実施するために使用することができる。原子ベースのキュービットは、量子コンピュータおよびシミュレータの量子メモリ、量子ゲート、さらに量子通信ネットワークのノードなど、さまざまなタイプのデバイスとして使用できる。トラップされた原子イオンに基づくキュービットは、非常に優れたコヒーレンス特性を持ち、ほぼ100%の効率で準備および測定でき、光またはマイクロ波フィールドなどの適切な外部制御フィールドとのクーロン相互作用を変調することにより、互いに容易に絡み合うことができる。本開示で使用される場合、「原子イオン」、「原子」および「イオン」という用語は、結晶または同様の配置または構成を形成するためにトラップに閉じ込められる(confine)、または実際に閉じ込められる粒子を説明するために交換可能に使用され得る。本開示は、トラップされた原子イオンの結晶内のキュービット操作を制御するために、レーザービームを使用するための方法またはプロセスおよび機器または装置の形での技術を説明する。具体的には、本開示は、1つまたは複数のキュービットの状態を制御するために、伝搬するレーザービーム、1つのグローバルビームおよび1つまたは複数の個別のビームを使用することを説明する。
【0016】
量子情報および計測の目的で使用される典型的なイオントラップの形状または構造は、線形無線周波数(RF)ポールトラップ(RFトラップまたは単にポールトラップとも呼ばれる)であり、イオンの効果的な不均一な高調波閉じ込めのために、近くの電極が静的および動的電位を保持する。RFポールトラップは、電界を使用して荷電粒子を特定の領域、位置、または場所にトラップまたは閉じ込めるタイプのトラップである。原子イオンがそのようなトラップ内で非常に低い温度にレーザー冷却されると、原子イオンはキュービットの静止結晶(例えば、キュービットの構造化された配置)を形成し、クーロン反発力が外部閉じ込め力のバランスをとる。十分なトラップ異方性のために、イオンは閉じ込めの弱い方向に沿って線形結晶を形成することができ、これは量子情報および計測学のアプリケーションに通常使用される配置である。
【0017】
イオンを使用して実施される特定の量子ゲートによって要求されるように、位相、周波数、および/または振幅、および/または分極も制御するために、各イオンの個別のアドレス指定が必要となる場合がある。単一のグローバル光ビームをイオン鎖(例えば、イオントラップ内のイオン鎖)内のすべてのイオンに適用または提供して、イオンを制御すると同時に、量子ゲートが実行または実施されるイオンに個々の光ビームを適用または提供することができる。これらの逆伝搬光ビームは、ラマン光ビームまたは単にラマンビームと呼ばれ、通常、非常に高い中心周波数(例えば、850THz)のレーザービームである。ただし、これらの光ビームには、キュービット周波数として使用されるビートノート(例えば、12.6GHz)を生成する明確な周波数差がある。無線周波数(RF)信号は、光ビームによって生成されるビートノートの周波数または位相を制御するために使用され、ビートノートは、次いで、イオン鎖内のキュービット(例えば、原子キュービットまたはイオンキュービット)を駆動するために使用される。このタイプの制御は、ビートノートの周波数または位相を調整する手段として単一のグローバル光ビームを使用することによって過去に実施されてきたが、このアプローチにはいくつかの制限がある。
【0018】
例えば、イオン鎖内のイオンの数が少ない量子ゲートを実施する場合、グローバル光ビームは残りのイオン(量子ゲートに使用されていないイオン)を照射し、グローバル光ビームによって照射されるがグローバル光ビームが望ましくない残留量子操作を生成する可能性があるために使用されないイオンにエラー(例えば、系統的エラー)を引き起こす。そのような残留操作の例は、キュービットの位相を変更またはシフトする傾向があるエネルギーシフトまたは光シフト(例えば、ACシュタルクシフト)である。したがって、複数の量子ゲートが順番に実施される量子アルゴリズムまたは量子操作(例えば、単一キュービットゲートと2キュービットゲートとの組み合わせのスタック)を実行すると、量子アルゴリズムまたは量子操作中に、個々のイオンに収集されたエラーが蓄積される可能性がある。
【0019】
ただし、これらの体系的なエラーの多くは、追跡または監視できる。例えば、各イオンの2つのキュービットレベルは、エネルギー分離が明確に定義されている内部原子状態である。したがって、各イオンは既知の周波数で発生する。イオンが異なるエネルギーを有する場合(例えば、光のシフトによって引き起こされる場合)、イオンは異なる周波数で発生する。各イオンが発生する周波数を知ることにより、イオン内で常に進行している自由回転があり、したがって周波数と位相とが関連しているので、それぞれの位相を監視または追跡することができる。したがって、システム(例えば、システム内の実験用クロック)がイオン(例えば、原子キュービット)のクロックまたはデューティサイクルを追跡するように構成されている限り、時間の経過とともに変化するそのイオンの位相を監視または追跡することさえ可能である。
【0020】
上記の残留操作によって引き起こされるエラー(例えば、位相シフトまたは位相エラー)は、イオン鎖内のさまざまなイオン間で変化する可能性がある。したがって、これらのエラーは、イオンごとに個別に修正する必要がある。以前のシステムのように、イオンの制御がこの目的のために単一のグローバル光ビームの使用に制限されている場合、イオンを個別に補正するメカニズムがないので、これらのエラーを個別に補正することはできない。さらに、これらの周波数(および位相)のシフトは、時間の経過とともに蓄積する傾向があり、系統的なエラーがわかっていても、修正が困難な場合がある。したがって、これらのエラーは、個々のイオンごとに修正する必要があるだけでなく、量子操作または量子アルゴリズムの進行に合わせて動的に修正する必要もある。
【0021】
