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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-12
(45)【発行日】2024-01-22
(54)【発明の名称】サクション基礎およびその貫入方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/18 20060101AFI20240115BHJP
   E02D 27/52 20060101ALI20240115BHJP
   E02D 23/00 20060101ALI20240115BHJP
【FI】
E02D27/18
E02D27/52 Z
E02D23/00 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020044540
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021143570
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小野 泰明
(72)【発明者】
【氏名】木村 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】タウ ター
(72)【発明者】
【氏名】岡村 武俊
(72)【発明者】
【氏名】鳥飼 博史
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-030132(JP,A)
【文献】特開2017-223006(JP,A)
【文献】特開2002-180449(JP,A)
【文献】特開平09-228359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00-27/52
E02D 19/00-25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体が設置または連結される上壁部、および前記上壁部から伸びて地盤へ貫入する側壁部を含む躯体部と、
前記躯体部に設置され、前記側壁部が貫入される前記地盤へ、細粒分を含む流体である細粒分流体を供給する複数の供給管と、を備え、
前記複数の供給管は、前記上壁部の傾きに応じて、貫入力の増加が必要な前記側壁部の箇所に対応する地盤部分への前記細粒分流体の供給量が相対的に多くなるように調整しながら、前記側壁部が前記地盤へ貫入されることを特徴とするサクション基礎。
【請求項2】
前記側壁部の貫入量が小さい地盤部分へ供給する前記細粒分流体の供給量が、前記側壁部の貫入量が小さい地盤部分以外よりも多くなるように、前記複数の供給管は前記細粒分流体の供給量を調整することを特徴とする請求項1に記載のサクション基礎。
【請求項3】
前記細粒分流体は、泥水であることを特徴とする請求項1または2に記載のサクション基礎。
【請求項4】
前記サクション基礎はさらに、前記上壁部の傾きに応じて、貫入力の増加が必要な前記側壁部の箇所に対応する地盤部分への前記細粒分流体の供給量が相対的に多くなるように前記複数の供給管を調整しながら、前記側壁部の前記地盤への貫入を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載のサクション基礎。
【請求項5】
構造体が設置または連結される上壁部、および前記上壁部から伸びて地盤へ貫入する側壁部を含む躯体部を前記地盤へ貫入させる貫入工程と、
前記側壁部が貫入される前記地盤へ、複数の供給管から細粒分を含む流体である細粒分流体を供給する供給工程と、を含み、
前記供給工程にて、前記上壁部の傾きに応じて、貫入力の増加が必要な前記側壁部の箇所に対応する地盤部分への前記細粒分流体の供給量が相対的に多くなるように調整しながら、前記側壁部が前記地盤へ貫入されることを特徴とするサクション基礎の貫入方法。
【請求項6】
前記供給工程にて、検出部によって検出される前記上壁部の傾きが小さくなるように、各供給管から供給される前記細粒分流体の供給量を調整することを特徴とする請求項に記載のサクション基礎の貫入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上または水中に構造物を設置するためのサクション基礎、およびサクション基礎の貫入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水上または水中に構造物を設置するための基礎として、サクション基礎が知られている。これに関連する技術として、下記の特許文献に開示された発明がある。
