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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】治具
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/04 20060101AFI20240115BHJP
   E04G 21/18 20060101ALI20240115BHJP
   B25B 11/02 20060101ALI20240115BHJP
   B23K 37/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
B23K37/04 U
E04G21/18 Z
B25B11/02
B23K37/00 A
B23K37/04 Y
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018246515
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020104150
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千秋
(72)【発明者】
【氏名】西川 成二
(72)【発明者】
【氏名】足立 達朗
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-044899(JP,U)
【文献】特開2004-300888(JP,A)
【文献】特開平10-076365(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0139591(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 37/04
E04G 21/18
B25B 11/02
B23K 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準となる基準部材と、前記基準部材に対し位置合わせを行う対象となる対象部材との間で位置合わせを行う際に用いられる治具であって、
前記基準部材に吸着する吸着部と、
前記基準部材に当接する当接部と、
前記吸着部と前記当接部との間を、前記吸着部及び前記当接部を挟んだ前記基準部材とは反対側の位置で接続し、前記吸着部に対し相対的に回転移動可能に取り付けられたアームと、
油圧シリンダを有し、一端が前記アームに取り付けられると共に、前記油圧シリンダに供給された油の量に応じて他端が前記アームに対し近接、離間する方向に移動可能に構成された押圧部と、
前記油圧シリンダに油を供給するポンプと、を備え、
前記ポンプは、磁石を有し、前記磁石によって前記基準部材または前記対象部材に吸着される、治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材同士の位置合わせを行うための治具及び位置合わせ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物を製造する際に、部材同士の位置合わせを行う必要がある。例えば、鋼管等の円筒状の管同士を突き合わせ溶接する際に、管同士の間で位置合わせが行われる場合がある。管同士の間で位置合わせを行う際に用いられる技術として、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1には、繋ぎ合わせる2つの管のそれぞれの端部に複数の切欠きが設けられ、ガイドのために先細に形成されたガイド部材が一方の管の切欠きの内部に挿入され、他方の管の切欠きにガイド部材を挿入することにより、管同士の位置合わせを行う技術について開示されている。一方の管に挿入されたガイド部材が他方の管に形成された切欠きに挿入されるように、管同士の間の位置合わせが行われるので、位置合わせが確実に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5759046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された構成の位置合わせでは、位置合わせの行われるそれぞれの管の端部に切欠きを形成する必要がある。また、それぞれの管に形成された切欠きに対応したガイド部材を予め用意しておく必要がある。そのため、位置合わせを行う際に、位置合わせの行われる管に対する加工や準備が必要となり、位置合わせのために必要とされる時間が長期化する可能性がある。また、円筒形状でのみ板厚方向の位置合わが可能である。
【0005】
そこで、本発明は上記の事情に鑑み、部材に対し特別な加工等を行わずに部材同士の間の位置合わせを行うことのできる位置合わせのための治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の治具は、基準となる基準部材と、前記基準部材に対し位置合わせを行う対象となる対象部材との間で位置合わせを行う際に用いられる治具であって、前記基準部材に吸着する吸着部と、前記基準部材に当接する当接部と、前記吸着部と前記当接部との間を、前記吸着部及び前記当接部を挟んだ前記基準部材とは反対側の位置で接続し、前記吸着部に対し相対的に回転移動可能に取り付けられたアームと、一端が前記アームに取り付けられると共に、他端が前記アームに対し近接、離間する方向に移動可能に構成された押圧部とを備えている。
