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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240115BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
B41J2/14 603
B41J2/175 153
B41J2/175 503
B41J2/14 201
B41J2/14 605
B41J2/14
B41J2/175 501
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019149062
(22)【出願日】2019-08-15
(65)【公開番号】P2021030464
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茂木 紗衣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一生
(72)【発明者】
【氏名】現田 心
(72)【発明者】
【氏名】平 寛史
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154065(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0236764(US,A1)
【文献】特開2020-49727(JP,A)
【文献】特開2013-1064(JP,A)
【文献】特開2006-35850(JP,A)
【文献】特開2012-161954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを収容するタンクと、
インクを吐出する吐出口とインクが充填される圧力室とを有し、往復走査する記録ヘッドと、
前記タンクから前記記録ヘッドへインクを供給する供給流路と、
を備える記録装置であって、
前記記録ヘッドは、
前記供給流路との接続部を有する第1液室と、
前記圧力室を介して前記第1液室と連通する第2液室と、
前記第2液室の容積を変化させる容積可変部と、
を有し、
前記容積可変部は、
前記第2液室の内部に配され圧力に応じて移動可能な壁と、
前記壁に接合された伸縮部材と
を含むことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記容積可変部は、前記第2液室に配された可撓性の伸縮部材を有することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記容積可変部は、容積が拡大する速度と容積が収縮する速度とが異なるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記容積可変部は、
前記容積可変部の内部を仕切る仕切り部材と、
前記仕切り部材に設けられた複数の通路と、
圧力変動に応じて少なくとも一つの前記通路を開閉する弁と、
を有することを特徴とする請求項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記タンクは、前記記録装置の所定の位置に固定されていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記供給流路は、柔軟性のある部材によって構成されていることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記柔軟性のある部材は、チューブであることを特徴とする請求項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記チューブは、前記記録ヘッドが往復走査する方向と略平行な方向に這いまわされ、前記記録ヘッドの走査に伴い這いまわし方向が変わらないことを特徴とする請求項に記載の記録装置。
【請求項9】
前記チューブは、環状に這いまわされていることを特徴とする請求項またはに記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録ヘッドを搭載し往復移動するキャリッジを備えることを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記記録ヘッドは、
第1液室と前記圧力室とを接続する第1流路と、
前記圧力室と前記第2液室とを接続する第2流路とを有することを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記記録ヘッドは、複数の前記吐出口を有し、
前記第1流路および前記第2流路は、各吐出口と接続されることを特徴とする請求項11に記載の記録装置。
【請求項13】
前記タンクは、前記記録ヘッドが往復走査するときに、大気開放されていることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の記録装置。
【請求項14】
インクを収容するタンクと、
インクを吐出する吐出口とインクが充填される圧力室とを有し、往復走査する記録ヘッドと、
前記タンクから前記記録ヘッドへインクを供給する供給流路と、
を備える記録装置であって、
前記記録ヘッドは、
前記供給流路との接続部を有する第1液室と、
前記圧力室を介して前記第1液室と連通する第2液室と、
前記第2液室の容積を変化させる容積可変部と、
を有し、
前記容積可変部は、容積が拡大する速度と容積が収縮する速度とが異なるように構成されていることを特徴とする記録装置。
