IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社サイエンス構造の特許一覧

特許7418798建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム
<>
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図1
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図2
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図3
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図4
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図5
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図6
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図7
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図8
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図9
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図10
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図11
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図12
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図13
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図14
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図15
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図16
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図17
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図18
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図19
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図20
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図21
  • 特許-建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】建物危険度判定サーバ、建物危険度判定方法、及びそのプログラム、並びに情報通信端末、情報処理方法、及びそのプログラム、並びに建物の危険度判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/01 20240101AFI20240115BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20240115BHJP
   G01V 1/28 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
G01V1/00 D
G01H17/00 Z
G01V1/28
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020004655
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021110709
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】518082507
【氏名又は名称】株式会社サイエンス構造
(74)【代理人】
【識別番号】100085660
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 均
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 逸朗
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170955(JP,A)
【文献】特開2018-189617(JP,A)
【文献】特開2015-127707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通信ネットワークを介して情報通信端末との間で情報を送受信可能に接続された建物危険度判定サーバであって、
前記情報通信端末から取得した地盤の常時微動データに基づいて地盤の卓越周期:NGT1を算出する常時卓越周期算出手段と、
前記情報通信端末から取得した建物の常時微動データに基づいて建物の固有周期:NBT1を算出する常時固有周期算出手段と、
前記常時固有周期算出手段により算出された前記建物の固有周期:NBT1に基づいて、地震時における建物の固有周期:CET1を、建物の層間変形角毎に算出する地震時固有周期算出手段と、
地盤のボーリングデータに基づいて該地盤の応答解析を実行することにより、地震時における地盤の卓越周期:EGT1を算出する地盤応答解析手段と、
前記地震時における建物の各固有周期:CET1と、前記地震時における地盤の卓越周期:EGT1との重なり具合に基づいて、前記建物の危険度を判定する危険度判定手段と、
前記各建物の危険度を、該各建物の所在地に対応するベースマップ上に表示する危険度表示レイヤを生成する危険度表示レイヤ生成手段と、
を備えることを特徴とする建物危険度判定サーバ。
【請求項2】
前記地盤応答解析手段は、常時における地盤の卓越周期:CGT1を算出し、
前記危険度判定手段は、前記常時における地盤の卓越周期:CGT1に対する前記地震時における地盤の卓越周期:EGT1の延び率εを算出し、該延び率εを前記地盤の卓越周期:NGT1に対して乗じることにより地震時における地盤の卓越周期:EBT1を算出し、前記地震時における地盤の卓越周期:EGT1と、前記地震時における地盤の卓越周期:EBT1のうちの大きい方の値を、前記地盤の振動周期の上限値に設定して、前記建物の危険度を判定することを特徴とする請求項1に記載の建物危険度判定サーバ。
【請求項3】
通信ネットワークを介して情報通信端末との間で情報を送受信可能に接続された建物危険度判定サーバにおいて実行される建物危険度判定方法であって、
前記情報通信端末から取得した地盤の常時微動データに基づいて地盤の卓越周期:NGT1を算出する常時卓越周期算出ステップと、
前記情報通信端末から取得した建物の常時微動データに基づいて建物の固有周期:NBT1を算出する常時固有周期算出ステップと、
前記常時固有周期算出ステップにより算出された前記建物の固有周期:NBT1に基づいて、地震時における建物の固有周期:CET1を、建物の層間変形角毎に算出する地震時固有周期算出ステップと、
地盤のボーリングデータに基づいて該地盤の応答解析を実行することにより、地震時における地盤の卓越周期:EGT1を算出する地盤応答解析ステップと、
前記地震時における建物の各固有周期と、前記地震時における地盤の卓越周期との重なり具合に基づいて、前記建物の危険度を判定する危険度判定ステップと、
前記各建物の危険度を、該各建物の所在地に対応するベースマップ上に表示する危険度表示レイヤを生成する危険度表示レイヤ生成ステップと、
を実行することを特徴とする建物危険度判定方法。
【請求項4】
コンピュータに、請求項3に記載の各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の建物危険度判定サーバとの間で情報を送受信する情報通信端末であって、
建物及び地盤の常時微動を測定する常時微動測定手段と、
該常時微動測定手段により取得された地盤及び建物の常時微動データを前記建物危険度判定サーバに送信する通信手段と、
を備えることを特徴とする情報通信端末。
【請求項6】
前記常時微動測定手段の方位を測定する方位測定手段と、
前記常時微動測定手段の傾斜度合いを測定する傾斜度測定手段と、
前記方位と前記傾斜度合いとを表示した画面を生成する画面生成手段と、
を備えることを特徴とする請求項5に記載の建物の情報通信端末。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の建物危険度判定サーバとの間で情報を送受信する情報通信端末において実行される情報処理方法であって、
建物の常時微動を測定する建物常時微動測定ステップと、
地盤の常時微動を測定する地盤常時微動測定ステップと、
前記建物常時微動測定ステップにおいて取得された建物の常時微動データと、前記地盤常時微動測定ステップにおいて取得された地盤の常時微動データを、前記建物危険度判定サーバに送信する通信ステップと、
を実行することを特徴とする情報処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、請求項6に記載の各ステップを実行させるためのプログラム。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の建物危険度判定サーバと、請求項5又は6に記載の情報通信端末と、
を備えることを特徴とする建物の危険度判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤と建物の常時微動を利用して、建物の倒壊危険度を判定する建物の危険度判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震に遭遇した建物は、一見して健全そうに見えても、地震による損傷が進んでいる場合がある。余震時には、損傷が進んでいる建物から建材が落下することや、建物自体が倒壊すること等が原因で、二次災害を発生させる虞がある。
二次災害の発生を防止するために、地震発生から比較的短時間の間に建物の被災状況を調査して、建物の当面の使用可否について判定することが実施されている。建物の当面の使用可否については、調査員の目視により判定されるため、判定結果にばらつきが生じるという問題がある。
そこで、素早く、正確に、且つ、ばらつきなく、建物の状態を判定する方法が要求される。
