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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/688 20060101AFI20240115BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240115BHJP
   F16H 61/40 20100101ALI20240115BHJP
   F16H 47/04 20060101ALI20240115BHJP
   F16H 59/04 20060101ALI20240115BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20240115BHJP
   F16H 59/72 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
F16H61/688
F16H61/02
F16H61/40
F16H47/04 A
F16H59/04
F16H59/68
F16H59/72
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019239898
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107734
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2021-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】安田岡本弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】後野 剛志
(72)【発明者】
【氏名】平瀬 裕司
(72)【発明者】
【氏名】陣内 篤史
(72)【発明者】
【氏名】武岡 達
(72)【発明者】
【氏名】阪口 昌寛
(72)【発明者】
【氏名】石原 和真
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-078270(JP,A)
【文献】特開2010-112444(JP,A)
【文献】特開2002-039230(JP,A)
【文献】特開平10-100952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 47/04
F16H 59/02-59/04
F16H 59/54
F16H 59/68
F16H 59/72
F16H 61/02
F16H 61/40-61/478
F16H 61/68-61/688
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に設けられた走行装置と、
前記車体に設けられた原動機と、
少なくとも1つのギヤを有し、前記原動機からの駆動力を変速し、前記少なくとも1つのギヤを介して前記走行装置に伝達可能な変速装置と、
前記変速装置を収容し且つ潤滑油が充填されたミッションケースと、
前記変速装置の前記少なくとも1つのギヤから前記走行装置への動力が伝達するのを遮断した状態で前記少なくとも1つのギヤを回転させる暖機運転モードと、前記変速装置の前記少なくとも1つのギヤから前記走行装置への動力が伝達する状態で前記少なくとも1つのギヤを回転させる走行運転モードとを切り換え可能な制御装置と、
を備え、
前記変速装置は、
前記原動機からの駆動力にて駆動して作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプの吐出する作動油にて駆動する油圧モータと、前記油圧モータの出力にて回転する出力軸とを備え、前記油圧ポンプの斜板の角度に応じて前記出力軸の回転速度を変更可能である無段変速装置と、
前記無段変速装置の前記出力軸からの駆動力にて駆動して、前記少なくとも1つのギヤを高速回転するための駆動力を出力する第1遊星ギヤ変速装置と、
前記第1遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を、前記走行装置を前進させる方向の回転力として前記少なくとも1つのギヤに伝達する接続状態と、前記第1遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を前記少なくとも1つのギヤに伝達しない切断状態とに切り換え可能な第1クラッチ装置と、
前記無段変速装置の前記出力軸からの駆動力にて駆動して、前記少なくとも1つのギヤを低速回転するための駆動力を出力する第2遊星ギヤ変速装置と、
前記第2遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を、前記走行装置を前進させる方向又は後進させる方向の回転力として前記少なくとも1つのギヤに伝達する接続状態と、前記第2遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を前記少なくとも1つのギヤに伝達しない切断状態とに切り換え可能な第2クラッチ装置と、
を有し、
前記制御装置は、前記暖機モードである場合に、前記第1クラッチ装置及び前記第2クラッチ装置のうちいずれか一方を前記接続状態にする作業車両。
【請求項2】
前記潤滑油の温度を測定可能な温度測定装置を備え、
前記制御装置は、前記温度測定装置が測定した前記温度が閾値未満である場合に前記暖機運転モードに切り換わり、前記温度が前記閾値以上である場合に前記走行運転モードに切り換わる請求項に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記暖機運転モードによって前記少なくとも1つのギヤを回転させてから所定時間が経過後に前記走行運転モードに切り換わる請求項1又は2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記暖機運転モードと、走行運転モードとを手動で切り換え可能な切換装置を備えている請求項1~のいずれかに記載の作業車両。
【請求項5】
前記走行装置の制動を行う制動装置を備え、
前記変速装置は、前記第1クラッチ装置又は前記第2クラッチ装置を介して伝達される前記第1遊星ギヤ変速装置又は前記第2遊星ギヤ変速装置からの駆動力を複数段の速度に変速して前記走行装置に伝達可能な、前記少なくとも1つのギヤを含む副変速機構を有しており、
前記制御装置は、前記副変速機構が前記少なくとも1つのギヤから前記走行装置への動力の伝達を遮断した中立状態で且つ前記制動装置によって前記走行装置の制動を行っている状態で、前記暖機運転モードに切り換わる請求項1~のいずれかに記載の作業車両。
【請求項6】
前記制動装置の制動の操作を行う制動操作部材と、
前記副変速機構を前記中立状態に切換可能な副変速操作部材と、
