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特許7419081超音波診断装置、画像処理方法、画像処理方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】超音波診断装置、画像処理方法、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/06 20060101AFI20240115BHJP
【FI】
A61B8/06
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020009950
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021115213
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔也
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 直哉
(72)【発明者】
【氏名】長永 兼一
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0140730(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0130564(US,A1)
【文献】国際公開第2019/166332(WO,A1)
【文献】Ruud J.G. van Sloun, et al.,Learning Doppler with deep neural networks and its application to intra-cardiac echography,2018 IEEE IUS,2018年,1-4
【文献】Thanasis Loupas, et al.,An Axial Velocity Estimator for Ultrasound Blood Flow Imaging, Based on a Full Evaluation of the Doppler Equation by Means of a Two-Dimensional Autocorrelation Approach,IEEE TRANSACTIONS ON ULTRASONICS, FERROELECTRICS, AND FREQUENCY CONTROL,1995年,VOL. 42, NO. 4,672-688
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子と、
観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号に基づく第1のデータと、前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく第2のデータとを含む学習データを用いて、複数の条件によって、機械学習されたモデルを用いて、前記超音波探触子で受信したBモード画像生成用の受信信号に基づく第3のデータから、血流情報に基づく2次元データを推定する推定演算部と、
を有し、
前記モデルは、前記観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号に基づく前記第1のデータと前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく前記第2のデータとの相関関係について機械学習されている
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記第3のデータは、Bモード画像を生成するために前記観察領域を走査して得られる受信信号または当該受信信号に基づくBモード画像データを含む、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記第3のデータは、平面波または拡散波を送信して得られる受信信号または当該受信信号に基づく画像データを含む、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第3のデータは、前記観察領域を複数回走査して得られる反射超音波の複数の受信信号、または当該複数の受信信号に基づく画像データを含む、
請求項2または3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記第3のデータは、前記観察領域の血流情報を取得するために前記観察領域の複数の走査線上のそれぞれで超音波の送受信を複数回行って得られる受信信号の一部、または、当該受信信号の一部に基づく画像データを含む、
請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記第3のデータは、送信超音波の波面形状、送信超音波の送信周波数、前記被検体の種類、および前記超音波探触子の前記被検体に対する接触角度、のうちの少なくともいずれかを更に含む、
請求項1から5のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記推定演算部は、前記第3のデータから、異なる速度範囲の血流情報に基づくデータを推定するように機械学習された複数の学習モデルを含む、
請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記観察領域の複数の走査線上のそれぞれで超音波の送受信を複数回行って得られる反射超音波の受信信号から血流情報を抽出し、当該血流情報に基づくドプラ画像データを生成するドプラ処理部を更に有する、
請求項1から7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記第3のデータは、前記ドプラ画像データを生成するための受信信号の一部を含む、
請求項8に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
表示装置に出力する表示画像の制御を行う制御部を更に有し、
前記制御部は、前記推定演算部によって推定されたデータに基づいて前記表示画像を更新する表示モードを有する、
請求項1から9のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
表示装置に出力する表示画像の制御を行う制御部を更に有し、
前記制御部は、前記推定演算部によって推定されたデータには基づかずに前記ドプラ画像データに基づいて前記表示画像を更新する表示モードと、前記ドプラ画像データと前記推定演算部によって推定されたデータとに基づいて前記表示画像を更新する表示モードとを有する、
