(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】米飯用品質改良剤
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20240115BHJP
【FI】
A23L7/10 A
A23L7/10 B
(21)【出願番号】P 2020004360
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島津 理江子
(72)【発明者】
【氏名】福田 竜統
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-245582(JP,A)
【文献】特開2012-34611(JP,A)
【文献】特開2013-51945(JP,A)
【文献】特開2018-113872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00-7/25
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B)を有効成分とする、もち米を原料とする米飯用品質改良剤。
(A)チオールプロテアーゼ
(B)アスパルティックプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ及び金属プロテアーゼからなる群から選ばれるいずれか一種以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、もち米を原料とする米飯の食感を改良することができる米飯用品質改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
米飯の美味しさは、適度な粘りがあること(もちもち感)、適度な水分を感じること(しっとり感)、米粒各々の存在を適度に感じること(粒感)等の食感により評価されている。そして、このような食感が改良された米飯を提供するための米飯用品質改良剤が数多く提案されている。
【0003】
例えば、米飯固形分100重量部に対してペクチンを0.12~3.00重量部含有し、水分含有率が64~68重量%である米飯食品(特許文献1)、(a)プロテアーゼ、(b)ペクチン及び/又はタマリンドシードガム、及び(c)グリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とするチルド又は冷凍米飯用品質改良剤(特許文献2)、(a)プロテアーゼ及び(b)ペクチン又はタマリンドシードガムを含有することを特徴とするチルド又は冷凍米飯用改良剤(特許文献3)、クエン酸等の不揮発性有機酸、ペクチン等の冷水可溶性高分子多糖類、還元水あめ及び/又はデキストリンを含有することを特徴とする米飯類の食味改良剤(特許文献4)等が開示されている。
【0004】
ここで、ごはんとして食される通常の米飯には「うるち米」が用いられるのに対し、赤飯やおこわでは「もち米」が用いられる。これまで、うるち米を原料とする米飯については上記の通り様々な技術が開示されているが、これら技術は、もち米を原料とする米飯の食感の改良においては必ずしも十分ではないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-252773号公報
【文献】特開2012-034611号公報
【文献】特開2008-245582号公報
【文献】特開2004-159629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、もち米を原料とする米飯の食感を改良することができる米飯用品質改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、複数種類のプロテーゼを併用することにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記成分(A)及び(B)を有効成分とする、もち米を原料とする米飯用品質改良剤、から成っている。
(A)チオールプロテアーゼ
(B)アスパルティックプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ及び金属プロテアーゼからなる群から選ばれるいずれか一種以上
【発明の効果】
【0009】
本発明の米飯用品質改良剤は、もち米を原料とする米飯の調理時に添加して使用することにより、該米飯の食感を改良できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の米飯用品質改良剤は、もち米を原料とする米飯に用いられ、下記成分(A)及び(B)を有効成分とする。
(A)チオールプロテアーゼ
(B)アスパルティックプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ及び金属プロテアーゼからなる群から選ばれるいずれか一種以上
【0011】
成分(A)として用いられるチオールプロテアーゼは、活性中心にSH基を持つプロテアーゼであり、例えば、パパイン、フィシン、ブロメライン等が挙げられ、中でも、パパイン、ブロメラインが好ましく用いられる。
【0012】
