(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】検出装置、回転機械及び検出方法
(51)【国際特許分類】
F01D 25/00 20060101AFI20240115BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
F01D25/00 V
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2019195028
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-07-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】武田 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】田村 和浩
(72)【発明者】
【氏名】宮島 慶一郎
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/162414(WO,A1)
【文献】米国特許第04967153(US,A)
【文献】特開昭57-194309(JP,A)
【文献】特開2014-032196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 25/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン翼の通過タイミングを検出するための検出装置であって、
磁石と、該磁石が発生する磁束を受ける位置に設けられ、前記タービン翼の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するように構成されたコイルとを含むセンサと、
前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼の前記通過タイミングを検出するように構成された分析器と、
を備え、
前記積分信号は、前記誘導起電力に基づく前記信号の波形における前記タービン翼の通過に伴う上下の振動のゼロクロス点に対応するタイミングでピーク値をとる波形を有する
検出装置。
【請求項2】
前記コイルと前記分析器との間に設けられ、前記誘導起電力に基づく信号を積分して前記積分信号を出力するように構成された積分器を備える
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
タービン翼の通過タイミングを検出するための検出装置であって、
磁石と、該磁石が発生する磁束を受ける位置に設けられ、前記タービン翼の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するように構成されたコイルとを含むセンサと、
前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼の前記通過タイミングを検出するように構成された分析器と、
前記コイルと前記分析器との間に設けられ、前記誘導起電力に基づく信号を積分して前記積分信号を出力するように構成された積分器と、
前記積分器の出力側に設けられ、前記積分信号の高周波数成分のみを通過させるように構成されたハイパスフィルタと、
を備え、
前記分析器は、前記ハイパスフィルタを通過した前記積分信号に基づいて前記タービン翼の前記通過タイミングを検出する
検出装置。
【請求項4】
タービン翼と、
請求項1乃至3の何れか一項に記載の検出装置と、
を備える回転機械。
【請求項5】
前記タービン翼は、先端に凹凸形状を有する単翼である
請求項4に記載の回転機械。
【請求項6】
前記タービン翼は、シュラウド連結翼である
請求項4に記載の回転機械。
【請求項7】
タービン翼の通過タイミングを検出するための検出方法であって、
磁石と該磁石が発生する磁束を受ける位置に設けられたコイルとを含むセンサが、前記タービン翼の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するステップと、
分析器が、前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼の前記通過タイミングを検出するステップと、
を備え
、
前記積分信号は、前記誘導起電力に基づく前記信号の波形における前記タービン翼の通過に伴う上下の振動のゼロクロス点に対応するタイミングでピーク値をとる波形を有する
検出方法。
【請求項8】
タービン翼の通過タイミングを検出するための検出方法であって、
磁石と該磁石が発生する磁束を受ける位置に設けられたコイルとを含むセンサが、前記タービン翼の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するステップと、
分析器が、前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼の前記通過タイミングを検出するステップと、
前記タービン翼を回転させながら前記積分信号の基準波形を取得するステップと、
前記タービン翼のシュラウド部のうち、前記シュラウド部の軸方向端面の周方向に対する傾きが規定範囲内に収まる検出範囲の通過時間帯を前記基準波形上において特定し、前記通過時間帯における該基準波形上での前記積分信号の変化幅を特定するステップと、
前記変化幅内に前記通過タイミングを検出するための閾値を設定するステップと、
を備える検出方法。
【請求項9】
前記検出範囲は、前記タービン翼の前記シュラウド部のうち、前記タービン翼の翼部の負圧面側に位置し、前記周方向に対して前記タービン翼の前縁側又は後縁側の前記軸方向端面が傾斜した領域である
請求項8に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、検出装置、回転機械及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タービン翼の振動を計測する方法として、非接触でタービン翼の通過タイミングを検出する方法が提案されている。例えば、非特許文献1~3には、磁石と、磁石が発生する磁束を受ける位置に設けられたコイルとを備える検出装置が開示されている。この検出装置によれば、コイルがタービン翼の通過に伴う磁束の変化に基づく誘導起電力を検出し、その誘導起電力に基づく信号と一定の閾値とを対比してパルス信号を生成し、タービン翼の通過タイミングを検出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】三菱重工業(株)、間瀬 正隆、金子 康智、「最近の蒸気タービン翼の回転振動計測技術」、2000年4月、ターボ機械第28巻第4号 P.230-236
