(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】洗浄機
(51)【国際特許分類】
B08B 3/08 20060101AFI20240115BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20240115BHJP
B08B 3/10 20060101ALI20240115BHJP
C23G 5/04 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
B08B3/08 Z
B08B3/04 Z
B08B3/10 Z
C23G5/04
(21)【出願番号】P 2020127614
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】390008431
【氏名又は名称】高砂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100195545
【氏名又は名称】鮎沢 輝万
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】川崎 定彦
(72)【発明者】
【氏名】堀 智昭
【審査官】粟倉 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-206100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/00-3/14
C23G 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液及びその蒸気を収容する蒸気発生室と、
ワークが配置され、連通部を介して前記蒸気発生室から前記蒸気が導入される洗浄室と、
前記洗浄室を減圧する減圧手段と、
前記連通部を開閉する開閉手段と、
前記洗浄室の気圧又は前記蒸気発生室の気圧の少なくともいずれか一方を検知する検知手段と、
前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記検知手段の検知結果に基づいて前記開閉手段の開度を制御する制御手段と、
前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記洗浄室に前記洗浄液を供給する供給手段と、を備
え、
前記供給手段は、前記開閉手段が全閉の状態で前記洗浄室への前記洗浄液の供給を開始する、
ことを特徴とする洗浄機。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄機であって、
前記検知手段は、
前記洗浄室の気圧を検知する第一の検知手段と、
前記蒸気発生室の気圧を検知する第二の検知手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記第一の検知手段及び前記第二の検知手段の検知結果に基づいて前記開閉手段の開度を制御する、
ことを特徴とする洗浄機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の洗浄機であって、
前記制御手段は、前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、段階的に前記開閉手段の開度を増加させる、
ことを特徴とする洗浄機。
【請求項4】
請求項2に記載の洗浄機であって、
前記制御手段は、前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記開閉手段の開度を全閉と全開の中間の開度に制御した後、前記第一の検知手段及び前記第二の検知手段の検知結果に基づいて、前記開閉手段の開度を維持するか又は増加する、
ことを特徴とする洗浄機。
【請求項5】
請求項2に記載の洗浄機であって、
前記制御手段は、
前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、段階的に前記開閉手段の開度を増加させ、かつ、
所定時間毎に前記第一の検知手段及び前記第二の検知手段の検知結果を取得し、前記開閉手段の開度を維持するか又は増加する、
ことを特徴とする洗浄機。
【請求項6】
請求項2に記載の洗浄機であって、
前記制御手段は、
前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記第一の検知手段及び前記第二の検知手段の検知結果に基づく前記洗浄室と前記蒸気発生室との差圧と、予め定めた閾値とを比較して前記開閉手段の開度を制御する、