【0003】
特許文献1は、ケーソン基礎の貫入方法に関する。特許文献1では、難透水層を水底地盤上に予め形成し、難透水層上にスカート部を着底させる。この後に、サクション荷重により水底地盤中にスカート部を貫入させることにより、貫入を効率的に行えるようにしている。
【0004】
また、特許文献2は、水中基礎構造物および水中基礎の構築工法に関する。特許文献2では、地盤改良材の注入管をスカート部内に設置し、基礎躯体の沈設後に(所定深度まで沈設された状態で)スカート部の周辺に地盤改良体を形成することにより、スカート部の支持力および周面摩擦力を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-140881号公報
【文献】特開2005-30132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1においては、スカート部の貫入前に水底地盤上に形成した難透水層によって、貫入当初における水および土砂の流入を防ぐことが開示されている。しかしながら、特許文献1の技術では、スカート部を水底地盤中に貫入させる際のサクション基礎の傾きを防ぐことができない。
【0007】
また、特許文献2においては、スカート部の貫入量が不十分になった場合、または基礎躯体が傾斜してそれ以上の貫入ができない場合であっても、基礎躯体の沈設後に(所定深度まで沈設された状態で)地盤改良体を形成することによってサクション基礎の安定性を確保することができる。しかしながら、特許文献2の技術では、サクション基礎の傾き自体を解消することはできない。
【0008】
本発明の一態様は、上記従来の課題に鑑みてなされたものあって、地盤貫入時のサクション基礎の傾きを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るサクション基礎は、構造体が設置または連結される上壁部、および上壁部から伸びて地盤へ貫入する側壁部を含む躯体部と、躯体部に設置され、側壁部が貫入される地盤へ、細粒分を含む流体である細粒分流体を供給する複数の供給管とを備え、複数の供給管は、上壁部の傾きに応じて、細粒分流体の供給量を個別に調整可能になっていることを特徴とする。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るサクション基礎の貫入方法は、構造体が設置または連結される上壁部、および前記上壁部から伸びて地盤へ貫入する側壁部を含む躯体部を前記地盤へ貫入させる貫入工程と、前記側壁部が貫入される前記地盤へ、複数の供給管から細粒分を含む流体である細粒分流体を供給する供給工程と、を含み、前記供給工程にて、前記上壁部の傾きに応じて、各供給管から供給される前記細粒分流体の供給量を個別に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、地盤貫入時の傾きを低減することが可能なサクション基礎およびサクション基礎の貫入方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るサクション基礎を水底地盤に設置した状態を示す模式図である。
図2図1に示されるサクション基礎の詳細を示す模式図である。
図3図1に示されるサクション基礎を示す底面図である。
図4】本発明の実施の形態に係るサクション基礎貫入システムの構成例を示す模式図である。
図5図4に示されるサクション基礎貫入システムの構成例を示すブロック図である。
図6】本発明の実施の形態に係るサクション基礎貫入システムの処理手順を説明するためのフローチャートである。
図7図6に示されるステップS17におけるサクション基礎貫入システムの動作例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。本実施形態では、本発明の実施形態に係るサクション基礎を用いて、風車を水底地盤に設置する例について説明する。
【0014】
(サクション基礎の概要)