【文献】間瀬 正隆、柴田 昌明、「蒸気タービン翼の非接触振動計測技術の最近の進歩と展望」、1995年5月、ターボ機械第23巻第5号、P.282-288
【文献】三菱重工業(株)高砂研究所、金子 康智、「非接触翼振動計測技術」、2003年9月18日~9月19日、日本機械学会関西支部第264回講習会 応力計測の基礎とその応用、教材(2003.9.18,19)、VJ03-10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1~3が開示する検出装置において、誘導起電力の波形は、磁束の時間的変化(磁束の時間微分項)による影響を受ける。そのため、誘導起電力の波形は、タービン翼の回転数に応じて変化する。
【0005】
その結果、タービン翼の回転数が変化している間には、一定の閾値との比較に基づく検出タイミングが変動してしまう。換言すると、タービン翼が通過したと判別される検出タイミングにおけるタービン翼と検出装置との位置関係が、検出のたびに変化してしまう。その結果、タービン翼の通過タイミングの検出精度が低下する場合がある。また、タービン翼の回転数が低い場合、誘導起電力の波形におけるピーク値の低下(通過時の振幅の減少)によって閾値に達しない状態となり、タービン翼の通過を検出できない場合がある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本開示は、タービン翼の通過タイミングの検出精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る検出装置は、
タービン翼の通過タイミングを検出するための検出装置であって、
磁石と、該磁石が発生する磁束を受ける位置に設けられ、前記タービン翼の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するように構成されたコイルとを含むセンサと、
前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼の前記通過タイミングを検出するように構成された分析器と、
を備える。
【0008】
本開示に係る回転機械は、
タービン翼と、
上記の検出装置と、
を備える。
【0009】
本開示に係る検出方法は、
タービン翼の通過タイミングを検出するための検出方法であって、
磁石と該磁石が発生する磁束を受ける位置に設けられたコイルとを含むセンサが、前記タービン翼の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するステップと、
分析器が、前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼の前記通過タイミングを検出するステップと、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、タービン翼の通過タイミングの検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る検出装置を備える回転機械の構成を説明するための模式図である。
【
図2】一実施形態に係る検出装置のセンサの構成を示す概略図である。
【
図3】比較例に係る検出装置を備える回転機械の構成を説明するための模式図である。
【
図4】比較例に係る誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。
【
図5A】タービン翼の形状とセンサ感度幅との関係性を例示する模式図である。
【
図5B】タービン翼の形状とセンサ感度幅との関係性を例示する模式図である。
【
図5C】タービン翼の形状とセンサ感度幅との関係性を例示する模式図である。
【
図6A】
図5Aに対応する誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。
【
図6B】
図5Bに対応する誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。
【
図6C】
図5Cに対応する誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。
【
図7】一実施形態に係る検出装置の各種信号の関係性を説明するための波形図である。
【
図9】タービン翼がシュラウド連結翼である場合のセンサの配置例を示す模式図である。
【
図10】一実施形態に係る検出装置の各種信号の関係性を説明するための波形図である。
【
図11】一実施形態に係る検出装置の誘導起電力に基づく信号と積分信号とを比較するための波形図である。
【
図12】シュラウド連結翼であるタービン翼の振動変位を示す模式図である。
【
図13】一実施形態に係る検出装置における閾値の設定方法を説明するための概念図である。
【
図14】一実施形態に係る検出方法の手順を示すフローチャートである。
【0012】
以下、添付図面を参照して幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
(一実施形態に係る回転機械の構成)
以下、
図1を参照しながら、本開示の一実施形態に係る回転機械300の構成について説明する。
図1は、一実施形態に係る検出装置100を備える回転機械300の構成を説明するための模式図である。
【0014】
回転機械300は、例えば、ガスタービン、蒸気タービン、コンプレッサ等である。
図1に示すように、回転機械300は、回転軸310と、回転数を検出するように構成された回転数検出センサ320と、回転軸310を中心として回転する一枚以上のタービン翼330と、を備える。
【0015】
