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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】顕微鏡観察システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240115BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240115BHJP
   G02B 21/24 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/00 Z
C12M1/00 D
G02B21/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022507939
(86)(22)【出願日】2020-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2020012133
(87)【国際公開番号】W WO2021186648
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517123221
【氏名又は名称】アイ ピース,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】伴 一訓
(72)【発明者】
【氏名】木下 聡
(72)【発明者】
【氏名】田邊 剛士
(72)【発明者】
【氏名】平出 亮二
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/020458(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/051983(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 3/00
G02B 21/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は細胞塊を培養する培養槽を備えた細胞製造装置と、
前記細胞又は前記細胞塊を含む対象物を観察可能な顕微鏡装置と、
前記顕微鏡装置を前記細胞製造装置の方へ搬送する搬送装置と、
前記顕微鏡装置の焦点を前記対象物に合わせる際に、前記搬送装置を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に目標位置へ移動させる指令を前記搬送装置に対して行う動作制御部と、
を備え、
前記現在位置から前記中継位置までの第一距離は前記搬送装置の少なくとも一つの回転軸又は並進軸を動作させるためのアクチュエータを所定量以上回転させるのに必要な距離であり、前記現在位置から前記目標位置までの第二距離は前記第一距離よりも短い距離である、顕微鏡観察システム。
【請求項2】
細胞又は細胞塊を培養する培養槽を備えた細胞作製用カートリッジと、
前記細胞又は前記細胞塊を含む対象物を観察可能な顕微鏡装置と、
前記顕微鏡装置を前記細胞作製用カートリッジの方へ又は前記細胞作製用カートリッジを前記顕微鏡装置の方へ搬送する搬送装置と、
前記顕微鏡装置の焦点を前記対象物に合わせる際に、前記搬送装置を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に目標位置へ移動させる指令を前記搬送装置に対して行う動作制御部と、
を備え、
前記現在位置から前記中継位置までの第一距離は前記搬送装置の少なくとも一つの回転軸又は並進軸を動作させるためのアクチュエータを所定量以上回転させるのに必要な距離であり、前記現在位置から前記目標位置までの第二距離は前記第一距離よりも短い距離である、顕微鏡観察システム。
【請求項3】
前記搬送装置が前記目標位置へ到達した後、前記対象物を前記顕微鏡装置で観察して前記焦点が前記対象物に合っているか否かを判定する合焦判定部をさらに備える、請求項1又は2に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項4】
前記焦点が前記対象物に合っていないと判定された場合に、次の目標位置を設定する目標位置設定部をさらに備える、請求項1から3のいずれか一項に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項5】
前記動作制御部は、前記培養槽の観察点を変更する際に、前記顕微鏡装置と前記対象物との間の距離が変化しない方向へ前記搬送装置を移動させる指令を行う、請求項1から4のいずれか一項に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項6】
細胞又は細胞塊を培養する培養槽を備えた細胞作製用カートリッジおよび該細胞作製用カートリッジを着脱可能に接続していて前記細胞作製用カートリッジを駆動する、壁状構造に固定設置された駆動ベースを含む細胞製造装置と、
