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特許7418907N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 226/06 20060101AFI20240115BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C08F226/06
C08F220/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019169791
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021046492
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】池元 結衣
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029774(JP,A)
【文献】特表2006-507399(JP,A)
【文献】特開2011-148906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 226/06
C08F 220/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有する共重合体の製造方法であって、
該製造方法は、アルコール系溶媒の存在下で、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を重合させる工程を含み、
該N-ビニルラクタム系単量体の含有量が、単量体成分100質量%中、30質量%以上99.9質量%以下であり、該(メタ)アクリル酸の含有量が、単量体成分100質量%中、0.1質量%以上70質量%以下であり、該N-ビニルラクタム系単量体及び該(メタ)アクリル酸以外の他の単量体の含有量が、単量体成分100質量%中、0~10質量%であり、
該アルコール系溶媒は、第二級アルコールであり、
該重合工程において、該(メタ)アクリル酸を添加しながらN-ビニルラクタム系単量体と重合反応させ、該(メタ)アクリル酸の滴下は、N-ビニルラクタム系単量体の重合発熱後に開始する
ことを特徴とするN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記N-ビニルラクタム系単量体は、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法。
【化1】
(式中、R、R、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基を表す。xは、0~4の整数を表す。yは、1~3の整数を表す。)
【請求項3】
前記アルコール系溶媒は、沸点が70~120℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記アルコール系溶媒の使用量は、使用する単量体成分総量100質量部に対して45~900質量部であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法に関する。より詳しくは、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有する共重合体を、モノマー反応率が高くて副生成物が少なく、効率良く製造することができるN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-ビニルラクタム系共重合体は、N-ビニルラクタム系単量体由来の構成単位を有する重合体であり、安全な機能性ポリマーとして、化粧品、医農薬中間体、食品添加物、感光性電子材料、粘着付与剤等の各種用途や、種々の特殊工業用途(例えば、中空糸膜の製造)等の幅広い工業用途において使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ビニルピロリドンとアクリル酸の共重合体と、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルとを所定範囲の配合比とし、さらにアミン類を所定量含む親水化処理用組成物が記載され、熱交換器のフィン材等の表面に、親水性、耐食性を兼ね備え、臭気の発生がなく、さらには加工時に良好な潤滑性を示す親水性被膜を形成するための表面処理剤として記載されている。
【0004】
ところで、従来、上記のようなビニルピロリドンとアクリル酸の共重合体を製造する方法として、重合開始剤や重合溶媒の存在下で、ビニルピロリドンにアクリル酸を一括添加して重合させる方法が行われている。例えば、上記特許文献1では、ビニルピロリドンモノマーとアクリル酸モノマーを、重合開始剤とベンゼンの存在下で反応させて、ビニルピロリドン-アクリル酸共重合体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-291269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ビニルピロリドン等のN-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を重合する場合、(メタ)アクリル酸の反応性が高く、これらの単量体成分を均一に重合させることは容易ではなかった。特に(メタ)アクリル酸を多く添加する場合は、均一なランダム共重合体を得ることは困難であった。また、特許文献1に記載の方法では、ビニルピロリドンの副生成物である2-ピロリドンが比較的多く発生するといった問題や、重合溶媒にベンゼンを使用するため、安全性の問題があった。また、水系溶媒を使用すると、アクリル酸によってビニルピロリドンが加水分解して、副生成物である2-ピロリドンが多く発生してしまうという問題もある。このように、従来の製造方法では、均一なN-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有するランダム共重合体を効率良く得ることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みて、均一な、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有するランダム共重合体を効率良く製造することができる、N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を重合する方法について、種々検討したところ、特定の溶媒の存在下で、N-ビニルラクタム系単量体に(メタ)アクリル酸を逐次添加して重合反応させることにより、モノマー反応率が高くて副生成物の量が少なく、均一な、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有するランダム共重合体を効率良く製造することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有する共重合体の製造方法であって、上記製造方法は、アルコール系溶媒の存在下で、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を重合させる工程を含み、上記重合工程において、該(メタ)アクリル酸を添加しながらN-ビニルラクタム系単量体と重合反応させることを特徴とするN-ビニルラクタム系共重合体の製造方法である。
