(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】不整脈源性右心室心筋症における電気的機能及び心臓機能並びに心構造を回復するための遺伝子療法戦略
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240115BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240115BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20240115BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240115BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240115BHJP
【FI】
A61K48/00
A61K38/17 ZNA
A61P9/06
A61P9/04
A61K35/76
(21)【出願番号】P 2020516572
(86)(22)【出願日】2018-09-20
(86)【国際出願番号】 US2018052057
(87)【国際公開番号】W WO2019060619
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-17
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505088684
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】シャィフ、ファラー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン、ジン
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-515997(JP,A)
【文献】特表2005-527482(JP,A)
【文献】特表2008-506467(JP,A)
【文献】Drug Delivery System, 2007, Vol.22-6, pp.643-650
【文献】JPN. J. ELECTROCARDIOLOGY, 2014, Vol.43, No.3, pp.245-263
【文献】Tohoku Journal of Experimental Medicine, 2011, Vol.223, No.1, pp.27-33
【文献】Human Molecular Genetics, 2014, Vol.23, No.5, pp.1134-1150
【文献】Molecular Medicine Reports, 2015, Vol.12, pp.7595-7602
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61K 38/00
A61K 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする対象において不整脈源性右心室心筋症(ARVC)を処置する方法のための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、心筋組織において活性状態であるプロモーターに動作可能に連結されているコネキシン43ポリペプチド配列をコードするアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含み、有効量の前記ベクターの
全身投与の結果として前記対象の心臓の少なくとも一部においてコネキシン43
ポリペプチドレベルが増加される、医薬組成物。
【請求項2】
前記コネキシン43ポリペプチド配列はP17302(CXA_1HUMAN、UniProtKB)の382アミノ酸の配列(配列番号1)又はその機能的断片を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記コネキシン43ポリペプチドをコードする前記配列が配列番号2である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記AAVベクターは、AAV1、AAV2、又はAAV9の血清型のグループ由来である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記プロモーターはCMV前初期エンハンサー/プロモーターである、請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記プロモーターは心臓特異的プロモーターである、請求項1から4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記プロモーターはトロポニンTプロモーターである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記プロモーターは、心臓ミオシン軽鎖プロモーター、心臓ミオシン重鎖プロモーター、又は延長因子1αプロモーター付属心筋αアクチンエンハンサーである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記対象は哺乳類である、請求項1から
8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記対象はヒトである、請求項
9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記有効量は、前記対象の体重1kg当たり約2×10
11から約2×10
14ウイルスゲノムである、請求項1から
10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記投与の結果として電気的心機能不全が減少される、請求項1から
11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記投与の結果として生理学的心機能不全が減少される、請求項1から
12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記投与の結果として心臓の構造的完全性が改善される、請求項1から
13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(政府支援)
今回の発明の主題はアメリカ国立衛生研究所から与えられた政府支援(Grant Number HL095780-01)により行われた。
【0002】
(関連出願)
本出願は2017年9月20日に出願の米国特許仮出願第62/560,989号の利益を主張し、その内容全体を参照により本明細書で援用する。
【0003】
(背景技術)
不整脈源性右心室心筋症(ARVC)は、若年者及びアスリートでみられる複合的で破滅的な遺伝性心疾患であり、その臨床兆候に関して広範なばらつきを示す。古典的なARVC臨床症状は、動悸、不整脈性失神(又は失神性めまい)、及び心室性不整脈による突然心臓死を、ひいては、原発性の電気的合併症の特徴を含む。しかし、ARVC患者は構造疾患を伴う臨床症状も示し、こうした構造疾患は、心室(右心室及び/又は左心室)の機能障害及び/又は心筋の線維脂肪置換に加えて、壁厚減少及び肥大からなる心筋リモデリングを、ひいては、原発性の構造的合併症の特徴を含む。この疾患の構造的性質は、ヒトでの遺伝的研究により患者の40%が心筋細胞結合の機械的/構造的完全性の維持に不可欠な接着斑の細胞間結合の成分(例えば、デスモプラキン(DSP)、プラコグロビン(JUP)、プラコフィリン2(PKP2)及び、デスモグレイン2(DSG2))をコードする遺伝子での変異を有することが示されていることから、ARVCが『接着斑の疾患』と呼ばれていることにも裏打ちされる。
【0004】
現在のところ、ARVCへの有効な処置法は存在しないし、処置法の無作為試験、スクリーニングレジメン、又はARVCに特異的な薬物も存在していなかった。結果として、ARVC患者についての処置戦略は、臨床的専門知識、後ろ向きレジストリ型研究の結果、及びモデル系での結果に基づき、主に電気生理学的障害の症状緩和を指向している。結果として、ARVC患者についての既存の処置法は、抗不整脈薬(ソタロール、アミオダロン(amniodarone)、及びβ遮断薬)の使用に頼っているが、こうした使用は、患者が抗不整脈処置に不応答性又は非忍容性になった場合に、植え込む型除細動器及び心臓カテーテル切除をはじめとするより侵襲的な行為へと移行する。しかし、現在の処置法は、初診から10-11年以内にARVC患者(若年疾患)の40%が死亡することから、疾患の管理での有効性は限定的であり、このことからARVC罹患患者についてより効果的な処置法(及び疾患の潜在的構造的性質を標的とする処置法)の開発の必要性が強調される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
