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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】無線装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/12 20160101AFI20240115BHJP
【FI】
H02J50/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019196439
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072670
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】庄司 勇輝
【審査官】岩井 一央
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-063698(JP,A)
【文献】特開2016-135062(JP,A)
【文献】特許第6219495(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0349573(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
B60M 1/00-7/00
H01L 21/67-21/683
H01L 23/32
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
H02J 50/00-50/90
H02M 7/42-7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を無線送電する送電コイルと、
前記送電コイルの電力を無線受電する受電コイルと、
第1のスイッチング信号を基に、前記送電コイルに電圧を印加するスイッチ回路と、
第2のスイッチング信号を基に、前記受電コイルから出力される電圧を整流し、前記整流された電圧を負荷に印加する整流回路と、
前記第1のスイッチング信号と前記第2のスイッチング信号に位相差を与える第1の移相回路とを有し、
前記第1の移相回路は基準周波数信号を移相し、前記第1のスイッチング信号と前記第2のスイッチング信号とのうちの少なくとも1つを出力することを特徴とする無線装置。
【請求項2】
前記第1のスイッチング信号と前記第2のスイッチング信号は、周期が同じであることを特徴とする請求項1に記載の無線装置。
【請求項3】
前記整流回路は、複数の双方向スイッチを有することを特徴とする請求項1または2に記載の無線装置。
【請求項4】
前記複数の双方向スイッチの駆動信号は、貫通電流を防止するためのデッドタイムが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の無線装置。
【請求項5】
前記スイッチ回路は、フルブリッジ型、ハーフブリッジ型、またはプッシュプル型であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項6】
前記スイッチ回路は、ZCS(Zero Current Switching)動作またはZVS(Zero Voltage Switching)動作することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項7】
前記受電コイルと前記整流回路との間に設けられる共振回路をさらに有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項8】
前記第1の移相回路に基準周波数信号を出力する第1の基準周波数源と、
前記第2のスイッチング信号により前記整流回路を駆動する駆動回路と、
前記第1の基準周波数源と周波数同期し、前記駆動回路に基準周波数信号を出力する第2の基準周波数源とをさらに有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項9】
基準周波数信号を出力する基準周波数源と、
前記基準周波数信号を入力し、前記第1の移相回路に信号を出力する第1のPLL回路と、
前記基準周波数信号を入力する第2のPLL回路と、
前記第2のPLL回路の出力信号を移相する第2の移相回路と、