【請求項15】
インクを収容するタンクと、
インクを吐出する吐出口とインクが充填される圧力室とを有し、往復走査する記録ヘッドと、
前記タンクから前記記録ヘッドへインクを供給する供給流路と、
を備える記録装置であって、
前記記録ヘッドは、
前記供給流路との接続部を有する第1液室と、
前記圧力室を介して前記第1液室と連通する第2液室と、
前記第2液室の容積を変化させる容積可変部と、
を有し、
前記タンクは、前記記録装置の所定の位置に固定され、
前記供給流路はチューブであり、前記チューブは、環状に這いまわされていることを特徴とする記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドの主走査方向への移動と記録媒体の搬送とを繰り返すことで記録動作が行われる、いわゆるシリアル式のインクジェット記録装置がある。特許文献1には、シリアル式のインクジェット記録装置において、回収側インク室と供給側インク室とインク循環装置とを有するインクジェットヘッドが記載されている。特許文献1において、回収側インク室、供給側インク室、およびインク循環装置は、インクジェットヘッドの上方にインクジェットヘッドと一体に形成されている。インク循環装置は、インク循環ポンプおよび圧力センサを有しており、インク循環ポンプを駆動することで、ノズルを経てインク室間でインクを循環させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-52769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、インクジェットヘッドと一体に形成されているインク循環装置を有しており、インク循環装置には、インク循環ポンプおよび圧力センサなど多数の部品が用いられている。このため、特許文献1に記載の技術を用いてノズル付近のインクを循環させようとすると、記録ヘッドの構成が複雑化したり、装置の制御が複雑化したりする虞がある。
【0005】
本開示は、インクジェット記録装置において、簡易な構成で吐出口付近のインクを移動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る記録装置は、インクを収容するタンクと、インクを吐出する吐出口とインクが充填される圧力室とを有し、往復走査する記録ヘッドと、前記タンクから前記記録ヘッドへインクを供給する供給流路と、を備える記録装置であって、前記記録ヘッドは、前記供給流路との接続部を有する第1液室と、前記圧力室を介して前記第1液室と連通する第2液室と、前記第2液室の容積を変化させる容積可変部と、を有し、前記容積可変部は、前記第2液室の内部に配され圧力に応じて移動可能な壁と、前記壁に接合された伸縮部材とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、インクジェット記録装置において、簡易な構成で吐出口付近のインクを移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】記録装置の外観を示す概略斜視図。
図2】インクタンクから記録ヘッドまでのインクの経路を示す図。
図3】記録装置の制御構成の概略を示すブロック図。
図4】記録ヘッド内の液室を説明する図。
図5】記録ヘッドの断面斜視図。
図6】キャリッジの移動に伴う慣性力を説明する図。
図7】キャリッジの移動に伴う慣性力を説明する図。
図8】記録動作中の非吐出時間の長さにおける吐出速度の変化を示す図。
図9】慣性力が寄与する部分を説明する図。
図10】キャリッジの移動に伴う記録ヘッド内の圧力変動を説明する図。
図11】記録ヘッド内の液室を説明する図。
図12】インクタンクから記録ヘッドまでのインクの経路を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は本開示を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが必須のものとは限らない。なお、同一の構成については、同じ符号を付して説明する。
【0010】
なお、この明細書において、「記録」とは、文字または図形等の有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、もしくはパターン等を形成する場合、または、記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0011】
「インク」(「液体」という場合もある)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、もしくはパターン等の形成、記録媒体の加工、または、インクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0012】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0013】
<<第1実施形態>>
本実施形態では、記録ヘッドの主走査方向への移動と、主走査方向に交差する方向(以下、副走査方向という)への記録媒体の搬送とを繰り返すことで記録動作が行われる、いわゆるシリアル式のインクジェット記録装置を説明する。そして、インクジェット記録装置(以下、単に記録装置という)において、吐出口付近のインクを移動させる形態を説明する。
【0014】