対象において不整脈源性右室心筋症を処置する方法であって、コネキシン43ポリヌクレオチド配列を含む遺伝子療法コンストラクト又はベクターの有効量の投与であって、投与の結果として心臓の少なくとも一部においてコネキシン43レベルが増加される、投与を含む、又は、代わりに、当該投与から実質的になる、又は、さらには、当該投与からなる、方法が、本明細書で開示される。いくつかの実施形態では、前記コンストラクトはアデノウイルスコンストラクトである。いくつかの実施形態では、前記コンストラクトはアデノ随伴ウイルスコンストラクトである。
【0006】
さらなる実施形態は、心臓組織でのコネキシン43の発現を付与する能力を持つコンストラクト又はベクターを含む。いくつかの実施形態では、前記コンストラクト又はベクターはプラスミド又はウイルスベクター(アデノウイルスコンストラクトなど)である。いくつかの実施形態では、前記コンストラクト又はベクターはアデノ随伴ウイルスコンストラクトである。
【0007】
いくつかの実施形態では、前記コネキシン43ポリペプチド配列はP17302(CXA_1HUMAN、UniProtKB)の382アミノ酸の配列(配列番号1)である。コードするポリヌクレオチドは、P17302に関連するポリヌクレオチド配列、又は、同ポリペプチド配列をコードする任意の他の核酸配列を有してもよい。いくつかの実施形態では、コードする核酸配列はGenBank CR541660.1(配列番号2)である。
【0008】
いくつかの実施形態では、投与の結果として電気的及び構造的心機能不全が減少され、且つ、構造的完全性が改善される。いくつかの実施形態では、投与の結果として生理学的心機能不全が減少される。いくつかの実施形態では、投与の結果として生存が延長される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A-B】
図1A-1Gは、野生型レベルに近いコネキシン43タンパク質レベルの回復がARVC-プラコフィリン2変異体(PKP2
mut)hiPSC由来心筋細胞での生理学的異常をレスキューできることを表す。
図1A-1Bは、基礎レベル(
図1A)及びイソプロテレノール(ISO)(
図1B)刺激(これはストレス/運動に関連する条件を模倣する)下での、緑色蛍光タンパク質を持つアデノウイルス(Ad-GFP)又はコネキシン43を持つアデノウイルス(Ad43)に48時間にわたり感染させた、非ARVC-hiPSC由来心筋細胞及びARVC-PKP2
mut(ARVC-構造的(S)とも呼ぶ)-hiPSC由来心筋細胞についての、代表的な電場電位トレースを表す(トレース内のスパイクの周波数及びパターンに注目されたい)。スケールバーで、縦向きのものは電場電位の振幅(μV)、横向きのものは時間(1s)を表す。
【
図1C-D】
図1C-1Dは、基礎レベル(
図1C)及びISO刺激下(
図1D)での、Ad-GFP又はAd43による48時間の感染をともなう、非ARVC-hiPSC由来心筋細胞及びARVC-PKP2
mut(ARVC-S)-hiPSC由来心筋細胞についての、代表的なインピーダンス(収縮性)トレースを表す(トレース内のスパイクの周波数及び形状に注目されたい)。スケールバーで、縦方向のものは細胞指数(cell index)、横向きのものは時間(1s)を表す。
【
図1E】
図1Eは、Ad-GFP又はAd43による感染をともなう、非ARVC-iPSC由来心筋細胞及びARVC-PKP2
mut-iPSC由来心筋細胞の基礎レベルでの発火不規則性指数の定量結果を表す。標準誤差を伴う平均値を表し、**はp<0.01を表し、n=6(非ARVC)、n=7(ARVC-PKP2
mut)であり、2標本t検定を行った。
【
図1F】
図1Fは、Ad-GFP又はAd43による感染をともなう、非ARVC及びARVC-PKP2
mut(ARVC-S)のISO刺激下での発火不規則性指数の定量結果を表す。標準誤差を伴う平均値を表し、***はp<0.001を表し、n=6(非ARVC)、n=7(ARVC-PKP2
mut)であり、2標本t検定を行った。
【
図1G】
図1Gは、Ad-GFP又はAd43による48時間の感染をともなう、非ARVC、ARVC-PKP2
mut(ARVC-S)、及びARVC-デスモグレイン2変異体(DSG2
mut(ARVC-電気的(E)とも呼ぶ))のhiPSC由来心筋細胞における、コネキシン43(Cx43)、デスモプラキン(DPS)、デスモグレイン2(DSG2)、プラコグロビン(JUP)、及びプラコフィリン2(PKP2)の発現レベル、並びに、αミオシン重鎖(α-MHC)(心筋細胞ローディング対照)及びグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)(ローディング対照)の発現レベルを表す。
【
図2A-B】
図2A-2Bは、ARVC-S心筋細胞での生理学的異常がCx43過剰発現により用量依存的にレスキューされ得ることを表す。用量依存的Ad43感染後の非ARVC-hiPSC由来心筋細胞(
図2A)及びARVC-PKP2
mut-hiPSC由来心筋細胞(
図2B)からの代表的な電場電位を表す。ARVC-PKP2
mut-hiPSC由来心筋細胞でのスパイクの不規則な周波数及びパターンが、Cx43の用量が増加するにつれて(MOI5、MOI10、及びMOI20)、スパイクの周波数が徐々により規則的になることに注意されたい。スケールバーで、縦向きのものは電場電位の振幅(μV)、横向きのものは時間(1s)を表す。MOIは感染多重度である。
【
図3A-B】
図3A-3Fは、ストレス/運動条件を模倣するためのカテコラミン(ISO)刺激下で、コネキシン43タンパク質レベルの回復がARVC-DSG2
mut(ARVC-E)hiPSC由来心筋細胞での生理学的異常をレスキューできることを表す。
図3A-3Bは、基礎レベル(
図3A)及びISO刺激下(
図3B)での、Ad-GFP又はAd43による48時間の感染をともなう、非ARVC-hiPSC由来心筋細胞及びARVC-DSG2
mut-hiPSC由来心筋細胞についての、代表的な電場電位トレースを表す。スケールバーで、縦向きのものは電場電位の振幅(μV)、横向きのものは時間(1s)を表す。
【
図3C-D】
図3C-3Dは、基礎レベル(
図3C)及びISO刺激下(
図3D)での、Ad-GFP又はAd43による48時間の感染をともなう、非ARVC-hiPSC由来心筋細胞及びARVC-DSG2
mut-hiPSC由来心筋細胞についての、代表的なインピーダンス(収縮性)トレースを表す。スケールバーで、縦方向のものは細胞指数、横向きのものは時間(1s)を表す。
【
図3E】
図3Eは、Ad-GFP又はAd43による感染をともなう、非ARVC-hiPSC由来心筋細胞及びARVC-DSG2
mut-hiPSC由来心筋細胞の基礎レベルでの発火不規則性指数の定量結果を表す。標準誤差を伴う平均値を表し、n=6(非ARVC)、n=6(ARVC-DSG2
mut)であり、2標本t検定を行った。
【
図3F】
図3Fは、Ad-GFP又はAd43による感染をともなう、非ARVC及びARVC-DSG2
mut(ARVC-E)のISO刺激下での発火不規則性指数の定量結果を表す。標準誤差を伴う平均値を表し、*はp<0.05を表し、n=6(非ARVC)、n=6(ARVC-DSG2
mut)であり、2標本t検定を行った。
図3A-3Fにおいて、ARVC-DSG2
mut-hiPSC由来心筋細胞におけるスパイクの不規則な周波数及びパターンがISO条件でのみ観察され、Cx43の回復がスパイクの周波数及びパターンをより規則的なものにし得ることに注目されたい。
【
図4A】
図4A-4Gは、コネキシン43タンパク質レベルの回復がARVCマウスモデル(心臓特異的デスモプラキンノックアウトモデル(DSP-cKO))において心臓リズム及び機能を改善できることを表す。
図4Aは、緑色蛍光タンパク質でタグ付けされたアデノ随伴ウイルス(AAV-GFP)/コネキシン43を持ち且つGFPでタグ付けされたアデノ随伴ウイルス(AAV-Cx43)の注射及び電気生理学的心機能分析についての実験戦略を表す。
【
図4B】
図4Bは、6週のアデノ随伴ウイルス(AAV)注射前の、対照及びDSP-cKOマウス(DSP-Floxマウス、Cre陽性)の超音波心臓検査が、対照(DSP-Floxマウス、Cre陰性)に比べてDSP-cKOマウスでの左心室内径短縮率(fractional shortening、%FS)の有意な減少を示したことを表す。
【
図4C】
図4Cは、AAV注射後4週(10週齢)及び5週(11週齢)の対照及びDSP-cKOマウスの超音波心臓検査が、AAV-Cx43を注射されたDSP-cKOマウスでの%FSの(6%から15%への)改善を明らかにしたことを表す。AAV-Cx43を注射された対照マウスでは%FSの有意な変化は観察できなかった。対照群及びDSP-cKOマウス群の間で心拍数の有意な差異はみられなかった。
【
図4D】
図4Dは、AAV-Cx43注射後4週(10週齢)及び5週(11週齢)の対照及びDSP-cKOマウスの代表的表面ECGトレースを表す。DSP-cKOマウスは、AAV-Cx43注射後4週に、重症の不整脈(心室性期外収縮(PVC=規則的なパターンと一致しない追加の鼓動)、脚ブロックを示す一連のQRS複合波逆転(スパイクが上向きではなく下向きを指す))を示した。一方、AAV-Cx43注射後5週に、DSP-cKOは、心臓リズムの改善(1.5分の一のPVC、限られたQRS複合波逆転(前週(10週)では10個が連なっているが、次週(11週)では2個のみ))及び正常洞リズムの見た目(規則的周波数及び律動的鼓動)を示す。
