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特許7418923電磁波シールド材及び電磁波シールド材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】電磁波シールド材及び電磁波シールド材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240115BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20240115BHJP
   H01F 1/375 20060101ALI20240115BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240115BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240115BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240115BHJP
   C23C 4/08 20160101ALI20240115BHJP
【FI】
H05K9/00 W
H01F1/26
H01F1/375
B32B15/08 E
B32B15/08 N
B32B5/18 101
B32B7/025
C23C4/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020077852
(22)【出願日】2020-04-24
(65)【公開番号】P2020184621
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019086852
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】横田 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】植村 浩行
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-106899(JP,A)
【文献】特開昭62-299312(JP,A)
【文献】特開平09-321485(JP,A)
【文献】特開2012-151242(JP,A)
【文献】特開平05-299881(JP,A)
【文献】特開昭62-135540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01F 1/26
H01F 1/375
B32B 1/00 -43/00
C23C 4/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状基材と、
前記シート状基材に積層された金属溶射層と、
前記金属溶射層に前記シート状基材と反対側から積層され、前記金属溶射層を構成する金属粒子同士の間に入り込んでいる第1粘弾性層と、を有する、電磁波シールド材。
【請求項2】
前記第1粘弾性層は、前記電磁波シールド材の最外層であり、自着性粘着材からなる、請求項1に記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
前記第1粘弾性層は、導電性材料の粉粒体を含有している、請求項1又は2に記載の電磁波シールド材。
【請求項4】
前記第1粘弾性層は、前記電磁波シールド材の最外層である、請求項3に記載の電磁波シールド材。
【請求項5】
前記第1粘弾性層は、磁性材料の粉粒体を含有している、請求項1から4の何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材。
【請求項6】
前記シート状基材と前記金属溶射層の間に配置されて、前記金属溶射層を構成する金属粒子同士の間に入り込んでいる第2粘弾性層を有する、請求項1から5の何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材。
【請求項7】
前記第1粘弾性層と前記第2粘弾性層は、互いに粘着する材料からなる、請求項6に記載の電磁波シールド材。
【請求項8】
前記第2粘弾性層は、導電性材料の粉粒体を含有している、請求項6又は7に記載の電磁波シールド材。
【請求項9】
前記第2粘弾性層は、磁性材料の粉粒体を含有している、請求項6から8の何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材。