前記第2の移相回路の出力信号を基に、前記整流回路に前記第2のスイッチング信号を出力する駆動回路とをさらに有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の無線装置。
【請求項10】
電力を無線送電する送電コイルと、
前記送電コイルの電力を無線受電する受電コイルと、
第1のスイッチング信号を基に、前記送電コイルに電圧を印加するスイッチ回路と、
第2のスイッチング信号を基に、前記受電コイルから出力される電圧を整流し、前記整流された電圧を負荷に印加する整流回路と、
前記第1のスイッチング信号と前記第2のスイッチング信号に位相差を与える第1の移相回路と、
基準周波数信号を出力する基準周波数源と、
前記基準周波数信号を分周および移相する第1の分周/移相回路と、
前記基準周波数信号を分周および移相する第2の分周/移相回路と、
前記第1の分周/移相回路の出力信号を入力する第1のPLL回路と、
前記第2の分周/移相回路の出力信号を入力する第2のPLL回路と、
前記第2のPLL回路の出力信号を分周および移相する第3の分周/移相回路と、
前記第3の分周/移相回路の出力信号を基に、前記整流回路に前記第2のスイッチング信号を出力する駆動回路とをさらに有し、
前記第1の移相回路は、前記第1のPLL回路の出力信号を分周および移相した信号を前記第1のスイッチング信号として出力することを特徴とする無線装置。
【請求項11】
電力を無線送電する送電コイルと、
前記送電コイルの電力を無線受電する受電コイルと、
第1のスイッチング信号を基に、前記送電コイルに電圧を印加するスイッチ回路と、
第2のスイッチング信号を基に、前記受電コイルから出力される電圧を整流し、前記整流された電圧を負荷に印加する整流回路と、
前記第1のスイッチング信号と前記第2のスイッチング信号に位相差を与える第1の移相回路と、
基準周波数信号を出力する基準周波数源と、
前記基準周波数信号を分周および移相する第1の分周/移相回路と、
前記第1の分周/移相回路の出力信号を入力する第1のPLL回路と、
前記第1のPLL回路の出力信号を分周および移相する第2の分周/移相回路と、
前記第2の分周/移相回路の出力信号を基に、前記整流回路に前記第2のスイッチング信号を出力する駆動回路とをさらに有し、
前記第1の移相回路は、前記第1のPLL回路の出力信号を分周および移相した信号を前記第1のスイッチング信号として出力することを特徴とする無線装置。
【請求項12】
前記負荷は、モータであることを特徴とする請求項1~1のいずれか1項に記載の無線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータに電力を供給して駆動させるシステムがある。例えば半導体露光装置では、ウエハを露光位置に移動させるためのステージ上に、ウエハ上にパターンを形成するためにウエハを微細移動させるモータが搭載されており、そのモータを駆動するための電力を供給する給電ケーブルがステージ上に接続されている。このケーブルは、ステージの移動に併せて動くため、ケーブルの張力がステージの位置決め精度に影響を与える。そこで、モータ駆動のための電力伝送を無線化することが考えられている。
【0003】
特許文献1には、車輪を無線で駆動するモータの構成が記載されている。無線でモータ駆動するためには、電力伝送だけでなく、モータ駆動回路や整流回路の制御信号も無線で送る必要があるため、電波を用いた無線通信を行っている。この通信を用いて可動側にあるモータ駆動回路へ制御信号を送ることで、モータ駆動回路の制御を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6219495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、モータ等の負荷部に印加する電圧を高精度に制御することが求められている。例えば半導体露光装置において、ステージの移動を高速かつ高精度に行うために、モータ制御の高速化が求められる。特許文献1に記載の方法は、電波を用いた無線通信に数百μs~数msの遅延が生じるため、モータ駆動回路への制御信号を数百μs以下の周期で送ってモータ制御を高速化することは難しい。
【0006】
