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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】保護層付き電波散乱シート
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20240115BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240115BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
B32B7/025
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023110788
(22)【出願日】2023-07-05
【審査請求日】2023-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】村上 靖宜
(72)【発明者】
【氏名】浜田 リラ
(72)【発明者】
【氏名】チャカロタイ ジェドヴィスノプ
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勝巳
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-084147(JP,A)
【文献】特開2023-123063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 15/14
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板上に特定の金属パターンを形成した電波散乱面に特定の周波数帯の電磁波を受けると複数の方向に電磁波を散乱させる散乱特性を有するメタマテリアル構造の電波散乱シートと、
前記電波散乱シートの前記電波散乱面を被覆して前記金属パターンを保護すると共に、少なくとも外表面が不透明となる保護層と、
を備える保護層付き電波散乱シートであって、
前記保護層、前記電波散乱面を覆う厚さが0.25mm~2.0mmの範囲で、且つ、比誘電率が2.0~3.0の範囲とすることで、前記電波散乱シート単体での散乱特性よりも指向性拡散度を向上させるようにしたことを特徴とする保護層付き電波散乱シート。
【請求項2】
前記保護層は、厚さ0.25〔mm〕~2.0〔mm〕で比誘電率2.0の紙、厚さ0.25〔mm〕~1.0〔mm〕で比誘電率3.0のポリ塩化ビニル、厚さ0.5〔mm〕~1.5〔mm〕で比誘電率2.5のエポキシ樹脂、の何れかを用い、前記電波散乱シート単体での散乱特性よりも指向性拡散度を10%以上向上させることを特徴とする請求項1に記載の保護層付き電波散乱シート。
【請求項3】
前記保護層は、前記電波散乱面上に貼り付ける粘性を備えた接着層と、この接着層上に配置される誘電体層とから成る二層構造であり、
前記接着層と前記誘電体とを組み合わせた前記保護層は、
厚さ0.5〔mm〕ののりで形成した前記接着層と厚さ0.5〔mm〕の紙で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.0であるもの、
厚さ0.5〔mm〕ののりで形成した前記接着層と厚さ0.5〔mm〕のエポキシ樹脂で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.25であるもの、
厚さ0.25〔mm〕の澱粉のりで形成した前記接着層と厚さ0.75〔mm〕のエポキシ樹脂で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.5であるもの、
厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂で形成した前記接着層と厚さ0.75〔mm〕のエポキシ樹脂で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.625であるもの、
厚さ0.5〔mm〕の澱粉のりで形成した前記接着層と厚さ0.5〔mm〕のポリ塩化ビニルで形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.75であるもの、
厚さ0.5〔mm〕のアクリル樹脂で形成した前記接着層と厚さ0.5〔mm〕のエポキシ樹脂で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.75であるもの、
厚さ0.25〔mm〕の澱粉のりで形成した前記接着層と厚さ0.75〔mm〕のポリ塩化ビニルで形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.875であるもの、
厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂で形成した前記接着層と厚さ0.75〔mm〕のポリ塩化ビニルで形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが1.0〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が3.0であるもの、
厚さ0.25〔mm〕ののりで形成した前記接着層と厚さ0.25〔mm〕の紙で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが0.5〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.0であるもの、
厚さ0.25〔mm〕ののりで形成した前記接着層と厚さ0.25〔mm〕のエポキシ樹脂で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが0.5〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.25であるもの、
厚さ0.25〔mm〕ののりで形成した前記接着層と厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニルで形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが0.5〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.5であるもの、
厚さ0.25〔mm〕の澱粉のりで形成した前記接着層と厚さ0.25〔mm〕の紙で形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが0.5〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.5であるもの、
厚さ0.25〔mm〕の澱粉のりで形成した前記接着層と厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニルで形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが0.5〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.75であるもの、
厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂で形成した前記接着層と厚さ0.25〔mm〕の紙で形成した誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが0.5〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が2.75であるもの、
厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂で形成した前記接着層と厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニルで形成した前記誘電体層とを組み合わせ、前記保護層全体の厚みが0.5〔mm〕で前記保護層全体の比誘電率が3.0であるもの、
の何れかを用い、前記電波散乱シート単体での散乱特性よりも指向性拡散度を10%以上向上させることを特徴とする請求項1に記載の保護層付き電波散乱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタマテリアル構造の電波散乱シートの電波散乱面として露出する金属パターンを被覆して見栄えと耐久性を向上させる保護層付き電波散乱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、第5世代無線通信(いわゆる5G)のサービスが開始され、28〔GHz〕帯の周波数の電波が利用されている。この周波数帯では、電波の伝搬減衰が大きく、直進性が高いため、送信アンテナと受信アンテナの間に遮蔽物がある場合、送信アンテナからの電波が受信アンテナに到達せず、通信品質が大きく劣化する問題がある。このような問題に対して、電波の反射波を広角に散乱させるメタマテリアル構造の電波散乱シートが開発されている。
【0003】
メタマテリアル構造の電波散乱シートとして、誘電体基板上に特定の金属パターンを加工して所望の散乱パターンが得られるように設計した電波散乱シートがある(たとえば、非特許文献1を参照)。また、反射素子の寸法や形状を変化させて反射素子毎の共振周波数を変化させることにより電磁波の反射位相を制御して電磁波の入射方向および反射方向を制御するリフレクトアレイも開発されている(たとえば、特許文献1を参照)。これらの電波散乱シートやリフレクトアレイは、室内の壁面や天井等に貼って使用し、表面(電波散乱面)での散乱波を広角に散乱させることで、通常の金属平板では電波の届かない領域に電波を到達させることが可能となり、複数の端末や移動する端末に対して無線通信の品質を改善できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Y.Murakami,J.Chakarothai and K.Fujii,“Design of electromagnetic scattering wall using genetic algorithm,” IEICE Commun.Express,vol.9,pp.282-287,2020.
