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特許7418872酸素飽和度測定デバイス、それに使用するように構成されたプローブ、および酸素飽和度測定方法
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  • 特許-酸素飽和度測定デバイス、それに使用するように構成されたプローブ、および酸素飽和度測定方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】酸素飽和度測定デバイス、それに使用するように構成されたプローブ、および酸素飽和度測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/1455 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
A61B5/1455
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022543669
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-27
(86)【国際出願番号】 US2021013793
(87)【国際公開番号】W WO2021146671
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】16/746,208
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522285303
【氏名又は名称】キャプメット・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山村 晴雄
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517310(JP,A)
【文献】特開2016-106660(JP,A)
【文献】特開2018-094400(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0120411(US,A1)
【文献】国際公開第2017/179103(WO,A1)
【文献】特開2018-011648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ユニットから生体に向けて放射され、受光ユニットで受ける近赤外光を測定することにより、生体の酸素飽和度を測定する酸素飽和度測定装置であって、
組織の酸素飽和度の測定対象の深さに対応して位置する発光ユニットと受光ユニットとの間の距離情報を記憶するように構成された情報記憶デバイスと、
距離情報に対応した光量で発光ユニットから光を放射させるように構成された発光駆動ユニットと、
組織酸素飽和度を測定するように構成されたパルスを出力するためのパルス出力ユニットと、
パルス出力ユニットからのパルスを、動脈血酸素飽和度を測定するように構成されたパルスに、所定時間の間、増加させるパルス増加ユニットと
を含む、酸素飽和度測定装置。
【請求項2】
受光ユニットによって測定された発光ユニットの光放射状態における発光信号と、受光ユニットによって受けた発光ユニットからの無光状態における無光信号との差に基づいて、環境光を除いた光信号を計算するように構成された環境光除外デバイス
を含む、請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項3】
無光信号が所定レベルを超えたときに、受光ユニットの生体からの離脱を判定して警告を出力するように構成されたプローブ離脱警告デバイス
を含む、請求項2に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項4】
組織酸素飽和度が低下した場合に、パルス増加ユニットの動作を実行するように構成されたパルス増加実行ユニット
を含む、請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項5】
組織酸素飽和度が低下してパルス増加ユニットの動作を実行したときに、測定した動脈血酸素飽和度から脈動が検出できないときに、警告を出力するように構成された無パルス状態警告出力デバイス
を含む、請求項4に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項6】
パルス増加動作を周期的に実行するように構成されたユニット
を含む、請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項7】
受光ユニットによって受けた光のアナログ信号を増幅するように構成された受光増幅器と、
受光増幅器に結合され、受光増幅器によって増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換するように構成されたアナログ/デジタル変換ユニットと
を含む、請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項8】
アナログ/デジタル変換ユニットによって変換されたデジタル信号を無線で送信するように構成された無線通信デバイス
を含む、請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項9】
情報記憶デバイスが、生体と同一の吸収特性を得るように構成されたファントムを用いて予め測定した透過光に関する基準値を記憶し、基準値と比較して計算を実行するように構成された計算ユニットを含む、
請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項10】
情報記憶デバイスが、予め選択された酸素飽和度に調整された血液を用いることにより、予め測定された透過光に関する基準値を記憶し、基準値と比較して計算を実行するように構成された計算ユニットを含む、
請求項1に記載の酸素飽和度測定装置。
【請求項11】
発光ユニットから生体に向けて放射され、受光ユニットにより受ける近赤外光を測定するように構成された酸素飽和度測定装置で使用されるように構成されたプローブであって、
組織の酸素飽和度の測定対象物の深さに対応して位置する発光ユニットと受光ユニットとの間の距離情報を記憶するように構成された情報記憶デバイスと、
発光ユニットから対象物の深さに対応した光量で光を放射するように構成された発光駆動ユニットと、
組織酸素飽和度を測定するように構成されたパルスを出力するように構成されたパルス出力ユニットと
を含む、プローブ。
【請求項12】
プローブが、測定対象の深さに応じて着脱可能かつ交換可能に取り付けられる、
請求項11に記載の酸素飽和度測定プローブ。
【請求項13】
発光ユニットから生体に向けて放射された近赤外光を受光ユニットで測定することにより、生体の酸素飽和度を測定する方法であって、
組織の酸素飽和度を測定対象の深さに対応して位置する発光ユニットと受光ユニットとの間の距離情報を情報記憶デバイスにより記憶することと、
発光駆動ユニットにより、距離情報に対応する量の光を発光ユニットに放射させることと、
パルス出力ユニットにより、組織の酸素飽和度を測定するように構成されたパルスを発光ユニットに印加することと、
パルス増加ユニットにより、動脈血酸素飽和度を測定するように構成されたパルスに、所定時間の間、パルス量を増加させることと
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年1月17日に出願された「Oxygen Saturation measuring Device, Probe Adapted To Be Used Therefor, And Oxygen Saturation measuring Method」と題する米国非仮特許出願第16/746,208号の優先権を主張し、その内容全体は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、酸素飽和度測定装置、それに使用するように構成されたプローブ、および酸素飽和度測定方法に関し、より詳細には、発光ユニットから生体に放射され受光ユニットで受けた近赤外線を測定する酸素飽和度測定装置、それに使用するように構成されたプローブ、および酸素飽和度測定方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、プローブと呼ばれる検出器を取り付けることにより、動脈血酸素飽和度(以下、「SpO2」という)およびパルスレートを測定することができる医療機器としてパルスオキシメータが知られている(例えば、特開第2019-48050号公報参照)。
【0004】
酸素は、体内を循環する血液によって人体に供給される。呼吸によって肺から取り込まれた酸素は、血液に含まれるヘモグロビンと結合して全身に運搬される。パルスオキシメータは、心臓から全身に運ばれる動脈血を流れる血液に含まれるヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンの比率を測定するように構成される。
