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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】ハンドル付き鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/15 20210101AFI20240115BHJP
   H01M 50/256 20210101ALI20240115BHJP
【FI】
H01M50/15 101
H01M50/256 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019213857
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021086700
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104204
【弁理士】
【氏名又は名称】峯岸 武司
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 秋夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】関 裕亮
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-190807(JP,A)
【文献】特開平10-208721(JP,A)
【文献】国際公開第2019/150428(WO,A1)
【文献】特表2018-509737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/15
H01M 50/256
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電槽の開口部を塞ぐ蓋の表面に平行な方向に軸心を有し、前記蓋の外側に向かう開口端を有する中空円筒形状をし、周方向に隙間を有して軸心方向に複数に切り欠かれた中空円筒壁からなり、前記中空円筒壁の複数に切り欠かれた切欠き片の前記開口端側の端部に前記中空円筒壁の径方向外側に突出する抜け止めが形成された、前記蓋に設けられる差込軸と、
前記差込軸が挿通されて前記差込軸に嵌合する挿通口を端部に有し、前記挿通口が前記差込軸に差し込まれて持ち手部が持ち上げられることで前記差込軸を吊持して鉛蓄電池の荷重を支えるハンドルとを備え
前記隙間は、前記中空円筒壁の周方向における11時から1時、2時から4時、および8時から10時の各周位置に形成され、
前記抜け止めは、8時から4時までの間の周位置に位置する各前記切欠き片にのみ形成されている、
ハンドル付き鉛蓄電池。
【請求項2】
前記ハンドルは、前記中空円筒壁の外周に当接する前記挿通口の内周に、前記隙間に嵌合し、前記持ち手部が持ち上げられたときに鉛蓄電池の荷重によって前記切欠き片から受ける回転モーメント力に抗し得る機械的強度を有する突起を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のハンドル付き鉛蓄電池。
【請求項3】
前記突起は、前記持ち手部が持ち上げられて前記ハンドルが立てられたときに前記挿通口の内周における前記蓋の表面から最も離れた箇所に設けられる
ことを特徴とする請求項2に記載のハンドル付き鉛蓄電池。
【請求項4】
前記突起は、前記挿通口の内周方向における角および前記挿通口の前記差込軸への挿通方向における角が面取りされた直方体形状をしている
ことを特徴とする請求項3に記載のハンドル付き鉛蓄電池。
【請求項5】
前記差込軸は、前記蓋における立設箇所の根元の側面が前記蓋の立設面との間でテーパー形状または円弧形状を形成する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のハンドル付き鉛蓄電池。
【請求項6】
前記差込軸は、前記中空円筒壁の前記開口端側の端部における前記切欠き片が軸心に垂直な方向に軸心に向かって3mm~5mm曲げられたときに前記テーパー形状または前記円弧形状の部分に20MPa以上25MPa以下の荷重応力がかかっても破損しない機械的強度を有する