【0007】
上記構成の治具では、押圧部によって対象部材を押圧して対象部材を移動させることにより基準部材と対象部材との間で位置合わせを行うことができるので、基準部材及び対象部材に対し、予め溶接や加工等の準備を行わずに基準部材に対する対象部材の位置合わせを行うことができる。従って、位置合わせのための工程の数を少なくすることができ、位置合わせを短時間で行うことができる。
【0008】
また、前記押圧部は、油圧シリンダを備えていてもよい。
【0009】
押圧部が油圧シリンダを備えているので、押圧部における他端の移動を簡易な構成で行うことができる。
【0010】
また、前記当接部における前記基準部材に当接する側の先端部が、前記アームに対し、前記基準部材に近接、離間する方向に移動可能に構成されていてもよい。
【0011】
当接部の先端部がアームに対し基準部材に近接、離間する方向に移動可能なので、基準部材の形状に対応して、当接部を基準部材に確実に当接するように配置することができる。
【0012】
また、前記吸着部は、磁石を備えていてもよい。
【0013】
吸着部が磁石の力によって基準部材に吸着するので、簡易な構成によって吸着部を基準部材に吸着させることができる。
【0014】
また、本発明の位置合わせ方法は、基準となる基準部材と、前記基準部材に対し位置合わせを行う対象となる対象部材との間で位置合わせを行う位置合わせ方法であって、アームを前記基準部材に対し相対移動しないようにした状態で、一端がアームに取り付けられた押圧部の他端によって前記対象部材を押圧して前記基準部材に対し前記対象部材を移動させ、前記基準部材と前記対象部材との間で位置合わせを行わせる位置合わせ工程を備えている。
【0015】
上記構成の位置合わせ方法では、基準部材や対象部材に対し、予め溶接や加工等の準備を行わずに、押圧部が対象部材を押圧して基準部材に対し対象部材を移動させることによって基準部材に対する対象部材の位置合わせを行うことができる。従って、位置合わせのための工程の数を少なくすることができ、位置合わせを短時間で行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、対象部材に前もって準備を行わずに位置合わせを行うことができるので、位置合わせの度に対象部材の位置合わせのための構成を基準部材及び対象部材に対し設ける必要がなく、位置合わせを簡易に行うことができる。従って、位置合わせに必要とされる時間が短時間で済む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る治具についての斜視図である。
図2図1の治具の側面図である。
図3図1の治具の平面図である。
図4図1の治具を用いて基準部材と対象部材との間で位置合わせを行っている際の、治具、基準部材及び対象部材についての斜視図である。
図5図4の治具、基準部材及び対象部材についての側面図である。
図6図1の治具を用いて基準部材と対象部材との間の位置合わせが行われる際のフローについて示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る治具について、添付図面を参照して説明する。
【0019】
図1に、治具1000についての斜視図を示す。治具1000は、アーム100と、当接部200と、吸着部300と、押圧部400とを備えている。
【0020】
アーム100における一端側の部分が、一方向に長く延びて形成されている。本実施形態では、アーム100の一端側の部分が長く延びた長さ方向をD1方向とし、D1方向に直交するアーム100の幅方向をD2方向とし、アーム100の高さ方向をD3方向とする。アーム100は、D1方向に直交する平面についての断面が、矩形状の管となるように形成されている。また、アーム100には、D2方向に沿ってアーム100を貫通するように穴100b、100cが形成されている。このようにアーム100が構成されることにより、アーム100についての軽量化が図られている。
【0021】
アーム100のD1方向に沿う一端側には、板部材101が設けられている。板部材101は、アーム100におけるD3方向の一端側(図1のアーム100の上部)に設けられている。図1に示される姿勢では、板部材101は、D3方向に直交する平面となるように配置されている。
【0022】
アーム100のD1方向に沿う一端側には、押圧部400が設けられている。押圧部400は、板部材101にネジ102a、102bによるネジ止めによって取り付けられている。板部材101には、D3方向に板部材101を貫通するように、D2方向に沿って切欠き101a、101bが形成されている。切欠き101a、101bをネジ102a、102bが通り、板部材101を挟んで押圧部400とネジ102a、102bとの間の締結が行われることによって、押圧部400が板部材101に取り付けられている。押圧部400は、円筒状に形成された本体部410と、本体部410よりも径の小さい円筒状に形成された先端部420とを有している。本体部410は、油圧シリンダである。すなわち、押圧部400は、油圧シリンダとしての本体部410を備えている。また、先端部420は、本体部410における、D3方向に沿ってアーム100から最も離間した位置に取り付けられている。また、板部材101には、アーム100における矩形状の部分100dについてのD2方向についての外側の側面に沿って板部材101をD3方向に貫通するように、切欠き101c、101dが形成されている。