請求項8または9に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記ドプラ画像データと前記推定演算部によって推定されたデータとに基づいて前記表示画像を更新する表示モードでは、前記制御部は、前記ドプラ画像データに基づいて前記表示画像を更新した後、所定の回数連続して前記推定演算部によって推定されたデータに基づいて前記表示画像を更新する処理を繰り返す、
請求項11に記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記制御部は、使用者からの入力に応じて前記所定の回数を変更する、
請求項12に記載の超音波診断装置。
【請求項14】
前記制御部は、使用者から画像の保存の指示を受けると、前記指示を受けたタイミングに最も近いタイミングに取得された前記ドプラ画像データおよび前記推定演算部によって推定されたデータの両方またはいずれか一方を保存する、
請求項11から13のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項15】
表示装置に出力する表示画像の制御を行う制御部を更に有し、
前記制御部は、前記ドプラ画像データに基づく画像と前記推定演算部によって推定されたデータに基づく画像を並べて表示する、
請求項8または9に記載の超音波診断装置。
【請求項16】
請求項1から11のいずれか1項に記載の超音波診断装置の推定演算部で用いられる学
習モデルの機械学習を行う学習装置であって、
観察領域から得られる反射超音波の受信信号に基づくデータを入力データ、前記観察領域を複数回走査して得られる反射超音波から抽出された血流情報を正解データとして含む学習データを用いて、前記学習モデルの機械学習を行う学習部を有する、
ことを特徴とする学習装置。
【請求項17】
超音波探触子を用いて、被検体に対して超音波を送信し、被検体からの反射超音波を受信する受信ステップと、
観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号に基づく第1のデータと、前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく第2のデータとを含む学習データを用いて、複数の条件によって、機械学習された学習モデルを用いて、前記受信ステップにおいて受信したBモード画像生成用の受信信号に基づく第3のデータから、前記血流情報に基づく2次元データを推定する推定演算ステップと、
前記推定演算ステップにおいて推定されたデータに基づく画像を表示装置に表示する表示ステップと、
を有し、
前記学習モデルは、前記観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号に基づく前記第1のデータと前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく前記第2のデータとの相関関係について機械学習されている
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項18】
請求項17に記載の画像処理方法の各ステップをプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置、画像処理方法、画像処理方法及びプログラムに関し、特に超音波診断装置の画質を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置はその簡便性、高解像度性、リアルタイム性などにより画像診断装置として臨床現場で広く使用されている。一般的な超音波画像生成の手法は、送信ビームの形成と受信信号の整相加算処理を含む。送信ビームの形成は、複数の変換素子に対して時間遅延を与えた電圧波形を入力し、生体内で超音波を収束させることで実施する。受信信号の整相加算は、生体内の構造により反射された超音波を複数の変換素子で受信し、得られた受信信号に対して、注目点に対する経路長を考慮した時間遅延を与え、さらに加算することで実施する。この送信ビームの形成と整相加算処理とにより、注目点からの反射信号を選択的に抽出し、画像化を行う。この送信ビームが画像化領域の中を走査するように制御することで観察したい領域の画像を得ることができる。
【0003】
このような超音波診断装置において、ドプラ効果を用いて血流情報を画像化するドプラ法が広く用いられている。ドプラ法の1つにカラードプラ法がある。カラードプラ法では、超音波パルスの送受信を同一の走査線上で複数回行い、受信信号から血流に由来する成分の位相差(ドプラシフト量)を抽出する。ドプラシフト量の抽出は、同一位置の時系列が異なる受信信号に対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを適用して、動きの小さい組織に由来する成分(クラッタ成分)を低減することにより行われる。抽出された血流に由来する成分から血流の速度や分散などの血流情報(ドプラ情報)が求められる。
【0004】
特許文献1には、MTIフィルタを用いたドプラ法によるについて開示されている。特許文献2にはニューラルネットワークで構成された復元器を用いた医用撮像装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-153144号公報
【文献】特開2019-25044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カラードプラ法で取得可能な最大速度は超音波パルスの繰り返し周波数の制約を受けることが知られている。繰り返し周波数よりも周波数の高い成分は、位相差を算出した際にエイリアシングを生じるため、周波数が低い成分と識別できなくなる。例えば、深部観察では繰り返し周波数を下げる必要があり、したがって、取得できる速度に限界がある。
【0007】
また、カラードプラ法では通常のBモード画像に血流情報を重畳して表示する。したがって、通常のBモード画像を作成するための超音波パルスの送受信に加えて、カラードプラ画像のための超音波パルスの送受信も行わなければならない。よって、通常のBモードと比較してフレームレートが低下することになる。また、カラードプラの精度を向上させるために、同一の走査線上での超音波パルスの送受信回数を増やすことがあるが、これによってフレームレートはさらに低下する。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、フレームレート低下の影響を少なくしつつ広い範囲の血流情報(ドプラ情報)を得ることのできる超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、被検体に対して超音波を送受信する超音波探触子と、観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号に基づく第1のデータと、前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく第2のデータとを含む学習データを用いて、複数の条件によって、機械学習されたモデルを用いて、前記超音波探触子で受信したBモード画像生成用の受信信号に基づく第3のデータから、血流情報に基づく2次元データを推定する推定演算部と、を有し、前記モデルは、前記観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号に基づく前記第1のデータと前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく前記第2のデータとの相関関係について機械学習されていることを特徴とする超音波診断装置を含む。