前記細胞又は前記細胞塊を含む対象物を観察可能な顕微鏡装置と、
前記顕微鏡装置を前記対象物に焦点を合わせる合焦機能と、前記顕微鏡装置を前記顕微鏡装置による観察位置と前記顕微鏡装置の待機位置との間で搬送する、又は前記細胞作製用カートリッジを前記顕微鏡装置による観察位置と前記細胞作製用カートリッジの待機位置との間で搬送する搬送機能と、を備える搬送装置と、
前記観察位置において前記顕微鏡装置の焦点を前記対象物に合わせる際に、前記搬送装置を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に目標位置へ移動させる指令を前記搬送装置に対して行う動作制御部と、
を備え、
前記現在位置から前記中継位置までの第一距離は前記搬送装置の少なくとも一つの回転軸又は並進軸を動作させるためのアクチュエータを所定量以上回転させるのに必要な距離であり、前記現在位置から前記目標位置までの第二距離は前記第一距離よりも短い距離である、顕微鏡観察システム。
【請求項7】
前記細胞作製用カートリッジが閉鎖系の流体回路を備える、請求項6に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項8】
前記培養槽は前記細胞作製用カートリッジの本体から水平方向に突出している、請求項6又は7に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項9】
前記壁状構造は、前記搬送装置を取り囲むセル、または前記搬送装置が自走するラインに平行な壁状体である、請求項6に記載の顕微鏡観察システム。
【請求項10】
前記壁状構造は、前記搬送装置が前記細胞製造装置に作用を及ぼす危険領域側と危険領域の反対側の安全領域側とを空間的に分離する、請求項6に記載の顕微鏡観察システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顕微鏡観察システムに関し、特に細胞製造を合理化する顕微鏡観察システムに関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)は、ヒトやマウスの初期杯から樹立された幹細胞であり、生体に存在する全ての細胞へと分化できる多能性を有する。ヒトES細胞は、パーキンソン病、若年性糖尿病、及び白血病等、多くの疾患に対する細胞移植法に利用可能であると考えられている。しかし、ES細胞の移植は、臓器移植と同様に、拒絶反応を惹起するという問題がある。また、ヒト杯を破壊して樹立されるES細胞の利用に対しては、倫理的見地から反対意見が多い。
【0003】
これに対し、京都大学山中伸弥教授は、4種の遺伝子:Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2を体細胞に導入することにより、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功し、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した(例えば、特許文献1参照。)。iPS細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞であり、細胞移植法への利用が期待されている。
【0004】
iPS細胞のような誘導幹細胞は、細胞に遺伝子等の誘導因子を導入することによって樹立され、拡大培養、凍結保存される。しかし、例えば臨床用iPS細胞(GLP,GMPグレード)等を作製するには、非常に綺麗に保たれたクリーンルームを必要とし、高額な維持コストが掛かる。産業化のためには、クリーンルームの運用方法をいかに効率化してコスト削減に努めるかが課題になっていた。
【0005】
またiPS細胞の作製は手作業によるところが大きいが、臨床用iPS細胞を作製できる技術者は少ない。幹細胞の樹立から保存までの一連の作業が複雑であるという問題がある。臨床用の細胞培養では、標準的な工程(SOP:Standard Of Process)の確認と、SOPに従った操作と、SOP通りに実施されたか否かの確認、という3つのステップを行う必要があり、これらステップを人が行う事は非常に非生産的である。細胞培養は24時間毎日管理する必要があり、幹細胞の保存は何十年にも及ぶため、人材だけで管理するのは限界があった。
【0006】
そこで、高度に清浄なクリーンルームを不要とし、通常管理区域(例えばWHO-GMP規格において微生物及び微粒子の少なくとも一方がグレードDレベル又はそれ以上)で作業可能な閉鎖系の細胞製造装置が開発されてきた(例えば、特許文献2参照。)。また人材も排除して複雑な細胞製造工程を自動化するため、細胞製造を補助するロボットを備えた細胞製造システムも開発されている。細胞製造装置は多数個が同時並行で運用され、ロボットはこれら複数の細胞製造装置における細胞作製を補助する。
【0007】