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2022/186385号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の電波散乱シートやリフレクトアレイは電波散乱面の金属パターンがむき出しであるため、錆びが発生したり、汚れが付着したりすることで、特性が劣化してしまうこと(いわゆる経年劣化)が懸念される。また、電波散乱シート等を室内に配置して使用する場合は、電波散乱面の金属パターンが剥き出しとなっているため、必ずしも見栄えが良いとは言えず、屋外で使用する場合には、周囲の景観への悪影響が懸念される。さらに、屋内外を問わず、電波散乱シート等の電波散乱面に当たった太陽光が金属パターンで反射・集光することにより、火災が生じる危険性もある。
【0007】
これらの電波散乱面に金属パターンが剥き出しとなっていることで生ずる諸問題に対しては、電波散乱シートの電波散乱面を金属でない素材により覆うことで、金属パターンが剥き出しにならないようにする解決法が考えられる。しかし、電波散乱シートの電波散乱面を他の素材で覆ってしまうと、肝心の電波散乱特性が劣化あるいは著しく損なわれる危険性もあるので、どのような条件を満たす素材で電波散乱シートの電波散乱面を覆うかが重要である。
【0008】
そこで、本発明は、電波散乱シートの見栄えと耐久性を向上させつつ、電波散乱特性を可能な限り阻害しない保護層を設けた保護層付き電波散乱シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、誘電体基板上に特定の金属パターンを形成した電波散乱面に特定の周波数帯の電磁波を受けると複数の方向に電磁波を散乱させるメタマテリアル構造の電波散乱シートと、前記電波散乱シートの前記電波散乱面を被覆して前記金属パターンを保護すると共に、少なくとも外表面が不透明となる保護層と、を備える保護層付き電波散乱シートであって、前記保護層は、前記電波散乱面を覆う厚さが0.25mm~3.0mmの範囲で、且つ、比誘電率が2.0~4.0の範囲であることを特徴とする。
【0010】
また、前記構成において、前記保護層は、前記電波散乱面を覆う厚さが0.25mm~2.0mmの範囲で、且つ、比誘電率が2.0~3.0の範囲である単一の材質からなるものでもよい。
【0011】
また、前記構成において、前記保護層は、前記電波散乱面上に配置される下部保護層と、この下部保護層上に配置される上部保護層とから成る二層構造であり、前記下部保護層と前記上部保護層の総厚さは0.5~1.0mmの範囲で、且つ、前記下部保護層と前記上部保護層を合わせた全体の比誘電率が2.0~3.0の範囲であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る保護層付き電波散乱シートによれば、保護層によって電波散乱シートの見栄えと耐久性を向上させつつ、電波散乱シートの指向性拡散度の低下を10%以内に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1(A)は、第1実施形態に係る保護層付き電波散乱シートの概略縦断面図である。図1(B)は、第2実施形態に係る保護層付き電波散乱シートの概略縦断面図である。
図2図2は、市販の壁紙を保護層として貼り付けた電波散乱シートの散乱特性を示す散乱特性図である。
図3図3(A)は、オフィス内における保護層付き電波散乱シートの利用例を示す説明図である。図3(B)は、室外における保護層付き電波散乱シートの利用例を示す説明図である。
図4図4は、評価1のために行った第1実施例(実施例1-01~実施例1-12)を示す一覧図である。
図5図5は、評価1のために行った第1比較例(比較例1-01~比較例1-10)を示す一覧図である。
図6図6は、評価2のために行った第2実施例(実施例2-01~実施例2-09)を示す一覧図である。
図7図7は、評価2のために行った第2比較例(比較例2-01~比較例2-10)実施例のうち、実施例2-10~実施例2-19を示す一覧図である。
図8図8は、評価3のために行った第3実施例のうち、実施例3-01~実施例3-08を示す一覧図である。
図9図9は、評価3のために行った第3実施例のうち、実施例3-09~実施例3-15を示す一覧図である。
図10図10は、評価3のために行った第3比較例のうち、比較例3-01~比較例3-07を示す一覧図である。
図11図11は、評価3のために行った第3比較例のうち、比較例3-08~比較例3-14を示す一覧図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の保護層付き電波散乱シートの実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1(A)に示すのは、第1実施形態の保護層付き電波散乱シート11の概略縦断面図であり、図1(B)に示すのは、第2実施形態の保護層付き電波散乱シート12の概略縦断面図である。
【0015】
第1実施形態の保護層付き電波散乱シート11は、誘電体基板1aの両面にそれぞれ裏面金属板1bと表面金属加工層1cを設けて成る電波散乱シート1と、この電波散乱シート1の表面金属加工層1cの表面に相当する電波散乱面1dを被覆する保護層としての誘電体層2と、電波散乱シート1を壁面や天井などに貼り付けるために裏面金属板1bの外表面(下面)に設けた粘着材層3と、を備える。
【0016】
電波散乱シート1は、約0.68〔mm〕の厚さで比誘電率が4.5のガラスエポキシ基板(グレードはFR4)を誘電体基板1aとして用い、誘電体基板1aの一方の面に形成された約60〔μm〕の金属膜(たとえば、銅箔)を裏面金属板1bとして用い、誘電体基板1aの他方の面に形成された約60〔μm〕の金属膜(たとえば、銅箔)をエッチング処理等で加工することにより特定の金属パターンを形成した表面金属加工層1cとして用いる。この電波散乱シート1は、単位ユニット面(たとえば、180〔mm〕×180〔mm〕の面)内に反射位相が0°と180°の領域を組み合わせたパッチ構造を表面金属加工層1cにて形成することにより、複数の方向から電波散乱面1dに到来した電波を広角に散乱できるメタマテリアル構造としたものである。本実施形態の電波散乱シート1は、特定の周波数帯として選定した28〔GHz〕帯の電磁波に合わせた設計を行った。なお、誘電体基板1aと裏面金属板1bと表面金属加工層1cを合わせた電波散乱シート1の総厚みは、約0.8〔mm〕である。
【0017】
誘電体層2は、コーティング剤等を電波散乱シート1の電波散乱面1dへ均一の厚さに塗布することで形成しても良いし、粘着性のある材質の板状材を電波散乱シート1の電波散乱面1dに貼り付けて形成しても良い。ただし、誘電体層2を形成する材質が不透明であれば、表面金属加工層1cが見えなくなるので、保護層付き電波散乱シート11の見栄えを良くできる。また、誘電体層2の表面は単色に限らず、多色で構成できるようにしても良い。たとえば、比誘電率は同じであるが色彩が異なる複数種類のコーティング剤を用いれば、誘電体層2の表面に多色の模様を表出できる。この誘電体層2の材質は様々に選定できるが、到来電波は誘電体層2へ入射して電波散乱面1dへ至ると共に、電波散乱面1dからの散乱波は誘電体層2を透過して外部へ出射されるので、誘電体層2の厚さと誘電率(以下では、真空の誘電率との比で表す比誘電率を用いる。)が保護層付き電波散乱シート11の散乱特性に少なからず関与すると考えられる。
【0018】