まず、吐出口付近のインクを移動させることが求められていることの背景を概略的に説明する。記録装置の記録ヘッドは、圧力室に配されているエネルギー発生素子(記録素子)を駆動させることで吐出口からインクを吐出させるように構成されている。なお、エネルギーを与える方法としては、電気熱変換素子(ヒータ)や圧電素子等を用いることができる。圧力室に充填されたインクが、エネルギー発生素子を駆動することで吐出口から吐出される。
【0015】
記録動作中に吐出口からインクが吐出されていない時間が続くと、吐出口におけるインクと外気との界面であるメニスカスにおいて、インクの蒸発成分が蒸発する。このため、吐出口付近のインクの濃度および粘度が高くなり、吐出口が目詰まりしやすくなる。このような現象を抑制するために、一般的に、シリアル式の記録装置では、記録ヘッドを往復移動させるときに、記録媒体の記録範囲外に吐出口からインクを吐出させて、吐出口付近で特性が変化したインクを排出させる処理が行われている。この処理は、予備吐出処理(またはフラッシング処理)と呼ばれる。予備吐出処理は、数往復につき1回実行され、より高画質を求める場合には、1往復に1回実行され、最大では、往路と復路とのそれぞれにつき、1回実行されている。このような予備吐出処理は、記録速度を低下させてしまい、記録時間を余分に生じさせてしまう要因となる。また、画像の記録に用いられないインクを消費してしまう。さらには、予備吐出によって排出された廃インクを処理する構成も必要となる。
【0016】
本実施形態では、吐出口付近におけるインクを吐出口から移動させる例を説明する。これにより、吐出口付近のインクの蒸発成分が蒸発することを抑制できるので、予備吐出処理を行わなくても吐出口付近のインクの増粘を抑制することができる。本実施形態では、シリアル式の記録ヘッドの特性を利用して吐出口付近のインクを吐出口から移動させる。より詳細には、記録ヘッドの往復走査時において、記録ヘッドに連通しているチューブ内に生じる圧力変動を利用して、吐出口付近におけるインクを移動させる例を説明する。即ち、吐出口付近のインクを移動させるためのポンプ等の循環機構を備えることなく、簡易な構成で吐出口付近のインクの増粘を抑制する例を説明する。
【0017】
<記録装置の外観>
図1は、本実施形態における記録装置100の外観を示す概略斜視図である。記録装置100は、記録ヘッド101を有する。記録ヘッド101は、複数配列された吐出口を有し、各吐出口の列毎に異なる色のインクを吐出することが可能である。記録ヘッド101は、供給流路として機能する供給チューブ102を介してインクタンク103と連通している。インクタンク103は、記録装置100の所定の位置に固定して設置されている。記録ヘッド101の各インク色の吐出口列には、各色用の供給チューブ102を介してインクタンク103から各色のインクが供給される。吐出口からインクが吐出されると、インクタンク103から記録ヘッド101にインクが供給される。
【0018】
記録ヘッド101は、キャリッジ104に着脱可能に搭載されている。キャリッジ104は、記録動作時に、ガイドシャフト107に沿って座標軸Xの主走査方向に往復移動する。記録ヘッド101は、キャリッジ104の移動に伴い、キャリッジ104と一体に主走査方向に移動する。記録媒体105は、搬送ローラ106によって座標軸Y方向の副走査方向に搬送される。記録動作を行わない待機時においては、キャップ108によって記録ヘッド101の吐出口がキャップされる。キャップ108によって記録ヘッド101の吐出口がキャップされる位置が、記録ヘッド101の待機位置である。
【0019】
キャリッジ104は、記録ヘッド101と共にX方向に沿って往復移動する。具体的には、キャリッジ104は、X方向に沿って配置されたガイドシャフト107に沿って移動可能に支持されると共に、ガイドシャフト107と略平行に移動する不図示の無端ベルトに固定されている。無端ベルトは、キャリッジモータ(CRモータ)の駆動力によって往復運動し、それによってキャリッジ104をX方向に往復移動させる。
【0020】
<インク経路>
図2は、図1における+Y方向から記録装置100を見た概略図である。図2は、装置本体の定位置に配されたインクタンク103から記録ヘッド101までの1色分のインクの経路を示している。
【0021】
インクタンク103を含むインク供給システム203は、中空管204およびバッファ室205を有し、記録装置100本体の所定の位置に保持固定されている。供給チューブ102は、インク流路として用いられる。供給チューブ102は、開閉可能な開閉弁202を介してインク供給システム203に接続されている。供給チューブ102は、柔軟性(可撓性)を有する材料で形成されており、X方向にキャリッジ104を往復移動させつつ記録ヘッド101にインクを供給することが可能である。なお、供給チューブ102は、記録ヘッド101の任意の位置で記録ヘッド101に接続可能である。また、供給チューブ102は、キャリッジ104の移動方向に略平行な区間を有するように配置されている。詳細は後述する。なお、図1および図2で示す供給チューブ102の配置は、一例であり、この限りではない。
【0022】