ことを特徴とする洗浄機。
【請求項7】
請求項1乃至請求項
6のいずれか一項に記載の洗浄機であって、
前記開閉手段は、
弁体と、
前記弁体を変位させる駆動機構と、を含み、
前記駆動機構はエアハイドロ機構を備える、
ことを特徴とする洗浄機。
【請求項8】
洗浄液及びその蒸気を収容する蒸気発生室と、
ワークが配置され、第一の連通部及び第二の連通部を介して前記蒸気発生室から前記蒸気が導入される洗浄室と、
前記洗浄室を減圧する減圧手段と、
前記第一の連通部を開閉する第一の開閉手段と、
前記第二の連通部を開閉する第二の開閉手段と、
前記洗浄室の気圧又は前記蒸気発生室の気圧の少なくともいずれか一方を検知する検知手段と、
前記第一の開閉手段と前記第二の開閉手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記検知手段の検知結果に基づいて前記第一の開閉手段の開度を制御し、かつ、前記第一の開閉手段の開度が所定の開度に達した後に、前記第二の開閉手段の開放を開始する、
ことを特徴とする洗浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワークを蒸気洗浄する洗浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
防錆油や焼入れ油が付着したワークを洗浄する方式として、蒸気洗浄が知られている。蒸気洗浄では、洗浄液の飽和蒸気中にワークを暴露させ、蒸気よりも低温のワーク表面にて蒸気を凝縮液化させることで汚れを洗い流す方法である。蒸気洗浄を行う洗浄機では、洗浄室と蒸気発生室がそれぞれ独立した密閉構造を有し、洗浄室を減圧して洗浄室と蒸気発生室との圧力差により、蒸気発生室で発生させた洗浄液の蒸気を洗浄室へ導入する(例えば特許文献1)。蒸気発生室から洗浄液の蒸気が洗浄室に移動することにより蒸気発生室における洗浄液の蒸気の量が一時的に低下する。しかし、蒸気発生室の圧力の低下によって、蒸気発生室内の洗浄液の飽和蒸気曲線に準じた蒸発により蒸気が発生し、洗浄室へ継続的に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
洗浄室と蒸気発生室との間の圧力差が大きい状態で、洗浄液の蒸気の移動を開始すると、蒸気発生室の気圧が急激に低下する結果、蒸気発生室の洗浄液が瞬時に沸騰(突沸)し、巻き上がった洗浄液のミストが洗浄室に進入する場合がある。一般に洗浄液は繰り返し利用されるため、過去の洗浄でワークから洗い流された防錆油や焼入れ油等が混入している場合がある。こうした不純物が含まれている洗浄液が洗浄室に進入するとワークの洗浄品質が低下してしまう。
【0005】
その対策として、洗浄室と蒸気発生室との圧力差をできるだけ抑えるために、洗浄室の減圧を蒸気発生室に近い圧力の程度に留めることが考えられる。しかし、この対策では、非凝縮性の気体である空気が洗浄室内に残留して洗浄時間の遅延や洗浄力が落ちるなどの欠点がある。具体的には、洗浄室に非凝縮性の気体が残留していると、洗浄室内に洗浄液の蒸気を十分に充満させるのに時間がかかり、洗浄時間が長くなる。また、ワークの一部に空気溜まりが生じて洗浄液の蒸気の進入を阻害し、汚れが残る結果、洗浄品質を低下させる。更に、非凝縮性気体が保有する熱量によりワークが温まり、特に熱容量の小さい薄物等のワークでは洗浄液の蒸気の凝縮量が減って洗浄品質を低下させる。
【0006】
本発明の目的は、洗浄室と蒸気発生室の間に大きな圧力差があっても、蒸気発生室の洗浄液の突沸を抑制できる洗浄機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、例えば、
洗浄液及びその蒸気を収容する蒸気発生室と、
ワークが配置され、連通部を介して前記蒸気発生室から前記蒸気が導入される洗浄室と、
前記洗浄室を減圧する減圧手段と、
前記連通部を開閉する開閉手段と、
前記洗浄室の気圧又は前記蒸気発生室の気圧の少なくともいずれか一方を検知する第一の検知手段と、
前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記第一の検知手段の検知結果に基づいて前記開閉手段の開度を制御する制御手段と、
前記蒸気発生室から前記減圧手段により減圧された前記洗浄室へ前記蒸気を導入する際、前記洗浄室に前記洗浄液を供給する供給手段と、を備え、
前記供給手段は、前記開閉手段が全閉の状態で前記洗浄室への前記洗浄液の供給を開始する、