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係るサクション基礎100の概要を説明する。図1は、本発明の実施形態に係るサクション基礎を水底地盤Gに設置した状態を示す模式図である。図1に示すように、サクション基礎100は、水上または水中に構造体を設置するための基礎であり、水底地盤(地盤)Gに沈設される。
【0015】
サクション基礎100は、躯体部10および供給配管20を備えている。躯体部10は、構造体が設置される上壁部11、および上壁部11から伸びて水底地盤Gへ貫入する側壁部12を含んでいる。また、供給配管20は、細粒分を含む流体である細粒分流体を水底地盤Gへ供給(注入)する複数の供給管21~25を含んでいる。
【0016】
図1の例では、サクション基礎100は、風車(構造体)40を水底地盤Gに設置するための基礎として用いられている。風車40は、サクション基礎100に設置される構造体の一例であり、タワー41と、タワー41に設けられたロータ42と、ロータ42に接続されるブレード43とを有している。タワー41は、上壁部11の上面11a側に設置される。ロータ42は、タワー41の先端部に回転自在に設けられている。なお、構造物の種類は風車40に限定されず、橋梁などであってもよい。
【0017】
供給配管20は、水底地盤Gへ躯体部10(側壁部12)を貫入する際、躯体部10を貫入する水底地盤Gへ細粒分流体を供給する。サクション基礎100では、水底地盤Gへ躯体部10を貫入する際、上壁部11の傾きに応じて、供給管21~25から供給される細粒分流体の供給量が個別に調整される。これにより、地盤貫入時のサクション基礎100の傾きが低減される。
【0018】
なお、供給管21~25から供給される細粒分流体は、水底地盤Gが砂質土などからなる地盤の場合、その砂質土の粒径よりも細かい細粒分を含む液体である。細粒分流体は、例えば約75μm未満の粒径の粒子である細粒分を含むことができる。
【0019】
以下の説明においては、細粒分流体の一例として、泥水を用いる例を説明する。ただし、細粒分流体は、細粒分を含む流体であれば泥水に限定されない。この細粒分流体を生成する細粒分流体生成装置として、細粒分粉末または高濃度の細粒分流体を保管する設備と、それらを水(例えば海水など)と混合する設備が、例えば作業船上に設置されていればよい。なお、水は後述する排出ポンプ32によって排出されたものを用いてもよく、作業船周囲にある水を汲み上げて用いてもよい。
【0020】
また、サクション基礎100が貫入される水底地盤Gは、例えば海の地盤であってもよく、湖、河川またはダムの貯水湖などの地盤であってもよい。
【0021】
(サクション基礎の構成)
図2は、図1に示されるサクション基礎100を示す拡大図である。また、図3は、図2に示されるサクション基礎100の底面図である。
【0022】
図2および図3に示すように、躯体部10は、天井側が閉塞され且つ底側が開放された形状である。具体的には、躯体部10は、略円盤状の上壁部11と、上壁部11の周縁に接続された略円筒状の側壁部(スカート部)12とを含んでいる。また、本実施形態では、躯体部10は、鋼材で構成されたものである。ただし、躯体部10の材料は、特に限定されない。例えば、躯体部10は、プレストレストコンクリート、またはその他の材料で構成されていてもよい。なお、躯体部10の形状についても、特に限定されない。例えば、躯体部10は、略矩形状の上壁部11と、上壁部11の周縁に接続された略角筒状の側壁部12とを含んでいてもよい。
【0023】
躯体部10には、水底地盤Gへ泥水を供給(注入)するための供給配管20が設置されている。供給配管20は、躯体部10の上壁部11から躯体部10内の空間を通って水底地盤G側へ延伸する5つの供給管21~25と、供給管21~25に連結される連結管26とを含んでいる。
【0024】
供給管21~25は、上壁部11の中心Xに対して同心円状に配置されている。供給管21~25のそれぞれには、泥水の供給量を調整するためのバルブ(流量調整弁)21a~25aが設けられている。バルブ21a~25aの弁開度を制御することにより、供給管21~25から供給される泥水の供給量が個別に調整される。なお、供給管21~25の数および配置は、躯体部10の寸法などによって、適宜変更可能である。例えば、供給管21~25は、躯体部10の側壁部12に埋設されていてもよい。また、供給管21~25は、供給管21~25の下端部(最下部)に泥水を吐出する吐出孔が設けられていてもよく、供給管21~25の側周面に複数の吐出孔が設けられていてもよい。