【0023】
アーム100における、D1方向において、板部材101の取り付けられた一端側とは逆側の他端側には、当接部200が設けられている。当接部200は、アーム100から基準部材の方へ向かうD4方向あるいは基準部材からアーム100の方へ向かうD5方向へ先端部210を移動させることが可能に構成されている。つまり、当接部200は、先端部210が、アーム100に対し、D3方向に沿って、近接、離間する方向に移動可能に構成されている、本実施形態では、当接部200にネジ穴220が形成され、ネジ穴220の内部にネジ山の形成された軸230が挿入されている。
【0024】
図1のr1方向へ軸230を回転させることにより、アーム100に対し、軸230をアーム100から基準部材の方へ向かうD4方向に移動させることができる。また、図1のr2方向へ軸230を回転させることにより、基準部材からアーム100の方へ向かうD5方向に軸230を移動させることができる。従って、軸230の先端部210を、アーム100から基準部材の方へ向かうD4方向及び基準部材からアーム100の方へ向かうD5方向へ移動させることが可能に構成されている。
【0025】
アーム100におけるD1方向に沿う一端側に設けられた押圧部400と、他端側に設けられた当接部200との間の位置には、吸着部300が設けられている。アーム100は、吸着部300と当接部200との間を接続するように構成されている。
【0026】
吸着部300は、D2方向に直交する平面となるように構成されてD3方向に延びる内側板部材310を有している。内側板部材310は、アーム100の内部に挿入されて配置された板状の部材である。また、吸着部300は、内側板部材310に取り付けられ、アーム100の幅方向であるD2方向に長く延びた幅方向板部材320と、幅方向板部材320のD3方向の下方に取り付けられた台330とを有して構成されている。幅方向板部材320には、切欠き370が形成されている。ネジ360が切欠き370を通って、幅方向板部材320を挟んでネジ360と台330との間のネジ止めが行われることによって、幅方向板部材320が台330に締結されている。また、内側板部材310には、D1方向に沿って一端側から他端側に向かい、そこからさらにD3方向に沿って上方に向かうように、切欠き311が形成されている。
【0027】
図2に、治具1000についての側面図を示し、図3に治具1000についての平面図を示す。図2、3に示されるように、内側板部材310は、アーム100に軸150を介して軸支されている。内側板部材310に形成された切欠き311に軸150を挿入することにより、内側板部材310がアーム100に軸支される。従って、吸着部300は、図2のD6方向に、軸150を中心に搖動されるように構成されている。これにより、吸着部300は、アーム100に対し、相対的に回転移動可能に取り付けられている。また、切欠き311の内部に軸150を挿入するだけで、アーム100に対し内側板部材310を取り付けることができるので、吸着部300のアーム100への取り付けを容易に行うことができる。
【0028】
台330は、磁石340を備えている(図2)。本実施形態では、磁石340は、永久磁石である。図2に示された状態では、磁石340は、D3方向に沿った、最も下方の位置に配置されている。また、台330には、図2のD7方向に移動可能なレバー350が取り付けられている。レバー350がD7方向に移動することにより、磁石340を、D3方向に沿って、上方のD8方向へ移動させることが可能に構成されている。
【0029】
また、レバー350がD7方向に移動した状態では、レバー350をD7方向とは逆方向へ移動させてレバー350を元の位置に戻すことにより、磁石340をD8方向とは逆方向に移動させ、磁石340を、D3方向に沿って、最も下方の位置に戻すように移動させることができる。このように、レバー350をD7方向に沿って、順方向、逆方向へ移動させることにより、磁石340を、台330におけるD3方向に沿ってアーム100から最も離間した位置330aに対し、近接、離間する方向へ移動させることができる。
【0030】
本実施形態では、台330におけるD3方向に沿ってアーム100から最も離間した位置330aは、後述する基準部材の形状に合わせ、曲面を有して形成されている。
【0031】
押圧部400の本体部410には、チューブ430を介して油を供給することが可能に構成されている。押圧部400は、チューブ430を介して本体部410の内部に供給される油の油量に応じて、先端部420を、D3方向に沿うアーム100に対して近接、離間するD9方向に沿って、移動させることが可能に構成されている。このように、押圧部400は、本体部410におけるD3方向に沿った一端410aがアーム100に取り付けられると共に、先端部420の他端420aがアーム100に対し近接、離間するD9方向に移動可能に構成されている。
