(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】タイチン系ミオパチー及び他のタイチノパチーの治療のための材料及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20240115BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20240115BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/09 Z ZNA
A61K35/34
A61P9/00
(21)【出願番号】P 2018525652
(86)(22)【出願日】2016-11-15
(86)【国際出願番号】 US2016062052
(87)【国際公開番号】W WO2017087395
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-11-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-29
(32)【優先日】2015-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515289842
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート アット ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ロディーノ-カラパック, ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ポッター, レイチェル
【合議体】
【審判長】長井 啓子
【審判官】飯室 里美
【審判官】天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/093712(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0125429(US,A1)
【文献】Neurology、2013、Vol.81、p.1205-1214
【文献】EMBO Molecular Medicine、2015.03.10、Vol.7、p.562-576
【文献】Database Genbank [online], Accession No.AJ277892.2、2006.11.14
【文献】Nature、2015.04.、Vol.520、p.186-191, Supplementary Information
【文献】Cell Cycle、2016.05.06、Vol.15、p.1395-1396
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00
BIOSIS/MEDLINE/CAplus/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイチン遺伝子における変異を有するヒト細胞において、タイチン遺伝子のリーディングフレームを回復し、タイチン活性を回復するための組成物であって
、
(
a)前記変異を含む細胞におけるタイチン遺伝子のイントロン242におけるc.37112G>A変異を修復することにより、タイチンのリーディングフレームを回復し、タイチン活性を回復する場合、前記組成物が、
(i)Cas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョン、またはCas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョンをコードする核酸;
(ii)配列番号57、59、または61に記載の配列を含むgRNAをコードする核酸;および
(iii)配列番号63に記載の配列を含むドナーテンプレート領域を含む核酸
を含み;あるいは
(
b)
エクソン326における変異を含む細胞におけるタイチン遺伝子のエクソン326をスキップまたは除去することにより、タイチンのリーディングフレームを回復し、タイチン活性を回復する場合、前記組成物が、
(i)Cas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョン、またはCas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョンをコードする核酸
;
(ii)配列番号64、66、68、
または70
に記載の配列を含むgRNAをコードする核酸
;および
(iii)配列番号72、74、または76に記載の配列を含むgRNAをコードする核酸
を含む、組成物。
【請求項2】
前記gRNAが、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記gRNAが、修飾されたsgRNAである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記Cas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョンをコードする核酸が、前記gRNAまたはsgRNAをコードする核酸と予備複合体化される、請求項1、2または3に記載の組成物。
【請求項5】
前記Cas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョン、またはCas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョンをコードする核酸、前記gRNAをコードする核酸、または前記ドナーテンプレートを含む核酸が、各々別々に脂質ナノ粒子に製剤化されるか、またはすべて脂質ナノ粒子に一緒に共製剤化される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記Cas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョン、またはCas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョンをコードする核酸が、脂質ナノ粒子に製剤化され、前記gRNAをコードする核酸及び/または前記ドナーテンプレートを含む核酸の両方が、アデノ随伴ウイルス(AAV)によって送達される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記タイチン遺伝子が、染色体2q31(ゲノムリファレンスコンソーシアム-GRCh38/hg38)上に位置する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記gRNAをコードする核酸および/または前記ドナーテンプレートを含む核酸が、アデノ随伴ウイルス(AAV)により送達される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
配列番
号57、59、61、64、66、68、70、72、74、および76のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含むガイドリボ核酸(gRNA)をコードする核酸。
【請求項10】
前記gRNAが、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である、請求項9に記載の核酸。
【請求項11】
前記gRNAまたはsgRNAが、修飾されたgRNAまたはsgRNAである、請求項9または10に記載の核酸。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物または請求項9~11のいずれか一項に記載の核酸を含む脂質ナノ粒子。
【請求項13】
請求項9~11のいずれか一項に記載の核酸を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)。
【請求項14】
タイチンのリーディングフレームを回復して、タイチンタンパク質発現および/または活性を増加させることによってヒト細胞内の変異タイチン遺伝子を編集するためのex vivoまたはin vitro方法であって、
前記ヒト細胞が、受精卵でも、配偶子でも、生殖細胞でもなく、前記方法は
、
(
a)細胞に、
(i)Cas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョン、またはCas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョンをコードする核酸;
(ii)配列番号57、59、または61に記載の配列を含
むgRNA
をコードする核酸;および
(iii)配列番号63に記載のヌクレオチド配列を含むドナーテンプレート領域を含む核酸
を導入して、
前記変異を含む細胞におけるタイチン遺伝子のイントロン242におけるc.37112G>A変異を修復することにより、タイチンのリーディングフレームを回復するステップ;あるいは
(
b)細胞に、
(i)Cas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョン、またはCas9エンドヌクレアーゼ、またはそのホモログ、もしくは修飾されたバージョンをコードする核酸
;
(ii)配列番号64、66、68、
または70
に記載の配列を含
むgRNA
をコードする核酸
;および
(iii)配列番号72、74、または76に記載の配列を含むgRNAをコードする核酸
を導入して、
エクソン326における変異を含む細胞におけるタイチン遺伝子のエクソン326をスキップまたは除去することにより、タイチンのリーディングフレームを回復するステップ
を含む、方法。
【請求項15】
タイチン系心筋症または他のタイチノパチーを有する患者を治療するための、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる2015年11月16日出願の米国仮特許出願第62/255,887号に対する優先権を主張する。
【0002】
本出願は、タイチン系ミオパチー、特にタイチン系心筋症、及び/または他のタイチノパチー(titinopathy)を有する患者を治療するための材料及び方法を提供する。さらに、本出願は、ゲノム編集によって細胞内のタイチン遺伝子を編集するための材料及び方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質タイチンは、以前は「コネクチン」と呼ばれており、ヒトの体内で最大のタンパク質である。それは、骨格筋の分子ばねとして機能する。ヒトタイチン遺伝子は、染色体2q31上に位置する。タイチン遺伝子のコーディング領域は、364個のエクソンを含み、その363個は、38,138個のアミノ酸残基(4,200kD)をコードする(GenBank登録番号AJ277892)。骨格筋タイチンタンパク質の大きさは、3,700kDであり、そのインビボの物理的長さは、2μmである。タイチンは、横紋筋において機械的、発達的、及び調節的な役割を有する。その4つの領域(Z盤、I帯、A帯、及びM線)は、筋肉の基本構築要素、筋節の2分の1の長さに跨る。
図1、パネルAを参照されたい[Cheveauら、Human Mutation,35(9):1046-1059(2014)から再作成]。タイチンの主な機能の1つは、筋節の収縮要素を定位置に維持することであり、これは筋肉の弾力性に関与している。
【0004】
タイチンは、代替スプライシングのためのいくつかの部位を有し、異なる長さのアイソフォームを異なる筋肉内に出現させる[Bangら、Circ Res 89:1065-1072(2001)]。I帯アイソフォームは、骨格筋(3,700kD)において心筋(2,970~3,300kD)におけるよりも長いことが観察されており、一方、Z盤においては、心筋タイチンは、骨格筋タイチンよりも多くの反復モチーフを含む(Gautelら、J Cell Sci 109:2747-2754 1996;Sorimachiら、J Mol Biol 270:688-695 1997)。タイチンのC末端短縮型700-kDアイソフォームは、心筋内に発現される(Bangら、上記参照)。タイチンのM線領域もまた、差別的に発現され、Mex5+及びMex5-の2つの異なるスプライスアイソフォームが同定されている(Labeit and Kolmerer Science 270:293-296 1995;Kolmererら、J Mol Biol 256:556-5631996;Sorimachiら、上記参照)。超構造レベルでは、カルボキシ末端Mex6タイチンエピトープ及び触媒タイチンキナーゼドメインのどちらも、M線格子の周縁内に局在化されている(Obermannら、EMBO J 16:211-220 1997)。Mex5/Mex6タイチンエピトープ、触媒タイチンキナーゼドメイン、ならびにタイチンのこの領域に結合されるp94及び筋肉特異的ringフィンガー-1(MURF-1)タンパク質は、シグナル複合体を形成し得る(Sorimachiら、上記参照;Centnerら、J Mol Biol 306:717-726 2001)。いくつかの異なるタイチンアイソフォームの発生は、解剖学的に制限されたミオパチーにおける筋肉の選択的関与に関連し得る(Sorimachiら、上記参照)。近年、常染色体優性の拡張型心筋症は、フレームシフトを引き起こすエクソン326内のA帯タイチン変異、及びZ盤タイチン内の変異に関連付けられることが示された[Siuら、Circulation 99:1022-1026(1999);Gerullら、Nat Genet 30:201-204(2002)]。
【0005】
タイチンは、多数の他の筋肉タンパク質のためのリガンド結合部位を提供する。
図1のパネルBを参照されたい[Cheveauら(上記参照)から再作成]。
【0006】
異なる細胞内のタイチン遺伝子の代替スプライシングは、変更されたアイソフォーム組成物及びタンパク質の受動的剛性の変動をもたらし、転じて筋肉の機能性及び安定性に影響を及ぼす。特に心筋において、胎児の心臓タイチンは、非常に長いばねセグメントを有し、成人のN2Bアイソフォームは、より短くより剛性のばねを有し、成人のN2BAアイソフォームは、中程度のより柔軟なばねを有し、N2A骨格筋特異的アイソフォームは、長いばね長さを有する[LeWinter,Circulation.Jul 13 2004;110(2):109-111]。正常な心臓では、タイチンは、生理学的筋節長さにおける受動的心筋剛性の主要な決定因子である[Granzierら、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.Oct 7 2014;111(40):14589-14594]。
【0007】
心臓の筋肉における減少する量のN2BAアイソフォームは、末期心不全[McNallyら、Cell metabolism.Feb 3 2015;21(2):174-182]及び非虚血性拡張型心筋症(DCM)[LeWinter and Granzier,Journal of cardiovascular pharmacology.Mar 2014;63(3):207-212.;Makarenkoら、Circulation research.Oct 1 2004;95(7):708-716;Jaberら、Circulation.Heart failure.Sep 2008;1(3):192-199]を有するものの特徴である。筋節の受動的張力は、DCM成人患者ではおよそ30%低減され、この張力の損失は、タイチンの損失及び増大された線維症の結果である[Makarenkoら、上記参照]。近年、5,200人の患者に対して、DCMをもたらす病原性変異を同定するためにタイチンの配列決定が行われ[Robertsら、Science translational medicine.Jan 14 2015;7(270):270ra276]、家族性DCM症例の30%がタイチン系変異、特にC末端短縮型変異に起因することが同定された[Hermanら、The New England Journal of Medicine.2012;366(7):619-628;Gerullら、上記参照;Itoh-Satohら、Biochemical and Biophysical Research Communications.2002;291(2):385-393;Gerullら、Journal of Molecular Medicine.2006;84(6):478-483]。非虚血性DCMは、250人中1人に発生し、心不整脈、心不全、及び心臓移植の重要な原因である。
【0008】
タイチン系ミオパチーまたは他のタイチノパチーのための治癒または治療はこれまでにないため、タイチン系ミオパチー及び/または他のタイチノパチーを治療するための製品及び方法を提供する必要性が当該技術分野において存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Cheveauら、Human Mutation,35(9):1046-1059(2014)
【文献】Bangら、Circ Res 89:1065-1072(2001)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
タイチン系心筋症及び他のタイチノパチーを治療するために使用され得る、ゲノム編集によってタイチン遺伝子内の1つ以上の変異を修正すること、及びタイチンタンパク質活性を回復させることによってゲノムにおける恒久的な変化を作成するためのエクスビボ及びインビボ方法、ならびにかかる方法を実施するための構成要素、キット、及び組成物、ならびにそれらによって生成される細胞が、本明細書に提供される。
【0011】
1つの態様では、ゲノム編集によってヒト細胞内のタイチン遺伝子を編集するための方法であって、該細胞に1つ以上のデオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼを導入して、該タイチン遺伝子内の1つ以上の変異の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす該タイチン遺伝子内の1つ以上の二本鎖切断(DSB)を達成することを含む方法が、本明細書に提供される。
【0012】
いくつかの実施形態では、本明細書に提供される方法は、タイチン系心筋症または他のタイチノパチーを有する患者を治療するためのエクスビボ方法であって、該患者の心臓の生検を実施するステップと、内因性心臓幹細胞(eCSC)または初代心筋細胞が挙げられるがこれらに限定されない心臓前駆細胞を単離するステップと、該eCSCまたは初代心筋細胞のタイチン遺伝子を編集するステップと、該eCSCまたは初代心筋細胞を該患者にインプラントするステップと、を含む方法である。
【0013】
いくつかの実施形態では、eCSCまたは初代心筋細胞を単離するステップは、消化酵素を用いた新鮮な心臓組織のかん流、細胞分画遠心法、及び細胞培養を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、eCSCまたは初代心筋細胞のタイチン遺伝子を編集するステップは、該前駆細胞または初代心筋細胞に1つ以上のデオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼを導入して、該タイチン遺伝子内の1つ以上の変異の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす該タイチン遺伝子内の1つ以上の二本鎖切断(DSB)を達成することを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、eCSCまたは初代心筋細胞を患者にインプラントするステップは、eCSCまたは初代心筋細胞を局所注射または全身注入によって患者にインプラントすることを含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、タイチン系心筋症及び/または他のタイチノパチーを有する患者を治療するためのインビボ方法であって、該患者の細胞内のタイチン遺伝子を編集するステップを含む方法が、本明細書に提供される。
【0017】
いくつかの実施形態では、インビボで患者の細胞内のタイチン遺伝子を編集するステップは、該細胞に1つ以上のデオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼを導入して、該タイチン遺伝子内の1つ以上の変異の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす該タイチン遺伝子内の1つ以上の二本鎖切断(DSB)を達成することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼは、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1及びCsx12としても知られる)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、もしくはCpf1エンドヌクレアーゼ、またはそれらの種ホモログ、コドン最適化された、もしくは修飾されたバージョンである。
【0019】
いくつかの実施形態では、DNAエンドヌクレアーゼは、Cas9エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、黄色ブドウ球菌Cas9エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cas9エンドヌクレアーゼは、黄色ブドウ球菌Cas9エンドヌクレアーゼと少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含み、HNHドメインにわたって少なくとも90%、95%、または98%の同一性を、及びRuvCドメインに対して少なくとも90%、95%、または98%の同一性を保持する。いくつかの実施形態では、DNAエンドヌクレアーゼは、Cpf1エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cpf1エンドヌクレアーゼは、アシダミノコッカスsp.BV3L6 Cpf1エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cpf1エンドヌクレアーゼは、ラクノスピラ科細菌ND2006 Cpf1エンドヌクレアーゼである。いくつかの実施形態では、Cpf1エンドヌクレアーゼは、アシダミノコッカスsp.BV3L6またはラクノスピラ科細菌ND2006エンドヌクレアーゼと少なくとも50%同一であるアミノ酸配列を含み、RuvCドメインに対して少なくとも90%、95%、または98%の同一性を保持する。
【0020】
いくつかの実施形態では、本方法は、細胞に、DNAエンドヌクレアーゼをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを導入することを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、細胞に、DNAエンドヌクレアーゼをコードする1つ以上のリボ核酸(RNA)を導入することを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリヌクレオチドまたは1つ以上のRNAは、修飾されたポリヌクレオチドまたはRNAであり、任意に、修飾された主鎖、糖部分、ヌクレオシド間連結、及び修飾されたまたはユニバーサルな塩基を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、本方法は、細胞に1つ以上のガイドリボ核酸(gRNA)を導入することを更に含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のgRNAは、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である。いくつかの実施形態では、1つ以上のgRNA、または1つ以上のsgRNAは、修飾されたRNAであり、任意に、修飾された主鎖、糖部分、ヌクレオシド間連結、及び修飾されたまたはユニバーサルな塩基を含む。
【0022】
いくつかの実施形態では、1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼは、1つ以上のgRNAまたはsgRNAと予備複合体化される。
【0023】
いくつかの実施形態では、本方法は、細胞に、野生型タイチン遺伝子またはcDNAの一部を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートを導入することをさらに含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、本方法は、細胞に、1つのガイドリボ核酸(gRNA)と、野生型タイチン遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートとを導入することをさらに含み、該1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼは、該タイチン遺伝子内のDSB遺伝子座における1つの二本鎖切断(DSB)であって、該DSB遺伝子座における染色体DNA内への、該DSB遺伝子座に近位の該タイチン遺伝子の該染色体DNAの一部の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす該ポリヌクレオチドドナーテンプレートからの新たな配列の挿入を促進する、1つの二本鎖切断(DSB)を達成する、1つ以上のCas9エンドヌクレアーゼであり、該gRNAは、該DSB遺伝子座のセグメントに相補的であるスペーサー配列を含む。いくつかの実施形態では、近位は、DSB遺伝子座の上流と下流との両方のヌクレオチドを意味する。
【0025】
いくつかの実施形態では、本方法は、細胞に、2つのガイドリボ核酸(gRNA)と、野生型タイチン遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートとを導入することをさらに含み、該1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼは、該タイチン遺伝子内の一対の二本鎖切断(DSB)であって、第1のものが5’DSB遺伝子座に、及び第2のものが3’DSB遺伝子座にあり、該5’DSB遺伝子座と該3’DSB遺伝子座との間の染色体DNA内への、該タイチン遺伝子内の該5’DSB遺伝子座と該3’DSB遺伝子座との間の該染色体DNAの恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらすポリヌクレオチドドナーテンプレートからの新たな配列の挿入を促進する、一対の二本鎖切断(DSB)を達成する2つ以上Cas9エンドヌクレアーゼであり、該第1のガイドRNAは、該5’DSB遺伝子座のセグメントに相補的なスペーサー配列を含み、該第2のガイドRNAは、該3’DSB遺伝子座のセグメントに相補的なスペーサー配列を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、1つまたは2つのgRNAは、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である。いくつかの実施形態では、1つもしくは2つのgRNAまたは1つもしくはsgRNAは、修飾されたgRNAまたは修飾されたsgRNAであり、任意に、修飾された主鎖、糖部分、ヌクレオシド間連結、及び修飾されたまたはユニバーサルな塩基を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼは、1つまたは2つのgRNAまたはsgRNAと予備複合体化される。
【0028】
