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特許7418808音叉型振動子および音叉型振動子の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】音叉型振動子および音叉型振動子の調整方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/24 20060101AFI20240115BHJP
   G01C 19/574 20120101ALN20240115BHJP
【FI】
H03H9/24 B
G01C19/574
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020043288
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021145253
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「エネルギー・環境新技術先導プログラム/未踏チャレンジ2050/周波数変調・積分型MEMSジャイロスコープの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】塚本 貴城
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀治
(72)【発明者】
【氏名】チェン ジャンリン
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特公昭50-019026(JP,B1)
【文献】特開2016-099269(JP,A)
【文献】特開2007-333467(JP,A)
【文献】特開2014-157081(JP,A)
【文献】特公昭48-002961(JP,B1)
【文献】特公昭49-042188(JP,B1)
【文献】特開2006-238265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/165403(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/00-9/74
G01C 19/574
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1振動部および第2振動部と、
記第1振動部と前記第2振動部とを連結した連結部と、
前記連結部に接続されて、前記第1振動部および前記第2振動部の振動方向に沿って振動する調整用振動部とを有し、
前記第1振動部は、第1振動体と、支持体と前記第1振動体とに接続される第1弾性体とからなり、
前記第2振動部は、第2振動体と、支持体と前記第2振動体とに接続される第2弾性体とからなり、
前記第1弾性体のばね定数はk +ΔKであり、前記第2弾性体のばね定数はk -ΔK(k は、前記第1弾性体のばね定数と、前記第2弾性体のばね定数の平均値で、ΔKはばね定数の平均値からのずれ)であり、
前記連結部の前記第1振動部と前記第2振動部との中立点で、前記調整用振動部は、接続されており、
前記調整用振動部は、第3振動体と、一端を前記第3振動体に接続した第3弾性体と、前記連結部と前記第3弾性体とを接続する接続部とからなり、
前記調整用振動部は、前記第3弾性体に静電力を作用させ共振周波数を調整することを
特徴とする、前記第1振動部および前記第2振動部が互いに逆相で振動する音叉型振動子。
【請求項2】
前記静電力を作用させる電極が設けられていることを特徴とする、請求項1記載の音叉型振動子。
【請求項3】
MEMS振動子から成、請求項1または2記載の音叉型振動子。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか1項に記載の音叉型振動子の前記調整用振動部の共振周波数を前記静電力により調整することを特徴とする音叉型振動子の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音叉型振動子および音叉型振動子の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、音叉型振動子は、連結部で連結された2つの振動部を互いに逆相(Anti-Phase)で振動させて、その逆相の共振周波数を利用するものであり、角速度や回転角度を検知する振動式のジャイロスコープや、クロックモジュールの発振器等として使用されている(例えば、特許文献1乃至4参照)。また、近年では、MEMS(微小電気機械システム)技術により、極めて小さい音叉型振動子が製造されている(例えば、特許文献2乃至4参照)。
【0003】
