(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】腰痛のための抗生物質製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 49/04 20060101AFI20240115BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240115BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240115BHJP
A61K 38/14 20060101ALI20240115BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240115BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20240115BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240115BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240115BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
A61K49/04 210
A61K47/10
A61K45/00
A61K38/14
A61K31/5377
A61P25/04
A61K9/06
A61K9/08
A61P31/04
(21)【出願番号】P 2022108095
(22)【出願日】2022-07-05
(62)【分割の表示】P 2019547196の分割
【原出願日】2017-11-16
【審査請求日】2022-07-05
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519173912
【氏名又は名称】ペルシカ ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PERSICA PHARMACEUTICALS LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】チャプレウスキ、ロイド
(72)【発明者】
【氏名】ゲスト、サラ
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特許第7101694(JP,B2)
【文献】特表2016-533354(JP,A)
【文献】特表2013-508381(JP,A)
【文献】特表2013-508116(JP,A)
【文献】特表2009-538285(JP,A)
【文献】Journal of biomedical materials research. Part A,2010年,Vol. 92, No. 1, pp. 378-85.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00-49/22
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の抗生物質を、必要とする対象の1つ以上の感染した脊椎部位に送達する方法において使用するための注射用医薬組成物であって、
(a)有効量の抗生物質;
(b)熱感受性ヒドロゲル;
(c)放射線造影剤;
(d)少なくとも1種の薬学的に許容され得る賦形剤
を含み、
前記熱感受性ヒドロゲルが、ポロキサマー407からなり、前記ポロキサマー407が、前記組成物の重量又は体積に基づいて2%~20%で存在し、
前記放射線造影剤が、イオヘキソールであり、
前記組成物が、4℃~25℃の温度において水溶液であり、前記水溶液は、32℃~38℃の温度においてゲル化する、組成物。
【請求項2】
前記抗生物質が、バンコマイシン又はリネゾリドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記抗生物質が、前記組成物の重量又は体積に基づいて2.5%~20%で前記組成物に負荷されたリネゾリドである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗生物質が、前記組成物の重量又は体積に基づいて1%~30%で前記組成物に負荷されたバンコマイシンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
前記抗生物質が、1つ以上の椎間板、椎骨、椎間板腔、又は、前記脊椎に関連した関節、靱帯、及び腱に送達される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記抗生物質が、前記脊椎の同一側から又は前記脊椎の両側から、複数の椎間板内に送達される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記抗生物質が、前記脊椎の構造又は空間内に配置される針を用いた注射により送達される、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
前記対象が、
慢性の腰痛を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰痛を緩和するための、抗生物質を負荷した熱感受性ヒドロゲルを含む注射用医薬組成物に関する。特に、注射用組成物は、バンコマイシン又はリネゾリドを負荷したポロキサマー系熱感受性ヒドロゲルを含む。
【背景技術】
【0002】
腰痛(lower back pain)又は腰痛(low back pain)(LBP)は、世界中の一般的集団に共通している。アメリカ国立神経疾患・脳卒中研究所は、ほぼ全ての人がその人生において何度か腰痛を経験するという腰痛ファーストシートを発行した。しかしながら、LBPを有する患者の一部(およそ20%)のみが、病理解剖学的原因の存在又は提示に基づいて診断可能であることが報告されている(非特許文献1)。その結果、およそ80%のLBP患者は「非特異的LBP」として分類されている。このように、腰痛を診断及び治療することは困難である。
【0003】
LBPは異なる脊椎病理に関連するが、MRI上のモディック(Modic)変化(骨浮腫)と、非特異的LBPとの間に、4.5の平均オッズ比(OR)で関連性があることが示されている。ジェンセン(Jensen)らによる最近の体系的な概説は、非特異的LBPを有する患者における任意の型のモディック変化(例えば、I~III型)の有症率は、一般的集団の6%に対して46%であることを示した(非特許文献2)。これらの知見は、慢性腰痛(CLBP)が特定の病理解剖学的原因に確実に起因し得ることは殆どないため妥当である。キャー(Kjaer)らも、一般的集団からの40歳の412人のサンプルにおいて、特にモディック1型変化(MCI)に関して、モディック変化とLBPとの間の強い関連性を、この1年で観察した(非特許文献3)。アルバート(Albert)らによる研究では、坐骨神経痛を有する166人の患者(腰椎椎間板ヘルニアからの92%)が評価された(非特許文献4)。全員が急性段階及びその後の経過観察において磁気共鳴断層撮影(MRI)スキャンを有した。経過観察では、モディック変化を有する60%の患者がLBPを患い、一方モディック変化を有さないグループでは20%のみがLBPを有した(平均オッズ比(OR)6.1(2.9~13.1))(p<0.0001)。モディック変化の有病率は、14カ月で25%から49%に増大した。
【0004】
椎骨内の浮腫(又は炎症)により特徴付けられるモディック変化は、変性の領域を有する終板の破壊及び亀裂(例えば、変性椎間板)、再生、反応性骨形成、終板浮腫、及び組織の血管造粒を含む(非特許文献5;及び非特許文献6)。モディック変化の病理は、感染に関連すると仮定されている。椎間板/終板損傷と炎症性刺激の持続が素因的状態を構成する疾病モデルが示唆されている。モディック変化を発症する危険性は、椎間板の炎症可能性と、骨髄がそれに応答する能力とに依存する可能性がある。非化膿性椎間板内のプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)は、モディック変化及び非特異的腰痛の原因となる1つの病原体であると考えられている。スターリング(Stirling)らは、53%の患者で、腰椎椎間板ヘルニアの手術中の厳格な無菌条件下で除去された核組織が、毒性が低い嫌気性生物、プロピオニバウテリウム・アクネス(Proprionibacterium acnes)(P.acnes)及びコリネバクテリウム・プロピンキウム(Corynebaterium propinquum)で感染していることを見出した(非特許文献7)。コルシア(Corsia)らは、スターリング(Stirling)の研究を反復し、30の腰椎椎間板ヘルニアの突出した椎間板材料を排除した:71%が感染し、36%がスタフィロコッカス(Staphylococcus)を有し、18%がプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)を有し;また30の頸部椎間板ヘルニアにおいて、コルシアらは、59%が感染し、37%がプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acne)を有することを見出した(非特許文献8)(2003))。アガーワル(Agarwal)らは、52人の患者からの材料を培養し、10(19%)が感染し、その70%においてプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)が単離された唯一の生物であることを見出した(非特許文献9)。モディック変化及び椎間板変性に関連した患者から単離したプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)は、椎間板内に接種された場合、椎間板変性及びモディック変化を誘導し得る(非特許文献10;及び非特許文献11)。最近の研究により、MCIを有する症候性ヒトL4/5椎間板から無菌的に単離されたプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)の、ラット尾部椎間板内への接種から数週間以内に、プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)は増殖し、炎症性反応及び変性を誘導し、隣接する骨髄内のMCI様変化を生じさせることも示された(非特許文献12)。
【0005】
口腔及び皮膚からの嫌気性細菌(プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)のような)が椎間板へ到達し得る可能性が仮定されている。隣接する骨内の局所炎症はサイトカイン及びプロピオン酸産生による2次効果であり得、ここで感染は椎間板内であり、モディック変化は、骨内に現れる「副作用」である。
【0006】
腰椎椎間板ヘルニアの手術を受けている61人の免疫適格性患者のコホート研究では、厳格な無菌条件下での手術中に核材料を除去し、細菌の存在に関して試験した。この研究により、46%の患者が感染した核材料を有し、この84%がプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)を有することが明らかとなった。特定された感染又は好気性細菌感染を有さない44%のみと比較して、嫌気性細菌が培養された椎間板を有する80%の患者が、以前の椎間板ヘルニアに隣接する椎骨内で新たなモディック変化を発症したことも示された(非特許文献13)。
【0007】
抗生物質療法は、慢性腰痛(モディック1型変化を有する椎間板ヘルニア)の治療に有効であり得る。1つの背景研究では、モディック変化に関連した2年までの持続期間を有する腰椎椎間板ヘルニア後にCLBPを有する32人の患者をアモキシシリン-クラブラン酸塩(500mg/125mg)で1日3回、90日間、経口治療した。3人の患者が下痢により脱落した。治療の終了時及び長期間経過観察時(平均10.8カ月)に、治療を完了した患者の全結果測定において、臨床的に重要及び統計的に有意(p<0.001)な両方の改善が存在した(32中29)(非特許文献14)。アルバートらが実施した抗生物質(アモキシシリン/クラブラン酸)の経口投与に関する別の研究(非特許文献15)は、抗生物質治療を受けた患者は、個人のベースラインスコアの30%低下、及び2LBP評価尺度ポイントの低下を有し、また、下肢痛、最後の4週間中のLBPを有する時間、持続性疼痛、MRIモディック等級、血清分析、及び病欠を伴う日数等の表現型の提示に関して2次的有効性を有することを示した。これらの結果は、細菌感染がモディック変化を有するLBPに関与し得るという仮説に対する支持を提供する。
【0008】
モディック変化及びCLBPを低減する非反復臨床試験において、ステロイド、抗TNF-α抗体、抗生物質及びビスホスホネートの椎間板内注射を含む、いくつかの非外科的治療手法が多少の短期有効性を示しているが、これらの手法のいずれも成功しておらず、議論を招く結果を生じている。モディック変化の理想的な治療法は存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】ワデル(Waddell)著、脊椎(Spine)1987年、第12巻:p.632~44
【文献】ジェンセン(Jensen)ら著、ヨーロピアン・スパイン・ジャーナル(Eur.Spine J.)2008年、第17巻:p.1407~1422
【文献】キャー(Kjaer)ら著、脊椎、2005年、第30巻:p.1173~80
【文献】ヨーロピアン・スパイン・ジャーナル、2007年、第16巻(7):p.977~982
【文献】モディック(Modic)ら著、放射線医学(Radiology)、1988年、第166巻:p.193~199
【文献】モディック(Modic)ら著、放射線医学、1988年、第168巻:p.177~186
【文献】スターリング(Stirling)ら著、ランセット(Lancet)、2001年、第357巻:p.2024~2025
【文献】脊柱側彎研究学会年次総会からの抜粋(Abstract from Scoliosis Research Society Annual Meeting)
【文献】スパイン・ジャーナル(Spine J.)2010年、第10巻:S45~S46
【文献】チェン(Chen)ら著、バイオメド・リサーチ・インターナショナル(Biomed Res Int.)2016年:9612437.doi:10.1155/2016/9612437.Epub 2016年1月26日
【文献】チェン(Chen)ら著、インターナショナル・オルトペディックス(Int Orthop.)2016年、第40巻(6):p.1291~8.doi:10.1007/s00264-016-3115-5.Epub 2016年1月28日
【文献】ダドリ(Dudli)ら著、ジャーナル・オブ・オルトペディック・リサーチ(J Orthop Res.)2016年、第34巻(8):p.1447~1455
【文献】ヨーロピアン・スパイン・ジャーナル、2013年、第22巻(4):p.690~696
【文献】ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディスン(Br.J.Sports Med.)2008年、第42巻:p.969~973
【文献】ヨーロピアン・スパイン・ジャーナル、2013年、第22巻(4):p.697~707
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この背景により、骨、関節、靱帯及び/又は腱の疾病、状態又は疾患と同時に起こることが見出された疼痛、特にモディック変化又は骨浮腫に関連するものの治療、軽減、予防及び/又は緩和に対処するモダリティの必要性が当該技術分野で存在する。本発明は、腰痛を緩和、治療及び予防するための抗生物質の医薬組成物、製剤を提供する。特に、本発明は、疾病椎間板及び椎骨への抗生物質の送達を向上させ、従ってモディック変化及びLBPの治療有効性を改善することができる抗生物質製剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、1つ以上の疼痛タイプ、又は、骨、関節、靱帯若しくは腱の臨床状態と同時に起こる表現型の提示を治療する、予防する、寛解させる、及び/又は緩和するための、感染した脊椎部位への送達に好適な、活性成分としての抗生物質を含む医薬組成物及び製剤を提供する。キット、パッケージ及びそれらの使用方法も提供する。
【0012】
本発明によれば、組成物及び製剤は、低温で水溶液であり、暖かい体温に応答してその場でヒドロゲルを形成する。本発明の製剤は、注射可能かつ熱感受性である。
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、有効量の少なくとも1種の抗生物質を含む。抗生物質は、バンコマイシン及びリネゾリドから選択され得る。一実施形態では、抗生物質は、バンコマイシン塩又は遊離塩基を含むバンコマイシンである。バンコマイシンは、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約50%で医薬組成物に負荷され得る。いくつかの態様では、バンコマイシンは、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約30%又は約1%~約20%又は約2.5%~約20%で負荷され得る。一態様では、組成物は、1%(10mg/ml)、2.5%(25mg/ml)、5%(50mg/ml)、10%(100mg/ml)、20%(200mg/ml)又は50%(500mg/ml)のバンコマイシンを負荷され得る。別の実施形態では、抗生物質はリネゾリドである。リネゾリドは、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~50%で医薬組成物に負荷され得る。いくつかの態様では、リネゾリドは、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約20%又は約2.5%~約20%で負荷され得る。一態様では、組成物は、約1%(10mg/ml)、2.5%(25mg/ml)、5%(50mg/ml)、10%(100mg/ml)、20%(200mg/ml)又は50%(500mg/ml)のリネゾリドを含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、温度の上昇に応答してヒドロゲルを形成する、少なくとも1種の薬学的に許容され得る生分解性及び生体適合性ポリマーを含む。いくつかの態様では、熱感受性ポリマーはポロキサマー407である。本発明の医薬組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、約5%~約20%でポロキサマー407を含むことができる。好ましくは本発明の医薬組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、約10%~約20%でポロキサマー407を含むことができる。本発明の医薬組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、約5%~約20%でポロキサマー188等の他のポロキサマーを更に含むことができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、リネゾリドの可溶性を増大させるための1種以上の賦形剤を更に含むことができる。いくつかの態様では、賦形剤は、シクロデキストリンである。組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、約15%~約40%のシクロデキストリンを含むことができる。一例では、組成物は、約20%、25%又は30%のシクロデキストリンを含むことができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、注射を容易にするためにビヒクルとして調製することができる。一態様では、注射を容易にするビヒクルは、放射線不透過性染料、例えばイオヘキサール、イオパミドール、イオキシラン、イオプロミド、イオジキサノール、ジアトリゾエート、メトリゾエート又はイオキサグレートを含む。本発明の組成物を含む注射用ビヒクルは、椎骨等の骨、関節、靱帯又は腱に、又はこれらの付近に、局所的に投与され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、組成物は、抗生物質を局所送達するための注射用熱感受性ヒドロゲルを形成することができる。最適な製剤は、腰痛の局所治療のための有効量の抗生物質を提供する。