タービン翼330は、磁性体である。回転数検出センサ320は、タービン翼330の回転数を示す信号(例えば1回転するたびに1つのパルスを出力するパルス信号)を生成し、検出装置100に回転数を示す信号を出力する。検出装置100は、この信号に基づいて、通過したタービン翼330が何番目のタービン翼330であるかを特定するように構成される。
【0016】
回転機械300は、タービン翼330の通過タイミングを検出するための検出装置100をさらに備える。検出装置100は、センサ10と、積分器20と、ハイパスフィルタ30と、A/D変換器40と、分析器50とを備える。なお、センサ10と積分器20の間にセンサ10の出力の大きさを調整可能な専用アンプ(不図示)が設けられてもよい。
【0017】
センサ10は、電磁誘導作用によって生じる誘導起電力を検出するように構成される。タービン翼330が回転するのに対して、センサ10は静止状態となるように固定される。
図2は、一実施形態に係る検出装置100のセンサ10の構成を示す概略図である。この図は、タービン翼330の回転方向に平行な面に沿ったセンサ10の断面図を示している。
【0018】
図2に示すように、例えば、センサ10は、磁束を発生するための磁石11と、磁石11からの磁束を受ける位置に設けられるコイル12と、コイル12に一端が接続される導線13と、筐体14と、を備える。なお、センサ10の構成は、
図2に示す一例に限られない。
【0019】
コイル12は、例えば、磁石11とタービン翼330との間に設けられる。コイル12は、回転方向に移動するタービン翼330の通過に伴う磁束(磁束分布)の変化に基づく誘導起電力を検出するように構成される。導線13の他端は、専用アンプや後述する積分器20に接続される。
【0020】
センサ10は、例えば、タービン翼330を収納するケーシング(不図示)に、タービン翼330の先端方向に感度を持つように固定される。検出装置100は、1つのセンサ10を備える構成であってもよい。また、検出装置100は、タービン翼330に対向して、複数の周方向位置に配列された複数のセンサ10を備える構成であってもよい。
【0021】
幾つかの実施形態では、例えば、
図1及び
図2に示すように、積分器20は、センサ10のコイル12と分析器50との間に設けられる。積分器20は、コイル12からの誘導起電力に基づく信号を積分して積分信号を出力するように構成される。
【0022】
誘導起電力に基づく信号は、数式で示した場合に時間微分項を含む信号である。誘導起電力に基づく信号は、例えば、電磁誘導によってコイル12に誘起される電圧値(誘導起電力)を示す信号である。例えば、誘導起電力である電圧V(V)は、V=-Ndφ/dtの式で表される。Nは、コイル12の巻数(回)であり、φは磁束(Wb)である。なお、誘導起電力に基づく信号は、これに限られない。例えば、誘導起電力に基づく信号は、コイル12に誘起される電圧を積分以外の方法で変換した電気的な信号であってもよいし、誘導起電力を積分以外の方法で加工処理した数値データであってもよい。
【0023】
幾つかの実施形態では、積分器20は、例えば、積分回路を含み、コイル12の誘導起電力である電圧信号を積分するように構成される。この場合、積分信号を示す電圧V(V)は、V=-Nφ+Cで表される。Cは積分定数である。なお、積分信号は、積分器20によって生成される信号ではなく、分析器50の演算処理によって誘導起電力に基づく信号を積分した結果であってもよい。すなわち、検出装置100において、積分器20を省略することも可能である。
【0024】
幾つかの実施形態では、例えば、
図1に示すように、ハイパスフィルタ30が積分器20の出力側に設けられる。ハイパスフィルタ30は、積分信号の高周波数成分のみを通過させるように構成される。なお、ハイパスフィルタ30の代わりに、A/D変換器40の出力側にデジタルフィルタ(不図示)を設けて、低周波ノイズを除去してもよいし、分析器50の信号処理によって、低周波ノイズを除去してもよい。すなわち、検出装置100において、ハイパスフィルタ30を省略することも可能である。
【0025】
幾つかの実施形態では、例えば、
図1に示すように、分析器50の入力側にA/D変換器40が設けられる。A/D変換器40は、入力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力するように構成される。これにより、分析器50による信号分析を容易にすることが可能となる。
【0026】
分析器50は、誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいてタービン翼330の通過タイミングを検出するように構成される。幾つかの実施形態では、例えば、
図1に示すように、分析器50は、ハイパスフィルタ30を通過した積分信号に基づいてタービン翼330の通過タイミングを検出する。
【0027】
分析器50は、積分信号との一定の閾値との比較によってタービン翼330の通過タイミングを得る。例えば、分析器50は、積分信号が閾値を超えたタイミングをタービン翼330の通過タイミングとして検出する。なお、分析器50は、閾値を下回ったタイミングをタービン翼330の通過タイミングとして検出するように構成されてもよいし、閾値を超えたタイミングと閾値を下回ったタイミングの両方のタイミングに基づいて、タービン翼330の通過タイミングを検出するように構成されてもよい。
【0028】
分析器50は、検出した通過タイミングに基づいて、さらにタービン翼330の振動状態を解析するように構成されてもよい。また、分析器50は、検出した通過タイミングを示す情報を他の装置に出力するように構成されてもよい。
【0029】
(比較例に係る回転機械の構成)
以下、比較例に係る回転機械400について説明する。
図3は、比較例に係る検出装置200を備える回転機械400の構成を説明するための模式図である。
【0030】
図3に示すように、比較例に係る回転機械400は、回転軸310と、回転数を検出するように構成された回転数検出センサ320と、回転軸310を中心として回転する一枚以上のタービン翼330と、検出装置200と、を備える。検出装置200は、センサ10と、A/D変換器40と、分析器50とを、備える。
【0031】
このように、比較例に係る回転機械400の構成は、一実施形態に係る回転機械300の構成と比べて、積分器20とハイパスフィルタ30を備えていない点で異なる。それ以外の構成は、基本的に同じである。