を備えている請求項に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタ等の作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミッションケース内の潤滑油に関する技術として特許文献1が知られている。特許文献1の作業機は、車体と、車体に設けられたミッションケースと、ミッションケースから突出したPTO軸と、ミッションケースに収容され且つPTO軸の回転速度を切り換える第1変速機構と、ミッションケースと別体に構成された変速機構ケースと、変速機構ケースから突出した第2PTO軸と、変速機構ケースに収容され且つ第1変速機構により変速されたPTO軸の回転速度を変速して第2PTO軸に伝達する第2変速機構と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-122776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の作業機では、PTO軸を変速可能な第1変速機構が収容されたミッションケースと、第1変速機構により変速されたPTO軸の回転速度を変速して第2PTO軸に伝達して出力する第2変速機構を収容した変速機構ケースとが別体に構成されている。そのため、ミッションケース内の確認とは別に、ミッションケースと別体に構成された変速機構ケース内を確認することが可能となり、変速機構ケース内が潤滑油で満たされているかを確認することができる。また、ミッションケース内への潤滑油の供給とは別に、ミッションケースと別体に構成された変速機構ケース内に潤滑油を供給することが可能となるため、変速機構ケース内に潤滑油を充分に到達させることができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1の作業機では、ミッションケース内の潤滑油の暖機について考慮されていないのが実情である。
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、変速装置を収容するミッションケース内の潤滑油の暖機を簡単に行うことができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を解決するための本発明の技術的手段は、以下に示す点を特徴とする。
作業車両は、車体と、前記車体に設けられた走行装置と、前記車体に設けられた原動機と、少なくとも1つのギヤを有し、前記原動機からの駆動力を変速し、前記少なくとも1つのギヤを介して前記走行装置に伝達可能な変速装置と、前記変速装置を収容し且つ潤滑油が充填されたミッションケースと、前記変速装置の前記少なくとも1つのギヤから前記走行装置への動力が伝達するのを遮断した状態で前記少なくとも1つのギヤを回転させる暖機運転モードと、前記変速装置の前記少なくとも1つのギヤから前記走行装置への動力が伝達する状態で前記少なくとも1つのギヤを回転させる走行運転モードとを切り換え可能な制御装置と、を備えている。前記変速装置は、前記原動機からの駆動力にて駆動して作動油を吐出する油圧ポンプと、前記油圧ポンプの吐出する作動油にて駆動する油圧モータと、前記油圧モータの出力にて回転する出力軸とを備え、前記油圧ポンプの斜板の角度に応じて前記出力軸の回転速度を変更可能である無段変速装置と、前記無段変速装置の前記出力軸からの駆動力にて駆動して、前記少なくとも1つのギヤを高速回転するための駆動力を出力する第1遊星ギヤ変速装置と、前記第1遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を、前記走行装置を前進させる方向の回転力として前記少なくとも1つのギヤに伝達する接続状態と、前記第1遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を前記少なくとも1つのギヤに伝達しない切断状態とに切り換え可能な第1クラッチ装置と、前記無段変速装置の前記出力軸からの駆動力にて駆動して、前記少なくとも1つのギヤを低速回転するための駆動力を出力する第2遊星ギヤ変速装置と、前記第2遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を、前記走行装置を前進させる方向又は後進させる方向の回転力として前記少なくとも1つのギヤに伝達する接続状態と、前記第2遊星ギヤ変速装置の出力する駆動力を前記少なくとも1つのギヤに伝達しない切断状態とに切り換え可能な第2クラッチ装置と、を有し、前記制御装置は、前記暖機モードである場合に、前記第1クラッチ装置及び前記第2クラッチ装置のうちいずれか一方を前記接続状態にする。
【0007】
作業車両は、前記潤滑油の温度を測定可能な温度測定装置を備え、前記制御装置は、前記温度測定装置が測定した前記温度が閾値未満である場合に前記暖機運転モードに切り換わり、前記温度が前記閾値以上である場合に前記走行運転モードに切り換わる。
【0008】
前記制御装置は、前記暖機運転モードによって前記少なくとも1つのギヤを回転させてから所定時間が経過後に前記走行運転モードに切り換わる。
作業車両は、前記暖機運転モードと、走行運転モードとを手動で切り換え可能な切換装置を備えている。
【0009】
作業車両は、前記走行装置の制動を行う制動装置を備えている。前記変速装置は、前記第1クラッチ装置又は前記第2クラッチ装置を介して伝達される前記第1遊星ギヤ変速装置又は前記第2遊星ギヤ変速装置からの駆動力を複数段の速度に変速して前記走行装置に伝達可能な、前記少なくとも1つのギヤを含む副変速機構を有している。前記制御装置は、前記副変速機構が前記少なくとも1つのギヤから前記走行装置への動力の伝達を遮断した中立状態で且つ前記制動装置によって前記走行装置の制動を行っている状態で、前記暖機運転モードに切り換わる。
作業車両は、前記制動装置の制動の操作を行う制動操作部材と、前記副変速機構を前記中立状態に切換可能な副変速操作部材と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、変速装置を収容するミッションケース内の潤滑油の暖機を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】変速装置の全体を示す図である。
図2】制御ブロック図を示す図である。
図3】制御マップの一例を示す図である。
図4A】ミッションケースの斜視図である。
図4B】変速装置の斜視図である。
図5A】制御装置の動作フローを示す図である。
図5B図5Aとは異なる制御装置の動作フローを示す図である。
図6】トラクタの全体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図6は、作業車両の一例であるトラクタ1を示している。トラクタ1を例にあげ説明するが、作業車両は、トラクタに限定されず、田植機等の農業機械である。
図6に示すように、トラクタ1は、走行装置7を有する車体3と、原動機4と、変速装置5と、操舵装置29とを備えている。走行装置7は、前輪7F及び後輪7Rを有する装置である。前輪7Fは、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。また、後輪7Rも、タイヤ型であってもクローラ型であってもよい。原動機4は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの内燃機関である。この実施形態では、原動機4は、ディーゼルエンジンである。
【0013】
変速装置5は、変速によって走行装置7の推進力を切換可能であると共に、走行装置7の前進、後進の切換が可能である。車体3にはキャビン9が設けられ、当該キャビン9内には運転席10が設けられている。
また、車体3の後部には、昇降装置8が設けられている。昇降装置8には、作業装置2が着脱可能である。また、昇降装置8は、装着された作業装置2を昇降可能である。作業装置2は、耕耘する耕耘装置、肥料を散布する肥料散布装置、農薬を散布する農薬散布装置、収穫を行う収穫装置、牧草等の刈取を行う刈取装置、牧草等の拡散を行う拡散装置、牧草等の集草を行う集草装置、牧草等の成形を行う成形装置等である。
【0014】