一方、第2実施形態の保護層付き電波散乱シート12は、電波散乱シート1の表面金属加工層1cの表面に相当する電波散乱面1dを被覆する保護層としての誘電体層2′と、電波散乱シート1を壁面や天井などに貼り付けるために裏面金属板1bの外表面に設けた粘着材層3と、を備える。誘電体層2′は、上部保護層としての表面層2aの下面に下部保護層としての接着層2bを設けた二層構造で、接着層2bの粘性により電波散乱シート1の電波散乱面1dに貼り付ける。ここで、誘電体層2′の表面層2aを形成する材質が不透明であれば、表面金属加工層1cが見えなくなるので、保護層付き電波散乱シート12の見栄えを良くできる。また、これら表面層2aと接着層2bの材質は様々に選定できるが、保護層(誘電体層2′)全体の厚さと保護層(誘電体層2′)全体の誘電率が保護層付き電波散乱シート12の散乱特性に少なからず関与すると考えられる。なお、保護層は二層に限らず、印刷層や表面コーティング層などを含む三層以上の多層構造であっても構わない。
【0019】
図2に、市販の壁紙、たとえば、厚さ約0.4〔mm〕の塩化ビニル樹脂系シート(推定される比誘電率は3.0)を保護層として電波散乱シート1に貼り付けた保護層付き電波散乱シート12の散乱特性を示す。比較のために、電波散乱シート1単体での散乱特性を破線で示す。保護層付き電波散乱シート12の散乱パターンは、壁紙を貼っていない電波散乱シート1の散乱パターンと完全には一致しないが、同等の結果を得ることができており、電波散乱面1dに保護層としての壁紙を貼り付けても、電波散乱シート1としての機能を十分に有することが、実験的に確認できた。したがって、図3(A)に示すように、保護層付き電波散乱シート11,12をオフィス内の壁面や天井に貼り付けたり、図3(B)に示すように、保護層付き電波散乱シート11,12を遮蔽物のある屋外に配置したりすれば、送信源から送信された28〔GHz〕帯の電波を広範囲に届けることができ、通信品質を改善できる。しかも、保護層付き電波散乱シート11,12は、誘電体層2,2′によって電波散乱シート1の表面金属加工層1cを保護することで経年劣化を抑制できると共に、周囲の環境に馴染むように見栄えを良くできる。
【0020】
次に、電波散乱シート1の散乱特性を著しく損なわずに保護層付き電波散乱シート11とするためには、どの様な条件の保護層(誘電体層2)を設けることが有効なのかを検証する。先ず、保護層付き電波散乱シート11としての指向性拡散度がどの程度変化するかを評価するために行った第1実施例(実施例1-01~実施例1-12)を図4に示す。第1実施例では、前述した厚さ0.8〔mm〕の電波散乱シート1の電波散乱面1d上に形成する保護層の厚さと比誘電率を変化させ、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まるか-10%よりも悪くなるかを評価する(以下、評価1という)。また、指向性拡散度の変化が-10%よりも悪くなったものを第1比較例(比較例1-01~比較例1-10)として図5に示す。
【0021】
実施例1-01は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.05〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+3.7%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度よりも増加したので、評価1は-10%以内である。この実施例1-01では、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度よりも、保護層(誘電体層2)を設けた保護層付き電波散乱シート11の指向性拡散度の方が向上している。その原理は定かで無いものの、適切な条件の保護層を設けた保護層付き電波散乱シート11とすることで、単体の電波散乱シート1よりも指向性拡散度を向上させられる可能性がある。これについては、後述する実施例2および実施例3にて検証する。
【0022】
実施例1-02は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-8.3%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。また、実施例1-03は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-8.7%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。これら実施例1-01~03の結果から、保護層の厚さが0.25〔mm〕~1.0〔mm〕の範囲で、保護層の比誘電率が3.0~4.0の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まることが分かる。
【0023】
実施例1-04は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ1.5〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-2.0%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。実施例1-05は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ1.5〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-1.1%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。これら実施例1-04~05の結果から、保護層の厚さが1.5〔mm〕で、保護層の比誘電率が3.5~4.0の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まることが分かる。
【0024】
実施例1-06は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-2.8%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。実施例1-07は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-4.8%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。これら実施例1-06~07の結果から、保護層の厚さが2.0〔mm〕で、保護層の比誘電率が3.5~4.0の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まることが分かる。
【0025】
実施例1-08は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.3〔mm〕となるように、厚さ2.5mmの紙(比誘電率は2.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-4.5%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。実施例1-09は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.3〔mm〕となるように、厚さ2.5〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-5.2%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。これら実施例1-08~09の結果から、保護層の厚さが2.5〔mm〕で、保護層の比誘電率が2.0~2.5の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まることが分かる。
【0026】