また、従来の音叉型振動子は、2つの振動部が逆相で振動する際の共振周波数を調整するために、各振動部の振動体の大きさや密度、振動体を振動可能に支持する弾性体の剛性などを調節したり(例えば、特許文献2参照)、各振動部に静電力を作用させたりするようになっている(例えば、特許文献3または4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-283529号公報
【文献】特開2006-162584号公報
【文献】特開2013-253958号公報
【文献】特開2014-178195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1乃至4に記載のような従来の音叉型振動子では、各振動部の質量やばね定数が異なる場合には、逆相で振動する際の各振動部の振幅が等しくならない。この場合、各振動部の振動エネルギーが支持体に逃げてしまい、エネルギー損失(アンカーロス)が大きくなるため、振動の状態を表すQ値が小さくなってしまう。このため、例えば、特許文献1乃至4に記載のように、共振周波数を調整するために、各振動部の弾性体の剛性などを調節したり、各振動部に静電力を作用させたりする方法がある。また、一部の弾性体の剛性のみを調整することで、振動体のアンバランスを調整することにより、Q値を変更させる方法もあるが、この方法でQ値を調整すると、共振周波数も同時に変化してしまう。このように、従来の音叉型振動子では、共振周波数とQ値とを互いに独立に調整することは困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、逆相の共振周波数にほとんど影響を与えることなく、Q値を調整することができる音叉型振動子および音叉型振動子の調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者等は、音叉型振動子の動作原理に基づいて考察を行った。すなわち、一般的な音叉型振動子は、図1に示す構成で表すことができる。図1(a)に示すように、音叉型振動子は、第1振動部および第2振動部を、弾性部材から成る連結部(ばね定数:k)で接続して成っている。また、第1振動部は、第1振動体(質量:m)と、第1振動体を振動可能に支持体に接続した第1弾性体(ばね定数:k)とから成っている。また、第2振動部は、第2振動体(質量:m)と、第2振動体を振動可能に支持体に接続した第2弾性体(ばね定数:k)とから成っている。
【0008】
第1振動部と第2振動部とが逆相(Anti-Phase)で振動する場合、図1(b)および(c)に示すように、第1振動体の質量と第2振動体の質量とが等しく、第1弾性体のばね定数と第2弾性体のばね定数とが等しい(k=k)ときには、第1振動体の振幅と第2振動体の振幅とは等しくなる。また、このとき、第1振動部と第2振動部との中立点は、振動によって移動しない。
【0009】
しかし、実際には、加工誤差等により、第1振動体の質量と第2振動体の質量とが異なったり、第1弾性体のばね定数と第2弾性体のばね定数とが異なったりすることが多い。例えば、一般的な集中質量型のMEMS振動子では、振動体の大きさが弾性体に比べて大きいため、加工誤差は振動体よりも弾性体の方に大きく影響する。
【0010】
そこで、第1弾性体のばね定数と第2弾性体のばね定数とが異なる場合について考える。図1(d)に示すように、第1弾性体のばね定数の方が、第2弾性体のばね定数よりも大きい(第1弾性体の方が、第2弾性体よりも堅い)ものとし、第1弾性体のばね定数と第2弾性体のばね定数の平均値をkとすると、第1弾性体のばね定数kは、k=k+ΔK、第2弾性体のばね定数kは、k=k-ΔKと表すことができる。ここで、ΔKは、ばね定数の平均値kからのずれの量である。
【0011】
このとき、第1振動部と第2振動部とが逆相で振動したときの共振周波数ωは、(1)式で表される。また、第1振動体および第2振動体の振幅は、(2)式の振幅ベクトルX[第1振動体の振幅、第2振動体の振幅]で表される。
【0012】
【数1】
【0013】
(2)式から、第1振動体の振幅の方が、第2振動体の振幅よりも大きくなる。このため、第1振動部および第2振動部がそれぞれ支持体に及ぼす反力は、第1振動部の方が第2振動部よりも大きくなり、反力が非平衡となる。これにより、アンカーロスが発生し、ばね定数が等しい場合(図1(b)および(c)の場合)と比べて、Q値が小さくなってしまう。また、このとき、第1振動部と第2振動部との中立点は、堅い方の振動体(ΔK>0の場合は、第1振動体)と同位相で振動する。
【0014】