本発明の目的は、無線送電される電力に基づく負荷への電圧印加の精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の無線装置は、電力を無線送電する送電コイルと、前記送電コイルの電力を無線受電する受電コイルと、第1のスイッチング信号を基に、前記送電コイルに電圧を印加するスイッチ回路と、第2のスイッチング信号を基に、前記受電コイルから出力される電圧を整流し、前記整流された電圧を負荷に印加する整流回路と、前記第1のスイッチング信号と前記第2のスイッチング信号に位相差を与える第1の移相回路とを有し、前記第1の移相回路は基準周波数信号を移相し、前記第1のスイッチング信号と前記第2のスイッチング信号とのうちの少なくとも1つを出力する
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無線送電される電力に基づく負荷への電圧印加の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】可動ステージに無線装置を適用した場合のシステム構成図である。
図2】無線装置の構成例を示す図である。
図3】整流回路の構成例を示す図である。
図4】入出力電圧の実測例を示す図である。
図5】無線装置の構成例を示す図である。
図6】無線装置の構成例を示す図である。
図7】無線装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態による半導体露光装置などの可動ステージに適用した無線装置の構成例を示す図である。無線装置は、送電部100と、受電部200と、送電コイル101と、受電コイル201を有する。
【0011】
受電部200は、可動ステージ401の上に配置され、送電部100に対して物理的に移動する。送電部100は、可動ステージ401の上ではなく、その可動ステージ401を動かす可動ステージ動力源402が配置される固定側に配置されており、自身は動かない。
【0012】
送電部100と受電部200との間には、無線で給電および通信するための送電コイル101と受電コイル201がある。送電コイル101と受電コイル201は、互いに非接触である。受電コイル201も可動ステージ401の上に配置されており、可動ステージ401と共に移動する。送電コイル101を可動ステージ401の移動範囲をカバーするように長尺にすることで、可動ステージ401が任意の位置に移動しても、受電部200内のモータに非接触で給電することができる。
【0013】
送電コイル101の形状は、例えば横長の楕円形のコイルであり、受電コイル201は送電コイル101に比べて短尺なコイルである。受電コイル201が長尺であり、送電コイル101が短尺でもよい。
【0014】
図2は、第1の実施形態による無線装置300の構成例を示すブロック図である。無線装置300は、送電部100と、受電部200と、送電コイル101と、受電コイル201を有する。送電コイル101と受電コイル201の間は、物理的には接続されておらず、送電コイル101から受電コイル201へ電力が非接触で送られる。送電部100と受電部200の間も、物理的に接続されていない。
【0015】
送電部100は、移相回路102と、コントローラ103と、電源104と、基準周波数源105と、スイッチ回路106を有する。受電部200は、基準周波数源202と、受電回路204と、ゲート駆動回路205と、整流回路206と、モータ400を有する。
【0016】
電源104は、モータ400を駆動する電力源である。スイッチ回路106は、基準周波数源105が生成する基準周波数信号を移相回路102により移相したスイッチング制御信号によってスイッチング素子を駆動し、電源104から供給される電力を高周波スイッチングし、無線電力伝送可能な高周波電力に変換する。このとき、スイッチング周波数は、コントローラ103の指令信号の周期、すなわちモータ制御周波数よりも高い。
【0017】
コントローラ103は、光学センサなどから得られる現在のモータ400の位置情報を基に次の位置の指令を出す。具体的には、コントローラ103は、モータ400の推力を決める電源104の出力電圧振幅値とモータの動く向きを決めるモータ印加電圧符号情報を出力する。出力電圧振幅値は、コントローラ103から電源104へ指令信号を送ることで、電源104が出力電圧振幅値を指令された値に変える。モータ印加電圧符号情報は、コントローラ103から移相回路102に出力される。基準周波数源105は、基準周波数信号を移相回路102に出力する。移相回路102は、コントローラ103が出力するモータ印加電圧符号情報を基に、基準周波数源105が出力する基準周波数信号を移相した信号を第1のスイッチング信号としてスイッチ回路106に出力する。