実施例1-10は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.8〔mm〕となるように、厚さ3.0〔mm〕の紙(比誘電率は2.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-9.1%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。実施例1-11は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.8〔mm〕となるように、厚さ3.0〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-5%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。実施例1-12は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.8〔mm〕となるように、厚さ3.0〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-1%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%以内の減少に止まったので、評価1は-10%以内である。これら実施例1-10~12の結果から、保護層の厚さが3.0〔mm〕で、保護層の比誘電率が2.0~4.0の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まることが分かる。
【0027】
比較例1-01は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕のフラン樹脂(比誘電率は4.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-20%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。比較例1-02は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕のポリウレタン(比誘電率は5.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-22%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。これら比較例1-01~02の結果から、保護層の厚さが0.5〔mm〕であっても、保護層の比誘電率が4.5~5.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%よりも低下してしまうことが分かる。
【0028】
比較例1-03は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕のガラスエポキシ(比誘電率は4.2)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-11.3%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。比較例1-04は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕のフラン樹脂(比誘電率は4.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-12.1%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。比較例1-05は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕のポリウレタン(比誘電率は5.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-13.1%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。これら比較例1-03~05の結果から、保護層の厚さが1.0〔mm〕であっても、保護層の比誘電率が4.2~5.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%よりも低下してしまうことが分かる。
【0029】
比較例1-06は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ1.5mmの石膏(比誘電率は5.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-16.7%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。この比較例1-06の結果から、保護層の厚さが1.5〔mm〕であっても、保護層の比誘電率が5.5であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%よりも低下してしまうことが分かる。
【0030】
比較例1-07は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕のガラスエポキシ(比誘電率は4.2)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-10.9%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。比較例1-08は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕のフラン樹脂(比誘電率は4.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-10.1%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。比較例1-09は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕のポリウレタン(比誘電率は5.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-13.5%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。これら比較例1-07~29の結果から、保護層の厚さが2.0〔mm〕であっても、保護層の比誘電率が4.2~5.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%よりも低下してしまうことが分かる。
【0031】
比較例1-10は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.8〔mm〕となるように、厚さ3.0〔mm〕の石膏(比誘電率は5.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は-14.7%で、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して-10%を超える減少となったので、評価1は-10%外である。この比較例1-10の結果から、保護層の厚さが3.0〔mm〕で、保護層の比誘電率が5.5の場合は、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%よりも低下してしまうことが分かる。
【0032】