【請求項10】
前記シート状基材は、発泡シートからなる、請求項1から9のうち何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材。
【請求項11】
前記シート状基材に対して前記第1粘弾性層と反対側から、保護層が積層されている、請求項10に記載の電磁波シールド材。
【請求項12】
シート状基材に積層された金属溶射層に、流動性を有する粘着材を塗布することで前記金属溶射層に第1粘弾性層を積層する、電磁波シールド材の製造方法。
【請求項13】
前記金属溶射層を、前記シート状基材に積層された第2粘弾性層に、直に積層し、
前記金属溶射層を積層するときに、溶射される金属の熱により前記第2粘弾性層を軟化させる、請求項12に記載の電磁波シールド材の製造方法。
【請求項14】
前記シート状基材に前記金属溶射層が積層された積層シートを、巻取ローラで巻き取ることを含み、
前記積層シートの巻き取りを、前記金属溶射層上に前記第1粘弾性層を形成した後に行う、請求項12又は13に記載の電磁波シールド材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属溶射層を含む電磁波シールド材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電磁波シールド材として、樹脂等からなるシート状基材に、金属溶射により金属溶射層が積層されてなるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-326492号公報(段落[0004]、[0008]及び図1等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した電磁波シールド材に対して、金属溶射層を構成する金属粒子の脱落を抑えることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、シート状基材と、前記シート状基材に積層された金属溶射層と、前記金属溶射層に前記シート状基材と反対側から積層され、前記金属溶射層を構成する金属粒子同士の間に入り込んでいる第1粘弾性層と、を有する、電磁波シールド材である。
【0006】
請求項2の発明は、前記第1粘弾性層は、前記電磁波シールド材の最外層であり、自着性粘着材からなる、請求項1に記載の電磁波シールド材である。
【0007】
請求項3の発明は、前記第1粘弾性層は、導電性材料の粉粒体を含有している、請求項1又は2に記載の電磁波シールド材である。
【0008】
請求項4の発明は、前記第1粘弾性層は、前記電磁波シールド材の最外層である、請求項3に記載の電磁波シールド材である。
【0009】
請求項5の発明は、前記第1粘弾性層は、磁性材料の粉粒体を含有している、請求項1から4の何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材である。
【0010】
請求項6の発明は、前記シート状基材と前記金属溶射層の間に配置されて、前記金属溶射層を構成する金属粒子同士の間に入り込んでいる第2粘弾性層を有する、請求項1から5の何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材である。
【0011】
請求項7の発明は、前記第1粘弾性層と前記第2粘弾性層は、互いに粘着する材料からなる、請求項6に記載の電磁波シールド材である。
【0012】
請求項8の発明は、前記第2粘弾性層は、導電性材料の粉粒体を含有している、請求項6又は7に記載の電磁波シールド材である。
【0013】
請求項9の発明は、前記第2粘弾性層は、磁性材料の粉粒体を含有している、請求項6から8の何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材である。
【0014】
請求項10の発明は、前記シート状基材は、発泡シートからなる、請求項1から9のうち何れか1の請求項に記載の電磁波シールド材である。
【0015】
請求項11の発明は、前記シート状基材に対して前記第1粘弾性層と反対側から、保護層が積層されている、請求項10に記載の電磁波シールド材である。
【0016】
請求項12の発明は、シート状基材に積層された金属溶射層に、流動性を有する粘着材を塗布することで前記金属溶射層に第1粘弾性層を積層する、電磁波シールド材の製造方法である。
【0017】
