(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
D06M 13/165 20060101AFI20240115BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20240115BHJP
D06M 101/28 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
D06M13/165
D06M15/53
D06M101:28
(21)【出願番号】P 2023147502
(22)【出願日】2023-09-12
【審査請求日】2023-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】加藤 岳人
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-032893(JP,A)
【文献】特開2021-011653(JP,A)
【文献】国際公開第2022/255434(WO,A1)
【文献】特開2021-014656(JP,A)
【文献】国際公開第2023/018224(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第115679480(CN,A)
【文献】特開2019-099964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 - 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑剤(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する炭素繊維前駆体用処理剤であって、
前記非イオン性界面活性剤(B)が、下記の芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)を含むものであることを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1):下記一般式(1)で示されるアルコール1モルに対しエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上100モル以下付加させた化合物。
【化1】
(化1において、
R
1:二重結合を1つ以上有する炭素数10以上20以下の炭化水素基。)
【請求項2】
前記平滑剤(A)が、シリコーン化合物(A1)を含むものである請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
前記炭素繊維前駆体用処理剤の不揮発分における前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有割合が1質量%以上50質量%以下である請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤(B)が、下記の脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)を含むものである請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2):分岐構造を有する炭素数10以上20以下の1価脂肪族アルコール1モルに対しエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加させた化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎化繊維の毛羽を低減できる炭素繊維前駆体用処理剤及びそれにより得られた炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、炭素繊維は、例えばマトリックス樹脂と組み合わせた炭素繊維複合材料又は難燃・防炎素材として、建材、輸送機器等の各分野において広く利用されている。例えば、炭素繊維は、炭素繊維前駆体として例えばアクリル繊維を紡糸する工程、繊維を延伸する工程、耐炎化工程、及び炭素化工程を経て製造される。炭素繊維前駆体には、炭素繊維前駆体の紡糸工程において集束性を付与するために、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示される炭素繊維前駆体用処理剤が知られている。特許文献1は、窒素原子を含む変性基を持つ変性シリコーン、界面活性剤及び水を含有し、所定のジメチルアセトアミド溶解度を有する炭素繊維製造用アクリル繊維処理剤について開示する。特許文献2は、所定の粘度を有するアミノ変性シリコーンを油剤純分中に50重量%以上含有し、且つポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン共重合体及び/又はその誘導体を油剤純分中に5~20重量%含有する炭素繊維製造用アクリル繊維油剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-052176号公報
【文献】特開2006-336181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の炭素繊維前駆体用処理剤は、炭素繊維前駆体用処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽の低減効果が不十分であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、非イオン性界面活性剤として所定の芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体を含む炭素繊維前駆体用処理剤がまさしく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の炭素繊維前駆体用処理剤では、平滑剤(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する炭素繊維前駆体用処理剤であって、前記非イオン性界面活性剤(B)が、下記の芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)を含むものであることを特徴とする。
【0008】
芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1):下記一般式(1)で示されるアルコール1モルに対しエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上100モル以下付加させた化合物。
【0009】
【化1】
(化1において、
R
1:二重結合を1つ以上有する炭素数10以上20以下の炭化水素基。)
態様2は、態様1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤において、前記平滑剤(A)が、シリコーン化合物(A1)を含むものである。
【0010】
態様3は、態様1又は2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤において、前記炭素繊維前駆体用処理剤の不揮発分における前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有割合が1質量%以上50質量%以下である。
【0011】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の炭素繊維前駆体用処理剤において、前記非イオン性界面活性剤(B)が、下記の脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)を含むものである。