【0018】
スイッチ回路106は、第1のスイッチング信号(電圧F3)を基に、送電コイル101に対して、モータ制御に必要な情報を含んだ送電電圧(電流)を供給(印加)する。送電コイル101は、電力を無線送電する。送電コイル101と非接触で、かつ電磁気的に結合している受電コイル201は、送電コイル101の電磁界によって励振され、高周波電力を発生する。受電コイル201は、送電コイル101の電力を無線受電する。
【0019】
受電回路204は、受電コイル201と整流回路206との間に設けられる。受電回路204は、インダクタとコンデンサを含んだ共振回路で形成されており、その共振周波数は、スイッチ回路106のスイッチング動作周波数と略等しい。受電回路204の出力は、整流回路206に接続される。
【0020】
整流回路206は、ゲート駆動回路205の第2のスイッチング信号(電圧F6)を基に、受電回路204の出力電圧を整流し、整流された電圧をモータ400に印加する。ここで、第2のスイッチング信号は、基準周波数源202に周波数同期した信号である。基準周波数源202は、基準周波数源105と周波数同期し、ゲート駆動回路205に基準周波数信号を出力する。ゲート駆動回路205は、基準周波数源202の基準周波数信号を基に、第2のスイッチング信号により整流回路206を駆動する。なお、基準周波数源105と基準周波数源202が周波数同期しているならば、整流回路206の出力電圧(電力)は、移相回路102の移相量によって制御することが可能となる。モータ400は、負荷であり、整流回路206の出力電圧により、回転する。
【0021】
基準周波数源202は、基準周波数源105の基準周波数信号を電磁界結合通信や光結合通信によって非接触伝送する手段によって置き換えることができる。例えば、レーザや指向性の鋭い発光ダイオードを固定側の基準周波数源105に配置し、ステージの移動方向に沿って発光させておき、その光路上に受光面が位置するようにフォトダイオードなどの受光素子を可動側の基準周波数源202に配置すればよい。本実施形態における電磁界結合には、電界結合と磁界結合の両方が含まれる。すなわち、信号の非接触伝送は電界結合によって行われてもよいし、磁界結合によって行われてもよいし、電界結合と磁界結合の両方によって行われてもよい。
【0022】
また、整流回路206は、アクティブスイッチング素子を用いた同期整流とすることで、ダイオードでは整流できない数mVの小さな電圧でも整流でき、微小電圧をモータ400に印加することができるため、モータ400を高精度に制御可能となる。
【0023】
なお、送電コイル101と受電コイル201は、プリント基板の配線で形成してもよい。プリント基板に磁性シートを貼付して、磁界結合時の損失を低減してもよい。また、送電コイル101と受電コイル201は、フェライト等の磁性体とリッツ線等の巻線を用いた巻線トランスでもよい。
【0024】
次に、無線装置300の動作原理を数学的観点で説明する。図2中の電圧F1~F7は、各部の電圧波形の関数で表される。電圧F1は、電源104の出力電圧であり、モータ駆動に必要な電圧の絶対値であり、[数1]で表すことができる。
【0025】
【数1】
【0026】
電圧F4は、基準周波数源105の出力電圧であり、[数2]で表される。なお、電圧F4は、矩形波を用いてもよい。
【0027】
【数2】
【0028】
電圧F3は、コントローラ103の指令に従って、移相回路102によって位相差φだけ移相されたスイッチ回路106の制御信号であり、[数3]で表される。
【0029】
【数3】
【0030】
スイッチ回路106は、電圧F1とF3とを時間軸上で掛け合わせる掛け算器として考えることができ、その出力電圧F2は、[数4]で与えられる。
【0031】
【数4】
【0032】
この電圧F2は、送電コイル101から受電コイル201へ電磁界結合を介して伝搬し、受電回路204によって力率調整がなされた後、整流回路206へ入力される。なお、便宜上、ここでは、送電コイル101と受電コイル201は、電圧比1:1で理想的に結合していると仮定する。整流回路206の入力電圧F5は、[数5]で与えられる。
【0033】
【数5】
【0034】
ここで、θは、送電コイル101から整流回路206の直前に至るまでの伝搬遅延や、受電回路204の共振のずれによる位相差の総和である。電圧F6は、整流回路206の駆動信号であり、[数6]で表すことができる。なお、電圧F6は、必ずしも、電圧F4の位相と同期している必要はないが、ここでは、簡単のため位相差0としている。移相回路102は、電圧F3と電圧F6に位相差φを与えている。電圧F3と電圧F6は、周期が同じである。