請求項13の発明は、前記金属溶射層を、前記シート状基材に積層された第2粘弾性層に、直に積層し、前記金属溶射層を積層するときに、溶射される金属の熱により前記第2粘弾性層を軟化させる、請求項12に記載の電磁波シールド材の製造方法である。
【0018】
請求項14の発明は、前記シート状基材に前記金属溶射層が積層された積層シートを、巻取ローラで巻き取ることを含み、前記積層シートの巻き取りを、前記金属溶射層上に前記第1粘弾性層を形成した後に行う、請求項12又は13に記載の電磁波シールド材の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の電磁波シールド材及び請求項12の製造方法により製造された電磁波シールド材では、第1粘弾性層により金属溶射層を構成する金属粒子の脱落を抑えることが可能となる。また、電磁波シールド材が曲げられた場合でも、第1粘弾性層が設けられることにより、金属溶射層にクラックが発生することを抑制可能となる。請求項12の発明のように、金属溶射層に流動性を有する粘着材が塗布されることで第1粘弾性層が形成される場合、金属溶射層を構成する金属粒子間の隙間に第1粘弾性層の粘着材を入り込ませることが容易となる。
【0020】
第1粘弾性層を電磁波シールド材の最外層とし、第1粘弾性層を粘着材で構成すれば、第1粘弾性層により電磁波シールド材を被着体に貼り付けることができる。電磁波シールド材の最外層としての第1粘弾性層が自着性を有するものであれば(請求項2の発明)、電磁波シールド材を曲げたり丸めたりする等して第1粘弾性層同士を貼り合わせることができると共に、第1粘弾性層が第1粘弾性層と異なる材料からなるものに貼り付き難くなるので、電磁波シールド材が取り扱い易くなる。
【0021】
請求項3の発明では、第1粘弾性層が導電性材料の粉粒体を含有しているので、電磁波シールド材の電磁波シールドの効果を高めることが可能となる。また、請求項4の発明では、第1粘弾性層が電磁波シールド材の最外層となっているので、導電性材料を有する第1粘弾性層のグラウンド(アース)接続が容易となる。
【0022】
請求項5の発明では、第1粘弾性層が磁性材料の粉粒体を含有しているので、電磁波シールド材の電磁波シールドの効果を高めることが可能となる。
【0023】
請求項6の発明では、第2粘弾性層が、シート状基材と金属溶射層の間に配置される。第2粘弾性層には、金属溶射層が直に積層されていると共に、第2粘弾性層は、金属溶射層を構成する金属粒子同士の間に入り込んでいる。また、請求項13の発明では、溶射される金属の熱により第2粘弾性層を軟化させるので、金属粒子を第2粘弾性層に埋め込むことができる。請求項6,13の発明によれば、投錨効果によって金属溶射層と第2粘弾性層の密着性が向上し、金属溶射層が剥離したり、金属溶射層にクラックが発生したりすることが抑制される。しかも、金属溶射層は、第1粘弾性層と第2粘弾性層に表裏の両面から密着されることとなるので、電磁波シールド材が表裏のどちら側に曲げられても、金属溶射層にクラックが発生することを抑制できる。
【0024】
請求項7の発明では、第1粘弾性層と第2粘弾性層が、互いに粘着する材料からなる。従って、金属溶射層の金属粒子間の隙間が金属溶射層の厚み方向全体に繋がっている場合に、その隙間を通して第1粘弾性層と第2粘弾性層とを粘着させることができる。これにより、第1粘弾性層及び第2粘弾性層と、金属溶射層との密着性を強くすることが可能となり、金属溶射層の一部が脱落したり剥離したりすることを一層抑えることが可能となる。
【0025】
電磁波シールド材に第2粘弾性層が設けられる場合には、第2粘弾性層が導電性材料の粉粒体を含有する構成であってもよいし(請求項8の発明)、第2粘弾性層が磁性材料の粉粒体を含有する構成であってもよい(請求項9の発明)。これらの構成によれば、電磁波シールド材の電磁波シールドの効果を高めることが可能となる。
【0026】
請求項10の発明では、シート状基材が発泡シートからなるので、電磁波シールド材のフレキシブル性を高めることができる。シート状基材が発泡シートからなる場合、請求項11の発明のように、シート状基材に第1粘弾性層と反対側から保護層を積層すれば、シート状基材の傷つきを防止することが可能となる。
【0027】
請求項14の発明では、シート状基材に金属溶射層が積層された積層シートを、巻取ローラで巻き取る。そして、この積層シートの巻き取りを、金属溶射層上に第1粘弾性層を積層した後に行う。これにより、積層シートの巻取の際に、金属溶射層の金属粒子が脱落したり、金属溶射層にクラックが生じたりすることを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本開示の一実施形態に係る電磁波シールド材の(A)側断面図、(B)金属溶射層の拡大側断面図