図1に示すように、変速装置5は、原動機4からの駆動力を変速して走行装置7に伝達可能な装置である。変速装置5は、無段変速装置50と、遊星ギヤ変速機構51と、クラッチ機構52と、副変速機構53とを備えている。変速装置5は、ミッションケース12に収容されている。図4Aに示すように、ミッションケース12は、空間を有する立方体の形状であって、上壁12Aと、上壁12Aから離間して設けられた下壁12Bと、上壁12Aと下壁12Bとの左側を連結する左側壁12Cと、上壁12Aと下壁12Bとの右側を連結する右側壁12Dと、上壁12A、左側壁12C及び右側壁12Dの前側を連結する前壁12Eと、上壁12A、左側壁12C及び右側壁12Dの後側を連結する後壁12Fとを含んでいる。図4A及び図4Bに示すように、無段変速装置50、遊星ギヤ変速機構51、クラッチ機構52及び副変速機構53は、上壁12A、下壁12B、左側壁12C、右側壁12D、前壁12E及び後壁12Fに囲まれる空間に収容されている。ミッションケース12は、複数に分割された分割体を連結した構造であってもよく限定されない。
【0015】
ミッションケース12内には、変速装置5(無段変速装置50、遊星ギヤ変速機構51、クラッチ機構52及び副変速機構53)を潤滑する潤滑油が充填されている。
無段変速装置50は、原動機4から伝達される駆動力を無段階に変速する装置である。この実施形態では、無段変速装置50は、静油圧式の無段変速装置50である。
原動機4の出力軸(クランク軸)4aから主軸(推進軸)54に伝達された駆動力を変更する。図1及び図2に示すように、無段変速装置50は、油圧ポンプP1と、走行モータM1とを有している。油圧ポンプP1と走行モータM1とは作動油が流れる油路(循環油路)55とで接続されている。油圧ポンプP1は、入力軸56aと、斜板56bとを有している。油圧ポンプP1は、入力軸56aに伝達された動力によって駆動し、揺動自在に支持された斜板56bの角度(斜板角度)によって、出力(作動油の吐出量(流量)、圧力)を変更することができる。
【0016】
走行モータM1は、出力軸58を有している。出力軸58は、油圧ポンプP1の出力(作動油の流量、圧力)によって回転数が変化する。出力軸58の動力は、遊星ギヤ変速機構51等に伝達された後、走行装置7に伝達される。
詳しくは、図1に示すように、油圧ポンプP1の入力軸56aは、主軸(推進軸)54の回転に伴って回転するギヤ等を有する駆動ギヤ機構59に接続されていて、駆動ギヤ機構59を介して主軸(推進軸)54の動力が伝達される。油圧ポンプP1の斜板角度によって出力が変更され、走行モータM1の出力軸58の回転数を変更する。
【0017】
遊星ギヤ変速機構51は、無段変速装置50で変速された駆動力をさらに変速する装置であって、複数の遊星ギヤ変速装置57を有している。この実施形態では、複数の遊星ギヤ変速装置57は、第1遊星ギヤ変速装置57Hと、第2遊星ギヤ変速装置57Lとを含んでいる。第1遊星ギヤ変速装置57Hは、高速の駆動力を伝達する遊星ギヤ変速装置であり、第2遊星ギヤ変速装置57Lは、第1遊星ギヤ変速装置57Hよりも低速の駆動力を伝達する遊星ギヤ変速装置である。
【0018】
第1遊星ギヤ変速装置57Hは、第1入力軸61aと、第1サンギヤ61bと、第1リングギヤ61cと、複数の第1プラネタリギヤ61dと、第1キャリア61eと、第1出力軸61fを有している。第1入力軸61aは、回転自在に支持されていて、無段変速装置50で変速された駆動力が伝達される。第1サンギヤ61bは、第1入力軸61aの回転に伴って回転するギヤである。第1リングギヤ61cは、第1サンギヤ61bと同一軸上に配置されていて、回転自在に支持されている。第1リングギヤ61cと第1サンギヤ61bとの間には、複数の第1プラネタリギヤ61dが配置されている。複数の第1プラネタリギヤ61dは、第1キャリア61eに支持されている。第1出力軸61fは、第1リングギヤ61cの回転に伴って回転するように支持されている。
【0019】
第2遊星ギヤ変速装置57Lは、第2入力軸62aと、第2サンギヤ62bと、第2リングギヤ62cと、複数の第2プラネタリギヤ62dと、第2キャリア62eと、第2出力軸62fを有している。第2入力軸62aは、回転自在に支持されていて、無段変速装置50で変速された駆動力が伝達される。第2サンギヤ62bは、第2入力軸62aの回転に伴って回転するギヤである。第2リングギヤ62cは、第2サンギヤ62bと同一軸上に配置されていて、回転自在に支持されている。第2リングギヤ62cと第2サンギヤ62bとの間には、複数の第2プラネタリギヤ62dが配置されている。複数の第2プラネタリギヤ62dは、第2キャリア62eに支持されている。第2出力軸62fは、第2キャリア62eの回転に伴って回転するように支持されている。
【0020】
さて、無段変速装置50の出力側、即ち、走行モータM1の出力軸58の動力は、第2遊星ギヤ変速装置57Lの第2入力軸62aを介して、第2遊星ギヤ変速装置57Lに伝達される。また、第1遊星ギヤ変速装置57Hには、第2遊星ギヤ変速装置57Lの第2入力軸62aに連結された動力伝達機構63によって伝達される。動力伝達機構63は、第2入力軸62aの回転に伴って回転するギヤ63aと、ギヤ63aに噛み合うギヤ63bと、第1遊星ギヤ変速装置57Hの第1入力軸61aに設けられたギヤ63cとを含んでいる。ギヤ63bは、ギヤ63cに噛みあっている。
【0021】
したがって、走行モータM1の出力軸58の動力は、第2入力軸62a、ギヤ63a、ギヤ63b及びギヤ63cを介して、第1遊星ギヤ変速装置57Hの第1入力軸61aに伝達される。
また、第1遊星ギヤ変速装置57Hの第2リングギヤ62cに設けたギヤと、主軸(推進軸)54に設けたギヤ64とが噛み合っていて、ギヤ64は、第1キャリア61eに設けたギヤに噛み合っている。
【0022】
以上、無段変速装置50及び遊星ギヤ変速機構51によれば、無段変速装置50から出力された駆動力が、第1遊星ギヤ変速装置57Hに入力された場合には高速に変換され、第2遊星ギヤ変速装置57Lに入力された場合には低速に変換することができる。
図1に示すように、変速装置5は、クラッチ機構52を備えている。クラッチ機構52は、遊星ギヤ変速機構51で変速された駆動力を伝達軸66に接続する接続状態と、伝達軸66に接続しない切断状態とに切り換え可能である。クラッチ機構52は、第1クラッチ装置52Aと、第2クラッチ装置52Bとを有している。第1クラッチ装置52Aは、第1遊星ギヤ変速装置57Hの駆動力を伝達軸66に伝達可能なクラッチである。第2クラッチ装置52Bは、第2遊星ギヤ変速装置57Lの駆動力を伝達軸66に伝達可能なクラッチである。
【0023】
第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bは、作動油によって接続状態と、切断状態とに切り換えられる油圧クラッチである。
第1クラッチ装置52Aは、第1遊星ギヤ変速装置57Hの第1出力軸61fと一体回転可能なハウジング71aと、円筒軸71bと、ハウジング71aと円筒軸71bとの間に配置された摩擦プレート71cと、押圧部材71dとを有している。押圧部材71dは、図示省略のバネ等の付勢部材により摩擦プレート71cから離れる方向に付勢されている。
【0024】
ハウジング71a内には、作動油を給排する油路71eが接続されていて、油路71eからハウジング71a側に作動油が供給されると、押圧部材71dはバネの付勢力に抗して押圧側(接続側)に移動することで、摩擦プレート71cがハウジング71側に圧接して、第1クラッチ装置52Aは接続状態になり、第1出力軸61fの動力が円筒軸71bと一体回転するギヤ73に伝達される。一方、ハウジング71a側から油路71eに作動油が排出されると、押圧部材71dはバネの付勢力によって切断側に移動することで、摩擦プレート71cがハウジング71a側から離れて、第1クラッチ装置52Aは切断状態になり、第1出力軸61fの動力はギヤ73に伝達されない。
【0025】
伝達軸66には、当該伝達軸66と一体回転する入力ギヤ74が設けられていて、入力ギヤ74は、第1クラッチ装置52Aの出力側のギヤ(出力ギヤ)73に噛み合っていて、第1クラッチ装置52Aが接続状態になった場合には、第1遊星ギヤ変速装置57Hによって高速側に変速された駆動力が伝達軸66に伝達される。