細胞製造装置内で細胞作製が進行する間、必要に応じて培養槽中の細胞の様子を顕微鏡で観察し、細胞塊の成長の度合いに応じて種々の工程管理を行う必要がある。細胞又は細胞塊は、その形状が煎餅状に薄く、肉眼では無色透明に近いため、通常の実体顕微鏡では細胞塊を構成する細胞数や、細胞膜、細胞核といった細胞形状を明瞭に捉えるのが困難となる。従って、細胞又は細胞塊を高いコントラストで映像化できる観察方式、例えば位相差観察方式、微分干渉観察方式、レリーフコントラスト観察方式、蛍光観察方式、明視野観察方式、暗視野観察方式等を実装した顕微鏡装置を用いることが多い。このような細胞又は細胞塊を観察する顕微鏡観察システムに関する技術としては、次の文献が公知である。
【0008】
特許文献3には、培養器具の拡大像を撮像して培養ケースの外部に表示させる培養試料観察装置が開示されている。この培養試料観察装置では、複数の培養器具を配置した培養ケース内に撮像ユニットを設け、撮像ユニットで所望の培養器具が撮像される配置となるように撮像ユニット及び培養器具を相対的に移動させることが記載されている。
【0009】
特許文献4には、インキュベータのチャンバ内で培養試料を観察するための光透過式観察装置が開示されている。この光透過式観察装置では、照明装置の光出射プローブ部と光学装置の光入射プローブ部が、両プローブ部を試料観察部の表面に沿って相対位置関係を一定に維持しつつ移動させる往復駆動装置に連繋していることが記載されている。
【0010】
特許文献5には、複数の細胞培養容器、特にマイクロタイタープレートにおいて、自動的に並行して細胞を培養する装置が開示されている。筐体に観察ユニットと細胞培養容器を受けるレセプタクル装置とを配置し、細胞培養容器はキャリッジ又はロボットアームによって自動的に観察ユニットの領域に移動可能であることが記載されている。
【0011】
特許文献6には、位相差観察装置が開示されている。この位相差観察装置は、光源及び照明光学系を移動可能な第1の移動ユニットと、結像光学系を移動可能な第2の移動ユニットと、含むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第4183742号公報
【文献】特開2018-019685号公報
【文献】特開2003-93041号公報
【文献】特開2006-284858号公報
【文献】特表2012-524527号公報
【文献】特開2019-66819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
顕微鏡装置の焦点を細胞又は細胞塊に対して合わせる際には、培養槽と顕微鏡装置を数十ミクロン単位で相対移動させる必要がある。しかしながら、サーボモータ等のアクチュエータの出力側の先に減速機を介して回転軸や並進軸が接続された一般的な移動機構(もしくは搬送装置)に数十ミクロン単位の動作を行わせようとしても、減速機内部の歯車に生じたバックラッシや、金属の捻じれ(弾性変形)、摩擦力、負荷といった機械的要因に起因して制御対象へ動力を効率的に伝達できず、制御対象が動作しないか又は動作したとしても意図する通りに正しく動作しないという問題がある。このような現象は一般的にはロストモーションと呼ばれることがある。この結果、顕微鏡装置の焦点合わせが的確に行えないことになる。
【0014】
他方、細胞製造装置は、細胞又は細胞塊を培養する培養槽を少なくとも備えた細胞作製用カートリッジと、細胞作製用カートリッジを着脱可能に接続していて細胞作製用カートリッジを駆動する駆動ベースと、を備えており、駆動ベースは基本的に固定設置での運用が望ましい。特に多数の細胞製造装置を同時並行で稼働するとなると、細胞製造装置の配置レイアウトが制約されると共に、細胞製造の進捗状況が細胞製造装置毎にまちまちとなるため、顕微鏡装置を細胞製造装置の方へ搬送するか又は細胞作製用カートリッジを駆動ベースから一時的に切り離して顕微鏡装置の方へ搬送する必要が生じる。
【0015】
一般に顕微鏡装置の焦点を合わせるための合焦機能は顕微鏡装置自体に設けられ、顕微鏡装置又は細胞作製用カートリッジを搬送する搬送機能は搬送装置自体で実装されることが多い。しかしながら、合焦機能と搬送機能を別個の装置に実装するとなると顕微鏡観察システムが複雑になり、製造コスト、製造工数、故障トラブル等の増大を招くことになる。
【0016】
そこで、細胞製造における顕微鏡観察システムを合理化する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示の一態様は、細胞又は細胞塊を培養する培養槽を備えた細胞製造装置と、細胞又は細胞塊を含む対象物を観察可能な顕微鏡装置と、顕微鏡装置を細胞製造装置の方へ搬送する搬送装置と、顕微鏡装置の焦点を対象物に合わせる際に、搬送装置を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に目標位置へ移動させる指令を搬送装置に対して行う動作制御部と、を備え、現在位置から中継位置までの第一距離は搬送装置の少なくとも一つの回転軸又は並進軸を動作させるためのサーボモータ等のアクチュエータを所定量以上回転させるのに必要な距離であり、現在位置から目標位置までの第二距離は第一距離よりも短い距離である、顕微鏡観察システムを提供する。