【0012】
脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2):分岐構造を有する炭素数10以上20以下の1価脂肪族アルコール1モルに対しエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加させた化合物。
【0013】
態様5の炭素繊維前駆体は、態様1~4のいずれか一態様に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭素繊維前駆体用処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、平滑剤(A)及び後述する非イオン性界面活性剤(B)を含有する。
【0016】
(平滑剤(A))
本実施形態に供される平滑剤(A)は、特に制限されず、処理剤に用いられる公知の平滑剤を用いることができる。公知の平滑剤としては、例えばシリコーン化合物(A1)、鉱物油、ポリオレフィン、エステル化合物等が挙げられる。これらの中でも、平滑剤(A)は、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性を向上できる観点からシリコーン化合物(A1)を含むものであることが好ましい。
【0017】
(シリコーン化合物(A1))
シリコーン化合物(A1)としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。これらの中でも、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることが好ましい。
【0018】
シリコーン化合物(A1)が、ジメチルシリコーン、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることにより、本発明の効果をより向上することができる。
【0019】
シリコーン化合物(A1)の25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは50mm2/s以上である。シリコーン化合物(A1)の25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは10000mm2/s以下である。シリコーン化合物(A1)の25℃の動粘度をかかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。なお、アミノ変性シリコーンが複数種類使用される場合の動粘度は、使用する複数のアミノ変性シリコーンの混合物の実際の測定値が適用される。シリコーン化合物(A1)の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて25℃の条件下で公知の方法によって測定することができる。
【0020】
シリコーン化合物(A1)としてアミノ変性シリコーンが用いられる場合、アミノ当量の下限は、特に制限はないが、好ましくは1000g/mol以上が好ましい。アミノ変性シリコーンのアミノ当量の上限は、特に制限はないが、好ましくは10000g/mol以下が好ましい。アミノ変性シリコーンのアミノ当量をかかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。
【0021】
シリコーン化合物(A1)の具体例としては、例えば25℃での動粘度が80mm2/s、アミノ当量4000g/molのアミノ変性シリコーン、25℃での動粘度が650mm2/s、アミノ当量2000g/molのアミノ変性シリコーン、25℃での動粘度が3000mm2/s、アミノ当量7000g/molのアミノ変性シリコーン、25℃での動粘度が1500mm2/s、アミノ当量3800g/molのアミノ変性シリコーン、25℃での動粘度が5000mm2/s、アミノ当量6000g/molのアミノ変性シリコーン、25℃での動粘度が500mm2/s、シリコーン鎖/ポリエーテル=50/50(質量比)でポリエーテル部分がエチレンオキサイド(以下、EOという)/プロピレンオキサイド(以下、POという)=50/50(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン、25℃での動粘度が100mm2/sのジメチルシリコーン等が挙げられる。
【0022】
(その他の平滑剤)
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。これらの鉱物油は、市販品を適宜採用することができる。
【0023】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用することができる。
【0024】
エステル油としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が挙げられる。エステル油としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル油が例示される。
【0025】
エステル油の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、シクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル油の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、シクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0026】
エステル油の具体例としては、例えば(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカナート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、ペンタエリスリトールテトラオクタート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(3)ジオレイルアゼラート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル、チオジプロピオン酸1モルと2-ヘキシル-1-デカノール2モルとを反応させたエステル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート、カルダノールに対してアルキレンオキサイドを付加させた化合物とラウリン酸とのエステル、3-[(8Z,11Z)-8,11,14-ペンタデカトリエニル]フェノールに対してアルキレンオキサイドを付加させた化合物とラウリン酸とのエステル等の、芳香族モノアルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物と脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物1モルとラウリン酸2モルとを反応させたエステル等の、芳香族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加物と脂肪族モノカルボン酸との完全エステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸との完全エステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。なお、芳香族モノアルコールは、化学合成されたもののみならず、カシューナッツ殻液から得られるカルダノールのような天然由来の混合物を使用してもよい。
