(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】テレフタル酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/255 20060101AFI20240115BHJP
C07C 63/26 20060101ALI20240115BHJP
C07C 51/265 20060101ALI20240115BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240115BHJP
【FI】
C07C51/255
C07C63/26 C
C07C51/265
C07C63/26 D
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019063273
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓人
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-325197(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054424(WO,A1)
【文献】特開平08-119899(JP,A)
【文献】特開平03-123755(JP,A)
【文献】特開昭52-039643(JP,A)
【文献】特表2009-536662(JP,A)
【文献】特開2000-103762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/255- 51/265
C07C 63/26
C07B 61/00
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p-トルアルデヒドとp-トルイル酸とp-キシレンとを有機酸水の存在下に下記の要
件を満たす条件下で酸素と反応させる工程(A)を含むことを特徴とするテレフタル酸の
製造方法。
i)p-トルアルデヒドの含有率が8~15質量%であり、且つ、p-トルイル酸の含有
率が5~20質量%である。
ii)p-トルアルデヒドの含有率とp-トルイル酸の含有率の合計が15~35質量%
である(p-トルアルデヒドの含有率とp-トルイル酸の含有率とp-キシレンの含有率
との合計を100質量%とする。)。
iii)反応温度が120~240℃である。
【請求項2】
前記i)におけるp-トルアルデヒドの含有率を10~14質量%である、請求項1に
記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項3】
前記i)におけるp-トルイル酸の含有率が7~15質量%である、請求項1又は2に
記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項4】
前記ii)におけるp-トルアルデヒドとp-トルイル酸の含有率の合計が18~29
質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のテレフタル酸の製造方法。
【請求項5】
前記工程(A)を最初の反応工程とする請求項1に記載のテレフタル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はp-キシレンの酸素による酸化によりテレフタル酸を製造する技術に関する。より具体的には、従来よりも高品質なテレフタル酸を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
少なくとも一個の脂肪族置換基を有する芳香族化合物から、低級脂肪族モノカルボン酸を溶媒として、例えば、マンガンを含む重金属化合物及び臭素化合物の存在下に分子状酸素含有ガスにより液相酸化して対応する芳香族カルボン酸を製造する方法としては、多くの公知文献がある(例えば特許文献1~9)。
高純度テレフタル酸は、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)の原料として重要な成分であり、その品質の高度化の要求が常在している。
【0003】
特許文献9には、p-トルアルデヒドとp-キシレンとを特定の割合で含む原料を酸素で酸化させて特定の条件でテレフタル酸を製造する方法が開示されている。その技術を用いて得られるテレフタル酸を原料とするPETは、白度が向上することが開示されている。一方で、得られるテレフタル酸の色相(OD340)は特に変化が見られないことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭34-2666号公報
【文献】特公昭39-29760号公報
【文献】特公昭57ー44653号公報
【文献】特公昭41-16860号公報
【文献】特公昭57ー5777号公報
【文献】特公昭56-28900号公報
【文献】特公昭56-28899号公報
【文献】特公昭56-16133号公報
【文献】特開平8-325197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