いくつかの実施形態では、DSBは、タイチン遺伝子のタイチンエクソン219、タイチンエクソン242、もしくはタイチンエクソン内にあり、または5’DSB及び3’DSBが、それぞれ、イントロン218及びイントロン219内にあるか、もしくはそれぞれイントロン325及びイントロン327内にある。
【0029】
いくつかの実施形態では、gRNAまたはsgRNAは、以下の病理学的変異体のうちの1つ以上に指向される:c.32854G>C、c.37112G>A、及びc4362insAT。
【0030】
いくつかの実施形態では、修正は、相同指向修復(HDR)による。
【0031】
いくつかの実施形態では、Cas9 mRNA、gRNA、及びドナーテンプレートは、各々別々に脂質ナノ粒子に製剤化されるか、またはすべて脂質ナノ粒子に共製剤化されるかのいずれかである。いくつかの実施形態では、送達は、局所注射または全身注入による。
【0032】
いくつかの実施形態では、Cas9 mRNAは、脂質ナノ粒子に製剤化され、gRNA及びドナーテンプレートの両方は、アデノ随伴ウイルス(AAV)によって送達される。いくつかの実施形態では、送達は、局所注射または全身注入による。
【0033】
いくつかの実施形態では、タイチン遺伝子は、染色体2q31上に位置する(ゲノムリファレンスコンソーシアム-GRCh38/hg38)。
【0034】
別の態様では、タイチン系心筋症またはタイチノパチーを有する患者に由来する細胞内のタイチン遺伝子を編集するための図中のスペーサー配列からなる群から選択されるスペーサー配列を含む1つ以上のガイドリボ核酸(gRNA)が、本明細書に提供される。いくつかの実施形態では、1つ以上のgRNAは、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である。いくつかの実施形態では、1つ以上のgRNAまたはsgRNAは、修飾されたgRNAまたは修飾されたsgRNAであり、任意に、修飾された主鎖、糖部分、ヌクレオシド間連結、及び修飾されたまたはユニバーサルな塩基を含む。
【0035】
別の態様では、前述の方法によってタイチン遺伝子内の1つ以上の変異を恒久的に修正し、タイチンタンパク質活性を回復させるように修飾されている細胞が、本明細書に提供される。さらに、そのゲノムが前述の方法によって修飾されている細胞を患者に投与することによって、タイチン系心筋症及び/またはタイチノパチーを改善するための方法が、本明細書に提供される。
【0036】
種々の他の態様及び実施形態が、本明細書に説明及び例示される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
ゲノム編集によってヒト細胞内のタイチン遺伝子を編集するための方法であって、前記細胞に1つ以上のデオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼを導入して、前記タイチン遺伝子内の1つ以上の変異の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす前記タイチン遺伝子内の1つ以上の二本鎖切断(DSB)を達成することを含む、方法。
(項目2)
タイチン系心筋症または他のタイチノパチー(titinopathy)を有する患者を治療するためのエクスビボ方法であって、
i)前記患者の心臓の生検を実施するステップと、
ii)内因性心臓幹細胞(eCSC)または初代心筋細胞を単離するステップと、
iii)前記eCSCまたは初代心筋細胞のタイチン遺伝子を編集するステップと、
iv)前記ゲノム編集されたeCSCまたは初代心筋細胞を前記患者にインプラントするステップと、を含む、方法。
(項目3)
前記単離するステップが、消化酵素を用いた新鮮な心臓生検組織のかん流、細胞分画遠心法、及び細胞培養を含む、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記編集するステップが、前記eCSCまたは初代心筋細胞に1つ以上のデオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼを導入して、前記タイチン遺伝子内の1つ以上の変異の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす前記タイチン遺伝子内の1つ以上の二本鎖切断(DSB)を達成することを含む、項目2~3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記インプラントするステップが、前記ゲノム編集されたeCSCまたは初代心筋細胞を、局所注射または全身注入によって前記患者にインプラントすることを含む、項目2~4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
タイチン系心筋症または他のタイチノパチーを有する患者を治療するためのインビボ方法であって、前記患者の細胞内のタイチン遺伝子を編集するステップを含む、方法。
(項目7)
前記編集するステップが、前記細胞に1つ以上のデオキシリボ核酸(DNA)エンドヌクレアーゼを導入して、前記タイチン遺伝子内の1つ以上の変異の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす前記タイチン遺伝子内の1つ以上の二本鎖切断(DSB)を達成することを含む、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼが、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1及びCsx12としても知られる)、Cas100、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、もしくはCpf1エンドヌクレアーゼ、またはそれらのホモログ、コドン最適化された、もしくは修飾されたバージョンである、項目1、2、または6に記載の方法。
(項目9)
前記細胞に、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする1つ以上のポリヌクレオチドを導入することを含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記細胞に、前記DNAエンドヌクレアーゼをコードする1つ以上のリボ核酸(RNA)を導入することを含む、項目8に記載の方法。
(項目11)
前記1つ以上のポリヌクレオチドまたは1つ以上のRNAが、修飾されたポリヌクレオチドまたはRNAである、項目9または10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
前記細胞に1つ以上のガイドリボ核酸(gRNA)を導入することをさらに含む、項目1~11のいずれか一項に記載の方法。
(項目13)
前記1つ以上のgRNAが、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記1つ以上のgRNAまたは1つ以上のsgRNAが、修飾されたgRNAまたは修飾されたsgRNAである、項目12または13に記載の方法。
(項目15)
前記1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼが、1つ以上のgRNAまたはsgRNAと予備複合体化される、項目12~14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記細胞に、野生型タイチン遺伝子またはcDNAの一部を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートを導入することをさらに含む、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記野生型タイチン遺伝子またはcDNAの前記一部が、前記タイチン遺伝子またはcDNA全体である、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記方法が、前記細胞に、1つのガイドリボ核酸(gRNA)と、前記野生型タイチン遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートとを導入することをさらに含み、前記1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼが、前記タイチン遺伝子内のDSB遺伝子座における1つの二本鎖切断(DSB)であって、前記DSB遺伝子座における染色体DNA内への、前記DSB遺伝子座に近位の前記タイチン遺伝子の前記染色体DNAの一部の恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす前記ポリヌクレオチドドナーテンプレートからの新たな配列の挿入を促進する、1つの二本鎖切断(DSB)を達成する1つ以上のCas9エンドヌクレアーゼであり、前記gRNAが、前記DSB遺伝子座のセグメントに相補的であるスペーサー配列を含む、項目1、2、または6に記載の方法。
(項目19)
近位が、前記DSB遺伝子座の上流と下流との両方のヌクレオチドを意味する、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記細胞に、2つのガイドリボ核酸(gRNA)と、前記野生型タイチン遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドドナーテンプレートとを導入することをさらに含み、前記1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼが、前記タイチン遺伝子内の1対の二本鎖切断(DSB)であって、第1のものが5’DSB遺伝子座に、及び第2のものが3’DSB遺伝子座にあり、前記5’DSB遺伝子座と前記3’DSB遺伝子座との間の染色体DNA内への、前記タイチン遺伝子内の前記5’DSB遺伝子座と前記3’DSB遺伝子座との間の前記染色体DNAの恒久的な修正とタイチンタンパク質活性の回復とをもたらす前記ポリヌクレオチドドナーテンプレートからの新たな配列の挿入を促進する、1対の二本鎖切断(DSB)を達成する2つ以上のCas9エンドヌクレアーゼであり、前記第1のガイドRNAが、前記5’DSB遺伝子座のセグメントに相補的なスペーサー並列を含み、前記第2のガイドRNAが、前記3’DSB遺伝子座のセグメントに相補的なスペーサー配列を含む、項目1、2、または6に記載の方法。
(項目21)
前記1つまたは2つのgRNAが、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である、項目18~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記1つもしくは2つのgRNAまたは1つもしくは2つのsgRNAが、修飾されたgRNAまたはsgRNAである、項目18~21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
前記1つ以上のDNAエンドヌクレアーゼが、1つまたは2つのgRNAまたはsgRNAと予備複合体化される、項目18~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記野生型タイチン遺伝子またはcDNAの前記一部が、前記タイチン遺伝子またはcDNA全体である、項目18~23のいずれか一項に記載の方法。
(項目25)
前記DSB、または5’DSB及び3’DSBが、前記タイチン遺伝子のエクソン219、イントロン242、またはエクソン219及びイントロン242の両方にある、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記gRNAまたはsgRNAが、以下の病理学的変異体:c.32854G>C、c.37112G>A、c.43628insAT、p.EE3359 W33362delinsVKEK、c.62890delG、タイチンのPEVK領域内に位置するエクソン112~225内に位置する変異、エクソン48(Novek 3アイソフォーム)内の変異、及び心臓N2Bアイソフォーム内の変異、のうちの1つ以上に指向される、項目1、2、または6に記載の方法。
(項目27)
前記修正が、相同指向修復(HDR)による、項目1、2、または6に記載の方法。
(項目28)
前記Cas9 mRNA、gRNA、及びドナーテンプレートが、各々別々に脂質ナノ粒子に製剤化されるか、またはすべて脂質ナノ粒子に共製剤化されるかのいずれかである、項目1、2、または6に記載の方法。
(項目29)
前記Cas9 mRNAが、脂質ナノ粒子に製剤化され、前記gRNA及びドナーテンプレートの両方が、アデノ随伴ウイルス(AAV)によって送達される、項目1、2、または6に記載の方法。
(項目30)
前記タイチン遺伝子が、染色体2q31(ゲノムリファレンスコンソーシアム-GRCh38/hg38)上に位置する、項目1~29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
心筋ミオパチーまたは他のタイチノパチーを有する患者に由来する細胞内のタイチン遺伝子を編集するための図中の配列からなる群から選択されるスペーサー配列を含む1つ以上のガイドリボ核酸(gRNA)。
(項目32)
前記1つ以上のgRNAが、単一分子ガイドRNA(sgRNA)である、項目32に記載の1つ以上のgRNA。
(項目33)
前記1つ以上のgRNAまたはsgRNAが、修飾されたgRNAまたはsgRNAである、項目31または32に記載の1つ以上のgRNAまたはsgRNA。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】
図2は、選択されたPAM、及び選択されたタイチンDNA標的配列に相補的な(各gRNAの)21bpスペーサー配列を示す。
【
図5】
図5は、PCR生成物を、0.7%のエチジウムブロマイド染色したアガロースゲル上で走らせた結果を示す。
【
図6】
図6は、選択されたPAM、及び選択されたそれぞれのイントロンDNA標的配列に相補的な(各gRNAの)21bpスペーサー配列を示す。
【
図7】
図7は、エクソン219を欠失させるために、一対のsgRNAの一方または両方の構成部員において代替的に使用され得た21bpスペーサー配列を示す。
【
図8】
図8は、選択されたPAM、及び選択されたタイチンDNA標的配列に相補的な(各gRNAの)21bpスペーサー配列を示す。
【
図9】
図9は、選択される2つのPAMのセット(各イントロンに対して1セット)、及び選択されるそれぞれのイントロンDNA標的配列に相補的な(各gRNA)の21bpスペーサー配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
タイチノパチー
タイチノパチーは、タイチン遺伝子の両コピーを不活性化するホモ接合または複合ヘテロ接合変異に関与する状態である。
【0039】
タイチノパチーに関連付けられる種々の変異が存在し、それらは、ミスセンス、ナンセンス、フレームシフト、及び他の変異の組み合わせである。種々の変異は、遺伝子のエクソン全体にわたって分布される。一般的な変異としては、限定されるものではないが、c.32854G>C、c.37112G>A、c4362insAT、c.43628insAT、p.EE3359 W33362delinsVKEK(米国特許公開第2013/0171172 A1号)、c.62890delG、タイチンのPEVK領域内に位置するエクソン112~225内に位置する変異、エクソン48(Novek 3アイソフォーム)内の変異、及び心臓N2Bアイソフォーム内の変異が挙げられる。
【0040】
タイチン系ミオパチーは、タイチン遺伝子内の変異(複数可)が筋障害をもたらすタイチノパチーである。筋障害としては、限定されるものではないが、異常な筋疲労、筋力低下、筋肉の衰え、及び/または筋肉線維症のうちの少なくとも1つが挙げられる。いくつかの実施形態では、タイチン系ミオパチーは、タイチン系心筋症である。
【0041】
タイチン系ミオパチーとしては、限定されるものではないが、中心核ミオパチー、肢帯型筋ジストロフィー2J、拡張型心筋症、早期呼吸不全を伴う遺伝性ミオパチー、致死性心筋症を伴う早期発症型ミオパチー、肥大型心筋症、及び脛骨筋ジストロフィーが挙げられる。
【0042】
治療的アプローチ
タイチン遺伝子内の1つ以上の変異を修正すること、及びタイチンタンパク質活性を回復させることによって、ゲノム改変ツールを使用してゲノムに対する恒久的な変化を作成するためのエクスビボ及びインビボ方法が、本明細書に提供される。かかる方法は、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼなどのエンドヌクレアーゼを使用して、タイチン遺伝子のゲノム遺伝子座内の天然スプライシングまたは天然コーディング領域を恒久的に回復させる。
【0043】
タイチン系心筋症またはタイチノパチーを有する患者を治療するための方法が、本明細書に提供される。かかる方法の実施形態は、エクスビボの細胞系療法である。
【0044】
エクスビボの細胞系療法のいくつかの実施形態では、患者の心臓の生検が実施される。次に、eCSCまたは初代心筋細胞が、生検された材料から単離される。次に、eCSCまたは初代心筋細胞の染色体DNAが、本明細書に説明される材料及び方法を使用して修正される。最後に、ゲノム編集されたeCSCまたは初代心筋細胞が、患者にインプラントされる。
【0045】
かかる方法の別の実施形態は、インビボ系療法である。この方法では、患者内の細胞の染色体DNAが、本明細書に説明される材料及び方法を使用して修正される。
【0046】
インビボ遺伝子療法の利点は、治療薬の生成及び投与の容易さである。同一の治療的アプローチ及び療法は、例えば、同一または類似の遺伝子型または対立遺伝子を共有する多数の患者等の複数の患者を治療するために使用される可能性を有する。対照的に、エクスビボ細胞療法は、典型的には患者自身の細胞の使用を必要とし、その細胞は、単離され、操作され、同一の患者に戻される。
【0047】
本発明の方法は、エクスビボ方法かインビボ方法かにかかわらず、遺伝子内の1つ以上の特定の変異を修正することか、または外因性タイチンcDNA配列もしくはその断片を遺伝子の遺伝子座内に、もしくはゲノム内の非相同の場所(AAVS1等のセーフハーバー部位等)に導入することかのいずれかを含む。修正及びノックイン戦略のどちらも、相同指向修復(HDR)においてドナーDNAテンプレートを利用する。いずれかの戦略におけるHDRは、1つ以上のエンドヌクレアーゼを使用することによってゲノム内の特定の部位において1つ以上の二本鎖切断(DSB)を作成することによって、達成され得る。
【0048】
例えば、修正戦略は、外から導入されるドナーDNAテンプレートの存在下で、Cas9及びsgRNAを用いて関心の遺伝子内に1つの二本鎖切断を誘導するか、または2つ以上の適切なsgRNAを使用して関心の遺伝子内に2つ以上の二本鎖切断を誘導して、細胞DSB応答を相同指向修復に指向することによって、遺伝子内の特定の変異を修正することを含む(ドナーDNAテンプレートは、短い一本鎖オリゴヌクレオチド、短い二本鎖オリゴヌクレオチド、長い一本鎖または二本鎖DNA分子であり得る)。このアプローチは、タイチン遺伝子のすべての主要な変異体に関するgRNA及びドナーDNA分子の開発及び最適化を必要とする。
【0049】
例えば、ノックイン戦略は、タイチン遺伝子の上流、またはそのエクソン及び/もしくはイントロン内、あるいはセーフハーバー部位(AAVS1等)内を標的化するsgRNAまたは一対のsgRNAを使用して、野生型タイチンcDNAを遺伝子の遺伝子座内にノックインすることを含む。ドナーDNAは、挿入領域に対する相同アームを有する一本鎖または二本鎖DNAであろう。
【0050】
両戦略(修正及びノックイン)の利点は類似しており、原則として、短期及び長期の両方の有益な臨床及び実験室効果が挙げられる。それに加えて、治療的利益を提供するために低割合のタイチン活性しか必要とされないことがあり得る。両戦略の別の利点は、大部分の患者が低レベルの遺伝子及びタンパク質活性を有し、したがって、例えば、遺伝子修正の後の追加的なタンパク質発現が、標的遺伝子生成物に対する免疫応答を必ずしも導くわけではないことを示唆しているということである。ノックインアプローチは、一部の患者のみと比較してすべての患者を治療する能力という、修正アプローチを上回る1つの利点を提供する。この遺伝子内に共通の変異はあるが、多数の他の可能な変異も存在しており、ノックイン方法の使用はこれらすべてを治療し得る。
【0051】
別法として、ノックアウト戦略は、変異を有するタイチン遺伝子のエクソン(複数可)をノックアウトして、フレームシフトにリーディングフレームを修正させ、タイチンタンパク質を救済させることを含む。この戦略は、gRNAまたはgRNA対を利用して、変異を伴うエクソンを切除する(またはエクソンを「スキップ」する)。この戦略では、ドナーDNAテンプレートは利用されない。
【0052】
ヒト細胞
本明細書に説明及び例証されるようなタイチン系心筋症及び/またはタイチノパチーを改善するために、ゲノム編集の主な標的は、ヒト細胞である。
【0053】
ゲノム編集を必要とする患者に由来し、したがって該患者と既に完全に適合されている自己細胞内でゲノム編集を実施することによって、患者に安全に再導入され得る細胞を発生させ、患者の疾患に関連付けられる1つ以上の臨床状態の改善に効果的であろう細胞集団を効果的に生じさせることが可能である。
【0054】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集されたヒト細胞は、骨格筋前駆細胞である。いくつかの実施形態では、ゲノム編集されたヒト細胞は、骨格筋細胞である。
【0055】
いくつかの実施形態では、ゲノム編集されたヒト細胞は、内因性心臓幹細胞(eCSCs)である[同定:Torellaら、Cellular Molecular Life Science.2007,64:661-673及びBearziら、Proc Natl Acad Sci U S A.2007;104:14068-14073;eCSCを含む前駆細胞の種類:Sanganalmath and Bolli,Circulation Research.2013;113:810-834;心臓生検からのeCSCの単離:D’Amarioら、Circ Res.2011;108:857-861]。いくつかの実施形態では、ゲノム編集されたヒト細胞は、初代心筋細胞である。いくつかの実施形態では、ゲノム編集されたヒト細胞は、心筋細胞である。
【0056】
生検の実施
生検は、身体から採取される組織の標本である。生検は、当該技術分野における既知の方法のいずれかに従って実施され得る。例えば、心臓の細胞を捕捉するために針が心臓に挿入される。
【0057】
eCSCまたは初代心筋細胞の単離
eCSC及び初代心筋細胞は、当該技術分野における任意の既知の方法に従って単離され得る。
【0058】
ゲノム編集
ゲノム編集は概して、好ましくは正確なまたは所定の様式で、ゲノムのヌクレオチド配列を修飾するプロセスを指す。本明細書に説明されるゲノム編集の方法の例は、部位指向性ヌクレアーゼを使用して、ゲノム内の正確な標的場所においてデオキシリボ核酸(DNA)を切断し、それによってゲノム内の特定の場所において二本鎖または一本鎖DNA切断を作成する方法を含む。かかる切断は、Coxら、Nature Medicine 21(2),121-31(2015)において近年考察されている通り、相同指向修復(HDR)及び非相同末端結合(NHEJ)等の天然の内因性細胞プロセスによって修復され得、また通常それらによって修復される。NHEJは、ヌクレオチド配列の損失または追加を有することもある二本鎖切断から生じるDNA末端に直接結合し、それは、遺伝子発現を破壊または強化し得る。HDRは、切断点において定義されたDNA配列をを挿入するためのテンプレートとして、相同配列、またはドナー配列を利用する。相同配列は、姉妹染色分体等の内因性ゲノム内にあってもよい。別法として、ドナーは、ヌクレアーゼ開裂遺伝子座と高相同性の領域を有するが、開裂された標的遺伝子座内に組み込まれ得る追加的な配列または欠失を含む配列変化も含有し得る外因性核酸、例えば、プラスミド、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド、二重鎖オリゴヌクレオチドまたはウイルスであってもよい。第3の修復機構は、「代替NHEJ」とも称されるマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)であり、その遺伝的結果は、小さい欠失及び挿入が開裂部位において生じ得るという点でNHEJに類似している。MMEJは、DNA切断部位に隣接するいくつかの塩基対の相同配列を使用してより好ましいDNA末端結合修復結果を導き、近年の報告は、このプロセスの分子機構をさらに解明している;例えば、Cho and Greenberg,Nature 518,174-76(2015);Kentら、Nature Structural and Molecular Biology,Adv.Online doi:10.1038/nsmb.2961(2015);Mateos-Gomezら、Nature 518,254-57(2015);Ceccaldiら、Nature 528,258-62(2015)を参照されたい。場合により、DNA切断の部位における潜在的なマイクロホモロジーの分析に基づき、起こり得る修復結果を予測することが可能であり得る。
【0059】
これらのゲノム編集機構の各々は、所望のゲノム変化を作成するために使用され得る。ゲノム編集プロセスにおけるステップは、意図される変異の部位の可能な限り近くの標的遺伝子座内に1つまたは2つのDNA切断を作成することであり、後者は二本鎖切断または2つの一本鎖切断として作成される。これは、本明細書に説明及び例証される通り、部位指向性ポリペプチドの使用を介して達成され得る。
【0060】
部位指向性ポリペプチド、例えば、DNAエンドヌクレアーゼ等は、例えば、ゲノムDNA等の核酸内に二本鎖切断または一本鎖切断を導入し得る。二本鎖切断は、細胞の内因性DNA修復経路(例えば、相同性依存性修復または非相同末端結合または代替非相同末端結合(A-NHEJ)またはマイクロホモロジー媒介末端結合)を刺激し得る。NHEJは、相同テンプレートを必要とすることなく開裂した標的核酸を修復し得る。これは、開裂部位における標的核酸内に小さな欠失または挿入(インデル)をもたらし得る場合があり、遺伝子発現の破壊または変化を導き得る。HDRは、相同修復テンプレート、またはドナーが利用可能である場合に生じ得る。相同ドナーテンプレートは、標的核酸開裂部位に隣接する配列に相同である配列を含む。姉妹染色分体は、概して、修復テンプレートとして細胞によって使用される。しかしながら、ゲノム編集の目的のために、修復テンプレートは、プラスミド、二重鎖オリゴヌクレオチド、一本鎖オリゴヌクレオチド、二本鎖オリゴヌクレオチド、またはウイルス核酸等の外因性核酸として供給されることが多い。外因性ドナーテンプレートを用いて、隣接する相同領域間に追加的な核酸配列(トランス遺伝子等)または修飾(単一または複数の塩基変化または欠失等)を導入して、その追加的なまたは変化された核酸配列も標的遺伝子座内に組み込まれるようにすることが一般的である。MMEJは、小さな欠失及び挿入が開裂部位に生じ得るという点でNHEJに類似した遺伝的結果をもたらす。MMEJは、開裂部位に隣接するいくつかの塩基対の相同配列を使用して、好ましい末端結合DNA修復結果を導く。場合により、ヌクレアーゼ標的領域における潜在的なマイクロホモロジーの分析に基づき、起こり得る修復結果を予測することが可能であり得る。
【0061】