ことを特徴とする請求項に記載のハンドル付き鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の荷重を支えるハンドルを蓋に備えるハンドル付き鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハンドル付き鉛蓄電池としては、例えば、特許文献1に開示された鉛蓄電池がある。この鉛蓄電池は、ヒンジ部で蓋と係合する提げ手をハンドルとして蓋に有する。提げ手のヒンジ部には、回動容易な軸状の差込部と先端部とが形成されている。蓋の係合部分には、ヒンジ部に形成された差込部が挿入される差込穴と、差込穴の下方に溝部とが形成されている。提げ手を起こすと先端部が溝部に入り込んでロックされる。
【0003】
また、従来、この種のハンドル付き鉛蓄電池として、特許文献2に開示された鉛蓄電池もある。この鉛蓄電池は、ハンドルである取手の両端に内側へ突出したピンを有している。蓋は、高位部の側面にピンを挿入するための穴が形成されている。また、ピンの側面には突起が、穴には突起よりもやや大きい切欠きが設けられている。ピンを穴に挿入して取り付けられた取手を回転させて直立させれば、ピンの突起と穴の切欠きとに位相差が生じ、取手が穴から外れなくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-162988号公報
【文献】特開昭61-250966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池のハンドルには、組立時における蓋への取り付け易さと、運搬時における蓋からの外れ難さとの両立が求められる。このため、上記従来の各ハンドル付き鉛蓄電池では、蓋側に差込穴や穴といった貫通孔を形成し、ハンドル側に差込部やピンといった軸と、先端部や突起といった抜け止めを形成した構造をしている。このような構造をしている場合、鉛蓄電池の重量に耐えられるように、蓋の貫通孔の周辺、および、ハンドルの軸や抜け止めに十分な機械的強度を持たせるため、かかる各箇所の樹脂量を増やすなどして、補強する必要がある。
【0006】
しかしながら、樹脂量を増やすと鉛蓄電池の重量や製造コストの増大を招く。また、ハンドルに上記の抜け止めを有する軸を形成する場合、大重量の鉛蓄電池を保持・運搬可能なように、ハンドルは使用する樹脂量を増やした太く頑丈な構造になる。そのため、ハンドルを蓋に取り付ける際には、ハンドルの両端を広げるのに多大な力、すなわち、ハンドルの軸を蓋の貫通孔へ挿入するのに大きな荷重を要することになる。その結果、鉛蓄電池の重量や製造コストの増大を招くだけでなく、ハンドルの蓋への取り付け作業に労力を要し、また、ハンドルの蓋への取り付け時に作業者が怪我をする虞も生じる。
【0007】
本発明は、機械的強度を確保した場合にも軽量でコストを抑えてハンドルを製造することが出来、また、ハンドルの蓋への取り付け作業が容易で安全性も向上するハンドル付き鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために本発明は、
電槽の開口部を塞ぐ蓋の表面に平行な方向に軸心を有し、蓋の外側に向かう開口端を有する中空円筒形状をし、周方向に隙間を有して軸心方向に複数に切り欠かれた中空円筒壁からなり、中空円筒壁の複数に切り欠かれた切欠き片の前記開口端側の端部に中空円筒壁の径方向外側に突出する抜け止めが形成された、蓋に設けられる差込軸と、
差込軸が挿通されて差込軸に嵌合する挿通口を端部に有し、挿通口が差込軸に差し込まれて持ち手部が持ち上げられることで差込軸を吊持して鉛蓄電池の荷重を支えるハンドルと
を備え、
前記隙間が、中空円筒壁の周方向における11時から1時、2時から4時、および8時から10時の各周位置に形成され、
抜け止めが、8時から4時までの間の周位置に位置する各切欠き片にのみ形成されている、
ハンドル付き鉛蓄電池を構成した。
【0009】
本構成によれば、差込軸が蓋側に形成され、差込軸が挿通されて差込軸に嵌合する挿通口は、ハンドル側に形成される。したがって、ハンドルは、従来の、蓋側に貫通孔を形成し、ハンドル側に軸を形成する場合に比較して、機械的強度の確保に必要な樹脂量を少なくすることが出来る。このため、ハンドルは、その機械的強度を確保した場合にも、軽量でコストを抑えて製造することが出来る。
【0010】