市場からは、テレフタル酸の色相のさらなる向上と、生産性の向上とを求める要請がある。よって本発明は、色相にさらに優れたテレフタル酸を提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を有するテレフタル酸の製造法について鋭意検討した結果、原料のp-キシレンと特定量のp-トルアルデヒドと特定量のp-トルイル酸とを含む原料を特定の温度領域にて酸素で酸化させる工程を混合して液相酸化反応を行うことにより、色相に優れたテレフタル酸が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち本発明は、以下の構成を有するものである。
p-トルアルデヒドとp-トルイル酸とp-キシレンとを有機酸水の存在下に下記の要件を満たす条件下で酸素と反応させる工程(A)を含むことを特徴とするテレフタル酸の製造方法。
i)p-トルアルデヒドの含有率が8~15質量%であり、且つ、p-トルイル酸の含有率が5~20質量%である。
ii)p-トルアルデヒドの含有率とp-トルイル酸の含有率の合計が15~35質量%である(p-トルアルデヒドの含有率とp-トルイル酸の含有率とp-キシレンの含有率との合計を100質量%とする。)。
iii)反応温度が120~240℃である。
(2) 前記工程(A)で使用する酸素量が、全工程で使用する酸素量を100%とした場合、80~90%であることを特徴とする前記(1)記載のテレフタル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明を用いれば、色相に優れたテレフタル酸を効率よく製造することが出来る。このようなテレフタル酸は、さらに品質の優れたPETやPBTを与えることが期待できる。よって、当該PETやPBTからは、新たな性質を有する飲料容器や反射シート、離型フィルムなどの製品を提供できる可能性が有る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のテレフタル酸の製造方法においては、特定の割合のp-キシレン、p-トルアルデヒド、p-トルイル酸を、有機酸水の存在下、酸素を用いて特定の温度範囲で酸化させる工程(A)を有することを特徴とする。具体的には、下記の条件で行われる工程である。
p-トルアルデヒドの含有率と、p-トルイル酸の含有率と、p-キシレンの含有率との合計を100質量%とした場合、
i)p-トルアルデヒドの含有率が8~15質量%であり、p-トルイル酸の含有率が5~20質量%であり、
ii)p-トルアルデヒドの含有率と、p-トルイル酸の含有率の合計量が、15~35質量%、および
iii)反応温度が120~240℃である。
上記の工程(A)を実施することによって、驚くべきことに色相の改良されたテレフタル酸を得ることが出来る。前記色相は、波長が340nmのUV光の透過率で評価することが出来る。
【0010】
上記のp-トルアルデヒドの含有率の好ましい下限値は10質量%であり、より好ましくは12質量%である。一方、好ましい上限値は14質量%である。
上記のp-トルイル酸の含有率の好ましい下限値は7質量%であり、より好ましくは8質量%である。一方、好ましい上限値は15質量%である。
上記のp-トルアルデヒドの含有率と、p-トルイル酸の含有率の合計量の好ましい下限値は18質量%であり、より好ましくは20質量%である。一方、好ましい上限値は32質量%、より好ましくは29質量%である。
【0011】
前記のp-トルアルデヒドやp-トルイル酸は、工程(A)の前段の酸化工程で製造されたものであってもよいし、他の方法で製造されたものを反応装置内に導入することもできる。例えば、p-キシレンからテレフタル酸を製造する工程の中で、未反応物として回収されるp-トルイル酸などを利用してもよい。
なお本発明の方法によって使用するp-トルアルデヒドはHF・BF3触媒によってトルエンと一酸化炭素とのガッターマンコッホ反応で合成したものが好適に用いられるが、それ以外の製法によるものであっても何等制約は受けない。HF・BF3触媒によって製造したp-トルアルデヒドはその反応の特性からo-トルアルデヒドが約5%含まれるので、その異性体混合物を蒸留または晶析によってo-異性体を除去したp-トルアルデヒドが通常原料として使用されるが、場合によってはo-異性体を含むp-トルアルデヒドをそのまま原料として使用することもできる。
前記工程(A)が、上記の条件の範囲内であれば、色相に優れたテレフタル酸を製造するのに有利である。
【0012】
前記工程(A)を実施する温度の好ましい下限値は140℃、より好ましくは160℃、さらに好ましくは185℃である。一方、好ましい上限値は220℃、より好ましくは200℃、さらに好ましくは195℃である。
【0013】
この工程(A)は、出来る限りp-キシレンからテレフタル酸を製造する工程の全体の中では、前半に実施することが好ましくは、特には、最初の反応工程とすることが好ましい。
この理由は現在のところ不明であるが、本発明者らは以下の様に推定している。
色相に影響を及ぼす物質は、
原料のラジカル分解物の1種であろうと推測される。上記の工程(A)の条件で反応を行うことによって、「1、前記の色相悪化成分の生成の反応選択性が低下する」、「2、色相悪化成分が、主として前記3成分が関係する段階で生成し、その生成量が本願の条件であれば低減できる」、「3.前記1項と前記2項の両方の要因の組み合わせ」等が挙げられる。