上述した第1実施例の結果から、保護層としての誘電体層2は、電波散乱面1dを覆う厚さが0.25mm~3.0mmの範囲で、且つ、比誘電率が2.0~4.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まる。したがって、上記の条件に合致した誘電体層2を保護層として設けた保護層付き電波散乱シート11は、電波散乱シート1を単体で用いる場合に近い指向性拡散度を実現できるので、28〔GHz〕帯に限らず、マイクロ波やミリ波での通信品質改善に寄与できる。しかも、保護層付き電波散乱シート11は、誘電体層2によって電波散乱シート1の表面金属加工層1cを保護することで経年劣化を抑制できると共に、周囲の環境に馴染むように見栄えを良くできる。なお、実施例1は、保護層として単層の誘電体層2を用いた保護層付き電波散乱シート11についてのみ示したが、保護層として二層の誘電体層2′を用いた保護層付き電波散乱シート12についても、同様に、電波散乱面1dを覆う厚さが0.25mm~3.0mmの範囲で、且つ、比誘電率が2.0~4.0の範囲の誘電体層2′とすれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まる。
【0033】
なお、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して、その変化が-10%以内に収まる誘電体層2の厚さの上限を3.0〔mm〕に設定したのは、保護層として用いるコーティング剤の成膜厚さや実際の壁紙の厚さを勘案して定めたからである。保護層の厚さが3.0〔mm〕を超えると、耐久性が上がる反面、重量などに問題が生じるため、保護層付き電波散乱シート11,12としての取り回しが不便になるし、保護層付き電波散乱シート11,12を安全に壁や天井に張り付けておくためには、非常に強力な粘着性能を備えた粘着材層3を設けておく必要が生じ、実用性が損なわれる。よって、現実的な保護層の厚さ範囲を考慮すると、電波散乱シート1に設ける保護層の厚さ上限を3.0〔mm〕に設定するのが妥当と判断した。
【0034】
次に、保護層付き電波散乱シート11としての指向性拡散度の増減を評価するために行った第2実施例(実施例2-01~実施例2-09)を図6に示す。第2実施例では、前述した厚さ0.8〔mm〕の電波散乱シート1の電波散乱面1d上に形成する保護層の厚さと比誘電率を変化させ、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度(基準値1.0)と同等以上の指向性拡散度を得られる(1.0以上)か、基準値に達しない(1.0未満)か、を評価する(以下、評価2という)。また、指向性拡散度が減少したものを第2比較例(比較例2-01~比較例2-10)として図7に示す。
【0035】
実施例2-01は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.05〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の紙(比誘電率は2.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度の変化は+11.1%であるから、評価2は1.0以上である。実施例2-02は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.05〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+3.7%であるから、評価2は1.0以上である。実施例2-03は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+13.8%であるから、評価2は1.0以上である。これら実施例2-01~03の結果から、保護層の厚さが0.25〔mm〕~0.5〔mm〕の範囲で、保護層の比誘電率が2.0~3.0の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度以上に増加しており、電波散乱特性が向上することが分かる。
【0036】
実施例2-04は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕の紙(比誘電率は2.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+14.9%であるから、評価2は1.0以上である。実施例2-05は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+19.7%であるから、評価2は1.0以上である。実施例2-06は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+12.0%であるから、評価2は1.0以上である。これら実施例2-04~06の結果から、保護層の厚さが1.0〔mm〕で、保護層の比誘電率が2.0~3.0の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度以上に増加しており、電波散乱特性が向上することが分かる。
【0037】
実施例2-07は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ1.5〔mm〕の紙(比誘電率は2.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+17.4%であるから、評価2は1.0以上である。実施例2-08は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ1.5〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+10.0%であるから、評価2は1.0以上である。実施例2-09は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕の紙(比誘電率は2.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は+10.4%であるから、評価2は1.0以上である。これら実施例2-07~09の結果から、保護層の厚さが1.5〔mm〕~2.0〔mm〕の範囲で、保護層の比誘電率が2.0~2.5の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度以上に増加しており、電波散乱特性が向上することが分かる。
【0038】
比較例2-01は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-3.8%であるから、評価2は1.0未満である。比較例2-02は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕の軟質塩ビ樹脂(比誘電率は3.3)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-2.5%であるから、評価2は1.0未満である。比較例2-03は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ1.0〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-4.5%であるから、評価2は1.0未満である。これら比較例2-01~03の結果から、保護層の厚さが0.5〔mm〕~1.0〔mm〕の範囲であっても、保護層の比誘電率が3.3~4.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度よりも減少しており、電波散乱特性が低下してしまうことが分かる。
【0039】
比較例2-04は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ1.5〔mm〕の軟質塩ビ樹脂(比誘電率は3.3)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-0.8%であるから、評価2は1.0未満である。比較例2-05は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ1.5〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-4.4%であるから、評価2は1.0未満である。これら比較例2-04~05の結果から、保護層の厚さが1.5〔mm〕であっても、保護層の比誘電率が3.3~3.5の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度よりも減少しており、電波散乱特性が低下してしまうことが分かる。