したがって、場合により、相同の組み換えは、標的核酸開裂部位に外因性ポリヌクレオチド配列を挿入するために使用される。外因性ポリヌクレオチド配列は、本明細書では、ドナーポリヌクレオチド(またはドナーまたはドナー配列またはポリヌクレオチドドナーテンプレート)と呼ばれる。いくつかの実施形態では、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部分、ドナーポリヌクレオチドのコピー、またはドナーポリヌクレオチドのコピーの一部分が、標的核酸開裂部位に挿入される。いくつかの実施形態では、ドナーポリヌクレオチドは、外因性ポリヌクレオチド配列、すなわち、標的核酸開裂部位において天然には発生しない配列である。
【0062】
NHEJ及び/またはHDRによる標的DNAの修飾は、例えば、変異、欠失、変化、統合(integration)、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子タグ付け、トランス遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子破壊、転座、及び/または遺伝子変異を導き得る。ゲノムDNAの欠失及び非天然核酸のゲノムDNAへの統合のプロセスは、ゲノム編集の例である。
【0063】
ゲノム改変システム、例えば、ZFN、TALEN、HE、及びMegaTAL等は、DNAの特定のエリアが修飾されることを可能にする。さらにより最近では、CRISPR/Casシステムが説明されている。
【0064】
CRISPRエンドヌクレアーゼシステム
CRISPR(クラスター化された、規則的に間隔が空いた短い回文型反復)ゲノム遺伝子座は、多くの原核生物(例えば、細菌及び古細菌)のゲノム内に見出され得る。原核生物において、CRISPR遺伝子座は、ウイルス及びファージ等の外来侵入者から原核生物を防御するのに役立つような免疫系の種類として機能する生成物をコードする。CRISPR遺伝子座機能の3つの段階が存在する:遺伝子座内への新たな配列の統合、CRISPR RNA(crRNA)の生合成、及び外来侵入者核酸のサイレンシングである。5つの種類のCRISPRシステム(例えば、I型、II型、III型、U型、及びV型)が特定されている。
【0065】
CRISPR遺伝子座は、「反復(repeat)」と称される多数の短い反復する配列を含む。反復は、ヘアピン構造を形成し得る、及び/または構造化されていない一本鎖配列を含み得る。反復は通常、群で発生し、種間で異なることが多い。反復は、「スペーサー」と称される固有の介在配列によって規則的に間隔が空けられ、反復-スペーサー-反復の遺伝子座アーキテクチャをもたらす。スペーサーは、既知の外来侵入者の配列と同一であるか、またはそれと高い相同性を有する。スペーサー反復単位は、crisprRNA(crRNA)をコードし、それは、スペーサー-反復単位の成熟した形態に処理される。crRNAは、標的核酸の標的化に関わる「シード」またはスペーサー配列を含む(原核生物における天然に発生する形態で、スペーサー配列は、外来侵入者核酸を標的化する)。スペーサー配列は、crRNAの5’または3’末端に位置する。
【0066】
CRISPR遺伝子座はまた、CRISPR関連(Cas)遺伝子をコードするポリヌクレオチド配列を含む。Cas遺伝子は、原核生物における生合成及びcrRNA機能の干渉段階に関わるエンドヌクレアーゼをコードする。いくつかのCas遺伝子は、相同の二次及び/または三次構造を含む。
【0067】
II型CRISPRシステム
天然のII型CRISPRシステムにおけるcrRNA生合成は、トランス活性化CRISPR RNA(tracrRNA)を必要とする。tracrRNAは、内因性RNaseIIIによって修飾され、次にpre-crRNAアレイにおいてcrRNA反復にハイブリダイズする。内因性RNaseIIIは、pre-crRNAを開裂するために動員される。開裂されたcrRNAは、エキソリボヌクレアーゼトリミングに供され、成熟したcrRNA形態を生成する(例えば、5’トリミング)。tracrRNAは、crRNAにハイブリダイズされたままであり、tracrRNA及びcrRNAは、部位指向性ポリペプチド(例えば、Cas9)と会合する。crRNA-tracrRNA-Cas9複合体のcrRNAは、crRNAがハイブリダイズし得る標的核酸へと複合体をガイドする。標的核酸へのcrRNAのハイブリダイゼーションは、標的化された核酸開裂に関してCas9を活性化する。II型CRISPRシステム内の標的核酸は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と称される。本来、PAMは、部位指向性ポリペプチド(例えば、Cas9)の標的核酸への結合を促進するために不可欠である。II型システム(NmeniまたはCASS4とも称される)は、II-A型(CASS4)及びII-B型(CASS4a)にさらに下位分類される。Jinekら、Science,337(6096):816-821(2012)は、CRISPR/Cas9システムがRNAプログラム可能ゲノム編集にとって有用であることを示しており、国際特許出願公開第WO2013/176772は、部位特異的なゲノム編集のためのCRISPR/Casエンドヌクレアーゼシステムの多数の例及び用途を提供している。
【0068】
V型CRISPRシステム
V型CRISPRシステムは、いくつかの重要な点でII型システムとは異なる。例えば、Cpf1は、II型システムとは対照的に、tracrRNAを欠く単一RNAガイドエンドヌクレアーゼである。Zetscheら、Cell,163:1-13(2015)。実際、Cpf1関連CRISPRアレイは、追加的なトランス活性化tracrRNAを必要とすることなく成熟crRNASに処理される。V型CRISPRアレイは、42~44ヌクレオチドの長さの短い成熟crRNAに処理され、各成熟crRNAは、19ヌクレオチドの直接反復から開始し、23~25ヌクレオチドのスペーサー配列が続く。対照的に、II型システムにおける成熟crRNAは、20~24ヌクレオチドのスペーサー配列から開始し、約22ヌクレオチドの直接反復が続く。また、Cpf1は、Tリッチプロトスペーサー隣接モチーフを利用し、その結果、Cpf1-crRNA複合体が、短いTリッチPAMが先行する標的DNAを効率的に開裂し、これは、II型システムに関する標的DNAが先行するGリッチPAMとは対照的である。したがって、V型システムは、PAMから離れた点にて開裂し、一方II型システムは、PAMに隣接する点にて開裂する。それに加えて、II型システムとは対照的に、Cpf1は、4または5ヌクレオチド5’突出を有するねじれ型(staggered)DNA二本鎖切断を介してDNAを開裂する。II型システムは、平滑な二本鎖切断を介して開裂する。II型システムと同様に、Cpf1は、予測されるRuvC様エンドヌクレアーゼドメインを含むが、第2のHNHエンドヌクレアーゼドメインを欠き、これは、II型システムとは対照的である。
【0069】
Cas遺伝子/ポリペプチド及びプロトスペーサー隣接モチーフ
例示的なCRISPR/Casポリペプチドとしては、Fonfaraら、Nucleic Acids Research,42:2577-2590(2014)の
図1のCas9ポリペプチドが挙げられる。CRISPR/Cas遺伝子命名システムは、Cas遺伝子が発見されてから広範囲に書き換えられている。Fonfara(上記参照)の
図5は、種々の種に由来するCas9ポリペプチドに関するPAM配列を提供している。
【0070】
部位指向性ポリペプチド
部位指向性ポリペプチドは、DNAを開裂するためにゲノム編集において使用されるヌクレアーゼである。部位指向性は、1つ以上のポリペプチドか、または該ポリペプチドをコードする1つ以上のmRNAかのいずれかとして細胞または患者に投与され得る。
【0071】
CRISPR/CasまたはCRISPR/Cpf1システムの文脈において、部位指向性ポリペプチドは、ガイドRNAに結合し得、次に、該ガイドRNAは、ポリペプチドが指向される標的DNA内の部位を特定する。本明細書におけるCRISPR/CasまたはCRISPR/Cpf1システムの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、DNAエンドヌクレアーゼ等のエンドヌクレアーゼである。
【0072】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、複数の核酸開裂(すなわち、ヌクレアーゼ)ドメインを含む。2つ以上の核酸開裂ドメインは、リンカーを介して一緒に連結され得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、可動性リンカーを含む。リンカーは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30、35、40以上のアミノ酸の長さを有してもよい。
【0073】
天然に発生する野生型Cas9酵素は、2つのヌクレアーゼドメイン、HNHヌクレアーゼドメイン及びRuvCドメインを含む。本明細書において、「Cas9」は、天然に発生するCas9及び組み換えCas9の両方を指す。本明細書で企図されるCas9酵素は、HNHもしくはHNH様ヌクレアーゼドメイン、及び/またはRuvCもしくはRuvC様ヌクレアーゼドメインを含む。
【0074】
HNHまたはHNH様ドメインは、McrA様折り畳みを含む。HNHまたはHNH様ドメインは、2つの逆平行β鎖及びα-らせんを含む。HNHまたはHNH様ドメインは、金属結合部位(例えば、二価カチオン結合部位)を含む。HNHまたはHNH様ドメインは、標的核酸の1つの鎖(例えば、crRNAによって標的化される鎖の相補鎖)を開裂し得る。
【0075】
RuvCまたはRuvC様ドメインは、RNaseHまたはRNaseH様折り畳みを含む。RuvC/RNaseHドメインは、RNAに対する作用及びDNAに対する作用の両方を含む、多様な核酸に基づいた機能のセットに関わる。RNaseHドメインは、複数のα-らせんに囲まれる5つのβ鎖を含む。RuvC/RNaseHまたはRuvC/RNaseH様ドメインは、金属結合部位(例えば、二価カチオン結合部位)を含む。RuvC/RNaseHまたはRuvC/RNaseH様ドメインは、標的核酸の1つの鎖(例えば、二本鎖標的DNAの非相補鎖)を開裂し得る。
【0076】
部位指向性ポリペプチドは、例えば、ゲノムDNA等の核酸内に二本鎖切断または一本鎖切断を導入し得る。二本鎖切断は、細胞の内因性DNA修復経路(例えば、相同性依存性修復(HDR)または非相同末端結合(NHEJ)または代替非相同末端結合(A-NHEJ)またはマイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ))を刺激し得る。NHEJは、相同テンプレートを必要とすることなく開裂した標的核酸を修復し得る。これは、開裂部位における標的核酸内に小さな欠失または挿入(インデル)をもたらし得る場合があり、遺伝子発現の破壊または変化を導き得る。HDRは、相同修復テンプレート、またはドナーが利用可能である場合に生じ得る。相同ドナーテンプレートは、標的核酸開裂部位に隣接する配列に相同である配列を含む。姉妹染色分体は、概して、修復テンプレートとして細胞によって使用される。しかしながら、ゲノム編集の目的のために、修復テンプレートは、プラスミド、二重鎖オリゴヌクレオチド、一本鎖オリゴヌクレオチド、またはウイルス核酸等の外因性核酸として供給されることが多い。外因性ドナーテンプレートを用いて、隣接する相同領域間に追加的な核酸配列(トランス遺伝子等)または修飾(単一または複数の塩基変化または欠失等)を導入して、その追加的なまたは変化された核酸配列も標的遺伝子座内に組み込まれるようにすることが一般的である。MMEJは、小さな欠失及び挿入が開裂部位に生じ得るという点でNHEJに類似した遺伝的結果をもたらす。MMEJは、開裂部位に隣接するいくつかの塩基対の相同配列を使用して、好ましい末端結合DNA修復結果を導く。場合により、ヌクレアーゼ標的領域における潜在的なマイクロホモロジーの分析に基づき、起こり得る修復結果を予測することが可能であり得る。
【0077】
したがって、場合により、相同の組み換えは、標的核酸開裂部位に外因性ポリヌクレオチド配列を挿入するために使用される。外因性ポリヌクレオチド配列は、本明細書では、ドナーポリヌクレオチド(またはドナーまたはドナー配列)と呼ばれる。いくつかの実施形態では、ドナーポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチドの一部分、ドナーポリヌクレオチドのコピー、またはドナーポリヌクレオチドのコピーの一部分が、標的核酸開裂部位に挿入される。いくつかの実施形態では、ドナーポリヌクレオチドは、外因性ポリヌクレオチド配列、すなわち、標的核酸開裂部位において天然には発生しない配列である。
【0078】
NHEJ及び/またはHDRによる標的DNAの修飾は、例えば、変異、欠失、変化、統合(integration)、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子タグ付け、トランス遺伝子挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子破壊、転座、及び/または遺伝子変異を導き得る。ゲノムDNAの欠失及び非天然核酸のゲノムDNAへの統合のプロセスは、ゲノム編集の例である。
【0079】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型の例示的な部位指向性ポリペプチド[例えば、Ranら、Nature,520(7546):186-191(2015)に説明される黄色ブドウ球菌に由来するCas9、Zetscheら、Cell,163:1-13(2015)に説明されるアシダミノコッカスsp.BV3L6またはラクノスピラ科細菌ND2006エンドヌクレアーゼに由来するCpf1、及び種々の他の部位指向性ポリペプチド]に対して少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0080】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型の例示的な部位指向性ポリペプチドのヌクレアーゼドメインに対して少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0081】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型部位指向性ポリペプチドに対して10個の連続アミノ酸にわたり少なくとも70、75、80、85、90、95、97、99、または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型部位指向性ポリペプチドに対して10個の連続アミノ酸にわたり最大70、75、80、85、90、95、97、99、または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型部位指向性ポリペプチドに対して、該部位指向性ポリペプチドのHNHヌクレアーゼドメイン内の10個の連続アミノ酸にわたり少なくとも70、75、80、85、90、95、97、99、または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型部位指向性ポリペプチドに対して、該部位指向性ポリペプチドのHNHヌクレアーゼドメイン内の10個の連続アミノ酸にわたり最大70、75、80、85、90、95、97、99、または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型部位指向性ポリペプチドに対して、該部位指向性ポリペプチドのRuvCヌクレアーゼドメイン内の10個の連続アミノ酸にわたり少なくとも70、75、80、85、90、95、97、99、または100%の同一性を有する。いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、野生型部位指向性ポリペプチドに対して、該部位指向性ポリペプチドのRuvCヌクレアーゼドメイン内の10個の連続アミノ酸にわたり最大70、75、80、85、90、95、97、99、または100%の同一性を有する
【0082】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、修飾された形態の野生型の例示的な部位指向性ポリペプチドを含む。修飾された形態の野生型の例示的な部位指向性ポリペプチドは、部位指向性ポリペプチドの核酸開裂活性を低減する変異を含む。いくつかの実施形態では、修飾された形態の野生型の例示的な部位指向性ポリペプチドは、野生型の例示的な部位指向性ポリペプチドの核酸開裂活性の90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満を有する。修飾された形態の部位指向性ポリペプチドは、実質的な核酸開裂活性を有さなくてもよい。部位指向性ポリペプチドが実質的な核酸開裂活性を有さない修飾された形態であるとき、本明細書において「酵素的に不活性である」と称される。
【0083】
いくつかの実施形態では、修飾された形態の部位指向性ポリペプチドは、(例えば、二本鎖標的核酸の糖-ホスフェート主鎖のうちの1つのみを切断することによって)標的核酸上に一本鎖切断(SSB)を誘導し得るような変異を含む。いくつかの実施形態では、変異は、野生型部位指向性ポリペプチドの複数の核酸開裂ドメインのうちの1つ以上における核酸開裂活性の90%未満、80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、または1%未満をもたらす。いくつかの実施形態では、変異は、標的核酸の相補鎖を開裂する能力を保持するが、標的核酸の非相補鎖を開裂するその能力は低減する複数の核酸開裂ドメインのうちの1つ以上をもたらす。いくつかの実施形態では、変異は、標的核酸の非相補鎖を開裂する能力を保持するが、標的核酸の相補鎖を開裂するその能力を低減する複数の核酸開裂ドメインのうちの1つ以上をもたらす。当業者は、アラニン置換以外の変異が好適であることを認識するであろう。
【0084】
1つの実質的に不活性なヌクレアーゼドメインを含む部位指向性ポリペプチドは、「ニッカーゼ」と称される。
【0085】
Cas9のニッカーゼ変異体は、CRISPR媒介ゲノム編集の特異性を増加させるために使用され得る。野生型Cas9は、典型的には、標的配列内の指定される約20ヌクレオチドの配列(内因性ゲノム遺伝子座等)にハイブリダイズするように設計される単一ガイドRNAによってガイドされる。しかしながら、いくつかの不適合がガイドRNAと標的遺伝子座との間で許容され得、標的部位内の必要とされる相同性の長さを、例えば、わずか13ntの相同性に効果的に低減し、それによって、標的外(off-target)開裂としても知られる、標的ゲノム内の他の場所におけるCRISPR/Cas9複合体による結合及び二本鎖核酸開裂の上昇した潜在性をもたらす。Cas9のニッカーゼ変異体は各々1つの鎖のみを切断するため、二本鎖切断を作成するためには、一対のニッカーゼが、ごく接近して、及び標的核酸の反対側の鎖上で結合し、それによって二本鎖切断と等価である一対のニックを作成することが必要である。これは、2つの別々のガイドRNA(各ニッカーゼにつき1つ)が、ごく接近して、及び標的核酸の反対側の鎖上で結合すべきであることを必要とする。この要件は、二本鎖切断が生じるために必要な相同性の最小の長さを本質的に二倍にし、それによって、2つのガイドRNA部位(存在する場合)が互いに二本鎖切断が形成することを可能にするのに十分に接近する可能性が低いゲノム内の他の場所で、二本鎖開裂事象が生じる可能性を低減する。当該技術分野において説明される通り、ニッカーゼはまた、NHEJと比べてHDRを促進するために使用され得る。HDRは、所望の変化を効果的に媒介する特定のドナー配列の使用を通じて、ゲノム内の標的部位内に選択される変化を導入するために使用され得る。ゲノム編集における使用に関する種々のCRISPR/Casシステムの説明は、例えば、国際特許出願公開第WO2013/176772号;Ranら、上記参照、及びNature Biotechnology 32,347-355(2014)、ならびにそれらに引用される参考文献に見出され得る。
【0086】
企図される変異は、置換、付加、及び欠失、またはそれらの任意の組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、変異は、変異アミノ酸をアラニンに変換する。いくつかの実施形態では、変異は、変異アミノ酸を別のアミノ酸(例えば、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リジン、またはアルギニン)に変換する。いくつかの実施形態では、変異は、変異アミノ酸を非天然アミノ酸(例えば、セレノメチオニン)に変換する。いくつかの実施形態では、変異は、変異アミノ酸をアミノ酸ミミック(例えば、ホスホミミック)に変換する。いくつかの実施形態では、変異は、保存的変異である。例えば、変異は、変異アミノ酸を、変異アミノ酸のサイズ、形状、電荷、極性、立体配座、及び/または回転異性体に似たアミノ酸(例えば、システイン/セリン変異、リジン/アスパラギン変異、ヒスチジン/フェニルアラニン変異)に変換し得る。いくつかの実施形態では、変異は、リーディングフレーム内のシフト及び/または未成熟終止コドンの作成を引き起こす。いくつかの実施形態では、変異は、1つ以上の遺伝子の発現に影響する遺伝子または遺伝子座の調節領域の変化を引き起こす。
【0087】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチド(例えば、変異体、変異した、酵素的に不活性な、及び/または条件付きで酵素的に不活性な部位指向性ポリペプチド)は、核酸を標的化する。いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチド(例えば、変異体、変異した、酵素的に不活性な、及び/または条件付きで酵素的に不活性なエンドリボヌクレアーゼ)は、RNAを標的化する。
【0088】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、1つ以上の非天然配列を含む(例えば、部位指向性ポリペプチドは、融合タンパク質である)。
【0089】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌)に由来するCas9に対して少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、核酸結合ドメイン、及び2つの核酸開裂ドメイン(すなわち、HNHドメイン及びRuvCドメイン)を含む。
【0090】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌)に由来するCas9に対して少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、及び2つの核酸開裂ドメイン(すなわち、HNHドメイン及びRuvCドメイン)を含む。
【0091】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌)に由来するCas9に対して少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、及び2つの核酸開裂ドメインを含み、核酸開裂ドメインの一方または両方は、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌)に由来するCas9に由来するヌクレアーゼドメインに対して少なくとも50%のアミノ酸同一性を有する。
【0092】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌)に由来するCas9に対して少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、2つの核酸開裂ドメイン(すなわち、HNHドメイン及びRuvCドメイン)、及び部位指向性ポリペプチドを非天然配列に連結する非天然配列(例えば、核局在化シグナル)またはリンカーを含む。
【0093】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌)に由来するCas9に対して少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、2つの核酸開裂ドメイン(すなわち、HNHドメイン及びRuvCドメイン)を含み、部位指向性ポリペプチドは、該ヌクレアーゼドメインの開裂活性を少なくとも50%低減する核酸開裂ドメインの一方または両方における変異を含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドは、細菌(例えば、黄色ブドウ球菌)に由来するCas9に対して少なくとも15%のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列、及び2つの核酸開裂ドメイン(すなわち、HNHドメイン及びRuvCドメイン)を含み、該ヌクレアーゼドメインのうちの一方はアスパラギン酸10の変異を含む、及び/または該ヌクレアーゼドメインのうちの一方はヒスチジン840の変異を含み、該変異は、ヌクレアーゼドメイン(複数可)の開裂活性を少なくとも50%低減する。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態では、1つ以上の部位指向性ポリペプチド、例えば、DNAエンドヌクレアーゼは、ゲノム内の特定の遺伝子座における1つの二本鎖切断を共に達成する2つのニッカーゼ、またはゲノム内の特定の遺伝子座における2つの二本鎖切断を共に達成する4つのニッカーゼを含む。別法として、1つの部位指向性ポリペプチド、例えば、DNAエンドヌクレアーゼは、ゲノム内の特定の遺伝子座において1つの二本鎖切断を達成する。
【0096】
ゲノム標的化核酸
本開示は、関連するポリペプチド(例えば、部位指向性ポリペプチド)の活性を標的核酸内の特定の標的配列に指向させ得るゲノム標的化核酸を提供する。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸は、RNAである。ゲノム標的化RNAは、本明細書において「ガイドRNA」または「gRNA」と称される。ガイドRNAは、少なくとも関心の標的核酸配列にハイブリダイズするスペーサー配列と、CRISPR反復配列とを含む。II型システムにおいて、gRNAはまた、tracrRNA配列を含む。II型ガイドRNAにおいて、CRISPR反復配列及びtracrRNA配列は、互いにハイブリダイズして、二重鎖を形成する。V型ガイドRNAにおいて、crRNAは、二重鎖を形成する。両システムにおいて、二重鎖は、ガイドRNA及び部位指向性ポリペプチドが複合体を形成し得るように、部位指向性ポリペプチドを結合する。ゲノム標的化核酸は、複合体に、部位指向性ポリペプチドとのその関連性によって標的特異性を提供する。したがってゲノム標的化核酸は、部位指向性ポリペプチドの活性を施行させる。
【0097】
例示的なガイドRNAは、それらの標的配列のゲノムの場所及び関連付けられるCas9切断部位と共に示されている図示されるスペーサー配列を含み、ここでは、ゲノムの場所はGRCh38/hg38ヒトゲノムアセンブリに基づく。当業者によって理解される通り、各ガイドRNAは、そのゲノム標的配列に相補的なスペーサー配列を含むように設計される。例えば、図中のスペーサー配列の各々は、gRNAまたはsgRNA内に置かれてもよい。
【0098】
いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸は、二重分子ガイドRNAである。いくつかの実施形態では、ゲノム標的化核酸は、単一分子ガイドRNAである。
【0099】