本開示の他の態様は、細胞又は細胞塊を培養する培養槽を備えた細胞作製用カートリッジと、細胞又は細胞塊を含む対象物を観察可能な顕微鏡装置と、顕微鏡装置を細胞作製用カートリッジの方へ又は細胞作製用カートリッジを顕微鏡装置の方へ搬送する搬送装置と、顕微鏡装置の焦点を対象物に合わせる際に、搬送装置を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に目標位置へ移動させる指令を搬送装置に対して行う動作制御部と、を備え、現在位置から中継位置までの第一距離は搬送装置の少なくとも一つの回転軸又は並進軸を動作させるためのサーボモータ等のアクチュエータを所定量以上回転させるのに必要な距離であり、現在位置から目標位置までの第二距離は第一距離よりも短い距離である、顕微鏡観察システムを提供する。
本開示の別の態様は、細胞又は細胞塊を培養する培養槽を備えた細胞作製用カートリッジおよび該細胞作製用カートリッジを着脱可能に接続していて前記細胞作製用カートリッジを駆動する、壁状構造に固定設置された駆動ベースを含む細胞製造装置と、前記細胞又は前記細胞塊を含む対象物を観察可能な顕微鏡装置と、前記顕微鏡装置を前記対象物に焦点を合わせる合焦機能と、前記顕微鏡装置を前記顕微鏡装置による観察位置と前記顕微鏡装置の待機位置との間で搬送する、又は前記細胞作製用カートリッジを前記顕微鏡装置による観察位置と前記細胞作製用カートリッジの待機位置との間で搬送する搬送機能と、を備える搬送装置と、前記観察位置において前記顕微鏡装置の焦点を前記対象物に合わせる際に、前記搬送装置を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に目標位置へ移動させる指令を前記搬送装置に対して行う動作制御部と、を備え、前記現在位置から前記中継位置までの第一距離は前記搬送装置の少なくとも一つの回転軸又は並進軸を動作させるためのアクチュエータを所定量以上回転させるのに必要な距離であり、前記現在位置から前記目標位置までの第二距離は前記第一距離よりも短い距離である、を備える、顕微鏡観察システムを提供する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の一態様又は他の態様によれば、顕微鏡装置の焦点を対象物に合わせる際に、搬送装置を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に搬送装置を目標位置へ移動させる指令を搬送装置に対して行う。現在位置から中継位置までの第一距離は現在位置から目標位置までの第二距離より長い距離であるため、搬送装置を駆動する減速機内部の歯車に生じたバックラッシが解消され、(搬送装置を駆動する)発生力が最大静止摩擦力や負荷を超える状態となり制御対象へ伝達されることになる。つまり搬送装置の移動(即ち焦点合わせ動作)を確実に行うことが可能になる。
また本開示の別の態様によれば、駆動ベースを固定設置で運用したとしても、搬送装置自体が顕微鏡装置の合焦機能と顕微鏡装置又は細胞作製用カートリッジの搬送機能とを備えることが可能になるため、特に多数の細胞製造装置を同時並行で稼働させた場合には、製造コスト、製造工数、故障トラブル等を大幅に抑制できることになる。つまり細胞製造における顕微鏡観察システムを合理化する技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】一実施形態における顕微鏡観察システムの概略構成を示す概略図である。
図1B】一実施形態における顕微鏡観察システムの概略構成を示す概略図である。
図1C】一実施形態における顕微鏡観察システムの概略構成を示す概略図である。
図2】顕微鏡観察システムの制御構成の一例を示すブロック図である。
図3】目標位置の設定手法の一例を示すグラフである。
図4】顕微鏡観察システムの動作の一例を示すフローチャートである。
図5A】培養槽の変形例を示す側面図である。
図5B】培養槽の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。なお、本書における用語「閉鎖」とは、微生物、ウイルス等の汚染源が装置内部に侵入して生物学的汚染を発生しないこと、及び/又は装置内部の流体(細胞、微生物、ウイルス粒子、タンパク質、核酸等の物質を含む。)が漏出して交叉汚染を発生しないこと、及び/又は病原体に感染したドナーの流体を装置内部で取扱ってもバイオハザードを発生しないことを意味する。但し、本書における細胞製造装置は、例えば二酸化炭素、窒素、酸素等の汚染源でない流体が装置内部に侵入し又は装置外部へ漏出するように構成してもよい。
【0021】