【0025】
連結管26は、例えば環状の管であり、供給管21~25へ泥水を導入する。本実施形態では、連結管26は、躯体部10の上壁部11に埋設されている。連結管26には、上壁部11の上面11aで開口した導入口27が形成されている。サクション基礎100の地盤貫入時、この導入口27から供給配管20へ泥水が導入される。供給配管20へ導入された泥水は、連結管26を経由して、供給管21~25から水底地盤Gへ供給される。
【0026】
なお、連結管26は、躯体部10に埋設されている構成に限定されない。連結管26は、供給管21~25へ泥水を導入可能なように、躯体部10に設置されていればよい。
【0027】
また、躯体部10には、躯体部10の内側の水を排出するための排出口13が設けられている。排出口13は、上壁部11に貫通形成されている。後述の排出ポンプ32(図4参照)によって、躯体部10の内側の空間の水が排出口13を介して吸引され、排出される。
【0028】
(サクション基礎貫入システムの構成)
次に、サクション基礎100を水底地盤Gへ貫入するサクション基礎貫入システム200について説明する。
【0029】
図4は、サクション基礎100を水底地盤Gへ貫入するためのサクション基礎貫入システム200の構成例を示す模式図である。また、図5は、図4に示されるサクション基礎貫入システムの構成例を示すブロック図である。なお、図4では、上壁部11に設置されている風車40の図示を省略している。
【0030】
図4および図5に示されるサクション基礎貫入システム200は、サクション基礎100を水底地盤Gへ貫入する際に構築されるシステムである。サクション基礎貫入システム200は、サクション基礎100と、供給ポンプ31と、排出ポンプ32と、傾斜センサ(検出部)33と、制御部34とを含んでいる。
【0031】
供給ポンプ31は、導入口27を介して供給配管20へ泥水Mを導入するためのポンプである。供給ポンプ31は、例えば作業船上に設置された細粒分流体生成装置で生成した泥水Mを供給配管20へ導入する。細粒分流体生成装置で生成した泥水Mを細粒分流体として利用することにより、水底地盤Gの性状に応じた泥水Mを注入することができ、様々な性状の水底地盤Gに対応できる。
【0032】
排出ポンプ32は、排出口13を介して躯体部10内の水を排出するためのポンプである。排出ポンプ32は、サクション基礎100が水底地盤G上に載置された状態で、躯体部10内の水を強制排出する。これにより、躯体部10内の圧力が低下し、躯体部10内外に水圧差が生じる。この水圧差により生じるサクション力によって、水底地盤Gへ躯体部10が貫入される。
【0033】
傾斜センサ33は、躯体部10の傾斜を検出するためセンサである。傾斜センサ33は、例えば上壁部11に設置され、躯体部10(上壁部11)の水平方向に対する傾きに応じた検出信号を制御部34へ出力する。
【0034】
制御部34は、システム全体の制御を行うコントローラである。制御部34は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成されるか、または、集積回路(ICチップ)などに形成された論理回路によって構成される。
【0035】
本実施形態では、制御部34は、供給ポンプ31および排出ポンプ32の動作を制御する。また、制御部34は、傾斜センサ33によって検出された躯体部10の傾きに応じて、バルブ21a~25aの弁開度を制御する。これにより、供給管21~25から供給される泥水Mの供給量が個別に調整される。
【0036】
(サクション基礎貫入システムの動作)
次に、サクション基礎貫入システム200におけるサクション基礎100の貫入方法の一例について説明する。サクション基礎100は、風車40が躯体部10に設置された状態で沈設現場まで曳航される。沈設現場まで曳航されたサクション基礎100は、水底地盤Gに載置される。
【0037】
図6は、本発明の実施の形態に係るサクション基礎貫入システムの処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0038】
