(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】細胞株の開発のための相同組換えベクターの高速生成のためのDNAプラスミド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/65 20060101AFI20240115BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240115BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20240115BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20240115BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALI20240115BHJP
【FI】
C12N15/65 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/90 100Z
C12Q1/6897 Z
(21)【出願番号】P 2019523781
(86)(22)【出願日】2017-11-03
(86)【国際出願番号】 US2017059816
(87)【国際公開番号】W WO2018144087
(87)【国際公開日】2018-08-09
【審査請求日】2020-11-02
(32)【優先日】2016-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591135163
【氏名又は名称】テンプル・ユニバーシティ-オブ・ザ・コモンウェルス・システム・オブ・ハイアー・エデュケイション
【氏名又は名称原語表記】TEMPLE UNIVERSITY-OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】オスカル エメ.ペレス-レアル
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0186168(US,A1)
【文献】特開2015-149933(JP,A)
【文献】特表2013-520165(JP,A)
【文献】特開2008-253254(JP,A)
【文献】特表2007-509923(JP,A)
【文献】特表2004-527238(JP,A)
【文献】国際公開第2003/020940(WO,A1)
【文献】米国特許第05464764(US,A)
【文献】特開2007-124915(JP,A)
【文献】木村 哲哉、中川 強,Gateway対応バイナリーベクターの開発と植物分子生物学への応用,三重大学大学院生物資源学研究科紀要,2010年03月01日,Vol.36,p.1-12
【文献】三重大学大学院生物資源学研究科紀要, 平成22年3月, 第36号、pp.1-12
【文献】KIMURA, Yasuyoshi et al.,CRISPR/Cas9-mediated reporter knock-in mouse haploid embryonic stem cells.,Scientific Reports,2015年06月03日,Vol. 5, Article No. 10710,pp. 1-11,DOI: 10.1038/srep10710
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
A61K 35/00-51/12
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸分子を含む相同配列指向性修復(HDR)ドナーベクターであって、ここで前記核酸分子は、
挿入カセットを含むヌクレオチド配列、
該挿入カセットの上流にあるccdb遺伝子であって、該ccdb遺伝子は、5’末端
で第一の制限酵素切断部位に隣接し、そして3’末端で
第二の制限酵素切断部位に隣接
し、該第一と第二の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素により認識される、該挿入カセットの上流にあるccdb遺伝子、および
該挿入カセットの下流にあるccdb遺伝子であって、該ccdb遺伝子は、5’末端
で第三の制限酵素切断部位に隣接し、そして3’末端で
第四の制限酵素切断部位に隣接
し、該第三と第四の制限酵素切断部位は、同一の制限酵素により認識される、該挿入カセットの下流にあるccdb遺伝子
を含み、
ここで、該上流にあるccdb遺伝子に隣接する
第一と第二の制限酵素切断部位は、該下流にあるccdb遺伝子に隣接する
第三と第四の制限酵素切断部位とは異なる制限酵素に特異的である、
相同配列指向性修復(HDR)ドナーベクター。
【請求項2】
挿入カセットは、細胞選択マーカー配列、タンパク質精製タグ、レポーターマーカー配列、外因性遺伝子配列、プロモーター配列、P2Aリンカー配列、mRNA安定化配列、哺乳動物細胞耐性選択マーカー配列(mammalian cell resistance selection marker sequence)、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、一つまたは複数の配列を含む、請求項1に記載のHDRドナーベクター。
【請求項3】
前記挿入カセットは、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、poly(His)、ビオチン/ストレプトアビジン、VSタグ、Mycタグ、HAタグ、NEタグ、Hisタグ、Flagタグ、Haloタグ、Snapタグ、Fcタグ、Nusタグ、BCCP、チオレドキシン、Snooprタグ、Spyタグ、イソペプタグ(Isopeptag)、SBPタグ、Sタグ、Aviタグ、およびカルモジュリンからなる群から選択されるタンパク質精製タグを含む、請求項2に記載のHDRドナーベクター。
【請求項4】
前記挿入カセットは、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、NanoLuc(商標)ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、および蛍光タンパク質からなる群から選択されるレポーターマーカーを含む、請求項2または3に記載のHDRドナーベクター。
【請求項5】
前記ベクターは、配列番号1の核酸配列を含む、請求項1に記載のHDRドナーベクター。
【請求項6】
前記ベクターは、配列番号2の核酸配列を含む、請求項1に記載のHDRドナーベクター。
【請求項7】
(a)請求項1~6のいずれか一項に記載の前記HDRドナーベクターを消化する工程;および
(b)工程(a)の前記消化されたHDRドナーベクターの前記挿入カセットを、組換えアームを含む二つの核酸配列にライゲーションする工程であって、ここで各組換えアームは標的ヌクレオチド配列に対する相同性を有するヌクレオチド配列を含む、工程
を含む、HDRベクターを生成する方法。
【請求項8】
前記挿入カセットは、細胞選択マーカー配列、タンパク質精製タグ、レポーターマーカー配列、外因性遺伝子配列、プロモーター配列、P2Aリンカー配列、哺乳動物細胞耐性選択マーカー配列、mRNA安定化配列、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、一つまたは複数の配列を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記挿入カセットは、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、poly(His)、ビオチン/ストレプトアビジン、VSタグ、Mycタグ、HAタグ、NEタグ、Hisタグ、Flagタグ、Haloタグ、Snapタグ、Fcタグ、Nusタグ、BCCP、チオレドキシン、Snooprタグ、Spyタグ、イソペプタグ(Isopeptag)、SBPタグ、Sタグ、Aviタグ、およびカルモジュリンからなる群から選択されるタンパク質精製タグを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記挿入カセットは、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、NanoLuc(商標)ルシフェラーゼ、アルカリフォスファターゼ、および蛍光タンパク質からなる群から選択されるレポーターマーカーを含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
HDRベクターの二つの組換えアーム、および内在性染色体標的DNA配列の間の相同組換えが、HDRベクターの挿入カセットの細胞ゲノムへの組込みを促進するように、内在性染色体標的DNA配列を含む細胞を請求項7に記載のHDRベクターに接触させることを含む、遺伝子改変細胞を作製するin vitroの方法。
【請求項12】
細胞内の内在性染色体標的DNA配列内のヌクレオチド配列を切断、または切れ目を入れるヌクレアーゼと、内在性染色体標的DNA配列を接触させ、それによって内在性染色体標的DNA配列、およびHDRベクターの一つまたは複数の組換えアームの間の相同組換えの頻度を高めることをさらに含む、請求項11に記載のin vitroの方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、2016年11月3日に出願された米国特許仮出願第62/416,802号に対する優先権を主張する。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発に関する記載
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって授与されたR03DK105267の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
生細胞中のDNAの特定配列を標的とするための酵素系(TALENS、ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼ、CRISPR)の最近の発見および開発は、真核生物のゲノムの改変を劇的に可能にした。これらの酵素系の一般的な特徴は、一旦標的DNA配列が認識され、そして切断されると、内因性DNA修復機構が二つのメインプロセスによって二本鎖切断を修復しようとすることである:非相同末端結合(NHEJ)として知られる第一のプロセスは、非常にエラーが多い多工程プロセスで切断されたDNAの二つの末端を再接続でき、結果として修復された配列にヌクレオチドの小さな挿入または欠失を残す。この天然機構は、ランダム変異を伴うタンパク質翻訳のためのリーディングフレームを変えるために、標的遺伝子の最初のエキソンの配列においてNHEJを促進することによって遺伝子ノックアウトの開発を可能にした。相同配列指向性修復(HDR)として知られる第二のプロセスは、切断を修復するために二本鎖切断の両端と相同性を有するDNAの鋳型を必要とする。このプロセスはよりエラーが少なく、そして遺伝病の特定の変異を修復または挿入するため、またはタンパク質マーカー、たとえば精製タグもしくは蛍光タンパク質の配列をノックインするために広く使用されている。
【0004】
DNAの二本鎖切断後にHDRを促進するために使用されるドナー鋳型は、大きさに幅がある。それらは、200塩基対未満の一本鎖DNA分子(ssDNA)のように単純でも、または切断部位の5’および3’末端に相同組換えアームを含むドナープラスミドのような大きさでもよい。これらのドナーベクターはまた、改変細胞クローンの単離を容易にするための耐性遺伝子の発現のための、挿入タンパク質マーカーおよび組換えカセットの配列を含む。これらのドナープラスミドの構築は困難だと考えられており、そして完了するまでに何日もかかりうる多工程プロセスを必要とする。さらに、一旦細胞内にゲノム改変が誘導されてからの純粋な細胞クローンの選択は、全ての研究室で利用可能ではない、細胞選別のための高価な装置の使用を必要とするか、または完了までに数週間かかりうるプロセスである、真核生物用抗生物質に対する耐性カセットによる細胞選択、それに続く単一細胞希釈に依存しうる。
【0005】
したがって、ベクター生成および純粋なクローン細胞選択のプロセスを促進するための方法および組成物に対する当技術分野におけるニーズがある。本発明は、この、当技術分野における満たされていないニーズに取り組む。
【発明の概要】
【0006】
一つの実施形態では、本発明は、核酸分子を含む相同配列指向性組換え(HDR)ドナーベクターであって、ここで当該核酸分子はネガティブ選択マーカーを含む、一つまたは複数のヌクレオチド配列、および挿入カセットを含むヌクレオチド配列を含み、ここで挿入カセットは細胞ゲノムに挿入されるべき核酸配列を含む、HDRドナーベクターに関する。
【0007】
一つの実施形態では、挿入カセットは細胞選択マーカー配列、タンパク質精製タグ、レポーターマーカー配列、プロモーター配列、P2Aリンカー配列、終結配列、mRNA安定化配列、レポーターマーカー配列、細胞選択マーカー配列、外因性遺伝子、またはそれらの組み合わせのうちの一つまたは複数を含む。
【0008】
一つの実施形態では、タンパク質タグは、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、poly(His)、ビオチン/ストレプトアビジン、V5タグ、Mycタグ、HAタグ、NEタグ、Hisタグ、Flagタグ、Haloタグ、Snapタグ、Fcタグ、Nusタグ、BCCP、チオレドキシン、Snooprタグ、Spyタグ、イソペプタグ(Isopeptag)、SBPタグ、Sタグ、Aviタグ、カルモジュリンのうちの一つである。
【0009】
一つの実施形態では、レポーターマーカーは、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、NanoLuc(登録商標)、アルカリフォスファターゼ、および蛍光タンパク質のうちの一つである。一つの実施形態では、蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、mCherry、mRuby3、mtagBFP2、およびmClover3からなる群から選択される。
【0010】
一つの実施形態では、挿入カセットは、Zeocin(商標)耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、ピューロマイシン耐性マーカー、ブラストサイジン耐性マーカー、およびハイグロマイシン耐性マーカーのうちの一つである。
【0011】
一つの実施形態では、一つまたは複数のネガティブ選択マーカーは、ccdb遺伝子を含む。一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、挿入カセットに隣接するネガティブ選択マーカーをコードする二つの核酸配列を含む。一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、配列番号1または配列番号2に記載されている核酸配列を含む。
【0012】
一つの実施形態では、本発明は、核酸分子を含むHDRベクターであって、ここで当該核酸分子は一つまたは複数の組換えアームを含み、ここで当該組換えアームは標的ヌクレオチド配列に対する相同性を有するヌクレオチド配列、および挿入カセットを含むヌクレオチド配列を含み、ここで前記挿入カセットは、細胞ゲノムに挿入されるべき核酸配列を含む、HDRベクターに関する。
【0013】
一つの実施形態では、挿入カセットは、細胞選択マーカー配列、タンパク質精製タグ、レポーターマーカー配列、プロモーター配列、終結配列、mRNA安定化配列、レポーターマーカー配列、細胞選択マーカー配列、外因性遺伝子、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、一つまたは複数の配列を含む。