上記の問題を考慮すると、複数のトラップされたイオンに基づく量子情報処理(QIP)システムでは、低いオーバーヘッドでロジックを実行する際の柔軟性を実現するために、トラップされた各イオンの状態を独立して制御する必要がある。トラップされたイオンの状態は、2つのラマン光ビーム間のビートノートを使用して内部キュービット状態をコヒーレントに駆動できるラマン遷移を使用して制御できる。QIPシステムで個々のトラップされたイオンを制御するために、ラマン光ビームのアレイは、単一のトラップされたイオンごとに個々のアドレス指定光ビームを提供する。マルチチャネル音響光学変調器(AOM)を使用することにより、個々のアドレス指定光ビームの各々を制御して、トラップされたイオンによって収集された任意の系統的エラーを個別に補正することができる。マルチチャネルAOMは、個々のトラップされたイオン制御のために本明細書で言及されるが、開示はそのように限定される必要はなく、マルチチャネルAOMは、複数のシングルチャネルAOMまたは複数のより小さなマルチチャネルAOMを使用して実施され得ることが理解されるべきである。
【0022】
本開示のいくつかの態様では、マルチチャネルAOMは、各AWG/DDSがそれぞれのアドレス指定光ビーム用のAOMのチャネルを独立して制御する、いくつかの任意波形発生器(AWG)またはダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)を含み得る。結果として、対応するチャネル内の各ラマン光ビームは、異なる位相、振幅、および/または周波数を含み得る。いくつかの例では、ラマン光ビームの偏光も変調または制御され得る。個別に制御されたアドレス指定ラマン光ビームは、逆伝搬するグローバルラマン光ビームとともに、個別に制御されたラマン光ビームとグローバルラマン光ビームとの間のラマンビートノートに依存して、トラップされたイオンの状態を調整することができる。ラマン光ビーム(シングルトーンまたはマルチトーン)の同時制御により、トラップされたイオンの状態をマルチチャネルAOMによって独立して同時に制御できる。いくつかの実施形態では、アドレス指定光ビームの同時制御は、トラップされたイオンの状態を変更する際の遅延を低減し、グローバル光ビームの照射によって引き起こされる任意のエネルギーシフトを補償し得る。
【0023】
他の実施形態では、マルチチャネルAOMに関連する光学設定は、AOMを出る異なる偏向/回折角にもかかわらず、個別に制御されたラマン光ビームをトラップされたイオンに向けて導くことができる。
【0024】
特定の例では、マルチチャネルAOMの個別に制御されたラマン光ビームは、トラップされたイオンの位相を進めて、量子ゲート操作中のエネルギーシフトによって引き起こされるエラーを修正または軽減することができる。
【0025】
上記の問題の解決に関連するさまざまな態様は、図1A図8に関連して以下でより詳細に説明される。
【0026】
図1Aは、線形RFポールトラップを使用して線形結晶110(線形結晶100は、真空チャンバ内にあることができるが示されていない)にトラップされた複数の原子イオン(atomic ion)106を有する真空チャンバを示す図100を示す。図1Aに示す例では、量子システムの真空チャンバは、複数の(例えば、N>1、ここで、Nは100以上の数であり、いくつかの実施ではN=32を有する)原子イッテルビウムイオン(例えば、171Ybイオン)をトラップするための電極を含み、それは、線形結晶110に閉じ込められ、レーザー冷却されてほぼ静止している。トラップされる原子イオンの数は構成可能であり、トラップされる原子イオンの数は増減する可能性がある。原子は、171Ybの共鳴調整されたレーザー(光学)放射で照射され、原子イオンの蛍光がカメラに画像化される。この例では、原子イオンは、蛍光によって示されるように、互いに約5ミクロン(μm)離れている。原子イオンの分離は、外部閉じ込め力とクーロン反発とのバランスによって決まる。
【0027】
個々のトラップされた原子イオンの強い蛍光は、光子の効率的な循環に依存しているため、イオンの原子構造は、運動のレーザー冷却、キュービット状態の初期化、および効率的なキュービット読み出しを可能にする強力な閉じた光学遷移を有している必要がある。これにより、アルカリ土類(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)や特定の遷移金属(Zn、Hg、Cd、Yb)など、外部電子が1つしかない単純な原子イオン以外の多くの原子イオン種が除外される可能性がある。これらの原子イオン内では、キュービットは2つの安定した電子レベルで表すことができ、多くの場合、2つの状態
【数1】

【数2】
、または同等に
【数3】
および
【数4】
、を有する有効なスピンによって特徴付けられる。図1Bおよび図1Cは、原子イオン171Ybについて、それぞれ、還元エネルギー準位図120および150を示し、ここで、キュービットレベル
【数5】
および
【数6】
130は、基底電子状態における安定した超微細レベルによって表され、周波数
【数7】
によって分離される。171Ybの励起された電子状態
【数8】
および
【数9】
140は、それ自体がより小さな超微細結合によって分割され、369.53nmの光波長に相当するエネルギーを有する光学間隔によって基底状態から分離される。
【0028】
これらの光学遷移の共鳴のすぐ下で調整されたレーザー放射により、ドップラーレーザー冷却は、トラップの底部近くに原子イオンを閉じ込めることができる。他のより洗練された形式のレーザー冷却は、原子イオンをトラップ内でほぼ静止させることができる。
【0029】
二色性レーザーまたは光ビーム(例えば、光変調から生じる側波帯によって生成された2つのトーンを有するビーム)が
【数10】
および
【数11】
の両方と共鳴する場合、遷移が原子に適用され、原子は急速に状態
【数12】
になり、光フィールドと相互作用しなくなり、本質的に100%の忠実度でキュービットの初期化が可能になる(例えば、図1B参照)。
【0030】
【数13】
と共鳴する単一のレーザーまたは光ビームの場合、遷移が適用されると、閉サイクル光学遷移により、
【数14】
状態のイオンが強く蛍光を発し、
【数15】
状態のイオンは、レーザー周波数がその共鳴から遠く離れているため、暗いままになる(例えば、図1C参照)。この蛍光のごく一部を収集することで、ほぼ完全な効率または精度で原子キュービット状態を検出できる。他の原子種も同様の初期化/検出スキームを有している可能性がある。
【0031】
図1Bおよび図1Cにおいて、励起された電子状態
【数16】
および
【数17】
140からのすべての可能な遷移は、下向きの波状の矢印として示されている。他方、適用されたレーザー放射(上向きの直線の矢印として示されている)は、図1Bに示されているように状態
【数18】