また、ハンドルの蓋への取り付けは、ハンドルの挿通口を蓋の差込軸へ挿通し、差込軸に複数形成された切欠き片を差込軸の軸心に向かって撓めることで行われる。したがって、この挿通に作業者に必要とされる労力は、樹脂量の少ないハンドルの挿通口が形成された端部を広げる小さな力と、切欠き片を差込軸の軸心に向かって撓める小さな力で済む。すなわち、ハンドルの蓋への取り付け時において、挿通口を差込軸へ挿入する際に必要とされる力は小さくて済むようになる。このため、ハンドルの蓋への取り付け作業は非力な作業者においても労力を要することなく行えて組立が容易となり、また、ハンドルの蓋への取り付け時に作業者が怪我をする虞も生じなくなって、取り付け作業の安全性も向上する。
また、本構成によれば、差込軸における、中空円筒壁の複数に切り欠かれた切欠き片は、2時から4時、および8時から10時の各周位置に形成される隙間により、中空円筒壁の、蓋の表面側の約下半分に1つが位置させられる。また、11時から1時の周位置に形成される隙間により、中空円筒壁の、蓋の表面側と反対側の約上半分に2つが左右に並んで位置させられる。したがって、中空円筒壁の、蓋の表面側の約下半分に位置させられる1つの切欠き片は、その約上半分のように2つに分割されないため、鉛蓄電池の荷重は、中空円筒壁の約下半分に位置させられる1つの切欠き片によって十分な強度を確保して支えられる。一方、中空円筒壁は3つの切欠き片に切り欠かれるため、ハンドルの蓋への取り付け作業時に必要とされる、挿通口の差込軸への挿入荷重は、切欠き片を差込軸の軸心に向かって撓める小さな力で済む。
また、本構成によれば、抜け止めは、差込軸の約上半分に位置する各切欠き片の端部にのみ存在する。したがって、全ての切欠き片の端部に抜け止めが形成される場合に比較して、ハンドルの挿通口を蓋の差込軸に挿通し易くなる。また、鉛蓄電池がハンドルによって吊持されるとき、挿通口が形成されたハンドルの端部の下端は、持ち手部が持ち上げられることで持ち手部のほぼ中央にかかる上向き荷重により、差込軸の先端側に撓む。この際、差込軸の約下半分に位置する1つの切欠きの端部に抜け止めが形成されていないので、差込軸の先端側にハンドルの端部下端が撓む力により、抜け止めが壊れる虞は生じない。
【0011】
また、本発明は、ハンドルが、中空円筒壁の外周に当接する挿通口の内周に、前記隙間に嵌合し、持ち手部が持ち上げられたときに鉛蓄電池の荷重によって切欠き片から受ける回転モーメント力に抗し得る機械的強度を有する突起を備えることを特徴とする。
【0012】
本構成によれば、ハンドルの持ち手部が作業者に把持されて鉛蓄電池が持ち上げられる際、挿通口の内周にある突起が切欠き片の外周を摺接し、切欠き片の間にある隙間に嵌合することで、ハンドルの蓋に対する相対位置が固定され、ハンドルが差込軸の軸心を中心に回転しなくなる。鉛蓄電池の保持・運搬時においては、持ち手部が作業者に把持されて持ち上げられることで、鉛蓄電池の荷重によって突起が切欠き片から回転モーメント力を受けるが、この際、突起は、その回転モーメント力によって破損することなく、ハンドルの蓋に対する回転角度を一定に保持する。このため、鉛蓄電池の保持・運搬時にハンドルが暴れることがないので、鉛蓄電池の保持・運搬時におけるハンドルの扱いが容易になる。
【0013】
また、鉛蓄電池の据え置き時、挿通口の内周に備えられる突起を、任意の周位置の隙間に嵌合させることで、ハンドルを任意の角度に固定して保持させることができる。また、突起を、隙間の間の切欠き片の外周に当接する、ハンドルの任意の回転位置に位置させることで、突起は、差込軸の軸心から離れる向きに切欠き片からその弾性による押圧力を受けて、その位置に留まる。このため、鉛蓄電池の保守点検時、ハンドルを任意の回転位置に保持することが出来、鉛蓄電池の保守点検を容易に行える。
【0016】
また、本発明は、突起が、持ち手部が持ち上げられてハンドルが立てられたときに挿通口の内周における蓋の表面から最も離れた箇所に設けられることを特徴とする。
【0017】
本構成によれば、持ち手部が持ち上げられてハンドルが立てられたとき、突起は、差込軸の11時から1時の周位置に形成される隙間に嵌合する。このため、鉛蓄電池がハンドルによって持ち上げられるとき、ハンドルの差込軸に対する回転位置は、立てられた状態に固定されて保持され、作業者の把持し易い位置に持ち手部が位置するので、鉛蓄電池の保持・運搬を容易に行える。また、鉛蓄電池の保持・運搬時、11時から1時の周位置に形成される隙間に嵌合して、挿通口の内周の上部に位置する突起は、8時から4時までの間に位置して突起を挟む2つの切欠き片から受ける回転モーメント力が小さいので、これら2つの切欠き片との接触による摩耗を低減することが出来る。