ことを特徴とする洗浄機が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、洗浄室と蒸気発生室の間に大きな圧力差があっても、蒸気発生室の洗浄液の突沸を抑制できる洗浄機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】制御ユニットの処理例を示すフローチャート。
【
図4】
図3の洗浄機における制御ユニットの処理例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<第一実施形態>
<洗浄機の構成>
図1は本発明の一実施形態に係る洗浄機1の説明図である。洗浄機1は減圧下においてワークWに付着した油脂を脱脂する真空脱脂洗浄機である。洗浄機1は、例えば、焼入れ炉と焼き戻し炉(いずれも不図示)の間に配置され、焼入れ後のワークWから冷却油(焼入れ油)を脱脂洗浄するために用いられる。
【0012】
洗浄機1は、蒸気発生室2と、洗浄室3と、減圧ユニット5と、開閉ユニット6と、供給ユニット11と、制御ユニット12とを備える。蒸気発生室2は洗浄室3を囲むように形成された気密室であり、洗浄液SVを収容する下部の液相空間と、洗浄液SVの蒸気を収容する中部及び上部の気相空間とを含む。蒸気発生室2は、気相空間において連通部31を介して洗浄室3と連通している。本実施形態の場合、連通部31は洗浄室3の天壁部に形成された開口部である。連通部31は、蒸気発生室2から洗浄室3へ洗浄液SVの蒸気を導入するために設けられ、導入時以外は開閉ユニット6により閉鎖されている。
【0013】
蒸気発生室2にはヒータ10と温度センサ9が設けられている。ヒータ10は洗浄液SVを加熱し、温度センサ9は洗浄液SVの液温を計測する。洗浄液SVは本実施形態の場合、炭化水素系溶剤であり、ヒータ10は例えば洗浄液SVを120℃まで加熱する。ヒータ10によって加熱された洗浄液SVは蒸気発生室2が洗浄液SVの飽和蒸気圧に至るまで蒸発し、蒸気発生室2に洗浄液SVの蒸気が充満する。蒸気発生室2には、また、気相空間における気圧を検知する検知ユニット8が設けられている。検知ユニット8は、例えば、ピラニー真空計、ダイアフラム型真空計などの圧力センサである。
【0014】
洗浄室3は、洗浄対象であるワークWを収容する気密室であり、ワークWの搬入出を行う開口部30を有している。開口部30は開閉扉4により開閉され、開閉扉4の閉鎖により洗浄室3が気密状態となる。洗浄室3には、洗浄室3の気圧を検知する検知ユニット7が設けられている。検知ユニット7は、例えば、ピラニー真空計、ダイアフラム型真空計などの圧力センサである。
【0015】
なお、ワークWの洗浄により洗浄室3に残留する洗浄液SV及びその蒸気は不図示の回収装置によって回収・再生され、蒸気発生室2に戻すことができる。
【0016】
減圧ユニット5は洗浄室3を減圧する機構である。本実施形態の減圧ユニット5は、洗浄室3と配管を介して連通した真空ポンプ50と、洗浄室3と真空ポンプ50との間の配管の途中に設けられた制御弁51とを備える。真空ポンプ50の駆動により洗浄室3内を排気し、減圧することができる。制御弁51を開弁すると洗浄室3と真空ポンプ50とが連通状態となり、閉弁すると遮断状態となる。洗浄室3の減圧に際して、真空ポンプ50は事前に作動させておき、制御弁51を閉弁状態から開弁状態へ切り替えることで、減圧を開始することができる。
【0017】
開閉ユニット6は連通部31を開閉する機構(ダンパ)である。開閉ユニット6は、弁体60と、弁体60を変位させる駆動機構61とを備える。弁体60は連通部31を覆う大きさを有し、連通部31を気密に閉鎖する全閉位置P1と、連通部31を最大に開放する全開位置P2との間で駆動機構61によって変位される。本実施形態の場合、弁体60は全閉位置P1と全開位置P2との間の中間停止位置P3に停止可能である。中間停止位置P3は全開位置P2よりも開度が小さい位置であり、蒸気発生室2から連通部31を通過して洗浄室3へ導入される洗浄液SVの蒸気の流量を減らすことができる。中間停止位置P3は、一つの位置であってもよいし、複数の位置であってもよい。中間停止位置P3が複数設定されることで、蒸気発生室2から連通部31を通過して洗浄室3へ導入される洗浄液SVの蒸気の流量を段階的に調整することができる。
【0018】
駆動機構61は、弁体60を全閉位置P1と全開位置P2との間で往復する油圧シリンダ613を備える。油圧シリンダ613にはエアハイドロ機構612を介して作動油圧が供給される。エアハイドロ機構612には空気の供給源610から制御弁611を介して空気が供給される。供給源610は例えばコンプレッサを含み、制御弁611は空気の供給方向を制御可能な電磁弁である。エアハイドロ機構612は、供給された空気圧に比例した作動油圧を発生して油圧シリンダ613に供給する。