【0017】
本発明の製剤は、腰椎椎間板及び/又は隣接する椎骨、靱帯、筋肉及び関節において必要とする対象に適用され、適用は、開放手術又は注射又は顕微手術若しくは経皮技術により行われる。
【0018】
いくつかの実施形態では、本発明は、本発明の組成物、ビヒクル、並びに本発明の無菌注射用製剤を投与するためのシリンジ及び/又は針を含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】バンコマイシンを用いた予防的治療後のスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)増殖を示す図。
【
図2】ポロキサマーヒドロゲル中に製剤化されたバンコマイシン及びリネゾリドの代表的な累積放出を示す図。
【
図3】治療モデルにおける、異なる製剤中のリネゾリド及びバンコマイシンを投与された際の椎間板当たりの細菌スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)負荷量(burden)の評価を示す図。
【
図4】異なる製剤中のリネゾリド及びバンコマイシンを投与された際の無菌椎間板の百分率のヒストグラムである図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述では、続く本発明の詳細な説明をより深く理解できるように、本発明の特徴及び技術を幾分広く概略した。本発明の更なる特徴及び利点は、以後本明細書に記載され、本発明の特許請求の範囲の対象となる。開示されている概念及び特定の実施形態は、本発明の同じ目的を実行するために、他の構造に修正し又は該構造を設計するための基礎として容易に活用できることが当業者により認識される筈である。また、そのような等価な構造が添付の特許請求の範囲に示す本発明の趣旨及び範囲から逸脱しないことを当業者は気付く筈である。本発明の特質であると考えられる新規な特徴は、その組織化及び操作方法の両方に関して、添付の図面に関連して考慮した場合、更なる目的及び利点と共に、以下の明細書からより深く理解されるであろう。しかしながら、各図面は例示及び説明のみを目的として提供され、本発明の限定の定義として意図するものではないことは明白に理解されるべきである。
【0021】
本発明は、治療する必要がある部位に密に隣接した疾病部位(1つ/複数)又は領域への有効量の活性医薬の局所及び制御送達に関する。活性薬物は、温度変化に応答して分解性ゲルを形成する熱感受性ポリマー中に製剤化される。標的部位に投与するのに十分長い時間、低温又は室温で水溶液である、これらの熱感受性担体は、体温でその場でゲルを形成し、運んだ活性薬物を標的部位に放出する。そのような製剤及び投与は、標的部位での活性薬物の量を増大させることができる。
【0022】
本発明は、腰痛が、多くの場合、細菌感染が認められるモディック変化及び椎間板ヘルニアに関連しているとのヒト研究での発見に基づくものである。従って、特に細菌感染を原因とするモディック変化又は骨浮腫との関連性が存在する、骨、関節、靱帯及び/又は腱の疾病、状態又は疾患と同時に起こることが見出された1つ以上のタイプの疼痛又は表現型の提示を治療する、予防する、寛解させる、及び/又は緩和する医薬組成物、製剤及び方法が提供される。特に、感染部位の付近の部位に容易に注射でき、患者における疼痛の治療を提供する製剤も本発明に提供される。
【0023】
以前の研究では、バンコマイシンの制御及び持効性放出のために、バンコマイシンをポロキサマーマトリクス中に分散させ得ることが示されている。この組み合わせは、ポロキサマーマトリクスのレオロジー特性又はバンコマイシンの抗生物質活性に影響を与えない(ベイリース(Veyries)ら著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティックス(Int.J.Pharm.)、1999年、第192巻(2):p.183~193)。これらの以前の研究では、ポロキサマー等の熱感受性ポリマーが薬物送達ビヒクルとして有用であり得ることが示されている。
【0024】
カロレヴィッチ(Kalorewicz)ら(ポリマーズ・イン・メディスン(Polim.Med)、2011年、第41巻(4)p.3~15)は、インビトロでの研究において、25%プルロニックF-127溶液中に分散されたバンコマイシンは、温度上昇に応答してゲルに変換され得ることを示した。バンコマイシンはヒドロゲルから放出される。バンコマイシンは、MRSA(メチシリンメシチリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus))を感染した耳に局所送達するためにポロキサマー407と共に製剤化されている。ゲルマトリクスからのバンコマイシンの持続性局所送達は、前臨床モデルにおいて、MRSA成長を効果的に阻害し、MRSA感染を原因とする中耳炎を完全に治癒させる(リー(Lee)ら著、ジャーナル・オブ・コントロール・リリース(J Control Release)、2004年、第96巻(1):p.1~7)。
【0025】
本発明によれば、臨床状態と同時に起こる疼痛又は表現型の提示の治療、軽減、予防又は緩和に有用な組成物、製剤及び方法が記載される。疼痛のタイプは、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性又は持続性疼痛、局所疼痛、神経根疼痛、関連痛、体性疼痛、放散痛、神経因性疼痛、炎症性疼痛、及び混合性又は非特異的起源の疼痛を含むが、それらに限定されない。疼痛は、四肢、筋肉、皮膚、関節又は深部組織又は器官を含む様々な身体部分に存在し得る。従って、疼痛は、腕、脚、手、足、頸部、関節、骨盤又は脊椎(頸椎、胸椎、腰椎又は仙椎を含む)に存在し得る。
【0026】
対象により知覚又は経験される、任意の外向きの症状として定義される表現型の提示は、任意のタイプの疼痛、一般に、疼痛に起因した夜間の睡眠障害、バルサルバ法中の疼痛、腰椎脊椎の能動的屈曲中の疼痛、腰椎脊椎の能動的伸長中の疼痛、陽性の頭部圧迫試験、スプリンギング試験中の疼痛、寝床での寝返りの困難さ、椅子から外れる困難さ、階段を上る困難さ、屈曲する又はひざまずく困難さ、及び起立又は長時間の徒歩の困難さを含み得るが、それらに限定されない。表現型の提示は、任意の種類の疼痛のもの、疼痛に付随するもの、又は疼痛の病因(又は結果)であり得る。
【0027】
疼痛と同時に起こる骨、関節、靱帯及び/又は腱の疾病、状態又は疾患は:モディック変化、骨浮腫、腰椎椎間板ヘルニア、腱炎、腱断裂、靱帯炎症、靱帯断裂、恥骨結合開離、骨盤帯痛症候群、及びショイエルマン病を含むが、それらに限定されない。
【0028】
疼痛又は表現型の提示は、(1)疾病、状態又は疾患を原因とする、(2)疾病、状態又は疾患と同時に生じる、(3)疾病状態又は疾患の部位に若しくは該部位に近接して存在する、又は(4)前述の任意の組み合わせであってもよい。疼痛は、存在する場合、疾病特異的能力障害ローランド・モリス(Roland Morris)質問票(RMDQ)、腰椎背痛評価尺度(LBPRS)、最後の4週間中の腰痛を有する時間、SF-36健康質問票、EQ-5D健康質問票、疼痛に起因する病欠の日数、患者により報告される煩わしさ(bothersomeness)を用いて測定することができる。RMDQ、LBPRS、SF36及びEQ-5D健康質問票は全てよく認識されており、広く使用されている評価システムである。腰痛の原因となる疾病の例は、関節炎、広汎性特発性骨増殖症(DISH又はフォレスティエ病)、坐骨神経痛、変性性椎間板疾病、腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症、椎間板ヘルニア、脊柱側弯症、神経根症、関節機能不全、尾骨痛、子宮内膜症及び骨粗鬆症を含む。
【0029】
I.本発明の組成物
本発明の医薬組成物及び製剤は、抗生物質構成成分を1種以上の薬学的に許容され得る担体又は賦形剤と組み合わせて含んでおり、疼痛を治療し、予防し、寛解させ又は緩和する。医薬組成物及び製剤は、場合により1種以上の追加の活性物質、例えば治療的及び/又は予防的活性物質を含むことができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、組成物は、ヒト、ヒト患者又は対象に投与される。本開示の目的において、用語「活性成分」は、一般に、本明細書に記載されるように送達される抗生物質又は抗生物質の組み合わせを指す。
【0031】
本明細書に記載される医薬組成物の製剤は、既知の方法又は薬学の分野で今後開発される任意の方法により調製することができる。一般に、そのような調製方法は、活性成分を賦形剤及び/又は1種以上の他の付属成分と関連させた後、必要であれば及び/又は望ましい場合、製品を所望の単一又は多用量単位に分割、成形及び/又は包装するステップを含む。
【0032】
本発明による医薬組成物は、単回単位用量として、及び/又は複数の単回単位用量として、バルクで調製、包装、及び/又は販売され得る。本明細書で使用されるとき、「単位用量」は、所定の量の活性成分を含む医薬組成物の個別の量である。活性成分の量は、一般に、対象に投与されるであろう活性成分の投与量、及び/又は、そのような投与量の都合のよい部分、例えば、そのような投与量の2分の1、又は3分の1に等しい。
【0033】
本発明の医薬組成物は、熱感受性ヒドロゲル中に製剤化された治療的有効量の抗生物質と、少なくとも1種の薬学的に許容され得る担体又は賦形剤とを含むことができる。本発明による医薬組成物中の活性成分(即ち、抗生物質)、薬学的に許容され得る賦形剤、及び/又は任意の追加の成分の相対的な量は、治療される対象のアイデンティティー、大きさ及び/又は状態に応じて、及び更に、組成物が投与される経路に応じて変動するであろう。例として、医薬組成物は、0.1%~100%、例えば0.5%~50%、1~30%、5~60%、10~80%、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%又は少なくとも50%の活性成分を組成物中に含むことができる。
【0034】
本発明による医薬組成物は、注射用であり得る。注射用医薬組成物は、椎間板、椎間腔、関節内腔、靱帯、腱、腱及び骨接合部、又は骨浮腫に隣接する部位に注射されるように製剤化される。注射製剤は、低温で溶液であるが、体温でゲル化する溶液を形成する少なくとも1種のポリマーを含む。熱感受性ヒドロゲルは、抗生物質が感染に対して有効な注射部位に、負荷された抗生物質を運ぶ。本発明のゲル化製剤は、抗生物質が椎間板組織内に拡散するように、十分長い時間注射された場所に留まることができる。この特性は、注射針が引き抜かれた際にかなりの流体投与物が急速に漏出し得る、損傷した椎間板内で特に有益である。
【0035】
いくつかの例では、組成物は、少なくとも他の抗炎症剤又は他の抗感染剤を含むことができる。詳細には(In particle)、注射用組成物は、バンコマイシン又はリネゾリドを負荷されたポロキサマー系熱感受性ヒドロゲルを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、本発明による注射用医薬組成物は、造影剤を含むことができる。造影剤は、イオヘキソール、イオパミドール、イオプロミド、イオキシラン、イオジキサノール、イオベルソール、ジアトリゾエート、メトリゾエート、イオタラメート及びイオキサグレートを含むがそれらに限定されないイオン性剤又は非イオン性剤であり得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、本発明の注射用医薬組成物は、少なくとも1種の薬学的に許容され得る担体又は賦形剤を更に含むことができる。いくつかの態様では、賦形剤は、シクロデキストリンであってもよい。
活性成分
背景技術で記載したように、腰痛は、多くの場合、腰椎椎間板ヘルニア後のモディック変化に密接に関係している。多くの場合、腰椎椎間板ヘルニアの核組織内に嫌気性細菌が認められるため、活性成分としての少なくとも1種の抗生物質を含む本発明の医薬組成物は、腰痛を有する患者、又は腰痛を発症する危険性のある患者に投与され得る。いくつかの実施形態では、治療薬が投与される対象は、骨、関節、靱帯若しくは腱に、又は骨、関節、靱帯若しくは腱の付近に、疼痛を患う又は疼痛を発症する危険性がある。
【0038】
本発明の活性薬剤は、1種以上の標的細菌を殺滅又は阻害する任意の抗生物質を含む。本発明の医薬組成物中において使用するのに好適な抗生物質の代表的なクラスには、β-ラクタム類(ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、モノバクタム、及びその他を含む)、オキサゾリジノン、アミノグリコシド、糖ペプチド、リポペプチド、及びグリシルサイクリンが挙げられる。本発明の医薬組成物中において使用するのに好適な抗生物質の更なる代表的なクラスには、バンコマイシン、リネゾリド、エリスロマイシン、リファンピシン、シプロフロキサシン、フシジン酸、テトラサイクリン、クリンダマイシン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、イミペナム、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、セフォタキシム、テイコプラニン、オフロキサシン、メトロニダゾール、ホスホマイシン、ピペラシリン、メロペネム、トレゾリド、ラデゾリド、トブラマイシン、レタパムリン、ダプトマイシン、テラバンシン、セフタロリン、セフトビプロール、オリチタバンシン(ortitavancin)、ダルババンシン、ソリスロマイシン又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
活性薬剤の選択は、モディック椎間板から単離される細菌性病原体に依存し得る。モディック椎間板から最も高頻度で単離される細菌性病原体は、スタフィロコッカス属(Staphylococcus spp.)及びプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)である。抗生物質耐性は、世界中の異なる集団及び領域において様々である。強固で広く有効な治療法を有するために、プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)及びスタフィロコッカス(Staphylococcus)、又は最小限プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)に対する共通の耐性をカバーすることが好ましい。好ましくは、モディック変化に関連した感染部位で単離された病原体の耐性プロファイルを考慮して、任意の感染部位に由来する現在の臨床分離株に有効な抗生物質を、本発明の組成物及び製剤の活性薬剤として選択することができる。
【0040】
例えば、本発明の医薬製剤は、モディック椎間板から最も高頻度で単離される細菌性病原体であるスタフィロコッカス属(Staphylococcus spp.)及びプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)の両方を治療するための活性薬剤を含むことができる。いくつかの態様では、本発明の医薬製剤は、研究された感染の大部分、約38%のモディック1型患者の原因となるプロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)の感染の治療用の少なくとも1種の抗生物質を含むことができる。プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)及びスタフィロコッカス属(Staphylococcus spp.)の各々に対する多数の潜在的な抗菌療法を用いた以前の治療による証拠により、病原菌の少なくとも1種に対して(again)有効な数種の抗生物質が特定された。プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)に対する例示的な抗生物質には、クロラムフェニコール、リネゾリド、レタパムリン、ストレプトマイシン、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン、ダルババンシン及びリファンピシンが挙げられる。スタフィロコッカス(Staphylococcus)に対する例示的な抗生物質には、リネゾリド、レタパムリン、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン、テレバンシン(Televancin)、ダルババンシン、リファンピシン及びネチルマイシンが挙げられる。
【0041】
本発明によれば、プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)及びスタフィロコッカス(Staphylococci)の両方に対して有効な抗生物質が、本発明の組成物及び製剤の活性薬剤として選択され得る。いくつかの実施形態では、プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)及びスタフィロコッカス(Staphylococci)の両方に対して有効な抗生物質の組み合わせが選択され得る。そのような抗生物質は、リネゾリド、レタパムリン、バンコマイシン、テイコプラニン、ダプトマイシン、テレバンシン(Televancin)、ダルババンシン及びリファンピシンから選択され得る。好ましくは、そのような抗生物質は、リネゾリド及びバンコマイシンであり得る。