第2クラッチ装置52Bは、前進と後進とを切り換えるクラッチであり、前進クラッチ部75と、後進クラッチ部76とを有している。前進クラッチ部75及び後進クラッチ部76は、第2遊星ギヤ変速装置57Lの第2出力軸62fと一体回転するハウジング77を有している。
【0026】
前進クラッチ部75は、円筒軸75bと、ハウジング77と円筒軸75bとの間に配置された摩擦プレート75cと、押圧部材75dとを有している。押圧部材75dは、図示省略のバネ等の付勢部材により摩擦プレート75cから離れる方向に付勢されている。
前進クラッチ部75側のハウジング77内には、作動油を給排する油路75eが接続されていて、油路75eからハウジング77側に作動油が供給されると、押圧部材75dはバネの付勢力に抗して押圧側(接続側)に移動することで、摩擦プレート75cがハウジング77側に圧接して、前進クラッチ部75は接続状態になり、第2出力軸62fの動力が円筒軸75bと一体回転するギヤ78に伝達される。一方、ハウジング77側から油路75eに作動油が排出されると、押圧部材75dはバネの付勢力によって切断側に移動することで、摩擦プレート75cがハウジング77側から離れて、前進クラッチ部75は切断状態になり、第2出力軸62fの動力はギヤ78に伝達されない。
【0027】
後進クラッチ部76は、円筒軸76bと、ハウジング77と円筒軸76bとの間に配置された摩擦プレート76cと、押圧部材76dとを有している。押圧部材76dは、図示省略のバネ等の付勢部材により摩擦プレート76cから離れる方向に付勢されている。
伝達軸66には、当該伝達軸66と一体回転する入力ギヤ80が設けられていて、入力ギヤ80は、前進クラッチ部75の出力側のギヤ(出力ギヤ)78に噛み合っていて、前進クラッチ部75が接続状態になった場合には、第2遊星ギヤ変速装置57Lによって低速側に変速された駆動力が伝達軸66に伝達される。
【0028】
後進クラッチ部76側のハウジング77内には、作動油を給排する油路76eが接続されていて、油路76eからハウジング77側に作動油が供給されると、押圧部材76dはバネの付勢力に抗して押圧側(接続側)に移動することで、摩擦プレート76cがハウジング77側に圧接して、後進クラッチ部76は接続状態になり、第2出力軸62fの動力が円筒軸76bと一体回転するギヤ79に伝達される。一方、ハウジング77側から油路76eに作動油が排出されると、押圧部材76dはバネの付勢力によって切断側に移動することで、摩擦プレート76cがハウジング77側から離れて、後進クラッチ部76は切断状態になり、第2出力軸62fの動力はギヤ79に伝達されない。
【0029】
副変速機構53は、第1カウンタ軸91と後輪駆動軸93との間に備えた第1変速部95と、第2カウンタ軸92と同軸芯上に備えた第2変速部96と、これらに連係する伝動ギヤを備えて構成されている。副変速機構53は、第1低速伝動ギヤ97aと、第2低速伝動ギヤ97bと、高速伝動ギヤ97cと、中速伝動ギヤ97dとを備えていて、高速、中速、低速の3段の変速可能である。副変速機構53の変速は、複数の位置に切り換え可能な副変速操作部材149によって行う。副変速操作部材149は、運転席10の周囲に設けられていて、高速位置、中立位置、中速位置、中立位置、低速位置の5段に切り換え可能なレバーである。副変速操作部材149が中立位置である場合は、第1カウンタ軸91の動力は、後輪駆動軸93に伝達されない状態、即ち、原動機4の駆動力は、走行装置7に伝達されない状態である。
【0030】
副変速機構53によって変速された後輪駆動軸93は、後輪7Rを回転自在に支持する後車軸99が連結された後輪デフ装置100に接続され、前進の伝達軸66の駆動力は、副変速機構53及び後輪駆動軸93を介して、後輪7Rを有する走行装置7に伝達される。また、前進の伝達軸66の駆動力は、後輪駆動軸93に設けられた前輪伝達ギヤ98を介して、前輪伝動軸101に伝達される。前輪伝動軸101には、前輪7Fの回転等を変化させる駆動変換クラッチ102が設けられ、駆動変換クラッチ102の出力側には、前輪駆動軸103が接続されている。前輪駆動軸103は、前輪7Fを回転自在に支持する前車軸105が連結された前輪デフ装置106に接続され、前進の伝達軸66の駆動力は、副変速機構53及び後輪駆動軸93を介して、前輪7Fを有する走行装置7に伝達される。なお、駆動変換クラッチ102では、前輪7Fと後輪7Rとの回転を等速にしたり、前輪7Fと後輪7Rとの両方で走行する4WDにしたり、後輪7Rのみで走行する2WDにすることができる。
【0031】
推進軸54には、PTOクラッチ装置110が設けられている。PTOクラッチ装置110は、例えば、油圧クラッチ等で構成され、油圧クラッチの入切によって、推進軸54の動力をPTO推進軸111に伝達する状態(接続状態)と、推進軸54の動力をPTO推進軸111に伝達しない状態(切断状態)とに切り換わる。PTO推進軸111の中途部には、PTO推進軸111の駆動力(回転)を変速するPTO変速装置112が設けられ、PTO推進軸111の回転、即ち、PTO推進軸111にギヤを介して接続されるPTO軸16の回転を変更することができる。
【0032】
図1に示すように、トラクタ1は、制動装置140を備えている。制動装置140は、走行装置7の制動を行う装置である。制動装置140は、制動操作部材141と、左制動装置142Fと、右制動装置142Rとを有している。制動操作部材141は、制動の操作を行う部材であって、運転者が手動で操作することができる部材である。
制動操作部材141は、左ブレーキペダル141Fと、右ブレーキペダル141Rとを含んでいる。左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rは、車体3等に揺動自在に支持されていて、運転席10の近傍に設けられ、運転者が操作可能である。左制動装置142F及び右制動装置142Rは、ディスク型の制動装置であり、制動する制動状態と、制動を解除する解除状態に切換可能である。左制動装置142Fは、後車軸99の左側に設けられ、右制動装置142Rは、後車軸99の右側に設けられている。
【0033】
運転者が左ブレーキペダル141Fを操作する(踏み込む)ことによって、左ブレーキペダル141Fに連結された左連結部材143Fが制動方向へ動き、左制動装置142Fを制動状態にすることができる。運転者が右ブレーキペダル141Rを操作する(踏み込む)ことによって、右ブレーキペダル141Rに連結された右連結部材143Rが制動方向へ動き、右制動装置142Rを制動状態にすることができる。なお、左ブレーキペダル141Fと右ブレーキペダル141Rとには両者を連結する連結部材が係脱自在(左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rに掛止して、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rを連結する連結状態と、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rからの掛止が行われずに連結しない非連結状態)に設けられていて、連結部材によって左ブレーキペダル141Fと右ブレーキペダル141Rとを連結している場合には、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rのいずれかを踏み込むことによって、左制動装置142Fと右制動装置142Rとを同時に制動することができ、左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rのいずれかの踏込を解除することによって、左制動装置142Fと右制動装置142Rとの制動を同時に解除することができる。