【
図4E】
図4Eは、AAV-Cx43注射後4週(10週齢)及び5週(11週齢)のDSP-cKOマウスでのPVCの定量結果を表し、AAV-Cx43注射後5週でPVCの数の1.5倍の減少を明らかにしたものである。
【
図4F】
図4F-4Hは、生存率(
図4H)、ウエスタンブロット解析(
図4F)、及びGFP免疫染色解析(
図4G)が、AAV-Cx43注射後5週の生存したDSP-cKOマウスでのCx43タンパク質の回復(DSP-cKO2-AAV-Cx43、緑)を明らかにしたことを表す。対照的に、死亡したDSP-cKOマウスではAAV-Cx43注射後3週にCx43タンパク質の回復は観察されなかった(DSP-cKO1-AAV-Cx43、赤)。
【
図5】
図5は、Ad43(配列番号7)のベクターマップを表す。
【
図6】
図6は、AAV-Cx43(配列番号8)のベクターマップを表す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
アデノ(随伴)ウイルス戦略を用いた心筋細胞でのコネキシン43の標的回復を介した不整脈源性障害である不整脈源性右室心筋症での電気的及び構造的心機能不全をレスキュー/処置し且つ寿命を延ばすための遺伝子療法戦略が、本明細書に開示される。コネキシン43は心臓の電気的機能に影響することが知られているが、我々はコネキシン43の回復が寿命を延ばし並びに疾患(寿命)の後期にARVCの重篤な構造的形態を抱える遺伝的マウスモデルでの収縮(構造的)機能を改善することもできることを示す。また、(透過型電子顕微鏡アッセイで観察できる破壊された接着斑結合から分かるような)重篤な構造的障害を示すインビトロのヒトARVC幹細胞系モデルでの研究は、コネキシン43回復がこうした疾患細胞での電気的及び収縮(構造的)機能障害の回復に十分であったことを明らかにした。さらに、この回復は迅速に生じた。ARVCは処置法のない希少で致命的な疾患であるため、この手法はこの極めて脆弱な集団での処置手法を試験する最初の機会を表し、また、この戦略はコネキシン43欠失に関連する潜在的な構造的障害を有する他の心疾患への用途も有し得る。
【0011】
ヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)は遺伝性心疾患のインビトロ疾患モデリングについての素晴らしい潜在性を示してきている。このため、本開示の発明者等は、ある範囲の症状重症度にわたって現れ若年者での突然死を引き起こすことが知られている、接着斑の細胞間結合の心疾患である不整脈源性右室心筋症(ARVC)に罹患した、遺伝的、生化学的、及び生理学的に特徴づけられた患者から、遺伝子挿入のないhiPSC株のパネルを作った。xCelligence(登録商標)RTCA CardioECR systemを用いた、微細構造的、分子的、且つリアルタイム式の生理学的アッセイを通じて、発明者等は、ARVC hiPSCに由来する心細胞表現型がドナーARVC患者の心臓組織で観察される(電気的なもの対構造的なものが)変化する心疾患表現型を基本的に捕捉し得ることを示す。発明者等のARVC hiPSC株でのxCelligence(登録商標)RTCA CardioECR systemを利用する候補遺伝手法を通して、発明者等は、ARVCの電気的形態及び構造的形態の両方に潜在する心臓の生理学的障害を共通して逆転し得る新規処置剤を明らかにした。
【0012】
本発明は、構造的に弱まった心臓に対して(ワンショットの心臓標的遺伝子療法を介した)コネキシン43単独の(健康対照に近いレベルまでの)回復が前向きな処置結果のために十分であるという影響力の大きい発見に基づいている。本明細書に記載の研究は、コネキシン43が心筋細胞の構造的完全性が弱められる構造型心疾患進行の主要な原動力であることを示唆している。コネキシン43が、心筋細胞と心臓マクロファージとの間に加えて、心筋細胞と心臓線維芽細胞との間でみられることから、これらの他種関連細胞型への構造的接続も構造型疾患心臓で弱まっているかもしれず、そのため、コネキシン43回復はこれらの細胞間相互作用の構造的完全性も回復するかもしれない。このことは、コネキシン43が構造的に弱まった心臓についての処置剤とは考えられてこなかったことから、予想外の発見といえる。
【0013】
特定の例では、本明細書に記載の処置法は、希少不整脈源性心疾患である不整脈源性右室心筋症を主な標的とする。この疾患は、接着斑の機械的細胞間結合がばらばらになり/失われ、コネキシン43が疾患の早期の特徴となる心疾患である。コネキシン43回復は電気的障害を抱えるARVC-hiPSC由来心筋細胞での早期の電気的障害を緩和するのみであるかもしれないと考えられる。本明細書に示す結果は、本明細書に示すARVCの後期構造モデルにおいて驚くべきものであった。疾患の構造的特徴を有するARVC-hiPSC由来心筋細胞(ヒトインビトロモデル)、並びに、ARVCの重篤な構造的形態を模倣する遺伝的マウスモデル(DSP cKOマウスインビボモデル)を用いて、主要な機械的(接着斑)細胞間結合遺伝子が破壊/変異され、また、他の関連する接着斑細胞間結合タンパク質がばらばらになり/失われても、コネキシン43遺伝子療法がARVC疾患の(後期)構造期での生存、心臓リズム、及び機能の改善に有効であったことがデータで示された。さらに、コネキシン43がこれらの疾患における後期にも失われ、致命的不整脈及び心筋の構造的完全性(及びそれに伴う細胞相互作用)が最も弱まるのがこうした後期であるという文献上の証拠が存在することから、本発明の方法が心疾患の構造的に弱まった形態の他の形態(肥大型心筋症及び鬱血性心不全など)にいまや拡張できると考えられる。
【0014】
ARVCは、若年者及びアスリートでの突然心臓死を引き起こす致命的な/重症の心室性不整脈をもたらす心筋の線維脂肪置換及び右心室機能不全を(ただし最近では左心室機能不全をも)特徴とする主に遺伝的な心疾患である。ARVCは、65歳以下の年齢での突然心臓死の10%の原因であり、30以下の年齢での突然心臓死の24%の原因である。ARVCは、診断マーカーに乏しいことから何人かの患者が診断されず又は誤診断されていることから有病率はより高いかもしれないが、1000-5000人に1人の割合で生じるので希少疾患であると考えられる。また、増え行く証拠は、乳幼児から十代の児童の範囲の小児人口がARVCに特に脆弱であることから、より早期の発症を明らかにし、疾患のより早期での患者の同定及び処置の重要な需要を強調している。
【0015】
現在のところ、ARVCへの有効な処置法は存在しないし、処置法の無作為試験、スクリーニングレジメン、又はARVCに特異的な薬物も存在していなかった。結果として、ARVC患者についての処置戦略は、臨床的専門知識、後ろ向きレジストリ型研究の結果、及びモデル系での研究の結果に基づき、電気生理学的障害の症状緩和を指向している。結果として、ARVC患者についての既存の処置法は、抗不整脈薬(ソタロール、アミオダロン(amiodarone)、及びβ遮断薬)の使用に頼っているが、こうした使用は、患者が抗不整脈処置に不応答性又は非忍容性になった場合に、植え込み型除細動器及び心臓カテーテル切除をはじめとするより侵襲的な行為へと移行する。しかし、現在の処置法は、初診から10-11年以内にARVC患者の40%が死亡することから、疾患の管理での有効性は限定的であり、このことからARVC罹患患者についてより効果的な処置法の開発の必要性が強調される。
【0016】
ベクター送達戦略を用いた心筋細胞でのコネキシン43ポリペプチドの標的過剰発現を介した不整脈源性障害であるARVCにおける電気的及び生理学的心機能不全をレスキュー/処置するための遺伝子療法戦略が本明細書に開示される。本明細書に記載の一実例では、インビトロでの2種類のARVC hiPSCの患者株の心臓筋細胞及びインビボでのARVCの新規マウスモデルの心筋細胞へのコネキシン43ポリペプチドをコードするコネキシン43ポリヌクレオチドのワンタイム式ウイルス媒介性送達が、ARVCに関連する電気的及び生理学的心機能不全を実質的に逆転するのに十分であった。さらに、ARVCのDSP-cKOマウスモデルを用いたインビボ研究は、コネキシン43遺伝子療法処置戦略がARVCに関連する突然死を回避することで寿命を延ばすために後期病態の間で利用できることを示唆している。また、この戦略は、不整脈及び死亡の増大した危険性があり且つコネキシン43ポリペプチドの欠失が報告されている不整脈性突然死(例えば、肥大型心筋症)及び後期心不全を生じる他の遺伝性障害への処置用途も有し得る。さらに、本研究は、コネキシン43ポリペプチドが電気的機能を超えた役割を有し、また、(接着斑タンパク質などの古典的構造タンパク質とは独立した)細胞間の構造的接続を橋渡しする足場として働くかもしれないことを、古典的には電気的機能のみと関連しているという本分野での本タンパク質の役割の従来の考え方とは異なり、重症の構造疾患を持つ発明者のモデル(例えば、構造的なARVC hiPSC株(PKP2mut)及びARVCのマウスモデル)において心機能も改善できたことから、示している。