【0019】
本実施形態では、駆動機構61として流体圧回路を用いたが、電動モータを駆動源とした電動シリンダ等の電動機構であってもよい。
【0020】
供給ユニット11は、洗浄液SVを液体のまま、洗浄室3に直接供給する機構である。供給ユニット11による洗浄液SVの供給は、ワークWの洗浄よりも洗浄室3の気圧調整にある。減圧下の洗浄室3に洗浄液SVを供給すると洗浄液SVが洗浄室3内で気化する。これにより、空気(非凝縮性気体)を洗浄室3に導入することなく、洗浄室3の気圧を上げることができ、洗浄室3と蒸気発生室2との差圧を減少することが可能である。
【0021】
供給ユニット11は、蒸気発生室2の外部に設けられた再生槽110を備える。再生槽110は制御弁111を介して蒸気発生室2の気相空間と連通しており、制御弁111の開弁により気相空間から洗浄液SVの蒸気が再生槽110に導入される。再生槽110にはクーラ113が設けられており、洗浄液SVの蒸気はクーラ113に冷却されて凝縮し、凝縮したクリーンな洗浄液SVは再生槽110に貯留される。
【0022】
再生槽110は、また、ノズル114及び制御弁112を介して洗浄室3と連通しており、制御弁112の開弁により洗浄液SVがノズル114から洗浄室3に導入可能となっている。ノズル114の噴射方向は、ワークWに指向していてもよく、これにより洗浄室3と蒸気発生室2との差圧の減少だけでなく、ワークWに洗浄液SVを吹き付けてワークWの洗浄効果を高めることもできる。
【0023】
再生槽110から洗浄室3への洗浄液SVの供給は、洗浄室3の負圧を利用した洗浄室3と再生槽110との差圧によるものであってもよいし、洗浄液SVを洗浄室3へ圧送するポンプを用いたものであってもよい。なお、本実施形態の供給ユニット11は、蒸気発生室2から洗浄液SVの蒸気を取り入れ、凝縮して洗浄室3に供給する構成であるが、蒸気発生室2とは別に洗浄液SVを貯蔵した構成であってもよい。この構成の場合、蒸気発生室2と再生槽110とを連通させる構成(制御弁111と配管、クーラ113等)は不要である。
【0024】
制御ユニット12は洗浄機1を制御する。制御ユニット12は、処理部120と記憶部121と入出力インタフェース(I/O)122とを含む。処理部120はCPUに代表されるプロセッサであり、記憶部121に記憶されたプログラムを実行する。記憶部121は、ROM、RAM等の記憶デバイスであり、処理部120が実行するプログラムの他、制御に必要な情報(後述する差圧の閾値等)を記憶する。I/O122は処理部120と外部デバイスとの間で信号の送受信を行う。I/O122には、圧力センサ7及び8、温度センサ9等の各センサの検知結果である信号が入力され、処理部120がこれを取得することができる。また、処理部120はI/O122を介して、減圧ユニット5、開閉ユニット6、供給ユニット11等の各アクチュエータに制御信号を出力し、その駆動を行うことができる。
【0025】
<洗浄動作>
洗浄機1による洗浄動作について説明する。洗浄前には、弁体60が全閉位置P1に位置している。ヒータ10の駆動によって洗浄液SVが加熱され、蒸気発生室2には洗浄液SVの蒸気が充満している。蒸気発生室2は、大気圧よりも低い状態(例えば10kPa以下の状態)で非凝縮性気体が無い状態に維持されている。また、再生槽110には洗浄液SVが貯留されており、制御弁111及び112はいずれも閉弁されている。洗浄対象であるワークWは開口部30を介して洗浄室3に搬入される。その後、開閉扉4が閉鎖されて洗浄室3が気密状態となる。この状態で、洗浄室3に洗浄液SVの蒸気を導入する処理が行われる。
図2は蒸気導入時における処理部120の制御内容を示すフローチャートである。
【0026】
S1で減圧ユニット5によって洗浄室3の減圧を開始し、洗浄室3の気圧を下げると共にワークWの搬入時に洗浄室3に進入した非凝縮性気体(空気)を洗浄室3外へ排除する。S2で圧力センサ7の検知結果を取得し、洗浄室3の気圧が所定気圧以下に減圧されたか否かを判定する。所定気圧は例えば300Paである。洗浄室3の気圧が所定気圧以下に減圧されたと判定した場合はS3へ進み、洗浄室3の減圧を終了する。減圧ユニット5の制御弁51を閉弁することで洗浄室3は所定気圧以下に維持される。
【0027】