【0032】
(比較例に係る検出装置の検出原理)
比較例に係る回転機械400の検出装置200は、誘導起電力に基づく信号(誘導起電力の波形をA/D変換した後の波形)を分析し、タービン翼330の通過タイミングを検出する。
図4は、比較例に係る誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。
【0033】
図4に示す一例では、誘導起電力に基づく信号は、タービン翼330が通過するたびに上下に振動する。
図4は、3つのタービン翼330が通過した場合の誘導起電力に基づく信号の時間的変化を示している。横軸は、時間であり、縦軸は信号強度(例えば誘導起電力の電圧値)を示している。
【0034】
このような波形が得られる場合に、任意の位置に基準タイミングを設定し、一定の閾値(波形が電圧波形である場合には、トリガ電圧値)を設定する。例えば、信号強度が閾値を超えたタイミングがタービン翼330の通過タイミングとして検出される。そのため、タービン翼330が通過するごとに1回の通過タイミングが検出されるように、閾値が設定される。
【0035】
通過タイミングは、点線a1で示す基準タイミングとの時間差として検出される。例えば、
図4に示す例において、通過タイミングは、1枚目のタービン翼330の通過がt0、2枚目のタービン翼330の通過がt1、3枚目のタービン翼330の通過がt2として検出されている。回転機械400のタービン翼330が例えば40枚である場合、t0~t39の通過タイミングが検出される。
【0036】
このような通過タイミングに基づいて、タービン翼330の振動を検出する場合には、同じタービン翼330の通過タイミング同士を比較する。例えば、3回転目のt1と4回転目のt1とを比較して、通過タイミングのずれを検出し、そのずれに応じてタービン翼330の振動状態を確認することができる。ずれの検出は、1回転ごとに検出されてもよいし、数回転ごとに検出されてもよい。振動の検出は分析器50によって行われてもよい。
【0037】
誘導起電力に基づく信号の波形はタービン翼330の形状によって異なる波形となる。そのため、タービン翼330の形状によっては、比較例に係る検出装置200の検出原理では、タービン翼330の通過タイミングを精度よく検出できない場合がある。そこで、以下、3つのタービン翼330の形状を例示し、それらのタービン翼330が通過した場合の誘導起電力に基づく信号の波形についてそれぞれ説明する。
【0038】
図5Aは、タービン翼330(330A)の形状とセンサ感度幅との関係性を例示する模式図である。
図5Bは、タービン翼330(330B)の形状とセンサ感度幅との関係性を例示する模式図である。
図5Cは、タービン翼330(330C)の形状とセンサ感度幅との関係性を例示する模式図である。これらのタービン翼330(330A、330B、330C)は、隣接する翼同士が連結されていない単翼である。
【0039】
図6Aは、
図5Aに対応する誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。
図6Bは、
図5Bに対応する誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。
図6Cは、
図5Cに対応する誘導起電力に基づく信号を示す波形図である。これらの波形図は、3枚のタービン翼330が通過した場合の誘導起電力に基づく波形をそれぞれ示している。横軸は時間軸であり、縦軸は電圧値を示している。
【0040】
図5Aに示すように、センサ10の感度幅よりもタービン翼330(330A)の幅が小さく、かつタービン翼330(330A)の先端(径方向外側の端面)が平坦である場合、
図6Aに示す誘導起電力に基づく信号を示す波形が得られる。この場合、
図4に示すように閾値を設定して、タービン翼330の通過タイミングを検出することが考えられる。
【0041】
しかし、誘導起電力に基づく信号は、回転数が低い場合には、振幅が小さくなる。すなわち、タービン翼330(330A)の通過に伴う信号強度の変化(ピーク値)が小さくなる。この場合、ピーク値であっても閾値に達しなくなり、タービン翼330(330A)の通過タイミングを検出できなくなる虞がある。
【0042】
図5Bに示すように、センサ10の感度幅よりもタービン翼330(330B)の幅が大きく、かつタービン翼330(330B)の先端が平坦である場合、
図6Bに示す誘導起電力に基づく信号を示す波形が得られる。この場合、
図4に示すように閾値を設定して、タービン翼330の通過タイミングを検出することが考えられる。この場合においても、回転数が低い場合には、信号強度の変化(ピーク値)が小さくなるために、タービン翼330(330B)の通過タイミングを検出できなくなる虞がある。
【0043】
図5Cに示すように、センサ10の感度幅よりもタービン翼330(330C)の幅が大きく、かつタービン翼330(330C)が先端(径方向外側の端面)に凹凸形状を有する場合、
図6Cに示す誘導起電力に基づく信号を示す波形が得られる。このようなタービン翼330(330C)の通過に基づいて検出される誘導起電力は、1枚のタービン翼330(330C)の通過に対して0Vを通過するピーク電圧が複数になりやすい。
【0044】
この場合、誘導起電力に基づく信号の波形がタービン翼330(330C)の通過タイミングの検出に適していない波形となり、タービン翼330(330C)の通過タイミングを精度よく検出することが困難となる場合がある。例えば、1枚のタービン翼330(330C)の通過とその検出タイミングが1対1に対応しない虞がある。また、回転数が低い場合には、信号強度の変化(ピーク値)が小さくなるために、タービン翼330(330B)の通過タイミングを検出できなくなる虞がある。
【0045】
このように、比較例に係る回転機械400の検出装置200によれば、タービン翼330の通過タイミングを精度よく検出できない虞がある。そこで、以下、一実施形態に係る検出装置100の検出原理について説明する。
【0046】
(一実施形態に係る検出装置の検出原理)
一実施形態に係る回転機械300の検出装置100は、誘導起電力に基づく信号ではなく、それを積分した積分信号(積分信号の波形をA/D変換した後の波形)を分析し、タービン翼330の通過タイミングを検出する。