以上の音叉型振動子の動作原理に基づいて考察した結果、本発明者等は本発明に至った。すなわち、本発明に係る音叉型振動子は、第1振動部および第2振動部と、記第1振動部と前記第2振動部とを連結した連結部と、前記連結部に接続されて、前記第1振動部および前記第2振動部の振動方向に沿って振動する調整用振動部とを有し、前記第1振動部は、第1振動体と、支持体と前記第1振動体とに接続される第1弾性体とからなり、前記第2振動部は、第2振動体と、支持体と前記第2振動体とに接続される第2弾性体とからなり、前記第1弾性体のばね定数はk +ΔKであり、前記第2弾性体のばね定数はk -ΔK(k は、前記第1弾性体のばね定数と、前記第2弾性体のばね定数の平均値で、ΔKはばね定数の平均値からのずれ)であり、前記連結部の前記第1振動部と前記第2振動部との中立点で、前記調整用振動部は、接続されており、前記調整用振動部は、第3振動体と、一端を前記第3振動体に接続した第3弾性体と、前記連結部と前記第3弾性体とを接続する接続部とからなり、前記調整用振動部は、前記第3弾性体に静電力を作用させ共振周波数を調整することを特徴とする、前記第1振動部および前記第2振動部が互いに逆相で振動する音叉型振動子である。
【0015】
本発明に係る音叉型振動子は、第1振動部と第2振動部とを逆相で振動させたとき、第1振動部の振動に係る質量と第2振動部の振動に係る質量とを揃えても、第1振動部のばね定数と第2振動部のばね定数とが異なるときには、例えば(2)式に示すように、第1振動部の振動の振幅と第2振動部の振動の振幅とが等しくならない。このとき、連結部に接続された調整用振動部が、第1振動部および第2振動部の振動方向に沿って振動可能に設けられているため、第1振動部と第2振動部のアンバランスにより、調整用振動部の振動が励振される。このように、調整用振動部が、第1振動部と第2振動部と連成することにより、振動モードの形(第1振動部と第2振動部の振幅)を変動させることができる。これにより、振幅のアンバランスを小さくすることができ、アンカーロスを低減して、Q値の低下を抑えることができる。
【0016】
また、本発明に係る音叉型振動子は、調整用振動部の共振周波数を調整することにより、調整用振動部と第1振動部および第2振動部との連成の度合いを調整することができ、振動モード(第1振動部と第2振動部の振幅)を自由に調整することができる。これにより、第1振動部と第2振動部の振幅の違いによる振動エネルギーの吸収量を調整することができ、Q値を自由に調整することができる。このとき、第1振動部の振動に係る質量およびばね定数、ならびに、第2振動部の振動に係る質量およびばね定数を変化させないため、逆相の共振周波数にほとんど影響を与えることなく、Q値のみを調整することができる。
【0017】
本発明に係る音叉型振動子は、例えば、ジャイロスコープに利用することができる。ジャイロスコープでは、2つの直交した振動モードの共振周波数およびQ値を一致させることが必要である。そのためには、それぞれの軸の共振周波数およびQ値を独立に調整できることが望ましい。本発明に係る音叉型振動子では、ジャイロスコープのX方向の逆相の共振周波数とY方向の逆相の共振周波数とを揃えた状態で、さらに、それらの共振周波数に影響を与えることなく、X方向の振動のQ値とY方向の振動のQ値を揃えることができる。
【0018】
本発明に係る音叉型振動子で、前記調整用振動部は、前記連結部の前記第1振動部と前記第2振動部との中立点で、前記連結部に接続されているため、第1振動部と第2振動部の振幅の違いによる振動のエネルギーを最も良く吸収することができ、その振幅の違いをゼロにすることができる。また、Q値の調整幅を最も大きくすることができる。
【0019】
本発明に係る音叉型振動子は、MEMS振動子から成り、静電力により前記調整用振動部の共振周波数を調整可能に構成されていてもよい。この場合、極めて小さく構成することができる。
【0020】
本発明に係る音叉型振動子の調整方法は、本発明に係る音叉型振動子の前記調整用振動部の共振周波数を、前記静電力により調整することを特徴とする。本発明に係る音叉型振動子の調整方法によれば、逆相の共振周波数にほとんど影響を与えることなく、Q値のみを自由に調整することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、逆相の共振周波数にほとんど影響を与えることなく、Q値を調整することができる音叉型振動子および音叉型振動子の調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一般的な音叉型振動子の構成を示す(a)原理図、(b)および(c)逆相で振動したときの様子を示す説明図、(d)両端のばね定数が異なる場合の、逆相で振動したときの様子を示す説明図である。
図2】本発明の実施の形態の音叉型振動子の構成を示す原理図である。
図3】本発明の実施の形態の音叉型振動子の、MEMS振動子から成る一例を示す平面図である。
図4図2に示す音叉型振動子の、振動の4つの固有モードの(a)モード1、(b)モード2、(c)モード3、(d)モード4の振動の状態を示す説明図である。