特許文献1に記載された建物の耐震性能を評価する耐震性能評価システムにおいては、建物の常時微動を測定し、建物の剛性の低下量と固有周期の延び量との関係に基づいて、剛性が変化した後の建物の固有周期を建物の常時微動から算出する。剛性が変化した後の建物が地盤とどのように共振するかにより、建物の耐震性を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-348949公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1においては、地盤の常時微動から地盤の卓越周期を求め、地盤の卓越周期と剛性が変化した後の建物の固有周期との関係から、建物の耐震性を評価しており、地震による地盤の塑性変形について考慮されていない。
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、地震による地盤の塑性変形を加味して、素早く、正確に、且つ、ばらつきなく、建物の危険度を判定できる建物危険度判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明に係る建物危険度判定サーバは、通信ネットワークを介して情報通信端末との間で情報を送受信可能に接続された建物危険度判定サーバであって、前記情報通信端末から取得した地盤の常時微動データに基づいて地盤の卓越周期:NGT1を算出する常時卓越周期算出手段と、前記情報通信端末から取得した建物の常時微動データに基づいて建物の固有周期:NBT1を算出する常時固有周期算出手段と、前記常時固有周期算出手段により算出された前記建物の固有周期:NBT1に基づいて、地震時における建物の固有周期:CET1を、建物の層間変形角毎に算出する地震時固有周期算出手段と、地盤のボーリングデータに基づいて該地盤の応答解析を実行することにより、地震時における地盤の卓越周期:EGT1を算出する地盤応答解析手段と、前記地震時における建物の各固有周期:CET1と、前記地震時における地盤の卓越周期:EGT1との重なり具合に基づいて、前記建物の危険度を判定する危険度判定手段と、前記各建物の危険度を、該各建物の所在地に対応するベースマップ上に表示する危険度表示レイヤを生成する危険度表示レイヤ生成手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、地震による地盤の塑性変形を加味して、素早く、正確に、且つ、ばらつきなく、建物の危険度を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】危険度判定システムの概略構成の一例を示す図である。
図2】ユーザ端末のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図3】サーバのハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4】ユーザ端末の機能構成の一例を示すブロック図である。
図5】判定サーバの機能構成の一例を示すブロック図である。
図6】判定サーバの建物DBに格納されるデータの一例を示す図である。
図7】危険度判定システムにおいて実行される危険度判定手順の一例を示すフローチャートである。
図8】基礎データ入力画面の一例を示す図である。
図9】基礎データ取得工程の詳細を示すシーケンス図である。
図10】常時微動の測定方法を示す概略説明図である。
図11】常時微動データ取得工程の詳細を示すシーケンス図である。
図12】常時微動測定画面の一例を示す図である。
図13】水準器・コンパス画面の一例を示す図である。
図14図7に示すステップS30以降の処理の流れを示すシーケンス図である。
図15】地盤の卓越周期を算出する手順を示すフローチャートである。
図16】建物の固有周期を算出する手順を示すフローチャートである。
図17】建物の復元力特性モデルの一例をグラフで示す図である。
図18】建物の危険度判定方法について説明する図である。
図19】ユーザ端末に表示される判定レポート画面の一例を示す図である。
図20】判定マップの一例を示す図である。
図21】判定マップの表示手順の一例を示すシーケンス図である。
図22】判定マップから各建物の判定レポートを表示する手順の一例を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
地盤と、この地盤上に建設された建物は、地震により塑性化すると(破壊されると)固有周期が延びるという特徴を持つ。本発明は、地盤と建物の塑性化後の固有周期の延びを考慮して両者の共振幅を算出することにより、より正確に建物の倒壊危険度を判定する点に特徴がある。
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0009】
〔危険度判定システムの構成〕
本発明の一実施形態に係る危険度判定システムについて説明する。本実施形態に係る危険度判定システムは、ユーザから各地の建物及び地盤の常時微動データを収集し、収集した常時微動データに基づいて各建物の危険度を算出し、算出した各建物の危険度(各建物の損傷レベル)を電子地図上に重ねた判定マップを作成する。
【0010】
図1は、危険度判定システムの概略構成の一例を示す図である。
危険度判定システム1は、ユーザ端末100(100A,100B,100C:情報通信端末)と判定サーバ200(建物危険度判定サーバ)と地図サーバ300とを含み構成される。危険度判定システム1は、ユーザ端末100と、判定サーバ200と、地図サーバ300とがインターネット等の通信ネットワークNを介して相互に情報を送受信可能に接続された構成を有する。
ユーザ端末100は、例えばスマートフォンやノートパソコン等、個人が携帯可能な通信端末である。ユーザ端末100は、危険度の判定対象となる各建物10(10A,10B,10C)について、危険度の判定に必要なデータを取得して判定サーバ200に送信する。危険度の判定には、ユーザから入力された各建物の基礎データと、ユーザ端末100に内蔵されたセンサにより測定された各建物の常時微動データと、該各建物が建つ地盤20(20A,20B,20C)の夫々の常時微動データとが必要となる。また、ユーザ端末100は、判定サーバ200により判定された各建物の危険度、及び各建物の危険度を地図上に表示した判定マップを判定サーバ200から取得して、ディスプレイに表示する。
判定サーバ200は、ユーザ端末100から取得したデータに基づいて建物の危険度を算出する。判定サーバ200は、算出した各建物の危険度及び各建物に関するその他の各種の情報をデータベース内に蓄積すると共に、ユーザ端末100に対して各建物の危険度の判定結果とこれらを地図上に表示した判定マップを提供する。
地図サーバ300は、判定マップ(図20参照)のベースとなる電子地図を保持すると共に、これを利用するためのAPI(Application Programming Interface)を提供する外部のオンライン地図サーバである。
【0011】
<ハードウェア構成>
<<ユーザ端末>>
図2は、ユーザ端末のハードウェア構成例を示すブロック図である。
ユーザ端末100は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、フラッシュメモリ104、タッチパネルディスプレイ105、加速度センサ106、磁気センサ107、GPS(Global positioning system)受信機108、及び、通信アンテナ109を備えたコンピュータ装置である。各構成要素はバス110により接続されている。
【0012】
CPU101は、ユーザ端末100の全体を制御する演算装置である。ROM102は、CPU101が実行する制御プログラムを記憶する不揮発性の記憶手段である。RAM103は、ROM102から読み出されたプログラムやデータ等を一時的に格納する揮発性の記憶手段である。CPU101がROM102から制御プログラムを読み出してRAM103に展開し、RAM103をワークスペースとして制御プログラムを実行することにより、各種の機能が実現される。
フラッシュメモリ104は、ユーザデータ等を記憶する不揮発性の記憶手段である。なお、フラッシュメモリ104は、CPU101が実行する制御プログラムを記憶してもよい。
タッチパネルディスプレイ105は、ユーザから各種の指示やデータの入力を受け付けると共に、各種の情報を表示する手段である。
【0013】
加速度センサ106は、X・Y・Zの3軸方向の加速度を測定してデジタルの加速度データを出力する。加速度センサ106は、地盤及び建物の常時微動を測定する手段(常時微動データを出力する手段)として機能する。また、加速度センサ106は、常時微動を測定するに際して、ユーザ端末100を水平に設置するために使用される。ユーザ端末100が所定の厚さを有する長方形状のスマートフォンである場合、加速度センサ106のX・Y・Z方向は夫々ユーザ端末100の短手方向、長手方向、厚さ方向に設定されている。
磁気センサ107は、地磁気を検知することにより、ユーザ端末100の向き(方位)を示すデジタルの方位データを出力する、いわゆる電子コンパスである。磁気センサ107が出力する方位データは、加速度センサ106のX・Y方向を、東西・南北方向に設定する際に使用される。或いは、磁気センサ107が出力する方位データは、加速度センサ106によるX・Y方向の振動データを、東西・南北方向の振動データに変換する際に使用されてもよい。
GPS受信機108は、複数のGPS衛星30(図1参照)から送信された電波信号を受信すると共に、各電波信号に含まれる軌道情報と時刻情報とに基づいて、緯度及び経度によって示されるユーザ端末100の現在位置を算出する。
【0014】
通信アンテナ109は、無線により通信ネットワークNに接続すると共に、判定サーバ200等との間で情報を送受信する通信手段である。通信アンテナ109は、例えば移動体通信網に無線接続してもよいし、Wi-Fi(登録商標)等の無線LAN(Local Area Network)に無線接続してもよい。なお、ユーザ端末100は通信手段として、有線により通信ネットワークNに接続して情報を送受信する手段を備えてもよい。
【0015】
<<判定サーバ>>
図3は、判定サーバのハードウェア構成例を示すブロック図である。
判定サーバ200は、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、HDD(Hard Disk Drive)204、操作部205、ディスプレイ206、ネットワークI/F207を備えたコンピュータ装置である。各構成要素はバス208により接続されている。
CPU201は、判定サーバ200の全体を制御する演算装置である。ROM202は、CPU201が実行する制御プログラムを記憶する不揮発性の記憶手段である。RAM203は、ROM202から読み出されたプログラムやデータ等を一時的に格納する揮発性の記憶手段である。CPU201がROM202から制御プログラムを読み出してRAM203に展開し、RAM203をワークスペースとして制御プログラムを実行することにより、各種の機能が実現される。
HDD204は、不揮発性の記憶手段であり、各種のデータを恒久的に又は一時的に記憶する。