【0034】
また、図1に示すように、制動操作部材141は、パーキングブレーキ144を含んでいる。パーキングブレーキ144は、例えば、左ブレーキペダル141Fと右ブレーキペダル141Rの近傍に設置され且つ揺動自在なパーキングレバーであり、パーキングレバーを操作することで、リンク機構によって左ブレーキペダル141Fと右ブレーキペダル141Rがロックされ、左制動装置142Fと右制動装置142Rの制動が行われる。
【0035】
上述したパーキングブレーキ144は上述した機構に限定されない。パーキングブレーキ144は、操作部材の操作によって後輪駆動軸93に設けられたギアの回転をロックすることで制動する機構であってもよい。或いは、パーキングブレーキ144は、操作部材の操作によって、左制動装置142F及び右制動装置142Rのディスク(ブレーキディスク)に押し付けて制動する機構であってもよいし、左制動装置142F及び右制動装置142Rを電動によって作動させることで制動を行う機構であってもよい。
【0036】
図2に示すように、トラクタ1は、制御装置120と、記憶装置(記憶部)121とを備えている。制御装置120は、CPU、電気電子回路、当該制御装置120に格納されたプログラム等から構成されている。制御装置120は、トラクタ1に関する様々な制御を行う。記憶装置121は、不揮発性のメモリ等から構成されている。
制御装置120には、クラッチ機構52(第1クラッチ装置52A、第2クラッチ装置52B)を作動させる複数の電磁制御弁130が接続されている。複数の電磁制御弁130は、第1クラッチ装置52Aを作動させる第1電磁制御弁130aと、第2クラッチ装置52Bの前進クラッチ部75を作動させる第2電磁制御弁130bと、第2クラッチ装置52Bの後進クラッチ部76を作動させる第3電磁制御弁130cとを含んでいる。
【0037】
第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cは、それぞれソレノイドを有していて、ソレノイドに励磁した電流に応じて開度が変化する弁である。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cは、ソレノイドに励磁した電流が大きくなるにつれて開度は大きくなり、ソレノイドに励磁した電流が小さくなるにつれて開度は小さくなる。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cのソレノイドを消磁する、即ち、電流を付与しない場合は、第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cは全閉する。
【0038】
第1電磁制御弁130aは、油路71eに接続され、第2電磁制御弁130bは、油路75eに接続され、第3電磁制御弁130cは、油路76eに接続されている。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cには、油圧ポンプP1とは異なる油圧ポンプP2の油路131が接続されていて、作動油が供給可能である。第1電磁制御弁130a、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cには、作動油を排出する油路132が接続されていて、例えば、全閉状態である場合には、出力ポートから作動油が排出される。
【0039】
制御装置120は、クラッチ機構52(第1クラッチ装置52A、第2クラッチ装置52B)を切り換える場合、即ち、遊星ギヤ変速機構51を高速側又は低速側に切り換える場合、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれか一方を接続状態とし、他方を切断状態にする。
具体的には、遊星ギヤ変速機構51が高速側且つ車体3を前進側に走行させる場合(高速前進の場合)、制御装置120は、第1電磁制御弁130aのソレノイドに電流(制御信号)を出力して当該第1電磁制御弁130aを全開にすることで、第1クラッチ装置52Aを切断状態から接続状態に切り換える。また、高速前進の場合、制御装置120は、第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cのソレノイドを消磁して、当該第2電磁制御弁130b及び第3電磁制御弁130cを全閉にすることで、第2クラッチ装置52Bを切断状態(中立状態)にする。
【0040】
遊星ギヤ変速機構51が低速側且つ車体3を前進側に走行させる場合(低速前進の場合)、第1電磁制御弁130aのソレノイドを消磁し且つ第2電磁制御弁130bのソレノイドを励磁する。これにより、第1電磁制御弁130aは、全閉して第1クラッチ装置52Aは切断状態になり、第2電磁制御弁130bは、全開して第2クラッチ装置52Bの前進クラッチ部75が接続状態になる。
【0041】
遊星ギヤ変速機構51が低速側且つ車体3を後進側に走行させる場合(低速後進の場合)、第1電磁制御弁130aのソレノイドを消磁し且つ第3電磁制御弁130cのソレノイドを励磁する。これにより、第1電磁制御弁130aは、全閉して第1クラッチ装置52Aは切断状態になり、第3電磁制御弁130cは、全開して第2クラッチ装置52Bの後進クラッチ部76が接続状態になる。
【0042】
車体3の前進、後進は、走行操作部材148によって行う。走行操作部材148は、車体3を前進させる前進位置F、車体3を後進させる後進位置R、車体3を前進及び後進のいずれにも切り換えない中立位置N(ニュートラル)と、に操作可能な部材である。例えば、走行操作部材148は、運転席10の前方又は側方に配置されたレバー(シャトルレバー)等である。シャトルレバーは、ハンドル30を回動可能に支持する操縦台に揺動自在に3段階(前進位置F、後進位置R、中立位置N)に支持されている。上述したように、シャトルレバーが前進位置Fに切り換えられた場合は、第1クラッチ装置52A及び前進クラッチ部75のいずれかが接続状態になる。また、シャトルレバーが後進位置Rに切り換えられた場合は、後進クラッチ部76が接続状態になる。また、シャトルレバーが中立位置Nに切り換えられた場合は、第1クラッチ装置52A、第2クラッチ装置52B(前進クラッチ部75、後進クラッチ部76)が切断状態になる。つまり、クラッチ機構52(第1クラッチ装置52A、第2クラッチ装置52B)は、走行操作部材148の前進位置F、後進位置R及び中立位置Nの操作に基づいて、無段変速装置50で変速された駆動力の切換を行う。
【0043】
さて、車体3を制動した状態で車体3を停止状態から走行状態に切り換える制動発進を行うことがある。即ち、制動発進では、左ブレーキペダル141Fと右ブレーキペダル141Rの操作をした状態(制動操作部材141を操作した状態)で、走行操作部材148を中立位置Nから前進位置F及び後進位置Rのいずれかに切り換える。制御装置120は、制動発進時をスムーズにするために、予め走行操作部材148を中立位置Nに保持している状態における無段変速装置50から出力される駆動力である中立目標値を、制動操作部材141の操作量((左ブレーキペダル141F及び右ブレーキペダル141Rの操作量)に応じて変更する。例えば、制御装置120は、操作量(踏込量)が増加するにつれて中立目標値の絶対値を小さくし、操作量(踏込量)が減少するにつれて中立目標値の絶対値を大きくする。
【0044】
以下、無段変速装置50から出力する駆動力の目標値(前進目標値、後進目標値、中立目標値)の設定、制動発進について詳しく説明する。
制御装置120は、目標演算部120Aと、出力設定部120Bとを有している。目標演算部120A及び出力設定部120Bは、制御装置120に設けられた電気電子回路、当該制御装置120に格納されたプログラム等から構成されている。
【0045】