【0014】
一つの実施形態では、タンパク質タグは、CBP、MBP、GST、poly(His)、ビオチン/ストレプトアビジン、V5タグ、Mycタグ、HAタグ、NEタグ、Hisタグ、Flagタグ、Haloタグ、Snapタグ、Fcタグ、Nusタグ、BCCP、チオレドキシン、Snooprタグ、Spyタグ、イソペプタグ(Isopeptag)、SBPタグ、Sタグ、Aviタグ、カルモジュリンのうちの一つである。
【0015】
一つの実施形態では、レポーターマーカーは、CAT、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、NanoLuc(登録商標)、アルカリフォスファターゼ、および蛍光タンパク質のうちの一つである。一つの実施形態では、蛍光タンパク質は、GFP、RFP、mCherry、MRuby3、mtagBFP2、およびmClover3からなる群から選択される。
【0016】
一つの実施形態では、細胞選択マーカー配列は、Zeocin(商標)耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、ピューロマイシン耐性マーカー、ブラストサイジン耐性マーカー、およびハイグロマイシン耐性マーカーのうちの一つである。
【0017】
一つの実施形態では、本発明は、HDRベクターの一つまたは複数の組換えアーム、および内在性染色体DNA配列の間の相同組換えが、HDRベクターの挿入カセットの細胞ゲノムへの組込みを促進するように、内因性染色体標的DNA配列を含む細胞を本発明のHDRベクターに接触させることを含む、遺伝子改変細胞の作製方法に関する。
【0018】
一つの実施形態では、接触の方法は、HDRベクターで細胞をトランスフェクトすることを含む。
【0019】
一つの実施形態では、方法は、細胞内の内在性染色体標的DNA内の特定のヌクレオチド配列でDNAを切断するエンドヌクレアーゼドメインを含むヌクレアーゼを提供すること;およびヌクレアーゼが細胞内の内在性染色体標的DNA配列内のヌクレオチド配列を切断、または切れ目を入れるように、内在性染色体標的DNA配列を細胞内のヌクレアーゼと接触させ、それによって内在性染色体標的DNA配列、およびHDRベクターの一つまたは複数の組換えアームの間の相同組換えの頻度を高めることをさらに含む。
【0020】
一つの実施形態では、細胞はヒト由来である。一つの実施形態では、細胞はマウス由来である。
【0021】
一つの実施形態では、本発明は、本発明の方法に従って作製された遺伝子改変細胞に関する。一つの実施形態では、遺伝子改変細胞はノックアウト細胞である。一つの実施形態では、遺伝子改変細胞はノックイン細胞である。一つの実施形態では、細胞はヒト細胞である。一つの実施形態では、細胞はマウス細胞である。
【0022】
一つの実施形態では、本発明は、上記核酸を導入することが所望される内在性染色体標的DNA配列を含む初代細胞を得ること;HDRベクターの一つまたは複数の組換えアーム、および内在性染色体DNA配列の間の相同組換えが、HDRベクターの挿入カセットの細胞ゲノムへの組込みを促進するように、細胞を本発明のHDRベクターに接触させること;および相同組換えが起こった上記初代細胞から動物を作製することを含む、所望の核酸が導入されている遺伝子改変動物を作製する方法に関する。
【0023】
一つの実施形態では、上記方法は、細胞内の内在性染色体標的DNA内の特定のヌクレオチド配列でDNAを切断するエンドヌクレアーゼドメインを含むヌクレアーゼを提供すること;およびヌクレアーゼが初代細胞内の内在性染色体標的DNA配列内のヌクレオチド配列を切断、または切れ目を入れるように、内在性染色体標的DNA配列を細胞内のヌクレアーゼと接触させ、それによって内在性染色体標的DNA配列、およびHDRベクターの一つまたは複数の組換えアームの間の相同組換えの頻度を高めることをさらに含む。
【0024】
一つの実施形態では、動物は哺乳類、有袋類、鳥類、両生類、および魚のうちの一つである。
【0025】
一つの実施形態では、挿入カセットは、相同組換え後に遺伝子を破壊するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を置換するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を導入するヌクレオチド配列、および相同組換え後に調節部位を導入するヌクレオチド配列からなる群から選択される、ヌクレオチド配列を含む。
【0026】
一つの実施形態では、本発明は、本発明の方法に従って作製された遺伝子改変動物に関する。
【0027】
一つの実施形態では、本発明は、HDRベクターを疾患を有する対象に導入することを含む疾患を治療する方法であって、ここでHDRベクターの挿入カセットは、相同組換え後に遺伝子を破壊するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を置換するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を導入するヌクレオチド配列、および相同組換え後に調節部位を導入するヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、ここで当該遺伝子は疾患に関連する、疾患を治療する方法に関する。
【0028】
一つの実施形態では、本発明は、遺伝子またはタンパク質の一つまたは複数の活性に対する化合物の効果をスクリーニングする方法であって、本発明の一つまたは複数の細胞を当該化合物と接触させること、および遺伝子またはタンパク質の一つまたは複数の活性を評価することを含む方法に関する。
【0029】
一つの実施形態では、本発明は、疾患を治療する方法であって、それを必要とする対象に本発明の化合物の効果をスクリーニングする方法によって疾患の治療に有益である効果を有すると同定された化合物を投与することを含む疾患を治療する方法に関する。一つの実施形態では、上記疾患は低レベルのヘムオキシゲナーゼI(HO-1)発現と関連し、そして上記化合物はジスルフィラム、チオストレプトン、トリメタジオン、オーラノフィン、チメロサール、ハロファントリン塩酸塩、およびボリノスタットのうちの一つである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の好適な実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読めば、よりよく理解されるだろう。本発明を説明する目的で、現在好適な実施形態が図面に示されている。しかしながら、本発明は、図面に示された実施形態の正確な配置および手段に限定されないことを理解されたい。
【
図1】
図1A~
図1Cを含み、C末端標識化のためのHDRベクターを構築するための構成要素の図を示す。
図1Aは、ccdB(細胞死の制御B遺伝子)カセット(この場合はKpnIおよびBamHI)で断片を切断するためにHDRドナーベクター(またはバックボーンベクター)は最初に制限酵素で消化されることを示す。
図1Bは、標的DNA配列に対して相同性を有するように設計された合成組換えアームを示す。ギブソンアセンブリ法を使用することによって、組換えアームは消化された骨格ベクターと混合され、そしてクローニングされる。
図1CはHDRベクター産物を示す。
【
図2】
図2A~
図2Cを含み、N末端標識化のためのHDRベクターを構築するために必要とされる構成要素の図を示す。
図2Aは、CDDBカセット(この場合我々はKpnIおよびBamHIを使用する)で断片を切断するために、バックボーンベクターは最初に制限酵素で消化されることを示す。
図2Bは、以前に設計された合成組換えアームが、ギブソンアセンブリ法を使用することによって、消化されたバックボーンベクターと混合され、そしてクローニングされることを示す。
図2CはHDRベクター産物を示す。
【
図3】
図3A~
図3Cを含み、内部プロモーターを有するHDRベクターを構築するために必要とされる構成要素の図を示す。
図3Aはレポーター配列、および内部プロモーターの制御下にある抗生物質耐性遺伝子を有するHDRドナーベクターは、CDDBカセット(この場合我々はKpnIおよびBamHIを使用する)で断片を切断するために、最初に制限酵素で消化されることを示す。
図3Bは、合成組換えアームは標的DNA配列と相同性を有するように設計されることを示す。ギブソンアセンブリ法を使用することによって、組換えアームは消化した骨格ベクターと混合され、そしてクローニングされる。
図3CはHDRベクター産物を示す。
【
図4】
図4A~
図4Bを含み、相同組換えを促進することによって内在性タンパク質を標識するために使用することができるタンパク質タグの例の図を示す。
図4Aは、標的遺伝子のC末端部位に標識タグを挿入するための例示的構築物を示す。
図4Bは、標的遺伝子のN末端部位に標識タグを挿入するための例示的構築物を示す。
【
図5】相同組換えベクターを開発するためのプロトコルおよび改変細胞系の選択を示す。
【
図6】mRuby3でタグ付けされ、Zeocin(商標)(100μg/ml)で選択された内在性ヒストン3を含む細胞株の代表的な画像を示す。
【
図7】mClover3でタグ付けされ、ピューロマイシン(5μM)で選択された内在性ベータチューブリンを含む細胞株の代表的な画像を示す。
【
図8】多重標識化された細胞株を示す。内在性ヒストン3はmRuby3でタグ付けされ、そしてベータチューブリンはmClover3でタグ付けされた。細胞はZeocin(登録商標)とピューロマイシンの混合物で選択された。
【
図9】
図9Aから
図9Cを含み、三重標識を用いて開発された細胞株の代表的な画像を示す。
図9Aは、mRuby3でタグ付けされた内在性ヒストン3を示す。
図9Bは、mTagBFP2でタグ付けされたATP5Bを示す。
図9Cは、mClover3でタグ付けされたベータチューブリンを示す。細胞は、Zeocin(登録商標)、ピューロマイシン、およびブラスチシジンの混合物を用いて選択された。
【
図10】NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼでタグ付けされたヘムオキシゲナーゼI(HO-1)を用いて開発された細胞株を示す。HEK293T細胞株は、NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼでタグ付けされたHO-1の内在性遺伝子で修飾された。HO-1タンパク質の発現の変化は、HO-1の発現の、既知の活性化剤で刺激した後に測定された。
【
図11-1】
図11は、HO-1発現の強力な誘導因子の同定を示す実験結果を示す。酸化剤または抗酸化剤の能力を有する84種の化合物のライブラリーによる16時間の処理後のHO-1の発現の変化を評価するために、HO-1 NanoLuc(登録商標) HEK293T細胞株が用いられた。
【
図11-2】
図11は、HO-1発現の強力な誘導因子の同定を示す実験結果を示す。酸化剤または抗酸化剤の能力を有する84種の化合物のライブラリーによる16時間の処理後のHO-1の発現の変化を評価するために、HO-1 NanoLuc(登録商標) HEK293T細胞株が用いられた。
【
図12】HO-1の発現を活性化するFDA承認薬の同定を示す実験結果を示す。1200種のFDA承認化合物のライブラリーによる16時間の処理後のHO-1の発現の変化を評価するために、HO-1 NanoLuc(登録商標) HEK293T細胞株が用いられた。7つの化合物は、1.5倍を超えてHO-1の発現を増加させることができた。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
一つの実施形態では、本発明は、遺伝子の一つまたは複数のアレルの発現を減少させるための方法および試薬を提供する。一つの実施形態では、本発明は、遺伝子の一つまたは複数のアレルを標識するための方法および試薬を提供する。
【0032】
一つの実施形態では、本発明は、外因性配列に対応するポリヌクレオチドの領域を標的とする方法において使用するためのDNA分子を提供する。一つの実施形態では、DNA分子は前組換えベクター、またはHDRドナーベクターである。一つの実施形態では、DNA分子は組換えベクター、またはHDRベクターである。一つの実施形態では、本発明のHDRドナーベクターは、挿入カセットを含む。一つの実施形態では、本発明のHDRベクターは、HDRドナーベクターの消化、およびHDRドナーベクターの挿入カセットの、標的核酸配列に対して相同性を有する一つまたは複数の核酸配列への連結を介して生成される。
【0033】
一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、CCDBカセット、および挿入カセットのうちの、一つまたは複数を含む。一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、第一の制限酵素による切断のための制限酵素切断部位に隣接する第一のCCDBカセット、挿入カセット、および第二の制限酵素による切断のための制限酵素切断部位に隣接する第二のCCDBカセットを含む。一つの実施形態では、CCDBカセットは、CcdB毒素をコードするccdB遺伝子を含む。
【0034】
一つの実施形態では、HDRドナーベクターの挿入カセットは、タグをコードするポリヌクレオチド配列、リンカー配列、および抗生物質耐性遺伝子のうちの一つまたは複数を含む。一つの実施形態では、リンカー配列はP2A配列である。一つの実施形態では、タグ、リンカー配列、および抗生物質耐性遺伝子を含むHDRドナーベクターの例示的なヌクレオチド配列は、配列番号1に記載されている。
【0035】
一つの実施形態では、挿入カセットは、タグをコードするポリヌクレオチド配列、プロモーター配列、および抗生物質耐性遺伝子のうちの一つまたは複数を含む。一つの実施形態では、プロモーターはEF-1アルファプロモーターである。一つの実施形態では、タグ、プロモーター配列、および抗生物質耐性遺伝子を含むHDRドナーベクターの例示的なヌクレオチド配列は、配列番号2に記載されている。
【0036】
一つの実施形態では、HDRベクターは、HDRドナーベクターの挿入カセットを、標的核酸配列に対して相同性を有する一つまたは複数の核酸配列、または組換えアームに連結することによって生成される。一つの実施形態では、HDRベクターは、二つの標的核酸配列に対して相同性を有する二つの領域、または二つの組換えアームを含む。一つの実施形態では、HDRベクターは、二つの組換えアームに隣接する挿入カセットを含む。
【0037】
一つの実施形態では、HDRベクターは、外因性配列に対応するポリヌクレオチド配列を有する第一の領域、挿入カセット、および外因性配列に対応するポリヌクレオチド配列を有する第二の領域を含む。一つの実施形態では、組換えベクター(またはHDRベクター)は、外因性配列に対応するポリヌクレオチド配列を有する第一の領域、タグをコードするポリヌクレオチド配列、リンカー配列、抗生物質耐性のためのタンパク質をコードするポリヌクレオチド配列、および外因性配列に対応するポリヌクレオチド配列を有する第二の領域を含む。いくつかの実施形態では、ベクターはプロモーターを含む。一つの実施形態では、ベクターは条件付き調節プロモーターを含む。
【0038】
一つの実施形態では、本発明は、細胞内の遺伝子または遺伝子産物をタグ付けする方法であって、(a)HDRベクターが遺伝子のエキソン配列に対応する少なくとも一つのポリヌクレオチド配列を含むHDRベクターを細胞内に導入すること、(b)HDRベクター由来の挿入カセットがゲノムに組み込まれている細胞を選択すること、を含む方法を提供する。
【0039】