【0018】
また、本発明は、突起が、挿通口の内周方向における角および挿通口の差込軸への挿通方向における角が面取りされた直方体形状をしていることを特徴とする。
【0019】
本構成により、挿通口の内周方向における突起の角が面取りされることで、ハンドルの差込軸を中心とする回転の回転抵抗が小さくなり、ハンドルが回転したときにおける突起の損耗を防止できる。また、挿通口の差込軸への挿通方向における突起の角が面取りされることで、挿通口の差込軸への挿通荷重をさらに小さくすることが出来、ハンドルを蓋に組み付けやすくなる。
【0022】
また、本発明は、差込軸が、蓋における立設箇所の根元の側面が蓋の立設面との間でテーパー形状または円弧形状を形成することを特徴とする。
【0023】
挿通口が差込軸に挿入される際、切り欠き片の先端部が差込軸の軸心に向かって撓むことで応力が生じるが、この応力は、差込軸の蓋における立設箇所の根元に最も集中する。しかし、本構成によれば、差込軸の蓋における立設箇所の根元の側面が蓋の立設面との間でテーパー形状または円弧形状を形成し、差込軸の蓋における立設箇所の根元が肉厚になっているため、差込軸は、かかる応力に耐えられる機械的強度を備えるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、機械的強度を確保した場合にも軽量でコストを抑えてハンドルを製造することが出来、また、ハンドルの蓋への取り付け作業が容易で安全性も向上するハンドル付き鉛蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施の形態によるハンドル付き鉛蓄電池における蓋の斜視図である。
図2】(a)は、一実施の形態によるハンドル付き鉛蓄電池におけるハンドルの斜視図、(b)はその端部の一部拡大斜視図、(c)は(a)のIIc-IIc線破断矢視断面図、(d)は(c)のIId-IId線破断矢視断面図、(e)は(c)のIIe-IIe線破断矢視断面図である。
図3】(a)は図1に示す蓋の側面図、(b)はその蓋における差込軸の一部拡大斜視図、(c)は(a)のIIIc-IIIc線破断矢視断面図である。
図4】一実施の形態によるハンドル付き鉛蓄電池のハンドルが立てられたときにおけるハンドルおよび蓋の部分斜視図である。
図5】(a)は図4に示すハンドルおよび蓋の部分側面図、(b)はハンドルが寝かせられたときにおけるハンドルおよび蓋の部分側面図である。
図6図4のVI-VI線破断矢視部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の一実施の形態によるハンドル付き鉛蓄電池について説明する。なお、以下の説明において同一部分には同一符号を付して説明する。
【0027】
図1は、この一実施の形態によるハンドル付き鉛蓄電池の図示しない電槽の開口部を塞ぐ蓋1の斜視図、図2(a)はこの蓋に取り付けられるハンドル2の斜視図である。
【0028】
蓋1には一対の差込軸1a,1bが二組み設けられている。各対の差込軸1a,1bには、ハンドル2の両端部に設けられた挿通口2a,2bが嵌合させられて、1つの蓋1に2つのハンドル2が取り付けられる。ハンドル2は、端部にある挿通口2a,2bが差込軸1a,1bに差し込まれて、持ち手部2dが持ち上げられることで、差込軸1a,1bを吊持して鉛蓄電池の荷重を支える。蓋1およびハンドル2は、ポリプロピレン樹脂等が成型されて形成される。また、持ち手部2dは、蓋1の表面に平行で作業者に把持される軸状の水平部分と、この水平部分の両端部と各挿通口2a,2bが形成されたハンドル端部とをつなぐ腕部とから構成される。各差込軸1a,1bは同じ構造をしており、各挿通口2a,2bはIIc-IIc線を中心とする線対称な構造をしているため、以下、差込軸1aおよび挿通口2aをそれぞれの代表として説明する。
【0029】
図3(a)は蓋1の側面図、同図(b)は蓋1における差込軸1aの一部拡大斜視図、同図(c)は同図(a)に示す差込軸1aのIIIc-IIIc線破断矢視断面図である。
【0030】