【0010】
上記N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法において、上記N-ビニルラクタム系単量体は、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R、R、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基を表す。xは、0~4の整数を表す。yは、1~3の整数を表す。)
【0013】
上記アルコール系溶媒は、沸点が70~120℃であることが好ましい。
【0014】
上記アルコール系溶媒は、第二級アルコールであることが好ましい。
【0015】
上記アルコール系溶媒の使用量は、使用する単量体成分総量100質量部に対して45~900質量部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、モノマー反応率が高くて副生成物の発生量が少なく、均一にN-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有する共重合体を効率良く製造することができる。また、本発明の製造方法により、耐熱性に優れたN-ビニルラクタム系共重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
なお、本明細書中、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を含む。
【0018】
<N-ビニルラクタム系共重合体の製造方法>
本発明は、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有する共重合体の製造方法であって、上記製造方法は、アルコール系溶媒の存在下で、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を重合させる工程を含み、上記重合工程において、上記(メタ)アクリル酸を添加しながらN-ビニルラクタム系単量体と重合反応させることを特徴とする。このように、特定の溶媒の存在下で、N-ビニルラクタム系単量体に(メタ)アクリル酸を一括添加するのではなく、逐次添加することで、モノマー反応率が高く、副生成物の量を少なくし、均一なN-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸のランダム共重合体を効率良く製造することができる。また、こうして得られた共重合体は、耐熱性に優れる。
【0019】
本発明の製造方法により、モノマー反応率が高くて副生成物の量が少なく、均一な共重合体を効率良く製造することができるのは、アルコール系溶媒を使用することにより、N-ビニルラクタム系単量体を加水分解させることなく、(メタ)アクリル酸とともに溶媒中に溶解させることができ、かつ、(メタ)アクリル酸を逐次添加することとにより、両単量体成分を均一に混合させることができ、均一にランダム重合させることができるためと考えられる。
【0020】
本発明の製造方法は、アルコール系溶媒の存在下で、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分を重合させる工程を有する。
上記重合工程においては、(メタ)アクリル酸を添加しながらN-ビニルラクタム系単量体と重合反応させる。すなわち、N-ビニルラクタム系単量体を含む単量体成分に、(メタ)アクリル酸を一括添加するのではなく、逐次添加して反応させる。
上記逐次添加の方法としては、特に限定されず、使用する(メタ)アクリル酸の全量又は一部を、等量ずつ又は異なる量で、2回以上に分けて添加する、あるいは、等速又は変速で滴下すればよい。なかでも、(メタ)アクリル酸の全量又は一部を等速又は変速で滴下する方法が好ましく、(メタ)アクリル酸の全量を等速又は変速で滴下する方法がより好ましい。(メタ)アクリル酸の滴下は、N-ビニルラクタム系単量体の重合発熱確認後に開始するのが好ましい。
【0021】
上記重合工程において、重合温度は、特に限定されないが、50℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上が更に好ましい。
【0022】
上記重合工程において、重合時間は、特に限定されないが、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、3時間以上が更に好ましい。また、生産性が良好である点で、15時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、8時間以下が更に好ましい。
【0023】
上記重合工程は、大気下で行ってもよいが、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。また、重合反応は、常圧、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0024】
本発明の製造方法において使用する各種成分について、説明する。
【0025】
(単量体成分)
本発明の製造方法において、使用する単量体成分は、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む。
上記N-ビニルラクタム系単量体は、N-ビニルラクタム構造を有する単量体であれば特に限定されないが、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0026】
【化2】
【0027】
(式中、R、R、R、Rは、同一又は異なって、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基を表す。xは、0~4の整数を表す。yは、1~3の整数を表す。)
【0028】
上記R~Rで表されるアルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基が更に好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0029】
上記置換基としては、例えば、エチレン性不飽和炭化水素基;カルボキシル基、スルホン酸基及びこれらのエステルや塩;アミノ基、水酸基等の架橋剤と縮合反応可能な反応性官能基;等が挙げられる。
【0030】
なかでも、上記R、R、Rは、水素原子であることが好ましい。