図7は、一実施形態に係る検出装置100の各種信号の関係性を説明するための波形図である。
【0047】
この図は、3つのタービン翼330が通過した場合の各種信号の時間的変化を示している。横軸は、時間であり、縦軸は信号強度(例えば電圧値)を示している。具体的には、この図は、
図1に示すセンサ10の出力信号である誘導起電力に基づく波形61と、
図1に示すハイパスフィルタ30の出力信号(低周波数ノイズを除去した後の積分信号)の波形62と、分析器50において分析される波形63と、をタイミングチャート形式で示している。
【0048】
図7に示すように、誘導起電力に基づく信号を示す波形61は、タービン翼330が通過するたびに上下に振動する。この波形61は、
図6Aに示す波形と基本的に同じである。波形62は、波形61の積分に相当する。そのため、波形62は、波形61のタービン翼330の通過に伴う上下の振動のゼロクロス点でピーク値を取る。また、波形62は、波形61が正の値をとる位置において傾きが正、波形61が負の値をとる位置において傾きが負となるような波形となる。
【0049】
波形63は、基本的に波形62と同じ波形である。波形63には、閾値(トリガ電圧)が設定されている点で波形62と異なる。検出装置100の分析器50は、波形63において電圧値が閾値を超えたタイミングをタービン翼330の通過タイミングとして検出する。
【0050】
このように、検出装置100によれば、磁束の時間微分項による影響が低減された積分信号に基づいてタービン翼330の通過タイミングを検出する。タービン翼330の回転数が変化しても、積分信号の波形の変化は小さい。また、タービン翼330の回転数の変化による積分信号のピーク値の変化も小さい。そのため、回転数変化中であっても、閾値に達するタイミングにおけるタービン翼330とセンサ10との位置関係は同等となる。したがって、検出装置100によれば、タービン翼330の通過タイミングの検出精度を向上させることが可能となる。
【0051】
積分信号の波形は、タービン翼330の形状によって異なる波形となる。そこで、以下、3つのタービン翼330の形状における積分信号の波形についてそれぞれ説明する。
【0052】
図8Aは、
図5Aに対応する積分信号を示す波形図である。
図8Bは、
図5Bに対応する積分信号を示す波形図である。
図8Cは、
図5Cに対応する積分信号を示す波形図である。これらの波形図は、3枚のタービン翼330が通過した場合の積分信号をそれぞれ示している。横軸は時間軸であり、縦軸は電圧値を示している。
【0053】
図8Aに示す波形では、
図7に示した場合と同様に、タービン翼330の通過タイミングを検出することができる。
図5Bに示すタービン翼330(330B)は、
図5Aに示すタービン翼330(330A)に比べて、センサ10の感度幅に対して幅が大きく平坦な先端を有している。この場合、タービン翼330(330B)の先端の平坦部が通過する際の磁束変化が小さいため、
図8Bに示す波形は、
図8Aに示す波形に比べて、ピーク値付近がなだらかな形状を有する。
図8Bに示す波形においても、
図8Aに示す波形と同様に、タービン翼330の通過タイミングを検出することができる。
【0054】
図8Cに示す波形では、タービン翼330(330C)の先端(外周面)の凹凸形状に対応し、1枚のタービン翼330(330C)の通過したときの変動部分に窪みが生じている。しかし、0Vを通過するピーク電圧は1つだけである。また、タービン翼330(330C)の先端の凹部がセンサ10の感度幅の中心位置を通過したときの波形の電圧値は、センサ10の感度幅からタービン翼330(330C)が外れているときの波形の電圧値よりも大きい。
【0055】
そのため、タービン翼330(330C)の先端の凹部がセンサ10の感度幅の中心位置を通過したときの波形の電圧値よりも低い電圧値に閾値を設定することにより安定した通過タイミングの検出が可能となる。このように、検出装置100によれば、タービン翼330(330A、330B、330C)の通過タイミングを精度よく検出することが可能となる。
【0056】
以下、シュラウド連結翼であるタービン翼330(330D)を備える回転機械300にについて説明する。
図9は、タービン翼330(330D)がシュラウド連結翼であるセンサ10の配置例を示す模式図である。シュラウド連結翼であるタービン翼330(330D)の通過タイミングを検出する場合、センサ10は、
図9に示すように、タービン翼330(330D)のシュラウド部331の軸方向端面の付近に配置される。なお、センサ10は、
図9に示すセンサ(10A)のようにタービン翼330(330D)の翼部の前縁側に配置されてもよいし、
図9に示すセンサ(10B)のようにタービン翼330(330D)の翼部の後縁側に配置されてもよい。センサ10をタービン翼330(330D)の翼部の前縁側と後縁側のどちらに設置するかは、例えば、解析により翼の振れ方(振動モード形状)を確認し、振幅が大きいなどの計測に有利な方を選択してもよい。
【0057】
図10は、一実施形態に係る検出装置100の各種信号の関係性を説明するための波形図である。この図は、3つのタービン翼330(330D)が通過した場合の各種信号の時間的変化を示している。横軸は、時間であり、縦軸は信号強度(例えば電圧値)を示している。具体的には、この図は、
図1に示すセンサ10の出力信号である誘導起電力に基づく波形64と、
図1に示すハイパスフィルタ30の出力信号(低周波数ノイズを除去した後の積分信号)の波形65と、分析器50において分析される波形66と、をタイミングチャート形式で示している。
【0058】
シュラウド連結翼であるタービン翼330(330D)では、単翼であるタービン翼330(330A、330B、330C)の場合とは異なり、センサ10から見た場合に翼の有無の境界がない。そのため、
図10に示すように、誘導起電力に基づく波形64は、タービン翼330(330D)が通過するたびに上下に振動する。しかし、この波形64は、
図6Aに示す波形に比べて、平坦部がないなだらかな波形となる。
【0059】