操作部205は、ユーザから各種の指示やデータの入力を受け付ける手段である。操作部205は、例えばキーボードやマウス等から構成される。ディスプレイ206は、各種の情報を表示する手段である。
ネットワークI/F207は、判定サーバ200を通信ネットワークNに接続すると共に、通信ネットワークNを介して他の装置との間で情報を送受信する手段である。
なお、地図サーバ300のハードウェア構成も、判定サーバ200のハードウェア構成と同様である。
【0016】
<機能構成>
<<ユーザ端末>>
図4は、ユーザ端末の機能構成の一例を示すブロック図である。
ユーザ端末100は、主制御部121、画面生成部(画面生成手段)122、表示部(表示手段)123、入力部124、記憶部125、通信部(通信手段)126、GPS測位部127、加速度測定部(常時微動測定手段、傾斜度測定手段)128、方位測定部(方位測定手段)129を備える。
上記各機能は、CPU101が、ユーザ端末100のROM102(図2参照)に記憶された危険度判定アプリをRAM103に展開して実行し、ユーザ端末100の各ハードウェアと協働して動作することによって実現される。なお、上記各機能の一部または全部は、互いに協働して動作するハードウェア回路により構成されてもよい。
【0017】
主制御部121は、ユーザ端末100の各部を制御する。
画面生成部122は、表示部123に表示させる各種の画面を生成する。
表示部123は、画面生成部122が生成した画面を表示する。
入力部124は、表示部123に表示された画面を介してユーザから各種の指示やデータの入力を受け付ける。
記憶部125は、各種のデータを一時的に又は恒久的に記憶する。
通信部126は、通信ネットワークNを介して接続された判定サーバ200との間でデータを送受信する手段である。
GPS測位部127は、複数のGPS衛星30から電波信号を取得すると共に、各電波信号に含まれる軌道情報と時刻情報とに基づいて、緯度及び経度によって示されるユーザ端末100の現在位置を算出する。
加速度測定部128は、ユーザ端末100のX・Y・Z方向の加速度データを取得する手段である。加速度測定部128は、建物及び地盤の常時微動を測定する手段として機能すると共に、水平面に対する自身の傾斜度合いを測定する手段としても機能する。
方位測定部129は、ユーザ端末100の方位データを取得する手段である。
【0018】
主制御部121、画面生成部122は、CPU101により実現される。表示部123、入力部124は、タッチパネルディスプレイ105により実現される。記憶部125は、フラッシュメモリ104により実現される。通信部126、GPS測位部127、加速度測定部128、及び方位測定部129は、夫々通信アンテナ109、GPS受信機108、加速度センサ106、磁気センサ107により実現される。
【0019】
<<判定サーバ>>
図5は、判定サーバの機能構成の一例を示すブロック図である。
判定サーバ200は、主制御部221、周期算出部(常時卓越周期算出手段、常時固有周期算出手段)222、地盤解析部(地盤応答解析手段)223、危険度判定部(危険度判定手段、地震時固有周期算出手段)224、レポート生成部225、判定マップ生成部(危険度表示レイヤ生成手段)226、一時記憶部227、及び、通信部228を備える。
また、判定サーバ200は、各種のデータを格納するデータベース(DB)として、建物DB229、ボーリングDB230(地盤データ)、及び、地盤DB231(地盤データ)を備える。
上記各機能は、CPU201が、判定サーバ200のROM202(図3参照)に記憶されたプログラムをRAM203に展開して実行し、判定サーバ200の各ハードウェアと協働して動作することによって実現される。なお、上記各機能の一部または全部は、互いに協働して動作するハードウェア回路により構成されてもよい。
【0020】
主制御部221は、判定サーバ200の各部を制御する。
周期算出部222は、ユーザ端末100から取得した地盤と建物の常時微動データ(常時微動加速度時刻歴に係るデータ)をFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理等して地盤の卓越周期(常時)と建物の固有周期(常時)とを算出する。
地盤解析部223は、地盤の状態に基づき地盤応答解析を実行して、常時と地震時における地盤の卓越周期を算出する。地盤解析部223は、各種理論に基づく計算を実行することができる。地盤解析部223は、地盤応答解析に利用される各種の地盤応答解析プログラムにより実現される。地盤解析部223は、一次元波動伝搬解析を実行するSHAKE,FLIP,LIQCA,ALID等によって実現されてもよい。以下では、汎用解析コードのSHAKEと同等の重複反射理論に基づいて、地盤の地震応答解析を実行するShakePRO-L(ユニオンシステム株式会社製)により地盤解析部223を構築する場合の例に沿って説明する。
【0021】
危険度判定部224は、地盤の卓越周期(地震時)が、建物固有周期(地震時)の何れの層間変形角(1/120、1/60、1/20)の範囲内にあるかに応じて、建物の危険度を判定する。
レポート生成部225は、ユーザ端末100に表示させる建物危険度の判定結果(判定レポート:図図19参照)を生成する手段である。
判定マップ生成部226は、各建物の危険度を各建物の所在地に対応する箇所に表示する判定マップ(図20参照)を生成する手段である。
一時記憶部227は、各種の演算に必要なデータを一時的に保持する。
通信部228は、通信ネットワークNを介して接続されたユーザ端末100及び地図サーバ300との間で情報を送受信する手段である。
【0022】
図6は、判定サーバの建物DBに格納されるデータの一例を示す図である。
建物DB229は、建物に関するデータを格納するデータベースである。建物DB229には、各建物の基礎データと解析・測定結果とが、建物毎に付与されたID(固有の識別子)に対応付けて記憶される。図6には、ある一つの建物の情報を格納したデータファイル(又はレコード)が示されている。
建物の基礎データは、データの登録者を示すユーザ名、建物の物件名、階数(1階建て、2階建て、3階建て…)、構造種別(木造、鉄筋コンクリート造、軽量鉄骨造等)、所在地、緯度(度、分、秒)、経度(度、分、秒)に係るデータを含む。上記建物の基礎データは、一例である。建物の基礎データはこれ以外のデータを含んでもよい。例えば、建物の竣工年を含んでもよい。
解析・測定結果は、建物の各階と地盤の常時微動が測定された最新の日時、建物所在地のボーリングデータの有無、建物危険度の総合判定結果、水平X方向(例えば東西方向)における建物の固有周期(常時、地震時(層間変形角1/120,1/60,1/20))、水平X方向における地盤卓越周期(常時、地震時)、水平Y方向(例えば南北方向)における建物の固有周期(常時、地震時(層間変形角1/120,1/60,1/20))、水平Y方向における地盤卓越周期(常時、地震時)を含む。常時微動測定日時には、建物の各階における常時微動の測定終了日時と、地盤の常時微動の測定終了日時のうち、最も遅い日時が記録される。上記解析・測定結果は一例である。これ以外のデータを含んでもよい。
なお、各解析・測定結果については、後述する。
【0023】
ボーリングDB230及び地盤DB231は、地盤応答解析に使用される地盤データを格納したデータベースである。
ボーリングDB230には、緯度・経度に対して当該箇所のボーリングデータ(ボーリング柱状図に係るデータ:地盤データ)が対応付けて記憶されている。ボーリングデータは、地盤を構成する土質、その深度と層厚、各深度におけるN値等を含む。また、ボーリングDB230に格納されるボーリングデータは、S波速度(Vs)を含んでもよい。
地盤DB231には、緯度・経度に対して、当該箇所の地盤の種別、及び予測される地盤の卓越周期(常時・地震時)(地盤データ)が対応付けて記憶されている。
地盤応答解析の対象となる箇所について、ボーリングデータが存在する場合はボーリングDB230中の地盤データが使用され、ボーリングデータが存在しない場合は地盤DB231中の地盤データが使用される。
なお、地盤データとして、外部のデータベース(例えば、国土地盤情報検索サイト等)のデータが使用されてもよい。また、ボーリングDB230と地盤DB231の一方又は双方は、外部のデータベースであってもよい。
【0024】
主制御部221、周期算出部222、地盤解析部223、危険度判定部224、レポート生成部225、及び、判定マップ生成部226は、CPU201により実現される。
一時記憶部227は、RAM203により実現される。通信部228は、ネットワークI/F207により実現される。建物DB229、ボーリングDB230、及び、地盤DB231は、HDD204により実現される。
【0025】
〔危険度判定手順〕
<概要>
図7は、危険度判定システムにおいて実行される危険度判定手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS10(基礎データ取得工程)においては、ユーザ端末100が、ユーザから危険度の判定対象となる建物の基礎データの入力を受け付ける。
ステップS20(常時微動データ取得工程)においては、ユーザ端末100が、ユーザからの指示に従って地盤と建物の常時微動を測定する。ここで、常時微動が測定されるべき地盤は、危険度の判定対象となる建物の近隣(例えば敷地内)であればよい。
ステップS30(地盤の卓越周期算出工程)においては、判定サーバ200が、地盤の卓越周期を算出する。即ち、判定サーバ200は、地盤の常時微動データに基づいて地盤の卓越周期(常時):NGT1を算出する(地盤の常時卓越周期算出工程)。また、判定サーバ200は、地盤データに基づいて地盤の地震応答解析を実行し、地盤の卓越周期(常時):CGT1、及び、地盤の卓越周期(地震時):EGT1を算出する(地盤応答解析工程)。また、判定サーバ200は、地盤応答解析の結果から、地震時における地盤の卓越周期の延び率εを算出し、地盤の卓越周期(常時):NGT1に上記延び率εを乗ずることにより、地盤の卓越周期(地震時):EBT1を算出する(地盤の地震時卓越周期算出工程)。
ステップS40(建物の固有周期算出工程)においては、判定サーバ200が、建物の固有周期を算出する。即ち、判定サーバ200は、建物の常時微動データに基づいて、建物の固有周期(常時):NBT1を算出する(建物の常時固有周期算出工程)。また、判定サーバ200は、建物の地震応答解析を実行することにより、建物が塑性化した後の建物の固有周期(地震時):CET1を、層間変形角毎に算出する(建物の地震時固有周期を層間変形角毎に算出する工程)。なお、判定サーバ200は、降伏点における建物の固有周期(等価周期)を1(倍)として、塑性変形による建物の剛性の変化と、剛性に対する固有周期との関係から、塑性変形後の各層間変形角における固有周期(等価周期)を算出する。
ステップS50(危険度判定工程)においては、判定サーバ200が、層間変形角毎における建物の固有周期(地震時):CET1と、地盤の卓越周期(地震時):EBT1との重なり具合(建物と地盤の共振幅)から、建物の危険度を判定する。