一つの実施形態では、本発明は、一細胞内の遺伝子をノックダウンまたはノックアウトする方法であって、(a)HDRベクターが遺伝子のプロモーターまたはエキソン配列に対応する少なくとも一つのポリヌクレオチド配列を含むHDRベクターを細胞に導入すること、(b)HDRベクター由来の挿入カセットがゲノムに組み込まれている細胞を選択すること、を含む方法を提供する。
【0040】
一つの実施形態では、本発明は、細胞内の複数の遺伝子または遺伝子産物をタグ付けする方法であって、(a)各HDRベクターがエキソン配列およびユニークな挿入カセットに対応する少なくとも1つのポリヌクレオチド配列を含む、複数のHDRベクターを細胞に導入すること、(b)HDRベクター由来の複数の挿入カセットがゲノムに組み込まれている細胞を選択すること、を含む方法を提供する。
【0041】
別の実施形態では、本発明は、細胞ライブラリーの作製方法であって、(a)HDRベクターがそれぞれ、遺伝子のプロモーターまたはエキソン配列に対応するポリヌクレオチド配列を含み、複数の細胞に複数のHDRベクターを導入すること、(b)HDRベクターがゲノムに組み込まれている細胞を選択すること、を含む方法を提供する。一つの実施形態では、細胞ライブラリーはタグ付き細胞ライブラリーである。一つの実施形態では、ライブラリーはノックダウン細胞ライブラリーである。一つの実施形態では、ライブラリーはノックアウト細胞ライブラリーである。
【0042】
一つの実施形態では、本発明は、本発明の方法によって作製された細胞を含む。一つの実施形態では、細胞は哺乳動物細胞であり、そしてそれはヒト細胞であってもよい。特定の実施形態では、本発明は、本発明のHDRベクターの組み込まれた挿入カセットを含む細胞を含む。本発明はまた、本発明の細胞のライブラリー、アレイ、および集合体を提供する。
【0043】
別の実施形態では、本発明は、本発明の方法によって作製された動物を提供する。特定の実施形態では、動物は哺乳動物であり、そして一つの実施形態では、動物はマウスである。
【0044】
一つの実施形態では、HDRベクターのポリヌクレオチド配列は遺伝子の一部に対応する。一つの実施形態では、遺伝子はレポーター遺伝子である。別の実施形態では、この遺伝子は疾患または障害と関連している。
【0045】
本発明の特定の実施形態では、HDRベクターの組み込まれた挿入カセットは、組換え後に遺伝子に対して5’または3’の枠内に位置し、標的遺伝子またはタンパク質をタグ付けするのに役立つ。本発明の特定の実施形態では、HDRベクターの組み込まれた挿入カセットは、組換え後に遺伝子の転写された領域に位置し、標的遺伝子またはタンパク質をノックダウンまたはノックアウトするのに役立つ。
【0046】
一つの実施形態では、本発明の細胞は破壊された遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、遺伝子は、HDRベクターの組み込まれた挿入カセットによって破壊されている。特定の実施形態では、挿入カセットはプロモーターをさらに含み、一つの実施形態では、プロモーターは誘導性プロモーターである。一つの実施形態では、挿入カセットは細胞のゲノムに組み込まれる。
【0047】
一つの実施形態では、細胞は、組換え後に組み込まれた挿入カセットを有する遺伝子の単一アレルを含む。代替の実施形態では、細胞は、組換え後に組み込まれた挿入カセットを有する遺伝子の両方のアレルを含む。本発明はさらに、各細胞が異なる破壊された遺伝子を含む、本発明の細胞の収集物を提供する。
【0048】
定義
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料が、本発明の実施または試験に使用されてもよいが、好ましい方法および材料が記載されている。
【0049】
本明細書で使用されているように、以下の用語のそれぞれは、この節でそれに関連する意味を有する。
【0050】
冠詞「a」および「an」は、本明細書では、冠詞の文法上の目的語の一つまたは二つ以上(すなわち、少なくとも一つ)を指すために使用される。例として、「一つの要素」は、一つの要素または複数の要素を意味する。
【0051】
測定可能な値、たとえば量、持続時間等を指すときに本明細書で使用される「約」は、そのような変動は開示された方法を実行するのに適切であるため、特定の値から、±20%、±10%、±5%、±1%、または±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0052】
アレル:「アレル」は、遺伝子の単一コピーであり、そして遺伝子の一対もしくは一連のコピーのうちの一つ、または異型でありうる。
【0053】
アレルの(allelic):用語「アレルの(allelic)」は、特定の遺伝子の一つより多いコピーまたは型の存在を含意する。したがって、遺伝子が一つより多いアレルを有する場合、その遺伝子はアレルである(be allelic)と言われる。
【0054】
本明細書で使用されているように、「アレイ」は、体系的方法で、または何らかの所定の方法で配置することができるオブジェクトの一体的な集合体である。「アレイ」は、たとえば、容器の一体的な集合体またはウェルの一体的な集合体でありうる。つまり、「配列」は、別の部分との単位として形成されているオブジェクトの集合体である。「アレイ」はまた、その上に一体的な物質の集合体が体系的に配置されている表面でありうる。
【0055】
「細胞のアレイ」は、体系的に配置された細胞の集合体である。「細胞のアレイ」または「細胞アレイ」は、たとえば、遺伝子が破壊されている細胞型または細胞の非ランダムな配置を表し、容器またはウェルの一体的な集合体内に含まれる。
【0056】
本発明の「細胞」は、宿主細胞、標的細胞、正常細胞、変異細胞、疾患または障害の特徴を有する細胞(「罹患細胞」)、形質転換細胞、または改変細胞でありうるが、これらに限定されない。本明細書における「細胞」はまた、そのような細胞の培養物を意味しうる。改変細胞は、そのゲノム内に統合された「構築物」または統合された「外因性セグメント」を含む細胞でありうる。そのような細胞は、「ノックアウト」と見なされうる。改変細胞は、生物学的因子またはそのような因子の群によって発現が制御されるポリヌクレオチドを含みうる。この点において、改変細胞は調節可能な遺伝子を含む細胞でありうる。
【0057】
「クローン」は、単一の祖先細胞に由来する、同一のゲノムを有する多数の細胞である。したがって、一つの起源細胞からの有糸分裂によって産生される、遺伝的に同一の細胞の一群は、「クローン」である。本発明によれば、クローンは少なくとも一つの培養細胞、好ましくは非凍結細胞、または複数のそのような細胞であって、それぞれその系統をたどると一細胞である細胞を表す。
【0058】
用語「構築物」は、線状または環状の形態で存在することができる、人工的に組み立てられたポリヌクレオチド分子、たとえばクローニングベクターまたはプラスミドを意味する。典型的には、構築物は、構築物中の他の要素、たとえば細胞選択マーカー、レポーターマーカー、適切な制御配列、プロモーター終結配列、スプライスアクセプター部位、スプライスドナー部位、および制限エンドヌクレアーゼ認識配列と並置された要素、たとえば、遺伝子、遺伝子断片、または特に目的のポリヌクレオチド配列を含むであろう。構築物は、たとえば、「HDRドナーベクター」または「HDRベクター」であってもよい。構築物、またはその一部は、細胞のゲノムまたは細胞ゲノムのインビトロ調製物に組み込まれてもよい。「破壊された」とは、内在性遺伝子産物の発現を妨げることを意味する。一つの実施形態では、アレルヌクレオチド配列の任意の部分が構築物を含む場合、その遺伝子のアレルは「破壊されている」。したがって、細胞ゲノム中に天然に存在するヌクレオチド配列は、前者の配列の5’末端と3’末端との間の別のヌクレオチド配列の組み込みによって「破壊され」うる。細胞ゲノム中の遺伝子を破壊するヌクレオチド配列は、その配列の存在がなければ、一緒にポリペプチドをコードする領域に隣接し得る。構築物による遺伝子の破壊は、たとえば、細胞内での遺伝子産物の非発現、または部分的もしくは完全に非機能的な遺伝子産物もしくは改変された遺伝子産物の発現をもたらしうる。
【0059】
前者の配列の5’末端が後者の配列の3’末端の後に位置する場合、構築物中のポリヌクレオチド配列は、構築物中の第二のポリヌクレオチド配列の下流または3’にあると見なされる。
【0060】
それが本来その細胞ゲノムの一部ではない場合、またはそれが意図的に細胞のゲノムに挿入されている場合、ヌクレオチド配列は、細胞に対して「外因性」である。ヌクレオチド配列は、ヒトの介入または自動化手段によって意図的に細胞ゲノムに挿入することができる。
【0061】
外因性ヌクレオチド配列、たとえば構築物の配列またはその一部は、「外因性セグメント」と呼ばれることがある。外因性セグメントは、インタクトな構築物中に存在する機能要素、たとえば抗生物質耐性遺伝子を含み得る。
【0062】
「遺伝子」は、遺伝子のエキソンおよびイントロンだけでなく、他の非コード配列および調節配列、たとえばエンハンサー、プロモーターおよび転写終結配列(たとえば、ポリアデニル化配列)も含む。本明細書中で使用される場合、遺伝子は、ヒトの介入によってまたは自動化によってその中に挿入されるいかなる構築物も含まない。遺伝子は本来、対立遺伝子性(allelic)でありうる。
【0063】
細胞の「ゲノム」は、細胞の他の細胞小器官、たとえばミトコンドリア、または植物細胞では葉緑体のDNA量を含む、細胞の染色体中の全DNA含量を含む。
【0064】
細胞の「ゲノム配列」は、細胞のゲノムDNA断片のヌクレオチド配列を意味する。
【0065】
好適な宿主細胞は、非哺乳動物真核細胞、たとえば酵母、または好ましくは原核細胞、たとえば細菌でありうる。たとえば、宿主細胞は大腸菌(E. coli)の株であってもよい。
【0066】
用語「相同組換え」は、ゲノムまたはDNA調製物中の、構築物中の核酸配列と標的配列、たとえば、標的アレルの配列相同性に基づく、DNA組換えのプロセスを指す。したがって、構築物中に存在する核酸配列は同一または高度に相同的であり、すなわちそれらは細胞ゲノム内に位置する標的配列に対し、60%より高く、好ましくは70%より高く、非常に好ましくは80%より高く、そして最も好ましくは90%より高い配列同一性である。特定の実施形態では、相同組換えベクターは、細胞ゲノム内に位置する標的配列に対して95%~98%の配列同一性を有する。
【0067】
用語「一体的な(integral)」は、別の部分との構成単位として形成されることを意味する。したがって、要素の集合体、たとえばウェルまたは容器に「一体的な」の特徴付けを適用することは、いくつかの所定の方法で配置された相関要素の意図的な集積を示す。「一体的な」複数の要素は、たとえば、必ずしもアレイの全ての要素を指すわけではないが、いくつかを指すことがある。「一体的な」はまた、本発明のアレイのウェルまたは容器内の内容物を説明するために使用されうる。
【0068】
「単離された」とは、純粋な状態または遊離状態を得るために別の物質から分離することを意味する。したがって、「単離されたポリヌクレオチド」は、他の核酸から、たとえば細胞のゲノムもしくはゲノムDNA調製物、または他の細胞組成物から、分離されているポリヌクレオチドである。
【0069】
「ノックダウン」は、一つまたは複数の標的遺伝子またはアレルの発現の減少を引き起こすことを意味する。ノックダウンは、ノックダウンは、任意の様々な「ノックダウン試薬」または「ノックダウン分子」によって達成することができ、そしてこれらの用語は互換的に使用される。「ノックダウン試薬」は、たとえば、アンチセンスRNA、リボザイム、およびdsRNAを含む。「ノックダウン細胞」は、ノックダウン試薬を含む細胞を指し、そして「ノックダウン動物」は、ノックダウン試薬を含む動物を指す。同様に、「ノックダウン植物」は、ノックダウン試薬を含む植物を指す。
【0070】
「ノックアウト」は、遺伝子操作によってゲノムから破壊された、特定の単一遺伝子または遺伝子のアレルを有することを意味する。したがって、「単一アレルノックアウト細胞」とは、その遺伝子産物が発現されないように、遺伝子の単一対立アレルが破壊されている細胞を指す。同様に、トランスジェニック「ノックアウトマウス」または他の動物は、破壊された遺伝子またはアレルを含有する細胞を含むものである。
【0071】
本明細書において、「ライブラリー」は、二つ以上の構成要素の一体的な集合体を意味する。構成要素とは、ライブラリーの「不可欠な部分」を意味する。ライブラリーの構成要素は細胞または核酸でありうる。たとえば、細胞ライブラリーに加えて、ライブラリーは構築物、ポリヌクレオチドまたはRNA分子の集合体を含みうる。ライブラリーは、選択された薬物または化合物の集合体を含みうる。ライブラリーは、一つの容器内に物理的に存在する「プールされた」構成要素の一体的な集合体を含みうる。あるいは、ライブラリーは、本発明の方法によって製造され、互いに別々に保存されている構成要素の一体的な集合体でありうる。
【0072】
「マーカー配列」とは、細胞選択マーカー配列またはレポーターマーカー配列のいずれかを指す。選択マーカー配列は選択マーカーをコードし、そして宿主細胞選択マーカーまたは標的細胞選択マーカーでありうる。レポーターマーカー配列はレポーターマーカーをコードする。
【0073】
用語「天然に存在する」は、そのように的確なオブジェクトが天然に見出されうる、そして人の介入によって改変されていないという事実を意味する。したがって、ヌクレオチド配列は、それが天然に存在し、そしてヒトの介入によって改変されていない場合、「天然に存在する」。ポリヌクレオチドが天然に存在する場合、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列もまた、「天然に存在する」。同様に、細胞のゲノムが「天然に存在する」場合、ゲノムのヌクレオチド配列は「天然に存在する」。
【0074】
「核酸」とは、DNAおよびRNA分子をいう。従って、ベクター、プラスミド、構築物、ポリヌクレオチド、mRNAまたはcDNAは全て核酸の例である。
【0075】
ポリヌクレオチドは、他の核酸、たとえば細胞ゲノムから、ポリヌクレオチドを物理的に分離する工程を実施することによって「得る」ことができる。あるいは、ポリヌクレオチドは、PCR反応を実施してポリヌクレオチドの特定のコピーを生成することによって、核酸鋳型から「得る」ことができる。さらになお、ポリヌクレオチドは、ヌクレオチド配列情報、たとえばデータベースで利用可能なものを使用してポリヌクレオチドを設計および化学合成することによって「得る」ことができる。
【0076】
用語「作動可能に連結された」は、それらがそれらの意図された様式で機能することを可能にする関係における遺伝的要素の並置を指す。そのような要素は、たとえば、プロモーター、調節配列、目的のポリヌクレオチドおよび終結配列が含み、これらは「作動可能に連結された」場合には意図されたように機能する。「作動可能に連結された」要素はまた、互いに「インフレーム」である。
【0077】
複製起点:複製が開始されるDNAの配列を指す。
【0078】
ポリヌクレオチドライブラリー:ポリヌクレオチドライブラリーは、少なくとも二つのポリヌクレオチドの一体的な集合体である。
【0079】
用語「ランダム挿入」は、それによって核酸がゲノムまたはDNA調製物の不特定の領域に組み込まれるプロセスを指す。
【0080】
「調節可能遺伝子」は、転写産物が転写されて遺伝子またはポリヌクレオチド配列によってコードされる完全タンパク質が産生されないように、転写が改変されているか、または得られるmRNA転写産物が分解される、遺伝子またはポリヌクレオチド配列である。調節可能な遺伝子は、そのmRNAはインタクトであるが、宿主細胞の酵素によって翻訳されないものであってもよい。一般に、調節可能遺伝子は、特定の時点でまたは特定の条件下でその発現を可能にするものである。たとえば、調節可能遺伝子は、誘導性プロモーターによって駆動されるものである。
【0081】