図5図2に示す音叉型振動子のシミュレーション結果の、第3弾性体のばね定数kの変化量に対する(a)モード3での各振動体の振幅x~xの大きさの変化、(b)第1振動体と第2振動体の振幅の比x/xの変化を示すグラフである。
図6図3に示す音叉型振動子のシミュレーション結果の、逆相の共振周波数ωmidと、調整用振動部の共振周波数ωinnerとの比(ωinner/ωmid)に対する、第1振動体の振幅と第2振動体の振幅との比(x/x)の変化、および、Q値の変化を示すグラフである。
図7図3に示す音叉型振動子のシミュレーション結果の、第3弾性体に静電力を作用させたときの印加電圧(「Inner electrode」に対応)、および、第1弾性体または第2弾性体に静電力を作用させたときの印加電圧(「Sense electrode」に対応)に対する、(a)逆相の共振周波数の変化、(b)Q値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面および実施例に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図2乃至図7は、本発明の実施の形態の音叉型振動子を示している。
図2に示すように、音叉型振動子10は、第1振動部11と第2振動部12と連結部13と調整用振動部14とを有している。
【0024】
第1振動部11は、第1振動体11a(質量:m)と、第1振動体11aを振動可能に支持体1に接続した第1弾性体11b(ばね定数:k+ΔK)とを有している。第2振動部12は、第2振動体12a(質量:m)と、第2振動体12aを振動可能に支持体1に接続した第2弾性体12b(ばね定数:k-ΔK)とを有している。ここで、第1振動体11aと第2振動体12aの質量は等しい。また、ばね定数の大きい方を第1弾性体11bとし、第1弾性体11bの方が第2弾性体12bよりも堅いものとしている。kは、第1弾性体11bのばね定数と第2弾性体12bのばね定数の平均値であり、ΔKは、ばね定数の平均値kからのずれの量である。
【0025】
連結部13は、第1振動部11と第2振動部12とを振動可能に連結している。連結部13は、弾性部材から成り、第1振動部11および第2振動部12が互いに逆相で振動するよう連結している。図2に示す具体的な一例では、連結部13は、全く同じ2つの弾性部材(ばね定数k)を接続して成っており、一方の弾性部材に第1振動部11の第1振動体11aが接続され、他方の弾性部材に第2振動部12の第2振動体12aが接続されている。
【0026】
調整用振動部14は、第3振動体14a(質量:m)と、一端を第3振動体14aに接続した第3弾性体14b(ばね定数:k)と、連結部13と第3弾性体14bとを接続した接続部14c(質量:m)とを有している。接続部14cは、連結部13の2つの弾性部材の接続位置(第1振動部11と第2振動部12との中立点)と、第3弾性体14bの他端とを接続している。調整用振動部14は、第3振動体14aが、第1振動体11aおよび第2振動体12aの振動方向に沿って振動可能に設けられている。また、調整用振動部14は、第3弾性体14bのばね定数を調整可能に構成されている。これにより、調整用振動部14は、自身の共振周波数を調整可能になっている。
【0027】
具体的な一例では、音叉型振動子10は、図3に示すように、MEMS技術により製造されたMEMS振動子から成っている。図3に示す音叉型振動子10は、SOIウエハを用いて製造可能である。音叉型振動子10は、フォトリソグラフィおよびエッチングにより、SOIウエハのデバイス層に、第1振動部11、第2振動部12、連結部13、調整用振動部14が形成され、ハンドル層に支持体1が形成されている。また、調整用振動部14の第3弾性体14bに静電力を作用させて、ばね定数を調整するための電極15が、デバイス層に形成されている。なお、図3中の薄い灰色の部分がデバイス層であり、黒い部分がエッチングにより除去された部分である。
【0028】
次に、作用について説明する。
音叉型振動子10は、第1弾性体11bのばね定数と第2弾性体12bのばね定数とが異なるため、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたとき、第1振動体11aの振幅と第2振動体12aの振幅とが等しくならない。このとき、連結部13に接続された調整用振動部14が、第1振動体11aおよび第2振動体12aの振動方向に沿って振動可能に設けられているため、第1振動体11aと第2振動体12aのアンバランスにより、調整用振動部14の振動が励振される。このように、調整用振動部14が、第1振動体11aと第2振動体12aと連成することにより、振動モードの形(第1振動体11aと第2振動体12aの振幅)を変動させることができる。これにより、振幅のアンバランスを小さくすることができ、アンカーロスを低減して、Q値の低下を抑えることができる。
【0029】