ステップS60(判定レポート出力工程)においては、判定サーバ200が判定した危険度をユーザ端末100に表示させる。
以下、各工程の詳細を説明する。
【0026】
<S10:基礎データ取得工程>
基礎データ取得工程について説明する。
【0027】
<<入力画面例>>
図8は、基礎データ入力画面の一例を示す図である。
基礎データ入力画面400は、建物の基礎データを入力し、又は編集する為の画面である。
基礎データ入力画面400は、ユーザ端末100の記憶部125に記憶されているデータファイル(例えばXML形式のファイル)をドロップダウンリストから選択する選択ボタン401、データファイルを新規に作成する新規作成ボタン403、選択されたデータファイルを記憶部125から削除する削除ボタン405を有する。
新規作成ボタン403をタッチした場合、入力された基礎データが記録されたデータファイルがユーザ端末100の記憶部125に記憶される。
ドロップダウンリストに表示されるデータファイルを選択すると、ユーザ端末100の記憶部125から物件名等が読み出されて基礎データ入力画面400の各欄に表示される。
また、本例に示す基礎データ入力画面400は、物件に関するデータの入力・表示欄として、物件名欄407、物件の階数欄409、構造種別欄411、所在地欄413、及び現在位置取得ボタン415を有する。
物件の階数と構造種別は、ドロップダウンリストから選択する形式である。
ユーザは、所在地欄413に建物の所在地を手入力してもよい。しかし、ユーザ端末100がGPS衛星30からの電波信号に基づいてユーザ端末100の現在位置を算出できる場合、ユーザは現在位置取得ボタン415をタッチして、ユーザ端末100に建物の所在地を所在地欄に入力させるようにしてもよい。この場合、ユーザ端末100は、算出された現在位置情報から逆ジオコーディングにより取得される所在地を、所在地欄に自動的に入力する。
【0028】
<<シーケンス>>
図9は、基礎データ取得工程の詳細を示すシーケンス図である。
以下、ユーザが、建物の基礎データを新規に入力する場合の各工程について説明する。なお、ユーザは、本工程が実行される前に、危険度判定アプリのユーザ登録を完了しておく。また、ユーザは、ユーザ端末100に対して危険度判定アプリの起動を指示し、該アプリを起動させておく。
ステップS101において、ユーザは、ユーザ端末100に基礎データ入力画面400の表示を指示する。
ステップS103において、ユーザ端末100の画面生成部122は、表示部123に基礎データ入力画面400を表示させる。
【0029】
<<<建物の所在地を手入力する場合>>>
ユーザが、建物の所在地を手入力する場合の処理手順は、以下の通りである。
ステップS111において、ユーザは、基礎データ入力画面400から建物の基礎データを入力する。即ち、ユーザは建物の物件名、階数、構造種別、及び建物の所在地を入力する。
ステップS113において、ユーザは、新規作成ボタン403をタッチして、ユーザ端末100に対して新規にデータファイルを作成するように指示する。
ステップS115において、ユーザ端末100の主制御部121は、地図サーバ300に対して所在地に基づくジオコーディングを要求する。
ステップS117において、地図サーバ300は、要求されたジオコード(緯度・経度情報)をユーザ端末100に応答する。
ステップS119において、ユーザ端末100の主制御部121は、予めユーザが入力したユーザ名と、ユーザから入力された基礎データと、地図サーバ300から取得した緯度・経度情報とを含むファイル(例:"Input.xml")を生成し、記憶部125に記憶させる。
【0030】
<<<GPSを利用して建物の所在地を取得する場合>>>
ユーザ端末100がGPSを利用して建物の所在地を取得する場合の処理手順は、以下の通りである。
ステップS121において、ユーザは、基礎データ入力画面400から建物に関する基礎データを入力する。即ち、ユーザは、建物の物件名、階数、構造種別を入力する。
ステップS123において、ユーザは基礎データ入力画面400に表示された現在位置取得ボタン415をタッチして、ユーザ端末100に対して、ユーザ端末100の現在位置から建物の所在地を取得するように指示する。
ステップS125において、GPS測位部127は、ユーザ端末100の現在位置(緯度・経度)を算出する。
ステップS127において、主制御部121は、地図サーバ300に対して、緯度・経度情報に基づく逆ジオコーディングを要求する。
ステップS129において、地図サーバ300は、緯度・経度情報に対応する住所を応答する。
ステップS131において、画面生成部122は、基礎データ入力画面400の所在地欄413に、地図サーバ300から取得した住所を表示する。なお、所在地欄413に表示された住所は、ユーザが必要に応じて手入力により修正できる。
ステップS133において、ユーザは、新規作成ボタン403をタッチして、ユーザ端末100に対して新規にデータファイルを作成するように指示する。
ステップS135において、ユーザ端末100の主制御部121は、予めユーザが入力したユーザ名と、ユーザから入力された基礎データと、GPS測位部127が算出した現在位置(緯度・経度)情報と、新規作成ボタン403がタッチされる直前に所在地欄413に表示されていた住所に係るデータと、を含むファイル(例:"Input.xml")を生成し、記憶部125に記憶させる。
【0031】
<S20:常時微動データ取得工程>
常時微動データ取得工程について説明する。
【0032】
<<常時微動の測定方法>>
図10は、常時微動の測定方法を示す概略説明図である。
建物10の常時微動を測定する場合、ユーザは、ユーザ端末100を建物10の床面11に設置する。建物10が複数の階層を有する場合、ユーザは、各階の床面にユーザ端末100を設置して、各階における常時微動を測定する。
地盤20の常時微動を測定する場合、ユーザは、ユーザ端末100を地表面21に設置する。
何れの場合も、ユーザは、加速度センサ106のX方向が東西(EW)方向に、Y方向が南北(NS)方向に、Z方向が上下(UD、鉛直)方向に向くように、ユーザ端末100を設置することが望ましい。
【0033】
<<シーケンス>>
図11は、常時微動データ取得工程の詳細を示すシーケンス図である。
ステップS201において、ユーザは、ユーザ端末100に対して、常時微動の測定箇所を設定する画面を表示するように指示する。
ステップS203において、ユーザ端末100の画面生成部122は、表示部123に常時微動の測定箇所を設定する画面を表示させる。
ステップS205において、ユーザは、常時微動を測定しようとする箇所(地盤面、建物1階、建物2階…)をユーザ端末100に設定する。
ステップS207において、ユーザ端末100の画面生成部122は、常時微動測定画面420(図12参照)を表示部123に表示させる。
ステップS209において、ユーザは、ユーザ端末100に設定した箇所に、ユーザ端末100が水平になるように設置した後、常時微動測定画面420(図12参照)のRECボタン423をタッチすることにより、ユーザ端末100に対して常時微動の測定開始を指示する。
ステップS211において、ユーザ端末100の加速度測定部128は、所定の時間、継続して加速度を測定する(建物/地盤の常時微動測定ステップ)。加速度測定部128は、X・Y・Z方向の加速度の時刻歴に係る波形データ(常時微動加速度時刻歴データ)を得る。加速度測定部128が加速度データを取得している間、画面生成部122は加速度の波形データに係る画像を逐次生成して、表示部123に表示させる。
ステップS213において、主制御部121は、ステップS205にて取得された常時微動データを記録したデータファイル(例えばcsv形式)を生成し、記憶部125に記憶させる。このとき、主制御部121は、常時微動データとその取得箇所とを対応付ける。例えば、主制御部121は、ユーザが設定した測定箇所が「建物1階」である場合には、ファイル名称を"kai[1].csv"のように設定することで、常時微動データとその取得箇所とを対応付ける。
【0034】
以降、ステップS201~S213が順次実行されることによって、各測定箇所について常時微動データが取得される。
【0035】
ステップS215において、ユーザは、ユーザ端末100に対して、ステップS10において生成された建物の基礎データに係るファイル(例:Input.xml)と、ステップS20において生成された常時微動データに係るファイル(例:kai_[n].csv、但しn=0,1,2…)とを、判定サーバ200に送信するように指示する。
ステップS217において、ユーザ端末100の主制御部121は、判定サーバ200に、建物の基礎データに係るファイルと、常時微動データに係るファイルとを送信する(通信ステップ)。
ステップS219において、判定サーバ200の主制御部221は、ユーザ端末100から受信したデータを記憶部125に記憶させる。
ステップS221において、判定サーバ200の主制御部221は、処理結果を応答する。
ステップS223において、ユーザ端末100の画面生成部122は、表示部123に、建物危険度の計算中である旨を表示させる。
【0036】
<<画面例>>>
図12は、常時微動測定画面の一例を示す図である。
常時微動測定画面420は、加速度測定部128が取得した常時微動データに基づいて、画面生成部122が生成する画面である。
図示する常時微動測定画面420は、加速度測定部128が取得した常時微動データを表示する常時微動データ表示欄421(421x,421y,421z)と、常時微動の測定を開始するRECボタン423と、常時微動の測定を中止するCANCELボタン425とを備える。常時微動データ表示欄421x,421y,421zには、夫々加速度センサ106のX・Y・Z方向の常時微動データが表示される。
【0037】
上述したように、常時微動の測定時には、加速度センサ106のX方向を東西方向に、Y方向を南北方向に、Z方向を鉛直方向(重力方向)に、概ね一致させることが望ましい。これは、後述するH/Vスペクトル比を正確に算出すること、及び、振動の伝達関数を東西方向と南北方向の夫々で正確に算出することに寄与する。そのため、画面生成部122は、常時微動の測定開始前に、ユーザ端末100を水平に設置し、且つ、ユーザ端末100のX・Y方向を東西・南北方向に調整するための画面として、例えば以下のような水準器・コンパス画面を表示部123に表示させることが望ましい。
【0038】
図13は、水準器・コンパス画面の一例を示す図である。
水準器・コンパス画面430は、水平面に対するユーザ端末100の傾斜度合いと、ユーザ端末100の方位とを表示する画面である。水準器・コンパス画面430は、加速度測定部128の方位を特定の方位に調整させると共に、加速度測定部128の傾斜を特定の傾斜度合いに調整させるために利用される画面である。水準器・コンパス画面430は、加速度測定部128が取得した加速度データと、方位測定部129が取得した方位データとに基づいて、画面生成部122が生成する。