「挿入カセット」は、挿入構築物が組み込まれている形質転換細胞のタグ付け、選択、またはその両方を容易にする機能的要素を含む構築物である。そのような要素は、「マーカー配列」および「抗生物質耐性遺伝子」ヌクレオチド配列を含みうる。「挿入カセット」は、遺伝子の任意の部分に組み込まれるように設計されてもよい。これに関して、「挿入カセット」は、標的遺伝子の下流にインフレームで組み込まれるように設計されてもよい。あるいは、「挿入カセット」は、遺伝子のコード配列に組み込まれるように設計されてもよく、それによって遺伝子を破壊する。
【0082】
前者の配列の3’末端が後者の配列の5’末端の前に位置する場合、構築物中のポリヌクレオチド配列は、構築物中の第二のポリヌクレオチド配列の上流または5’にあると見なされる。
【0083】
範囲:本開示を通して、本発明の様々な態様は範囲形式で提示することができる。範囲形式での説明は単に便宜上および簡潔さのためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことは理解されるべきである。したがって、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値だけでなくすべての可能な部分範囲を具体的に開示していると見なされるべきである。たとえば、範囲の記載、たとえば1~6は、その範囲内の個々の数値、たとえば1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6に加えて、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲を具体的に開示していると考えられるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用する。
【0084】
説明
本発明は、細胞内での外因性遺伝子発現のために、タグ付け、調節、変異、「ノックアウト」または他の方法で破壊、または「ノックイン」することができる材料および方法に関する。本発明は、任意のタグおよび任意の選択抗生物質を容易に収容することができるモジュラー骨格であるHDRドナーベクターに関する。組換えアームと組み合わせた本発明のHDRドナーベクターは、タグおよび選択マーカーを標的とし、標的細胞のゲノムに組み換えるHDRベクターを形成するために使用される。したがって、本発明はまた、HDRベクターを使用して、一つまたは複数のタグ付きまたは不活性化遺伝子アレルを含む細胞を産生する方法に関する。本発明の方法を使用して生成された細胞は、これらの細胞においてタグ付け、不活性化、または発現された遺伝子の治療的または診断的有用性を評価するのに有益である。
【0085】
組成
一つの実施形態では、本発明は、本発明の方法における使用のためのベクターに関する。別の実施形態では、本発明は、一つまたは複数の遺伝子アレルが、タグ付けされている、不活性化されている、または本発明の方法を使用して発現されている細胞に関する。
【0086】
HDRドナーベクター
本発明のHDRドナーベクターは、挿入カセットを含む核酸分子を提供する。一つの実施形態では、挿入カセットは、レポーターマーカー、またはタグ付き遺伝子の認識のためのマーカーを含む。一つの実施形態では、挿入カセットはタグ付き遺伝子の精製のためのマーカーを含む。
【0087】
一つの実施形態では、挿入カセットは少なくとも一つのネガティブ選択マーカーカセットの下流にある。一つの実施形態では、挿入カセットは少なくとも一つのネガティブ選択マーカーカセットの上流にある。一つの実施形態では、挿入カセットは、二つのネガティブ選択マーカーカセットに隣接している。一つの実施形態では、ネガティブ選択マーカーカセットは毒素遺伝子、または毒性産物の発現のためのヌクレオチド配列を含む。一つの実施形態では、毒素遺伝子はccdBである。一つの実施形態では、ccdB遺伝子を含むネガティブ選択カセットはCCDBカセットである。一つの実施形態では、ネガティブ選択カセットは切断部位に隣接している。一つの実施形態では、切断部位は制限酵素切断部位である。
【0088】
一つの実施形態では、本発明のHDRドナーベクターは、HDRベクターを形成するための組換えアームのクローニングを促進するための二つのネガティブ選択カセットを含む。一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、5’から3’の順に、第一のネガティブ選択カセット、挿入カセット、および第二のネガティブ選択カセットを含む。例示的な実施形態では、HDRドナーベクターは、5’から3’の順に、第一のCCDBカセット、挿入カセット、および第二のCCDBカセットを含む。一つの実施形態では、各ネガティブ選択カセットは切断部位に隣接している。一つの実施形態では、切断部位は制限酵素切断部位である。一つの実施形態では、二つのネガティブ選択カセットは同じ制限酵素切断部位に隣接している。
【0089】
例示的な実施形態では、挿入カセットは、5’から3’の順に、レポーターマーカーおよび細胞選択マーカーを含む。一つの実施形態では、レポーターマーカーおよび細胞選択マーカーはP2A融合配列を用いて連結されている。
【0090】
一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、複製起点、細胞選択マーカー配列、mRNA安定化配列、外因性遺伝子配列、終結配列、内部リボソーム進入部位(IRES)、プロモーター配列、翻訳開始配列、リコンビナーゼ認識部位、および他の機能要素の組み合わせを含んでもよい。
【0091】
レポーターマーカーは、ポリヌクレオチドだけでなく、ポリペプチドを含む分子であり、細胞内でのその発現は、細胞に検出可能な形質をもたらす。様々な実施形態において、レポーターマーカーは、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、NanoLuc(登録商標)、アルカリフォスファターゼ、および緑色タンパク質(たとえば、GFP、TagGFP、T-Sapphire、Azami Green、Emerald、mWasabi、mClover3)、赤色蛍光タンパク質(たとえば、mRFP1、JRed、HcRed1、AsRed2、AQ143、mCherry、mRuby3、mPlum)、黄色蛍光タンパク質(たとえば、EYFP、mBanana、mCitrine、PhiYFP、TagYFP、Topaz、Venus)、オレンジ色蛍光タンパク質(たとえば、DsRed、Tomato、Kusabria Orange、mOrange、mTangerine、TagRFP)、シアン蛍光タンパク質(たとえば、CFP、mTFP1、Cerulean、CyPet、AmCyan1)、青色蛍光タンパク質(たとえば、Azurite、mtagBFP2、EBFP、EBFP2、Y66H)、近赤外蛍光タンパク質(たとえば、iRFP670、iRFP682、iRFP702、iRFP713、およびiRFP720)、赤外蛍光タンパク質(たとえば、IFP1.4)、および光活性化蛍光タンパク質(たとえば、Kaede、Eos、IrisFP、PS-CFP)を含むがこれらに限定されない蛍光タンパク質、を含むが、これらに限定されない。
【0092】
一つの実施形態では、挿入カセットは、たとえば標的タンパク質の同定および/または精製を容易にするためのタグを含みうる。本発明の方法における使用のためのタグは、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、poly(His)、ビオチン/ストレプトアビジン、V5タグ、Mycタグ、HAタグ、NEタグ、Hisタグ、Flagタグ、Haloタグ、Snapタグ、Fcタグ、Nusタグ、BCCP、チオレドキシン、Snooprタグ、Spyタグ、イソペプタグ(Isopeptag)、SBPタグ、Sタグ、Aviタグ、カルモジュリン、またはタンパク質のタグ付けの方法における使用のために好適な配列の任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない。標的タンパク質および関連タグは、ポリペプチドを精製するための当技術分野において公知の任意の方法によって標的細胞または標的細胞培養培地から精製することができる。そのような方法の例は、塩分画、高圧液体クロマトグラフィー、抗体カラムクロマトグラフィー、アフィニティータグカラムクロマトグラフィー、およびアクリルアミドゲル電気泳動を含む。そのような方法は、当業者に周知である。
【0093】
選択マーカー配列は、挿入カセットが適切に挿入されていない標的細胞を排除するため、またはHDRベクターが適切にトランスフェクトされていない宿主細胞を排除するために使用されうる。選択マーカー配列は、ポジティブ選択マーカー、レポーターマーカーまたはネガティブ選択マーカーでありうる。ポジティブ選択マーカーは、マーカーの遺伝子産物が発現されている細胞の選択を可能にする。これは一般に、細胞をポジティブ選択マーカーの発現がなければ細胞を殺すか、そうでなければ細胞に対して選択する、適切な薬剤と接触させることを含む。好適なポジティブおよびネガティブ選択マーカーについては、米国特許第5,464,764号の表Iを参照のこと。
【0094】
選択マーカーの例はまた、化合物に対する耐性を付与するタンパク質、たとえば抗生物質、選択された基質上で増殖する能力を付与するタンパク質、検出可能なシグナル、たとえば発光を生じるタンパク質、触媒RNAおよびアンチセンスRNAを含むが、これらに限定されない。たとえば、Zeocin(商標)耐性マーカー、ブラストサイジン耐性マーカー、ネオマイシン耐性(neo)マーカー(サザンとベルグ、J.Mol.Appl.Genet. 1:327-41(1982))、ピューロマイシン(puro)耐性マーカー;ハイグロマイシン耐性(hyg)マーカー(Te Rieleら、Nature 348:649-651(1990))、チミジンキナーゼ(tk)、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(hprt)、およびMAX(ミコフェノール酸、アデニン、およびキサンチン)培地上での増殖を可能にする細菌グアニン/キサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(gpt)を含む、多種多様なそのようなマーカーが知られており、利用可能である。Songら、Proc. NAT’l Acad. Sci. U.S.A. 84:6820-6824 (1987)を参照のこと。他の選択マーカーは、ヒスチジノール-デヒドロゲナーゼ、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、および蛍光タンパク質、たとえばGFPを含む。
【0095】
蛍光タンパク質の発現は、蛍光活性化セルソーター(FACS)を用いて検出することができる。β-ガラクトシルトランスフェラーゼの発現もまた、β-ガラクトシダーゼのために好適な基質を用いた生細胞の染色と組み合わせて、FACSによって仕分けされうる。選択マーカーはまた、細胞-基質接着分子、たとえば通常はマウス胚性幹細胞、ミニブタ胚性幹細胞、ならびにマウス、ブタ、およびヒトの造血幹細胞によって発現されない、インテグリンであってもよい。標的細胞選択マーカーは哺乳動物起源のものであってもよく、そしてチミジンキナーゼ、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ、アスパラギンシンテターゼ、アデノシンデアミナーゼまたはメタロチオネインであってもよい。細胞選択マーカーはまた、それぞれG418、ハイグロマイシンおよびピューロマイシンに対する耐性を付与する、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、ハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼまたはピューロマイシンホスホトランスフェラーゼであってもよい。
【0096】
好適な原核生物および/または細菌選択マーカーは、抗生物質に対する耐性を提供するタンパク質、たとえばカナマイシン、テトラサイクリン、およびアンピシリンを含む。一つの実施形態では、細菌選択マーカーは、原核生物宿主細胞と哺乳動物標的細胞の両方に選択可能な形質を付与することができるタンパク質を含む。
【0097】
ネガティブ選択マーカーは、マーカーの遺伝子産物が発現される細胞に対する選択を可能にする。いくつかの実施形態では、適切な薬剤の存在は、「ネガティブ選択マーカー」を発現する細胞が殺されるか、そうでなければそれに対して選択される原因となる。あるいは、ネガティブ選択マーカーの発現のみで細胞を殺すかまたは細胞に対して選択する。
【0098】
そのようなネガティブ選択マーカーは、細胞内での発現時に細胞のネガティブ選択を可能にするポリペプチドまたはポリヌクレオチドを含む。好適なネガティブ選択マーカーの実例は、(i)ヌクレオシド類似体アシクロビル、ガンシクロビル(gancyclovir)、および5-フルオロヨードアミノ-ウラシル(FIAU)のいずれかの存在下でのネガティブ選択のための、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)マーカー、(ii)種々のタンパク毒素、たとえばジフテリア毒素、破傷風毒素、コレラ毒素および百日咳毒素、(iii)6-チオグアニンの存在下でのネガティブ選択のためのヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、(iv)アポトーシス、またはプログラム細胞死の活性化因子、たとえばbc12結合タンパク質(BAX)、(v)大腸菌のシチジンデアミナーゼ(codA)遺伝子、および(vi)ホスファチジルコリンホスホリパーゼDである。一つの実施形態では、ネガティブ選択マーカーは宿主遺伝子型修飾を必要とする(たとえば、ccdB、tolC、thyA、rpslおよびチミジンキナーゼ)。
【0099】
本発明によれば、選択マーカーは通常、選択を受ける細胞の種類に基づいて選択される。たとえば、それは真核生物性(たとえば酵母)、原核生物性(たとえば細菌)またはウイルス性でありうる。そのような実施形態では、選択マーカー配列はその種類の細胞に好適なプロモーターに作動可能に連結されている。
【0100】
別の実施形態では、二つ以上の選択マーカーが使用される。そのような実施形態では、少なくとも一つの選択マーカーが一つまたは複数の標的細胞または宿主細胞に好適な場合に、選択マーカーが導入されてもよい。一つの実施形態において、宿主細胞選択マーカー配列および標的細胞選択マーカー配列は、同じオープンリーディングフレーム内にあり、そして単一のタンパク質として発現される。たとえば、宿主細胞および標的細胞選択マーカー配列は、同一のタンパク質、たとえば原核細胞および真核細胞の両方にブラストサイジンに対する耐性を付与する、ブラストサイジンSデアミナーゼをコードしうる。宿主細胞および標的細胞マーカー配列はまた、融合タンパク質として発現されてもよい。別の実施形態では、宿主細胞および標的細胞選択マーカー配列は別々のタンパク質として発現される。
【0101】
一つの実施形態では、本発明の挿入カセットによってコードされる内在性遺伝子、選択マーカーまたはレポーターの発現は、カセットのゲノムへの組込み後に内在性プロモーターから駆動されうる。あるいは、またはさらに、マーカーまたはレポーターの発現は、マーカーまたはレポーター配列と共にゲノムに組み込まれるHDRベクターの挿入カセット内に含まれるプロモーターから駆動されうる。特定の実施形態では、このプロモーターは、マーカーまたはレポーター遺伝子の構成的で高レベルの発現を駆動し、それによってHDR現象を受けた細胞の選択または同定を容易にする。そのようなプロモーターの一例はEF-1アルファプロモーターである。他の実施形態では、プロモーターは誘導性であってもよく、そして特定の条件が満たされた場合にのみ発現を駆動しうる。