目標演算部120Aは、走行操作部材148を中立位置Nから前進位置Fへ切り換えて車体3を前進させたときの無段変速装置50から出力する駆動力である前進目標出力値と、走行操作部材148を中立位置Nから後進位置Rへ切り換えて車体3を後進させたときの無段変速装置50から出力する駆動力である後進目標出力値とを演算する。目標演算部120Aは、例えば、前進目標出力値及び後進目標出力値を、記憶装置121に記憶された制御マップCM1から求める。
【0046】
図3は、制御マップCM1の一例を示している。
図3に示すように、制御マップCM1は、車速(走行速度)と、無段変速装置50から出力する駆動力との関係を示している。
制御マップCM1は、車体3が前進するに際して車速と無段変速装置50の駆動力との関係を示すラインL1と、車体3が後進するに際して車速と無段変速装置50の駆動力との関係を示すラインL2とを含んでいる。制御マップCM1において、前進時の駆動力はプラスで表し、後進時の駆動力は、マイナスで表している。無段変速装置50から出力する駆動力は、例えば、走行モータM1の回転数であり、正転側をプラスで示し、逆転側をマイナスで示している。なお、図2に示すように、制御装置120は、当該制御装置120に接続されたレギュレータ125を制御することにより、走行モータM1の回転数を制御する。具体的には、レギュレータ125は、電磁弁等の制御弁(電磁制御弁)126を含んでいる。電磁制御弁126は、ソレノイドを有していて、ソレノイドに励磁した電流に応じて開度が変化する弁である。ソレノイドに励磁した電流が大きくなるにつれて電磁制御弁126の開度は大きくなり、ソレノイドに励磁した電流が小さくなるにつれて電磁制御弁126の開度は小さくなる。電磁制御弁126のソレノイドを消磁する、即ち、電流を付与しない場合は、電磁制御弁126は全閉する。電磁制御弁126によって、レギュレータ125が作動して、油圧ポンプP1の斜板の角度が変化することにより、走行モータM1に作用する作動油の流量又は圧力が変化することでの走行モータM1の回転数を変更することができる。
【0047】
なお、無段変速装置50から出力する駆動力は、即ち、制御マップCM1において横軸は、車速で表しているが、これに代えて、後輪駆動軸93の回転数等で表してもよく限定されない。
目標演算部120Aは、車体3を前進させる場合は、制御マップCM1とラインL1とに基づいて、前進目標出力値を演算する。目標演算部120Aは、例えば、時点P1に示すように、車体3の前進時の車速を40%にする場合は、走行モータM1の正転の回転数V1を前進目標出力値に設定する。目標演算部120Aは、例えば、時点P2に示すように、車体3の前進時の車速を100%(最大値)にする場合は、走行モータM1の逆転の回転数V2を前進目標出力値に設定する。つまり、目標演算部120Aは、前進時の車速(目標車速)に応じて、走行モータM1の回転方向及び回転数を設定する。
【0048】
目標演算部120Aは、車体3を後進させる場合は、制御マップCM1とラインL2とに基づいて、後進目標出力値を演算する。目標演算部120Aは、例えば、時点P11に示すように、車体3の後進時の車速を40%にする場合は、走行モータM1の逆転の回転数V11を後進目標出力値に設定する。目標演算部120Aは、例えば、時点P12に示すように、車体3の後進時の車速を100%(最大値)にする場合は、走行モータM1の正転の回転数V2を後進目標出力値に設定する。つまり、目標演算部120Aは、後進時の車速(目標車速)に応じて、走行モータM1の回転方向及び回転数を設定する。
【0049】
さて、出力設定部120Bは、前進目標出力値及び後進目標出力値に基づいて、中立目標値を設定する。ここで、制御マップCM1において、制動操作部材141の操作を行わずに中立位置Nから前進位置Fへ切り換えたとき(前進の未制動発進のとき)の縦軸に平行なラインをL4とし、制動操作部材141の操作を行わずに中立位置Nから後進位置Rへ切り換えたとき(後進の未制動発進のとき)の縦軸に平行なラインをL5とした場合、目標演算部120Aは、ラインL4とラインL1とが交差する値V1を前進目標出力値(第1目標値)に設定し、ラインL5とラインL2とが交差する値V11を後進目標出力値(第2目標値)に設定する。出力設定部120Bは、ラインL1において前進目標出力値(第1目標値)V1の値になる点J10と、ラインL2において後進目標出力値(第2目標値)V11の値になる点J11とを結ぶラインL3と、縦軸とが交差する位置で示された値を、中立目標値V3に設定する。
【0050】
一方、出力設定部120Bは、制動操作部材141の操作を行って中立位置Nから前進位置Fへ切り換えたとき(制動発進のとき)は、前進目標出力値、後進目標出力値に基づいて、中立目標値を設定する。出力設定部120Bは、踏込量に応じてラインL4、L5を車速が小さくなる側にシフトしたラインL4a、ラインL5a、ラインL1、L2に基づいて、中立目標値を設定する。出力設定部120Bは、中立目標値を求めるにあたって、ラインL4a、ラインL5aのシフト量ΔGを大きくする。例えば、出力設定部120Bは、踏込量が最大の場合、ラインL4a、ラインL5aを縦軸(Y軸)に一致するまでシフトし、踏込量が最小の場合、ラインL4a、ラインL5aをラインL4、ラインL5に一致するまで移動させ、踏込量が50%の場合、ラインL4a、ラインL5aのそれぞれを縦軸(Y軸)と、ラインL4、ラインL5との間に位置させる。
【0051】
出力設定部120Bは、ラインL1を延長させたラインL1aとラインL4aとの交点である第1点J1と、ラインL2とラインL5aとの交点である第2点J2とを結ぶライン6と、縦軸(Y軸)との交点J3の値を、中立目標値に設定する。つまり、出力設定部120Bは、踏込量に応じてラインL4aを平行移動させたときの当該ラインL4aとラインL1aとが交差する第1点J1の値(前進目標出力値)と、踏込量に応じてラインL5aを平行移動させたときの当該ラインL5aとラインL2とが交差する第2点J2の値(後進目標出力値)とを結ぶラインL6の中間点の値である中間値を、中立目標値に設定する。このように、中立目標値を踏込量に応じて変更することによって、無段変速装置50の駆動力を、車体3を前進の制動発進後、又は、後進の制動発進後の前進目標出力値、後進目標出力値に出来るだけ早く到達させることができ、変ショックを低減しつつ、クラッチ機構52への作動油の充填時間も確保することができる。
【0052】
作業車両1は、走行装置7が設けられた車体3と、斜板角度によって出力を変更する斜板を有する油圧ポンプP1と、油圧ポンプP1の出力によって回転数が変化する出力軸58を有し且つ出力軸58の動力が走行装置7に伝達可能な走行モータM1と、を有する無段変速装置50と、車体3を前進させる前進位置F、車体3を後進させる後進位置R、車体3を前進及び後進のいずれにも切り換えない中立位置Nと、に操作可能な走行操作部材148と、走行操作部材148の前進位置F、後進位置R及び中立位置Nの操作に基づいて、無段変速装置50で変速された駆動力の切換を行うクラッチ機構52と、走行装置7の制動を行う制動装置140と、制動装置140の制動の操作を行う制動操作部材141と、走行操作部材148を中立位置Nに保持したときの無段変速装置50から出力される駆動力である中立目標値を、制動操作部材141の操作量に応じて変更する制御装置120と、を備えている。これによれば、制動を行った状態から作業車両1を発進させる場合において、制動操作部材141の操作量に応じて無段変速装置50から出力される駆動力である中立目標値を変更することができるため、発進直後の走行装置7に伝達される動力を適正にすることができる。即ち、制動発進時の変速ショックの緩和等を行うことができ、制動発進時の走行性を向上させることができる。
【0053】