【0017】
本明細書では、『過剰発現』という用語は、病態に比べ発現の増加したレベルを、特定の実施形態では、正常な、健康な、又は野生型の状態とは比べず、病態でみられるコネキシン43ポリペプチド発現の最小レベル又は欠如に比べての、発現の増加したレベルを指す。正常の少なくとも約5%までのコネキシン43ポリペプチド発現レベルの回復は、必ずしも心機能を完全に回復させるものではないにしろ、有益である。正常レベルの5%、10%、15%、20%、25%以上までの、又は50%以上程度までのコネキシン43発現レベルの回復は、正常心機能の回復に有効である。
【0018】
本明細書では、『ベクター』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、標的細胞へ核酸配列を導入する能力を持つという理解を含む。例えば、ベクターは、標的細胞で発現される能力をもつコード配列を含んでもよい。本開示の目的では、『ベクターコンストラクト』、『発現ベクター』、及び『遺伝子導入ベクター』は、通常、注目遺伝子の発現を指示する能力を持ち且つ当該注目遺伝子を標的細胞に導入するのに役立つ任意の核酸コンストラクトを指す。従って、本用語は、組み込みベクターに加えて、クローニングベクター及び発現ベクターを含む。
【0019】
本明細書では、『アデノ随伴ウイルス』(AAV)という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、これに限定されるわけではないが、1型AAV、2型AAV、3型AAV(3A型及び3B型を含む)、4型AAV、5型AAV、6型AAV、7型AAV、8型AAV、9型AAV、10型AAV、11型AAV、AAV2i8(Asokan等、Nat Biotechnol. (1):79-82、2010、この文献の全体を参照により本明細書で援用する)、鳥類AAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、及びヒツジAAV、並びに、現在知られた又はこれから発見される他のAAVを含む。多数の追加のAAV血清型及びクレードが同定されてきているが、これらもまた『AAV』という用語に包含される。
【0020】
種々のAAV及び自律的に増殖するパルボウイルス(autonomous parvovirus)のゲノム配列、並びに、末端逆位配列(ITR)、Repタンパク質、及びカプシドサブユニットの配列が、本分野で知られている。こうした配列は、文献又は公開データベース(GenBank(登録商標)データベースなど)でみつけることができる。
【0021】
本明細書では、『心筋細胞』(“cardiomyocyte”又は“cardiac myocyte”)という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、心臓の心筋を主に形成する特異化筋細胞を含む。心筋細胞は、5つの主要な構成要素、(1)興奮伝導のための、細胞膜(筋鞘)及びT管、(2)収縮に必要なカルシウム貯蔵部である筋小胞体、(3)収縮要素、(4)ミトコンドリア、及び(5)核、を有し得る。心筋細胞は、これらに限定されるわけではないが、心房心筋細胞、心室心筋細胞、洞房(SA)結節心筋細胞、洞房結節周辺心筋細胞、洞房結節中央心筋細胞をはじめとするサブタイプに分類できる。幹細胞は、心筋細胞の生理学的機能を模倣するために増殖させることができるし、また、この代わりに、心筋細胞に分化し得る。分化は、これらに限定されるわけではないが、ミオシン重鎖、ミオシン軽鎖、アクチニン、トロポニン、トロポミオシン、GATA4、myocyte enhancer factor(Mef)2c、及びNkx-2.5から選択されるマーカーの使用により検出できる。
【0022】
本明細書では、『対照』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、比較を目的とする実験で用いられる代替的な対象又はサンプルを含む。対象は『陽性』又は『陰性』で有り得る。例えば、実験の目的が遺伝子の変化した発現レベルと特定の表現型との相関を求めることである場合、陽性対照(こうした変化を有し所望の表現型を発現する、対象由来のサンプル)及び陰性対照(変化した発現又は表現型を欠く対象又は対象由来のサンプル)を用いることが通常は好ましい。
【0023】
本明細書では、『幹細胞』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、未分化又は部分的に分化した状態であり、自己複製能及び/又は分化した子孫を作る能力を有する細胞を含む。自己複製は、幹細胞がその発生能(すなわち、全能性、多能性(pluripotent)、複能性(multipotent)など)を維持しながら増殖してこうした幹細胞をより多く生じさせる能力として定義される。本明細書では、『体性幹細胞』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、胎児(胎仔)、小児(幼体)、及び成人(成体)組織をはじめとする、非胚性組織に由来する任意の幹細胞を含む。天然体性幹細胞が、血液、骨髄、脳、嗅上皮、皮膚、膵臓、骨格筋、及び心筋をはじめとする、広範な成人(成体)組織から単離されてきている。例示的な天然由来体性幹細胞は、これらに限定されるわけではないが、間葉系幹細胞(MSC)及び神経幹細胞(NSC)を含む。いくつかの実施形態では、幹細胞又は前駆細胞は胚性幹細胞である。本明細書では、『胚性幹細胞』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、受精の後から妊娠期間の最後の前に形成された組織に由来する幹細胞(妊娠期間中の任意の時期に、必ずしもそうとは限らないが典型的には妊娠の凡そ10から12週より前に、採取された、前胚組織(例えば、胚盤胞など)、胚組織、又は胎児(胎児)組織を含む)を含む。最も頻繁には、胚性幹細胞は、初期胚又は初期胚盤胞由来の多能性細胞である。胚性幹細胞は、これらに限定されるわけではないが、ヒト組織をはじめとする、適切な組織から、又は、確立された胚細胞株から直接的に得ることができる。本明細書では、『胚様幹細胞』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、胚性幹細胞の特徴の1つ以上(ただし、全部ではない)を共有する細胞を含む。
【0024】
本明細書では、『多能性細胞』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、少なくとも2種類の(遺伝子型及び/又は表現型で)区別できるさらに分化した子孫細胞を生じさせ得る分化の程度が低い細胞を含む。いくつかの実施形態では、『多能性細胞』は、非多能性細胞、典型的には、成人(成体)体性細胞から人為的に得られた幹細胞であり、1つ以上の幹細胞特異的遺伝子の発現を誘導することにより作られている誘導多能性幹細胞(iPSC)を含む。こうした幹細胞特異的遺伝子は、これらに限定されるわけではないが、オクタマー転写因子のファミリー(例えば、Octomer-binding transcription factor binding(Oct)-3/4)、SRY Box (Sox)遺伝子のファミリー(例えば、Sox1、Sox2、Sox3、Sox15、及びSox18)、クルッペル様転写因子(Klf)遺伝子のファミリー(例えば、Klf1、Klf2、Klf4、及びKlf5)、Myc遺伝子のファミリー(例えば、c-myc及びL-myc)、Nanog遺伝子のファミリー(例えば、OCT4、NANOG、及びREX1)、又はLIN28を含む。
【0025】
本明細書では、『誘導多能性細胞』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、成人(成体)細胞から未成熟表現型に再プログラム化された胚様細胞を含む。また、ヒトiPSCは、幹細胞マーカーを発現し、3種の胚葉全ての特有の細胞を作る能力を持つ。
【0026】
本明細書では、『有効量』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、インビトロ又はインビボで細胞成長及び/又は分化をはじめとする意図した結果を生じさせるのに有効な又は本明細書に記載の病態の処置に有効な、試薬又は組成物(本明細書に記載の組成物など)、ウイルスベクター又は他のベクターの濃度又は量を含む。投与されるウイルスベクター又は他のベクターの量は処置される障害の詳細(医薬生物学者(medicinal biologist)によく知られている他の要因の中でも、これらに限定されるわけではないが、処置される大きさ又は総体積/表面積、並びに、処置される領域の位置への投与部位の近接度を含む)に依存することを理解されたい。
【0027】
本明細書では、『不整脈源性右室心筋症』(ARVC)という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、通常は心臓の右側に影響するが両側にも影響し得る遺伝性進行性障害を含む。心室の壁は薄く延びた状態になる。また、ARVCは不整脈を引き起こし得る。