【0010】
本開示は、観察領域から得られる反射超音波の受信信号に基づくデータを入力データ、前記観察領域を複数回走査して得られる反射超音波から抽出された血流情報を正解データとして含む学習データを用いて、前記学習モデルの機械学習を行う学習部を有する、ことを特徴とする学習装置を含む。
【0011】
本開示は、超音波探触子を用いて、被検体に対して超音波を送信し、被検体からの反射超音波を受信する受信ステップと、観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号
に基づく第1のデータと、前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく第2のデータとを含む学習データを用いて、複数の条件によって、機械学習された学習モデルを用いて、前記受信ステップにおいて受信したBモード画像生成用の受信信号に基づく第3のデータから、前記血流情報に基づく2次元データを推定する推定演算ステップと、前記推定演算ステップにおいて推定されたデータに基づく画像を表示装置に表示する表示ステップと、を有し、前記学習モデルは、前記観察領域から得られるBモード画像生成用の受信信号に基づく前記第1のデータと前記観察領域からカラードプラ法を用いて得られる血流情報に基づく前記第2のデータとの相関関係について機械学習されていることを特徴とする画像処理方法を含む。
【0012】
本開示は、上記画像処理方法の各ステップをプロセッサに実行させるためのプログラムを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の超音波診断装置により、フレームレート低下の影響を少なくしつつ広い範囲の血流情報(ドプラ情報)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】超音波診断装置の構成の一例を示すブロック図
図2】第1実施形態の受信信号処理ブロックが有する機能の一例を示すブロック図
図3】学習モデルを学習する学習装置の一例を示す図
図4】学習データを説明する図
図5】学習データを作成するGUIの一例を示す図
図6】画像生成処理のタイムシーケンスを表す図
図7】画像生成および表示処理のフローを示す図
図8】表示装置における表示の一例を表す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、Bモード画像生成用の複数フレーム分の受信信号から、血流情報を推定する。推定には機械学習された学習済みモデルを用いる。ドプラ画像生成用の受信信号の取得回数を低減できるため、通常のカラードプラ画像の表示と比較してフレームレートが高い状態で血流情報に相当する画像を表示できる。また、推定により血流情報を得ているので、取得可能な最大血流速度が繰り返し周波数の制限を受けない。それにより、通常のカラードプラ法では表示することが困難な低流速血流と高流速血流を同時に表示できる。
【0016】
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。超音波診断装置1は、概略、超音波プローブ(超音波探触子)102、プローブ接続部103、送信電気回路104、受信電気回路105、受信信号処理ブロック106、画像処理ブロック107、表示装置108、システム制御ブロック109を有する。超音波診断装置1は、超音波プローブ102から超音波パルスを被検体100に送信し、被検体100の内部で反射された反射超音波を受信して、被検体100の内部の画像情報(超音波画像)を生成するためのシステムである。超音波診断装置1で得られる超音波画像は各種の臨床検査で利用される。
【0017】
超音波プローブ102は、電子スキャン方式のプローブであり、その先端に1次元又は2次元に配列された複数の振動子101を有する。振動子101は、電気信号(電圧パルス信号)と超音波(音響波)のあいだの相互変換を行う電気機械変換素子である。超音波プローブ102は、被検体100に対して複数の振動子101から超音波を送信し、被検体100からの反射超音波を複数の振動子101により受信する。反射音響波は、被検体100内の音響インピーダンスの差を反映している。
【0018】
送信電気回路104は、複数の振動子101に対してパルス信号(駆動信号)を出力する送信部である。複数の振動子101に対して時間差をつけてパルス信号を印加することで、複数の振動子101から遅延時間の異なる超音波が送信されることで送信超音波ビームが形成される。パルス信号を印加する振動子101(つまり駆動する振動子101)を選択的に変えたり、パルス信号の遅延時間(印加タイミング)を変えたりすることで、送信超音波ビームの方向やフォーカスを制御できる。この送信超音波ビームの方向及びフォーカスを順次変更することで、被検体100内部の観察領域が走査(スキャン)される。送信電気回路104は、所定の駆動波形のパルス信号を振動子101に送信することで、振動子101において所定の送信波形を有する送信超音波を発生させる。受信電気回路105は、反射超音波を受信した振動子101から出力される電気信号を、受信信号として入力する受信部である。受信信号は受信信号処理ブロック106に入力される。
【0019】
送信電気回路104及び受信電気回路105の動作、すなわち、超音波の送受信は、システム制御ブロック109によって制御される。システム制御ブロック109は、例えば、後述するBモード画像とドプラ画像の生成のそれぞれに応じて電圧信号や送信超音波を形成する位置を変更する。
【0020】
Bモード画像を生成する場合には、観察領域を走査して得られる反射超音波の受信信号を取得して、画像生成に用いる。観察領域の1回の走査により、1フレーム分のBモード画像に対応する受信信号が得られる。ドプラ画像を生成する場合には、観察領域内の複数の走査線上のそれぞれで超音波の送受信を複数回行って得られる反射超音波の受信信号を取得して、画像生成すなわち血流情報の抽出に用いる。ドプラ画像生成のための走査は、1つの走査線上で複数回の送受信を行ってから次の走査線で送受信を行う方式でもよいし、各走査線上で1回ずつ送受信を行うこと複数回繰り返す方式でもよい。ドプラ画像の観察領域は、Bモード画像の観察領域の一部であることが一般的である。また、Bモード画像生成のための超音波の送受信と、ドプラ画像生成のための超音波の送受信は、交互に行われることが一般的である。