【0042】
一実施形態において、抗生物質はバンコマイシンである。バンコマイシンは、スタフィロコッカス(Staphylococcus)及びエンテロコッカス(Enterococcus)を含むグラム陽性細菌に対する親水性糖ペプチドである。バンコマイシンは、重篤なグラム陽性感染の治療におけるその有効性に起因して一般的に使用されている(オルソン(Olsson)ら著、APMIS.2012年、第120巻(10):p.778~785)。多様な患者集団からのバンコマイシンに関する薬物動態パラメータ、及び血清バンコマイシン濃度-時間プロファイルは、よく特徴付けられている。比較的狭い範囲内のバンコマイシン濃度の標的化により、毒性を最小限にした上に治療的成功を達成できることが予想される。濃度-時間曲線下面積(AUC):最小阻害濃度(MIC)比は、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)を根絶するために、バンコマイシン有効性を予測するための最も有用な薬物動態パラメータであることが米国感染症学会によって推奨されている(ライバック(Rybak)ら著、アメリカン・ジャーナル・オブ・ヘルス・システム・ファーマシー(American J.Health system Pharmacy)、2009年、第66巻(1):p.82~98)。バンコマイシンの濃度を増大させ、かつその毒性を低減する投与戦略は、細菌の根絶及び感染の治療の有効性を増強することができる。バンコマイシンは、例えば脊椎手術の際に、感染に対して安全に使用できることも示されている(ガンス(Gans)ら著、脊椎(フィラデルフィア、Pa 1976年).2013年、第38巻(19):p.1703~1707;及びスィート(Sweet)ら著、脊椎(フィラデルフィア、Pa 1976年).2011年、第36巻(24):p.2084~2088)。本発明の状況において、モディック変化の原因となる感染に対するバンコマイシンの有効性は、感染した骨、関節、靱帯及び腱の領域に対してバンコマイシンを十分に暴露することに依存する。
【0043】
別の実施形態では、抗生物質はリネゾリドである。リネゾリドは、ストレプトコッカス(streptococci)、バンコマイシン耐性エンテロコッカス(enterococci)(VRE)、及びメチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(MRSA)を含む、疾病の原因となる殆どのグラム陽性細菌に対して最初に臨床的に使用されたオキサゾリジノンである(ゴーディン(Gaudin)ら著、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・クリニカル・ミクロバイオロジー・インフェクシャス・ディジーズ(Eur J Clin Microbiol Infect Dis.)2013年、第32巻(2):p.195~198)。リネゾリドは、心内膜炎及び菌血症、骨髄炎、関節感染及び結核を有する患者の治療に首尾よく使用されており、また他の治療法が失敗した場合、合併感染の治療に度々使用されている(ゴーチェ(Gautier)ら著、JM.ジャーナル・オブ・バイオマテリアルス・アプリケーション(J Biomater Appl.)2012年、第26巻(7):p.811~828;ツィオリス(Tsiolis)ら著、サージカル・インフェクションズ(Surg Infect)(Larchmt).2011年、第12巻(2):p.131~135)。リネゾリドの長期使用(例えば、2週間を超える)は、重大な副作用を引き起こす場合がある(ファラガス(Falagas)ら著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・アンチミクロバイアル・エージェンツ(Int.J Antimic Agents)、2007年、第29巻(3):p.233~239)。リネゾリドは、健康な志願者において、およそ100%のバイオアベイラビリティで良好に吸収される。リネゾリドは、組織に比較的早く浸透して、4mg/LでそのMICに達することができる。リネゾリドはまた、椎間板及び周囲組織に浸透することができる(コマツ(Komatsu)ら著、ヨーロピアン・スパイン・ジャーナル、2010年、第19巻(12):p.2149~2155)。リネゾリドのより高い成功率は、80~120のAUC:MIC値、及び濃度が全投与間隔においてMIC超に留まる場合に生じ得る(ドライデン(Dryden)、ジャーナル・オブ・アンチミクロバイアル・ケモセラピー(J.Antimicrob.Chemother.)2011年、第66巻(suppl 4):iv7~iv15により概説)。
【0044】
有効量の本発明の組成物は、少なくとも部分的に、標的細菌、投与手段及び他の決定因子に基づいて提供される。一般に、有効量の組成物は、標的細菌の効率的な殺滅又は阻害を提供し、患者における疼痛又は疼痛を発症する危険性を低減する。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明の抗生物質の有効な投与レベルは、標的細菌の最小阻害濃度(MIC)を超える。
特定の実施形態では、標的細菌は、プロピオニバウテリウム・アクネス(P.acnes)、コリネバクテリウム・プロピンキウム(Corynebaterium propinquum)又はスタフィロコッカス(Staphylococcus)属のもの等の嫌気性細菌である。
【0046】
特定の実施形態では、1種以上の抗生物質を含む併用療法が提供される。抗生物質は、バンコマイシン及びリネゾリドであり得る。
I.コンパニオン薬物
コンパニオン(即ち、組み合わせで提供される薬物)薬物を本発明の活性成分と共に投与することができる。特定の実施形態では、アスピリン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ナプロキセン、セファコキシブ、ロフェコキシブ、パレコキシブ、セレコキシブ、バルデコキシブ及びインドメタシン等の抗炎症薬薬物も投与される。特定の実施形態では、アセトアミノフェン、モルヒネ、オキシコドン及びコデイン等の疼痛緩和薬も投与される。コンパニオン薬物は、店頭の疼痛緩和パッチ、薬物及び/又は軟膏も含むことができる。
【0047】
造影剤
以前の研究は、バンコマイシン及びリネゾリドを含む抗生物質を封入したポロキサマーを、抗生物質の制御放出及び徐放に使用して、細菌増殖の阻害におけるその有効性を増大させることができることを示しているが(ベイリースら著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ファーマシューティックス、1999年、第192巻(2):p.183~193;ベイリースら著、アンチミクロバイアル・エージェンツ・アンド・ケモセラピー(Antimicrob Agents Chemother.)、2000年、第44巻(4):p.1093~1096;カロレヴィッチら著、ポリマーズ・イン・メディスン、2011年、第41巻(4)p.3~15;及びリーら著、ジャーナル・オブ・コントロール・リリース、2004年、第96巻(1):p.1~7)、これらの以前の研究のいずれも、例えば造影剤等の他の医薬担体の添加による効果を研究していない。本発明で実施した実験では、疾病部位へのその送達を監視するために、バンコマイシン又はリネゾリドを含む製剤に造影剤イオヘキソールを添加することによって、組成物の放射線可視性が増大することが示された。
【0048】
本発明によれば、本発明の抗生物質組成物は、放射線造影剤を含むことができる。本抗生物質製剤中に放射線造影剤を添加することにより、臨床実務者(医師のような)が蛍光透視法を使用して、投与されている製品を視認すること及び投与されている椎間板の状態を監視することが援助されるであろう。このリアルタイム情報は、椎間板が満たされ漏洩が開始された際に、いつ注射を止めるかを実務者が決定することを助けることができる。造影剤は、ジアトリゾエート、メトリゾエート及びイオキサグレート等から選択されるイオン性剤、又はイオヘキソール、イオパミドール、イオプロミド、イオジキサノール、イオキシラン、イオベルソール等から選択される非イオン性造影剤であってもよい。好ましくは、造影剤は非イオン性剤である。
【0049】
II.医薬製剤
本発明は、本明細書で論じた抗生物質組成物を疾病部位(1つ又は複数)に投与して、疼痛を治療し、予防し、寛解させ又は緩和し、及び同時に頸椎、胸椎、腰椎又は仙椎における細菌感染を排除する医薬製剤を提供する。製剤は、1種以上の薬学的に許容され得る担体又は賦形剤と組み合わせた抗生物質組成物及び複合体を含むことができる。医薬品の調製及び/又は製造における一般的な留意事項は、例えばレミントン(Remington)著:サイエンス・アンド・プラクティス・オブ・ファーマシー(The Science and Practice of Pharmacy)第21版、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス(Lippincott Williams &
Wilkins)、2005年(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に見出すことができる。
【0050】
バンコマイシン及び/又はリネゾリド等の抗生物質は、必要とする対象に投与するために、送達ビヒクル中に封入され得る。加えて、製剤は、抗生物質の安定性及び可溶性を増大させることができる。送達ビヒクルは、注射に好適であり得る。例えば、送達ビヒクルは、水溶液、低粘稠溶液又は可逆的熱ゲル(thermogel)であってもよい。ビヒクルは、好ましくは生分解性及び生体適合性担体である。本明細書で使用されるとき、用語「生分解性」及び「生体吸収性」は交換可能に使用される。本発明の状況における生分解又は生体吸収は、生体環境内で、生きた生物の作用を介して、最も注目すべきことには生理学的pH及び温度で、製剤化された治療的活性成分を放出した後の、送達材料の分解、解体、消化又は消失を指す。特定の反応には、化学的又は酵素的分解が挙げられるが、それらに限定されない。
【0051】
本発明の抗生物質及び組成物の製剤化に使用される生分解性担体は、ヒアルロン酸(HA)、熱感受性ヒドロゲル及び他の高分子生体材料であり得る。
熱感受性ヒドロゲル
薬物送達に使用される熱感受性ヒドロゲル生体材料。特に、生理学的温度付近の溶液-ゲル転移温度を有する注射用熱感受性ヒドロゲルが有用である。熱感受性ヒドロゲルは、低温(例えば室温)で液体である。インビボでの注射によって、ヒドロゲルは体温で非流動/硬質ゲルを形成した。溶液からゲルへの相転移温度は、下限臨界溶液温度(LCST)と称されている。ゲルは、数時間又は数日で分解する。製剤中の構成成分の濃度を変化させることにより、ゲルのLCST又は分解速度等の特性を微調整することができる。医薬品を組み込んだ後、ヒドロゲルシステムは、その場で持続薬物放出デポーとして機能することができる。注射用熱感受性ヒドロゲルシステムは、薬物調製の単純さ、薬物用の保護環境、長期かつ局所的な薬物送達、及び適用の容易さを含む多数の利点を有する。
【0052】
熱感受性ヒドロゲルは、合成ポリマー、天然ポリマー又はそれらの組み合わせから構成することができる。医薬(例えば抗生物質)及び適切な担体を、ゲル化前にインビトロで前駆体ポリマー溶液と混合し、インビボでの投与後に薬物負荷ヒドロゲルがその場で形成され得る。
【0053】
いくつかの実施形態では、熱感受性ヒドロゲルは、合成ポリマーにより形成することができる。合成ポリマーは、ポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)-ポリ(エチレンオキシド)(PEO-PPO-PPO)トリブロックコポリマー(ポロキサマー(Poloxamers)(登録商標)又はプルロニック(Pluronics)(登録商標)としても既知)及びその誘導体、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)系(PNIPAAM)コポリマー及びその誘導体、ポリ(オルガノホスファゼン)、及びポリ(エチレングリコール)(PEG)/生分解性ポリエステルコポリマーを含むが、それらに限定されない。
【0054】
ポロキサマー(登録商標)又はプルロニック(登録商標)は、FDA承認の熱感受性合成ポリマーである。ポロキサマーは、ポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖が隣接するポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の中央疎水性鎖から構成された非イオン性トリブロックコポリマーである。生体適合性ポロキサマーは、薬物送達及び組織エンジニアリングに広く使用されている。ポロキサマー系ヒドロゲルは、PEO及びPPOの組成、及び全体の分子量及び濃度を調整することによって、特定の生理学的温度及びpH下で可逆的ゲル化が可能である。薬物送達に使用されているポロキサマーは、ポロキサマー(登録商標)188(プルロニック(登録商標)F-68、FLOCOR又はRheothRx)、ポロキサマー(登録商標)237(プルロニック(登録商標)F87)、ポロキサマー(登録商標)238(プルロニック(登録商標)F-88)、プルロニック(登録商標)F-98、ポロキサマー(登録商標)124(プルロニック(登録商標)L-44)、ポロキサマー(登録商標)184(L-64)、ポロキサマー(登録商標)338(プルロニック(登録商標)F-108)、ポロキサマー(登録商標)401(プルロニック(登録商標)L-121)及びポロキサマー(登録商標)407(プルロニック(登録商標)F-127)を含むが、それらに限定されない。いくつかの選択されたポロキサマーの物理化学的特性及びゲル形成特性は、米国特許第5,702,717号明細書の表1に見出すことができる;該特許の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0055】
ポロキサマー(登録商標)407(プルロニック(登録商標)F-127)は、最も毒性の低いブロックコポリマーの1つであり、薬物送達システムとして広く使用されている。純度20%(w/w)の濃度で、ポロキサマー(登録商標)407は、室温(約25℃)以下の水溶液中で液体であるが、体温(37℃)で軟質ゲルを形成する。ポロキサマー(登録商標)407は、およそ70重量%のPEO及び30重量%のPPOからなり、平均分子量は11500である。他のポロキサマーと同様、ポロキサマー(登録商標)407は、熱可逆的ゲル化挙動を示す。ポロキサマー(登録商標)407は、ゴング(Gong)ら著(カレント・メディシナル・ケミストリー(Curr.Med.Chem.)2013年、第20巻、p.79~94;この内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる)に概説されているように、多数の薬物、タンパク質及び遺伝子の送達のために使用されている。殆どの場合、薬物負荷ポロキサマー(登録商標)407ヒドロゲルは、数時間から数日間までに亘る薬物の徐放を可能にする。
【0056】
ポロキサマー188は、平均分子量8400ダルトンを有する非イオン性直鎖コポリマーであり、輸血前に血液の粘度を低減する治療的試薬として、およそ50年前にFDAにより承認された。ポロキサマー188の界面活性性は、このコポリマーを医薬用途において極めて有用なものとする。
【0057】
ポリNIPAAM(PNIPAAM)は、よく研究されている他の熱感受性ポリマー材料である。PNIPAAMは、注射用水素に好適な機械特性及びゲル化特性を有する。PNIPAAMは、32℃未満で可溶性であり、生理学的条件下で32℃以上で急速に沈殿する。PNIPAAMのLCSTは、他のモノマーをグラフトさせることにより変更することができる。例えば、より親水性の高いモノマーとのPNIPAAMの共重合により、高いLCSTがもたらされる一方、より疎水性の高いモノマーとのPNIPAAMの共重合により、低いLCSTがもたらされる。
【0058】
PEG/生分解性ポリエステルコポリマーは、親水性生体適合性PEGと生分解性生体適合性脂肪族ポリエステルとのコポリマーである。本明細書に記載されるPEG/ポリエステルコポリマーは、PEG/ポリラクチド(PEG/PLA)ブロックコポリマー、PEG/ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PEG/PLGA)ブロックコポリマー、PEG/ポリ(ε-カプロラクトン)(PEG/PCL)ブロックコポリマー、PEG/ポリ(ε-カプロラクトン-共ラクチド)(PEG/PCLA)コポリマー、及びPEG/ポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート(hydroxubutyrate)](PEG/PHB)コポリマーを含むが、それらに限定されない。いくつかのPEG/ポリエステルコポリマー系ヒドロゲルの合成及び特性は、ニュエン(Nguyen)及びリー(マイクロモレキュラー・バイオサイエンス(Macromol.Biosci.)2010年、第10巻、p.563~579)並びにゴングら(カレント・メディシナル・ケミストリー、2013年、第20巻、p.79~94)に概説されている;これらの各々の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。非限定的な例として、PEG/ポリエステルコポリマーは、米国特許第5,702,717号明細書に記載されているポリ(エーテル-エステル)ブロックコポリマーに基づく任意の熱感受性生分解性ポリマーであってもよい;該特許の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0059】
いくつかの実施形態では、熱感受性ヒドロゲルは天然ポリマーにより形成され得る。多くの天然ポリマーは、熱感受性であり、生体適合性及び生分解を示す。しかしながら、いくつかの天然ポリマーは、固有の熱感受性の特性に欠き、又は生理学的温度以外の温度で熱感受性を有する。これらの場合、ポリマーの熱応答性ゲル化挙動を改善するために改変が必要である。熱感受性ヒドロゲルの形成に使用できる天然ポリマーは、キトサン及び関連誘導体、メチルセルロース、アルギネート、ヒアルロン酸、デキストラン、並びにキシログルカンを含むが、それらに限定されない。
【0060】
キチンの部分脱アセチル化から誘導される直鎖多糖であるキトサンは、薬物送達に広く使用されているFDA承認の生体材料である。天然ポリマーとして、キトサンは生分解性、生体適合性、非毒性及び生体接着性等の利点を有する。しかしながら、キトサンは熱感受性ゲル化挙動を示さず、熱感受性を得るために他の熱感受性材料によるエンジニアリングを必要とする。非限定的な例として、キトサンから誘導される熱感受性ゲル化ポリマーは、キトサン/β-グリセロールホスフェート(GP)、PEG-g-キトサン、プルロニック-キトサンコポリマー、キトサン-g-NIPAAM、及びグリコールキトサンのN-アセチル化物を含む。