差込軸1aは、蓋1の表面に平行な方向に軸心を有し、蓋1の長側面において蓋1の外側に向かう開口端1a1を有する、中空円筒形状をした中空円筒壁からなる。この中空円筒壁は、周方向に隙間1a2を有して軸心方向に3つに切り欠かれ、3つの切り欠き片1a31,1a32,1a33に分割されている。切欠き片1a32,1a33の開口端1a1の側の端部には、中空円筒壁の径方向外側に突出する抜け止め1a4がそれぞれ形成されている。本実施形態では、隙間1a2は、中空円筒壁の周方向における、時計の針が示す11時から1時、2時から4時、および8時から10時の各周位置に形成される。また、抜け止め1a4は、8時から4時までの間の周位置に位置する2つの各切欠き片1a32,1a33にのみ形成されている。
【0031】
差込軸1aは、同図(b),(c)に示すように、蓋1における立設箇所の根元の側面が、蓋1の立設面との間でテーパー形状1a5を形成している。なお、差込軸1aは、蓋1における立設箇所の根元の側面が、このテーパー形状1a5に代えて、円弧形状(隅R)を形成するように構成してもよい。
【0032】
図2(b)はハンドル2の挿通口2aの一部拡大斜視図、同図(c)は同図(a)に示すハンドル2のIIc-IIc線破断矢視断面図、同図(d)は同図(c)に示す挿通口2aの部分のIId-IId線破断矢視断面図、同図(e)は同図(c)に示す挿通口2aの部分のIIe-IIe線破断矢視断面図 である。
【0033】
本実施形態では、挿通口2aは、差込軸1aの中空円筒壁の外周に当接する内周に、突起2cを備える。突起2cは、各隙間1a2に嵌合し、持ち手部2dが持ち上げられたときに鉛蓄電池の荷重によって各切欠き片1a32,1a33から受ける回転モーメント力に抗し得る機械的強度を有する。
【0034】
また、図4は、持ち手部2dが持ち上げられてハンドル2が立てられたときにおけるハンドル2および蓋1の部分斜視図、図5(a)はそれらの部分側面図である。また、図6は、図4におけるVI-VI線でハンドル2および蓋1を破断して矢視方向から見たハンドル2および蓋1の部分断面図である。これら各図に示されるように、本実施形態では、突起2cは、持ち手部2dが持ち上げられてハンドル2が立てられたときに、挿通口2aの内周における蓋1の表面から最も離れた箇所、つまり、挿通口2aの内周における上部に設けられている。ハンドル2が立てられた際、突起2cは、2つの切欠き片1a32,1a33の間に形成される隙間1a2に嵌合する。
【0035】
また、図5(b)は、ハンドル2が寝かせられて、蓋1の表面に設けられたハンドル収納溝1c(図1参照)にハンドル2が収納された状態における、ハンドル2および蓋1の部分側面図である。ハンドル2が寝かせられた際、突起2cは、2つの切欠き片1a31,1a32の間に形成される隙間1a2に嵌合する。
【0036】
突起2cは、挿通口2aの内周方向における一対の角2c1,2c1(図2(c)参照)がR(円弧)面取りされ、挿通口2aの差込軸1aへの挿通方向における一方の角2c2(図2(d),(e)参照)がテーパー面取りされた直方体形状をしている。
【0037】
このような本実施形態のハンドル付き鉛蓄電池によれば、差込軸1a,1bが蓋1の側に形成され、差込軸1a,1bが挿通されて差込軸1a,1bに嵌合する挿通口2a,2bは、ハンドル2の側に形成される。したがって、ハンドル2は、従来の、蓋側に貫通孔を形成し、ハンドル側に軸を形成する場合に比較して、機械的強度の確保に必要な樹脂量を少なくすることが出来る。このため、ハンドル2は、その機械的強度を確保した場合にも、軽量でコストを抑えて製造することが出来る。
【0038】
また、ハンドル2の蓋1への取り付けは、ハンドル2の挿通口2a,2bを蓋1の差込軸1a,1bへ挿通し、差込軸1a,1bに複数形成された切欠き片1a31,1a32,1a33を差込軸1a,1bの軸心に向かって撓めることで行われる。したがって、この挿通持に作業者に必要とされる労力は、樹脂量の少ないハンドル2の挿通口2a,2bが形成された端部を広げる小さな力と、切欠き片1a31,1a32,1a33を差込軸1a,1bの軸心に向かって撓める小さな力で済む。すなわち、ハンドル2の蓋1への取り付け時において、挿通口2a,2bを差込軸1a,1bへ挿入する際に必要とされる力は小さくて済むようになる。このため、ハンドル2の蓋1への取り付け作業は非力な作業者においても労力を要することなく行えて組立が容易となり、また、ハンドル2の蓋1への取り付け時に作業者が怪我をする虞も生じなくなって、取り付け作業の安全性も向上する。