【0040】
比較例2-06は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-2.8%であるから、評価2は1.0未満である。比較例2-07は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ2.0〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-4.8%であるから、評価2は1.0未満である。これら比較例2-06~07の結果から、保護層の厚さが2.0〔mm〕であっても、保護層の比誘電率が3.5~4.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度よりも減少しており、電波散乱特性が低下してしまうことが分かる。
【0041】
比較例2-08は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.3〔mm〕となるように、厚さ2.5mmの紙(比誘電率は2.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-4.5%であるから、評価2は1.0未満である。比較例2-09は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.3〔mm〕となるように、厚さ2.5mmのエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-5.2%であるから、評価2は1.0未満である。比較例2-10は、保護層付き電波散乱シート11の総厚みが3.3〔mm〕となるように、厚さ2.5〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を保護層として設けたものである。指向性拡散度は-6.1%であるから、評価2は1.0未満である。これら比較例2-08~10の結果から、保護層の厚さが2.5〔mm〕になると、保護層の比誘電率が2.0~3.0の範囲であっても、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度よりも減少しており、電波散乱特性が低下してしまうことが分かる。
【0042】
上述した第2実施例の結果から、保護層としての誘電体層2は、電波散乱面1dを覆う厚さが0.25mm~2.0mmの範囲で、且つ、比誘電率が2.0~3.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度と同等以上の指向性拡散度を得られる。したがって、上記の条件に合致した誘電体層2を保護層として設けた保護層付き電波散乱シート11は、電波散乱シート1を単体で用いる場合と同等以上の指向性拡散度を実現できるので、28〔GHz〕帯に限らず、マイクロ波やミリ波での通信品質改善に大きく寄与できる。
【0043】
次に、表面層2aと接着層2bの二層から成る保護層としての誘電体層2′を用いた保護層付き電波散乱シート12において、指向性拡散度の向上率を評価するために行った第3実施例(実施例3-01~実施例3-15)を図8および図9に示す。上述した第2実施形態の保護層付き電波散乱シート12は、表面層2aと接着層2bの材質を多様に組み合わせることで、保護層全体の厚みと保護層全体の比誘電率を細かく変化させることができる。そこで、第3実施例では、前述した厚さ0.8〔mm〕の電波散乱シート1の電波散乱面1d上に形成する保護層全体の厚みと保護層全体の比誘電率を変化させ、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度(基準値±0%)から10%以上の向上率を得られる(+10%以上)か、10%未満の向上率に止まるか(+10%未満)か、を評価する(以下、評価3という)。また、指向性拡散度の向上率が+10%未満のものを第3比較例(比較例3-01~比較例3-14)として図10および図11に示す。
【0044】
実施例3-01は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ0.5〔mm〕の紙(比誘電率は2.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.0としたものである。指向性拡散度の向上率は+11.4%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-02は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ0.5〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.25としたものである。指向性拡散度の向上率は+18.3%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-03は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.75〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.5としたものである。指向性拡散度の向上率は+19.7%であるから、評価3は+10%以上である。これら実施例3-01~03の結果から、保護層全体の厚さが1.0〔mm〕で、保護層全体の比誘電率が2.0~2.5の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率が得られており、電波散乱特性の向上率を高められることが分かる。
【0045】
実施例3-04は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.75〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.625としたものである。指向性拡散度の向上率は+17.9%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-05は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.5〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.75としたものである。指向性拡散度の向上率は+20.4%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-06は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.5〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.75としたものである。指向性拡散度の向上率は+16.8%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-07は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.75〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.875としたものである。指向性拡散度の向上率は+19.0%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-08は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.75〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.0としたものである。指向性拡散度の向上率は+12.0%であるから、評価3は+10%以上である。これら実施例3-04~08の結果から、保護層全体の厚さが1.0〔mm〕で、保護層全体の比誘電率が2.625~3.0の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率が得られており、電波散乱特性の向上率を高められることが分かる。