図2】電磁波シールド材の製造に用いられる送給ラインの側面図
図3】他の実施形態に係る電磁波シールド材の(A)側断面図、(B)金属溶射層の拡大側断面図
図4】各実施例の電磁波シールド材の伝送減衰率のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1(A)に示されるように、本実施形態の電磁波シールド材10は、シート状基材11を含む積層構造をなしている。シート状基材11は、発泡シートからなる。発泡シートを構成する樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等)、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、又は、これらのブレンド等が挙げられる。なお、シート状基材11を構成する発泡シートは、連続気泡構造でも独立気泡構造でもよいが、連続気泡構造であることが、シート状基材11の柔軟性の点から好ましい。本実施形態では、シート状基材11及び電磁波シールド材10は、フレキシブルになっている。
【0030】
シート状基材11の表裏の一方の面には、保護層41が積層されている。保護層41を構成する材料としては、非発泡体のフィルムや、紙等が挙げられる。このようなフィルムの材料としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂やポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。本実施形態では、保護層41により、シート状基材11の一方の面側からの傷つきを防止することができる。
【0031】
シート状基材11のうち他方の面には、内側粘弾性層が積層されている。内側粘弾性層は、粘着材、エラストマー(ゴムもしくは熱可塑性エラストマー)、又はゲル体等の粘弾性体からなる。なお、ここでの粘着材には、自己粘着性(自着性)を有するものも含まれる。ここで、自己粘着性(自着性)とは、同種の材料からなるもの同士では粘着するが(即ち、くっつくが)、異種の材料からなるものに対しては粘着し難い(即ち、くっつき難い)性質のことを意味する。
【0032】
本実施形態では、内側粘弾性層として、内側粘着材層32が設けられ、この内側粘着材層32は、自着性を有する粘着材(自着性粘着材)からなる。なお、内側粘着材層32(内側粘弾性層)を構成する粘着材は、自着性のものでなくてもよく、同種の材料のもの同士だけでなく異種の材料のものに対しても粘着し易い性質を有するもの(通常の粘着材)であってもよい。内側粘着材層32を構成する粘着材の融点は、70~120℃であることが好ましく、70~100℃であることがより好ましい。
【0033】
内側粘着材層32を構成する自着性粘着材の材料としては、例えば、天然ゴムラテックスに粘着助剤を配合したものが挙げられる。この粘着助剤(粘着付与剤)としては、例えば、タッキファイヤー(テルペン系樹脂、ロジンエステル系樹脂、石油系樹脂等)や、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤等)、トルエン等の有機溶剤、等が挙げられる。また、内側粘着材層32を構成する粘着材には、ポリオレフィン系エマルジョンが添加されていることが好ましい。ポリオレフィン系エマルジョンは、乳化剤や分散剤を使用して水中にポリオレフィン樹脂粒子を分散させたものである。水性分散体を用いることで、内側粘着材層32の厚みを薄くすることができ、電磁波シールド材10のフレキシブル性を高めることができる。なお、ポリオレフィン系エマルジョンは、公知の種々の製造方法で製造したものであってもよいし、市販品を用いてもよい。公知の製造方法としては、例えば水性媒体中の乳化剤存在下で乳化重合したり、溶融樹脂及び水性媒体を剪断力存在下で撹拌混合したりする方法が挙げられる。
【0034】
内側粘着材層32(内側粘弾性層)には、導電性材料が含まれていてもよいし、磁性材料が含まれていてもよい。これらの構成によれば、電磁波シールド材10の電磁波シールドの効果を高めることが可能となる。例えば、これらの導電性材料や磁性材料は、粉粒体となっていて、内側粘着材層32の粘着材に分散されていてもよい。この粉粒体の形状としては、例えば、球状(例えば真球状等)、扁平形状等が挙げられる。
【0035】