【0061】
メチルセルロースは、天然に存在する多糖セルロースの誘導体である。これは周囲温度で親水性及び水溶性であるが、60~80℃で疎水性及び熱感受性に変換する。これは生理学的温度を超えるため、転移温度を生理学的温度に低下させるために改変を必要とする。非限定的な例として、メチルセルロースは、NIPAAM等の合成ポリマーにグラフトされてもよい。非限定的な別の例として、メチルセルロースは、キトサン等の他の天然ポリマーとブレンドされてもよい。
【0062】
別の実施形態では、注射用熱感受性ヒドロゲルの開発に使用され得るポリマーは、米国特許第9,364,545号明細書に開示されているポリエチレンオキシド(PEO)/ポリプロピレンオキシド(PPO)のコポリマーを有するHAポリマー;直鎖ポリ(エチレングリコール)ブロックにより連結された2つの疎水性ブロックから構成されている両親媒性トリブロックコポリマー(例えば、米国特許第:9,364,544号明細書参照);米国特許第7,259,225号明細書に論じられている熱感受性ポリホスファゼンヒドロゲル;熱感受性プルロニックポリマー誘導体ヒドロゲル(例えば、米国特許出願公開第2010/0098762号明細書参照);PCT国際公開第2015/073066号パンフレットに開示されているグリコールキチン/プロゲステロン;並びにPCT国際公開第2001/04735号パンフレット、国際公開第2007/083875号パンフレット、国際公開第2015/048988号パンフレット、及び国際公開第2015/012899号パンフレット、及び米国特許出願公開第2013/0230495号明細書、米国特許第2015/0025106号明細書、米国特許第2016/0030581明細書号及び米国特許第2016/0243026号明細書に開示されている他のポリマー;(各々の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる)も含み得る。
【0063】
他の担体及び賦形剤
医薬製剤は、薬学的に許容され得る賦形剤を更に含むことができ、本明細書で使用される賦形剤は、所望の特定の剤形に適した任意の及び全ての溶媒、分散媒体、希釈剤又は他の液体ビヒクル、分散物又は縣濁補助剤、表面活性剤、等張剤、増粘又は乳化剤、保存剤、固体結合剤、滑沢剤等を含むが、それらに限定されない。医薬組成物を製剤化するための様々な賦形剤、及び組成物を調製するための技術は、当該技術分野で既知である(レミントン著:サイエンス・アンド・プラクティス・オブ・ファーマシー、第21版、A.R.ジェンナーロ(Gennaro)、リッピンコット・ウィリアムズ・アンド・ウィルキンス、ボルチモア(Baltimore)、MD、2006年参照;参照により本明細書に組み込まれる)。任意の従来の賦形剤媒体が、例えば任意の望ましくない生物学的効果を生じる、又は別様に医薬組成物の任意の他の構成成分と有害な方法で相互作用することにより、物質又はその誘導体と適合性を有し得ない場合を除いて、従来の賦形剤媒体の使用が本開示の範囲内で想定され得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容され得る賦形剤は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%純粋であり得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は、ヒト用の使用、及び獣医学的使用に承認され得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は、アメリカ食品医薬品局により承認され得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は医薬等級のものであり得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は、米国薬局方(USP)、ヨーロッパ薬局方(EP)、英国薬局方、及び/又は国際薬局方の基準を満たし得る。
【0065】
医薬組成物の製造に使用される、薬学的に許容され得る賦形剤は、不活性希釈剤、分散剤及び/若しくは顆粒化剤、表面活性剤及び/若しくは乳化剤、錠剤崩壊剤、結合剤、保存剤、緩衝剤、滑沢剤、並びに/又は油を含むが、それらに限定されない。そのような賦形剤は、場合により医薬製剤中に含まれ得る。組成物は、ココアバター及び坐薬ワックス、着色剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、及び/又は香料等の賦形剤も含むことができる。
【0066】
例示的な希釈剤は、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウム乳糖、ショ糖、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥澱粉、トウモロコシ澱粉、粉末化糖等、及び/又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0067】
本開示は、本明細書に記載される化合物の薬学的に許容され得る塩も含む。
例示的な顆粒化及び/又は分散剤は、ジャガイモ澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉、澱粉グリコール酸ナトリウム、粘土、アルギン酸、グァーガム、シトラスパルプ、寒天、ベントナイト、セルロース及び木製品、天然スポンジ、陽イオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリ(ビニルピロリドン)(クロスポビドン)、カルボキシメチル澱粉ナトリウム(澱粉グリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(クロスカルメロースナトリウム)、メチルセルロース、アルファ化澱粉(澱粉1500)、微結晶澱粉、水不溶性澱粉、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム(ビーガム(VEEGUM)(登録商標))、ラウリル硫酸ナトリウム、第4級アンモニウム化合物等、及び/又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0068】
例示的な表面活性剤及び/又は乳化剤は、天然乳化剤(例えばアカシア、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、トラガカント、コンドラックス(chondrux)、コレステロール、キサンタン、ペクチン、ゼラチン、卵黄、カゼイン、羊毛脂、コレステロール、ワックス及びレシチン)、コロイド状粘土、長鎖アミノ酸誘導体、高分子量アルコール、カルボマー、カラギーナン、セルロース誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ツイーン(TWEEN)20)、ポリオキシエチレンエステル(例えばモノステアリン酸ポリオキシエチレン[MYRJ(登録商標)45]、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエトキシル化ヒマシ油、ステアリン酸ポリオキシメチレン、及びソルトール(SOLUTOL)(登録商標))、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、クレモフォール(CREMOPHOR)(登録商標))、ポリオキシエチレンエーテル、(例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル[BRIJ(登録商標)30])、ポリ(ビニル-ピロリドン)、モノラウリン酸ジエチレングリコール、オレイン酸トリエタノールアミン、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸エチル、オレイン酸、ラウリン酸エチル、ラウリル硫酸ナトリウム、プルロニック(PLUORINC)(登録商標)F68、ポロキサマー(POLOXAMER)(登録商標)188、ポロキサマー(POLOXAMER)(登録商標)407、臭化セトリモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンズアルコニウム、ドクサートナトリウム等及び/又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0069】
例示的な結合剤は、澱粉(例えば、コーンスターチ及び澱粉ペースト;ゼラチン;糖(例えばショ糖、ブドウ糖、右旋糖、デキストリン、モラセス、乳糖、ラクチトール、マンニトール、);天然及び合成ゴム(例えばアカシア、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモス、パンワーガム(panwargum)、ガティガムの抽出物、イサポール(isapol)殻の粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、酢酸セルロース、ポリ(ビニル-ピロリドン)、ケイ酸マグネシウムアルミニウム(ビーガム(登録商標))、及びカラマツアラボガラクタン(arabogalactan);アルギネート;ポリエチレンオキシド;ポリエチレングリコール;無機カルシウム塩;ケイ酸;ポリメチルアクリレート;ワックス;水;アルコール;等;並びにそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0070】
例示的な保存剤は、抗酸化剤、キレート化剤、抗菌性保存剤、抗真菌薬保存剤、アルコール保存剤、酸性保存剤、及び/又は他の保存剤を含むが、それらに限定されない。例示的な抗酸化剤は、αトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、モニチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、及び/又は亜硫酸ナトリウムを含むが、それらに限定されない。例示的なキレート化剤は、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、クエン酸一水和物、エデト酸二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、ナトリウムエデト酸塩、酒石酸、及び/又はエデト酸三ナトリウム塩を含む。例示的な抗菌性保存剤は、塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール及び/又はチメロサールを含むが、それらに限定されない。例示的な抗真菌薬保存剤は、ブチルパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム及び/又はソルビン酸を含むが、それらに限定されない。例示的なアルコール保存剤は、エタノール、ポリエチレングリコール、フェノール、フェノール化合物、ビスフェノール、クロロブタノール、ヒドロキシベンゾエート及び/又はフェニルエチルアルコールを含むが、それらに限定されない。例示的な酸性保存剤は、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、β-カロテン、クエン酸、酢酸、デヒドロ酢酸、アスコルビン酸、ソルビン酸及び/又はフィチン酸を含むが、それらに限定されない。他の保存剤は、トコフェロール、酢酸トコフェロール、メシル酸デテロキシム(deteroxime)、セトリミド、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、エチレンジアミン、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウム、グライダントプラス(GLYDANT PLUS)(登録商標)、フェノニップ(PHENONIP)(登録商標)、メチルパラベン、ジャーモール(GERMALL)(登録商標)115、ジャーマベン(GERMABEN)(登録商標)II、エオロン(EOLONE)(商標)、カトン(KATHON)(商標)及び/又はユーキシル(EUXYL)(登録商標)を含むが、それらに限定されない。
【0071】
例示的な緩衝剤は、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、d-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、二塩基性リン酸カルシウム、リン酸、三塩基性リン酸カルシウム、水酸化リン酸カルシウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、二塩基性リン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、無水第一リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、発熱物質を含有しない水、等張の生理食塩水、リンゲル液、エチルアルコール等、及び/又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0072】
例示的な滑沢剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベヘン酸グリセリル、水素化植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム等、及びそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0073】
例示的な油は、アーモンド油、杏仁油、アボカド油、ババス油、ベルガモット油、ブラックカラント種子油、ルリジサ油、カデ油、カモミール油、キャノーラ油、キャラウェイ油、カルナウバロウ油、ヒマシ油、シナモン油、ココアバター油、ココナッツ油、タラ肝油、珈琲油、トウモロコシ油、綿実油、エミュー油、ユーカリ油、月見草油、魚油、亜麻仁油、ゲラニオール油、ヒョウタン油、ブドウ種子油、ヘーゼルナッツ油、ヒソップ油、ミリスチン酸イソプロピル油、ホホバ油、ククイ油、ラバンジン油、ラベンダー油、レモン油、リツェアクベバ油、マカデミアナッツ油、アオイ油、マンゴー種子油、メドウフォーム種子油、ミンク油、ナツメグ油、オリーヴ油、オレンジ油、オレンジラフィー油、パーム油、パーム仁油、モモ仁油、ピーナッツ油、ケシの実油、カボチャ種子油、ナタネ油、米ぬか油、ローズマリ油、ベニバナ油、ビャクダン油、サスクアナ(sasquana)油、セイボリー油、シーバックソーン油、ゴマ油、シアバター油、シリコーン油、ダイズ油、ヒマワリ油、ティーツリ油、アザミ油、ツバキ油、ベチベル油、クルミ油及びコムギ胚芽油を含むが、それらに限定されない。例示的な油は、ステアリン酸ブチル、カプリルトリグリセリド、カプリントリグリセリド、シクロメチコン、セバシン酸ジエチル、ジメチコン360、ミリスチン酸イソプロピル、鉱物油、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、シリコーン油及び/又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0074】
ココアバター及び坐薬ワックス、着色剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、及び/又は香料等の賦形剤が、製剤者の判断に従って組成物中に存在してもよい。
製剤
本明細書に記載される医薬組成物の製剤は、既知の方法又は薬学の分野で今後開発される任意の方法により調製することができる。一般に、そのような調製方法は、活性成分をコンジュゲート及び/又は1種以上の他の付属成分と関連させるステップを含む。
【0075】
本発明の抗生物質は、対象の解剖学的構造に送達されるように製剤化され得る。解剖学的構造は、関節、関節内腔、椎間板、椎間腔、硬膜外空間、椎間関節、脊椎神経節、靱帯及び他の脊椎区画を含むがそれらに限定されない身体の任意の構造を含むことができる。一態様では、本発明の抗生物質及び組成物は、椎間板内に送達されるように製剤化される。別の態様では、本発明の抗生物質及び組成物は、椎間板腔内に送達されるように製剤化される。
【0076】
本発明の組成物、製剤は、単回単位用量、及び/又は複数の単回単位用量として、バルクで調製、包装、及び/又は販売され得る。本明細書で使用されるとき、「単位用量」は、所定の量の活性成分を含む医薬組成物の個別の量を指す。活性成分の量は、一般に、対象に投与されるであろう活性成分の投与量、及び/又は、そのような投与量の2分の1又は3分の1を含むがそれらに限定されない、そのような投与量の都合のよい部分に等しい。
【0077】
いくつかの実施形態では、本発明の製剤は、ヒト又は動物の身体内の注射に好適な等張の水溶液であり得る。注射用溶液は、ヒトの浸透圧、特に脊椎内の浸透圧と等価な又は少なくとも等価な浸透圧を有する。
【0078】
いくつかの実施形態では、本発明の抗生物質、組成物は、生体適合性及び生分解性ポリマー並びに他の化合物を使用して製剤化することができる。製剤は、ナノ粒子及び他の注射用形態、例えば水溶液、粘稠溶液、熱感受性ヒドロゲル及び縣濁液であってもよい。一態様では、製剤は、熱感受性ヒドロゲルである。ポリマー担体を好ましい濃度で、低温で水溶液に可溶化して、対象への投与後、体温で構成物の熱ゲル化を達成することができる。抗生物質及び医薬組成物を含む水性製剤は、低温で注射可能である。ポリマーの最適濃度は、治療的活性薬剤をポリマー溶液に加えた後に熱ゲルを形成するように調整される。治療的活性薬剤は、ポリマー溶液に溶解し、乳化させ、又は懸濁(例えば、微結晶)させてもよい。
【0079】
治療的薬物を送達するための所望の熱感受性ヒドロゲルを開発する上での1つの課題は、注射可能性又はシリンジ通過性の問題であり、これらは臨床的利用における重要な課題である。高粘度及び針内での時期尚早のゲル化は、そのような注射可能性の問題の2つの態様である。本発明では、組成物の異なる組み合わせと、ヒト及び他の動物における使用に好適な最適化製剤とを研究した。
【0080】
本発明の医薬製剤は、有効量の抗生物質及び少なくとも1種の薬学的に許容され得る賦形剤を負荷された熱感受性ヒドロゲルを含む。