【0102】
プロモーターは、宿主または標的細胞の種類または外因性遺伝子の所望の発現レベルに基づいて選択されてもよい。好適なプロモーターは、ユビキチンプロモーター、単純ヘルペスチミジンキナーゼプロモーター、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター/エンハンサー、EF-1アルファプロモーター、SV40プロモーター、β-アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、調節可能プロモーター、たとえばメタロチオネイン、アデノウイルス後期プロモーター、およびワクシニアウイルス7.5Kプロモーターを含むが、これらに限定されない。プロモーター配列はまた、組織特異的転写を提供するように選択されてもよい。
【0103】
特定の実施形態では、下流遺伝子の翻訳を向上するために、IRES配列が挿入カセットに含まれてもよい。一つの実施形態では、IRESは、外因性遺伝子配列、標的細胞選択マーカー配列またはレポーターマーカー配列の翻訳を向上しうる。IRES部位は挿入カセット内に位置してもよく、そして哺乳動物内部リボソーム進入部位、たとえば免疫グロブリン重鎖結合タンパク質、内部リボソーム結合部位であってもよい。一つの実施形態では、IRES配列は、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ピコナウイルス(piconavirus)、ピコルナ関連ウイルス、ならびにA型肝炎およびC型肝炎から選択される。好適なIRES配列の例は、それぞれ米国特許第4,937,190号、欧州特許出願第585983号、およびPCT出願WO09611211、WO09601324、およびWO09424301に見出すことができる。
【0104】
一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、翻訳開始配列またはエンハンサー、たとえばいわゆる「コザック配列」(コザック、J. Cell Biol. 108:229-41(1989))または「シャイン・ダルガーノ(Shine-Delgarno)」配列を含む。これらの配列は、挿入カセット内、IRES部位に対して3’に、ただし内在性遺伝子配列、レポーターマーカー配列または選択マーカー配列に対して5’に位置してもよい。
【0105】
一つの実施形態では、本発明の挿入カセットは、一つまたは複数のmRNA安定化配列を含む。mRNA安定化配列は、標的遺伝子をコードし、リーディングフレームが維持されるように配列に融合したmRNA分子の半減期を変化させることができる。一つの実施形態では、mRNA安定化配列は、連結mRNAの半減期を増加させるポリヌクレオチド配列である。一つの実施形態では、mRNA安定化配列は、連結mRNAの半減期を減少させるポリヌクレオチド配列である。一つの実施形態では、mRNA安定化配列は、mRNA分子を細胞質内での酵素分解から保護するポリ(A)テールである。一つの実施形態では、mRNA安定化配列はMALAT1 3’安定化配列である。
【0106】
一つの実施形態では、HDRドナーベクターは転写終結配列を含む。典型的な転写終結配列は、ポリアデニル化部位(ポリA部位)を含む。一つの実施形態では、ポリA部位はSV40ポリA部位である。これらの配列は、挿入カセット内、内在性遺伝子配列、レポーターマーカー配列または選択マーカー配列に対して3’に位置しうる。
【0107】
一つの実施形態では、それらがポリペプチドをコードする場合、これらの配列の翻訳がストップコドンで終結されるよう、HDRドナーベクターは、内在性遺伝子配列、レポーターマーカー配列または選択マーカー配列の3’末端の一つまたは複数のリーディングフレーム中に一つまたは複数の終結/終止コドンを含む。
【0108】
リコンビナーゼ認識部位は、DNA配列の挿入、反転または置換のために、あるいは染色体再配列、たとえば反転、欠失および転座を作り出すために使用されうる。たとえば、挿入ベクター中の二つのリコンビナーゼ認識部位は、リコンビナーゼと接触した際にこれら二つのリコンビナーゼ認識部位間の配列の除去または置換を可能にするために、同じ方向にあり得る。二つのリコンビナーゼ認識部位はまた、これら二つの部位間の配列がリコンビナーゼと接触すると反転されるように、反対方向に組み込まれてもよい。そのような反転は、挿入カセットまたはその一部の機能を調節するために使用されうる。したがって、構築物の向きを変更すると、構築体の効果がオンまたはオフになりうる。たとえば、二つのリコンビナーゼ認識部位が選択マーカー配列に隣接して、選択マーカー配列の除去または不活性化を可能にしうる。好適なリコンビナーゼ認識部位の例は、それぞれfltおよびcreリコンビナーゼによって認識されうる、frt部位およびlox部位を含む。
【0109】
一つの実施形態では、HDRドナーベクターは、適切な宿主細胞内でDNA合成を開始することができる複製起点を含む。好ましくは、複製起点は宿主細胞の種類に基づいて選択される。たとえば、それは真核生物(たとえば、酵母)でも原核生物(たとえば、細菌)でもよく、または好適なウイルス複製起点が使用されてもよい。好ましくは、複製起点は、宿主細胞においてDNA合成を開始することができるが、標的細胞においては機能しない。
【0110】
上記の機能的要素の全てを任意の組み合わせで使用して好適なHDRドナーベクターを製造することができる。
【0111】
HDRベクター
一つの実施形態では、本発明のHDRベクターは、一端または両端のいずれかに内在性核酸配列が隣接している挿入カセットを含む。内在性核酸配列は、HDRベクター配列が所望のDNA配列と組み換えられるようにする。組換え事象は、挿入カセットの核酸配列の標的DNAへの組み込みをもたらす。一つの実施形態では、標的DNAは標的細胞のゲノムDNAであり、したがって挿入カセットは標的細胞のゲノムに組み込まれる。
【0112】
一つの実施形態では、挿入カセットを含む核酸配列は、標的細胞のゲノム領域、または組換えアームに対して相同性を有する少なくとも一つのヌクレオチド配列の下流にある。一つの実施形態では、挿入カセットは少なくとも一つの組換えアームの上流にある。一つの実施形態では、挿入カセットは二つの組換えアームに隣接している。
【0113】
例示的な一つの実施形態では、HDRベクターは、5’から3’の順に、第一の組換えアーム、挿入カセット、および第二の組換えアームを含み、そして挿入カセットはレポーターマーカー配列および細胞選択マーカー配列を含む。一つの実施形態では、レポーターマーカー配列および細胞選択マーカー配列は、P2A融合配列をコードする核酸配列と連結している。したがって、一つの実施形態では、HDRベクターは、5’から3’の順に、第一の組換えアーム、レポーターマーカー配列、P2A融合配列、細胞選択マーカー配列、および第二の組換えアームを含む。そのような実施形態は、たとえば、内在性遺伝子のC末端にマーカーまたはタグを挿入するために使用されてもよい。
【0114】
別の例示的な実施形態では、HDRベクターは、5’から3’の順に、第一の組換えアーム、挿入カセット、および第二の組換えアームを含み、そして挿入カセットは細胞選択マーカー配列およびレポーターマーカー配列を含む。一つの実施形態では、細胞選択マーカー配列およびレポーターマーカー配列は、P2A融合配列をコードする核酸配列と連結している。したがって、一つの実施形態では、HDRベクターは、5’から3’の順に、第一の組換えアーム、細胞選択マーカー配列、P2A融合配列、レポーターマーカー配列、および第二の組換えアームを含む。そのような実施形態は、例えば、内在性遺伝子のN末端にマーカーまたはタグを挿入するために使用されてもよい。
【0115】
さらに別の例示的な実施形態では、HDRベクターは、5’から3’の順に、第一の組換えアーム、挿入カセット、および第二の組換えアームを含み、そして挿入カセットはレポーターマーカー配列、プロモーター配列、および細胞選択マーカー配列を含む。一つの実施形態では、レポーターマーカー配列および細胞選択マーカー配列は、プロモーター配列をコードする核酸配列と連結している。したがって、一つの実施形態では、HDRベクターは、5’から3’の順に、第一の組換えアーム、レポーターマーカー配列、プロモーター配列、細胞選択マーカー配列、および第二の組換えアームを含む。
【0116】
様々な実施形態において、HDRベクターの挿入カセットは、上記に詳細に記載されるように、外因性遺伝子配列、レポーターマーカー配列、細胞選択マーカー配列、mRNA安定化配列、終結配列、IRES、プロモーター配列、翻訳開始配列、リコンビナーゼ認識部位、および他の機能的要素の任意の組み合わせを含みうるが、これらに限定されない。
【0117】
様々な実施形態において、組換えアームは、少なくとも約25bp、少なくとも25~50bp、少なくとも50~100bp、少なくとも100~300bp、少なくとも300~1000bp、少なくとも1000~2000bp、少なくとも2000~5000bp、少なくとも5000~7000bp、または7000bp以上でありうる。様々な実施形態において、組換えアームは、標的核酸配列に対して60%を超える、70%を超える、80%を超える、90%を超える、95%を超える、98%を超える、または100%の配列同一性を有する核酸配列を含む。一つの実施形態では、標的核酸配列はゲノムDNA配列である。本発明は、組換えアームが標的とするゲノム位置に関して限定されない。すなわち、組換えアームは、エキソン配列、イントロン配列、遺伝子間配列、3'UTR配列、5'UTR配列、プロモーター配列、染色体配列または染色体外配列に対して60%を超える、70%を超える、80%を超える、90%を超える、95%を超える、98%を超える、または100%の配列同一性を有してもよい。
【0118】
一つの実施形態では、HDRベクターは、挿入カセットに隣接する二つの組換えアームを有する。一つの実施形態では、二つの組換えアームは互いに近位の配列を標的としうる。2つの組換えアームによって標的化されたゲノム配列は、挿入カセットの組込み前の標的細胞のゲノムにおいて不連続的または連続的でありうる。本明細書中で使用される場合、一つのヌクレオチド配列の3’末端が介在ヌクレオチド残基なしに他のヌクレオチド配列の5’末端に共有結合している場合、二つのヌクレオチド配列は連続的である。一つの実施形態では、二つの組換えアームは、10kb未満、9kb未満、8kb未満、7kb未満、6kb未満、5kb未満、4kb未満、3kb未満、2kb未満または1kb未満離れたゲノム配列を標的とする。一つの実施形態では、二つの組換えアームは、10kbを超えて、9kbを超えて、8kbを超えて、7kbを超えて、5kbを超えて、4kbを超えて、3kbを超えて、2kbを超えて、または1kbを超えて離れているゲノム配列を標的とする。
【0119】
HDRベクターは様々な方法で調製することができる。たとえば、第一および第二の組換えアームは、ヒトまたは他の種について利用可能なゲノムデータベースまたは遺伝子発現データベースから得ることができる。二つの配列は、制限酵素切断部位を組み込むように設計されたプライマーを用いて増幅され、制限酵素で消化され、そしてそれから当技術分野で認められている方法を用いて消化HDRドナーベクターに連結されうる。一つの実施形態では、二つの組換えアームは、消化されたHDRドナーベクターと連結されて、ギブソンアセンブリ法を用いてHDRベクターが生成される(Gibsonら、Nat Methods、2009、6:343~345)。一つの実施形態では、ギブソンアセンブリ法を用いて生成されたHDRベクターは線状であり、その結果、線状化生成物は以下を含む:(1)第1の組換えアーム(2)レポーターマーカー、選択マーカーまたはそれらの組み合わせを有する挿入カセット;および(3)第二の組換えアーム。この線状化生成物は本発明の好ましいHDRベクターである。
【0120】
細胞
本発明のHDRベクターは、任意の種類の標的細胞のゲノム中の遺伝子をタグ付け、ノックインまたはノックアウトするために使用することができる。HDRベクターは、エレクトロポレーション、ウイルス感染、レトロ転位、マイクロインジェクション、リポフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラン、および弾道または「遺伝子銃」の貫通を含むがこれらに限定されない、当技術分野で認められている任意の方法によって標的細胞に導入できる。
【0121】
組換えレベルを増加させ、そしてしたがって挿入カセットの組込みを促進するために特別な化学物質または構築物を提供することができる。一つの実施形態では、そのような構築物は、一つまたは複数のHDRベクターの組換えアームの標的配列またはその近くに切れ目(二本鎖DNA分子の一方の鎖の切断)または切断(二本鎖DNA分子の両方の鎖の切断)を提供し得る。したがって、一つの実施形態では、本発明のHDRベクターは、TALENS、ジンクフィンガーエンドヌクレアーゼ、CRISPRをコードする一つまたは複数の構築物、またはHDRベクターの一つまたは複数の組換えアームの標的配列付近の切れ目もしくは切断を生成する別の方法と組み合わせて提供され得る。
【0122】
一つの実施形態では、標的細胞は原核細胞である。一つの実施形態では、標的細胞は真核細胞である。一つの実施形態では、標的細胞は、哺乳動物細胞、たとえばマウスまたはヒトの細胞である。標的細胞は体細胞または生殖細胞であってもよい。生殖細胞は、幹細胞、たとえばマウス胚性幹細胞を含む胚性幹細胞(ES細胞)であってもよい。標的細胞は、非分裂細胞、たとえばニューロンであってもよく、またあるいは、標的細胞は、特定の培養条件下でin vitroで増殖してもよい。
【0123】
標的細胞は市販の哺乳動物細胞株から選択されてもよい。標的細胞は、対象から単離された初代細胞であってもよい。標的細胞は、生物学的アッセイまたは生化学的アッセイを使用して同定されうる異常な表現型を有する細胞を含む、任意の種類の罹患細胞であってもよい。たとえば、罹患細胞は腫瘍細胞であってもよい。
【0124】
一つの実施形態では、HDRベクターの挿入配列中のレポーター配列は、標的細胞のゲノムDNA中の少なくとも一つの遺伝子の少なくとも一つのアレルから下流にインフレームで組み込まれ、遺伝子をタグ付けするのに役立つ。構築物の挿入によってタグ付けされた単一の遺伝子を有する細胞は、単独でタグ付けされている。複数の構築物の挿入によってタグ付けされた複数の遺伝子を有する細胞は、多重にタグ付けされている。一つの実施形態では、本発明は、単一または多重タグ付き細胞のライブラリーに関する。
【0125】
ライブラリー
本明細書に提供された情報に基づいて、多数のポリヌクレオチドおよび細胞ライブラリーを作製することができる。これらのライブラリーは、(i)HDRドナーベクター、(ii)HDRベクター、(iii)単一でタグ付けされた遺伝子を有する細胞、(iv)遺伝子への挿入カセットの組込みによって作製された単一遺伝子ノックアウト細胞、(v)外来遺伝子の発現のための挿入カセットの細胞のゲノムへの組込みによって作製された単一遺伝子ノックイン細胞、(vi)多重にタグ付けされた遺伝子を有する細胞、(vii)複数の挿入カセットの複数の遺伝子への組み込みによって生成される多遺伝子ノックアウト細胞、および(viii)複数の外因性遺伝子の発現のための挿入カセットの細胞のゲノムへの組み込みによって生成される多遺伝子ノックイン細胞のライブラリーが含まれるがこれらに限定されない。
【0126】