上記導電性材料としては、金属材料(例えば、銅、ニッケル、アルミ、銀、金、鉄等)、炭素材料(例えば、導電性カーボンブラック)、導電性高分子、イオン導電材等が挙げられる。
【0036】
上記磁性材料としては、軟磁性材料であってもよいし、硬磁性材料であってもよく、例えば、鉄、フェライト、ケイ素鋼、パーマロイ、センダスト、パーメンジュール等が挙げられる。フェライトとしては、例えば、スピネルフェライト(例えばマンガン系フェライト、ニッケル系フェライト、銅系フェライト、亜鉛系フェライト、コバルト系フェライト等)、六方晶フェライト(例えばバリウム系フェライト、ストロンチウム系フェライト等、ガーネットフェライト(例えばイットリウム鉄ガーネット系フェライト)等が挙げられる。
【0037】
図1(A)に示されるように、内側粘着材層32には、シート状基材11と反対側から直に金属溶射層21が積層されている。金属溶射層21は、シート状基材11上の内側粘着材層32に金属が溶射されることで形成されている。金属溶射層21の目付量は、電磁波シールド材10のシールド性能の観点から、90g/m以上であることが好ましく、電磁波シールド材10のフレキシブル性の観点から、280g/m以下であることが好ましい。
【0038】
金属溶射では、シート状基材11上の内側粘着材層32に多数の金属粒子22を衝突させる。そして、金属溶射層21は、扁平につぶれた金属粒子22が堆積することで形成される(図1(B)参照)。金属溶射される金属は、例えば、亜鉛、アルミニウム、銅又はこれらの金属の合金(例えば亜鉛とアルミニウムの合金)等である。
【0039】
図1(B)に示されるように、内側粘着材層32の一部は、金属溶射層21の内部に進入し、金属溶射層21のうちシート状基材11側の部分において、金属粒子22同士の隙間に入り込んでいる。従って、投錨効果により、内側粘着材層32と金属溶射層21の密着性が高められ、金属粒子22の剥離が抑制されると共に、電磁波シールド材10が曲げ変形されたときに、金属粒子22間でのクラックの発生を抑制可能となる。
【0040】
図1(A)に示されるように、金属溶射層21には、シート状基材11と反対側から直に外側粘弾性層が積層されている。外側粘弾性層は、粘着材(例えば自着性粘着材等)、エラストマー(ゴムもしくは熱可塑性エラストマー)、又はゲル体等の粘弾性体からなる。本実施形態では、外側粘弾性層として、外側粘着材層31が設けられていて、外側粘着材層31は、電磁波シールド材10の最外層となっている。また、本実施形態では、外側粘着材層31は、自着性を有する自着性粘着材で構成されているが、自着性粘着材ではなく通常の粘着材で構成されていてもよい。外側粘着材層31を構成する粘着材の材料としては、内側粘着材層32の材料として上記で例示したもの等を用いることができる。本実施形態では、外側粘着材層31と内側粘着材層32は、互いに対して粘着する材料からなり、具体的には、同じ自着性粘着材からなる。
【0041】
図1(B)に示されるように、外側粘着材層31の一部は、金属溶射層21の内部に進入し、金属溶射層21のうちシート状基材11と反対側の部分において、金属粒子22同士の隙間に入り込んでいる。従って、外側粘着材層31と金属溶射層21の密着性が高められる。電磁波シールド材10では、外側粘着材層31により、金属粒子22の脱落が抑制されると共に、電磁波シールド材10が曲げ変形されたときに、金属粒子22間でのクラックの発生を抑制可能となる。
【0042】
外側粘着材層31(外側粘弾性層)には、導電性材料が含まれていてもよいし、磁性材料が含まれていてもよい。これらの構成によれば、電磁波シールド材10の電磁波シールドの効果を高めることが可能となる。例えば、これらの導電性材料や磁性材料は、粉粒体となっていて、外側粘着材層31の粘着材に分散されていてもよい。この粉粒体の形状としては、例えば、球状(例えば真球状等)、扁平形状等が挙げられる。外側粘着材層31に含まれる導電性材料や磁性材料としては、内側粘着材層32に含まれる導電性材料や磁性材料として上記で列挙したもの等を用いることができる。
【0043】