二重分子ガイドRNAは、2つのRNAの鎖を含む。第1の鎖は、5’~3’方向に、任意のスペーサー伸長配列、スペーサー配列、及び最小CRISPR反復配列を含む。第2の鎖は、最小tracrRNA配列(最小CRISPR反復配列に相補的である)、3’tracrRNA配列、及び任意のtracrRNA伸長配列を含む。
【0100】
II型システムにおける単一分子ガイドRNAは、5’~3’方向に、任意のスペーサー伸長配列、スペーサー配列、最小CRISPR反復配列、単一分子ガイドリンカー、最小tracrRNA配列、3’tracrRNA配列、及び任意のtracrRNA伸長配列を含む。任意のtracrRNA伸長は、ガイドRNAへの追加的な機能性(例えば、安定性)に寄与する要素を含んでもよい。単一分子ガイドリンカーは、最小CRISPR反復及び最小tracrRNA配列を連結して、ヘアピン構造を形成する。任意のtracrRNA伸長は、1つ以上のヘアピンを含む。
【0101】
V型システムにおける単一分子ガイドRNAは、5’~3’方向に、最小CRISPR反復配列及びスペーサー配列を含む。
【0102】
例証として、CRISPR/Casシステムにおいて使用されるガイドRNA、または他のより小さいRNAは、下記に例証される、及び当該技術分野において説明されるような化学的手段によって容易に合成され得る。化学的合成手順は、絶えず拡大しており、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC、これはPAGE等のゲルの使用を回避する)等の手順によるかかるRNAの精製は、ポリヌクレオチド長さが百ヌクレオチド超程度に著しく増加するため、より困難になる傾向がある。より長い長さのRNAを発生させるために使用される1つのアプローチは、一緒にライゲーションされる2つ以上の分子を生成することである。はるかに長いRNA、例えば、Cas9エンドヌクレアーゼをコードするもの等は、より容易に酵素的に発生される。例えば、当該技術分野において説明される通り、安定性を強化する、先天性免疫応答の可能性もしくは程度を低減する、及び/または他の属性を強化する修飾等、種々の種類のRNA修飾がRNAの化学的合成及び/または酵素的発生の最中または後に導入され得る。
【0103】
スペーサー伸長配列
ゲノム標的化核酸のいくつかの実施形態では、スペーサー伸長配列は、安定性を提供し得る、及び/またはゲノム標的化核酸の修飾のための場所を提供し得る。いくつかの実施形態では、スペーサー伸長配列が提供される。スペーサー伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000ヌクレオチド超、またはそれ以上の長さを有してもよい。スペーサー伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000ヌクレオチド未満、またはそれ以上の長さを有してもよい。いくつかの実施形態では、スペーサー伸長配列は、10ヌクレオチド未満の長さである。いくつかの実施形態では、スペーサー伸長配列は、10~30ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態では、スペーサー伸長配列は、30~70ヌクレオチドの長さである。
【0104】
いくつかの実施形態では、スペーサー伸長配列は、別の部分(例えば、安定性制御配列、エンドリボヌクレアーゼ結合配列、リボザイム)を含む。いくつかの実施形態では、該部分は、核酸標的化核酸の安定性を増加させる。いくつかの実施形態では、該部分は、転写終結因子セグメント(すなわち、転写終結配列)である。いくつかの実施形態では、該部分は、真核細胞内で機能する。いくつかの実施形態では、該部分は、原核細胞内で機能する。いくつかの実施形態では、該部分は、真核細胞内及び原核細胞内の両方で機能する。好適な部分の非限定的な例としては、5’キャップ(例えば、7-メチルグアニレートキャップ(m7G))、リボスイッチ配列(例えば、調節された安定性ならびに/またはタンパク質及びタンパク質複合体による調節されたアクセシビリティを可能にするため)、dsRNA二重鎖(すなわち、ヘアピン)を形成する配列、RNAを細胞内の場所(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体等)に標的化する配列、追跡を提供する修飾もしくは配列(例えば、蛍光分子に対する直接共役、蛍光検出を促進する部分に対する共役、蛍光検出を可能にする配列等)、及び/またはタンパク質のための結合部位を提供する修飾もしくは配列(例えば、転写活性化因子、転写抑制因子、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ等を含む、DNAに作用するタンパク質)が挙げられる。
【0105】
スペーサー配列
スペーサー配列は、関心の標的核酸内の配列にハイブリダイズする。ゲノム標的化核酸のスペーサーは、ハイブリダイゼーション(すなわち、塩基対合)を介して配列特異性の様式で標的核酸と相互作用する。したがって、スペーサーのヌクレオチド配列は、関心の標的核酸の配列に応じて変動する。
【0106】
本明細書におけるCRISPR/Casシステムでは、スペーサー配列は、システム内で使用されるCas9酵素のPAMの5’に位置する標的核酸にハイブリダイズするように設計される。各Cas9酵素は、それが標的DNA内で認識する特定のPAM配列を有する。例えば、黄色ブドウ球菌は、標的核酸内で配列5’-NNGRRT-3’を含むPAMを認識し、式中、Rは、AまたはGのいずれかを含み、Nは、任意のヌクレオチドであり、5’Nは、スペーサー配列によって標的化される標的核酸配列の直ぐ3’側である。
【0107】
いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、21個のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸は、21個未満のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸は、少なくとも5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個以上のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸は、最大5、10、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、30個以上のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、標的核酸配列は、PAMの1番目のヌクレオチドの直ぐ5’側に21個の塩基を含む。例えば、5’-NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNGRRT-3’を含む配列(配列番号78)において、標的核酸は、5’Nsに対応する配列を含み、ここで、Nは任意のヌクレオチドである。
【0108】
いくつかの実施形態では、標的核酸にハイブリダイズするスペーサー配列は、少なくとも約6ヌクレオチド(nt)の長さを有する。スペーサー配列は、少なくとも約6nt、少なくとも約10nt、少なくとも約15nt、少なくとも約18nt、少なくとも約19nt、少なくとも約20nt、少なくとも約25nt、少なくとも約30nt、少なくとも約35nt、または少なくとも約40nt、約6nt~約80nt、約6nt~約50nt、約6nt~約45nt、約6nt~約40nt、約6nt~約35nt、約6nt~約30nt、約6nt~約25nt、約6nt~約20nt、約6nt~約19nt、約10nt~約50nt、約10nt~約45nt、約10nt~約40nt、約10nt~約35nt、約10nt~約30nt、約10nt~約25nt、約10nt~約20nt、約10nt~約19nt、約19nt~約25nt、約19nt~約30nt、約19nt~約35nt、約19nt~約40nt、約19nt~約45nt、約19nt~約50nt、約19nt~約60nt、約20nt~約25nt、約20nt~約30nt、約20nt~約35nt、約20nt~約40nt、約20nt~約45nt、約20nt~約50nt、または約20nt~約60ntであり得る。いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、20個のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、スペーサーは、19個のヌクレオチドを含む。
【0109】
いくつかの実施形態では、スペーサー配列と標的核酸との間の相補性パーセントは、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または100%である。いくつかの実施形態では、スペーサー配列と標的核酸との間の相補性パーセントは、最大約30%、最大約40%、最大約50%、最大約60%、最大約65%、最大約70%、最大約75%、最大約80%、最大約85%、最大約90%、最大約95%、最大約97%、最大約98%、最大約99%、または100%である。いくつかの実施形態では、スペーサー配列と標的核酸との間の相補性パーセントは、標的核酸の相補鎖の標的配列の6個の連続した最も5’側のヌクレオチドにわたり、100%である。いくつかの実施形態では、スペーサー配列と標的核酸との間の相補性パーセントは、約20個の連続したヌクレオチドにわたり、少なくとも60%である。
【0110】
いくつかの実施形態では、スペーサー配列は、コンピュータプログラムを使用して設計または選択される。コンピュータプログラムは、予測溶解温度、二次構造の構成、予測されるアニール温度、配列同一性、ゲノム文脈、クロマチンアクセシビリティ、GC%、ゲノム発生の頻度(例えば、同一または類似であるが、不適合、挿入、または欠失の結果として1つ以上の地点で異なる配列)、メチル化状態、SNPの存在等の変数を使用し得る。
【0111】
最小CRISPR反復配列
いくつかの実施形態では、最小CRISPR反復配列は、基準CRISPR反復配列(例えば、黄色ブドウ球菌に由来するcrRNA)に対して少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または100%の配列同一性を有する配列である。
【0112】
最小CRISPR反復配列は、細胞内の最小tracrRNA配列にハイブリダイズし得るヌクレオチドを含む。最小CRISPR反復配列及び最小tracrRNA配列は、二重鎖、すなわち、塩基対二本鎖構造を形成する。共に、最小CRISPR反復配列及び最小tracrRNA配列は、部位指向性ポリペプチドに結合する。最小CRISPR反復配列の少なくとも一部分は、最小tracrRNA配列にハイブリダイズする。いくつかの実施形態では、最小CRISPR反復配列の少なくとも一部分は、最小tracrRNA配列に対して少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または100%の相補性を有する。いくつかの実施形態では、最小CRISPR反復配列の少なくとも一部分は、最小tracrRNA配列に対して最大約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または100%の相補性を有する。
【0113】
最小CRISPR反復配列は、約7ヌクレオチド~約100ヌクレオチドの長さを有し得る。例えば、最小CRISPR反復配列の長さは、約7ヌクレオチド(nt)~約50nt、約7nt~約40nt、約7nt~約30nt、約7nt~約25nt、約7nt~約20nt、約7nt~約15nt、約8nt~約40nt、約8nt~約30nt、約8nt~約25nt、約8nt~約20nt、約8nt~約15nt、約15nt~約100nt、約15nt~約80nt、約15nt~約50nt、約15nt~約40nt、約15nt~約30nt、または約15nt~約25ntである。いくつかの実施形態では、最小CRISPR反復配列は、およそ9ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態では、最小CRISPR反復配列は、およそ12ヌクレオチドの長さである。
【0114】
いくつかの実施形態では、最小CRISPR反復配列は、少なくとも6、7、または8連続ヌクレオチドのストレッチにわたり、基準最小CRISPR反復配列(例えば、黄色ブドウ球菌に由来する野生型crRNA)と少なくとも約60%同一である。例えば、最小CRISPR反復配列は、少なくとも6、7、または8連続ヌクレオチドのストレッチにわたり、基準最小CRISPR反復配列と少なくとも約65%同一、少なくとも約70%同一、少なくとも約75%同一、少なくとも約80%同一、少なくとも約85%同一、少なくとも約90%同一、少なくとも約95%同一、少なくとも約98%同一、少なくとも約99%同一、または100%同一である。
【0115】
最小tracrRNA配列
いくつかの実施形態では、最小tracrRNA配列は、基準tracrRNA配列(例えば、黄色ブドウ球菌に由来する野生型tracrRNA)に対して少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または100%の配列同一性を有する配列である。
【0116】
最小tracrRNA配列は、細胞内の最小CRISPR反復配列にハイブリダイズするヌクレオチドを含む。最小tracrRNA配列及び最小CRISPR反復配列は、二重鎖、すなわち、塩基対二本鎖構造を形成する。共に、最小tracrRNA配列及び最小CRISPR反復は、部位指向性ポリペプチドに結合する。最小tracrRNA配列のうちの少なくとも一部分は、最小CRISPR反復配列にハイブリダイズし得る。いくつかの実施形態では、最小tracrRNA配列は、最小CRISPR反復配列に少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または100%相補的である。
【0117】
最小tracrRNA配列は、約7ヌクレオチド~約100ヌクレオチドの長さを有し得る。例えば、最小tracrRNA配列は、約7ヌクレオチド(nt)~約50nt、約7nt~約40nt、約7nt~約30nt、約7nt~約25nt、約7nt~約20nt、約7nt~約15nt、約8nt~約40nt、約8nt~約30nt、約8nt~約25nt、約8nt~約20nt、約8nt~約15nt、約15nt~約100nt、約15nt~約80nt、約15nt~約50nt、約15nt~約40nt、約15nt~約30nt、または約15nt~約25nt長であり得る。いくつかの実施形態では、最小tracrRNA配列は、およそ9ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態では、最小tracrRNA配列は、およそ12ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、最小tracrRNAは、Jinekら(上記参照)に説明されるtracrRNA nt23~48からなる。
【0118】
いくつかの実施形態では、最小tracrRNA配列は、少なくとも6、7、または8連続ヌクレオチドのストレッチにわたり、基準最小tracrRNA(例えば、黄色ブドウ球菌に由来する野生型tracrRNA)配列と少なくとも約60%同一である。例えば、最小tracrRNA配列は、少なくとも6、7、または8連続ヌクレオチドのストレッチにわたり、基準最小tracrRNA配列と少なくとも約65%同一、約70%同一、約75%同一、約80%同一、約85%同一、約90%同一、約95%同一、約98%同一、約99%同一、または100%同一である。
【0119】
いくつかの実施形態では、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖は、二重らせんを含む。いくつかの実施形態では、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖は、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個以上のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖は、最大約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個以上のヌクレオチドを含む。
【0120】
いくつかの実施形態では、二重鎖は、不適合を含む(すなわち、二重鎖の2つの鎖は100%相補的ではない)。いくつかの実施形態では、二重鎖は、少なくとも約1、2、3、4、または5、または不適合を含む。いくつかの実施形態では、二重鎖は、最大約1、2、3、4、または5、または不適合を含む。いくつかの実施形態では、二重鎖は、わずか2つの不適合を含む。
【0121】
バルジ
いくつかの実施形態では、最小CRISPR RNAと最小tracrRNAとの間の二重鎖内に「バルジ」が存在する。バルジは、二重鎖内のヌクレオチドの無対の領域である。いくつかの実施形態では、バルジは、部位指向性ポリペプチドへの二重鎖の結合に寄与する。バルジは、二重鎖の一方の側に、無対5’-XXXY-3’であって、式中、Xが任意のプリンであり、Yが反対側の鎖上のヌクレオチドとゆらぎ対を形成し得るヌクレオチドを含む、無対5’-XXXY-3’を含み、二重鎖の他方の側に、無対ヌクレオチド領域を含む。二重鎖の両側上の無対ヌクレオチドの数は、異なり得る。
【0122】
1つの例では、バルジは、バルジの最小CRISPR反復鎖上に無対プリン(例えば、アデニン)を含む。いくつかの実施形態では、バルジは、バルジの最小tracrRNA配列鎖の無対5’-AAGY-3’を含み、式中、Yは、最小CRISPR反復鎖上のヌクレオチドとゆらぎ対合を形成し得るヌクレオチドを含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、二重鎖の最小CRISPR反復側上のバルジは、少なくとも1、2、3、4、または5つ以上の無対ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、二重鎖の最小CRISPR反復側上のバルジは、最大1、2、3、4、または5以上の無対ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、二重鎖の最小CRISPR反復側上のバルジは、1つの無対ヌクレオチドを含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、二重鎖の最小tracrRNA配列側上のバルジは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上の無対ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、二重鎖の最小tracrRNA配列側上のバルジは、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10以上の無対ヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、二重鎖の第2の側(例えば、二重鎖の最小tracrRNA配列側)上のバルジは、4つの無対ヌクレオチドを含む。
【0125】
いくつかの実施形態では、バルジは、少なくとも1つのゆらぎ対合を含む。いくつかの実施形態では、バルジは、最大1つのゆらぎ対合を含む。いくつかの実施形態では、バルジは、少なくとも1個のプリンヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、バルジは、少なくとも3個のプリンヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、バルジ配列は、少なくとも5個のプリンヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、バルジ配列は、少なくとも1個のグアニンヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、バルジ配列は、少なくとも1個のアデニンヌクレオチドを含む。
【0126】
ヘアピン
種々の実施形態では、1つ以上のヘアピンが、3’tracrRNA配列内の最小tracrRNAの3’側に位置する。
【0127】
いくつかの実施形態では、ヘアピンは、最小CRISPR反復及び最小tracrRNA配列二重鎖内の最後の対になったヌクレオチドから3’の少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、または20個以上のヌクレオチドで開始する。いくつかの実施形態では、ヘアピンは、最小CRISPR反復及び最小tracrRNA配列二重鎖内の最後の対になったヌクレオチドの3’の最大約1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個以上のヌクレオチドで開始し得る。
【0128】
いくつかの実施形態では、ヘアピンは、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、または20個以上の連続したヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ヘアピンは、最大約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15個以上の連続したヌクレオチドを含む。
【0129】
いくつかの実施形態では、ヘアピンは、CCジヌクレオチド(すなわち、2つの連続したシトシンヌクレオチド)を含む。
【0130】
いくつかの実施形態では、ヘアピンは、二重鎖ヌクレオチド(例えば、ヘアピン内のヌクレオチド、一緒にハイブリダイズされる)を含む。例えば、ヘアピンは、3’tracrRNA配列のヘアピン二重鎖内のGGジヌクレオチドにハイブリダイズされるCCジヌクレオチドを含む。
【0131】
ヘアピンのうちの1つ以上は、部位指向性ポリペプチドのガイドRNA相互作用領域と相互作用し得る。
【0132】
いくつかの実施形態では、2つ以上のヘアピンが存在し、いくつかの実施形態では、3つ以上のヘアピンが存在する。
【0133】
3’tracrRNA配列
いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、基準tracrRNA配列(例えば、黄色ブドウ球菌に由来するtracrRNA)に対して少なくとも約30%、約40%、約50%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または100%の配列同一性を有する配列を含む。
【0134】
いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、約6ヌクレオチド~約100ヌクレオチドの長さを有する。例えば、3’tracrRNA配列は、約6ヌクレオチド(nt)~約50nt、約6nt~約40nt、約6nt~約30nt、約6nt~約25nt、約6nt~約20nt、約6nt~約15nt、約8nt~約40nt、約8nt~約30nt、約8nt~約25nt、約8nt~約20nt、約8nt~約15nt、約15nt~約100nt、約15nt~約80nt、約15nt~約50nt、約15nt~約40nt、約15nt~約30nt、または約15nt~約25ntの長さを有し得る。いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、およそ14ヌクレオチドの長さを有する。
【0135】
いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、少なくとも6、7、または8連続ヌクレオチドのストレッチにわたり、基準3’tracrRNA配列(例えば、黄色ブドウ球菌に由来する野生型3’tracrRNA配列)と少なくとも約60%同一である。例えば、3’tracrRNA配列は、少なくとも6、7、または8連続ヌクレオチドのストレッチにわたり、基準3’tracrRNA配列(例えば、黄色ブドウ球菌に由来する野生型3’tracrRNA配列)と少なくとも約60%同一、約65%同一、約70%同一、約75%同一、約80%同一、約85%同一、約90%同一、約95%同一、約98%同一、約99%同一、または100%同一である。
【0136】
いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、複数の二重鎖領域(例えば、ヘアピン、ハイブリダイズされた領域)を含む。いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、2つの二重鎖領域を含む。
【0137】
いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列は、ステムループ構造を含む。いくつかの実施形態では、3’tracrRNA内のステムループ構造は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、または20個以上のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、3’tracrRNA内のステムループ構造は、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個以上のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ステムループ構造は、機能性部分を含む。例えば、ステムループ構造は、アプタマー、リボザイム、タンパク質相互作用ヘアピン、CRISPRアレイ、イントロン、またはエクソンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、ステムループ構造は、少なくとも約1、2、3、4、または5つ以上の機能性部分を含む。いくつかの実施形態では、ステムループ構造は、最大約1、2、3、4、または5つ以上の機能性部分を含む。
【0138】
いくつかの実施形態では、3’tracrRNA配列内のヘアピンは、P-ドメインを含む。いくつかの実施形態では、P-ドメインは、ヘアピン内の二本鎖領域を含む。
【0139】
tracrRNA伸長配列
tracrRNA伸長配列は、tracrRNAが単一分子ガイドの文脈か二重分子ガイドの文脈であるかにかかわらず提供され得る。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、約1ヌクレオチド~約400ヌクレオチドの長さを有する。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、または400ヌクレオチド超の長さを有する。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、約20~約5000ヌクレオチド以上の長さを有する。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、1000ヌクレオチド超の長さを有する。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180、200、220、240、260、280、300、320、340、360、380、400ヌクレオチド未満、またはそれ以上の長さを有する。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、1000ヌクレオチド未満の長さを有し得る。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、10ヌクレオチド未満の長さを有する。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、10~30ヌクレオチドの長さである。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、30~70ヌクレオチドの長さである。