図1A図1Cは本実施形態における顕微鏡観察システム1の概略構成を示している。顕微鏡観察システム1は、細胞製造装置10、顕微鏡装置20、及び搬送装置30を備えている。細胞製造装置10は、元細胞から目的細胞を製造する装置である。元細胞とは、例えば血液細胞、線維芽細胞等の体細胞、又はES細胞、iPS細胞等の幹細胞を含み、目的細胞とは、例えば幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞(線維芽細胞、神経細胞、網膜上皮細胞、肝細胞、β細胞、腎細胞、間葉系幹細胞、血液細胞、メガカリオサイト、T細胞、軟骨細胞、心筋細胞、筋細胞、血管細胞、上皮細胞、腎細胞)を含む。細胞製造装置10は、血液、皮膚、ヒト胚等から元細胞を分離する分離機能、元細胞に遺伝子を導入する導入機能、細胞の初期化、リプログラミング、運命転換、ダイレクトリプログラミング、分化転換、分化誘導、形質転換といった細胞を誘導する誘導機能、初期培養、拡大培養といった細胞の培養機能、培養後に細胞塊を破砕する破砕機能、目的細胞を凍結保存する凍結保存機能といった複数の機能部位を備えているが、培養機能だけを備えた細胞培養装置でもよい。
【0022】
細胞製造装置10は、細胞又は細胞塊を培養する培養槽を少なくとも備えた細胞作製用カートリッジと、細胞作製用カートリッジを着脱可能に接続していて細胞作製用カートリッジを駆動する駆動ベースと、を備えているとよい。図1A図1Cでは、細胞作製用カートリッジと駆動ベースとの境界線を破線で示している。細胞作製用カートリッジは、複数の機能部位を高度に集約した流体回路と、流体回路に接続していて外部空間に対して閉鎖的に流体容器(例えばシリンジ、容積可変バッグ等)を接続する閉鎖式コネクタと、を備えている(図示せず)。流体回路は、生物学的に安全な材料、例えば樹脂、金属等で形成される。流体回路は、金型を用いた成型加工、例えば射出成形、圧縮成形等によって一体成形されるが、3Dプリンタ等を用いた造形加工、例えば光造形、熱溶解積層、粉末焼結、インクジェット等で一体成形されてもよい。流体回路は、流体を流す溝と流体を溜める貯溜槽を組み合わせることで形成される。閉鎖式コネクタは、流体回路を外部の容積可変の流体容器(例えばシリンジ、容積可変バッグ等)と流体連結する一方で、流体容器を取り外したときには外部空間に対して閉鎖するコネクタである。閉鎖式コネクタは、例えば無菌接続コネクタ、ニードルコネクタ、ニードルレスコネクタ、熱溶断チューブ等を含む。ニードレスコネクタは、スプリットセプタム型でもよいし、又はメカニカルバルブ型でもよい。流体回路は、閉鎖式コネクタを介して注入又は排出された流体によって押出される又は引出される流体を貯留する容積可変部(例えばシリンジ、容積可変バック等)を備えていてもよい。これにより流体回路は高度にクリーンであるべき部分を全て内部に集約した閉鎖系の流体回路となり、細胞製造装置10は通常管理区域でも使用可能になる。
【0023】
細胞作製用カートリッジは、本体11と、細胞又は細胞塊を培養する培養槽12と、を備えている。細胞作製用カートリッジは、樹脂等で一体成形されて本体11と培養槽12を一体化しているが、閉鎖式コネクタ等を介して培養槽12を本体11と着脱可能に流体連結してもよい。本体11は、高さ、幅、及び奥行きを備えたプレート状の装置であり、図1A及び図1Cに示すように高さが奥行きより大きい縦置型でもよいし、又は図1Bに示すように奥行きが高さより大きい横置型でもよい。培養槽12は、顕微鏡装置20による観察を可能にするため、少なくとも一部の観察領域が透明材質、例えば透明樹脂、石英ガラス等で形成され、本体11から水平方向に突出しているとよい。培養槽12は、図1A及び図1Bに示すように細胞又は細胞塊を接着培養する接着培養槽(二次元培養槽)でもよいし、又は図1Cに示すように細胞又は細胞塊を浮遊培養する浮遊培養槽(三次元培養槽)でもよい。接着培養(二次元培養)の場合、培養槽12は、静置培養する平型培養槽、回転培養するドラム型培養槽等でよい。浮遊培養(三次元培養)の場合、培養槽12は、スピナーフラスコ、振とうフラスコ、マイクロキャリアスピナーフラスコ等でよい。また培養槽12は、中空糸膜、透析膜等を用いて栄養素、試薬等を供給したり、不要な成分を排出したりするものでもよい。
【0024】
駆動ベースは、壁状構造13に固定設置された状態での運用が望ましい。壁状構造13は、搬送装置30を取り囲むセルでもよいし、又は搬送装置30が自走するラインに平行な壁状体でもよい。壁状構造13は、搬送装置30が細胞製造装置10に作用を及ぼす危険領域側と危険領域の反対側の安全領域側とを空間的に分離するとよく、例えば安全柵を兼ねていてもよい。壁状構造13は複数の細胞製造装置10を配置可能であり、これにより細胞製造装置10の設置面積を削減することが可能になる。換言すれば、複数のクリーンルームを一つの壁状構造13に配置しているのと同様であり、省スペース化、低コスト化を実現できる。
【0025】