チオールプロテアーゼとしては、例えば、スミチームP(商品名;パパイン;新日本化学工業社製)、スミチームBR(商品名;ブロメライン;新日本化学工業社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0013】
成分(B)として用いられるアスパルティックプロテアーゼは、活性中心にアスパラギン酸残基とアスパラギン酸のカルボン酸イオンが関与するプロテアーゼであり、例えば、ペプシン、Aspergillus属等に属する微生物由来の中性又は酸性プロテアーゼが挙げられ、中でも、Aspergillus属に属する微生物由来の酸性プロテアーゼが好ましく用いられる。
【0014】
アスパルティックプロテアーゼとしては、例えば、スミチームNPL-180(商品名;Aspergillus oryzae由来の酸性プロテアーゼ;新日本化学工業社製)、スミチームLPL-G(商品名;Aspergillus oryzae由来の酸性プロテアーゼ;新日本化学工業社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0015】
成分(B)として用いられるセリンプロテアーゼは、活性中心にセリン残基をもつプロテアーゼであり、例えば、トリプシン、キモトリプシン、ズブチリシン、Streptomyces属、Aspergillus属又はBacillus属等に属する微生物由来の弱アルカリ性又はアルカリ性プロテアーゼ、アルカラーゼ、ビオプラーゼ等が挙げられ、中でも、Aspergillus属に属する微生物由来の弱アルカリ性プロテアーゼが好ましく用いられる。
【0016】
セリンプロテアーゼとしては、例えば、スミチームMP(商品名;Aspergillus melleus由来の弱アルカリ性プロテアーゼ;新日本化学工業社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0017】
成分(B)として用いられる金属プロテアーゼは、金属が触媒作用に関連しているプロテアーゼであり、例えば、Bacillus属、Streptomyces属又はAspergillus属等に属する微生物由来の中性プロテアーゼ、サモアーゼ等が挙げられ、中でも、Bacillus属又はAspergillus属に属する由来の微生物由来の中性プロテアーゼが好ましく用いられる。
【0018】
金属プロテアーゼとしては、オリエンターゼ90N(商品名;Bacillus subtilis由来の中性プロテアーゼ;エイチビィアイ社製)等が商業的に販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0019】
尚、商業的に販売されている上記成分(A)及び(B)のプロテアーゼの製品には、主体とするプロテアーゼ以外に他のプロテアーゼを少量含有するものもある。本発明の米飯用品質改良剤は、本発明の目的を阻却しない範囲内において、このようなプロテアーゼの製品を用いても良い。
【0020】
本発明の米飯用品質改良剤100質量%中の成分(A)及び(B)の含有量に特に制限はないが、例えば、成分(A)の含有量が0.05~2.0質量%、好ましくは0.1~1.5質量%、成分(B)の含有量が0.1~2.0質量%、好ましくは0.2~1.5質量%である。また、成分(A)と(B)との比率(質量比)に特に制限はないが、例えば、成分(A)/成分(B)で2/98~95/5、好ましくは6/94~88/12である。
【0021】
また、本発明の米飯用品質改良剤中には、本発明の目的・効果を阻害しない範囲で、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の食品用乳化剤、β-アミラーゼ等のアミラーゼ、セルラーゼ及びプロテアーゼ〔但し、成分(A)又は(B)に該当するものを除く〕等の酵素類、又は酢酸、乳酸等の有機酸又はこれらの塩、リン酸、メタリン酸、ポリリン酸等の無機酸又はこれらの塩等を併用してもよい。ここで、上記グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノール酸エステル等が含まれる。またレシチンとしては、油糧種子又は動物原料から得られたもので、リン脂質を主成分とするものであれば特に制限は無く、例えば大豆レシチン及び卵黄レシチン等油分を含む液状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン、並びにレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチン及び酵素処理レシチン等が挙げられる。
【0022】
本発明の米飯用品質改良剤の製造方法は特に制限されず、自体公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、粉末状の成分(A)及び(B)を混合した粉末に賦形剤を配合し、これを粉末状、顆粒状、錠剤状又は丸剤状等に成形してなる乾燥(固形)状態の製剤として調製することができる。
【0023】