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、治療的活性薬剤として抗生物質を含むことができる。抗生物質は、β-ラクタム類、オキサゾリジノン、アミノグリコシド、糖ペプチド、リポペプチド、グリシルシクリン、バンコマイシン、リネゾリド、エリスロマイシン、リファンピシン、シプロフロキサシン、フシジン酸、テトラサイクリン、クリンダマイシン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、イミペナム、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、オキシテトラサイクリン、クロラムフェニコール、セフォタキシム、テイコプラニン、オフロキサシン、メトロニダゾール、ホスホマイシン、ピペラシリン、メロペネム、トレゾリド、ラデゾリド、トブラマイシン、レタパムリン、ダプトマイシン、テラバンシン、セフタロリン、セフトビプロ、オリチタバンシン(ortitavancin)、ダルババンシン、テイコプラニン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、ダプトマイシン、セフトビプロール、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシン、ソリスロマイシン及びイクラプリム又はそれらの組み合わせを含むことができるが、それらに限定されない。いくつかの態様では、抗生物質は、バンコマイシン又はリネゾリドである。
【0081】
一実施形態において、本発明の医薬製剤は、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約50%の範囲の濃度のバンコマイシンを含む。一態様では、本発明の医薬製剤は、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約30%又は約1%~約20%又は約2.5%~約20%のバンコマイシンを負荷され得る。例えば、本発明の医薬製剤は、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%(10mg/ml)、2.5%(25mg/ml)、5%(50mg/ml)、10%(100mg/ml)、15%(150mg/ml)、20%(200mg/ml)、25%(250mg/ml)、30%(300mg/ml)、40%(400mg/ml)又は50%(500mg/ml)のバンコマイシンを含むことができる。
【0082】
いくつかの態様では、バンコマイシンを含む製剤は、投与の準備が整っている水溶液であり得る。別の態様では、使用前に再懸濁のために混合されるべきポロキサマービヒクル及び凍結乾燥バンコマイシンを含む製剤。
【0083】
別の実施形態では、本発明の医薬製剤は、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~50%の範囲の濃度のリネゾリドを含む。いくつかの態様では、リネゾリドは、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約20%又は約2.5%~約20%で負荷され得る。一態様では、組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、約1%(10mg/ml)、2.5%(25mg/ml)、5%(50mg/ml)、10%(100mg/ml)、20%(200mg/ml)、30%(300mg/ml)又は50%(500mg/ml)のリネゾリドを含むことができる。
【0084】
いくつかの態様では、リネゾリドを含む製剤は、ポロキサマービヒクル中の懸濁液であり得る。別の態様では、リネゾリドを含む製剤は、粘稠溶液であり得る。別の実施形態では、リネゾリドは、シクロデュートリン(cyclodewtrin)を使用して可溶化されてもよい。可溶化リネゾリドは、水溶液に製剤化されてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、医薬製剤は、組成物の重量若しくは体積に基づいて、約5%~約80%、又は組成物の重量若しくは体積に基づいて、約10%~約50%、好ましくは組成物の重量又は体積に基づいて、約10%~約30%の量のポロキサマーポリマーから構成された熱感受性ヒドロゲルを含む。いくつかの態様では、医薬組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、約5%、約8%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%)、約50%、約55%、約60%、約70%又は約80%のポロキサマーポリマーを含む。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬製剤は、ポロキサマー407を含むことができる;製剤中のポロキサマー407の最終濃度は、製剤の重量若しくは体積に基づいて、約2%~約20%;又は製剤の重量若しくは体積に基づいて、約5%~約20%、又は製剤の重量若しくは体積に基づいて、約10%~約20%、又は製剤の重量若しくは体積に基づいて、約15%~約20%の範囲であり得る。いくつかの態様では、抗生物質製剤は、製剤の重量又は体積に基づいて5.0%、6.0%、7.0%、8.0%、9.0%、10.0%、10.5%、11.0%、11.5%、12.0%、12.5%、13.0%、13.5%、14.0%、14.5%、15.0%、15.5%、16.0%、16.5%、17.0%、17.5%、18.0%、18.5%、19.0%、19.5%又は20.0%のポロキサマー407を含むことができる。
【0087】
別の実施形態では、本発明の医薬製剤は、ポロキサマー188を更に含むことができる;製剤中のポロキサマー188の最終濃度は、製剤の重量に基づいて、約2%~約30%;又は約5%~約15%、製剤の重量若しくは体積に基づいて、約5%~約20%、又は好ましくは製剤の重量若しくは体積に基づいて、約10%~約20%の範囲であり得る。
【0088】
本発明の医薬製剤は、少なくとも1種の造影剤を更に含む。造影剤は、イオヘキソール、イオパミドール及びイオプロミドからなる群から選択され得る。例として、本発明による医薬製剤は、製剤溶液1ミリリットル当たり約30~約600のヨウ素、好ましくは製剤溶液1ミリリットル当たり約50~約300又は約75~約200のヨウ素を含むことができる。
【0089】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬製剤は、リネゾリド等の抗生物質の可溶性を増大させる1種以上の賦形剤を更に含む。一例は、シクロデキストリンであり得る。シクロデキストリン(シクロアミロースとも呼ばれる)は、環状に結合した糖分子からなる環式オリゴ糖のファミリーである。シクロデキストリンは、内部が疎水性で、外部が親水性である。シクロデキストリンは、疎水性化合物と錯化させて、そのような化合物の可溶性及びバイオアベイラビリティを向上させるのに使用されている。シクロデキストリンは、α-、β-及びγ-シクロデキストリンであってもよく、これらはすべてFDAにより承認されており、又は混合物のシクロデキストリンであってもよい。いくつかの態様では、組成物は、組成物の重量又は体積に基づいて、約15%~約40%のシクロデキストリンを含むことができる。一例では、組成物は、約20%、25%又は30%のシクロデキストリンを含むことができる。
【0090】
当該技術分野で既知の他の界面活性剤、溶媒又は共溶媒も、本発明の範囲内でいくつかの実施形態に使用することができる。それらの追加の構成成分は、組成物のPHを調整するために使用され得る。
【0091】
熱感受性ヒドロゲルは低温で水溶液であるが、暖められると硬質ゲルを提供し、該ゲルから抗生物質が拡散し得る。数日後に、ゲルは分解する。製剤は、活性薬剤の徐放及び制御放出を提供する。製剤中の構成成分の濃度を変化させることにより、溶液-ゲル転移温度等のゲルの特性を微調整することが可能となり得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、熱感受性ポロキサマーを含む製剤は、4℃~37℃、好ましくは4℃~25℃の下限臨界溶液温度(LCST)を有する水溶液である。粘稠溶液は、室温で、注射に好適な低い粘度を有する。水溶液は、4℃~37℃で開始するゾル-ゲル転移を受ける。好ましくは、可溶性製剤は、約32℃~約40℃又は約35℃~38℃又は約36℃~約38℃又は約36℃~約37℃でゲルを形成することができる。水性製剤は、34℃、35℃、36℃、37℃、37℃、38℃又は39℃でゲル化することができる。一サンプルでは、水性製剤は、37℃でゲル化することができる。
【0093】
【表1】
本発明の医薬製剤は、100~1000Osm/L、好ましくは200~900Osm/L、より好ましくは400~600Osm/Lの範囲の重量オスモル濃度を有することができる。例えば、本発明の製剤は、350Osm/L、400Osm/L、450Osm/L、500Osm/L、550Osm/L、600Osm/L、650Osm/L、700Osm/L、800Osm/L又は900Osm/Lの重量オスモル濃度を有することができる。
【0094】
いくつかの実施形態では、本発明の熱感受性ヒドロゲル製剤は、小型針を使用して疾病部位に投与することができる。室温での熱ゲルの水溶性の特徴、及び水溶液の比較的低い粘度により、小孔の針を使用することが可能となる。そのような注射用製剤は、予備ゲル化を示すことなく、小型針を用いて患者に効果的に投与することができる。本発明の熱感受性ゲル製剤の別の特徴は、制御された速度で、また生物学的活性を失うことなく治療的活性薬剤を送達する能力である。注射部位内で形成されるそのようなヒドロゲルは、所望の位置で薬物を制御放出するために、身体内の注射部位で、かなりの量の活性薬剤を封入することができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、注射前に、熱ゲルポリマーを適切な体積の水溶液に溶解し、この同じ溶液に抗生物質を溶解又は懸濁してもよい。次いで、混合物を所望の身体部位内に注射し、そこで混合物はゲル化し、抗生物質剤をゲル化材料中に封入する。
【0096】
III.投与及び投薬
本発明の少なくとも1種の抗生物質を含む医薬組成物及び/又は製剤は、治療的有効な結果をもたらす任意の経路により投与することができる。必要とする正確な量は、対象の種、年齢、及び全体的な状態、疾病の重篤さ、特定の組成物、その投与モード、その活性モード等に応じて、対象によって変動するであろう。
【0097】
抗生物質の局所的に有効なレベル(標的細菌のMICを超える)を生じる非経口又は注射用投与は、有益な結果を有する。本発明によれば、「非経口」投与は、口腔又は消化管以外の任意の身体箇所で投与される、又は投与が行われる薬物、医薬又は治療法を指す。注射用投与は、注射される任意の薬物、投薬又は治療法を指す。
【0098】
これは、副作用のレベルを低減し、投与計画に対する患者の薬剤服用順守を向上させ、より少量の抗生物質投与量で作用部位での有効性を増大させるであろう。非経口又は注射用剤形の利点としては、適用が比較的容易であること、身体内の部位特異的作用のための局所的送達、治療の有効性を損なうことなく投与頻度が低減されること、投薬コンプライアンスの向上等が挙げられる。
【0099】
本発明による医薬組成物は、典型的には、投与の容易さ及び投与量の均一性のために、投与量単位形態で製剤化される。しかしながら、本発明の組成物の投与は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定され得ることが理解されるであろう。
【0100】
本発明によれば、医薬組成物及び/又は製剤は、1.0mg~100mgの総用量のバンコマイシンを含むことができる。一態様では、総用量は、約1.0mg~約50mgのバンコマイシン又は約1.0mg~約20mgのバンコマイシン又は約2.0~約10mgのバンコマイシン又は約2.0mg~約5.0mgのバンコマイシン又は約3.0~約6.0mgのバンコマイシンである。別の態様では、医薬組成物は、1.0mg、2.0mg、3.0mg、4.0mg、5.0mg、6.0mg、7.0mg、8.0mg、9.0mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、45mg、50mg又は100mgの総用量のバンコマイシンを含むことができる。バンコマイシンは、塩又は遊離塩基として製剤化され得る。
【0101】
本発明によれば、医薬組成物及び/又は製剤は、1.0mg~500mgの総用量のリネゾリドを含むことができる。一態様では、総用量は、約1.0mg~約20mgのリネゾリド又は約2.0mg~約5.0mgのリネゾリド又は約10mg~約100mgのリネゾリド又は約10mg~約200mgのリネゾリド又は約20mg~約200mgのリネゾリドである。別の態様では、医薬組成物は、1.0mg、2.0mg、3.0mg、4.0mg、5.0mg、6.0mg、7.0mg、8.0mg、9.0mg、10mg、15mg、20mg、25mg、30mg、45mg、50mg、60mg、70mg、80mg、90mg、100mg、200mg、300mg、400mg又は500mgの総用量のリネゾリドを含むことができる。
【0102】
本発明の少なくとも1種の抗生物質を含む医薬組成物及び/又は製剤は、疼痛の治療又は予防に有効な任意の投与量及び任意の投与経路を用いて患者に投与され得る。必要とする正確な量は、対象の種、年齢、及び全体的な状態、疾病の重篤さ、特定の組成物、その投与モード、その活性モード、投与時間、使用する特定の抗生物質化合物の排泄率、治療の継続時間、使用する特定の抗生物質化合物との組み合わせ又は同時に使用される薬物等の、医療分野で周知の因子に応じて、対象によって変動するであろう。本発明による組成物は、典型的には、投与の容易さ及び投与量の均一性のために、投与量単位で製剤化される。しかしながら、本発明の組成物の総使用量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定され得ることが理解されるであろう。
【0103】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物及び製剤は、約1mg~合計1000mgの少なくとも1種の抗生物質を送達して、所望の治療効果を得るのに十分な投与量レベルで投与され得る。いくつかの実施形態では、組成物は、100mg未満の少なくとも1種の抗生物質を送達して、所望の治療効果を得ることができる。いくつかの実施形態では、組成物は、50mgの少なくとも1種の抗生物質を送達して、所望の治療効果を得ることができる。いくつかの実施形態では、組成物は、20mgの少なくとも1種の抗生物質を送達して、所望の治療効果を得ることができる。投与量は、活性成分当たり、又は1種を超える活性成分が存在する場合、合計で1mg~2000mgの範囲、又は更には5000mgであり得る。活性成分は、1種を超える化合物として存在する場合、同じ量又は異なる量で存在し得る。1種の活性成分は、第2の又は続く活性成分の5、10、20、30、40、50、60、70、80、90又は95%で存在することができる。それらは、1~10mg、1~25mg、1~50mg、1~100mg、1~250mg、1~500mg、1~1000mg、5~50mg、10~50mg、10~100mg、10~250mg、10~500mg、10~1000mg、25~100mg、25~250mg、25~500mg、100~250mg、100~500mg、100~1000mg、500~2000mg又は2000~5000mgであり得る。いくつかの実施形態では、投与量レベルは、感染した椎間板に基づいて決定される。投与量は、各感染椎間板に対して1mg~500mgの範囲であり得る。
【0104】
いくつかの実施形態では、体積に基づく投薬戦略を用いることができる。別の実施形態では、単回投与(例えば、単回注射)を用いて、所望の投与量の抗生物質を感染椎間板に送達する。
【0105】
非経口投与用の液体剤形は、薬学的に許容され得る乳剤、マイクロエマルション、溶液、縣濁液、シロップ剤、及び/又はエリキシル剤を含むが、それらに限定されない。活性成分に加えて、液体剤形は、水又は他の溶媒、可溶化剤及び乳化剤、例えばエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール及びソルビタンの脂肪酸エステル、並びにそれらの混合物等を含むがそれらに限定されない、当該技術分野で通常使用されている不活性希釈剤を含むことができる。非経口投与のための特定の実施形態では、組成物は、クレモフォール(登録商標)、アルコール、油、改変油、グリコール、ポリソルベート、シクロデキストリン、ポリマー、及び/又はそれらの組み合わせ等の可溶化剤と混合されてもよい。
【0106】
注射用製剤、例えば、無菌注射用水性若しくは油性縣濁液又は注射用微小粒子は、好適な分散剤、湿潤剤、及び/又は懸濁剤を使用して、当該技術分野で既知のように製剤化され得る。無菌注射用製剤は、無毒の、非経口的に許容され得る希釈剤及び/又は溶媒中の、例えば、1,3-ブタンジオール中の溶液としての無菌注射剤、縣濁液、及び/又は乳剤であり得る。使用できる、許容され得るビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル液、U.S.P.及び等張塩化ナトリウム溶液がある。無菌の不揮発性油は、溶媒又は懸濁媒体として従来より使用されている。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含む、刺激の少ない任意の不揮発性油を使用することができる。オレイン酸等の脂肪酸を注射用製剤の調製に使用することができる。
【0107】
注射用製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通した濾過により、照射により、蒸気滅菌により、及び/又は、無菌固体組成物の形態の滅菌剤(これは、使用前に無菌水又は他の無菌注射用媒体に溶解又は分散され得る)を組み込むことにより、滅菌することができる。
【0108】
いくつかの実施形態では、本発明の製剤及び組成物は、単回注射により、又は代替的に1つを超える部位の多数回注射を介して、骨、関節、靱帯及び腱に又はこれらの付近にて対象に投与され得る。例えば、本発明の製剤及び組成物は、脊椎の同一側から又は脊椎の両側から、多数の椎間板内に注射され得る。別の例では、本発明の製剤及び組成物は、椎間板及び椎間板腔内に注射され得る。
【0109】
IV.キット、針及び装置
細胞、器官及び組織に対する多数回投与のための当該技術分野で既知の方法及び装置を、本発明の実施形態として本明細書に開示した方法及び組成物に関連して使用することが想定される。これらには、例えば、多数の針を有する方法及び装置、例えばルーメン又はカテーテルを使用するハイブリッド装置、並びに熱、電流又は放射線駆動機構を使用する装置が含まれる。
【0110】