【0005】
パルスオキシメータのプローブは、光、すなわち波長の異なる2種類の近赤外光を放射する発光ユニットと、発光ユニットから放射された光を発光ユニットとは反対側において検出する受光ユニットとを含む。発光ユニットから放射された2種類の光は、指先や耳たぶなどを透過し、受光ユニットは、その透過した光を反対側で測定する。
【0006】
血液中に含まれるヘモグロビンに対する光の吸収量は、酸素との結合状態によって2種類の光で異なるので、指先や耳たぶなどを透過した光または反射した光を受光ユニットで測定し、さらに2種類の光の吸収量の差を解析することにより、SpO2を測定することができる。
【0007】
生体、例えば指先、耳たぶ等に放射された光は、血液以外の組織層、動脈層、静脈層を透過し、各層で光吸収を受けながら光を検出する受光ユニットに到達する。さらに、心臓から送り出され脈動によって全身に運ばれた動脈血は、末梢血管系内の血圧または容積の変化により脈波と呼ばれる波形を描いて血管内を移動する。
【0008】
脈動する動脈血だけが極めて短時間に脈波によって厚みが変化し、血液以外の組織層と静脈層では厚みが変化しない。厚みの変化に伴って透過光量も変化するため、受光ユニットによって検出される光も変化する。したがって、受光ユニットで検出される光量変動成分は、厚み変化部分、すなわち動脈血の情報である。
【0009】
脈波から未変化部分を除去し、変化成分を解析することで、動脈血の変化成分を測定することができる。さらに、放射中の2種類の光の変化成分を解析することにより、動脈血のみの酸素飽和度としてのSpO2を測定することができる。
【0010】
したがって、パルスオキシメータは、SpO2と脈拍を同時に測定することができ、肺の酸素交換機能の評価に利用することができる。一方、動脈拍動が検出できない部位ではSpO2を測定することができない。
【0011】
ところで、心臓手術の場合、常に脳細胞内、具体的には大脳皮質の酸素状態をリアルタイムに測定して脳の状態を確認する必要がある。しかし、上述した既存のパルスオキシメータは、大脳皮質の酸素状態を測定することができない。
【0012】
パルスオキシメータのプローブを指先や耳たぶに取り付けてSpO2を測定するとき、発光ユニットと受光ユニットとの距離が短いため、発光ユニットから発せられた光が指先や耳たぶの組織内を直進して受光ユニットに伝達し、その光の吸収量に基づいてSpO2が測定できる。
【0013】
ところで、大脳皮質は大脳表面上に延びる神経細胞の薄い層であり、大脳皮質は頭皮や頭蓋骨、脳脊髄液などで覆われている。したがって、パルスオキシメータにより大脳皮質内の酸素状態を測定しようと思っても、発光ユニットから放射された光は、頭皮、頭蓋骨、脳脊髄液等の障害物の存在により散乱または拡散するので、受光ユニットは正確に受光できず、大脳皮質内の酸素状態を正確に測定することはできない。
【0014】
そこで、パルスオキシメータのように、プローブを所望の位置、例えば、額にセットして、組織酸素飽和度(以下、「rSO2」という)を測定できる組織酸素飽和度測定装置が提供されてきた(例えば、特開2006-75354号公報参照)。
【0015】
組織酸素飽和度測定装置に使うために構成されるプローブは、波長の異なる2種類の近赤外光を放射する発光ユニットと、発光ユニットから放射された光を受ける受光ユニットとを含む。プローブは、発光ユニットと受光ユニットとが同一方向に向けられた一つの同一平面上に所定距離で固定された状態で、額などの所望の位置に取り付けられる。プローブを額等の所望の位置にセットし、発光ユニットから放射された2種類の光を受光ユニットが受け、受けた光を解析することにより、rSO2を測定することができる。
【0016】
組織酸素飽和度測定装置では、受光ユニットが受けた全ての光について演算手段により組織酸素飽和度を計算するので、測定される酸素飽和度は、対象組織の末梢血管に含まれる血液全体の酸素飽和度となり、組織酸素飽和度測定装置で測定した酸素飽和度は概ね動脈成分を25%、静脈成分を75%含む測定値を示すことになる。
【0017】
組織酸素飽和度測定装置で測定されるrSO2は、毛細血管を通して組織に酸素を伝達した後の静脈血の情報を多く含むため、組織に酸素が十分に供給されているかどうか、さらに酸素代謝が正常に行われているかどうかの評価に利用される。特に、心臓手術時の評価または心停止患者の脳内酸素状態の評価などに重要な指標となる。一方、組織酸素飽和度測定装置では、動脈の情報があまり検出されないため、脈拍またはSpO2を正確に測定することができない。
【0018】
上述したパルスオキシメータと組織酸素飽和度測定装置は、同じように酸素飽和度を測定するが、測定対象がそれぞれ異なるため、医療分野では、測定しようとする値に応じて選択的に、または同時に並行して任意選択で利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2019-48050号公報
【文献】特開2006-75354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、パルスオキシメータや組織酸素飽和度測定装置などの機器にも、それぞれ固有の問題があった。まず、パルスオキシメータでは、プローブを長時間使用してSpO2を測定する際に、低温やけどを起こすという問題がある。
【0021】
脈波による厚みの変化は極めて短時間で発生するため、パルスオキシメータで脈波を検出するためには、発光ユニットが30/秒以上のパルスレートで組織に光を放射することが必要である。
【0022】
発光ユニットから放射される光は近赤外線、すなわち熱線であるため、パルスオキシメータでSpO2を同一部位で連続測定すると、近赤外線による熱の蓄積により低温やけどを引き起こす。したがって、パルスオキシメータでは、同一部位への長時間のプローブ設定は禁忌事項または禁止事項として規定されている。
【0023】
パルスオキシメータによるSpO2測定において低温やけどを防止するためには、プローブの設定位置を周期的に変更する必要がある。しかし、そのためには設定時間や設定位置の変更のための確実な管理が必要であるため、時間がかかり、人的コストが増加するおそれがある。
【0024】
一方、組織酸素飽和度測定装置では、対象組織の部位に応じて、発光ユニットからの光放射量を設定するために多くの時間を要するという問題を伴う。具体的には、組織酸素飽和度測定装置に利用されるプローブでは、発光ユニットと受光ユニットとが所定の距離に位置しているため、発光ユニットと受光ユニットとの間の距離を、プローブがセットされる表皮からの深さの1.25倍から1.5倍としなければならないからである。
【0025】
対象組織の酸素飽和度は、発光ユニットおよび受光ユニットが任意選択で測定対象組織に対応する距離に位置するプローブによって測定される。発光ユニットから発せられる光量が、測定対象組織の存在する深さに対して過剰であると、過剰な光量により被写体の周辺がぼやけて不鮮明になる、写真におけるハレーションと同様の現象が生じ、ヘモグロビン酸素飽和度の変化が測定できなくなる。
【0026】
このようなハレーションを起こすことなく、対象組織の酸素飽和度を正確に測定するためには、発光ユニットと受光ユニットとの距離に対して任意選択で光吸収量が存在するため、表皮から測定対象組織の深さ、すなわち発光ユニットと受光ユニットとの距離に対してヘモグロビンの酸素飽和度の変化を測定できるように、発光ユニットからの光放射量を制御することが必要である。
【0027】
測定対象組織が表皮から深い位置にある場合には、発光ユニットから放射される光の量を多くする必要があり、一方、測定対象組織が表皮から浅い位置にある場合には、発光ユニットから放射される光の量を少なくしないとハレーションを起こし、ヘモグロビンの酸素飽和度の変化を測定することができなくなる。
【0028】
逆に、測定対象組織が表皮から深い位置にある場合、発光ユニットからの光放射量が少ないと、受光ユニットが正確に受光できず、ヘモグロビンの酸素飽和度の変化を測定することができない。
【0029】
また、測定対象組織の深さによって発光ユニットと受光ユニットとの距離が異なる場合、光の散乱または拡散により光の損失割合が異なるため、正確な光量制御を行うには相当の時間を要する。
【0030】
また、医療分野では、患者のSpO2またはrSO2を長時間測定しなければならない場合がある。このような場合、上述したSpO2測定用のパルスオキシメータではrSO2を正確に測定できず、一方、rSO2測定用の組織酸素飽和度測定装置ではSpO2を正確に測定できないため、SpO2測定用のパルスオキシメータとrSO2測定用の組織酸素飽和度測定装置をそれぞれ別々に用意しなければならず、多くの設置費用がかかる。
【0031】
本発明は、かかる点に鑑みて成されたものであり、生体の所望の位置で動脈血酸素飽和度(SpO2)および組織酸素飽和度(rSO2)を安全、容易かつ経済的に長時間連続して測定できる、酸素飽和度測定装置およびそれに使用するように構成されたプローブを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