【0140】
いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、機能性部分(例えば、安定性制御配列、リボザイム、エンドリボヌクレアーゼ結合配列)を含む。いくつかの実施形態では、機能性部分は、転写終結因子セグメント(すなわち、転写終結配列)を含む。いくつかの実施形態では、機能性部分は、約10ヌクレオチド(nt)~約100ヌクレオチド、約10nt~約20nt、約20nt~約30nt、約30nt~約40nt、約40nt~約50nt、約50nt~約60nt、約60nt~約70nt、約70nt~約80nt、約80nt~約90nt、または約90nt~約100nt、約15nt~約80nt、約15nt~約50nt、約15nt~約40nt、約15nt~約30nt、または約15nt~約25ntの総長を有する。いくつかの実施形態では、機能性部分は、真核細胞内で機能する。いくつかの実施形態では、機能性部分は、原核細胞内で機能する。いくつかの実施形態では、機能性部分は、真核細胞内及び原核細胞内の両方で機能する。
【0141】
好適なtracrRNA伸長機能性部分の非限定的な例としては、3’ポリ-アデニル化尾部、リボスイッチ配列(例えば、調節された安定性ならびに/またはタンパク質及びタンパク質複合体による調節されたアクセシビリティを可能にするため)、dsRNA二重鎖(すなわち、ヘアピン)を形成する配列、RNAを細胞内の場所(例えば、核、ミトコンドリア、葉緑体等)に標的化する配列、追跡を提供する修飾もしくは配列(例えば、蛍光分子に対する直接共役、蛍光検出を促進する部分に対する共役、蛍光検出を可能にする配列等)、及び/またはタンパク質のための結合部位を提供する修飾もしくは配列(例えば、転写活性化因子、転写抑制因子、DNAメチルトランスフェラーゼ、DNAデメチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ等を含む、DNAに作用するタンパク質)が挙げられる。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、プライマー結合部位または分子指標(例えば、バーコード配列)を含む。いくつかの実施形態では、tracrRNA伸長配列は、1つ以上の親和性タグを含む。
【0142】
単一分子ガイドリンカー配列
いくつかの実施形態では、単一分子ガイド核酸のリンカー配列は、約3ヌクレオチド~約100ヌクレオチドの長さを有する。Jinekら(上記参照)では、例えば、単純な4ヌクレオチド「テトラループ」(-GAAA-)が使用された、Science,337(6096):816-821(2012)。例証的なリンカーは、約3ヌクレオチド(nt)~約90nt、約3nt~約80nt、約3nt~約70nt、約3nt~約60nt、約3nt~約50nt、約3nt~約40nt、約3nt~約30nt、約3nt~約20nt、約3nt~約10ntの長さを有する。例えば、リンカーは、約3nt~約5nt、約5nt~約10nt、約10nt~約15nt、約15nt~約20nt、約20nt~約25nt、約25nt~約30nt、約30nt~約35nt、約35nt~約40nt、約40nt~約50nt、約50nt~約60nt、約60nt~約70nt、約70nt~約80nt、約80nt~約90nt、または約90nt~約100ntの長さを有し得る。いくつかの実施形態では、単一分子ガイド核酸のリンカーは、4~40ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、リンカーは、少なくとも約100、500、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、または7000ヌクレオチド以上である。いくつかの実施形態では、リンカーは、最大約100、500、1000、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、または7000ヌクレオチド以上である。
【0143】
リンカーは、多様な配列のいずれかを含み得るが、但し好ましくは、リンカーは、ガイドの他の機能性領域に干渉し得る分子内結合を引き起こす場合があるガイドRNAの他の部分と広範な相同領域を有する配列を含まない。Jinekら(上記参照)では、単純な4ヌクレオチド配列-GAAA-が使用されているが(Science,337(6096):816-821(2012))、より長い配列を含む多数の他の配列が同様に使用され得る。
【0144】
いくつかの実施形態では、リンカー配列は、機能性部分を含む。例えば、リンカー配列は、アプタマー、リボザイム、タンパク質相互作用ヘアピン、CRISPRアレイ、イントロン、またはエクソンを含んでもよい。いくつかの実施形態では、リンカー配列は、少なくとも約1、2、3、4、または5つ以上の機能性部分を含む。いくつかの実施形態では、リンカー配列は、最大約1、2、3、4、または5つ以上の機能性部分を含む。
【0145】
遺伝子内の1つ以上の変異の置換、対応する遺伝子の遺伝子座内へのタイチンcDNAのノックイン、または遺伝子内のエクソンのノックアウトによる、細胞を修正するためのゲノム改変戦略
本発明のエクスビボ方法のステップは、例えば、前駆細胞(いくつかの実施形態では、eCSC、または初代心筋細胞)内の、タイチン遺伝子内の変異を編集/修正することを含む。同様に、本発明のインビボ方法のステップは、ゲノム改変を使用して患者内の細胞内のタイチン遺伝子を編集/修正することを含む。
【0146】
タイチン系心筋症または他のタイチノパチーを有する患者は、タイチン遺伝子内の広範な変異を示す。したがって、異なる患者は、概して異なる修正戦略を必要とするであろう。任意のCRISPRエンドヌクレアーゼが、本発明の方法において使用されてもよく、各CRISPRエンドヌクレアーゼは、それ自身の関連するPAMを有し、それは、疾患に特異的であってもなくてもよい。黄色ブドウ球菌に由来するCRISPR/Cas9エンドヌクレアーゼを用いてタイチン遺伝子を標的化するための例示的なgRNAスペーサー配列は、図に示される。
【0147】
ゲノム改変戦略は、相同組み換え(HR)としても知られる相同指向修復(HDR)による、遺伝子内の1つ以上の変異の置換または対応する遺伝子の遺伝子座内へのタイチンcDNAのノックインを含む。相同指向修復は、タイチンタンパク質に対する不活性化変異を有する患者を治療するための一戦略である。これらの戦略は、タイチンタンパク質を回復させ、罹患状態を完全に逆転させるであろう。この戦略は、患者の不活性化変異(複数可)の場所に基づく、より特注されたアプローチを必要とするであろう。変異を修正するためのドナーヌクレオチドは、小さい(<300bp)。HDR効率はドナー分子のサイズに反比例し得るため、これは有利である。同様に、ドナーテンプレートは、ドナーテンプレート送達の効果的な手段であることが示されているサイズが制約されたアデノ随伴ウイルス(AAV)分子に適合し得ることが期待される。
【0148】
相同指向修復は、二本鎖切断(DSB)を修復するための細胞機構である。最も一般的な形態は、相同組み換えである。一本鎖アニール及び代替HDRを含む、HDRに関する追加的な経路が存在する。ゲノム改変ツールは、研究者が細胞の相同組み換え経路を操作して、ゲノムに対する部位特異性修飾を作成することを可能にする。細胞は、トランスで提供される合成ドナー分子を使用して二本鎖切断を修復し得ることが見出されている。したがって、二本鎖切断を特定の変異の付近に導入し、好適なドナーを提供することによって、標的化された変化がゲノム内に作成され得る。特定の開裂は、HDRの比率を、相同ドナー単独を受けた106個の細胞中の1の比率の1,000倍超に増加させる特定のヌクレオチドにおける相同指向修復(HDR)の比率は、切断部位までの距離の関数であり、したがって、重なり合うまたは最も近い標的部位を選択することが重要である。その場での修正は、ゲノムの残りを非摂動なままにするため、遺伝子編集は、遺伝子付加を上回る利点を提供する。
【0149】
HDRによる編集のために供給されるドナーは著しく変動するが、概して、ゲノムDNAに対するアニールを可能にするための小さいまたは大きい隣接相同性アームを有する意図される配列を含む。導入される遺伝的変化に隣接する相同性領域は、30bp以下、またはプロモーター、cDNA等を含み得る数キロベースのカセットと同程度の大きさであり得る。一本鎖オリゴヌクレオチドドナー及び二本鎖オリゴヌクレオチドドナーの両方が、使用されている。これらのオリゴヌクレオチドは100nt未満~500nt超のサイズにわたるが、より長いssDNAも発生及び使用され得る。PCR単位複製配列、プラスミド、及びミニサークルを含む二本鎖ドナーも、しばしば使用される。概して、AAVベクターは、極めて効果的なドナーテンプレートの送達手段であることが見出されているが、個々のドナーに関するパッケージング制限は、<5kbである。ドナーの活性転写は、HDRを3倍増加させ、プロモーターの包含が変換を増加させ得ることを示唆している。反対に、ドナーのCpGメチル化は、遺伝子発現及びHDRを減少させた。
【0150】
Cas9等の野生型エンドヌクレアーゼに加えて、ヌクレアーゼドメインの一方または他方が不活性化されており、一本のDNA鎖のみの切断をもたらすニッカーゼ変異体が存在する。HDRは、個々のCasニッカーゼから、または標的エリアに隣接するニッカーゼ対を使用して指向され得る。ドナーは、一本鎖の、ニッキングされた、またはdsDNAであり得る。
【0151】
ドナーDNAは、多様な異なる方法によって、例えば、トランスフェクション、ナノ粒子、マイクロインジェクション、またはウイルス形質導入によって、ヌクレアーゼと共にまたは個別に供給され得る。つなぐオプションの範囲は、HDRに関するドナーの利用可能性を増大させることが提案されている。例としては、ドナーをヌクレアーゼに付着させること、近隣に結合するDNA結合タンパク質に付着すること、またはDNA末端結合または修復に関与するタンパク質に付着することが挙げられる。
【0152】
修復経路の選択は、細胞周期に影響を及ぼすもの等の多数の培養条件によって、またはDNA修復及び関連付けられるタンパク質の標的化によって導かれ得る。例えば、HDRを増加させるために、KU70、KU80、またはScr7として知られるDNAリガーゼIV等の重要なNHEJ分子が抑制され得る。
【0153】
ドナーが存在しない場合、DNA切断からの末端または異なる切断からの末端は、DNA末端がその接合点において塩基対合をほとんどまたは全く伴わずに結合されるいくつかの非相同修復経路を使用して結合され得る。標準的なNHEJに加えて、alt-NHEJ等の類似の修復機構が存在する。2つの切断が存在する場合、介在するセグメントは、欠失または反転され得る。NHEJ修復経路は、結合部に挿入、欠失、または変異を導き得る。
【0154】
NHEJまたはHDRによるゲノム編集に加えて、NHEJ経路及びHRの両方を使用する部位特異性遺伝子挿入が、行われている。組み合わせアプローチは、場合によりイントロン/エクソン境界を含む、特定の設定に適用可能であり得る。NHEJは、イントロンにおけるライゲーションに効果的であることが判明され得、それに対して誤りのないHDRは、コーディング領域により好適であり得る。
【0155】
前述の通り、タイチン遺伝子は、363個のタンパク質をコードするエクソンを含有する。331個のエクソンのうちの任意の1つ以上が、変異を修正し、タイチン活性を回復させるために修復され得る。さらなる代替物として、タイチンcDNAは、対応する遺伝子の遺伝子座へノックインされ得るか、またはAAVS1等のセーフハーバー部位へノックインされ得る。いくつかの実施形態では、本方法は、1つ以上の変異を修復するようなポリヌクレオチドドナーテンプレートからの新たな配列の組み込みを促進するために使用され得る1つのgRNAまたは一対のgRNAを提供する。
【0156】
本方法のいくつかの実施形態は、遺伝子を2回切断することによって、1つ以上の変異を置換するようなポリヌクレオチドドナーテンプレートからの新たな配列の挿入を促進する欠失を作成するgRNA対であって、一方のgRNAが1つ以上の変異の5’末端で切断し、他方のgRNAが1つ以上の変異の3’末端で切断する、gRNA対を提供する。切断は、ゲノム内にDSBを各々作成する一対のDNAエンドヌクレアーゼによって、またはゲノム内にDSBを一緒に作成する複数のニッカーゼによって達成され得る。
【0157】
別法として、本方法のいくつかの実施形態は、1つ以上の変異を置換するようなポリヌクレオチドドナーテンプレートからの新たな配列の挿入を促進する1つの二本鎖切断を1つ以上の変異の周りに作成するような1つのgRNAを提供する。二本鎖切断は、単一のDNAエンドヌクレアーゼ、またはゲノム内でDSBを一緒に作成する複数のニッカーゼによって作成され得る。
【0158】
タイチン遺伝子内の例証的な修飾としては、上述の変異の中またはその近位の、例えば、特定の変異の3kb未満、2kb未満、1kb未満、0.5kb未満上流または下流の領域内の置換が挙げられる。タイチン遺伝子内の変異の相対的に広範な変形を考慮すると、上述の置換の多数の変形(限定されるものではないが、より大きい及びより小さい欠失を含む)は、タイチンタンパク質活性の回復をもたらすことが期待されるであろうことが理解されるであろう。
【0159】
かかる変異体は、問題となる特定の変異より5’及び/または3’方向に大きい、またはどちらかの方向に小さい置換を含む。したがって、特定の置換に関して「近位」とは、所望の置換境界(本明細書ではエンドポイントとも称される)に関連するDSB遺伝子座が、述べられている基準遺伝子座から約3kb未満である領域内にあり得ることを意図する。いくつかの実施形態では、DSB遺伝子座は、より近位であり、2kb以内、1kb以内、0.5kb以内、または0.1kb以内である。小さい置換の場合、所望のエンドポイントは、基準遺伝子座におけるか、またはそれに「隣接して」おり、それによって、エンドポイントが基準遺伝子座から100bp以内、50bp以内、25bp以内、または約10bp~5bp未満であることが意図される。
【0160】
より大きいまたはより小さい置換を含む実施形態は、タイチン活性が回復される限り、同一の利益を提供することが期待される。したがって、本明細書に説明及び例証される置換の多くの変形は、心筋症または他のタイチノパチーを改善するために効果的であろうことが期待される。
【0161】
標的配列選択
優先的に、特定の基準遺伝子座に対して5’境界及び/または3’境界の場所におけるシフトが、ゲノム編集の特定の適用を促進または強化するために使用され、それは、本明細書にさらに説明及び例証される通り、編集のために選択されるエンドヌクレアーゼシステムに部分的に依存する。
【0162】
かかる標的配列選択の第1の態様では、多数のエンドヌクレアーゼシステムは、開裂のための潜在的な標的部位の食選択を導く規則または基準を有し、CRISPR II型またはV型エンドヌクレアーゼの場合では、そのDNA開裂部位に隣接する特定の位置におけるPAM配列モチーフの要件等である。
【0163】
標的配列の選択または最適化の別の態様では、標的配列及びゲノム編集エンドヌクレアーゼの特定の組み合わせに関する「標的外」活性の頻度(すなわち、選択される標的配列以外の部位におけるDSB発生の頻度)が、標的内(on-target)活性の頻度に対して評価される。場合により、所望の遺伝子座における正しく編集された細胞は、他の細胞に対して選択的な利点を有し得る。選択的利点の非限定的ではあるが例証的な例としては、強化された複製率、持続性、特定の条件への耐性、患者への導入後の成功したインビボの生着または持続性の強化された比率等の属性、及びかかる細胞の維持または増加された数または生存に関連する他の属性の獲得が挙げられる。他の場合では、所望の遺伝子座における正しく編集された細胞は、正しく編集された細胞を特定、分類、ないしは別の方法で選択するために使用される1つ以上のスクリーンニング方法によって、積極的に選択され得る。選択的な利点及び指向性選択方法はどちらも、修正に関連付けられる表現型を利用し得る。いくつかの実施形態では、細胞は、意図される細胞集団を選択または精製するために使用される新たな表現型を作成する第2の修飾を作成するために、2回以上編集されてもよい。かかる第2の修飾は、選択可能またはスクリーニング可能な標識のための第2のgRNAを付加することによって作成され得る。
【0164】
任意の選択的利点が適用可能であるか、または任意の指向性選択が特定の場合に適用されるべきであるかにかかわらず、標的配列選択はまた、適用の有効性を強化する、及び/または所望の標的以外の部位における望ましくない変化の潜在性を低減するために、標的外頻度を考慮してガイドされる。本明細書及び当該技術分野においてさらに説明及び例証される通り、標的外活性の発生は、標的部位と種々の標的外部位との間の類似性及び非類似性、及び使用される特定のエンドヌクレアーゼを含む、多数の要因によって影響を受ける。多くの場合、標的外活性の予測を助ける生物情報学ツールが利用可能であり、かかるツールはまた、最も可能性のある標的外活性の部位を特定するために使用され得ることが多く、該部位は次に、標的内活性に対する標的外活性の相対的頻度を評価して、それによってより高い相対的標的内活性を有する配列の選択を可能にするために、実験的設定にて評価され得る。かかる技術の例証的な例は本明細書に提供されており、他のものは当該技術分野において知られている。
【0165】
標的配列選択の別の態様は、相同組み換え事象に関する。相同領域を共有する配列は、介在配列の欠失をもたらす相同組み換え事象の中心として機能し得ることは、よく知られている。かかる組み換え事象は、染色体及び他のDNA配列の複製の正常な過程の中で、また二本鎖切断(DSB)の修復の場合等、DNA配列が合成されている他の時にも発生し、これは、正常な周期中に定期的に発生するが、種々の事象の発生(UV光及びDNA切断の他の誘導物質等)または特定の薬剤の存在(種々の化学的誘導物質等)によっても強化され得る。多数のかかる誘導物質は、DSBをゲノム内に無差別に発生させ、DSBは、正常な細胞内で定期的に誘導及び修復されている。修復中、もとの配列は、完璧な忠実性を伴って再構築され得るが、しかしながら場合により、小さいな挿入または欠失(「インデル」と称される)が、DSB部位に導入される。
【0166】
DSBはまた、本明細書に説明されるエンドヌクレアーゼシステムの場合のように、特定の場所に特異的に誘導され得、それは、指向されるまたは優先的な遺伝子修飾事象を選択される染色体場所において引き起こすために使用され得る。DNA修復(及び複製)の文脈において組み換えを受ける相同配列の傾向は、多数の環境で利用され得、「ドナー」ポリヌクレオチドの使用を通して提供される関心の配列を所望の染色体場所に挿入するために相同指向修復が使用されるCRISPR等のゲノム編集システムの1つの適用の基本である。
【0167】
わずか10個以下の塩基対を含み得る「マイクロホモロジー」の小さい領域であり得る特定の配列の間の相同領域も、所望の欠失をもたらすために使用され得る。例えば、単一のDSBが、近隣の配列とマイクロホモロジーを示す部位に導入される。かかるDSBの修復の正常な過程において、高頻度で発生する結果は、DSB及び付随する細胞修復プロセスによって促進されている組み換えの結果としての介在配列の欠失である。
【0168】
しかしながら、いくつかの環境では、相同領域内の標的配列の選択はまた、遺伝子融合(欠失がコーディング領域内にある場合)を含む大きすぎる欠失を生じさせ得、それは、特定の環境を考慮すると望ましいまたは望ましくない場合がある。
【0169】
本明細書に提供される実施例は、タイチン活性の回復をもたらす置換を誘導するように設計されるDSBの作成のための種々の標的領域の選択、及び標的外事象を標的内事象に対して最小にするように設計される、かかる領域内の特定の標的配列の選択をさらに説明する。
【0170】
好ましいgRNAは、選択される遺伝子座における所望のレベルのゲノム編集を達成するのに十分に高い標的内活性、及び相対的に低い、他の染色体遺伝子座における変化の可能性を低減するような標的外活性を有する。標的内活性の標的外活性に対する比率は、gRNAの「特異性」と称されることが多い。
【0171】
予測される標的外活性の初期スクリーニングに関して、既知の及び公に入手可能である最も可能性の高い標的外部位を予測するために使用され得る多数の生物情報学ツールが存在し、CRISPR/Cas9ヌクレアーゼシステムにおける標的部位への結合は、相補的な配列の間のワトソン・クリック塩基対合によって駆動されるため、非類似性(したがって、標的外結合の低減された潜在性)の程度は、一次配列の差、不適合及びバルジ、すなわち非相補的な塩基に変化される塩基、ならびに標的部位に対する潜在的な標的外部位内への塩基の挿入または欠失に、本質的に関連するCOSMID(不適合、挿入、及び欠失を有するCRISPR標的外部位)(crispr.bme.gatech.eduにてウェブ上で入手可能)と呼ばれる例示的な生物情報学ツールは、かかる類似性をコンパイルする。
【0172】
核酸修飾
いくつかの実施形態では、細胞内に導入されるポリヌクレオチドは、本明細書においてさらに説明される及び当該技術分野において知られる通り、例えば、活性、安定性、もしくは特異性を強化するため、送達を変化させるため、宿主細胞内の先天性免疫応答を低減するため、または他の強化のために使用され得る1つ以上の修飾を含む。
【0173】
特定の実施形態では、修飾されたポリヌクレオチドがCRISPR/Casシステムにおいて使用され、この場合、下記に説明及び例証される通り、ガイドRNA(単一分子ガイドまたは二重分子ガイドのいずれか)、及び/または細胞内に導入されるCasエンドヌクレアーゼをコードするDNAもしくはRNAは、修飾され得る。かかる修飾されたポリヌクレオチドは、任意の1つ以上のゲノム遺伝子座を編集するためにCRISPR/Casシステムにおいて使用され得る。
【0174】
かかる使用の非限定的な例証の目的のためにCRISPR/Casシステムを使用して、ガイドRNAの修飾は、単一分子ガイドまたは二重分子であってもよいガイドRNAとCasエンドヌクレアーゼとを含むCRISPR/Casゲノム編集複合体の形成または安定性を強化するために使用され得る。ガイドRNAの修飾は、同様にまたは代替的に、ゲノム編集複合体とゲノム内の標的配列との間の相互作用の開始、安定性、または動態を強化するために使用され得、それは、例えば、標的内活性を強化するために使用され得る。ガイドRNAの修飾は、同様にまたは代替的に、特異性、例えば、他の(標的外)部位における効果と比較した標的内部位におけるゲノム編集の相対比率を強化するために使用され得る。
【0175】
修飾は、同様にまたは代替的に、例えば、細胞内に存在するリボヌクレアーゼ(RNases)による分解に対するその耐性を増加させ、それによって細胞内でのその半減期を増加させることによって、ガイドRNAの安定性を増加させるために使用され得る。エンドヌクレアーゼをコードするRNAと同時に導入されるガイドRNAの半減期を増加させることは、ガイドRNAとコードされるCasエンドヌクレアーゼとが細胞内に共存する時間を増加させるために使用され得るため、ガイドRNAの半減期を強化する修飾は、Casエンドヌクレアーゼが、エンドヌクレアーゼを発生させるために翻訳される必要があるRNAを介して編集される細胞に導入される実施形態において特に有用であり得る。
【0176】
修飾は、同様にまたは代替的に、細胞内に導入されるRNAが先天性免疫応答を誘出する可能性または程度を減少させるために使用され得る。下記及び当該技術分野において説明される通り、低分子干渉RNA(siRNA)を含むかかる応答は、RNA干渉(RNAi)の文脈において十分に特徴付けられており、RNAの低減された半減期及び/またはサイトカインもしくは免疫応答に関連付けられる他の因子の誘出に関連付けられる傾向がある。
【0177】
細胞内に導入されるエンドヌクレアーゼをコードするRNAにも1つ以上の種類の修飾が作成され得、限定されるものではないが、RNAの安定性を強化する修飾(例えば、細胞内に存在するRNAsesによるその分解を増加させることによる)、結果として生じる生成物(すなわち、エンドヌクレアーゼ)の翻訳を強化する修飾、及び/または細胞内に導入されるRNAが先天性免疫応答を誘出する可能性もしくは程度を減少させる修飾が挙げられる。
【0178】
前述のもの及び他のもの等の修飾の組み合わせは、同様に使用され得る。CRISPR/Casの場合では、例えば、1つ以上の種類の修飾が、ガイドRNAに作成され得(上記に例示されるものを含む)、及び/または1つ以上の種類の修飾が、CasエンドヌクレアーゼをコードするRNAに作成され得る(上記に例示されるものを含む)。
【0179】
例証として、CRISPR/Casシステムにおいて使用されるガイドRNA、または他のより小さいRNAは、当該技術分野において知られる通り多数の修飾が容易に組み込まれることを可能にする化学的手段によって容易に合成され得る。化学的合成手順は、絶えず拡大しており、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC、これはPAGE等のゲルの使用を回避する)等の手順によるかかるRNAの精製は、ポリヌクレオチド長さが百ヌクレオチド超程度に著しく増加するため、より困難になる傾向がある。化学的に修飾されたより長い長さのRNAを発生させるために使用される1つのアプローチは、一緒にライゲーションされる2つ以上の分子を生成することである。はるかに長いRNA、例えば、Cas9エンドヌクレアーゼをコードするもの等は、より容易に酵素的に発生される。概してより少ない種類の修飾が酵素的に生成されるRNAにおける使用に関して利用可能ではあるが、例えば、下記及び当該技術分野において説明される通り、安定性を強化するため、先天性免疫応答の可能性もしくは程度を低減するため、及び/または他の属性を強化するために使用され得る修飾が依然存在し、新たな種類の修飾が定期的に開発されている。
【0180】
種々の種類の修飾、特により小さい化学的に合成されたRNAと共にしばしば使用されるものの例証として、修飾は、糖の2’位において修飾されえた1つ以上のヌクレオチドを含み得る。かかる修飾は、オリゴヌクレオチドに日常的に組み込まれ、これらのオリゴヌクレオチドは、所与の標的に対して2’-デオキシオリゴヌクレオチドよりも高いTm(すなわち、より高い標的結合親和性)を有することが示されている。類似の修飾も、オリゴヌクレオチド上の他の位置、特に3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位及び5’末端ヌクレオチドの5’位に作成され得る。オリゴヌクレオチドはまた、糖模倣体、例えば、ペントフラノシル基の代わりにシクロブチルを有し得る。
【0181】
多数のヌクレオチド及びヌクレオシド修飾は、それらが組み込まれるオリゴヌクレオチドを、ヌクレアーゼ消化に対して天然のオリゴヌクレオチドより耐性にすることが示されており、これらの修飾されたオリゴは、修飾されていないオリゴヌクレオチドより長時間無傷のまま生き残る。修飾されたオリゴヌクレオチドの具体的な例としては、修飾された主鎖を含むもの、例えば、ホスホロチオエート、ホスホトリエステル、メチルホスホネート、短鎖アルキルもしくはシクロアルキル糖間連結または短鎖ヘテロ原子もしくは複素環糖間連結が挙げられる。
【0182】