誘導起電力に基づく波形64に対してタービン翼330(330D)の通過を検出する場合、設定される一定の閾値(トリガ電圧)の大きさに応じて、その検出タイミングは大きく変動する。また、回転数に応じて通過時の変動の振幅(ピーク値)も変動しやすい。そのため、一定の閾値(トリガ電圧)をピーク値の付近に設定しなければ、回転数の変化によって検出タイミングが大きくずれる。すなわち、検出のたびにタービン翼330(330D)とセンサ10との位置関係が変動する。
【0060】
そこで、一定の閾値(トリガ電圧)をピーク値の付近に設定すれば、回転数の変化に伴う検出タイミングのずれは小さくなる。しかし、一定の閾値(トリガ電圧)をピーク値の付近に設定した場合、回転数の変化によってピーク値が低下した場合に、タービン翼330(330D)の通過を検出できない虞がある。
【0061】
このように、誘導起電力に基づく波形64に閾値を適切に設定することは困難である。そのため、比較例に係る検出装置100のように誘導起電力に基づいてタービン翼330(330D)の通過を検出する構成では、検出精度が低下する虞がある。
【0062】
一方、波形65は、波形64の積分に相当する。そのため、波形64は、波形63のタービン翼330(330D)の通過に伴う上下の振動のゼロクロス点でピーク値を取る。また、波形65は、波形64が正の値をとる位置において傾きが正、波形64が負の値をとる位置において傾きが負となるような波形となる。
【0063】
波形66は、基本的に波形65と同じ波形である。波形66には、閾値(トリガ電圧)が設定されている点で波形65と異なる。検出装置100の分析器50は、波形66において電圧値が閾値を超えたタイミングをタービン翼330(330D)の通過タイミングとして検出する。
【0064】
この場合、設定される一定の閾値(トリガ電圧)の大きさに応じた、検出タイミングの変動が小さい。また、回転数に応じて通過時の変動の振幅(ピーク値)も変動しにくい。すなわち、検出のたびにタービン翼330(330D)とセンサ10との位置関係が変動することも低減される。そのため、一定の閾値(トリガ電圧)をピーク値の付近以外に設定することも可能である。また、閾値の設定範囲がピーク値の付近に限られないので、回転数の変化によって仮にピーク値が低下しても、タービン翼330(330D)の通過を検出することができる。そのため、検出装置100によれば、タービン翼330(330D)の通過タイミングを精度よく検出することが可能となる。
【0065】
図11は、一実施形態に係る検出装置100の誘導起電力に基づく信号と積分信号とを比較するための波形図である。この図において、点線b1と点線b2の間の領域及び点線b3と点線b4の間の領域は、それぞれ閾値の設定可能範囲を示している。
【0066】
図11に示すように、シュラウド連結翼であるタービン翼330(330D)において、誘導起電力に基づく信号の波形64に対して閾値(例えばトリガ電圧)を設定する場合には、閾値の設定可能範囲(点線b1と点線b2の間の領域)が狭い。しかし、積分信号の波形65に対して閾値(例えばトリガ電圧)を設定する場合、タービン翼330(330D)がシュラウド連結翼である場合であっても、閾値の設定可能範囲(点線b3と点線b4の間の領域)が広い。そのため、検出装置100によれば、閾値を適切に設定しやすくすることができる。
【0067】
(一実施形態に係る検出装置100の閾値の設定方法)
以下、シュラウド連結翼であるタービン翼330(330D)の通過タイミングを検出するための検出装置100における好ましい閾値の設定方法について説明する。
【0068】
図12は、シュラウド連結翼であるタービン翼330(330D)の振動変位を示す模式図である。この図は、径方向外側からタービン翼330(330D)の軸方向端部を見た図を示している。この図において、上下方向は、軸方向を示し、左右方向は、周方向すなわち回転方向を示している。
【0069】
図12において実線で示すように、タービン翼330(330D)のシュラウド部331の軸方向端部は、湾曲している。タービン翼330(330D)は、例えば、点線c1で示すように軸方向に振動し、かつ周方向にも少し振動する場合がある。このような振動は、タービン翼330(330D)が通過するときの検出タイミングに影響する。
【0070】
振動が生じると、一定の閾値に達するタービン翼330(330D)の位置(移動方向における位置)がずれる。例えば、タービン翼330(330D)の所定の軸方向位置でトリガがかかるような閾値が設定された場合、タービン翼330(330D)が振動していない場合に対してΔt2の時間ずれが生じる。ここで、翼の実振幅Δxを推定する際には、事前に数値解析等で検出時間のずれ量Δt2と翼の振動変位の比Δxの比などを利用して実振幅Δxが算出される。ところが、閾値の設定が不適切なことにより想定とは異なる位置でトリガがかかってしまうと、実際に検出された時間ずれ量は例えばΔt2よりも大きいΔt1のようになってしまう場合がある。閾値が不適切なまま上記の比により翼の実振幅Δxを求めると、実際とは異なる振幅値が得られてしまうことになる。
【0071】
このことから、閾値を適切な値に設定することにより、トリガ位置のずれによる振幅の推定誤差を小さくすることができることがわかる。以下、一実施形態に係る検出装置100における閾値の設定方法について説明する。
【0072】
図13は、一実施形態に係る検出装置100における閾値の設定方法を説明するための概念図である。この図では、上段位置にシュラウド部331の端部形状を示し、中段位置に積分信号を示す波形67を示し、下段位置に誘導起電力に基づく信号の波形68を示している。点線d1と点線d2の間の領域及び点線d3と点線d4の間の領域は、それぞれ閾値の設定可能範囲を示している。θ1とθ2は、シュラウド部331軸方向端面の周方向に対する傾きをそれぞれ示している。
【0073】
図13に示すように、シュラウド部331軸方向端面の周方向に対する傾き(例えば、θ1、θ2)は、周方向位置によって変化する。周方向位置の変動に対して、この傾きが変化しにくい位置がトリガとなる位置となるように閾値を設定することが好ましい。このように設定することにより、トリガ位置のずれによる振幅の推定誤差を小さくすることが可能となる。
【0074】
具体的には、まず、