への初期化のために、そして図1Cに示されるようにキュービット状態
【数19】
の蛍光検出のために、これらの遷移を駆動する。
【0032】
キュービットレベル間のコヒーレント遷移の場合、単一キュービット回転操作および絡み合うマルチキュービット操作があり得る。単一キュービット回転操作は、単一キュービット操作または単にキュービットフリッピングと呼ばれることもある。
【0033】
単一キュービット回転操作に関して、図1Bおよび図1Cのキュービットレベル
【数20】
および
【数21】
130は、外部制御フィールドと直接結合できるため、単一キュービットの回転操作が可能になる。
【数22】
で表される進行波(共振)フィールドの場合、
【数23】
は波数ベクトル、
【数24】
はフィールド周波数、
【数25】
は位相であり、共振時
【数26】
の結果は、以下の式(1)および(2)に示すように、位相
【数27】
でのキュービットの回転操作である(回転波近似を想定し、操作中は位相
【数28】
が一定であると仮定する)。
【数29】
ここで、
【数30】
および
【数31】
。ここで、
【数32】
は、モーメント
【数33】
の有効な双極子遷移を想定してフィールド-キュービット結合をパラメータ化するラビ周波数である。中間仮想レベルを介して結合する2フィールド光ラマンフィールドAおよびBの場合、有効ラビ周波数は
【数34】
に比例し、フィールドの有効周波数は差
【数35】
になり、波数ベクトル
【数36】
は、2つのフィールド間の波数ベクトル差
【数37】
で与えられ、位相は位相差
【数38】
になる。実際には、2つのラマンフィールドは、キュービット周波数分割
【数39】
を橋渡しする必要がある。これは、ディスクリート変調要素またはモードロック周波数コムレーザーを使用して実現できる。光周波数コムは、一連の離散した等間隔の周波数線を持つスペクトルを有するレーザーソースである。コーミング効果は、連続波レーザーの周期的変調(例えば、振幅および/または位相)、非線形媒体での4波混合、またはモードロックレーザー(例えば、上記のモードロック周波数コムレーザー)によって生成されるパルス列の安定化を含む、いくつかのメカニズムによって生成できる。
【0034】
時間Tだけ離れたキュービット上の2つの連続する回転の場合、累積されたキュービット位相は
【数40】
である。制御フィールドが光ドメイン内の単一フィールド結合である場合、これには、拡張操作(例えば、より長いまたはより複雑な操作)にわたる光周波数および位相の制御が必要になる場合がある。ただし、キュービット間の2フィールド光ラマン結合の場合、累積キュービット位相は
【数41】
であり、周波数差
【数42】
と位相差
【数43】
を制御する必要がある。
【0035】
マルチキュービット操作の絡み合いに関しては、多くのトラップされたイオンの運動は、ばねで接続された振り子の配列のように、クーロン相互作用を介して結合される。結晶内の原子イオン間に絡み合う量子論理ゲートを実施する自然な方法は、図2Aに示すように、運動を中間体として使用することである。図2Aは、ラマンビーム形状の例を示し、光ビームの適用がキュービット内で運動を生成する図200を示している。図200には、原子イオンキュービットを有する線形結晶110に向けられた個々のビーム210およびグローバルビーム220が存在する。同じ方向の光ビームは、共伝搬光ビームと呼ばれ得、異なる方向または反対方向の光ビームは、それぞれ、非共伝搬または逆伝搬光ビームと呼ばれ得る。個々のビーム210(共伝搬)は、集束または個別にアドレス指定されたビームであり、グローバルビーム220(図示されるように、個々のビーム210に対して逆伝搬する)は、集束されていないグローバルビームであり得る。本明細書で使用される場合、「レーザービーム」、「光ビーム」、「ビーム」、「レーザー」、「光フィールド」、および「フィールド」という用語は、交換可能に使用され得る。
【0036】
運動を仲介として使用すると、キュービットの状態に依存する光学的またはマイクロ波双極子力を原子イオンに適用することにより、量子論理ゲートを実現できる。この外部から適用されるキュービット状態に依存する力を使用して、制御されたNOTゲートおよびその他の関連するマルチキュービット絡み合い操作を作成するための多くのプロトコルがある。例として、2つのトラップされたイオンキュービット間の一般的なMolmer-Sorensonゲート操作(MS、Ising、またはXXゲート操作とも呼ばれる)。ただし、位相依存性は多くの同様のクラスのゲートで類似している。
【0037】
まだ図2Aを参照すると、図200は、図示されている選択されたイオン間の2キュービットゲートの例のラマンビーム形状を示している。反対方向に伝搬する逆伝搬ビーム(ビームのペア)210およびビーム220は、2つのトラップされたイオン上で重なり、集団運動モードに結合するラマン遷移は、絡み合い操作を可能にする。単一キュービット回転の場合、個々のイオンがアドレス指定され、逆伝播ジオメトリには必要ない場合がある。単一キュービットゲートの場合、操作にはスピンフリップが含まれ、これは、キャリア遷移または共鳴キュービット遷移とも呼ばれる。2キュービットゲートの場合、操作は運動側波帯を駆動する傾向があり、これらの周波数は単一キュービット遷移で使用される周波数からビットオフセットされる。
【0038】
周波数
【数44】
からの収集イオン運動の単一モードによる結合が考慮される。一般に、Molmer-Sorensonゲートの操作には、上下の側波帯遷移を一緒に駆動する波数ベクトル
【数45】
および
【数46】
を使用して、レーザービーム(AとB)の2つの非共伝搬または逆伝搬方向が必要である。方向Aに沿ったビームは、光学位相
【数47】
の単一周波数成分
【数48】
を有し、方向Bに沿ったビームは、光学位相
【数49】
の2つの周波数
【数50】
を有し、AとBとの間の結果の2つのビートノートは上側(+)と下側(-)の側波帯遷移の近くにある。以下の式(3)および(4)に示すように、ビームAの周波数に関してビームBでこれらの二色ビートノートを作成するための2つのスペクトル構成がある。
【数51】
【0039】
つまり、ビームBの二色ビートノートの1つの可能な構成は位相に敏感であり(式(3))、もう1つの可能な構成は位相に敏感でない(式(4))。
【0040】
記述されているように、式(3)および(4)は、
【数52】

【数53】