上記課題を解決するために、本発明は、発光ユニットから生体に向けて放射され、受光ユニットで受ける近赤外光を測定することにより、生体の酸素飽和度を測定する酸素飽和度測定装置を提供し、酸素飽和度測定装置は:
組織酸素飽和度の測定対象の深さに対応して設けられ、発光ユニットと受光ユニットとの間の距離情報を記憶する情報記憶デバイスと、
距離情報に応じた光量で発光ユニットに光を放射させるための発光駆動ユニットと、
組織酸素飽和度を測定可能なパルスを出力するパルス出力ユニットと、
パルス出力ユニットからのパルスのレートを所定時間増加させ、動脈血酸素飽和度の測定を可能とするパルス増加ユニットとを備える。
【0033】
このように、情報記憶デバイスは、組織酸素飽和度の測定対象の深さに対応して設けられた発光ユニットと受光ユニットとの間の距離に関連する情報を記憶し、発光駆動ユニットは、距離情報に対応する光量だけ光を放射するように発光ユニットを駆動させ、パルス出力ユニットは、発光ユニットに組織酸素飽和度を測定できるパルスを放射させ、パルス増加ユニットは、動脈血酸素飽和度を測定できるパルスに、所定時間の間、パルス出力ユニットからのパルス量を増加させる。
【0034】
さらに、本発明は、発光ユニットから生体に向けて放射される近赤外光を受光ユニットによって測定する酸素飽和度測定装置に使用されるように構成されたプローブを提供し、プローブは;
組織酸素飽和度の測定対象物の深さに対応して設けられ、発光ユニットと受光ユニットとの間の距離に対する情報を記憶するための情報記憶デバイスと、
距離に関する情報に対応する光量を発光ユニットに放射させる発光駆動ユニットと、
距離に関する情報に対応した光量で発光ユニットに光を放射させるためのパルス出力ユニットと、
を含む。
【0035】
このように、情報記憶デバイスは、組織酸素飽和度の測定対象の深さに対応して設けられた発光ユニットおよび受光ユニットの距離関連情報を記憶し、発光駆動ユニットは、距離関連情報に対応した光量で発光ユニットに光を放射するよう駆動し、パルス出力ユニットは、組織酸素飽和度を測定可能なパルスを発光ユニットに印加する。
【0036】
さらに、本発明は、発光ユニットから生体に印加される近赤外光を受光ユニットで測定することにより、生体内の酸素飽和度を測定する酸素飽和度測定方法を提供し、方法は;
組織酸素飽和度の測定対象の深さに対応して設けられた発光ユニットと受光ユニットとの距離関連情報を記憶するステップと、
発光駆動ユニットによって、距離関連情報に対応する光量で発光ユニットから光を放射するステップと、
パルス出力ユニットによって、組織酸化飽和度を測定可能なパルスを発光ユニットに印加するステップと、
パルス増加ユニットによって、動脈血酸素飽和度を測定可能なパルスに、所定時間の間、パルス出力ユニットからのパルスの量を増加させるステップとを含む。
【0037】
このように、情報記憶デバイスは、組織酸素飽和度の測定対象の深さに対応する距離に設けられた発光ユニットおよび受光ユニットの距離関連情報(以下、距離情報とも称することがある)を記憶しており、発光駆動ユニットは、距離関連情報に対応する光量で発光ユニットに光を放射させ、パルス出力ユニットは、組織酸素飽和度を測定可能なパルスを発光ユニットに印加し、パルス増加ユニットは、動脈酸素飽和度を測定可能なパルスに、所定時間の間、パルス出力ユニットからのパルス量を増加させる。
【0038】
本発明の酸素飽和度測定装置、プローブ、および酸素飽和度測定方法によれば、情報記憶デバイスが、組織酸素飽和度の測定対象の深さに対応して設けられた発光ユニットと受光ユニットとの間の距離情報を記憶しているので、発光駆動ユニットは、距離情報に対応する光量で発光ユニットに光を放射させ、パルス出力ユニットは、発光ユニットに測定対象の組織飽和度を測定可能なパルスを放射させ、パルス増加ユニットは、動脈血酸素飽和度を測定可能なパルスに、所定時間の間、パルス出力ユニットからのパルス量を増加させる。したがって、近赤外光による組織への熱の蓄積が緩和され、1台の装置でSpO2およびrSO2の両方を測定できるため、動脈血酸素飽和度(SpO2)と組織酸素飽和度(rSO2)を生体の所望の位置で安全、容易で経済的に長時間連続測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1A】本発明による酸素飽和度測定システムの全体構成を示すブロック図である。
図1B】本発明による酸素飽和度測定システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】ROMに記憶される情報の例を示すブロック図である。
図3】樹脂板の吸収係数を測定した結果を示すグラフである。
図4】吸光率(R/IR比)と酸素飽和度との相関を示すグラフである。
図5】ヘモグロビンの光吸収係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。図1Aおよび図1Bは、本発明による酸素飽和度測定装置(以下、システムとも称することがある)の全体構成を示すブロック図である。図1Aおよび1Bに示すように、酸素飽和度測定システム100は、プローブ110、装置本体120、端末機器130、およびディスプレイ140を含む。
【0041】
プローブ110は、装置本体120によって得られた情報をデジタル化して端末機器130に送ることができるように、対象組織の情報を得るために生体にセットされるように構成される。
【0042】
装置本体120は、プローブ110に信号を送ることによってプローブ110を動作させ、プローブ110から得られたデジタル信号を中継して端末機器130に送るように構成される。
【0043】
端末機器130は、その結果を記憶するために装置本体120を経由して対象組織から得られた情報に基づいて、例えば、プローブ110によって測定された対象組織の酸素飽和度を計算する演算処理を行うように構成されている。
【0044】
ディスプレイ140は、端末機器130によって計算された酸素飽和度の情報、グラフなどを表示するように構成された、端末機器130と接続されたモニタである。さらに、ディスプレイ140は、プローブ110または装置本体120を動作させるための指示を選択するメニュー画面等も表示することができる。
【0045】
さらに、酸素飽和度測定システム100は、端末機器130およびディスプレイ140を用いた操作により、対象組織の酸素飽和度の測定、測定データの処理、システムの起動終了等の制御、およびプローブ110、装置本体120などへの電力供給を行うことができる。
【0046】
プローブ110は、生体の一部にセットされ、情報を得ることを目的とした対象組織の酸素飽和度を測定するように構成された検出器であり、発光ユニット111、受光ユニット112、発光駆動ユニット113、受光増幅器114、アナログ-デジタル変換器115(以下、A/D変換器115ともいう)、MPU(マイクロ処理ユニット)116、ROM(リードオンリーメモリ)117(以下、情報記憶ユニットともいう)、およびUART(ユニバーサル非同期送受信機)118を備える。
【0047】
発光ユニット111は、複数種類の近赤外光としての光を生体に印加することにより、目的とする対象組織の情報を得るように構成されており、発光の光源として、例えば、3波長の近赤外発光ダイオードを含む。
【0048】
発光ユニット111の3つの波長の近赤外発光ダイオードは、例えば、波長770nm、805nm、870nmの近赤外発光ダイオードである。このような近赤外発光ダイオードは、発光駆動ユニット113にそれぞれ接続されている。
【0049】
受光ユニット112は、発光ユニット111から放射された光を検出するように構成され、受光増幅器114にそれぞれ接続される。受光ユニット112は、例えば、フォトダイオードであり、発光ユニット111から放射される光の波長に関係なく、その感度領域の光を信号として出力することができる。
【0050】
発光ユニット111と受光ユニット112とは、所定の距離をおいて設けられ、発光ユニット111と受光ユニット112との距離に応じた距離の70%から80%以内の深さに位置する対象組織におけるヘモグロビンの変化を測定することができる。
【0051】
発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が任意選択である複数のプローブ110がそれぞれ提供され、測定しようとする対象組織の位置に応じて、その中から所望のプローブ110を選択して利用することが可能である。さらに、発光ユニット111は、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離に対して適切な光量を放射することが必要である。なお、制御方法については、後述する。
【0052】
発光駆動ユニット113は、発光ユニット111から光を放射させるように構成されており、例えば、近赤外発光ダイオードを定電流で光を放射させるための電流を制御するトランジスタを含み、発光ユニット111およびMPU116と接続される。
【0053】
発光ユニット111は、発光駆動ユニット113から供給される電流を大きくすることによって、より大きな量の強い光を放射させることができ、生体の深部にある対象組織まで光を送ることができる。