外側粘着材層31又は内側粘着材層32に導電性材料を含有させる場合、その含有率は、10~20重量%であることが好ましく、10~15重量%であることがさらに好ましい。導電性材料を含有する外側粘着材層31、内側粘着材層32の表面抵抗値(表面における1cm離れた2点間の抵抗値)は、10の4乗Ω以下が好ましい。また、外側粘着材層31又は内側粘着材層32に磁性材料を含有させる場合、その含有率は、10~20重量%であることが好ましく、10~15重量%であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、導電性材料は、外側粘着材層31と内側粘着材層32のうち、一方のみに含有されていてもよいし、両方に含有されていてもよい。また、磁性材料は、外側粘着材層31と内側粘着材層32のうち、一方のみに含有されていてもよいし、両方に含有されていてもよい。また、外側粘着材層31と内側粘着材層32のうち、一方のみに導電性材料が含有され、他方のみに磁性材料が含有されていてもよい。
【0045】
本実施形態の電磁波シールド材10は、例えば、以下のようにして製造される。まず、発泡シートからなるシート状基材11が用意される。
【0046】
次いで、シート状基材11の表裏のうち一方の面に、樹脂フィルムを積層することで、シート状基材11上に保護層41を形成する。なお、シート状基材11への樹脂フィルムの積層は、ダイレクトラミネートや、押出ラミネート等によって行うことができる。
【0047】
次に、シート状基材11に、内側粘着材層32、金属溶射層21、外側粘着材層31が順に積層される。図2には、シート状基材11を送給しながらこの積層工程が行われる送給ライン60の一例が示されている。送給ライン60には、金属溶射装置63、塗布装置64、乾燥炉65が上流側から順に設けられている。送給ライン60では、長尺状のシート状基材11が、操出ローラ61により繰り出されて、積層工程が行われた後に、巻取ローラ62により巻き取られる。
【0048】
積層工程では、まず、シート状基材11の他方の面(図2において繰り出されたシート状基材11の上面)に、図示しない塗布装置(例えば、ロールコータやスプレー等)により、自着性を有する粘着材が塗布される。そして、この粘着材が乾燥すると、シート状基材11上に内側粘着材層32が形成される。なお、内側粘着材層32を構成する粘着材の製造は、例えば、ホモミキサータンク内に粘着助剤等を仕込んだ後、ホモミキサータンクの正回転と逆回転をそれぞれ所定時間行ない、その後、その粘着助剤等に天然ゴムラテックスを配合することにより行われる。なお、内側粘着材層32の材料の粘着材には、導電性材料や磁性材料を含有させてもよい。
【0049】
次いで、金属溶射装置63により、シート状基材11に積層された内側粘着材層32に、金属を溶射する。これにより、内側粘着材層32上に金属溶射層21が形成される。このとき、金属溶射層21の金属粒子22のうち内側粘着材層32側の金属粒子22が、内側粘着材層32に埋設される。即ち、金属粒子22同士の間の隙間に内側粘着材層32の粘着材が入り込むこととなる。これにより、投錨効果によって、金属溶射層21と内側粘着材層32の密着性が高められる。ここで、本実施形態では、溶射される金属の熱で、内側粘着材層32の粘着材が軟化するので、金属粒子22が内側粘着材層32に埋設され易くなる。なお、金属の溶射温度を、内側粘着材層32の材料の融点以上とすると、溶射される金属の熱により内側粘着材層32が軟化して、金属粒子を内側粘着材層32により埋設し易くなる。
【0050】
なお、金属溶射としては、燃焼ガスを熱源とするフレーム式溶射、電気を熱源とするアーク式溶射、高速フレーム式溶射、プラズマ溶射、RFプラズマ溶射、爆発溶射、線爆照射等を用いることができる。これらの中でも、アーク溶射は、金属溶射層21の形成速度が速い点と、金属溶射層21の目付量を精度高く制御できる点で、好ましい。
【0051】
次いで、塗布装置64により、金属溶射層21に、自着性を有する粘着材31Aが塗布される。本実施形態では、粘着材31Aが、流動性を有するので、粘着材31Aが金属溶射層21の金属粒子22同士の間に隙間に染み込む。粘着材31Aは、液状であることが好ましい。塗布装置64は、図2の例では、ロールコータとなっている。詳細には、このロールコータは、コーティングロール64Aとドクターロール64Bを併設してなり、金属溶射層21に対向して設けられている。そして、コーティングロール64Aとドクターロール64Bの間には、粘着材31Aが供給され、コーティングロール64Aが金属溶射層21に接することで、粘着材31Aが金属溶射層21上に塗布される。なお、塗布装置64は、スプレーであってもよい。また、粘着材31Aには、導電性材料や磁性材料を含有させてもよい。
【0052】