この後、直ちに蒸気発生室2と洗浄室3とを連通部31を介して連通し、洗浄室3に蒸気を導入してもよいが、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧が大きいと蒸気発生室2の洗浄液SVが突沸する場合がある。
【0028】
そこで本実施形態では、S4で供給ユニット11から洗浄室3へ洗浄液SVを供給する。洗浄室3は蒸気発生室2に囲まれており、ヒータ10による蒸気発生室2の加熱の伝熱によって洗浄室3は蒸気発生室2と同程度に加熱されている。また、洗浄室3の減圧により洗浄室3での洗浄液SVの沸点が低下している。このため、供給ユニット11から洗浄室3へ洗浄液SVを供給すると、洗浄液SVは気化して蒸気となる。これにより洗浄室3の内圧を上昇させ、洗浄室3と蒸気発生室2との差圧を減少することができる。しかも、非凝縮性気体(空気)を洗浄室3に進入させることもない。供給ユニット11から洗浄室3への洗浄液SVの供給は、例えば、所定時間だけ行って終了する。
【0029】
S5では開閉ユニット6により連通部31を所定量開放する。具体的には駆動機構61を駆動して、弁体60を全閉位置P1側から全開位置P2側へ変位する。本制御例では弁体60の中間停止位置P3として複数の位置がある場合を想定している。S5では、例えば、油圧シリンダ613に対して、予め定めた油圧供給時間(例えば0.5秒)だけ油圧を供給することで、弁体60を開放方向へ所定量変位させる。
【0030】
本実施形態では、S5の処理が繰り返され得る。初回のS5の処理では連通部31を介して蒸気発生室2と洗浄室3とが連通し、相対的に低圧である洗浄室3へ蒸気発生室2から洗浄液SVの蒸気が導入される。二回目以降のS5の処理では、弁体60がより全開位置P2の側へ変位するので、蒸気の移動に対する弁体60の抵抗を減らすことができる。なお、初回のS5の処理が実行されると、並行して制御弁111を開弁してもよく、これにより蒸気発生室2の気相空間から洗浄液SVの蒸気が再生槽110に導入される。
【0031】
S6ではS5の処理から所定時間(例えば30秒)経過したか否かを判定する。所定時間が経過していた場合はS7へ進む。この所定時間の間、蒸気発生室2から洗浄室3へ洗浄液SVの蒸気が移動し、洗浄室3と蒸気発生室2の各圧力が変化することになる。
【0032】
S7では圧力センサ7及び8並びに温度センサ9の検知結果を取得する。S8では洗浄室3と蒸気発生室2との差圧と、閾値とを比較し、差圧が閾値以下か否かを判定する。差圧はS7で取得した圧力センサ7及び8の検知結果から演算される。
【0033】
閾値は、予め実験により設定される洗浄室3と蒸気発生室2との差圧の値であって、蒸気発生室2において洗浄液SVの突沸を生じさせない、或いは、突沸の発生が小さい最大の差圧であり、記憶部121に格納されている。洗浄液SVの飽和蒸気圧は洗浄液SVの温度に依存することから、閾値は洗浄液SVの温度と対応付けて記憶部121に格納される。S8の比較処理では、S7で取得した温度センサ9の検知結果に対応する閾値を記憶部121から読み出し、比較に使用する。
【0034】
S8で差圧が閾値以下であると判定した場合は開閉ユニット6の開度を増加すべくS9へ進み、差圧が閾値を超えると判定した場合は開閉ユニット6の現在の開度を維持しS6へ戻る。S9では弁体60の位置が全開位置P2か否か(開閉ユニット6の開度が最大であるか)を判定する。弁体60の位置が全開位置P2か否かは、油圧シリンダ613に備えられたストロークセンサ(不図示)の検知結果で判定してもよいし、S5の処理回数(開度の増加回数)で判定してもよい。
【0035】
S9で弁体60の位置が全開位置P2でないと判定した場合は、S5へ戻って同様の処理を繰り返す。S5の処理が実行されるたびに、開閉ユニット6の開度が段階的に増加され、弁体61が全閉位置P2に近づいていくことになる。S9で弁体60の位置が全開位置P2であると判定した場合は、処理を終了する。この後、ワークWの洗浄が終了したと判定されるまで、弁体60が全開位置P2に維持され、ワークWの蒸気洗浄が継続されることになる。
【0036】
以上の通り、本実施形態では、蒸気発生室2から洗浄室3へ洗浄液SVの蒸気を導入するにあたり、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧を監視しながら開閉ユニット6の開度を増加させることで蒸気発生室2の急激な気圧の低下を抑制し、蒸気発生室2で洗浄液SVが突沸してそのミストが洗浄室2へ流入することを防止することができる。洗浄液SVの突沸が発生しない様に制御することで、洗浄液SVの蒸気に不純物が混入されにくく、クリーンな蒸気でワークWを洗浄することができる。
【0037】