水準器・コンパス画面430には、ユーザ端末100の水平基準を表示する真円形の水準線431と、水準線431から放射状に延在してユーザ端末100のX方向とY方向とを表示するX方向線433とY方向線435とが固定的に表示される。
また、水準器・コンパス画面430には、X方向線433とY方向線435の4つの先端間を接続すると共に、方位を示す真円状の方位指示部437が表示される。方位指示部437によって囲まれた円形領域439内には、ユーザ端末100の水平面に対する傾斜度合いを示す真円状の気泡アイコン441が表示される。水準線431と方位指示部437は、その中心が一致するように描画される。
方位指示部437は、方位測定部129によって測定された方位に応じて画面内で矢印A方向に正逆回転する。気泡アイコン441は、加速度測定部128によって測定されたユーザ端末100の加速度データに基づき主制御部121が算出したユーザ端末100の傾斜度合いに応じて、円形領域439内を移動する。
方位指示部437によって示される東西・南方方向がX方向線433とY方向線に一致しているとき、ユーザ端末100のX・Y方向が東西・南北方向に一致していることを示す。気泡アイコン441が水準線431内に位置するとき、ユーザ端末100は水平な姿勢にあることを示す。
【0039】
水準器・コンパス画面430は、常時微動測定画面420が表示される前の段階でこの画面とは独立した画面として表示されてもよいが、常時微動測定画面420内に表示されてもよい。
【0040】
なお、ユーザ端末100の姿勢と方位を調整するための画面を表示する代わりに、ユーザ端末100の主制御部121又は判定サーバ200の主制御部221は、加速度測定部128が取得したユーザ端末100の加速度データと、方位測定部129が取得したユーザ端末100の方位データとに基づいて、加速度測定部128が取得したX・Y・Z方向の加速度データを夫々、東西・南北・鉛直方向の常時微動データに補正する計算を実行してもよい。上記補正計算を判定サーバ200にて行う場合、ユーザ端末100は、常時微動測定時の方位、及び水平面に対するユーザ端末100の傾きに係る情報を含むファイルを生成して、このファイルを、建物の基礎データと常時微動データとに係るファイルと共に判定サーバ200に送信する。
【0041】
<ステップS30以降の処理>
図14は、図7に示すステップS30以降の処理の流れを示すシーケンス図である。
判定サーバ200は、ステップS219においてユーザ端末100から取得したデータ(Input.xml、kai_[n].csv)に基づいて、ステップS30~S50までの処理を実行して、建物の危険度を判定する。判定結果は、ステップS60(ステップS601以降の処理)において、ユーザ端末100に送信される。
以下、順に説明する。
【0042】
<S30:地盤の卓越周期算出工程>
図15は、地盤の卓越周期を算出する手順を示すフローチャートである。
ステップS301において、周期算出部222は、ユーザ端末100から取得した地盤の各成分(X・Y・Z方向)の常時微動データから、地盤卓越周期(常時):NGT1を算出する(地盤の常時卓越周期算出ステップ)。
本ステップにおいて周期算出部222は、まず地盤の常時微動加速度時刻歴(NGACC(t))の各成分の波形データに対して高速フーリエ変換(FFT)等を施すことにより、フーリエスペクトルを求める。周期算出部222は、求めた各成分のフーリエスペクトルに対して、所定のフィルタ操作を実行する。本例において周期算出部222は、ローパスフィルタにより所定値以上の周波数成分を除去する処理を実行すると共に、窓関数を用いた平滑化処理を実行する。周期算出部222は、ローパスフィルタを用いて、例えば10Hz以上の周波数成分をノイズとみなして除去する。また、周期算出部222は、窓関数の一例としてパルゼンウィンドウ(Parzen Window)を用いることができる。パルゼンウィンドウのスペクトル分解バンド幅は例えば0.4Hzのように設定される。
周期算出部222は、このようにして求められたX・Y・Z方向の3方向のフーリエスペクトルから、レイリー波(Rayleigh波)の影響を除去するために、H/Vスペクトル比を算出する。
H/Vスペクトル比の算出には、式(1)や式(2)等を用いることができる。
【0043】
・・・式(1)
【0044】

・・・式(2)
【0045】
ここで、Hx、Hy、Vは、夫々、水平X方向の成分、水平Y方向の成分、鉛直Z方向の成分の常時微動のフーリエスペクトルである。式(1)は水平動のスペクトルHをスペクトルHxとHyの相乗平均とする場合の式であり、式(2)は水平動のスペクトルHをスペクトルHxとHyの二乗和平方根とする場合の式である。
【0046】
周期算出部222は、求めたH/Vスペクトル比について、0.1秒~1.4秒の周期(T)の範囲内で、ピークとなる周期を取る。周期算出部222は、このピーク周期を、常時微動測定から得た地盤の卓越周期(常時):NGT1として、記憶部125に記憶させる。
【0047】
ステップS303~S311において、地盤解析部223は、地盤応答解析(地盤の等価線形解析又は時刻歴応答解析)を実行して、地盤の卓越周期(常時:CGT1、地震時:EGT1)を算出する(地盤応答解析ステップ)。
地盤は、地震時に一定以上の歪が加わると、非線形挙動(剛性が低下し、減衰が増加する現象)が起こる。しかし、ステップS10にて得られた地盤の卓越周期は、地盤に歪が発生していない状態(地盤が線形挙動する状態)で測定された波形データに基づいて算出された周期であるから、地震時における地盤の卓越周期は非線形性を考慮した上で算出する必要がある。
そこで、本実施形態においては、地震時における地盤の卓越周期を算出するに先立って、常時微動測定地点又はその近隣の地盤の状態に基づいて地盤応答解析を実行し、常時と地震時における地盤の挙動(線形挙動、非線形挙動)から、地盤の卓越周期(常時、地震時)を算出する。
【0048】
ステップS303において、地盤解析部223は、地盤応答解析が可能か否かを判定する。
本ステップにおいて「地盤応答解析が可能」とは、地盤応答解析に必要なデータが存在することを意味する。地盤解析部223を上記ShakePRO-Lにて実現する場合は、解析対象地点又はその近隣の地盤の調査結果であるボーリングデータが存在することが地盤応答解析の条件となる。地盤解析部223は、建物の所在地点から所定の距離の範囲内におけるボーリングデータがボーリングDB230内に存在する場合に「地盤応答解析が可能」と判定する。
地盤応答解析が可能な場合(ステップS303にてYES)にはステップS305以下の処理が実行され、地盤応答解析が不可能な場合(ステップS303にてNO)にはステップS309以下の処理が実行される。
【0049】
ステップS305において、地盤解析部223は、常時における地盤の解析、即ち、地盤の線形挙動を解析する。なお、地盤解析部223は、地盤応答解析に先立って解析に必要な地盤データ(地盤を構成する土質及びその層厚等に係るデータ)を、ボーリングDB230から取得する。また、地盤解析部223は、地盤の強度を示すN値や、必要に応じてS波速度(Vs)等をボーリングDB230から取得する。本ステップにより、工学的基盤面22から地表面21(図10)における地盤固有周期(常時):CGT1が算出される。
【0050】
ステップS307において、地盤解析部223は、地盤の地震応答解析、即ち地盤の非線形挙動を解析する。本ステップにおいて地盤解析部223は、ステップS305において使用したデータに加えて、地盤の歪依存特性、及び告示波(財団法人日本建築センター:時刻歴応答解析建物性能評価業務方法書、BR構-02-01、平成13年4月)のデータを使用する。
ここで、地盤解析部223は、工学的基盤面22に対する入射波として、告示波レベル2に適合する乱数位相の波形を利用できる。
また、地盤解析部223がShakePRO-Lによって実現される場合、地盤応答解析の際に地盤解析部223は、地盤の歪依存特性として、国土交通省告示の値を用いることができる。そして、地盤解析部223は、地盤の歪依存特性を線形とした場合と等価線形にした場合の夫々について、地表面又は建物床付け面における加速度伝達関数を算出し、そのピークから、夫々の固有周期を算出する。
本ステップにより、工学的基盤面から地表面における地盤卓越周期(地震時):EGT1が算出される。
【0051】
ステップS309において、地盤解析部223は、建築基準法により定められた地盤種別(第1種~第3種地盤)に基づいて、地盤の卓越周期(常時):CGT1の推定値を算出する。
ステップS311において、地盤解析部223は、地盤の卓越周期(常時)を1.5~5.0倍した値を、地盤の卓越周期(地震時:EGT1)の推定値として算出する。
【0052】
ステップS313において、地盤解析部223は、地震による地盤の剛性低下(非線形挙動)を考慮した地盤の卓越周期(地震時):EBT1を、以下の式(3)により算出する。
【0053】


・・・式(3)
【0054】
ここで「EGT1/CGT1」は、地震時における地盤の卓越周期(固有周期)の延び率εである。延び率εは、ステップS305~S311において算出(又は推定)された地盤の卓越周期(常時:CGT1、地震時:EGT1)から算出される。地盤解析部223は、上記各値を、ステップS301にて算出された地盤の卓越周期(常時):NGT1に乗ずることにより、地盤の卓越周期(地震時):EBT1を算出する。
【0055】
<S40:建物の固有周期算出工程>
図16は、建物の固有周期を算出する手順を示すフローチャートである。
【0056】
ステップS401において、周期算出部222は、ユーザ端末100から取得した建物の各成分(X・Y・Z方向)の常時微動データから、建物固有周期(常時):NBT1を算出する(建物の常時固有周期算出ステップ)。
本ステップにおいて周期算出部222は、まず建物の常時微動加速度時刻歴の各成分の波形データに対して高速フーリエ変換(FFT)等を施すことにより、フーリエスペクトルを求める。求めた各成分のフーリエスペクトルに対して、周期算出部222は、所定のフィルタ操作を実行する。本例において周期算出部222は、求めた各成分のフーリエスペクトルに対して、ローパスフィルタにより所定値以上の周波数成分を除去する処理を実行すると共に、窓関数を用いた平滑化処理を実行する。周期算出部222は、ローパスフィルタを用いて、例えば10Hz以上の周波数成分をノイズと見なして除去する。また、周期算出部222は、窓関数の一例としてパルゼンウィンドウ(Parzen Window)を用いることができる。パルゼンウィンドウのスペクトル分解バンド幅は、例えば0.4Hzのように設定される。
周期算出部222は、このようにして求められた建物の1階部分の水平X・Y方向(東西・南北方向)のフーリエスペクトルを、地盤の同方向(水平X・Y方向:東西・南北方向)のフーリエスペクトルで夫々除することにより、地盤から建物の1階部分への振動の伝達関数を算出する。なお、建物が複数階層の建物の場合、周期算出部222は、上層階部分の各方向のフーリエスペクトルを、1階の同方向のフーリエスペクトルで除することにより、1階から上層階への振動の伝達関数(層間伝達関数)も算出する。