【0054】
受光増幅器114は、受光ユニット112で検出された受信光信号を必要な信号レベルまで増幅するように構成されており、受光ユニット112およびA/D変換器115と接続される。
【0055】
A/D変換器115は、アナログ信号をデジタル信号に変換するように構成されており、受光増幅器114およびMPU116と接続される。受光増幅器114は、受光ユニット112によって検出された受信光アナログ信号を増幅し、A/D変換器は、増幅された受信光アナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0056】
従来技術では、発光ユニット111から放射された光は、受光ユニット112で受け、受光増幅器114で増幅され、受光増幅器114は、受光増幅器114で増幅された低電圧のアナログ信号を、通信ケーブルを介して例えば数メートル先に配置した端末機器等に転送していた。
【0057】
ところで、低電圧のアナログ信号は、外部ノイズの影響を受けやすいため、測定値が不安定になる。そこで、本発明では、発光ユニット111から放射された光は受光ユニット112で受け、受光増幅器114で増幅されたアナログ信号は必要な信号レベルまで増幅され、その直後にA/D変換器115はアナログ信号をデジタル信号へ変換する。
【0058】
したがって、外部ノイズの影響を受けやすいアナログ信号を通信ケーブルで伝送することなく、A/Dコンバータ115で変換された安定した信号をデジタル信号として伝送することができる。
【0059】
MPU116は、接続された各機器を制御するためのマイクロプロセッサであり、発光駆動ユニット113、A/D変換器115、およびROM117と接続される。例えば、発光駆動ユニット113は、MPU116からのクロックパルスに同期して発光ユニット111にパルス状の光を放射させる。
【0060】
ROM117は、情報を記憶するための情報記憶デバイスである。例えば、ROM117は、受光増幅器114から出力されるアナログ信号の信号レベルを互いに等しくするために受光増幅器114の出力を較正するための係数である、受光増幅器114の出力のための較正データを記憶している。
【0061】
発光ユニット111は、複数の異なる波長の近赤外発光ダイオードを含んでもよい。近赤外発光ダイオードのそれぞれに光を放射させるために必要な電流は異なる。また、同一の電流で近赤外線発光ダイオードが光を放射するよう駆動しても、近赤外線発光ダイオードの個体差により光出力が異なる。したがって、受光ユニット112が受ける各波長の光信号も異なり、受光増幅器114から出力されるアナログ信号の信号レベルも異なる。
【0062】
そこで、受光増幅器114から出力される信号レベルが同一となるように、近赤外発光ダイオードの各々が定電流で光を放射したときの受光増幅器114から出力される信号レベルを較正するための係数を予めROM117に記憶しておくことにより、その後信号レベルからヘモグロビン吸光度を求める際に、近赤外発光ダイオードから各波長で放射した光に基づいて、ヘモグロビンの吸収係数から求められる吸光度を同一とすることができる。
【0063】
このように、万一、プローブ110に用いられる発光ユニット111と受光ユニット112の感度にアンバランスまたはバラツキが生じたとしても、そのような発光ユニット111と受光ユニット112の感度のアンバランスまたはバラツキが較正されるので、ヘモグロビンの変化を正確に計測でき、対象組織の酸素飽和度を正確に計測できる。
【0064】
プローブ110に用いられる発光ユニット111および受光ユニット112には、近赤外発光ダイオードまたはフォトダイオードなどの量産型デバイスが用いられる。しかし、このようなデバイスの特性、例えば発光出力と受光感度は全く同一ではなく、アンバランスまたはバラツキが生じることがある。
【0065】
そこで、後述する生体と同一の吸収特性を得ることができるファントムを用いて予め測定した透過光に対する基準値として、ファントムベースの較正データをROM117に予め記憶しておくことにより、プローブ110に用いられる発光ユニット111と受光ユニット112の感度にアンバランスまたはバラツキが生じたとしても、発光ユニット111と受光ユニット112の感度のアンバランスまたはバラツキを較正し、ヘモグロビンの変化を正確に測定し、対象組織の酸素飽和度を測定することができる。
【0066】
具体的には、ファントム上で酸素飽和度が50%となる発光ユニット111において異なる光の波長の比率の電圧データがROM117に記憶される。さらに、受光増幅器114の増幅率のデータも記憶することができる。
【0067】
さらに、ROM117には、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離情報と、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離に対して適切な光量を印加するための電圧情報とを記憶させることもできる。発光ユニット111は、電圧情報に基づいて、生体へ光を放射することができる。
【0068】
UART(ユニバーサル非同期送受信機)118は、装置本体120に送信するためにプローブ110で得られた信号、およびプローブ110を動作させるための信号を送受信するように構成されており、通信ケーブルによって装置本体120と着脱可能かつ交換可能に接続される。
【0069】
以上のように、プローブ110では、情報を得ようとする対象組織が存在する深さに応じて発光ユニット111と受光ユニット112の距離が異なり、測定しようとする対象組織の位置に応じて任意選択のプローブ110を選択して使用することができる。測定時には、選択されたプローブ110が装置本体120にセットされて測定が行われる。
【0070】
このように、生体に接触して使用するプローブ110を交換可能にしたので、生体に接触させるプローブ110のみを使い捨てにすることができ、健康および安全性を向上させることができる。
【0071】
装置本体120は、測定対象組織の深さに応じて選択されたプローブ110が取り付けられ、プローブ110に信号を送ることによりプローブ110を動作させ、プローブ110から得られたデジタル信号を中継して送信するように構成されており、UART、MPU122、フォトカプラ123、USB(ユニバーサルシリアルバス)からUART124、USBインターフェース125、およびDC/DCコンバータ(直流変換器)を含む。
【0072】
UART121は、プローブ110から装置本体120に得られる信号、およびプローブ110を動作させるための信号を送受信するよう構成されており、プローブ110に対して通信ケーブルを介して着脱可能かつ交換可能に接続されている。
【0073】
MPU122は、接続された各機器を制御するように構成されたマイクロプロセッサであり、UART121およびフォトカプラ123と接続されている。フォトカプラ123は、電気信号をそこで一旦光信号に変換し、再び電気信号に戻して電気絶縁下で信号を送信するように構成されており、MPU122およびUSBからUART124と接続されている。このように、生体に接触するプローブ110と端末機器130は、医療機器として使用される条件を満たすように絶縁されている。
【0074】
USBからUART124は、フォトカプラ123から送られた信号をUSBインターフェース125に適応する形に変換するための変換モジュールであり、フォトカプラ123およびUSBインターフェース125に接続されている。
【0075】
USBインターフェース125は、USBケーブル等の通信ケーブルを介して装置本体120を端末機器130に接続するためのコネクタである。したがって、装置本体120は、USBケーブルを介して、端末機器130と接続される。
【0076】
DC/DCコンバータ126は、USBケーブルを介して接続された端末機器130からプローブ110へ電力を供給するための電源を提供するように構成されており、USBインターフェース125およびUART121と接続される。
【0077】
端末機器130は、装置本体120を介して得られた対象組織の情報から、プローブ110によって測定された対象組織の酸素飽和度等を計算する演算動作を行い、その結果を記憶するように構成されている。端末機器130は、USBインターフェース131と制御ユニット132とを含む。
【0078】
USBインターフェース131は、USBケーブル等の通信ケーブルを介して端末機器130を装置本体120に接続するように構成されたコネクタであり、装置本体120および制御ユニット132と接続されている。このように、端末機器130は、USBケーブルを介して装置本体120と接続される。
【0079】
制御ユニット132は、装置本体120を介して接続されたプローブ110の動作を制御するように構成されており、USBインターフェース131およびディスプレイ140と接続されている。
【0080】
さらに、制御ユニット132は、装置本体120を介してプローブ110によって測定された情報を受け、計算し、そして、計算された情報を、接続されたディスプレイ140に出力することができる。具体的には、制御ユニット132は、計算ユニット133、パルス増加ユニット134、周期演算実行ユニット135、環境光除外ユニット136、および情報記憶ユニット137を含む。