【0046】
実施例3-09は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕の紙(比誘電率は2.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.0としたものである。指向性拡散度の向上率は+11.8%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-10は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.25としたものである。指向性拡散度の向上率は+10.5%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-11は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.5としたものである。指向性拡散度の向上率は+12.6%であるから、評価3は+10%以上である。接着層の材質としてのりを共通に用いた実施例3-09~11の結果から、保護層全体の厚さが0.5〔mm〕で、保護層の比誘電率が2.0~2.5の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率が得られており、電波散乱特性の向上率を高められることが分かる。
【0047】
実施例3-12は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕の紙(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.5としたものである。指向性拡散度の向上率は+11.4%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-13は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.75としたものである。指向性拡散度の向上率は+14.9%であるから、評価3は+10%以上である。接着層の材質として澱粉のりを共通に用いた実施例3-12~13の結果から、保護層全体の厚さが0.5〔mm〕で、保護層の比誘電率が2.5~2.75の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率が得られており、電波散乱特性の向上率を高められることが分かる。
【0048】
実施例3-14は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕の紙(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.75としたものである。指向性拡散度の向上率は+14.1%であるから、評価3は+10%以上である。実施例3-15は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.0としたものである。指向性拡散度の向上率は+11.6%であるから、評価3は+10%以上である。接着層の材質としてアクリル樹脂を共通に用いた実施例3-12~13の結果から、保護層全体の厚さが0.5〔mm〕で、保護層の比誘電率が2.5~2.75の範囲内であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率が得られており、電波散乱特性の向上率を高められることが分かる。
【0049】
比較例3-01は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.05mmとなるように、厚さ0.1〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ0.15〔mm〕のエポキシ樹脂(比誘電率は2.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.25〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.3としたものである。指向性拡散度の向上率は+5.9%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-02は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.05〔mm〕となるように、厚さ0.1〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.15〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.25〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.6としたものである。指向性拡散度の向上率は+9.8%であるから、評価3は+10%未満である。これら比較例3-01~02の結果から、保護層全体の厚さが0.5〔mm〕に満たない0.25〔mm〕であると、保護層全体の比誘電率が2.3~2.6の範囲内であっても、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率を得ることができず、電波散乱特性の向上率が10%未満に低減してしまうことが分かる。
【0050】
比較例3-03は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.50〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.25としたものである。指向性拡散度の向上率は+8.3%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-04は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕のナイロン(比誘電率は3.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.50〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.5としたものである。指向性拡散度の向上率は+5.1%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-05は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.25〔mm〕のフラン樹脂(比誘電率は4.5)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを0.50〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.75としたものである。指向性拡散度の向上率は+7.3%であるから、評価3は+10%未満である。これら比較例3-03~05の結果から、保護層全体の厚さが0.5〔mm〕であっても、保護層全体の比誘電率が3.25~3.75の範囲であると、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率を得ることができず、電波散乱特性の向上率が10%未満に低減してしまうことが分かる。