【0028】
本明細書では、『肥大型心筋症』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、心臓筋細胞が大きくなり心室を厚くさせる状態を含む。
【0029】
本明細書では、『コネキシン43』という用語は、本分野でのその通常の意味を有し、ギャップ結合タンパク質を含む。ギャップ結合は、心細胞の協調的脱分極、適切な胚発生、及び微小血管での伝導反応など、多くの生理学的過程に必須で有り得る。この理由で、コネキシンをコードする遺伝子での変異は機能的及び発生学的異常をもたらし得る。該当ヒトタンパク質のアミノ酸配列はGenbankアクセッション番号AAA52131としてみつけられる。該当マウスタンパク質のアミノ酸配列はアクセッション番号AAA37444としてみつけられる。該当イヌタンパク質のアミノ酸配列はアクセッション番号AAR25626としてみつけられる。該当ウマタンパク質のアミノ酸配列はアクセッション番号NP_001296155としてみつけられる。
【0030】
本明細書に開示の方法は、ARVCなどの不整脈源性障害に関連する電気的及び生理学的心機能不全をレスキューすることにより寿命を延ばすことにおいて意味を有する実行可能な処置戦略を含む。現在まで、ARVC患者についてのコネキシン43に基づく処置又は遺伝子療法処置を利用する既存の処置法は存在しない。現在開示のコネキシン43に基づく戦略は、既存のコネキシン43を細胞から『正しい位置』に再配置する役割を主に果たすペプチドミメティク及び小分子薬物の使用に焦点を合わせており、これらの戦略は心臓に既存のコネキシン43タンパク質を有することに依拠している。しかし、ARVC患者及び末期心不全患者は、心臓筋細胞での極端に少ない又はゼロのコネキシン43タンパク質を有しており、それゆえ、前述の手法はこうした状況では機能しない。
【0031】
遺伝子療法は心疾患を回避するための安全で効果的な手法であることが示されてきており、本明細書で提示の実験は本方法が心臓でのコネキシン43発現を回復でき且つ突然死をもたらすARVCに関連する電気的及び構造的障害を回避できるという証拠を提供する。ARVCは処置法のない希少で致命的な疾患であるため、この手法はこの極めて脆弱な集団での処置手法を試験する最初の機会を提供し、また、この戦略はコネキシン43ポリペプチドの欠失に関連する潜在的な構造的且つ不整脈源性障害を有する他の心疾患への用途も有し得る。
【0032】
従って、いくつかの実施形態では、ヒトコネキシン43cDNAを含む心臓トロポニンTプロモーター駆動アデノ随伴ウイルスベクター(血清型9)を作り、臨床等級のウイルスを増幅し、それをコネキシン43タンパク質レベルを回復し且つ電気及び収縮機能不全をレスキューするための手段としてARVC患者に送達することによるARVC患者のための臨床療法のために、コネキシン43ポリペプチドが標的とされる。しかし、いくつかの実施形態では、他のベクターが用いられる。いくつかの実施形態では、ベクターは異なるプロモーターを用いる。プロモーターは心臓組織で活性状態でなければならないが、必ずしもそうとは限らないものの、プロモーターは心臓組織でのみ又は心臓組織で主に活性状態であってもよい。いくつかの実施形態では、ベクターはアデノ随伴ウイルスベクターである。いくつかの実施形態では、ベクターは異なるウイルスに基づく。いくつかの実施形態では、ベクターは非ウイルス性である。
【0033】
いくつかの場合、ベクターはウイルスベクターである。いくつかの場合、ウイルスベクターは複製能欠損ウイルスに基づく又はそれに由来するものである。本開示の核酸分子を対象に送達するのに適したウイルスベクターの非限定的な例は、アデノウイルス、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、及びherpes simplex-1(HSV-1)に由来するものを含む。特定の場合、ウイルスベクターはAAVに由来する。
【0034】
いくつかの実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)などの心臓組織についての向性を有しており、別の実施形態では、ベクターは、心臓組織に特異的ではない。いくつかの実施形態では、コネキシン43発現は組織特異的プロモーター及び心臓向性ベクターの一方又は両方の結果として心臓組織に制限されている。いくつかの実施形態では、ベクターはコネキシン43ポリペプチドの長期発現を付与する。いくつかの実施形態では、ベクターは非組み込みベクターである。
【0035】
いくつかの実施形態では、有効な処置は遺伝子療法ベクターの単回投与により実行される。こうした実施形態では、弱い免疫原性又は非免疫原性は2回以上投与されるかもしれない又は予定であるベクターに比べて減少した重要性を有する。いくつかの実施形態では、ベクターは、レシピエントが、既存の免疫応答、例えば、抗ベクター抗体応答を有しないものである。
【0036】
また、この戦略は、不整脈及び死亡の増大した危険性があり且つコネキシン43の欠失が報告されている、不整脈性突然死(例えば、肥大型心筋症)及び後期心不全を生じる他の遺伝性障害への処置用途も有し得る。
【0037】
処置を必要とする対象において疾患又は障害を処置するための方法であって、前記対象が、不整脈源性右室心筋症、右心室及び/又は左室機能不全、心筋の線維脂肪置換、肥大型心筋症、不整脈源性疾患での電気的及び生理学的心機能不全の1つ以上に罹患している、方法が、本明細書にて提供される。本方法は、コネキシン43ポリペプチド配列をコードするベクターの対象への投与であって、有効量のベクターの投与の結果として対象の心臓の少なくとも一部においてコネキシン43レベルが増加される、投与を含む、又は、代わりに、当該投与から実質的になる、又は、さらには、当該投与からなる。増加されたコネキシン43ポリペプチドは典型的には症状学的な改善により推測される。いくつかの実施形態では、症状学的な改善は、コネキシン43の発現が増加して数日内に、又は、コネキシン43遺伝子療法ベクターが投与されて数日内、例えば、1、2、3、又は4日内に、みることができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、コネキシン43ポリペプチドは、P17302(CXA_1HUMAN、UniProtKB)の少なくとも382アミノ酸の配列(配列番号1)、又は、その生物学的等価物を含む。ヒトの心臓では少なくとも4種類のコネキシン43のより小さいトランケート型アイソフォームが存在し、これらは、その機能断片として機能し得る、32kDa(100-382AA、配列番号3)、29kDa(125-382AA、配列番号4)、26kDa(147-382AA、配列番号5)及び20kDa(213-382AA、配列番号6)を含む(『Autoregulation of connexin43 gap junction formation by internally translated isoforms』、Smith&Shaw、Cell Rep.、5(3):611-8、2013、この文献の内容の全体を参照により本明細書に援用する。)。 いくつかの実施形態では、3種類の断片がそれぞれ配列番号9から12によりコードされる。
【0039】
前記ポリペプチドは、インビボでのポリヌクレオチドの発現のための配列に動作可能に連結されているコネキシン43をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子送達ビークル又はコンストラクトで送達できる。こうしたものの非限定的な例は、心臓トロポニンTプロモーター、心臓ミオシン軽鎖プロモーター、心臓ミオシン重鎖プロモーター、及び延長因子1αプロモーター付属心筋αアクチンエンハンサーを含む。心筋細胞特異的で空間的に制限されたプロモーターは、これらに限定されるわけではないが、ミオシン軽鎖2、αミオシン重鎖、AE3、心臓トロポニンC、心臓アクチンなどの遺伝子に由来する対照配列を含む。
【0040】
コンストラクトはさらにウイルスベクター内に包含され得る。こうしたものの非限定的な例は、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ベクター(adeno-associated vector、AAV)、又はレンチウイルスベクターを含む。ウイルスベクターは、心臓への組織向性について選択でき、例えば、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV2i8、又はAAV9血清型の群から選択できる(『An Emerging Adeno-Associated Viral Vector Pipeline for Cardiac gene therapy』(Asokan及びSamulski、Hum Gene Ther.、24(11):906-913、2013)及び『Systemic Gene Transfer to Skeletal Muscle Using Reengineered AAV Vectors』(Phillips等、Methods Mol Biol.、709:141-51、2011)、これらの文献のそれぞれをインビボ心臓遺伝子導入についての教示の全てに関する全体について参照により本明細書に援用する)。加えて、AAVベクターをキメラ型にし、ベクターの組織向性にさらに追加することもできる。こうしたものの非限定的な例は、例えば、『AAV Vectors for Cardiac Gene Transfer: Experimental Tools and Clinical Opportunities 』(Mol. Ther.、19(9):1582-1590、2011)に記載のAAV1/2ベクターを含む。この文献をインビボ心臓遺伝子導入についての教示の全てに関する全体について参照により本明細書に援用する。