次に、インクタンク103からインクを供給する方法を説明する。インクタンク103は、記録装置100本体に対して着脱可能に搭載されている。インクタンク103は、中空管204によって、供給チューブ102と接続されている。供給チューブ102中には、流路を開閉可能な開閉弁202が備えられている。開閉弁202は、記録装置100の電源がONになると開き、電源がOFFになると閉じるように構成されている。つまり、記録動作が行われているときには、開閉弁202は開いた状態となっている。なお、電源がONになった後も開閉弁202が閉じていて、記録命令が記録装置100に入力された場合に開閉弁202が開くように構成されていてもよい。インクタンク103は、バッファ室205と連通するように細管206により接続されている。インクタンク103と細管206との接続位置は、インクタンク103と中空管204との接続位置と同様に、インクタンク103において略下方である。バッファ室205は、インクタンク103と連通するよう中空管204と同様の細管206により接続されている。バッファ室205は、インクタンク103と接続されている一方で、大気開放のための連通管207と接続されている。これにより、インクタンク103の内圧と大気圧とのバランスを取っている。尚、バッファ室205とインクタンク103とを接続する細管206は、インクタンク103とバッファ室205とを連通しつつ、インクタンク103内のインク蒸発を最小限にすべく、十分流路が狭い構成を成している。
【0023】
<ブロック図>
図3は、本実施形態の記録装置100の制御構成の概略を示すブロック図である。CPU301は、ROM302に格納されたシステム制御を司るプログラムをRAM312に読み出して実行し、実行したプログラムに従ってシステム全体を制御する。RAM312は、CPU301が実行する処理に必要なプログラムおよび入力データなどを一時的に格納する作業領域として用いられる。
【0024】
また、CPU301は、クリーニング部304および搬送ユニット303等の動作を制御する。搬送ユニット303は、搬送ローラ106の駆動を制御する。また、CPU301は、駆動回路307、2値化回路308、および画像処理部309を通じて、記録ヘッド101の記録動作を制御する。画像処理部309は、入力された記録すべきカラー画像データに対して所定の画像処理を施す。画像処理部309は、例えば、入力されたRGB各色成分の画像データによって再現される色域を、記録装置によって再現される色域内に写像するためのデータ変換を実行する。画像処理部309は、変換したデータに基づき、各データが示す色を再現するインクの組み合わせに対応した色分解データであるCMYK各成分濃度データを求める処理を行い、各色に分解された色分解データのそれぞれに対して階調変換を行う。
【0025】
2値化回路308は、画像処理部309によって変換された多値の濃度画像データに対してハーフトーン処理などを行った後、2値データ(ビットマップデータ)に変換する。駆動回路307は、2値化回路308によって得られた2値データなどに従い、記録ヘッド101によるインクの吐出動作を実行させる。CPU301は、記録ヘッド101の記録動作と対応して、搬送ユニット303で記録媒体105を搬送させる制御を行い、記録媒体105に画像が記録される。
【0026】
<記録ヘッドの液室>
図4は、記録ヘッド101内の液室を説明する図である。図4(a)は、本実施形態の記録ヘッド101の概略断面図である。紙面の奥行方向に各吐出口401が配列されている。記録ヘッド101の圧力室408内には、エネルギー発生素子であるヒータ407が配されている。ヒータ407にパルス状の電力を加えることによって発泡が生じ、インク滴が吐出口401から吐出される。
【0027】
記録ヘッド101は、吐出口401を挟む第1液室402および第2液室403の二つの液室を有する。第1液室402は、供給チューブ102に接続している液室である。第2液室403は、吐出口401に対して第1液室402の反対側に位置する液室である。第1流路404は、各吐出口401と第1液室402とを接続している流路である。第2流路405は、各吐出口401と第2液室403とを接続している流路である。
【0028】
第2液室403は、容積可変部406を備えている。容積可変部406は、液室内の容積を変化させることができる部材である。図4(a)において容積可変部406は、蛇腹状の伸縮部材411と、伸縮部材411が接合され伸縮部材411によって移動可能な液室内壁410とを含む。図4(b)は、容積可変部406の構成が図4(a)に示す例とは異なる例を示す図である。図4(b)において容積可変部406は、ゴム状の伸縮部材412である。
【0029】
図4(a)および(b)に示すように、容積可変部406には、圧力に応じて伸縮する機構または可撓性の部材が用いられている。例えば、第1液室402から第2液室403の方向へ加圧が働いた際に、容積可変部406が変化し、第2液室403の容積が拡張される。これにより、往復走査によって揺動するインクを吐出口401から溢れさせずに一時的に第2液室403に収容することが可能となる。
【0030】
図5は、吐出口401が形成されている面から見た、記録ヘッド101の断面斜視図である。各吐出口401は、列状に配されている。第1流路404及び第2流路405は、各吐出口401に対して配されている。第1液室402及び第2液室403は、吐出口列に沿って延在している。つまり、第1液室402のインクは、第1流路404を通り、各吐出口401を通過したのち第2流路405を通って第2液室403で合流することが可能である。記録ヘッド101は、複数色のインクを有しており、吐出口401の列は、複数配列されている。
【0031】
<キャリッジの移動に伴う慣性力の説明>