【0035】
【数6】
【0036】
整流回路206は、スイッチ回路106と同様に、掛け算器として考えることができるので、その出力電圧F7は、[数7]で与えられる。
【0037】
【数7】
【0038】
ここで、[数7]について、第1項目は、掛け算により発生する高調波成分を意味している。整流回路206の出力には、電力伝送周波数に対して十分低いインピーダンスを示す平滑用コンデンサが実装されるため、高調波成分は無視できる程度に減衰する。結果として、モータ400の駆動電圧は、第2項目で表される。したがって、モータ400の駆動電圧F7は、[数8]で与えられる。
【0039】
【数8】
【0040】
[数8]は、移相回路102の移相量φによって、モータ制御電圧F7を正弦的に制御可能であることを示している。なお、[数8]の最大値は、電源104の1/2と読み取れるが、これはスイッチ回路106を正弦波駆動した場合の結果であり、デューティ比が50%の理想矩形波で駆動したと仮定すれば、[数8]の最大値は電源104と同一になる。したがって、その場合のモータ駆動電圧F7’は、[数9]として書き換えられる。
【0041】
【数9】
【0042】
以上で、無線装置300の動作を簡易的ではあるが、数学的に表すことができた。以下に、モータ400の正転・逆転制御を行う具体例を示す。移相量φを0とπで交互に切り替えたとき、電圧F7’は、[数10]で与えられる。
【0043】
【数10】
【0044】
[数10]より、正転・逆転制御を行うためには、電源104の入力電圧の値や伝搬遅延θにかかわらず、移相量φを0とπで切り替えれば良いことが分かる。例えば、移相量が0のとき、モータ駆動電圧F7’が1Vだったとすると、移相量がπに変化すると、モータ駆動電圧F7’は-1Vに変化する。
【0045】
以上の動作を言い換えると、基準周波数源105と基準周波数源202が周波数同期してさえいれば、制御信号を非接触伝送することなく、モータ400の推力・正転・逆転を制御することが可能となる。モータ400の駆動を高精度に実施するためには、電源104の出力電圧に対するモータ駆動電圧F7’の変化が、電圧値によらず一定の割合で比例関係になっていることが望ましい。何らかの要因で、この比例関係が崩れる条件が存在する場合には、移相回路102において、移相量を微調整することで、比例関係を改善することが可能である。
【0046】
また、[数10]において、θが0であれば、モータ駆動電圧F7’の絶対値は、電源104の出力電圧Aと等しくなり、最も理想的である。この条件を満たすために、整流回路206の出力電圧と電源104の出力電圧の対応を予め測定し、その対応が最も適した状態になるように、移相回路102の初期位相を調整すると良い。
【0047】
図3は、整流回路206の構成例を示す図である。一般的な同期整流回路は、スイッチング素子を4個使用して実現するが、この構成の場合、正負両方に変化する整流出力を出力することができない。なぜなら、スイッチ素子にはボディーダイオードやそれと等価の寄生素子が存在し、トランジスタのドレイン-ソース間に逆バイアスがかかると、ゲートの駆動状態にかかわらず、ドレイン-ソース間が導通状態になってしまうためである。そのため、整流回路206は、1つのゲート駆動回路につき2つのスイッチング素子で構成される複数の双方向スイッチを有する。この構成とすることで、ゲート駆動回路がオン制御を実施しない限り、スイッチング素子が導通することはなく、正負に両方に変化する整流出力を出力することが可能となる。なお、ソース-ゲート間の駆動電源は、絶縁電源等によって構成し、各ソース電位を基準として、5~10V程度の電圧を供給可能な浮動電源から供給することで実現できる。
【0048】
次に、整流回路206の動作を説明する。基本的には、整流回路206の出力電圧の大小・正負にかかわらず、ゲート駆動回路205が基準周波数源105と同じ周波数で各双方向スイッチを制御すれば、機能要件を達成できる。具体的には、基準周波数源105と同じ周波数で、ある半周期の間は整流回路206の4つの双方向スイッチのうち左上と右下をオンとし、左下と右上をオフとし、次の半周期の間は前述の逆の動作に切り替えれば良い。この動作を繰り返しているうちに、移相回路102の移相量φが変化すれば、その移相量φに応じた整流出力電圧F7’が得られることは先に述べたとおりである。