リン原子をその中に含まない修飾されたオリゴヌクレオチド主鎖は、短鎖アルキルもしくはシクロアルキルヌクレオシド間連結、混合されたヘテロ原子及びアルキルまたはシクロアルキルヌクレオシド間連結、または1つ以上の短鎖ヘテロ原子もしくは複素環ヌクレオシド間連結によって形成される主鎖を有する。これらは、モルホリノ連結(ヌクレオシドの糖部分から部分的に形成される);シロキサン主鎖;スルフィド、スルホキシド、及びスルホン主鎖;ホルムアセチル及びチオホルムアセチル主鎖;メチレンホルムアセチル及びチオホルムアセチル主鎖;アルケン含有主鎖;スルファメート主鎖;メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノ主鎖;スルホネート及びスルホンアミド主鎖;アミド主鎖;ならびに混合されたN、O、S、及びCH2成分を有する他のものを有するものを含む。
【0183】
いくつかの実施形態では、ヌクレオチド単位の糖及びヌクレオシド間連結の両方、すなわち主鎖は、新規の基で置換される。塩基単位は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。1つのかかるオリゴマー化合物、優れたハイブリダイゼーション特性を有することが示されているオリゴヌクレオチド模倣体は、ペプチド核酸(PNA)と称される。PNA化合物では、オリゴヌクレオチドの糖主鎖は、アミド含有主鎖、例えば、アミノエチルグリシン主鎖で置換される。核酸塩基は、保持され、主鎖のアミド部分のアザ窒素原子に直接的または間接的に結合される。
【0184】
ガイドRNAはまた、追加的または代替的に、核酸塩基(当該技術分野では単に「塩基」と称されることが多い)修飾または置換を含み得る。本明細書で使用されるとき、「修飾されていない」または「天然の」核酸塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、及びウラシル(U)を含む。修飾された核酸塩基としては、天然核酸内にまれにまたは一時的に見いだされる核酸塩基、例えば、ヒポキサンチン、6-メチルアデニン、5-Meピリミジン、特に5-メチルシトシン(5-メチル-2’デオキシシトシンとも称され、当該技術分野では5-Me-Cと称されることも多い)、5-ヒドロキシメチルシトシン(HMC)、グリコシルHMC及びゲントビオシル(gentobiosyl)HMC、ならびに合成核酸塩基、例えば、2-アミノアデニン、2-(メチルアミノ)アデニン、2-(イミダゾリルアルキル)アデニン、2-(アミノアルクリアミノ(aminoalklyamino))アデニンまたは他のヘテロ置換アルキルアデニン、2-チオウラシル、2-チオチミン、5-ブロモウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、8-アザグアニン、7-デアザグアニン、N6(6-アミノヘキシル)アデニン、及び2,6-ジアミノプリンが挙げられる。Kornberg,A.,DNA Replication,W.H.Freeman & Co.,San Francisco,pp75-77(1980);Gebeyehuら、Nucl.Acids Res.15:4513(1997)。当該技術分野において知られる「ユニバーサル」塩基、例えば、イノシンも、含まれ得る。5-Me-C置換は、核酸二重鎖安定性を0.6~1.2℃増加させることが示されており(Sanghvi,Y.S.,in Crooke,S.T.and Lebleu,B.,eds.,Antisense Research and Applications,CRC Press,Boca Raton,1993,pp.276-278)、塩基置換の実施形態である。
【0185】
したがって、「修飾された」という用語は、ガイドRNA、エンドヌクレアーゼ、またはガイドRNA及びエンドヌクレアーゼの両方に組み込まれる非天然糖、ホスフェート、または塩基を指す。所与のオリゴヌクレオチド内のすべての位置が均一に修飾される必要はなく、実際、前述の修飾のうちの複数は、単一のオリゴヌクレオチド内に、またはさらにはオリゴヌクレオチド内の単一のヌクレオシド内に組み込まれてもよい。
【0186】
化学的合成にはより適さず、典型的には酵素的合成によって生成されるより長いポリヌクレオチドも、種々の手段によって修飾され得る。かかる修飾としては、例えば、特定のヌクレオチド類似体の導入、分子の5’または3’末端における特定の配列または他の部分の組み込み、及び他の修飾が挙げられ得る。例証として、Cas9をコードするmRNAは、およそ4kbの長さであり、インビトロ転写によって合成され得る。mRNAに対する修飾は、例えば、例えば、その翻訳もしくは安定性を増加させるため(例えば、細胞による分解に対するその耐性を増加させることによって)、または外因性RNA、特に、Cas9をコードするもの等のより長いRNAの導入後にしばしば細胞内で観察される先天性免疫応答を誘出するRNAの傾向を低減するために適用され得る。
【0187】
多数のかかる修飾は、当該技術分野において説明されており、例えば、polyA尾部、5’キャップ類似体(例えば、アンチリバースキャップ類似体(ARCA)もしくはm7G(5’)ppp(5’)G(mCAP))、修飾された5’もしくは3’未翻訳領域(UTR)、修飾された塩基の使用(シュード-UTP、2-チオ-UTP、5-メチルシチジン-5’-トリホスフェート(5-メチル-CTP)、もしくはN6-メチル-ATP等)、または5’末端ホスフェートを除去するためのホスファターゼによる処置等である。これら及び他の修飾は、当該技術分野において知られており、RNAの新たな修飾は、定期的に開発されている。
【0188】
修飾されたRNAの多数の商用供給元が存在し、例えば、TriLink Biotech、AxoLabs、Bio-Synthesis Inc.、Dharmacon、及び多数の他のものが挙げられる。TriLinkによって説明されている通り、例えば、5-メチル-CTPは、増加されたヌクレアーゼ安定性、増加された翻訳、または先天性面機受容体とインビトロの転写されたRNAとの低減された相互作用等の望ましい特徴を付与するために使用され得る。5-メチルシチジン-5’-トリホスフェート(5-メチル-CTP)、N6-メチル-ATP、ならびにシュード-UTP及び2-チオ-UTPもまた、下記に参照されるKormannら及びWarrenらによる出版物に例証される通り、翻訳を強化しながら培養及びインビボにおいて先天性免疫刺激を低減することが示されている。
【0189】
インビボで送達される化学的に修飾されたmRNAは、改善された治療的効果を達成するために使用され得ることが示されている;例えば、Kormannら、Nature Biotechnology 29,154-157(2011)を参照されたい。かかる修飾は、例えば、RNA分子の安定性を増加させる、及び/またはその免疫原性を低減するために使用され得る。シュード-U、N6-メチル-A、2-チオ-U、及び5-メチル-C等の化学的修飾を使用して、ウリジン及びシチジン残基の4分の1のみをそれぞれ2-チオ-U及び5-メチル-Cで置換することは、マウスにおけるmRNAのtoll様受容体(TLR)媒介認識の著しい減少をもたらすことが見いだされた。先天性免疫系の活性化を低減することによって、これらの修飾は、インビボのmRNAの安定性及び寿命を効果的に増加させるために使用され得る;例えば、Kormannら(上記参照)を参照されたい。
【0190】
したがって、多様な修飾が、当該技術分野において開発され、RNAの安定性を強化する、先天性免疫応答を低減する、及び/または本明細書に説明されるようなヒト細胞内へのポリヌクレオチドの導入に関連して有用であり得る他の利益を達成するために適用されている;例えば、Whitehead KAら、Annual Review of Chemical and Biomolecular Engineering,2:77-96(2011);Gaglione and Messere,Mini Rev Med Chem,10(7):578-95(2010);Chernolovskayaら、Curr Opin Mol Ther.,12(2):158-67(2010);Deleaveyら、Curr Protoc Nucleic Acid Chem Chapter 16:Unit 16.3(2009);Behlke,Oligonucleotides 18(4):305-19(2008);Fuciniら、Nucleic Acid Ther 22(3):205-210(2012);Bremsenら、Front Genet 3:154(2012)による考察を参照されたい。
【0191】
上述の通り、修飾されたRNAの多数の商用供給元が存在し、その多くは、siRNAの有効性を改善するように設計される修飾に特化されている。文献内に報告されている種々の発見に基づいて、多様なアプローチが提示されている。例えば、Dharmaconは、Kole,Nature Reviews Drug Discovery 11:125-140(2012)によって報告される通り、非架橋酸素の硫黄による置換(ホスホロチオエート、PS)はsiRNAのヌクレアーゼ耐性を改善するために広く使用されていると述べている。リボースの2’位の修飾は、二重鎖安定性(Tm)を増加させると同時に、ヌクレオチド間ホスフェート結合のヌクレアーゼ耐性を改善することが報告されており、それは免疫活性化からの保護を提供することも示されている。適度なPS主鎖修飾と小さい十分に許容される2’-置換(2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-ヒドロ)との組み合わせは、Soutschekら、Nature 432:173-178(2004)によって報告される通り、インビボ適用に関して高度に安定したsiRNAと関連付けられており、2’-O-メチル修飾は、Volkov,Oligonucleotides 19:191-202(2009)によって報告される通り、安定性の改善に効果的であることが報告されている。先天性免疫応答の誘導の減少に関して、2’-O-メチル、2’-フルオロ、2’-ヒドロを用いた特定の配列の修飾ことは、概してサイレンシング活性を保存しながら、TLR7/TLR8相互作用を低減することが報告されている;例えば、Judgeら、Mol.Ther.13:494-505(2006);及びCekaiteら、J.Mol.Biol.365:90-108(2007)を参照されたい。2-チオウラシル、シュードウラシル、5-メチルシトシン、5-メチルウラシル、及びN6-メチルアデノシン等の追加的な修飾はまた、TLR3、TLR7、及びTLR8によって媒介される免疫効果を最小にすることが示されている;例えば、Kariko,K.ら、Immunity 23:165-175(2005)を参照されたい。
【0192】
当該技術分野において知られる及び市販されている通り、本明細書における使用のために、細胞によるそれらの送達及び/または摂取を強化し得る多数の共役体がRNA等のポリヌクレオチドに適用され得る;例えば、コレステロール、トコフェロール及び葉酸、脂質、ペプチド、ポリマー、リンカー、ならびにアプタマーが挙げられ、例えば、Winkler,Ther.Deliv.4:791-809(2013)による考察、及びその中に引用される参考文献を参照されたい。
【0193】
コドン最適化
いくつかの実施形態では、部位指向性ポリペプチドコードするポリヌクレオチドは、関心の標的DNAを含む細胞内の発現に関する当該技術分野において標準的である方法に従ってコドン最適化される。例えば、意図される標的核酸がヒト細胞内にある場合、Cas9をコードするヒトコドン最適化ポリヌクレオチドが、Cas9ポリペプチドを生成するための使用に関して企図される。
【0194】
ゲノム標的化核酸と部位指向性ポリペプチドとの複合体
ゲノム標的化核酸は、部位指向性ポリペプチド(例えば、Cas9等の核酸ガイドヌクレアーゼ)と相互作用し、それによって複合体を形成する。ゲノム標的化核酸は、部位指向性ポリペプチドを標的核酸へとガイドする。
【0195】
核酸コードシステム構成要素
別の態様では、本開示は、本開示のゲノム標的化核酸をコードするヌクレオチド配列を含む核酸、本開示の部位指向性ポリペプチド、及び/または本開示の方法の実施形態を実行するために必要な任意の核酸もしくはタンパク質性分子を提供する。
【0196】
いくつかの実施形態では、本開示のゲノム標的化核酸をコードする核酸、本開示の部位指向性ポリペプチド、及び/または本開示の方法の実施形態を実行するために必要な任意の核酸もしくはタンパク質性分子は、ベクター(例えば、組み換え発現ベクター)を含む。
【0197】
「ベクター」という用語は、それが連結されている別の核酸に輸送することが可能な核酸分子を指す。1つの種類のベクターは、「プラスミド」であり、これは、追加的な核酸セグメントがその中にライゲーションされ得る環状二本鎖DNAループを指す。別の種類のベクターは、追加的な核酸セグメントがウイルスゲノム内にライゲーションされ得るウイルスベクターである。特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞内で自己複製し得る(例えば、細菌性複製起点を有する細菌ベクター及びエピソーム性哺乳類ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム性哺乳類ベクター)は、宿主細胞内への導入時に宿主細胞のゲノム内に統合され、それによって宿主ゲノムと共に複製される。
【0198】
いくつかの実施形態では、ベクターは、それらが作動的に連結される核酸の発現を指向させ得る。かかるベクターは、本明細書において「組み換え発現ベクター」、またはより単純に「発現ベクター」と称され、これらは同等の機能を果たす。
【0199】
「作動可能に連結される」という用語は、関心のヌクレオチド配列が、該ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で調節配列(複数可)に連結されることを意味する。「調節配列」という用語は、例えば、プロモーター、エンハンサー、及び他の発現制御要素(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図される。かかる調節配列は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,CA(1990)に説明されている。調節配列としては、多くの種類の宿主細胞内でヌクレオチド配列の構成的発現を指向させるもの、及び特定の宿主細胞内でのみヌクレオチド配列の発現を指向させるもの(例えば、組織特異性調節配列)が挙げられる。発現ベクターの設計は、標的細胞の選択、所望の発現レベル等の因子に依存し得ることが、当業者によって理解されるであろう。
【0200】
企図される発現ベクターとしては、限定されるものではないが、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、SV40、単純疱疹ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、レトロウイルス(例えば、ネズミ白血病ウイルス、脾壊死ウイルス、ならびに、例えば、ラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、レンチウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、及び乳腺腫瘍ウイルス等のレトロウイルスに由来するベクター)に基づくウイルスベクター、及び他の組み換えベクターが挙げられる。真核性標的細胞に関して企図される他のベクターとしては、限定されるものではないが、ベクターpXT1、pSG5、pSVK3、pBPV、pMSG、及びpSVLSV40(Pharmacia)が挙げられる。他のベクターは、それらが宿主細胞と適合可能である限り使用されてもよい。
【0201】
いくつかの実施形態では、ベクターは、1つ以上の転写及び/または翻訳制御要素を含む。利用される宿主/ベクター系に応じて、構成的及び誘導性プロモーター、転写エンハンサー要素、転写終結因子等を含む多数の好適な転写及び翻訳制御要素のいずれかが、発現ベクター内で使用され得る。いくつかの実施形態では、ベクターは、CRISPR機構または他の要素のウイルス配列または構成要素のいずれかを不活性化する自己不活性化ベクターである。
【0202】
好適な真核性プロモーター(すなわち、真核細胞内で機能するプロモーター)の非限定的な例としては、サイトメガロウイルス(CMV)前初期に由来するもの、単純疱疹ウイルス(HSV)チミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルスに由来する長い末端反復(LTR)、ヒト延長因子-1プロモーター(EF1)、トリベータ-アクチンプロモーター(CAG)に融合されたサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーを含むハイブリッド構築物、マウス幹細胞ウイルスプロモーター(MSCV)、ホスホグリセラートキナーゼ-1遺伝子座プロモーター(PGK)、ならびにマウスメタロチオネイン-Iが挙げられる。
【0203】
Casエンドヌクレアーゼに関連して使用されるガイドRNAを含む、小さいRNAを発現させるために、例えば、U6及びH1を含むRNAポリメラーゼIIIプロモーター等の種々のプロモーターが、有利であり得る。かかるプロモーターの使用の説明、及びそれを強化するためのパラメータは、当該技術分野において知られており、さらなる情報及びアプローチは、定期的に説明されている;例えば、Ma,H.ら、Molecular Therapy-Nucleic Acids 3,e161(2014)doi:10.1038/mtna.2014.12を参照されたい。
【0204】
発現ベクターはまた、翻訳開始及び転写終結因子のためのリボソーム結合部位を含んでもよい。発現ベクターはまた、発現を増幅させるための適切な配列を含んでもよい。発現ベクターはまた、部位指向性ポリペプチドに融合され、したがって融合タンパク質をもたらす非天然タグ(例えば、ヒスチジンタグ、ヘマグルチニンタグ、緑蛍光タンパク質等)をコードするヌクレオチド配列を含んでもよい。
【0205】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、誘導性プロモーター(例えば、ヒートショックプロモーター、テトラサイクリン調節プロモーター、ステロイド調節プロモーター、金属調節プロモーター、エストロゲン受容体調節プロモーター等)である。いくつかの実施形態では、プロモーターは、構成的プロモーター(例えば、CMVプロモーター、UBCプロモーター)である。いくつかの実施形態では、プロモーターは、空間的に制限された、及び/または一時的に制限されたプロモーター(例えば、組織特異性プロモーター、細胞型特異性プロモーター等)である。
【0206】
いくつかの実施形態では、本開示のゲノム標的化核酸及び/または部位指向性ポリペプチドをコードする核酸は、細胞への送達のために送達ビヒクル内またはその表面上にパッケージ化される。企図される送達ビヒクルとしては、限定されるものではないが、ナノスフェア、リポソーム、量子ドット、ナノ粒子、ポリエチレングリコール粒子、ヒドロゲル、及びミセルが挙げられる。当該技術分野において説明される通り、多様な標的化部分が、かかるビヒクルと所望の細胞型または場所との優先的な相互作用を強化するために使用され得る。
【0207】
本開示の複合体、ポリペプチド、及び核酸の細胞内への導入は、ウイルス感染またはバクテリオファージ感染、トランスフェクション、共役、原形質融合、リポフェクション、電気穿孔法、ヌクレオフェクション(nucleofection)、リン酸カルシウム沈殿、ポリエチレンイミン(PEI)媒介トランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、リポソーム媒介トランスフェクション、粒子銃技術、リン酸カルシウム沈殿、直接マイクロインジェクション、ナノ粒子媒介核酸送達等によって生じ得る。
【0208】
送達
ガイドRNAポリヌクレオチド(RNAまたはDNA)及び/またはエンドヌクレアーゼポリヌクレオチド(複数可)(RNAまたはDNA)は、当該技術分野において知られているウイルス性または非ウイルス性送達ビヒクルによって送達され得る。別法として、エンドヌクレアーゼポリペプチド(複数可)は、電気穿孔法または脂質ナノ粒子等の当該技術分野において知られている非ウイルス性送達ビヒクルによって送達されてもよい。さらなる代替的な実施形態では、DNAエンドヌクレアーゼは、1つ以上のポリペプチドとして、単独で、または1つ以上のガイドRNAと、もしくはtracrRNAを伴って1つ以上のcrRNAと予備複合体化されて送達されてもよい。
【0209】
ポリヌクレオチドは、ナノ粒子、リポソーム、リボ核タンパク質、正荷電ペプチド、小分子RNA-共役体、アプタマー-RNAキメラ、及びRNA-融合タンパク質複合体が挙げられるがそれらに限定されない、非ウイルス性送達ビヒクルによって送達されてもよい。いくつかの例示的な非ウイルス性送達ビヒクルは、Peer and Lieberman,Gene Therapy,18:1127-1133(2011)に説明されている(ここでは、他のポリヌクレオチドの送達にも有用であるsiRNAのための非ウイルス性送達ビヒクルに焦点が当てられている)。
【0210】
エンドヌクレアーゼをコードするガイドRNA、sgRNA、及びmRNA等のポリヌクレオチドは、脂質ナノ粒子(LNP)によって細胞または患者に送達されてもよい。
【0211】
LNPは、1000nm、500nm、250nm、200nm、150nm、100nm、75nm、50nm、または25nm未満の直径を有する任意の粒子を指す。別法として、ナノ粒子は、1~1000nm、1~500nm、1~250nm、25~200nm、25~100nm、35~75nm、または25~60nmのサイズにわたってもよい。
【0212】
LNPは、カチオン性、アニオン性、または中性の脂質から作成されてもよい。融合性リン脂質DOPEまたは膜構成要素コレステロール等の中性脂質は、トランスフェクション活性及びナノ粒子安定性を強化するための「ヘルパー脂質」としてLNPに含まれてもよい。カチオン性脂質の制限としては、不良な安定性及び高速クリアランスによる低い有効性、ならびに炎症応答または抗炎症応答の発生が挙げられる。
【0213】
LNPはまた、疎水性脂質、親水性脂質、または疎水性脂質及び親水性脂質の両方からなってもよい。
【0214】
当該技術分野において知られている任意の脂質または脂質の組み合わせが、LNPを生成するために使用されてもよい。LNPを生成するために使用される脂質の例は、DOTMA、DOSPA、DOTAP、DMRIE、DC-コレステロール、DOTAP-コレステロール、GAP-DMORIE-DPyPE、及びGL67A-DOPE-DMPE-ポリエチレングリコール(PEG)である。カチオン性脂質の例は、98N12-5、C12-200、DLin-KC2-DMA(KC2)、DLin-MC3-DMA(MC3)、XTC、MD1、及び7C1である。中性脂質の例は、DPSC、DPPC、POPC、DOPE、及びSMである。PEG修飾脂質の例は、PEG-DMG、PEG-CerC14、及びPEG-CerC20である。
【0215】
脂質は、LNPを生成するために任意の数のモル比で組み合わされてもよい。それに加えて、ポリヌクレオチド(複数可)は、LNPを生成するために幅広いモル比で脂質(複数可)と組み合わされてもよい。
【0216】
前述の通り、部位指向性ポリペプチド及びゲノム標的化核酸は各々、細胞または患者に別々に投与されてもよい。一方、部位指向性ポリペプチドは、1つ以上のガイドRNAと、またはtracrRNAを伴って1つ以上のcrRNAと予備複合体化されてもよい。予備複合体化された材料は次に、細胞または患者に投与され得る。かかる予備複合体化された材料は、リボ核タンパク質粒子(RNP)として知られる。
【0217】
RNAは、RNAまたはDNAと特異的な相互作用を形成し得る。この特性は多くの生物学的プロセスにおいて利用されるが、核酸が豊富な細胞環境では混乱した相互作用の危険性も伴う。この問題に対する1つの解決策は、RNAがエンドヌクレアーゼと予備複合体化されるリボ核タンパク質粒子(RNP)の形成である。RNPの別の利益は、分解からのRNAの保護である。
【0218】
RNP内のエンドヌクレアーゼは、修飾されていても、または修飾されていなくてもよい。同様に、gRNA、crRNA、tracrRNA、またはsgRNAは、修飾されていても、または修飾されていなくてもよい。多数の修飾が、当該技術分野において知られており、使用され得る。
【0219】
エンドヌクレアーゼ及びsgRNAは、概して1:1のモル比で組み合わされる。別法として、エンドヌクレアーゼ、crRNA、及びtracrRNAは、概して1:1:1のモル比で組み合わされる。しかしながら、RNPを生成するために幅広いモル比が使用されてもよい。
【0220】
組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが、送達のために使用されてもよい。送達されるポリヌクレオチドを含むパッケージ化されるAAVゲノム、レップ及びキャップ遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能が細胞に提供される、rAAV粒子を生成するための技術は、当該技術分野において標準的である。rAAVの生成は、以下の構成要素が単一の細胞内に存在することを必要とする(本明細書においてパッケージング細胞として示される):rAAVゲノム、該rAAVゲノムと分離した(すなわち、その中にない)AAVレップ及びキャップ遺伝子、ならびにヘルパーウイルス機能。AAVレップ及びキャップ遺伝子は、組み換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型に由来してもよく、AAV血清型AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAV-11、AAV-12、AAV-13、及びAAVrh.74を含むがそれらに限定されない、rAAVゲノムITRとは異なるAAV血清型に由来してもよい。偽型rAAVの生成は、例えば、国際特許出願公開第WO01/83692号に開示されている。表1を参照されたい。
【表1】
【0221】
パッケージング細胞を発生させるための方法は、AAV粒子生成に必要な構成要素のすべてを安定して発現する細胞株を作成することを含む。例えば、AAVレップ及びキャップ遺伝子を欠くrAAVゲノムと、該rAAVゲノムと分離したAAVレップ及びキャップ遺伝子と、ネオマイシン耐性遺伝子等の選択可能な標識とを含むプラスミド(または複数のプラスミド)が、細胞のゲノム内に統合される。AAVゲノムは、GCテーリング(Samulskiら、1982,Proc.Natl.Acad.S6.USA,79:2077-2081)、制限エンドヌクレアーゼ開裂部位を含有する合成リンカーの付加(Laughlinら、1983,Gene,23:65-73)等の手順によって、または直接的な平滑末端ライゲーション(Senapathy & Carter,1984,J.Biol.Chem.,259:4661-4666)によって、細菌性プラスミドに導入されている。パッケージング細胞株は次に、アデノウイルス等のヘルパーウイルスに感染される。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模な生成に好適であることである。好適な方法の他の例は、プラスミドではなくアデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いて、rAAVゲノムならびに/またはレップ及びキャップ遺伝子をパッケージング細胞内に導入する。
【0222】