一例として、洗浄液SVの液温120℃における飽和蒸気圧が9000Paであり、また洗浄室3を減圧して、非凝縮性気体を十分に排除した時の圧力が300Paとした場合、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧は8700Paになる。弁体60を全閉位置P1から一気に全開位置P2へ変位させてしまうと、蒸気発生室2の蒸気が一気に洗浄室3へ移動して蒸気発生室2において洗浄液SVが突沸してしまう。しかし、本実施形態のように、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧を監視しながら開閉ユニット6の開度を増加させることで、蒸気発生室2における洗浄液SVの蒸発をコントロールすることができ、このような突沸を防止することができる。蒸気発生室2の急激な圧力低下を抑制できるので、洗浄室3から事前に非凝縮性気体(空気)を十分に排除することができる。
【0038】
また、本実施形態では、開閉ユニット6が全閉の状態で洗浄室3への洗浄液SVの供給を開始し、洗浄室3にその蒸気を発生させて内圧を増加させているため(S4)、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧を予め減少させておくことができ、蒸気発生室2における洗浄液SVの突沸を更に防止できる。
【0039】
洗浄室3に導入された洗浄液SVの蒸気は、ワークWよりも高温である。蒸気がワークWに触れると、相対的に低温のワークWが加熱される一方、相対的に高温の蒸気が冷却されて凝縮する。ワークWの洗浄初期においては、蒸気とワークWとの温度差が大きいため、蒸気の凝縮量が多くなる。一方、ワークWの洗浄が進むと、蒸気とワークWとの温度差が小さくなり、蒸気の凝縮量も少なくなる。言い換えると、洗浄室3における蒸気の凝縮量が多い洗浄初期段階では、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧が大きくなる傾向にあり、洗浄が進むにつれて差圧も小さくなる。本実施形態では、洗浄初期段階では開閉ユニット6の開度が小さいので、蒸気発生室2から洗浄室3への洗浄液SVの蒸気の移動を規制して蒸気発生室2の圧力低下を抑制し、その後、開閉ユニット6の開度が増加させていくことで蒸気発生室2から洗浄室3への洗浄液SVの蒸気の移動を促進することができる。
【0040】
<第二実施形態>
第一実施形態では、供給ユニット11による洗浄室3への洗浄液SVの供給を、弁体60の開放前に開始して終了した(S4)。しかし、洗浄室3への洗浄液SVの供給は、弁体60の開放前に開始して、開放開始後に終了してもよい。
【0041】
また、洗浄室3への洗浄液SVの供給を、弁体60の開放前に開始して終了した後、弁体60の開放開始後に、再び行ってもよく、再び行う場合、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧が予め定めた差圧を超えた場合であってもよい。
【0042】
また、洗浄室3への洗浄液SVの供給を、弁体60の開放前には行わず、開放開始後に行ってもよく、この場合、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧が予め定めた差圧を超えた場合に洗浄液SVの供給を行ってもよい。
【0043】
また、供給ユニット11を備えない構成も採用可能である。
【0044】
<第三実施形態>
第一実施形態では、弁体60の開放開始後、その開度を増加させるか維持する制御を例示したが、洗浄室3の気圧、蒸気発生室2の気圧、又は、これらの差圧に基づき、開度を減少させてもよい。また、第一実施形態では、弁体60の開度を所定時間毎に間欠的に増加したが(S5、S6)、経時的に連続的に増加してもよい。そして、洗浄室3の気圧、蒸気発生室2の気圧、又は、これらの差圧に基づき、開度増加の一時停止と再開とを行ってもよい。
【0045】
<第四実施形態>
第一実施形態では、連通部31と開閉ユニット6とを一組設けたが、複数組設けてもよい。
図3はその一例である洗浄機1Aの模式図である。以下、
図1の洗浄機1と異なる洗浄機1Aの構成について説明する。
【0046】
洗浄機1Aは、二つの連通部31A、31Bと、二つの開閉ユニット6A、6Bとを備える。開閉ユニット6Aは連通部31Aを開閉する機構であり、弁体60Aと弁体60Aを変位する駆動機構61Aとを備える。弁体60A及び駆動機構61Aの構成は、
図1の開閉ユニット6の弁体60A及び駆動機構61と同じである。
【0047】