上記Rは、水素原子又はメチル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0031】
上記一般式(1)において、xは、0~2の整数であることが好ましく、0~1の整数であることがより好ましく、0であることが更に好ましい。
yは、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0032】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-5-メチルピロリドン、N-ビニルピペリドン、N-ビニルカプロラクタム、1-(2-プロペニル)-2-ピロリドン等が挙げられる。なかでも、N-ビニルピロリドンが好ましい。
【0033】
上記単量体成分は、N-ビニルラクタム系単量体の1種のみを含んでもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0034】
上記単量体成分は、上述したN-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸以外の他の単量体成分を含んでいてもよい。上記他の単量体成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N-モノメチル(メタ)アクリルアミド、N-モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体類;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の塩基性不飽和単量体及びその塩又は第4級化物;ビニルホルムアミド、ビニルアセトアミド、ビニルオキサゾリン、イソプロペニルオキサゾリン等のビニルアミド類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有不飽和単量体及びその塩;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和無水物類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルエチレンカーボネート及びその誘導体;(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル及びその誘導体;ビニルスルホン酸及びその誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン、オクテン、ブタジエン等のオレフィン類等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記単量体成分において、上記N-ビニルラクタム系単量体の含有量は、単量体成分100質量%中、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、また、99.9質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。
【0036】
上記単量体成分において、(メタ)アクリル酸の含有量は、単量体成分100質量%中、0.1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、また、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0037】
上記単量体成分において、上記他の単量体成分の含有量は、単量体成分100質量%中、0~50質量%であることが好ましく、0~30質量%であることがより好ましく、0~10質量%であることが更に好ましい。
【0038】
上記N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸の総量中の(メタ)アクリル酸の含有比率は、重合体の耐熱性が良好である点で、0.1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。重合体の溶解性が良好である点で、上記含有比率は、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましい。
【0039】
(アルコール系溶媒)
本発明の製造方法において使用するアルコール系溶媒としては、特に限定されないが、飽和アルコール、すなわち不飽和二重結合を有さず、かつ水酸基を少なくとも1つ含む化合物が好ましく挙げられる。
上記飽和アルコールとしては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロヘキサノール等のモノアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類;等が挙げられる。上記アルコール系溶媒は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
上記アルコール系溶媒は、沸点が70~120℃であることが好ましい。上記沸点が上述の範囲であると、溶媒の除去が容易になり、粉体の共重合体を容易に得ることができる。上記アルコール系溶媒の沸点は、高温で重合でき、単量体の反応率が上がる点で、75℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましい。また、重合体の粉体化の際に溶媒の除去が容易になる点で、上記アルコール系溶媒の沸点は、115℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることが更に好ましい。
【0041】
上記アルコール系溶媒は、第二級アルコールであることが好ましい。第二級アルコールであると、連鎖移動能が高く、共重合体の分子量の調整が容易になり、より一層均一な組成のランダム共重合体を得ることができる。
【0042】
上記アルコール系溶媒としては、具体的には、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、s-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロヘキサノールが好ましく、イソプロパノール、s-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノールがより好ましく、イソプロパノールが更に好ましい。
【0043】
上記アルコール系溶媒の使用量は、使用する単量体成分総量100質量部に対して、45~900質量部であることが好ましい。上記範囲で使用すると、より一層均一なランダム共重合体を製造することができる。上記アルコール系溶媒の使用量は、使用する単量体成分総量100質量部に対して、65質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが更に好ましく、600質量部以下であることがより好ましく、400質量部以下であることが更に好ましい。
【0044】