顕微鏡装置20は、細胞又は細胞塊を含む対象物を観察可能な光学顕微鏡であるが、超音波顕微鏡でもよい。顕微鏡装置20は、対象物に対して観察波を照射する照射部21と、対象物を透過した観察波又は反射した観察波を撮像する撮像部22と、を備えている。顕微鏡装置20は、図1A及び図1Bに示すように培養槽12を照射部21と撮像部22との間に挿入することで観察を行う透過型顕微鏡でもよいし、又は図1Cに示すように照射部21と撮像部22が同じ側に配置される反射型顕微鏡でもよい。また、顕微鏡装置20は、種々の観察方式、例えば位相差観察方式、微分干渉観察方式、レリーフコントラスト観察方式、蛍光観察方式、明視野観察方式、暗視野観察方式等を実現可能な顕微鏡でよく、これら観察方式に応じて、照明源、コンデンサ、対物レンズ、位相板、微分干渉プリズム、偏光板等の種々の光学系や、トランスデューサ、音響レンズ等の種々の音響系や、撮像センサ等を備えていればよい。
【0026】
搬送装置30は、多関節ロボットであるが、回転軸を備えた他の機械装置、例えばパラレルリンク型ロボット、ヒューマノイドでもよいし、又は並進軸を備えた機械装置、例えば直交ロボット、シャトル、無人搬送車等でもよい。或いはこれらの組み合わせであってもよい。搬送装置30は、可動に適するように構成された顕微鏡装置20を細胞製造装置10の方へ搬送するが、駆動ベースから取外した細胞作製用カートリッジを顕微鏡装置20の方へ搬送してもよい。つまり搬送装置30は、顕微鏡装置20を顕微鏡装置20による観察位置と顕微鏡装置20の待機位置との間で搬送してもよいし、又は細胞作製用カートリッジを顕微鏡装置20による観察位置と細胞作製用カートリッジの待機位置との間で搬送してもよい。ここで、観察位置とは顕微鏡装置20の焦点を培養槽12内の細胞又は細胞塊に合わせることが可能な位置であり、待機位置とは顕微鏡装置20又は細胞作製用カートリッジを安全に保管可能な位置である。特に細胞作製用カートリッジの待機位置は固定設置された駆動ベースに取付けた位置でよい。図1A及び図1Bには透過型顕微鏡の照射部21と撮像部22との間に培養槽12が挿入された観察位置が示されており、図1Cには反射型顕微鏡の照射部21と撮像部22が培養槽12に対して同じ側に配置された観察位置が示されている。特に搬送装置30がロボットであって顕微鏡装置20を搬送する場合には、顕微鏡装置20をロボットの先端部31(例えばフランジ近傍)に取付けて支持搬送してもよいし又は顕微鏡装置20をハンド(図示せず)で把持搬送してもよい。また、搬送装置30がロボットであって細胞作製用カートリッジを搬送する場合には、細胞作製用カートリッジをハンド(図示せず)で把持搬送してもよい。
【0027】
図2は顕微鏡観察システム1の制御構成の一例を示している。顕微鏡観察システム1は、顕微鏡装置20及び搬送装置30を制御する制御装置40をさらに備えている。制御装置40は、CPU(central processing unit)等のプロセッサを備えたコンピュータ装置であるが、FPGA(field-programmable gate array)、ASIC(application specific integrated circuit)等の他の半導体集積回路を備えたコンピュータ装置でもよい。制御装置40は、動作プログラム41に従って動作指令を搬送装置30に対して送出する動作制御部42と、動作プログラム41に従って照射撮像指令を顕微鏡装置20に送出する照射撮像指令部43と、搬送装置30が目標位置へ到達した後に顕微鏡装置20の焦点が対象物に合っているか否かを顕微鏡画像に基づき判定する合焦判定部44と、焦点が対象物に合っていないと判定された場合に次の目標位置を設定する目標位置設定部45と、焦点が対象物に合っていると判定された場合に対象物の特徴量を顕微鏡画像に基づき計測する対象物計測部46と、を備えている。これら機能部位は制御装置40のプロセッサ、半導体集積回路等によって実装可能であるが、動作制御部42以外の機能部位は、制御装置40ではなく、上位コンピュータ装置のプロセッサ、半導体集積回路等で実装されてもよい。
【0028】
動作制御部42は、顕微鏡装置20による観察位置と顕微鏡装置20又は細胞作製用カートリッジの待機位置との間で顕微鏡装置20又は細胞作製用カートリッジを搬送する指令を搬送装置30に対して行う。また、動作制御部42は、観察位置において顕微鏡装置20の焦点を対象物に合わせる際に、搬送装置30を現在位置Aから中継位置A’へ一旦移動させた後に搬送装置30を目標位置Bへ移動させる指令を搬送装置30に対して行う。ここで、現在位置Aから中継位置A’までの第一距離は搬送装置30の少なくとも一つの回転軸又は並進軸を動作させるためのサーボモータ等のアクチュエータを所定量以上回転させるのに必要な距離であるのに対し、現在位置Aから目標位置Bまでの第二距離は第一距離よりも短い距離である。ここで所定量とは予め実験的に求めた固定値でよい。顕微鏡装置の焦点を合わせるに当たって、第一距離は例えば数ミリでよく、第二距離は例えば数十ミクロンでよい。この場合、第一距離が第二距離の数百倍程度の距離になる。このような動作制御により、搬送装置30を駆動するアクチュエータの出力側に連なる減速機の内部の歯車に生じたバックラッシが解消し、発生力が最大静止摩擦力や負荷を超える状態となり制御対象へ伝達されることになる。つまり、現在位置Aから目標位置Bまでの第二距離は数十ミクロンと極めて短いが、ロストモーションを回避して、結果的に搬送装置30を確実に目標位置Bへ移動させることが可能になる。搬送装置30がこのような動作を繰り返すことで顕微鏡装置20の焦点を対象物に合わせることができる。