【0027】
これらの平滑剤は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
処理剤の不揮発分中における平滑剤(A)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。かかる含有割合が5質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の平滑性をより向上できる。かかる平滑剤(A)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。かかる含有割合が90質量%以下の場合、処理剤の安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0028】
なお、処理剤の不揮発分とは、測定試料を105℃で2時間加熱処理した後の残渣を示す(以下、同様)。
処理剤の不揮発分中におけるシリコーン化合物(A1)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。かかる含有割合が5質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性を向上できる。かかるシリコーン化合物(A1)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。かかる含有割合が90質量%以下の場合、処理剤の安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0029】
(非イオン性界面活性剤(B))
本実施形態に供される非イオン性界面活性剤(B)は、下記の芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)を含んで構成される。芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)により、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。また、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性を向上できる。
【0030】
(芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1))
芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)は、下記一般式(1)で示されるアルコール1モルに対しエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上100モル以下付加させた化合物である。
【0031】
【化2】
(化2において、
R
1:二重結合を1つ以上有する炭素数10以上20以下の炭化水素基。)
R
1を構成する二重結合を1つ以上有する炭化水素基としては、二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、炭化水素基としては、直鎖状であっても、分岐鎖構造を有してもよい。また、炭化水素基の炭素数は、炭素数10以上20以下、好ましくは12以上18以下、より好ましくは14以上16以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0032】
炭化水素基中に二重結合を1つ有する不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばデセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
【0033】
炭化水素基中に二重結合を2つ有する不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばデカジエニル基、ウンデカジエニル基、ドデカジエニル基、トリデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、イコサジエニル基等が挙げられる。
【0034】
炭化水素基中に二重結合を3つ有する不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばデカトリエニル基、ウンデカトリエニル基、ドデカトリエニル基、トリデカトリエニル基、テトラデカトリエニル基、ペンタデカトリエニル基、ヘキサデカトリエニル基、ヘプタデカトリエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基等が挙げられる。
【0035】
芳香族アルコールに付加されるエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドとしては、エチレンオキサイドのみを付加しても、プロピレンオキサイドのみを付加しても、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドの両方を付加してもよい。アルキレンオキサイドが二種類適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。また、アルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの他に、ブチレンオキサイド等が付加されてもよい。
【0036】
アルキレンオキサイドの付加モル数は、1モル以上100モル以下、好ましくは2モル以上60モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における芳香族アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0037】
芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の具体例としては、例えばカルダノール、3-[(8Z,11Z)-8,11,14-ペンタデカトリエニル]フェノール等に対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物等が挙げられる。なお、原料となる芳香族モノアルコールは、化学合成されたものであってもよく、カシューナッツ殻液から得られるカルダノールのような天然由来の混合物であってもよい。
【0038】
これらの芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
(脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2))
本実施形態に供される非イオン性界面活性剤(B)は、下記の脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)を含むものであることが好ましい。脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)は、分岐構造を有する炭素数10以上20以下の1価脂肪族アルコール1モルに対しエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加させた化合物である。処理剤が脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)を含むことにより、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性をより向上できる。