【0021】
本明細書では、振動子101から出力されるアナログ信号も、それをサンプリング(デジタル変換)したデジタルデータも、特に区別することなく受信信号と呼ぶ。ただし、文脈によってデジタルデータであることを明示する目的で、受信信号を受信データと記す場合もある。
【0022】
受信信号処理ブロック106は、超音波プローブ102から得られた受信信号に基づいて画像データを生成する画像生成部である。画像処理ブロック107は、受信信号処理ブロック106で生成された画像データに対し、輝度調整、補間、フィルタ処理などの画像処理を施す。表示装置108は、画像データ及び各種情報を表示するための表示部であり、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどで構成される。システム制御ブロック109は、送信電気回路104、受信電気回路105、受信信号処理ブロック106、画像処理ブロック107、表示装置108などを統括制御する制御部である。
【0023】
(受信信号処理ブロックの構成)
図2は受信信号処理ブロック106が有する機能の一例を示すブロック図である。受信信号処理ブロック106は、整相加算処理ブロック201、信号記憶ブロック202、Bモード処理ブロック203、ドプラ処理ブロック204、推定演算ブロック205を有する。
【0024】
整相加算処理ブロック201は、受信電気回路105で得られた受信信号に整相加算や直交検波処理を行い、処理後の受信信号を信号記憶ブロック202に保存する。整相加算処理とは、振動子101ごとに遅延時間を変えて複数の振動子101の受信信号を足し合わせることで受信超音波ビームを形成する処理であり、Delay and Sum(DAS)ビームフォーミングとも呼ばれる。直交検波処理は、受信信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号)と直交信号(Q信号)とに変換する処理である。整相加算処理および直交検波処理は、システム制御ブロック109から入力される素子配置や画像生成の各種条件(開口制御、信号フィルタ)に基づいて行われる。を元に、整相加算処理ブロックで整相加算や直交検波処理を行う。Bモード画像生成用の受信信号は、整相加算処理および直交検波処理が行われた後に、信号記憶ブロック202に保存される。またドプラ画像生成用の受信信号は信号記憶ブロック202に保存される。
【0025】
Bモード処理ブロック203は、信号記憶ブロック202に保存されたBモード画像生成用の受信信号に対して、包絡線検波処理、対数圧縮処理などを行い、観察領域内の各点での信号強度を輝度強度で表した画像データを生成する。
【0026】
ドプラ処理ブロック204は、信号記憶ブロック202に保存されたドプラ画像生成用の受信信号から、後述する手法により血流情報(ドプラ情報)を抽出し、血流情報を画像化した血流画像データを生成する。ドプラ処理ブロック204は、本発明のドプラ処理部に相当する。
【0027】
推定演算処理ブロック205(推定演算部)は、モデルを用いて、超音波探触子で受信した画像生成用の受信信号に基づく第3のデータから、血流情報に基づくデータを推定する。本実施形態では、推定演算ブロック205は、信号記憶ブロック202に保存されたBモード画像生成用の受信信号に基づいて、推定血流情報データ(第4のデータ)を生成(推定)する。推定演算ブロック205は、Bモード画像生成用の受信信号を入力として、血流情報を出力するようにあらかじめ機械学習された学習済みモデルを有しており、当該学習済みモデルを用いて推定血流情報データを生成(推定)する。推定演算ブロック205は、本発明の推定演算部に相当する。
【0028】
Bモード処理ブロック203、ドプラ処理ブロック204、推定演算ブロック205から出力される画像データは、画像処理ブロック107による処理が施された後、最終的に表示装置108において表示される。血流画像はBモード画像に重畳されて表示されてもよいし、Bモード画像に重畳されずに表示されてもよい。以下では、血流情報を含む画像をカラードプラ画像あるいは単にドプラ画像と称する。
【0029】
受信信号処理ブロック106は、1つ以上のプロセッサとメモリにより構成してもよい。その場合、図2に示す各ブロック201~205の機能はコンピュータ・プログラムによって実現される。例えば、メモリに記憶されているプログラムをCPUが読み込み実行することにより、各ブロック201~205の機能を提供することができる。受信信号処理ブロック106は、CPUの他に、Bモード処理ブロック203の演算や推定演算ブロック205の演算を担当するプロセッサ(GPU、FPGAなど)を備えていてもよい。特に同時に多くのデータが入力される演算処理ブロック203にはFPGAを、推定演算ブロック205のような演算を効率よく実行するにはGPUを用いることが有効である。メモリは、プログラムを非一時的に記憶するためのメモリ、受信信号などのデータを一時保存しておくためのメモリ、CPUが利用するワーキングメモリなどを含むとよい。
【0030】
(ドプラ処理ブロック)
ドプラ処理ブロック204は、信号記憶ブロック202に保存されたドプラ画像生成用の受信信号を周波数解析することによって、走査範囲内にある対象物のドプラ効果に基づく血流情報を抽出する。本実施形態では、対象物が血液である例を主に説明するが、対象物は、体内組織や造影剤のような物体であってもよい。また、血流情報の例は、速度、分散値、パワー値のうちの少なくともいずれかを含む。また、ドプラ処理ブロック204は、被検体内の1点(1つの位置)における血流情報を求めてよいし、深さ方向における複数の位置の血流情報を求めてもよい。また、ドプラ処理ブロック204は、所定の深さ範囲における平均速度や最高速度を求めてもよく、さらに、速度の時間変化が表示できるように時系列に複数の時点の速度を求めてもよい。
【0031】
ドプラ処理ブロック204によって、本実施形態に係る超音波診断装置1は、カラーフローマッピング法(CFM:Color Flow Mapping)とも呼ばれるカラードプラ法を実行可能である。CFM法では、複数の走査線上のそれぞれで、超音波の送受信を複数回行う。ドプラ処理ブロック204は、同一位置の受信データに対してMTI(Moving Target Indicator)フィルタを掛けることで、動きの小さい組織に由来する成分(クラッタ成分)を低減して、血流に由来する成分を抽出する。そして、この血流成分から血流の速度、血流の分散、血流のパワーなどの血流情報を算出する。後述する表示装置108は、算出結果の血流情報(血流画像データ)を、2次元でカラー表示してBモード画像データに重畳して表示する。
【0032】
(推定演算ブロック)