一つの実施形態において、HDRベクターライブラリーは、ゲノムデータベースまたは遺伝子発現データベース内の情報を用いて構築されうる。たとえば、ゲノムデータベースまたは遺伝子発現データベース中の各遺伝子が同定され、そして次にその遺伝子に対するHDRベクターが調製されてもよい。一つの実施形態では、HDRベクターライブラリーは、遺伝子をタグ付けするためのベクターを含んでもよい。一つの実施形態では、HDRベクターライブラリーは、ノックイン細胞を作製するためのベクターを含んでもよい。一つの実施形態では、HDRベクターライブラリーは、ノックアウト細胞を作製するためのベクターを含んでもよい。そのようにして調製されたHDRベクターは、ゲノムデータベースまたは遺伝子発現データベース中の遺伝子の全セットまたはその任意のサブセットとなるベクターライブラリーを構成する。標的細胞選択マーカー配列、レポーターマーカー配列、またはそれらの組み合わせは、各HDRベクターに含まれてもよい。
【0127】
本発明の細胞ライブラリーは、たとえば、少なくとも二つ以上の細胞を含みうる。細胞ライブラリーは、5~10細胞、10~20細胞、20~30細胞、30~40細胞、40~50細胞、50~100細胞、100~500細胞、500~1,000細胞、1,000~5,000細胞、5,000~10,000細胞、10,000~20,000細胞、20,000~50,000細胞または50,000を超える細胞を含んでもよい。
【0128】
細胞ライブラリーは、たとえば、1~25個の範囲のタグ付け、発現、改変または破壊された遺伝子、少なくとも約25個の異なる遺伝子、または少なくとも約50個の異なる遺伝子、好ましくは少なくとも約100個の異なる遺伝子、より好ましくは1,000個の異なる遺伝子、非常に好ましくは5,000個の異なる遺伝子、そして最も好ましくは10,000個の異なる遺伝子、例えば少なくとも20,000個の異なる遺伝子を意味してもよい。たとえば、細胞ライブラリーは少なくとも約40,000個、または少なくとも約75,000個の異なる遺伝子を意味してもよい。これらの表された遺伝子のそれぞれは細胞ライブラリー中の細胞に対応し、そして遺伝子の少なくとも一つのアレルは挿入カセットによって対応する細胞中でタグ付け、発現、改変または破壊され、選択的に、遺伝子の一つ以上のアレルがタグ付け、発現、改変または破壊される。一つの実施形態では、細胞ライブラリーは単一の親細胞のクローンからなる。細胞ライブラリー中のタグ付け、発現、改変、または破壊された遺伝子の数は、親細胞のゲノム中に存在する遺伝子の最大数までであってもよい。
【0129】
細胞ライブラリーは、本質的に、個々の液体ストック中に維持されているかまたは混合された単一の液体ストックとして増殖されているかのいずれかである細胞の集合体であってもよい。したがって、細胞ライブラリーは、それぞれが本発明の方法によってタグ付け、改変または破壊されたアレルを含む細胞を表す細胞培養物の集合体であってもよい。これに関して、本発明の構築物によってタグ付け、改変または破壊されたアレルを含む細胞ライブラリーはまた、培養皿中の増殖培地上で単離された細胞コロニーを含んでもよい。たとえば、培養皿上の各コロニーは、同じ培養皿上に保存されている他のコロニーにおいてタグ付け、発現、改変または破壊された同一の遺伝子でありうるタグ付け、発現、改変または破壊された遺伝子を含んでもよい。
【0130】
一つの実施形態において、細胞ライブラリーは、一つの液体ストック溶液中の細胞培養物の混合物を含みうる。細胞培養物は、ライブラリー中の別の細胞培養物に対して同一または異なるタグ付け、発現、改変または破壊された遺伝子を含みうる。したがって、一つの実施形態では、細胞ライブラリー内の所与の細胞内のタグ付け、発現、改変または破壊された遺伝子は、ライブラリーの他の任意の細胞内のタグ付け、発現、改変または破壊された遺伝子とは異なる。この実施形態の細胞ライブラリーは、別の細胞ライブラリーの一部またはサブセットであってもよい。
【0131】
一つの実施形態では、細胞ライブラリーは、それぞれが同一のタグ付け、改変または破壊された遺伝子を含む細胞を含みうる。この場合、挿入カセットの機能(たとえば、全長タンパク質の発現対タンパク質フラグメントの発現)は、各細胞について同一でも異なっていてもよい。
【0132】
一つの実施形態では、本発明の細胞ライブラリーは、HDRベクターのライブラリーを複数の標的細胞に導入することによって調製されてもよい。標的細胞選択マーカー配列を含むこれらのHDRベクターは、標的細胞のゲノムに挿入し、ゲノム中の異なる遺伝子をタグ付けし、発現させ、または破壊することができる。改変細胞は、標的細胞選択マーカー配列によって付与された選択可能な形質について選択されうる。
【0133】
一つの実施形態では、マウスES細胞、たとえば早期継代マウスES細胞が、本発明の細胞ライブラリーを構築するために使用される。このようにして作られた細胞ライブラリーは、マウスゲノムの包括的な研究のための遺伝的ツールとなる。ES細胞は、胚盤胞に注入して戻され、そして正常な発生および最終的には生殖系列に組み込まれうるので、ライブラリー中の変異ES細胞は、変異トランスジェニックマウス系統の集合体を効果的に表現する。得られた変異トランスジェニックマウス系統の表現型、そしてしたがって破壊された遺伝子の機能は、迅速に同定され、そして特徴付けられる。得られたトランスジェニックマウスをまた、他のマウス系統と交配させ、そして戻し交配して、異なる遺伝的背景における標的遺伝子の評価を可能にするコンジェニックまたは組換えコンジェニック動物を作出することもできる。本発明の上記態様(ES細胞ライブラリーを含む)を実施するために使用することができる様々な株および遺伝子操作の代表的な列挙は、Genetic Variants and Strains of the Laboratory Mouse、第3版、Vol.1および2、オックスフォード大学出版局、ニューヨーク、1996年に見出される。
【0134】
類似の方法を使用して、事実上あらゆる非ヒトトランスジェニックまたはノックアウト動物を構築することができる。これらの非ヒトトランスジェニックまたはノックアウト動物は、ブタ、ラット、ウサギ、ウシ、ヤギ、非ヒト霊長類、たとえばチンパンジー、および他の動物種、特に哺乳動物種を含む。
【0135】
本発明に記載の任意のHDRベクターは、上記のように、細胞、細胞ライブラリー、またはトランスジェニックもしくはノックアウト動物を作製するために使用されうる。
【0136】
方法
本発明は、細胞内でタンパク質をタグ付けする、または融合タンパク質を生成するための方法を提供する。一般に、この方法は、(a)本発明のHDRベクターであって、レポーターマーカー、標的細胞選択マーカー配列、またはその両方を含む挿入カセットを含むHDRベクターを細胞に挿入する;および(B)HDRベクターの挿入カセットによりコードされる細胞選択マーカーの選択のための条件下に細胞を置くこと、またはレポーターマーカー配列の発現を測定する、工程を含む。
【0137】
一つの実施形態では、HDRベクターの組換えアームは相同ゲノム領域にハイブリダイズし、そしてHDRベクターの組換えアームとゲノムとの間の組換えは、HDRベクターの挿入カセットの標的細胞のゲノムへの組み込みを可能にする。一つの好ましい実施形態では、レポーターマーカー、標的細胞選択マーカー配列、またはその両方を含む挿入カセットは、リーディングフレームが破壊されないような方法でオープンリーディングフレームの下流に組み込まれ(すなわち、インフレーム組込み)、タグ付きまたは融合タンパク質の生成を可能にする。
【0138】
一つの実施形態では、この方法は、DNAヌクレアーゼを標的細胞に挿入することをさらに含む。一つの実施形態では、ヌクレアーゼは、HDRベクターの一つまたは複数の組換えアームの相同ゲノム配列またはその近傍に切れ目または切断を生成するのに特異的である。ヌクレアーゼは、メガヌクレアーゼ、Cas-9ヌクレアーゼ、TALEN、ZFN、またはゲノム編集の方法に有用な別のヌクレアーゼであってもよく、これらに限定されない。
【0139】
一つの実施形態では、遺伝子の一つのアレルは本発明の方法により改変される。別の実施形態では、細胞内の同一遺伝子の全てのアレルが本発明の方法によって改変されている。
【0140】
本発明は、遺伝子の発現が破壊されるように挿入カセットを内在性遺伝子に導入することによって、細胞、植物または動物における内在性遺伝子の発現を減少させる方法を提供する。したがって、本発明は、転写産物を産生することも遺伝子産物を発現することもできない「ノックアウト」細胞を産生するための効率的かつ正確な方法を提供する。このようにして作製された標的細胞は、不活性化遺伝子の治療的または診断的有用性を評価し、そして遺伝子の発現および機能に影響を及ぼす化合物をスクリーニングするのに有用である。
【0141】
一つの実施形態において、本発明の方法は、その発現が標的遺伝子によって調節される(たとえば、活性化または阻害される)遺伝子の発現を間接的に調節するために使用されうる。調節遺伝子に対する標的遺伝子の効果は正常でありうるか、またはそれは疾患状態によって誘発される異常な不均衡の結果でありうる。
【0142】
本発明はまた、細胞、植物または動物において外因性遺伝子またはポリヌクレオチド配列(たとえば、導入遺伝子)を発現させる方法を提供する。したがって、一つの実施形態では、本発明は、細胞内で遺伝子を発現させるためのノックイン方法を提供する。外因性配列は挿入カセット上にあって、そして細胞、植物または動物のゲノムに組み込まれていてもよい。一つの実施形態では、外因性遺伝子を含む挿入カセットの組み込み部位は遺伝子間である。細胞内の外因性遺伝子の転写は、外因性プロモーターまたは内在性プロモーターのいずれかによって調節されうる。したがって、一つの実施形態では、外因性遺伝子を含む挿入カセットはプロモーター配列をさらに含む。特定の実施形態では、外因性遺伝子の発現を駆動するプロモーターは、上記のものを含む、任意の利用可能な方法によって、条件付きで調節される。本発明のいくつかの実施形態では、外因性遺伝子は、タグ、レポーターマーカー、選択マーカー、または前述のような機能的要素の任意の組み合わせに作動可能に連結されていてもよい。
【0143】
本発明の方法に従って、種々の外因性遺伝子は、細胞、植物または動物に導入され、そして調節されうる。たとえば、疾患または障害に関連する遺伝子が細胞に導入されうる。特定の状況において、本発明は、欠失した、変異した、またはそうでなければ機能不全の遺伝子を置換する方法を提供する。他の実施形態では、治療用ポリヌクレオチドが細胞に導入されうる。欠損している遺伝子またはタンパク質を提供することに加えて、治療用分子は、たとえば別の分子の機能を阻害すること、たとえばドミナントネガティブを含む任意の様々な他の手段によって作用しうる。
【0144】
細胞を使用する方法
HDRベクターは、細胞内の遺伝子のうちの任意の一つまたは組み合わせを活性化、不活性化またはタグ付けするために調製および使用されうる。一つの実施形態では、遺伝子または遺伝子の組み合わせは疾患表現型と関連している。一つの実施形態では、遺伝子または遺伝子の組合せは既知の疾患表現型と関連していない。このように改変された細胞は、表現型の発生に関与しうる遺伝子(単数または複数)を同定するために、疾患表現型についてスクリーニングされうる。レポーターマーカーを有するHDRベクターはまた、疾患表現型に関連する遺伝子または遺伝子の組み合わせをタグ付けするために使用されうる。
【0145】
HDRベクターが標的細胞選択マーカー配列またはレポーターマーカー配列を含み、そして選択またはレポーターマーカー配列が様々な状況下で発現されるように標的細胞のゲノム内の遺伝子に挿入される場合、標的細胞は創薬や機能ゲノミクスに使用できる。様々な刺激、たとえばホルモンおよび他の生理学的シグナルに応答して選択マーカーまたはレポーターマーカー配列の発現の調節をレポートする標的細胞が同定されうる。したがって、標的細胞内で破壊された遺伝子は刺激への応答に関与している。これらの刺激は、既知または未知のモジュレーターによって調節される様々な既知または未知の経路に関連しうる。刺激に対する標的細胞の反応を調節する化学物質も同定することができる。
【0146】
一つの実施形態では、本発明の改変細胞は、標的遺伝子の発現を調節する(たとえば、減少または増加させる)薬物または化合物をスクリーニングするのに使用されうる。一つの実施形態では、HDRベクターはまた、レポーターマーカー配列も含む。薬物または化合物ライブラリーを、レポーターマーカー配列が発現遺伝子に挿入される標的細胞に適用して、レポーターマーカー配列の発現、したがって遺伝子の発現を調節することができる候補についてスクリーニングすることができる。
【0147】
一つの実施形態では、一つ、二つまたは複数の遺伝子がHDRベクター由来の挿入カセットによって破壊またはタグ付けされている細胞は、使用して、一つのタグ付き遺伝子の発現を調節するが別の遺伝子の発現を調節しない化合物をスクリーニングするために使用されうる。たとえば、疾患表現型に関連するがハウスキーピング遺伝子または密接に関連した遺伝子には関連しないタグ付き遺伝子の発現を調節する化合物を同定すること。したがって、一つの実施形態では、本発明は、選択された標的遺伝子に対する薬物候補の特異性を決定するのに使用されうる。
【0148】
一つの実施形態では、本発明の改変細胞は、標的細胞においてサイレント遺伝子の発現を誘導することができる化合物を同定するのに使用できる。たとえば、HDRベクター由来の挿入カセットは、標的細胞に組み込まれてもよく、標的細胞のゲノムに組み込まれてもよい。そのような実施形態では、組み込みカセットによってコードされる選択マーカーは、プロモーター配列に作動可能に連結されることができ、そしてそれゆえ、標的遺伝子をタグ付けするのに役立つレポーターマーカーとは無関係に発現されうる。したがって、非活性転写ゲノム配列の転写を誘導することができる化合物または薬物は、レポーターマーカーについてスクリーニングすることによって同定できる。
【0149】
製剤化および投与
本発明のHDRベクター分子は対象に投与することができる。したがって、本発明によれば、HDRベクターはin vivo投与に好適な製剤に調製されてもよい。対象は、任意の動物、たとえばマウスまたはラットであってもよく、または対象はヒトであってもよい。いくつかの実施形態において、組み込みカセットの挿入は、(1)正常に発現されない遺伝子の発現を誘導する、または(2)何らかの遺伝的障害または異常のために過剰発現している遺伝子の発現を減少させる、という意味で、HDRベクターはin vivoで薬物として機能しうる。これに関して、特定の遺伝子の発現パターンを調節するのに有効である量の本発明のHDRベクターを投与することは治療的用途を意味する。
【0150】
一つより多いHDRベクター分子を、対象にまたはin vitroで細胞に、同時にまたは連続して投与することができる。たとえば、遺伝子の異なる配列または領域に対して設計されたHDRベクターは、プールして一つの製剤として投与されてもよい。
【0151】
治療薬としての本発明のHDRベクターの使用を容易にするために、分子、たとえば線状dsDNAは、多くの既知の技術のいずれかによって核酸分解から保護されることができ、たとえば、投与前にリポソーム内にカプセル化されうる。たとえば、核酸およびポリエチレングリコールの製剤はまた、任意の公知の徐放性核酸製剤と同様に、in vivoでの核酸の半減期を増加させうる。核酸の生物学的利用能を保護しそして増強するために、他の方法が使用されてもよい。たとえば、チオール基は、ヌクレオチドのリン基を置換することによって、ポリヌクレオチド、たとえばRNAまたはDNA分子に組み込まれてもよい。そのように核酸の「骨格」に組み込まれると、チオールはその部位でのDNAの切断を妨げ、したがって核酸分子の安定性を向上することができる。他の修飾は、たとえば、ホスホロチオエート、キラルホスホロチオエート、ジチオリン酸、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’-アルキレンホスホナートおよびキラルホスホナートを含むメチルおよび他のアルキルホスホナート、ホスフィン酸塩、3’-アミノホスホルアミダートおよびアミノアルキルホスホルアミダートを含むホスホルアミダート、チオノホスホルアミダート(thionophosphoramidate)、チオノアルキルホスホナート、チオノアルキルホスホトリエステル、および通常の3’-5’結合を有するボラノホスフェート、ならびにこれらの2’-5’結合アナログ、ならびにヌクレオシドユニットの隣接ペアは3’-5’から5’-3または2’-5’から5’-2’に結合している逆極性を有するもの、を含むように、核酸分子骨格が修飾されうることを含む。様々な塩、混合塩および遊離酸形態もまた含まれる。本発明の核酸を修飾するさらに別の方法は、「ロックド核酸」(LNA)の製造に関する。