【0051】
比較例3-06は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.5〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.25としたものである。指向性拡散度の向上率は+9.4%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-07は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.75〔mm〕の石英(比誘電率は3.7)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.4としたものである。指向性拡散度の向上率は+7.9%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-08は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕のアクリル樹脂(比誘電率は3.0)を接着層とし、厚さ0.5〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.5としたものである。指向性拡散度の向上率は+2.0%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-09は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが1.8〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ0.75〔mm〕のフッ素樹脂(比誘電率は4.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を3.625としたものである。指向性拡散度の向上率は+2.5%であるから、評価3は+10%未満である。これら比較例3-06~09の結果から、保護層全体の厚さが1.0〔mm〕であっても、保護層全体の比誘電率が3.25~3.625の範囲であると、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率を得ることができず、電波散乱特性の向上率が10%未満に低減してしまうことが分かる。
【0052】
比較例3-10は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ1.0〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.75としたものである。指向性拡散度の向上率は+5.6%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-11は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ1.0〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.875としたものである。指向性拡散度の向上率は+5.1%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-12は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが2.3〔mm〕となるように、厚さ0.25〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ1.25〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを1.5〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.9としたものである。指向性拡散度の向上率は+3.6%であるから、評価3は+10%未満である。これら比較例3-11~12の結果から、保護層全体の厚さが1.0〔mm〕を超える1.5〔mm〕になると、保護層全体の比誘電率が2.75~2.9の範囲であっても、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率を得ることができず、電波散乱特性の向上率が10%未満に低減してしまうことが分かる。
【0053】
比較例3-13は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕ののり(比誘電率は2.0)を接着層とし、厚さ1.5〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを2.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.75としたものである。指向性拡散度の向上率は-5.8%であるから、評価3は+10%未満である。比較例3-14は、保護層付き電波散乱シート12の総厚みが2.8〔mm〕となるように、厚さ0.5〔mm〕の澱粉のり(比誘電率は2.5)を接着層とし、厚さ1.5〔mm〕のポリ塩化ビニル(比誘電率は3.0)を表面層として夫々設け、保護層全体としての厚みを2.0〔mm〕、保護層全体としての比誘電率を2.875としたものである。指向性拡散度の向上率は-1.9%であるから、評価3は+10%未満である。これら比較例3-13~14の結果から、保護層全体の厚さが1.0〔mm〕を超える2.0〔mm〕になると、保護層全体の比誘電率が2.75~2.875の範囲であっても、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度に対して10%以上の向上率を得ることができず、電波散乱特性の向上率が10%未満に低減してしまうことが分かる。
【0054】
上述した第3実施例の結果から、表面層2aと接着層2bの二層から成る保護層を用いた保護層付き電波散乱シート12においては、電波散乱面1dを覆う保護層全体の厚さが0.5mm~1.0mmの範囲で、且つ、保護層全体の比誘電率が2.0~3.0の範囲であれば、基準となる電波散乱シート1の指向性拡散度から10%以上の向上率を得られる。したがって、上記の条件に合致した誘電体層2′を保護層として設けた保護層付き電波散乱シート11は、電波散乱シート1を単体で用いる場合と同等以上の指向性拡散度を実現できるので、28〔GHz〕帯に限らず、マイクロ波やミリ波での通信品質改善に大きく寄与できる。
【0055】
以上、本発明に係る保護層付き電波散乱シートの実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0056】
11 保護層付き電波散乱シート(第1実施形態)
1 電波散乱シート
1a 誘電体基板
1b 裏面金属板
1c 表面金属加工層
1d 電波散乱面
2 誘電体層
3 粘着材層
12 保護層付き電波散乱シート(第2実施形態)
2′ 誘電体層
2a 表面層
2b 接着層
【要約】
【課題】電波散乱シートの見栄えと耐久性を向上させつつ、電波散乱特性を可能な限り阻害しない保護層を設けた保護層付き電波散乱シートを提供する。
【解決手段】電波散乱シート1の電波散乱面1dを誘電体層2により被覆することで、表面金属加工層1cを保護した保護層付き電波散乱シート11は、誘電体層2によって電波散乱シート1の見栄えと耐久性を向上させる。加えて、電波散乱面1dを覆う誘電体層2の厚さが0.25mm~3.0mmの範囲で、且つ、誘電体層2の比誘電率を2.0~4.0の範囲とすることで、指向性拡散度の低下を10%以内に抑制する。
【選択図】図1
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図11