投与用の装置を使用して、本明細書に教示した単回、多数回又は分割-投薬レジメンに従って本発明の少なくとも1種の抗生物質を含む医薬組成物を送達することができる。本発明によれば、これらの多数回投与装置を使用して、本明細書で想定した製剤中に負荷された抗生物質の単回、多数回又は分割用量を送達することができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、薬剤を送達するための装置は、マケイ(Mckay)らにより記載され、例えばPCT国際公開第2006/118804号パンフレットに教示されており、その内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。マケイによれば、各針上に多数のオリフィスを有する多数の針が装置に組み込まれて、脊椎円板の内部円板空間等の組織への領域性送達を容易にする。
【0112】
少なくとも1種の抗生物質を含む医薬組成物を収容する装置を、疼痛の部位に埋め込んで、埋め込んだ部位の周囲の組織に医薬組成物を送達することができる。埋め込み可能な装置は、治療薬の低い又は無視できる全身レベルを維持すると共に、経口及び局部投与よりも局所的な医薬組成物の投与を提供することができる。高分子及び非高分子のものを含む様々な固体及び半固体薬物送達インプラントが既知である。インプラントは注射されてもよく、またインプラントは、手術時に、組織のより深い領域に送達されることが可能であり得る。埋め込み部位は、骨、関節、靱帯又は腱、椎間腔、関節内腔、腱及び骨接合部、並びに骨浮腫に隣接する部位、又はそれら内、又はそれらの付近を含み得るが、それらに限定されない。
【0113】
特定の実施形態では、埋め込み可能な装置は、少なくとも1種の高分子成分により特徴付けられる。インプラントは、ポリ無水物又はポリラクチドで作製されたもの等の浸食性若しくは生分解性インプラント、又は酢酸エチレンビニルで作製されたもの等の非浸食性若しくは非生分解性インプラントであり得る。インプラントは、メッシュ、ペレット又はウエハの形態であってもよい。
【0114】
針を使用するシリンジを使用して、本発明の医薬製剤を投与することができる。いくつかの場合、例えば脊椎注射等の特定の注射目的のために針の先端を特殊化することができる。脊椎注射用のシリンジは、脊椎内の構造又は空間内に配置される針を有することができる。針は、クインケバブコック(Quincke babcock)、スプロッテ(Sprotte)、ホワイタクレ(Whitacre)、グリーン(Greene)、ピットキン(Pitkin)及びツーイ(Tuohy)からの任意のタイプの斜面を有することができる。針のシャフトは、真っ直ぐ又は湾曲していてもよく、脊椎内の特定の位置内に医薬を配置するのに好適な特定の長さを有する。例えば。シリンジ及び針は、米国特許第5,628,734号明細書;米国特許第6,500,153号明細書;米国特許第7,367,961号明細書;及び米国特許第8,112,159号明細書に開示されているように設計されてもよい;該特許の各々の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0115】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬製剤の投与用のシリンジ及び針は、医薬製剤の構成成分をその場で混合するように構成された特別の構造を含むことができる。シリンジは、1つ、2つ又はそれを超える別個のチャンバを含んでもよく、該チャンバ内で医薬製剤の構成成分が別々に保管され、注射の直前に混合される。
【0116】
定義
生体適合性:本明細書で使用されるとき、用語「生体適合性」は、損傷、毒性又は免疫系による拒絶の危険性が殆ど又は全くなく、生細胞、組織、器官又は系と適合性であることを意味する。
【0117】
生分解性:本明細書で使用されるとき、用語「生分解性」は、生物の作用により無害の産物に分解されることが可能であることを意味する。
生物学的に活性な:本明細書で使用されるとき、表現「生物学的に活性な」は、生物系及び/又は生物内で活性を有する任意の物質の特性を指す。例えば、生物に投与された際、その生物に対して生物学的効果を有する物質は、生物学的に活性であると見なされる。特定の実施形態では、本発明の核酸分子は、核酸分子の一部が生物学的に活性であり、又は生物学的に関連すると考えられる活性を模倣する場合でも、生物学的に活性と見なされ得る。
【0118】
製剤:本明細書で使用されるとき、「製剤」は、少なくとも活性成分及び送達薬剤を含む。
ヒドロゲル:本明細書で使用されるとき、用語「ヒドロゲル」は、水不溶性の、架橋されたポリマー鎖の3次元ネットワーク及びポリマー鎖間の間隙を満たす水と見なされる。架橋により水不溶性が促進され、必要な機械的強度及び物理的完全性が提供される。ヒドロゲルは殆ど水である(水の質量分率は、ポリマーの質量分率よりも遥かに大きい)。ヒドロゲルがかなりの量の水を保持する能力は、ポリマー鎖が少なくとも中程度の親水性の特性を有する筈であることを示唆している。
【0119】
LCST:本明細書で使用されるとき、用語「LCST」は、ゲル温度としても既知の下限臨界溶液温度(LCST)を指す。本発明の状況において、ポリマーは、そのLCST未満で水溶性であるが、LCSTを超えると、ポリマーの疎水性ドメイン間の化学的相互作用によりポリマー溶液のゲル化が起こる。LCST値は、ポリマー組成に依存する。治療用途に特定の有用性を有するポリマーは、LCST値が20~暖かい体温の間のものであり、これはそのような材料が室温で水溶液に可溶性であり、体温(例えば、ヒト身体の37℃)でゲルを形成するためである。
【0120】
モディック変化:本明細書で使用されるとき、用語「モディック変化(MC)」は、椎間板由来腰痛に特有の変性椎間板に隣接する椎骨骨髄病変を指す。
患者:本明細書で使用されるとき、用語「患者」は、治療を模索し若しくは治療の必要があり、治療を要求し、治療を受けており、今後治療を受け得る対象、又は特定の疾病若しくは状態のために訓練された専門家によるケアを受けている対象を指す。
【0121】
医薬組成物:本明細書で使用されるとき、表現「医薬組成物」は、疾病、疾患及び/又は状態の病因を変化させる組成物を指す。
薬学的に許容され得る:本明細書で使用されるとき、表現「薬学的に許容され得る」は、健全な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激作用、アレルギー応答又は他の問題又は合併症を有することなく、適切な利益/リスク比に見合って、ヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに好適な、化合物、材料、組成物及び/又は剤形を指すように本明細書で使用される。
【0122】
薬学的に許容され得る賦形剤:本明細書で使用されるとき、表現「薬学的に許容され得る賦形剤」は、患者において実質的に無毒及び非炎症性の特性を有する、本明細書に記載される化合物以外の任意の成分(例えば、活性化合物を懸濁又は溶解可能なビヒクル)を指す。賦形剤は、例えば:抗接着剤、抗酸化剤、結合剤、コーティング、圧縮補助剤、錠剤崩壊剤、染料、皮膚軟化剤、乳化剤、充填剤(希釈剤)、フィルム形成剤又はコーティング、矯味矯臭剤、芳香剤、流動促進剤、滑沢剤、保存剤、印刷インキ、吸着剤、懸濁又は分散剤、甘味剤、及び水和の水を含むことができる。
【0123】
薬学的に許容され得る塩:本明細書で使用されるとき、「薬学的に許容され得る塩」は、親化合物が、存在する酸又は塩基部分をその塩形態に変換することにより(例えば、遊離塩基基を好適な有機酸と反応させることにより)改変されている、開示されている化合物の誘導体を指す。薬学的に許容され得る塩の例としては、アミン等の塩基性残基の無機又は有機酸塩;カルボン酸等の酸性残基のアルカリ又は有機塩;等が挙げられるが、それらに限定されない。代表的な酸付加塩には、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アルパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、カンファー酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプトン酸塩、ヘキサン酸塩、臭化水素酸塩、塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等が挙げられる。代表的なアルカリ又はアルカリ土類金属塩には、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等、並びに無毒アンモニウム、第4級アンモニウム、並びに、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミンを含むがそれらに限定されないアミンカチオン等が挙げられる。本開示の薬学的に許容され得る塩は、例えば無毒の無機又は有機酸から形成された親化合物の従来の無毒塩を含む。薬学的に許容され得る塩は、塩基性又は酸性部分を含む親化合物から、従来の化学的方法により合成することができる。好適な塩のリストは、レミントンズ・ファーマシューティカル・サイエンス(Remington’s Pharmaceutical Sciences)、第17版、マック出版社(Mack Publishing Company)、イーストン(Easton)、Pa.、1985年、p.1418及びジャーナル・オブ・ファーマシューティカル・サイエンス(Journal of
Pharmaceutical Science)、第66巻、2(1977年)に見出され、それらの各々の全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0124】
薬物動態:本明細書で使用されるとき、用語「薬物動態」は、生きた生物に投与された物質の運命の決定に関連した、分子又は化合物の任意の1つ以上の特性を指す。薬物動態は、吸収、分布、代謝及び排泄の程度及び速度を含む、いくつかの領域に分割される。これは通常ADMEと称され、ここで:(A)吸収は、物質が血液循環中に入る過程であり;(D)分布は、体液及び身体組織全体に亘る物質の分散又は転移であり;(M)代謝(又は生体内変換)は、娘代謝物への親化合物の不可逆的転換であり;及び(E)排泄(又は排除)は、身体からの物質の排除を指す。稀な場合、いくつかの薬物は、身体組織内に不可逆的に蓄積する。
【0125】
薬学的に許容され得る溶媒和物:本明細書で使用されるとき、本明細書で使用される用語「薬学的に許容され得る溶媒和物」は、好適な溶媒の分子が結晶格子内に組み込まれている本発明の化合物を意味する。好適な溶媒は、投与される投与量で生理学的に許容可能である。例えば、溶媒和物は、有機溶媒、水又はそれらの混合物を含む溶液からの結晶化、再結晶化又は沈殿により調製することができる。好適な溶媒の例は、エタノール、水(例えば、一、二及び三水和物)、N-メチルピロリジノン(MP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、Ν,Ν’-ジメチルホルムアミド(DMF)、Ν,Ν’-ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMEU)、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2-(1H)-ピリミジノン(DMPU)、アセトニトリル(ACN)、プロピレングリコール、酢酸エチル、ベンジルアルコール、2-ピロリドン、安息香酸ベンジル等である。水が溶媒の場合、溶媒和物は「水和物」と称される。
【0126】
部位:本明細書で使用されるとき、用語「部位」は、骨浮腫又はモディック変化に関連して使用される場合、骨浮腫又はモディック変化自体の部位、又は骨浮腫の全方向の周囲の1.27~2.54cm(0.5~1インチ)の環境を意味する。
【0127】
分割用量:本明細書で使用されるとき、「分割用量」は、2つ以上の用量への単回単位用量又は総治療用量の分割である。
合成:用語「合成」は、人の手により生成、調製及び/又は製造されることを意味する。
【0128】
治療薬:用語「治療薬」は、対象に投与された際、治療、診断及び/若しくは予防効果を有する、並びに/又は所望の生物学的及び/若しくは薬理学的効果を誘発する任意の薬剤を指す。
【0129】
治療的有効量:本明細書で使用されるとき、用語「治療的有効量」は、疾病、疾患及び/若しくは状態を患う、又は疾病、疾患及び/若しくは状態に罹りやすい対象に投与された際、疾病、疾患及び/若しくは状態を治療する、疾病、疾患及び/若しくは状態の症状を改善する、疾病、疾患及び/若しくは状態を診断する、予防する、並びに/又は疾病、疾患及び/若しくは状態の発症を遅延させるのに十分な、送達されるべき薬剤(例えば、抗生物質、薬物、治療薬、診断薬、予防薬等)の量を意味する。
【0130】
治療的に有効な結果:本明細書で使用されるとき、「治療的有効量」は、疾病、疾患及び/若しくは状態を患う、又は疾病、疾患及び/若しくは状態に罹りやすい対象に投与された際、疾病、疾患及び/若しくは状態を治療する、疾病、疾患及び/若しくは状態の症状を改善する、疾病、疾患及び/若しくは状態を診断する、予防する、並びに/又は、疾病、疾患及び/若しくは状態の発症を遅延させるのに十分な、送達されるべき薬剤(例えば、抗生物質、薬物、治療薬、診断薬、予防薬等)の量を意味する。
【0131】
総治療用量:本明細書で使用されるとき、「総治療用量」は、治療期間中に付与又は処方される量である。これは単回単位用量として投与されてもよい。
治療する:本明細書で使用されるとき、用語「治療する」は、特定の疾病、疾患及び/又は状態の1つ以上の症状又は特徴を、部分的に又は完全に、軽減し、寛解させ、改善し、緩和し、それらの発症を遅延させ、それらの進行を阻害し、それらの重篤さを低減し、及び/又はそれらの発生率を低減することを指す。例えば、癌を「治療する」は、腫瘍の生存、成長及び/又は伝播を阻害することを指し得る。治療は、疾病、疾患及び/又は状態に関連した病態を発症する危険性を低減する目的で、疾病、疾患及び/若しくは状態の徴候を示さない対象、並びに/又は疾病、疾患及び/若しくは状態の初期徴候のみを示す対象に投与されてもよい。
【0132】
等価物及び範囲
当業者は、単に日常的な実験を用いて、本発明による本明細書に記載される特定の実施形態の多数の等価物を認識し又は確認することができるであろう。本発明の範囲は、上記の明細書に限定されず、添付の特許請求の範囲に示すように限定されるものとする。
【0133】
特許請求の範囲において、「a」、「an」及び「the」等の冠詞は、それとは反対に示されない限り又は文脈から明らかでない限り、1つ又は1つを超える、を意味することができる。グループの1つ以上の要素間に「又は」を含む特許請求の範囲又は明細書は、それとは反対に示されない限り又は文脈から明らかでない限り、グループの要素の1つ、1つを超える、又は全部が所定の製品又はプロセスに存在し、それらに使用され、又は別様に関連する場合、満たされると見なされる。本発明は、グループの真に1つの要素が、所定の製品又はプロセスに存在し、それらに使用され、又は別様に関連する実施形態を含む。本発明は、グループの1つを超える又は完全な要素が、所定の製品又はプロセスに存在し、それらに使用され、又は別様に関連する実施形態を含む。
【0134】
また用語「含む」はオープンであり、追加の要素又はステップが可能であるが、それらを含める必要はないことが意図されることに留意される。従って、用語「含む」が本明細書で使用される場合、用語「からなる」も包含及び開示される。
【0135】
範囲が記される場合、終点が含まれる。更に、特に示されない限り又は文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、本発明の異なる実施形態において、文脈が明らかに別様に示さない限り、範囲の下限の単位の10分の1まで、提示した範囲内の任意の特定の値、又は下位範囲(subrange)が想定され得ることを理解するべきである。
【0136】
加えて、先行技術に含まれる本発明の任意の特定の実施形態は、特許請求の範囲の任意の1つ以上から明白に除外され得ることを理解するべきである。そのような実施形態は、当業者に既知であると見なされるため、それらは除外することを本明細書に明確に示さない場合であっても除外され得る。本発明の組成物の任意の特定の実施形態(例えば、任意の抗生物質、治療法又は活性成分;任意の製造方法;任意の使用方法;等)は、先行技術の存在に関連しても又はしなくても、任意の理由で、任意の1つ以上の特許請求の範囲から除外され得る。
【0137】
使用されている単語は、限定ではなく説明の単語であり、より広い態様における本発明の正確な範囲及び趣旨から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲の範囲内で変更することができることを理解するべきである。
【0138】
本発明を、いくつかの記載した実施形態に関連して、ある程度詳細にかつ特定的に記載してきたが、本発明は任意のそのような詳細又は実施形態又は任意の特定の実施形態に限定されるべきであることは意図されず、添付の特許請求の範囲を参照して、先行技術を考慮して特許請求の範囲の可能な最も広い解釈を提供するよう解釈し、それにより、意図される本発明の範囲を有効に包含するべきである。
(実施例)
実施例1:スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)椎間板内感染の羊モデル
スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)椎間板内感染の羊モデルを開発して、抗生物質製剤のインビボ有効性を試験した。研究開始時におよそ35~40kg+の雄のシャロレー(Charollais)又はサフォーク(Suffolk)交雑羊を、動物科学的処置法(Animal(Scientific Procedure)Act)1986の下で内務省(Home Office)ガイドラインに従って収容し、水へのアクセス下で少なくとも7日間順化させた。これらの羊モデルには、抗生物質を添加していない羊濃厚飼料が給餌され、更に飼料(乾草/麦わら)が提供された。
【0139】
1.1 スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染
2.5×106CFU/mlの凍結グリセロール/リン酸緩衝生理食塩水ストックから、2×104CFU/mlに希釈することにより細菌接種材料(ATCC 29213)を調製する:
1.2 注射用製剤の調製
0.2mlの製剤を18G1”又は1.5”針を使用してシリンジ内に引き込む。必要に応じて、シリンジを引き出し及び引き込んで、気泡を除去してもよい。次いで、針を25G4.69”投与針と交換し、0.1mlの用量を残してプライミングする。直ちに使用しない場合、プライミングしたシリンジを冷蔵庫内に放置するが、30分以内に使用する必要がある。
【0140】
治療モデルでは、各羊に麻酔し、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)接種材料(1×103細胞/椎間板)の4つの0.05ml(目標体積)のL1/L2、L2/L3、L3/L4及びL4/5の椎間板内注射を、椎間板当たり1回の注射で付与する。