推定演算ブロック205について説明する。推定演算ブロック205は学習済みモデルを用いて、血流情報(ドプラ画像データ)を推定する処理を行う。学習済みモデルは、所定の走査範囲から得られる反射超音波の受信信号に基づくデータから、当該観察領域の移動情報に基づくデータを推定するように機械学習される。より具体的には、本実施形態では、学習モデルは、Bモード画像を生成するために観察領域を複数回走査して得られる複数フレーム分の受信信号に整相加算処理を施したデータが入力されると、同じ観察領域内の血流情報データを出力するように学習される。
【0033】
モデルは、観察領域から得られる画像生成用の受信信号に基づく第1のデータ(入力データ)と、前記観察領域に基づく第2のデータ(正解セータ)とを含む学習データを用いて機械学習される。機械学習の具体的なアルゴリズムとしては、最近傍法、ナイーブベイズ法、サポートベクターマシンなどが挙げられる。また、ニューラルネットワークを利用して、学習するための特徴量、結合重み付け係数を自ら生成する深層学習(ディープラーニング)も挙げられる。適宜、上記アルゴリズムのうち利用できるものを用いて本実施形態に適用することができる。
【0034】
図3は、モデルの機械学習を行う学習装置30の一例を示している。学習装置30は、
複数の学習データ301を用いてモデルの機械学習を実施する学習部(学習器)304を有している。学習部304は先に例示した機械学習アルゴリズムのうちいずれを利用してもよいし、他の機械学習アルゴリズムを利用してもよい。学習データ301は、入力データと正解データ(教師データ)の組で構成されている。本実施形態では、入力データとしてBモード画像生成用の受信信号302を、正解データとしてカラードプラ法を用いて取得した血流情報303を用いる。学習部304は、与えられた複数の学習データ301を基に、受信信号302と血流情報303のあいだの相関を学習して、学習済みモデル305を作成する。これにより、学習済みモデル305は、Bモード画像生成用の受信信号を入力データとして与えると、血流情報を出力データとして生成する機能(能力)を獲得することができる。学習済みモデル305は、超音波診断装置1の推定演算ブロック205で実行されるプログラムに実装される。モデルの学習(学習済みモデル305の生成処理)は、超音波診断装置1に組み込まれる前に実施されるのが望ましい。ただし、超音波診断装置1が学習機能を有する場合には超音波診断装置1で得られた画像データを用いて学習(新規の学習又は追加学習)を行ってもよい。
【0035】
図4を参照して、学習データについてより具体的に説明する。学習データに含まれる入力データは、ある被検体のBモード画像生成用の複数フレーム分の受信信号である。また、正解データは、同じ被検体をカラードプラ法を用いて撮像して得られる血流情報である。
【0036】
図4には、学習データID1,2の2つの学習データが例示されている。学習データID1の入力データは、2フレーム分のBモード画像生成用の受信信号B1である。また学習用データID1の正解データは、同じ被検体をカラードプラ法を用いて撮像して得た血流情報CFM1である。Bモード画像生成用の受信信号の観察領域と、血流情報の観察領域は同一であることが望ましいが、Bモード画像生成用の受信信号の観察領域の一部が血流情報の観察領域でもよい。その場合はBモード画像生成用の受信信号から、血流情報の観察領域に対応する範囲を切り出して学習データ(入力データ)として用いる。
【0037】
また、学習データID2の入力データは、学習データID1とは異なる被検体を対象として取得した、2フレーム分のBモード画像生成用の受信信号B2である。学習データID2の正解データは、受信信号B2と同じ被検体をカラードプラ法を用いて撮像して得た血流情報CFM2である。なお、ここでは2フレーム分のBモード画像生成用の受信信号を入力データとしているが、3フレーム以上の受信信号を入力データとしてもよいし、1フレーム分の受信信号を入力データとしてもよい。
【0038】
様々な条件で取得された学習データを用いて学習することで、様々なパターンの入力に対する学習が行われ、実際に使用されたときも安定して画質の良い画像を推定することが期待できる。したがって、同じ被検体に対して、異なる条件でBモード画像生成用の受信信号および血流情報を取得することが好ましい。なお、被検体として、超音波の送受信シミュレーションによって画像化可能なデジタルファントムを用いてもよく、さらには実際のファントム、またさらに実際の生体を用いても構わない。
【0039】
本実施形態では、学習データの入力データが複数フレーム分のBモード画像生成用の受信信号である例を示しているが、入力データは、Bモード画像生成用の受信信号の取得条件(撮像条件)を更に含んでもよい。撮像条件の例として、送信超音波の波面形状、送信超音波の送信周波数、バンドパスフィルタの帯域、被検体の種類および/または部分、体軸に対する超音波プローブ102の接触角度が挙げられる。送信超音波の波面形状の例として、収束ビーム、平面波、拡散波が挙げられる。送信超音波に関する情報を入力データに含めることで、Bモード画像生成用の受信信号取得に用いる超音波に応じた推定が行え、推定精度が向上する。また、被検体に関する情報やプローブの接触角度に関する情報を
入力データに含めることで、部位ごとの特徴に対応した推定が可能となり、より推定精度が高まることが期待できる。部位毎の特徴として、例えば、脂肪層が表面にある、筋膜の構造による高輝度領域がある、太い血管による低輝度値領域が存在するなどという特徴が挙げられる。入力データは、さらに、診療科や性別、BMI、年齢、病態などの情報を含んでもよく、これにより、さらに詳細な条件に対応した学習モデルが得られる可能性があり、より推定精度が高まることが期待できる。
【0040】
また、超音波診断装置1に搭載される推定演算ブロック205の学習済みモデル305は、全診療科の画像データを学習させたモデルでもよいし、診療科ごとの画像データを学習させたモデルでもよい。診療科ごとの画像データを学習させたモデルが搭載されている場合は、システム制御ブロック109が、超音波診断装置1の使用者に診療科情報を入力ないし選択させ、診療科に合わせて用いる学習済みモデルを変更するとよい。撮像部位がある程度限定される診療科ごとにモデルを使い分けることで、より推定精度が高まることが期待できる。
【0041】