【0032】
次に、治具1000を用いて、基準部材と対象部材との間で行われる位置合わせについて説明する。
【0033】
図4に、位置合わせが行われる際の、基準部材2000、対象部材3000及び治具1000の斜視図を示す。また、図5に、治具1000を用いて基準部材2000と対象部材3000との間の位置合わせが行われている際の、治具、基準部材2000及び対象部材3000についての側面図を示す。また、図6に、本実施形態における位置合わせ方法によって位置合わせが行われる際のフローチャートを示す。
【0034】
本実施形態では、板状の部材である基準部材2000と板状の部材である対象部材3000との間において、治具1000を用いて互いに厚さ方向についての位置合わせが行われる。基準部材2000及び対象部材3000は、いずれも円管状に形成された部材である。基準部材2000を基準とし、位置合わせを行う対象となる対象部材3000を押圧して移動させることによって基準部材2000に対し対象部材3000についての位置合わせが行われる。基準部材2000と対象部材3000との間の位置合わせを行う際には、当接部200及び吸着部300は基準となる基準部材2000に当接し、押圧部400は移動の対象となる対象部材3000に当接する。
【0035】
図4、5に示されるように、基準部材2000と対象部材3000との間の位置合わせを行う際には、まず、治具1000における当接部200の先端部210と、吸着部300の台330におけるD3方向に沿ってアーム100から最も離間した位置330aとを、基準部材2000に当接させる(S1)。その際、吸着部300の磁石340が基準部材2000に近接した、台330におけるD3方向に沿ってアーム100から最も離間した位置330aに近接した位置に配置されていない場合には、レバー350を移動させて磁石340を基準部材2000に近接した位置に移動させる。磁石340が基準部材2000に近接した位置に配置されるので、磁石340が吸着力を発揮させることにより、吸着部300は、確実に基準部材2000に当接する。
【0036】
当接部200の軸230は、r1方向あるいはr2方向に回転移動することによりD4あるいはD5方向に沿って移動し、先端部210が基準部材2000に当接するように軸230の位置を調節することができる。
【0037】
このとき、位置合わせを精度良く安全に行うには、アーム100におけるD1方向に沿う一端側の部分が基準部材2000の表面の面方向に平行になるように、配置されることが好ましい。すなわち、アーム100の一端側の部分が、D1方向及びD2方向に沿って配置されることが好ましい。こうすることにより、後述するように押圧部400の先端部420を移動させる際に、先端部420をD3方向に沿ってまっすぐに移動させることができる。そのため、押圧部400の先端部420の移動を精度良く行うことができる。また、吸着部の外れ(剥離)を防ぐことができる。
【0038】
当接部200の先端部210と、吸着部300の台330における位置330aとを基準部材2000に当接させると、次に、押圧部400の先端部420を対象部材3000に当接させる(S2)。このとき、油圧シリンダとしての本体部410に油を供給して先端部420を、D3方向に沿ってアーム100から離間する方向へ移動させることにより、対象部材3000に当接させる。本体部410に油を供給する際には、ポンプ4000(図4)を駆動させることにより、油を、チューブ430を介して本体部410に供給する。本実施形態では、ポンプ4000は、手動で駆動される。ポンプ4000におけるレバー4010をD10方向に沿って往復移動させることにより、ポンプ4000によって油が本体部410に供給される。本実施形態では、ポンプ4000に磁石4020が設けられている。そのため、位置合わせを行う際に、ポンプ4000についても対象部材3000に吸着させ、対象部材3000に当接して配置することができる。このように、治具1000を、基準部材2000及び対象部材3000に当接する位置にセットする。このように治具1000が基準部材2000及び対象部材3000に対してセットされることにより、アーム100が基準部材2000に対し相対移動しないようにした状態で、治具1000が基準部材2000と対象部材3000との間の位置合わせを行うことができる。なお、ポンプ4000は、磁石4020によって基準部材2000に吸着されてもよい。
【0039】
このように、本実施形態では、基準部材2000は、当接部200の先端部210と、吸着部300の台330におけるD3方向に沿ってアーム100から最も離間した位置330aとに当接するように、治具1000が、基準部材2000に対しセットされる。従って、治具1000が基準部材2000に対しセットされたときには、アーム100は、吸着部300と当接部200との間を、吸着部300及び当接部200を挟んだ基準部材2000とは反対側の位置で接続するように構成されている。
【0040】