rAAV生成の一般的原理は、例えば、Carter,1992,Current Opinions in Biotechnology,1533-539;及びMuzyczka,1992,Curr.Topics in Microbial.and Immunol.,158:97-129)に考察されている。種々のアプローチが、Ratschinら、Mol.Cell.Biol.4:2072(1984);Hermonatら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6466(1984);Tratschinら、Mo1.Cell.Biol.5:3251(1985);McLaughlinら、J.Virol.,62:1963(1988);及びLebkowskiら、1988 Mol.Cell.Biol.,7:349(1988)、Samulskiら(1989,J.Virol.,63:3822-3828);米国特許第5,173,414号;WO95/13365及び対応する米国特許第5,658.776号;WO95/13392;WO96/17947;PCT/US98/18600;WO97/09441(PCT/US96/14423);WO97/08298(PCT/US96/13872);WO97/21825(PCT/US96/20777);WO97/06243(PCT/FR96/01064);WO99/11764;Perrinら(1995)Vaccine 13:1244-1250;Paulら(1993)Human Gene Therapy 4:609-615;Clarkら(1996)Gene Therapy 3:1124-1132;米国特許第5,786,211号;米国特許第5,871,982号;ならびに米国特許第6,258,595号に説明されている。
【0223】
AAVベクター血清型は、標的の細胞型に適合され得る。例えば、以下の例示的な細胞型はとりわけ、示されるAAV血清型によって形質導入され得る。表2を参照されたい。
【表2】
【0224】
いくつかの実施形態では、Cas9 mRNA、タイチン遺伝子内の1つまたは2つの遺伝子座を標的化するsgRNA、及びドナーDNAは、各々別々に脂質ナノ粒子に製剤化されるか、またはすべて1つの脂質ナノ粒子に共製剤化される。
【0225】
いくつかの実施形態では、Cas9 mRNAは、脂質ナノ粒子に製剤化され、一方sgRNA及びドナーDNAは、AAVベクター内で送達される。
【0226】
遺伝的に修飾された細胞
「遺伝的に修飾された細胞」という用語は、ゲノム編集によって(例えば、CRISPR/Casシステムを使用して)導入された少なくとも1つの遺伝的修飾を含む細胞を指す。本明細書におけるいくつかのエクスビボの実施形態では、遺伝的に修飾された細胞は、遺伝的に修飾された前駆細胞である。本明細書におけるいくつかのインビボの実施形態では、遺伝的に修飾された細胞は、遺伝的に修飾された心臓または骨格筋の細胞である。外因性ゲノム標的化核酸及び/またはゲノム標的化核酸をコードする外因性核酸を含む遺伝的に修飾された細胞は、本明細書において企図される。
【0227】
「対照治療集団」という用語は、ゲノム編集構成要素の付加を除き、同一の培地、ウイルス誘導、核酸配列、温度、密集度、フラスコサイズ、pH等を用いて治療された細胞の集団を説明する。例えば、タイチンタンパク質のウエスタンブロット分析またはタイチンmRNAの定量化等の当該技術分野において知られている任意の方法が、タイチン遺伝子の回復またはタンパク質の発現もしくは活性を測定するために使用され得る。
【0228】
「単離された細胞」という用語は、それがもともと見出された有機体から除去されている細胞、またはかかる細胞の子孫を指す。任意に、細胞は、例えば、定義された条件下または他の細胞の存在下で、インビトロで培養されている。任意に、細胞は、その後で第2の有機体に導入されるか、またはそれが単離された有機体(またはそれがその子孫である細胞)に再導入される。
【0229】
単離された細胞集団に関する「単離された集団」という用語は、混合されたまたは不均一な細胞の集団から除去及び分離されている細胞の集団を指す。いくつかの実施形態では、単離された集団は、細胞がそれから単離または富化された不均一な集団と比較して、実質的に純粋な細胞の集団である。いくつかの実施形態では、単離された集団は、単離されたヒト前駆細胞の集団であり、例えば、ヒト前駆細胞と該ヒト前駆細胞が由来する細胞とを含む不均一な細胞の集団と比較して、実質的に純粋なヒト前駆細胞の集団である。
【0230】
特定の細胞集団に関する「実質的に強化された」という用語は、特定の種類の細胞の発生が、例えば、心筋症または他のタイチノパチーを改善するためのかかる細胞の所望のレベルに応じて、既存のまたは基準のレベルと比較して少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも400倍、少なくとも1000倍、少なくとも5000倍、少なくとも20000倍、少なくとも100000倍以上増加される細胞の集団指す。
【0231】
特定の細胞集団に関する「実質的に富化された」という用語は、細胞集団全体を構成する細胞に関して、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%以上である細胞の集団を指す。
【0232】
特定の細胞集団に関する「実質的に富化された」または「実質的に純粋な」という用語は、細胞集団全体を構成する細胞に関して、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%純粋な細胞の集団を指す。すなわち、前駆細胞の集団に関する「実質的に純粋な」または「本質的に精製された」という用語は、本用語によって本明細書に定義される通り、約20%、約15%、約10%、約9%、約8%、約7%、約6%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%より少ない、または1%未満の、前駆細胞ではない細胞を含有する細胞の集団を指す。
【0233】
患者への細胞のインプラント
本発明のエクスビボ方法の別のステップは、肝細胞を患者にインプラントすることを含む。このインプラントするステップは、当該技術分野において知られている任意のインプラント方法を使用して達成され得る。例えば、遺伝的に修飾された細胞は、患者の肝臓に直接注射されてもよく、ないしは別の方法で患者に投与されてもよい。
【0234】
本発明のエクスビボ方法の別のステップは、eCSCまたは初代心筋細胞を患者にインプラントすることを含む。このインプラントするステップは、当該技術分野において知られている任意のインプラント方法を使用して達成され得る。例えば、遺伝的に修飾された細胞は、患者の心臓に直接注射されてもよく、ないしは別の方法で患者に投与されてもよい。
【0235】
薬学的に許容される担体
本明細書に企図される対象に前駆細胞を投与するエクスビボ方法は、前駆細胞を含む治療用組成物の使用を含む。
【0236】
治療用組成物は、細胞組成物と一緒に生理学的に忍容性のある担体を、及び任意に、活性成分としてその中に溶解または分散された本明細書に説明される少なくとも1つの追加的な生物活性剤を含有する。いくつかの実施形態では、治療用組成物は、望まれない限り、治療的目的のための哺乳類またはヒト患者に投与されるときに実質的に免疫原性ではない。
【0237】
概して、本明細書に説明される前駆細胞は、薬学的に許容される担体と共に懸濁液として投与される。当業者は、細胞組成物中に使用される薬学的に許容される担体は、緩衝液、化合物、凍結保存剤、防腐剤、または他の薬剤を、対象に送達される細胞の生存に実質的に干渉する量で含まないことを認識するであろう。細胞を含む製剤としては、例えば、細胞膜の完全性が維持されること、及び任意に、栄養素が細胞の生存を維持するまたは投与時の生着を強化することを許可する浸透圧緩衝液が挙げられ得る。かかる製剤及び懸濁液は、当業者に知られており、及び/または日常的な実験を使用して本明細書に説明される通り前駆細胞との使用に適合され得る。
【0238】
細胞組成物はまた、乳化され得るか、または乳化手順が細胞の生存に悪影響を及ぼす場合にはリポソーム組成物として提示され得る。細胞及び任意の他の活性成分は、薬学的に許容され、かつ活性成分と両立可能な賦形剤と、本明細書に説明される治療的方法における使用に好適な量で混合され得る。
【0239】
細胞組成物中に含まれる追加的な薬剤としては、その中の構成要素の薬学的に許容される塩が挙げられ得る。薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸もしくはリン酸等の無機酸、または酢酸、酒石酸、マンデル酸等の有機酸と共に酸付加塩(ポリペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)が挙げられる。遊離カルボキシル基と共に形成される塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄等の無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等の有機塩基に由来し得る。
【0240】
生理学的に忍容性のある担体は、当該技術分野においてよく知られている。例示的な液体担体は、活性成分及び水に加えて何も材料を含有しないか、または生理的pH値のリン酸ナトリウム、生理食塩水、またはその両方等の緩衝液、例えば、リン酸緩衝食塩水を含有する滅菌水溶液である。またさらに、水性担体は、複数の緩衝塩、及び塩化ナトリウム及びカリウム等の塩、デキストロース、ポリエチレングリコール、ならびに他の溶質を含有し得る。液体組成物はまた、水に加えて及び水を除外して、液相を含有し得る。かかる追加的な液相の例示的なものは、グリセリン、綿実油等の植物油、及び水-油乳剤である。特定の障害または状態の治療に有効な細胞組成物中に使用される活性化合物の量は、その障害または状態の性質に依存し、標準的な臨床技術によって決定され得る。
【0241】
投与及び有効性
「投与する」、「導入する」、及び「移植する」は、所望の効果(複数可)が生み出されるように、傷害または修復部位等の所望の部位における導入される細胞の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法または経路による、細胞、例えば、前駆細胞の対象内のへ配置の文脈において、互換的に使用される。細胞、例えば、前駆細胞、またはその分化した子孫は、インプラントされた細胞または細胞の構成要素の少なくとも一部分が生存可能なままである対象内の所望の場所への送達をもたらす任意の適切な経路によって投与され得る。対象への投与後の細胞の生存期間は、数時間程の短さ、例えば、24時間から数日間、数年間程の長さ、またはさらには患者の寿命、すなわち、長期の生着であり得る。例えば、本明細書に説明されるいくつかの実施形態では、有効な量の筋原前駆細胞が、腹腔内または静脈内経路等の全身投与経路を介して投与される。
【0242】
「個人」、「対象」、「宿主」、及び「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用され、診断、治療、または療法が所望される任意の対象を指す。いくつかの実施形態では、対象は、哺乳類である。いくつかの実施形態では、対象は、人間である。
【0243】
予防的に投与されるとき、本明細書に説明される治療方法は、心筋症または他のタイチノパチーのいずれの症状より前に対象に投与される。したがって、予防的投与は、心筋症または他のタイチノパチーを防ぐ役割を果たす。
【0244】
治療的に提供されるとき、本明細書に説明される治療方法は、心筋症または他のタイチノパチーの症状の開始時(またはその後)に対象に投与される。
【0245】
いくつかの実施形態では、「有効な量」という用語は、心筋症または他のタイチノパチーの少なくとも1つの症状を予防または軽減するために投与することが必要とされる組成物の量を指し、例えば、心筋症または他のタイチノパチーを有する対象を治療する等の所望の効果を提供するのに十分な組成物の量に関する。したがって「治療的に有効な量」という用語は、典型的な対象、例えば、心筋症または他のタイチノパチーを有するか、またはその危険がある対象に投与されるときに、特定の効果を促進するのに十分な組成物の量を指す。有効な量としてはまた、疾患の症状の発症を予防するもしくは遅らせる、疾患の症状の経過を変化させる(例えば、限定されるものではないが、疾患の症状の進行を遅くする)、または疾患の症状を逆転させるのに十分な量が挙げられるであろう。いずれの場合においても、適切な「有効な量」は、日常的な実験を使用して当業者によって決定され得ることが理解される。
【0246】
心筋症または他のタイチノパチーを有する患者の細胞内に発現される機能性タイチンタンパク質のレベルの控えめな及び漸進的な増加は、疾患の1つ以上の症状を改善するため、長期生存を増加させるため、及び/または他の治療に関連付けられる副作用を低減するために有益であり得る。いくつかの実施形態では、有効な対象の治療は、治療される対象内の総タイチンタンパク質に対して少なくとも約3%、5%、または7%の機能性タイチンタンパク質を生じさせる。いくつかの実施形態では、機能性タイチンタンパク質は、総タイチンタンパク質の少なくとも約10%であろう。いくつかの実施形態では、機能性タイチンタンパク質は、総タイチンタンパク質の少なくとも約20%~30%であろう。同様に、正常化された細胞は罹患した細胞に対して選択的利点を有する場合があるため、著しく上昇したレベルの機能性タイチンタンパク質を有する、さらに相対的に限定された細胞の下位集団の提供は、種々の患者において有益であり得る。しかしながら、控えめなレベルの機能性タイチンタンパク質でさえ、患者における心筋症または他のタイチノパチーの1つ以上の態様の改善に有益であり得る。いくつかの実施形態では、患者内の修飾された細胞の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%以上が、増加されたレベルの機能性タイチンタンパク質を生成している。
【0247】
「投与される」とは、所望の部位における細胞組成物の少なくとも部分的な局在化をもたらす方法または経路による対象内への組成物の送達を指す。細胞組成物は、対象内に有効な治療をもたらす任意の適切な経路によって投与され得、すなわち、投与は、送達される組成物の少なくとも一部分、すなわち、少なくとも1×104個の細胞が所望の部位に一定期間送達される、対象内の所望の場所への送達をもたらす。投与モードとしては、注射、注入、点滴、または摂取が挙げられる。「注射」としては、限定されるものではないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、脳室内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、脳脊髄内(intracerebro spinal)、及び胸骨内(intrasternal)注射及び注入が挙げられる。いくつかの実施形態では、経路は、静脈内である。細胞の送達に関しては、注射または注入による投与が概して好ましい。
【0248】
1つの実施形態では、投与は、全身性である。「全身投与」、「全身に投与される」、「末梢投与」、及び「末梢投与される」という語句は、標的部位、組織、または臓器内へ直接ではなく、その代わりに対象の循環系に入るような投与を指す。
【0249】
キット
本開示は、本発明の方法を実行するためのキットを提供する。キットは、ゲノム標的化核酸、ゲノム標的化核酸をコードするポリヌクレオチド、部位指向性ポリペプチド、部位指向性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び/または本発明の方法の実施形態を実行するために必要な任意の核酸もしくはタンパク質性分子のうちの1つ以上、あるいはそれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0250】
いくつかの実施形態では、キットは、(1)ゲノム標的化核酸をコードするヌクレオチド配列を含むベクターと、(2)部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列または部位指向性ポリペプチドを含むベクターと、(3)該ベクター(複数可)及びポリペプチドの再構成及び/または希釈のための試薬とを備える。
【0251】
いくつかの実施形態では、キットは、(1)(i)ゲノム標的化核酸をコードするヌクレオチド配列及び(ii)部位指向性ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むベクターと、(2)該ベクターの再構成及び/または希釈のための試薬とを備える。
【0252】
上述のキットのいずれかのいくつかの実施形態では、キットは、単一分子ガイドゲノム標的化核酸を含む。上述のキットのいずれかのいくつかの実施形態では、キットは、二重分子ゲノム標的化核酸を含む。上述のキットのいずれかのいくつかの実施形態では、キットは、2つ以上の二重分子ガイドまたは単一分子ガイドを含む。いくつかの実施形態では、キットは、核酸標的化核酸をコードするベクターを含む。
【0253】
上述のキットのいずれかのいくつかの実施形態では、キットは、所望の遺伝的修飾を達成するために挿入されるポリヌクレオチドをさらに含み得る。
【0254】
キットの構成要素は、別々の容器内にあってもよく、または単一の容器内に組み合わされてもよい。
【0255】
いくつかの実施形態では、上記に説明されるキットは、1つ以上の追加的な試薬をさらに含み、この場合、かかる追加的な試薬は、緩衝液、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを細胞内に導入するための緩衝液、洗浄緩衝液、制御試薬、制御ベクター、制御RNAポリヌクレオチド、DNAからのポリペプチドのインビトロ生成のための試薬、配列決定のためのアダプター等から選択される。緩衝液は、安定化緩衝液、再構成緩衝液、希釈緩衝液等であり得る。いくつかの実施形態では、キットはまた、標的内結合もしくはエンドヌクレアーゼによるDNAの開裂を促進もしくは強化するため、または標的化の特異性を改善するために使用され得る1つ以上の構成要素を含み得る。
【0256】
上述の構成要素に加えて、キットは、本方法を実践するためのキットの構成要素を使用するための取扱説明書をさらに含み得る。本方法を実践するための取扱説明書は概して、好適な記録媒体上に記録される。例えば、取扱説明書は、紙またはプラスチック等の基材上に印刷されてもよい。取扱説明書は、キット内に添付文書として、キットまたはその構成要素の容器のラベル内に(すなわち、パッケージまたはサブパッケージに関連して)等で提示されてもよい。取扱説明書は、例えば、CD-ROM、ディスケット、フラッシュドライブ等の好適なコンピュータ可読記憶媒体上に存在する電子記憶データファイルとして提示され得る。場合により、実際の取扱説明書はキット中に提示されないが、遠隔ソースから取扱説明書を(例えば、インターネットを介して)取得するための手段が提供され得る。この実施形態の例は、取扱説明書が閲覧され得る、及び/または取扱説明書がダウンロードされ得るウェブアドレスを含むキットである。取扱説明書と同様に、取扱説明書を取得するためのこの手段は、好適な基材上に記録され得る。
【0257】
ガイドRNA製剤
本発明のガイドRNAは、特定の投与モード及び剤形に応じて、例えば、担体、溶媒、安定剤、アジュバント、希釈剤等の薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化される。ガイドRNA組成物は概して、生理学的に適合可能なpHを達成するように製剤化され、製剤及び投与経路に応じて約3のpH~約11のpH、約pH3~約pH7の範囲にわたる。代替的な実施形態では、pHは、約pH5.0~約pH8の範囲に調節される。いくつかの実施形態では、組成物は、治療的に有効な量の本明細書に説明される少なくとも1つの化合物を、1つ以上の薬学的に許容される 賦形剤と一緒に含む。任意に、組成物は、本明細書に説明される化合物の組み合わせを含み、または細菌増殖の治療または予防に有用な第2の活性成分(例えば、限定されるものではないが、抗菌剤または抗微生物剤)を含んでもよく、または本発明の試薬の組み合わせを含んでもよい。
【0258】
好適な賦形剤としては、例えば、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、高分子アミノ酸、アミノ酸コポリマー、及び不活性ウイルス粒子等の、大きく、ゆっくりと代謝される巨大分子を含む担体分子が挙げられる。他の例示的な賦形剤としては、酸化防止剤(例えば、限定されるものではないが、アスコルビン酸)、キレート剤(例えば、限定されるものではないが、EDTA)、炭水化物(例えば、限定されるものではないが、デキストリン、ヒドロキシアルキルセルロース、及びヒドロキシアルキルメチルセルロース)、ステアリン酸、液体(例えば、限定されるものではないが、油、水、生理食塩水、グリセロール、及びエタノール)、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質等が挙げられる。
【0259】
他の可能な治療的アプローチ
本明細書に説明される方法においては、Cas9等のCRISPRエンドヌクレアーゼを使用することが好ましい。しかしながら、本明細書に説明される教示、例えば、治療標的部位等は、ZFN、TALEN、HE、またはMegaTAL等のエンドヌクレアーゼの他の形態に適用され得る。
【0260】
亜鉛フィンガーヌクレアーゼ
亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、II型エンドヌクレアーゼFokIの触媒ドメインに連結された改変された亜鉛フィンガーDNA結合ドメインからなる、モジュラータンパク質である。FokIは二量体としてのみ機能するため、一対のZFNは、触媒活性FokI二量体が形成することを可能にするために、反対側のDNA鎖上の同族標的「半部位」配列に、それらの間に正確な間隔を空けて結合するように改変されなければならない。それ自体は配列特異性を有さないFokIドメインが二量体化する際、ゲノム編集の開始ステップとして、DNA二本鎖切断がZFN半部位間に発生される。
【0261】
各ZFNのDNA結合ドメインは、典型的には、豊富なCys2-His2アーキテクチャの3~6個の亜鉛フィンガーからなり、各フィンガーは、標的DNA配列の1つの鎖上のヌクレオチドのトリプレットを主に認識するが、第4のヌクレオチドとの鎖をまたがる相互作用も重要であり得る。DNAと大きく接触する位置におけるフィンガーのアミノ酸の変化は、所与のフィンガーの配列特性を変化させる。したがって、4フィンガー亜鉛フィンガータンパク質は、12bpの標的配列を選択的に認識し、この場合、標的配列は各フィンガーによって寄与されるトリプレット優先性の複合物であるが、トリプレット優先性は、近隣フィンガーによって種々の程度に影響を受け得る。ZFNの重要な態様は、単純に個々のフィンガーを修飾することによってほとんどの任意のゲノムアドレスに容易に再標的化され得ることであるが、これを十分に行うためには相当の熟練が必要とされる。ZFNのほとんどの適用では、4~6フィンガーのタンパク質が使用され、それぞれ、12~18bpを認識する。したがって、一対のZFNは典型的には、半部位間に5~7bpのスペーサーを含まない24~36bpの組み合わされた標的配列を認識するであろう。反復的な配列または遺伝子ホモログが設計プロセス中に除外されると仮定すると、この長さの標的配列は、ヒトゲノム内で唯一である可能性が高い。にもかかわらず、ZFNタンパク質-DNA相互作用は、その特異性において絶対ではなく、したがって標的外系都合及び開裂事象が、2つのZFN間のヘテロ二量体としてか、またはZFNの一方もしくは他方のホモ二量体としてかのいずれかで生じる。後者の可能性は、FokIドメインの二量体化界面を改変して、偏性ヘテロ二量体変異体としても知られる、互いとのみ二量体化し得、それら自身とは二量体化し得ない「プラス」及び「マイナス」変異体を作成することによって、効果的に排除されている。偏性ヘテロ二量体の強制は、ホモ二量体の形成を防止する。これは、ZFN、及びこれらのFokI変異体を採用する任意の他のヌクレアーゼの特異性を大いに強化している。
【0262】
多様なZFN系システムが、当該技術分野において説明されており、それらの修正は、定期的に報告され、多数の参考文献が、ZFNの設計を導くために使用される規則及びパラメータを説明している;例えば、Segalら、Proc Natl Acad Sci USA 96(6):2758-63(1999);Dreier Bら、J Mol Biol.303(4):489-502(2000);Liu Qら、J Biol Chem.277(6):3850-6(2002);Dreierら、J Biol Chem 280(42):35588-97(2005);及びDreierら、J Biol Chem.276(31):29466-78(2001)を参照されたい。
【0263】
転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)
TALENは、調節ヌクレアーゼの別のフォーマットを表しており、それにより、ZFNと同様、改変されたDNA結合ドメインは、FokIヌクレアーゼドメインに連結され、一対のTALENは、タンデムに動作して、標的化されたDNA開裂を達成する。ZFNとの主な差は、DNA結合ドメインの性質及び関連する標的DNA配列認識特性である。TALEN DNA結合ドメインは、TALEタンパク質に由来し、これは、もともと植物細菌性病原体キサントモナス属において説明されていた。TALEは、33~35個のアミノ酸反復のタンデムアレイからなり、各反復は、典型的には最大20bpの長さである標的DNA配列内の単一の塩基対を認識し、最大40bpの総標的配列長さを付与する。各反復のヌクレオチド特異性は、2つのアミノ酸だけを12位及び13位に含む反復可変二残基(repeat variable diresidue)(RVD)によって決定される。塩基グアニン、アデニン、シトシン、及びチミンは、それぞれ、4つのRVD:Asn-Asn、Asn-Ile、His-Asp、及びAsn-Glyによって優位に認識される。これは、亜鉛フィンガーに関するものよりもはるかに単純な認識コードを構成し、したがってヌクレアーゼ設計に関して前者を上回る利点を示す。にもかかわらず、ZFNと同様に、TALENのタンパク質-DNA相互作用は、その特性において絶対ではなく、TALENは、標的外活性を低減するためにFokIドメインの偏性ヘテロ二量体変異体の使用の恩恵を受けている。
【0264】
その触媒機能が非活性化されるFokIドメインの追加的な変異体が、作成されている。TALENまたはZFN対のうちの半分が不活性FokIドメインを含む場合、標的部位において、DSBよりもむしろ一本鎖DNA開裂(ニッキング)のみが生じるであろう。その結果は、Cas9開裂ドメインのうちの1つが非活性化されるCRISPR/Cas9「ニッカーゼ」突然変異体の使用に匹敵する。DNAニックは、HDRによって、しかしながらDSBよりも低い効率でゲノム編集を駆動するために使用され得る。主な利益は、標的外ニックは、NHEJに媒介される誤修復を起こしやすいDSBとは異なり、素早く正確に修復されることである。
【0265】
多様なTALEN系システムが、当該技術分野において説明されており、それらの修正は、定期的に報告される;例えば、Boch,Science 326(5959):1509-12(2009);Makら、Science 335(6069):716-9(2012);及びMoscouら、Science 326(5959):1501(2009)。「ゴールデンゲート」プラットフォームに基づくTALENの使用は、複数の団体によって説明されている;例えば、Cermakら、Nucleic Acids Res.39(12):e82(2011);Liら、Nucleic Acids Res.39(14):6315-25(2011);Weberら、PLoS One.6(2):e16765(2011);Wangら、J Genet Genomics 41(6):339-47,Epub 2014 May 17(2014);及びCermak Tら、Methods Mol Biol.1239:133-59(2015)を参照されたい。