次に、乾燥炉65により金属溶射層21上の粘着材31Aを乾燥させる。すると、金属溶射層21上に外側粘着材層31が形成される。本実施形態では、金属溶射層21に流動性を有する粘着材31Aが塗布されることで外側粘着材層31が形成されるので、金属溶射層21を構成する金属粒子22間の隙間に外側粘着材層31の粘着材を入り込ませることが容易となる。また、本実施形態では、粘着材31Aが金属溶射層21に浸透するので、外側粘着材層31によって金属粒子22同士の結合を強めることが可能となる。
【0053】
その後、シート状基材11に金属溶射層21が積層された積層シート30Sが、巻取ローラ62により巻き取られる。本実施形態では、積層シート30Sの巻き取りを、金属溶射層21を覆う外側粘着材層31を形成した後に行うので、積層シート30Sの巻取の際に、金属溶射層21の金属粒子22が脱落したり、金属溶射層21にクラックが生じたりすることを抑制することが可能となる。また、外側粘着材層31が自着性を有するので、外側粘着材層31と異なる材料からなるものとは粘着し難くなり、巻取ローラ62による積層シート30Sの巻き取り等の作業性が良くなる。
【0054】
積層シート30Sは、適宜、所望のサイズにカットされる。以上により、電磁波シールド材10が完成する。なお、シート状基材11への保護層41の積層は、シート状基材11に内側粘着材層32、金属溶射層21、外側粘着材層31を積層した後に、行ってもよい。
【0055】
本実施形態の電磁波シールド材10では、シート状基材11に金属溶射層21が積層される。そして、金属溶射層21には、シート状基材11と反対側から外側粘着材層31が直に積層される。電磁波シールド材10では、外側粘着材層31が、金属溶射層21を構成する金属粒子同士の間に入り込んでいるので、外側粘着材層31により金属溶射層21を構成する金属粒子22の脱落を抑えることが可能となる。しかも、金属溶射層21に直に積層される層が、粘着材からなるので、例えば電磁波シールド材10が変形した場合でも(例えば丸められた場合等でも)、金属溶射層21との密着性を維持して金属粒子22の脱落をより抑えることが可能となる。また、外側粘着材層31が設けられることにより、電磁波シールド材10が曲げられた場合に、金属溶射層21にクラックが発生することを抑制可能となる。
【0056】
本実施形態では、外側粘着材層31を電磁波シールド材10の最外層に配置するので、外側粘着材層31により電磁波シールド材10を、被着体に貼り付けることが可能となる。例えば、電磁波シールド材10を粘着テープのようにケーブル等に巻き付けてケーブル等を結束することができる。また、電磁波シールド材10の最外層の外側粘着材層31が自着性を有することで、電磁波シールド材10を曲げたり丸めたりする等して外側粘着材層31同士を貼り合わせることができると共に、外側粘着材層31が外側粘着材層31と異なる材料からなるものに貼り付き難くなるので、電磁波シールド材10が取り扱い易くなる。また、外側粘着材層31が導電性材料を含有している場合、外側粘着材層31を電磁波シールド材10の最外層とすることで、導電性材料を有する外側粘着材層31のグラウンド(アース)接続が容易となる。この場合、例えば、電磁波シールド材10をグラウンドとなる導体に直接、外側粘着材層31を粘着させて貼り付けてもよいし、電磁波シールド材10をグラウンドに接続された金属電線に外側粘着材層31を内側にするように丸めて接触させてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、金属溶射層21は、外側粘着材層31と内側粘着材層32に表裏の両面から密着されるので、電磁波シールド材10が表裏のどちら側に曲げられても、金属溶射層21にクラックが発生することを抑制できる。
【0058】
また、本実施形態では、外側粘着材層31と内側粘着材層32が、互いに対して粘着する材料からなる。具体的には、外側粘着材層31と内側粘着材層32が、同じ材料で構成され、自着性を有する。従って、金属溶射層21の金属粒子22間の隙間が金属溶射層21の厚み方向全体に繋がっている場合に、その隙間を通して外側粘着材層31と内側粘着材層32とを粘着させることが可能となる。これにより、外側粘着材層31及び内側粘着材層32と金属溶射層21との密着性が強くなり、金属溶射層21の一部が脱落することをより一層抑えることが可能となる。
【0059】
本実施形態では、外側粘着材層31(外側粘弾性層)、内側粘着材層32(内側粘弾性層)が、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第1粘弾性層」、「第2粘弾性層」に相当する。
【実施例
【0060】