【0081】
計算ユニット133は、主にランバート・ベールの法則に基づいて酸素飽和度を計算するように構成されている。計算ユニット133はまた、プローブ110のROM117に記憶された較正データに基づいて情報を較正するように構成されている。
【0082】
さらに、計算ユニット133は、rSO2またはSpO2を測定するために得られた情報に基づいて、ヘモグロビン量(HbI)、対象組織における酸素代謝量等の相対値を計算することも可能である。対象組織における酸素代謝量の具体的な計算方法としては、以下の数式1により計算することができる。
【0083】
[数式1]
酸素代謝量(CMRO2)=HbI×(SpO2-rSO2)
【0084】
パルス増加ユニット134は、図示されていない入力手段によって入力された指示情報に基づいて、装置本体120を介して接続されたプローブ110の発光ユニット111に対するパルスレートを増加させるように構成されている。
【0085】
酸素飽和度測定装置100において、発光ユニット111は、対象組織における酸素飽和度の測定時にrSO2を測定可能なパルスで通常生体に光を放射する(以下、rSO2モードと称する)。具体的には、rSO2モードでは、発光ユニット111は、1秒間に10以下のパルスレートで光を生体に放射する。したがって、低いパルスレートの光が生体に放射されるため、熱の蓄積が起こらず、低温やけどの心配なくrSO2を測定することができる。
【0086】
さらに、受光ユニット112は、発光ユニット111から放射された光の強度を、その変化が受光ユニット112で検出できるような強度に合わせることで、一応の情報を得ることができるので、発光ユニット111からの発光時間を約0.1mm秒と短くすることができ、得られた情報をサンプルホールドして、次のパルスまで前回データを保持することにより、データ処理を容易とすることができる。
【0087】
パルス増加ユニット134では、上述したrSO2モードにおけるパルスレートを一時的に増加させ、発光ユニット111は、パルスオキシメータと同様にSpO2を測定可能なパルスで生体に対して光を放射する(以下SpO2モードと称する)。具体的には、SpO2モードでは、発光ユニット111は、1秒間に30以上のパルスレートで生体に光を放射する。
【0088】
SpO2モードにおける放射時間を最大で1分程度に制限することで、近赤外光による熱の蓄積を防止することができる。熱の蓄積が少なくなるため、低温やけどの心配なくSpO2を測定することができる。このように、酸素飽和度測定システム100は、SpO2とrSO2とを切り替えて測定しながら、生体に取り付けた1つのプローブ110のみによる測定を行うことができる。
【0089】
周期動作実行ユニット135は、パルス増加ユニット134によって周期的にパルスレートを増加させるように構成されている。例えば、周期動作実行ユニット135は、所定の間隔、例えば、10分毎にパルス増加ユニット134を動作させる。したがって、発光ユニット111を周期的にSpO2モードにおけるサンプリングパルス用途にすることができるので、SpO2を測定することが可能となる。なお、周期動作実行ユニット135によるサンプリング動作の実行間隔は、近赤外光による組織への熱蓄積の心配があるため、少なくとも5分程度に制限することが好ましい。
【0090】
また、図示しないが、制御ユニット132において、rSO2モードにおけるrSO2の状態を監視するrSO2監視ユニットも設け、rSO2が低下した場合に、rSO2監視ユニットがパルス増加ユニット134をSpO2モードへ切り替えてもよい。
【0091】
このように、rSO2が低下すると自動的にSpO2モードに動作モードが切り替わり、脈波が測定されないと心停止が推定されるので、例えば光またはスピーカーなどの警告デバイスからアラーム(例えば、可聴アラームまたは視覚アラーム)を発生させることも可能である。別の実施形態では、アラームは、ユーザに提供されるメッセージまたは通知の形態とすることができる。
【0092】
環境光除外ユニット136は、強烈な環境光を除外するように構成されている。従来、近赤外光などの光による測定では、強い環境光が侵入して受光ユニット112が正確に光を検出できないため、主に病院内の手術室、ICU、病室などで測定が行われ、屋外での測定は特に行われなかった。
【0093】
さらに、測定は室内で行われることが多いが、実際の測定は完全に暗い状況で行われない。光を受けるプローブ110の受光ユニット112は、光が波長に関係なく感度領域である限り、光を信号として出力する。すなわち、発光ユニット111から印加される必要な信号のみを得ようとする場合には、生体を介して周囲の光も受光ユニット112に検出される。
【0094】
そして、環境光除外ユニット136は、まず、発光ユニット111から発せられたパルスのうち、発光ユニットが光を放射しない無光状態時に受光ユニット112が取得した情報を利用する。具体的には、rSO2モードにおいて、発光ユニット111は、4種類の光状態、すなわち無光状態または770nm、805nm、870nmの光放射状態を与え、受光ユニット112は、かかる4種類の光を受けて1から5秒の移動平均で情報記憶ユニット137に信号を記憶し、これを計算ユニット133における計算に利用する。
【0095】
発光ユニット111が光を放射していない無光状態において、受光ユニット112が受ける光は、測定状況に依存する。屋外等の明るい場所で測定を行う場合には、明るい環境光が生体を介して受光ユニット112に受けられる。また、暗室の室内で測定を行う場合には、暗室内のわずかな光が生体を介して受光ユニット112に受けられる。これらは環境光信号と呼ばれる。
【0096】
受光ユニット112には既に環境光に起因する信号が入射しているので、発光ユニット111が光を放射すると、受光ユニット112は発光ユニット111からの光の放射により増加した環境光を検出する。
【0097】
すなわち、受光ユニット112が測定すべき必要な光は、受光ユニット112が検出した光と環境光との差であり、受光ユニット112が測定すべき必要な光信号は、受光ユニット112における受光信号から環境光信号を引いたものとして得ることができる。
【0098】
環境光除外ユニット136では、このような処理により、環境光を除いた光信号を得ることができる。さらに、測定時にプローブ110が対象組織の表皮にセットされ、受光ユニット112は環境光から遮蔽される。そして、外部信号を監視するための環境光監視ユニットを設け、環境光監視ユニットが監視した外部信号が通常の環境光のレベルよりも高い場合には、プローブ110、特に受光ユニット112が表皮から脱落したと判断し、例えば光またはスピーカーなどの警告デバイスによりアラーム(例えば、可聴アラームまたは視覚アラーム)を発生することも可能である。別の実施形態では、アラームは、ユーザに提供されるメッセージまたは通知の形態とすることができる。
【0099】
情報記憶ユニット137は、計算ユニット133による計算結果を記憶することもでき、環境光除外ユニット136によって利用される環境光信号を記憶することもでき、様々な情報を記憶するように構成されている。
【0100】
装置本体120と端末機器130がUSBインターフェース125およびUSBインターフェース131を介してUSBケーブルで接続されていることを説明したが、USBインターフェース125およびUSBインターフェース131は、通信ケーブルなどの有線ケーブルを介さず通信可能な無線通信デバイス、例えばトランシーバ、送信機、受信機、アンテナなどによっても接続されていてもよい。
【0101】
このように、有線通信ケーブルを介する各機器間の接続部分を少なくすることができるので、患者の移動時や治療動作時に手や足が絡まることによるモニタ等の事故を低減することが可能である。
【0102】
さらに、図1Aおよび図1Bでは、発光ユニット111および受光ユニット112がプローブ110に対して左右一対に設けられたダブルタイプの構成を示したが、それらの数および位置は任意選択で変更可能である。
【0103】
例えば、プローブ110の中心に対して一方の側に発光ユニット111を設け、他方の側に受光ユニット112を設けたシングルタイプ構成を用いてもよい。シングルタイプ構成の場合、シングルタイプのプローブ110は、生体の他の所望の異なる位置に取り付けられる。
【0104】
プローブ110では、通常、複数の発光ユニット111と受光ユニット112のセットを含むチャンネルがそれぞれ同時に使用されるため(一般に、額部では左右2チャンネル)、複数の発光ユニット111と受光ユニット112が同時に動作すると、信号同士が干渉して信号の導出源を区別することが不可能になる。
【0105】
そこで、基準としてMPU116からのクロックパルスに基づいて、プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112とが干渉することなく独立して動作するように制御することが好ましい。したがって、アナログ信号を用いて接続する場合と比較して、プローブ110に接続する通信ケーブルの本数を減少させることができる。