【0152】
化合物の使用
一つの実施形態では、遺伝子改変細胞を用いたスクリーニングにおいて同定された化合物または分子は、本発明のHDRベクターによって標的とされる遺伝子の活性に関連する疾患の治療に有用である。したがって、本発明は、それを必要とする対象に本発明の化合物の効果をスクリーニングする方法によって同定された化合物を投与することを含む、疾患を治療する方法に関する。一つの実施形態では、化合物は、標的遺伝子の一つまたは複数の発現または活性に影響を与えるものとして、スクリーニングにおいて同定された。一つの実施形態では、効果は標的遺伝子の発現または活性の増加である。一つの実施形態では、効果は標的遺伝子の発現または活性の低下である。一つの実施形態では、遺伝子の発現または活性を増加または減少させることは、疾患の治療に有益である。
【0153】
一つの実施形態では、疾患は低レベルのヘムオキシゲナーゼI(HO-1)発現と関連する。一つの実施形態では、本発明のHDRベクターでタグ付けされた細胞のスクリーニングにおいて、ジスルフィラム、チオストレプトン、トリメタジオン、オーラノフィン、チメロサール、ハロファントリン塩酸塩(halofantrine hydrochloride)およびボリノスタットが、HO-1の発現レベルの増加として同定された。したがって、一つの実施形態では、ジスルフィラム、チオストレプトン、トリメタジオン、オーラノフィン、チメロサール、ハロファントリン塩酸塩(halofantrine hydrochloride)およびボリノスタットのうちの1つが、HO-1発現レベルの増加が疾患の治療に有益となる対象に投与されてもよい。
【0154】
医薬組成物
本発明は、本発明のHDRベクターによって標的とされる遺伝子の一つまたは複数のモジュレーターを含む医薬組成物を含む。本明細書に記載の医薬組成物の製剤は、薬理学の分野において公知のまたは今後開発される任意の方法によって調製されうる。一般に、そのような調製方法は、活性成分を担体または一つまたは複数の他の副成分と会合させ、そしてそれから、必要ならばまたは望ましいならば、製品を所望の単回または複数回投与単位に成形または包装する工程を含む。
【0155】
本明細書で提供される医薬組成物の説明は、主にヒトへの倫理的投与に好適な医薬組成物を対象としているが、そのような組成物はあらゆる種類の動物への投与に一般的に好適であることは当業者によって理解されるだろう。組成物を様々な動物への投与に好適にするための、ヒトへの投与に好適な医薬組成物の改変は十分に理解されており、そして当業者の獣医薬理学者は、あるとしても、ただ普通の実験でそのような改変を設計および実施できる。本発明の医薬組成物の投与が予期される対象は、ヒトおよび他の霊長類、商業的に適切な哺乳動物、たとえば非ヒト霊長類を含む哺乳動物、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、およびイヌを含むが、これらに限定されない。
【0156】
本発明の方法において有用な医薬組成物は、眼科用、経口用、直腸用、膣用、非経口用、局所用、肺用、鼻腔内用、口腔用、腫瘍内用、硬膜外用、大脳内用、脳室内用、または別の投与経路に好適な製剤で調製、包装または販売され得る。他の予期される製剤は、投影ナノ粒子、リポソーム製剤、活性成分を含有する再シールした赤血球、および免疫学的に基礎づけられた製剤を含む。
【0157】
本発明の医薬組成物は、単一の単位用量として、または複数の単一の単位用量として、大量に調製、包装、または販売することができる。本明細書で使用されるとき、「単位用量」は、所定量の活性成分を含む医薬組成物の個別量である。活性成分の量は、一般に、対象に投与されるであろう活性成分の投与量、またはそのような投与量の便利な割合、たとえば例として、そのような投与量の半分または三分の一に等しい。
【0158】
本発明の医薬組成物中の活性成分、薬学的に許容される担体、および任意のさらなる成分の相対量は、治療される対象の同一性、大きさ、および状態に応じて、そしてさらに組成物が投与される経路に応じて変わるだろう。例として、組成物は0.1%~100%(w/w)の活性成分を含みうる。
【0159】
活性成分に加えて、本発明の医薬組成物は、さらに一または複数の追加の医薬活性剤を含みうる。
【0160】
本発明の医薬組成物の放出制御製剤または徐放性製剤は、従来の技術を用いて製造することができる。
【0161】
非経口投与に好適な医薬組成物の製剤は、薬学的に許容される担体、たとえば滅菌水または滅菌等張食塩水と組み合わせた活性成分を含む。そのような製剤は、ボーラス投与または連続投与に好適な形態で調製、包装、または販売することができる。注射用製剤は、単位剤形、たとえばアンプルまたは防腐剤を含む複数回投与用容器で調製、包装、または販売することができる。非経口投与用の製剤は、懸濁剤(suspensions)、液剤、油性または水性媒体中の乳剤、ペースト剤、および埋め込み可能な徐放製剤または生分解性製剤を含むが、これらに限定されない。そのような製剤は、懸濁剤(suspending agents)、安定剤、または分散剤を含むがこれらに限定されない一つまたは複数の追加の成分をさらに含んでもよい。非経口投与用の製剤の一つの実施形態では、活性成分は、再構成組成物の非経口投与の前に適切な媒体(たとえば、ピロゲンフリーの水)で再構成するための乾燥(すなわち、粉末剤または顆粒剤)形態で提供される。
【0162】
医薬組成物は、滅菌注射剤、水性または油性懸濁剤(suspension)または液剤の形態で調製、包装、または販売することができる。この懸濁剤(suspension)または液剤は、既知の技術に従って処方することができ、そして活性成分に加えて、追加の成分、たとえば本明細書に記載の分散剤、湿潤剤または懸濁剤(suspending agents)を含んでもよい。そのような滅菌注射用製剤は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒、たとえば、例として水または1,3ブタンジオールを使用して調製することができる。他の許容される希釈剤および溶媒は、リンガー液、等張食塩水、および固定油、たとえば合成モノまたはジグリセリドを含むが、これらに限定されない。有用な他の非経口投与可能な製剤は、微結晶形態で、リポソーム製剤中で、または生分解性ポリマー系の成分として有効成分を含むものを包含する。徐放性または埋め込み用の組成物は、薬学的に許容されるポリマーまたは疎水性材料、たとえばエマルジョン、イオン交換樹脂、難溶性ポリマー、または難溶性塩を含んでもよい。
【実施例】
【0163】
実験例
以下の実験例の参照により、本発明はさらに詳細に説明される。これらの実施例は説明の目的のためだけに提供され、そして他に特定されない限り限定することを意図しない。したがって、本発明は、決して以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ本明細書に提供される教示の結果として明らかになるありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0164】
さらなる説明なしに、当業者は、上記の説明および以下の例示的な実施例を使用して、本発明の化合物を製造および利用し、そして特許請求の範囲に記載の方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を具体的に指摘しており、そして本開示の残りの部分をいかなる点でも限定的であるとして解釈されるべきではない。
【0165】
実施例1:細胞株開発のための相同組換えベクターを迅速に生成するための効率的な方法
単一の工程でHDR修復のためのドナーベクターの構築を可能にする、新規な一組のプラスミドおよび合理化された方法が開発された。新規のベクターは、下流利用(downstream application)への複数のタグ、たとえば、蛍光標識(mClover3およびmRuby3)、発光(NanoLuc(登録商標))およびタンパク質精製タグ(3x-flag、Haloタグ)の挿入を可能にする。また、これらのベクターは、修飾細胞の迅速な選択のための真核生物抗生物質(ピューロマイシン、Zeocin(商標)、ブラストサイジン等)のインフレーム発現を可能にする。
【0166】
バックボーンプラスミドは、遺伝子ノックインまたは細胞株および生物のノックアウト生成のための相同組換えベクターの作製を容易にするために開発された。
【0167】
システムは、ベクターの生成および純粋なクローン細胞の選択のプロセスを加速するための複数の特徴を含む。これは、左右の組換えアームを100%の精度で一工程でクローニングすることを含む。これは、毒性タンパク質CcdBのための二重発現カセットの組込みのために可能である。生存可能な大腸菌(E. coli)コロニーを得るために、二つのCcdBカセットを組換えアームと交換しなければならない(
図1~
図3)。
【0168】
骨格は、タンパク質タグ付けのための任意のタンパク質マーカーを含むように迅速に改変され得る。一例として、蛍光タンパク質(mClover3、mRuby3)、発光(luminescense;NanoLuc(登録商標))、精製タグ(Haloタグおよび3X-Flag)を含むベクターがすべて生成されている(
図4)。
【0169】
骨格は、真核細胞に対する毒性抗生物質に対する耐性遺伝子を含むように迅速に修飾されてもよい。一例として、ピューロマイシン、ブラストサイジンおよびZeocinに対する耐性遺伝子を有するベクターがすべて作製されている(
図4)。
【0170】
このシステムは、相同組換えによって改変された細胞においてのみ耐性遺伝子の発現を可能にすることによって、10日未満で改変細胞の純粋なクローンの選択を可能にする。
【0171】
このシステムは、1セットの相同組換えアームのみを設計し、そしてそれらを目的の各タグと共に異なるベクターにクローニングすることによって、使用者が同一の標的遺伝子に対して複数のタグ(蛍光、発光、タンパク質精製用タグ等)を試験することを可能にする。
【0172】
このシステムは、真核細胞に対する抗生物質に対する二つの異なる耐性遺伝子を有する同一の相同組換えベクターを使用することによって、使用者がホモ接合の改変細胞クローンを生成することを可能にする。
【0173】
これらの実験で使用された材料および方法をここに記載する。
【0174】
材料および方法
選択された骨格HDRドナーベクター(500ng)は、KpnIおよびBamHIで最終容量20μLで消化された。左右の合成組換えアームは、最終濃度25ng/μLでTEバッファーで希釈された。2μLの消化したベクター反応物、1.5μLの各組換えアームおよび5μLのNeBuilderマスターミックス(New England Biolabs)を混合することによってギブソンアセンブリ反応が行われた。反応混合物は50℃で1時間インキュベートされた。4μLのギブソンアセンブリ反応物は、CcdB遺伝子に感受性のある化学的にコンピテントな大腸菌(E. coli)株(たとえば、DH5α、JM109、STLB3等)に形質転換された。細胞は35℃で一晩培養された。プラスミドは抽出され、HDR組換えプラスミドはシークエンシングにより確認された(
図5)。
【0175】
実験結果について説明する。
【0176】
タンパク質ヒストン3の赤色蛍光タンパク質タグを有する細胞株の作製
CRISPR発現ベクターは、ヒト細胞中のヒストン3遺伝子の最後のエキソン(遺伝子記号:H3F3B)を切断するためのsgRNAを発現するように設計された。
【0177】
切断側の隣の左右の組換えアーム(長さ約440~600bp)が選択され、そして切断DNAの相同組換えを誘導し、ヒストン3タンパク質のC末端への赤色蛍光タンパク質(mRuby3)のインフレーム挿入を促進するためのベクターを生成するために、二本鎖合成DNA断片として作成された。
【0178】
CRISPRベクターおよびヒストン3-mRuby3 HDRベクターは、HEK293T細胞に同時トランスフェクトされ、そして細胞は、細胞核におけるmRuby3発現について48時間後に評価された。細胞はトランスフェクションの72時間後に回収され、そして真核細胞用の毒性抗生物質(Zeocin(商標))を含む培地に播種された。赤色蛍光核を含む陽性コロニーの形成はトランスフェクションの7日後に検証された(
図6)。
【0179】
タンパク質ヒストン3の赤色蛍光タンパク質タグを持つ細胞株の作製
CRISPR発現ベクターは、ヒト細胞中のベータチューブリン遺伝子の最後のエキソン(遺伝子記号:TUBB)を切断するためのsgRNAを発現するように設計された。
【0180】
切断側の隣の左右の組換えアーム(長さ約440~600bp)が選択され、そして切断DNAの相同組換えを誘導し、ベータチューブリンタンパク質のC末端への緑色蛍光タンパク質(mClover3)のインフレーム挿入を促進するためのベクターを生成するために、二本鎖合成DNA断片として作成された。
【0181】
CRISPRベクターおよびTUBB-Clover3 HDRベクターはHEK293T細胞に同時トランスフェクトされ、そして細胞は、細胞中でのmClover3発現について48時間後に評価された。細胞はトランスフェクションの72時間後に回収され、真核細胞用の毒性抗生物質(ピューロマイシン)を含む培地に播種された。緑色蛍光微小管を含む陽性コロニーの形成は、トランスフェクションの7日後に検証された(
図7)。
【0182】
二重標識細胞株の作製
ヒストン3タンパク質中に赤色蛍光タンパク質タグ(mRuby3)を有するように以前に改変されたHEK293T細胞は、ベータチューブリン遺伝子中に追加の緑色蛍光タグを含むようにさらに改変された。このために、細胞はベータチューブリン遺伝子(遺伝子記号:TUBB)の最後のエキソンを標的とするCRISPRプラスミドおよびHDRベクターで同時トランスフェクトされ、切断DNAにおいて相同組換えが誘導され、そしてベータチューブリンタンパク質のC末端の緑色蛍光タンパク質(mClover3)のインフレーム挿入が促進された。48時間後、細胞内でmClover3発現が評価された。細胞はトランスフェクションの72時間後に回収され、そして真核細胞用の毒性抗生物質(ピューロマイシン)を含む培地に播種された。核内に緑色蛍光微小管および赤色蛍光ヒストン3を含む陽性コロニーの形成は、トランスフェクションの7日後に検証された(
図8)。
【0183】
三重標識細胞株の作製
ヒストン3タンパク質に赤色蛍光タンパク質タグ(mRuby3)およびベータチューブリンタンパク質に緑色蛍光タンパク質(mClover3)タグを有するように以前に改変されたHEK293T細胞は、ミトコンドリアタンパク質ミトコンドリアATP合成酵素ベータサブユニットに追加の青色蛍光タグを含むようにさらに改変された。このために、細胞は、ミトコンドリアATP合成酵素ベータサブユニット(遺伝子記号:ATP5B)の最後のエキソンを標的とするCRISPRプラスミドおよびHDRベクターで同時トランスフェクトされ、切断DNAにおいて相同組換えが誘導され、そしてATPシンターゼβサブユニットのC末端の青色蛍光タンパク質(mTagBFP2)のインフレーム挿入が促進された。細胞は48時間後にmTagBFP2発現について評価された。細胞はトランスフェクションの72時間後に回収され、そして真核細胞用の毒性抗生物質(ブラストサイジン)を含む培地に播種された。緑色蛍光微小管、核内の赤色蛍光ヒストン3、および青色蛍光ミトコンドリアを含む陽性コロニーの形成は、トランスフェクションの7日後に検証された(