【0266】
ホーミングエンドヌクレアーゼ
ホーミングエンドヌクレアーゼ(HE)は、長い認識配列(14~44塩基対)を有し、多くの場合はゲノム内の唯一の部位において、高い特異性を伴ってDNAを開裂する配列特異性エンドヌクレアーゼである。真核生物、原生生物、細菌、古細菌、シアノバクテリア、及びファージを含む幅広い宿主に由来する、LAGLIDADG、GIY-YIG、His-Cis box、H-N-H、PD-(D/E)xK、及びVsr様を含むそれらの構造によって分類される通り、少なくとも6つの既知のHEのファミリーが存在する。ZFN及びTALENと同様に、HEは、ゲノム編集における初期ステップとして標的遺伝子座においてDSBを作成するために使用され得る。それに加えて、いくつかの天然の及び改変されたHEは、DNAの一本の鎖のみを切断し、それにより部位特異性ニッカーゼとして機能する。HEの大きい標的配列及びそれらが呈する特異性は、それらを、部位特異性DSBを作成するための有力な候補としている。
【0267】
多様なHE系システムが、当該技術分野において説明されており、それらの修正は、定期的に報告される:例えば、Steentoftら、Glycobiology 24(8):663-80(2014);Belfort and Bonocora,Methods Mol Biol.1123:1-26(2014);Hafez and Hausner,Genome 55(8):553-69(2012)による考察;及びその中に引用される参考文献を参照されたい。
【0268】
MegaTAL/Tev-mTALEN/MegaTev
ハイブリッドヌクレアーゼのさらなる例として、MegaTALプラットフォーム及びTev-mTALENプラットフォームは、TALE DNA結合ドメインと触媒活性HEの融合を使用し、調整可能なDNA結合及びTALEの特異性の両方、ならびにHEの開裂配列特異性を利用する;例えば、Boisselら,NAR 42:2591-2601(2014);Kleinstiverら、G3 4:1155-65(2014);及びBoissel and Scharenberg,Methods Mol.Biol.1239:171-96(2015)を参照されたい。
【0269】
さらなる変形では、MegaTevアーキテクチャは、メガヌクレアーゼ(Mega)のGIY-YIGホーミングエンドヌクレアーゼ I-TevI(Tev)に由来するヌクレアーゼドメインとの融合である。2つの活性部位は、DNA基質上に約30bp離れて位置付けられ、適合不可能な付着端を有する2つのDSBを発生させる;例えば、Wolfsら、NAR 42,8816-29(2014)を参照されたい。既存のヌクレアーゼ系アプローチの他の組み合わせが発展し、本明細書に説明される標的化されたゲノム修飾の達成に有用であろうことが予測される。
【0270】
dCas9-FokI及び他のヌクレアーゼ
上記に説明されるヌクレアーゼプラットフォームの構造的特性及び機能的特性を組み合わせることは、固有の欠点のいくつかを潜在的に克服し得るゲノム編集に対するさらなるアプローチを提示する。例として、CRISPRゲノム編集システムは典型的に、単一のCas9エンドヌクレアーゼを使用してDSBを作成する。標的化の特異性は、標的DNA(さらに、黄色ブドウ球菌に由来するCas9の場合には、隣接するNAGまたはNGG PAM配列内の追加的な2塩基)とのワトソン・クリック塩基対合を受けるガイドRNA内の20ヌクレオチド配列によって駆動される。かかる配列は、ヒトゲノム内で唯一であるのに十分に長いが、しかしながら、RNA/DNA相互作用の特異性は絶対ではなく、特に標的配列の5’側半分において、著しい混乱が容認される場合があり、特異性を駆動する塩基の数を効果的に低減する。これに対する1つの解決策は、Cas9触媒機能を完全に非活性化し-RNAガイドDNA結合機能のみを保持し-、代わりにFokIドメインを非活性化されたCas9と融合することであった;例えば、Tsaiら、Nature Biotech 32:569-76(2014);及びGuilingerら、Nature Biotech.32:577-82(2014)を参照されたい。FokIは触媒活性になるために二量体化しなければならないため、2つのガイドRNAは、2つのCas9-FokI融合をごく接近してつないで二量体を形成し、DNAを開裂する必要がある。これは、組み合わされた標的部位における塩基の数を本質的に2倍にし、それによってCRISPR系システムによる標的化の厳しさを増加させる。
【0271】
さらなる例として、TALE DNA結合ドメインのI-TevI等の触媒活性HEとの融合は、調整可能なDNA結合及びTALEの特異性の両方、ならびにI-TevIの開裂配列特異性を利用し、標的外開裂がさらに低減され得ると予想される。
【0272】
他の定義
「含む(comprising)」または「含む(comprises)」という用語は、本発明に不可欠であるが、不特定の要素をそれが不可欠であるか否かにかかわらず依然含み得る組成物、方法、及びそれらのそれぞれの構成要素(複数可)に関して使用される。
【0273】
「から本質的になる」という用語は、所与の実施形態に必要とされる要素を指す。この用語は、本発明の実施形態の基本的及び新規のまたは機能的な特徴(複数可)に物質的に影響を及ぼさない追加的な要素の存在を許容する。
【0274】
「からなる」という用語は、実施形態のその説明に列挙されていない任意の要素を除く、本明細書に説明される組成物、方法、及びそれらのそれぞれの構成要素を指す。
【0275】
単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈によりそうではないことが明確に記されない限り、複数の指示対象を含む。
【0276】
本明細書に提示される特定の数値には、「約」という用語が先行する。「約」という用語は、「約」という語が先行する数値、及びおよそその数値である数値に対する忠実な(literal)支持を提供するために使用され、すなわち、近似の列挙されていない数値が、それが提示される文脈において、具体的に列挙されている数値と実質的に同等である数であり得る。
【0277】
数値の範囲が本明細書に提示される場合、その範囲の下限と上限との間の各介在値、その範囲の条件及び下限である値、ならびにその範囲と共に示されるすべての値が、本開示に包含されることが企図される。その範囲の下限及び条件内のすべての可能な下位範囲もまた、本開示によって企図される。
【実施例】
【0278】
本発明は、本発明の例証的な非限定的実施形態を提供する以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。
【0279】
本実施例は、タイチン遺伝子内の変異を修復して、タイチン活性を回復させる、ゲノム遺伝子座内の変異の恒久的な修正、または異種遺伝子座における発現を導くような例証的なゲノム編集技術としてのCRISPRシステムの使用を説明する。ゲノム編集による変異の修復は、本明細書に説明及び例証される通り、心筋症または他のタイチノパチーの潜在的改善のための新規の治療戦略を表す。
【0280】
実施例1
タイチン短縮型変異のCRISPR/Cas9ゲノム編集による修復のインビトロモデルを、中心核ミオパチー及び拡張型心筋症を伴うと特許内で特定される変異に基づいて開発した[Ceyhan-Birosy,Neurology,81(14):1205-1214(2013)]。患者の線維芽細胞は、タイチンのC末端の短縮ならびにカルパイン3結合部位及びタイチンキナーゼドメインの損失を導く、スプライス部位に位置するタイチンエクソン219内のG>C変異(変異c.32854G>C)を有した。別の短縮型変異が、イントロン242内で同定された(変異c.37112G>A)。
【0281】
修復戦略1
第1の例示的な修復戦略として、黄色ブドウ球菌Cas9及び4つの異なるgRNAのうちの1つを使用して変異を修正する野生型ドナーテンプレートを挿入する修復に関して、c.32854G>Cタイチン変異を標的化した。
【0282】
エクソン219変異の付近のタイチンヒト遺伝子の領域を、開裂部位に関して走査した。黄色ブドウ球菌に由来するCas9エンドヌクレアーゼがゲノム編集のために使用されているため、各領域を、配列NNGRRTを有する黄色ブドウ球菌プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)に関して走査した。PAMに隣接するタイチンDNAを標的化する多数の21bpスペーサー配列を、sgRNA内への組み込みのために設計した。
図2は、選択されたPAM、及び選択されたタイチンDNA標的配列に相補的な(各gRNAの)21bpスペーサー配列を示す。
図2に付与される位置番号は、タイチンゲノム配列に相補的なガイド配列の3’末端に対応する。特異性スコアは、DeskGen.com上で入手可能なソフトウェアを使用して決定した。特異性スコアが高くなればなるほど、gRNAはタイチンゲノムに対してより特異的であると予測される。
【0283】
各sgRNA及び黄色ブドウ球菌Cas9を発現させるために、Addgene(Cambridge,MA)plasmid#61591(pX601-AAV-CMV::NLS-SaCas9-NLS-3xHA-bGHpA;U6::BsaI-sgRNA)[Ranら、上記参照]を使用した。プラスミドは、黄色ブドウ球菌(SaCas9)に由来するCas9及びそのsgRNAを含有する単一のベクターAAV-Cas9システムをコードする。21bpスペーサー配列のうちの1つをコードするDNAを、スペーサー配列がsgRNAの5’末端として発現されるようにプラスミド内の適切な場所に挿入した。gRNA構造及び配列を示す
図3を参照されたく、ここでは、特定のスペーサー配列のうちの1つが、「N」として示される5’ヌクレオチドを置換し、残りのヌクレオチドは、gRNAの中で同じである。
【0284】
患者の線維芽細胞を、c.32854G>A変異の修復のためにSaCas9/gRNAプラスミド及び野生型ドナーテンプレートと共に電気穿孔法によってコトランスフェクトした。線維芽細胞をトリプシン処理し、1500xgで5分間ペレット化した。次に、細胞をPBSで洗浄し、遠心分離した。次に、細胞を1~2mLのRPMI(血清も抗生物質も有さない)中に再懸濁し、計数した。電気穿孔法のために、細胞(200ul~5×10
5個の細胞)を、10ugのプラスミド(15ul以下、好ましくは水中で)及びテンプレートDNAと共に0.2cmキュベット内に定置し、250V、500uFで電気穿孔した。800~900ulの成長培地(少なくとも20%fbs)を添加し、細胞を6または12ウェルプレート内に定置した。
【表3】
【0285】
ドナーテンプレート(
図4)は、相同性アームを含み、21ntの標的配列にわたるが、ドナーテンプレートを切断するCas9の確率を減少させるような変異PAM配列を含む100ヌクレオチド(nt)の長さの一本鎖オリゴヌクレオチドであった。
【0286】
患者の線維芽細胞内の遺伝子修正を実証するために、治療された細胞を、T7E1アッセイによってトランスフェクションの48時間後に遺伝子修飾活性を有することを立証した。PCR生成物を、0.7%のエチジウムブロマイド染色したアガロースゲル上で走らせた。結果は
図5に示され、ここで、インデルパーセントは全標本に関するすべてのNHEJ媒介挿入/欠失の和を表す。T7E1アッセイは、患者の線維芽細胞内で3~10%の効率を実証した。
【0287】
修復戦略2
第2の例示的な修復戦略として、黄色ブドウ球菌Cas9及び一対のsgRNAを使用して、変異を含むエクソン219を除去(または「スキップ」)し、野生型タイチンリーディングフレームを回復させる修復に関して、c.32854G>Cタイチン変異を標的化した。
【0288】
エクソン219に隣接する2つのイントロン(イントロン218及びイントロン219)の領域を、開裂部位に関して走査した。ここでも、黄色ブドウ球菌に由来するCas9エンドヌクレアーゼがゲノム編集のために使用されているため、各領域を、配列NNGRRTを有する黄色ブドウ球菌PAMに関して走査した。21bpスペーサー配列を、各イントロン内のPAMに隣接するDNA配列を標的化するように設計した。
【0289】
次に、21bpスペーサー配列を、(例えば、戦略1に関して説明される通り)sgRNA内に各々組み込む。
図6は、選択されたPAM、及び選択されたそれぞれのイントロンDNA標的配列に相補的な(各gRNAの)21bpスペーサー配列を示す。エクソン219を欠失させるために、一対のsgRNAの一方または両方の構成部員において代替的に使用され得た21bpスペーサー配列が、
図7に示される。
【0290】
次に、一方がイントロン218を標的化し、もう一方がイントロン219を標的化する2つのsgRNAを黄色ブドウ球菌Cas9と共に使用して、対象の細胞内のタイチンエクソン219を欠失させる。
【0291】
修復戦略3
第3の例示的な修復戦略として、黄色ブドウ球菌Cas9及び3つの異なるgRNAのうちの1つを使用して変異を修正する野生型ドナーテンプレートを挿入する修復に関して、c.37112G>Aタイチン変異を標的化した。
【0292】
イントロン242の領域を、開裂部位に関して走査した。ここでも、黄色ブドウ球菌に由来するCas9エンドヌクレアーゼがゲノム編集のために使用されているため、各領域を、配列NNGRRTを有する黄色ブドウ球菌PAMに関して走査した。PAMに隣接するタイチンDNAを標的化する多数の21bpスペーサー配列を、sgRNA内への組み込みのために設計した。
図8は、選択されたPAM、及び選択されたタイチンDNA標的配列に相補的な(各gRNAの)21bpスペーサー配列を示す。
【0293】
次に、21bpスペーサー配列を、(例えば、戦略1に関して説明される通り)sgRNA内に各々組み込む。
【0294】
次に、イントロン24を標的化するsgRNAのうちの1つを黄色ブドウ球菌Cas9及び野生型ドナーテンプレートと共に使用して、対象の細胞内のイントロン242内の変異を修復する。
【0295】
修復戦略4
第4の例示的な修復戦略として、黄色ブドウ球菌Cas9及び一対のsgRNAを使用して、変異を含むエクソン326を除去(または「スキップ」)し、野生型タイチンリーディングフレームを回復させる修復に関して、タイチンエクソン326内のc.4362insAT変異を標的化した。
【0296】
エクソン326に隣接する2つのイントロン(イントロン325~327)の領域を、開裂部位に関して走査した。ここでも、黄色ブドウ球菌に由来するCas9エンドヌクレアーゼがゲノム編集のために使用されているため、各領域を、配列NNGRRTを有する黄色ブドウ球菌PAMに関して走査した。21bpスペーサー配列を、各イントロン内のPAMに隣接するDNA配列を標的化するように設計した。
【0297】
図9は、選択される2つのPAMのセット(各イントロンに対して1セット)、及び選択されるそれぞれのイントロンDNA標的配列に相補的な(各gRNA)の21bpスペーサー配列を示す。次に、21bpスペーサー配列の対(1つの対につき各セットから1つ)を、(例えば、戦略1に関して説明される通り)sgRNA内に各々組み込む。
【0298】
次に、一方がイントロン325を標的化し、もう一方がイントロン327を標的化する2つのsgRNAを、黄色ブドウ球菌Cas9と共に使用して、対象の細胞内のタイチンエクソン326を欠失させる。
【0299】
実施例2
実施例1に説明される実験のために発生させたプラスミドに由来するSaCas9/gRNAカセットを、rAAV.rh74内にパッケージ化する。結果として生じるrAAVは、下記の実施例4において概してrAAV.rh74.Cas9TTNと称される。
【0300】
これまでにRodino-Klapacら、J Transl Med.5:45(2007)に報告されている修飾されたクロスパッケージングアプローチを使用して、rAAVベクターを生成する。ここで、HEK293細胞内のCaPO4沈殿を用いたトリプルトランスフェクション方法は、AAV2 ITRが、異なるAAVカプシド血清型内にパッケージ化されることを可能にする[Rabinowitzら、J.Virol.,76(2):791-801(2002)及びGriegerら、Nat.Protoc.,1(3):1412-1428(2006)]。生成プラスミドは、(i)pAAV.Cas9.TTN、(ii)キャップ血清型8様単離rh.74をコードするrep2-caprh.74修飾AAVヘルパープラスミド、ならびに(iii)アデノウイルスE2A、E4 ORF6、及びVA I/II RNA遺伝子を発現するアデノウイルス5型ヘルパープラスミド(pAdヘルパー)である。ベクターを精製し、カプシドで包まれたベクターゲノム(vg)力価(Prism 7500 Taqman検出器システム(PE Applied Biosystems,Carlsbad,CA))を使用)を、先に説明される通りに決定した[Clarkら、Hum.Gene.Ther.,10(6):1031-1039(1999)]。
【0301】
実施例3
タイチン変異を含むマウスモデルにおいて、rAAV.rh74.Cas9TTNを、冠動脈内アプローチを使用して送達し、用量漸増パラダイムを利用して、心筋細胞内の発現を達成するための適切な容量を確立する。
【0302】
このモデルは、修飾されたバージョンの冠状動脈ライゲーションを通じて、マウスの心臓内に心筋虚血を誘導することを含む[Gaoら、Methods in Molecular Therapy.2013;1037:299-311;Gaoら、Circ Res.;107(12):1445-1453]。この新たなアプローチは、胸部に入るための従来的な方法(開胸または胸骨切開)と比較して、改善された生存率、減少された復帰時間、及びより低い心不整脈の発生を有する。本モデルにおける冠動脈内アプローチによるAAV.rh74.CMV.eGFPの送達は、高い形質導入効率で心臓に制限されるeGFP発現をもたらす。
【0303】
モデル1:エクソン326を標的化するDCMモデル
2塩基対挿入(c.43628insAT)を挿入して定義されるヒトDCM変異をノックアウトするために、CRISPR MIT プラットフォーム(crispr.mit.edu)を使用して、エクソン326の周りのヒトゲノム配列を標的化する短縮型sgRNA(5’-NNGRRT-3’)[Doenchら、Nature Biotechnology,34(2):184-91(2016)]を設計した。この変異はもともと、英国内で2つの大きな同族コホートにおいて特定されたが、しかしながら、TTN DCM集団のおよそ15%において特定されている[Gramlichら、Journal of Molecular and Cellular Cardiology,47(3):352-358(2009);Zhouら、BioMed Research International,2015:163564(2015);Gramlichら、EMBO Molecular Medicine,7(5):562-576(2015);Peledら、International Journal of Cardiology,171(1):24-30(2014);Gerullら、Nature Genetics,30(2):201-204(2002)]。それに加えて、文献は、TTN内のエクソン239と240との接合点における潜在的な内部プロモーターを特定しており、これは、TTNを有する患者におけるより多くの病原性変異を表す[Zouら、eLife,4:e09406(2015)]。内部プロモーターに遠位の変異を有する患者は、より深刻なDCMの症例を有する。したがって、治療的介在を研究するための利用可能なマウスモデルを設計した。
【0304】
sgRNAの配列を、ヒトゲノムに対して整列させて、単一ヌクレオチド多型(SNP)の排除を立証した[Tsaiら、Nature Biotechnology,33(2):187-197(2015)]。Cas9 mRNAに由来するスタフィリコッカスアウレウス(Staphlycoccus aureus)を、精製し、EmbryoMax注射用緩衝液(Temecula)中に再懸濁する。sgRNAを、先に公開される通り、インビトロ転写によって発生させる[Mashikoら、Scientific Reports,3:33552013);Horiiら、Scientific Reports,4:4513(2014)]。手短に述べると、PCR精製後、T7転写キット(Life Technologies)を使用して、テンプレートをインビトロ転写のために使用する。およそ6週齢の雌BL6マウスを、PMS(妊馬血清)及びhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を用いて過剰排卵させる(Horiiら、上記参照)。その後、それらを雄BL6マウスと交尾させ、過剰排卵させたマウスの膨大部から受精卵を単離する。saCas9のsgRNA及びmRNAを、極微操作装置付きの顕微鏡を使用して前核内に共注射する。注射の直後に、偽妊娠したマウス1匹当たりおよそ20~30個の受精卵を再インプラントする。
【0305】
動物に実施するすべての手順は、IACUC(AR08-00017;IBS00000202)に従う。同腹仔間のさらなる交配を利用して、c.43628 TTNの場所への2塩基対ATのエクソン326挿入、及びノックイン変異の成功した生殖細胞系列伝達を決定する。
【0306】
別のマウスモデルは、文献に説明されており、それは、ヒトTTN変異c.43628insATを含む標的化ベクターの後にポリアデニル化シグナルを有するネオマイシン耐性カセットを使用して発生されたという点で異なる(Gramlichら、2009,上記参照)。変異を、相同組み換えによってマウスES細胞内に導入した。Gramlichのマウスモデルでは、ホモ接合子孫は、いかなるものであれ心臓形成を伴わず、胚で致死的であった。ヘテロ接合子孫は、拡張型心筋症を発症し、ストレス誘導に際し低下した心機能を有した。
【0307】
モデル2:エクソン219を標的化する骨格ミオパチー(skeletal myopathy)モデル
それに加えて、TTN骨格筋ミオパチーモデルを、骨格筋に影響を及ぼし、中心核ミオパチーとして存在する公開されている変異(c.32854G>C)組み込むように設計した[Ceyhan-Birsoyら、Neurology,81(14):1205-14(2013)]。臨床集団における知見としては、増加された中心核、タンパク質の短縮、カルパイン-3に関する結合の損失、筋節の崩壊、増加された結合組織、及びミトコンドリアを欠く領域が挙げられる。この患者の臨床所見としては、全身の筋力低下、呼吸低下、及び心臓障害の可能性が挙げられる。変異は、保存されたスプライス部位に位置し、スプライシング欠陥及び短縮型タイチンタンパク質を生成する[Ceyhan-Birsoyら、上記参照;Foye,Narrative Inquiry in Bioethics,5(3):206-208(2015)]。類似のマウスモデルは文献内に利用可能ではない。本明細書に説明されるTTN骨格筋ミオパチーモデルは、TTNにおける種々の種類の変異及び変異の場所に関連付けられる疾患の重篤度を記述し、治療的アプローチを提供するために有用である。モデルマウスを発生させるために、Cas9ゲノム編集を使用して、塩基対変異をノックインし、TTNタンパク質を短縮し、骨格及び心臓の組織内に表現型及び機能障害を確立する。
【0308】
エクソン219内にヒトゲノム配列を使用して短縮型sgRNA(5’-NNGRRT-3’)を設計するために、CRISPR MITプラットフォームを使用した。sgRNAの配列を、ヒトゲノムに対して整列させて、sSNPの排除を立証した(Tsaiら、上記参照)。Cas9 mRNAに由来するスタフィリコッカスアウレウス(Staphlycoccus aureus)を、精製し、EmbryoMax注射用緩衝液(Temecula)中に再懸濁する。先に公開される通り、sgRNAをインビトロ転写によって発生させる(Machikoら、上記参照;Horiiら、上記参照)。手短に述べると、PCR精製後、T7転写キット(Life Technologies)を使用して、テンプレートをインビトロ転写のために使用する。およそ6週齢の雌BL6マウスを、PMS(妊馬血清)及びhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を用いて過剰排卵させる(Horiiら、上記参照)。その後、それらを雄BL6マウスと交尾させ、過剰排卵させたマウスの膨大部から受精卵を単離する。saCas9のsgRNA及びmRNAを、極微操作装置付きの顕微鏡を使用して前核内に共注射する。注射の直後に、偽妊娠したマウス1匹当たりおよそ20~30個の受精卵を再インプラントする。
【0309】
動物に実施するすべての手順は、IACUC(AR08-00017;IBS00000202)に従う。同腹仔間のさらなる交配を利用して、c.32854G>Cのエクソン219挿入、及びノックイン変異の成功した生殖細胞系列伝達を決定する。
【0310】
AAV.rh74.Cas9TTNの送達
1つ以上のタイチン遺伝子変異を有するマウス(変異は、モデル1及び2に関して説明される通りCRISPR/Cas9 ゲノム編集によって導入され得る)を、2L/分の酸素中2.5%のイソフルレンを用いて麻酔をかける。左胸の皮膚を小さく切開して、胸部筋肉を露出させる。大胸筋及び小胸筋を切断して、さらなる肋間腔を露出させる。モスキート止血鉗子を、第4肋間腔を通して押し付け、肋間筋、胸膜、及び心膜を貫通する。鉗子を開いたまま、頂部を見るために心臓を外面化する。30G針を使用して、AAVrh.74.SaCas9/TTNを左室の管腔内に注入する。送達後、針を除去し、心臓を胸部に戻した後、手動で排気し、一針の縫合で皮膚を閉じる。冠動脈内送達経路は、細胞分布の均一性、筋細胞の再発生、及び心筋の虚血領域内の生存組織の量の観点から、他の送達方法(例えば、静脈内、腹腔内)より優れていることが示されている[Li,Basic Research in Cardiology.2011;106(5):849-864]。先行研究では、手順は、極めて低い死亡率を有して安全であった[Gaoら、上記参照]。
【0311】
研究のエンドポイントは3カ月であり、結果の測定は、生体内分布及びタイチン発現の定量化/すべての骨格及び心臓の筋肉内のvgコピーの定量化を含む。初期に投与されたコホートが50%超の全長タイチンのをもたらさない場合、さらなる用量漸増を継続する。最後に、PCR系アッセイを介して標的外分析を実施して、SaCas9を駆動するNNGRRT特異性プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を考慮し、ゲノム転座及び標的外活性を検出する。インビボ心機能を評価するために、心臓の収縮及び拡張性能を、脈波ドップラー及び組織ドップラー撮像を用いた心エコー検査を使用して定量化する。心エコー検査を使用して、駆出率、短縮率、拡張末期容量、及び収縮末期容量を含む心機能の複数の測定を決定する。それに加えて、壁厚を測定する。生活を監視し、マウスを12週目で剖検して、心筋内のタイチン発現を評価する。タイチン(Z盤及びC末端部分)の免疫蛍光及び心臓トロポニンTのは、治療後の筋節の統合を実証する。筋原線維の電子顕微鏡法を使用して、治療後の適切な整列を決定する。
【0312】
例証的な実施形態及び引用される文書に関する注意
本開示は特定の実施形態及び実施例を提供するが、当業者には変形及び修飾が想定されるであろうことが理解される。したがって、特許請求の範囲に見られるそのような制限のみが、本発明に課せられるべきである。
【0313】
本出願内に引用されるすべての文書は、それらが参照される開示に特に注意して、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表】