【0141】
第1の注射からおよそ1時間又は他の選択時間後に、各羊に試験製剤又は対照製剤の第2の注射を付与する。先に細菌を首尾よく注射した各椎間板に、0.1ml(目標体積)椎間板内注射を付与する。麻酔の一部として、メロキシカムの形態の鎮痛薬(筋肉内)を推奨用量で動物に付与する。この鎮痛薬は、指名された獣医により必要と見なされる場合は反復され得る。予防モデルでは、第1の注射が抗生物質又は対照の製剤であり、第2の注射が細菌接種を含むように投与の順序を逆転する。抗生物質及び細菌の投与間の時間は、数時間、数日、数週間又は数カ月であり得る。
【0142】
1.3 注射技術:治療的投与
共局所投与
単一の20G3.5”脊椎針を各椎間板の髄核の縁内に直接配置する。針の位置を確認した後、用量溶液をプライミングした第2の25G4.69”針を第1の針内に挿入し、先端を髄核の中央に配置する。第2の針の位置を確認した後、各椎間板に細菌を注射する。次いで内側針を除去する。細菌投与時点から1時間後の直前に、新たな用量溶液をプライミングした新たな25G4.69”針を20G3.5”内に挿入し、髄核の中央に位置付ける。第2の治療は、第1の用量の1時間後に、この針により付与された用量である。
【0143】
控えめ(discreet)の投与
細菌感染:単一の20G3.5”脊椎針を各椎間板の髄核の縁内に直接配置する。針の位置を確認した後、用量溶液をプライミングした第2の25G4.69”針を第1の針内に挿入し、先端を髄核の中央に配置する。第2の針の位置を確認した後、各椎間板に細菌を注射する。次いで針を除去する。動物を脊椎の反対側へのアクセスのために再配置する。
【0144】
製剤の注射:第2の20G3.5”脊椎針を各椎間板の第1の注射の反対側の髄核の縁内に直接配置する。投与のための時点の直前に、用量溶液をプライミングした新たな25G4.69”針を20G3.5”内に挿入し、髄核の中央に位置付ける。第2の治療は、この針により付与された用量である。
【0145】
各注射に関して、個々の投与シリンジを秤量し、投与前及び後の重量を記録して、投与された実際の用量を計算する。
各製剤用量をゆっくり付与するためには、用量溶液をシリンジ/針関節から漏出させることなく、十分な力を用いて用量を連続して首尾よく送達し、送達には30~60秒を必要とする。
【0146】
デジタルX線撮影システムを使用して注射を援助し、投与の直前及び直後の画像記録を補足する。動物を連続的に監視し、完全に回復した際、該動物のおりに戻す。
1.4 注射技術:予防的投与
注射の順序は、第1の注射が抗生物質の製剤であり、第2の注射が細菌接種材料を含むように逆転されてもよい。抗生物質と細菌の投与間の時間は、数時間、数日、数週間又は数カ月であってもよい。第2の注射は、共局在し又は控えめであってもよく、例えば第1の注射と同じ椎間板側に注射され、又は第1の注射の反対側の椎間板側に注射されてもよい。
【0147】
1.5 デジタルX線撮影
各投与の直前及び直後に各羊を撮影して画像を捕捉する。順序の詳細を記録する。適格者により各IVD注射の投与直後の視覚的評価を行う。注射は:良好、漏洩なし;最小限の漏洩;中程度の漏洩;大量の漏洩のいずれかとして採点/記録される。
【0148】
この研究の科学的信頼性を完全に確実にするために、4つの治療椎間板/グループと、最小限3つ/グループを必要とする。羊に対する注射を完了した後、スコアを考察する。合計で理想的な数より少ない椎間板が「良好、漏洩なし」又は「最小限の漏洩」と記録された場合、このグループに最大2匹までの羊追加の羊を加えることが考慮される。
【0149】
1.6 組織サンプル
投与後の設定時点で羊を殺す。注射した椎間板を解体し、髄核を各椎間板から取り出す。加えて、追加の未治療椎間板を採取して、対照組織を提供する。この椎間板は、対照サンプルと治療サンプルとの間にコンタミネーションが存在しないことを確実にするよう注意して、特定の動物の治療椎間板の全ての後に取り出す。
【0150】
実施例2:バンコマイシンは、細菌感染と共局在して治療的に投与された場合、より有効である。
実施例1の羊椎間板内感染モデルを使用して、治療的に投与されたバンコマイシンのインビボ有効性を評価した。結果は、バンコマイシン治療がない場合、椎間板内に注射された1×103CFUのスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)が、椎間板1グラム当たりおよそ108CFUに増殖したことを示す。0.5%ヒアルロン酸を含むオムニパーク(Omnipaque)(登録商標)中で、200mg/mlバンコマイシン又は50mg/mlバンコマイシンで製剤化されたバンコマイシンは、共局在又は控えめの注射として、感染の1時間後に注射された。
【0151】
バンコマイシン投与が細菌感染と共局在した場合、全椎間板は24時間以内に効果的に滅菌された。検出不能レベルの細菌を有する椎間板を、アッセイの検出限界である10CFU/g椎間板でプロットする。バンコマイシンが控えめな投与により投与された場合、5mgバンコマイシン/椎間板の7椎間板のうち5、及び20mgバンコマイシン/椎間板の7椎間板のうち3が滅菌された。用量応答が存在するとは考えられず、結果は滅菌された椎間板が、例えば、細菌及びバンコマイシンの共局在化をもたらす椎間板の両側からの注射の結果であるとの仮説に一致する。多数の無菌椎間板が存在したが、個別の投与グループにおいて、平均細菌負荷における>3 log10低下は存在しなかった。
【0152】
実施例3:バンコマイシンは、羊椎間板内感染モデルに予防的に投与された場合、より有効である。
実施例1に記載した予防モデルを使用して、バンコマイシンが細菌の投与前に椎間板全体に拡散する時間を与えられた場合、より有効であるという仮説を試験した。
【0153】
椎間板を0日目にバンコマイシン(5mg/椎間板)で治療し、3日目に椎間板当たり10
3のスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)で控えめに感染させた。感染から24時間後、椎間板を回収し、細菌負荷を見積もった。バンコマイシンを有さない対照椎間板内では、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)は10
9/g椎間板に増殖した。バンコマイシン治療椎間板において、細菌負荷における>3 log
10の平均低下が存在し、これは高く有意であると考えられ、バンコマイシンの治療的使用で得られたものとは異なる(
図1)。この結果は、バンコマイシン投与と細菌感染との合間に達成した椎間板全体に亘るバンコマイシンのより広い暴露と一致する。
【0154】
椎間板が示す拡散隔壁は、バンコマイシンが椎間板全体に拡散して椎間板を滅菌するのにより長時間を要し得るが、この結果を達成することが可能であることを意味する。従って、課題はバンコマイシンを椎間板内に入れて、椎間板の滅菌のために薬物暴露が十分高くなるように椎間板全体に拡散させるのに十分長い時間、バンコマイシンをそこに保つことである。
【0155】
これを達成する1つの方法は、針穴又は椎間板内の任意の亀裂を通して、投与されたバンコマイシン(又は他の抗生物質)が椎間板から漏出しないことを確実にするように熱感受性ゲルを使用することである。抗生物質を製剤化するために熱感受性ヒドロゲルに焦点を当てる研究は、抗生物質送達を改善し、治療有効性を増大させるような製剤を開発するように計画されている。
【0156】
実施例4:バンコマイシン製剤の開発
4.1 材料
この研究に使用した活性化合物及び材料の詳細を、表2に列挙する。
【0157】
【表2】
ウォックハルトUKリミテッド(Wockhardt UK Limited)、キセリア・ファーマシューティカルズ(Xellia Pharmaceuticals)、バスフ(BASF)、GEヘルスケア(GE Healthcare)、アウス・チトリニウム(Aus titrinium)、アナラー・ノルマプール(Analar Normapur)
4.2 バンコマイシンヒドロゲル製剤及び製剤の開発
他の箇所で記載された低温方法によりポロキサマーヒドロゲルを調製した(シュモルカ(Schmolka).人工皮膚(Artificial skin).I.熱傷の治療のためのプルロニックF-127ゲルの調製及び特性(Preparation and
properties of pluronic F-127 gels for treatment of burns).ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアル・リサーチ(Journal of Biomedical Materials Research)、p.571~582、1972年)。バンコマイシン塩酸塩を最終標的濃度50mg/mL、75mg/mL又は100mg/mLでオムニパークに加えた。次いで、薬物溶液をAPIが完全に溶解するまでおよそ2時間撹拌又は超音波処理し、pHを1M HCl及び/又はNaOHでpH6に調整した。次いで、ポロキサマー407(w/w)又はポロキサマー407及びポロキサマー188(w/w)の組み合わせを薬物溶液に加えて所望のポリマー濃度を達成した。澄んだ溶液が得られるまで製剤を72時間冷蔵庫内で保存した。並行して、対照サンプルを調製し、結果をバンコマイシン負荷サンプルと比較した。
【0158】
30を超えるバンコマイシン製剤を調製及び試験した(表3)。その目的は、概念を証明するために、インビボで好適な各々の例を特定することである。溶液-ゲル転移温度、転移時間、注射可能性、可溶性、及び抗生物質の最終濃度を評価した(表3)。
【0159】
4.3 バンコマイシン溶液-ゲル転移温度の評価
調製した製剤の熱可逆性挙動を、異なる温度での管反転法(tube inversion method)により視覚的に評価した。調製したヒドロゲルを収容するバイアルをインキュベータに移動し、温度を2℃/10分の速度で上昇させた。温度の各上昇時に、バイアルをインキュベータから取り出し、反転して液体-ゲル挙動を評価した。
【0160】
サンプルをそれらのレオロジー特性に従って:重力方向に急速に移動した場合は液体(L)、ゆっくり移動した場合は粘稠液体(VL)、及びバイアルの底に残留する場合はゲル(G)として分類した。後者はゾル-ゲル転移温度として分類した。可溶性でなかったポロキサマーの混合物(NS)。
【0161】
4.4 バンコマイシンの注射可能性(injectability)/シリンジ透過性(syringeability)の評価
シリンジ通過性及び注射可能性を、25ゲージ、11.91cm(4.69インチ)針に通して、及び注射に必要な圧力/力等のパラメータにより評価し、流れの一様性を以下のように4つのカテゴリーに分類した:1=注射:不可能;流れ:流れなし;2=注射:困難;流れ:一滴ずつ、3=注射:中程度;流れ:連続的;4=注射:容易;流れ:連続的。加えて、各製剤100μlを、針を有し及び有さないシリンジを通してバイアル内に引き込んだ後に重量を比較することにより、用量測定の正確性を確認した。いくつかの場合、暖かいオレンジを使用して25ゲージ、11.91cm(4.69インチ)針を通して注射可能性を評価し、良好、可能又は不可能として分類したことを記す。
【0162】
【表3】
4.5 バンコマイシン製剤の結果
以前の作業では、25%及び30%(w/w)のバンコマイシンポロキサマー407製剤のレオロジー特性が臨床的投与を制限し得ることが示唆された。従って、羊注射に好適な25ゲージ、11.91cm(4.69インチ)針を通した椎間板内投与により送達できる、より高い注射可能性/シリンジ通過性特性を有する製剤を開発する必要があった。本明細書に記載される製剤最適化作業では、ポロキサマー188(5%~50%(w/w))を加えた又は加えていない、濃度5%~18%の(w/w)のポロキサマー407を使用した。
【0163】
管反転法では、バンコマイシンを有さないポロキサマー407製剤は、濃度20%(w/w)で、ゾル-ゲル転移温度30℃で、液体から半固体ゲルに転換する逆転熱ゲル化を示すことが示された。一方、20%(w/w)未満のポロキサマー407濃度の製剤はゲル化特性を示さず、22℃~36℃で液体又は粘稠液体として挙動した(表3)。
【0164】
データはバンコマイシンの添加によりP407製剤のゾル-ゲル転移温度が変化することを示唆する(例えば、対照14%P407、対、14%P407+43mg/mLバンコマイシン)。ゾル-ゲル転移温度の低下は、ポロキサマー濃度18%(w/w)未満での、架橋ネットワークの形成を促進するポリマーミセル形成過程における障害に起因すると考えられた。
【0165】
送達ビヒクルとしてポロキサマー407を使用した場合、ゾル-ゲル転移は濃度12%(w/w)以上でのみ観察された(表3)。加えて、ポロキサマー407濃度の増大によりゾル-ゲル転移温度が低下することが示された(例えば、12%ポロキサマー407+44mg/mLでゾル-ゲル温度37℃、対、13%ポロキサマー407+43.5mg/mLでゾル-ゲル温度30℃)。
【0166】
送達ビヒクル中でのバンコマイシン薬物負荷の増大(各々、14%及び16%(w/w)で、43mg/mLから86mg/mL及び42mg/mLから84mg/mL)は、ゾル-ゲル転移温度の上昇をもたらすことが示された(例えば、各々36℃から37℃及び28℃から36℃)。生理学的状態に近づくゾル-ゲル転移温度の上昇は製剤最適化の視点から最適であると考えられるが、目視により粘度の増大は臨床投与を妨げ得ることが示唆される(例えば、製剤は、薬物負荷43mg/mLでポロキサマー407濃度14%(w/w)で液体であるが、薬物負荷86mg/mLで粘稠液体であるように見える)。
【0167】
データはまた、ポロキサマー188をビヒクルに加えると、粘度の上昇、ひいてはゾル-ゲル転移温度の低下がもたらされたことを示す(例えば11%ポロキサマー407+16%ポロキサマー188、対、11%ポロキサマー407+17%ポロキサマー188;12%ポロキサマー407、対、12%ポロキサマー407+12%ポロキサマー407+18%ポロキサマー407)(表2)。文献における以前の報告は、ポロキサマー188をP407ゲルに加えるとゾル-ゲル転移温度が上昇することを示唆している。一般に、20%(w/w)を超えるポロキサマー188濃度は、送達ビヒクルに可溶性でないことが示された。
【0168】
別の研究では、バンコマイシンをw/v製剤に切り替えた。バンコマイシン負荷ポロキサマーヒドロゲルを低温方法により調製した。バンコマイシン塩酸塩を最終標的濃度100mg/mLでオムニパークに加えた。次いで、薬物溶液をAPIが完全に溶解するまで撹拌し、1M NaOHを用いてpHをpH6に調整した。標的薬物負荷50mg/mLを有する、ポロキサマー407濃度16%、16.25%、16.5%、16.75%、17%(w/v)の各製剤10mLを調製するために、1.6g、1.625g、1.65g、1.675g、1.7gのポリマーを、調製した薬物溶液の5mLアリコートに加えた。次いでオムニパーク又はI型水を用いて体積を10mlとし、製剤を4℃で11日間保存してポリマー溶解を促進した。w/wポロキサマー濃度を、バンコマイシンヒドロゲル製剤に関するw/vポロキサマーに変換する計算は、12%(w/w)ポロキサマー濃度が、w/vに変換した場合16%に対応するとの仮定に基づく(製剤密度1.33g/cm3):12gポロキサマー/100g製剤×1.33g製剤/1mL製剤=0.16×100=16%w/vポロキサマー407。
【0169】
【表4】
実施例5:リネゾリド製剤の開発
5.1 材料
この研究で使用した活性化合物及び材料の詳細を、下記に示す表5に列挙する。
【0170】
【表5】
フルオロケム(Fluorochem)、シグマ・アルドリッチ(Sigma Alrich)、アルファ・エイサー(Alfa Aesar)
5.2 リネゾリドナノ懸濁液製剤
リネゾリド(分子量、337.346g/mol)を抗菌試験薬として選択し、ポロキサマー熱可逆性ヒドロゲルを開発する能力について探究した。リネゾリド負荷50及び200mg/mLを有するナノ懸濁液を開発する能力を評価するために、粒子サイズ、多分散性及び均質性を含む、製剤の短期の物理的安定性を評価した。次いで、異なる濃度のポロキサマー407及び188を加え、ゾル-ゲル転移温度及び注射可能性/シリンジ通過性を評価した。
【0171】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて薬物含有率をアッセイし、使用した方法は、他の箇所に報告されている(カシア(Khasia)ら著、ジャーナル・オブ・ファーマシー・リサーチ(Journal of Pharmacy Research)、第5巻(8):p.4115~4118、2012年)。使用した方法の詳細を、下記の表6に列挙する。
【0172】
【表6】
フェノメネックス・ルナ(Phenomenex Luna)
この作業には、ダイオードアレイ検出器を備えたアジレント(Agilent)1100 HPLCシステムを使用した。サンプルをHPLCアンバーバイアル内に配置し、実験全体を通して室温で保管した。2つの標準(標準A及び標準B)を移動相中で0.1mg/mlで調製し、APIが完全に溶解するまで約45分間超音波処理し、次いで0.22μm PTFEシリンジフィルターで濾過した後、HPLCに注入した。システム適合性試験(SST)を行って、システムの良好な性能を評価した。2つのブランクを注入してベースラインの品質を決定した(即ち、任意のマトリクス干渉を廃棄した)。標準Aを5回注入し、標準Bを2回注入し、両標準に関するピークの平均面積及び%RSDを計算して、注入の併行精度を評価した。最終的に、標準アグリーメントを以下の等式により記載されるように計算した。
【0173】
【数1】
式中、Area
A及びArea
Bは、各標準A及びBのピーク下面積であり、Conc
A及びConc
Bはそれぞれ、標準A及びBの濃度である。
【0174】
5.3 製剤実現可能性試験
表7に示すように、API(50mg/mL及び200mg/mL)を分散媒体に添加し、530RPMで8時間の湿式ボールミルによりナノ懸濁液を生成した。
【0175】
【表7】
調製後、ジルコニア粒からナノ懸濁液を分離し、閉鎖バイアル内で、室温で保管し、2時間及び24時間後に動的光散乱により粒子サイズ及び沈降/凝集傾向を監視した。手短には、5μLの各調製製剤を1mlのI型水中で希釈し、光子相関分光法を用いることにより誘導カウントレートを監視した(マルバーン・ナノシリーズ・ゼータサイザー(Malvern Nanoseries Zetasizer)、マルバーンインストルメンツ社(Malvern Instruments Ltd.)、マルバーン(Malvern)、UK)。測定は25℃で散乱角173°で行った。屈折率及び粘度定数は、各々1.458及び60mPa.sに設定した。
【0176】