であると想定していて、式(3)および(4)の右辺にマイナス記号を追加する必要がある。
【0041】
重要な態様は、位相に影響されない構成は、反対の符号
【数54】
の上側波帯と下側波帯のビートノートを有するため、両方のビートノートが関与する相互作用から蓄積された光位相がキャンセルされることである。XXゲートの下での2キュービットの進化は、以下の式(5)に示されている。
【数55】
ここで、XXゲートの実効位相は、位相に敏感な場合は
【数56】
、位相に敏感でない場合は
【数57】
である。
【0042】
位相に敏感な場合、ゲートによって蓄積される実際の位相はビームの光学位相に依存し、ビーム経路の機械的および熱的変動により、2つのラマンビーム間の有効光路長差が変化するため、時間とともにゆっくりとドリフトする可能性がある。この場合でも、ラマンビームの位相、周波数、および/または振幅を完全に制御することにより(例えば、マルチチャネルAOMを使用することにより)、光路長が複合操作の期間内に安定している限り、複合操作がゲートの特性を決定する明確に定義された位相シフトを有する2キュービットゲートとして機能するように、2キュービットゲートの前後に適切な単一キュービット回転を追加することができる。これは、本開示で説明される技術およびシステムで実施することができる別の位相補正アプローチである。
【0043】
上記の説明を考慮して、そしてキュービット位相の同期、安定性、および制御が拡張量子操作の性能にとって重要であるので、本開示は、トラップされたイオンキュービットの制御(例えば、位相、振幅、周波数、偏光、など)に使用できるさまざまな技術を提供する。したがって、光位相のドリフトがデコヒーレンスにつながる可能性がある、拡張量子操作のためのキュービット操作の位相制御を可能にするような方法で、光フィールド(例えば、レーザービーム)を操作するためのさまざまな技術を以下に説明する。キュービットの遷移を駆動するために必要なラマンビームの偏光は、キュービットレベルの原子構造と励起状態へのそれらの結合とに依存する。一例として、本開示は、図2Bのエネルギー準位図230に示される171Ybシステムを考慮し、そこでは、コヒーレントに刺激されたラマン遷移が、
【数58】
および
【数59】
でラベル付けされ、周波数
【数60】
で区切られ、2つのラマンビームに対して
【数61】
または
【数62】
のいずれかの偏光で355nmのレーザーフィールドによって駆動される(例えば、任意のラマンプロセスは両方のビーム偏光
【数63】
または
【数64】
で駆動される)、2つのキュービット状態を結合する。しかしながら、おそらく異なるレベルおよび遷移選択規則を有する、171Ybシステム以外のシステムもまた、本明細書に記載の特徴に関連して使用され得ることが理解されるべきである。
【0044】
上記のように、例えば、それらの形状、偏光、および/または周波数の制御を含む、光フィールドまたはビーム(例えば、レーザーまたは他の光源によって生成される)が配向される方法を制御することが重要である。
【0045】
ここで図3を参照すると、音響光学変調器(AOM)310を使用するマルチキュービット制御をサポートするシステム300の例が示されている。システム300は、図6図7Aおよび図7Bに関連して以下でより詳細に説明されるコンピュータデバイス600および/またはQIPシステム700の一部であり得る。システム300は、十字パターンを有する円で表されるトラップされたイオン306a~306d(図1Aのトラップされたイオン106a~106dに対応する)を有する線形結晶110を含む。トラップされたイオン306a~306dは、第1の方向からのグローバル光ビーム220によって、および第1の方向とは異なる第2の方向からの個々のアドレス指定光ビーム210a~210dによって照射され得る。一実施形態では、グローバル光ビーム220の第2の方向は、個々のアドレス指定光ビーム210a~210dの第1の方向と実質的に反対または直に反対であり得る(例えば、図2A参照)。別の実施形態では、グローバル光ビーム220の第2の方向は、図3に破線で示されるグローバル光ビーム220の代替方向によって示されるように、個々のアドレス指定光ビーム210a~210dの第1の方向から実質的にまたは正確に90度(または270度)オフセットされ得る。換言すれば、グローバル光ビーム220および個々のアドレス指定光ビーム210a~210dは、同じ平面内にあり、かつ異なる方向からトラップされたイオン106a~106dに向けられているか、または垂直面にあり、かつトラップされたイオン106a~106dに向けられている。トラップされたイオンのいくつかについてはビームの方向が実質的に反対または反対であり、他のトラップされたイオンについてはビームの方向が実質的にまたは正確に90度(または270度)互いにオフセットしている場合、方向の組み合わせも可能であることが理解されるべきである。本明細書で実質的に使用される用語は、変動が公称値の0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、または10%以内である、公称値または特性からの変動を指す場合がある。
【0046】
4つのトラップされたイオン306a~306dが、図3に例示として示されているが、線形結晶100は、1、2、5、6、10、16、20、32、50、64、128またはそれ以上のトラップされたイオンを有し得、さまざまな量子ゲートを実施するときにこれらのトラップされたイオンの任意のサブセットを使用することが可能であり得る。AOM310は、AOM310に局所的に音波を適用する圧電変換器312a~312d(例えば、並列配置)を有するマルチチャネルブラッグセルであり得る。AOM310は、トラップされたイオン106の各々に対して異なるチャネルを含み得る。圧電変換器312a~312dは、波形発生器322a~322dを有するコントローラ320(図7Aおよび図7Bに関連して以下に説明する光学コントローラ720の一部であり得る)によって制御され得る。波形発生器322a~322dは、任意波形発生器(AWG)および/または直接デジタルシンセサイザ、または他のタイプの信号生成装置であり得る。操作中、いくつかの実施形態では、グローバル光ビーム220は、第1の方向からトラップされたイオン306a~306dを照射し得る。グローバル光ビーム220は、1つまたは複数のラマンレーザーからのラマン光ビームであり得る。