周期算出部222は、求めた伝達関数について、周期(T)のピークとなる周期を常時微動測定から得た建物の固有周期(常時):NBT1として、記憶部125に記憶させる。
【0057】
ステップS403においては、危険度判定部224が、建物の損傷レベル(危険度)を建物の層間変形角E^(δ/L)に応じて設定する。また、危険度判定部224が、建物の層間変形角E^(δ/L)毎に建物固有周期(地震時):CET1を計算することで、建物の危険度判定の基礎となる建物の固有周期の範囲を設定する。
【0058】
<<建物復元力特性>>
ここで、ステップS403において実行される計算の原理について説明する。
図17は、建物の復元力特性モデルの一例をグラフで示す図である。横軸は質点の層間変位[1/rad]を示し、縦軸は質点に加わる地震層せん断力を示す。
例えば、建物の復元力特性モデルを図のように完全弾塑性型とし、降伏点での層間変位をdy、塑性後の任意の層間変位をdmとする。このとき、塑性率μは「μ=dm/dy」と表現できる。また、降伏点に至るまでの剛性をkとすると、建物の層間変位がdmであるときの等価剛性k′は「k′=k/μ」と表現できる。
建物の固有周期Tは、建物の質量をmとすれば「T=√(m/k)」であり、固有周期Tは剛性kの二乗根に反比例する。建物の層間変位がdmであるときの等価周期T′は等価剛性k′から「T′=√(m/k′)=√(mμ/k)」となり、塑性変形前、すなわち常時の固有周期Tに対して√(μ)倍になる。
ところで、建物の剛性kは層間変形角E^(δ/L)の逆数に等しい。本実施形態においては、層間変形角E^(δ/L)に基づいて建物の損傷レベルを設定し、設定された層間変形角E^(δ/L)と建物の等価剛性k′との関係から、建物が降伏した後(塑性変形した後)の建物の等価周期T′を設定する。
例えば、建物の降伏点における層間変形角を1/120とし、建物の損傷レベルを、層間変形角が1/120までは軽微損傷、1/120~1/60では小破、1/60~1/20では中破~大破、1/20を超えると倒壊、のように設定する。
【0059】
層間変形角E^(δ/L)がμ倍になったときの等価周期T′は常時の固有周期Tに対して√(μ)倍になるから、層間変形角E^(δ/L):1/120のときの固有周期をTとすれば、
層間変形角E^(δ/L):1/60のとき、等価周期T′=T×√(2)
(1/120=(1/60)×(1/2) ∴μ=2)
層間変形角E^(δ/L):1/20のとき、等価周期T′=T×√(6)
(1/120=(1/20)×(1/6) ∴μ=6)
となる。
【0060】
このように、層間変形角と建物の復元力特性との関係から、建物の層間変形角、言い換えれば建物の損傷レベルと地震時における建物の固有周期の延びとの間には所定の関係がある。
【0061】
例えば、建物の降伏点における層間変形角を1/120とし、建物の損傷レベルを、層間変形角が1/120未満では軽微損傷、1/120以上1/60未満では小破、1/60以上1/20未満では中破~大破、1/20以上では倒壊、のように設定することで、建物の層間変形角と建物の損傷レベルとを対応付けることができる。また、建物の危険度については、建物の損傷レベルが軽微損傷の場合には安全、小破の場合は要注意、中・大破の場合は危険、のように判定することができる。
なお、建物の復元力特性モデルは、完全弾塑性型以外のモデルに設定してもよい。
【0062】
図16のフローに戻り、ステップS403において危険度判定部224は、建物の地震応答値を予測する(建物の地震時固有周期算出ステップ)。即ち、危険度判定部224は、地震時における建物固有周期を層間変形角毎に算出する。本ステップでは、建物の復元力特性モデルを、例えば図17のようなバイリニア型と仮定し、上述した層間変形角E^(δ/L)と等価周期T′との関係を利用することができる。そして、危険度判定部224は、ステップS40にて算出された建物固有周期(常時):NBT1に基づいて、建物固有周期(地震時):CET1を建物の損傷レベル毎に、言い換えれば層間変形角毎に算出する。なお、層間変形角が1/120の時における建物固有周期(地震時):CET1の値は、建物固有周期(常時):NBT1と同一となる。
【0063】
本例において、建物固有周期(地震時):CET1は以下のようになる。
層間変形角1/120のとき、
層間変形角1/120のとき、
層間変形角1/120のとき、
【0064】
<S50:危険度判定工程>
図18は、建物の危険度判定方法について説明する図である。
【0065】
まず、危険度判定部224は地震時に予測される建物の損傷度合いを、例えば以下のように設定する。即ち、危険度判定部224は、地震時における建物の固有周期Tが0~CET1(1/120)の場合に「軽微」損傷、CET1(1/120)~CET1(1/60)の場合に「小破」、CET1(1/60)~CET1(1/20)の場合に「中・大破」、CET1(1/20)~の場合に「倒壊」と設定する。
次に、危険度判定部224は、建物の危険度の判定に使用する地盤の振動周期の下限値と上限値を設定する。
危険度判定部224は、常時微動測定により求められた地盤卓越周期(常時):NGT1と、地盤応答解析により求められた地盤卓越周期(常時):CGT1のうち、小さい方の値を地盤の振動周期の下限値に設定する。
危険度判定部224は、地盤卓越周期(常時):NGT1に周期の延び率εを乗じることにより得られた地盤卓越周期(地震時):EBT1と、地盤応答解析により求められた地盤固有周期(地震時):CGT1のうち、大きい方の値を地盤の振動周期の上限値に設定する。
ここで、実測値を基準として求められる地盤卓越周期(常時):NGT1と地盤卓越周期(地震時):EBT1に対して、解析(計算)により求められる地盤固有周期(地震時):CGT1と地盤卓越周期(地震時):EBT1とは、基本的には夫々同等の値になると予測される。しかし、本例においては、両者の値が大きく異なる場合を考慮して、地盤の振動周期の下限値と限値を、実測値を基準とする値と、解析(又は推定)により求められる値の双方に基づいて決定している。
【0066】
図14に戻り、ステップS50において、危険度判定部224は、層間変形角毎の建物の固有周期Tと、地盤の振動周期の上下限値との重なり具合に基づいて、建物の危険度を判定する(危険度判定ステップ)。危険度判定部224は、地盤の地震時における卓越周期(固有周期、又は等価周期)が、建物の損傷レベルの何れの範囲内に含まれているに応じて、建物の危険度を判定する。図18に示す例では、地盤の地震時における卓越周期max(EBT1,EGT1)が、建物の固有周期の「中・大破」の範囲内にあるため、地震が発生した場合の建物の損傷レベルは「中・大破」であり、判定対象の建物が危険な建物であると判定される。
【0067】
<S60:判定レポート出力工程>
ステップS60のレポート出力手順について、図14に基づいて説明する。
【0068】
ステップS601において、レポート生成部225は、建物DB229に判定結果を含むデータを登録する。即ち、レポート生成部225は、建物の基礎データと解析・測定結果とをIDに対応付けたデータファイル(又はレコード:図6参照)を、建物DB229に記憶させる。なお、レポート生成部225は、地盤卓越周期(常時)の値としてmin(NGT1,CGT1)を、地盤卓越周期(地震時)の値としてmax(EBT1,EGT1)を、建物DB229に記憶させる。
ステップS603において、レポート生成部225は、ユーザ端末100に表示させる判定レポート(例えばhtml形式のレポートファイル)を生成して、一時記憶部227に記憶させる。
ステップS605において、レポート生成部225は通信部228を介して、ユーザ端末100にレポートファイルを送信する。
ステップS607において、ユーザ端末100の主制御部121は、判定サーバ200から取得したレポートファイルを、記憶部125に記憶させる。
ステップS609において、ユーザ端末100の画面生成部122は、取得したレポートファイルに基づき、危険度判定結果を示す画面を生成して、表示部123に表示させる。
【0069】
図19は、ユーザ端末に表示される判定レポート画面の一例を示す図である。
判定レポート画面450は、総合判定結果451と、X方向の判定結果453Xと、Y方向の判定結果453Yと、建物の基礎データ455を含む。X方向とY方向の判定結果453X,453Yは、夫々、判定グラフとして、建物の層間変形角毎の固有周期グラフ457と、常時及び地震時における地盤の卓越周期グラフ459と、判定結果の導出基準となった振動周期情報461とを含む。
固有周期グラフ457の基準点457a~457cは、層間変形角が夫々1/120、1/60,1/20のときの建物の固有周期に対応する。固有周期グラフ457の右に行くほど、建物の破壊度が大きいことを示す。卓越周期グラフ459の基準点459a,459bは、夫々、常時における地盤の卓越周期(最小値)と、地震時における地盤の卓越周期(最大値)とに対応する。卓越周期グラフ459は、地盤応答解析で入力した規模の地震が発生した場合に、地盤の卓越周期が基準点459aから最大で基準点459bまで変化する可能性があることを示している。
【0070】
<<変形例>>
判定サーバ200がユーザ端末100に対してレポートファイルを送信する代わりに、レポートファイルが作成された旨の通知を、プッシュ通知用のサーバからプッシュ通知等によりユーザ端末100に通知するようにしてもよい。この場合、プッシュ通知を受けたユーザ端末100が判定サーバ200に対してレポートファイルを要求することにより、ユーザ端末100は判定サーバ200の一時記憶部227に記憶されたレポートファイルを取得することができる。
【0071】
〔判定マップ〕
<判定マップの概要>
図20は、判定マップの一例を示す図である。
判定マップ470は、各建物の危険度を各建物の所在地に対応する箇所に表示した地図である。判定マップ470は、ベースマップ471と、ベースマップ471に重ねて表示される危険度表示レイヤとを含んで構成される。
ベースマップ471として、地形・水系・交通路・集落などが縮尺に応じて平均的に描き表された一般図を利用できる。また、ベースマップ471は、航空写真や主題図等であってもよい。
危険度表示レイヤには、建物危険度が判定された各建物について、建物危険度の判定結果(総合判定結果)が表示される。各建物の判定結果は、例えば色つきの判定アイコン473(473a,473b,473c)として表示される。判定アイコン473の色は、例えば、軽微:黄色、小破:緑色、中破・大破:赤色、倒壊:黒色のように設定できる。図中、判定アイコン473aは「軽微」、判定アイコン473bは「小破」、判定アイコン473cは「中破・大破」と判定された建物を示す。
【0072】
<判定マップの表示手順>