【0041】
コネキシン43ポリヌクレオチドを含むベクターは局所的に又は全身的に投与される。
【0042】
本方法はヒト患者などの哺乳類の処置に役立つ。当業者であれば理解するように、タンパク質及び/又はポリヌクレオチドは処置される対象と同種に由来するはずである。
【0043】
有効量のポリヌクレオチド及び/又はベクターが、例えば、対象の体重1kg当たり約2×1011から約2×1014個のウイルスゲノムで、送達されるべきである。ベクターは医薬上許容可能なキャリア内で送達できる。
【0044】
処置を必要とする対象を処置するための方法であって、前記対象が、不整脈源性右室心筋症、右心室及び/又は左室機能不全、心筋の線維脂肪置換、肥大型心筋症、不整脈源性疾患での電気的及び生理学的心機能不全の1つ以上に罹患している、方法も提供される。本方法は、本明細書に記載のようなコネキシン43ポリペプチドのベクター付与発現の有効量の対象への投与を含む、又は、代わりに、当該投与から実質的になる、又は、さらには、当該投与からなる。当業者であれば、免疫組織化学、ウエスタンブロット、アフィニティークロマトグラフィーにより、又は、ノーザンブロット、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を介したmRNAの検出に基づいて間接的に、コネキシン43レベルがモデル系内で増加されているかを求めることができる。実際の患者では、増加されたコネキシン43ポリペプチドの検出は典型的には症状学での改善により推測される。
【0045】
いくつかの実施形態では、コネキシン43ポリペプチドは、P17302(CXA_1HUMAN、UniProtKB)の少なくとも382アミノ酸の配列(配列番号1)、又は、その生物学的等価物を含む。
【0046】
いくつかの実施形態は、コネキシン43ポリペプチド発現を付与する能力を持つベクターと医薬上許容可能なキャリアとを含む医薬組成物である。こうした製品での医薬上許容可能なキャリアは、典型的には、無菌水溶液である。こうした実施形態の種々の態様では、医薬上許容可能なキャリアは、培養培地、リン酸緩衝食塩水、又はHEPES緩衝食塩水を含み得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、直接使用のために(凍結保存され得る)液体製剤として供給される。別の実施形態では、ベクターは、凍結乾燥形態で供給され、注射用水又は無菌水溶液で投与直前に再構成される。
【0047】
本開示の実施形態のいくつかは、哺乳類への、例えば、ヒトへの投与を含み、処置法を構成する。本明細書では、『処置する』又は『処置』という用語は、集合的に又は個別の実施形態として、人又は他の動物での疾患の診断、緩和、又は予防をはじめとする、任意の種類の処置活動、又は、人又は他の動物の身体の構造又は任意の機能に他のやり方で影響する任意の活動を広範に含む。処置は所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを含み得る。この効果は、障害又はその兆候若しくは症状を完全に又は部分的に防ぐという意味で予防的で有り得、並びに/又は、障害及び/若しくは当該障害に起因する有害効果についての部分的又は完全な治癒という意味で治療的で有り得る。『処置』の例は、これらに限定されるわけではないが、障害を持っているとまだ診断されていないが障害になりやすいかもしれない対象での障害の発生の防止、障害の阻害、すなわち、その発達の阻止、及び/又は、障害(例えば、心不整脈)の症状の軽減又は寛解を含む。当業者に理解されるように、『処置』は、病理学に関連する症状の全身的寛解及び/又は胸痛などの症状の開始の遅延を含み得る。『処置』の臨床的又は亜臨床的証拠は、病理学、個体、及び処置により変化するはずである。処置活動は、医療専門家、患者自身、又は他の人物によるかを問わず、本明細書に記載の、医薬、剤形、及び医薬組成物の患者への投与、特に、本明細書に記載の様々な処置法に従った投与を含む。処置活動は、医療専門家(外科医、外科助手、ナースプラクティショナーなど)の命令、指示、及び助言を含み、これらは、その後、他の医療専門家又は患者自身を含む別の人物により実行される。いくつかの実施形態では、処置活動は、特定の医薬又はその組み合わせをある状態の処置のために選ぶべきこと(そして、医薬が実際に用いられること)を、保険会社や薬剤給付管理会社などが行うかもしれないように、当該医薬への保険適用を認可し、代替医薬への適用を拒否し、採用医薬品集に当該医薬を含め若しくは採用医薬品集から代替医薬を排除し、又は当該医薬の使用への奨励金を提供することにより、奨励し、誘導し、又は強制することを含むこともできる。いくつかの実施形態では、処置活動は、特定の医薬をある状態の処置のために選ぶべきこと(そして、医薬が実際に用いられること)を、病院、診療所、健康維持機構、医療実践又は医者集団などが行うかもしれないように、方針又は実施基準により、奨励し、誘導し、又は強制することを含むこともできる。
【0048】
本明細書に開示の実施形態のいくつかでは、コネキシン43ポリペプチド発現ベクターは、哺乳類への投与のために調製される、又は、哺乳類に投与される。いくつかの実施形態では、哺乳類はヒトである。別の実施形態では、哺乳類は、家庭愛玩動物、例えば、ネコ又はイヌである。いくつかの実施形態では、哺乳類は、農業動物、例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、又はブタである。別の実施形態では、哺乳類は、実験動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、又はウサギである。
【0049】
関連する態様では、本発明の治療組成物は予防的又は緩和的手段として対象に投与される。本明細書では、『緩和的』は、対象の障害に関連する症状を改善する又は軽減することを意味し、こうした障害を治癒することを含む。
【0050】
望まれるなら、本明細書に記載のような組成物は、例えば、他のタンパク質又はポリペプチド又は種々の医薬活性剤などの他の剤とも組み合わせて投与されてもよいことを理解されたい。実際、含められてもよい他の成分には、当該追加剤が標的細胞又は宿主組織との接触の際に顕著な有害効果を引き起こさないという前提で、実質的に制限はない。組成物は、そのため、特定の場合に必要とされるような種々の他の剤とともに送達されてもよい。こうした組成物は、宿主細胞又は他の生物源から精製されてもよいし、また、代わりに、本明細書に記載のように化学的に合成されてもよい。
【0051】
遺伝子療法ベクターの投与は典型的には注射又は注入により行われる。いくつかの実施形態では、静脈内投与が用いられる。別の実施形態では、ベクターは、心臓自体又は心膜腔などの処置が効果を奏する部位である又は当該部位に連通する、組織、器官、又は体腔に投与される。
【0052】
適切な用量のベクターがそれを必要とする対象に投与され得る。投与法の非限定的な例は、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、腹腔内投与、経口投与、注入(infusion)、頭蓋内投与、髄腔内投与、鼻腔内投与、及び動脈内を含む。いくつかの場合、投与はベクター組成物の製剤の注射を伴い得る。
【0053】
また、任意の方法による連続及び不連続投与スケジュールは、例えば、コネキシン43投与期間の開始時に、用量が低くコネキシン投与期間の最後まで増加されるように、用量が最初は高く投与期間中減少されるように、用量が、最初は低く、あるピークレベルまで増加され、その後、投与期間の最後に向けて減少されるように、及び、これらの任意の組み合わせで、ベクターの用量が有効期間を通して調節される投薬スケジュールを含む。また、投薬スケジュールは、カテーテルシステムなどの本分野での標準法を用いて行われてもよい。
【0054】
組換AAV(rAAV)のビリオン又はインビトロで形質導入された細胞は、本分野で既知の手法を用いて、針、カテーテル、又は関連装置を用いた注射により、筋肉に直接に送達されてもよい。インビボ送達については、rAAVビリオンは医薬組成物に処方され、1回以上の用量が指示されたやり方で直接に投与されてもよい。治療有効量は、約108/kgから1016/kgほどの、より好ましくは、1010/kgから1014/kgほどの、さらにより好ましくは、約1011/kgから1013/kgほどのrAAVビリオン(又はウイルスゲノム、『vg』又は『v.g.』とも呼ぶ)又はこれらの範囲の任意の値を含むはずである。
【0055】