【0039】
その結果、本実施形態によれば、機械的強度を確保した場合にも軽量でコストを抑えてハンドル2を製造することが出来、また、ハンドル2の蓋1への取り付け作業が容易で安全性も向上するハンドル付き鉛蓄電池を提供することができる。
【0040】
また、本実施形態のハンドル付き鉛蓄電池によれば、ハンドル2の持ち手部2dが作業者に把持されて鉛蓄電池が持ち上げられる際、挿通口2a,2bの内周にある突起2cが切欠き片1a31,1a32の外周を摺接し、切欠き片1a31,1a32,1a33の間にある隙間1a2に嵌合することで、ハンドル2の蓋1に対する相対位置が固定され、ハンドル2が差込軸1a,1bの軸心を中心に回転しなくなる。鉛蓄電池の保持・運搬時においては、持ち手部2dが作業者に把持されて持ち上げられることで、鉛蓄電池の荷重によって突起2cが切欠き片1a32,1a33から回転モーメント力を受けるが、この際、突起2cは、その回転モーメント力によって破損することなく、ハンドル2の蓋1に対する回転角度を一定に保持する。このため、鉛蓄電池の保持・運搬時にハンドル2が暴れることがないので、鉛蓄電池の保持・運搬時におけるハンドル2の扱いが容易になる。
【0041】
また、鉛蓄電池の据え置き時、挿通口2a,2bの内周に備えられる突起2cを、任意の周位置の隙間1a2に嵌合させることで、ハンドル2を任意の角度に固定して保持させることができる。また、突起2cを、隙間1a2の間の切欠き片1a31,1a32,1a33の外周に当接する、ハンドル2の任意の回転位置に位置させることで、突起2cは、差込軸1a,1bの軸心から離れる向きに切欠き片1a31,1a32,1a33からその弾性による押圧力を受けて、その位置に留まる。このため、鉛蓄電池の保守点検時、ハンドル2を任意の回転位置に保持することが出来、鉛蓄電池の保守点検を容易に行える。
【0042】
また、本実施形態のハンドル付き鉛蓄電池によれば、差込軸1a,1bにおける、中空円筒壁の複数に切り欠かれた切欠き片1a31,1a32,1a33は、2時から4時、および8時から10時の各周位置に形成される各隙間1a2により、中空円筒壁の、蓋1の表面側の約下半分に1つが位置させられる。また、11時から1時の周位置に形成される隙間1a2により、中空円筒壁の、蓋1の表面側と反対側の約上半分に2つが左右に並んで位置させられる。したがって、中空円筒壁の、蓋1の表面側の約下半分に位置させられる1つの切欠き片1a31は、その約上半分のように2つに分割されないため、鉛蓄電池の荷重は、中空円筒壁の約下半分に位置させられる1つの切欠き片1a31によって十分な強度を確保して支えられる。一方、中空円筒壁は3つの切欠き片1a31,1a32,1a33に切り欠かれるため、ハンドル2の蓋1への取り付け作業時に必要とされる、挿通口2a,2bの差込軸1a,1bへの挿入荷重は、切欠き片1a31,1a32,1a33を差込軸1a,1bの軸心に向かって撓める小さな力で済む。
【0043】
また、本実施形態のハンドル付き鉛蓄電池によれば、持ち手部2dが持ち上げられてハンドル2が立てられたとき、突起2cは、差込軸1a,1bの11時から1時の周位置に形成される隙間1a2に嵌合する。このため、鉛蓄電池がハンドル2によって持ち上げられるとき、ハンドル2の差込軸1a,1bに対する回転位置は、立てられた状態に固定されて保持され、作業者の把持し易い位置に持ち手部2dが位置するので、鉛蓄電池の保持・運搬を容易に行える。また、鉛蓄電池の保持・運搬時、11時から1時の周位置に形成される隙間1a2に嵌合して、挿通口2a,2bの内周の上部に位置する突起2cは、8時から4時までの間に位置して突起2cを挟む2つの切欠き片1a32,1a33から受ける回転モーメント力が小さいので、これら2つの切欠き片1a32,1a33との接触による摩耗を低減することが出来る。
【0044】
また、本実施形態のハンドル付き鉛蓄電池により、挿通口2a,2bの内周方向における突起2cの角2c1,2c1がR面取りされることで、ハンドル2の差込軸1a,1bを中心とする回転の回転抵抗が小さくなり、ハンドル2が回転したときにおける突起2cの損耗を防止できる。また、挿通口2a,2bの差込軸1a,1bへの挿通方向における突起2cの角2c2がテーパー面取りされることで、挿通口2a,2bの差込軸1a,1bへの挿通荷重をさらに小さくすることが出来、ハンドル2を蓋1に組み付けやすくなる。