【0014】
本発明における触媒としては公知の触媒を制限なく用いることが出来る。一般的にはマンガン、コバルトおよび臭素を含む化合物が用いられる。複数の化合物を含む組成物も、勿論、例示出来る。
例えば、マンガンおよびコバルト金属塩としては無機酸塩、有機酸塩のいずれも使用可能であり、反応溶媒に可溶な化合物として使用することが望ましい。
マンガン塩の量については充分な触媒効果を得るためにはマンガン金属塩として計算して50質量ppm以上のマンガン濃度とするのが良いが、マンガン濃度が1000質量ppmを越えると黒色化することがある。
コバルト塩はコバルト原子として50~2000質量ppmの範囲が望ましい。
臭素化合物としてはアンモニウム、ナトリウム、カリウム等の無機塩あるいは臭化水素等が使用される。またテトラブロムエタン、テトラブロムpーキシレンなどの有機臭素化合物も使用もできる。臭素化合物の使用量は臭素原子として溶媒に対して100~4000質量ppmの範囲で使用することが望ましい。
【0015】
本発明において、溶媒として用いられる有機酸水としては、通常低級脂肪族モノカルボン酸が使用される。このような化合物としては酢酸、プロピオン酸、酪酸などが挙げられる。特に酢酸が好ましい。
溶媒である有機酸水の使用量は原料に対して質量比で2倍以上あれば充分である。溶媒量に上限を規定することにあまり意味はないが、溶媒量が多すぎると前述した溶媒の分解物の影響が出る場合があるので、少ないほうが好ましい傾向がある。好ましい上限値は、原料に対して4~5倍である。
【0016】
本発明において、酸化剤として用いられる酸素としては、通常分子状酸素あるいは分子状酸素含有ガスが使用されるが、空気を使用するのが経済的に有利である。
本発明において、工程(A)において使用される酸素の量は、p-キシレンからテレフタル酸を製造する全工程において反応に使用する酸素を100%とした場合、好ましくは80~90%である。このような酸素使用料の割合の範囲内であれば、色相に優れたテレフタル酸を得る上で有利であると考えられる。
上記の反応は、通常、液相で行われることが多い。反応が液相において行われるために、原料および溶媒を液相に保つよう通常加圧する場合もある。
反応圧力は、通常、1~50気圧の範囲が用いられる。
【0017】
本発明における液相酸化反応は半連続あるいは連続で行われるが、原料の供給速度、空気供給速度、連続法の場合にはさらに反応液の反応槽中での滞留時間等の反応条件はp-キシレンからテレフタル酸を合成する場合の公知の技術範囲内とほぼ同様である。
工程(A)に要する時間は、好ましくは0.6~1.2時間である。好ましい下限値は0.7時間である。一方、好ましい0.9時間である。このような時間の範囲内であれば、色相に優れたテレフタル酸を得る上で有利である。
【0018】
本発明において、前記の工程(A)以外の反応工程の条件は任意であり、公知の条件を制限なく適用することが出来る。 好ましくは、工程(A)よりも反応温度が高い工程や、反応時間が長い工程でもよいし、反応温度が低く、反応時間が短い工程を含む方法であってもよい。本発明においては、前記の条件よりも穏やかな条件の工程を組み合わせることが好ましい。
前記の工程(A)以外の液相酸化の反応温度の好ましい範囲は150~160℃である。
【0019】
テレフタル酸は通常、さらに水添精製工程を経て高純度テレフタル酸とすることもできる。この水添工程には、活性炭に担持されたパラジウム触媒などの公知の方法を制限なく使用することが出来る。
この様な高純度テレフタル酸を本願発明の方法を適用して製造すると、色相に優れたテレフタル酸を得ることが出来る。本願において、色相は波長340nmの紫外光線の透過率で評価することが出来る。
本発明の製造方法で得られるテレフタル酸は、前記の通り、色相に優れているので、PET樹脂やPBT樹脂とした場合、その製品となる飲料容器、繊維、離型フィルムなどの用途において、従来にはない特性を付与することが期待される。例えば、透明性や剛性、強度などに特徴を有する製品となることが期待される。
【実施例】
【0020】
実施例1
p-キシレンとp-キシレンの質量に対してp-トルアルデヒド15質量%(p-キシレンとp-トルアルデヒドとp-トルイル酸の合計量を100質量%とした場合、12質量%)、p-トルイル酸10質量%(p-キシレンとp-トルアルデヒドとp-トルイル酸の合計量を100質量%とした場合、8質量%)を加え、これらの合計質量の4.8倍の質量の酢酸水(酢酸96.3質量%)に溶解させる。液中にCo 770質量ppm、Mn 385質量ppm、Br 1395質量ppm相当の触媒を添加して、オートクレーブへ連続供給しながら空気を液中に吹き込みながら、内温188℃/1.25MPaにコントロールしながら反応させた。また原料の供給量は滞留時間が45分となるように調整した。オートクレーブから生成したスラリーを回収、冷却後に固液(粗テレフタル酸と反応液残渣)を濾過分離して粗テレフタル酸を2N水酸化カリウム水溶液で溶解後に340nmでの光線透過率を分析した結果44%であった。
【0021】
比較例1
原料をすべてp-キシレンで同様の操作を実施した場合、340nmでの光線透過率は17%であった。