サクション基礎100を水底地盤Gに載置した場合、水底地盤Gに載置した段階、または水底地盤Gに載置した後、自重である程度水底地盤Gへ貫入した段階で、サクション基礎100が傾斜することがある。そこで、まず、制御部34は、傾斜センサ33から出力される検出信号を読み取り、躯体部10(上壁部11)の傾きが傾斜センサ33によって検出されたか否かを判定する(ステップS11)。傾斜センサ33によって傾きが検出されていない場合には(ステップS11,No)、制御部34は、ステップS14に進む。一方、傾斜センサ33によって傾きが検出されている場合には(ステップS11,Yes)、制御部34はバルブ21a~25aの弁開度を制御して躯体部10の傾きが小さくなるように泥水Mの供給量を変更(設定)する(ステップS12)。例えば、制御部34は、水底地盤Gへの側壁部12の貫入量が小さい地盤部分のみへ泥水Mが供給されるように、バルブ21a~25aの弁開度を個別に調整する。
【0039】
次に、制御部34は、供給ポンプ31を起動して、ステップS12で変更した量の泥水Mを水底地盤Gに注入する(ステップS13)。水底地盤Gが例えば砂質土などからなる透水性の高い地盤であった場合、その砂質土の粒度よりも細かい細粒分を含む泥水Mを水底地盤Gに注入することにより、水底地盤Gの砂質土の隙間に細粒分が入り込み、該隙間が細粒分によって埋められる。このように、泥水Mを注入することにより、水底地盤Gの透水性を低下させる(抑制する)ことができる。
【0040】
このように、ステップS11~ステップS13では、水底地盤Gへの載置時にサクション基礎100の傾きが検出された場合に、躯体部10の貫入量を増加させたい地盤部分へ泥水Mを注入する。なお、泥水Mを注入する位置は、サクション基礎100の内外両側の水底地盤Gであってもよく、該水底地盤Gの一部(例えば、サクション基礎100内の水底地盤Gのみ)であってもよい。また、水底地盤Gへの泥水Mの供給は、以降の各ステップにおいても連続的または断続的に継続されてもよい。一方、水底地盤Gへの載置時にサクション基礎100の傾斜が検出されなかった場合(ステップS11,No)、水底地盤Gへ泥水Mの注入は不要であり、ステップS12およびステップS13は省略してよい。
【0041】
次に、制御部34は、排出ポンプ32を起動して躯体部10内の水を強制排出し、躯体部10内外の水圧差により生じるサクション力によって躯体部10を水底地盤Gへ貫入させる(ステップS14:貫入工程)。
【0042】
上述の通り、躯体部10の傾きが傾斜センサ33によって検出された場合(ステップS11,YES)、水底地盤Gへの躯体部10の貫入量が小さい地盤部分へより多くの泥水Mを注入している(ステップS13)。これにより、水底地盤Gへの躯体部10の貫入量が小さい地盤部分の透水性が低下し、躯体部10内の水を強制排出した際に、該地盤部分に躯体部10が貫入しやすくなる(ステップS14)。
【0043】
ここで、躯体部10内の水を強制排出した際のサクション基礎100の貫入力は、水底地盤Gの状況によって大きく影響を受ける。具体的には、水底地盤Gは均一な土粒子(例えば、礫、砂、または粘土など)で構成されておらず、貫入時に躯体部10内へ流入する水の量も躯体部10の位置によって部分的に異なる。このような場合、水底地盤Gのうち、躯体部10内へ流入する水が多い箇所では側壁部12の貫入力が小さくなり、流入する水の量が少ない箇所では側壁部12の貫入力が大きくなる。このような貫入力の差が生じた場合、躯体部10が水底地盤Gに対して側壁部12の貫入力が大きい方へ傾き、サクション基礎を鉛直に貫入することが困難となる。
【0044】
より詳細には、サクション基礎100の貫入は、躯体部10(側壁部12)内外の圧力差を利用して行われる。水底地盤G内の土粒子の密度が低い箇所では、透水性が高いため、躯体部10内へ流入する水の量が多くなる。そのため、躯体部10内部と躯体部10外部(水底地盤G)との圧力差が小さくなり、側壁部12の貫入力が相対的に小さくなる。これに対し、水底地盤G内の土粒子の密度が高い箇所では、透水性が低いため、土粒子の密度が低い箇所よりも躯体部10内へ流入する水の量が少なくなる。そのため、躯体部10内部と躯体部10外部(水底地盤G)との圧力差が大きくなり、側壁部12の貫入力が相対的に大きくなる。
【0045】
このように、水底地盤Gは、土粒子の密度の違いにより、透水性にばらつきが生じる。そこで、水底地盤G内の土粒子の密度が低い箇所へ泥水Mを注入して透水性を部分的に低下させることにより、透水性のばらつきが小さくなる。これにより、排出ポンプ32を起動して躯体部10内の水を強制排出した際に貫入力の差が生じにくくなり、サクション基礎100の傾きが低減される。なお、水底地盤G内の土粒子の密度が低い箇所の透水性を、土粒子の密度が高い箇所の透水性と同程度にするには、所定の透水性(土粒子同士の間隙)が保たれる程度に、土粒子の密度が低い箇所へ泥水Mを注入すればよい。