【0049】
なお、このゲート駆動シーケンスにおいて、例えば、右上と右下の双方向スイッチが同時にオン状態となると、貫通電流が流れ、大きな損失を生じる。場合によっては、この損失によって、双方向スイッチが損傷する恐れがあり、好ましくない。したがって、双方向スイッチの切り替えタイミングにおいて、ゲート駆動信号に、いわゆるデッドタイムを挿入し、貫通電流を避ける対策が必要である。複数の双方向スイッチの駆動信号は、貫通電流を防止するためのデッドタイムが設けられる。デッドタイムの挿入は、周波数同期に対して何ら影響を与えないため、整流動作に支障を与えるものではない。なお、整流回路206は、フルブリッジ型で説明したが、センタータップ型でもよい。その場合、受電コイル201をセンタータップ型にする必要があり、配線が複雑化するが、整流回路206のスイッチング素子の数を4つに減らすことができる。
【0050】
このようなシンプルな回路構成で正負の電圧を出力可能な整流回路206を実現できるのは、無線装置300の小型化の観点で非常にメリットが大きい。加えて、整流回路206の機能要件を満たすために必要な条件は、基準周波数源105と周波数同期した制御信号で駆動されることだけであり、比較的容易に実現することができる。一方で、一般的なモータ制御信号はPWM信号である。高精度で高速なPWM駆動を実現するために必要な情報を、低遅延で非接触伝送するためには、その伝送システムが複雑化し、また高速化の上限を律速する主要因になる。
【0051】
図4は、電源104の出力電圧に対するモータ400への印加電圧を測定した入出力電圧の測定結果である。横軸が電源104の出力電圧、すなわち入力電圧であり、縦軸がモータ400への印加電圧、すなわち出力電圧である。移相回路102の移相機能によって出力電圧を正電圧と負電圧で切り替え、両方の電位について測定を実施した。図4には、併せて入出力電圧が一致した場合の理想曲線も描いている。スイッチング周波数は4MHzであり、3mHのインダクタを疑似負荷としてモータ400の代わりに接続している。0V~30Vまでの任意の電圧を無線で給電できている。理想曲線より出力電圧が低くなっている部分がある。その部分は、図4の測定結果を基に、電圧の低下分だけ電源104の出力電圧を上げるようにコントローラ103から電源104への出力電圧振幅の指令値を補正するか、移相回路102によって移相量を調整することで理想曲線に近づけることができる。この結果により、無線装置300の実用性が示された。
【0052】
無線装置300は、無線で給電を行うモータ駆動回路において、モータ制御の高速化、および可動側回路の小型軽量化を実現することができる。
【0053】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、無線電力伝送に用いるスイッチング周波数と基準周波数源の周波数を任意に設定しつつ、第1の実施形態の動作原理を満たすための無線装置300について述べる。
【0054】
図5(a)は、第2の実施形態による無線装置300の構成例を示す図である。図5(a)は、図2に対して、基準周波数源202を削除し、PLL(Phase Locked Loop)回路107,207および移相回路208を追加したものである。図5(a)中のf1~f3は、各部における信号の周波数を示している。
【0055】
無線電力伝送に用いるスイッチング周波数は、アンテナ形状や送電電力、入力電圧によってさまざまな値を取りうる。また、そのスイッチング周波数は、10~100kHzの精度で調整する必要がある。基準周波数源105として水晶振動子やMEMS発振器等が用いられるが、これらのデバイスは離散的な周波数で製品化されており、細かな精度で出力周波数を可変するような用途には向いていない。このような課題解決のために、PLL(Phase Locked Loop)回路107および207が用いられる。
【0056】
第2の実施形態では、基準周波数源105として水晶振動子等を使用する。送電部100中のPLL回路107と受電部200中のPLL回路207は、基準周波数源105の出力信号を共有する。2つのPLL回路107および207の出力周波数f2の設定値を、無線電力伝送に適した値として共通に設定することで、環境に応じた柔軟な設計が可能となる。PLL回路107の出力信号は移相回路102に入力され、PLL回路207の出力信号は移相回路208に入力される。