開閉ユニット6Bは連通部31Bを開閉する機構であり、弁体60Bと弁体60Bを変位する駆動機構61Bとを備える。本実施形態の場合、連通部31Bの開口面積は連通部31Aの開口面積よりも大きく、より多くの蒸気が通過可能である。弁体60Bは連通部31Bを覆う大きさを有し、連通部31Bを気密に閉鎖する全閉位置P11と、連通部31Bを最大に開放する全開位置P12との間で駆動機構61Bによって変位される。
【0048】
本実施形態の場合、弁体60Bの停止位置は全閉位置P11と全開位置P12の二か所であり、中間停止位置はない。これにより駆動機構61Bの構成を駆動機構61Aよりも簡素化できる。しかし、弁体60Bも中間停止位置で停止するように構成することも可能である。
【0049】
駆動機構61Bは、弁体60Bを全閉位置P11と全開位置P12との間で往復するエアシリンダ615を備える。エアシリンダ615には、駆動機構61Aと共用される空気の供給源610から制御弁614を介して空気が供給される。制御弁614は空気の供給方向を制御可能な電磁弁である。本実施形態では、駆動機構61Bとして流体圧回路を用いたが、電動モータを駆動源とした電動シリンダ等の電動機構であってもよい。
【0050】
図4は蒸気導入時における処理部120の制御内容を示すフローチャートであり、
図2に代わる制御例を示している。S1~S9の処理は
図2の例と同じであるが、S5~S9の処理は開閉ユニット6Aに対する処理となる。S9で弁体60Aの位置が全開位置P2であると判定した場合は、S10へ進む。
【0051】
S10では駆動機構61Bを駆動して弁体60Bを全閉位置P11から全開位置P12まで変位させる。以上により処理が終了する。
【0052】
本実施形態では、開閉ユニット6Aにより連通部31Aを開放してから、開放ユニット6Bにより連通部31Bを開放する。開閉ユニット6Aによる連通部31Aの開放は蒸気発生室2と洗浄室3との差圧を監視しながら段階的に行うことで、第一実施形態で述べた通り、蒸気発生室2で洗浄液SVが突沸してそのミストが洗浄室2へ流入することを防止することができる。その後、開放ユニット6Bにより連通部31Bを開放することで、蒸気発生室2から洗浄室3への洗浄液SVの蒸気の移動を促進し、洗浄時間の短縮を図ることができる。特に、連通部31Bは連通部31Aよりも開口面積が大きいので、蒸気発生室2と洗浄室3との差圧が減少した状況下においても、蒸気発生室2から洗浄室3への洗浄液SVの蒸気の移動を促進することができる。
【0053】
なお、
図4の例では、開閉ユニット6Aの開度が全開に達した後に、開閉ユニット6Bの開放を開始したが(S9、S10)、開閉ユニット6Bの開放を開始するタイミングはこれに限られず、開閉ユニット6Aの開度が中間開度(弁体60Aが中間停止位置P3)の段階で開始してもよい。この場合、蒸気発生室2で洗浄液SVの突沸が生じないよう、開閉ユニット6Aの開度が全開に近い中間開度の段階で開閉ユニット6Bの開放を開始することができる。
【0054】
<第五実施形態>
上記各実施形態では、開閉ユニット6の開度の増加を、圧力センサ7及び8の双方の検知結果に基づき制御したが、圧力センサ7のみ、或いは、圧力センサ8のみの検知結果に基づき制御してもよい。言い換えると、洗浄室3の気圧に基づいて開閉ユニット6の開度の増加を制御してもよく、或いは、蒸気発生室2の気相空間の気圧に基づいて開閉ユニット6の開度の増加を制御してもよい。
【0055】
この制御としては、例えば、洗浄室3の気圧が閾値以上であることを条件に開閉ユニット6の開度を増加することができ、或いは、蒸気発生室2の気相空間の気圧が閾値以下であることを条件に開閉ユニット6の開度を増加することができる。閾値は開度毎に設定されてもよい。また、別の制御例として、洗浄室3の単位時間当たりの気圧上昇量が閾値以下であることを条件に開閉ユニット6の開度を増加することができ、或いは、蒸気発生室2の気相空間の単位時間当たりの気圧低下量が閾値以下であることを条件に開閉ユニット6の開度を増加することができる。この別の制御例の場合も、閾値は開度毎に設定されてもよい。また、蒸気発生室2の気相空間の気圧に基づいて開閉ユニット6の開度の増加を制御する場合、いずれの制御例の場合においても、閾値は蒸気発生室2の洗浄液SVの温度と対応づけて設定されてもよい。
【0056】
以上、発明の実施形態について説明したが、発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 洗浄機、2 蒸気発生室、3 洗浄室、5 減圧ユニット、6 開閉ユニット、12 制御ユニット、31 連通部