図21は、判定マップの表示手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS701において、ユーザは、判定マップ470を表示するようにユーザ端末100に対して指示する。ユーザは、例えば、ユーザ端末100の画面に表示された操作メニューから「判定マップ」を選択することによって、判定マップ470を表示するように、ユーザ端末100に対して指示することができる。
【0073】
ステップS703において、ユーザ端末100の主制御部121は、画面中の所定の表示範囲内に所定のズームレベルの地図を表示させるための表示位置情報を取得する。表示位置情報は、例えば表示部123に表示させるベースマップ471の中心位置(緯度・経度)、地図のズームレベル、地図表示させる表示部123のサイズに係る情報等を含む。
例えば、主制御部121は、ベースマップ471の中心位置(緯度・経度)を指示する情報として、アプリケーションに固有に設定された初期値、又は、ユーザ端末100ごとに設定された初期値を利用できる。或いは、主制御部121は、GPS測位部127が取得したユーザ端末100の緯度・経度に係る情報や、ユーザが手入力した任意の住所を、ベースマップ471の中心位置(緯度・経度)を指示するための情報として利用してもよい。或いは、主制御部121は、ユーザ端末100が接続している携帯電話基地局の位置情報、ネットワークIPアドレス、Wi-Fi接続情報等に基づいて、ベースマップ471の中心位置を指示してもよい。
また、主制御部121は、地図のズームレベルとして、アプリケーションに固有に設定されたズームレベルの初期値を利用できる。
【0074】
ステップS705において、ユーザ端末100の主制御部121は、通信部126を介して、判定サーバ200に対して、判定マップを要求する。判定マップの要求には、表示位置情報が含まれる。
ステップS707において、判定サーバ200の主制御部221は、地図サーバ300に対してベースマップ471を要求する。ベースマップ471の要求には、表示位置情報が含まれる。
ステップS709において、地図サーバ300は、表示位置情報に応じたベースマップを応答する。
【0075】
ステップS711において、判定サーバ200の判定マップ生成部226は、ベースマップ471上に重ねて表示する危険度表示レイヤを生成する(危険度表示レイヤ生成ステップ)。判定マップ生成部226は、ベースマップ471で表示される区域に含まれる建物に係る情報を、危険度表示レイヤに含める。
ここで、判定マップ生成部226は、地図のズームレベルに応じて、危険度表示レイヤに含める情報を変更することができる。
例えば、判定マップ生成部226は、地図のズームレベルが所定値以上の場合に、図20に示すような、各建物の判定アイコン473を含む危険度表示レイヤを生成することができる。この場合、判定マップ生成部226は、建物DB229からベースマップ471に表示される区域に含まれる各建物について、その緯度・経度及び総合判定結果を読み出す。そして、ベースマップ471上の、各建物の緯度・経度に応じた箇所に、総合判定結果に応じた判定アイコン473を描画する。
また、判定マップ生成部226は、地図のズームレベルが所定値未満の場合に、建物に関して表示させる情報を図20に示す判定マップ470よりも限定することができる。判定マップ生成部226は、建物に関して表示させる情報を、建物危険度が判定された建物の総数に限定してもよいし、判定レベル毎の建物の総数に限定してもよい。判定マップ生成部226は、ベースマップ471を格子状に分割された複数の小領域からなる領域と認識して、上記建物の総数を小領域毎に表示してもよい。
【0076】
ステップS713において、判定マップ生成部226は、通信部228を介して、ユーザ端末100に対して、判定マップを応答する。
【0077】
ステップS715において、ユーザ端末100の画面生成部122は表示部123に判定マップを表示させる。
【0078】
なお、ユーザが判定マップ470の画面上でピンチイン操作又はピンチアウト操作をすることにより、判定マップ470のズームレベルが変更される。即ち、ユーザ端末100の主制御部121がピンチイン操作又はピンチアウト操作の操作量に応じて地図のズームレベルを決定し、判定サーバ200に対して新たな表示位置情報と共に、ズームレベルが変更された判定マップ470を要求する。
また、ユーザが判定マップ470の画面上でスワイプ操作をすることにより、ベースマップ471の中心位置が移動される。即ち、ユーザ端末100の主制御部121がスワイプ操作の操作量に応じて地図の移動量を決定し、判定サーバ200に対して新たな表示位置情報と共に、中心位置が移動した判定マップ470を要求する。
【0079】
<判定レポートの表示手順>
図22は、判定マップから各建物の判定レポートを表示する手順の一例を示すフローチャートである。
ステップS721において、ユーザは、判定マップ470中の建物を選択すると共に、選択した建物の判定レポートを表示するようにユーザ端末100に対して指示する。例えば、ユーザは、ユーザ端末100の画面に表示された判定マップ470中の何れかの判定アイコン473をタップすることによって、当該判定アイコン473に対応する建物を選択すると共に、選択した建物の判定レポートを表示するようにユーザ端末100に対して指示することができる。
ステップS723において、ユーザ端末100の主制御部121は、判定サーバ200に対して、選択された建物の判定レポートを要求する。
ステップS725において、判定サーバ200のレポート生成部225は、選択された建物に係る情報を建物DB229から読み出して、建物の危険度判定結果を含むレポートファイルを生成する。本ステップにおいて生成されるレポートファイルは、例えば、ステップS601において生成されるレポートファイルと同一のデータを含むことができるが、レポート生成部225はレポートファイルに含むデータを、判定レポートを要求するユーザの区分等に応じて制限してもよい。例えば、レポート生成部225は、選択された建物のデータを登録したユーザに対しては、ステップS601において生成されるレポートファイルと同一のデータを提供し、それ以外のユーザに対して提供するデータ(開示する項目)を減じることができる。
ステップS727において、判定サーバ200のレポート生成部225は通信部228を介して、ユーザ端末100にレポートファイルを送信する。
ステップS729において、ユーザ端末100の画面生成部122は、レポートファイルに基づき、危険度判定結果を示す画面を生成して、表示部123に表示させる。判定レポートは、判定マップ470から図19に示す画面に遷移することにより表示部123に表示されてもよいし、判定マップ470上に表示されるポップアップウィンドウに表示されてもよい。
【0080】
〔H/Vスペクトル比に関する補足〕
ここで、地盤のH/Vスペクトル比について補足する。
上記実施形態においては、式(1)や式(2)により算出されたH/Vスペクトル比を用いた。この値は、水平X方向のスペクトル成分Hxと水平Y方向のスペクトル成分Hyとを掛け合わせたものである。
仮に、工学的基盤が略水平な場合は、Hx/Vスペクトル比から求められる卓越周期と、Hy/Vスペクトル比から求められる卓越周期は、H/Vスペクトル比から求められる卓越周期と略一致する。しかし、工学的基盤が傾斜している場合には、Hx方向のスペクトル比とHy方向のスペクトル比とが大きく異なる(卓越周期が一致しない)ことがある。
そこで、上記実施形態において利用したH/Vスペクトル比に代えて、水平X方向におけるHx/Vスペクトル比と、水平Y方向におけるHy/Vスペクトル比を用い、地盤の傾斜を加味した判定を行うようにしてもよい。この場合、ステップS50(危険度判定工程)において、危険度判定部224は、水平X方向、水平Y方向の夫々において建物固有周期(地震時):CET1を建物の層間変形角E^(δ/L)毎に算出し、水平X方向、水平Y方向の夫々で建物の危険度を判定する。
【0081】
〔建物の損傷レベルと建物の層間変形角との関係〕
上記実施形態に示した、建物の損傷レベルを判定する基準となる建物の層間変形角は一例である。建物の損傷レベルを判定する基準となる層間変形角は上記数値以外としてもよい。
例えば、判定基準となる建物の層間変形角は、建物の構造種別に応じて設定されてもよい。また、判定基準となる建物の層間変形角は、常時微動データが測定されたた否かに応じて設定されてもよい。また、判定基準となる建物の層間変形角は、当該建物の所在地点から所定の距離範囲内における地盤のボーリングデータの有無に応じて設定されてもよい。判定基準となる建物の層間変形角は、建物の損傷レベルの判定に必要なデータが推定値か否かに応じて設定されてもよい。
【0082】
表1に、建物の損傷レベルの判定基準となる建物の層間変形角の一例を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
「詳細判定基準」に示す層間変形角は、判定対象となる建物の各階において常時微動データが測定されることにより、建物の各階における建物の固有周期が取得できた場合に、建物の損傷レベルを判定する基準として使用される層間変形角を示す。建物の全階層について常時微動データが取得されることが望ましいが、建物の少なくとも1つの階層における常時微動データが測定された場合に、詳細判定基準に示す層間変形角を、建物の損傷レベルを判定する基準として用いてよい。
【0085】
「簡易判定基準」に示す層間変形角は、ステップS20において、建物の常時微動データが測定されなかった場合に、建物の損傷レベルを簡易的に判定する基準となる層間変形角を示す。建物の常時微動データが測定されなかった場合は、ステップS401において、建物種別と、階層数N[階]から予測される建物の高さH[m]と、に基づいて、建物固有周期(常時):NBT1[秒]が算出(推定)される。
建物固有周期(常時):NBT1の推定式として例えば以下の式を用いることができる。
NBT1=0.02H (S造)
NBT1=0.015H (SRC造・RC造)
また、階高を3~4mと設定すれば、階層数Nから、建物固有周期(常時):NBT1は以下の計算式にて推定される。
NBT1=0.06N~0.08N (S造)
NBT1=0.045N~0.06N (SRC造・RC造)
なお、建物が木造である場合、建物固有周期(常時):NBT1の推定値は、0.1~0.5秒の範囲で設定される。例えばステップS10において、建物の基礎データの1つとして建物の竣工年が取得されれば、木造建物の築年数に応じて建物固有周期(常時):NBT1の推定値を設定可能となる。
【0086】
建物の損傷レベルは、詳細判定基準が使用される場合と簡易判定基準が使用される場合のいずれも、建物の層間変形角がレベル1未満の場合に損傷軽微、レベル1以上レベル2未満の場合に中破~大破、レベル2以上では倒壊、のように判定される。
このように、建物の損傷レベルの判定に使用するデータの一部が推定値に基づく場合には、簡易判定基準を用いて建物の損傷レベルを判定することができる。推定値に基づいて建物の損傷レベルを判定する場合に簡易判定基準を用いることで、必要以上に建物の損傷レベルが高く判定されないようにすることができる。