図13において、積分器20の出力電圧のピーク位置(波形67のピーク位置)をシュラウド部331の頂部と仮定する。この位置に対する角度ずれからセンサ10の検出領域がシュラウド部331のどの位置にかかっているかを推定できる。
【0075】
傾きθ(例えば、θ1、θ2)の変化による検出誤差は、例えば、タービン翼330(330D)が周方向に対して振動している場合、tanθの変化量に比例して大きくなる。この変化量が十分に小さい位置にトリガがかかるように閾値の値を調整する。tanθの許容変化量(許容誤差)は、例えば、5%程度であることが好ましく、(1-tanθ1/tanθ2)<±5%の範囲で閾値が設定される。なお、このような閾値の調整は、波形67と波形68を見ればわかるように、誘導起電力に基づく波形68では閾値設定範囲が狭いために困難であり、積分信号を示す波形67では閾値設定範囲が広いために容易である。
【0076】
このような閾値の設定を行うために、まず、タービン翼330(330D)を回転させながら積分信号の基準波形を取得する。次に、タービン翼330(330D)のシュラウド部331のうち、シュラウド部331の軸方向端面の周方向に対する傾きθが規定範囲内に収まる検出範囲の通過時間帯を基準波形上において特定し、その通過時間帯における基準波形上での積分信号の変化幅を特定する。次に、特定した変化幅内に閾値を設定する。
【0077】
なお、規定範囲は、許容誤差(絶対的な基準)から定まる傾きθの範囲であってもよいし、他の位置における傾きθとの比較(相対的な基準)によって定まる傾きθの範囲であってもよい。積分信号が電圧波形である場合、
図13に示すように閾値はトリガ電圧の設定値である。しかし、積分信号は電圧波形に限られないため、閾値は、トリガ電圧の設定値に限られない。例えば、積分信号は、演算処理による積分であってもよいため、積分信号は電圧ではなくてもよいし、閾値はトリガ電圧に限られない。
【0078】
傾きθが規定範囲内に収まる検出範囲は、タービン翼330(330D)のシュラウド部331のうち、タービン翼330(330D)の翼部の負圧面側に位置し、周方向に対してタービン翼330(330D)の前縁側又は後縁側の軸方向端面が傾斜した領域であることが好ましい。この場合、タービン翼330(330D)の通過タイミングの検出精度をより向上させることが可能となる。
【0079】
上記方法によれば、シュラウド連結翼の通過タイミングの検出において、シュラウド連結翼の振動に対してロバストな検出が可能となるように閾値を設定できる。なお、このような閾値の設定は、検出装置100が自動的に実行してもよいし、ユーザが手動で実行してもよい。
【0080】
(一実施形態に係る検出方法)
以下、一実施形態に係る検出方法の手順について説明する。
図14は、一実施形態に係る検出方法の手順を示すフローチャートである。なお、ここでは、タービン翼330(330D)がシュラウド連結翼であり、上述した閾値の設定を行う場合の例について説明する。閾値の設定がすでに済んでいる場合、またはタービン翼330がシュラウド連結翼ではない場合、後述するステップS1~S4は省略されてもよい。
【0081】
まず、タービン翼330(330D)の通過タイミングを検出するための検出方法では、前準備として閾値の設定を行う。具体的には、
図14に示すように、タービン翼330を回転させた状態において、検出装置100のセンサ10がタービン翼330(330D)の通過に伴う磁束の変化に基づく誘導起電力を検出する(ステップS1)。検出装置100の積分器20は、誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号の基準波形を取得する(ステップS2)。
【0082】
ここで、タービン翼(330D)のシュラウド部331のうち、シュラウド部331の軸方向端面の周方向に対する傾きが規定範囲内に収まる検出範囲の通過時間帯を基準波形上において特定し、その通過時間帯における基準波形上での積分信号の変化幅を特定する(ステップS3)。特定した変化幅内に一定の閾値(例えばトリガ電圧)を設定する(ステップS4)。この段階で閾値の設定が完了するため、以降のステップS5、S6は、タービン翼330の通過タイミングの検出動作を実行する場合の手順である。
【0083】
検出装置100のセンサ10が、タービン翼330(330D)の通過に伴う磁束の変化に基づく誘導起電力を検出する(ステップS5)。分析器50は、誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいてタービン翼330(330D)の通過タイミングを検出する(ステップS6)。
【0084】
このような検出方法によれば、磁束の時間微分項による影響が低減された積分信号に基づいてタービン翼330(330D)の通過タイミングを検出する。タービン翼330(330D)の回転数が変化しても、積分信号の波形の変化は小さい。また、タービン翼330(330D)の回転数の変化による積分信号のピーク値の変化も小さい。したがって、かかる方法によれば、タービン翼330(330D)の通過タイミングの検出精度を向上させることが可能となる。
【0085】
本開示は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0086】
(まとめ)
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0087】
(1)本開示の一実施形態に係る検出装置(100)は、
タービン翼(330)の通過タイミングを検出するための検出装置(100)であって、
磁石(11)と、該磁石(11)が発生する磁束を受ける位置に設けられ、前記タービン翼(330)の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するように構成されたコイル(12)とを含むセンサ(10)と、
前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼(330)の前記通過タイミングを検出するように構成された分析器(50)と、
を備える。
【0088】