【0057】
図5(a)は、図2に対して、受電部200にも移相回路208を追加している。受電部200の移相回路208は、送電部100の移相回路102と同様の処理を実施する。移相回路208の出力信号は、ゲート駆動回路205に入力される。移相回路208は、受電部200が受電している電圧又は電流波形を取得し、[数5]中のθを検出し、これを所望の値に調整しようとする場合に有用である。
【0058】
基準周波数源105は、基準周波数信号を出力する。PLL回路107は、基準周波数信号を入力し、移相回路102に信号を出力する。PLL回路207は、基準周波数信号を入力する。移相回路208は、PLL回路207の出力信号を移相する。ゲート駆動回路205は、移相回路208の出力信号を基に、整流回路206に第2のスイッチング信号を出力する。
【0059】
移相回路102と移相回路208は、CRローパスフィルタと波形整形回路を組み合わせたアナログ回路方式で実現することができ、または、高速なクロックで駆動しているシフトレジスタの出力タップ位置を変更することでも実現できる。移相回路102と移相回路208は、シフトレジスタを用いる場合、出力信号のジッタが懸念される。そのため、移相回路102と移相回路208は、シフトレジスタの駆動クロックが電力伝送周波数に比べて十分に速い(数10MHz~数GHz)、もしくは、電力伝送周波数の整数倍でかつ、位相同期していることが望ましい。
【0060】
スイッチ回路106の回路トポロジーとしては、フルブリッジ型、ハーフブリッジ型、またはプッシュプル型が採用される。移相回路102の出力信号は、上記の各回路トポロジーの駆動に適した形態に適宜変更する必要がある。例えば、ハーフブリッジ型を駆動する場合には、デッドタイムを挿入する必要がある。図5(b)は、移相回路102の出力信号と、ハーフブリッジ型のスイッチ回路106の駆動のためにデッドタイムが挿入された駆動信号の関係を示す。図5(b)からわかるように、デッドタイムが挿入されたとしても、スイッチ回路106の駆動信号の周期は移相回路102の周期と一致して保存されているため、スイッチ回路106の駆動信号と整流回路206の駆動信号は周波数同期可能である。なお、スイッチ回路106は、電力変換効率の向上を目的として、ZCS(Zero Current Switching)動作またはZVS(Zero Voltage Switching)動作するように、スイッチ回路106の定数を設計すると良い。
【0061】
(第3の実施形態)
図6は、第3の実施形態による無線装置300の構成例を示す図である。第3の実施形態においては、図5(a)の構成に対して、さらに機能を拡張し、より設計の柔軟性を向上させるとともに、一般的な集積回路(マイクロコントローラやFPGA)の内蔵機能を利用するのに適した手法を述べる。具体的には、図6は、図5(a)に対して、分周/移相回路108、109、203および209を追加し、コスト制約や回路規模を鑑みて、各部に適した分周比または移相量を設定する。
【0062】
分周/移相回路108および209は、それぞれ、図5(a)の移相回路102および208の代わりに設けられる。基準周波数源105の出力信号は、分周/移相回路109を介してPLL回路107に出力される。また、基準周波数源105の出力信号は、分周/移相回路203を介してPLL回路207に出力される。
【0063】
基準周波数源202は、基準周波数信号を出力する。分周/移相回路109は、基準周波数信号を分周および移相する。分周/移相回路203は、基準周波数信号を分周および移相する。PLL回路107は、分周/移相回路109の出力信号を入力する。PLL回路207は、分周/移相回路203の出力信号を入力する。分周/移相回路209は、PLL回路207の出力信号を分周および移相する。ゲート駆動回路205は、分周/移相回路209の出力信号を基に、整流回路206に第2のスイッチング信号を出力する。分周/移相回路108は、PLL回路107の出力信号を分周および移相した信号を第1のスイッチング信号としてスイッチ回路106に出力する。
【0064】
第3の実施形態の動作条件も、第1の実施形態と同様に、スイッチ回路106のスイッチング信号と整流回路206のゲート駆動信号が周波数同期していることである。したがって、PLL回路による周波数逓倍比と分周回路による分周比の総和が、送電部100と受電部200で一致していれば良いことになる。なお、分周/移相回路203、209やPLL回路207は、必ずしも受電部200中に物理的に配置されている必要はなく、送電部100内に配置した方が容易に制御できる等のメリットがあるならば、送電部100内に配置されても良い。又は、この逆で、分周回路とPLL回路は、受電部200内に集約しても良い。