治具1000が、基準部材2000及び対象部材3000に当接する位置にセットされると、押圧部400の先端部420を、対象部材3000を押圧する方向へ移動させる。押圧部400の先端部420を移動させる際には、本体部410の内部にさらに油を供給する。押圧部400の先端部420が対象部材3000に当接すると、そこからさらに先端部420を、D3方向に沿ってアーム100から離間する方向へ移動させ、対象部材3000を押圧させる(S3)。
【0041】
押圧部400の先端部420が対象部材3000を押圧する際に、基準部材2000及び対象部材3000に作用する力について図5に示す。位置合わせが行われる際には、押圧部400の先端部420から対象部材3000に対し、対象部材3000を押圧して対象部材3000をD3方向に沿ってアーム100から離間する方向へ押し出す力F1が作用する。また、当接部200の先端部210から基準部材2000に対し、基準部材2000を押圧する力F2が作用する。その際、吸着部300における台330では、D3方向に沿ってアーム100から最も離間した位置330aが、基準部材2000からD3方向に沿ってアーム100に向かう方向へ押される力F3が作用する。押圧部400の先端部420から対象部材3000へ力F1が作用すると、アーム100が軸150を中心に回転することにより、力F1に伴う反力としての力F2が当接部200の先端部210に基準部材2000を押す方向へ作用する。
【0042】
吸着部300の台330には、D3方向に沿って基準部材2000から離間する方向の力が作用するが、本実施形態では、台330には、磁石340が設けられている。本実施形態では、磁石340の吸着力が力F2よりも大きくなるように、磁石340の吸着力が設定されている。そのため、磁石340の吸着力によって台330が基準部材2000に当接した状態が維持される。
【0043】
当接部200の先端部210と、吸着部300の台330とが、基準部材2000と当接した状態が維持されたまま押圧部400の先端部420が力F1によって対象部材3000を押圧するので、力F1によって対象部材3000を、D3方向に沿って、アーム100から離間する方向へ移動させることができる。
【0044】
押圧部400において、油圧シリンダとしての本体部410へ供給される油の量に応じて、先端部420をD3方向に沿ったアーム100から離間する方向へ移動させることができる。すなわち、治具1000は、本体部410に油を供給し続けることにより、D3方向において、基準部材2000と対象部材3000とが一致するまで対象部材3000を押圧して対象部材3000を移動させる(位置合わせ工程)(S4)。D3方向において、基準部材2000の位置と対象部材3000の位置とが一致すると、位置合わせが終了する。
【0045】
位置合わせが終了すると、治具1000が、基準部材2000及び対象部材3000から取り外される。治具1000を基準部材2000から取り外す際には、例えば、レバー350をD7方向に移動させ、磁石340をD8方向に移動させてもよい。レバー350をD7方向へ移動させるによって磁石340を強い力によって基準部材2000からアーム100に向かう方向へ移動させることができ、磁石340を基準部材2000から容易に取り外すことができる。
【0046】
本実施形態によれば、治具1000は、押圧部400によって対象部材3000を押圧して対象部材3000を移動させることにより基準部材2000と対象部材3000との間の位置合わせを行うので、基準部材2000及び対象部材3000に対し、予め溶接や加工等の準備を行わずに基準部材2000に対する対象部材3000の位置合わせを行うことができる。従って、位置合わせのための工程の数を少なくすることができ、位置合わせを短時間で行うことができる。
【0047】
また、本実施形態では、基準部材2000及び対象部材3000に対し、位置合わせの際のガイドのための部材を取り付ける必要がない。そのため、基準部材2000及び対象部材3000の品質を高く維持することができる。従来においては、基準部材や対象部材に対し、位置合わせの際に用いられるガイドのための部材が取り付けられる場合があった。そのため、基準部材や対象部材に対し、溶接によるガイド部材の取付作業や位置合わせの行われた後のガイド部材の除去作業が行われていた場合があった。基準部材及び対象部材にガイド部材の取付作業や除去作業が行われると、その部分で材料の均一性が損なわれ、品質の低下が生じる可能性がある。本実施形態の位置合わせでは、基準部材2000及び対象部材3000にガイドのための部材を取り付ける必要がないので、基準部材2000及び対象部材3000の品質が低下することを抑えることができる。
【0048】
また、本実施形態では、治具1000及びポンプ4000を用いるだけで基準部材2000と対象部材3000との間の位置合わせを行うことができるので、基準部材2000及び対象部材3000に対し位置合わせの際のガイドのための部材を取り付ける場合に比べ、作業者が持ち運びを行う物の量を少なくすることができる。場合によっては、基準部材2000と対象部材3000との間の位置合わせは、例えば高所といった持ち運びのできる物の量が制限される環境で行われる場合がある。本実施形態では、持ち運びする物の量を少なくすることができるので、作業者の負担を軽減することができる。また、治具1000は、軽量に形成されているので、持ち運びの際に、比較的容易に持ち運びを行うことができる。従って、作業者の負担をより軽減することができる。