【0106】
続いて、酸素飽和度測定システム100を用いた酸素飽和度の測定方法について説明する。まず、測定対象組織の深さに対応するプローブ110を選択して装置本体120に接続し、プローブ110を測定対象組織の表皮にセットする。
【0107】
次に、端末機器130およびディスプレイ140を用いてメニュー画面から測定するチャンネル数および測定条件を指定し、測定開始ボタンをONにする。装置本体120は、接続されたプローブ110内のROM117から情報を読み出す。
【0108】
制御パルスは、ROM117から取得した情報に基づいて装置本体120からプローブ110に出力され、発光ユニット111は、プローブ110内の制御パルスに応じた量の光を放射して生体に光を印加する。
【0109】
生体に印加された光は、生体内の毛細血管床を通過する際に、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンに吸収され、波長毎に異なる吸収を示す信号として受光ユニット112でアナログ電気信号に変換される。
【0110】
変換されたアナログ信号は、A/D変換器115でデジタル信号に変換され、プローブ110から出力され、装置本体120を介して端末機器130に送られる。
【0111】
端末機器130では、対象組織の酸素飽和度が制御ユニット132により計算され、処理された計算結果はディスプレイ140に表示されると同時に、端末機器130に記憶される。さらに、トレンドグラフのようなグラフィック情報もディスプレイ140に表示することができる。通常、rSO2はrSO2モードで測定され、SpO2は任意選択にまたは周期的に測定される。
【0112】
図2は、ROM(リードオンリーメモリ;情報記憶デバイスとも呼ばれることがある)に記憶される情報の例を示すブロック図である。図2に示すように、ROM117は、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離情報117A、ファントム上の酸素飽和度が50%の場合の発光ユニット111の異なる光の波長の比率の電圧情報117B、発光ユニット111の駆動電圧および受光増幅器114の増幅率の情報117C、および、発光ユニット111および受光ユニット112の較正情報117Dを記憶している。また、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離情報117Aとして、測定対象組織の深さに応じて設定された発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離情報が記憶されている。
【0113】
プローブ110を較正するためのファントム上の酸素飽和度が50%の発光ユニット111における異なる光の波長の比率の電圧情報117Bとして、ファントム上の酸素飽和度が50%の発光ユニット111における異なる光の波長の比率の電圧情報が基準として記憶される。
【0114】
(ファントムによる較正)
発光ユニット111および受光ユニット112に用いられるデバイスは、例えば量産されているため、それらの光放射出力および受光感度などの特性は互いに全く同一ではなく、個別にアンバランスまたは散乱を与えている。このようなデバイスをプローブ110に使用するためには、特性の較正が必要である。そうでないと、正確な測定値が得られない。そこで、本発明による酸素飽和度測定システムでは、ファントムを利用して較正が行われる。
【0115】
図3は、樹脂板の吸収係数を測定した結果を示すグラフである。本発明では、ファントムを利用して較正を適用するが、上記のように使用する2種類の波長に対して等しい吸光度を有する樹脂材料は存在しない。したがって、図3の結果に示すような2種類の光の波長間で実質的に等しい吸収係数を有する材料が選択され、較正の際の基準として利用される。
【0116】
選択された樹脂板の一例として、外観がグレーで厚さが0.5mmの塩化ビニル板が用いられた。図3は、吸光光度計を用いてグレー樹脂板の吸光度を測定した結果を示すグラフである。
【0117】
グレー塩化ビニル樹脂板の吸光係数εは、以下の表1に示すとおりである。
【0118】
【表1】
【0119】
ヘモグロビンと酸素が結合したオキシヘモグロビンの量と、オキシヘモグロビンから酸素が離脱したデオキシヘモグロビンの量が等しい場合、酸素飽和度は50%となる。ファントム上の2種類の光の波長の光吸収量の比(R/IR比)が1.0のとき、酸素飽和度を50%に較正する方法は、以下のように行われる。
【0120】
それぞれの波長における光吸収係数εについては、以下の表2に示す値が使用される。
【0121】
【表2】
【0122】
吸光度をKとすると、光吸収係数εは、ε=0.434Kと表され、次の表3のように示される。
【0123】
【表3】
【0124】
ランバートビールの法則により、K=εCdとなり、波長λにおける吸光度Kは、以下の数式2で表される。
【0125】
[数式2]
Kλ=(rSO2×KHbO2+(1-rSO2)×KHb)cd
【0126】
本発明の酸素飽和度測定システム100で使用される波長(770nm、805nm、870nm)ごとの吸光度Kは、数式3A-3Cを開始とする以下に示す式で得られる。
【0127】
[数式3A-3C]
R=K770=(rSO2×0.368+(1-rSO2)×0.806)cd(3A)
IR=K870=(rSO2×0.576+(1-rSO2)×0.414)cd(3B)
R/IR=(0.806-0.438×rSO2)/(0.414+0.162×rSO2)(3C)
【0128】
R/IR=Aとすると、Aは以下の数式4A-4Bで表される。
【0129】
[数式4A-4B]
A=(0.806-0.438・rSO2)/(0.414+0.162・rSO2)(4A)
A(0.414+0.162・rSO2)=(0.806-0.438・rSO2)(4B)
【0130】
これよりrSO2を求めると、次の数式5で表される。
【0131】
[数式5]
rSO2=(0.806-0.414A)/(0.438+0.162A)
【0132】
rSO2が0%から100%まで変化する場合、A=R/IRの理論値は、以下の数式6A-6Bで表される。
【0133】
[数式6A-6B]
・0% rSO2
(0.806-0.414×1.186A)=0
A=1.64(6A)
・100% rSO2
(0.438+0.162×1.186A)
=(0.806-0.414×1.186A)
A=0.539(6B)
【0134】
吸光度KをrSO2=50%、即ちrSO2=0.5における波長で計算すると、Kは以下の数式7A-7Cで表される。
【0135】
[数式7A-7C]
Kλ=(rSO2×KHbO2+(1-rSO2)×KHb)cd(7A)
K770=(0.5×0.368+0.5×0.806)cd=0.587cd(7B)
K870=(0.5×0.576+0.5×0.414)cd=0.495cd(7C)
【0136】
次に、R/IR=A=1.186。理論値において、rSO2=50%の時の2波長での吸光度は前述の通りである。R=K770における吸光度は0.587cd、IR=K870における吸光度は0.495cdであり、Rの吸光度はより大きい。
【0137】
次に、波長770における測定電圧は、吸光度比1.186を乗じて補正される。すると、K770での吸光度は0.495cd、K870での吸光度は0.495cdとなり、R/IR比は1:1となる。この補正により、本発明の酸素飽和度測定システム100による測定値は、R/IR=1においてrSO2=50%となり、理論値と一致する。
【0138】
R/IR=Aは1.175/0.968=1.214であるから、樹脂板の理論酸素飽和度は、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの吸光比と比較すると1.186:1.214で、実質97.7%と等しく、樹脂板を基準に50%としてファントム値に基づいて較正により1.186を補正した値は97.7%の精度となった。
【0139】
0%、100%についても補正を行う場合、各吸光比A=R/IRは後述の通りであり、rSO2(理論値)の計算式は以下の数式8で表される。
【0140】
[数式8]
rSO2=(0.806-0.414A)/(0.438+0.162A)
【0141】
補正のためAに1.186を乗じ、rSO2が0%から100%に変化する場合、A=R/IRの理論値は、次の数式9A-9Bで表される。
【0142】
[数式9A-9B]
・0% rSO2
(0.806-0.414×1.186A)=0 A=1.64(9A)
・100% rSO2
(0.438+0.162×1.186A)
=(0.806-0.414×1.186A)
A=0.539(9B)
【0143】
上記のように補正された理論値に基づく較正曲線の計算式は、以下の数式10A-10Bで表される。
【0144】
[数式10A-10B]
A<1 rSO2=100×(1.539-A)/1.08 100-50%(10A)
A>1 rSO2=100×(1.64-A)/1.28 50-0%(10B)
【0145】