【0065】
図6の実用的な周波数関係を示す。基準周波数源105の出力周波数f3は、数10kHz~数10MHzが適している。この周波数f3の信号は、分周/移相回路109および203により、PLL回路107および207の仕様に合わせて適宜分周され、PLL回路107および207に入力される。
【0066】
PLL回路107および207は、先の分周された基準信号を基にして、数10~数GHzの基準周波数信号(図6中のf2tとf2r)を生成する。この基準周波数信号は、分周/移相回路108および209によって分周・移相され、周波数同期したスイッチング信号f1が得られる。スイッチング信号f1は、スイッチ回路106および整流回路206に入力される。周波数f2tとf2rは、数10~数GHzであり、それが分周されるというプロセスを通すことで、第2の実施形態で述べたジッタ生成の懸念を排除することができる。上記の機能は、一般的なマイクロコントローラやFPGAの内蔵機能として提供されている。これらを利用することで、使用部品数を削減し、小型化や低コスト化、そして、パラメータをプログラムで柔軟に変更できる拡張性を享受できる。
【0067】
PLL回路と移相回路は、マイクロコントローラのタイマ機能、またはFPGAにより構成することができる。また、PLL回路と移相回路は、カウンタロジック回路や分周回路により構成することができる。
【0068】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、PLL回路を送電部100または受電部200のどちらか一方のみに配置する例を示す。図7は、送電部100にのみPLL回路107を配置した場合の構成図である。図7は、図6に対して、受電部200の分周/移相回路203,209およびPLL回路207を削除し、送電部100に分周/移相回路110を追加したものである。分周/移相回路110は、PLL回路107の出力信号を入力し、分周・移相した信号をゲート駆動回路205に出力する。
【0069】
基準周波数源105は、基準周波数信号を出力する。分周/移相回路109は、基準周波数信号を分周および移相する。PLL回路107は、分周/移相回路109の出力信号を入力する。分周/移相回路110は、PLL回路107の出力信号を分周および移相する。ゲート駆動回路205は、分周/移相回路110の出力信号を基に、整流回路206に第2のスイッチング信号を出力する。分周/移相回路108は、PLL回路107の出力信号を分周および移相した信号を第1のスイッチング信号としてスイッチ回路106に出力する。
【0070】
第4の実施形態の動作条件も、第1の実施形態と同様に、スイッチ回路106のスイッチング信号と整流回路206のゲート駆動信号が周波数同期していることである。第4の実施形態は、制御信号の生成を一つの集積回路に統一できるため、設計(制御ソフトウェア設計)が容易になるメリットがある。一方で、受電部200の移相量を変更したい場合には、送電部100に対して受電部200の状態をフィードバックした上で、移相量の変更を要求する必要がある。このフィードバックの遅延が問題にならない場合やフィードバックするための手段を設けることが容易な場合には有用である。
【0071】
第1~第4の実施形態によれば、無線装置300は、無線で給電を行い、モータ400を駆動することができる。無線装置300は、制御信号の伝送が不要であるので、モータ400の制御の高速化、可動側回路の小型軽量化を実現することができる。無線装置300は、高速化を妨げる要因であった、制御信号の伝送遅延の影響が消え、モータ400の制御の高速化を実現できる。
【0072】
なお、上記実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0073】
101 送電コイル、102 移相回路、103 コントローラ、104 電源、105 基準周波数源、106 スイッチ回路、201 受電コイル、202 基準周波数源、204 受電回路、205 ゲート駆動回路、206 整流回路、400 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7