【0049】
また、ポンプ4000に磁石4020が設けられているので、位置合わせの作業中にポンプ4000を基準部材2000あるいは対象部材3000に吸着させて設置することができる。従って、位置合わせの際に、ポンプ4000を持っておく必要がなく、作業員による作業性を向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、当接部200における基準部材2000に当接する側の先端部210が、アーム100に対し、基準部材2000に近接、離間する方向に移動可能に構成されている。また、吸着部300は、アーム100に対し、軸150を中心に相対的に回転移動可能に取り付けられている。従って、例えば基準部材2000に凹凸、段差、傾斜等の形状のばらつきがあったとしても、基準部材2000の形状に応じて、アーム100についての、基準部材2000に対する角度、配置位置を調節することができる。従って、本実施形態の治具1000は、基準部材2000の形状の変化に対し、柔軟に対応することができる。
【0051】
なお、上記実施形態では、押圧部400は、油圧シリンダとしての本体部410に油が供給され、油の供給量に応じて先端部420をD9方向に沿ってアーム100から近接、離間するように移動させている。しかしながら本発明は上記実施形態に限定されず、押圧部400が対象部材3000を押圧するために、対象部材3000の方へ移動するための構成は、他の構成であってもよい。
【0052】
また、押圧部400が、先端部420を軸方向に移動させるためのネジ部を備えていてもよい。例えば、先端部420の外周の側面にネジ山が形成され、本体部410の内周にネジ溝が形成され、先端部420を本体部410に対し回転させることにより先端部420を軸方向(D9方向)に沿って移動させることが可能な構成であってもよい。つまり、先端部420がネジ部で螺合した状態で回転することにより押圧部400の軸方向に沿って移動し、先端部420の対象部材3000に当接する側の端部(他端)をアーム100に対し近接、離間する方向に移動させる構成であってもよい。回転することによって、他端をアームに対し近接、離間する方向に移動させ、他端が対象部材を押圧する方向へ移動させることができるので、押圧部における他端の移動を容易に行うことができる。また、本体部410に対し先端部420を精度良く移動させることができ、より精度の高い治具1000を提供することができる。
【0053】
また、押圧部400は、他の構成であってもよい。例えば、本体部410は、油圧シリンダでなく、エアシリンダであってもよい。また、押圧部400は、ネジによって先端部420を移動させるジャッキであってもよい。ネジによって先端部420を移動させジャッキは、パンタグラフ形式のジャッキであってもよい。
【0054】
また、押圧部は、アーム100に対し相対的に移動させることができ、対象部材3000を押圧することにより移動させて、基準部材2000と対象部材3000との間で位置合わせを行うことができるのであれば、押圧部は、他の構成であってもよい。
【0055】
また、吸着部300は、磁石340によって基準部材2000に吸着する構成について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。吸着部300が基準部材2000に吸着するための構成は他の構成であってもよい。例えば、吸着部300は、吸盤によって基準部材2000に吸着する構成であってもよい。また、吸着部300が基準部材2000に吸着することが可能であるならば、吸着部300が基準部材2000に吸着するための構成は、磁石、吸盤以外の他の構成であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、吸着部300の台330における、D3方向に沿ったアーム100から最も離間した位置330aの底面は、円管同士の間の位置合わせに適応させるため、曲面状に形成されている。しかしながら本発明は上記実施形態に限定されず、基準部材及び対象部材は、円管状でなくてもよい。平板同士の位置合わせに治具1000が用いられてもよい。治具1000が平板の基準部材及び平板の対象部材との間の位置合わせを行う際には、吸着部300の台330における、D3方向に沿ったアーム100から最も離間した位置330aの底面は、平面状に形成されてもよい。
【0057】
また、基準部材及び対象部材の形状は、円管や平板以外の形状であってもよい。押圧部400が対象部材を押圧することによって基準部材と対象部材との間の位置合わせを行うことができるのであれば、基準部材及び対象部材の形状は、どのような形状であってもよい。その際、吸着部300の台330における、D3方向に沿ったアーム100から最も離間した位置330aの底面は、基準部材の形状に合わせて設定されてもよい。
【符号の説明】
【0058】
100 アーム
200 当接部
210 先端部
300 吸着部
340 磁石
400 押圧部
410 本体部(油圧シリンダ)
410a 一端
420a 他端
1000 治具
2000 基準部材
3000 対象部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6