異なる分散媒体中に調製したリネゾリドナノ懸濁液(表7に示す)を、誘導カウントレート及び多分散指数に関して測定した。ナノミリングの2及び24時間後に、薬物粒子の粒子サイズ及び多分散指数を動的レーザー光散乱により測定した(表8)。リネゾリドの平均粒子サイズは、全試験系に関してナノサイズ範囲内にあることが見出された。より大きい粒子サイズ(p<0.01)がより高い薬物負荷で検出された一方、ポロキサマー407が懸濁剤として使用された場合、より小さい粒子サイズが記録された(414.1±15.77nm、対、250.5±33.7nm)。
【0177】
異なる分散媒体における粒子サイズは、50mg/mL薬物負荷で、2及び24時間で統計的に異ならなかった(p>0.05)。一方、200mg/mL薬物負荷では、24時間で粒子サイズが有意により大きいことが見出された(p<0.0001)。加えて、多分散指数は大部分の試験系に関して高かったことに留意するべきである(>0.5)。理想的には、ナノ懸濁液は、保管中の凝集/沈殿を防止するために0.3未満の多分散指数を有する必要がある。オムニパーク中の分散媒体(HPMC606 0.5%;PVPK30 0.5%;ツイーン80 0.1%w/v)は、オムニパークを含む他の媒体と比較した場合、より良好な粒子サイズ及び多分散指数を示したため、続く作業に進めた。
【0178】
【表8】
5.4 リネゾリド製剤の開発
他の箇所に記載された低温方法によりポロキサマーヒドロゲルを調製した(シュモルカ、ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアル・リサーチ、p.571~582、1972年)。ポロキサマー407(w/w)又はポロキサマー407及び188(w/w)の組み合わせを、撹拌下で4℃に保たれた、調製したナノ懸濁液に徐々に加えた。澄んだ溶液が得られるまで製剤を冷蔵庫内に72時間保管した。並行して、対照サンプルを調製し、結果をリネゾリド負荷サンプルと比較した。
【0179】
30を超えるリネゾリド製剤を調製及び試験した(表9)。この目的は、概念を証明するためにインビボ評価に好適な各々の例を特定することである。溶液-ゲル転移温度、転移時間、注射可能性、可溶性、及び最終的な抗生物質の濃度を評価した(表9)。
【0180】
5.5 リネゾリドゾル-ゲル転移温度
調製したリネゾリド製剤の熱可逆性挙動を、異なる温度での管反転法により視覚的に評価した。調製したヒドロゲルを収容するバイアルをインキュベータに移動し、温度を2℃/10分の速度で上昇させた。温度の2℃の各上昇時に、バイアルをインキュベータから取り出し、反転して液体-ゲル挙動を評価した。
【0181】
サンプルをそれらのレオロジー特性に従って:重力方向に急速に移動した場合は液体(L)、ゆっくり移動した場合は粘稠液体(VL)、及びバイアルの底に残留する場合はゲル(G)として分類した。後者はゾル-ゲル転移温度として分類した(表9)。
【0182】
5.6 リネゾリド製剤の注射可能性/シリンジ通過性。
シリンジ通過性及び注射可能性を、製剤を閉鎖バイアル内で30分間保管した後、25ゲージ11.91cm(4.69インチ)針に通して評価した。注射に必要な圧力/力等のパラメータ及び流れの一様性を、4つのカテゴリーに分類した:1=注射:不可能;流れ:流れなし;2=注射:困難;流れ:一滴ずつ、3=注射:中程度;流れ:連続的;4=注射:容易;流れ:連続的(表9)。加えて、各製剤100μlを、25ゲージ11.91cm(4.69インチ)針を有し及び有さないシリンジを通してバイアル内に引き込んだ後に重量を比較することにより、用量測定の正確性を確認した。いくつかの場合、暖かいオレンジを使用して25ゲージ、11.91cm(4.69インチ)針を通して注射可能性を評価し、良好、可能又は不可能として分類したことを留意する必要がある。
【0183】
5.7 統計分析
社会科学ソフトウエアの統計パッケージ(SPSsバージョン16.0、SPSS社、シカゴ、USA)を使用して統計評価を行った。全データをスチューデントのt検定により分析した。p<0.05の場合に、統計的に有意な差異を規定した。値は平均±標準偏差(SD)n=3として表した。
【0184】
【表9】
5.8 リネゾリド製剤の結果
管反転法は、プラセボポロキサマー407製剤が熱可逆性特性を示し、ゾル-ゲル転移温度30℃で、濃度20%(w/w)で、液体から半固体ゲルに転移することを示した。一方、濃度20%(w/w)未満の製剤は、逆転熱ゲル化を示さず、22℃~36℃で液体又は粘稠液体として挙動した(表9)。データはリネゾリドの添加によりポロキサマー407製剤のゾル-ゲル転移温度が低下することを示唆する(例えば、対照16%ポロキサマー407、対、16%ポロキサマー407+50mg/mLリネゾリド)。
【0185】
ポロキサマー407がネゾリドと共に送達マトリクスとして使用された場合、ゾル-ゲル転移温度(32℃~34℃)は濃度13%~16%(w/w)で認められた(表4)。加えて、ポロキサマー407濃度の増大により、ゾル-ゲル転移温度が低下することが示された(例えば13%ポロキサマー407+43.5mg/mLでゾル-ゲル温度34℃、対、14%ポロキサマー407+43mg/mLでゾル-ゲル温度32℃)。送達ビヒクル中のリネゾリド薬物負荷の増大により製剤レオロジー特性及びゾル-ゲル転移温度は変化しなかった(例えば14%ポロキサマー407+43mg/mlリネゾリド及び172mg/mlリネゾリド、及び16%ポロキサマー407+42mg/mlリネゾリド及び168mg/mlリネゾリド、ゾル-ゲル温度は32℃であった)。
【0186】
一般に、ポロキサマー188をビヒクルに添加すると、粘度の増大と、ゾル-ゲル転移温度の低下とがもたらされた(例えば10%ポロキサマー407(w/w)+16%)ポロキサマー188(w/w)、対、10%ポロキサマー407(w/w)+17%ポロキサマー188(w/w);14%)ポロキサマー407(w/w)、対、14%ポロキサマー407(w/w)+10%ポロキサマー407(w/w))(表5)。しかしながら、5%(w/w)ポロキサマーを14%(w/w)ポロキサマー407と共に使用した場合ゾル-ゲル転移温度の上昇が存在したことに留意するべきである。(表9)。
【0187】
懸濁剤(HPMC 1%w/v、PVPK30 1%w/v)及び界面活性剤(ツイーン80 0.2%w/v)を含んでいたオムニパークにリネゾリドII型(100mg/mL)を添加し、530RPMで12時間の湿式ボールミルによりナノ懸濁液を生成した。調製後、ジルコニア粒からナノ懸濁液を分離し、他の箇所に記載された低温方法によりポロキサマーヒドロゲルを調製した(シュモルカ.人工皮膚.I.熱傷の治療のためのプルロニックF-127ゲルの調製及び特性.ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアル・リサーチ、p.571~582、1972年)。標的薬物負荷50mg/mLを有するポロキサマー407濃度17.3%、17.8%、18.05%、18.3%、18.55%及び18.8%(w/v)の各製剤10mLを調製するために、1.73g、1.78g、1.805g、1.83g、1.85g及び1.88gのポリマーを、調製した縣濁液の5mLアリコートに加えた。次いでI型水を用いて体積を10mlとし、製剤を4℃で11日間保存してポリマー溶解を促進した。w/wポロキサマー濃度を、バンコマイシンヒドロゲル製剤に関するw/vポロキサマーに変換する計算は、13%(w/w)ポロキサマー濃度が、w/vに変換した場合17.3%に対応するとの仮定に基づく(製剤密度1.33g/cm3):13gポロキサマー/100g製剤×1.33g製剤/1mL製剤=0.173×100=17.3%w/vポロキサマー407。
【0188】
【表10】
実施例6:リネゾリドに関する賦形剤の可溶化のスクリーニング
リネゾリドは、中程度の水溶性を有し、殆どの製剤中でマイクロ/ナノ結晶のサスペンス(suspense)を形成する。異なる賦形剤を、それらのリネゾリドの可溶化能力に関してスクリーニングする。多様な賦形剤の存在下、リネゾリド結晶形II及びIIIの可溶性を水中で試験した。リネゾリド(約10mg/mlロット)を賦形剤に加え、溶液に溶解させた。澄んだ溶液が得られた場合、リネゾリドの他のロットを加えた。この工程は飽和溶液が得られるまで継続した。溶液を濾過し、定量HPLC-UVアッセイを用いて可溶性リネゾリドの品質を見積もった。加えたリネゾリドの質量と、可溶性リネゾリド濃度を下記の表11に示す。目標は>50mg/ml可溶性リネゾリドを達成することであった。賦形剤スクリーニングにより、クレプトース(Kleptose)、キャプティソール(Captisol)、PEG300及びPEG400が最も高い可溶性を有する賦形剤であることが特定された。50%オムニパーク(w/v)溶液中のクレプトース(登録商標)及びキャプティソール(登録商標)(20及び30%w/v)に関する37℃での可溶性を表12に示す。キャプティソール(登録商標)20%及び30%w/v溶液は、各々およそ30及び40mg/mLで飽和した。クレプトース(登録商標)20及び30%w/vは、これまでの所、各々40及び50mg/mLで、両方の形態に関してより高い可溶性を示した。特に、30%クレプトース(w/v)は、50%オムニパーク(v/v)中で目標>50mg/mlまでリネゾリドを可溶化することができる。
【0189】
【0190】
【表12】
継続された可溶性実験によるデータは、リネゾリドIII型キャプティソール30%(w/v)がリネゾリドを52.5mg/mlに可溶化することができ、20%及び30%(w/v)のクレプトースは、各々53.9及び66.4mg/ml可溶性のリネゾリドを達成できることを示す。
【0191】
実施例7:シクロデキストリンを有するリネゾリド製剤
リネゾリド、クレプトース又はキャプトソール(Captosol)、オムニパーク及びポロキサマー407を含む熱感受性ヒドロゲル製剤を調製し、好適なゾル-ゲル転移に関して試験する。実施例6に記載した低温方法を用いて、ポロキサマー407又はポロキサマー407及び188の組み合わせのヒドロゲルを調製する。濃度20%~30%のクレプトース又はキャプティソールをポロキサマー溶液に加える。クレプトース又はキャプティソールを含む溶液にリネゾリド結晶(例えば、II型及びIII型)を、リネゾリドが溶液に完全に溶解するまで加える。製剤を澄んだ溶液が得られるまで冷蔵庫内に72時間保管し、又は代替的に数時間以内の溶解を可能にするよう高せん断を用いて急速に混合してもよい。並行して、対照サンプルを調製し、結果をリネゾリド負荷サンプルと比較する。
【0192】
実施例6に記載した方法を用いてゾル-ゲル転移温度を評価する。調製したリネゾリド製剤の熱可逆性挙動を、異なる温度での管反転法により視覚的に評価する。調製したヒドロゲルを収容するバイアルをインキュベータに移動し、温度を2℃/10分の速度で上昇させる。温度の2℃の各上昇時に、バイアルをインキュベータから取り出し、反転して液体-ゲル挙動を評価する。
【0193】
実施例6に記載した方法を用いて、製剤の注射可能性/シリンジ通過性を評価する。製剤を閉鎖バイアル内に室温で30分間保管した後、25ゲージ11.91cm(4.69インチ)針を通してシリンジ通過性及び注射可能性を評価する。注射に必要な圧力/力及び流れの一様性等のパラメータを4つのカテゴリーに分割した:1=注射:不可能;流れ:流れなし;2=注射:困難;流れ:一滴ずつ、3=注射:中程度;流れ:連続的;4=注射:容易;流れ:連続的。
【0194】
実施例8:インビトロでのポロキサマーゲルからの拡散及び放出
100マイクロリットルのポロキサマー製剤を寒天円板内に埋め込んだ。寒天構造の周囲の媒体中への負荷化合物の放出を測定する。このアッセイはポロキサマー注射を含む椎間板を模倣する。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、72時間に亘り放出された抗生物質の質量を決定した。
図2に示すように、72時間後に92%のバンコマイシン投与量(灰色)及び57%のリネゾリド投与量(黒色)が計上された。リネゾリドの溶解及び続く拡散は、この製剤における中程度の徐放の要素に寄与し得る。
【0195】
インビトロ放出アッセイは、ポロキサマーヒドロゲル中に製剤化されたバンコマイシン及びリネゾリドがゲルから放出されることを示す。
ヒドロゲルの注射可能性をインビトロ及びエクスビボの両方で決定して、ヒドロゲルがインビボ評価に好適であることを確認した。冷蔵庫での保管から取り出した後、バンコマイシン及びリネゾリド製剤の両方は室温で3時間まで、液体及び注射可能の状態に留まる。
【0196】
実施例9:感染モデルを使用した、ポロキサマー製剤のインビボでの拡散及び有効性
治療的投与を伴う実施例1のスタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)脊椎円板感染モデルをこの研究に使用した。
【0197】
図3及び
図4に示すように、投与が共局在する場合、オムニパーク/HA又はポロキサマー中のバンコマイシンは、細菌負荷を>6 log低下させ、全ての治療された椎間板が効果的に滅菌された。椎間板の反対側から個別に投与された場合、バンコマイシンは、椎間板の平均細菌負荷を有意に低下させなかった。ポロキサマービヒクル単独を受けた4つの椎間板のうち1つは無菌であり、バンコマイシンで個別に治療された8つのうち3つは無菌であった。この研究では、バンコマイシンは予防的ではなく治療的に投与され、細菌負荷における>3 log
10低下を示すことは予想され得ない。この治療モデルでは、ポロキサマー製剤は椎間板を通したバンコマイシンの拡散を増大させるように思われない。ポロキサマー製剤化バンコマイシンは、感染の予防モデルで試験されている。
【0198】
ポロキサマー中のリネゾリドは、細菌と共局在した場合、全ての椎間板を滅菌した(
図3)。ポロキサマー中のリネゾリドの個別投与は、椎間板の平均負荷において有意な>3
log
10をもたらし、6つの椎間板のうち4つが滅菌された。臨床的に感染した椎間板は、比較的少ない細菌を含み、治療の24時間以内の3 log
10低下は殆どの場合に有効な滅菌をもたらすであろう。
【0199】
これらの結果は、スタフィロコッカス・アウレウス(S.aureus)椎間板内感染の治療モデルにおいて、リネゾリドポロキサマー製剤がバンコマイシンポロキサマー製剤よりも優れていたことを示す。
(付記)
好ましい実施形態として、上記実施形態から把握できる技術的思想について、以下に記載する。
[項目1]
(a)有効量の抗生物質;
(b)熱感受性ヒドロゲル;
(c)放射線造影剤;
(d)少なくとも1種の薬学的に許容され得る賦形剤を含む、腰痛を緩和及び/又は治療するための注射用医薬組成物。
[項目2]
前記熱感受性ヒドロゲルが、生分解性及び生体適合性ポリマーから構成されている、項目1に記載の注射用医薬組成物。
[項目3]
前記ポリマーがポロキサマーである、項目2に記載の注射用医薬組成物。
[項目4]
前記ポロキサマーがポロキサマー407であり、前記ポロキサマー407は、前記組成物の重量又は体積に基づいて、約2%~約20%存在する、項目3に記載の注射用医薬組成物。
[項目5]
更にポロキサマー188を含み、前記ポロキサマー188は、前記組成物の約5重量%~約20重量%存在する、項目4に記載の注射用医薬組成物。
[項目6]
前記組成物が、約4℃~約25℃の温度で水溶液である、項目1~5のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物。
[項目7]
前記水溶液が、約32℃~約38の温度でゲル化する、項目6に記載の注射用医薬組成物。
[項目8]
前記水溶液が、室温で少なくとも3時間残存する、項目6又は7に記載の注射用医薬組成物。
[項目9]
前記抗生物質が、バンコマイシン及びリネゾリドから選択される、項目1~8のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物。
[項目10]
前記抗生物質がリネゾリドである、項目9に記載の注射用医薬組成物。
[項目11]
前記抗生物質がバンコマイシンである、項目9に記載の注射用医薬組成物。
[項目12]
前記組成物が、前記組成物の重量又は体積に基づいて、15%~35%の濃度のシクロデキストリンを更に含む、項目10に記載の注射用医薬組成物。
[項目13]
リネゾリドの濃度が、前記組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約20%である、項目10又は12に記載の注射用医薬組成物。
[項目14]
バンコマイシンの濃度が、前記組成物の重量又は体積に基づいて、約1%~約30である、項目11に記載の注射用医薬組成物。
[項目15]
前記組成物が、総用量1mg~200mgのリネゾリドを含む、項目10又は12に記載の注射用医薬組成物。
[項目16]
前記組成物が、総用量1mg~600mgのバンコマイシンを含む、項目11に記載の注射用医薬組成物。
[項目17]
前記造影剤が、イオヘキソール、イオパミドール、イオキシラン、イオプロミド、イオジキサノール、イオベルソール、ジアトリゾエート、メトリゾエート、イオキサグレート等からなる群から選択される、項目1~16のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物。
[項目18]
前記注射用医薬組成物が、脊椎に関連した骨、関節、靱帯又は腱への投与のために製剤化されている、項目1~17のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物。
[項目19]
前記脊椎に関連した前記骨、関節、靱帯又は腱が、頸椎、胸椎、腰椎又は仙椎に関連している、項目18に記載の注射用医薬組成物。
[項目20]
項目1~19のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物を投与することを含む、対象における疼痛の治療又は予防方法。
[項目21]
前記疼痛が、急性疼痛、亜急性疼痛、慢性疼痛、局所疼痛、神経根疼痛又は関連痛である、項目20に記載の方法。
[項目22]
前記疼痛が、腰痛又は頸部痛である、項目21に記載の方法。
[項目23]
前記腰痛又は頸部痛が、モディック変化又は骨浮腫に関連している、項目22に記載の方法。
[項目24]
前記対象が、以前に椎間板ヘルニアを有する、項目23に記載の方法。
[項目25]
前記対象が、細菌感染が疑われる又は細菌感染を有する、項目20~24のいずれか一項に記載の方法。
[項目26]
前記注射用医薬組成物が、椎間板、椎間腔、関節内腔、靱帯、腱、腱及び骨接合部、又は骨浮腫に隣接した部位内に注射される、項目20~25のいずれか一項に記載の方法。
[項目27]
前記注射用医薬組成物が、モディック変化若しくは骨浮腫の部位に隣接して、又は前記部位内に注射される、項目20~25のいずれか一項に記載の方法。
[項目28]
対象における疼痛の緩和又は寛解と、前記対象の頸椎、胸椎、腰椎又は仙椎における細菌感染の排除とを同時に行う方法であって、項目1~19のいずれか一項に記載の注射用医薬組成物を、感染した椎骨内、椎骨の付近、又は椎骨の周囲の領域に注射により投与することを含む、方法。