【0039】
分岐構造を有する1価脂肪族アルコールの分岐位置は特に制限されるものではなく、例えば、α位が分岐した炭素鎖であってもよいし、β位が分岐した炭素鎖であってもよい。また、第1級アルコールであっても、第2級アルコールであってもよい。また、飽和脂肪族アルコールであってもよいし、不飽和脂肪族アルコールであってもよい。
【0040】
分岐構造を有する炭素数10以上20以下の1価脂肪族アルコールの具体例としては、例えば(1)イソデカノール(イソデシルアルコール)、イソドデカノール(イソドデシルアルコール)、イソトリデカノール(イソトリデシルアルコール)、イソテトラデカノール(イソテトラデシルアルコール)、イソペンタデカノール(イソペンタデシルアルコール)、イソヘキサデカノール(イソヘキサデシルアルコール)、イソヘプタデカノール(イソヘプタデシルアルコール)、イソオクタデカノール(イソオクタデシルアルコール)、イソノナデカノール(イソノナデシルアルコール)、イソエイコサノール(イソエイコシルアルコール)等の分岐アルキルアルコール、(2)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(3)2-エチル-1-オクタノール、2-エチル-デカノール、2-ブチル-1-ヘキサノール、2-ブチル-1-オクタノール、2-ブチル-1-デカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-デカノール、2-オクチル-1-デカノール、2-オクチル-1-ドデカノール、2-ヘキシル-1-オクタノール、2-ヘキシル-1-ドデカノール、2-(1,3,3-トリメチルブチル)-5,7,7-トリメチル-1-オクタノール、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-5,9-ジメチル-1-デカノール等のゲルベアルコール等が挙げられる。
【0041】
脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、及びプロピレンオキサイドが挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは1モル以上60モル以下、より好ましくは2モル以上50モル以下、さらに好ましくは3モル以上40モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における1価脂肪族アルコール1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが二種類適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0042】
脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)の具体例としては、例えばイソデシルアルコールに対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物、イソトリデシルアルコールに対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物、イソテトラデシルアルコールとイソペンタデシルアルコールの混合アルコールに対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物、2-ヘキシル-1-ドデカノールに対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物等が挙げられる。
【0043】
これらの脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
(その他の非イオン性界面活性剤(B3))
さらに、上述した芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)及び脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)以外のその他の非イオン性界面活性剤(B3)を配合してもよい。
【0044】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)としては、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有するエーテル・エステル化合物、アミン化合物として例えば一級有機アミンにアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、カルボン酸類と多価アルコール等との部分エステル化合物、アミン化合物とカルボン酸類とを縮合させたアミド化合物、脂肪酸アミド類にアルキレンオキサイドを付加させた(ポリ)オキシアルキレン構造を有する化合物、ポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とを有するブロック共重合体等のポリオキシアルキレン構造を有する化合物等が挙げられる。
【0045】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0046】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)リシノール酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
【0047】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドとしては、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドが好ましい。アルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上250モル以下、より好ましくは1モル以上200モル以下、さらに好ましくは2モル以上150モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における付加対象化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。アルキレンオキサイドが二種類以上適用される場合、それらの付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0048】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0049】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)の原料として用いられる脂肪族アミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、オクタデセニルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0050】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)の原料として用いられる脂肪酸アミドの具体例としては、例えばオクチル酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド等が挙げられる。
【0051】
ポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖とのブロック共重合体は、親水性の低いポリオキシプロピレン鎖及び親水性の高いポリオキシエチレン鎖を有し、界面活性作用を有するものであれば特に限定されない。分子中におけるポリオキシエチレン鎖とポリオキシプロピレン鎖の数は特に限定されず、例えば1つのポリオキシプロピレン鎖と1つのポリオキシエチレン鎖からなるブロック共重合体であってもよく、ポリオキシプロピレン鎖とそれを挟む2つのポリオキシエチレン鎖からなるポロキサマー系界面活性剤であってもよい。ポリオキシエチレン鎖を形成するエチレンオキサイドの付加モル数は特に限定されず、例えば5モル以上200モル以下が挙げられる。ポリオキシプロピレン鎖を形成するプロピレンオキサイドの付加モル数は特に限定されず、例えば5モル以上100モル以下が挙げられる。
【0052】
その他の非イオン性界面活性剤(B3)の具体例としては、例えばテトラデシルアルコールに対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物、ドデシルアルコールに対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物、エチレングリコールにEOとPOをブロック状に付加重合した数平均分子量5000(EO/PO=30/70(モル比))のポリオキシアルキレンブロック共重合体、エチレングリコールにEOとPOとをブロック状に付加重合した数平均分子量10000(EO/PO=70/30(モル比))のポリオキシアルキレンブロック共重合体、硬化ヒマシ油に対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物、ノニルフェノールに対し、アルキレンオキサイドを付加させた化合物等が挙げられる。
【0053】
これらのその他の非イオン性界面活性剤(B3)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤の不揮発分中における非イオン性界面活性剤(B)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。かかる含有割合が10質量%以上の場合、処理剤の安定性を向上できる。かかる非イオン性界面活性剤(B)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは94質量%以下である。かかる含有割合が95質量%以下の場合、平滑剤(A)の配合量を増加させることにより平滑性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0054】
処理剤の不揮発分中における芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。かかる含有割合が0.5質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。かかる芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは65質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。かかる含有割合が65質量%以下の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0055】
処理剤に配合される全非イオン性界面活性剤(B)中における芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有割合(B1/B)の下限は、適宜設定されるが、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。かかる含有割合が2質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。処理剤に配合される全非イオン性界面活性剤(B)中における芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有割合(B1/B)の上限は、適宜設定されるが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。かかる含有割合が95質量%以下の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0056】
処理剤の不揮発分中における脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上である。かかる含有割合が1質量%以上の場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性を向上できる。かかる脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。かかる含有割合が60質量%以下の場合、効率的に処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0057】
上記第1実施形態の処理剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1-1)第1実施形態の処理剤では、平滑剤(A)、及び上述した芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)を含む非イオン性界面活性剤(B)を含有するように構成した。したがって、処理剤が付与された炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。また、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性を向上できる。よって、耐炎化繊維の製造特性を向上できる。
【0058】
(1-2)処理剤が上述した脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2)を含む場合、処理剤が付与された炭素繊維前駆体の集束性をより向上できる。よって、耐炎化繊維の製造特性をより向上できる。
【0059】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る炭素繊維前駆体を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維前駆体は、第1実施形態の処理剤が付着している。
【0060】
炭素繊維前駆体としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる合成繊維であることが好ましい。炭素繊維前駆体を構成する繊維原料としては、特に限定されないが、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維、(7)フェノール樹脂、(8)ピッチ等が挙げられる。さらに、ポリアクリル系繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。
【0061】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.3質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0062】
処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤及び溶媒を含有する処理剤含有組成物、又はさらに溶媒で希釈した希釈液の形態で、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0063】
次に、本実施形態の炭素繊維前駆体を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