光学機器(例えば、レンズ、ミラーなど、図示せず)を使用して、グローバル光ビーム220を、トラップされたイオン306a~306d上に集束させることができる(例えば、図4参照)。グローバル光ビーム220は、単一の周波数、位相、および振幅を有し得る。個々のアドレス指定光ビーム210a~210dは、第2の方向からトラップされたイオン306a~306dのいくつかを別々に照射するために提供され得る。照射されるトラップされたイオン306は、量子操作またはアルゴリズムの一部であるシーケンスの現在の段階に実施されている量子ゲートに依存する。例えば、個々のアドレス指定光ビーム210aは、トラップされたイオン306aを照射し得る。個々のアドレス指定光ビーム210bは、トラップされたイオン306bを照射し得る。個々のアドレス指定光ビーム210cは、トラップされたイオン306cを照射し得る。個々のアドレス指定光ビーム210dは、トラップされたイオン306dを照射し得る。いくつかの例では、いくつかのトラップされたイオン(図示せず)は、個々のアドレス指定光ビームによって照射されない。他の実施形態では、グローバル光ビーム220の照射によって引き起こされるエネルギーシフト(以下で説明する)を補正するために、トラップされたすべてのイオン306a~306dを照射することが有利であり得る。
【0047】
まだ図3を参照すると、特定の実施形態では、個々のアドレス指定光ビーム210a~210dのそれぞれの周波数、振幅、および/または位相は、AOM310によって変調され得る。例えば、波形発生器322aは、変換器312aに、第1の所定の品質を有する第1の音波を生成させることができる。変換器312aによって生成された第1の音波は、個々のアドレス指定光ビーム210aに、第1の周波数、第1の位相、および/または第1の振幅を持たせることができる。第1の周波数とグローバル光ビーム220の周波数との間の差は、トラップされたイオン306aの状態を制御するために使用される第1のビートノートを作成し得る。第1の周波数、第1の位相、および/または第1の振幅は、このアプローチを使用して、時間とともに動的に変化し得る。波形発生器322bは、変換器312bに、第2の所定の品質を有する第2の音波を生成させ得る。変換器312bによって生成された第2の音波は、個々のアドレス指定光ビーム210bに第2の周波数、第2の位相、および/または第2の振幅を持たせることができる。第2の周波数とグローバル光ビーム220の周波数との間の差は、トラップされたイオン306bの状態を制御するために使用される第2のビートノートを作成し得る。第2の周波数、第2の位相、および/または第2の振幅は、このアプローチを使用して、時間とともに動的に変化し得る。
【0048】
まだ図3を参照すると、いくつかの例では、波形発生器322cは、変換器312cに、第3の所定の品質を有する第3の音波を生成させることができる。変換器312cによって生成された第3の音波は、個々のアドレス指定光ビーム210cに第3の周波数、第3の位相、および/または第3の振幅を持たせることができる。第3の周波数とグローバル光ビーム220の周波数との間の差は、トラップされたイオン306cの状態を制御するために使用される第3のビートノートを作成し得る。第3の周波数、第3の位相、および/または第3の振幅は、このアプローチを使用して、時間とともに動的に変化し得る。波形発生器322dは、変換器312dに、第4の所定の品質を有する第4の音波を生成させることができる。変換器312dによって生成された第4の音波は、個々のアドレス指定光ビーム210dに第4の周波数、第4の位相、および/または第4の振幅を持たせることができる。第4の周波数とグローバル光ビーム220の周波数との間の差は、トラップされたイオン306dの状態を制御するために使用される第4のビートノートを作成し得る。第4の周波数、第4の位相、および/または第4の振幅は、このアプローチを使用して、時間とともに動的に変化し得る。個々のアドレス指定光ビーム210a~210dは、コントローラ320(波形発生器322a~322dを介して)およびAOM310(変換器312a~312dを介して)によって個別に変調され得るので、個々のアドレス指定光ビーム210a~210dおよびグローバル光ビーム220は、トラップされたイオン306a~306dの状態を独立して制御するために、集合的に最大4つのビートノートを作成し得る。グローバル光ビーム220はまた、コントローラ320または別のコントローラによって制御され得ることが理解されるべきである。この例では4つのトラップされたイオン306が説明されているが、トラップされたイオンの数および/またはどのトラップされたイオンに変調された個別にアドレス指定する光ビーム210が提供されるかは、量子操作のシーケンスの一部として実施される量子ゲートのスタック(例えば、量子ゲートの複数のステージ)に基づいて時間とともに変化し得る。
【0049】
ここで図4を参照すると、マルチトーンラマンビーム位置合わせシステム400の例を使用して、回折ラマンビームをトラップされたイオンに集束させて、例えば、図3に関連して上記の例などの特定の量子ゲート操作の実施に使用することができる。例えば、位置合わせシステム400(コンピュータデバイス600および/またはQIPシステム700の一部であり得る)は、マルチチャネルAOM402(これは、図3のマルチチャネルAOM310の例であり得る)を含み得、その中の単一のチャネルが、簡単にするために示されている(他のチャネルは、図4の平面の内外に配置され得る)。位置合わせシステム400は、図示されているチャネルに関連して、波形発生器404、変換器406、およびレンズアセンブリ408を含み得る。同様の構造が、マルチチャネルAOM402の他のチャネルに使用され得る。
【0050】
操作中、いくつかの実施形態では、変換器406(波形発生器404の制御下)は、周波数f1およびf1’を有する音波を生成し得る。その結果、入射ラマンビーム410(例えば、個々のアドレス指定光ビーム210の1つ)は、生成されることができてAOM402に提供されることができ、出力ビーム412(偏向されていない)、出力ビーム414(周波数f1)、および出力ビーム416(周波数f1’)に回折することができ、出力ビーム414、416は異なる回折角を有する。出力ビーム414、416は、レンズアセンブリ408を通過することができ、それぞれ、反射ビーム420、422に向けて方向付けられ得る。反射ビーム420、422は、レンズアセンブリ408によって、トラップされたイオン430上に再集束され得る。レンズアセンブリ408は単一の光学要素として示されているが、開示はそのように限定される必要はなく、レンズアセンブリ408は、例えば、異なるタイプのレンズを含む複数の光学要素を含み得る。