組換AAVビリオンの投与の一形態は、対流強化送達(convection-enhanced delivery、CED)システムを用いる。このやり方では、組換ビリオンは筋肉の広範な面積にわたる数多くの細胞に送達され得る。さらに、送達されたベクターは筋肉細胞内で導入遺伝子を効率よく発現する。いかなる対流強化送達装置もウイルスベクターの送達に適切であり得る。好適な実施形態では、装置は浸透圧ポンプ又は注入ポンプである。浸透圧ポンプ及び注入ポンプは両方とも様々な供給元から市販されており、例えば、Alzet Corporation、Hamilton Corporation、Alza Inc.(パロアルト、カリフォルニア州)から入手できる。典型的には、ウイルスベクターは以下のようにCED装置を介して送達される。カテーテル、カニューレ、又は他の注射装置が、選ばれた対象の適切な筋組織(骨格筋など)に挿入される。CED送達に関する詳細な記載については、米国特許第6,309,634号を参照されたい。当該文献の全体を参照により本明細書で援用する。
【0056】
種々の灌流法が本分野では利用可能であり標準的であり、いずれのひとつの方法に拘束されるわけではないが、所望の結果を与える任意の灌流法(カテーテルを用いる方法など)が考えられる。灌流法の目的はベクター(例えば、アデノウイルス、AAV、レンチウイルスのベクター)と標的細胞(例えば、平滑筋細胞)との接触時間を増やすことである。従って、本方法は、体温で且つ限定条件下で行われる、例えば、37℃で、約2、5、10、12、15、30、60分、若しくはそれ以上にわたり、又は、より大きな動物若しくはヒトでは、約2、4、6、8、10、12時間、若しくはそれ以上にわたり、行われる灌流法(閉鎖回路灌流法など)を包含し、標的細胞へのウイルス侵入と遺伝子発現及びタンパク質合成のための最適条件を生成することとを可能とする。このため、種々の添加剤、例えば、天然及び非天然アミノ酸並びに成長因子などが、タンパク質合成のための十分な材料を提供するために添加されてもよい。
【0057】
各処置法は、そうした医療法で用いるための(1種又は複数種の)組成物として表現され得る。例えば、不整脈源性疾患を処置するのに用いるためのコネキシン43ポリペプチド発現ベクターを含む実施形態。同様に、各処置法は、医薬の製造で用いるための(1種又は複数種の)組成物として表現され得る。例えば、不整脈源性疾患を処置するための医薬の製造において使用するためのコネキシン43ポリペプチド発現ベクター。
【0058】
本発明は、以下の実施例でより具体的に記述される。これらの実施例は、その内の数多くの修正例及び変形例が当業者に明らかであることから、例示のみを意図する。以下の実施例は本発明の例示を意図するものであり本発明を制限することを意図するものではない。
【0059】
(実施例)
(実施例1:増加されたコネキシン43発現は心筋症の遺伝性モデルにおいて延びた寿命と心臓リズム及び機能の回復とを促進した)
コネキシン43は、異常な電気的、構造的、及び収縮的活性を示す不整脈源性右室心筋症hiPSC由来心筋細胞では失われており、且つ、心臓コネキシン43は心機能不全及び突然死を示すARVCのマウスモデルでは早期に失われた。コネキシン43カルボキシ末端ミメティクα-カルボキシ末端1(CT1)ペプチド及びロチガプチドを用いた細胞内に残された既存のコネキシン43の再配置の試みは失敗したが、このことは、十分なコネキシン43が存在せず、コネキシン43の遺伝的回復がそのレベル及び機能の回復に必要だろうことを示唆していた。
【0060】
Cx43 YFPアデノウイルスを用いて、発明者等は、コネキシン43過剰発現が、PKP2 c.1171-2A>Gを有する重症の構造的に異常なヒトARVC患者のiPSC細胞株(PKP2
mut)で(電場電位を介して測定して)正常な心筋細胞リズム及び(インピーダンスを介して)収縮機能を回復するのに十分であることを示した(
図1A-F)。ウエスタンブロット解析は、コネキシン43過剰発現が、このARVC-hiPSC株で失われることが示されていた接着斑(機械的細胞間結合)タンパク質に影響することなくARVC(PKP2
mut)での機能的変化をレスキューするのにそのままで十分であることが明らかとなった(
図1G)。このことにもかかわらず、いくつかの実施形態では、コネキシン43遺伝子療法は、ARVCでの細胞間結合のさらなる補強のために接着斑タンパク質回復を指向する補助療法とともに用いられ得る。
【0061】
Cx43 YFPアデノウイルスを用いて、本発明者等は、構造的ARVC(PKP2
mut)hiPSC株でのコネキシン43過剰発現のレスキューされた効果が用量依存的であることも示した(
図2)。
【0062】
Cx43 YFPアデノウイルスを用いて、本発明者等は、コネキシン43過剰発現がイソプロテレノール刺激後のDSG2 c.1498 C>Aを有する電気的なARVC-hiPSC株(DSG
mut)でのカテコラミン誘導性不整脈及び機能不全もレスキューできることを示した(
図3A-F)。
【0063】
Cx43 GFPアデノ随伴ウイルス(AAV)コンストラクトを用いて、Cx43 GFP AAVのワンタイム式遺伝子送達が、早期突然死を迎えるARVCの成体マウスモデル(DSP-cKO)において、寿命を延ばし(2倍)、心機能を回復し(2.5倍)、リズムを回復する(1.5倍)ことができる(
図4A-H)。DSP-cKOマウスモデルは上に記載されている。Cx43 GFP AAVを注射された成体DSP-cKOマウスは、AAV注射後3週で死亡が観察された。一方、ウエスタンブロット解析は、このマウスが心臓でCx43を成功裏に発現しなかったこと(おそらく発現する時間が十分になかったこと)を明らかにしたが、このことは生存したDSP-cKOマウスでの延ばされた寿命及び心臓リズム及び機能の回復に重要なのがCx43過剰発現であったことをさらに補強している(
図4H)。
【0064】
本発明者等は、主に電気的な(カテコラミン誘導性障害)及び組み合わさった構造的/電気的特徴を示す2種類のARVC患者株に由来するヒトiPSC由来心筋細胞においてヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期エンハンサー/プロモーターにより駆動されるヒトコネキシン43-黄色蛍光タンパク質タグ付けアデノウイルスを用いて、インビトロでのコンセプトプロトタイプの証明を試験した。対照レベルへのコネキシン43の回復は、発明者等の電気的なARVC-hiPSC株においてカテコラミン誘導性の電気及び収縮障害の両方をレスキューするのに十分であり、且つ、発明者等の組み合わさった構造的及び電気的なARVC-hiPSC株において基礎の及びカテコラミン誘導性の電気及び収縮障害をレスキューするのに十分であった(
図1-3)。本発明者等は、ワンタイム式の送達法(眼窩後送達)を用いてウイルスがARVCを持つ後期疾患マウス心臓(DSP-cKOマウス)に成功裏に送達され且つ発現され得ることを示すために、ヒトコネキシン43を持ち且つ緑色蛍光タンパク質でタグ付けされている心臓トロポニンT駆動アデノ随伴ウイルス(心臓向性血清型9)も作った。本発明者等は、ウイルスを受けて生存したDSP-cKOマウス(AAV注射後6週、しっかりしたコネキシン43タンパク質発現を示す)に対するウイルスを受けて死亡したDSP-cKOマウス(AAV注射後3週、コネキシン43タンパク質発現を示さない)に基づいて、Cx43 AAVが最適に発現されるためには、2.4×10
11ウイルスゲノム/マウスの用量で3-6週かかる可能性があることも示した(
図4)。本発明者等は、さらに、ウイルスを受け且つしっかりしたコネキシン43タンパク質発現を示したDSP-cKOマウスが、より長生きし(2倍)、また、改善された心機能(2.5倍)及びリズム(1.5倍)を示すことを示す(
図4)。本発明者等は、このAAVウイルスが本研究の期間を通して対照マウスでの心臓の電気及び収縮機能に影響を与えないことも示す(AAV注射後5週で屠殺した)(
図4)。
【0065】
(実施例2:増加されたCx43発現は心肥大の損傷モデルにおいて延びた寿命と心臓リズム及び機能の回復とを促進した)
圧力過負荷誘導性心肥大及び心不全を誘導するため6-8週齢のマウスは4週にわたり横行大動脈縮窄を受ける。マウスはこの4週の期間の後にワンタイム式の眼窩後静脈注射を介して実施例1(上記)で用いられたARVCモデルと同様の用量でCx43遺伝子療法を施される。マウスは、左心室機能及び心臓リズムを監視するためにそれぞれ超音波心臓検査及びテレメトリーを介して1、2、及び4週にわたり連続して監視される。対照に比べて、AAV-Cx43処置マウスは、改善された心機能(左室内径短縮率など)、リズム異常の減少(より少ないPVCなど)、並びに、改善された生存率を有する。感染後の心臓サイズ及び心筋への線維性浸潤を評価するために組織学的解析が行われる。AAV-Cx43処置マウスは対象に比べて圧力過負荷後に減少された心臓サイズ(及び心臓寸法)及びより少ない線維症を示す。
【0066】