学習においては図5に示したようなGUIを用いて入力データおよび正解データの前処理をさらに行っても良い。表示画面内に入力データ50と正解候補データ51とを示し、それぞれを複数の領域に分割するインジケータ52を表示する。図5の例では画像を4×4の16個の領域に分割している。採択指定ボックス53は、領域ごとの採否を使用者に指定させるためのユーザインタフェースである。使用者は入力データ50と正解候補データ51を見比べながら、学習データとして採択する領域に「〇」を、除外する領域に「×」を入力する。これにより、正解候補データ51の中で血流情報が含まれていない領域や予期せぬ画像劣化が起きている領域など、学習に適切ではない領域を除外することができる。図4では、画像全体を1つの学習データとして用いる想定で説明をしているが、図5のように画像を複数の領域に分割した場合には、個々の領域の画像(部分画像)が1つの学習データとして用いられる。この場合、学習モデルは、入力データ50と同じサイズ(分解能)の画像を入力として受け付け、正解候補データ51と同じサイズの画像を出力する。図5の例では、採択される領域が9個あるため、9組の学習データが生成されることとなる。
【0042】
このような撮像条件とBモード画像生成用の受信信号を入力データとし、その正解データに血流情報を用いた機械学習を行うことで得られた学習モデル305が推定演算ブロック205上で動作する。結果として推定演算ブロック205は入力される撮像条件とBモード画像生成用の受信信号から血流情報を推定し、出力することが期待できる。
【0043】
(画像生成方法)
次に本実施形態における画像生成のための処理の詳細を図1を用いて述べる。図示していないGUIから撮像の指示が入力されると、GUIからの指示を受けたシステム制御ブロック109が送信電気回路104に超音波の送信指示を入力する。送信指示は、遅延時間を計算するためのパラメータや音速情報を含むと良い。送信電気回路104はシステム制御ブロック109からの送信指示に基づいて、遅延時間を有した複数の電圧波形をプローブ接続部103を通じて超音波プローブ102の複数の振動子101へと出力する。本実施形態では、送信超音波は収束ビームであり、撮像範囲が送信超音波によって走査される。
【0044】
複数の振動子101から送信された送信超音波は被検体内を伝播し、被検体内の音響インピーダンスの差を反映した反射超音波を生じさせる。反射超音波は、複数の振動子101によって受信され、電圧波形(電圧信号)へと変換する。この電圧波形はプローブ接続部103を通して受信電気回路105へと入力される。受信電気回路105は必要に応じて電圧波形を増幅、デジタルサンプリングし、受信信号処理ブロック106へと受信信号
として出力する。Bモードの撮像範囲を収束ビームが走査することで、Bモード画像生成用の受信信号が1フレーム分得られる。ドプラ画像生成用の受信信号は、ドプラ画像撮像範囲内の複数の走査線上のそれぞれで超音波の送受信を複数回行うことで得られる。
【0045】
受信信号処理ブロック106は、受信信号に対して整相加算処理と直交検波処理のいずれかまたは両方を行う。受信電気回路105で得られたBモード画像生成用の受信信号に対して、システム制御ブロック109から入力される素子配置や画像生成の各種条件(開口制御、信号フィルタ)を元に、整相加算処理ブロック201が整相加算を行う。受信信号処理ブロック106は、さらに、整相加算と直交検波処理を行った信号を信号記憶ブロック202に保存する。これらの信号はBモード処理ブロック203へと送信される。Bモード処理ブロック203は、包絡線検波処理、対数圧縮処理などを行い、観察領域内の各点での信号強度を輝度強度で表したBモード画像データを生成する。
【0046】
同様に、受信電気回路105で得られたドプラ画像生成用の受信信号は信号記憶ブロック202に保存される。ドプラ処理ブロック204は、ドプラ画像生成用の受信信号を用いて血流情報画像データを算出する。
【0047】
推定演算ブロック205は、複数フレーム分のBモード画像生成用の受信信号を入力とし、推定血流情報データを出力する。具体的には、推定演算ブロック205は、複数フレーム分のBモード画像生成用の受信信号を学習済みモデル305に入力して得られる血流情報を、当該受信信号に対応する血流情報データとして取得し出力する。
【0048】
これらのBモード画像データ、血流情報画像データ、推定血流情報データは、画像処理ブロック107へ入力され、輝度調整や補間、その他のフィルタが適用された後、表示装置108にて表示される。以下では、ドプラ処理ブロック204によって生成された血流情報画像データ、あるいは当該血流情報画像データとBモード画像が重畳された画像データに基づく画像のことを、通常ドプラ画像とも称する。また、推定演算ブロック205によって推定された推定血流情報データに基づく画像データ、あるいは当該画像データとBモード画像が重畳された画像データに基づく画像を、擬似ドプラ画像あるいは推定画像とも称する。
【0049】
次に、超音波診断装置1における画像の生成および表示の制御例について説明する。超音波診断装置1は、以下の3つの表示モードの少なくともいずれかを有する。第1の表示モードは、擬似ドプラ画像を用いずに通常ドプラ画像を用いて表示画像を更新するモードである。第2のモードは、通常ドプラ画像と擬似ドプラ画像の両方を用いて表示画像を更新するモードである。第3のモードは、通常ドプラ画像を用いずに擬似ドプラ画像を用いて表示を更新するモードである。超音波診断装置1が複数の表示モードを有する場合、例えば、使用者による表示モードの切り替えが可能であるとよい。
【0050】
図6Aおよび図6Bは、ドプラ処理ブロック204による通常ドプラ画像の形成タイミングと、推定演算ブロック205による擬似ドプラ画像の形成タイミングを示す図である。図6Aは、通常ドプラ画像のみを用いて表示画像を更新する第1の表示モードの例であり、図6Bは、通常ドプラ画像と擬似ドプラ画像の両方を用いて表示画像を更新する第2の表示モードの例である。また、図7は、図6Bに示す第2の表示モードにおける画像形成と表示のフローチャートである。
【0051】
図6Aは、ドプラ処理による画像の生成・表示のタイミングを示している。Bモード画像生成用の受信信号からBモード画像を生成し、ドプラ画像生成用の受信信号から血流情報を算出してBモード画像と重畳してカラードプラ画像を表示するまでにかかる時間をCFM1~CFM4で示している。ここでは4枚のカラードプラ画像が出力されることにな
る。
【0052】
ここからは図7に示したフローチャートに従って第2の表示モードについて説明を行う。使用者からの指示、もしくは装置のデフォルト設定、もしくは診療科や使用者IDなどによってこのフローチャートに示した制御モードに装置が切り替わる。なお、図7の処理は、システム制御ブロック109の制御にしたがって、超音波診断装置1の各部101~108が動作することによって実現される。
【0053】
ステップS71では、Bモード画像生成用の受信信号の取得と、ドプラ画像生成用の受信信号の取得を行い、通常ドプラ画像データ(カラードプラ画像データ)を1フレーム分生成し、生成した通常ドプラ画像を表示装置108に表示する。その動作に必要な時間を図6BのCFM1で示している。なお、システム制御ブロック109はフレームメモリを有しており、受信信号処理ブロック106から出力される表示画像データを一時的に保存可能である。