図6は、キャリッジ104の移動に伴う慣性力を説明する図である。インクタンク103と供給チューブ102で連結されている記録ヘッド101は、キャリッジ104と一体となり主走査方向である図1のX軸方向を左右に往復移動する。即ち、図6においてキャリッジ104は、左右に往復移動する。なお、キャリッジ104の往復移動は、記録動作時に行われてもよいし、記録動作を行わないときに行われてもよい。
【0032】
図6(a)は、キャリッジ104が主走査方向の左端側に移動したときの供給チューブ102の配置の概略図である。左端側とは、図1および図6(a)において、+X方向の側であり、図6(a)の紙面において左端側のことである。キャリッジ104が、主走査方向の左端側で加減速を行うと、供給チューブ102内のインクに慣性力が生じる。具体的には、図6(a)に示すように、供給チューブ102のうちの領域R1(キャリッジ104の移動に伴い移動する領域)におけるインクに、図6(a)の左側へ向かう方向に慣性力が発生する。この供給チューブ102内の領域R1に作用する慣性力は、流路全体から見て、記録ヘッド101からインクタンク103へと向かう方向に発生する。前述したように、開閉弁202は、開放状態となっており、供給チューブ102と連通するインクタンク103は、大気開放されている。このため、図6(a)に示すように慣性力が生じると、図6(b)に示すように、インクは第2液室403から第1液室402への方向に流れる。
【0033】
図6(c)は、キャリッジ104が主走査方向の右端側に移動したときの供給チューブ102の配置の概略図である。右端側とは、図1および図6(c)において、-X方向の側であり、図6(c)の紙面において右端側のことである。キャリッジ104が、主走査方向の右端側で加減速を行うと、供給チューブ102内のインクに慣性力が生じる。具体的には、図6(c)に示すように、供給チューブ102のうちの領域R2(キャリッジ104の移動に伴い移動する領域)におけるインクに、図6(c)の右側へ向かう方向に慣性力が発生する。この供給チューブ102内の領域R2に作用する慣性力は、流路全体から見て、インクタンク103から記録ヘッド101へと向かう方向に発生する。つまり、記録ヘッド101内の第1液室402から第2液室403の方向に対して、慣性力による圧力が加えられる。本実施形態では、図6(d)に示すように、容積可変部406によって、第2液室403の容積が拡張し、加圧によって流れてきたインクを収容することができる。このため、インクは、加圧によって吐出口401から漏れ出さず、第1液室402から第2液室403の方向に流れる。
【0034】
図6(a)から図6(d)で説明したように、キャリッジ104が左右端で加減速走査することによって、吐出口401付近におけるインクが往復移動する。つまり、循環用のポンプ等を用いることなく、吐出口401付近におけるインクを吐出口401から移動させることが可能となる。
【0035】
尚、容積可変部406は、キャリッジ104の加減速で発生し得る最大の圧力変動分に相応して拡張可能であることが前提である。例えば図1のような供給チューブ102の配置の記録装置100である場合、発生し得る最大の圧力変動とは、最大スキャン幅で走査するときであり、かつ、右端側で加減速を行うときに発生する圧力変動のことである。図1のような供給チューブ102の配置とは、キャリッジ104に移動方向と略平行な方向に供給チューブ102が配されている構成である。そして、キャリッジ104の移動に伴い移動する供給チューブ102の長さは、図6(c)に示すようにキャリッジ104が右端側に位置した場合の領域R2の方が、図6(a)に示す左端側に位置した場合の領域R1よりも長い構成である。容積可変部406は、最大の圧力変動分以上に拡張可能であってよい。
【0036】
尚、図6(a)から図6(d)では、供給チューブ102が、Jの字を横にしたように接続されている略Jの字形状に這いまわされている例を説明した。また、供給チューブ102の這いまわし方向は、キャリッジが左端側に移動した場合と右端側に移動した場合とで変わらない例を説明した。また、図6では、第1液室402と供給チューブ102との接続部近傍においては、供給チューブ102は、図の左側から回り込むようにして第1液室402に接続されている例を示している。ここで、慣性力が作用するのは、キャリッジ104の移動とともに移動する供給チューブ102内(図6(a)に示すR1や図6(c)に示すR2)のインクである。このため、キャリッジの移動時において供給チューブ102全体の這いまわし方向が変わらない場合には、供給チューブ102が、接続部近傍のいずれの方向から第1液室402に接続されても、インクは同じ方向に移動することになる。
【0037】
図7は、キャリッジ104の移動に伴う慣性力を説明する別の図である。図7(a)は、キャリッジ104が主走査方向の右端側に位置している例である。図7(b)は、キャリッジ104が主走査方向の左端側に位置している例である。図7の例においても、供給チューブ102は、全体として、Jの字を横にしたような略Jの字形状に這いまわされている。図7の例では、供給チューブ102のJの字の先端部分(第1液室402との接続部)近傍が、図6に示す例とは逆に、図7の右側から回り込むように第1液室402に接続されている。このような形態であっても、キャリッジ104の移動に伴う慣性力が生じる部分は、キャリッジ104の移動とともに移動する供給チューブ102の矢印が付された部分となる。このため、供給チューブ102が、第1液室402との接続部近傍においてさらに湾曲して第1液室402に接続されていても、キャリッジ104の移動に伴う慣性力が生じる方向は、図6で示した例と同様となる。