【0087】
〔効果等〕
上記の方法を用いて建物の危険度を判定するためには、建物の各階や地盤面の常時微動を測定する必要がある。しかし、第三者である専門の調査員が、敷地内及び建物内に入って常時微動を測定するには、当該敷地・建物の所有者(又は居住者)の許可を得る必要があり、多数の常時微動データを収集する障害となっていた。
本実施形態によれば、ユーザ自身がスマートフォン等のユーザ端末を用いて、自身が所有又は居住する建物及び該建物が建つ地盤の常時微動データを測定するので、判定サーバは多数の常時微動データ及び建物危険度の判定結果を収集することができる。
また、本実施形態によれば、各ユーザが、簡便な方法で建物危険度の判定結果を取得することができる。各ユーザは、建物の危険度に応じて建物補強の必要性等を認識できるようになり、各ユーザの地震災害への意識を向上させることが可能となる。
なお、建物の経年変化や、遭遇した地震の規模や回数等により、建物の危険度は変化する。従って、ユーザは、定期的に、或いは建物が所定の規模以上の地震に見舞われた場合等のタイミングで、建物及び地盤の常時微動を測定して、判定サーバに建物の危険度を判定させることが望ましい。このため、判定サーバは、プッシュ通知等を利用して、定期的に、或いは所定の規模以上の地震が発生した後のタイミングで、危険度が判定された建物の危険度を再判定するように、ユーザ端末に対して通知するようにしてもよい。
【0088】
〔本発明の実施態様例と作用、効果のまとめ〕
<第一の実施態様>
本態様は、通信ネットワークNを介して情報通信端末(ユーザ端末100)との間で情報を送受信可能に接続された建物危険度判定サーバ200である。
本態様に係る建物危険度判定サーバは、情報通信端末から取得した地盤の常時微動データに基づいて地盤の卓越周期:NGT1を算出する常時卓越周期算出手段(周期算出部222)と、情報通信端末から取得した建物の常時微動データに基づいて建物の固有周期:NBT1を算出する常時固有周期算出手段(周期算出部222)と、常時固有周期算出手段により算出された建物の固有周期:NBT1に基づいて、地震時における建物の固有周期:CET1を、建物の層間変形角毎に複数個、算出する地震時固有周期算出手段(危険度判定部224)と、地盤のボーリングデータに基づいて地盤の応答解析を実行することにより、地震時における地盤の卓越周期:EGT1を算出する地盤応答解析手段(地盤解析部223)と、地震時における建物の各固有周期と、地震時における地盤の卓越周期との重なり具合に基づいて、建物の危険度を判定する危険度判定手段(危険度判定部224)と、各建物の危険度を、各建物の所在地に対応するベースマップ上に表示する危険度表示レイヤを生成する危険度表示レイヤ生成手段(判定マップ生成部226)と、を備えることを特徴とする。
【0089】
地盤と、この地盤上に建設された建物は、地震により塑性化すると(破壊されると)振動周期が延びるという特徴を持つ。本態様においては、地震時における地盤の卓越周期と地震時における建物の固有周期とを算出して、地震時における地盤と建物の共振幅から建物の危険度を判定する。
本態様によれば、地震による地盤の塑性変形を加味して、素早く、正確に、且つ、ばらつきなく、建物の危険度を判定できる。
また、判定された各建物の危険度を、各建物の所在地に対応する地図上に表示できるので、地震時に倒壊する虞のある建物が密集した地域を視覚的に認識できる。
【0090】
<第二の実施態様>
本態様に係る建物危険度判定サーバ200において、地盤応答解析手段(地盤解析部223)は、常時における地盤の卓越周期:CGT1を算出し、危険度判定手段(危険度判定部224)は、常時における地盤の卓越周期:CGT1に対する地震時における地盤の卓越周期:EGT1の延び率εを算出し、該延び率εを前記地盤の卓越周期:NGT1に対して乗じることにより地震時における地盤の卓越周期:EBT1を算出し、地震時における地盤の卓越周期:EGT1と、地震時における地盤の卓越周期:EBT1のうちの大きい方の値を、地盤の振動周期の上限値に設定して、建物の危険度を判定することを特徴とする。
実測値を基準として求められる地盤卓越周期(常時):NGT1と、地盤応答解析により求められる地盤卓越周期(常時):CGT1とは、基本的には夫々同等の値になると予測される。しかし、両者の値が大きく異なる場合もありうる。
本態様によれば、地盤卓越周期(常時):NGT1と地盤卓越周期(常時):CGT1とが大きく異なる場合であっても、地盤の振動周期の下限値と上限値とを、実測値を基準とする値と、解析(又は推定)により求められる値の双方に基づいて決定するので、より正確、且つ安全性の高い危険度判定が可能となる。
【0091】
<第三の実施態様>
本態様は、建物危険度判定サーバ200との間で情報を送受信する情報通信端末(ユーザ端末100)である。
情報通信端末は、建物及び地盤の常時微動を測定する常時微動測定手段(加速度測定部128)と、常時微動測定手段により取得された地盤及び建物の常時微動データを建物危険度判定サーバに送信する通信手段(通信部126)と、を備えることを特徴とする。
【0092】
情報通信端末は、個人が携帯可能な通信端末であり、例えば、常時微動を測定する手段として3軸加速度センサを備えたスマートフォンである。本態様においては、このような情報通信端末を、常時微動を測定する測定器として機能させる。
本態様においては、各ユーザに住居等として使用する建物の常時微動を測定させる。第三者が建物及び地盤の常時微動を測定する場合と異なり、各ユーザが建物及び地盤の常時微動を測定する場合は、建物及び土地の所有者に立ち入り許可を得る必要がない。従って、短期間で多数の常時微動データを収集可能となり、地震災害に関する研究に大きく貢献できる。
また、各ユーザが、簡便な方法で、建物危険度の判定結果を取得することができる。各ユーザは、建物の危険度に応じて建物補強の必要性等を認識できるようになり、各ユーザの地震災害への意識を向上させることが可能となる。
【0093】
<第四の実施態様>
本態様に係る情報通信端末(ユーザ端末100)は、常時微動測定手段(加速度測定部128)の方位を測定する方位測定手段(方位測定部129)と、常時微動測定手段の傾斜度合いを測定する傾斜度測定手段(加速度測定部128)と、測定された方位と傾斜度合いとを表示した水準器・コンパス画面430を生成する画面生成手段(画面生成部122)と、を備えることを特徴とする。
【0094】
水準器・コンパス画面は、常時微動測定手段の方位を特定の方位に調整させると共に、常時微動測定手段の傾斜を特定の傾斜度合いに調整させるために利用される画面である。
地盤の卓越周期(常時)を算出する際に、判定サーバ200は、レイリー波の影響を除去するためにH/Vスペクトル比を算出することが望ましい。また、建物の固有周期(常時)を算出する際に、判定サーバ200は、地盤から建物1階部分への振動の伝達関数と、建物1階部分から上層階への振動の伝達関数(層間伝達関数)とを算出する。H/Vスペクトル比の算出と振動の伝達関数の算出には、常時微動測定手段が取得した各常時微動データのX・Y・Z方向が一致していることが望ましい。
本態様によれば、建物及び地盤の常時微動の測定時に、常時微動測定手段の方位及び傾斜を概ね一定方向に一致させることが可能となるため、H/Vスペクトル比と振動の伝達関数を正確に算出可能となる。
【0095】
<第五の実施態様>
本態様は、建物の危険度を判定する建物の危険度判定システム1であって、第一、第二の実施態様に記載した建物危険度判定サーバ200と、第三、第四の実施態様に記載した情報通信端末(ユーザ端末100)と、を備えることを特徴とする。
【0096】
各ユーザは、情報通信端末からの指示に従って、住居等として使用する建物及び地盤の常時微動を情報通信端末に測定させる。情報通信端末は、取得した常時微動データを建物危険度判定サーバに送信し、建物危険度判定サーバは、建物の危険度を判定する。
各ユーザは、建物危険度判定サーバによる判定結果を情報通信端末で受信することにより、容易に当該建物の危険度を把握できる。各ユーザは、建物の危険度に応じて建物補強の必要性等を認識できるようになり、地震災害に対する意識を向上させることができる。また、各ユーザは、情報通信端末により、各建物の危険度を地図上に表示した判定マップを建物危険度判定サーバから取得することで、地震時に倒壊する虞のある建物が密集した地域を視覚的に認識できる。各ユーザは、建物危険度判定サーバから提供される建物の危険度に係るデータを利用して、地震が発生した時のために各種の対策を講じることが可能となる。
【符号の説明】
【0097】
1…危険度判定システム、
10…建物、11…床面、20…地盤、21…地表面、22…工学的基盤面、30…GPS衛星、
100…ユーザ端末(情報通信端末)、101…CPU、102…ROM、103…RAM、104…フラッシュメモリ、105…タッチパネルディスプレイ、106…加速度センサ、107…磁気センサ、108…GPS受信機、109…通信アンテナ、110…バス、121…主制御部、122…画面生成部(画面生成手段)、123…表示部(表示手段)、124…入力部、125…記憶部、126…通信部(通信手段)、127…GPS測位部、128…加速度測定部(常時微動測定手段、傾斜度測定手段)、129…方位測定部(方位測定手段)、
200…建物危険度判定サーバ、200…判定サーバ、201…CPU、202…ROM、203…RAM、205…操作部、206…ディスプレイ、207…ネットワークI/F、208…バス、221…主制御部、222…周期算出部(常時卓越周期算出手段、常時固有周期算出手段)、223…地盤解析部(地盤応答解析手段)、224…危険度判定部(危険度判定手段、地震時固有周期算出手段)、225…レポート生成部、226…判定マップ生成部(危険度表示レイヤ生成手段)、227…一時記憶部、228…通信部、229…建物DB、230…ボーリングDB、231…地盤DB、
300…地図サーバ、
400…基礎データ入力画面、401…選択ボタン、403…新規作成ボタン、405…削除ボタン、407…物件名欄、409…階数欄、411…構造種別欄、413…所在地欄、415…現在位置取得ボタン、420…常時微動測定画面、421…常時微動データ表示欄、423…RECボタン、425…CANCELボタン、
430…水準器・コンパス画面、431…水準線、433…X方向線、435…Y方向線、437…方位指示部、439…円形領域、441…気泡アイコン、
450…判定レポート画面、451…総合判定結果、453X,453Y…判定結果、455…基礎データ、457…固有周期グラフ、457a~457c…基準点、459…卓越周期グラフ、459a,459b…基準点、461…振動周期情報、470…判定マップ、471…ベースマップ、473…判定アイコン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22