【0029】
さらに、動作制御部42は、観察位置において培養槽12の観察点を変更する際には、顕微鏡装置20と培養槽12の対象物との間の距離が変化しない方向へ搬送装置30を移動させる指令を行う。図2の例では、顕微鏡装置20の観察方向であるZ方向と直交するX方向(図示せず)やY方向に移動させることで顕微鏡装置20と培養槽12の対象物との間の距離を変化させずに観察点を変更することができる。これにより、観察点を変更した後であっても顕微鏡装置20の焦点が対象物に合い易くなる。
【0030】
照射撮像指令部43は、搬送装置30が目標位置Bに到達した後に照射撮像指令を顕微鏡装置20に対して行う。そして、合焦判定部44は、顕微鏡装置20の焦点が対象物に合っているか否かを顕微鏡画像に基づき判定する。合焦判定部44で用いる合焦判定の方法は、ある画素の縦横方向の明るさ勾配の大きさ(グラディエント)を求めて二乗和平方根を計算し、これの画像全体の総和が最大となるときを合焦とみなすグラディエント法、ある画素の輝度の2次微分値の絶対値を計算し、これの画像全体の総和が最大となるときを合焦とみなす高周波量法、画像全体の輝度の分散値を計算し、これが最大となるときを合焦とみなす輝度の分散法等、様々な方法がある。例えば輝度の分散法では、次式に基づいて顕微鏡画像から分散値σ2を計算し、分散値σ2が所定閾値以上であるか否かを判定することで合焦判定を行う。ここでI(x,y)は各画素の輝度であり、μは画像の平均輝度、M、Nは画像の縦横の画素数である。なお、以下では分散値σ2を合焦判定のための合焦判定値と呼ぶ。
【0031】
【数1】
【0032】
焦点が対象物に合っていないと判定された場合には、目標位置設定部45が次の目標位置を設定し、設定した目標位置を動作制御部42へ送出する。図3は目標位置の設定手法の一例を示している。次の目標位置Bは、観察方向(図2のZ方向)に沿って現在位置Aから所定距離進めた位置でよく、所定距離は予め実験的に求めた固定値でよい。図2におけるZ方向の移動は、実際には3次元空間内の移動であるが、図3ではそれを1次元(水平の距離軸)の移動として概念的に表すものとする。先ず搬送装置を現在位置Aから一旦中継位置へ移動させた後、目標位置Bへ移動させる(図3中の<1>の動作)。目標位置Bにおける合焦判定値(図3中のb点)が所定閾値以上でない場合には、目標位置設定部45がさらに観察方向に沿って所定距離進めた次の目標位置C(図3中のc点に対応する目標位置)を設定し、再び搬送装置を一旦中継位置へ移動させた後、目標位置Cへ移動させる(図3中の<2>の動作)。目標位置Cにおける合焦判定値cが所定閾値以上である場合には、焦点が目標位置Cで対象物に合ったと判定してもよい。しかし以下ではより良い合焦位置を求める方法の一例を示す。目標位置設定部45がさらに観察方向に沿って所定距離進めた次の目標位置D(図3中のd点に対応する目標位置)を設定し、再び搬送装置を一旦中継位置へ移動させた後、目標位置Dへ移動させる(図3中の<3>の動作)。目標位置Dでは合焦判定値dが得られるが、このようにして得られた複数の合焦判定値b、c、dに対して多次元関数(例えば放物線関数)を近似的に当て嵌めることができる。多次元関数を当て嵌める計算方法は周知の事実なので、ここでは省略する。図3のように放物線関数を当て嵌めると、合焦判定値が最大となる点(図3中のe点)を求めることができ、その点に対応する位置が搬送装置の次の目標位置Eとなる。そこで再び搬送装置を一旦中継位置へ移動させた後、目標位置Eへ移動させる(図3中の<4>の動作)。このようにすることで搬送装置を最適な合焦位置へ移動させることができる。
【0033】
図2を再び参照すると、焦点が対象物に合っていると判定された場合には、対象物計測部46が対象物の特徴量を顕微鏡画像に基づき計測する。対象物の特徴量とは、例えば細胞又は細胞塊の大きさ、細胞塊を構成する細胞数、細胞膜や細胞核の形状等でよい。対象物の特徴量が規定値以上である場合には次の工程へ進み、対象物の特徴量が規定値以上でない場合には次の工程へ進まず、所定時間経過後に対象物の特徴量を再度計測するとよい。また、対象物の特徴量が異常である場合には、細胞製造装置10における細胞製造を中止又は中断してもよい。
【0034】