【0045】
また、本実施形態のハンドル付き鉛蓄電池によれば、抜け止め1a4は、差込軸1a,1bの約上半分に位置する各切欠き片1a32,1a33の端部にのみ存在する。したがって、全ての切欠き片1a31,1a32,1a33の端部に抜け止め1a4が形成される場合に比較して、ハンドル2の挿通口2a,2bを蓋1の差込軸1a,1bに挿通し易くなる。また、鉛蓄電池がハンドル2によって吊持されるとき、挿通口2a,2bが形成されたハンドル2の端部の下端2e(図2(a),図6参照)は、持ち手部2dが持ち上げられることで持ち手部2dのほぼ中央にかかる上向き荷重により、差込軸1a,1bの先端側に撓む。この際、差込軸1a,1bの約下半分に位置する1つの切欠き1a31の端部に抜け止めが形成されていないので、差込軸1a,1bの先端側にハンドル2の端部下端2eが撓む力により、抜け止め1a4が壊れる虞は生じない。
【0046】
また、本実施形態のハンドル付き鉛蓄電池では、挿通口2a,2bが差込軸1a,1bに挿入される際、切り欠き片1a31,1a32,1a33の先端部が差込軸1a,1bの軸心に向かって撓むことで応力が生じるが、この応力は、差込軸1a,1bの蓋1における立設箇所の根元に最も集中する。しかし、本実施形態によれば、差込軸1a,1bの蓋1における立設箇所の根元の側面が蓋1の立設面との間でテーパー形状1a5または円弧形状を形成し、差込軸1a,1bの蓋1における立設箇所の根元が肉厚になっている。このため、差込軸1a,1bは、かかる応力に耐えられる機械的強度を備えるようになる。特に冬季などで気温が低くなり、樹脂で形成された差込軸1a,1bが破損しやすい場合においても、十分な機械的強度が得られるようになる。
【0047】
本実施形態では、差込軸1a,1bは、蓋1の立設面からの高さが約8mm、中空円筒壁の外周の直径が約9mm、中空円筒壁の壁の厚みが約2mmに設定され、中空円筒壁の開口端1a1の側の端部における切欠き片1a31,1a32,1a33が軸心に垂直な方向に軸心に向かって3mm~5mm曲げられたときに、テーパー形状1a5または円弧形状の部分に20MPa以上25MPa以下の荷重応力がかかっても、破損しない機械的強度を有する。差込軸1a,1bの蓋1における立設箇所の根元の耐荷重応力を20MPa以上25MPa以下としたのは、20MPa未満では十分な機械的強度が得られず、一方、25MPaを超過する場合は必要以上の機械的強度となり、鉛蓄電池の製品コスト増や、樹脂量の増量によって鉛蓄電池の重量増につながるからである。
【0048】
差込軸1a,1bの蓋1における立設箇所の根元の側面が蓋1の立設面との間で円弧形状を形成する場合、その円弧の半径は2mm以上5mm以下であることが好ましい。半径2mm未満では、差込軸1a,1bの蓋1における立設箇所の根元に十分な強度が得られず、一方、半径5mmを超過する場合は必要以上の機械的強度となり、鉛蓄電池の製品コスト増や、樹脂量の増量によって鉛蓄電池の重量増につながるからである。
【0049】
なお、上記の実施形態においては、差込軸1a,1bを3つの切欠き片1a31,1a32,1a33に切り欠いた場合について説明したが、3つ以上に切り欠くように構成してもよい。また、上記の実施形態においては、差込軸1a,1bの中空円筒壁の約下半分に1つの切欠き片1a31を形成した場合について説明したが、その中空円筒壁の約下半分を複数に切り欠くように構成してもよい。この場合、中空円筒壁の約下半分にある切欠き片が鉛蓄電池の荷重を支える強度は低下するが、ハンドル2の挿通口2a,2bを蓋1の差込軸1a,1bに挿通する挿通荷重が小さくなって、より挿通し易くなる。
【0050】
また、上記の実施形態においては、ハンドル2の挿通口2a,2bに突起2cを樹脂で一体成型した場合について説明したが、突起2cは、ハンドル2と別部材、例えばゴム材などによって形成し、挿通口2a,2bの内周に嵌め込むように構成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…蓋、1a,1b…差込軸、1a1…開口端、1a2…隙間、1a31,1a32,1a33…切欠き片、1a4…抜け止め、1a5…テーパー形状、1c…ハンドル収納溝、2…ハンドル、2a,2b…挿通口、2c…突起、2c1,2c2…突起2cの角、2d…持ち手部、2e…ハンドル2の端部の下端
図1
図2
図3
図4
図5
図6