【0038】
<インクの移動の説明>
次に、吐出口401付近のインクが移動することで生じる現象を説明する。前述したように、吐出口401のインクと外気との界面であるメニスカスでインクの蒸発成分が蒸発する。インクの蒸発成分は、インクの温度が高いほど多く蒸発しやすい。また、インクの蒸発成分は、外気である空気の湿度が低いほど蒸発しやすい。このように、吐出口401付近のインクは、特性が変化し、吐出精度が低下したり、吐出口401に目詰まりして吐出ができなかったりする虞がある。
【0039】
特性が変化したインクが滞留している吐出口401を回復させるためには、吐出口401に滞留しているインクを、特性の変化していないインクに入れ替えることが求められる。特性の変化したインクは、粘度および濃度が高くなり、正常なインクの吐出に比べて吐出速度が遅くなり、記録媒体への着弾位置が所望の着弾位置からずれることで記録画像の画質劣化要因となる。また、吐出するインクの体積が変化したり記録濃度が高くなったりして記録画像の画質劣化要因となる。このため、所望のインク吐出を維持するために、吐出口401付近においてメニスカスでの蒸発により特性の変化したインクを、吐出口401付近(少なくともメニスカス部)から移動させることが求められる。
【0040】
本実施形態においては、上述したように、キャリッジ104の往復移動に伴って吐出口401付近のインクが移動することで、吐出口401付近で増粘しているインクが、増粘していないインクと混ざって緩和されることになる。
【0041】
図8は、記録動作中の非吐出時間の長さにおける吐出速度の変化を示す。図8は、吐出口401付近に慣性力による流れを一定間隔で発生させた場合と、流れを全く発生させない場合とにおいて、吐出速度をそれぞれ実際に測定した結果を表した図である。測定は、記録ヘッド101を固定した状態で、任意の駆動パルスを付与し一定の周波数で連続吐出を行うことができる吐出観察治具を用いたものである。吐出した液滴を異なる発光ディレイのストロボで撮影し、液滴の位置の差から速度に換算している。吐出口401付近でインクの流れが無い場合、非吐出時間が長くなると吐出口401付近のインクが蒸発するので吐出速度が急峻に遅くなり、最終的には蒸発が進行して増粘し不吐出状態となる(図8の点線参照)。一方、本実施形態の記録装置100において、キャリッジ104の往復走査によって吐出口401付近でインクが往復移動している場合は、吐出口401付近に滞留したインクの蒸発の進行を抑制している。このため、吐出速度の低下が進むことなく正常な吐出状態を維持することが可能となっている(図8の実線参照)。
【0042】
以上説明したように、本実施形態においては、キャリッジ104が左右端で加減速走査する際に吐出口401付近にインクの流れを起こすことで、インクの特性変化を抑制することができる。このように、シリアル式の特性であるキャリッジ104の往復移動を利用することで、循環ポンプ等を用いらずに吐出口401付近のインクを移動させることができる。また、吐出口401付近のインクを移動させることでインクの特性変化を抑制することができるので、前述したような、走査間に行われる予備吐出動作を実施せずに済む。このため、予備吐出処理をせずに連続記録動作を行うことができるので、記録時間を短縮することができる。また、予備吐出に伴うインク消費を低減することができる。また、本実施形態の記録装置100によれば、予備吐出処理をしても正常吐出が困難であった高粘度のインクなどを使用することができるようになり、インクの自由度が向上した記録装置100を提供することができる。
【0043】
本実施形態で説明した記録装置100は、シリアル式の記録装置であればいずれのものにも適用することができる。尚、大判印刷などのように大型の記録物を記録する記録装置の場合、往復移動に要する時間も長くなるので、吐出に用いられない吐出口401付近のインクの特性が変化しやすい。本実施形態で説明した構成を用いると、大型の記録装置において、特に連続記録動作を行う際の記録時間を大幅に短縮することができる。尚、本実施形態の記録装置100は、予備吐出処理を行わずに連続記録動作を行うことが可能であることを説明したが、本実施形態の記録装置100において予備吐出処理を行うこと自体はもちろん可能である。
【0044】
<<第2実施形態>>
第2実施形態では、第1実施形態とは容積可変部406の構成が異なる例を説明する。第2実施形態の容積可変部406は、第1実施形態の容積可変部406とは、容積の拡大及び収縮の速度が異なるものである。
【0045】
図9は、慣性力が寄与する部分を説明する図である。図9(a)は、キャリッジ104が主走査方向の右端側で加減速するときに慣性力が寄与する供給チューブ102の部分を点線枠で示している。図9(b)は、キャリッジ104が主走査方向の左端側で加減速するときに慣性力が寄与する供給チューブ102の部分を点線枠で示している。つまり、慣性力は、キャリッジ104の移動に伴いキャリッジ104の移動方向と略平行に移動する供給チューブ102の這いまわし形態によって、右端側および左端側で寄与する部分が異なる。
【0046】