制御装置120は、操作量が増加するにつれて中立目標値を小さくし、操作量が減少するにつれて中立目標値を大きくする。これによれば、制動発進時において、制動操作部材141の操作量、即ち、制動力に応じて、可及的に走行装置7への動力の伝達をスムーズにすることができる。
制御装置120は、走行操作部材148を中立位置Nから前進位置Fへ切り換えて車体3を前進させたときの無段変速装置50から出力する前進目標出力値と、走行操作部材148を中立位置Nから後進位置Rへ切り換えて車体3を後進させたときの無段変速装置50から出力する後進目標出力値とを演算する目標演算部120Aと、制動操作部材141の操作量、前進目標出力値及び後進目標出力値に基づいて中立目標値を設定する出力設定部120Bと、を有している。これによれば、無段変速装置50において、前進時と後進時との適正な回転数から発進することができるため、前進の発進時に瞬間的に後進するような現象を抑制することができる。
【0054】
出力設定部120Bは、制動操作部材141の操作を行わずに前進位置Fへ切り換えたときの前進目標出力値である第1目標値と、制動操作部材141の操作を行わずに後進位置Rへ切り換えたときの後進目標出力値である第2目標値とに基づいて中立目標値を設定する。これによれば、前進目標出力値(第1目標値)と、後進目標出力値(第2目標値)とのバランスに応じて、中立目標値を設定することができ、制動しながら発進するときの前進初動時の作業車両1の動作と、後進初動時の作業車両1の動作とを安定させることができる。
【0055】
出力設定部120Bは、第1目標値と第2目標値との中間値を、中立目標値に設定する。これによれば、中立位置から前進側へ切り換えて発進させた場合と、中立位置から後進側へ切り換えて発進させた場合との無段変速装置50の出力を安定させることができる。
出力設定部120Bは、無段変速装置50から出力される駆動力として走行モータM1の回転数を設定する。これによれば、走行モータM1の回転数によって、走行装置7への動力の伝達度合いを簡単に調整することができる。
【0056】
作業車両1は、無段変速装置50で変速された駆動力を高速側に変速する第1遊星ギヤ変速装置57Hと、無段変速装置50で変速された駆動力を第1遊星ギヤ変速装置57Hよりも低速側に変速する第2遊星ギヤ変速装置57Lと、有し、クラッチ機構52は、第1遊星ギヤ変速装置57Hの駆動力を前進側に伝達する接続状態と、前進側に伝達しない切断状態とに切り換え可能な第1クラッチ装置52Aと、第2遊星ギヤ変速装置57Lの駆動力を前進側に伝達する接続状態と、第2遊星ギヤ変速装置57Lの駆動力を後進側に伝達する接続状態と、前進側及び後進側のいずれにも伝達しない切断状態と、に切り換え可能な第2クラッチ装置52Bと、を備えている。これによれば、第1遊星ギヤ変速装置57Hと、第2遊星ギヤ変速装置57Lとによって、駆動力を高速側と低速側に切り換えつつ、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bによって、前進及び後進を切り換えるような構成において、制動発進時の変速ショックの緩和、制動発進時の瞬間的な反対移動(逆走)を防止することができる。
【0057】
制御装置120は、暖機運転モードと、走行運転モードとに切り換え可能である。暖機運転モード及び走行運転モードは、自動又は手動で切り換え可能である。暖機運転モードは、変速装置5から走行装置7への動力が伝達するのを遮断した状態で変速装置5が有するギヤを回転させるモードである。走行運転モードは、変速装置5から走行装置7への動力が伝達する状態でギヤを回転させるモードである。即ち、走行運転モードでは、運転者による手動操作、制御装置120による自動操作によって、車体3を走行させることができるモードであり、通常通り、変速装置5(無段変速装置50、遊星ギヤ変速機構51、クラッチ機構52及び副変速機構53)を作動させることで変速を行うモードである。
【0058】
具体的には、制御装置120には、潤滑油の温度を測定可能な温度測定装置150が接続されている。制御装置120は、イグニッションスイッチ等がOFFからONとなり原動機4が駆動する(原動機4の出力軸(クランク軸)4aが回転する)と、温度測定装置150によって検出された温度(潤滑油温度)を参照する。制御装置120は、潤滑油温度が、例えば、-15℃未満、即ち、閾値未満であり、潤滑油の粘性が高い場合(条件1)には、暖機運転モードに自動的に切り換わる。一方、制御装置120は、潤滑油温度が-15℃以上(閾値以上)であり、潤滑油の粘性が低い場合には、走行運転モードに切り換わる。なお、潤滑油温度を判定する閾値は、一例であって、上述した温度に限定されない。
【0059】
或いは、制御装置120は、副変速操作部材149が中立位置で且つ制動操作部材141のパーキングブレーキ144がON(制動装置140によって走行装置7の制動を行っている状態)である場合(条件2)、暖機運転モードに自動的に切り換わる。なお、副変速操作部材149が中立位置、制動操作部材141のパーキングブレーキ144がON、且つ、走行操作部材148が中立位置Nである場合(条件3)に、制御装置120は、暖機運転モードに自動的に切り換わってもよい。
【0060】
或いは、制御装置120は、制動操作部材141のパーキングブレーキ144がON、且つ、走行操作部材148が中立位置Nである場合(条件4)に、暖機運転モードに自動的に切り換わってもよい。
制御装置120は、条件1及び条件2を満たした場合に、自動的に暖機運転モードに切り換わってもよいし、条件1及び条件3を満たした場合に、自動的に暖機運転モードに切り換わってもよいし、条件1及び条件4を満たした場合に、自動的に暖機運転モードに切り換わってもよい。
【0061】
なお、条件1が満たされている状態で、条件2、条件3及び条件4のいずれかが外れているときには、条件をトラクタ1に設けられた表示装置、例えば、メータパネルに表示し、条件を整えるように、運転者に促すようにする。
制御装置120は、暖機運転モードに切り換わると、例えば、第1クラッチ装置52Aを切断状態から接続状態に切り換え且つ第2クラッチ装置52Bを切断状態に保持することで、第1遊星ギヤ変速装置57Hを回転させる。或いは、制御装置120は、暖機運転モードに切り換わると、第1クラッチ装置52Aを接続状態に保持した状態で第2クラッチ装置52Bを切断状態から接続状態に切り換えることで、第2遊星ギヤ変速装置57Lを回転させる。例えば、制御装置120は、暖機運転モードであるとき、前進クラッチ部75を接続状態且つ後進クラッチ部76を切断状態、又は、前進クラッチ部75を切断状態且つ後進クラッチ部76を接続状態にする。なお、制御装置120は、暖機運転モードであるとき、原動機4の回転数(原動機回転数)の下限値を設定して、当該原動機回転数が下限値を下回らないようにする。
【0062】
制御装置120は、暖機運転モードに切り換わった後、温度測定装置150によって検出された潤滑油温度を参照し、当該潤滑油温度が-15℃以上となった場合に、走行運転モードに自動的に切り換わってもよい。或いは、制御装置120は、暖機運転モードに切り換わった後、暖機運転モードによって第1遊星ギヤ変速装置57H、又は、第2遊星ギヤ変速装置57Lを作動させた後、所定の時間が経過した場合、走行運転モードに切り換えてもよい。
【0063】