工程1:炭素繊維前駆体となる原料を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
【0064】
工程2:前記工程1で得られた炭素繊維前駆体を好ましくは200℃以上300℃以下、より好ましくは230℃以上270℃以下の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
【0065】
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに好ましくは300℃以上2000℃以下、より好ましくは300℃以上1300℃以下の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0066】
なお、上記工程2と工程3とによって焼成工程が構成されるものとする。
処理剤は、紡糸工程のどの段階で炭素繊維前駆体の原料繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよい。例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。
【0067】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0068】
上記第2実施形態の炭素繊維前駆体によれば、以下のような効果を得ることができる。
(2-1)第2実施形態の炭素繊維前駆体では、第1実施形態の処理剤が付着している。したがって、炭素繊維前駆体を耐炎化処理した後の耐炎化繊維の毛羽を低減できる。それにより、糸品質を向上できる。また、第1実施形態の処理剤を付与した炭素繊維前駆体の集束性を向上できる。それにより、ローラーへの巻き付きを低減させ、製造効率を向上できる。
【0069】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上述した処理剤は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、品質保持のための安定化剤や制電剤、上記以外の油性成分、上記以外の界面活性剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤等の通常用いられる成分を含有してもよい。なお、溶媒以外のその他成分は、本発明の効能を効率的に発揮する観点から処理剤中において20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0071】
試験区分1(処理剤及び水性液の調製)
(実施例1)
実施例1の処理剤は、平滑剤(A)として25℃での動粘度が80mm2/s、アミノ当量4000g/molのアミノ変性シリコーンを40部、並びに非イオン性界面活性剤(B)としてカルダノールA1モルに対し、EO5モルを付加させた化合物(B1-1)を40部、イソデシルアルコール1モルに対し、EO10モルを付加させた化合物(B2-1)を10部、及びテトラデシルアルコール1モルに対し、EO20モルとPO20モルをランダムに付加させた化合物(B3-1)10部をビーカーに加えてよく混合し、実施例1の処理剤を調製した。次に、撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようイオン交換水を徐々に添加し、実施例1の処理剤25%の水性液を調製した。
【0072】
(実施例2~39、比較例1~5)
実施例2~39及び比較例1~5の各処理剤は、表1,2に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0073】
各例の処理剤中における平滑剤(A)の種類と含有量、非イオン性界面活性剤(B)の種類と含有量、その他成分の種類と含有量は、表1,2の「平滑剤(A)」欄、「非イオン性界面活性剤(B)」欄、「その他成分」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0074】
【0075】
【表2】
表1,2に記載する平滑剤(A)、非イオン性界面活性剤(B)、及びその他成分の詳細は以下のとおりである。
【0076】
<平滑剤(A)>
(シリコーン化合物(A1))
A1-1:25℃での動粘度が80mm2/s、アミノ当量4000g/molのアミノ変性シリコーン
A1-2:25℃での動粘度が650mm2/s、アミノ当量2000g/molのアミノ変性シリコーン
A1-3:25℃での動粘度が3000mm2/s、アミノ当量7000g/molのアミノ変性シリコーン
A1-4:25℃での動粘度が1500mm2/s、アミノ当量3800g/molのアミノ変性シリコーン
A1-5:25℃での動粘度が5000mm2/s、アミノ当量6000g/molのアミノ変性シリコーン
A1-6:25℃での動粘度が500mm2/s、シリコーン鎖/ポリエーテル=50/50(質量比)でポリエーテル部分がEO/PO=50/50(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン
A1-7:25℃での動粘度が100mm2/sのジメチルシリコーン
(その他の平滑剤(A2))
A2-1:ビスフェノールAのEO2モル付加物1モルとラウリン酸2モルとを反応させたエステル
A2-2:チオジプロピオン酸1モルと2-ヘキシル-1-デカノール2モルとを反応させたエステル
A2-3:オクチルパルミタート
A2-4:カシューナッツ殻液100部に対し、EO30部を付加させた化合物とラウリン酸とのエステル(上記一般式(1)で示されるアルコール1モルに対しEOの付加モル数は約10モル)
※カシューナッツ殻液は、東北化工社製のCNSL(モノマー中においてカルダノール82質量%とカードル18質量%の混合物)を使用した。カルダノールの側鎖の炭化水素基は、不飽和結合の数が0個のペンタデシル基が5質量%、不飽和結合の数が1個のペンタデセニル基が35質量%、不飽和結合の数が2個のペンタデカジエニル基が20質量%、不飽和結合の数が3個のペンタデカトリエニル基が40質量%の割合を示す。
【0077】
<非イオン性界面活性剤(B)>
(芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1))
B1-1:カルダノールA1モルに対し、EO5モルを付加させた化合物
B1-2:カルダノールB1モルに対し、EO15モルを付加させた化合物
B1-3:カルダノールA1モルに対し、EO30モルを付加させた化合物
B1-4:カルダノールB1モルに対し、EO45モルを付加させた化合物
B1-5:カルダノールA1モルに対し、PO15モルを付加させたものに、EO25モルを付加させた化合物
B1-6:カルダノールA1モルに対し、EO10モルとPO15モルをランダムに付加させたものに、PO1モルを付加させた化合物
B1-7:カルダノールB1モルに対し、EO20モルとPO20モルをランダムに付加させた化合物
B1-8:カシューナッツ殻液100部に対し、EO300部を付加させた化合物(上記一般式(1)で示されるアルコール1モルに対しEOの付加モル数は約10モル)
※カルダノールAは、東北化工社製のLB-7000(カルダノール90質量%とカードル10質量%の混合物)を使用した。カルダノールの側鎖の炭化水素基は、不飽和結合の数が0個のペンタデシル基が5質量%、不飽和結合の数が1個のペンタデセニル基が35質量%、不飽和結合の数が2個のペンタデカジエニル基が20質量%、不飽和結合の数が3個のペンタデカトリエニル基が40質量%の割合を示す。表1,2に記載される芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有量は、上記一般式(1)由来の化合物の含有量割合を示す。