図10は、キャリッジ104の主走査方向の移動に伴う記録ヘッド101内の圧力変動を説明する図である。図10(a)は、図1のようなチューブ配置の記録装置100において、キャリッジ104が2往復走査した時の、供給チューブ102内における圧力変動の変化を示している。より詳細には、供給チューブ102と記録ヘッド101とが接続する直前部分(図10(b)中の星印)で生じる供給チューブ102内の圧力変動の変化を示している。図9(a)および図9(b)に示すように、供給チューブ102の配置の関係により、キャリッジ104が主走査方向の左端側で加減速する時と、右端側で加減速する時とで、慣性力が寄与するチューブ内インクの容積および質量が異なる。このため、記録ヘッド101を搭載したキャリッジ104が左右で等しい加減速度で往復走査する場合、記録装置本体の右端側で加減速する場合と左端側で加減速する場合とでは、慣性力の大きさが異なる。図9(a)および(b)に示すように、キャリッジ104が右端側に位置する場合の方が、左端側に位置する場合よりも慣性力が寄与するチューブ内インクの容積および質量が大きい。このため、図10(a)に示すように、図9等に示すようなチューブ配置の記録装置100において記録ヘッド101内で発生する圧力の大きさは、左端側よりも右端側で加減速を行う方が大きい。
【0047】
図10(a)で示すように圧力変動は左右端で加減速する際に瞬発的に発生する。このため、第1実施形態の例では、加減速時のみ吐出口401付近にインクの流れが発生し、キャリッジ104の定速移動時(記録時)にインクの流れは殆ど生じない。
【0048】
そこで、本実施形態では記録ヘッド101の走査方向に応じて容積可変部406の拡大および収縮の速度を変化させることが可能な部材を設ける例を説明する。このような構成により、瞬発的な圧力変動を段階的に遅延させ、定速状態においても圧力変動が起きるように構成する。
【0049】
図11は、本実施形態における記録ヘッド101内の液室を説明する図である。図11(a)は、記録ヘッド101内の液室構造の概略断面図である。容積可変部406は、内部に第2液室403を仕切る仕切り板1302を備えている。仕切り板1302には、2本の空気用通路1303が備えられている。空気用通路1303のうち、一方にのみ開閉する弁1301が配されている。弁1301が開閉することによって、容積可変部406への一方の空気用通路1303が開放されたり閉塞されたりするので、容積可変部406への圧力の吸収量を変化させることができる。
【0050】
図9(a)のようにキャリッジ104が記録装置100本体の右端側で加減速を行った場合、第1実施形態で説明したように、第1液室402から第2液室403へ向かう方向に圧力が加えられる。前述したように、圧力変動は加減速時に発生する瞬発的なものであるので、第1実施形態における容積可変部406では、瞬時に拡大した後、定常状態に瞬時に戻ろうとする。このため、キャリッジ104が定速で移動する頃には圧力変動は減少し、吐出口401付近にはインクの流れがほとんど起きていない状態となる。
【0051】
一方、本実施形態の容積可変部406は、第1液室402から第2液室403へ向かう方向に圧力が加えられた時、図11(b)に示すように、弁1301が圧力によって開く。このため、空気用通路1303は、2本とも開放となった状態で圧力が加えられ、容積可変部406が拡大する。一方で、容積可変部406が定常状態に戻ろうと収縮する向きに力が働いた時、図11(c)に示すように、弁1301は閉じた状態となり空気用通路1303は、1本のみが開放状態となる。このため、容積可変部406が拡大するときと比べて収縮するときの空気の流量は少なくなる。従って、容積が拡大する速度に対する容積が収縮する速度は遅くなる。つまり加減速によって圧力が働いた際、容積可変部406は瞬時に拡大して第1液室402から第2液室403へとインクを一時的に収容するが、そこから定常状態に戻ろうとする際は速度を緩めて収縮する。このため、圧力変動も瞬時に収まるのではなく少しずつ段階的に弱まっていく。したがって、キャリッジ104が定速状態の時も圧力変動が発生している状態となり吐出口401付近ではインクの流れが起きている状態となる。
【0052】
また、図9(b)のようにキャリッジ104が記録装置本体の左端側で加減速を行った場合、第1実施形態で説明したように、第2液室403から第1液室402へ向かう方向に圧力が加えられる。このため、図11(c)および図11(d)に示すように、容積可変部406が少しずつ段階的に収縮し、インクの流れが継続して起きる。尚、このとき、第1液室402側と連通しているインクタンク103は、大気と連通している。従って、第1液室402から第2液室403への向きとは異なり、瞬時に圧力変動を吸収しなくても吐出口401からインクから漏れ出ることはない。定常状態に戻ろうとする際は、容積可変部406が拡大しようとする向きである。このため、図11(b)に示すように、2本の空気用通路1303によって容積可変部406は瞬時に拡大し、圧力変動も瞬時に収まる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態では、キャリッジ104が左右端で加減速走査するとき以外の定速状態においても、吐出口401付近に流れを発生させ、吐出口401付近のインクの特性変化を抑制することができる。尚、本実施形態では、空気用通路1303が2か所設けられる例を説明したが、拡大時と収縮時とで開放される通路の数が異なるように構成されていればよい。
【0054】
尚、図11の例では、図4(b)に示す伸縮部材412を容積可変部406の例として用いているが、図4(a)に示す伸縮部材411を容積可変部406として用いてもよい。この場合、仕切り板1302は、液室内壁410と共通の構成にしてもよい。
【0055】