【0046】
次に、制御部34は、傾斜センサ33から出力される検出信号を読み取り、躯体部10(上壁部11)の傾きが傾斜センサ33によって検出されたか否かを判定する(ステップS15)。傾斜センサ33によって傾きが検出されていない場合には(ステップS15,No)、S18に処理が進む。一方、傾斜センサ33によって傾きが検出されている場合には(ステップS15,Yes)、バルブ21a~25aの弁開度を制御して躯体部10の傾きが小さくなるように泥水Mの供給量を変更する(ステップS16)。
【0047】
次に、制御部34は、供給ポンプ31を起動して泥水Mを水底地盤Gに注入する(ステップS17:供給工程)。図7は、図6に示されるステップS17におけるサクション基礎貫入システム200の動作例を示す模式図である。なお、図7では、上壁部11に設置されている風車40の図示を省略している。
【0048】
図7に示すように、躯体部10の傾きが検出された場合、制御部34は、側壁部12の貫入力が小さい地盤部分(図中左側)への泥水Mの供給量が相対的に多くなるように、バルブ21a~25aの弁開度を個別に調整する。例えば、制御部34は、側壁部12の貫入力(貫入量)が小さい地盤部分(図中左側)には多くの泥水Mが供給され、逆に、側壁部12の貫入力が小さい地盤部分以外の側壁部12の貫入力が大きい地盤部分(図中右側)には少ない泥水Mが供給されるか、または泥水Mが供給されないように、バルブ21a~25aの弁開度を個別に調整する。これにより、側壁部12の貫入力が小さい地盤部分において側壁部12が水底地盤Gへ貫入しやすくなる。そのため、水底地盤Gへの側壁部12の貫入量を均等化することができ、躯体部10(上壁部11)の傾きを低減(小さく)することができる。
【0049】
なお、水底地盤Gへの泥水Mの供給は、サクション基礎100の傾き度合いに応じて、継続的に行なうようにしてもよいし、間欠的に行なうようにしてもよい。
【0050】
次に、制御部34は、サクション基礎100の貫入が終了したか否かを判定する(ステップS18)。この判定では、例えば図示しない深度センサをサクション基礎100に設置し、この深度センサからの出力信号に基づいて、サクション基礎100が所定の深さまで貫入されたか否かを制御部34が検出してもよい。なお、サクション基礎100の深度測定方法として、サクション基礎100の上壁部11または側壁部12の所定位置に、土圧センサを設置してもよい。サクション基礎100の貫入が終了していない場合(ステップS18,No)、制御部34は、ステップS15以降の処理を繰り返す。一方、サクション基礎100の貫入が終了した場合(ステップS18,Yes)、制御部34は、供給ポンプ31および排出ポンプ32を停止させて(ステップS19)、処理を終了する。サクション基礎100の貫入後、風車40のロータ42にブレード43が取り付けられる。
【0051】
(サクション基礎の効果)
以上説明したように、本実施形態に係るサクション基礎100は、風車40が設置または連結される上壁部11、および上壁部11から伸びて水底地盤Gへ貫入する側壁部12を含む躯体部10と、躯体部10に設置され、側壁部12が貫入される水底地盤Gへ、細粒分を含む流体である泥水Mを供給する複数の供給管21~25とを備える。これら複数の供給管21~25は、躯体部10の上壁部11の傾きに応じて、泥水Mの供給量を個別に調整可能になっている。
【0052】
本実施形態に係るサクション基礎100では、例えば上壁部11の傾きが小さくなるように泥水Mの供給量を個別に調整することにより、上壁部11が略水平となるように躯体部10を水底地盤Gに貫入することが可能となる。したがって、本実施形態によれば、地盤貫入時の躯体部10の傾きを低減することが可能なサクション基礎100を実現することができる。さらに、水底地盤Gへ泥水Mを供給することにより、水底地盤Gの砂質土などの隙間に細粒分が入り込み、該隙間が細粒分によって埋められる。これにより、サクション基礎100の沈設後は、波などによって生じる引抜力の影響を受けにくくなり、サクション基礎100の設置安定性が向上する。また、水底面近くの緩い砂質土地盤は、間隙が多く透水性が高いため、液状化が生じやすい。しかし、泥水Mの注入によって間隙を小さくした水底地盤Gでは、引抜力に対する抵抗力を得て地震などによる液状化を抑制することができる。