使用する光の波長が異なる場合、それぞれの波長におけるオキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビンに対する吸収係数εは知られているため、その値がε=0.434Kに適用されて再度計算される。
【0146】
以上のように、生体と同一の吸光散乱特性を有するファントムは、異なる波長にも適用できるため、805nmで使用するとき、ファントムによる吸光度をヘモグロビン量の測定基準として使用することが可能である。
【0147】
酸素飽和度の基準を提供するファントムとして、吸収係数(μa=0.15/cm)および散乱係数((μs=10.6/cm)が生体または成人の頭蓋骨と実質的に等しい樹脂板を用いて、それらを複数枚重ねることにより、波長依存性の少ない構造、例えば環境光に対して密閉した構造が形成される。
【0148】
このように、発光ユニット111から放射される近赤外光の波長770nm-870nmにおいては、散乱係数および拡散係数は共に一定とみなすことができる。このような樹脂を30mm程度の厚さに重ね、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの両方がそれぞれ等量存在する状態を模擬した樹脂板として組み合わせることにより、成人の頭蓋骨と実質的に同一の拡散および散乱状態を再現でき、酸素飽和度およびヘモグロビン指数の測定基準として使用することが可能である。
【0149】
「2種類の光波長に対して吸収が等しい」ということは、「酸素飽和度が50%に相当する」ということなので、ファントム上での較正に必要なRとIRの測定値をROM117に記憶させ、酸素飽和度50%のときの基準として使用することにより、プローブ110を較正することが可能である。
【0150】
(プローブ110の較正データの用意方法)
これまでに製作したプローブ110の精度を確保するための較正検証には、血浴中の基準ファントムを用意する方法があるが、これには大規模な機器およびシステムが必要である。
【0151】
そこで、本発明は、実際に使用するプローブ110を使用して得られた各波長における血液の吸収量のデータR、IRに基づいて、任意選択で血液酸素飽和度を調整し、プローブ110を較正する方法と、プローブ110に使用するデバイスに生じるアンバランス、バラツキ、誤差を補正する方法を提供する。
【0152】
まず、血液の酸素飽和度を測定できる血液ガスアナライザ、測定に供する血液試料を注入するためのキュベット(血液層の厚さは1mm-2mm)、試料血液の酸素飽和度を低下させるための還元剤(亜硫酸水素ナトリウム(sodium hydrosulfite sodium dithionite)Na2S2O4)、試料血液を入れるための容器、および血液に空気を混入させるためのシリンジなどが提供される。
【0153】
キュベットに充填された血液の濃度を、ヒト全血の濃度15g/dLを実測した際の生体の毛細血管内に存在する組織(大脳皮質)内の最大濃度に近似させるために、血液は生理食塩水で約1/3-1/5に希釈して使用される。
【0154】
(酸素飽和度の較正値測定法)
豚の新鮮な血液を採取し、厚さ1mmのキュベットに測定対象血液を充填し、環境光を遮断した環境下で酸素飽和度が測定される。手順は以下の通りである。
【0155】
(ステップS1)血液を生理食塩水で3-5倍に希釈し、毛細血管床内の濃度に近づける。
(ステップS2)還元剤を2重量%程度添加し、酸素飽和度をできるだけ低下させる。
(ステップS3)酸素飽和度を調整した血液をシリンジで吸い上げ、血液ガス測定機器で酸素飽和度を記録する。
(ステップS4)キュベットに血液を充填し、プローブ110で酸素飽和度を測定し、R、IRの電圧データを記録する。
(ステップS5)血液を攪拌して空気と接触させることにより、酸素飽和度を上昇させる。
(ステップS6)血液ガス測定機器により、酸素飽和度の値を測定し、記録する。
(ステップS7)キュベットに血液を充填し、プローブ110でrSO2を測定し、R、IRの電圧測定値を記録する。
【0156】
ステップS3からステップS7までの処理が、酸素飽和度の低い値から、できるだけ高い酸素飽和度まで繰り返される。上述したように、生体と同一の吸収特性を得ることができるファントムを用いて予め透過光に関する基準値を測定し、または任意選択の酸素飽和度に調整した血液を用いて予め透過光に関する基準値を測定し、これを基準値としてROM117に記憶させることができる。
【0157】
発光ユニット111における駆動電圧と受光増幅器114における増幅率の情報117Cについては、適切な光量を印加するための電圧情報、および、受光ユニット112で受けた信号を発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離に対して必要な信号レベルに増幅するための増幅情報が記憶される。
【0158】
(発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離に対する光量の計算方法)
ヘモグロビンと酸素が結合したオキシヘモグロビンの量と、ヘモグロビンから酸素が離脱したデオキシヘモグロビンの量が等しいとき、酸素飽和度は50%である。
【0159】
酸素飽和度の計算式は、一般に以下の数式11で表される。
【0160】
[数式11]
酸素飽和度=(オキシヘモグロビン量)/(オキシヘモグロビン量+デオキシヘモグロビン量)
【0161】
ヘモグロビンに対する光の吸収率は、発光ユニット111から放射される光の波長によって異なり、波長805nmの光は、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとで等しい吸収係数を示す。
【0162】
濃度をC、吸収係数をランバートビールの法則による媒体のεとすると、吸収光量としての吸光度Kは、以下の数式12A-12Bで表される。
【0163】
[数式12A-12B]
K=εCd(12A) C=K/(εd)(12B)
【0164】
さらに、吸光度Kは、媒体に入射する前の光である入射光と、厚さdを有する媒体を透過した後の光である透過光とで、以下の数式13で表される:
【0165】
[数式13]
K=Log(入射光/透過光)
【0166】
このように、2種類の光の波長における吸光度Kを測定することができれば、媒質濃度Cを計算することができる。
【0167】
プローブ110は、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの濃度(吸光度)が等しい基準ファントムを用いて、必要な較正を行うことができる。吸光度Kは数式2のようにK=εCdで表されるので、オキシヘモグロビンの量とデオキシヘモグロビンの量が等しいとき、媒体の濃度Cは50%である。
【0168】
各波長における媒質の濃度Cを求めたときに、オキシヘモグロビンの濃度とデオキシヘモグロビンの濃度が等しいとき、rSO2は50%となる。各光波長におけるオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンの吸収係数ε(m・mol/cm)は次の表4に示す通りである。
【0169】
【表4】
【0170】
2種類の光の波長における吸光度Kについて、770nmの波長をD7、870nmの波長をS8とし、媒体の濃度Cがオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンで等しいとき、D7とS8の値はrSO2=50%となり、以下の数式14で表される。D7、S8の値は、測定時の電圧に基づいて決定される。
【0171】
[数式14]
C(デオキシヘモグロビン)=(D7/0.35)+S8/0.18
=C(オキシヘモグロビン)
=(D7/0.16)+S8/0.25
【0172】
D7とS8で測定した電圧値の異なる2種類の光の波長における光吸収量の比(R/IR比)が1.0であれば、酸素飽和度は50%であり、その値はROM117に記憶される。
【0173】
パルスオキシメータでは、2種類の光の波長における光吸収量の比(R/IR比)が酸素飽和度と相関があることが知られているので、測定時にプローブ110で得られる2種類の光の波長における光吸収量の比(R/IR比)と、血液ガスアナライザによって酸素飽和度を調整した血液中から得られる酸素飽和度SpO2に基づいて較正曲線を用意すると、実際に測定したR/IR比に基づいて正確に酸素飽和度を計算することができる。
【0174】
(ヘモグロビン量の計算方法)
ヘモグロビン量の変化を参照すると、波長805nmの光に対する受光ユニット112の受信信号のレベルは、ヘモグロビン量の変化と反比例している。ヘモグロビン量が大きいほど光の吸収量が大きくなるため、受光ユニット112が受ける信号は弱くなり出力電圧が低下する。
【0175】
そして、基準として測定開始時の信号レベルに基づいて、その後信号が増加するとヘモグロビンの吸収量が減少すると考えられ、測定開始時の信号の値を分母、現在の信号の値を分子として、測定開始時の1.0に基づいて、現在のヘモグロビン量を計算することができる。
【0176】
通常、センサーが被験者にセットされ、センサー直下のヘモグロビンへの吸収による波長805nmの光信号の値が測定値に変換されるため、測定開始時の電圧は基準値1.0と定義される。