また、音叉型振動子10は、調整用振動部14の共振周波数を調整することにより、調整用振動部14と第1振動体11aおよび第2振動体12aとの連成の度合いを調整することができ、振動モード(第1振動体11aと第2振動体12aの振幅)を自由に調整することができる。これにより、第1振動体11aと第2振動体12aの振幅の違いによる振動エネルギーの吸収量を調整することができ、Q値を自由に調整することができる。このとき、第1振動体11aの質量および第1弾性体11bのばね定数、ならびに、第2振動体12aの質量および第2弾性体12bのばね定数を変化させないため、逆相の共振周波数にほとんど影響を与えることなく、Q値のみを調整することができる。
【実施例1】
【0030】
図2に示す音叉型振動子10のQ値を調整する効果を調べるために、数値計算を行った。まず、調整用振動部14の共振周波数が、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたときの共振周波数から十分に離れている場合について、数値計算を行った。第1振動体11aおよび第2振動体12aの質量m、第1弾性体11bのばね定数と第2弾性体12bのばね定数の平均値k、各ばね定数のずれの量ΔK、連結部13の各弾性部材のばね定数k、第3振動体14aの質量m、第3弾性体14bのばね定数k、および接続部14cの質量mを以下のように設定した。
【0031】
=1
=0.01
=0.0001
=1
=2
=0.05
ΔK=0.01
【0032】
仮に、ΔK=0とした場合には、全ての振動体が同じ方向に移動する同位相(In-phase)の共振周波数f1は、1(rad/s)、逆相の共振周波数f2は、1.7321(rad/s)、第3振動体14aの共振周波数f3は、2.2361(rad/s)、接続部14cの共振周波数f4は、201.25(rad/s)となる。ΔK=0.01の場合も同様に、図4(a)~(d)に示すような4つの固有モードがあらわれ、それぞれのモードの各部の振幅は、以下のようになる。ここで、第1振動体11aの振幅をx、第2振動体12aの振幅をx、第3振動体14aの振幅をx、接続部14cの振幅をxとする。
【0033】
【数2】
【0034】
モード1では、共振周波数が201.25(rad/s)となり、ほぼ接続部14cのみが振動している。モード2では、共振周波数が1.0(rad/s)となり、全ての振動体がほぼ平行に移動しており、同位相モードとなっている。モード3では、共振周波数が1.7321(rad/s)となり、第1振動体11aと第2振動体12aとが逆方向に振動しており、逆相モードとなっている。この逆相モードでは、第1振動体11aと第2振動体12aの振幅の大きさは異なっており、アンカーロスが発生していると考えられる。モード4では、共振周波数が2.2292(rad/s)となり、上記のモード3の共振周波数(1.7321(rad/s)と十分離れている。このため、モード3とモード4とは連成せず、ほぼ第3振動体14aのみが振動している。
【0035】
次に、調整用振動部14の共振周波数を、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたときの共振周波数に近づけた場合について、数値計算を行った。各定数は、以下のように設定した(kのみ変更している)。
【0036】
=1
=0.01
=0.0001
=1
=2
=0.03023
ΔK=0.01
【0037】
仮に、ΔK=0とした場合には、同位相(In-phase)の共振周波数f1は、1(rad/s)、逆相の共振周波数f2は、1.732(rad/s)、第3振動体14aの共振周波数f3は、1.739(rad/s)、接続部14cの共振周波数f4は、200.75(rad/s)となる。各モードの各部の振幅は、以下のようになる。
【0038】
【数3】
【0039】
モード1では、共振周波数が200.76(rad/s)となり、ほぼ接続部14cのみが振動している。モード2では、共振周波数が0.99624(rad/s)となり、全ての振動体がほぼ平行に移動しており、同位相モードとなっている。モード3では、共振周波数が1.7321(rad/s)となり、第1振動体11aと第2振動体12aとが逆方向に振動しており、逆相モードとなっている。この逆相モードでは、第1振動体11aと第2振動体12aの振幅の大きさが近づくと共に、第3振動体14aの振幅も大きくなっている。これは、調整振動部14(第3振動体14a)が,主振動部(第1振動体11aおよび第2振動体12a)と連成して振動していることを意味しており、この連成により主振動部の振幅が変化したことを意味している。この結果、アンバランスが低減し、アンカーロスが低減する。モード4では、共振周波数が1.7386(rad/s)となり、ほぼ第3振動体14aのみが振動している。
【0040】