【0051】
ここで図5に示されるように、3キュービットシステムのゲートシーケンス500の例は、トラップされたイオン502、504、506(図1Aおよび図3の線形結晶110内のトラップされたイオンに対応し得る)に基づく単一キュービットゲート510(Q1)、512(Q2)、514(Q3)、528(Q5)、538(Q7)、540(Q8)、542(Q9)および2キュービットゲート522(Q4)、532(Q6)を含む。いくつかの実施形態では、トラップされたイオン502、504、506に基づきキュービット上に量子ゲートを実行すると、キュービットエネルギー分割にシフトが生じる可能性がある。これは、エネルギーシフトおよびゲートの持続時間に基づいてキュービット位相の進行を引き起こし、量子操作またはアルゴリズムのエラーの原因になる。エネルギーシフトによって引き起こされるこのエラーを排除するために、トラップされた各イオン502、504、506のラマンビートノートは、例えば、個別にアドレス指定可能なビーム図3のマルチチャネルAOMシステムを使用して段階的に進められ得る。そのような位相進行のタイミングは、位置516、518、520、524、526、530、534、および536で発生し得る。すなわち、量子ゲートのセット(Q1、Q2、Q3)を含むシーケンスの第1ステージの後、位相進みp11、p21、およびp31が、それぞれ、ゲートの各々に対して実行され得る。同様に、2キュービットゲートQ4を含む第2ステージの後、位相進みp12およびp22が、トラップされたイオン502および504に関連して実行され得る。単一キュービットゲートQ5を含む第3ステージの後、位相進みp23が、トラップされたイオン504に関連して実行され得る。2キュービットゲートQ6を含むシーケンスの第4ステージの後、段階的前進p24およびp32が、トラップされたイオン504および506に関連して実行され得る。シーケンスの第5ステージには、量子ゲートQ7、Q8、およびQ9のセットが含まれ、後続の位相進みも実行できる(この例には示されていない)。この例は説明のために提供されており、考慮されるキュービットの数が3より多いか少ない場合、およびシーケンスのステージ数が5より少ないか多い場合、同様のアプローチを適用できる。
【0052】
まだ図を参照すると、キュービットエネルギーシフトは、グローバル光ビーム220によるトラップされたイオンの照射に起因し得る。グローバル光ビーム220からのエネルギーが、照射中にトラップされたイオン(例えば、トラップされたイオン502、504、および506)に伝達されるにつれて、トラップされたイオン上に意図しない残留操作があり得る。例えば、AOM310を介してトラップされたイオン502、504、および506に提供される個々のアドレス指定光ビーム210のビーム特性を別々に制御することによって、AOM310を使用して、グローバル光ビーム220によって引き起こされるエネルギーシフトを連続的に補償することができる。例えば、グローバル光ビーム220がトラップされたイオン502にエネルギーシフトを引き起こす場合、それぞれの個別のアドレス可能な光ビーム210を使用して、エネルギーシフトを修正または軽減し、したがって系統的エラーの可能性を低減することができる。これを行う1つの方法は、上記のように位相進みを実行することである。
【0053】
ここで図6を参照すると、本開示の態様による例示的なコンピュータデバイス600が示されている。コンピュータデバイス600は、例えば、単一のコンピューティングデバイス、複数のコンピューティングデバイス、または分散コンピューティングシステムを表すことができる。コンピュータデバイス600は、量子コンピュータ(例えば、量子情報処理(QIP)システム)、古典的なコンピュータ、または量子と古典的なコンピューティング機能の組み合わせとして構成され得る。例えば、コンピュータデバイス600は、トラップされたイオン技術に基づく量子アルゴリズムを使用して情報を処理するために使用され得、したがって、量子論理ゲートに適用されるようにマルチチャネルAOMにおいて、およびこの開示に記載されているようにキュービット間の一般化された相互作用との接続において、ラマン光ビームの独立した制御のための方法を実施し得る。本明細書に記載のさまざまなビーム制御を実施することができるQIPシステムとしてのコンピュータデバイス600の一般的な例が、図7Aおよび図7Bに示される例に示されている。
【0054】
一例では、コンピュータデバイス600は、本明細書で説明される1つまたは複数の特徴に関連する処理機能を実行するためのプロセッサ610を含み得る。プロセッサ610は、単一または複数のプロセッサのセットまたはマルチコアプロセッサを含み得る。さらに、プロセッサ610は、統合処理システムおよび/または分散処理システムとして実施され得る。プロセッサ610は、中央処理装置(CPU)、量子処理装置(QPU)、グラフィックス処理装置(GPU)、またはこれらのタイプのプロセッサの組み合わせを含み得る。量子操作をサポートする場合、プロセッサ610は、量子操作を実施するために、少なくともトラップされたイオンを含み得る。一態様では、プロセッサ610は、コンピュータデバイス600の一般的なプロセッサを指すことができ、これはまた、個々のアドレス指定光ビーム制御のための機能などのより特定の機能を実行するための追加のプロセッサ610を含み得る。
【0055】
一例では、コンピュータデバイス600は、本明細書に記載の機能を実行するためにプロセッサ610によって実行可能な命令を格納するためのメモリ620を含み得る。実施において、例えば、メモリ620は、本明細書に記載の機能または操作のうちの1つまたは複数を実行するためのコードまたは命令を格納するコンピュータ可読記憶媒体に対応し得る。一例では、メモリ620は、図8に関連して以下に説明される方法800の態様を実行するための命令を含み得る。プロセッサ610と同様に、メモリ620は、コンピュータデバイス600の一般的なメモリを参照することができ、これはまた、個々のビーム制御のための命令および/またはデータなどのより特定の機能のための命令および/またはデータを格納するための追加のメモリ620を含み得る。