【0078】
カルダノールBは、東北化工社製のLB-7250(カルダノール95質量%とカードル5質量%の混合物)を使用した。カルダノールの側鎖の炭化水素基は、不飽和結合の数が0個のペンタデシル基が5質量%、不飽和結合の数が1個のペンタデセニル基が35質量%、不飽和結合の数が2個のペンタデカジエニル基が20質量%、不飽和結合の数が3個のペンタデカトリエニル基が40質量%の割合を示す。表1,2に記載される芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有量は、上記一般式(1)由来の化合物の含有量割合を示す。
【0079】
カシューナッツ殻液は、東北化工社製のCNSL(モノマー中においてカルダノール82質量%とカードル18質量%の混合物)を使用した。カルダノールの側鎖の炭化水素基は、不飽和結合の数が0個のペンタデシル基が5質量%、不飽和結合の数が1個のペンタデセニル基が35質量%、不飽和結合の数が2個のペンタデカジエニル基が20質量%、不飽和結合の数が3個のペンタデカトリエニル基が40質量%の割合を示す。表1,2に記載される芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)の含有量は、上記一般式(1)由来の化合物の含有量割合を示す。
【0080】
(脂肪族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B2))
B2-1:イソデシルアルコール1モルに対し、EO10モルを付加させた化合物
B2-2:イソトリデシルアルコール1モルに対し、EO10モルを付加させた化合物
B2-3:イソテトラデシルアルコールとイソペンタデシルアルコールの混合アルコール1モルに対し、EO20モルを付加させた化合物
B2-4:2-ヘキシル-1-ドデカノール1モルに対し、EO20モルを付加させた化合物
B2-5:イソトリデシルアルコール1モルに対し、PO10モルを付加させたものに、EO10モルを付加させた化合物
B2-6:イソテトラデシルアルコールとイソペンタデシルアルコールの混合アルコール1モルに対し、EO20モルとPO20モルをランダムに付加させた化合物
B2-7:2-ヘキシル-1-ドデカノール1モルに対し、PO10モルを付加させたものに、EO20モルを付加させた化合物
(その他の非イオン性界面活性剤(B3))
B3-1:テトラデシルアルコール1モルに対し、EO20モルとPO20モルをランダムに付加させた化合物
B3-2:ドデシルアルコール1モルに対し、EO10モルを付加させた化合物
B3-3:エチレングリコールにEOとPOをブロック状に付加重合した数平均分子量5000(EO/PO=30/70(モル比))のポリオキシアルキレンブロック共重合体
B3-4:エチレングリコールにEOとPOとをブロック状に付加重合した数平均分子量10000(EO/PO=70/30(モル比))のポリオキシアルキレンブロック共重合体
B3-5:硬化ヒマシ油1モルに対し、EO20モルを付加させた化合物
B3-6:ノニルフェノール1モルに対し、EO15モルを付加させた化合物
(その他成分)
C-1:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
C-2:2-エチルヘキシルホスフェートカリウム
C-3:酢酸カリウム
C-4:N,N-ビス(ポリオキシエチレン(EO10モル付加))ドデカンアミン酢酸塩
試験区分2(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した処理剤を含有する水性液を用いて、炭素繊維前駆体、耐炎化糸(耐炎化繊維)及び炭素繊維を製造した。
【0081】
まず、工程1として、炭素繊維前駆体である合成繊維としてアクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0082】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、処理剤の不揮発分の付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した処理剤を給油した。処理剤の給油は、処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置(以下、ワインダーともいう。)を用いて炭素繊維前駆体を糸管に巻き取った。
【0083】
次に、工程2として、巻き取られた炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230~270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に、搬送用ローラーを経由して糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0084】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300~1300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0085】
試験区分3(評価)
各実施例及び比較例の処理剤が付与されたアクリル繊維ストランドの集束性を評価した。また、処理剤が付与されたアクリル繊維ストランドから得られた耐炎化繊維の毛羽を評価した。試験の手順について以下に示す。
【0086】
(毛羽)
工程2において、耐炎化処理を行った耐炎化繊維について、耐炎化繊維を搬送するローラー部分における毛羽の発生の有無を目視で観察し、以下の基準で評価した。試験結果を表1,2の「毛羽」欄に示す。
【0087】
・耐炎化毛羽の評価基準
◎(良好):ほとんど毛羽が見られない場合
○(可):わずかに毛羽が見られるが、操業に問題になるレベルではない場合
×(不良):毛羽が多く、ローラーへの巻き付けも発生し、操業に問題がある場合
(集束性)
工程1において、処理剤を給油したアクリル繊維ストランドが加熱ローラーを通過する際の集束状態を目視で確認して、以下の基準で集束性の評価を行った。試験結果を表1,2の「集束性」欄に示す。
【0088】
・アクリル繊維ストランドの集束性の評価基準
◎(良好):集束性が良く、加熱ローラーへの巻きつきもなく、操業性に全く問題ない場合
○(可):やや糸がばらけることがあるが断糸は無く操業性に問題ない場合
×(不良):糸のばらけが多く、頻繁に断糸が発生して操業性に影響がある場合
表1,2の結果から、本発明によれば、耐炎化繊維の毛羽の低減効果及びアクリル繊維ストランドの集束性を向上できる。
【要約】
【課題】耐炎化繊維の毛羽を低減できる炭素繊維前駆体用処理剤及び炭素繊維前駆体を提供する。
【解決手段】本発明は、平滑剤(A)、及び非イオン性界面活性剤(B)を含有する炭素繊維前駆体用処理剤であって、前記非イオン性界面活性剤(B)が、下記の芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)を含むものであることを特徴とする。芳香族アルコールの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(B1)は、下記一般式(1)で示されるアルコール1モルに対しエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上100モル以下付加させた化合物を示す。下記化1において、R
1は、二重結合を1つ以上有する炭素数10以上20以下の炭化水素基を示す。
(化1)
【選択図】なし