次に、第3弾性体14bのばね定数kのみを変化させたときの、モード3での各振動体の振幅x~xの大きさを求め、図5(a)に示す。また、第1振動体11aと第2振動体12aの振幅の比x/xを求め、図5(b)に示す。なお、図5(a)および(b)では、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたときの共振周波数と、調整用振動部14の共振周波数とが等しいときのkの変化量を0%とした。
【0041】
図5(a)に示すように、xとxが逆符号であり、第1振動部11と第2振動部12とが逆相で振動していることが確認された。また、接続部14cの振幅xは、第3弾性体14bのばね定数kを変化させても、ほぼゼロで変化しないことが確認された。また、第3振動体14aの振動は、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたときの共振周波数と、調整用振動部14の振動の共振周波数との大小関係により、位相が反転することが確認された。また、図5(b)に示すように、第3弾性体14bのばね定数kを変化させて調整用振動部14の共振周波数を変化させることにより、第1振動体11aと第2振動体12aの振幅が等しい場合を含めて、第1振動体11aと第2振動体12aの振幅比を変化させることができることが確認された。
【実施例2】
【0042】
図3に示す音叉型振動子10を用いて、有限要素法(FEM)によりシミュレーションを行った。シミュレーションでは、調整用振動部14の共振周波数ωinnerを変化させたときの第1振動体11aおよび第2振動体12aの振幅、およびQ値を求めた。シミュレーションにより、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたときの中心共振周波数ωmidと、調整用振動部14の共振周波数ωinnerとの比(ωinner/ωmid)に対する、第1振動体11aの振幅と第2振動体12aの振幅との比(x/x)の変化、および、Q値の変化を求め、図6に示す。なお、第1弾性体11bのばね定数kと、第2弾性体12bのばね定数kとの比k/kは、1.23である。
【0043】
図6に示すように、調整用振動部14の共振周波数ωinnerを調整することにより、Q値を調整できることが確認された。また、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたときのアンカーロスがない場合には、第1振動体11aに加わる反力と第2振動体12aに加わる反力とが等しくなって相殺されるため、k×x=k×xとなる。k/k=1.23であるため、x/x=1.23のとき、Q値が最大値になると想定される。図6に示すように、Q値は、x/x=1.21のとき最大値を示すことが確認され、想定に非常に近い結果が得られた。この結果から、調整用振動部14の共振周波数ωinnerを調整することにより、x/xの値を変化させて、ばね定数の違いによるアンカーロスを低減することができるといえる。
【0044】
次に、実際にMEMS振動子を作製し、Q値の調整を行った。調整用振動部14の第3弾性体14bのばね定数を変化させるために、第3弾性体14bに静電力を作用させた。このときの、その印加電圧に対する、第1振動部11と第2振動部12とを逆相で振動させたときの共振周波数の変化、および、Q値の変化を求め、それぞれ図7(a)および(b)に示す(各図中の「Inner electrode」)。なお、図7(a)および(b)には、第1弾性体11bまたは第2弾性体12bのばね定数を直接変化させるために、第1弾性体11bまたは第2弾性体12bに静電力を作用させたときの、その印加電圧に対する、逆相の共振周波数の変化、および、Q値の変化も示す(各図中の「Sense electrode」)。
【0045】
図7(a)に示すように、第1弾性体11bまたは第2弾性体12bのばね定数を直接変化させると、逆相の共振周波数が大きく変化するのに対し、第3弾性体14bのばね定数を変化させても、逆相の共振周波数はほとんど変化しないことが確認された。また、図7(b)に示すように、第1弾性体11bまたは第2弾性体12bのばね定数を直接変化させる場合に比べて、第3弾性体14bのばね定数を変化させる方が、Q値の変化率が大きいことが確認された。これらの結果から、第3弾性体14bのばね定数を変化させることにより、調整用振動部14の共振周波数を変化させ、逆相の共振周波数にほとんど影響を与えることなく、Q値を調整することができるといえる。
【符号の説明】
【0046】
1 支持体
10 音叉型振動子
11 第1振動部
11a 第1振動体
11b 第1弾性体
12 第2振動部
12a 第2振動体
12b 第2弾性体
13 連結部
14 調整用振動部
14a 第3振動体
14b 第3弾性体
14c 接続部
15 電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7