賦形剤として例えば、ブドウ糖、果糖等の単糖類、ショ糖、乳糖、麦芽糖等の二糖類、デキストリン、粉末水飴等のでん粉分解物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のマルトオリゴ糖類、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、粉末還元水飴、粉末還元パラチノース等の糖アルコール類、アラビアガム、大豆多糖類、タマリンドガム、グァガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、ペクチン等の増粘多糖類、大豆蛋白、小麦蛋白、エンドウ蛋白等の植物性蛋白質又はこれらの分解物、ゼラチン又は乳清蛋白質等の動物性蛋白質、水溶性ヘミセルロース等の食物繊維を用いることができる。
【0024】
本発明で言うところの米飯は、少なくとも原料の一部としてもち米を用いた米を、喫食状態となるように蒸し、又は炊飯等により調理したものである。また、本発明の米飯には、調味料や具材等を含んでいてもよい。このような米飯としては、例えば、白飯、赤飯、山菜おこわ、五目おこわ等が挙げられる。また、おにぎり等のようにそれらを加工した成形米飯、あるいはそれらを冷凍した冷凍米飯やチルド温度帯(例えば、1~15℃)下で保存したチルド米飯も本発明で言う米飯に含まれる。
【0025】
本発明の米飯用品質改良剤は、米飯の調理時に使用され、その使用方法に特に制限はない。具体的には、例えば蒸し器を使用する場合には、該品質改良剤を水に溶解したものをもち米に加えて該もち米を吸水させ、水切りをしてから蒸し調理する方法が挙げられ、また、炊飯器を使用する場合には、炊飯器にもち米を入れ、そこへ水の一部又は全部と該品質改良剤を溶解したものを加えて吸水させ、炊飯する方法等が挙げられる。本発明の米飯用品質改良剤は、もち米を原料とする米飯の調理に使用することにより、比較的短い吸水時間(例えば、5時間以下、4時間以下又は3.5時間以下)であっても、食感改良効果が十分に得られる。
【0026】
また、米飯用品質改良剤の添加量は、米飯の種類、米飯以外の配合物、水加減等により異なり一様ではないが、もち米100質量%に対し、成分(A)の添加量が0.00015~0.02質量%、好ましくは0.0003~0.015質量%、成分(B)の添加量が0.0003~0.02質量%、好ましくは0.0006~0.015質量%となるように米飯用品質改良剤の添加量を調整することができる。
【0027】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
[米飯用品質改良剤の製造]
(1)原材料
1)チオールプロテアーゼ1(スミチームP:商品名;新日本化学工業社製)
2)チオールプロテアーゼ2(スミチームBR:商品名;新日本化学工業社製)
3)アスパルティックプロテアーゼ1(商品名:スミチームNPL-180;新日本化学工業社製)
4)アスパルティックプロテアーゼ2(商品名:スミチームLPL-G;新日本化学工業社製)
5)セリンプロテアーゼ(商品名:スミチームMP;新日本化学工業社製)
6)金属プロテアーゼ(商品名:オリエンターゼ90N;エイチビィアイ社製)
7)セルラーゼ(商品名:スミチームC;新日本化学工業社製)
8)デキストリン(商品名:パインデックス#2;松谷化学社製)
【0029】
(2)米飯用品質改良剤の配合
上記原材料を用いて作製した米飯用品質改良剤1~11の配合組成を表1に示した。この内、米飯用品質改良剤1~7は本発明に係る実施例であり、米飯用品質改良剤8~11はそれらに対する比較例である。
【0030】
【0031】
(3)米飯用品質改良剤の製造方法
表1に示した原材料(全て粉末状)の配合割合に基づいて、所定の原材料を均一に混合し、粉末状の米飯用品質改良剤1~11を各100g得た。
【0032】
[おこわの作製と評価]
(1)おこわの作製
もち米(商品名:もち精米;販売者:田島屋)200gに対し、水400gに米飯用品質改良剤1~11のうちいずれか1.6gを溶解させたものを加え、室温で3時間静置した後、吸水させたもち米をザルへ移して水を切り、蒸し網の上に広げ、スチーマーボックス(型式:K-1DX;アラハタフードマシン社製)で3分間蒸した。これに50gの水を加えて吸水させた後、更に3分間蒸した。蒸し上がったもち米を食品包装材(寸法:110mm×130mm×15mm)に100gずつ詰め、粗熱を取り、おこわ1~11を得た。また、対照として、米飯用改良剤を添加せずに同様に作製し、おこわ12を得た。
【0033】
(2)おこわの評価試験
おこわ1~12について、作製直後及び約20℃の恒温器(型式:IN801;ヤマト科学社製)内で24時間保存後のそれぞれにおいて食感を評価するため官能試験を行った。
【0034】
官能試験では、下記表2に示す評価基準に従い10名のパネラーで評価を行い、評点の平均点を求め、以下の基準に従って記号化した。その結果を表3に示す。
◎:極めて良好 平均点3.5以上
○:良好 平均点2.5以上、3.5未満
△:やや悪い 平均点1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均点1.5未満
【0035】
【0036】
【0037】
本発明の米飯用品質改良剤1~7を添加して得られたおこわ1~7は、作製直後及び24時間保存後において、粒感、もちもち感及びしっとり感の全ての評価項目で「○」以上の結果を得た。これに対し、比較例の米飯用品質改良剤8~11を添加して得られたおこわ8~11及び対照のおこわ12では、粒感、もちもち感及びしっとり感のうち少なくとも1以上の評価項目で「△」以下の結果であり、本発明のものに比べて劣っていた。