上記重合工程において、重合溶媒は、上記アルコール系溶媒以外の他の溶媒を含んでいてもよい。上記他の溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシブタノール等のグリコールモノエーテル系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等のアルキルエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン、へプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;等が挙げられる。なかでも、沸点が好ましい範囲である点で、ジオキサン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、ヘプタンが好ましく、メチルエチルケトン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタンがより好ましい。
【0045】
上記アルコール系溶媒の含有量は、重合溶媒の総量100質量%に対し、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0046】
上記重合工程においては、水を使用しないことが好ましい。水が存在すると、(メタ)アクリル酸によってN-ビニルラクタム系単量体が加水分解され、副生成物の発生量が増大するおそれがある。
【0047】
(重合開始剤)
上記重合工程はまた、1種又は2種以上の重合開始剤の存在下で行うことが好ましい。上記重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0048】
上記重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド等の有機過酸化物;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二硫酸塩水和物、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ系化合物;等が挙げられる。なかでも、重合反応が効率良く進行する点で、アゾ系化合物、有機過酸化物が好ましく、アゾ系化合物がより好ましい。
【0049】
上記重合開始剤の使用量としては、特に限定されないが、低不純物量で分子量の調節が可能である点で、上記単量体成分総量100質量部に対し0.1~10質量部が好ましく、0.3~7質量部がより好ましく、0.5~5質量部が更に好ましい。
【0050】
上記重合工程では、上述した成分以外に、連鎖移動剤、触媒等の、重合反応において通常使用される他の成分を使用してもよい。これらの種類や量は公知の方法から適宜選択することができる。
【0051】
本発明の製造方法は、上述した重合工程以外に、他の工程を有していてもよい。例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤等の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程等が挙げられる。これらの工程は、公知の方法により行うことができる。
【0052】
本発明の製造方法により得られるN-ビニルラクタム系共重合体の重量平均分子量は、上記N-ビニルラクタム系共重合体の目的、用途に応じて適宜設定すればよいが、1000以上であることが好ましく、5000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更に好ましく、2000000以下であることが好ましく、1400000以下であることがより好ましく、500000以下であることが更に好ましい。
上記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により求めることができる。
【0053】
上記N-ビニルラクタム系共重合体のガラス転移温度(Tg)は、上記ビニルラクタム系共重合体の目的、用途に応じて適宜設定すればよいが、80℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることが更に好ましく、400℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、280℃以下であることが更に好ましい。
上記ガラス転移温度は、日本工業規格JIS K 7121に準拠した方法により求めることができる。
【0054】
上記N-ビニルラクタム系共重合体のモノマー反応率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
上記モノマー反応率は、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、ゲル浸透クロマトグラフ等の重合体の残存単量体が測定可能な方法により求めることができ、具体的には、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0055】
上記N-ビニルラクタム系共重合体の副生成物量は、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
例えば、上記N-ビニルラクタム系単量体として、N-ビニルピロリドンを使用する場合、副生成物として、2-ピロリドンが生成する。
上記副生成物量の測定は、生成される副生成物の種類に応じて公知の方法から適宜選択して行うことができる。例えば、2-ピロリドンの場合、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、ゲル浸透クロマトグラフ等の重合体の副生成物が測定可能な方法により測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0056】
上記N-ビニルラクタム系共重合体の熱分解開始温度は、250℃以上であることが好ましく、280℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることが更に好ましい。
上記熱分解開始温度は、熱重量測定装置(ダイナミックTGA)を用いて測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0057】
上述した本発明の製造方法により得られるN-ビニルラクタム系共重合体は、耐熱性に優れる。上記N-ビニルラクタム系共重合体が耐熱性に優れるのは、アルコール系溶媒が連鎖移動剤として働き、共重合体末端に組み込まれ、N-ビニルラクタム系単量体由来の構成単位と(メタ)アクリル酸由来の構成単位を均一に有するためであると考えられる。
【0058】