図9)。
【0184】
NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼでタグ付けされたヘムオキシゲナーゼ1を有する細胞株の作製
ヘムオキシゲナーゼ1(HO-1)は抗酸化応答経路の遺伝子標的である。タンパク質をNanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼでタグ付けすることによってHO-1の発現の変化を迅速に定量するために、改変細胞株が作製された。このために、HEK293T細胞は、最後のコドン近くのHO-1遺伝子の最後のエキソンを標的とするsgRNA配列を有するCRISPRベクターおよび組換えアームを含むHDRベクター(~630bp)で同時トランスフェクトされ、相同組換えによるDNA修復が誘導された。HDRベクターは、NanoLuc(登録商標)ルシフェラーゼのインフレームタグ付けを可能にし、そしてまた、外因性プロモーターの制御下でピューロマイシン耐性遺伝子も含有した(たとえば
図3)。ピューロマイシン耐性を有する純粋クローンを選択した後、細胞を既知のHO-1発現活性化剤である合成トリテルペノイド2-シアノ-3,12-ジオキソレアナ-1,9(11)-ジエン-28-酸(CDDO)で処理した後のHO-1の発現における小さな変化の迅速な検出を可能にする新規細胞株の能力が確認された(
図10)。次に、HO-1 NanoLuc(登録商標)細胞株が使用され、酸化剤および抗酸化剤化合物のライブラリーがスクリーニングされ、HO-1タンパク質発現の強力なアクティベーターが同定された(
図11)。さらに、HO-1 NanoLuc(登録商標)細胞株が使用され、1200種類のFDA承認化合物のライブラリーがスクリーニングされ、HO-1のタンパク質発現を増加させることができる7つの化合物を同定された(
図12)。
【0185】
実施例2:Fast-HDRドナープラスミドバックボーンの配列
リンカーペプチドを有するFast-HDRドナープラスミドバックボーン:
下線:KpnI(配列番号1のヌクレオチド1~6および配列番号1のヌクレオチド682~687)、EcoRI(配列番号1のヌクレオチド700~705および配列番号1のヌクレオチド781~786)、XbaI(配列番号1のヌクレオチド853~858および配列番号1のヌクレオチド934~939)、BamHI(配列番号1のヌクレオチド1116~1121、および配列番号1のヌクレオチド1797~1802); イタリック体:CCDB遺伝子(配列番号1のヌクレオチド336~641); 小文字:リンカー(配列番号1のヌクレオチド689~699); NNNNN:挿入部位1(たとえば、タグ、マーカー、外因性遺伝子、蛍光タンパク質、選択マーカー、抗生物質耐性遺伝子および/または精製タグをコードする配列を挿入するためのもの)(配列番号1のヌクレオチド706~780); 小文字のイタリック体:P2Aペプチド配列(配列番号1のヌクレオチド797~852); NNNNN:挿入部位2(たとえば、タグ、マーカー、外因性遺伝子、蛍光タンパク質、選択マーカー、抗生物質耐性遺伝子および/または精製タグをコードする配列を挿入するため)(配列番号1のヌクレオチド859~933); 太字:mRNA安定化配列(配列番号1のヌクレオチド942~1115); イタリック体:CCDB遺伝子(配列番号1のヌクレオチド1451~1756)
【0186】
【0187】
内部プロモーターを有するFast-HDRドナープラスミドバックボーン:
下線:KpnI(配列番号2のヌクレオチド1~6および配列番号2のヌクレオチド682~687)、EcoRI(配列番号2のヌクレオチド700~705および配列番号2のヌクレオチド756~761)、AgeI(配列番号2のヌクレオチド1303~1308)、XbaI(配列番号2のヌクレオチド1359~1364)、BamHI(配列番号2のヌクレオチド1541~1546および配列番号2のヌクレオチド2222~2227); イタリック体:CCDB遺伝子(配列番号2のヌクレオチド336~641); 小文字:リンカー(配列番号2のヌクレオチド689~699); NNNNN:挿入部位1(たとえば、タグ、マーカー、外因性遺伝子、蛍光タンパク質、選択マーカー、抗生物質耐性遺伝子および/または精製タグをコードする配列を挿入するためのもの)(配列番号2のヌクレオチド706~755); 下線を引いた太字:EF1アルファプロモーター配列(配列番号2のヌクレオチド811~1293); NNNNN:挿入部位2(たとえば、タグ、マーカー、外因性遺伝子、蛍光タンパク質、選択マーカー、抗生物質耐性遺伝子および/または精製タグをコードする配列を挿入するためのもの)(配列番号2のヌクレオチド1309~1358); 太字:mRNA安定化配列(配列番号2のヌクレオチド1368~1540); イタリック体:CCDB遺伝子(配列番号2のヌクレオチド1876~2181)
【0188】
【0189】
本明細書に引用されたありとあらゆる特許、特許出願、および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は特定の実施形態を参照して開示されたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、他の当業者によって、本発明の他の実施形態および変形を考案できることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような実施形態および等価の変形を含むと解釈されることを意図している。
本発明の態様の一部を以下に記載する。
1.核酸分子を含む相同配列指向性修復(HDR)ドナーベクターであって、ここで前記核酸分子は、ネガティブ選択マーカーをコードする一つまたは複数のヌクレオチド配列、および挿入カセットを含むヌクレオチド配列を含み、ここで前記挿入カセットは、細胞ゲノムに挿入されるべき核酸配列を含む、相同配列指向性修復(HDR)ドナーベクター。
2.挿入カセットは、細胞選択マーカー配列、タンパク質精製タグ、レポーターマーカー配列、外因性遺伝子配列、プロモーター配列、P2Aリンカー配列、終結配列、mRNA安定化配列、レポーターマーカー配列、細胞選択マーカー配列、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、一つまたは複数の配列を含む、項目1に記載のHDRドナーベクター。
3.前記挿入カセットは、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、poly(His)、ビオチン/ストレプトアビジン、V5タグ、Mycタグ、HAタグ、NEタグ、Hisタグ、Flagタグ、Haloタグ、Snapタグ、Fcタグ、Nusタグ、BCCP、チオレドキシン、Snooprタグ、Spyタグ、イソペプタグ(Isopeptag)、SBPタグ、Sタグ、Aviタグ、およびカルモジュリンからなる群から選択されるタンパク質精製タグを含む、項目2に記載のHDRドナーベクター。
4.前記挿入カセットは、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、NanoLuc(登録商標)、アルカリフォスファターゼ、および蛍光タンパク質からなる群から選択されるレポーターマーカーを含む、項目2に記載のHDRドナーベクター。
5.前記挿入カセットは、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、mCherry、mRuby3、mtagBFP2、およびmClover3からなる群から選択される蛍光タンパク質を含む、項目4に記載のHDRドナーベクター。
6.前記挿入カセットは、Zeocin(商標)耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、ピューロマイシン耐性マーカー、ブラストサイジン耐性マーカー、およびハイグロマイシン耐性マーカーからなる群から選択される細胞選択マーカー配列を含む、項目2に記載のHDRドナーベクター。
7.前記一つまたは複数のネガティブ選択マーカーは、ccdb遺伝子を含む、項目1に記載のHDRドナーベクター。
8.挿入カセットに隣接するネガティブ選択マーカーをコードする二つの核酸配列を含む、項目1に記載のHDRドナーベクター。
9.配列番号1および配列番号2からなる群から選択される核酸配列を含む、項目8に記載のHDRドナーベクター。
10.核酸分子を含むHDRドナーベクターであって、ここで前記核酸分子は一つまたは複数の組換えアームを含み、ここで前記組換えアームは標的ヌクレオチド配列に対する相同性を有するヌクレオチド配列、および挿入カセットを含むヌクレオチド配列を含み、ここで前記挿入カセットは、細胞ゲノムに挿入されるべき核酸配列を含む、HDRベクター。
11.前記挿入カセットは、細胞選択マーカー配列、タンパク質精製タグ、レポーターマーカー配列、外因性遺伝子配列、プロモーター配列、P2Aリンカー配列、終結配列、mRNA安定化配列、レポーターマーカー配列、細胞選択マーカー配列、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、一つまたは複数の配列を含む、項目10に記載のHDRベクター。
12.前記挿入カセットは、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、poly(His)、ビオチン/ストレプトアビジン、V5タグ、Mycタグ、HAタグ、NEタグ、Hisタグ、Flagタグ、Haloタグ、Snapタグ、Fcタグ、Nusタグ、BCCP、チオレドキシン、Snooprタグ、Spyタグ、イソペプタグ(Isopeptag)、SBPタグ、Sタグ、Aviタグ、およびカルモジュリンからなる群から選択されるタンパク質精製タグを含む、項目11に記載のHDRベクター。
13.前記挿入カセットは、クロラムフェニコール-アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ガラクトシルトランスフェラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、NanoLuc(登録商標)、アルカリフォスファターゼ、および蛍光タンパク質からなる群から選択されるレポーターマーカーを含む、項目11に記載のHDRベクター。
14.前記挿入カセットは、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、mCherry、mRuby3、mtagBFP2、およびmClover3からなる群から選択される蛍光タンパク質を含む、項目13に記載のHDRベクター。
15.前記挿入カセットは、Zeocin(商標)耐性マーカー、ネオマイシン耐性マーカー、ピューロマイシン耐性マーカー、ブラストサイジン耐性マーカー、およびハイグロマイシン耐性マーカーからなる群から選択される細胞選択マーカー配列を含む、項目11に記載のHDRベクター。
16.HDRベクターの一つまたは複数の組換えアーム、および内在性染色体標的DNA配列の間の相同組換えが、HDRベクターの挿入カセットの細胞ゲノムへの組込みを促進するように、内在性染色体標的DNA配列を含む細胞を項目10に記載のHDRベクターに接触させることを含む、遺伝子改変細胞の作成方法。
17.前記接触は、HDRベクターで細胞をトランスフェクトすることを含む、項目16に記載の方法。
18.前記細胞内の内在性染色体標的DNA内の特定のヌクレオチド配列でDNAを切断するエンドヌクレアーゼドメインを含むヌクレアーゼを提供すること;および
ヌクレアーゼが細胞内の内在性染色体標的DNA配列内のヌクレオチド配列を切断、または切れ目を入れるように、内在性染色体標的DNA配列を細胞内のヌクレアーゼと接触させ、それによって内在性染色体標的DNA配列、およびHDRベクターの一つまたは複数の組換えアームの間の相同組換えの頻度を高めることをさらに含む、項目16に記載の方法。
19.前記細胞は、ヒト由来である、項目16に記載の方法。
20.前記細胞は、マウス由来である、項目16に記載の方法。
21.項目16に記載の方法に従って作製された遺伝子改変細胞。
22.前記細胞は、ノックアウト細胞である、項目21に記載の遺伝子改変細胞。
23.前記細胞は、ノックイン細胞である、項目21に記載の遺伝子改変細胞。
24.前記細胞は、マウス細胞である、項目21に記載の遺伝子改変細胞。
25.前記細胞は、ヒト細胞である、項目21に記載の遺伝子改変細胞。
26.所望の核酸が導入されている遺伝子改変動物を作製する方法であって、
前記核酸を導入することが所望される内在性染色体標的DNA配列を含む初代細胞を得ること;
HDRベクターの一つまたは複数の組換えアーム、および内在性染色体DNA配列の間の相同組換えが、HDRベクターの挿入カセットの細胞ゲノムへの組込みを促進するように、前記細胞を項目10に記載のHDRベクターに接触させること;および
相同組換えが起こった前記初代細胞から動物を作製することを含む、方法。
27.前記細胞内の内在性染色体標的DNA内の特定のヌクレオチド配列でDNAを切断するエンドヌクレアーゼドメインを含むヌクレアーゼを提供すること;および
ヌクレアーゼが初代細胞内の内在性染色体標的DNA配列内のヌクレオチド配列を切断、または切れ目を入れるように、内在性染色体標的DNA配列を細胞内のヌクレアーゼと接触させ、それによって内在性染色体標的DNA配列、およびHDRベクターの一つまたは複数の組換えアームの間の相同組換えの頻度を高めることをさらに含む、項目26に記載の方法。
28.前記動物は、哺乳類、有袋類、鳥類、両生類、および魚からなる群から選択される、項目26に記載の方法。
29.前記挿入カセットは、相同組換え後に遺伝子を破壊するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を置換するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を導入するヌクレオチド配列、および相同組換え後に調節部位を導入するヌクレオチド配列からなる群から選択される、ヌクレオチド配列を含む、項目26に記載の方法。
30.項目26に記載の方法に従って作製された、遺伝子改変動物。
31.項目10に記載のHDRベクターを疾患を有する対象に導入することを含む疾患を治療する方法であって、ここでHDRベクターの挿入カセットは、相同組換え後に遺伝子を破壊するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を置換するヌクレオチド配列、相同組換え後に遺伝子を導入するヌクレオチド配列、および相同組換え後に調節部位を導入するヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含み、ここで前記遺伝子は疾患に関連する、疾患を治療する方法。
32.遺伝子またはタンパク質の一つまたは複数の活性に関する化合物の効果をスクリーニングする方法であって、項目21に記載の一つまたは複数の細胞を前記化合物と接触させること、および遺伝子またはタンパク質の一つまたは複数の活性を評価することを含む方法。
33.項目32に記載の複数の細胞を前記化合物と接触させることを含む、項目32に記載の方法。
34.疾患の治療を必要とする対象に項目32に記載の方法によって同定された疾患の治療に有益な効果を有する化合物を投与することを含む疾患を治療する方法。
35.前記疾患は低レベルのヘムオキシゲナーゼI(HO-1)発現と関連し、そして前記化合物はジスルフィラム、チオストレプトン、トリメタジオン、オーラノフィン、チメロサール、ハロファントリン塩酸塩、およびボリノスタットからなる群から選択される、項目34に記載の方法。
【配列表】