【0177】
波長805nmの光がヘモグロビンに吸収された程度は、ランバートビールの法則により、吸光度K=Log(入射光/透過光)に基づいて計算される。実際に生体に入射する光の強度はその場で測定できないため、受光ユニット112で受けた信号光の約1000倍であると仮定して計算される。
【0178】
(酸素飽和度の計算方法)
酸素飽和度は、ヘモグロビン全体に基づくオキシヘモグロビンの割合を比率で表したものである。オキシヘモグロビンの量とデオキシヘモグロビンの量が1:1の比のとき、酸素飽和度は50%である。
【0179】
ランバートビールの法則にしたがって2種類の光の波長におけるそれぞれの光の吸光度を示すR=770nmとIR=870nmの電圧信号に基づいて、吸光度を求めることができるので、オキシヘモグロビンの量とデオキシヘモグロビンの量を二元一次方程式と共に計算することができ、さらにそれに基づいて酸素飽和度を計算することができる。一般に、2種類の光の波長間の吸光度量の比(R/IR比)は、酸素飽和度と相関があると言われており、これがパルスオキシメータにおける計算の根拠を構成している。
【0180】
(rSO2の測定値)
ステップS1からステップS7までのプロセスを通して得られた測定値に基づいて決定される較正曲線の例が、以下の表5によって示される。2種類の光の波長の吸光度比(R/IR比)の実測値に基づいて酸素飽和度を求めるための関係式では、D7=770nm、S8=870nmの波長が使用されていると仮定している。
【0181】
【表5】
【0182】
発光ユニット111までの距離と受光ユニット112までの距離は、一般的に測定対象組織の深さに基づいて以下の表6に示すように選択される。測定対象組織の深さおよび部位に応じて毛細血管が存在する位置が異なるため、正確な値を求めるためには、最適な計算式および定数を個別に決定する必要がある。
【0183】
【表6】
【0184】
近赤外光を利用して生体内の血中酸素飽和度を測定する場合、生体内の血液を含む対象組織が存在する部分を選択しながら測定することが要求される。例えば、測定対象組織が成人の大脳皮質の場合、大脳皮質は表皮から頭蓋骨を通って約17mm-25mmの深さに存在するため、プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112の距離に対して約70-80%が最大測定可能深度となる。したがって、プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が40mm-30mmであることが必要である。
【0185】
さらに、表皮のみについて血流を測定する場合、真皮と表皮の毛細血管は皮膚表面から約1.5mmの深さに位置するため、表皮のみについて情報を得るためには、プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112の間に約2.5mm-2.0mmの距離が必要である。
【0186】
さらに、上記以外の対象組織、例えば筋肉組織や臓器自体から血液情報を得るためには、表皮に取り付けたプローブ110からの対象組織の深さに応じて、プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112との間に適切な距離が必要であり、発光ユニット111は、発光ユニット111と受光ユニット112との距離に応じた適切な量の光を放射することが必要である。
【0187】
プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112との距離が異なるとき、酸素飽和度の計算式についても精度を向上させるために、プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離に応じて、計算曲線から得られる補正係数を設定することが必要である。
【0188】
測定に用いるプローブ110を装置本体120に接続すると、ROM117に記憶された較正情報が端末機器130によって読み出されるように構成される。例えば、プローブ110の発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が40mmであれば、表2の計算式を考慮して、発光ユニット111からの印加される光量に必要な電圧を1.0Vに設定することができる。
【0189】
発光ユニット111と受光ユニット112の較正情報117Dとしては、それぞれの近赤外発光ダイオードがそれぞれ所定の電流で光を放射したときに受光増幅器114から出力される信号レベルが同一となるように較正するための係数情報が記憶されている。
【0190】
以上のように、ROM117に記憶されたプローブ110のそれぞれの較正情報に基づいて最適な計算式を設定し、測定結果を計算し、表示し、記録することができる。さらに、端末機器は装置本体120を介して最適な情報を取得し、プローブ110で測定を行うので、測定しようとする対象組織の深さに最適なプローブ110を選択するだけで、高精度で再現性のある酸素飽和度測定システム100を実現することが可能である。
【0191】
測定に最適な光強度と信号増幅率について参照すると、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が40mmの場合に光源が1、増幅率が200倍、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が30mmの場合に光源が1/2、増幅率が50倍、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が20mmの場合に光源が1/8、増幅率が5倍、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が10mmの場合に光源が1/10、増幅率が1倍、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が6mmの場合に光源が1/20、増幅率が1倍、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離が3mmの場合に光源が1/40、増幅率が1倍程度であるのが最適であると仮定する。
【0192】
さらに、本実施形態によれば、対象組織の深さに対応して位置する発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離情報と、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離に応じた光量を印加するための電圧情報とがプローブ110のROM117に記憶される。また、発光ユニット111と受光ユニット112との間の距離に対応してプローブ110を区別可能な区別情報を記憶し、その区別情報に対応する距離情報と距離に応じた電圧情報を端末機器130に記憶することにより、発光ユニット111から生体に対して必要量の光を放射する構成を用いることも可能である。
【0193】
rSO2モードにおいて、1秒から5秒までの移動平均値を用いて、パルス毎のデータに基づいてR/IR比を求めることにより、計算されたR/IR比と酸素飽和度とヘモグロビン指数(HbI)との相関を考慮して、それぞれの波長におけるデータからR/IR比を求めて、組織酸素飽和度(rSO2)およびヘモグロビン指数(HbI)を計算することができる。
【0194】
さらに、SpO2モードでは、rSO2モードのように移動平均値を用いず、信号値の変化を連続的につなぎ、変動する軌跡を脈波として認識させる。そして、パルスの数は、各波長の測定値について、増加から減少へ、または減少から増加へ転じるサイクルをカウントすることにより測定される。
【0195】
SpO2モード(SpO2)での動脈血酸素飽和度の測定について、変化のない一定部分は、静脈血の情報として計算対象から除外され、動脈血酸素飽和度(SpO2)は、変化している部分のみR/IR比を用いて測定される。
【0196】
図4は、吸光度比(R/IR比)と酸素飽和度との間の相関を示すグラフである。図4は、グレー塩化ビニル樹脂板の吸光度比(R/IR比)と酸素飽和度との間の相関を示すグラフの参考図である。ヘモグロビンと酸素が結合したオキシヘモグロビンの量とオキシヘモグロビンから酸素が離脱したデオキシヘモグロビンの量が同じときに、酸素飽和度は50%となる。本発明では、ファントム上で2種類の光の波長における吸光度比(R/IR比)が1.0のときに酸素飽和度が50%となるように較正される。
【0197】
図5は、オキシヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、カルボキシヘモグロビンの吸光係数の変化を示すグラフである。ヘモグロビンによる吸光度は、印加する光の波長によって異なり、805nmの光は、オキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンとで同一の等吸収率を示す波長である。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5