以下、実施例によって上記実施形態をさらに具体的に説明するが、本開示の電磁波シールド材は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
1.電磁波シールド材の構成
<実施例1>
シート状基材11;株式会社イノアックコーポレーション製の商品名「FOLEC LZ2000」、厚み0.9mm
内側粘着材層32;株式会社イノアックコーポレーション製、商品名「INOTACK 低温グレード」、目付量:20g/m
金属溶射層21;亜鉛、目付量:250g/m
外側粘着材層31;株式会社イノアックコーポレーション製、商品名「INOTACK シールドグレード」、目付量:100g/m
磁性材料;パウダーテック株式会社製、商品名「M03S」(真球状のMn系フィライト)。磁性材料は、外側粘着材層31に対して、15重量%の含有率となるように添加した。
【0062】
<実施例2>
実施例2は、実施例1に対して、外側粘着材層31のみが異なり、外側粘着材層31に磁性材料が含まれていない点が異なる。
【0063】
2.評価方法
<伝送減衰率>
実施例1,2の電磁波シールド材について、IEC62333-2に準拠して、伝送減衰率(Rtp)を求め、これにより電磁波シールド性を評価した。
【0064】
3.評価結果
図4に示されるように、外側粘着材層31に磁性粉末が含有された実施例1では、磁性粉末が含有されていない実施例2に比べて、伝送減衰率が非常に高くなっていて、電磁波シールド性を大きく向上可能であることがわかった。また、実施例1,2では、外側粘着材層31により金属溶射層21の金属粒子22の脱落が防止可能であることが確認できた。
【0065】
[他の実施形態]
(1)図3(A)及び図3(B)に示される電磁波シールド材10Vのように、内側粘着材層32が設けられていなくてもよく、金属溶射層21が、シート状基材11に直に積層されていてもよい。
【0066】
(2)上記実施形態では、外側粘着材層31が自着性を有し、外側粘着材層31と異なる材料のものには粘着し難かったが、外側粘着材層31が外側粘着材層31と異なる材料のものと粘着し易い性質を有していてもよい。これにより、例えば電磁波シールド材10を丸めてケーブル等に巻回し、外側粘着材層31を保護層41に貼り合わせることができる。
【0067】
(3)外側粘着材層31と内側粘着材層32を構成する粘着材が異なっていてもよい。この場合、外側粘着材層31と内側粘着材層32が互いに粘着する材料からなることが好ましい。なお、例えば、外側粘着材層31が自着性粘着材からなると共に、内側粘着材層32が通常の粘着材からなっていてもよい。
【0068】
(4)図3(A)に示されるように、保護層41が設けられていなくてもよい。
【0069】
(5)金属溶射層21及び外側粘着材層31が、シート状基材11の表裏の両面に積層されていてもよい。この場合、内側粘着材層32は、設けられていなくてもよいし、シート状基材11の表裏の何れか一方側にのみ設けられていてもよいし、シート状基材11の表裏の両側に設けられていてもよい。
【0070】
(6)上記実施形態では、外側粘着材層31が、電磁波シールド材10の最外層を構成していたが、外側粘着材層31にシート状基材11と反対側から一又は複数の層(例えば、樹脂フィルムからなる層)が積層されていてもよい。
【0071】
(7)上記実施形態では、シート状基材11が発泡シートで構成されていたが、非発泡体のシート(例えば、樹脂シートやゴムシート等)であってもよい。また、シート状基材11は、複数のシートが積層された構成であってもよい。また、シート状基材11がフレキシブルでなくてもよい。
【0072】
(8)上記実施形態において、外側粘着材層31又は内側粘着材層32の代わりに、エラストマー(ゴムもしくは熱可塑性エラストマー)又はゲル体等の粘弾性体で構成された粘弾性層が設けられ、その粘弾性層が、金属溶射層21の金属粒子22同士の間に入り込んでいてもよい。このような粘弾性体を用いることで、電磁波シールド材10を、変形(例えば丸める等)させ易くすることが可能となると共に、電磁波シールド材10が変形した場合においても、金属溶射層21との密着性を維持して金属粒子22の脱落を抑えることが可能となる。なお、この粘弾性層に、導電性材料の粉粒体又は磁性材料の粉粒体が含有されていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10 電磁波シールド材
11 シート状基材
21 金属溶射層
22 金属粒子
31 外側粘着材層(第1粘弾性層)
32 内側粘着材層(第2粘弾性層)
41 保護層
図1
図2
図3
図4