【0054】
ステップS72では、次のフレームのBモード画像生成用の受信信号を取得し、前フレーム分と合わせて、Bモード画像生成用の受信信号の複数フレーム分を推定演算ブロック205に入力し推定血流情報データを推定する。この動作に必要な時間を図6BのB1で示している。
【0055】
ステップS73では、システム制御ブロック109は、推定血流情報データ(推定画像)を新たに取得したBモード画像に重畳させた擬似ドプラ画像に基づいて表示画像を更新する。例えば、システム制御ブロック109は、直前の表示画像と今回の推定画像とを所定の重みで合成することによって、新たな表示画像を生成してもよい。あるいは、システム制御ブロック109は、今回の擬似ドプラ画像をそのまま新たな表示画像として採用してもよい(直前の表示画像の重みが0、今回の表示画像の重みが1と捉えることもできる)。
【0056】
ステップS74では、血流情報の推定演算実行および推定画像に基づく表示の連続回数が、所定の回数N(本例ではN=10とする)に達したか否かを確認する。N回未満であれば、ステップS72に戻る。そして、所定の回数Nに達するまで、Bモード画像生成用の受信信号の取得、およびそれを用いた血流情報の推定および擬似ドプラ画像の表示が繰り返される。図8BのB2~B10は各回の動作に必要な時間を示している。血流情報の推定演算実行および擬似ドプラ画像に基づく表示の連続回数が、所定の回数Nに達すると、ステップS71に戻って、通常ドプラ画像生成用の受信信号の取得および、それに基づくカラードプラ画像データの生成が行われる。
【0057】
このように本表示モードでは、通常ドプラ画像に基づいて表示画像を更新した後に、所定の回数連続して擬似ドプラ画像に基づいて表示画像を更新する、という処理が繰り返される。
【0058】
以上述べた制御によれば、1フレーム分のBモード画像生成用の受信信号を取得するたびに、新たな擬似ドプラ画像の取得および表示が可能である。したがって、通常のカラードプラ画像のみを用いて表示画像の更新を行うのに比べて、高いフレームレートでの画像表示が実現できる。図6A(通常ドプラ画像のみを用いる表示モード)と図6B(通常ドプラ画像と推定画像を用いる表示モード)とを比較すれば明らかなように、後者の方が単位時間あたりに表示できるフレーム数が増加することがわかる。
【0059】
次に撮像動作中に使用者から静止画像もしくは動画画像の保存の指示が出た場合の制御について述べる。システム制御ブロック109は、静止画像保存の指示を受けた場合に、
指示を受けたタイミングに最も近い時刻に取得されたドプラ画像および推定画像の両方またはいずれか一方を保存するとよい。例えば図6Bに示したタイミングt1で静止画保存の指示がGUIなどを通じてシステム制御ブロック109へと入力された場合、時間CFM1で取得したドプラ画像と、時間B1で取得した推定画像とが保存される。このとき、2つの画像を保存候補として使用者に提示し、実際に保存する画像を使用者に選択させてもよい。また例えばタイミングt2で静止画保存の指示が入力された場合、時間CFM2で取得したドプラ画像と、時間B2で取得した推定画像(推定血流情報データ)が保存される。なお、これらの保存に関しては別途システムのオプションとして、カラードプラ画像のみ、推定画像のみを保存するように設定することも可能である。また、保存指示が出た時点で図7のフローチャートに割り込みをかけ、カラードプラ画像を撮像する制御を行い、その画像を保存してもよい。
【0060】
また、動画保存に関しては、カラードプラ画像と推定画像とを別々に保存してもよく、混合して保存してもよい。これらの切り替えについてもシステムのオプションとして設定できるようにすることも可能である。また、本実施形態においては画像のフレームレートが制御によって変化するため、動画保存の際は、一定の時間間隔のデータになるように補間や処理を実施した後に一定のフレームレートの動画として保存してもよい。
【0061】
また、本実施形態では推定画像を連続して表示する回数Nを固定値としたが、システム制御ブロック109が、使用者がGUIを用いてインタラクティブに所定の回数Nを変更できるようにしてもよい。
【0062】
図8A図8Cは表示装置108における画像の表示例を模式的に示したものである。表示画面80は、画像表示領域81、フレームレート表示領域82、カラードプラ画像の表示オンオフのインジケータ83、推定画像の表示オンオフのインジケータ84を含む。
【0063】
図8Aは、ドプラ処理によって作成されたカラードプラ画像のみを表示するモードにおける表示例を示す。この表示モードは、図6Aのモードに対応する。フレームレート(FR)は35fpsとなっている。カラードプラ画像が表示されているのでインジケータ83には「通常CFM:ON」と表示され、推定画像は表示されていないのでインジケータ84には「AI-CFM:OFF」と表示される。
【0064】
図8Bは、カラードプラ画像と推定画像の両方を表示するモードにおける表示例を示す。この表示モードは図5Bのモードに対応する。フレームレートは60fpsとなっている。前述のように、推定画像を含めて表示することで、カラードプラ画像のみを表示する場合よりもフレームレートが高くなる。本実施形態ではインジケータ83に「通常CFM:ON」と表示されるのは図8Aと同様であるが、本モードではインジケータ84に「AI-CFM:ON」と表示される。これにより、表示画像に、推定演算ブロック205によって推定された推定画像が含まれることを使用者に明示できる。本実施形態のインジケータ74は、文字表示により推定画像が表示されることを通知しているが、その他の方式により推定画像の表示を通知してもよい。例えば、表示画像や表示領域の外縁の色を変える、点滅させる、背景の色、彩度、模様を変化させるなどの手法であっても構わない。
【0065】
図8Cは、カラードプラ画像と推定画像を並べて表示した例である。画面の左側にはカラードプラ画像がフレームレート35fpsで表示され、画面の右側には推定画像がフレームレート80fpsで表示されている。この表示画面を用いれば、使用者は推定画像と正解画像を動じに確認できる。このような表示画面は、推定演算ブロック205の精度や信頼性の評価やチェックに有用である。
【0066】
<第2実施形態>
次に本発明の別の実施形態について述べる。本実施形態では、血流情報の推定に、ドプラ画像を生成するための受信信号の一部を利用する。
【0067】
超音波診断装置1の全体構成は第1実施形態(図1)と同様である。Bモード画像生成用の受信信号とドプラ画像生成用の受信信号を受信信号処理ブロック106に入力して信号記憶ブロック202に保存するまでのフローは第1実施形態と同様である。
【0068】