図4は顕微鏡観察システム1の動作の一例を示している。ステップS10では、搬送装置30が顕微鏡装置20(又は細胞作製用カートリッジ)を観察位置へ搬送する。ステップS11では、制御装置40が照射撮像指令を顕微鏡装置20に対して行う。ステップS12では、制御装置40が顕微鏡画像から合焦判定値を計算する。ステップS13では、制御装置40が合焦判定値に基づき顕微鏡装置20の焦点が対象物に合っているか否かを判定する。焦点が対象物に合っていないと判定された場合には(ステップS13のNO)、ステップS14に進み、制御装置40が次の目標位置を設定する。ステップS15では、制御装置40が搬送装置30を中継位置へ一旦移動させた後に目標位置へ移動させる指令を行う。
【0035】
そしてステップS11に再び戻り、制御装置40が照射撮像指令を顕微鏡装置20に対して行い、ステップS12及びステップS13において制御装置40が顕微鏡画像から合焦判定値を計算して合焦判定を行う。焦点が対象物に合っていると判定された場合には(ステップS13のYES)、ステップS16に進み、制御装置40が対象物の特徴量を顕微鏡画像に基づき計算する。なお、ステップS10やステップS16の後に、制御装置40が顕微鏡装置20と対象物との間の距離が変化しない方向へ搬送装置30を移動させる指令を行うことで培養槽12の観察点を変更してもよい。
【0036】
ステップS17では、制御装置40が対象物の特徴量に基づき次の工程へ進むか否かを判定する。対象物の特徴量が規定値以上でない場合には制御装置40が次の工程へ進まないと判定し(ステップS17のNO)、ステップS18において顕微鏡装置20(又は細胞作製用カートリッジ)を待機位置へ搬送し、所定時間経過後にこのフローチャートを再び実行するとよい。対象物の特徴量が規定値以上である場合には制御装置40が次の工程へ進むと判定し(ステップS17のYES)、顕微鏡観察システム1の動作を終了する。なお、制御装置40が実行するステップは、制御装置40ではなく、上位コンピュータ装置(図示せず)で実行してもよい。
【0037】
図5A及び図5Bは培養槽12の変形例を示している。培養槽12は、前述の平型培養槽ではなく、ドラム型培養槽でもよい。ドラム型培養槽で観察点を変更する際にも、制御装置40が顕微鏡装置20と培養槽12の対象物との間の距離が変化しない方向へ搬送装置30を移動させるとよい。つまり制御装置40は、顕微鏡装置20をドラム型培養槽の中心軸線回りに回転させ、顕微鏡装置20と培養槽12の対象物との間の距離(図5Bに示すように顕微鏡装置20と培養槽12の外周面との間の距離Xでもよいし、又は顕微鏡装置20と培養槽12の細胞接着面との間の距離でもよい。)が変化しない方向へ移動させるとよい。図5Aには観察点の変更前の顕微鏡装置20の姿勢が示されており、図5Bには観察点の変更後の顕微鏡装置20の姿勢が示されている。これにより、観察点を変更した後であっても顕微鏡装置20の焦点が対象物に合い易くなる。
【0038】
以上の実施形態によれば、観察位置において顕微鏡装置20の焦点を対象物に合わせる際に、搬送装置30を現在位置から中継位置へ一旦移動させた後に搬送装置30を目標位置へ移動させる指令を搬送装置30に対して行う。現在位置から中継位置までの第一距離(例えば数ミリ)は現在位置から目標位置までの第二距離(例えば数十ミクロン)の数百倍程度の距離であるため、搬送装置30を駆動するアクチュエータに連なる減速機内部の歯車に生じたバックラッシが解消し、発生力が最大静止摩擦力や負荷を超える状態となり制御対象へ伝達されることになる。つまり搬送装置の数十ミクロンずつの微小移動を確実に行うことが可能になる。
【0039】
また前述の実施形態によれば、駆動ベースを固定設置で運用したとしても、搬送装置30自体が顕微鏡装置の合焦機能と顕微鏡装置又は細胞作製用カートリッジの搬送機能とを備えることが可能になるため、特に多数の細胞製造装置10を同時並行で稼働させた場合には、製造コスト、製造工数、故障トラブル等を大幅に抑制できる。つまり細胞製造における顕微鏡観察システム1を合理化する技術を提供できる。
【0040】
なお、前述のプロセッサで実行されるプログラムや前述のフローチャートを実行するプログラムは、コンピュータ読取り可能な非一時的記録媒体、例えばCD-ROM等に記録して提供してもよいし、或いは有線又は無線を介してWAN(wide area network)又はLAN(local area network)上のサーバ装置から配信して提供してもよい。
【0041】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述した種々の実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0042】
1 顕微鏡観察システム
10 細胞製造装置
11 本体
12 培養槽
13 壁状構造
20 顕微鏡装置
21 照射部
22 撮像部
30 搬送装置
31 先端部
40 制御装置
41 動作プログラム
42 動作制御部
43 照射撮像指令部
44 合焦判定部
45 目標位置設定部
46 対象物計測部
A 現在位置
A’ 中継位置
B~E 目標位置
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5A
図5B