【0056】
さらに、コンピュータデバイス600は、本明細書に記載されるように、ハードウェア、ソフトウェア、およびサービスを利用する1つまたは複数の当事者との通信を確立および維持することを提供する通信コンポーネント630を含み得る。通信コンポーネント630は、コンピュータデバイス600上のコンポーネント間、ならびにコンピュータデバイス600と、通信ネットワークを横切って配置されたデバイスおよび/またはコンピュータデバイス600にシリアルにまたはローカルに接続されたデバイスなどの外部デバイスとの間の通信を実行することができる。例えば、通信コンポーネント630は、1つまたは複数のバスを含み得、さらに、外部デバイスとインターフェースするように動作可能な、送信機および受信機にそれぞれ関連する送信チェーンコンポーネントおよび受信チェーンコンポーネントを含み得る。
【0057】
さらに、コンピュータデバイス600は、本明細書に記載の実施に関連して使用される情報、データベース、およびプログラムの大容量記憶装置を提供する、ハードウェアおよび/またはソフトウェアの任意の適切な組み合わせであり得るデータストア640を含み得る。例えば、データストア640は、オペレーティングシステム660(例えば、古典的OS、または量子OS)のためのデータリポジトリであり得る。一実施形態では、データストア640は、メモリ620を含み得る。
【0058】
コンピュータデバイス600はまた、コンピュータデバイス600のユーザからの入力を受信するように動作可能であり、さらに、ユーザに提示するための出力を生成するように、または異なるシステムに(直接的または間接的に)提供するように動作可能なユーザインターフェースコンポーネント650を含み得る。ユーザインターフェースコンポーネント650は、キーボード、テンキー、マウス、タッチセンシティブディスプレイ、デジタイザ、ナビゲーションキー、ファンクションキー、マイクロフォン、音声認識コンポーネント、ユーザからの入力を受信できるその他のメカニズム、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つまたは複数の入力デバイスを含み得る。さらに、ユーザインターフェースコンポーネント650は、ディスプレイ、スピーカ、触覚フィードバック機構、プリンタ、ユーザに出力を提示することができる任意の他の機構、またはそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない1つまたは複数の出力デバイスを含み得る。
【0059】
実施形態では、ユーザインターフェースコンポーネント650は、オペレーティングシステム660の動作に対応するメッセージを送信および/または受信することができる。さらに、プロセッサ610は、オペレーティングシステム660および/またはアプリケーションまたはプログラムを実行することができ、メモリ620またはデータストア640は、それらを格納することができる。
【0060】
コンピュータデバイス600がクラウドベースのインフラストラクチャソリューションの一部として実施される場合、ユーザインターフェースコンポーネント650は、クラウドベースのインフラストラクチャソリューションのユーザがコンピュータデバイス600とリモートで対話することを可能にするために使用され得る。
【0061】
図7Aは、本開示の態様によるQIPシステム700の例を示すブロック図である。QIPシステム700はまた、量子コンピューティングシステム、コンピュータデバイスなどと呼ばれ得る。一態様では、QIPシステム700は、図6のコンピュータデバイス600の量子コンピュータ実施の一部に対応することができる。
【0062】
QIPシステム700は、光コントローラ720(例えば、図7B参照)により一旦イオン化(光イオン化)された原子種をトラップするイオントラップ770を有するチャンバ750(例えば、図1Aの真空チャンバ)に原子種(例えば、中性原子のフラックス)を提供するソース760を含むことができる。光学コントローラ720内の光源730は、光学コントローラ720内の画像化システム740で動作する画像処理アルゴリズムによって監視および追跡されることができる原子イオンの蛍光のためのおよび/または本開示に記載の光学制御機能を実行するために、原子種のイオン化、原子イオンの制御のために使用することができる1つまたは複数のレーザーソース(例えば、光またはレーザービームのソース)を含み得る。一態様では、光源730は、光学コントローラ720とは別に実施することができる。
【0063】
画像化システム740は、原子イオンがイオントラップに提供されている間、またはそれらがイオントラップ770に提供された後に、原子イオンを監視するための高解像度イメージャ(例えば、CCDカメラ)を含むことができる。一態様では、画像化システム640は、光学コントローラ720とは別に実施することができるが、画像処理アルゴリズムを使用して原子イオンを検出、識別、および標識するための蛍光の使用は、光学コントローラ720と調整する必要があり得る。
【0064】
QIPシステム700はまた、QIPシステム700の他の部分(図示せず)と共に動作して、単一キュービット操作および/またはマルチキュービット操作(例えば、2キュービット操作)ならびに拡張量子計算の組み合わせのスタックまたはシーケンスを含む、量子アルゴリズムまたは量子操作を実行し得るアルゴリズムコンポーネント710を含み得る。したがって、アルゴリズムコンポーネント710は、QIPシステム700のさまざまなコンポーネント(例えば、光学コントローラ720)に命令を提供して、量子アルゴリズムまたは量子操作の実施を可能にし、その結果、本明細書に記載のさまざまな個別のアドレス指定光ビーム制御技術を実施することができる。
【0065】