特記のない限り、本明細書及び請求項において用いられる、成分、性質(分子量など)、反応条件などの量を表現する全ての数字は、全ての場合について、『約』という用語で修飾されているものとして理解されるべきである。本明細書では、『約』及び『凡そ』という用語は、10から15%、好ましくは、5から10%の範囲にあることを意味する。従って、そうでないことが記載されていない限り、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載の数値パラメータは、本願発明により得ようとする所望の性質に依存して変わり得る概算値である。請求項の範囲への均等論の適用を制限するわけではないが、最低限、各数値パラメータは、報告した有効数字の数を考慮し、通常の丸め手法を適用して解釈されるべきである。本発明の広い範囲を規定する数値範囲及びパラメータは概算値であるものの、特定の実施例に記載の数値は可能な限り精確に報告したものである。数値は、ただし、それぞれの試験測定につきものの標準偏差から必然的に生じるいくらかの誤差を本質的に含む。
【0067】
本発明の文脈において(特に、添付の請求項の文脈において)用いられる単数の表記は、特記がなく且つ文脈に明白に反しない限り、単数及び複数の両方を包括するものと解釈されるべきである。本明細書において数値範囲の記載は、当該範囲に含まれる個々の数値のそれぞれを個別に参照する簡便な方法としての役割を果たすに過ぎない。本明細書に特記のない限り、これらの個々の数値のそれぞれはそれらが本明細書に個別に記載されているものとして本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の方法の全ては、本明細書に特記がなく且つ文脈に明白に反しない限り、任意の適切な順番で実行できる。本明細書に記載の、いかなる実施例及び例示的表現(例えば、「~など」)の使用も、本発明をより明瞭に理解できるようにすることを意図するに過ぎず、これらの実施例及び例示的表現とは異なったやり方で請求項に記載された発明の範囲になんら限定を加えるものではない。本発明に記載のいかなる表現も本発明の実施に必須であるが請求項には記載されていない要素を示すものと解釈してはならない。
【0068】
本明細書に記載の発明の選択的な要素又は実施形態の集合は限定と解釈すべきではない。各集合要素は、個別に参照されたり請求項に記載されたりしてもよいし、本明細書にみられる他の集合要素又は他の要素と組み合わせて参照されたり請求項に記載されたりしてもよい。ある集合の1種類以上の要素が、便宜的理由及び/又は特許的理由で、集合に加入されたり、又は、集合から削除されたりしてもよい。こうした加入や削除が生じた場合も、本明細書は修正後の集合を含むものとみなされ、特許請求の範囲に記載の請求項で用いられるマーカーッシュグループの全てについて記載要件を満たす。
【0069】
本明細書の特定の実施形態は、本発明の実施にあたり発明者が知る中で最善の態様を含んで、本明細書に記載されている。当然ながら、前述の記載に触れた当業者にとってこれら記載の実施形態の変形は明らかであろう。発明者は、当業者であればこうした変形を適切に採用するものと想定し、そして、本発明が本明細書に具体的に記載したのとは異なったやり方で実施されることを意図するものである。従って、本発明は、適用法令により許容されるように、特許請求の範囲に記載の請求項に記載の主題の修正例及び均等物の全てを包含する。さらに、全ての可能な変形形態の上述の要素の組み合わせのいずれも、本明細書に特記がなく且つ文脈に明白に反しない限り、本発明に包含される。
【0070】
本明細書に記載の特定の実施形態は、請求項において、「からなる」又は「から実質的になる」といった表現を用いてさらに限定されてもよい。出願時又は補正時に請求項で用いられる場合、「からなる」という移行句は、請求項で特定されていない、要素、工程、又は成分のいずれをも排除する。「から実質的になる」という移行句は、請求項の範囲を、特定された材料又は工程に加えて、基礎的で新規な性質に本質的な影響を与えないものを含むものに限定する。このように請求項に記載された発明の実施形態は、本明細書に内在的に又は明示的に記載されており、実施可能である。
【0071】
さらに、本明細書を通して特許及び刊行物への数々の参照がなされている。上述の参照及び刊行物のそれぞれはその全体を参照により本明細書で援用する。
【0072】
最後に、本明細書に記載の発明の実施形態は本発明の原理の例示であると理解されたい。採用可能な他の修正例も本発明の範囲に含まれる。そのため、制限ではなく、あくまで一例だが、本発明の代替的な構成を本明細書の教示に従い用いてもよい。従って、本発明は図示及び記載されるまさにそのものに限定されるわけではない。
【0073】
[付記]
[付記1]
処置を必要とする対象において構造型心血管疾患又は病態を処置する方法であって、心筋組織において活性状態であるプロモーターに動作可能に連結されているコネキシン43ポリペプチド配列をコードするベクターの前記対象への投与であって、有効量の前記ベクターの投与の結果として前記対象の心臓の少なくとも一部においてコネキシン43レベルが増加される、投与を含む、方法。
【0074】
[付記2]
前記疾患又は病態は、
不整脈源性右室心筋症、
右室機能不全、
左室機能不全、
心筋の線維脂肪置換、
肥大型心筋症、又は、
不整脈源性疾患での電気的及び生理学的心機能不全、
のうち1つ以上である、付記1に記載の方法。
【0075】
[付記3]
前記コネキシン43ポリペプチド配列はP17302(CXA_1HUMAN、UniProtKB)の382アミノ酸の配列(配列番号1)又はその機能的断片を含む、付記1又は2に記載の方法。
【0076】
[付記4]
前記コネキシン43ポリペプチドをコードする前記配列が配列番号2である、付記3に記載の方法。
【0077】
[付記5]
前記ベクターがウイルスベクターである、付記1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0078】
[付記6]
前記ウイルスベクターはアデノウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)である、付記5に記載の方法。
【0079】
[付記7]
前記AAVベクターは、AAV1、AAV2、又はAAV9の血清型のグループ由来である、付記6に記載の方法。
【0080】
[付記8]
前記プロモーターはCMV前初期エンハンサー/プロモーターである、付記1から7のいずれか1つに記載の方法。
【0081】
[付記9]
前記プロモーターは心臓特異的プロモーターである、付記1から7のいずれか1つに記載の方法。
【0082】
[付記10]
前記プロモーターはトロポニンTプロモーターである、付記9に記載の方法。
【0083】
[付記11]
前記プロモーターは、心臓ミオシン軽鎖プロモーター、心臓ミオシン重鎖プロモーター、又は延長因子1αプロモーター付属心筋αアクチンエンハンサーである、付記9に記載の方法。
【0084】
[付記12]
前記ベクターは局所的又は全身的に投与される、付記1から11のいずれか1つに記載の方法。
【0085】
[付記13]
前記対象は哺乳類である、付記1から12のいずれか1つに記載の方法。
【0086】
[付記14]
前記対象はヒトである、付記13に記載の方法。
【0087】
[付記15]
前記有効量は、前記対象の体重1kg当たり約2×1011から約2×1014ウイルスゲノムである、付記1から14のいずれか1つに記載の方法。
【0088】
[付記16]
前記投与の結果として電気的心機能不全が減少される、付記1から15のいずれか1つに記載の方法。
【0089】
[付記17]
前記投与の結果として生理学的心機能不全が減少される、付記1から16のいずれか1つに記載の方法。
【0090】
[付記18]
前記投与の結果として心臓の構造的完全性が改善される、付記1から17のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
[付記19]
コネキシン43ポリペプチドをコードする核酸配列に動作可能に連結されており心臓組織で活性状態であるプロモーターを含むポリヌクレオチドを含むベクター。
【0092】
[付記20]
前記コネキシン43ポリペプチドはP17302(CXA_1HUMAN、UniProtKB)の382アミノ酸の配列(配列番号1)又はその機能的断片を含む、付記19に記載のベクター。
【0093】
[付記21]
前記プロモーターはヒトCMV前初期エンハンサー/プロモーターである、付記19又は20に記載のベクター。
【0094】
[付記22]
前記プロモーターは心臓トロポニンTプロモーターである、付記19又は20に記載のベクター。
【0095】
[付記23]
前記プロモーターは、心臓ミオシン軽鎖プロモーター、心臓ミオシン重鎖プロモーター、又は延長因子1αプロモーター付属心筋αアクチンエンハンサーである、付記19又は20に記載のベクター。
【0096】
[付記24]
前記ベクターはアデノウイルスベクターである、付記19から23のいずれか1つに記載のベクター。
【0097】
[付記25]
前記ベクターはアデノ随伴ウイルスベクターである、付記19から23のいずれか1つに記載のベクター。
【0098】
[付記26]
前記コネキシン43をコードする前記配列は配列番号2である、付記19から25のいずれか1つに記載のベクター。
【配列表】