【0053】
また、貫入後のサクション基礎100に傾斜があった場合、傾斜を無くすための工事が別途必要となる。この工事は、海上または海中で行われるため、非常に困難でありコストが増大する。しかし、泥水Mの注入によって貫入時のサクション基礎100の傾きを低減することで上記工事が不要となり、コストを抑えることができる。
【0054】
また、本実施形態に係るサクション基礎100の貫入方法は、風車40が設置または連結される上壁部11、および上壁部11から伸びて水底地盤Gへ貫入する側壁部12を含む躯体部10を水底地盤Gへ貫入させる貫入工程(ステップS14)と、側壁部12が貫入される水底地盤Gへ、複数の供給管21~25から細粒分を含む流体である泥水Mを供給する供給工程(ステップS17)と、を含む。この供給工程にて、上壁部11の傾きに応じて、各供給管21~25から供給される泥水Mの供給量を個別に調整する。
【0055】
本実施形態に係るサクション基礎100の貫入方法では、躯体部10の上壁部11の傾きに応じて、各供給管21~25から供給される泥水Mの供給量を個別に調整する。そのため、例えば上壁部11の傾きが小さくなるように泥水Mの供給量を個別に調整することにより、上壁部11が略水平となるように躯体部10を水底地盤Gへ貫入することが可能となる。したがって、本実施形態によれば、地盤貫入時の躯体部10の傾きを低減することが可能なサクション基礎100の貫入方法を実現することができる。
【0056】
(変形例)
上述の実施形態では、5つの供給管21~25のそれぞれに設けられたバルブ21a~25aを制御することにより、供給管21~25から供給される泥水Mの供給量を個別に調整している。しかし、泥水Mの供給量を個別に調整可能であれば、他に構成を採用してもよい。たとえば、供給管21~25のそれぞれに別個の供給ポンプを接続し、それぞれの供給ポンプの動作を制御することにより、供給管21~25から供給される泥水Mの供給量を個別に調整するようにしてもよい。この構成では、バルブ21a~25aおよび連結管26が不要となるため、供給配管20の構造を簡略化することが可能となる。
【0057】
また、上述の実施形態では、細粒分流体の一例として、作業船上に設置された細粒分流体生成装置で生成した泥水Mを用いる例を説明した。ただし、細粒分流体として、サクション基礎100が沈設される水底地盤Gに存在する泥水Mを用いてもよい。これにより、細粒分流体を製造するための設備を別途準備することなく、細粒分流体を得ることができる。
【0058】
また、上述の実施形態では、サクション基礎100の貫入方法について、制御部34が図6に示す各ステップを制御する例を説明した。ただし、本実施形態に係るサクション基礎100の貫入方法は、制御部34を用いず、人手によって実行することも可能である。この場合、例えば図6のステップS12,16においては、傾斜センサ33によって検出された躯体部10の傾きに応じて、操作者がバルブ21a~25aの弁開度を制御すればよい。
【0059】
〔ソフトウェアによる実現例〕
制御部34は、集積回路(ICチップ)などに形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0060】
後者の場合、制御部34は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPUを用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)などの他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークまたは放送波など)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【符号の説明】
【0061】
10 躯体部
11 上壁部
12 側壁部
21~25 供給管
33 傾斜センサ(検出部)
40 風車(構造体)
100 サクション基礎
G 水底地盤(地盤)
M 泥水(細粒分流体)
S14 貫入工程
S17 供給工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7