第1実施形態では、複数フレーム分のBモード画像生成用の受信信号を推定演算ブロック205への入力とした。第2実施形態では、推定演算ブロック205への入力は、複数フレーム分のBモード画像生成用の受信信号とドプラ画像生成用の受信信号の一部、もしくはドプラ画像生成用の受信信号の一部のみである。ドプラ画像生成用の受信信号の一部とは、例えば、ドプラ画像生成のために観察領域に対して所定回数の交互走査をする場合の、一部(例えば1回)の走査により得られる受信信号である。
【0069】
本実施形態では、学習済みモデル305の学習に用いる学習データの入力データは、推定演算ブロック205への入力データと同様のデータを用いる。すなわち、本実施形態では、複数フレーム分のBモード画像生成用の受信信号とドプラ画像生成用の受信信号の一部、もしくはドプラ画像生成用の受信信号の一部のみを入力データとして含む学習データを用いて学習を行う。
【0070】
本実施形態によれば、カラードプラ法で算出されるドプラシフト量を求めるための元となるデータが推定に利用されるので、血流情報の推定精度が高くなることが期待できる。本実施形態では、推定画像取得のためにドプラ画像生成用の受信信号の取得の一部を行う必要があるので、フレームレートは第1実施形態よりもやや低下するが、カラードプラ画像のみを表示する場合よりはフレームレートは向上する。また、観察領域を交互走査する場合には、各回の走査により得られる受信信号からそれぞれ推定画像を取得でき、フレームレート向上の効果が大きい。
【0071】
<第3実施形態>
さらに本発明の別の実施形態について述べる。第1,第2実施形態ではBモード画像生成のための送信超音波は収束ビームであったが、本実施形態では、平面波または拡散波を送信超音波として利用する。送信電気回路104が複数の振動子101に対して時間差を与えずに電圧信号を印加することで、振動子101から平面波もしくは拡散波の超音波が送信される。
【0072】
本実施形態では、推定演算ブロック205は、平面波または拡散波の送信により得られる複数フレーム分の受信信号から血流情報データを推定する。したがって、学習済みモデル305の学習には、超音波プローブ102から平面波または拡散波を送信して得られる複数フレーム分の受信信号を入力データとし、CFM法により得られる血流情報データを正解データとする学習データが用いられる。
【0073】
平面波もしくは拡散波を用いる場合、1回から数回程度のごく少ない送信回数で撮像領域の情報が取得できるため、収束した超音波ビームを走査してBモード画像を生成する場合よりもフレームレートを各段に向上する。また、カラードプラ法のドプラシフト量の算出では同一走査線上を複数回にわたって超音波の送受信を行う。したがって、平面波もしくは拡散波の送受信の方が、収束ビーム送受信と比較して、カラードプラ法により近いフレームレートで同一走査線上から受信信号を取得できる。このように、フレームレートがBモード画像生成用の受信信号よりも高い、平面波もしくは拡散波の送受信による受信信号を推定に用いることで、血流情報の推定精度が高くなることが期待できる。
【0074】
<第4実施形態>
上記の実施形態では、推定演算ブロック205は1つの学習モデルのみを有しているが、推定演算ブロック205は異なる学習がされた複数の学習モデルを有してもよい。複数の学習モデルの学習に用いる学習データの入力データはいずれも上記と同様であるが、学習データの正解データが、学習モデルの応じて異なる条件で取得された血流情報(ドプラ画像)である。異なる条件とは、例えば、それぞれ、超低速血流、通常速血流、高速血流の血流情報を取得するために適切な送信制御および受信制御の設定である。また、1つの学習モデルが、上記のような複数の異なる条件で取得された血流情報を推定するように学習されていてもよい。
【0075】
本実施形態によれば、モード画像生成用の受信信号から、超低速血流、通常速血流、高速血流それぞれの血流情報が得られる。これらの血流情報をBモード画像と重畳させて表示することで、広い速度範囲の血流情報を同時に可視化することができる。
【0076】
<その他の実施形態>
上述した実施形態は本発明の具体例を示すものにすぎない。本発明の範囲は上述した実施形態の構成に限られることはなく、その要旨を変更しない範囲のさまざまな実施形態を採ることができる。
【0077】
例えば、第1から第4実施形態において、カラードプラ画像を生成および表示しているが、カラードプラ画像の生成および表示を行わずに、推定画像(推定血流情報データ)の推定および表示のみを行ってもよい。これにより、ドプラ処理によるフレームレートの低下を生じさせることなく、カラードプラ相当の画像を得ることができる。また、超音波診断装置1からドプラ処理ブロック204を省くこともできる。
【0078】
また、第1から第4実施形態においては、学習済みモデルへの入力データは、複数フレーム分のBモード画像生成用の受信信号であったが、1フレーム分のBモード画像生成用の受信信号を学習済みモデルの入力としてもよい。1フレーム分の受信信号からでも、血流情報の推定が行え、本発明の効果を得ることができる。入力データに受信信号ではなく、Bモード画像データを用いる場合も同様である。
【0079】
また、第1から第4実施形態においては、学習を行う際に、整相加算と直交検波後の信号を入力し血流情報データを出力する学習モデルを用いている。しかしながら、学習済みモデルへの入力データは、Bモード処理ブロックに入力後の画像データであってもよい。この場合は正解データとしてドプラ処理を行ったカラードプラ画像を用いるとよい。このような学習によっても本発明の効果を得ることができる。
【0080】
また、開示の技術は例えば、システム、装置、方法、プログラム若しくは記録媒体(記憶媒体)等としての実施態様をとることが可能である。具体的には、複数の機器(例えば、ホストコンピュータ、インターフェイス機器、撮像装置、webアプリケーション等)から構成されるシステムに適用しても良いし、また、1つの機器からなる装置に適用しても良い。
【0081】
また、本発明の目的は、以下のようにすることによって達成されることはいうまでもない。すなわち、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコード(コンピュータプログラム)を記録した記録媒体(または記憶媒体)を、システムあるいは装置に供給する。かかる記憶媒体は言うまでもなく、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。この場合、記録媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、その
プログラムコードを記録した記録媒体は本発明を構成することになる。
【符号の説明】
【0082】
1:超音波診断装置 102:超音波プローブ 106:受信信号処理ブロック
205:推定演算ブロック 305:学習済みモデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8