<<第3実施形態>>
第1実施形態および第2実施形態においては、供給チューブ102が、略Jの字形状に這いまわされており、主走査方向の左右端に移動した際においても、Jの字形状が維持されている例を説明した。本実施形態では、供給チューブが、環状に這いまわされている例を説明する。そして、環状に這いまわされた供給チューブが、キャリッジの往復走査と共に走査方向と略平行に動く例を説明する。
【0056】
図12は、本実施形態における装置本体の定位置に配されたインクタンク103から記録ヘッド101までのインクの経路を示している。図12の供給チューブは、第1チューブ102a、第2チューブ102b、第3チューブ102c、および第4チューブ102dで形成されている。本実施形態では、各チューブ102a~102dを総称して、供給チューブ102という。インクタンク103内のインクは、第4チューブ102dを通り、第1チューブ102a及び第2チューブ102bに分岐し、第3チューブ102cに収束して記録ヘッド101内に供給される。第1チューブ102a及び第2チューブ102bで形成されるチューブ環は、XZ平面に対して水平になるように這いまわされており、キャリッジ104がX方向に左右往復走査するとともにチューブ環もX方向に水平に移動する。図12(a)は、キャリッジ104が左端側に位置している例であり、図12(b)は、キャリッジ104が右端側に位置している例である。第1チューブ102a及び第2チューブ102bの結合部、並びに、第1チューブ102a、第2チューブ102b及び第3チューブ102cの結合部が、それぞれキャリッジ104の移動に伴い移動していることがわかる。
【0057】
このような供給チューブ102が環状に這いまわされている系では、第1チューブ102aと第2チューブ102bとで圧力変動が相殺される。このため、実際に記録ヘッド101内に働く圧力変動は、第1チューブ102aと第2チューブ102bとが合流して記録ヘッド101の供給口に繋がるように這いまわされている第3チューブ102cのうちの図12の点線枠で示す部分になる。即ち、キャリッジ104の往復移動に伴い慣性力が寄与する部分は、第3チューブ102cの部分となる。本実施形態では、記録ヘッド101の第1液室402の供給口から、X軸方向に対して右方向に第3チューブ102cが這いまわされている例を説明する。尚、図12に示すように、キャリッジ104の往復移動に伴い、第3チューブ102cの這いまわし方向は、変わらないものとする。
【0058】
図12(a)を用いて、キャリッジ104が主走査方向の左端側で加減速を行う例を説明する。キャリッジ104が主走査方向の左端側で加減速を行うと、記録ヘッド101からインクタンク103へと向かう方向に、第3チューブ102c内のインクに慣性力が発生する。記録動作時はインクタンク103内の開閉弁202は開放状態となっている。このため、図6(b)に示すように、インクは、第2液室403から第1液室402への方向に流れる。
【0059】
図12(b)を用いて、キャリッジ104が主走査方向の右端側で加減速を行う例を説明する。キャリッジ104が主走査方向の右端側で加減速を行うと、インクタンク103から記録ヘッド101へと向かう方向に、第3チューブ102c内のインクに慣性力が発生する。つまり、記録ヘッド101内の第1液室402から第2液室403の方向に慣性力による圧力が加えられる。この時、図6(d)に示すように容積可変部406によって第2液室403の容積が拡張し、加圧によって流れてきたインクを収容することができるので、インクは、第1液室402から第2液室403の方向に流れる。
【0060】
本実施形態では、図12に示すように、慣性力が寄与する部分が、第1実施形態および第2実施形態と比べると小さいので、インクの移動量も第1実施形態および第2実施形態に比べると少なくなるものの、吐出口401付近のインクを移動させることができる。
【0061】
このように、供給チューブ102がインクタンク103から記録ヘッド101へと向かう途中で環状になっている形態の記録装置においても、キャリッジ104が左右端で加減速走査することによって吐出口401付近でインクを移動させることができる。
【0062】
尚、チューブ環を形成する第1チューブ102aおよび第2チューブ102b、ならびに、チューブ環から記録ヘッド101への第3チューブ102cで、それぞれチューブの流径を変えてもよい。流経を変えて異なる流路抵抗の経路にすることで、記録ヘッド101内でインクの揺動範囲を大きくさせることも可能である。例えば、第1チューブ102a、第2チューブ102b、および第3チューブ102cのチューブ径を、それぞれφ3、φ1、φ5とする場合を想定する。この場合、第2チューブ102bより第3チューブ102cの流路抵抗の方が小さいので、第3チューブ102cの中にシリアル走査による圧力変動がより伝搬するようになり、インクの特性変化を解消させることができる。
【0063】
また、第3実施形態のチューブ環の構成において、第2実施形態で説明したように、容積可変部406の拡大及び収縮の速度を異なるものを適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
101:記録ヘッド
102:供給チューブ
103:インクタンク
104:キャリッジ
401:吐出口
402:第1液室
403:第2液室
406:容積可変部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12