なお、上述した実施形態では、制御装置120は、自動的に暖機運転モードに切り換わっていたが、運転者が手動で暖機運転モードに切り換えてもよい。制御装置120には、暖機運転モードと走行運転モードとを手動で切り換え可能な切換装置155が接続されている。切換装置155は、運転席10の周囲に設けられ、ON/OFFに切り換え可能なスイッチである。切換装置155がONである場合(条件5)、制御装置120は、暖機運転モードに切り換わり、切換装置155がOFFである場合、制御装置120は、走行運転モードに切り換わる。なお、制御装置120を手動で暖機運転モードに切り換える場合、条件5と条件2とを満たした場合に暖機運転モードに切り換わってもよいし、条件5と条件3とを満たした場合に暖機運転モードに切り換わってもよいし、条件5と条件4とを満たした場合に暖機運転モードに切り換わってもよい。トラクタ1が暖機運転モードで作動している場合において、切換装置155をONからOFFに手動で切り換えられときに強制的に暖機運転モードを停止して、走行運転モードに切り換えるようにしてもよい。
【0064】
図5A及び図5Bは、制御装置120の動作フローの一例を示している。
図5Aに示すように、制御装置120は、原動機4の駆動が開始されると、まず、走行運転モードに設定される(S1)。制御装置120は、暖機運転モードの切換条件(条件1及び条件2、条件1及び条件3)を満たしているか否かを判断する(S2)。暖機運転モードの切換条件を満たしている場合(S2、Yes)、走行運転モードから暖機運転モードに自動的に切り換わる(S3)。暖機運転モードに切り換わると、制御装置120は、例えば、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれかを接続状態にすることで遊星ギヤ変速装置57を回転させる(S4)。制御装置120は、潤滑油温度が閾値以上又は、暖機運転モードを実行してからの経過時間が所定以上である場合(S5、Yes)、暖機運転モードから走行運転モードに切り換わる(S6)。制御装置120は、潤滑油温度が閾値未満又は、暖機運転モードを実行してからの経過時間が所定未満である場合(S5、No)、暖機運転モードを継続する。なお、暖機運転モードの継続中において、切換装置155をONした後に、OFFに切り換えられた場合、強制的に暖機運転モードに切り換える。
【0065】
図5Bに示すように、制御装置120は、原動機4の駆動が開始されると、まず、走行運転モードに設定される(S1)。制御装置120は、暖機運転モードの切換条件(条件5及び条件2、条件5及び条件3、条件5及び条件4)を満たしているか否かを判断する(S11)。暖機運転モードの切換条件を満たしている場合(S11、Yes)、走行運転モードから暖機運転モードに手動によって切り換わる(S12)。暖機運転モードに切り換わると、制御装置120は、例えば、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれかを接続状態にすることで遊星ギヤ変速装置57を回転させる(S13)。制御装置120は、潤滑油温度が閾値以上又は、暖機運転モードを実行してからの経過時間が所定以上である場合(S14、Yes)、暖機運転モードから走行運転モードに切り換わる(S15)。制御装置120は、潤滑油温度が閾値未満又は、暖機運転モードを実行してからの経過時間が所定未満である場合(S14、No)、暖機運転モードを継続する。なお、暖機運転モードの継続中において、切換装置155をONした後に、OFFに切り換えられた場合、強制的に暖機運転モードする。
【0066】
作業車両1は、走行装置7が設けられた車体3と、車体3に設けられた原動機4と、原動機4からの駆動力を変速して走行装置7に伝達可能な変速装置5と、変速装置5を収容し且つ潤滑油が充填されたミッションケース12と、変速装置5から走行装置7への動力が伝達するのを遮断した状態で変速装置5が有するギヤを回転させる暖機運転モードと、変速装置5から走行装置7への動力が伝達する状態でギヤを回転させる走行運転モードとを切り換え可能な制御装置120と、を備えている。これによれば、走行運転モードであるときは、変速装置5のギアを回転させることで走行を行える一方で、暖機運転モードであるときは、変速装置5のギアを回転させることで、変速装置5内の潤滑油の温度を素早く上昇させることができ、暖機を効率よく行うことができる。つまり、変速装置5のギアの回転によって潤滑油の温度を上昇させることができる。
【0067】
作業車両1は、潤滑油の温度を測定可能な温度測定装置150を備え、制御装置120は、温度測定装置150が測定した温度が閾値未満である場合に暖機運転モードに切り換わり、温度が閾値以上である場合に走行運転モードに切り換わる。これによれば、潤滑油の温度が低く粘性が高い場合に自動的に暖機運転を行うことができ、潤滑油の温度が高く粘性が低い場合には、走行に切り換えることができる。
【0068】
制御装置120は、暖機運転モードによってギヤを回転させてから所定時間が経過後に走行運転モードに切り換わる。これによれば、所定時間だけ暖機運転を行うことができ、暖機運転後は、走行運転モードに切り換えて走行しながら作業を行うことができる。
作業車両1は、暖機運転モードと、走行運転モードとを手動で切り換え可能な切換装置155を備えている。これによれば、運転者等によって、暖機が必要である場合、走行が必要である場合など、運転者の意図通りに、暖機と走行とを行うことができる。
【0069】
作業車両1は、走行装置7の制動を行う制動装置140を備え、変速装置5は、原動機4からの駆動力を複数段に変速可能な副変速機構53を有し、制御装置120は、副変速機構53が変速を行わない中立状態で且つ制動装置140によって走行装置7の制動を行っている状態で、暖機運転モードに切り換わる。これによれば、副変速機構53によって動力が走行装置7に伝達されず且つ制動が行われていることを条件として、作業車両1を適正に停止させた状態で暖機運転を行うことができる。
【0070】
作業車両1は、制動装置140の制動の操作を行う制動操作部材141と、副変速機構53を中立状態に切換可能な副変速操作部材149と、を備えている。これによれば、運転者による制動操作部材141及び副変速操作部材149の操作によって、確実に作業車両1が動かない状態にすることができる。
制御装置120は、暖機運転モードである場合に、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれかを接続状態にする。これによれば、第1クラッチ装置52A及び第2クラッチ装置52Bのいずれかを接続状態にすることによって、暖機運転時に遊星ギヤ変速装置57を作動させることができ、より暖機を短時間で終了させることができる。
【0071】
なお、暖機運転を行うにあたっては、走行装置7等への動力が切れている(切断されていればよく)、シャトルレバーによって中立状態にすることができる作業車両1にも適用可能である。この場合、坂道等でも暖機運転を行うことが可能である。
また、制御装置120は、走行装置7等への動力が切れている場合に暖機運転モードに切り換えればよく、制動をおこなっていない状態でも暖機運転モードにすることができる。この場合、制御装置120は、暖機運転モードで暖機を実行する場合、左制動装置142F及び右制動装置142Rを作動させて制動状態にする。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0073】
1 :作業車両
3 :車体
4 :原動機
5 :変速装置
7 :走行装置
12 :ミッションケース
50 :無段変速装置
52 :クラッチ機構
52A :第1クラッチ装置
52B :第2クラッチ装置
53 :副変速機構
56b :斜板
57 :遊星ギヤ変速装置
57H :第1遊星ギヤ変速装置
57L :第2遊星ギヤ変速装置
120 :制御装置
140 :制動装置
141 :制動操作部材
149 :副変速操作部材
150 :温度測定装置
155 :切換装置
M1 :走行モータ
P1 :油圧ポンプ
P2 :油圧ポンプ
PTO :第2
V1 :回転数
V11 :回転数
V2 :回転数
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6