上記N-ビニルラクタム系共重合体は、単独で、あるいは他の成分と混合して樹脂組成物として使用することができる。上記他の成分としては、例えば、樹脂;色材;分散剤;耐熱向上剤;レベリング剤;シリカ微粒子等の無機微粒子;カップリング剤;フィラー;硬化助剤;可塑剤;重合禁止剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;艶消し剤;消泡剤;帯電防止剤;滑剤;表面改質剤;揺変化剤;揺変助剤;難燃剤;防錆剤;酸発生剤;溶剤等が挙げられる。これらは、公知のものから適宜選択して使用することができる。また、その使用量についても、樹脂組成物の目的、用途に応じて適宜設定することができる。
【0059】
上記N-ビニルラクタム系共重合体は、上述のとおり、耐熱性に優れる。そのため、耐熱性が必要とされる用途に好適に使用することができる。
上記N-ビニルラクタム系共重合体を使用することができる用途としては、例えば、光学材料、電子材料、繊維材料、樹脂材料、インク、家電製品、電子材料、電気部品、容器、フィルム、住宅建材等の各種用途が挙げられる。
【0060】
以上のとおり、本発明の製造方法は、モノマー反応率が高くて副生成物量が少なく、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有する共重合体を効率良く得ることができる。また、得られるN-ビニルラクタム系共重合体は、N-ビニルラクタム系単量体由来の構成単位と(メタ)アクリル酸由来の構成単位が均一なものである。このように、本発明の製造方法は、特に、N-ビニルラクタム系単量体と(メタ)アクリル酸を含む単量体成分由来の構成単位を有するランダム共重合体を好適に製造することができる。
【実施例
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0062】
共重合体についての各評価を下記の方法で行った。
<共重合体の固形分の測定>
底面の直径が約5cmの秤量缶(質量W1(g))に、約1gの共重合体を量り取り(質量W2(g))、これを150℃の定温乾燥機中において1時間静置し、乾燥させた。乾燥後の秤量缶と共重合体の合計質量(W3(g))を測定し、下記式より固形分を求めた。
固形分(質量%)=[(W3-W1)/W2]×100
【0063】
<モノマー反応率>
共重合体中の単量体の含有率は、ガスクロマトグラフ(装置:株式会社島津製作所製 GC-2014、検出器:FID、カラム:化学物質評価研究機構製 G-100)を用いて求めた。添加したモノマー量から共重合体中の単量体量をひいた値を反応したモノマー量とし、共重合体中の反応したモノマー量の割合をモノマー反応率とした。
【0064】
<副生成物量>
共重合体中の副生成物の量は、ガスクロマトグラフ(装置:株式会社島津製作所製 GC-2014、検出器:FID、カラム:化学物質評価研究機構製 G-100)を用いて求めた。
【0065】
<共重合体の重量平均分子量(Mw)の測定>
共重合体の重量平均分子量について、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により下記の条件で測定して求めた。
装置:Waters製 Alliance HPLCシステム
検出器:RI
カラム:東ソー製 TSKgel α-M(2本)、TSKgel α
カラム温度:40℃
流速:0.6ml/min
検量線:Polyethylene Oxide Standards
溶離液:イオン交換水/アセトニトリル 84/16(1.4%硝酸ナトリウム含有)
【0066】
<耐熱性の測定>
熱重量測定装置(ダイナミックTGA)(Rigaku製、示差熱天秤Thermo plus EVO TG-8120)を用い、Air雰囲気下、約10mgのサンプルを常温から500℃まで昇温して得られたTGA曲線(昇温開始直後の溶媒等の揮発による重量減は除く)から、重量が5%/℃以上低下する温度(共重合体の熱分解開始温度)を求めた。
【0067】
(実施例1)
マックスブレンド型攪拌翼(SUS304製)、温度計、還流管、ジャケットを備えた1L反応器(SUS304製)に、N-ビニルピロリドン(株式会社日本触媒製、以下、「VP」とも称する)160.0g、イソプロパノール(富士フイルム和光純薬株式会社製、以下、「IPA」とも称する)518.9g仕込んだ。次いで、250rpmで撹拌しながら、反応器の内温が80℃になるように加熱した。次いで、80℃を維持しながら、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(富士フイルム和光純薬株式会社製、以下、「V-59」とも称する)の10%IPA溶液16.0gを180分間かけて滴下した。アクリル酸(株式会社日本触媒製、以下、「AA」とも称する)17.1gを、重合発熱0.5℃以上を確認後(V-59添加開始から15分後)から120分間かけて滴下した。V-59添加開始から240分後、VP/AA共重合体溶液を得た。得られたVP/AA共重合体溶液の外観は、均一であった。
得られたVP/AA共重合体溶液を90℃で2時間真空乾燥した後、目開き500μmのJIS標準篩を通過するまで粉砕し、VP/AA共重合体(粉体)を得た。
【0068】
(比較例1)
十字型撹拌子の入ったガラス製試験管に、VP10.0g、AA1.1g、IPA25.2gを仕込み、専用のケミステーション(東京理化器械株式会社製)にセットした。800rpmで撹拌しながら、反応器の内温が80℃になるように加熱した。次いで、80℃を維持しながら、V-59の10%IPA溶液0.778gを添加し、240分後、VP/AA共重合体溶液を得た。
得られたVP/AA共重合体溶液の外観は、白色固体が析出しており、不均一であった。
【0069】
(比較例2)
比較例1において、溶媒としてIPAの代わりに、脱イオン水を使用し、重合開始剤としてV-59の代わりに2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩(富士フイルム和光純薬株式会社製、以下、「V-50」とも称する)を使用した以外は、比較例1と同様の方法によりVP/AA共重合体を得た。得られたVP/AA共重合体溶液の外観は、均一であった。
【0070】
実施例及び比較例で得られた共重合体について、上記の方法で、モノマー反応率(%)、副生成物量、重量平均分子量、及び、耐熱性を測定した。
また、反応率追跡からみた組成の均一性について、重合開始剤添加後30分、1時間、2時間、3時間、4時間の時の(その時点で添加完了したモノマー量に対する)各モノマー反応率(%)を求めて、同一時間の各モノマー反応率(%)を比較することにより評価した。同一時間の各モノマー反応率が同等であれば、各モノマーが均一にポリマーに組み込まれており「均一」と判定し、同一時間の各モノマー反応率の差が大きければ、各モノマーが均一にポリマーに組み込まれておらず「不均一」と判定した。得られた結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1より、アルコール系溶媒としてIPAの存在下で、AAを滴下しながらVPと重合反応させることによって、モノマーの反応率が高くて残存モノマーや副生成物の量が少なく、組成が均一で耐熱性が高いVP/AA共重合体が得られることが確認された。