上記(1)に記載の構成によれば、磁束の時間微分項による影響が低減された積分信号に基づいてタービン翼(330)の通過タイミングを検出する。タービン翼(330)の回転数が変化しても、積分信号の波形の変化は小さい。また、タービン翼(330)の回転数の変化による積分信号のピーク値の変化も小さい。したがって、タービン翼(330)の通過タイミングの検出精度を向上させることが可能となる。
【0089】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の構成において、前記検出装置(100)は、
前記コイル(12)と前記分析器(50)との間に設けられ、前記誘導起電力に基づく信号を積分して前記積分信号を出力するように構成された積分器(20)を備える。
【0090】
上記(2)に記載の構成によれば、分析器(50)が演算処理によって積分信号を生成する場合に比べて、分析器(50)の処理量を少なくすることができる。
【0091】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の構成において、前記検出装置(100)は、
前記積分器(20)の出力側に設けられ、前記積分信号の高周波数成分のみを通過させるように構成されたハイパスフィルタ(30)を備え、
前記分析器(50)は、前記ハイパスフィルタ(30)を通過した前記積分信号に基づいて前記タービン翼(330)の前記通過タイミングを検出する。
【0092】
積分信号は、積分定数Cの蓄積によって長期的なノイズの影響を受ける。このようなノイズの影響が大きい場合、タービン翼(330)の通過タイミングの検出精度を低下させる虞がある。この点、上記(3)に記載の構成によれば、長期的なノイズを低減する周波数特性を有するように設計されたハイパスフィルタ(30)によって、そのようなノイズの影響を低減することが可能となる。
【0093】
(4)本開示の一実施形態に係る回転機械(300)は、
タービン翼(330)と、
上記(1)乃至(3)の何れか一項に記載の検出装置(100)と、
を備える。
【0094】
上記(4)に記載の構成によれば、回転機械(300)が備えるタービン翼(330)の通過タイミングを精度よく検出することができる。
【0095】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の構成において、前記タービン翼(330)は、先端に凹凸形状を有する単翼である。
【0096】
積分信号の波形は、タービン翼(330)の形状によって異なる波形となるものの、タービン翼(330)が先端(外周面)に凹凸形状を有する単翼である場合であっても、1枚のタービン翼(330)の通過に対して0Vを通過するピーク電圧が複数になりにくい。そのため、上記(5)に記載の構成によれば、タービン翼(330)の通過タイミングを精度よく検出することが可能となる。
【0097】
(6)幾つかの実施形態では、上記(4)に記載の構成において、前記タービン翼(330)は、シュラウド連結翼である。
【0098】
タービン翼(330)がシュラウド連結翼であり、誘導起電力に基づく信号の波形に対して閾値を設定する場合には、閾値(例えばトリガ電圧)の設定可能範囲が狭い。しかし、積分信号の波形に対して閾値を設定する場合、タービン翼(330)がシュラウド連結翼である場合であっても、閾値(例えばトリガ電圧)の設定可能範囲が広い。そのため、上記(6)に記載の方法によれば、タービン翼(330)の通過タイミングを精度よく検出することが可能となる。
【0099】
(7)本開示の一実施形態に係る検出方法は、
タービン翼(330)の通過タイミングを検出するための検出方法であって、
磁石(11)と該磁石(11)が発生する磁束を受ける位置に設けられたコイル(12)とを含むセンサ(10)が、前記タービン翼(330)の通過に伴う前記磁束の変化に基づく誘導起電力を検出するステップと、
分析器(50)が、前記誘導起電力に基づく信号を積分した積分信号に基づいて前記タービン翼(330)の前記通過タイミングを検出するステップと、
を備える。
【0100】
上記(7)に記載の方法によれば、磁束の時間微分項による影響が低減された積分信号に基づいてタービン翼(330)の通過タイミングを検出する。タービン翼(330)の回転数が変化しても、積分信号の波形の変化は小さい。また、タービン翼(330)の回転数の変化による積分信号のピーク値の変化も小さい。したがって、タービン翼(330)の通過タイミングの検出精度を向上させることが可能となる。
【0101】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)に記載の方法において、前記検出方法は、
前記タービン翼(330D)を回転させながら前記積分信号の基準波形を取得するステップと、
前記タービン翼(330D)のシュラウド部(331)のうち、前記シュラウド部(331)の軸方向端面の周方向に対する傾き(θ)が規定範囲内に収まる検出範囲の通過時間帯を前記基準波形上において特定し、前記通過時間帯における該基準波形上での前記積分信号の変化幅を特定するステップと、
前記変化幅内に前記通過タイミングを検出するための閾値を設定するステップと、
を備える。
【0102】
上記(8)に記載の方法によれば、シュラウド連結翼の通過タイミングの検出において、シュラウド連結翼の振動に対してロバストな検出が可能となるように閾値を設定できる。
【0103】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)に記載の方法において、
前記検出範囲は、前記タービン翼(330D)の前記シュラウド部(331)のうち、前記タービン翼(330D)の翼部の負圧面側に位置し、前記周方向に対して前記タービン翼(330D)の前縁側又は後縁側の前記軸方向端面が傾斜した領域である。
【0104】
上記(9)に記載の方法によれば、タービン翼(330D)の通過タイミングの検出精度をより向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0105】
10 センサ
11 磁石
12 コイル
13 導線
14 筐体
20 積分器
30 ハイパスフィルタ
40 A/D変換器
50 分析器
61,62,63,64,65,66,67,68 波形
100,200 検出装置
300,400 回転機械
310 回転軸
320 回転数検出センサ
330 タービン翼
331 シュラウド部