図7Bは、光学コントローラ720の少なくとも一部を示している。この例では、光学コントローラ720は、光源730および画像化システム740を含み得る。破線で示されるように、光源730および画像化システム740の一方または両方は、任意選択で、光学コントローラ720とは別個に、しかしそれと通信して実施され得る。画像化システム740は、CCD741(または同様のイメージャまたはカメラ)および画像処理アルゴリズムコンポーネント742を含む。光源730は、AWG(またはDDS)732a~732dおよびレーザーソース734a~734dを含み、これらは、上記の個々のアドレス指定光ビーム制御の1つまたは複数の機能に使用することができる。光源730はまた、グローバルラマン光ビーム220を放出および制御するためのグローバル変調器736およびグローバルレーザーソース738を含み得る。さらに、光学コントローラ720は、マルチチャネルAOM738の操作を制御するように構成されたマルチチャネルAOMコントローラ737を含み得、これは、上記のマルチチャネルAOM310に対応し得る。上記のように、マルチチャネルAOM738は、複数のチャネルを有する単一のAOMデバイス、単一のチャネルを有する複数のAOMデバイス、または複数および/または単一のチャネルを有する複数のAOMデバイスを使用して実施され得る。マルチチャネルAOMコントローラ737はまた、例えば、上記の位相進行技術を使用することによって、それらの効果を修正または軽減するために、個々のトラップされたイオンの位相シフトを監視または追跡するように構成され得る。図示されていないが、図4の位置合わせシステム400はまた、光学コントローラ720の一部として実施され得る。
【0066】
図8を参照すると、量子操作のためのイオン鎖内のイオンの量子状態を制御する方法800が示されている。一態様では、方法800は、上記のコンピュータデバイス600などのコンピュータシステムで実行することができ、ここで、例えば、プロセッサ610、メモリ620、データストア640、および/またはオペレーティングシステム660は、方法800の機能を実行するために使用される。同様に、方法800の機能は、QIPシステム700およびその構成要素(例えば、光コントローラ720およびそのサブコンポーネント)などのQIPシステムの1つまたは複数のコンポーネントによって実行され得る。
【0067】
ブロック802において、方法800は、第1の方向から、イオン鎖(例えば、線形結晶110)内のイオンに、グローバル光ビーム(例えば、グローバル光ビーム220)を提供することを含み得る。
【0068】
ブロック804において、方法800は、第1の方向とは異なる第2の方向から、イオン鎖内のイオンのサブセット内の各イオンに、それぞれのアドレス指定光ビーム(例えば、アドレス指定光ビーム210)を提供することを含み得る。一例では、第2の方向は第1の方向と反対である。別の例では、第2の方向は、第1の方向から90度オフセットされている。
【0069】
ブロック806において、方法800は、マルチチャネルAOM(例えば、AOM310)内のそれぞれのチャネルを使用して提供されるアドレス指定光ビームのそれぞれを動的に制御して、イオン鎖内のイオンのサブセットとともに、量子操作の量子ゲートのシーケンス(例えば、図5の量子ゲートのシーケンス)における1つ以上の量子ゲートを実施することを含み得る。
【0070】
方法800の一態様では、この方法は、イオン鎖内の複数のイオンの各々における蓄積された位相シフトを監視すること(例えば、光学コントローラ720および/またはマルチチャネルAOMコントローラ737により)をさらに含み、提供されるアドレス指定光ビームのうちの1つは、それぞれのイオンの蓄積された位相シフトを補正するために提供されるアドレス指定光ビームの各々を独立して変調することを含む。
【0071】
方法800の一態様では、提供されるアドレス指定光ビームの各々を動的に制御することは、提供されるアドレス指定光ビームの各々を独立して変調して、それぞれのアドレス指定光ビームの1つまたは複数の光ビーム特性を制御することを含む。1つまたは複数の光ビーム特性は、周波数、位相、または振幅のうちの1つまたは複数を含む。場合によっては、偏光は、何らかの形の制御を必要とする可能性のある光ビームの特性でもあり得る。さらに、提供されるアドレス指定光ビームの各々を独立して変調することは、AOM内のそれぞれのチャネルに適用されるRF信号を独立して変調して、それぞれのアドレス指定光ビームの光ビーム特性を変更することを含む。
【0072】
方法800の一態様では、量子操作の量子ゲートのシーケンスは、1つまたは複数の単一キュービットゲート、1つまたは複数の2キュービットゲート、またはそれらの組み合わせを含む(例えば、図5参照)。1つまたは複数の単一キュービットゲートのいずれか1つについて、それぞれのアドレス指定光ビームは、スピンフリップを生成するために単一の周波数またはトーンを有するように動的に制御される。1つまたは複数の2キュービットゲートのいずれか1つについて、それぞれのアドレス指定光ビームは、運動側波帯を駆動するために2つの周波数またはトーンを有するように動的に制御される。
【0073】
方法800の一態様では、続いて、第2の方向から、イオン鎖内のイオンの異なるサブセット内の各イオンに、それぞれのアドレス指定光ビームを提供する。そして、マルチチャネルAOMのそれぞれのチャネルを使用して、イオン鎖とともに、量子操作の量子ゲートのシーケンスにおける1つまたは複数の異なる量子ゲートを実施することによって、イオン鎖内のイオンの異なるサブセットに提供されるアドレス指定光ビームの各々を動的に制御する。
【0074】
方法800の一態様では、第1の方向から提供されるグローバル光ビームおよび第2の方向から提供されるアドレス指定光ビームの各々は、逆伝搬ラマン光ビームとして動作する。
【0075】
本開示の前述の説明は、当業者が本開示を作成または使用できるようにするために提供されている。本開示に対するさまざまな修正は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される共通の原理は、本開示の精神または範囲から逸脱することなく、他の変形に適用され得る。さらに、説明された態様の要素は、単数形で説明または主張され得るが、単数形への限定が明示的に述べられていない限り、複数形が企図される。さらに、特に明記しない限り、任意の態様の全部または一部を他の任意の態様の全部または一部とともに利用することができる。したがって、本開示は、本明細書に記載の実施例および設計に限定されるものではなく、本明細書に開示される原理および新規の特徴と一致する最も広い範囲を与えられるべきである。

図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8